説明

茶葉の製造方法

【課題】従来にない香りや味を有し、かつ加熱処理に伴う好ましくない風味を呈することのない茶飲料を製造することが可能な原料茶葉を提供する。
【解決手段】ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有する溶液アミノ酸含有溶液に茶葉を浸透させる工程、および、この茶葉を100〜200℃の温度で火入れ乾燥する工程を含む方法で茶葉を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶飲料の原料としての茶葉の製造方法に関し、特に容器詰め飲料とした際に風味的に好ましい製品を製造することが可能な茶葉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、缶やペットボトル等の容器に充填された容器詰茶飲料が多く開発、市販されている。このような茶飲料に対する消費者嗜好の多様化に伴い、より高級なもの、より高品質なもの、より機能的なもの、新規な香りや味を有するものなど、茶飲料の開発需要はますます高まっている。そこで、原料茶葉の加工方法や処理方法の検討がいろいろとなされている。
【0003】
例えば、緑茶葉の場合、揉まれた茶葉に、荒茶製造工程で揉まれた茶葉に対し、別途茶葉から抽出したエキスを撒布して、その茶葉を乾燥させる方法(特許文献1)、生葉を蒸熱、釜入りまたは萎凋し、その後茶葉を加熱、および揉圧処理し含水率を低下させる荒茶製造工程において、加熱、および揉圧処理が完了する以前に該茶葉の一部を取り出し搾汁し、該搾汁液を加熱および、揉圧処理が完了する以前の茶葉に散布する工程を具備したことを特徴とする茶の製造方法(特許文献2)、乾燥茶に対して、茶から得られた香気成分を付与する方法(特許文献3)などが提案されている。
【0004】
また、アミノ酸やタンパク質を加熱した場合、カルボニル化合物、アミン類、および硫化水素を主体とする含硫化合物などが香気成分として生成し得ることや、アミノ酸、タンパク質とともに炭水化物が共存すると、炭水化物が一種の酸化剤として働き、加熱の際に好ましい香りが生成されやすく、糖とアミノ酸から非常に香ばしい香りのピラジン類が生成され得ることが知られている。この原理を用い、各種アミノ酸を添加して加熱する加工方法が報告されている。例えば、アミノ酸単体および混合物、若しくはアミノ酸系天然調味料の、懸濁液あるいは水溶液に脱穀そば種子の全粒を浸漬させることにより該懸濁または水溶液を浸透せしめ、蒸煮によりアルファ化した後、種子全粒を乾燥させ、これを焙煎、粉砕することを特徴とする焙煎後の香ばしさが増強されたそば茶の製造方法(特許文献4)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−204527号公報
【特許文献2】特開2007−082526号公報
【特許文献3】特開昭63−137646号公報
【特許文献4】特開2005−6569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた香味を有する茶飲料、特に容器詰め緑茶飲料の製造に有利な原料茶葉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来にない香りや味を有し、かつ容器詰め茶飲料とした際の加熱劣化臭を抑制しうる茶飲料を提供すべく鋭意検討した結果、特定のアミノ酸を含有する溶液を茶葉に含浸させて、特定の条件下で火入れ乾燥を行うと、簡便かつ有効に茶葉の香味を増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1) ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有する溶液アミノ酸水溶液に原料茶葉を含浸させる工程、および、含浸処理した茶葉を100〜200℃の温度で火入れ乾燥する工程、を含む、茶葉の製造方法。
(2) 原料茶葉1kgあたり45mg以上の前記アミノ酸を添加する、(1)に記載の製造方法。
(3) アミノ酸を含有する溶液が、緑茶葉の抽出液である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4) 茶葉の抽出液が酵素処理を施したものである、(3)に記載の製造方法。
(5) ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有する溶液アミノ酸水溶液に原料茶葉を含浸させる工程、含浸処理した茶葉を100〜200℃の温度で火入れ乾燥する工程、火入れ乾燥した茶葉を水で抽出して水抽出液を得る工程、を含む、茶飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の茶葉を用いると、優れた香味を有する茶飲料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例2で分析した茶抽出液のアミノ酸組成を示す図である。
【図2】火入れ温度を110〜170℃まで変化させた以外は実施例5と同様の方法によって、酵素処理緑茶濃縮液をアミノ酸含有溶液として用いて調製した緑茶飲料における2−メチルブタナール含量を示す図である。
