説明

苦味又は渋味が軽減された飲料又は食品の製造方法

【課題】苦味や渋味が十分に軽減された飲料や食品を製造する方法、しかも簡便で低コストな製造方法を提供することである。
【解決手段】以下の工程1及び工程2を含むことを特徴とする、苦味又は渋味が軽減された飲料又は食品の製造方法。
工程1:苦味又は渋味成分を含む飲食品に、単量体として塩基性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又は単量体として中性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又はこれらのポリアミノ酸の混合物を添加して、苦味又は渋味成分とポリアミノ酸とを結合させる工程
工程2:工程1で生じた苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物を飲料又は食品から除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味や渋味が軽減された飲料および食品の製造方法に関する。
詳しくは、塩基性アミノ酸のみが縮重合したポリアミノ酸、又は中性アミノ酸のみが縮重合したポリアミノ酸を使用して、ポリアミノ酸に飲料又は食品に含まれる苦渋味成分を結合させた後、該飲料および食品から当該結合物を除去する方法による、苦味又は渋味が軽減された飲料又は食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料や食品の苦味や渋味は、その飲料や食品の特徴として嗜好性の重要な要素となる。しかし一方、強すぎる苦味や渋味は逆に飲料や食品の風味を損ねる要因となることから、飲料や食品の苦味や渋味を低減することが求められている。
そのため、これまで、飲料や食品に含まれる苦味成分や渋味成分を除去するさまざまな試みがなされてきた。
【0003】
飲料や食品の苦味物質や苦味物質を除去する方法として、ポリビニルポリピロリドン樹脂を用いてタンニンを吸着・除去する方法(特許文献1および特許文献2)や、プロタミンを用いた飲料の渋味・苦味の改良方法(特許文献3)が報提案れている。
しかし、ポリビニルポリピロリドン樹脂は広くポリフェノールと結合するため、苦味や渋味が強いガレート型カテキンやガレート型テアフラビン類を選択的に除去するには不向きである。
【0004】
この欠点を克服すべく、ポリビニルポリピロリドン樹脂を用いて選択的にガレート型カテキンを除去する方法が提案されている(特許文献4)。この方法は、茶葉を40〜80℃の温水で抽出し、ガレート型カテキン類の総カテキン類に占める割合が50%以下である茶葉抽出液を調製する工程と、茶葉抽出液を60〜90℃の温度範囲でポリビニルポリピロリドンと接触させて茶葉抽出液中のガレート型カテキン類の総カテキン類に占める割合を30%以下に低減させる工程を含んでなる、茶系組成物の製造方法である。
【0005】
ところが、上記のポリビニルポリピロリドン樹脂を用いて選択的にガレート型カテキンを除去する方法は、煩雑な手法となってしまう。そのうえ、ポリビニルポリピロリドンを用いた茶エキスの製造方法では、高価な樹脂を多量に必要とするためコスト的に不利である。
また、プロタミンを用いた方法は、生成した不溶物を除去する方法なので、飲料中に渋味の強いプロタミンが残存し、飲食物の風味に影響がでてしまう。
【0006】
一方、塩基性のアミノ酸のみ、または中性のアミノのみで構成されるポリアミノ酸とポリフェノールの結合については、中性アミノ酸であるプロリンのみからなるポリプロリンと高分子ポリフェノールであるプロアントシアニジンとの結合に関する報告がある(非特許文献1)。
しかし、塩基性のアミノ酸のみ又は中性のアミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸が低分子ポリフェノールであるカテキン類と結合し、苦味や渋味を抑制するという報告はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−220055号公報
【特許文献2】特開2000−41577号公報
【特許文献3】特開平6−153875号公報
【特許文献4】特開2004−159597号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Journal of Biological Chemistry, 256, 4494-4497 ( 1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術における問題点を解決し、苦味や渋味が十分に軽減された飲料や食品を製造する方法、しかも簡便で低コストの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、塩基性アミノ酸または中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸が飲料中のポリフェノールであるカテキン類、テアフラビン類、テアルビジンやクロロゲン酸を選択的に結合することを見出し、その結果、風味に影響することなく、簡便に苦味や渋味が低減された飲料や食品を製造できる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)以下の工程1及び工程2を含むことを特徴とする、苦味又は渋味が軽減された飲料又は食品の製造方法である。
