説明

芳香族化合物及びスルホン化ポリアリーレン系重合体

【課題】優れた加工性とメタノール耐性を有するスルホン化ポリマーを提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される芳香族化合物。


[A、D、Eは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)f−、−(CH2)h−、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基を示す。Bは酸素原子または硫黄原子を示し、Xはハロゲン原子、−OSO2CH3および−OSO2CF3を示す。R1〜R28は水素原子、フッ素原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物およびスルホン化ポリアリーレンに関する。
【背景技術】
【0002】
電解質は、通常、(水)溶液で用いられることが多い。しかし、近年、これを固体系に置き替えていく傾向が高まってきている。その第1の理由としては、例えば、上記の電気・電子材料に応用する場合のプロセッシングの容易さであり、第2の理由としては、軽薄短小・省電力化への移行である。
【0003】
従来、プロトン伝導性材料としては、無機物からなるもの、有機物からなるものの両方が知られている。
無機物の例としては、例えば水和化合物であるリン酸ウラニルが挙げられるが、これら無機化合物は界面での接触が十分でなく、伝導層を基板あるいは電極上に形成するには問題が多い。
【0004】
一方、有機化合物の例としては、いわゆる陽イオン交換樹脂に属するポリマー、例えばポリスチレンスルホン酸などのビニル系ポリマーのスルホン化物、ナフィオン(商品名、
デュポン社製)を代表とするパーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー、パーフルオロア
ルキルカルボン酸ポリマーや、ポリベンズイミダゾールやポリエーテルエーテルケトンなどの耐熱性高分子にスルホン酸基やリン酸基を導入したポリマーなどの有機系ポリマーが挙げられる。
【0005】
燃料電池作製の際は、通常、両電極間に上記パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーからなる電解質膜を挟み、ホットプレス等の熱処理加工により、電極―膜接合体を得ている。上記フッ素系膜は、熱変形温度が80℃程度と比較的低く、容易に接合加工が可能である。しかし、燃料電池発電時は、その反応熱により場合によっては80℃以上となることがあり、電解質膜が軟化してクリープ現象が生じることにより、両極が短絡して発電不能となる問題がある。
【0006】
このような問題を回避するために、現状では、電解質膜の膜厚をある程度厚くしたり、燃料電池の発電温度が80℃以下になるように設計しているが、発電の最高出力に制限が課せられてしまう。
【0007】
パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーの熱変形温度が低く、高温での機械特性に乏しいことを解決するために、エンジニアプラスチック等に用いられる芳香族系ポリマーを用いた固体高分子電解質膜が開発されている。
【0008】
たとえば、米国特許第5,403,675号公報(特許文献1)には、スルホン化された剛直ポリ
フェニレンからなる固体高分子電解質が開示されている。このポリマーは、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られるポリマーを主成分とし、これをスルホン化剤と反応させてスルホン酸基を導入している。このポリマーからなる電解質膜は、熱変形温度が180℃以上であり、高温でのクリープ耐性に優れるが、ホットプレスによる電極との接合の際に、非常に高温を必要とする。また、高温で長時間加熱することにより、スルホン酸基の脱離反応、スルホン酸基同士の架橋反応、電極層の劣化などが生じるという問題がある。
【0009】
またダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン伝導膜として使用するにはまだ不十分
であった。
【特許文献1】米国特許第5,403,675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、優れた加工性とメタノール耐性を有するスルホン化ポリマー、および該スルホン化ポリマーからなるプルトン伝導度が高く、発電性能に優れた固体高分子電解質およびプロトン伝導膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく、鋭意研究した。その結果、特定の構造単位を有する、スルホン化ポリアリーレンによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明の態様は、以下の[1]〜[8]に示される。
[1]一般式(1)で表されることを特徴とする芳香族化合物。
【0013】
【化1】

【0014】
[式(1)中、A、D、Eは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−
、−CONH−、−COO−、−(CF2)f−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からな
る群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0015】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、Xはフッ素を除くハロゲン原子、−OSO2CH3および−OSO2CF3から選ばれる原子または基を示す。
1〜R28は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル
基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。
【0016】
l、oは0〜4の整数を示し、mは1〜4の整数を示し、qは2以上の整数を示す。n、pは各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
[2]下記一般式(2)で表される化合物である[1]の化合物。
【0017】
【化2】

【0018】
[式(2)中、A、Eは直接結合、−O−、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2)f
−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シク
ロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
【0019】
Dは直接結合、−O−、−CO−、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR
’’2−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)、Xはフッ素を除くハロゲン原
子から選ばれる原子を示す。R1〜R28は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子
、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。また、l、oは0〜4の整数を示し、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
[3]下記一般式(3)で表される化合物である[2]の化合物。
【0020】
【化3】

【0021】
[式(3)中、Xはフッ素を除くハロゲン原子から選ばれる原子を示し、Dは、−O−、−CR’’2−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す。Pは下記一般式(4−1)〜(4−3)で表される構造から選ばれる少なくとも一種の構造であり、Qは下記一
般式(5−1)〜(5−12)で表される構造から選ばれる少なくとも一種の構造である。また、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
【0022】
【化4】