【図3】一般的な焙じ茶の製造における、火入れ温度と各種成分(2−メチルブタナール、2,5−ジメチルピラジン)の含量との関係を示す図である。なお、図2、図3におけるピーク面積とは、被験物質を分析した際の被験物質のピークに係る曲線下面積である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記したように、本発明においては、原料茶葉に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を含浸させた後、100〜200℃の温度で火入れ乾燥を行う。1つの観点からは本発明は茶葉の製造方法であり、また別の観点から本発明は、このようにして得られた茶葉を用いる茶飲料の製造方法である。
【0012】
(アミノ酸含浸工程)
本発明でいう茶葉とは、水または温水で抽出して飲用できる茶飲料の原料となる茶葉をいい、本発明においては、後述のアミノ酸含浸工程に供す茶葉を原料茶葉という。具体的には、煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露、かぶせ茶、甜茶等の蒸し製の不発酵茶(緑茶);嬉野茶、青柳茶、各種中国茶等の釜炒茶等の不発酵茶;包種茶、鉄観音茶、ウーロン茶等の半発酵茶;紅茶、阿波番茶、プアール茶などの発酵茶等の茶類をいう。中でも、不発酵茶(緑茶)は、本発明の2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールによる香味改善効果を顕著に発現することから、本発明の好ましい態様の一つである。本発明で用いられる茶葉は、抽出して飲用可能な部位であれば何ら制限されず、葉、茎など適宜使用することができる。また、その形態も大葉、粉状など制限されない。茶葉の収穫期についても、所望する香味に合わせて適宜選択できるが、好ましくは、3〜4茶である。
【0013】
本発明では、茶葉に、ロイシン(Leu)、バリン(Val)及びイソロイシン(Ile)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含む水溶液を含浸させることを特徴とする(本明細書中、「アミノ酸含浸工程」と表記することもある)。この特定のアミノ酸と後述する火入れ乾燥工程との組合せにより、好ましいしょうゆ様の香気を増強することができる。そして、本発明の茶葉を用いて茶飲料を製造すると、焦げ臭や雑味を伴わずに好ましい香ばしい香りのみが増強された優れた茶飲料となる。
【0014】
本発明者らの検討によると、この好ましいしょうゆ様の香気は、ロイシン(Leu)、バリン(Val)及びイソロイシン(Ile)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含む水溶液を含浸させた場合に発現する。特に、ロイシンは、香ばしい香りだけでなく、厚み(ボディ感、コク感ともいう)のある香りも増強するので、茶飲料の香味改善効果がより顕著である。したがって、本発明の好適な態様の一つは、アミノ酸水溶液がロイシンを含み、さらにバリン及び/又はイソロイシンを含むものである。より好ましくは、アミノ酸水溶液が、ロイシン、バリン及びイソロイシンを含むものである。ロイシン(Leu)、バリン(Val)、イソロイシン(Ile)の3種を含む場合、その比率は、Leu:Val:Ile=1:0.1〜10:0.1〜10程度、好ましくは1:0.1〜1.0:0.1〜1.0程度である。
【0015】
本発明によって、茶葉の香気が増強される理由の詳細は明らかでなく、本発明は以下の推測に拘束されるものでないが、好ましいしょうゆ様の香気成分である2−メチルブタナール(2-methylbutanal)及び/又は3−メチルブタナール(3-methylbutanal)が本発明によって増強するためであると推測される。
【0016】
ロイシン、バリン及び/又はイソロイシンを用いて発現する香ばしい香気(しょうゆ様の香気)は、フェニルアラニン(Phe)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、プロリン(Pro)、及びテアニン(Theanine)からなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を併用するとより厚みが増し、より香味改善効果を発揮する。特に、フェニルアラニンは香気の厚み付与効果が大きく、顕著な香味改善効果をもたらす。この香気の厚み付与効果は、茶飲料のコクを増すという効果だけでなく、容器詰め飲料を製造する際の加熱処理を行っても香気を維持する効果、加熱処理に伴う加熱臭をマスキングする効果も有する。ロイシン、バリン及びイソロイシンを用いずに、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を添加した場合には、香気の維持、加熱臭のマスキングなどの香味改善作用は得られないことから、この効果は、特定のアミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン:以下、アミノ酸Aともいう)と特定のアミノ酸(フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、及びテアニン:以下、アミノ酸Bともいう)とが協働的に機能して得られるものと考えられる。したがって、本発明の茶葉が、容器詰め茶飲料用の茶葉である場合には、アミノ酸含浸工程において、ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上(好ましくはロイシン、バリン及びイソロイシンの3種を含む)のアミノ酸と、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸とを含む水溶液を含浸させることが望ましい。
【0017】
