説明

荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置

【課題】 樹脂などの部材の内部における物質の層内移動による絶縁破壊の防止あるいは最適な帯電防止剤の分布の把握などの課題に対して、そのメカニズムを解析し、簡便かつ高精度の測定を可能とする荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 荷電性成分を含有する部材を少なくとも1つ含む複数の部材が、所定の接触面積を介して貼り合された被観測体3について、1つ以上の部材に対し所定の電圧を印加し、前記部材内部および各部材間における電位の分布の変化を経時的に測定することを特徴とする。前記所定の電圧の印加を、間欠的に行うことを特徴とする。含有する荷電性成分濃度を異にする部材が貼り合された被観測体3を観測することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置に関し、特に複数の部材が接配された場合における部材間の荷電性成分の拡散、例えば2つの樹脂層を重ねたときの一方に含有された荷電性成分の拡散状態を基に樹脂層あるいはその組合せた時の層内の変化を解析・評価する場合などに有用である。
【背景技術】
【0002】
従来より、電線の被覆材には各種の絶縁性樹脂が用いられている。こうした絶縁性樹脂は、長期間の使用によって樹脂自体が経時的にあるいは紫外線などによって劣化する場合だけではなく、樹脂表面に付着した水分や各種物質を介して絶縁性が破壊される場合(絶縁破壊)がある。特に、電線ケーブルには、高電圧がかかることから、こうした絶縁破壊はより促進されることが知られており、絶縁性樹脂についても様々な研究・提案がされている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、上記のような、絶縁破壊の状態を解析する方法としては、空間電荷測定法などが提案されている。具体的には、図9に示すような、パルス静電応力法(PEA法)を用い、測定試料13が絶縁破壊するときの局部的な空間電荷を測定する装置が提案されている。絶縁油12内に設置された絶縁体試料13を挾む一方の電極14と他方の電極15とを有し、一方の電極14にはパルス電圧を印加する高圧パルス発生器17が接続され、他方の電極15にはパルス電圧の印加に伴って発生する弾性波を検出する圧電素子19が装着される。そして、圧電素子19は、同素子19からの信号を増幅する広帯域アンプ20に接続され、さらに信号を表示するオシロスコープ21および信号から空間電荷分布を演算するコンピュータ22に接続されている。ここで、高圧直流電源18から針電極14に電圧を印加して試料13に電荷を蓄積させ、その状態で高圧パルス発生器17から同じく針電極14を通して高圧パルスを短時間印加し、そのとき、試料には電荷が蓄積され、針電極14の先端は極めて局部的な箇所に電界を発生できるため、絶縁破壊は必ず針電極14の先端から発生する。さらに圧電素子19の面積も小さいため非常に限られた範囲の弾性波を検知することができる。このようにして、この圧電素子19の出力信号より絶縁破壊時の空間電荷を測定することができる(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−266721号公報
【特許文献2】特開平11−14684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の測定手段では、層表面の物質分布を測定することはできても、樹脂内部に存在する荷電性成分の層内移動を観察することはできなかった。また、樹脂表面に付着した水分や各種物質を介して内部に含有し拡散した荷電性成分によって絶縁破壊が加速される場合など、絶縁破壊は、絶縁性樹脂自身の機能を損なうばかりでなく電線の腐蝕劣化にも結びつくことから、絶縁性樹脂内部での荷電性成分の拡散状況の把握、あるいは個々の樹脂の荷電性成分の拡散特性、さらには樹脂内部での荷電性成分の拡散メカニズムの解析することは、非常に重要な課題となってきている。その一方、こうした課題に対応した具体的な観測方法は、現状実用化するまでに至っていない。
【0005】
さらに、こうした樹脂内部での荷電性成分の拡散メカニズムの解析は、例えば、帯電防止処理がされた樹脂における帯電防止剤の拡散分布特性の把握など、種々の用途や分野にも適用することができるものであり、基礎的な解析技法としての要請も強い。
【0006】
そこで、本発明は、上記の樹脂などの部材の内部における物質の層内移動による絶縁破壊の防止あるいは最適な帯電防止剤の分布の把握などの課題に対して、そのメカニズムを解析し、簡便かつ高精度の測定を可能とする荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置により上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法であって、荷電性成分を含有する部材を少なくとも1つ含む複数の部材が、所定の接触面積を介して貼り合された被観測体について、1つ以上の部材に対し所定の電圧を印加し、前記部材内部および各部材間における電位の分布の変化を経時的に測定することを特徴とする。