【0023】
[4]上記一般式(3)において、n=0.3〜1の値をとる[3]の化合物。
[5]下記一般式(1’)で表される構造単位を含有するポリアリーレン系共重合体。
【0024】
【化5】

【0025】
[式(1’)中、A、D、E、B、R1〜R28、l、o、m、q、n、pは、前記式(1)と
同じである]
[6]上記ポリアリーレン系共重合体が、さらに下記一般式(6)で表される構造単位を含む[5]のポリアリーレン系共重合体。
【0026】
【化6】

【0027】
(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)f−(fは1〜10の整数である)、−C(CF3)2−からなる群より選ばれた少なくとも1種の
構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−
SO3Hまたは−O(CH2)rSO3Hまたは−O(CF2)rSO3Hで表される置換基を有
する芳香族基を示す。rは1〜12の整数を示し、jは0〜10の整数を示し、kは0〜1
0の整数を示し、iは1〜4の整数を示す。)
[7][6]のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とする固体高分子電解質。[8][6]のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とするプロトン伝導膜。
[9][6]のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン伝導膜。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノールに代表される3つ以上連続するベンゼン環を有するモノマーから合成される化合物から導かれる疎水性を有する構造単位を含んでいるので、スルホン酸基を高い濃度で導入しても、メタノール耐性が高く、加工性に優れ、プロトン伝導度が高い高分子電解質およびプロトン伝導膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明について説明する。
本発明では、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノールに代表される3つ以上連続するベンゼン環を有するモノマーから合成される化合物、該化合物から導かれる疎水性を有する構造単位(以下、「疎水ユニット」)と、ポリアリーレン系共重合体、スルホン酸基を有するポリアリーレン系共重合体、固体高分子電解質、およびプロトン伝導膜について詳細に説明する。
[芳香族化合物]
本発明の芳香族化合物は、下記一般式(1)で表される。この化合物は、4,4’−(
1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノールに代表される3つ以上連続する
ベンゼン環を有するモノマーから合成される。この骨格をモノマー単位として含むことにより、重合体に疎水部を付与する。
【0030】
また、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノールに代表される3つ以上連続するベンゼン環を有しているため主鎖骨格が柔軟であり、熱変形温度を低下させることもできる。このため、ホットプレスを用いた燃料電池製作時の加工性ならびに電極との接合性を改善させる作用を有する。
【0031】
このような芳香族化合物から導かれる疎水性を有する構造単位を含んでいるので、スル
ホン酸基を高い濃度で導入しても、メタノール耐性が高く、加工性に優れ、プロトン伝導度が高い高分子電解質およびプロトン伝導膜を形成できる。
【0032】
なお、2つ以下の連続するベンゼン環を有する化合物では、スルホン酸基を高濃度で導入すると、メタノール耐性が低く、また、加工性が劣り、さらには電極などとの接着性が低下することがある。
【0033】
【化7】

【0034】
式(1)中、l、oは0〜4の整数を示し、mは1〜4の整数を示し、qは2以上の整数を示す。n、pは各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。これらのうち、mは1が好ましく、lは、0か1が好ましい。また、nは0.3〜1の値をとることが好ましい。
【0035】
A、Eは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−
、−COO−、−(CF2)f−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の
整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン
化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ば
れた少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’2−で表される構造の具体的な例と
して、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。
【0036】
これらのうち、直接結合または、−O−、−CO−、−SO−、−SO2−、−CR’2−、−(CF2)f−、−(CH2)h−、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基が好ましい。
【0037】
Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、酸素原子が好ましい。
Dは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、
−COO−、−(CF2)f−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の整
数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化
炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれ
た少なくとも1種の構造を示す。ここで、−CR’2−で表される構造の具体的な例とし
て、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、プロピル基、オクチル基、デシル基、オクタデシル基、フェニル基、トリフルオロメチル基、などが挙げられる。これらのうち、直接結合、−O−、−SO−、−(C
2)h−、−CR'’2−(R’'は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基示す)が好ましい。
【0038】
Xはフッ素を除くハロゲン原子、−OSO2CH2および−OSO2CF2から選ばれる原子または基を示し、特にフッ素を除くハロゲン原子が、特にClまたはBrが好ましい。
1〜R28は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル
基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。
【0039】
本発明に係る化合物としては下記式(3)で表される化合物がより好適である。。
【0040】
【化8】

【0041】
[式(3)中、Xはフッ素を除くハロゲン原子から選ばれる原子を示し、Dは、−O−、−CR’’2−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す。Pは下記一般式(4−1)〜(4−3)で表される構造から選ばれる少なくとも一種の構造であり、Qは下記一
般。また、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
【0042】
【化9】

