説明

荷電粒子ビームを用いた検査方法及び検査装置

【課題】半導体製造工程途中のウエハ検査で、高分解能を維持して浅い凹凸、微小異物のレビュー、分類を高精度に行う目的で、二次電子を検出系の中心軸を合わせると共に、検出系の穴による損失を避けて高収率な検出を実現する。
【解決手段】高分解能化可能な電磁界重畳型対物レンズにおいて、試料20から発生する二次電子38を加速して対物レンズ10による回転作用の二次電子エネルギー依存性を抑制し、電子源8と対物レンズ10の間に設けた環状検出器で二次電子の発生箇所から見た仰角の低角成分と、高角成分を選別、さらに方位角成分も選別して検出する際、加速によって細く収束された二次電子の中心軸を低仰角信号検出系の中心軸に合わせると共に、高仰角信号検出系の穴を避けるようにExBで二次電子を調整・偏向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置の荷電粒子検出系及びこの荷電粒子検出系を装備した荷電粒子線装置に関するものであり、特に電子ビームを走査しながら試料からの二次電子等の電子の信号で画像を形成する走査型電子顕微鏡に関するものである。さらに詳細には、半導体装置や液晶装置等、微細な回路パターンを有する基板の検査方法及び装置に係わり、特に、半導体装置やフォトマスクのパターン検査と欠陥レビューするレビューSEM技術に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを試料上で走査し、試料から発生する二次電子等の電子の信号で画像を形成する走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)において、取得される画像のコントラストは電子ビームの試料への照射条件、例えば照射電流量、ランディングエネルギー、試料上電位分布等に依存するとともに、検出系の方式(形態)、形状にも大きく依存していることが一般的に知られている。画像のコントラストとしては、試料の帯電状態を反映させた電位コントラスト、試料表面の凹凸を反映させた陰影コントラスト、試料の物質種類の違いを反映させた物質コントラスト等が知られている。このSEMを半導体デバイスの評価・検査に用いる場合に、上記各種の画像コントラストのうち、半導体デバイス表面上の微妙な凹凸を感度よく陰影コントラストとして取得する技術が重要性を増している。
【0003】
半導体デバイスは、ウエハ上にフォトマスクで形成されたパターンをリソグラフィー処理及びエッチング処理により転写する工程を繰り返すことにより製造される。このような製造プロセスにおいて、歩留まりの早期立ち上げ、及び、製造プロセスの安定稼働を実現するためには、インラインウエハ検査によって発見した欠陥を迅速に解析し、対策に活用することが必須である。検査結果を迅速に不良対策に結び付けるためには、多数の検出欠陥を高速にレビューし、発生原因別に分類する自動欠陥レビュー・分類技術が鍵となる。製造プロセスの微細化に伴い、半導体の製造歩留まりに影響を及ぼす欠陥サイズも微細化してきており、光学式のレビュー装置では高い分解能によるレビューが困難になってきている。このため、高速、高分解能でレビューが可能なSEM式のレビュー装置が製品化されている。この装置で、デバイス上に存在する微小異物や、スクラッチ等の凹凸を検出するために、斜めから光を当てたときに生ずる陰影と等価なSEM像による陰影像の取得が重要となっている。このような陰影像を取得する為の基本原理を以下に示す。
【0004】
ここでは、図2(a)に示すように、膜中に異物があることにより生じた凹凸101を電子ビーム37で41のように走査し、電子ビームが凹凸101の右側を照射している場合を例にとり説明する。電子ビーム照射に伴い、二次電子38が放出される。このとき、仰角の低角成分に着目すると、左側に放出される二次電子の一部は凹凸101に遮蔽される。そのため、左右の検出器11,12での二次電子検出数が異なることとなる。このようにして検出器11,12で得られる像は、それぞれ図2(b),(c)となり、陰影の強調された像となる。このように、検出器を一次電子ビーム37の左右に配置することで、試料の凹凸を反映した画像コントラストを取得することができる。
【0005】
二次電子信号を左右の二方向で分離して取得し、表面の陰影コントラストを取得する原理については、例えばL. Reimer, ”Electron signal and detector strategy in electron beam interactions with solids”, ed. By D. F. Kyser et. al. (SEM Inc., AMF O’Hare IL 1982) p.299に記述がある。この文献では、二次電子を直接検出器で取り込むのではなく、一度対物レンズの下面に衝突させ、レンズ下面から発生する電子を二方向へ分離して検出している。
【0006】
図3に、二次電子のエネルギー分布を示す。二次電子は、一般的に、数eV程度のエネルギーを持つ成分の発生個数が最も大きく、50eV程度まで減少しながら分布することが知られている。また、図に示すように、一次電子ビームの照射エネルギーとほぼ同じエネルギーを持つ電子が発生するが、これはいわゆる反射電子、後方散乱電子等と呼ばれるものである。なお、ここでは二次電子という表現の中に、一次電子ビームの照射エネルギーに近い反射電子の成分も含めて表現している。以下も同様である。
【0007】
二次電子を左右に分離して陰影コントラストを取得する技術は、上記のように、試料からの二次電子が試料の凹凸によって仰角方向と方位角方向に対しある特有の分布を持って試料から出射していることを利用して、試料からの出射状態をそのまま保存して左右に分離するものであるから、試料出射時の二次電子の方向分布を保存したまま検出することが陰影の高コントラスト化には非常に重要である。逆に言うと、試料と検出器の間に二次電子の方向分布を変化させるような過程があると陰影コントラストは低下し、陰影が判別できなくなる。二次電子の方向分布に影響を与えるものとして、例えば対物レンズがある。対物レンズの磁場中を二次電子が通過すると、二次電子の軌道がエネルギーに応じて異なる角度に回転作用を受け、試料上での二次電子の方向分布が崩れてしまう。そこで、陰影コントラストを取得するには、上記のReimerの文献のように、左右の検出器を対物レンズの下、すなわち試料と対物レンズの間に設置することが一般的である。
【0008】