【0009】
本発明は、絶縁性樹脂などの特性の把握においては、荷電性成分(以下「荷電体」という。)の層内移動観測に基づく層内の絶縁特性のメカニズムの解析が非常に重要であり、かつ、荷電体の層内移動は、被観測体の表面電荷の分布の経時的変化を追跡することによって把握することが可能であることを見出したものである。つまり、本発明者は、複数の部材が貼り合された被観測体の境界においては、その構成によって固有の表面電位の分布を形成するとともに、荷電体の存在の有無によって異なる経時的な変化が生じることを見出した。従って、こうした表面電位の分布を追跡することで、荷電体の層内移動を観測および層内の絶縁特性のメカニズムの解析が可能となった。
【0010】
具体的には、荷電体を含有する樹脂などの部材(以下「含有層」という。)と、当該荷電体を含まない部材(以下「非含有層」という。)を貼り合せた被観測体を例にとれば、一方の層表面と他方の層表面に電極を配設し、その間に所定の電圧を印加して電極間の各部材の表面電位の分布を測定し、その分布の経時的変化を解析すると、表面電位の分布形成には、3つの要素が関与していることの知見を得た。第1は、電圧印加に伴う電荷自体の層内移動に伴う表面電位の分布の変化、第2は、電圧を印加しない条件での荷電体の物理的拡散に伴う表面電位の分布の変化、さらに、第3は、電圧印加による荷電体の拡散の加速に伴う表面電位の分布の変化である。
【0011】
従って、例えば非含有層同士を貼り合せた被観測体の表面の電位分布の変化を追跡することで第1の要素を観測することができ、非含有層と含有層を貼り合せた被観測体の表面の電位分布の変化を追跡した結果を前記第1の要素を減算処理することで、第2および第3の要素が加算された層内の荷電性成分の移動を観測することができる。また、印加する電圧値を変化させることで、第2の要素と第3の要素とを識別し、両者を推算することができる。
【0012】
このように、表面電位の分布を経時的に追跡し、そのデータを解析・処理することによって、簡便かつ高精度の測定を可能とする荷電体の層内移動観測方法を提供することができる。
【0013】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法であって、前記所定の電圧の印加を、間欠的に行うことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る荷電体の層内移動観測方法においては、被観測体に所定の電圧を印加することになるが、連続的に電圧を印加した場合、上記の第3の要素によって荷電体の層内移動が電圧印加によって誘導される場合がある。本発明は、電圧印加を短時間で、かつ間欠的に行い、その間の表面電位分布の変化を観測することによって、こうした影響の殆ど受けない条件で観測することが可能となる。つまり、第2の要素を簡便かつ高精度に測定することが可能となる。
【0015】
従って、上述した第2および第3の要素が加算された観測結果と組み合わせ、第2の要素を減算することによって、第1〜3の全ての要素を観測することができ、層内部での荷電性成分の拡散メカニズムの解析を行うことができる。
【0016】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法であって、含有する荷電性成分濃度を異にする部材が貼り合された被観測体を、観測することを特徴とする。
【0017】
上記の本発明の説明では、含有層と非含有層を貼り合せた被観測体を例に挙げたが、荷電体の層内移動は、被観測体の各層での含有荷電体濃度が異なる場合においても生じる。つまり、実装条件では含有層と非含有層の組合せよりも貼り合せた隣接する2層において含有荷電体濃度が異なる場合が多く、実装状態に近い条件において観測することを意味することから、その観測結果は非常に有用なものとなる。また、複数の部材が同一の素材である場合においては、含有層と非含有層あるいは含有層と含有量の少ない層を組合せた被観測体の表面電位の経時的変化を追跡することによって、より精緻な観測が可能となる。
【0018】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法であって、前記複数の部材のうちの少なくとも1つの部材の厚みが、他の部材よりも大きい被観測体を観測することを特徴とする。
【0019】
