説明

荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法

【課題】
本発明の目的は、高い安全性を確保して、高精度で荷電粒子ビームを照射できる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【解決手段】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石に供給し、この走査磁石を通過した荷電粒子ビームの照射面上における位置及び線量に基づいて、荷電粒子ビーム発生装置からの荷電粒子ビームの出射量を制御する。具体的には、照射面上で分割して形成される複数の領域のうち、目標線量に達した領域への荷電粒子ビームの供給を停止し、目標線量に達していない他の領域に荷電粒子ビームを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームの照射システム及び出射方法に係り、特に、陽子,炭素イオン等のイオンビームを患部に照射して治療する粒子線治療装置に適用するのに好適な荷電粒子ビームの照射システム及び出射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子,炭素イオン等の荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いるイオンビーム照射システムは、イオンビーム発生装置,ビーム輸送系及び照射装置から構成される。イオンビーム発生装置は、イオン源,前段加速器,円形加速器等で構成される。照射装置は、例えば、照射野形成装置を備えている回転式の照射装置がある。円形加速器は、周回軌道に沿って周回するイオンビームを、目標のエネルギーまで加速した後に出射し、ビーム輸送系を経て照射野形成装置に輸送する。照射野形成装置は、患者の患部形状に合わせてイオンビームの線量分布を整形し、患部に照射する。
【0003】
円形加速器は、例えば特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1は、イオンビームを周回軌道に沿って周回させる手段,共鳴の安定限界内でイオンビームのベータトロン振動振幅を増大させる手段,イオンビームを周回軌道から取り出す出射用デフレクタを備えたシンクロトロンを開示している。イオンビームのベータトロン振動振幅を増大することにより、イオンビームは安定限界外に移動され、シンクロトロンからビーム輸送系へ出射される。
【0004】
イオンビームを用いた治療では、イオンが停止する直前にエネルギーの大部分を放出してブラッグカーブと呼ばれる線量分布を形成する特性と、そのブラッグカーブのピークであるブラッグピークの、深さ方向での位置は体内に入射するイオンビームのエネルギーの大きさで制御できる特性を利用して、イオンビームのエネルギーを適切に選択し、イオンビームを患部近傍で停止させて、エネルギーの大部分を患部のがん細胞に与えるようにしている。ブラッグピークの、深さ方向(ビームの進行方向)での幅は数mmである。通常、患部は深さ方向にそれ以上の厚みをもっている。このような患部に対して、患部全体の深さ方向に渡ってイオンビームを効果的に照射するには、深さ方向で患部の大きさと同程度の広くて一様な線量分布(Spread Out Bragg Peak:以下、SOBPという)を形成するように、イオンビームのエネルギーと照射量を制御する必要がある。
【0005】
また、通常、加速器から出射されるビームは進行方向と垂直な方向(以下、横方向という)にガウス分布をしており、ビームサイズ(1σ)はおよそ1〜5mm程度である。通常、患部は横方向にそれ以上の大きさを持っているため、患部全体の横方向に渡ってイオンビームを効果的に照射するには、横方向で患部大の広く一様な線量分布を形成する必要がある。
【0006】
このような観点から、従来のイオンビーム照射システムとして、横方向にガウス分布形状のビームを、走査電磁石により円形もしくはジグザグ状に走査して一様な線量領域を形成する方法が知られている(非特許文献1)。ウォブラー法は、ビームサイズとビームの走査半径とを最適な値とすることで、中心部に一様な線量分布を形成する。また、特許文献2には、ビームをリサージュ形状に走査して一様な線量分布を形成する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特許第2596292号公報
【特許文献2】特開2006−208200号公報
【非特許文献1】REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS 64巻 8号 (1993年8月、2084頁−2089頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の従来技術では、加速器から出射されるビームの出射量が必ずしも一定ではなく、ビームを走査する間にビーム出射量が時間的に変化する可能性がある。このため、極端なビーム強度変化が起こった場合、予定照射線量内で一様な照射ができない状況が生じ得る。これを避けるためには、ビーム強度の時間変化よりもビームの走査速度を十分に早くすると共に、照射領域内を多数回走査することで、ビーム出射量の変化を時間的に平均化する必要がある。そのため、照射途中で必ずしも線量分布が一様とならず、照射終了時に所望の一様度の線量分布を得ることが難しいという課題があった。また、走査電磁石に供給する励磁電流を高速で変化できる電源を用いる必要があるため、コストが増大するという課題があった。
【0009】
本発明の目的は、高い安全性を確保して、高精度で荷電粒子ビームを照射できる荷電粒子ビーム照射システム及び荷電粒子ビーム出射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石に供給し、この走査磁石を通過した荷電粒子ビームの照射面上における位置及び線量に基づいて、荷電粒子ビーム発生装置からの荷電粒子ビームの出射量を制御する。具体的には、照射面上で分割して形成される複数の領域のうち、目標線量に達した領域への荷電粒子ビームの供給を停止し、目標線量に達していない他の領域に荷電粒子ビームを供給する。荷電粒子ビームの照射面上における位置は、走査磁石の磁場強度により制御することができる。
【0011】
