説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法

【課題】熱安定剤等の添加剤と芳香族ポリカーボネート樹脂とを均一に混合し、品質の安定した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】溶融状態の芳香族ポリカーボネートを連続的に押出機に供給するポリカーボネート供給工程と、押出機により芳香族ポリカーボネートと熱安定剤とを混合し押し出す押出工程と、押出機から押し出された芳香族ポリカーボネートのペレットを形成するペレット形成工程と、芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を分取し熱安定剤を連続的に添着しつつ、芳香族ポリカーボネートが供給される押出機に連続的に供給するペレット循環供給工程と、を有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関し、より詳しくは、エステル交換反応による芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、しかも耐熱性、透明性等にも優れたエンジニアリングプラスチックスとして、OA部品、自動車部品、建築材料等に幅広く用いられている。特に耐衝撃性や透明性等の特性を生かして、光学用材料として光学レンズや記録用ディスク、シート、ボトル等の用途に幅広く使用されている。
【0003】
このような芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、芳香族ジオールと炭酸ジエステルとを溶融状態でエステル交換し、副生するフェノール等の低分子量物を系外に取り除きながら連続的に芳香族ポリカーボネート樹脂を得る方法が、いわゆる溶融法として従来から知られている。
【0004】
ここで、芳香族ポリカーボネート樹脂を材料として使用する場合、その性能を維持、向上させるために、各種の熱安定剤を添加されて使用されることが多い。これらの熱安定剤は、通常、押出機を用いた混練法によって芳香族ポリカーボネートに混合され、分散、均一化される(特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平8−259687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、溶融法により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する場合、通常、製造ラインの後段に設けた押出機において、溶融状態の芳香族ポリカーボネート樹脂と熱安定剤等の各種添加剤とが混合される。そして、押出機から押し出された芳香族ポリカーボネート樹脂は、その後、所定の大きさのペレットに成形され、製品となる。
しかし、芳香族ポリカーボネート樹脂に添加される添加剤は、粉末状又は液状の形態を有するものが多く、その使用量は極めて少量である。このため、押出機により芳香族ポリカーボネート樹脂と添加剤とを混合すると、添加材が偏在し、均一に混合されない場合が多いという問題がある。
この場合、予め、添加剤と適当なポリマーとからなるマスターバッチの形態で押出機に添加する方法が考えられる。しかし、例えばヘンシェルミキサー等の混合機を用いてマスターバッチを調製すると、粉末状の添加剤は分級し、均一な分散状態が得られない場合が多い。また、液状の添加剤は、マスターバッチを調製後、分離する場合がある。
【0007】
また、上記溶融法は、一般的には連続的に芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であるため、製品の切り替えのとき等に移行品が発生する。このような移行品は規格外のものであるため、通常は生産ロス品として処分される。
しかし、製品の歩留まりや資源の節約の観点から、このような生産ロス品を処分することは好ましくなく、有効に利用することが望ましい。ところが、このような生産ロス品を循環リサイクルすると製品の熱安定性を悪化させ商品価値を低下させる場合がある。
【0008】
本発明の目的は、熱安定剤等の添加剤と芳香族ポリカーボネート樹脂とを均一に混合し、品質の安定した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った結果、熱安定剤が含まれた芳香族ポリカーボネートペレットを、気力輸送配管を分岐させた分岐配管により気力輸送し、これに熱安定剤を添着して押出機に連続的に供給すると、上記生産ロス品も有効に利用でき、品質への影響も最小限にできることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0010】
かくして本発明によれば、熱安定剤を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であって、溶融状態の芳香族ポリカーボネートを連続的に押出機に供給するポリカーボネート供給工程と、押出機により、ポリカーボネート供給工程において供給された芳香族ポリカーボネートを熱安定剤と混合し、押出機から押し出す押出工程と、押出工程において押出機から押し出された芳香族ポリカーボネートをペレット化し芳香族ポリカーボネートのペレットを形成するペレット形成工程と、ペレット形成工程においてペレット化された芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を分取して、ペレットに熱安定剤を連続的に添着しつつ、熱安定剤が添着されたペレットを、ポリカーボネート供給工程において芳香族ポリカーボネートが供給される押出機に連続的に供給するペレット循環供給工程と、を有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法が提供される。
【0011】
ここで、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法において、ペレット形成工程によりペレット化された芳香族ポリカーボネートのペレットを輸送配管により気力輸送する気力輸送工程をさらに有し、輸送配管から分岐させた分岐配管により、ペレット形成工程において得られた芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を気力輸送することが好ましい。
【0012】
次に、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法において、ペレット循環供給工程では、芳香族ポリカーボネートのペレットに添着される熱安定剤が、液状であることが好ましい。