工程1:苦味又は渋味成分を含む飲食品に、単量体として塩基性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又は単量体として中性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又はこれらのポリアミノ酸の混合物を添加して、苦味又は渋味成分とポリアミノ酸とを結合させる工程
工程2:工程1で生じた苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物を飲料又は食品から除去する工程
【0012】
(2)また、本発明は、(1)の製造方法において、工程2における除去が、下記の(a)、(b)、(c)又は(d)の除去方法であることを特徴とする。
(a)限外ろ過による除去方法
(b)遠心分離による除去方法
(c)水可溶有機溶媒を加えることによって苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物の沈殿を生じさせて除去する方法
(d)ポリアミノ酸が固形担体に固定されており、飲料又は食品から固定担体を取り出すことによって苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物を除去する方法
【0013】
(3)さらに、本発明は、上記(1)と(2)の製造方法において、
飲料又は食品が、ポリフェノール又はアルカロイドを含有する飲料又は食品であること;カテキン類、テアフラビン類、テアルビジン類又はクロロゲン酸を含有する飲料又は食品であること;紅茶、緑茶、烏龍茶、コーヒー、ココアおよびその抽出物を含む飲料又は食品であることを特徴とする。
(4)さらに、ポリアミノ酸が、単量体として同一種のアミノ酸を重合したものであること;
塩基性アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン及びリシンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であること;
中性アミノ酸が、アラニン、グリシン、プロリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、セリン及びスレオニンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であること;をそれぞれ特徴とする。
【0014】
(5)さらに、本発明は、(1)と(2)の製造方法において、
ポリアミノ酸の分子量が500〜100,000であること、
ポリアミノ酸の添加量が、飲料又は食品1,000質量部に対して0.001〜50質量部であることをそれぞれ特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、飲料や食品の風味に影響を及ぼすことなく、簡便に、苦味や渋味が低減された飲料又は食品を製造することが可能となる。特に、苦味又は渋味の主要因子であるカテキン類、特に苦味や渋味が強いガレート型カテキン類を選択的かつ効率的に除去可能であるので、苦味や渋味が十分に低減された飲料又は食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳述する。
〔I〕苦味又は渋味成分の結合工程
(1)ポリアミノ酸
本発明において、ポリアミノ酸とは、単量体として塩基性アミノ酸のみがペプチド結合によって縮重合したポリアミノ酸、又は単量体として中性アミノ酸のみがペプチド結合によって縮重合したポリアミノ酸、又はこれらのポリアミノ酸混合物をいう。「塩基性アミノ酸のみ」とは、重合体を構成する単量体が塩基性アミノ酸だけであり、酸性アミノ酸や中性アミノ酸を含まないことを意味する。従って、塩基性アミノ酸のみがペプチド結合によって縮重合したポリアミノ酸は、塩基性側鎖を有するリシン(lysine)、アルギニン(arginine)及びヒスチジン(histidine)からなる群より選ばれる1種又は2種以上を単量体とする。
【0017】
また、「中性アミノ酸のみ」の意味も同様であり、中性アミノ酸のみがペプチド結合によって縮重合したポリアミノ酸は、側鎖に解離基を持たないアラニン(alanine)、グリシン(glycine)、プロリン(proline)、バリン(valine)、ロイシン(leucine)、イソロイシン(isoleucine)、フェニルアラニン(phenylalanine)、チロシン(tyrosine)、トリプトファン(tryptophan)、システイン(cysteine)、メチオニン(methionine)、アスパラギン(asparagine)、グルタミン(glutamine)、セリン(serine)及びスレオニン(threonine) からなる群より選ばれる1種又は2種以上を単量体とする。
【0018】
単量体として同一種のアミノ酸が重合したポリアミノ酸が好ましく、また、ポリアミノ酸を構成するアミノ酸が通常のタンパク同様、アルファ位のアミノ基とカルボキシル基がアミド(ペプチド)結合をしたものが望ましいが、これに限定されるものではない。
