説明

荷電粒子ビーム装置及び試料加工方法

【課題】加速電圧を小さくしてもビーム径の小さい集束イオンビームを照射可能な荷電粒子ビーム装置を提供すること。
【解決手段】イオンビーム11を発生するイオン源2と、イオンビーム11を試料13に集束させる第一の対物レンズを形成する第一の対物レンズ電極6、7、8と、第一の対物レンズ電極6、7、8よりも試料13に近い位置に配置され、低い加速電圧で加速されたイオンビーム11を試料13に集束させる第二の対物レンズを形成する第二の対物レンズ電極9と、を有するイオンビーム鏡筒10を備えた荷電粒子ビーム装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを用いて試料を加工する荷電粒子ビーム装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化に伴い、デバイスの特定微小領域を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により観察し、評価する技術の重要性が高まっている。TEMで観察するためには、特定微小領域を電子ビームが透過可能な厚さの薄片試料に加工することが必要である。薄片試料の作製には、集束イオンビーム装置が広く用いられている。しかし、集束イオンビーム装置による薄片試料の作製では、薄片試料に集束イオンビーム照射によるダメージ層が形成される問題があった。
【0003】
この問題を解決する手法の1つとして、集束イオンビーム装置にアルゴンイオンビーム照射装置を備えた装置を用いることが知られている(特許文献1参照)。
これによれば、集束イオンビーム照射により形成されたダメージ層に、アルゴンイオンビームを適切な角度から照射し、除去加工することができる。
【0004】
また、別の手法として、低加速電圧で加速された集束イオンビームにより薄片試料を作製することが知られている。これによれば、薄片試料に形成されるダメージ層の厚さを小さくすることができる。しかし、集束イオンビームは加速電圧を低くすると、光学系の色収差が大きくなる。これにより集束イオンビームのビーム径を小さく絞ることができない問題があった。
【0005】
この問題を解決する手法として、中間加速管を有する集束イオンビーム鏡筒を用いることが知られている(特許文献2参照)。
これによれば、光学系の色収差を小さくし、かつ、エネルギーの小さい集束イオンビームを試料に到達させることができる。
また、別の手法として、試料に電圧を印加するリターディング法が知られている。これによれば、試料に到達する直前で集束イオンビームのエネルギーを小さくので、収差を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−66710号公報
【特許文献2】特開2007−103108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の装置では、次のような課題があった。
すなわち、アルゴンイオンビーム照射装置を備えると装置が複雑になる。また、中間加速管を有する集束イオンビーム鏡筒を備えると装置が複雑になる。また、リターディン法を用いる場合、集束イオンビーム鏡筒と試料の間に集束イオンビームに対して対称な電界を形成しなければならない。しかし、試料観察用の電子ビーム鏡筒を備えると、試料付近の電界は非対称になってしまう。そのため、リダーディング効果を奏することができない。
【0008】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、複雑な装置構成を用いることなく、加速電圧を小さくしてもビーム径の小さい集束イオンビームを照射可能な荷電粒子ビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明は、試料を収容する試料室と、イオンビームを加速電圧で加速させ、該試料上に集束するように照射するイオンビーム鏡筒と、を備えた荷電粒子ビーム装置であって、イオンビーム鏡筒は、イオンビーム鏡筒の基端側に収容され、イオンビームを発生させるイオン源と、イオンビームを試料に照射するイオン光学系を備え、イオン光学系は、試料にイオンビームを集束させる第一の対物レンズ電極と、イオンビームを加速する第一の加速電圧より低い第二の加速電圧で加速されたイオンビームを試料に集束させる第二の対物レンズ電極と、を備えることを特徴としている。このため、イオンビームの加速電圧に合わせて、最適な対物レンズを形成し、ビーム径の小さいイオンビームを試料に集束させることができる。