アミノ酸水溶液を含浸させる方法は、アミノ酸が原料茶葉に浸透又は付着できる方法であれば特に手段は制限されない。例えば、アミノ酸水溶液を原料茶葉に噴霧、散布又は塗布する方法、アミノ酸水溶液に茶葉を浸漬させる方法などが挙げられる。アミノ酸が茶葉に均一に含浸できる観点からは、アミノ酸水溶液を茶葉に噴霧して攪拌する方法が好ましい。
【0018】
本発明でいうアミノ酸水溶液は、アミノ酸が含まれている液体であれば、アミノ酸の懸濁液であってもよいが、アミノ酸を原料茶葉に均一に含浸することの容易さからは、アミノ酸を溶解したアミノ酸水溶液の形態で用いることが好ましい。アミノ酸水溶液中のアミノ酸濃度は、アミノ酸の溶解度に応じて適宜調整すればよいが、通常、アミノ酸(A)すなわちロイシン、バリン及びイソロイシンの総量がアミノ酸水溶液中0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%となるように調製する。また、2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナール由来の香ばしい香りに厚みを付与する効果を有するアミノ酸(B)、すなわちフェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を併用する場合、アミノ酸(B)の総量がアミノ酸水溶液中に含まれるアミノ酸の総量(具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、グリシン、ヒスチジン、アルギニン、トレオニン、アラニン、プロリン、テアニン、チロシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニンの17種類のアミノ酸の総量)に対して、10〜80重量%、好ましくは15〜25重量%となるように調製することが好ましい。
【0019】
この際、原料茶葉1kgに対してアミノ酸(A)を好ましくは45mg以上、より好ましくは100mg以上、さらに好ましくは150mg以上、特に好ましくは200mg以上含浸させる。45mg以上の場合、本発明の目的とする独特の香気(しょう油様の香気)を十分に発現させることができ、香味改善効果が得られる。したがって、本発明では、アミノ酸(A)、すなわちロイシン、バリン及びイソロイシンの総量が、原料茶葉100重量部に対して0.005〜0.25重量%程度であることが好ましく、0.05〜0.1重量%程度であることがより好ましい。アミノ酸(A)の上限は特にないが、通常、原料茶葉1kgに対して5000mg以下、好ましくは3000mg以下、より好ましくは2000mg以下、特に好ましくは100mg以下程度である。
【0020】
本発明で用いるアミノ酸は、精製されたアミノ酸を用いてもよいし、アミノ酸を含有する植物抽出物をそのまま又は精製(粗精製を含む)して用いてもよい。ここで、植物抽出物として、緑茶抽出物が好適に例示される。通常、緑茶抽出物には、テアニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン等のアミノ酸が多く含まれるが、本発明の有効成分であるアミノ酸(A)バリン、ロイシン、イソロイシンや、これらアミノ酸(A)と相加的又は相乗的に作用してさらに香味を改善するアミノ酸(B)フェニルアラニン、グリシン、プロリンの含有量は少ないことが知られている。したがって、緑茶抽出物を用いる場合は、物理的又は化学的処理を施して、アミノ酸(A)やアミノ酸(B)の濃度を高める処理を行うのが好ましい。ここで物理的又は化学的処理としては、酵素処理、酸処理、高温高圧処理、微細化処理、超音波処理等が挙げられる。中でもアミノ酸の反応を選択的に制御できる観点から、酵素処理が好ましい。
【0021】
緑茶抽出物の酵素処理としては、酵素が緑茶葉及び/又は茶抽出液中のタンパク質や繊維質に作用することにより、抽出液中のアミノ酸濃度を高めることができる方法であれば、いずれの方法でもよい。例えば、酵素抽出(酵素を添加混合した緑茶葉を水(熱水)で抽出する方法又は酵素を添加した水(熱水)で緑茶葉の抽出を行う方法)、或いは緑茶葉より水(熱水)で抽出した緑茶抽出液に酵素を添加混合して処理する方法が挙げられる。酵素としてはプロテアーゼ、α−アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロトペクチナーゼ及びグルタミナーゼ等を1種又は複数種類併用して用いることができる。酵素処理の条件は、用いる酵素の至適条件を鑑みて適宜選択すればよい。
【0022】
アミノ酸水溶液として緑茶抽出物を用いる場合、カテキン類が多い緑茶抽出液を用いると、本発明の焙焼工程で苦味や渋味を発生したり、茶飲料製造における加熱殺菌時に異味を発生したりする場合がある。したがって、本発明に用いる緑茶抽出液としては、カテキン類の除去工程を施したものが好ましい。ここで、本明細書におけるカテキン類とは、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピガロカテキンガレートの総称を表す。具体的には、緑茶抽出液中、茶葉由来固形分に対してカテキン類の総量の割合が15.0重量%以下、好ましくは13.5重量%以下、より好ましくは10.0重量%以下、特に好ましくは8.0重量%以下となるように除去する。なお、茶抽出液のBrix(可溶性固形成分量)は、通常、0.2〜20%程度、好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜20%である。カテキン類の除去方法は特に制限されないが、例えば、緑茶抽出液から樹脂(吸着)によりカテキン類を除去する方法、緑茶葉に水性溶媒を接触させて緑茶葉抽出液を得てからこの抽出液を除去(廃棄)する方法等が挙げられる。特に、カテキン類は高温で抽出されやすいという性質を有することから、緑茶葉に高温の水を接触させてカテキン類を多く含む高温抽出液を得、この高温抽出液を除去(廃棄)する方法が好適である。