具体的には、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリリシン、ポリアラニン、ポリグリシン、ポリプロリン、ポリバリン、ポリロイシン、ポリイソロイシン、ポリフェニルアラニン、ポリチロシン、ポリトリプトファン、ポリシステイン、ポリメチオニン、ポリアスパラギン、ポリグルタミン、ポリセリン、ポリスレオニンから選ばれる1つまたはそれ以上を使用する。
すなわち、塩基性アミノ酸からなるポリアミノ酸と中性アミノ酸からなるポリアミノ酸はそれぞれ単独で使用し、又は両者を混合して使用することもできる。
【0019】
上記ポリアミノ酸が低分子量の場合は苦渋味の低減効果が弱く、一方、高分子量の場合は溶解性が悪いことが予想される。従って、本発明におけるポリアミノ酸の分子量は好ましくは500〜100,000であり、特に好ましくは500〜30,000、最も好ましくは3,000〜25,000である。
ポリアミノ酸の合成は、主として、N−カルボキシアミノ酸無水物(N−カルボン酸無水物、NCA)の脱炭酸重縮合で行なわれる。有機溶媒中、第三級アミンを開始剤とする活性化NCA型重合機構による重合が、重合速度が大きく、高分子量のものを得やすいので常用されている。
本発明におけるポリアミノ酸は、化学合成された市販のものをそのまま使用することができる。
【0020】
(2)苦味又は渋味成分を含む飲料又は食品
本発明で苦味や渋味の低減が図られる飲料又は食品とは、嗜好性に問題を及ぼすような苦味や渋味を有する飲料や食品一般を含み、具体的には、苦味物質としてポリフェノールやアルカロイドを含む飲料や食品である。
例えば、苦味物質としてポリフェノール成分のカテキン類やテアフラビン類、テアルビジン類を含有する紅茶、緑茶、烏龍茶およびこれらの抽出物や濃縮物、茶葉原料を含む食品が挙げられる。
また、苦味物質としてポリフェノール成分のクロロゲン酸やアルカロイドのカフェイン含有するコーヒーおよびその抽出物や濃縮物、コーヒー豆原料を含む食品が挙げられる。
さらに、苦味物質としてポリフェノール成分のカテキン類やアルカロイドのテオブロミンを含むカカオ豆を原料とするココアやチョコレートも挙げられる。
【0021】
(3)ポリアミノ酸の使用量、及び苦味又は渋味成分との結合
一般に、タンパクの場合、添加量が多くなるとタンパク自体の風味がそれを添加する飲料や食品の風味に影響を与える。しかし、ポリアミノ酸自体に独特の風味はないうえ、本発明では、添加したポリアミノ酸は飲料又は食品から除去されるため、使用量の上限はない。
しかし、コストを考慮すると、効果が望めるのであれば、添加量は低いほうがよい。ポリアミノ酸の添加量は、一般には飲料又は食品1,000質量部に対して0.001〜50質量部であり、好ましくは0.01〜10重量部である。0.001質量部未満では十分な苦味や渋味の抑制効果が得られず、一方、50質量部を超えるとコストがかかり高価となってしまう。
苦味渋味成分との結合は、飲料又は食品の溶液に、上記の使用量にてポリアミノ酸を添加し、5〜90℃の温度条件で混合直後から、あるいは1秒〜30分間攪拌を続ければポリアミノ酸と飲食品中の苦味又は渋味成分が結合する。なお、かかる結合は、疎水結合、水素結合、イオン結合などによる分子間の相互作用によるものである。
【0022】
〔II〕苦味又は渋味成分の除去工程
本発明におけるポリアミノ酸はカテキン類、特に苦味や渋味が強いガレート型カテキン類と結合するため、カテキン類を含有する飲料や食品に混合させたあと、該ポリアミノ酸とカテキン類との結合物を除去すると、飲料や食品に含まれるカテキン類の濃度を低減することができる。その結果、飲料や食品の苦味や渋味を低減することができる。
【0023】
本発明におけるポリアミノ酸の除去方法は以下に述べる、(a)分離膜による限外ろ過処理、(b)遠心分離による処理、(c)有機溶媒による処理、及び(d)担体に結合したポリアミノ酸の使用から選択される1又は2以上の分離方法で処理することにより、効率よくポリアミノ酸を除去することが可能だが、これら方法に限定されるものではない。
【0024】
(a)分離膜による処理
膜(濾過)処理によって高分子であるポリアミノ酸と苦味渋味物資の結合物を除去する方法である。膜の種類としては限外濾過膜、透析膜を利用できる。
(b)遠心分離による処理
飲料または食品抽出液を遠心分離することによって、高分子であるポリアミノ酸と苦味渋味物資の結合物を沈殿させ除去する方法である。
【0025】
(c)有機溶媒による処理
エタノールなど水可溶有機溶媒を添加し、高分子であるポリアミノ酸と苦味渋味物資の結合物を沈殿させた後、ろ過または遠心分離により当該結合物を除去し、得られた溶液を濃縮し、有機溶媒を除去する方法である。
(d)担体に結合したポリアミノ酸の使用
担体に結合し、固体となったポリアミノ酸と苦味渋味物資の結合物を濾過、遠心分離、磁力などによって、飲料または食品抽出液から分離し、除去する方法である。本発明で使用する担体は、表面にポリアミノ酸が結合できるように修飾された、シリカゲル、ポリアミドゲル、磁性ビーズなどを利用できる。
【0026】
上述した(a)〜(d)の分離方法による除去工程を経て得られた飲料又は食品抽出物は、そのままで、苦味や渋味が低減された飲料又は食品として使用できるが、作業性や保存性のよさを考慮して、減圧濃縮や凍結乾燥などにより水を除去し、粉末状として使用することもできる。
【実施例】