【0010】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、第二の対物レンズ電極は、第一の対物レンズ電極よりイオンビーム鏡筒の先端側に配置されることがより好ましいとされている。第一の対物レンズよりも試料に近い位置に配置された第二の対物レンズを用いることにより、レンズと焦点との距離が短くなるので、低い加速電圧で加速されたイオンビームであっても色収差を小さくすることができる。
【0011】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、第一の対物レンズ電極は、複数の電極からなり、複数の電極は、少なくとも第二の対物レンズ電極に隣接し、接地された電極を備え、接地された電極と、第二の対物レンズ電極と、接地されたイオンビーム鏡筒の先端部と、により第二の加速電圧で加速されたイオンビームを集束させるレンズ電界を形成することがより好ましいとされている。すなわち、荷電粒子ビーム装置は第二の対物レンズ電極を中心としたアインツェルレンズを形成する。これにより、第二の対物レンズ電極を一つの電極から構成することができるので、レンズ電極を組み立てが容易になり、レンズ軸のズレが小さく、精度の良いイオンビーム鏡筒を組み立てることができる。これにより、ビーム径を小さくすることができる。特に、レンズ電極の軸ずれや傾きは観察像の視野ずれの原因になる。従って、レンズ電極を正確に組み立てることが重要である。レンズ電極の軸ずれは15μm以下になるように調整する。
【0012】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、イオン光学系は、第一の対物レンズ電極よりイオンビーム鏡筒の基端側にイオンビームを偏向する偏向電極を備え、偏向電極は、第一の加速電圧で加速されたイオンビームを第一の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように偏向し、第二の加速電圧で加速されたイオンビームを第二の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように偏向することがより好ましいとされている。すなわち、レンズを切替えても、イオンビームの振り戻し位置をレンズの中心にくるようにする。これにより、各レンズの中心にイオンビームを入射させることができるので、収差を小さくすることができる。また、レンズを切替えても照射位置を一致させることができる。そして、偏向電極を用いてイオンビームの照射位置を調整しても、イオンビームがレンズの中心を通っているので、観察像がぼやけることがない。ここで、偏向電極は、静電2段電極で構成され、上下段の電圧比を調整することにより、レンズの中心にイオンビームを入射させる。
【0013】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、イオン光学系は、第一の対物レンズよりイオンビーム鏡筒の基端側にイオンビームを走査する走査電極を備え、走査電極は、第一の加速電圧で加速されたイオンビームを第一の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように走査し、第二の加速電圧で加速されたイオンビームを第二の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように走査することがより好ましいとされている。すなわち、走査したイオンビームをレンズの中心に入射し、イオンビームの振り戻し位置をレンズの中心にくるようにする。これにより、レンズを切替えても、イオンビームの振り戻し位置がレンズの中心にあるので、観察像の歪みを軽減することができる。ここで、走査電極は、静電2段電極で構成され、上下段の電圧比を調整することにより、イオンビームの照射位置を調整する。
【0014】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置のイオン光学系は、さらに、イオン源で発生したイオンビームを集束させる集束レンズ電極と、イオンビームの非点を補正する非点補正電極と、を備える。