一方、近年、特に半導体パターンの欠陥レビューなどに用いるSEMには、1keV程度の低照射エネルギーで高分解能を維持することが一般的に求められ、それに伴い試料上の装置構成も最適設計がなされている。対物レンズの磁場の中心が試料に近いほど高分解能化が可能であるため、磁場中心と試料を近づける設計がなされている。また、高分解能を維持しつつ1keV程度の低エネルギーで照射するために、試料に負電位(リターディング電圧と呼ぶ)を印加して試料直前で一次ビームを減速して照射したり、対物レンズ中を高加速状態でビームを通過させるように正電位の電極(ブースティング電極と呼ぶ)を挿入した対物レンズを用いたりして電磁界を重畳させ、高分解能化を図っている。
【0009】
試料と対物レンズの主面が近づくにつれ、二次電子は試料上で対物レンズの磁場に巻き込まれ、回転作用を受けることになる。このような原理を背景に、微小な凹凸を検出しつつ高分解能化を行った公知例として、例えば特開平8−273569号公報がある。高分解能を達成する為に、電磁重畳型対物レンズを用いて高分解能化を行っている。試料から発生する二次電子は、低エネルギーの場合、レンズ磁場によりエネルギーに応じた回転角度に回転する。その為、対物レンズを通過した後では二次電子の方向情報が失われる。そこで、ウエハ近傍に二次電子を加速させる為の電場を生じさせ、高速に対物レンズで発生する磁場内を通過させることで、回転角のエネルギーによる差を低減させ、方向情報を保存している。さらに低エネルギーの二次電子と後方散乱電子の軌道を制御することで、電子源と対物レンズの間にある環状検出器の内側環状帯で後方散乱電子、外側環状帯で低エネルギーの二次電子を検出する。外側環状帯は扇形に四分割しており、二次電子放出の方位角の選別が行える為、陰影像の取得が可能となっている。
【0010】
検出系の穴から二次電子が電子銃方向へと通過して検出できない状況を改善するために二次電子を光軸から外して効率よく検出する技術が、特開10−214586号公報や米国特許第6,674,075号明細書に記載されている。
【0011】
高分解能を維持しつつ二次電子を光軸外へ偏向する技術に関しては、特開平2−142045号公報に記載がある。本公報には、電界と磁界を直交方向に重畳させて一次ビームに対しては偏向作用を及ぼさず、二次電子に対してのみ偏向作用を及ぼす電磁界重畳型偏向器(いわゆるウイーンフィルタ、あるいはExB偏向器とも称される)が開示されている。以下、この電磁界重畳型偏向器をExB偏向器と称する。ExB偏向器においては、一次ビームは基本的に偏向作用を受けないため、通常の偏向器に比べて格段に一次ビームの収差が低減されるが、ビームの電子群がエネルギーに幅を持っているために、厳密に言えばわずかに電界と磁界による偏向角に差が生じて色収差となって分解能のわずかな低下が起こる。本公報では、ExB偏向器を2段搭載し、一次ビームが一段のExB偏向器を通過する際に発生する色収差を他方のExB偏向器で打ち消し、収差の低減を図っている。二次電子検出器を二段のExB偏向器の間に配置し、二次電子を下段のExB偏向器で偏向し検出する。
【0012】
一段のExB偏向器を用いた技術は、特開2001−143649号、特開2003−203597号、特開2000−188310号公報等に記載されている。一段のExB偏向器と反射板を用いた検出系を設けることにより、一次ビームを光軸外に偏向するが、反射板に当てて新たに発生する信号電子を検出すればいいため偏向角度が小さくても効率の高い検出が可能になる。ExB偏向器に減速電界を重畳させる技術についても特開平10−302705号公報、特開2005−100479号公報等に開示されている。これらの技術は、二次電子の特定のエネルギーで分類を行うエネルギーフィルタとして動作させ、エネルギー弁別精度を向上させる技術である。さらにまた、特開2002−083563号公報には、高分解能モードと陰影像取得モードの切り替えに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】L. Reimer, ”Electron signal and detector strategy in electron beam interactions with solids”, ed. By D. F. Kyser et. al. (SEM Inc., AMF O’Hare IL 1982) p.299
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−273569号公報
【特許文献2】特開10−214586号公報
【特許文献3】米国特許第6,674,075号明細書
【特許文献4】特開平2−142045号公報
【特許文献5】特開2001−143649号
【特許文献6】特開2003−203597号
【特許文献7】特開2000−188310号公報等
【特許文献8】特開平10−302705号公報
【特許文献9】特開2005−100479号公報等
【特許文献10】特開2002−083563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、このような二次電子の高加速化を行うと、新たな問題が発生する。二次電子が加速されない場合と比較して、二次電子は相対的に細く絞られて検出面に達するために、二次電子の中心軌道がわずかに傾いている場合には検出器で分離する際、左右の角度分布のバランスが崩れ、均等に分離できないという問題である。
【0016】
一般的に、SEMにおいては装置の部品の機械的な制約や調整具合に応じて、一次電子ビームと二次電子の光軸(中心軸)が試料表面の法線方向に対して微小な角度傾いていることが知られている。一次電子ビームに対しては、光軸を調整して傾きの影響が最小になるような状態で使用することが一般的である。一方、通常、二次電子は検出器で効率よく検出できればよく、二次電子の光軸の傾きを調整する必要はない。したがって、二次電子の光軸は微小な角度傾いたままでも問題とならない場合が多い。しかし、二次電子の高加速化と、陰影像の高コントラスト化、高スループット化が必要なレビューSEMなどの場合には、この二次電子の光軸の傾きが信号取得、ひいては欠陥の判定に対し大きな問題となる。
【0017】
二次電子の中心軸が傾いている場合、その傾きが大きいときには、例えば大部分の二次電子が片側の検出器に検出されるとか、あるいは、大量の二次電子が検出可能領域から外れて検出できないという現象も生じてしまう。この問題により、非常に浅い凹凸のコントラストを得ようとするときに、陰影コントラストが他の信号に埋没して消えてしまう可能性がある。また、半導体のレビュー装置としては、凹凸形状が正しく陰影コントラストとして取得できないため、欠陥形状の誤認識を生じる可能性がある。
【0018】