【0027】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、以下の実施例は例示の目的にのみ用いられ、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0028】
〔測定例〕
結合実験を行った検体は、限外ろ過膜(ミリポア社製 アミコンウルトラ0.5 (3k)))を用いてろ過し、ろ液を以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてカテキン類の残存量について定量した。
なお、本実験例で用いたHPLCの条件を以下に示す:
【0029】
装 置:アジレント・テクノロジー株式会社製「Agilent 1100 HPLC システム」
カラム:株式会社資生堂製「CAPCELL PAK C18MG」(カラム温度:40℃)
溶離液:A. アセトニトリル
B. 10%アセトニトリル水溶液(pH2. H3PO4
グラジエント条件: 0分 → 10分 → 25分 → 35分
A. 0% 0% 15% 100%
B. 100% 100% 85% 0%
流速: 1mL/分間
検出波長: 280nm
各成分の濃度は、純品で作成した検量線を用いて算出した。
【0030】
〔試験例1〕紅茶抽出液の調製
市販の茶パックに小分けした紅茶葉(インド産)10gに沸騰した熱水(イオン交換水)を1000g投入し5分間抽出後、茶パックごと紅茶葉を廃棄することで紅茶抽出液を得た。
【0031】
〔試験例2〕緑茶抽出液の調製
市販の茶パックに小分けした緑茶葉(静岡産)10gに沸騰した熱水(イオン交換水)を1000g投入し5分間抽出後、茶パックごと緑茶葉を廃棄することで緑茶抽出液を得た。
【0032】
〔試験例3〕各種ポリアミノ酸とEGCGとの結合実験
以下、試験に用いたポリアミノ酸は以下の表1のとおりである。
【0033】
【表1】

【0034】
50mMのリン酸緩衝液(pH6.4)で調製した20mg/mLのポリアミノ酸溶液と、6umol/mLのエピガロカテキン−3−O−ガレート(以下「EGCG」という)溶液と上記リン酸緩衝液を混合し、所定濃度のポリアミノ酸と2umol/mLのEGCGの混合液とした。この混合液を15分間室温で攪拌したあと、限外ろ過膜(ミリポア社製 アミコンウルトラ0.5 (3k))を用いてろ過し、ろ液を得た。
【0035】
このようにして得られたろ液を上述の測定例で示した条件のもと、HPLCにより分析した結果を表2に示す。表中で「EGCG残存率」とは、各種被検物質を添加したEGCG溶液中のEGCGの残存率を示し、下記計算式(I)を用いて算出した。
残存率(%)=b/a×100(%) (I)
〔式中a:被検物質のかわりにリン酸緩衝液を添加したろ液中のEGCG濃度、
b:被検物質を添加したろ液中のEGCG濃度〕
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示したように、塩基性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリリジンや、中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸であるポリグリシン、ポリプロリンはEGCGと結合することが明らかとなった。
一方、酸性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアスパラギン酸はEGCGとまったく結合しないことが明らかとなった。
このことから、塩基性アミノ酸のみ、または中性アミノ酸のみから構成される各種ポリアミノ酸は飲料や食品に含まれる遊離のEGCG濃度を低下させ、EGCGを含む飲料や食品の苦渋味を低減させることが考えられる。
【0038】
〔実施例1〕カテキン類が減少した紅茶の作成
50mMのリン酸緩衝液(pH6.4)で調製した20mg/mLのポリアミノ酸溶液75uLと、試験例1で調製した紅茶抽出液225uLを混合し、15分間室温で攪拌したあと、限外ろ過膜(ミリポア社製 アミコンウルトラ0.5(3k))を用いてろ過し、ろ液を得た。
【0039】
このようにして得られたろ液を上述の測定例で示した条件のもと、HPLCにより分析した結果を表3に示す。
表中でガレート型カテキン類とは、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン−3−O−ガレート、ガロカテキン−3−O−ガレート、カテキン−3−O−ガレートを示す。
また、非ガレート型カテキン類とはエピガロカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、カテキンを示す。
【0040】
「ガレート型カテキン類残存率」とは、各種ポリアミノ酸を添加した紅茶中のガレート型カテキン類の残存率を示し、下記計算式(II)を用いて算出した。
残存率(%)=d/c×100(%) (II)
〔式中c:被検物質のかわりにリン酸緩衝液を添加したろ液中のガレート型カテキン類濃度、d:被検物質を添加したろ液中のガレート型カテキン類濃度〕
また、「非ガレート型カテキン類残存率」とは、各種ポリアミノ酸を添加した紅茶中の非ガレート型カテキン類の残存率を示し、下記計算式(III)を用いて算出し
た。
残存率(%)=f/e×100(%) (II)
〔式中e:被検物質のかわりにリン酸緩衝液を添加したろ液中の非ガレート型カテキン類濃度、f:被検物質を添加したろ液中の非ガレート型カテキン類濃度〕