【0015】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、加速電圧を入力する入力部と、加速電圧に対応したイオン光学系の設定値を記憶する記憶部と、設定値をイオン光学系に設定する制御部と、を備え、記憶部は、第一の加速電圧に対応する第一の設定値と、第二の加速電圧に対応する第二の設定値とを記憶し、制御部は、入力部で第一の加速電圧を入力した場合、第一の設定値をイオン光学系に設定し、入力部で第二の加速電圧を入力した場合、第二の設定値をイオン光学系に設定することがより好ましいとされている。これにより加速電圧の切替えに応じてイオン光学系の設定も切替えることができるので、ビームの再調整をすることなくスムーズに作業を行うことができる。また、使用する対物レンズを切替えても、イオン光学系の設定も適切な設定値に切り替わるので、観察領域が大きく変化することなく、試料上の同一位置を観察することができる。ここで、記憶部は、イオン光学系に設定する設定値のほかに、入力部から設定値を入力する際の入力感度も記憶していることがより好ましい。入力感度とは、対物レンズ電極、非点補正電極や偏向電極への印加電圧値をオペレータが入力する際の入力部の操作の感度である。
【0016】
また、上記荷電粒子ビーム装置において、第一の設定値は、第一の対物レンズ電極の設定値が一定の電圧値で、第二の対物レンズ電極の設定値が0であり、第二の設定値は、第一の対物レンズ電極の設定値が0で、第二の対物レンズ電極の設定値が一定の電圧値であることがより好ましいとされている。対物レンズ電極に電圧を供給した状態から接地状態にすることで、切替えを短時間で行うことができる。特に、スイッチ機構による切替部で切替えを行うことで、使用する対物レンズの切替え後に発生するイオンビームの照射位置のドリフトを軽減することができる。
【0017】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、第二の対物レンズ電極は、イオンビームが通過可能な孔部を有し、イオンビームに対して略垂直な平面を有する平板部と、イオンビームが通過可能な筒部と、からなる。平板部を用いることで、平板部よりも試料側に配置された絶縁部材にイオンビームが照射されることを防ぐことができる。また、第一の対物レンズ形成時は、接地された筒部が防電シールドとして作用するため、外部電場によるイオンビームへの影響を軽減することができる。
【0018】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、さらに、試料のイオンビームの照射領域に電子ビームを照射可能な電子ビーム鏡筒を備え、電子ビーム鏡筒は、電子ビームを試料に集束させる電子ビーム用対物レンズコイルを有し、電子ビーム用対物レンズコイル中心と試料との距離は、イオンビーム鏡筒の第二の対物レンズ電極中心と試料との距離より大きい。これにより、イオンビームによる試料加工中の試料加工領域に電子ビームを照射し、SEM観察することができる。また、電子ビーム鏡筒の電子ビーム用対物レンズの電界によるイオンビームへの影響を第二の対物レンズ電極により防ぐことができる。また、試料付近の電界の非対称性が軽減するので、電子ビームや試料から発生する二次電子への電子ビーム用対物レンズの電界による影響も防ぐことができる。
【0019】
本発明に係る試料加工方法は、第一の加速電圧でイオンビームを加速させ、第一の対物レンズで集束させ試料を加工する第一の加工工程と、第一の加速電圧よりも低い第二の加速電圧でイオンビームを加速させ、第一の対物レンズよりも試料に近い第二の対物レンズで集束させ、試料を加工する第二の加工工程とからなる。これにより、第二の加工工程では、第二の加速電圧で加速されたイオンビームによりダメージ層の厚さの小さい試料加工を行うことができる。また、試料に近い第二の対物レンズで集束させるため、収差が小さく、ビーム径の小さいイオンビームで加工することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る荷電粒子ビーム装置によれば、第二の対物レンズ電極を用いることで、加速電圧を小さくしてもビーム径の小さい集束イオンビームを照射し、ダメージ層の小さい試料加工を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図2】本発明の実施形態の荷電粒子ビーム装置の対物レンズ電極の配線図である。
【図3】本発明の実施形態の荷電粒子ビーム装置の対物レンズ電極の構成図である。
【図4】本発明の実施形態の荷電粒子ビーム装置の構成図である。
【図5】本発明の実施形態の試料加工方法の試料加工の概略図である。(a)粗加工、(b)仕上げ加工。
【図6】本発明の実施形態の試料加工方法のフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態のイオン光学系の概略図である。
【図8】本発明の実施形態のイオン光学系の概略図である。
【図9】本発明の実施形態のイオン光学系の概略図である。