【0043】
上記一般式(1)で表される化合物は、たとえば、次のような反応により合成することができる。
まず、2価の原子もしくは有機基または直接結合で連結されたビスフェノールを、対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,
N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイド
などの誘電率の高い極性溶媒中で、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で使用する。このとき、ベンゼン、トルエン、キシレン、
クロロベンゼン、アニソールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、反応の進行を促進させることが好ましい。
【0044】
次いで、上記ビスフェノールのアルカリ金属塩と、塩素等のハロゲン原子およびニトリル基で置換されたジハロゲン化物化合物とを反応させる。
上記ビスフェノール類のうち3つ以上連続するベンゼン環を有するものとして、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フ
ェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、1,3−(4−ヒドロキシベンゾイルベンゼン)、1,4−(4−ヒドロキシベンゾイルベンゼン)、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼンな
どが挙げられる。なかでも、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノールが好ましい。
【0045】
また、他のビスフェノールとして、4,4’−イソプロピリデンビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビ
スヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ビスヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4―ヒ
ドロキシフェニル)メタン、レゾルシノール、ヒドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフ
タレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、4,4’−イソプロピリデンビス(2−フェニルフェノール)、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2−シクロヘキ
シルフェノール)などが挙げられる。
【0046】
上記ジハロゲン化合物としては、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4−クロロ−4’−フルオロベンゾフェノン、2−クロロ−4’−フルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、2,6−ジニトロベンゾニトリル、2,5−ジニトロベンゾニトリル、2,4−ジニトロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,5−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,5−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2−クロロ−6−フルオロベンゾニトリルなどが挙げられる。
【0047】
上記ジハロゲン化合物は、ビスフェノールに対し1.0001〜3倍モル、好ましくは1.001〜2倍モルの量で用いられる。また両末端が塩素原子となるように、反応終了後に、例えば、ジクロロ化合物を過剰に加えてさらに反応させてもよい。ジフルオロ化合物やジニトロ化合物を用いた場合には、反応後半でジクロロ化合物を添加するなどの方法で、両末端が塩素原子となるよう反応を工夫することが必要である。
【0048】
これらの反応は、反応温度が60℃〜300℃で、好ましくは80℃〜250℃の範囲、反応時間が15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲で行われる。
得られたオリゴマーないしポリマーは、ポリマーの一般的な精製方法、たとえば、溶解−沈殿の操作によって精製することができる。分子量の調整は、過剰の芳香族ジクロライドとビスフェノールとの反応モル比によって行う。芳香族ジクロライドが過剰にあるため、得られるオリゴマーないしポリマーの分子末端は、芳香族クロライドになっている。
【0049】
上記の方法で合成される化合物の具体的な構造として、以下のものを挙げることができる。
【0050】
【化10】

【0051】
【化11】

【0052】
これらの化合物の中でも、好ましくは、4,4’-(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、から合成される化合物である。
【0053】
各ユニットの組成比をあらわすn、pの比を変えることにより、ポリマーのガラス転移温度を調整することができる。中でも、ポリマー加工性の観点から、n= 0.3〜1の値
をとる化合物が有用である。この範囲にあるものは、主鎖骨格が柔軟であるため、熱変形温度が低く、このため、ホットプレスを用いた燃料電池製作時の加工性ならびに電極との接合性を改善させることが可能となる。さらに、かかる芳香族化合物から導かれる疎水性を有する構造単位を含んでいるので、スルホン酸基を高い濃度で導入しても、メタノール耐性が高く、加工性に優れ、プロトン伝導度が高い高分子電解質およびプロトン伝導膜を形成できる。
【0054】
[ポリアリーレン系共重合体]
本発明に係るポリアリーレン系重合体は、下記一般式(1’)で表される構造単位(以下
、「構造単位(1’)」ともいう)のみから構成される単独重合体でもよいし、構造単位(1’)と他の構造単位とから構成される共重合体でもよい。いずれの場合でも、重合体のゲ
ルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(
以下、単に「重量平均分子量」という)は1万〜100万、好ましくは2万〜80万であ
る。
【0055】
【化12】

【0056】
式(1’)中、R1〜R28、A、B、D、Eおよびl、m、n、o、p、qは、上記一般
式(1)中のR1〜R28、A、B、D、Eおよびl、m、n、o、p、qと同義である。
本発明のポリアリーレン系共重合体は、目的に応じて、上記構造単位(1’)以外の他の構造単位を含んでいても良い。その他の構造単位としては、下記一般式(A)で表される構造単位(以下、「構造単位(A)」ともいう)が好ましい。このような構造単位(A)を含むものは、プロトン伝導性を有するの高分子固体電解質、プロトン伝導膜、特にダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン伝導膜として好適である。
【0057】
このような構造単位(A)を有するポリアリーレン系共重合体を、本明細書では、「スルホン化ポリアリーレン」と呼ぶこともある。
まず本発明に使用されるスルホン酸基を有するポリアリーレンについて具体的に説明する。本発明に使用されるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、下記一般式(A)で表されるスルホン酸基を有する構造単位(スルホン酸ユニット)と、疎水性ユニットとして前記一般式(1’)で表される構造単位(構造単位(1’))を含み、下記一般式(C)で表される重合体である。
<スルホン酸ユニット>
【0058】
【化13】