【0023】
抽出に供して飲用される茶飲料用の茶葉は、通常、1)荒茶製造工程と2)製茶工程を経て製造される。1)荒茶の製造工程では、(i)生茶の摘採、(ii)送風・加熱、(iii)蒸熱、(iv)冷却、(v)葉打ち、(vi)粗揉、(vii)揉稔、(viii)中揉、(ix)精揉、(x)乾燥といった工程を経て荒茶が得られる。ここで、(ii)送風・加熱工程では、生茶の品質劣化防止、鮮度維持のために、湿度の高い空気を送って、水分の保持と呼吸熱の低下を図り、(iii)蒸熱工程では、茶葉を蒸すことによって茶葉を酸化させる酸化酵素の働きを止め、茶葉の色を緑色に保たせながら青臭みが取り除かれる。(iv)冷却工程は、高温になった茶葉に風を送り込んで室温程度までムラのないように急速冷却することで、茶葉の色沢と香味の保持を図る工程であり、(v)葉打ち工程は、茶葉の色沢・香味の向上と次の粗揉工程の時間を短縮するために、乾燥した熱風を送り込んで茶葉を打ち、茶葉についた蒸し露を取り除いて乾燥効果を高める工程である。(vi)粗揉工程では、茶葉を揉むことによって柔らかくし、内部の水分を低下させるため乾燥した熱風を送り込みながら、打圧を加え、適度に摩擦・圧迫をしながら茶葉を揉み、(vii)揉稔工程では、茶葉をひとかたまりにして、加熱せずに強い圧力をかけて揉む(これによりお茶の葉の組織を破壊してお茶の旨みなどの成分を出やすくすると同時に、水分の均一化を図る)。さらに、(viii)中揉工程では、揉捻の工程でかたまりになった茶葉を乾燥した熱風を送りながら揉みほぐして次の工程で整形しやすいようにヨリを入れて乾燥させ、(ix)精揉工程では、茶葉を乾燥させて水分を取り除きながら、人の手で揉むように一定方向にだけ揉み、緑茶独自の細く伸びた形に茶葉が整えられ、最後に、(x)乾燥工程で、精揉工程を得た茶葉の水分含有量(約10〜13%)を熱風乾燥により5%程度にまで下げる。また、2)製茶工程としては、先火方式(火入れ乾燥をしてから分別・整形を行う方式)又は後火方式(分別・整形をしてから火入れ乾燥を行う方式)があり、製茶工程を経て「仕上げ茶」が得られる。
【0024】
本発明のアミノ酸含浸工程に供される茶葉(原料茶葉)は、荒茶であってもよいし、仕上げ茶であってもよい。また、荒茶製造工程の任意のタイミングの茶葉であってもよい。アミノ酸水溶液が原料茶葉に含浸しやすさ、品質の制御しやすさという観点からは、工程(x)を経た荒茶を原料茶葉として用い、アミノ酸含浸工程及び火入れ乾燥工程を行うのがよい。
【0025】
(火入れ乾燥工程)
本発明においては、上述の特定のアミノ酸水溶液を含浸させた茶葉に対して100〜200℃の温度で火入れ乾燥処理を行う。火入れ乾燥では、水分が少し残っている状態で、乾燥時よりも強い熱が与えられ、これにより、独特の香ばしい香気(しょうゆ様の香気)が増強される。火入れ乾燥の程度が強いと、単純火香、すなわち焦げ臭に近い香りが強くなり、2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールなどの好ましい香ばしい香気が知覚されにくくなる。したがって、2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールが火香である2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン(2,5(6)-dimethylpyrazine)に対して好ましくは0.5〜50倍量、より好ましくは1〜30倍量含有されるように焙焼することが望ましい。
【0026】
本発明者らの検討によると、火入れ乾燥の温度を高くしても、ある温度帯以上では生成される2−(あるいは3−)メチルブタナール量には差がなくなる傾向がある(図2参照)。その一方で、火入れ乾燥の温度を高くすると、火香である2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジンが急激に増加するとされる。したがって、2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナール含量と2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン含量の割合が上記の好ましい範囲内となるようにする方法として、アミノ酸含浸茶葉の品温が、100〜200℃、好ましくは110〜170℃、より好ましくは130〜160℃、特に好ましくは130〜150℃に到達するように火入れする方法を例示できる。アミノ酸含浸茶葉品温が上記温度に到達するまでの時間、すなわち火入れ乾燥時間は装置により異なるが、当業者であれば適宜設定することができる。例えばドラム式乾燥装置を用いた場合には、火入れ温度(茶葉の到達温度)よりも高い温度に加温されたドラム内にアミノ酸含浸茶葉を投入してから3〜60分、好ましくは5〜45分、より好ましくは10〜30分程度である。なお、火入れ乾燥された茶葉中の2−メチルブタナール、3−メチルブタナール含量及び2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン含量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0027】