【図10】本発明の実施形態のイオン光学系の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る荷電粒子ビーム装置の実施形態について説明する。
本実施形態の荷電粒子ビーム装置は、図1に示すように、イオンビーム11を発生するイオン源2と、集束レンズを形成する集束レンズ電極3と、偏向電極4と、非点補正電極5と、走査電極26と、第一の対物レンズを形成する第一の対物レンズ電極6、7、8と、第二の対物レンズを形成する第二の対物レンズ電極9とからなるイオンビーム鏡筒10を備えている。イオンビーム鏡筒10は、接地されたイオンビーム鏡筒外壁1を有し、イオンビーム11の光軸は真空状態になっている。
【0023】
試料室25は、試料13を載置する試料台12と、試料13から発生する二次電子を検出する二次電子検出器14と、試料に原料ガスまたはエッチングガスを供給するガス銃15を備えている。
【0024】
制御部21は、キーボードやマウスなどの入力部23から入力されたイオンビーム照射条件に従い、イオン源2、集束レンズ電極3、偏向電極4、非点補正電極5、第一の対物レンズ電源18にそれぞれ設定値を送信し、イオン源、各電極と電源は設定値に従い、設定値の電圧をそれぞれ印加する。また、入力されたイオンビーム照射条件は、記憶部27に記憶される。入力部23で照射条件切換えを入力すると、切換えに対応した設定値を制御部21が記憶部27から読み出し、イオンビーム鏡筒10の各電極に設定値の電圧を設定する。また、制御部21は、イオンビーム鏡筒10内の可動絞りを制御することにより試料13に照射するイオンビーム電流量を調整する。また、制御部21は、試料13の所望の位置にイオンビーム11を照射できるように試料台12に移動信号を送信し、試料台12を移動させる。そして、試料13の所望の位置にイオンビーム11を照射し、試料13から発生した二次電子を二次電子検出器14で検出する。検出した二次電子の信号は、制御部21に送信される。制御部21で検出信号と、イオンビーム11の走査信号から二次電子像を形成する。二次電子像を表示部22に表示する。
【0025】
また、イオンビーム11照射時に、ガス銃15から試料13にガス源容器16内に収容した原料ガス、またはエッチングガスを供給することにより、イオンビーム11照射領域に原料ガス材のデポジション、またはエッチングガスによる増速エッチングを行うことができる。
【0026】
図2は、本発明に係る荷電粒子ビーム装置の対物レンズ電極の配線図である。第一の対物レンズ電極7と第二の対物レンズ電極9は、それぞれ第一の切替部17と第二の切替部19に接続されている。第一の切替部17は、第一の対物レンズ電極7と第一の対物レンズ電源18とを接続する配線と、第一の対物レンズ電極7を接地する配線とを切替えることができる。また、第二の切替部19は、第二の対物レンズ電極9と第二の対物レンズ電源20とを接続する配線と、第二の対物レンズ電極9を接地する配線とを切替えることができる。また、第一の対物レンズ電源18と第二の対物レンズ電源20は、それぞれ制御部21に接続され、制御部21から送信される設定電圧値の電圧をレンズ電極に印加する。
【0027】
対物レンズ電圧制御部24は、第一の切替部17と第二の切替部19を制御する。第一の対物レンズを形成する場合、対物レンズ電圧制御部24は第一の切替部17と第二の切替部19に次のように配線する信号を送信する。すなわち、第一の切替部17を第一の対物レンズ電極7と第一の対物レンズ電源18とを接続する配線にし、かつ、第二の切替部19を第二の対物レンズ電極9を接地する配線にする。また、第二の対物レンズを形成する場合、対物レンズ電圧制御部24は第一の切替部17と第二の切替部19に次のように配線する信号を送信する。すなわち、第一の切替部17を第一の対物レンズ電極7を接地する配線にし、かつ、第二の切替部19を第二の対物レンズ電極9を第二の対物レンズ電源20とを接続する配線にする。
【0028】
第一の対物レンズを形成する場合、第一の対物レンズ電極6、8を接地し、第一の対物レンズ電極7に10kV以下の電圧を印加することで、第一の対物レンズを形成する。このとき第二の対物レンズ電極9は接地しているのでレンズとして作用しない。ここで、第一の対物レンズ電極7への印加電圧の極性は、正または負とすることが可能である。ただし、イオンビーム11を加速させるために負の電圧を第一の対物レンズ電極7に印加する方が、色収差は小さくなり、小さいビーム径のイオンビームを照射することができる。
【0029】