また、二次電子のうち仰角方向の低角成分のみを陰影コントラストを反映した成分として検出する場合、二次電子を仰角方向にも分離して検出する必要が生じるが、この場合、二次電子の中心軸が検出器の中心軸からずれていると、方位角によらず均一に仰角の分類を行えないという問題がある。さらに、二次電子の光軸の傾きは装置の調整状態にも依存するため、同じ凹凸サンプルを見たときに、装置の調整状態に応じて異なるコントラストが取得されるという問題もある。
【0019】
また、二次電子が細く収束された状態では、次のような問題も発生する。二次電子検出面と試料の間に一次電子ビーム走査用の走査偏向器が存在する場合、二次電子信号も細く収束された状態で走査偏向作用を受ける。その結果、二次電子の中心軌道が検出面で想定外の位置に偏向されると、検出不可能な領域ができてしまい、二次電子画像の視野内に不均一な影が発生してしまう。このように、二次電子が細く収束されていることにより画質の不均一さが発生することが問題となる。
【0020】
また、さらに次のような問題も発生する。一次ビームの光軸上で二次電子を複数の方位角成分に分離する検出系では、一次ビームを通過させる穴が必要となるので、二次電子の一部分はこの一次ビーム通過孔を通過してしまい、検出不可能となる。二次電子が高加速状態となるにつれ、この一次ビーム通過孔での通過成分は増大し、信号の損失が増大する。通常、レビューSEM等でさまざまな欠陥を正確に認識するためには、凹凸を認識するための陰影コントラストを取得すると同時に、陰影に寄与しない試料表面の法線方向に上がってくる二次電子信号も別途に効率よく取得し、高S/Nの二次電子画像を取得することが必要である。しかし、二次電子が高加速であると、そのままでは大部分がビーム通過孔から通過して検出できず、法線方向成分の検出が不可能となってしまう。
【0021】
これらのような、偏向や検出系の穴に起因する検出信号の面内不均一性は、試料の種類にも依存する。試料に電子ビームを照射することにより、試料面が帯電すると二次電子の軌道が変化し、取得画像の面内不均一性が目立つ場合があることが知られている。
【0022】
特開10−214586号公報や米国特許第6,674,075号明細書に記載された技術は、いずれも、偏向器によって二次電子のみでなく一次電子ビームの光軸も曲げ、二次電子を当初の軌道軸から外して光軸外の検出器で信号を取得する技術である。一次ビームを偏向することにより、収差が発生するため、前述のように高分解能が要求されるSEMにおいては分解能が低下するためそのままでは使えないという問題がある。仮に収差が許容される場合にも、一次ビームと二次電子の両方を偏向して光軸を離すため、装置が大型化するという問題があった。ExB偏向器に関する従来技術には、高分解能を維持して同時に陰影像を精度よく取得し、かつ二次電子画像を高効率に取得することを意図するものではない。
【0023】
以上のような問題があるため、従来の技術では、高分解能を維持したまま、二次電子を加速した状態で浅い凹凸を常に安定して検出することが困難であった。また、出射方向の仰角による二次電子の分離検出も、検出系の中心軸と二次電子の中心軸がずれていて精度が低かった。さらに、視野内で均一な二次電子画像や、二次電子の試料面から法線方向に上がってくる法線方向成分を効率よく取得して高S/Nな二次電子画像を取得することも、二次電子が高加速な状態で高い分解能を維持し、陰影像を取得しながら同時に達成することは困難であった。
【0024】
本発明では、高分解能を得るための電磁界によって二次電子が高加速な状態であっても、二次電子の中心軸の傾きによる陰影コントラストの劣化を防止し、浅い凹凸を常に安定して検出することが第一の課題である。二次電子の出射方向の仰角に応じた分類を行う二次電子検出において、分離検出器の中心軸と二次電子の中心軸がずれていることによる仰角分離精度の劣化を防止することが第二の課題である。さらにまた、二次電子が細く収束されていることによる視野内の不均一性や二次電子信号の損失を低減させることが第三の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0025】
まず、上記第一、第二の課題を解決するために、高分解能を達成する目的で対物レンズに電磁重畳型対物レンズを用いた状態、すなわち二次電子を加速した状態で、一次ビームとは独立に、二次電子の光軸のみを調節する二次電子用偏向器を設置して、二次電子の中心軸を分離検出器の分離中心軸と一致させ、二次電子を均一に分離検出する。また、上記第三の課題を解決するために、高加速状態の二次電子を損失させることなく検出するように、上記の二次電子用偏向器を動作させる。この目的のために、ひとつの実施例においては、二次電子用偏向器を、少なくとも互いに直交する二つの方向に二次電子を偏向することが可能な構成にする。また、二次電子検出系の構成も、二次電子の偏向にあわせて、損失を低減させる構成にする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、回路パターンを有する半導体装置等の部分的に完成した基板の検査において、高分解能を維持して浅い凹凸、微細異物を高感度に検出し、レビュー、分類することが可能になる。これにより高感度に半導体製品をモニタすることで、欠陥の原因特定を容易にできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】レビューSEMの装置構成例を示す図。
【図2】SEMによる陰影像形成原理の説明図。
【図3】二次電子のエネルギー分布を示す図。
【図4】本発明を適用した電子光学系の一例の主要部を示す概略図
【図5】二次電子の出射角度の定義を示す図。
【図6】反射板の形状例を示す図。
【図7】二次電子偏向の動作状態を示す図。
【図8】二次電子偏向の調整手法を示す図。
【図9】第三の実施例における反射板形状の下面図。
【図10】第四の実施例における反射板形状の下面図。
【図11】第五の実施例における電子光学系の一例の主要部を示す概略図。
【図12】第六の実施例における電子光学系の一例の主要部を示す概略図。
【図13】第七の実施例における電子光学系の一例の主要部を示す概略図。
【図14】第七の実施例におけるExB偏向器の動作状態を示す図。
【図15】第八の実施例における電子光学系の一例の主要部を示す概略図。
【図16】第九の実施例における電子光学系の一例の主要部を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図4は、本発明を適用した電子光学系の一例の主要部を示す概略図である。この電子光学系は、電子源8、対物レンズ10、試料(半導体ウエハ)20、試料に対置させた加速電極32、二次電子用偏向器(ExB偏向器)221、一次電子ビーム偏向用走査偏向器16、電子源と対物レンズ10の間に設置された検出系102を備える装置である。検出系102は、上下反射板13,15、及び検出器11,12,14からなる。ExB偏向器221は、前述したが、電界と磁界を重畳させた偏向器であり、一次電子ビームに対しては電界と磁界による偏向量が互いに反対方向に同じ大きさとなるように設定されて偏向作用を互いにキャンセルさせ、二次電子に対しては電界と磁界の偏向量が同じ方向になるよう作用して二次電子のみを独立に偏向することを可能とした偏向器である。