ここで、ペレット循環供給工程において芳香族ポリカーボネートのペレットに添着される熱安定剤が、酸性化合物またはその誘導体であることが好ましい。
さらに、熱安定剤が、液状且つ炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいスルホン酸またはそのエステルであることが好ましい。
【0013】
また、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法において、ペレット循環供給工程では、芳香族ポリカーボネートのペレット100重量部に対し、熱安定剤0.001重量部〜1重量部を、芳香族ポリカーボネートのペレットに連続的に添着させることが好ましい。
さらに、ペレット循環供給工程において、押出機に供給される芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、熱安定剤が添着された芳香族ポリカーボネートのペレット0.5重量部〜5重量部が押出機に供給されることが好ましい。
【0014】
また、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法では、ペレット形成工程においてペレット化された芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv1)が、押出工程において押出機内で熱安定剤と混合される溶融状態の芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv2)以下(Mv1≦Mv2)であることが好ましい。
また、押出工程において、芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、熱安定剤が0.002重量部以下の量で混合されることが好ましい。
また、ポリカーボネート供給工程において、押出機に供給される芳香族ポリカーボネートは、塩基性化合物を触媒とし、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応により得られるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、品質の安定した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。また、簡便な手段で製品の歩留まりを向上させ、資源の節約に寄与することも期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0017】
(ポリカーボネート樹脂)
本発明において、ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合により製造される。
以下、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に溶融重縮合反応を行うことにより、ポリカーボネート樹脂を製造する方法について説明する。
【0018】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
ここで、一般式(1)において、Aは、単結合または置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基である。X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。p及びqは、0〜2の整数である。尚、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0021】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0024】
【化2】

【0025】
ここで、一般式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
尚、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0026】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0028】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して炭酸ジエステルのモル比が、好ましくは、1.01以上、特に好ましくは1.02以上、また好ましくは1.30以下、特に好ましくは1.20以下で用いられる。モル比が1.01より小さくなると、得られるポリカーボネート樹脂の末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が1.30より大きくなると、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有するポリカーボネート樹脂の生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品の臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0029】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法により芳香族ポリカーボネートを製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、ベリリウム又はマグネシウム化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。
【0030】
これらのエステル交換触媒の中でも、アルカリ金属化合物あるいはアルカリ土類金属化合物が、本実施の形態の目的とする少量の熱安定剤を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に均一に分散させるという点では効果が大きい。これらのエステル交換触媒は、1種類で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、好ましくは1×10-9モル以上、特に好ましくは1×10-7モル以上、また好ましくは、1×10-1モル以下、特に好ましくは1×10-2モル以下の範囲で用いられる。
【0031】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0032】
ベリリウム又はマグネシウム化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;これらの金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。