第二の対物レンズを形成する場合、第一の対物レンズ電極6、7、8を接地し、第二の対物レンズ電極9に5kV以下の電圧を印加することで、第二の対物レンズを形成する。第二の対物レンズ電極9に隣接する第一の対物レンズ電極8とイオンビーム鏡筒外壁1の先端部1aは接地され、第二の対物レンズ電極9に電圧印加することで、アインツェルレンズを形成する。このとき第一の対物レンズ電極7は接地しているのでレンズとして作用しない。ここで、第二の対物レンズ電極9への印加電圧の極性は、正または負とすることが可能である。ただし、イオンビーム11を加速させるために負の電圧を第二の対物レンズ電極9に印加する方が、色収差は小さくなり、小さいビーム径のイオンビームを照射することができる。
【0030】
図3は、本発明に係る荷電粒子ビーム装置の対物レンズ電極の構成図である。第一の対物レンズ電極6、7、8は、イオンビーム11に対して略垂直な平面を有し、イオンビーム11を通過させる孔部を有する平板状の電極である。また、第二の対物レンズ電極9は、イオンビーム11を通過させる孔部9aを有し、イオンビーム11に対して略垂直な平面を有する平板部9bと、筒部9cとからなる。平板部9bよりも試料13側にレンズの耐圧材として絶縁性物質が配置されている場合でも、平板部9bを用いることで、イオンビーム11の光軸から離れた成分が絶縁性物質に照射されるのを防ぐことができる。これによりイオンビーム照射による絶縁性物質のダメージやチャージアップを防ぐことができる。また、筒部9cはイオンビーム11を覆うように配置されているため、筒部9cの内側を通過するイオンビーム11への外部電界の影響を軽減することができる。
【0031】
図7から図10は、本発明の実施形態のイオン光学系の概略図である。図7に示すように、上下二段の静電電極からなる偏向電極4により、イオンビーム71bは第一の対物レンズ電界71のレンズ中心71aを通るように偏向される。これによりイオンビーム71bは、常にレンズ中心71aを通って試料13に照射される。
【0032】
図8は、イオンビーム71bよりも低い加速電圧で加速されたイオンビーム72bを第二の対物レンズ電極9を用いて試料13に照射する場合のイオン光学系の概略図である。レンズを切替えると、イオンビーム71bのビーム軌道では、第二の対物レンズ電界72のレンズ中心72aからずれた位置に照射されてしまう。レンズの中心を通らないビームは収差の影響を受けてしまう。すると、試料13上にビームを集束させることができないため、観察像がぼやけてしまう。そこで、レンズの切換えに伴い、イオンビーム72bが第二の対物レンズ電界72のレンズ中心72aを通るように偏向電極4の設定値を変更する。これによりレンズを切替えてもイオンビーム72bは対物レンズの中心を通るので、試料13上にビームを集束させることができる。
【0033】
イオンビームの加速電圧と使用する対物レンズを切替える場合、試料13上のビームの照射位置がずれてしまうことがある。このずれを、偏向電極4を用いてイオンビームを変更し、補正する。上記のように、偏向電極4は対物レンズの中心をイオンビームが通過するようにイオンビームを偏向するので、照射位置を補正しても観察像がぼやけることはない。
【0034】
また、図9に示すように、走査電極26はイオンビーム81bを試料13上に走査させる。走査電極26は上下二段の静電電極からなる。走査電極26は、イオンビーム81bを第一の対物レンズ電界71のレンズ中心71aを通るように走査させる。これによりイオンビーム81bは、常にレンズ中心71aを通って試料13に照射される。そして、イオンビーム81bは試料13上に走査幅80で走査される。
【0035】
図10は、イオンビーム81bよりも低い加速電圧で加速されたイオンビーム82bを第二の対物レンズ電極9を用いて試料13に照射する場合のイオン光学系の概略図である。レンズを切替えると、イオンビーム81bのビーム軌道では、第二の対物レンズ電界72のレンズ中心72aからずれた位置に照射されてしまう。レンズの中心を通らないビームを用いた試料の観察像は歪んだ像になってしまう。そこで、レンズの切換えに伴い、イオンビーム82bが第二の対物レンズ電界72のレンズ中心72aを通るように走査電極26の設定値を変更する。これによりレンズを切替えてもイオンビーム82bは対物レンズの中心を通るので、試料13上にビームを集束させることができる。
【0036】
イオンビームの加速電圧と使用する対物レンズを切替える場合、試料13上のビームの走査幅がずれてしまうことがある。このずれを、走査電極26を用いて補正する。上記のように、走査電極26は対物レンズの中心をイオンビームが通過するようにイオンビームを走査するので、走査幅を補正しても観察像が歪むことはない。
【0037】
<実施例1>