火入れ乾燥工程で使用できる装置は、特に制限されず用いることができる。例えば、直火方式、遠赤外線方式等いずれの方式の火入れ乾燥装置でもよく、その形状もドラム式、プレート式等問わない。火入れ乾燥工程で得られる茶葉の水分含量は、通常、5%以下、好ましくは1%以下程度である。
【0028】
本発明の原料茶葉として荒茶(もしくは荒茶製造工程の任意のタイミングの茶葉)を用いた場合、製茶工程における火入れ乾燥を、本発明の火入れ乾燥工程として取り扱うことができ、作業性の観点から有用な方法である。この場合、火入れ乾燥のタイミングは、先火方式であっても後火方式であってもよい。品質制御、作業性の観点から、本発明の特に好ましい態様は、荒茶製造工程で揉まれた茶葉に対してアミノ酸水溶液を含浸させるアミノ酸含浸工程を行い、次いで製茶工程における火入れ乾燥で本発明の火入れ乾燥工程を行う茶葉の製造方法である。
【0029】
火入れ乾燥処理を行う茶葉として、焙じ茶葉が知られている。本発明者らの検討によると、一般的な焙じ茶の製造において、2,5−ジメチルピラジンの含有量は、焙煎が強くなるほど指数関数的に増加する一方、2−メチルブタナールの含有量は比例的に増加する(図3(1)参照)。すなわち、2,5−ジメチルピラジン量の対数と2−メチルブタナール量には、高い相関性が認められている(図3(2)参照)。しかし、本発明の製造法、すなわち原料茶葉に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を含浸させた後、100〜200℃の温度で火入れ乾燥して得られる茶葉では、2−メチルブタナールと2,5−ジメチルピラジンを従来と異なる比率で含有し、2−メチルブタナールが2,5−ジメチルピラジンに対して特異的に高い割合で含有する新規な茶葉を製造することができる。
【0030】
(茶飲料の製造)
容器詰茶飲料は、一般に茶葉を水性溶媒で抽出して茶抽出液を得、この茶抽出液を飲用濃度になるよう濃度調整を行った後、缶、ペット(PET)ボトルなどの密封容器に封入して製造されている。本発明の茶飲料の製造においても、上記の工程、すなわちアミノ酸含浸工程及び火入れ乾燥工程を経て製造された茶葉(以下、「本発明の茶葉」という)を原料とし、抽出工程に供すことにより茶抽出液を得て、この茶抽出液を用いて茶飲料を製造することができる。
【0031】
茶抽出液の原料となる茶葉は、本発明の茶葉を原料茶葉の全量として用いてもよいし、他の茶葉に本発明の茶葉を混合して原料茶葉の一部として用いてもよい。原料茶葉から水性溶媒で抽出する抽出工程では、水道水若しくは脱イオン水等任意の水で、好ましくは40〜95℃、より好ましくは70〜95℃の抽出水温度において抽出する。好ましい抽出比(重量比)は、原料茶葉1重量部に対して抽出水10〜100部、好ましくは25〜50部程度である。抽出時には、攪拌してもよいし、攪拌しなくてもよい。
【0032】
好ましい態様において、抽出された茶抽出液は、直ぐに段階的に金網などをしようしてろ過をして茶殻などの残渣を除去して、10〜40℃まで、例えばプレート式交換機などを用いて冷却する。さらに、連続式遠心分離機若しくはネルろ過等を用いて不溶成分を取り除くことが好ましく、遠心分離の条件は、通常4000〜9000Gである。遠心分離機はどのような型式のものでもよい。また、ネルろ過を行ってもよく、例えばネル布等を用いることにより行うことができる。
【0033】
その後、必要に応じて、得られたろ液にL−アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウム等の酸化防止剤やpH調整剤を添加して、好ましくはpHを5.0〜7.0に調整してもよい。pH調整された抽出液を、最終調合液の可溶性固形分(Brix)が所望の値(例えば0.1〜0.5、好ましくは0.2〜0.4)になるように希釈して、固形分濃度を調整してもよい。
【0034】
好ましい態様において、保存性を高めるためこのようにして得られた調合液に対して殺菌処理を行う。殺菌処理は、調合液を密封容器に充填してから行ってもよいし、殺菌後に容器に充填してもよい。容器は特に限定されず、紙パック、瓶、缶、ペットボトル等が用いられる。殺菌は、容器の種類や保存条件に合わせて、UHT殺菌、レトルト殺菌、プレート殺菌等、適宜選択すればよい。具体的には、缶や瓶の容器のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合には食品衛生法に定められた殺菌条件でレトルト殺菌が採用され、ペットボトル、紙パックのようにレトルト殺菌できないものについては、予め上記と同様の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器で高温短時間殺菌後、一定の温度まで冷却して、ホットパック充填又は無菌下での充填などの方法により容器に充填する等の方法が採用される。
【0035】
なお、本発明の茶飲料の製造法では、本発明の茶葉から得られる茶抽出液を茶飲料用添加剤、すなわち香気増強剤やコク味増強剤として添加する態様も包含している。本発明の茶葉から上記の抽出工程を経て茶抽出液を得、これを茶飲料の調合液(他の茶葉から得られた茶抽出液を主成分として調製した調合液)に配合する態様である。
【0036】