【0059】
一般式(A)において、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO
−、−(CF2)l−(lは1〜10の整数である)、−C(CF3)2−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち、−CO−、−SO2−が好ましい。
【0060】
Zは直接結合または、−(CH2)l−(lは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。このうち直接結合、−O−が好ましい。
【0061】
Arは−SO3Hまたは−O(CH2)pSO3Hまたは−O(CF2)pSO3Hで表される置
換基(pは1〜12の整数を示す)を有する芳香族基を示す。
芳香族基として具体的には、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。−SO3
Hまたは−O(CH2)pSO3Hまたは−O(CF2)pSO3Hで表される置換基(pは1〜1
2の整数を示す)は、少なくとも1個置換されていることが必要であり、ナフチル基であ
る場合には2個以上置換していることが好ましい。
【0062】
jは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、kは0〜10、好ましくは0〜2の整数であり、iは1〜4の整数を示す。
j、kの値とY、Z、Arの構造についての好ましい組み合わせとして、(1)j=0、k=0であり、Yは−CO−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基
である構造、(2)j=1、k=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有するフェニル基である構造、(3)j=1、k=1、i=1
であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−SO3Hを有す
るフェニル基である構造、(4)j=1、k=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として2個の−SO3Hを有するナフチル基である構造、(5)j=
1、k=0であり、Yは−CO−であり、Zは−O−であり、Arが置換基として−O(
CH2)4SO3Hを有するフェニル基である構造などを挙げることができる。
<ポリマー構造>
【0063】
【化14】