本実施形態の荷電粒子ビーム装置により分解能が向上した実施例について説明する。試料13を精密な形状に加工するための仕上げ加工で用いるビーム電流量において、加速電圧30kVで加速したイオンビーム11を第一の対物レンズにより試料13に集束させたときのビーム径は数十nm程度であった。このときイオンビーム11が試料13に形成したダメージ層の厚さは20nm程度であった。また、加速電圧2kVで加速したイオンビーム11を第一の対物レンズにより試料13に集束させたときのビーム径は200nm程度であった。このときイオンビーム11が試料13に形成したダメージ層の厚さは20nm程度であった。加速電圧が低い方がイオンビーム11の試料13への侵入深さは小さくなるので、イオンビーム照射による試料に生じるダメージ層の厚さは加速電圧が低い方が小さくなる。しかし、第一の対物レンズにより試料13に集束させた場合では、ビーム径は200nm程度になってしまう。そのため分解能の低い観察になるので、イオンビームの照射位置を正確に決定することが困難であった。
【0038】
一方、加速電圧2kVで加速したイオンビーム11を第二の対物レンズにより試料13に集束させたときのビーム径は100nm程度であった。第二の対物レンズを用いることにより低い加速電圧で加速したイオンビームであってもビーム径を小さくすることができた。これにより正確にイオンビームの照射位置を決定できるようになった。
ここで、加速電圧を2kVとしたが、第二の対物レンズ電極9で放電が発生しない範囲内で加速電圧の値は設定可能である。
【0039】
また、第一の対物レンズから第二の対物レンズへの切替えは、制御部21が予め記憶されたイオン源2と、集束レンズ電極3と、偏向電極4と、非点補正電極5及び第二の対物レンズ電源20への設定値をそれぞれイオン源、各電極と電源に送信する。これにより、レンズ切替え毎に、各構成要素の設定値を調整する必要がなくなった。
【0040】
<実施例2>
図4を用いて、電子ビーム鏡筒を備えた荷電粒子ビーム装置の実施例について説明する。電子源42と、電子ビーム用対物レンズ43とを有する電子ビーム鏡筒41を備えている。電子ビーム44は試料13上のイオンビーム11の照射領域に照射可能である。電子ビーム44をイオンビーム11の照射領域に走査照射することにより、イオンビーム11で試料13の所望位置を加工している様子をSEM観察することができた。
【0041】
ここで、イオンビーム鏡筒10の第二の対物レンズ電極9は、電子ビーム鏡筒41の電子ビーム用対物レンズコイル43よりも試料13に近い位置に配置されている。すなわち、電子ビーム用対物レンズ中心位置46と電子ビーム照射位置47との距離45は、第二の対物レンズ中心位置49とイオンビーム照射位置50との距離48よりも大きい。これにより、イオンビーム11への外部電界による影響を軽減することができた。
【0042】
電子ビーム鏡筒41の対物レンズが電磁場重畳型である場合、電子ビーム用対物レンズを形成時に、イオンビーム11に対して非対称な電界が試料13付近に形成される。イオンビーム11は非対称な電界の影響を受けて、試料13に照射されるビーム形状が変化することがある。
【0043】
しかし、第二の対物レンズ電極9を試料13近くに配置することにより、試料13付近で第二の対物レンズ電極9の筒部9cがイオンビーム11を覆うため、非対称な電界の影響を軽減することができた。
【0044】
また、電子ビーム鏡筒41の対物レンズが電磁場重畳型である場合、電子ビーム用対物レンズを形成時に、電子ビーム44に対して非対称な電界が試料13付近に形成される。この電界の影響を受けて、試料13に照射される電子ビーム44のビーム形状は変形する。
【0045】
しかし、第二の対物レンズ電極9を用いることで、試料13付近の電子ビーム44に対して非対称な電界を軽減することができる。つまり、電子ビーム44に対して、第二の対物レンズ電極9の筒部9cと試料台12がほぼ対向する位置にあるため、電界の非対称性が緩和される。これにより、電子ビーム44のビーム形状は大きく変形することなく、高分解能で試料13を観察することができた。
【0046】
また、電子ビーム鏡筒41は電子ビーム用二次電子検出器34を備えている。電子ビーム鏡筒41の対物レンズが電磁場重畳型である場合、電子ビーム用対物レンズを形成すると試料13付近に電界が発生する。電子ビーム44を試料13に照射し、発生した二次電子は、電子ビーム用対物レンズが形成する電界により電子ビーム用二次電子検出器34に引き込まれ、検出される。しかし、電子ビーム鏡筒41が試料13に対して傾斜して配置されている場合、試料13付近には電子ビーム44に対して非対称な電界が形成される。このため、二次電子の軌道は非対称な電界の影響を受け曲げられ、電子ビーム用二次電子検出器34に到達することが困難になる。