【0041】
【表3】

【0042】
表3に示したように、塩基性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリリジンや、中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸であるポリグリシン、ポリプロリンを用いることにより、ガレート型カテキンが選択的に除去された紅茶抽出物を得ることができた。
一方、酸性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアスパラギン酸ではこのような紅茶抽出物を得ることができなかった。
このことから、塩基性アミノ酸のみ、または中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸を用いることで、紅茶に含まれるガレート型カテキン類が除去され、苦味や渋味が軽減された紅茶抽出物を得ることができると考えられる。
【0043】
〔実施例2〕カテキン類が減少した緑茶の作成
50mMのリン酸緩衝液(pH6.4)で調製した20mg/mLのポリアミノ酸溶液75uLと、試験例2で調製した緑茶抽出液225uLを混合し、15分間室温で攪拌したあと、限外ろ過膜(ミリポア社製 アミコンウルトラ0.5(3k))を用いてろ過し、ろ液を得た。
【0044】
このようにして得られたろ液を上述の測定例で示した条件のもと、HPLCにより分析した結果を表4に示す。
表中でガレート型カテキン類とは、エピガロカテキン−3−O−ガレート、エピカテキン−3−O−ガレート、ガロカテキン−3−O−ガレート、カテキン−3−O−ガレートを示す。また、非ガレート型カテキン類とはエピガロカテキン、エピカテキン、ガロカテキン、カテキンを示す。
【0045】
「ガレート型カテキン類残存率」とは、各種ポリアミノ酸を添加した緑茶中のガレート型カテキン類の残存率を示し、下記計算式(II)を用いて算出した。
残存率(%)=d/c×100(%) (II)
〔式中c:被検物質のかわりにリン酸緩衝液を添加したろ液中のガレート型カテキン類濃度、d:被検物質を添加したろ液中のガレート型カテキン類濃度〕
また、「非ガレート型カテキン類残存率」とは、各種ポリアミノ酸を添加した緑茶中の非ガレート型カテキン類の残存率を示し、下記計算式(III)を用いて算出し
た。
残存率(%)=f/e×100(%) (III)
〔式中e:被検物質のかわりにリン酸緩衝液を添加したろ液中の非ガレート型カテキン類濃度、f:被検物質を添加したろ液中の非ガレート型カテキン類濃度〕
【0046】
【表4】

【0047】
表4に示したように、塩基性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリリジンや、中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸であるポリグリシン、ポリプロリンを用いることにより、ガレート型カテキンが選択的に除去された緑茶抽出物を得ることができた。一方、酸性アミノ酸のみで構成されるポリアミノ酸であるポリアスパラギン酸ではこのような緑茶抽出物を得ることができなかった。このことから、塩基性アミノ酸のみ、または中性アミノ酸のみから構成されるポリアミノ酸を用いることで、緑茶に含まれるガレート型カテキン類が除去され、苦味や渋味が軽減された緑茶抽出物を得ることができると考えられる。
【0048】
〔実施例3〕苦渋味が軽減された紅茶の作成
試験例1で調製した紅茶抽出液に、所定濃度となるようポリグリシン、ポリプロリンを加え、均一になるよう混合した。次にこの紅茶抽出液4mLを12000rpmで30分間遠心分離を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加の紅茶抽出液の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表5に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表5に示す。
【0049】
〔比較例1〕プロタミンを用いて作成した紅茶
実施例3のポリグリシン、ポリプロリンのかわりに所定濃度のプロタミンを加え、同様の操作を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加の紅茶抽出液の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表5に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
表5に示したように、ポリグリシンやポリプロリンを添加した紅茶抽出液の遠心上清の苦渋味は無添加の遠心上清より低減し、異味も認められず、ポリグリシンやポリプロリンを用いて苦味や渋味が軽減された紅茶が作成できることが明らかとなった。一方、プロタミンを用いた場合は、強い異味のため、苦味や渋味が軽減された紅茶が作成できなかった。
【0052】
〔実施例4〕苦渋味が軽減された緑茶の作成