【0033】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0034】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0035】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0036】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0037】
(芳香族ポリカーボネートの製造方法)
次に、芳香族ポリカーボネートの製造方法について説明する。
芳香族ポリカーボネートの製造は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを含む混合物を調製し(原調工程)、これらの化合物の混合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階方式で重縮合反応させる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよいが生産性や品質安定性の観点からは連続式が好ましい。反応器は、連続式の場合一般に複数基の直列に配された反応器から構成され、好ましくは複数の竪型反応器及びこれに続く少なくとも1基の横型反応器が用いられる。
本実施の形態においては、重縮合工程後、熱安定剤を添加するために押出機を用い、好ましくは反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去できるベント口を有する2軸型の押出機を用いる。
次に、芳香族ポリカーボネートの製造方法の各工程について説明する。
【0038】
(原調工程)
芳香族ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の攪拌槽型の装置を用いて、溶融混合物として調製される。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、好ましくは120℃以上、特に好ましくは125℃以上、また好ましくは180℃以下、特に好ましくは160℃以下の範囲から選択される。
【0039】
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの混合割合は、炭酸ジエステルが過剰になるように調整され、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルの割合は、好ましくは1.01モル以上、特に好ましくは1.02モル以上、また好ましくは、1.30モル以下、特に好ましくは1.20モル以下になるように調整される。
【0040】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段〜7段の多段方式で連続的に行われる。
具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、1段階の平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
重縮合工程を多段で行う場合の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノールをより効果的に排出するために、上記の反応条件内で、通常段階的により高温、より高真空に設定する。尚、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0041】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、好ましくは、複数基の竪型反応器および/またはこれに続く少なくとも1基の薄膜蒸発性能に優れた反応器を設けて、芳香族ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常3基〜6基、好ましくは4基〜5基設置される。
ここで、薄膜蒸発性能に優れた反応器としては、例えば、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型攪拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重合するワイヤー付き多孔板型反応器等が用いられる。
【0042】
竪型反応器の攪拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(株式会社神鋼環境ソリューション製)、サンメラー翼(三菱重工業株式会社製)、マックスブレンド翼(住重機器システム株式会社製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼(株式会社日立プラントテクノロジー製)等が挙げられる。
【0043】
また、横型反応器とは、攪拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型反応器の攪拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの攪拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業株式会社製)、バイボラック(住重機器システム株式会社製)、あるいはメガネ翼、格子翼(株式会社日立プラントテクノロジー製)等の二軸タイプの攪拌翼が挙げられる。
【0044】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の有機溶媒を用いることもできる。
触媒の溶解に使用する水としては、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0045】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法の一例を具体的に説明する。
図1は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、芳香族ポリカーボネートは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程とを経て製造される。
その後、反応を停止させ重合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、芳香族ポリカーボネート樹脂を所定の粒径のペレットに形成する工程を経て、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットが成形される。