本発明は、照射面上で分割して形成される複数の領域のうち、目標線量に達した領域への荷電粒子ビームの供給を停止し、目標線量に達していない他の領域に荷電粒子ビームを供給することにより、照射対象内の横方向の各位置に対する照射線量を、容易に調節(制御)できる。即ち、本発明は、照射対象内の横方向における線量分布を、所望の線量分布に容易に調節できる。このため、照射対象内の横方向の各位置において、照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減できる。また、従来のような電流を高速で変化させる電源が不要となるため、装置コストを低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、照射対象内の荷電粒子ビームの進行方向に垂直な方向における線量分布を、所望の線量分布に容易に調節することができる。このため、照射対象内のビーム進行方向の各位置において、照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施例について、図面を用いて説明する。図1は、本発明による粒子線治療装置(イオンビーム照射システム)の一実施例の概略構成図である。図1に示すように、粒子線治療装置は、イオンビーム発生装置(陽子線発生装置)1,中央制御装置100,照射野形成装置200,照射制御システム300を備える。粒子線治療装置は、治療ベッド217に固定された患者216の患部216aに対して、イオンビーム(例えば陽子線)を照射する。
【0014】
中央制御装置100は、治療計画装置102で決められた、患部216aに適切な照射野を形成するための照射条件(ビーム照射方向,SOBP幅,照射線量,最大照射深さ,照射野サイズ等)を読み込み、機器の種類,設置位置,設定値等のノズル機器パラメータや、ビームエネルギー、ビーム強度パターン等の加速器運転パラメータを選択する。中央制御装置100は、メモリ101を備え、図7に示すような情報をメモリ101に保存する。メモリ101に記録(保存)された情報を基に、各ノズル機器パラメータは照射制御システム300を通して照射野形成装置200に設定され、加速器運転パラメータはイオンビーム発生装置1に設定される。
【0015】
イオンビーム発生装置1は、イオン源2,前段加速器3,低エネルギービーム輸送系4,シンクロトロン5を備え、所定のビームエネルギーのイオンビームを発生させる。イオン源2で生成されたイオンビームは、前段加速器3で前段加速され、低エネルギービーム輸送系4を通ってシンクロトロン5に供給される。
【0016】
シンクロトロン5は、その周回軌道上に、加速装置6,出射用の高周波印加装置7,出射用デフレクタ13,4極電磁石(図示せず),偏向電磁石15を備える。高周波印加装置7は、出射用の高周波印加電極(図示せず)を備え、出射用の高周波供給装置12に接続される。高周波供給装置12は、出射用の高周波電源8,信号合成装置10,スイッチ(開閉装置)9及び11を備える。スイッチ9は、インターロック用及び照射完了用のスイッチである。スイッチ11は、照射途中のビームのON/OFFスイッチである。
【0017】
高周波印加装置7は、閉じられているスイッチ9及び11と、信号合成装置10を介して、高周波電源8から高周波電力の供給を受ける。シンクロトロン5の周回軌道を周回するイオンビームは、加速装置6に設けられた高周波加速空胴(図示せず)に高周波を印加することによって加速される。イオンビームが所望のエネルギー(例えば70〜250MeV)まで加速された後、高周波電源8からの高周波電力が、高周波印加電極によりシンクロトロン5内を周回しているイオンビームに印加されたとき、イオンビームがシンクロトロン5から出射される。
【0018】
高エネルギービーム輸送系16は、シンクロトロン5と照射野形成装置200を連絡し、回転ガントリー14にも一部設置されている。シンクロトロン5から取り出されたイオンビームは、高エネルギービーム輸送系16を介して、回転ガントリー14に設置された照射野形成装置200に導かれる。回転ガントリー14の回転角度を調整することにより、患者216に対して所望の方向からイオンビームを照射する。
【0019】
図2を用いて、照射野形成装置200を説明する。図2は、照射野形成装置200の詳細説明図である。照射野形成装置200は、イオンビーム発生装置1により生成されたイオンビームを患部216aの形状に合わせて整形する装置である。照射野形成装置200は、ケーシング201内に、保持部材203を介して取り付けられたビーム走査電磁石202,保持部材207を介して取り付けられた散乱体206,保持部材209を介して取り付けられたリッジフィルタ208,保持部材211を介して取り付けられたレンジシフタ210,保持部材213を介して取り付けられた線量モニタ212及びビーム位置モニタ218,ボーラス214,コリメータ215を備える。
【0020】
走査電磁石202は、時間的にビームを走査して患部216aの横方向において一様な線量分布を形成する。走査電磁石202は走査電磁石電源219に接続され、走査電磁石電源219は走査電磁石電源制御装置220に接続される。走査電磁石202は、ビーム進行方向に垂直な平面内において直交する2方向(例えばX方向とY方向)にビームを走査する1対の電磁石で構成される。1対の電磁石は、ビームをX方向に走査する202aと、ビームをY方向に走査する202bからなる。
【0021】
走査電磁石電源219は、1対の走査電磁石202に電流を供給して磁場を発生させ、ビームを偏向させる。この供給電流によりビームの偏向量が決定されるため、供給電流を調整することで、横方向の任意の位置にビームを照射できる。走査電磁石電源制御装置220で設定された電流が、走査電磁石電源219から走査電磁石202に供給される。走査電磁石に供給する電流値とビーム照射位置との関係は、中央制御装置100のメモリ101に予め記憶させておく。
【0022】
走査電磁石電源制御装置220による設定電流値は、照射制御システム300に設けられた領域判定装置301(図3参照)に送信される。走査電磁石202の磁場発生領域には、磁場強度測定器205が設けられている。磁場強度測定器205は走査電磁石202の磁場強度を検出し、検出された磁場強度は、照射制御システム300に設けられた領域判定装置301に送信される。領域判定装置301が、設定電流値により意図した磁場強度になっていることを確認することで、ビーム照射時の安全性を向上させている。
【0023】