【0047】
しかし、第二の対物レンズ電極9を用いることで、試料13付近の電子ビーム44に対して非対称な電界を軽減することができる。これにより非対称な電界から二次電子が受ける影響は軽減される。従って、電子ビーム用二次電子検出器34の二次電子検出効率は向上し、高品質な二次電子像を得ることができた。
【0048】
<実施例3>
本実施形態の試料加工方法について図5と6を説明する。図5は、本発明に係る試料加工方法の試料加工の概略図である。また、図6は、本発明に係る試料加工方法のフローチャートである。試料13からダメージ層の少ないTEM試料を作製する。
【0049】
図5(a)に示すように加速電圧30kVで加速され、第一の対物レンズで集束されたイオンビーム11を用いて、観察対象である薄片試料部53を残して対向する加工溝51、52を形成する粗加工を実行する(S1)。イオンビーム11の照射により薄片試料部53に隣接する領域にダメージ層54、55が形成される。
【0050】
次に加速電圧を2kVに切替え、対物レンズも第二の対物レンズに切替える(S2)。
次に図5(b)に示すようにイオンビーム11をダメージ層54、55に照射し、除去加工する(S3)。これによりダメージ領域の少ない薄片試料部53を切り出すことができた。
【符号の説明】
【0051】
1…イオンビーム鏡筒外壁
1a…先端部
2…イオン源
3…集束レンズ電極
4…偏向電極
5…非点補正電極
6…第一の対物レンズ電極
7…第一の対物レンズ電極
8…第一の対物レンズ電極
9…第二の対物レンズ電極
9a…孔部
9b…平板部
9c…筒部
10…イオンビーム鏡筒
11…イオンビーム
12…試料台
13…試料
14…二次電子検出器
15…ガス銃
16…ガス源容器
17…第一の切替部
18…第一の対物レンズ電源
19…第二の切替部
20…第二の対物レンズ電源
21…制御部
22…表示部
23…入力部
24…対物レンズ電圧制御部
25…試料室
26…走査電極
27…記憶部
34…電子ビーム用二次電子検出器
41…電子ビーム鏡筒
42…電子源
43…電子ビーム用対物レンズコイル
44…電子ビーム
45…電子ビーム用対物レンズ中心位置と電子ビーム照射位置との距離
46…電子ビーム用対物レンズ中心位置
47…電子ビーム照射位置
48…第二の対物レンズ中心位置とイオンビーム照射位置との距離
49…第二の対物レンズ中心位置
50…イオンビーム照射位置
51…加工溝
52…加工溝
53…薄片試料部
54…ダメージ層
55…ダメージ層
70…中心軸
71…第一の対物レンズ電界
71a…レンズ中心
71b…イオンビーム
72…第二の対物レンズ電界
72a…レンズ中心
72b…イオンビーム
80…走査幅
81b…イオンビーム
82b…イオンビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する試料室と、イオンビームを加速電圧で加速させ、該試料上に集束するように照射するイオンビーム鏡筒と、を備えた荷電粒子ビーム装置であって、
前記イオンビーム鏡筒は、前記イオンビーム鏡筒の基端側に収容され、イオンビームを発生させるイオン源と、前記イオンビームを前記試料に照射するイオン光学系を備え、
前記イオン光学系は、前記試料に前記イオンビームを集束させる第一の対物レンズ電極と、前記イオンビームを加速する第一の加速電圧より低い第二の加速電圧で加速されたイオンビームを前記試料に集束させる第二の対物レンズ電極と、を備える荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記第二の対物レンズ電極は、前記第一の対物レンズ電極より前記イオンビーム鏡筒の先端側に配置された請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記第一の対物レンズ電極は、複数の電極からなり、
前記複数の電極は、少なくとも前記第二の対物レンズ電極に隣接し、接地された電極を備え、
前記接地された電極と、
前記第二の対物レンズ電極と、
接地された前記イオンビーム鏡筒の先端部と、により前記第二の加速電圧で加速されたイオンビームを集束させるレンズ電界を形成する請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記イオン光学系は、前記第一の対物レンズ電極より前記イオンビーム鏡筒の基端側に前記イオンビームを偏向する偏向電極を備え、