【0046】
原調工程においては、直列に接続した第1原料調製槽2a及び第2原料調製槽2bと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ4aとが設けられている。第1原料調製槽2aと第2原料調製槽2bとには、例えばアンカー型攪拌翼3a,3bがそれぞれ設けられている。
また、第1原料調製槽2aには、DPC供給口1a−1から、DPCが溶融状態で供給され、BPA供給口1bからは、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(以下、BPAと記載することがある。)が粉末状態で供給され、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAが溶解される。
【0047】
次に、重縮合工程においては、直列に接続した第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cと、第3竪型反応器6cの後段に直列に接続した第4横型反応器9aとが設けられている。第1竪型反応器6a、第2竪型反応器6b及び第3竪型反応器6cには、マックスブレンド翼7a,7b,7cがそれぞれ設けられている。また、第4横型反応器9aには、格子翼10aが設けられている。
【0048】
尚、4基の反応器には、それぞれ重縮合反応により生成する副生物等を排出するための留出管8a,8b,8c,8dが取り付けられている。留出管8a,8b,8c,8dは、それぞれ凝縮器81a,81b,81c,81dに接続し、また、各反応器は、減圧装置82a,82b,82c,82dにより、所定の減圧状態に保たれる。
【0049】
図1に示す芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下で計量されたBPA粉末とが、それぞれDPC供給口1a−1とBPA供給口1bから第1原料調製槽2aに連続的に供給される。第1原料調製槽2aの液面が移送配管中の最高位と同じ高さを超えると、原料混合物が第2原料調製槽2bに移送される。
次に、原料混合物は、原料供給ポンプ4aを経由して第1竪型反応器6aに連続的に供給される。また触媒として、炭酸セシウム水溶液が、原料混合物の移送配管途中の触媒供
給口5aから連続的に供給される。
【0050】
第1竪型反応器6aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa(100Torr)、マックスブレンド翼7aの回転数を160rpmに保持し、副生したフェノールを留出管8aから留出させながら平均滞留時間60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。次に、第1竪型反応器6aより排出された重合反応液は、引き続き、第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c、第4横型反応器9aに順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、通常、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度となるようにそれぞれ設定されるが、所望する分子量等の要求性能に合わせて適宜調整される。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御し、また各反応器においては、副生するフェノールが留出管8b,8c,8dから留出される。
【0051】
尚、本実施の形態においては、第1竪型反応器6aと第2竪型反応器6bとにそれぞれ取り付けられた凝縮器81a,81bからは、フェノール等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型反応器6cと第4横型反応器9aとにそれぞれ取り付けられた凝縮器81c,81dと減圧装置82c,82dとの間にはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に凝縮・固化回収される。
【0052】
次に、第4横型反応器9aより抜き出された芳香族ポリカーボネートは、溶融状態のまま3段ベント口を具備した2軸型の押出機11aに供給される。押出機11aには添加剤供給ライン12a,12b,12cから、たとえば、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、強化剤、難燃剤、他樹脂やゴム等の重合体等の各種添加剤がそれぞれ供給される。
ここで、熱安定剤としては、例えば、リン系安定剤、ヒンダードフェノール系安定剤、イオウ系安定剤、エポキシ系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。好ましい熱安定剤の具体例は後述する。
【0053】
熱安定剤は、単独で用いてもよいし組み合わせて用いてもよい。添加量は特に限定されないが、通常、芳香族ポリカーボネート100重量部に対して0.0001重量部〜0.5重量部、好ましくは0.001重量部〜0.2重量部の範囲で用いられる。中でも液状で供給される熱安定剤の場合は、0.005重量部以下、好ましくは0.002重量部以下、より好ましくは0.001重量部以下である。
ここで、本実施の形態では、熱安定剤は、後述するように芳香族ポリカーボネートペレットに連続的に添着され、添加剤供給ライン12aから連続的に押出機11aに供給される。
【0054】
芳香族ポリカーボネートと熱安定剤は、押出機11aの内部で溶融混合され、出口部より押出される。芳香族ポリカーボネートは、押出機11aから押出される際に出口部に設けられた孔(図示せず)によりストランド状になる。
そして、ストランド状の芳香族ポリカーボネートは、ストランドバス13aを経由して冷却水により冷却され、ストランドカッター14aでペレット化され、篩分機15aにて水分除去した後に製品サイロ16a,16bに導入される。
【0055】
また、本実施の好ましい形態では、この最終生成物であり製品である芳香族ポリカーボネート樹脂組成物(芳香族ポリカーボネートペレット)の一部は、気力輸送配管を分岐させて製品サイロ16cにも導入される。
この気力輸送配管には、図示しない圧縮機により圧縮された空気または窒素等の不活性ガスが供給され、芳香族ポリカーボネートペレットを気力輸送することができる。
【0056】
(熱安定剤の連続添着)