本実施例では、設定された走査電磁石202の励磁電流値により励磁領域(照射領域)を判定するが、磁場強度測定器205で検出された磁場強度の測定結果(測定値)に基づいて励磁領域を判定してもよい。また、ビーム位置モニタ218で検出されたビーム位置から励磁領域が判定できるため、設定した磁場強度により所望の領域にビームが走査されているかを確認する構成にすることで、ビーム照射時の安定性が向上する。
【0024】
散乱体206は、物質によるイオンの散乱現象によりビームの横方向分布を拡大するためのものである。散乱後のビームの空間的な強度分布は、ほぼガウス分布になる。散乱体206は、一般に散乱量に対するエネルギー損失が少ないタングステン等の原子番号の大きい物質によって構成される。散乱体206は、複数の物質の混合物でもよく、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、ビーム進行方向における板部材の厚みの合計を変化させることも可能である。本実施例では、散乱体206は、走査電磁石202の下流側に配置されているが、走査電磁石202の上流側に配置しても良い。
【0025】
リッジフィルタ208は、ビームに複数のエネルギー領域を形成し、患部216aの深さ方向に形成される複数のブラッグピークを重ね合わせることで、広く一様な線量分布を形成するためのものである。リッジフィルタ208は、複数の楔形構造物208aと、その支持部208bを有する。隣り合う楔形構造物208aの間には、それぞれ開口が形成されている。楔形構造物208aは階段状に配置された複数の平面領域を有しており、ビーム軸方向(進行方向)におけるリッジフィルタ208の底面から各平面領域までの厚みがそれぞれ異なっている。楔形構造物208aは、その両側に位置する開口から、ビーム軸方向において最も高い位置にある平面領域に向かって、ビーム軸方向の厚みが段階的に増加するように形成されている。
【0026】
即ち、リッジフィルタ208は、ビームの通過位置に応じてビームが通過する部分の厚みが変化する。これにより、リッジフィルタ208通過後のビームエネルギーが変化し、それぞれのビームエネルギーに対応した、異なる深さにブラッグピークを形成することで、患部216aにおける所望の深さの広い領域に一様な照射野を形成できる。
【0027】
リッジフィルタ208は、楔形構造物208aの厚みが異なる方向(横方向)の幅を小さくし、通過位置によるビームエネルギーの違いを緩和することで、横方向位置におけるエネルギー分布の違いを低減している。本実施例のリッジフィルタ208は、階段状に配置された複数の平面領域を有する複数の楔形構造物208aを備えているが、厚みが異なる構成であればよい。また、楔形構造物208aの厚みの差によるビーム散乱量を補償するために、楔形構造物208aの厚みが異なる方向(横方向)に厚みの異なる散乱補償体を設けてもよい。
【0028】
レンジシフタ210は、イオンビームの最大飛程を患部216aの最大深さと一致させるものである。レンジシフタ210は、エネルギー損失に対してビーム散乱量の小さい樹脂等の原子番号の小さな物質によって構成される。イオンビームがレンジシフタ210を通過するとエネルギーを失うので、イオンビームの最大飛程を減らすことができる。これにより、イオンビームの最大飛程を患部216aと一致させることができる。レンジシフタ210は、厚みの異なる複数の板部材を重ねて構成し、板部材の組合せ方により、ビーム進行方向の厚みの合計を変化させることができる。イオンビームの最大飛程を患部216aと一致させるには、レンジシフタ210を用いずに、シンクロトロン5によるイオンビームの加速エネルギーを減らしても良い。また、高エネルギービーム輸送系16でビームのエネルギーを損失させても良い。
【0029】
上記の過程を経て、横方向に走査され、深さ方向に拡大されたイオンビームは、線量モニタ212に入射し、通過したビーム量が計測される。線量モニタ212は、ビーム下流側(レンジシフタ210よりも下流側)に配置すると、患部216aに照射する直前のイオンビームの通過量を計測できる。線量モニタ212は、ビーム上流側(リッジフィルタ208,レンジシフタ210などのイオンビームのエネルギーを変化させる機器よりも上流側)に配置すると、エネルギーの違いによる線量モニタ212からの出力信号の補正計算等の手間を省ける。
【0030】
ボーラス214は、例えば樹脂製のブロック体を掘削加工したものであり、横方向のビーム入射位置に応じてビームの樹脂通過厚さが変化する。これにより、イオンビームのボーラス214通過後のエネルギーを入射位置ごとに変化させることができ、イオンビームの到達深さを患部216aの深さ方向における形状と合致させることができる。
【0031】
コリメータ215は、放射線遮蔽体によって構成され、患部216aに対応する貫通孔を形成している。コリメータ215は、横方向に拡大されたイオンビームのうち、その貫通孔を通過したイオンビームのみを患部216aに照射する。
【0032】
ボーラス214とコリメータ215は、患部216aの形状に合わせて加工され、患部216a毎に交換される。コリメータ215としてマルチリーフコリメータを用い、リーフを移動して患部216aの横方向の形状に合わせることにより、コリメータの加工や交換の手間を省くことができる。
【0033】
図3を用いて、照射制御システム300を説明する。図3は、照射制御システム300の詳細構成図である。照射制御システム300は、所望の照射野を形成するために、走査電磁石202の走査領域毎にビーム照射量(吸収線量)を管理する。走査領域は、走査電磁石202の全励磁範囲において、複数に分割して形成される一つの励磁領域として表すことができる。照射制御システム300は、領域判定装置301,振り分け装置303,開閉信号生成装置307,照射完了信号生成装置309,インターロック信号生成装置310,メモリ(目標値メモリ)305,カウンタ(マルチチャンネルカウンタ)304,メモリ(照射中領域メモリ)311を備える。
【0034】
領域判定装置301は、メモリ(領域判定装置メモリ)302を備え、中央制御装置100,磁場強度測定器205,メモリ311にそれぞれ接続される。振り分け装置303は、メモリ311,線量モニタ212,カウンタ304にそれぞれ接続される。開閉信号生成装置307は、メモリ311,カウンタ304,メモリ305,スイッチ11にそれぞれ接続される。照射完了信号生成装置309は、カウンタ304,メモリ305,中央制御装置100にそれぞれ接続されている。インターロック信号生成装置310は、カウンタ304,メモリ305,中央制御装置100にそれぞれ接続されている。カウンタ304は、カウンタ1からカウンタN2までのN2個のカウンタと、カウンタSの合計(N2+1)個のカウンタを含む。カウンタ1からカウンタN2は、それぞれ、振り分け装置303を介して線量モニタ212に接続される。カウンタSは、振り分け装置303を介さずに、線量モニタ212に接続される。