【0029】
この装置において、電子源8から放出された電子ビーム37をウエハ20に照射した際に発生する二次電子38は、図3に示すようなエネルギー分布を持っている。二次電子38は、対物レンズ10により発生する磁場により回転しながら上昇する。このときに、磁場中を二次電子38が低速で通過すると、二次電子38の回転角が二次電子38のエネルギーに依存することとなり、方向情報は保存されない。そこで、二次電子の回転角の二次電子エネルギー依存性を相対的に抑制するために、ウエハに対向した加速電極32にウエハに対して十分大きな、例えば数kV程度の正電位を印加することで、磁場中で二次電子38を高速に通過させる。その結果、高々数10eV程度のエネルギーを持つ二次電子は数kV程度の電位差で加速されるので、対物レンズ通過中の数10eVのエネルギー差による回転作用の差はほとんど結果に現れなくなる。すなわち、二次電子は試料面における方向分布をほぼそのまま維持して検出系102において検出されるため、方向情報が保たれる。
【0030】
この方向情報を利用し、仰角の大きい二次電子39と仰角の小さい二次電子40を図4に示したような上下二段の反射板13,15に当て、さらにそこから発生する電子を検出すると、仰角による信号分離が可能になる。例えば仰角が小さい、すなわち低角度成分が下段反射板と検出器により検出される。この下段反射板を方位角方向に例えば2個に分離しておくと、この低角成分の信号を左右の方向に分離検出でき、凹凸の陰影を斜めから光を当てたときの影のようにコントラストとして取得することができる。
【0031】
このとき、二次電子用偏向器(ExB偏向器)221を動作させ、二次電子の光軸を一次ビームと独立に図4中のxz平面内で微調整する。ExB偏向器が動作していない場合には二次電子の光軸が微小な角度θずれていて、検出面において二次電子の光軸と検出系の中心軸が一致せず、方位角方向への分離の精度が低下していても、ExB偏向器を動作させることにより、検出系の中心軸と二次電子の光軸を一致させ、試料面で発生した方向情報を正確に分離検出信号に反映させることが可能になる。
【0032】
このような二次電子アライメント動作を、場合によっては紙面のxz方向だけでなく、yz方向にも行って信号を所望の方向へ偏向させ、試料の凹凸の陰影コントラストの精度を向上させるとともに、信号の損失を低減させ、画像の不均一性も低減させることができる。
【0033】
なお、この反射板をマルチチャンネルプレート、シンチレータで形成させて、ウエハで発生した二次電子を直接検出しても同様の効果を得ることができる。
【0034】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。
【0035】
[実施例1]
本実施例では、レビューSEMを用いて、欠陥分類を行った例について説明する。
図1に、レビューSEMの構成例を示す。本装置は、電子光学系1、ステージ機構系2、ウエハ搬送系3、真空排気系4、光学顕微鏡5、制御系6、操作部7より構成されている。
【0036】
電子光学系1は、電子源8、コンデンサレンズ9、対物レンズ10、第一の検出器11、第二の検出器12、第一の反射板13、第三の検出器14、第二の反射板15、走査偏向器16、ウエハ高さ検出器17、ステージに対向して設置した加速電極32、電極電源33、電極電源制御部34、二次電子用偏向器(ExB偏向器)221から構成されている。電子光学系の主要部の構成及び動作については、図4により既に説明した。
【0037】
ステージ機構系2は、XYステージ18、及び試料としてのウエハを載置するためのホルダ19、ホルダ19及びウエハ20に負の電圧を印加するためのリターディング電源21より構成されている。XYステージ18には、レーザ測長による位置検出器が取り付けられている。
【0038】
ウエハ搬送系3はカセット載置部22とウエハローダ23より構成されており、ホルダ19はウエハ20を載置した状態でウエハローダ23とXYステージ18を行き来するようになっている。
【0039】
制御系6は、信号検出系制御部24、ビーム偏向補正制御部25、電子光学系制御部26、ウエハ高さセンサ検出系27、機構及びステージ制御部28より構成されている。操作部7は、操作画面及び操作部29、画像処理部30、画像・検査データ保存部31より構成されている。
【0040】
次に、図1の各部の動作について説明する。まず、ウエハ20が任意の棚に設置されたウエハカセットを、ウエハ搬送系3におけるカセット載置部22に置く。次に、操作画面29より、レビューすべきウエハ20を指定するために、該ウエハ20がセットされたカセット内棚番号を指定する。また、レビューにおいては、他の検査装置により検査を実施され、欠陥等の位置情報を含む検査結果情報をもとに電子線画像による観察を実行するため、操作画面及び操作部29より検査結果ファイルを選択する。選択においては、ネットワーク等による通信で検査結果ファイルを読み込む場合や、フロッピー(登録商標)ディスクのような媒体より検査結果ファイルを読み込むことが可能である。いずれの場合も、検査結果ファイル名を指定することにより、検査結果の各種データをデータ入力部35に読み込み、データ変換部36によりレビューSEMで用いているデータ形式及び座標系に変換することができる。さらに、操作画面及び操作部29より、レビュー条件ファイル名を入力する。このレビュー条件ファイルは、レビューの内容を決めるための各種パラメータを組み合わせて構成されたものである。レビューを実行するために必要な条件の入力を完了し、自動レビューのシーケンスをスタートする。
【0041】
レビューをスタートすると、まず、設定されたウエハ20をレビュー装置内に搬送する。ウエハ搬送系3においては、被検査ウエハの直径が異なる場合にも、ウエハ形状がオリエンテーションフラット型あるいはノッチ型のように異なる場合にも、ウエハ20を載置するホルダ19をウエハの大きさや形状にあわせて交換することにより対応できるようになっている。被検査ウエハは、カセットからアーム、予備真空室等を含むウエハローダ23によりホルダ19上に載置され、保持固定されてホルダとともに検査室に搬送される。
【0042】