本実施の形態において、製品サイロ16cに貯蔵された芳香族ポリカーボネートペレットは、気力輸送配管を通し、適宜、ブレンダー21aに、好ましくは連続的に供給される。図1には示されていないが、ブレンダー21aへの連続供給を安定的に行うため、芳香族ポリカーボネートペレット供給用にホッパーや定量フィーダーを具備し、製品サイロ16cからホッパーへの供給は断続的に行い、ホッパーから定量フィーダーを用いてブレンダー21aに芳香族ポリカーボネートペレットを連続的に供給することもできる。
【0057】
ブレンダー21aには、熱安定剤供給口22aを通じて熱安定剤が連続的に供給される。そして、ブレンダー21a中で、芳香族ポリカーボネートペレットに熱安定剤が連続的に添着される。ブレンド時間は、好ましくは1分〜20分、更に好ましくは5分〜10分である。ブレンド時間が長すぎると装置が過大になりやすく、短すぎると芳香族ポリカーボネートペレット全体への添着が不十分になる傾向がある。
この場合、ブレンダー21a中で芳香族ポリカーボネートペレットに連続的に添着させる熱安定剤の量は特に限定されないが、通常、芳香族ポリカーボネートのペレット100重量部に対し、熱安定剤0.001重量部〜1重量部であり、好ましくは0.005重量部〜0.5重量部であり、さらに好ましくは0.01重量部〜0.2重量部である。
【0058】
芳香族ポリカーボネートペレットに添着させる熱安定剤の量が過度に多いと、押出機11a内での熱安定剤の分散性が低下し、製品として得られる芳香族ポリカーボネートの色調の悪化や品質のムラ等が生じる傾向がある。
また、芳香族ポリカーボネートペレットに添着させる熱安定剤の量が過度に少ないと、熱安定剤の所定量を確保するために押出機11a内に供給されるペレットの供給量が増大する傾向がある。この場合、押出機11a内に、予め熱履歴を受けた芳香族ポリカーボネートペレットを多量に供給することとなる。その結果、製品として得られる芳香族ポリカーボネートの色調が悪化するのみならず、押出機11aの運転の不安定化を招き、ブレンダー21aにも過大な負荷がかかる傾向がある。
【0059】
(芳香族ポリカーボネートペレットの連続供給)
次に、ブレンダー21aで熱安定剤を連続的に添着された芳香族ポリカーボネートペレットは、前述のように押出機11aに添加剤供給ライン12aを通じ連続的に循環供給され、押出機11a内の溶融した芳香族ポリカーボネートと混合される。
尚、ここで添着とは、混合により熱安定剤を芳香族ポリカーボネートペレット上に付着させる程度の状態を言う。
ブレンダー21aは、連続的に混合が可能である機器であれば特に限定されることはないが、例えば、リボンブレンダー等が例示される。そして、芳香族ポリカーボネートペレットは、押出機11aに供給される際に同伴される酸素により製品品質が低下するため、窒素等の不活性ガス雰囲気下で扱われることが好ましい。特にブレンダー21aに窒素を導入することは製品の熱劣化を抑制するために有効である。
【0060】
また、ブレンダー21aには複数の熱安定剤を供給してもよく、熱安定剤以外の添加剤、例えば、離型剤や色剤、紫外線吸収剤等を同時に供給してもよい。
更に、添加剤供給ライン12b,12cから供給する添加剤も添加剤供給ライン12aと同様の方法で供給してもよい。
【0061】
押出機11aに連続的に循環供給される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の量は、第4横型反応器9aより押出機11aに供給される芳香族ポリカーボネートを100重量部とした場合に、通常、0.1重量部〜10重量部、好ましくは0.5重量部〜5重量部、より好ましくは1重量部〜4重量部である。押出機11aに循環供給される芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の量が過度に少ないと本発明の効果が生じにくくなり、過度に多いと製品の熱安定性が悪化しやすくなる。
【0062】
また、芳香族ポリカーボネートペレットの大きさ、形状等は、特に限定されることはないが、通常、大きさは、20mm以下に加工されたものが好ましい。また形状は、粒状、不定形状、平板状、円柱状のもの等が使用できるが、中でも入手のしやすさから粒状、円柱状が好ましく、円柱状が特に好ましい。
【0063】
上述したように、本実施の形態では、製品としてペレット化された芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を取り出し、これに熱安定剤を連続的に添着し、さらに、ペレットに添着された熱安定剤を押出機に連続的に供給している。このため、押出機において熱安定剤を溶融状態の芳香族ポリカーボネート樹脂に均一に混合させることが可能となる。さらに、熱安定剤を連続的に添着したペレットを連続的に押出機中に供給することにより、熱安定剤の変質や分離が生じることなく、品質の安定した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0064】
また、本実施の形態では、製品サイロ16cから供給される芳香族ポリカーボネートペレットは熱安定剤をそれ自身が含有している上、更に熱安定剤を添着させて押出機11aに供給される。このため、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂の熱安定性が格段に向上し、最終製品の品質低下が大幅に低減される。
本実施の形態では、上記の手法を採用することにより、熱安定剤の量が少量であっても、熱安定剤を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中に十分に分散させることができる。特に、本実施の形態では、熱安定剤の量が、押出機内11aの溶融した芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対し0.002重量部以下の場合でも、熱安定剤を芳香族ポリカーボネート樹脂に安定して供給することが可能である。
【0065】
本実施の形態では、使用する熱安定剤が液状である場合、酸性化合物またはその誘導体である場合に特に有効である。
ここで、熱安定剤として使用する酸性化合物としては特に制限はなく、例えば、通常、重縮合反応に使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物(いわゆる、反応停止剤や失活剤と呼ばれる化合物)が挙げられる。
【0066】
具体的には、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸、等のブレンステッド酸及びそのエステル類、酸ハロゲン化物、塩等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、また、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0067】