【0035】
以下、図4を用いて、照射制御システム300の主要構成機器の動作を説明する。図4は、照射制御システム300による照射制御方法の概略説明図である。中央制御装置100によりビーム照射開始信号が生成されると、シンクロトロン5,領域判定装置301,振り分け装置303,開閉信号生成装置307,照射完了信号生成装置309,インターロック信号生成装置310がそれぞれの動作を始め、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が開始される。
【0036】
まず、中央制御装置100のメモリ101に記憶されている情報のうち、図9に示す情報が、照射制御システム300のメモリ305に取り込まれる。図9の情報は、励磁領域の領域番号毎の、目標ビーム照射量(目標値)とその許容値、目標ビーム照射量の比率(Ni/NS)とその許容値である。メモリ305内のメモリ領域306−1乃至306−N2,306−S内に、該当する領域番号に対する関連情報(例えば、目標ビーム照射量とその許容値等)がそれぞれ記憶される。
【0037】
領域判定装置301の役割は、走査電磁石電源制御装置220によって設定された電流値を励磁領域に変換することである。領域判定装置メモリ302は、設定された走査電磁石202への電流値とこれに対応する励磁領域(全励磁領域の個数をN2 個とする)が、互いに関係付けられている励磁領域の番号(領域番号)、その励磁領域の開始電流値及び終了電流値の各情報がデータテーブルとして登録されている(図5,図6参照)。これらの情報は、領域判定装置301によって中央制御装置100のメモリ101から取り込まれる。
【0038】
図5に示すように、例えば、ビームをX方向に走査する走査電磁石202aの励磁電流範囲がIMIN〜IMAX[A]とすると、領域番号X1は、走査電磁石の励磁電流値がIMIN〜I1に対応する励磁領域(照射領域)、領域番号Xiは、走査電磁石の励磁電流値がIi-1〜Iiに対応する励磁領域、領域番号XNは、走査電磁石の励磁電流値がIN-1〜IMAXに対応する励磁領域であることを示す。
【0039】
上記した励磁領域(照射領域)は、ビームをY方向に走査する走査電磁石202bにも設定されている。図6に示すように、例えば、走査電磁石202bの励磁電流範囲がI′MIN〜I′MAX[A]とすると、領域番号Y1は、走査電磁石の励磁電流値がI′MIN〜I′1に対応する励磁領域、領域番号Yiは、走査電磁石の励磁電流値がI′i-1〜I′iに対応する励磁領域、領域番号YNは、走査電磁石の励磁電流値がI′N-1〜I′MAXに対応する励磁領域であることを示す。
【0040】
全体として、2次元にビームを走査する場合は、全励磁領域(全照射領域)の数はN2個となり、この2次元平面(XY平面)上での領域番号と、X方向及びY方向の領域番号との関係は、図8のようなデータテーブルとして、中央制御装置100のメモリ101に登録される。また、以上のデータテーブルを全て一つのデータテーブルにまとめて、図7のようなデータテーブルとして、中央制御装置100のメモリ101に登録してもよい。
【0041】
目標値は、ビーム照射量の目標値を示す。つまり、患者毎に選定されたビーム位置モニタ218の各領域番号(励磁領域番号)での吸収線量の目標値(目標線量値)である。目標値の許容値は、ビーム位置モニタ218の各領域番号における吸収線量の目標値の許容値である。目標線量比率は、全吸収線量に対する各領域番号での吸収線量との比率を示す。目標線量比率の許容値は、この比率の許容値である。
【0042】
メモリ101に記憶されている図7に示す各情報は、ある患者に対する治療計画作成時に、医師が治療計画装置102を用いて設定(作成)する情報である。設定された各情報は、一旦メモリ103に保存され、ある患者の治療前に中央制御装置100によってメモリ101に取り込まれる。図7の情報は、全ての患者毎に別の情報を用意する必要はなく、例えば領域番号と励磁領域の関係を、予め共通項目として設定しておくことも可能である。
【0043】
次に、領域判定装置301は、イオンビームを患部216aに照射している間、走査電磁石電源制御装置220から入力した走査電磁石202の励磁電流を、上記データテーブルを用いて、イオンビームが通過している励磁領域に変換する。具体的には、その励磁領域の領域番号(領域番号iなど)に変換する。このイオンビームが通過している励磁領域を、照射励磁領域という。照射励磁領域は、メモリ311に記憶される。即ち、メモリ311には、照射野形成装置200内でビーム経路に位置している照射励磁領域が記憶される。走査電磁石202の励磁電流を照射励磁領域に変換してメモリ311に記憶させる処理は、イオンビームの出射中に繰り返し行われる。このため、メモリ311には、常に、ビーム経路に位置している照射励磁領域が記憶されている。
【0044】
患者216の体内におけるイオンビームの照射位置は、走査電磁石電源制御装置220により設定される走査電磁石202の励磁電流により決まる。従って、患者216の体内での照射領域と、走査電磁石電源制御装置220で設定される励磁電流値との間に対応関係を付けると、横方向のイオンビーム照射量の管理が可能となる。しかし、この対応関係はなくてもよい。
【0045】
振り分け装置303は、線量モニタ212で逐次計測されるビーム照射量(吸収線量)を、走査電磁石電源制御装置220で設定される励磁領域に対応する各カウンタ(カウンタ304のカウンタ)に振り分ける。まず、メモリ311に記憶された励磁領域(領域番号i)を読み込む。領域番号iに対応するカウンタ−kに、線量モニタ212からのビーム照射量を出力する。即ち、カウンタkには、領域番号iの励磁領域に対して計測されたビーム照射量(吸収線量)が積算して記録される。これにより、全ての励磁領域(領域番号1〜N2 )におけるそれぞれのビーム照射量を独立にカウントできる。また、カウンタSには、線量モニタ212で計測されたビーム照射量の信号がそのまま入力され、全領域の合計照射線量がカウントされる。
【0046】