ウエハ20がロードされたら、上記入力されたレビュー条件に基づき、電子光学系制御部26より各部に電子線照射条件が設定される。そして、ウエハ20の所定箇所の電子線画像を取得し、該画像より焦点・非点を合わせる。また、同時にウエハ20の高さをウエハ高さ検出器17より求め、高さ情報と電子ビームの合焦点条件の相関を求め、この後の電子線画像取得時には毎回焦点合わせを実行することなく、ウエハ高さ検出の結果より合焦点条件に自動的に調整する。これにより、高速連続電子線画像取得が可能になる。
【0043】
電子線照射条件及び焦点・非点調整が完了したら、ウエハ上の2点によりアライメントを実施する。
【0044】
アライメント結果に基づき回転や座標値を補正し、既に読み込んだ検査結果ファイルの各種情報に基づき、レビューすべき欠陥の位置に移動する。
【0045】
欠陥位置に移動したら、ビーム照射を行う。反射板13,15は一次ビーム通過孔を空けた板状の構造になっていて、二次電子の放出仰角で、低角成分のものを反射板13に当て、高角成分を反射板13に空けた穴を通過させた後に反射板15に当てることが可能になっている。二次電子の放出方向は、図5に示すように試料表面から垂線へ向けて0度から90度になる方向を仰角、試料の法線の回りへの回転角を方位角と定義する。仰角方向で低角成分の二次電子は、方位角成分に依存して、左右に分かれて反射板13に当たることとなる。そのため、二次電子が反射板に当たることによって、反射板から新たに発生する二次電子は、検出器11に近いものは検出器11へ、検出器12に近いものは検出器12へ、それぞれ向かうこととなる。反射板15に当たったものは、そこで二次電子が発生し、その二次電子を検出器14で検出する。検出器11,12,14には、それぞれ電子を吸引させる電位を印加すればより検出効率が向上する。また、反射板13,15の近傍には、図示しないが、メッシュ電極やExB偏向器等を設置して、反射板に当たった電子から見て最も近い検出器へ吸引する電界・磁界分布を形成させてもよい。反射板15近傍にも、図示しないがExB偏向器を配置して、一次ビームへの収差の影響を与えることなく反射板15から発生する二次電子を検出器14へ吸引させることで検出効率向上を図る構造にしてもよい。さらにまた、LとRの信号の混入を防ぐために、反射板のLとRの間に仕切り板を設置してもよい。この様にして、検出器11,12では、コントラストの強調された陰影像が、検出器14では物質像が得られる。なお、本実施例では反射板を用いており、試料からの信号電子を一度反射板に当てて新たに発生する二次電子を検出する構成にしているが、反射板を用いないで、軸対称形状の検出器を配置して試料からの信号電子を直接検出してももちろんよい。この場合、検出器をシンチレータとプリズム、ライトガイド、ホトマルで構成して検出信号を引き出すが、ライトガイドを曲げて構成するなどして信号の引き出しを行ってもよい。
【0046】
このように、陰影コントラスト強調画像信号は主に検出器11,12、物質コントラスト信号は主に検出器14で取得される。そこで、信号検出系制御部24では、必要に応じて検出器11,12,14のそれぞれの信号を独立に、あるいは検出器11,12,14の信号を演算処理した信号、例えば検出器11,12,14の信号の総和や、検出器11,12の信号の差信号などを引き出せる回路構成にしている。
【0047】
反射板15には、一次ビームが上方から下方へ通過できるように中央にビーム通過孔があるが、二次電子が下方から上方へ抜けることによる信号の損失をできる限り低減させる必要があるため、ここではビーム通過孔を半径0.5mmの穴として形成した。
【0048】
画像取得時には、ExB偏向器221を動作させることにより、二次電子のアライメントを行う。図7は、二次電子のアライメントの説明図である。ExB偏向器221を動作させ、二次電子の中心軌道202を角度θ偏向させる。それにより、二次電子38が下側反射板13に衝突するときの方向成分のバランスが変化する。
【0049】
本実施例が必要となる背景を説明する。本発明のような電子光学装置においては、一般的に、装置の機械的な制約や調整具合に応じて、一次電子ビームと二次電子の光軸が試料表面の法線方向に対して微小な角度傾いている。一次電子ビームに対しては光軸を調整して傾きの影響が最小になるような状態で使用することが一般的である。一方、通常、二次電子は検出器で効率よく検出できればよく、二次電子の光軸の傾きを調整する必要はない。
【0050】
しかし、本発明のように二次電子を二方向以上の方位角成分に分離する検出系を持つ構成では、二次電子の中心軌道が反射板の穴の中心から傾いている場合、二次電子の分離方向の精度が低下してしまう。さらに、二次電子の中心軸の傾きが大きいときには、例えば大部分の二次電子が片側の検出器に検出されるとか、あるいは、大量の二次電子が検出可能領域から外れて検出できないという現象も生じてしまう。この問題により、非常に浅い凹凸のコントラストを得ようとするときに陰影コントラストが他の信号に埋没して消えてしまう可能性がある。また、半導体のレビュー装置としては、凹凸形状が正しく陰影コントラストとして取得できないため、欠陥形状の誤認識を生じる可能性がある。
【0051】
そこで、二次電子の光軸を、一次電子ビーム37の光軸に対して独立に偏向させて反射板13における衝突時の方向成分のバランスを所望の方向に調整するようにしたのが本実施例である。
【0052】
より具体的に説明する。反射板13で左右の方向に二次電子を分離する際、二次電子の中心軌道202が反射板13の穴の中心を通過するときには試料の水平面から発生した二次電子は左右に均等に分離され、左右の検出器で得られる信号量SRとSLはSR=SLの関係となる。一方、二次電子の中心軌道202が反射板の穴の中心と一致していない場合は、水平面からの信号が左右均等に分離されず、SR≠SLとなる。本発明のように、試料の凹凸部の陰影をそのまま反映するように信号を精度よく分離するには、まず試料の水平面からの信号が均等に左右に分離される状態となっていることが重要である。
【0053】
そこで、例えば図8(a)に示すように、球状のサンプルに対して電子ビーム37を走査しながら照射し、図8(b)に示すように、得られる画像においてちょうど球形の半分が陰になるようにExB偏向器221による偏向角θを調整する。このとき、1次ビームには偏向作用が発生しないよう、ExB偏向器221の調整では、電界強度と磁界強度が一次ビームに対して偏向作用がキャンセルするようにバランスよく印加する必要がある。電界強度と磁界強度は、両者のバランスを保ちながら印加出来るようにあらかじめ動作条件を記憶させておいて動作させるか、又は画像を見ながら画像がExB偏向器の非動作時と比較して移動しないように調整する。このような電磁界強度のバランスを保ちながら偏向量を変化させて二次電子の光軸角度を調整する。調整には、上述のように球状のサンプルや凹凸の分かっているサンプルを見て、球面や斜面の陰影コントラストが左右均等になるように調整することで調整精度を向上させることができる。このように調整して、左右の信号量SRとSLが均等になるように調整しておいてから、観察対象となる未知のサンプルの陰影像を取得することにより、試料の凹凸部の陰影をそのまま精度よく陰影コントラストとして画像化することが可能になる。