【0064】
一般式(C)において、A、B、D、E、Y、Z、Ar、i、k、j、l、m、n、o、p、qおよびR1〜R28は、それぞれ上記一般式(1)および(A)中のA、B、D、E、Y
、Z、Ar、i、k、j、l、m、n、o、p、qおよびR1〜R28と同義である。x、
yはx+y=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0065】
本発明で用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、式(A)で表される構造単
位すなわちxのユニットを0.5〜99.999モル%、好ましくは10〜99.9モル%の割合で、式(B)で表される構造単位すなわちyのユニットを99.5〜0.001モル%、好ましくは90〜0.1モル%の割合で含有している。
<ポリマーの製造方法>
スルホン酸基を有するポリアリーレンの製造には、例えば下記に示すA法、B法、C法の3通りの方法を用いることができる。
(A法)例えば、特開2004−137444号公報に記載の方法で、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーと、上記一般式(B)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを製造し、このスルホン酸エステル基を脱エステル化して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。(B法)例えば、特開2001−342241号公報に記載の方法で、上記一般式(A)で表される骨格を有しスルホン酸基、スルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記一般式(B)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、この重合体を、スルホン化剤を用いて、スルホン化することにより合成することもできる。
(C法)一般式(A)において、Arが−O(CH2)pSO3Hまたは−O(CF2)pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基である場合には、例えば、特開2005−60625号公報に記載の方法で、上記一般式(A)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーと、上記一般式(B)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、次にアルキルスルホン酸またはフッ素置換されたアルキルスルホン酸を導入する方法で合成することもできる。
(A法)において用いることのできる、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーの具体的な例として、特開2004−137444号公報、特開2004−346163号公報、特開2004−346163号公報に記載されているスルホン酸エステル類を挙げることができる。
(B法)において用いることのできる、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるスルホン酸基、またはスルホン酸エステル基を有しないモノマーの具体的な例として、特開2001−342241号公報、特開2002−293889号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
(C法)において用いることのできる、上記一般式(A)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーの具体的な例として、特開2005−36125号公報に記載されているジハロゲン化物を挙げることができる。
【0066】
スルホン酸基を有するポリアリーレンを得るためは、まず、これらの、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるモノマーと、上記一般式(B)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーとを共重合させ、前駆体のポリアリーレンを得ることが必要である。この共重合は、触媒の存在下に行われるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(1)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩
を含む)、ならびに(2)還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、「塩
」を添加してもよい。
【0067】
これらの触媒成分の具体的な例、各成分の使用割合、反応溶媒、濃度、温度、時間等の重合条件としては、特開2001−342241号公報に記載の化合物を挙げることができる。
【0068】
スルホン酸基を有するポリアリーレンは、この前駆体のポリアリーレンを、スルホン酸基を有するポリアリーレンに変換して得ることができる。この方法としては、下記の3通りの方法がある。
(A法)前駆体のスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを、特開2004−137
444号公報に記載の方法で脱エステル化する方法。
(B法)前駆体のポリアリーレンを、特開2001−342241号公報に記載の方法でスルホン化する方法。
(C法)前駆体のポリアリーレンに、特開2005−60625号公報に記載の方法で、アルキルスルホン酸基を導入する方法。
【0069】
上記のような方法により製造される、一般式(C)のスルホン酸基を有するポリアリーレンのイオン交換容量は、通常0.3〜5meq/g、好ましくは0.5〜3meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。0.3meq/g未満では、プロトン伝導度が低く発電性能が低い。一方、5meq/gを超えると、耐水性が大幅に低下してしまうことがあるため好ましくない。
【0070】
上記のイオン交換容量は、例えば一般式(1)で表される構造単位となりうる前駆体のモノマーと、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるモノマー、またはオリゴマーの種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。
【0071】
このようにして得られるスルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。
【0072】
[固体高分子電解質]
本発明の固体高分子電解質は、上記スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体からなり、プロトン伝導性を損なわない範囲で、フェノール性水酸基含有化合物、アミン系化合物、有機リン化合物、有機イオウ化合物などの酸化防止剤などを含んでもよい。
【0073】
上記固体高分子電解質は、使用用途に応じて、粒状、繊維状、膜状など種々の形状で用いることができる。たとえば、燃料電池や水電解装置などの電気化学デバイスに用いる場合には、その形状を膜状(いわゆる、プロトン伝導膜)とすることが望ましい。
【0074】
[プロトン伝導膜]
本発明のプロトン伝導膜は、上記スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体からなる固体高分子電解質を用いて調製される。また、プロトン伝導膜を調製する際に、固体高分子電解質以外に、硫酸、リン酸などの無機酸、カルボン酸を含む有機酸、適量の水などを併用してもよい。
【0075】
本発明では、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体を、溶剤に溶解して溶液とした後、基体上に流延してフィルム状に成形するキャスティング法などにより、フィルム状に成形することによりプロトン伝導膜を製造することができる。ここで、上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0076】
スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体を溶解する溶媒としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノンなどの非プロトン系極性溶剤が挙げられ、特に溶解性、溶液粘度の面から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう。)が好ましい。非プロトン系極性溶剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体を溶解させる溶媒として、上記非
プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物も用いることができる。アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどが挙げられ、特にメタノールが幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があり好ましい。アルコールは、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤とアルコールとの混合物を用いる場合には、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%、アルコールが5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%(但し、合計は100重量%)からなる。アルコールの量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。
【0079】
スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体を溶解させた溶液のポリマー濃度は、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体の分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。5重量%未満では、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい。一方、40重量%を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0080】
なお、溶液粘度は、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体の分子量や、ポリマー濃度にもよるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000
〜50,000mPa・sである。2,000mPa・s未満では、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがある。一方、100,000mPa・sを超えると
、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0081】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶剤を水と置換することができ、得られるプロトン伝導膜の残留溶媒量を低減することができる。
【0082】
なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0083】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式であってもよく、通常得られる基板フィルム(たとえば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を水に浸漬させて、巻き取っていく連続方法でもよい。
【0084】
バッチ方式の場合は、処理フィルムを枠にはめるなどの方式が処理されたフィルムの表面の皺形成が抑制されるので好都合である。
未乾燥フィルムを水に浸漬する際には、未乾燥フィルム1重量部に対し、水が10重量部以上、好ましくは30重量部以上の接触比となるようにすることがよい。得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量をできるだけ少なくするためには、できるだけ大きな接触比を維持するのがよい。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量の低減に有効である。プロトン伝導膜中に残存する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることは効果がある。
【0085】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、好ましくは5〜80℃の範囲である。高温ほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も大きくなるので、乾燥後に得られるプロトン伝導膜の表面状態が荒れる懸念がある。通常、置換速度と取
り扱いやすさから10〜60℃の温度範囲が好都合である。
【0086】
浸漬時間は、初期の残存溶媒量や接触比、処理温度にもよるが、通常10分〜240時間の範囲である。好ましくは30分〜100時間の範囲である。
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減されたプロトン伝導膜が得られるが、このようにして得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下である。
【0087】
また、浸漬条件によっては、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルムと水との接触比を、未乾燥フィルム1重量部に対し、水が50重量部以上、浸漬する際の水の温度を10〜60℃、浸漬時間を10分〜10時間とする方法がある。
【0088】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間、真空乾燥することにより、プロトン伝導膜を得ることができる。
【0089】
本発明の方法により得られるプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
また、本発明においては、上記スルホン酸エステル化されたポリアリーレン系重合体を加水分解することなく、上述したような方法でフィルム状に成形した後、上記と同様の方法で加水分解することによりスルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体からなるプロトン伝導膜を製造することもできる。
【0090】
本発明のプロトン伝導膜は、老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有してもよく、老化防止剤を含有することでプロトン伝導膜としての耐久性をより向上させることができる。
【0091】
本発明で使用することのできる分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロ
キシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビ
ス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−
t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチル
−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチ
ル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル
−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒ
ドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4―ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェ
ニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサ
スピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
【0092】
本発明において、スルホン酸基を有するポリアリーレン系重合体100重量部に対して分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
【0093】
本発明のプロトン伝導膜は、たとえば、一次電池用電解質、二次電池用電解質、燃料電池用高分子固体電解質、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などのプロトン伝導膜として好適に用いることができる。
【0094】
さらには、ダイレクトメタノール燃料電池用の固体高分子電解質、プロトン伝導膜として、好ましく用いることができる。
〔実施例〕
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各種の測定項目は、下記のようにして求めた。
【0095】
(分子量)
スルホン化前の疎水性ユニットの数平均分子量(Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、GPCによって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。スルホン化ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、溶剤として臭化リチウムと燐酸を添加したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶離液として用い、GPCによって、ポリスチレン換算の分子量を求めた。
【0096】
(イオン交換容量)
得られたスルホン化ポリマーの水洗水がpH4〜6になるまで洗浄して、フリーの残存している酸を除去後、十分に水洗し、乾燥後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解し、フェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液にて滴定し、中和点から、イオン交換容量を求めた。
【0097】
(ガラス転移温度)
動的粘弾性測定装置により、スルホン化ポリマーのガラス転移温度を測定した。
(メタノール水溶液浸漬試験)
64重量%の60℃メタノール水溶液に、伝導膜を6時間浸漬した。浸漬前後の面積を測定し、面積変化率(%)を計算した。
面積変化率(%)=(浸漬後の面積/浸漬前の面積)×100
(メタノール透過性)
浸透気化測定法(パーベーパレーション法)により測定した。所定のセルにフィルムをセットし、表面側から30重量%のメタノール水溶液を供給、裏面から減圧し、透過液を液体窒素でトラップした。メタノール透過量は下記の式から計算した。
メタノール透過量(g/m2/h)=[透過液重量(g)/回収時間(h)/試料面積(m2)]×透過液の
メタノール濃度
(膜抵抗の測定)
膜を濃度1mol/lの硫酸を介して上下から導電性カーボン板ではさみ、室温でカーボン
板間の交流抵抗を測定し、下記の式で求めた。
膜抵抗(Ω・cm2)=膜をはさんだカーボン間の抵抗値(Ω)−ブランク値(Ω)×接触面積(cm2)
(電極接合性)
市販のカーボン電極とフィルムを140℃で5分間75kg/cm2でプレスした。こ
れを10重量%メタノール水溶液に24時間浸漬し、電極の接着状態を目視で観察した。
【0098】
剥離のないものを○、剥離したものを×とした。
[実施例1]
(1)疎水ユニットの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管、Dean-Stark管、冷却管を取り付けた1Lセ
パラブル3口フラスコに4、4’−ジクロロベンゾフェノン 60.3g (240mmol)、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール(Bis−P) 69.3g (200mmol)、炭酸カリウム 35.9g (260mmol)をはかりとった。スルホラン 370mL、トルエン 190mLを加え、窒素雰囲気下、150℃で加熱還流した。反応によって生成する水をトルエンとの共沸により、Dean-St
ark管から取り除いた。3時間後に水の生成が認められなくなったところで、トルエンを系外に取り除き、180℃で7時間撹拌した後、4、4’−ジクロロベンゾフェノン
20.1g (80mmol)を加え、さらに3時間撹拌した。
放冷後、反応溶液に不溶の無機物を、セライトをろ過助剤に用いたろ過によって除いた。ついでろ液をメタノール 2.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。沈殿した凝固物をろ過
し、少量のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。乾燥した生成物を、テトラヒドロフラン
200mLに再溶解した。この溶液をメタノール 2.0Lに注ぎ、再沈殿した。凝固
物をろ過し、真空乾燥して、103g(収率92%)の目的物を得た。GPCで求めたポリスチレン換算の数平均分子量は4500、重量平均分子量は6800であった。得られた化合物は式(I)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0099】
【化15】