試験例2で調製した緑茶抽出液に、所定濃度となるようポリヒスチジン、ポリプロリンを加え、均一になるよう混合した。次にこの緑茶抽出液4mLを12000rpmで30分間遠心分離を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加の緑茶抽出液の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表6に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表6に示す。
【0053】
〔比較例2〕プロタミンを用いて作成した緑茶
実施例4のポリヒスチジン、ポリプロリンのかわりに所定濃度のプロタミンを加え、同様の操作を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加の緑茶抽出液の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表6に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表6に示す。
【0054】
【表6】

【0055】
表6に示したように、ポリヒスチジンやポリプロリンを添加した緑茶抽出液の遠心上清の苦渋味は無添加の遠心上清より低減し、異味も認められず、ポリヒスチジンやポリプロリンを用いて苦味や渋味が軽減された緑茶が作成できることが明らかとなった。一方、プロタミンを用いた場合は、強い異味のため、苦味や渋味が軽減された緑茶が作成できなかった。
【0056】
〔実施例5〕苦渋味が軽減されたココアの作成
市販のココアパウダー(ココアパウダー含量22〜24%)4gを熱水100mLに溶解させ、常温になるまで放置した。こうして調製したココア飲料に、所定濃度となるようポリヒスチジン、ポリプロリンを加え、よく攪拌した。次にこのココア飲料4mLを12000rpmで30分間遠心分離を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加のココア飲料の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表7に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表7に示す。
【0057】
〔比較例3〕プロタミンを用いて作成したココア
実施例5のポリヒスチジン、ポリプロリンのかわりに所定濃度のプロタミンを加え、同様の操作を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加のココア飲料の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表7に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
表7に示したように、ポリヒスチジンやポリプロリンを添加したココア飲料の遠心上清の苦渋味は無添加の遠心上清より低減し、異味も認められず、ポリヒスチジンやポリプロリンを用いて苦味や渋味が軽減されたココア飲料が作成できることが明らかとなった。一方、プロタミンを用いた場合は、強い異味のため、苦味や渋味が軽減されたココア飲料が作成できなかった。
【0060】
〔実施例6〕苦渋味が軽減されたコーヒーの作成
市販のインスタントコーヒー2gを熱水100mLに溶解させ、常温になるまで放置した。こうして調製したコーヒー飲料に、所定濃度となるようポリヒスチジンを加え、均一になるよう混合した。次にこのコーヒー飲料4mLを12000rpmで30分間遠心分離を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加のコーヒー飲料の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表8に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表8に示す。
【0061】
〔比較例4〕プロタミンを用いて作成したコーヒー
実施例6のポリヒスチジンのかわりに所定濃度のプロタミンを加え、同様の操作を行った。こうして得られた上清について、3名のパネラーにより官能評価を行い苦渋味を比較した。苦渋味は、無添加のコーヒー飲料の遠心上清を5点として、1(非常に弱い)〜7(非常に強い)の7段階で評価した。評価点の平均値を表7に示す。また、異味の有無についても評価した結果を表8に示す。
【0062】
【表8】

【0063】
表8に示したように、ポリヒスチジンを添加したコーヒー飲料の遠心上清の苦渋味は無添加の遠心上清より低減し、異味も認められず、ポリヒスチジンを用いて苦味や渋味が軽減されたコーヒー飲料が作成できることが明らかとなった。一方、プロタミンを用いた場合は、強い異味のため、苦味や渋味が軽減されたコーヒー飲料が作成できなかった。
【0064】
〔実施例7〕固相担体に結合したポリプロリンを用いた茶飲料の製造方法
磁性マイクロビーズ懸濁液(ポリサイエンス社製「バイオマグプラス アミン」)2.5mLに0,01Mピリジン洗浄液20mLを加え攪拌後、磁力により磁性マイクロビーズを収集し、上清を廃棄した。この操作を4回繰り返した。
その後、5%グルタルアルデヒド溶液10mLを加えて3時間攪拌した。次に磁力により磁性マイクロビーズを収集しながら上清を廃棄し、0.01Mピリジン洗浄液20mLを加え攪拌後、磁力により磁性マイクロビーズを収集し、上清を廃棄した。このピリジン洗浄液を用いた洗浄操作を4回繰り返した。