【0054】
このような調整は、二次電子が試料から発生してから試料上の電界によって加速されるような電子光学系においては、二次電子の広がりが相対的に小さくなることから、二次電子の軸の微妙な傾きで左右の二次電子信号量のバランスが大きく崩れるため、陰影像を精度よく取得する上で本質的に必要不可欠の調整になる。
【0055】
また、ExB偏向器221の設置位置は光軸上で反射板13より下であればどこでもよいが、反射板13に対して低い位置であればあるほど、小さい偏向角度θで大きな偏向量、すなわち大きな調整範囲を持つことができ、同時にExB偏向器による一次電子ビームに対する分解能劣化の影響を低減させることができる。
【0056】
なお、反射板形状は平板である必要はなく、図6(a)、(b)に示すような斜面を利用した形状でも良い。なお、反射板13,15の代わりに、マルチチャンネルプレートや、半導体検出器、もしくはシンチレータを設置して直接信号を取得する検出系であっても良い。
【0057】
取得された画像は、必要に応じて画像・データ保存部31に保存される。予め保存する、保存しないをレビュー条件ファイルで設定しておくことや、必要に応じて、複数の検出器による複数種類の画像を、設定に応じて同時に保存することが可能である。
【0058】
画像を保存すると同時に、画像処理部30では画像情報より欠陥の特徴を抽出して、欠陥の内容を自動的に分類する。試料の凹凸を反映した陰影像を取得可能なので、これを用いて、試料の欠陥部が凹凸のある欠陥であるか、凹であるか凸であるかなどの判定を容易かつ正確に行うことが可能になり、欠陥の状態をより分かりやすく可視化(レビュー)できる。また、試料の欠陥部の凹凸情報を用いてより正確かつ効果的に欠陥の自動分類ができる。レビューと自動分類をより高スループットに行う上で、できるだけ短時間のビーム照射により、二次電子信号を効率的かつ精度よく各検出器で分類検出して微小な欠陥の凹凸を正確に判断する必要があり、本発明の二次電子信号のアライメント技術により検出結果の精度を飛躍的に向上させることができた。分類された結果は、例えば0〜255の数値にコード化し、コード番号を検査結果ファイルのなかの欠陥分類コードに対応する箇所に書き込む。
【0059】
1枚のウエハにおいて、レビュー実施を指定された欠陥全部について上記一連の動作が完了したら、そのウエハの検査結果ファイル(分類結果を書き込まれたファイル)を自動的に保存し、指定された先に検査結果ファイルを出力する。その後、ウエハをアンロードし、レビューを終了する。
【0060】
本方法を用いることにより、二次電子放出角の仰角で低角成分と高角成分を方位角によらず均一に分離し、さらに方位角方向に高精度に信号を分別して検出することが可能になった為、光学式検査で検出した欠陥を高感度に検出し、レビュー、分類することが可能になった。
【0061】
本実施例で、一次電子ビームを走査偏向するための偏向器16は、対物レンズのレンズ中心に走査偏向の偏向中心を形成できるように、2段で構成している。この走査偏向器16は磁界型偏向器でも静電型偏向器でもよい。二次電子の検出面での偏向効果をより小さくするためには、静電型走査偏向器であることが効果的である。
【0062】
[実施例2]
次に、第二の実施例について説明する。全体の装置構成は第一の実施例の構成である図1及び図4と同様である。この構成において、ExB偏向器221を四極の電極及び磁極で構成し、二次電子をあらゆる方位角に偏向可能となるように構成する。その結果、図7に示した反射板13の分離方向(図中のX方向)のみでなく、紙面に垂直な方向(Y方向)にも二次電子をアライメントすることが可能になる。これにより、反射板13の穴に対する二次電子の中心方向のY方向へのずれを補正できるようになる。また、反射板15に対して、二次電子が所望の当たり方をするように調整することが可能になった。このように、X,Y方向ともに二次電子の光軸をアライメントすることにより、サンプル表面から同じ仰角を持った二次電子を方位角によらず均等に反射板15又は反射板13に当てて信号を取得することができるようになった。
【0063】
[実施例3]
次に、第三の実施例について説明する。本実施例では、他の装置構成は第二の実施例と同様にし、反射板13と15を試料側から見て図9のようになるように構成した。すなわち、反射板13による二次電子分離の方向をX方向、それに垂直な方向をY方向、一次電子ビームの光軸をZ方向として、反射板13のビーム通過孔213をX方向よりY方向に長い楕円、反射板15のビーム通過孔215を、213の長軸方向より小さい径の円にした。もちろん、通過孔213は長方形やそれに類する形状にしても効果は同じであり、本発明に含まれる。これと第二の実施例の四極ExB偏向器を組み合わせて動作させる。
【0064】
それにより、X方向には実施例一と同様に左右に信号を分離する際の分離精度を上げるための二次電子アライメントが可能であり、Y方向には反射板15において二次電子が通過孔215から上方へ通過せず板15に当たるように偏向することが可能となった。この二次電子偏向により、一次ビームの分解能を落とすことなく、左右の分離精度が向上するとともに、反射板13を通過した電子が上方へ抜けて損失することなく反射板15に当たるように調整でき、検出器14において信号の損失のない電子信号画像を取得することが可能になった。
【0065】
また、本実施例によれば以下に記すような効果がある。本実施例のように走査偏向器16より上方で二次電子38を検出する場合、二次電子38も走査偏向電場又は磁場を通過して偏向されてしまう。特に、二次電子38が反射板15の高さで細く収束している場合には、試料からの出射位置と走査偏向信号に応じて、反射板15のビーム通過孔215から二次電子38の大部分が上方に抜けて画像信号がほとんど得られない場合と、二次電子38の大部分が上方へ抜けずに反射板15に当たり、画像信号が取得できる場合とが一視野内に混在してしまい、画像に通過孔の影が現れてしまう。しかし、本実施例によってビーム通過孔215から上方へ抜けることがないように二次電子38をY方向へ偏向できるので、通過孔の影がない均一な画像を得ることができた。しかも、二次電子用ExB偏向器221は1次ビームには偏向作用を及ぼさないので、一次ビームの高分解能化と両立してこの効果を得ることができた。
【0066】