これらの酸性化合物の中でも、液状且つ炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいスルホン酸またはそのエステルが好ましい。スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸が挙げられる。スルホン酸のエステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル、フェニルエステル等が挙げられる。これらの中でも、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
【0068】
本実施の形態では、熱安定剤が添着する芳香族ポリカーボネートペレット中の芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv1)は、押出機11a内の溶融した芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv2)以下であることが好ましい。即ち、Mv1≦Mv2であることが好ましい。中でも、粘度平均分子量の差(Mv2−Mv1)が5,000以下、好ましくは3,000以下、特に好ましくは2,000以下であるのがよい。
熱安定剤を添着する芳香族ポリカーボネートペレット中の芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv1)が、押出機11a内の溶融した芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv2)より過度に大きいと、また、粘度平均分子量(Mv2)と粘度平均分子量(Mv1)との差(Mv2−Mv1)が過度に大きいと、熱安定剤の分散性が低下する傾向がある。
【0069】
また、本実施の形態では、押出機11aを使用して製造された芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を、熱安定剤を添着する芳香族ポリカーボネートペレットとして利用し、再び押出機11aに戻すという構成を採用することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造における最終段階で発生したカットミス品や、製品切り替えのため発生した生産ロス品等も、熱安定剤を添着するペレットとして使用可能である。また、熱安定剤の供給量の安定化、溶融ポリマー中での分散性確保、リサイクル品の熱劣化防止、ひいては製品品質維持のためにも有効である。その結果、製品の歩留まり向上や資源の節約と製品品質の安定化の両立が期待できる。
【0070】
図2は、複数のブレンダーを使用し、熱安定剤等の添加剤を添着する場合の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置の他の例を示す図である。図1と同様な構成については同じ符号を用い、その説明を省略する。
図2に示した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置では、図1に示した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置に対し、ブレンダー21bが新たに設けられている。また、別途、熱安定剤供給口22bが設けられている。
ブレンダー21bには、気力輸送配管を分岐させることで、ブレンダー21aと同様に芳香族ポリカーボネートペレットを供給することができる。また、熱安定剤供給口22bより、熱安定剤や他の添加剤を供給することができ、ブレンダー21bにおいて、芳香族ポリカーボネートペレットに添着することができる。
ブレンダー21bにおいて、熱安定剤や他の添加剤を添着した後は、添加剤供給ライン12bを通し、押出機11aに循環供給される。
【実施例】
【0071】
次に本発明の具体的態様を実施例により説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例および比較例における芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の分析は以下の方法により行った。
【0072】
(1)粘度平均分子量(Mv)
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を塩化メチレンに溶解させ、ウベローデ粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン中での極限粘度[η]を測定し、以下の数式(1)により粘度平均分子量(Mv)を求めた。
尚、本実施例において、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の芳香族ポリカーボネート樹脂以外の成分は微量であるため、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物中の芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)と芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は同じとみなした。
【0073】
【数1】

【0074】
(2)初期色相
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を窒素雰囲気下、120℃で6時間乾燥した後、日本製鋼所株式会社製J75EII型射出成形機を用いて60mm×60mm×3mm厚の射出成形片を、樹脂温度360℃、成形サイクル30秒の条件で成形する操作を繰り返した。
そして、6ショット目〜15ショット目で得られた射出成形品のイエローインデックス(YI)値をカラーテスター(コニカミノルタ株式会社製CM−3700d)を用いて測定し、平均値と標準偏差を算出した。YI値が小さい方が色相がよく品質に優れることを示し、標準偏差が小さい方が色むらが少なく品質が安定していることを示す。
【0075】
(3)熱滞留試験後の色相
上記(2)で16ショット目からは成形サイクルを10分とし、射出成形する操作を繰り返し、22ショット目までの射出成形品を得た。
20ショット目〜22ショット目で得られた60mm×60mm×3mm厚の射出成形品のYI値をカラーテスター(コニカミノルタ株式会社製CM−3700d)を用いて測定し、平均値を算出した。YI値が小さい方が色相がよく品質に優れることを示す。