上記の3つの要素のうち、一般に第1の要素による電位分布の変化は非常に速く、第2および第3の要素による電位分布の変化は比較的緩慢である。少なくとも1つの層の厚みを大きくすることで、その層内の観測は、第2の要素による変化をより精度よく観察することが可能となり、同一条件下での他層との比較によってその相違点を浮出することができる。また、複数の部材が同一の素材である場合においては、一定以上の厚みを有することで、その層内での変化を無視する状態で、他の層の経時変化を観察することができることから、実質的に異なる素材による場合と同様の観察を行うことができる。
【0020】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測方法であって、前記複数の部材が同一の素材である場合において、前記被観測体の電圧印加面と反対の面での誘導電荷が所定値あるいは所定の変化量を超えたときに、荷電性成分の層内移動が完了したと判断することを特徴とする。
【0021】
上述のような、被観測体の境界における固有の表面電位分布は、素材の異なる部材を貼り合せた被観測体にあっては非常に顕著に現れるが、同一の素材からなる部材を貼り合せた被観測体にあっては明確に現れない場合があり、観測精度の低下を招来し、特に荷電体の移動の終点が明確でなく正確な解析が困難となる。本発明者は、研究の結果、被観測体の電圧印加面と反対の面での誘導電荷が荷電体の移動と関連し、その値が所定値あるいは所定の変化量を超えたときに、荷電性成分の層内移動が完了したと判断することができることを見出した。こうした判断を基に、被観測体の表面電位の経時的変化を追跡することによって、より正確な観測が可能となる。なお、ここでいう誘導電荷とは、一般に1つの部材の一面に電荷が注入された場合、他面において発生する電荷をいう。
【0022】
本発明は、荷電性成分の層内移動観測装置であって、所定の接触面積を介して複数の部材が接配され、前記部材の少なくとも1つに荷電性成分を含有する被観測体を対象とし、前記被観測体を構成する少なくとも1以上の部材に当接する電圧印加手段、前記部材内部および各部材間における電位の分布を観測する手段、前記観測手段からの出力を時系列的に記憶する手段、および前記各手段の入出力を制御・演算処理する手段を有することを特徴とする。
【0023】
上記のように、複数の部材が貼り合された被観測体に対し、表面電位の分布を追跡することで、荷電体の層内移動を観測および層内の絶縁特性のメカニズムの解析を行うことが可能となる。具体的には、被観測体に対する電圧印加手段、被観測体の表面電位の分布を観測する手段、観測手段からの出力を時系列的に記憶する手段、および出力演算手段を有する装置によって、観測することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明は、荷電体を含有する被観測体の表面電位の分布を追跡することによって、荷電体の層内移動を観測および層内の絶縁特性のメカニズムの解析が可能となり、簡便かつ高精度の測定を可能とする荷電性成分の層内移動観測方法および観測装置を提供することができる。また、電圧の印加方法、構成部材の膜厚や荷電体の濃度、あるいは観察方法を工夫することによって、さらに精度の高い観測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
図1は、この発明に係る観測装置の基本的な構成を例示している。図1において、部材1および部材2が貼り合された被観測体3の両端面1a、2aに、電圧印加手段を構成する電極4a、4bが当接し、被観測体3の別の端面3aに空間電荷測定手段5が設けられている。同じく電圧印加手段を構成する電源部6から電極4a、4bに電圧が印加されたとき、端面3aの表面電荷の分布状態を空間電荷測定手段5によって測定し、出力データを記憶手段7に順次メモリーし、制御・演算処理手段8によって演算され、解析用データに変換・処理される。また、制御・演算処理手段8は、こうした演算処理機能に加え、各データを基に、電源部6の動作(例えば、電圧の連続的印加あるいは間欠的印加の選択や印加電圧値など)、あるいは空間電荷測定手段5や記憶手段7の動作を制御する機能を有することが好ましい。このときの観測結果の一例を、図1の上部に示している。
【0027】
上記の構成において、被観測体3の表面1aに電圧を印加し、被観測体3の端面3aの電位分布の変化を追跡することで、部材1から部材2に移動する電荷の動きを観測することができる。また、部材1から部材2のいずれかあるいは両方に荷電体が含有された場合には、併せて部材1から部材2に移動する荷電体の動きを観測することができる。なお、本発明の説明は、部材1および2からなる被観測体3を中心に行うが、むろん部材の数は2つに限定されるものではなく、また電極の数についても同様である。
【0028】
ここで、荷電体(荷電性成分)とは、容易に電離可能な成分、あるいは容易に電離可能な成分を含む成分をいい、イオンキャリアや広く陰イオン性成分、陽イオン性成分あるいは双極子を有する成分を含むものである。具体的には、帯電防止剤、末端にカルボキシル基を有するもの、各種金属塩などを挙げることができるが、本発明においては、さらに荷電性を有しない物質であっても、その物質にこうした成分をマーカーとして結合させることによって荷電体とすることが可能である。また、帯電防止剤とは、導電性ポリマーや界面活性剤をいい、具体的には静電防止性コーティング剤" ボンディップ" (アルテック社製)や可溶性ポリアニリン”アニリード”(日東電工社製)を挙げることができる。