本実施例では、全領域の合計照射線量を別カウンタで計測する構成としたが、全ビーム照射量は、カウンタ1からカウンタN2までのカウント値を合計する構成としても良い。この場合、カウンタSを節約できる。また、ビーム照射量をそれぞれのカウンタに記録する方法として、カウンタ1からカウンタN2のカウンタにビーム照射量の信号を常に入力し、領域番号iと判定された場合、対応するカウンタkのみを計測ON、それ以外のカウンタを計測OFFとするように、カウンタ304の計測のON/OFFを切り替えてもよい。
【0047】
また、カウンタは、必ずしも分割された領域と同じ数が必要ではない。例えば、カウンタの数は数個程度として、各励磁領域のビーム照射量をカウントした後、別に設けたメモリに領域番号iと関連付けてカウント量を保存し、その後カウンタをリセットして、次の領域のビーム照射量をカウントする方式としてもよい。この際、再び領域番号iの励磁領域が照射される場合には、別に設けたメモリからこれまでのカウント数をカウンタに読み込んで、ビーム照射量をカウントすることで、領域番号iに照射されたビーム量の積算値を求めることができる。
【0048】
開閉信号生成装置307は、照射野形成装置200内でビーム経路に位置している励磁領域(照射領域)の照射済みビーム照射量と目標線量(目標値)とを比較し、スイッチ11を開閉してシンクロトロン5からのビーム出射のON/OFF制御を行う。まず、メモリ305から励磁領域ごとの目標値を取り込む。次に、開閉信号生成装置307は、メモリ311から照射中の励磁領域の情報を取り込んで、領域番号iの励磁領域における目標値と照射済みビーム照射量とを比較する。
【0049】
照射済みビーム量が目標値に到達していれば、開閉信号生成装置307は、ビームOFF信号を生成して、スイッチ11に送信する。これにより、スイッチ11が開き、高周波印加装置7への出射用高周波信号の印加が停止され、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。
【0050】
照射済みビーム量が目標値未満であれば、開閉信号生成装置307は、ビームON信号を生成して、スイッチ11に送信する。これにより、スイッチ11は閉じられ、高周波印加装置7へ出射用高周波信号が印加される。これにより、イオンビームは、目標値未満である励磁領域のみに照射される。
【0051】
本実施例では、照射中の領域をメモリ311に記憶しているが、領域判定装置301による励磁領域の判定結果を、直接、振り分け装置303及び開閉信号生成装置307に入力することも可能である。ビーム経路に位置している励磁領域の情報を、振り分け装置303及び開閉信号生成装置307に入力するためには、動作タイミングを領域判定装置301と合わせる必要があるため、制御は複雑になる。
【0052】
イオンビームの照射が進むにつれ、目標値のイオンビーム照射量が各励磁領域を通して患部216aに照射される。インターロック信号生成装置310の役割は、患者216を不要なイオンビームの照射から防ぐことである。まず、インターロック信号生成装置310は、メモリ305から各励磁領域ごとの目標値とその許容値,全領域の合計目標値とその許容値を取り込む。メモリ305には、予め、中央制御装置100から取り込んだ励磁領域毎の目標値とその許容値に加え、全励磁領域の合計ビーム照射量目標値とその許容値を取り込んでおく。次に、カウンタ304から各励磁領域ごと及び全励磁領域の照射済みビーム照射量を取り込む。カウンタSはビーム照射量の総量をカウントするので、カウンタiとカウンタSのカウント値の比を取ると、領域番号iの励磁領域に照射されたビーム照射量の全照射量に対する比率を算出できる。
【0053】
インターロック信号生成装置310は、カウンタSのカウント値(全励磁領域の照射済みビーム量の合計)が(目標値S+許容値S)の値以下であることを確認する。カウンタSのカウント値が(目標値S+許容値S)の値を超えた場合、これはイオンビームの過照射を意味するので、インターロック信号生成装置310はビーム照射停止信号を生成して、中央制御装置100に送信する。インターロック信号生成装置310は、各励磁領域についても、同様に照射済みビーム量が(目標値i+許容値i)以下であることを確認する。
【0054】
また、カウンタ304から得た各励磁領域のビーム照射量の比率が(目標比率Ri±許容値ΔRi)内であることも確認する。この比率が許容範囲から外れた場合は、ビーム照射量の各励磁領域間での偏りを意味するので、インターロック信号生成装置310は、ビーム照射停止信号を生成して、中央制御装置100に送信する。ビーム照射停止信号を受け取った中央制御装置100は、ビーム出射中止指令を生成して、インターロック用のスイッチ9に出力する(信号線省略)。これにより、スイッチ9は開き、高周波電源8から高周波印加電極への高周波電力の供給が停止され、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。
【0055】
このようにして、インターロック信号生成装置310が、カウンタ304からの現在のビーム照射量の取り込み、ビーム照射量とその比率が許容範囲内にあることの確認、を繰り返すことにより、想定外のイオンビーム照射を防ぐことができる。
【0056】
照射完了信号生成装置309は、全励磁領域(全照射領域)で目標量のイオンビームが照射されたか判定し、完了した場合は照射完了信号を生成する。初めに、照射完了信号生成装置309は、メモリ305から励磁領域ごとの目標値を取り込む。次に、カウンタ304から励磁領域毎のビーム照射量を取り込み、励磁領域毎に目標値とビーム照射量を比較する。全励磁領域でビーム照射量が目標値に到達すれば、照射完了信号生成装置309は、照射完了信号を中央制御装置100に出力する。照射完了信号生成装置309は、ビーム照射量が目標値未満の励磁領域が少なくとも1つあれば、カウンタ304からビーム照射量を取り込んで目標値と比較する処理を再度実施する。開閉信号生成装置307により、ビーム照射量が目標値未満の励磁領域に対してのみイオンビームが照射されるので、最終的には、全領域で目標値のビーム照射量が照射される。
【0057】
中央制御装置100は、照射完了信号を受け取ると、ビーム出射完了信号を生成して、照射(出射)完了用のスイッチ9に伝える。ビーム出射完了信号によって照射完了用のスイッチ9が開くため、高周波印加電極への高周波電力の供給が停止され、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止される。
【0058】