【0076】
(実施例1)
芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置として、図2に示したものを使用した。 図2において、窒素雰囲気下、DPC供給口1a−1からDPCを、またBPA供給口1bからBPAを、一定のモル比(DPC/BPA=1.050)で内温140℃に制御された第1原料調製槽2aに連続的に供給し、均一の溶融状態とした。
【0077】
その後、同じく140℃に制御された第2原料調製槽2bを経て、第1竪型反応器6aに原料供給ポンプ4aを用いて単位時間当たりの供給量が一定になるよう連続的に供給した。そして、触媒供給口5aから触媒として炭酸セシウムの水溶液をBPA1モルに対し、0.5×10-6モルになるよう連続的に供給した。
【0078】
第1竪型反応器6aの内温は220℃、圧力は13.3kPaに制御し、平均滞留時間が1.5時間になるように槽底部の排出ラインに設けられたバルブ(図示せず)の開度を調節し、液面レベルを一定に保った。
第1竪型反応器6aから排出された重合液は、引き続き第2竪型反応器6b、第3竪型反応器6c、第4横型反応器9aに逐次連続供給した。第2竪型反応器6bは、内温260℃、圧力4kPa、平均滞留時間1.5時間とした。また第3竪型反応器6cは、内温270℃、圧力70Pa、平均滞留時間1時間とし、第4横型反応器9aは、内温270℃、圧力200Pa、平均滞留時間1.5時間とした。
【0079】
この芳香族ポリカーボネートを溶融状態のまま単位時間当たり97重量部になるよう2軸型の押出機11aに供給した。このとき、製品サイロ16cには、以下で述べる方法と同じ方法で製造した熱安定剤が含まれる芳香族ポリカーボネートペレット(平均長さ3mm、平均径3mm、Mv=15,000)をストックしておき、ブレンダー21aに単位時間当たり1.5重量部になるよう供給した。なお、ブレンダー21aとしては、連続型のリボンブレンダーを使用し、窒素を流通させた。また、ブレンダー21aでのブレンド時間は8分であった。
【0080】
また、熱安定剤供給口22aからは熱安定剤としてp−トルエンスルホン酸ブチルを単位時間当たり0.0005重量部になるよう小型定量ポンプ(図示せず)で供給し、芳香族ポリカーボネートペレットに連続的に添着させた。そして添加剤供給ライン12aから連続的に押出機11aに供給した。
【0081】
さらに、製品サイロ16cから上記と同様に芳香族ポリカーボネートペレットをブレンダー21b(ブレンダー21aと同様に、連続型のリボンブレンダーを使用した)に単位時間当たり1.5重量部になるよう供給し、窒素を流通させた。また、ブレンダー21bでのブレンド時間は8分であった。
【0082】
ここで、供給口22bから熱安定剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトを単位時間当たり0.005重量部、また離型剤としてステアリン酸モノグリセリドを単位時間当たり0.03重量部になるようにブレンダー21bに連続的に供給した。そして、芳香族ポリカーボネートペレットに連続的に添着させ、添加剤供給ライン12bから連続的に押出機11aに供給した。
【0083】
2軸型の押出機11aから溶融状態でストランド状に排出されたポリカーボネート樹脂組成物はストランドバス13aで冷却固化させ、ストランドカッター14aでペレットとした後、篩分機15aで規格外の大きさのペレットを除去し、適宜製品サイロ16a〜16cにストックした。
得られたポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期のYI=1.28、標準偏差は0.015、滞留熱安定性試験後のYI=3.21であった。
【0084】
(実施例2)
製品サイロ16cにストックされた芳香族ポリカーボネートペレットの粘度平均分子量(Mv)を14,500とした他は実施例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.25、標準偏差は0.013、滞留熱安定性試験後のYI=3.20であった。
【0085】
(実施例3)
製品サイロ16cにストックされた芳香族ポリカーボネートペレットの粘度平均分子量(Mv)が27,000であった他は実施例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,400、初期色相はYI=1.37、標準偏差は0.031、滞留熱安定性試験後のYI=3.43であった。
【0086】
(実施例4)
ブレンダー21a,21bに供給する芳香族ポリカーボネートペレットを単位時間当たりそれぞれ3重量部になるよう供給した他は、実施例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。ブレンド時間はそれぞれ4分であった。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.40、標準偏差は0.012、滞留熱安定性試験後のYI=3.65であった。
【0087】
(比較例1)
熱安定剤を含まない芳香族ポリカーボネートペレットを製品サイロ16cにストックし、供給した他は実施例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.55、標準偏差は0.017、滞留熱安定性試験後のYI=3.90であり、上記各実施例に比べ悪化した。
【0088】
(比較例2)
ブレンダー21a,21bに窒素を流通させない他は、比較例1と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.59、標準偏差は0.024、滞留熱安定性試験後のYI=4.05であり、上記各実施例に比べ悪化した。
【0089】
(比較例3)
製品サイロ16cにストックされていた芳香族ポリカーボネートペレット6重量部をヘンシェルミキサーに仕込み、p−トルエンスルホン酸ブチル0.002重量部を添加した後、10分間十分に混合した。このようにバッチ方式で調製したペレットをブレンダー21aに単位時間当たり1.5重量部になるよう供給した。なお、ブレンダー21aには実施例1と同じ連続型のリボンブレンダーを使用し、熱安定剤供給口22aからp−トルエンスルホン酸ブチルを供給しなかった他は実施例1と同様に行った。
得られたポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.49、標準偏差は0.157、滞留熱安定性試験後のYI=3.77であった。
【0090】
(比較例4)