また、四極のExB偏向器によるY方向への偏向がない場合、上側検出器14で反射板13から上方へ抜けた二次電子を効率よく画像信号として取得するには、反射板15の通過孔215を可能な限り小さくし、通過孔215における二次電子の上方への通過を低減させる必要があった。しかし、一次ビームを上から通過させるために小さくても1mmφ程度の通過孔が必要であり、下から来る二次電子が損失することは避けることができなかった。さらに、一次電子ビームを反射板より上方でチルトやアライメント等のために偏向する場合に、反射板15のビーム通過孔215が小さすぎるとビームが上から当たってしまい、ビームの制御範囲が小さく限定されてしまっていた。
【0067】
しかし、本実施例においては、二次電子をY方向へ偏向することにより通過孔での損失がなくなるので、反射板15のビーム通過孔215を他の実施例よりも大きくすることが可能になった。その結果、一次電子ビームを反射板15の上方で偏向したい場合にも一次ビームが反射板15に衝突することなく下方へ通過することが可能になり、電子光学系の調整範囲、制御性が向上するという効果があった。
【0068】
[実施例4]
第四の実施例として、反射板13の穴213を図10に示すような形状にした装置を製作した。反射板の穴は、Y方向に沿って、穴の幅が変化する形状となっている。この反射板を用いて、Y方向へ二次電子を偏向することにより、反射板13と反射板15に当たる二次電子の成分を変化させることができ、所望のコントラストを得ることが可能になった。すなわち、反射板13の高さにおける二次電子の拡がり半径をrseとし、反射板13で半径rse1以上の広がりの二次電子を検出したい場合、反射板上でrse1と等しい穴径となるY方向位置へ二次電子を偏向する。取得したい二次電子の半径が変化した場合、Y方向へ二次電子を偏向することにより反射板に当たる二次電子量を調節することができる。これにより、二次電子を加速するブースティング電圧等の電子光学条件が変化した場合にも、電子光学条件に左右されず、二次電子の所望の成分を反射板13と15で分離検出することが可能になった。これにより、試料に応じて所望の加速電圧条件で電子ビームを照射することが可能になり、より好適な条件で試料への電子ビーム照射条件を選択することが可能になった。
【0069】
[実施例5]
次に、図11を用いて第五の実施例を説明する。本実施例の電子光学系では、コンデンサレンズ9を2段のレンズで構成し、間に絞り100を配置した。また、第一の実施例と比較して、陰影像形成用の反射板13と検出器11,12に対して試料20側にあった走査偏向器16を、電子源8側へ配置した。その他の構造は、図4に示した第一の実施例と同様である。この構造にすることにより、反射板13と試料面の距離が近づき、反射板13における信号電子の軸ずれは相対的に小さくなる。そこで、アライメント用ExB偏向器221の偏向量もより少なくてすみ、一次ビームに対する収差の影響も小さくすることができる。また、走査偏向器16よりも陰影像形成用の反射板13と検出器11,12が試料面に近い側にあることにより、走査偏向器16による信号電子の偏向が陰影像に影響を与えず、より均一な陰影像を取得することが可能になった。
【0070】
なお、本実施例では、図11に示すように、検出器14に信号電子を引き込むために別個のExB偏向器222を設置している。これにより、一次ビームへの偏向の影響を与えることなく、反射板15からの信号電子を効率よく検出器14で検出することが可能になった。
【0071】
[実施例6]
図12を用いて第六の実施例を説明する。本実施例は、検出器14で取得する画像信号が反射板15の穴による損失の影響を受けないように、反射板15より試料側にExB偏向器223を設けて信号電子を光軸外へ偏向するものである。ExB偏向器223は、反射板13と反射板15の間に配置して、反射板13では信号電子は偏向の影響を受けないように配置している。本実施例では、反射板13は走査偏向器16より試料面よりに配置しており、反射板13における信号電子の軸ずれの影響は陰影像に大きい影響を与えないため、アライメント用ExB偏向器221を設置していない。
【0072】
信号電子は、図3に示すように試料面から1〜数10eVの範囲のエネルギーを持って出射する成分(以下、低エネルギー成分と称する)と、一次ビームとほぼ同様のエネルギーを持って出射する成分(以下、高エネルギー成分と称する)で構成されている。高エネルギー成分は、いわゆる反射電子と称される成分である。反射板13に衝突しないで上方へ通過する信号電子は低エネルギー成分が中心であるが、この低エネルギー成分の電子も、試料面近傍においてリターディング電界を通過するために、リターディング電位に相当するエネルギー、例えば1keV程度のエネルギー状態に加速されている。したがって、この1keV程度以上の信号電子を光軸外へ偏向するためにExB偏向器223の動作条件を例えば10V以上というような大きい電圧とそれに見合う磁界を印加する必要がある。そこで、反射板15と電子源8の間にもう一段のExB偏向器224を設置してExB偏向器223と比較して逆極性の電磁界を生成させ、ExB偏向器223で生じる一次ビームの色収差をExB偏向器224で打ち消すように動作させる。
【0073】
以上の構成により、反射板13で陰影像を形成する信号電子を当てて検出器11,12で信号を取得して陰影像を取得するとともに、反射板15の穴を避けるように信号電子を光軸外へ偏向し、高効率に信号を取得することが可能になった。ここで、反射板13で取得する陰影像信号と反射板15で取得する信号との分離のバランスは、対物レンズ10に重畳させる電界分布と反射板13の穴径によって決定される。したがって、高分解能を達成するための電磁界重畳型対物レンズの動作条件に対して、信号電子の試料上出射時のエネルギーEと角度θが所望の閾値Etとθtで分離されるような反射板13の穴径を設計している。
【0074】
[実施例7]
図13を用いて第七の実施例を説明する。本実施例の電子光学系は、第六の実施例(図12)の検出器14と反射板15を、直接信号電子を検出するように設置した検出器14で置き換えたものである。これにより、反射板から電子を引き込む際の信号電子の損失、あるいはノイズの混入を防いで高SNな信号を取得することが可能になった。
【0075】
本実施例のExB偏向器223に、図14に示すように、さらに減速電位を重畳させる電源を搭載しておき、信号電子を所望のエネルギーに減速させるように構成させ動作させてもよい。減速しない場合にExB偏向器の電極に±Veb1の電位を印加するとしたら、この場合には電極に(−Veb2)の電位を重畳させ、(±Veb1-Veb2)の電位を印加すればよい。これにより、ExB偏向器223通過時のみ、二次電子はエネルギーが減速される。このとき、ウエハ20に印加されているリターディング電圧をVr、試料から発生する二次電子のエネルギーをEseとすると、二次電子のエネルギーはExB偏向器の外部では(Ese+eVr)eV、内部では(Ese+eVr−eVeb2)eVと表される。この減速電位分布をExB偏向器近傍のみに発生させるために、ExB偏向器の上下端に、破線で示すようにグランド電位の電極を設置してもよい。