表示装置308は、走査電磁石電源制御装置220から設定される走査電磁石202の励磁領域ごとの照射済みビーム照射量と目標値を表示する。表示装置308は、カウンタ304及び中央制御装置100に接続され、励磁領域毎に線量モニタ212で計測された線量カウンタ値,全励磁領域の線量カウンタ値の合計,励磁領域毎の目標値を、ビーム照射中に逐次表示する。これにより、ビーム照射の進捗状況を運転者に知らせる。また、照射パラメータ、使用している機器を表示装置308に表示することにより、運転者はビーム照射条件を容易に把握できる。また、励磁領域毎のビーム照射量とその合計との比率を、表示装置308に表示しても良い。これにより、照射が偏り無く進行していることを運転者に知らせることができる。
【0059】
本実施例の粒子線治療装置を用いた患部216aへのビーム照射方法について、説明する。イオン源2で生成されたイオンビームは、前段加速器3で前段加速され、低エネルギービーム輸送系4を通ってシンクロトロン5に供給される。イオンビームは、シンクロトロン5内を周回する間に、高周波加速空胴(図示せず)によって加速される。イオンビームが所望のエネルギーまで加速された後、高周波電源8からの高周波電力が、スイッチ9及び11を通って高周波印加装置7の高周波印加電極により、シンクロトロン5内を周回しているイオンビームに印加される。これにより、安定限界内を周回しているイオンビームが、安定限界外に移行してシンクロトロン5から出射される。このイオンビームは、出射用デフレクタ13及び高エネルギービーム輸送系16を通って照射野形成装置200に供給される。
【0060】
イオンビームは、照射野形成装置200内において、ビーム経路上に配置された走査電磁石202,散乱体206,リッジフィルタ208,レンジシフタ210,線量モニタ212,ビーム位置モニタ218,ボーラス214,コリメータ215を通過して、治療ベッド217上の患者216の患部216aに照射される。ビーム照射中、走査電磁石電源制御装置220で設定された励磁電流が、走査電磁石電源219から走査電磁石202に供給され、患部216a内の線量分布が一様となるように、ビームが走査される。
【0061】
照射野形成装置200内を通過するイオンビームのビーム照射量(吸収線量)が、線量モニタ212によって計測される。線量モニタ212で計測された線量が目標値に達すると、照射(出射)完了用のスイッチ9が開き、シンクロトロン5からのイオンビームの出射が停止され、患部216aに対するイオンビームの照射が終了する。
【0062】
本実施例では、患部216a内のイオンビームの進行方向(深さ方向)の線量分布を一様にするために、リッジフィルタ208を用いている。リッジフィルタ208は、その楔形構造物208aの最大厚みにより、線量分布が一様な領域の深さ方向の大きさが決まる。このため、楔型構造物208aの最大厚みが異なる複数のリッジフィルタを用意し、複数のリッジフィルタを交換することで、線量分布が一様な領域の深さ方向の大きさを調整する。
【0063】
開閉信号生成装置307は、各領域番号に対応する励磁領域ごとに、線量モニタ212で測定されたビーム照射量(吸収線量)の積算値が目標値に到達しているか否かを判定する。開閉信号生成装置307は、その積算値が目標値に到達している励磁領域に対しては、ビームOFF信号を生成する。これにより、前述したように、スイッチ11が開き、その励磁領域に対するイオンビームの供給が停止される。開閉信号生成装置307は、ビーム照射量の積算値が目標値に到達していない励磁領域に対しては、ビームON信号を生成する。これにより、前述したように、スイッチ11は閉じた状態で、その励磁領域に対してイオンビームが供給される。
【0064】
本実施例は、イオンビームの出射開始及び出射停止(ON/OFF)を制御することで、目標値に到達した励磁領域にイオンビームを供給せず、目標値に到達していない励磁領域にイオンビームを供給することにより、患部216a内のイオンビームの横方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができる。このため、患部216a内のイオンビームの横方向における線量分布を、容易に治療計画で定めた所望の線量分布にすることができ、患部216a内のイオンビームの横方向における各位置で、照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。
【0065】
本実施例では、走査電磁石電源制御装置220で設定された走査電磁石202の励磁電流に基づいて、図7のデータテーブルで設定されたビーム強度(出射量)となるように、シンクロトロン5から出射するイオンビームのビーム出射量(ビーム出射強度)を制御している。具体的には、照射制御システム300で判定された領域番号に対応するビーム強度に応じて、高周波印加装置7に供給される高周波信号の振幅を調整する変調信号を、中央制御装置100から信号合成装置10に送信する。これにより、図10に示すような高周波信号の振幅変調が行われ、シンクロトロン5からのビーム出射量を、所望の強度に調整する。このようにして、励磁領域ごとの目標照射量の多少(大小)に応じて、イオンビーム強度を制御することができ、照射完了前の段階でも、イオンビームの横方向において所望の線量分布を形成することができるため、より安全性の高い照射が実現可能となる。
【0066】
本実施例は、イオンビームの照射中、走査電磁石202による複数の励磁領域のうち、少なくとも1つを含む励磁領域群において、照射済み積算イオンビーム量と目標積算イオンビーム量とを比較し、何れかの励磁領域で目標値を超過した量のイオンビームが照射されたときに、イオンビームの照射を中止させる手段(インターロック信号生成装置310)を備える。これにより、イオンビームを照射中に、照射済み積算イオンビーム量と目標積算イオンビーム量とを逐次比較し、想定外のイオンビーム照射が行われた場合(目標値に対して予め設定した許容値の範囲を超過した場合など)に、直ちにイオンビームの照射を中止することができるので、信頼性をより高くできる。
【0067】
本実施例は、走査電磁石202による複数の励磁領域のうち、少なくとも1つを含む第1の励磁領域群への照射済みイオンビーム量と、第1の励磁領域群に含まれない励磁領域を少なくとも1つ含む第2の励磁領域群への照射済みイオンビーム量の比が、予め設定した許容値の範囲を超えた場合に、イオンビームの照射を中止する手段を備える。これにより、イオンビーム照射中に、第1の励磁領域群及び第2の励磁領域群における照射済み積算イオンビーム量と目標イオンビーム量とのそれぞれの割合を逐次比較し、予め設定した許容値を超えてイオンビーム照射が行われた場合に、直ちにイオンビームの照射を中止することができるので、信頼性をより高くできる。