【0100】
[実施例2]スルホン化ポリマーの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル53.3g(133mmol)、実施例
1で得られた数平均分子量4,500の疎水性ユニット74.7g(16.6mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.94g(5.0mmol)、ヨウ化ナトリウム0.67g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン15.7g(60mm
ol)、亜鉛23.5g(360mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)320mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら
3時間攪拌を続けた後、DMAc540mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0101】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム23.2g(266mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン3.5Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体92gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は85,000であった。得られた化合物は式(II)で表されるポリマーであることを確認した。
【0102】
【化16】

【0103】
得られたスルホン化ポリマーの10重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス板上にキャストして製膜し、膜厚40μmのフィルムを得た。
[実施例3] 疎水ユニットの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管、Dean-Stark管、冷却管を取り付けた1Lセ
パラブル3口フラスコに4、4’−ジフルオロベンゾフェノン 52.4g(240mmol)、4−クロロ−4’−フルオロベンゾフェノン 14.1g(60.0mmol)、4,4’−(1,3−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール(Bis−M) 70.2
g(203mmol)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン 23.7g(67.5mmol)、炭酸カリウム48.5g(351mmol)をはかりとった。DMAc 430mL、トルエン 220mLを加え、窒素雰囲気下、150℃で加熱還流した。反応によっ
て生成する水をトルエンとの共沸により、Dean-Stark管から取り除いた。3時
間後に水の生成が認められなくなったところで、トルエンを系外に取り除き、160℃で7時間撹拌した後、4−クロロ−、4’−フルオロベンゾフェノン 7.0g(20.0mmol)を加え、さらに3時間撹拌した。
【0104】
放冷後、反応溶液に不溶の無機物を、セライトをろ過助剤に用いたろ過によって除いた。ろ液をメタノール2.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。沈殿した凝固物をろ過し、少
量のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。乾燥した生成物を、テトラヒドロフラン200mLに再溶解した。この溶液をメタノール2.0Lに注ぎ、再沈殿した。凝固物をろ過し
、真空乾燥して、110g(収率80%)の目的物を得た。GPCで求めたポリスチレン換算の数平均分子量は6000、重量平均分子量は8300であった。得られた化合物は式(III)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0105】
【化17】

【0106】
nとpの組成比は、nが0.75で、pが0.25であった。
[実施例4]スルホン化ポリマーの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル56.1g(140mmol)、実施例
3で得られたMn6000の疎水性ユニット61.1g(10.2mmol)、ビス(トリ
フェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.94g(5.0mmol)、ヨウ化ナトリウ
ム0.67g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン15.7g(60mmol)、亜鉛23.5g(360mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)290mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc490mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0107】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム24.3g(280mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン3.0Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体97gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は105,000であった。得られた化合物は式(IV)で表されるポリマーであることを確認した。
【0108】
【化18】