【0076】
この場合、ExB偏向器の動作電磁界を小さくしても、信号電子のエネルギーが減速されており、所望の位置へ偏向することが可能になる。そのことにより、ExB偏向器で発生する色収差の影響をさらに低減させることが可能になる。
【0077】
検出器14を複数の検出器で構成し、ExB偏向器223における信号電子の偏向角の僅かな差によって分類して検出できる構成にしてもよい。反射板13に当たらずに上方へ通過した信号電子には、わずかであるが試料から垂直に出射した高エネルギー成分の信号電子も含まれている。この高エネルギー成分を分離することにより、純粋ないわゆる二次電子信号と呼ばれる物質コントラスト信号を取得することが可能になる。
【0078】
本実施例において、反射板13と試料面の間にアライメント用ExB偏向器221を配置してもよい。
【0079】
[実施例8]
第八の実施例を図15に示す。本実施例では、反射板13をなくし、検出器11,12をExB偏向器223よりも電子源側に配置し、検出器11,12,14を全て光軸外に配置する。その他の構成は図13に示した第七の実施例と同様であるので、重複する説明を省略する。ExB偏向器223では、信号電子全体を偏向すると同時に、減速電位を印加して信号電子のエネルギーを低減させる。それにより、ExB偏向器223による偏向角度が信号電子のエネルギーに応じて大きくばらつく。偏向角の違いを利用して、信号電子の高エネルギー成分を光軸に近い検出器11,12で取得し、低エネルギー成分を光軸から遠い検出器14で取得することにより、信号電子を分類することが可能になった。これにより、飛躍的に簡単な構成で、分解能を維持しながら陰影像と物質コントラスト像を同時に効率よく均一に取得できるようになった。
【0080】
[実施例9]
第九の実施例を図16に示す。本実施例は、第七の実施例の構成に対して、下段のExB偏向器223から試料までの構成部品を電子源8の光軸と異なる軸で構成し、検出器14を電子源8の光軸と異なる軸上に配置したものである。ExB偏向器224,223で順次一次電子ビームを偏向し、一方、試料から発生した二次電子はExB偏向器でほとんど偏向しない。この構成でも、ExB偏向器が2段であることから一次電子ビームに対する収差の影響はある程度低減され、分解能劣化が少なく、検出効率の高い検出系を構成することができた。
【符号の説明】
【0081】
1:電子光学系、2:ステージ機構系、3:ウエハ搬送系、4:真空排気系、5:光学顕微鏡、6:制御系、7:操作部、8:電子源、9a,9b:コンデンサレンズ、10:対物レンズ、11:第一の検出器、12:第二の検出器、13:第一の反射板、14:第三の検出器、15:第二の反射板、16:偏向器、17:ウエハ高さ検出器、18:XYステージ、19:ホルダ、20:ウエハ、21:リターディング電源、22:カセット載置部、23:ウエハローダ、24:信号検出系制御部、25:ビーム偏向補正制御部、26:電子光学系制御部、27:ウエハ高さセンサ検出系、28:機構及びステージ制御部、29:操作画面及び操作部、30:画像処理部、31:データ保存部、32:電極、33:電極電源、34:電極電源制御部、35:データ入力部、36:データ変換部、37:電子ビーム、38:二次電子、39:二次電子の低角成分(仰角)、40:二次電子の高角成分(仰角)、41:電子ビームの走査経路、100:絞り、101:凹凸欠陥、102:検出系、202:偏向された二次電子の中心軸、213:第一の反射板のビーム通過孔、215:第二の反射板のビーム通過孔、221〜225:ExB偏向器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に一次電子線を照射して生成された二次電子又は反射電子を検出することで画像を取得するレビュー装置であって、
前記一次電子線を生成する電子源と、
前記一次電子線を走査する走査偏向器と、
前記一次電子線を偏向する第一の偏向器と、
前記電子源と前記走査偏向器との間に配置され、前記一次電子線から前記二次電子又は前記反射電子を分離する第二の偏向器と、
前記第一の偏向器と前記第二の偏向器との間に配置された第一の検出器と、
前記第一の偏向器と前記第二の偏向器と前記走査偏向器とより前記試料に近い側に配置された複数の第二の検出器と、
前記試料に前記一次電子線を収束する対物レンズと
を有することを特徴とするレビュー装置
【請求項2】
請求項1に記載のレビュー装置において、
前記第一の偏向器と前記第二の偏向器は、E×B偏向器である
ことを特徴とするレビュー装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレビュー装置において、
前記複数の第二の検出器は、軸対称な検出器配置となっている
ことを特徴とするレビュー装置。
【請求項4】
請求項1に記載のレビュー装置において、
前記第一の偏向器は、前記第二の偏向器の電磁場と逆極性の電磁場を発生する
ことを特徴とするレビュー装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレビュー装置において、
前記複数の第二の検出器は、中心軸を対物レンズの光軸とする方位角方向に配置されている
ことを特徴とするレビュー装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレビュー装置において、
前記方位角方向は前記試料の法線周りの回転方向である
ことを特徴とするレビュー装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレビュー装置において、
前記第一の検出器は、前記対物レンズの光軸の延長線上に配置される
ことを特徴とするレビュー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−23398(P2012−23398A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227556(P2011−227556)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【分割の表示】特願2006−122372(P2006−122372)の分割
【原出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】