【0068】
本実施例では、円形加速器としてシンクロトロン5を例にとって説明したが、シンクロトロン5の替わりにサイクロトロンを用いた場合にも適用できる。サイクロトロンの場合は、サイクロトロンにイオンビームを供給するイオン源の電源のON/OFFによって、サイクロトロンから照射野形成装置へのイオンビームの出射開始及び出射停止を制御する。加速装置としてサイクロトロンを用いた粒子線治療装置は、図1において、シンクロトロンをサイクロトロンに替えた構成を有し、高周波供給装置12がない。サイクロトロンを用いた粒子線治療装置では、開閉信号生成装置307から出力されるビームON信号及びビームOFF信号は、電源とイオン源とを接続する配線に設けられた開閉装置の開閉制御に用いられる。このような開閉装置の制御によって、図1の実施例と同様に、目標値に到達した走査電磁石202の励磁領域にイオンビームを供給せず、目標値に到達していない励磁領域にイオンビームを供給することができる。このため、患部216a内のイオンビームの横方向における各位置に対する照射線量を容易に調節することができ、患部216a内のイオンビーム進行方向の各位置において照射線量の過不足が生じる誤照射の確率を著しく低減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、陽子,炭素イオン等のイオンビームを患部に照射して治療する荷電粒子ビーム照射システムに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明による粒子線治療装置の一実施例の概略構成図。
【図2】図1の照射野形成装置の詳細説明図。
【図3】図1の照射制御システムの詳細構成図。
【図4】図1の照射制御システムによる照射制御方法の概略説明図。
【図5】X方向の励磁領域の領域番号と、走査電磁石の励磁電流の開始電流値及び終了電流値との関係を示すデータテーブル。
【図6】Y方向の励磁領域の領域番号と、走査電磁石の励磁電流の開始電流値及び終了電流値との関係を示すデータテーブル。
【図7】XY平面上での領域番号と、X方向及びY方向の領域番号,ビーム照射量の目標値とその許容値などとの関係を示すデータテーブル。
【図8】XY平面上での領域番号と、X方向及びY方向の領域番号との関係を示すデータテーブル。
【図9】励磁領域の領域番号と、ビーム照射量の目標値とその許容値などとの関係を示すデータテーブル。
【図10】ビーム出射用高周波信号の振幅変調の概略説明図。
【符号の説明】
【0071】
1 イオンビーム発生装置
2 イオン源
3 前段加速器
4 低エネルギービーム輸送系
5 シンクロトロン
6 加速装置
7 高周波印加装置
8 高周波電源
10 信号合成装置
9,11 スイッチ
14 回転ガントリー
16 高エネルギービーム輸送系
100 中央制御装置
101,302,305 メモリ
200 照射野形成装置
201 ケーシング
202 走査電磁石
203 走査電磁石保持部材
205 磁場強度測定器
206 散乱体
208 リッジフィルタ
210 レンジシフタ
212 線量モニタ
214 ボーラス
215 コリメータ
219 走査電磁石電源
220 走査電磁石電源制御装置
300 照射制御システム
301 領域判定装置
303 振り分け装置
304 カウンタ
307 開閉信号生成装置
308 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石とを有し、前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームを照射対象に照射する荷電粒子ビーム照射システムにおいて、
前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの前記照射面上における照射位置及び線量に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項2】
請求項1において、前記制御装置は、前記照射面上の複数の領域を通過した前記荷電粒子ビームの線量の積算値を前記領域毎に求め、前記領域毎の積算値に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項3】
請求項2において、前記制御装置は、前記積算値が目標線量に達した前記領域がビーム経路に位置するときは、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射を停止し、前記積算値が前記目標線量に達していない前記領域が前記ビーム経路に位置するときは、前記荷電粒子ビーム発生装置から前記荷電粒子ビームを出射することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項4】
請求項2において、何れかの前記領域の前記積算値が、当該領域で設定された許容値以上になったときに、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射を停止する装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項5】
請求項2において、前記照射面上における第1照射領域を通過した前記荷電粒子ビームの前記積算値と、前記第1照射領域以外の照射領域である第2照射領域を通過した前記荷電粒子ビームの前記積算値との比が、設定した許容値を越えたときに、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射を停止する装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項6】
請求項2において、前記領域毎の前記積算値を表示する表示装置を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項7】
請求項1において、前記走査磁石の磁場強度を制御する磁場強度制御装置と、前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの線量を計測する計測装置とを備え、