【0029】
また、空間電荷分布測定手段5としては、上述のパルス静電応力法を用いた装置、例えば、ファイブラボ社製" PEANUTS" ,PEA−101−BMなどを挙げることができる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、被観測体3の部材1と部材2が、異なる素材である場合と同質素材の場合とに分けて説明する。なお、以下の各ステップの順序は任意であり、各データも既存のデータあるいは理論的に推算可能な場合は代用することができる。
【0031】
(A)部材1と部材2が異なる素材である場合
(A−1)事前の検証として、荷電体として帯電防止剤を含有させた場合の被観測体3の表面抵抗の変化を追跡した。
図2は、部材1として帯電防止剤を含有するエチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、部材2として非含有のポリエチレン樹脂(PE)を貼り合せた被観測体3としたときのPEの表面抵抗の変化を示す。部材2としては、分子量300,000、結晶比52.10%のPEを用いた。
PEの表面の組成分析を飛行時間法二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)によって測定した結果、PEの表面に帯電防止剤の成分が検出され、帯電防止剤の層内の移動に伴い表面抵抗の変化が生じることが確認できた。この検証結果を基に、以下のような被観測体3の表面電位の分布状態の追跡を行った。
【0032】
(A−2)部材1に荷電体を含有させ、連続的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡する。
部材1であるEVAに帯電防止剤を含有させ、図3に例示するように連続的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡した結果を、図4に例示する。電極4aに対して連続的に電圧を印加したときの被観測体3の表面電位の分布の経時的な変化として、電極間を結ぶ直線上の被観測体3の全体に亘って空間電荷測定手段5により観察したものである。具体的には、図4のように、EVAおよびPEの電極側端面において特異的な電荷の分布が見られるとともに、その境界面の近傍において経時的に変化する電荷の集中が生じている。
さらに詳細な解析を行うために、この境界面近傍での電位分布を、図5に拡大して例示する。電荷のピークが時間経過に伴い小さくなるとともに、PEの方にそのピークが移動している。PEへの帯電防止剤の拡散に伴い電荷分布の変化が生じたもので、上記にいう第2の要素と第3の要素が加算されたものである。
【0033】
(A−3)部材1に荷電体を含有させ、間欠的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡する。
部材1であるEVAに帯電防止剤を含有させ、間欠的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡した結果は、(A−2)における図4に近い曲線となった。電極4aに対し、図6に例示するように、間欠的に電圧を印加したもので、得られた被観測体3の全体に亘る空間電荷測定手段5の出力について、この境界面近傍での電位分布を拡大すると、図7のように、上記図5とは異なる挙動を示している。PEへの帯電防止剤の拡散に伴う電荷分布の変化が生じたもので、主として上記にいう第2の要素によるものである。
【0034】
(A−4)荷電体を含有しない部材1および部材2からなる被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡する。
共に非含有層である部材1および部材2を貼り合せた被観測体3の表面1aに電圧を印加し、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡した結果は、(A−2)における図4に近い曲線となり、拡大すると(A−2)における図5上の初期曲線あるいは(A−3)における図6上の初期曲線に近い曲線をなる。上記にいう第1の要素によるものである。ただし、物質拡散および電圧印加に伴う拡散加速に比べ電荷のみの移動は迅速であることから、荷電体を含有する被観測体の初期の電位分布状態が、荷電体を含有しない被観測体の電位分布に近似する場合には、本検証を省略することが可能となる。
【0035】
(A−5)各要素による解析を行う。