【0109】
得られたスルホン化ポリマーの10重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス板上にキャストして製膜し、膜厚40μmのフィルムを得た。
[実施例5] 疎水ユニットの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管、Dean-Stark管、冷却管を取り付けた1Lセ
パラブル3口フラスコに2,6−ジクロロベンゾニトリル 48.2g(280mmol)
、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン 38.3g(130mmol)、9
,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン 45.6g(130mmol)、炭酸カ
リウム46.7g(338mmol)をはかりとった。スルホラン 370mL、トルエン 190mLを加え、窒素雰囲気下、150℃で加熱還流した。反応によって生成する水をトルエンとの共沸により、Dean-Stark管から取り除いた。3時間後に水の生成
が認められなくなったところで、トルエンを系外に取り除き、180℃で7時間撹拌した後、2,6−ジクロロベンゾニトリル 6.88g(40mmol)を加え、さらに3時間
撹拌した。
【0110】
放冷後、反応溶液に不溶の無機物を、セライトをろ過助剤に用いたろ過によって除いた。ろ液をメタノール2.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。沈殿した凝固物をろ過し、少
量のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。乾燥した生成物を、テトラヒドロフラン200mLに再溶解させた。この溶液をメタノール2.0Lに注ぎ、再沈殿した。凝固物をろ過
し、真空乾燥して、106g(収率91%)の目的物を得た。GPCで求めたポリスチレン換算の数平均分子量は8100、重量平均分子量は9500であった。得られた化合物は式(V)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0111】
【化19】

【0112】
nとpの組成比は、nが0.50で、pが0.50であった。
[実施例6]スルホン化ポリマーの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル56.8g(141mmol)、実施例
5で得られたMn8100の疎水性ユニット69.5g(8.6mmol)、ビス(トリフ
ェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.94g(5.0mmol)、ヨウ化ナトリウム
0.67g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン15.7g(60mmol)、亜鉛23.5g(360mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)320mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc530mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0113】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム24.6g(282mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン3.4Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体103gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は97,000であった。得られた化合物は式(VI)
で表されるポリマーであることを確認した。
【0114】
【化20】

【0115】
得られたスルホン化ポリマーの10重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス板上にキャストして製膜し、膜厚40μmのフィルムを得た。
[実施例7] 疎水ユニットの合成
撹拌羽根、温度計、窒素導入管、Dean-Stark管、冷却管を取り付けた1Lセ
パラブル3口フラスコに4、4’−ジクロロベンゾフェノン 45.2g(180mmol)、4,4’−(1,4−フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール(Bis−P) 33.3g(96.0mmol)、4,4’−ビフェノール 11.9g(64.0mmol)
、炭酸カリウム28.7g(208mmol)をはかりとった。スルホラン270mL、トルエン135mLを加え、窒素雰囲気下、150℃で加熱還流した。反応によって生成する水をトルエンとの共沸により、Dean-Stark管から取り除いた。3時間後に水
の生成が認められなくなったところで、トルエンを系外に取り除き、180℃で7時間撹拌した後、4、4’−ジクロロベンゾフェノン 15.1g(60mmol)を加え、さら
に3時間撹拌した。
【0116】
放冷後、反応溶液に不溶の無機物をセライトをろ過助剤に用いたろ過によって除いた。ろ液をメタノール2.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。沈殿した凝固物をろ過し、少量
のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。乾燥した生成物を、テトラヒドロフラン150mLに再溶解させた。この溶液をメタノール2.0Lに注ぎ、再沈殿した。凝固物をろ過し
、真空乾燥して、65g(収率85%)の目的物を得た。GPCで求めたポリスチレン換算の数平均分子量は6400、重量平均分子量は7800であった。得られた化合物は式(VII)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0117】
【化21】

【0118】
(VII) nとpの組成比は、nが0.60で、pが0.40であった。
[実施例8]スルホン化ポリマーの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル56.8g(141mmol)、実施例
7で得られたMn6400の疎水性ユニット55.0g(8.6mmol)、ビス(トリフ
ェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.94g(5.0mmol)、ヨウ化ナトリウム
0.67g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン15.7g(60mmol)、亜鉛23.5g(360mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)280mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc460mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0119】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム24.6g(285mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5.0Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体82gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は93,000であった。得られた化合物は式(VIII)で表されるポリマーであることを確認した。
【0120】
【化22】