比較例3において、製品サイロ16cにストックされていた芳香族ポリカーボネートペレット6重量部とトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.02重量部、ステアリン酸モノグリセリド0.12重量部を、あらかじめヘンシェルミキサーで10分間十分に混合しバッチ方式で調製しておき、このペレットをブレンダー21bに単位時間当たり1.5重量部になるように連続的に供給した。なお、ブレンダー21bには実施例1と同じ連続型のリボンブレンダーを使用し、供給口22bからトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトおよびステアリン酸モノグリセリドを供給しなかった他は比較例3と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂組成物の粘度平均分子量(Mv)は15,000、初期色相はYI=1.53、標準偏差は0.170、滞留熱安定性試験後のYI=3.84であった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置の一例を示す図である。
【図2】複数のブレンダーを使用し、熱安定剤等の添加剤を添着する場合の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
2a…第1原料調製槽、2b…第2原料調製槽、3a,3b…アンカー型攪拌翼、4a…原料供給ポンプ、5a…触媒供給口、6a…第1竪型反応器、6b…第2竪型反応器、6c…第3竪型反応器、7a,7b,7c…マックスブレンド翼、8a,8b,8c,8d…留出管、9a…第4横型反応器、10a…格子翼、11a…押出機、12a,12b,12c…添加剤供給ライン、13a…ストランドバス、14a…ストランドカッター、15a…篩分機、16a,16b,16c…製品サイロ、21a,21b…ブレンダー、22a,22b…熱安定剤供給口、81a,81b,81c,81d…凝縮器、82a,82b,82c,82d…減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱安定剤を含む芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法であって、
溶融状態の芳香族ポリカーボネートを連続的に押出機に供給するポリカーボネート供給工程と、
前記押出機により、ポリカーボネート供給工程において供給された芳香族ポリカーボネートを熱安定剤と混合し、当該押出機から押し出す押出工程と、
前記押出工程において押出機から押し出された芳香族ポリカーボネートをペレット化し芳香族ポリカーボネートのペレットを形成するペレット形成工程と、
前記ペレット形成工程においてペレット化された芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を分取し、当該ペレットに熱安定剤を連続的に添着しつつ、当該熱安定剤が添着されたペレットを、前記ポリカーボネート供給工程において芳香族ポリカーボネートが供給される押出機に連続的に供給するペレット循環供給工程と、
を有することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記ペレット形成工程によりペレット化された芳香族ポリカーボネートのペレットを輸送配管により気力輸送する気力輸送工程をさらに有し、
前記輸送配管から分岐させた分岐配管により、前記ペレット形成工程において得られた芳香族ポリカーボネートのペレットの一部を気力輸送することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ペレット循環供給工程において芳香族ポリカーボネートのペレットに添着される熱安定剤が、液状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ペレット循環供給工程において芳香族ポリカーボネートのペレットに添着される熱安定剤が、酸性化合物またはその誘導体であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記熱安定剤が、液状且つ炭素数1〜10のアルキル基で置換されていてもよいスルホン酸またはそのエステルであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ペレット循環供給工程において、芳香族ポリカーボネートのペレット100重量部に対し、熱安定剤0.001重量部〜1重量部を、当該芳香族ポリカーボネートのペレットに連続的に添着させることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記ペレット循環供給工程において、前記押出機に供給される芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、前記熱安定剤が添着された芳香族ポリカーボネートのペレット0.5重量部〜5重量部が当該押出機に供給されることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記ペレット形成工程においてペレット化された芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv1)が、前記押出工程において前記押出機内で熱安定剤と混合される溶融状態の芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv2)以下(Mv1≦Mv2)であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記押出工程において、芳香族ポリカーボネート100重量部に対し、熱安定剤が0.002重量部以下の量で混合されることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記ポリカーボネート供給工程において、前記押出機に供給される芳香族ポリカーボネートは、塩基性化合物を触媒とし、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの重縮合反応により得られるものであることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279754(P2009−279754A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117876(P2008−117876)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】