以上の結果から、部材1と部材2が異なる素材である場合における第1〜第3の各要素による効果は、(A−2)における第1〜第3の要素による効果、(A−3)における第1および第2の要素による効果、および(A−4)における第1の要素による効果を演算することによって、定量的に推算することができる。従って、部材の内部における物質の層内移動による絶縁破壊の防止あるいは最適な帯電防止剤の分布の把握などのメカニズムを解析することができる。また、こうしたデータを用いることによって、物質の層内移動における拡散の速度・速度分布の観測、さらには、荷電性成分の各層の分配率の観測(拡散完了後の状態)を行うことが可能となる。なお、(A−4)については、上記のように、(A−2)および(A−3)の追跡初期データにより代用し省略することが可能となる場合がある。
【0036】
(B)部材1と部材2が同質の素材である場合
(B−1)事前の検証として、電極に電圧を印加することによって、層内の電荷体の移動を観測する。
両部材が非含有層である場合、実質的に1つの部材における観測と同じであり、電極に電圧を印加することによって、第1の要素による層内の電荷体の移動を観測することができる。図8は、1つの部材(EVA)の一端面に電圧を印加したときの経時的変化を例示している。印加直後の一端面での高電圧状態および他の端面での誘導電荷の発生を確認することができる。また、時間経過とともに電荷分散し、短時間(30〜40sec程度)で安定した電位分布を形成することを示している。
【0037】
(B−2)部材1に荷電体を含有させ、連続的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡する。
上記(A−2)と同様に、部材1に帯電防止剤を含有させ、連続的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡し、第2の要素および第3の要素を求める。また、荷電体の移動の終点は、(B−1)における誘導電荷の発生量が所定値以上となったとき、あるいは誘導電荷の変化量が所定値以下となったときを目安とする。同質素材の場合には、最終的に荷電体が部材1および2において均等な状態となることから、印加電圧に対し誘導電荷の発生量が推算しうるためである。推算が困難な場合には、変化量を追跡することで安定点(終点)を推算することができる。
【0038】
(B−3)部材1に荷電体を含有させ、間欠的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡する。
上記(A−3)と同様に、部材1に帯電防止剤を含有させ、間欠的に電圧印加を行った場合の、被観測体3の表面電位の分布状態の変化を追跡し、第2の要素を求めることができる。また、荷電体の移動の終点は、上記(B−2)と同様、誘導電荷の発生量あるいは変化量によって判断することが可能である。
【0039】
(B−4)各要素による解析を行う。
以上の結果から、部材1と部材2が同質の素材である場合における各要素による効果を推算することができる。従って、部材の内部における物質の層内移動による絶縁破壊の防止あるいは最適な帯電防止剤の分布の把握などのメカニズムを解析することができる。また、こうしたデータを用いることによって、物質の層内移動における拡散の速度・速度分布の観測、さらには、荷電性成分の各層の分配率の観測(拡散完了後の状態)を行うことが可能となる。なお、(B−1)については、(B−2)および(B−3)の追跡初期データにより代用し省略することが可能となる場合がある。
【0040】
上記においては、非含有体同士あるいは含有体と非含有体からなる被観測体について述べたが、本発明は、含有する荷電性成分濃度を異にする部材が貼り合された被観測体を観測する場合にあっても有用である。つまり、荷電体の層内移動は、被観測体の各層での含有荷電体濃度が異なる場合においても生じるものであり、特に、実装条件では含有層と非含有層の組合せよりも貼り合せた隣接する2層において含有荷電性成分濃度が異なる場合が多く、実装状態に近い条件において観測することを意味することから、その観測結果は非常に有用なものとなる。
【0041】
また、層内の荷電体の局在による影響は、実装条件において生じる重要な課題であり、荷電体の層内濃度の異なる被観測体の観測結果は、こうした局在する荷電体の層内移動の解析に利用することが可能であり、有用性が高い。特に被観測体を二次元的に観測するだけではなく、図8のように、三次元的に観測することによって、そのメカニズムの解析に役立てることができる。さらに、複数の部材が同一の素材である場合においては、含有層と非含有層あるいは含有層と含有量の少ない層を組合せた被観測体の表面電位の経時的変化を追跡することによって、より精緻な観測が可能となる。
【0042】
上記では、部材1および部材2の厚みは任意に設定可能であることを前提としたが、複数の部材のうち、少なくとも1つの部材の厚みを大きくし、被観測体を観測することが好ましい場合がある。つまり、上記の3つの要素のうち、一般に第1の要素による電位分布の変化は非常に速く、第2および第3の要素による電位分布の変化は比較的緩慢である。従って、大きな厚みを有する層内の荷電体の観測においては、電荷の動き(第1の要素)に影響されずに、第2の要素による変化をより精度よく観察することが可能となる。