【0121】
得られたスルホン化ポリマーの10重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス板上にキャストして製膜し、膜厚40μmのフィルムを得た。
[比較例1]
撹拌羽根、温度計、窒素導入管、Dean-Stark管、冷却管を取り付けた1Lセ
パラブル3口フラスコに4、4’−ジクロロベンゾフェノン 50.2g(200mmol)、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン 11.1g(55.0mmol)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル57.8g(165mmol)、炭酸カリウム
39.5g(286mmol)をはかりとった。スルホラン340mL、トルエン170mLを加え、窒素雰囲気下、150℃で加熱還流した。反応によって生成する水をトルエンとの共沸により、Dean-Stark管から取り除いた。3時間後に水の生成が認めら
れなくなったところで、トルエンを系外に取り除き、180℃で7時間撹拌した後、4、4’−ジクロロベンゾフェノン 10.0g(40.0mmol)を加え、さらに3時間撹
拌した。
【0122】
放冷後、反応溶液に不溶の無機物をセライトをろ過助剤に用いたろ過によって除いた。ろ液をメタノール2.0Lに注ぎ、反応物を凝固させた。沈殿した凝固物をろ過し、少量
のメタノールで洗浄し、真空乾燥した。乾燥した生成物を、テトラヒドロフラン150mLに再溶解した。この溶液をメタノール1.5Lに注ぎ、再沈殿した。凝固物をろ過し、
真空乾燥して、87g(収率83%)の目的物を得た。GPCで求めたポリスチレン換算の数平均分子量は5500、重量平均分子量は8500であった。得られた化合物は式(IX)で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0123】
【化23】

【0124】
[比較例2] スルホン化ポリマーの合成
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジク
ロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル55.2g(138mmol)、比較例
1で得られたMn5500の疎水性ユニット67.9g(12.3mmol)、ビス(トリ
フェニルホスフィン)ニッケルジクロリド2.94g(5.0mmol)、ヨウ化ナトリウ
ム0.67g(5.0mmol)、トリフェニルホスフィン15.7g(60mmol)、亜鉛23.5g(360mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)300mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc520mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0125】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム23.9g(275mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン3.2Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体88gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は93,000であった。得られた化合物は式(X)で表されるポリマーであることを確認した

【0126】
【化24】

【0127】
得られたスルホン化ポリマーの10重量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を、ガラス板上にキャストして製膜し、膜厚40μmのフィルムを得た。
[評価]
実施例2および4、6、8、また比較例2で合成したスルホン化ポリマーおよびフィルム(プロトン伝導膜)の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1に示したように、実施例2、4、6および8で得られたフィルムは、優れた電極接合性と、低いメタノール透過性、膜抵抗、およびメタノール水溶液に対する寸法安定性を両立できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されることを特徴とする芳香族化合物。
【化1】

[式(1)中、A、D、Eは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−SO−
、−CONH−、−COO−、−(CF2)f−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からな
る群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
Bは独立に酸素原子または硫黄原子を示し、Xはフッ素を除くハロゲン原子、−OSO2CH3および−OSO2CF3から選ばれる原子または基を示す。
1〜R28は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル
基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。
l、oは0〜4の整数を示し、mは1〜4の整数を示し、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
【請求項2】
下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

[式(2)中、A、Eは直接結合、−O−、−CO−、−SO2−、−SO−、−(CF2)f
−(fは1〜10の整数である)、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR’2−(R’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基を示す)、シク
ロヘキシリデン基、フルオレニリデン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示す。
Dは直接結合、−O−、−CO−、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−CR
’’2−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)、Xはフッ素を除くハロゲン原
子から選ばれる原子を示す。R1〜R28は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子
、フッ素原子、アルキル基、一部またはすべてがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基およびニトリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。また、l、oは0〜4の整数を示し、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
【請求項3】
下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【化3】

[式(3)中、Xはフッ素を除くハロゲン原子から選ばれる原子を示し、Dは、−O−、−
CR’’2−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基)を示す。Pは下記一般式(4−1)〜(4−3)で表される構造から選ばれる少なくとも一種の構造であり、Qは下記一
般式(5−1)〜(5−12)で表される構造から選ばれる少なくとも一種の構造である。また、qは2以上の整数を示す。n、p、は各ユニットの組成比を示し0から1の値をとり、n+p=1である。ただし、nは0以外の値をとる。]
【化4】

【請求項4】
上記一般式(3)において、n=0.3〜1の値をとることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
下記一般式(1’)で表される構造単位を含有することを特徴とするポリアリーレン系共
重合体。
【化5】

[式(1’)中、A、D、E、B、R1〜R28、l、o、m、q、n、pは、前記式(1)と
同じである]
【請求項6】
上記ポリアリーレン系共重合体が、さらに下記一般式(6)で表される構造単位を含むことを特徴とする請求項5に記載のポリアリーレン系共重合体。
【化6】

(式中、Yは−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)f−(lは1〜10の整数である)、−C(CF3)2−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Zは直接結合または、−(CH2)h−(hは1〜10の整数である)、−C(CH3)2−、−O−、−S−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Arは−
SO3Hまたは−O(CH2)rSO3Hまたは−O(CF2)rSO3Hで表される置換基を有
する芳香族基を示す。rは1〜12の整数を示し、jは0〜10の整数を示し、kは0〜1
0の整数を示し、iは1〜4の整数を示す。)
【請求項7】
請求項6に記載のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とする固体高分子電解質。
【請求項8】
請求項6に記載のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とするプロトン伝導膜。
【請求項9】
請求項6に記載のポリアリーレン系共重合体からなることを特徴とするダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン伝導膜。


【公開番号】特開2007−291242(P2007−291242A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121081(P2006−121081)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】