このようにして製造される容器詰め茶飲料は、本発明の茶葉に起因する2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールに起因すると考えられる香ばしい香気を有し、加熱臭が抑制された、優れた香味を有するものとなる。また、Brixが低い茶飲料(具体的には、Brix0.2%以下の茶飲料)を製造した場合には、従来品(Brixが高いもの)と同等以上の強さの香気を有し、従来品よりも加熱劣化臭が抑制されているという香気の利点のほか、長期保存に伴う濁りや沈殿が抑制されるという利点も有している。さらに、カフェインの刺激や苦味が少なく日常的に摂取しやすい低カフェインの茶飲料(具体的には、飲料全体に対するカフェイン含有重量が80〜200ppm、好ましくは80〜160ppm、より好ましくは80〜130ppm程度)を製造した場合には、従来品(カフェイン含有重量が高いもの)と同等以上のコクや飲み応えを有し、従来品よりも苦味が抑制されているという香味の利点を得ることができる。
【0037】
このようにして製造される容器詰め茶飲料において、成分(A)2−メチルブタナール及び/又は3−メチルブタナールと、成分(B)2,5−ジメチルピラジンとを含有し、飲料全体における前記成分(A)の含有重量(総量)が23〜100ppb(好ましくは25〜100ppb、より好ましくは27〜100ppb)、前記成分(B)の含有重量が5〜50ppb(好ましくは5〜40ppb、より好ましくは5〜30ppb)となるように調製すると、風味的に好ましい新規な容器詰め飲料を製造することができる。
【0038】
このような本発明は、1つの観点からは、茶葉または茶飲料の香味改善方法と把握することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において特記しない限り、濃度等は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0040】
実施例1.緑茶飲料の製造−アミノ酸の添加
各種アミノ酸の1%水溶液を調整した。ここで、アミノ酸としては、(i)アスパラギン酸(Asp)、(ii)グルタミン酸(Glu)、(iii)セリン(Ser)、(iv)グリシン(Gly)、(v)ヒスチジン(His)、(vi)アルギニン(Arg)、(vii)トレオニン(Thr)、(viii)アラニン(Ala)、(ix)プロリン(Pro)、(x)テアニン(Theanin)、(xi)チロシン(Tyr)、(xii)バリン(Val)、(xiii)メチオニン(Met)、(xiv)イソロイシン(Ile)、(xv)ロイシン(Leu)、(xvi)リシン(Lys)、(xvii)フェニルアラニン(Phe)の17種類を用いた(すべてナカライテスク社製、L体)。
【0041】
調製したアミノ酸水溶液を未火入れの緑茶葉(荒茶;3番茶、やぶきた)(原料茶葉)に対し、原料茶葉:アミノ酸水溶液の重量比が1:0.2となるように噴霧して含浸させた後、火入れ機を用いて火入れ乾燥を行った。火入れ乾燥の条件は以下の通りである。ここで、火入れ時間とはアミノ酸含浸茶葉を火入れ機に投入してから取出しまでの時間を指し、火入れ温度とは茶葉の最終到達温度を指す。
・火入れ機 : 寺田製作所、TR-10
・ドラム温度 : 200℃
・ドラム回転数: 12rpm
・火入れ時間 : 15〜20分
・火入れ温度 : 150℃
また、対照(コントロール)として、アミノ酸水溶液を水に変える他は同様にして飲料用茶葉を得た。
【0042】
アミノ酸を噴霧して火入れ乾燥した17種類の茶葉と対照の茶葉を2gずつ計量し、200gの熱湯で5分間抽出し、抽出液(Brix:0.25%)を得た。
【0043】
得られた緑茶抽出液について官能評価を行った結果を表1に示す。緑茶抽出液は4段階で評価し、評価基準は、×(コントロールと同程度)、△(良好な香りが若干増強される)、○(良好な香りが増強される)、◎(良好な香りが顕著に増強される)とした。表1から明らかなように、アルキル鎖を持つ分子量100以上の中性アミノ酸であるVal、Ile、Leuが、焦げ臭や雑味を伴わずに、好ましいと知覚される独特のしょうゆ様の香気を発現し、香ばしい香りを増強できることがわかった。特に、Leuは香ばしい香りとともにコク味が増強され、厚みを有する調和がとれた優れた香味を有する緑茶抽出液となった。また、Phe、Glu、Gly、Pro、及びTheanineを添加した際には、全体的に香りの厚みが増し、特にPheは香気の厚み付与効果が大きい事が判明した。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例2.緑茶飲料の製造−茶抽出物の含浸
(1)茶抽出物の製造
以下の方法で、アミノ酸を高濃度に含有する抽出物を製造した。まず、攪拌機付き密閉容器に10gの緑茶葉(火入れ度:中)を封入し、40℃のイオン交換水を180mL加え、緑茶葉を浸漬させた。そこにプロテアーゼ製剤(三菱化学フーズ社「コクラーゼ・P」)を0.2g添加し、40℃に保持したまま16時間攪拌を行い、酵素処理を行った。その後、得られた酵素処理液を90℃で10分加熱して酵素を失活させ、酵素抽出液を得た(試料A:酵素あり)。また、酵素を添加しないこと以外は同様にして緑茶抽出液(茶抽出物)を得た(試料B:酵素なし)。
【0046】
試料Aおよび試料Bのアミノ酸組成をHPLCで分析した。具体的測定条件は以下のとおりであり、標準物質として、アミノ酸17種(アルパラギン酸、グルタミン酸、セリン、グリシン、ヒスチジン、アルギニン、トレオニン、アラニン、プロリン、テアニン、チロシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニン)を用いた。
【0047】