【0043】
また、複数の部材が同一の素材である場合においては、厚みの大きな部材の層内での変化が顕著となる前に、他の層の経時変化を観察することができることから、実質的に異なる素材を組み合わせた被観測体と同様の観察結果を得ることができる。
【0044】
さらに、上記では、印加電圧は任意に設定可能であることを前提としたが、同一被観測体に関し異なる電圧を印加することによって、荷電体の層内移動のメカニズム解析に役立つことができる場合がある。具体的には、当初の印加電圧を高くした場合と層でない場合との比較によって、荷電体に対する印加電圧の加速効果の相違、つまり第2の要素と第3の要素との関係を検証することができること、などが該当する。
【0045】
以上は、荷電性成分を含む樹脂層とそうでない樹脂層とを接配した場合などについて説明したが、上述のように三層以上の複数層に対しても適用可能であることはいうまでもない。また、電極を各層ごとあるいは数層ごとに設けることも可能であり、各層の観測精度の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
上記においては、樹脂層内の帯電防止剤などの荷電体の層内移動の観察を主に説明したが、本発明は、そうした目的に限定されるものではなく、例えば、除泡材の拡散や薬剤の皮膚モデルでの拡散の観察を行うためのコントロール膜(メンブレン)の設計など、種々の異なる分野における用途への適用が可能である。さらに、面方向の電界印加に加え、厚み方向の電界を印加することによって電気化学的な観点からの応用としての三次元クロマトグラフへの適用などが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る観測装置の基本的な構成を例示する説明図
【図2】本発明に係る第1の観測結果を示す説明図
【図3】本発明に係る1の電圧印加方法を示す説明図
【図4】本発明に係る第2の観測結果を示す説明図
【図5】本発明に係る第2の観測結果の拡大を示す説明図
【図6】本発明に係る他の電圧印加方法を示す説明図
【図7】本発明に係る第3の観測結果の拡大を示す説明図
【図8】本発明に係る第4の観測結果を示す説明図
【図9】従来法による空間電荷測定装置を例示する説明図。
【符号の説明】
【0048】
1、2 部材
3 被観測体
4a、4b 電極
5 空間電荷測定手段
6 電源部
7 記憶手段
8 制御・演算処理手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電性成分を含有する部材を少なくとも1つ含む複数の部材が、所定の接触面積を介して貼り合された被観測体について、1つ以上の部材に対し所定の電圧を印加し、前記部材内部および各部材間における電位の分布の変化を経時的に測定することを特徴とする荷電性成分の層内移動観測方法。
【請求項2】
前記所定の電圧の印加を、間欠的に行うことを特徴とする請求項1記載の荷電性成分の層内移動観測方法。
【請求項3】
含有する荷電性成分濃度を異にする部材が貼り合された被観測体を観測することを特徴とする請求項1または2記載の荷電性成分の層内移動観測方法。
【請求項4】
前記複数の部材のうちの少なくとも1つの部材の厚みが、他の部材よりも大きい被観測体を観測することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の荷電性成分の層内移動観測方法。
【請求項5】
前記複数の部材が同一の素材である場合において、前記被観測体の電圧印加面と反対の面での誘導電荷が所定値あるいは所定の変化量を超えたときに、荷電性成分の層内移動が完了したと判断することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の荷電性成分の層内移動観測方法。
【請求項6】
所定の接触面積を介して複数の部材が接配され、前記部材の少なくとも1つに荷電性成分を含有する被観測体を対象とし、前記被観測体を構成する少なくとも1以上の部材に当接する電圧印加手段、前記部材内部および各部材間における電位の分布を観測する手段、前記観測手段からの出力を時系列的に記憶する手段、および前記各手段の入出力を制御・演算処理する手段を有することを特徴とする荷電性成分の層内移動観測装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−17517(P2006−17517A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193704(P2004−193704)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】