前記制御装置は、前記磁場強度制御装置により設定される磁場強度及び前記線量に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項8】
請求項1において、前記走査磁石の磁場強度を検出する磁場強度測定器と、前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの線量を計測する計測装置とを備え、
前記制御装置は、前記磁場強度測定器で検出された前記磁場強度及び前記線量に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項9】
請求項1において、前記走査磁石により走査される前記荷電粒子ビームの照射位置を検出するビーム位置測定装置と、前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの線量を計測する計測装置とを備え、
前記制御装置は、前記ビーム位置測定装置で検出された前記荷電粒子ビームの照射位置及び前記線量に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項10】
出射用の高周波印加装置を有し、荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射された前記荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石を有し、前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの前記照射面上における位置及び前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記高周波印加装置に供給する高周波信号の振幅を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項11】
荷電粒子ビームを生成するイオン源と、
前記イオン源から出射した前記荷電粒子ビームを、加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、前記荷電粒子ビーム発生装置から出射した前記荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石を有し、前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの前記照射面上における位置及び前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの線量に基づいて、前記イオン源からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項12】
荷電粒子ビームを加速して出射する荷電粒子ビーム発生装置と、
前記荷電粒子ビーム発生装置から出射した前記荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石を有し、前記荷電粒子ビームを照射対象に照射するビーム照射装置とを備え、
前記照射面上で分割して形成される複数の領域のうち、目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に達していない他の前記領域に前記荷電粒子ビームを供給する制御装置を備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項13】
請求項12において、前記制御装置は、前記領域を通過した前記荷電粒子ビームの線量の積算値が前記目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記積算値が前記目標線量に達していない他の前記領域に前記荷電粒子ビームを供給することを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項14】
請求項12において、前記走査磁石の磁場強度を制御する磁場強度制御装置を備え、
前記制御装置は、前記磁場強度制御装置により設定される磁場強度に基づいて、前記荷電粒子ビームの供給及び供給停止を行うことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項15】
請求項12において、前記走査磁石の磁場強度を検出する磁場強度測定器を備え、
前記制御装置は、前記磁場強度測定器により検出された前記磁場強度に基づいて、前記荷電粒子ビームの供給及び供給停止を行うことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項16】
請求項12において、前記走査磁石で走査される前記荷電粒子ビームの照射位置を検出するビーム位置測定装置を備え、
前記制御装置は、前記ビーム位置測定装置で検出された前記荷電粒子ビームの照射位置に基づいて、前記荷電粒子ビームの供給及び供給停止を行うことを特徴とする荷電粒子ビーム照射システム。
【請求項17】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを、走査磁石によりビーム進行方向と垂直な照射面上に走査して照射対象に供給し、
前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの前記照射面上における照射位置及び線量に基づいて、前記荷電粒子ビーム発生装置からの前記荷電粒子ビームの出射量を制御することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。
【請求項18】
荷電粒子ビーム発生装置から出射された荷電粒子ビームを、ビーム進行方向と垂直な照射面上に走査する走査磁石に供給し、
前記走査磁石を通過した前記荷電粒子ビームの前記照射面上における走査範囲を分割して形成される複数の領域のうち、目標線量に達した前記領域への前記荷電粒子ビームの供給を停止し、前記目標線量に達していない他の前記領域に前記荷電粒子ビームを供給することを特徴とする荷電粒子ビーム出射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−272139(P2008−272139A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117918(P2007−117918)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】