次に、この磁性マイクロビーズに、65mgのポリプロリンを溶解した10mLの50mMリン酸緩衝液(pH6.4)を加え、20時間攪拌した。
その後、磁力により磁性マイクロビーズを収集し、上清を廃棄した。回収した磁性マイクロビーズに50mMリン酸緩衝液(pH6.4)20mLを加え攪拌後、磁力により磁性マイクロビーズを収集し、上清を廃棄した。この洗浄操作を4回繰り返した。
このようにして、ポリプロリンを固定した磁性マイクロビーズ100mgに試験例1で得た紅茶抽出液100g、または試験例2で得た緑茶抽出液100gと混合し、15分間よく攪拌したあと、8000rpmで10分間の遠心操作を行い、上清として、紅茶抽出液または緑茶抽出液を得た。
【0065】
〔実施例8〕緑茶抽出物含有粉末組成物
試験例2で得られた緑茶抽出物1000重量部に2重量部のポリヒスチジンを加え、均一になるよう混合した後、12000rpmで30分間遠心分離を行った。このようにして得られた遠心上清を凍結乾燥し、緑茶抽出物含有粉末組成物を得た。
【0066】
〔実施例9〕錠剤の製造
実施例8で得られた茶抽出物含有粉末組成物を用いて、常法に従って下記の表9の組成を有する錠剤を調製した。
【0067】
【表9】

【0068】
〔実施例10〕キャンディの製造
常法に従って下記の表10の組成を有するキャンディを調製した。
【0069】
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により、飲食品の本来の風味に影響を与えることなく、苦味や渋味が低減された飲料又は食品を簡便で低コストの製造方法で提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1及び工程2を含むことを特徴とする、苦味又は渋味が軽減された飲料又は食品の製造方法。
工程1:苦味又は渋味成分を含む飲食品に、単量体として塩基性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又は単量体として中性アミノ酸のみがアミド結合によって縮重合したポリアミノ酸又はこれらのポリアミノ酸の混合物を添加して、苦味又は渋味成分とポリアミノ酸とを結合させる工程
工程2:工程1で生じた苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物を飲料又は食品から除去する工程
【請求項2】
工程2における除去が、下記の(a)、(b)、(c)又は(d)の除去方法であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
(a)限外ろ過による除去方法
(b)遠心分離による除去方法
(c)水可溶有機溶媒を加えることによって苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物の沈殿を生じさせて除去する方法
(d)ポリアミノ酸が固形担体に固定されており、飲料又は食品から固定担体を取り出すことによって苦味又は渋味成分とポリアミノ酸との結合物を除去する方法
【請求項3】
飲料又は食品が、ポリフェノール又はアルカロイドを含有する飲料又は食品であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
飲料又は食品が、カテキン類、テアフラビン類、テアルビジン類又はクロロゲン酸を含有する飲料又は食品であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
飲料又は食品が、紅茶、緑茶、烏龍茶、コーヒー、ココアおよびその抽出物を含む飲料又は食品であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
ポリアミノ酸が、単量体として同一種のアミノ酸を重合したものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
塩基性アミノ酸が、アルギニン、ヒスチジン及びリシンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
中性アミノ酸が、アラニン、グリシン、プロリン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、セリン及びスレオニンよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
ポリアミノ酸の分子量が500〜100,000であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。
【請求項10】
ポリアミノ酸の添加量が、飲料又は食品1,000質量部に対して0.001〜50質量部であることを特徴とする、請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−110247(P2012−110247A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259690(P2010−259690)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(591011410)小川香料株式会社 (173)
【Fターム(参考)】