【表2】

【0048】
表3に茶抽出物のアミノ酸分析結果を示す。また、図1に、表3におけるVal、Ile、Leuのアミノ酸分析結果を示す。図1より明らかなように、酵素処理した茶抽出物(試料A)は、酵素処理しなかった茶抽出物(試料B)と比較して、Val、Ile、Leuの割合が高められている。実施例1で好ましくない香味を発現するアミノ酸Metとの比〔(Val+Ile+Leu)/(Met)〕を算出すると、酵素処理を行わないと0.16、酵素処理を行うと1.47となった。
【0049】
【表3】

【0050】
(2)茶抽出物を含浸させた茶葉の製造
茶葉に浸透させるアミノ酸含有溶液として、それぞれ以下の通り調整した。
・1%アミノ酸水溶液 : ナカライテスク(株)のアミノ酸を使用し、(1)の酵素処理緑茶抽出液(試料A)と同様のアミノ酸組成になるよう調製した。すなわち、17種のアミノ酸の総量は1重量%であり、そのうちアミノ酸A(Val、Leu、Ile)の総量は0.2重量%であった。また、カテキン類の濃度は0重量%であった。
・緑茶抽出液 : 市販の緑茶葉(やぶきた、1番茶)を茶葉比率20倍の熱湯にて、5分間抽出して調製した。17種のアミノ酸の総量は0.2重量%であり、そのうちアミノ酸A(Val、Leu、Ile)の総量は0.0008重量%であった。また、カテキン類の濃度を測定したところ0.35重量%であった。
・緑茶濃縮液(アミノ酸1%) : 上記の緑茶抽出液を、17種のアミノ酸の総濃度が1%になるよう、減圧濃縮して調製した。この緑茶濃縮液中のアミノ酸A(Val、Leu、Ile)の総量は0.004重量%であり、カテキン類の濃度は1.75重量%であった。
・酵素処理緑茶濃縮液 : 実施例2(1)で調製した茶抽出物(試料A)を、17種のアミノ酸濃度が1%になるよう、減圧濃縮して調整した。この酵素処理緑茶濃縮液中のアミノ酸A(Val、Leu、Ile)の総量は0.2重量%であり、カテキン類の濃度は1重量%であった。
【0051】
これらのアミノ酸含有溶液を未火入れの緑茶葉(荒茶;3番茶、やぶきた)(原料茶葉)に対し、重量比で原料茶葉:アミノ酸含有溶液が1:0.2となるように噴霧、攪拌して含浸させた後、火入れ乾燥を行った。このとき、原料茶葉に添加されたアミノ酸の総量は2000mg/kgであり、酵素処理緑茶濃縮液を用いた場合のバリン、イソロイシン、ロイシンの総量(Val+Ile+Leu)は460mg/kgであった。火入れ乾燥の条件は以下の通り。
・火入れ機 : 寺田製作所、TR-10
・ドラム温度 : 200℃
・ドラム回転数: 12rpm
・火入れ時間 : 15〜20分
・火入れ温度 : 150℃
【0052】
(3)緑茶飲料の製造
(2)で得られたアミノ酸含有溶液を含浸させた茶葉(4種類)をそれぞれ2gずつ計量し、200gの熱湯で5分間抽出し、緑茶飲料を得た。官能評価の結果を表4に示す。通常の緑茶抽出液と比べてVal、IleおよびLeuの添加量が多い場合に、好ましい独特のしょうゆ様の香気が感じられ、特に酵素処理緑茶抽出液を添加した際には、効果が著しいことが判明した。また、総アミノ酸濃度を合わせるべく、緑茶抽出液を濃縮しただけであると、Val、IleおよびLeuの添加量が少なく、香気には大きな変化がなかっただけでなく、アミノ酸と同時に大量のカテキンも添加され、渋みが強くなる傾向があった。
【0053】
【表4】

【0054】
実施例3.容器詰め緑茶飲料の製造
実施例2(2)で得られた酵素処理緑茶濃縮液を含浸して火入れ乾燥処理した茶葉を用い、容器詰め緑茶飲料を製造した。すなわち、茶葉7gを計量して200gの熱湯で5分間抽出し、茶殻を除いた後、30℃以下まで冷却して遠心分離により清澄化処理を行った後、得られたろ液に酸化防止剤としてL−アスコルビン酸を、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.1に調整した。その後、pH調整された抽出液を、1Lまでメスアップし、最終調合液の可溶性固形分(Brix)が0.25%となるようにした。得られた調合液を缶に充填し、130℃で1分間、レトルト殺菌を行い、5℃の冷蔵庫にて冷却して容器詰め緑茶飲料を得た。また、対照として茶抽出物を噴霧しないこと以外は同様にして製造した茶葉を用い、同様にして容器詰め緑茶飲料を製造した。
【0055】
飲用して比較すると、本発明品の容器詰め緑茶飲料は、殺菌後にも、香ばしい香りと甘味やコク味が増強され、加熱臭のない、優れた香味を有する緑茶飲料であった。また、冷蔵保管した後も良好な香気が維持され、加熱劣化臭等の好ましくない香気が感じられないものであった。
【0056】
実施例4.成分分析
実施例3で得られた容器詰め緑茶飲料について、各種成分分析を行った。また、比較として、市販の煎茶葉又は焙じ茶葉を用いる他は実施例3と同様の方法で製造した容器詰め緑茶飲料(比較例1,2)、市販の容器詰め飲料(緑茶飲料A、緑茶飲料B、焙じ茶飲料C)についても同様の成分分析を行った。カフェイン及びカフェインの分析にはHPLCを用い、各種香気成分(2−メチルブタナール(2MB)、3−メチルブタナール(3MB)、並びに2,5-ジメチルピラジン(DM))の分析にはGC/MSを使用した。それぞれの分析方法を以下に記す。
【0057】
(HPLC)
分析装置:東ソー株式会社、TOSOH HPLCシステム LC8020 model II[マルチステーション:LC−8020、ポンプ:CCMC−II、オートサンプラ:AS−8021、検出器:UV−8020、カラムオーブン:CO−8020、オンラインデガッサ:SD−8023]