前記偏向電極は、前記第一の加速電圧で加速されたイオンビームを前記第一の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように偏向し、前記第二の加速電圧で加速されたイオンビームを前記第二の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように偏向する請求項1から3のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記イオン光学系は、前記第一の対物レンズより前記イオンビーム鏡筒の基端側に前記イオンビームを走査する走査電極を備え、
前記走査電極は、前記第一の加速電圧で加速されたイオンビームを前記第一の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように走査し、前記第二の加速電圧で加速されたイオンビームを前記第二の対物レンズ電極のレンズ中心を通過するように走査する請求項1から3のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記イオン光学系は、前記イオン源で発生した前記イオンビームを集束させる集束レンズ電極と、
前記イオンビームの非点を補正する非点補正電極と、を備える請求項1から5のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記第一の加速電圧と前記第二の加速電圧を入力する入力部と、
前記第一の加速電圧と前記第二の加速電圧に対応した前記イオン光学系の設定値を記憶する記憶部と、
前記設定値を前記イオン光学系に設定する制御部と、を備え、
前記記憶部は、前記第一の加速電圧に対応する第一の設定値と、前記第二の加速電圧に対応する第二の設定値とを記憶し、
前記制御部は、前記入力部で前記第一の加速電圧を入力した場合、前記第一の設定値を前記イオン光学系に設定し、前記入力部で前記第二の加速電圧を入力した場合、前記第二の設定値を前記イオン光学系に設定する請求項1から6のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
前記第一の設定値は、前記第一の対物レンズ電極の設定値が一定の電圧値で、前記第二の対物レンズ電極の設定値が0であり、
前記第二の設定値は、前記第一の対物レンズ電極の設定値が0で、前記第二の対物レンズ電極の設定値が一定の電圧値である請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
前記第一の設定値と第二の設定値は、前記第一の加速電圧で加速されたイオンビームと前記第二の加速電圧で加速されたイオンビームとが同じ領域を照射するように設定された設定値である請求項7に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
前記第二の対物レンズ電極は、前記イオンビームが通過可能な孔部を有し、前記イオンビームに対して略垂直な平面を有する平板部と、前記イオンビームが通過可能な筒部と、からなる請求項1から9のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
前記試料の前記イオンビームの照射領域に電子ビームを照射可能な電子ビーム鏡筒を備え、
前記電子ビーム鏡筒は、前記電子ビームを前記試料に集束させる電子ビーム用対物レンズコイルを有し、
前記電子ビーム用対物レンズコイルの中心と前記試料との距離は、前記イオンビーム鏡筒の前記第二の対物レンズ電極の中心と前記試料との距離より大きい請求項1から10のいずれか一つに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
第一の加速電圧でイオンビームを加速させ、第一の対物レンズで集束させ試料を加工する第一の加工工程と、
前記第一の加速電圧よりも低い第二の加速電圧でイオンビームを加速させ、前記第一の対物レンズよりも前記試料に近い第二の対物レンズで集束させ、前記試料を加工する第二の加工工程とからなる試料加工方法。
【請求項13】
前記第二の加工工程は、前記第一の加工工程で前記試料に形成されたダメージ部分を除去する加工工程である請求項12に記載の試料加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−33467(P2012−33467A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103712(P2011−103712)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】