分析条件:[カラム:TSKgel ODS−80Ts QA、溶離液A:10%アセトニトリル/水 0.05%TFA、溶離液B:80%アセトニトリル/水 0.05%TFA、流速:1.0ml/min、温度40℃、検出:UV275nm]
【0058】
(GC/MS)
試料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製セプタム付き金属蓋(ゲステル社製)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行った。定量は、GC/MSのSIMモードにて検出されたピーク面積を、添加した内部標準であるn−ブタナールの検出値を用いて補正し、標準添加法にて行った。
それぞれ使用した試薬の入手先は以下の通り。
・2−メチルブタナール:和光純薬工業
・3−メチルブタナール:シグマアルドリッチ
・2,5−ジメチルピラジン:東京化成工業
・n−ブタナール:関東化学
分析装置:
SPMEファイバー:StableFlex/SS,85μm,Carboxen/PDMS(スペルコ社製)、全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSampler MPS2(ゲステル社製)
分析条件:予備加温:70℃5分間、攪拌:なし、揮発性成分抽出:70℃50分間、揮発性成分の脱着時間:10分間、脱着後平衡化:300℃20分間、GCオーブン :Agilent6890N(アジレントテクノロジーズ社製)、カラム:HP−5MS,30m×0.25mm i.d.,1μm(アジレントテクノロジーズ社製)、GC温度条件 :40℃(5分間)→10℃/分→100℃→5℃/分→160℃→20℃/分→280℃(6分間)、キャリアーガス:ヘリウム,1.6ml/分,流量一定モード、インジェクション:スプリットレス法、インレット温度:250℃、質量分析装置:Agilent5973inert(アジレントテクノロジーズ社製)、測定方式:スキャン&SIM同時測定、スキャン範囲:m/z35〜300、SIMパラメータ:m/z57(2−メチルブタナール検出用),58(n−ブタナールおよび3−メチルブタナール検出用),108(2,5−ジメチルピラジン検出用),109(2−アセチルピロール検出用)、解析ソフト:ChemStation(アジレントテクノロジーズ社製)。
【0059】
表5に結果を示す。本発明の製造法、すなわち原料茶葉に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を含浸させた後、100〜200℃の温度で火入れ乾燥して得られる茶葉の抽出液を用いて製造された容器詰め茶飲料は、従来の茶葉の抽出液を用いて製造された容器詰め茶飲料と比較して、2−メチルブタナール及び3メチルブタナールが2,5−ジメチルピラジンに対して特異的に高い割合で含有する茶飲料であることが確認できた。
【0060】
【表5】

実施例5.緑茶飲料の製造
アミノ酸含有溶液として、実施例2(2)の酵素処理緑茶濃縮液を用いた。アミノ酸含有溶液を未火入れの緑茶葉(荒茶;3番茶、やぶきた)(原料茶葉)に対し、重量比で原料茶葉:アミノ酸含有溶液が1:0.02(茶葉重量に対するアミノ酸含有溶液の割合が2%)、1:0.05(アミノ酸含有溶液5%)、1:0.1(アミノ酸含有溶液10%)、1:0.2(アミノ酸含有溶液20%)となるように噴霧、攪拌して含浸させた後、火入れ温度を110〜170℃にする他は実施例2と同様にして火入れ乾燥を行った。また、水(アミノ酸0%)を含浸させて同様に火入れ乾燥を行って対照茶葉を得た。これらの茶葉を2gずつ計量し、200gの熱湯で5分間抽出し、緑茶飲料を得た。なお、アミノ酸含浸工程における原料茶葉に対する各種アミノ酸の添加量は、表6に示すとおりである。
【0061】
【表6】

官能評価を行ったところ、対照と比較して、アミノ酸溶液の含浸処理を行った茶葉を用いて製造した緑茶飲料は、好ましいとしょうゆ様の香気を発現し、香ばしい香りを増強でき、パネラー全員(5名)が対照よりも優れた香味を有する茶飲料であると判断した。これより、原料茶葉1kgに対してアミノ酸(A)(ロイシン、バリン及びイソロイシンの総量)を45mg以上含浸させて、火入れ処理することが好ましいことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有する溶液アミノ酸水溶液に原料茶葉を含浸させる工程、および
含浸処理した茶葉を100〜200℃の温度で火入れ乾燥する工程、
を含む、茶葉の製造方法。
【請求項2】
原料茶葉1kgあたり45mg以上の前記アミノ酸を添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アミノ酸を含有する溶液が、緑茶葉の抽出液である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
茶葉の抽出液が酵素処理を施したものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有する溶液アミノ酸水溶液に原料茶葉を含浸させる工程、
含浸処理した茶葉を100〜200℃の温度で火入れ乾燥する工程、
火入れ乾燥した茶葉を水で抽出して水抽出液を得る工程、
を含む、茶飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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