説明

荷電粒子検出器,飛行時間型質量分析装置

【課題】MCPのイオンの入射方向上流側に配置されたグリッド電極で発生する二次電子に起因する検出誤差を防止することのできる荷電粒子検出器及び飛行時間型質量分析装置を提供すること。
【解決手段】入射されるイオンをMCP11,12を通過させて検出する荷電粒子検出器Xは,MCP11へのイオンの入射面11aに対向して配置されると共に該入射面11aの電位Vinより低い電位Vgが与えられたグリッド電極2を備えている。そして,グリッド電極2は,該グリッド電極2にイオンが照射されたときに発生する二次電子をMCP11の入射面11aに対して離間する方向に移動させる機能を有する。例えば,グリッド電極2は,イオンの入射方向の上流側から下流側のMCP11に向けて先細となる三角形の断面形状を有する複数のグリッド線21により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,入射されるイオンをマイクロチャネルプレート(MCP)を通過させて検出する荷電粒子検出器,及びその荷電粒子検出器を用いてイオンの飛行時間を測定することにより試料の質量分析を行う飛行時間型質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム(イオンビーム,電子ビーム,X線など)を試料に照射すると,該試料からイオン(以下,二次イオンという)が発生する。従来から,その二次イオンが試料から所定距離だけ離れた荷電粒子検出器で検出されるまでの飛行時間を測定し,その飛行時間に基づいて試料の質量分析を行う飛行時間型(TOF型)質量分析装置が知られている(例えば特許文献1参照)。また,前記荷電粒子検出器では,試料で発生した二次イオンを電子として増幅するマイクロチャネルプレート(MCP)が用いられる。
ここに,図6は,従来の荷電粒子検出器の一例を示す模式断面図である。
図6に示す荷電粒子検出器は,二次イオンの入射方向に沿って2段に重ねられたMCP111,112と,該MCP112から出射された二次電子を検出する二次検出器113とを有している。
前記MCP111,112は,図7に示すようにガラス材51で形成されており,その表裏面を貫通する多数のチャネル52(光電子倍増管)と,該チャネル52が形成されていない非チャネル部53とを有している。また,MCP111,112の表面全体は電極54としての働きを備えている。ここで,前記MCP111の二次イオンの入射面となる電極54には,前記MCP112からの二次電子の出射面の電位Voutに対してマイナスとなる電位Vinが与えられている。なお,前記二次検出器113には,前記MCP112の出射面の電位Voutより高い電位Vsが与えられている。
ところで,前記MCP111において,前記チャネル52各々の間の非チャネル部53に入射する二次イオンは二次電子の放射に寄与しない。即ち,入射された二次イオンのうち二次電子の増幅に寄与した割合を示す検出効率は,前記MCP111におけるチャネル52の開口率(例えば約55%程度)によって制限される。
これに対し,図6に示されているように,前記MCP111の入射面の電位Vinよりも低い電位Vgが与えられたグリッド電極102を,前記MCP111に対向する位置に配置することが考えられる。これにより,前記MCP111の非チャネル部53に二次イオンが衝突して該MCP111とは反対方向に出射される二次電子e-は,前記グリッド電極102と前記MCP111との間の電位差により該MCP111に向けて戻され,前記チャネル52に入力される。従って,前記MCP111における検出効率を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−289628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで,図8に示すように,前記グリッド電極102を有する荷電粒子検出器では,二次イオンの一部が前記グリッド電極102を形成するグリッド線121に衝突する。これにより,前記グリッド電極102のグリッド線121から二次電子が発生する。
さらに,従来の前記グリッド電極102を形成するグリッド線121の断面形状は一般的に円形である。この場合,図8に示すように,前記グリッド線121の頂部に二次イオンが衝突して発生する二次電子e-はMCP111に対して離間する方向に出射されるが,その他の部位に衝突して発生した二次電子e-は前記MCP111に向けて出射される。
しかしながら,前記グリッド線121で発生した二次電子e-は,本来前記二次検出器113で検出されるべきものではない。そのため,その二次電子e-に起因して,例えば飛行時間型質量分析装置における試料の質量測定結果に誤差が生じることが問題となる。
具体的に,前記グリッド電極102及び前記MCP111の距離をd,二次イオンの質量をM,エネルギーをEi,二次電子の質量をm,エネルギーをEeとすると,各々の距離dの飛行時間はd(M/Ei)1/2,d(m/Ee)1/2となる。但し,質量Mと質量mとが3桁以上異なり,二次電子の飛行時間は二次イオンの飛行時間に比べて無視できるほど小さい。そのため,前記グリッド線121から出射された二次電子e-に起因して生じる質量測定結果のズレΔMは,二次イオンの全飛行距離をσ,二次イオンの価数をqとすると,以下の(1)式によって表すことができる。
【数1】

従って,本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,MCPへのイオンの入射方向上流側に配置されたグリッド電極で発生する二次電子に起因した検出誤差を防止することのできる荷電粒子検出器及び飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は,入射されるイオンをマイクロチャネルプレートを通過させて検出する荷電粒子検出器であって,前記マイクロチャネルプレートへの前記イオンの入射面に対向して配置されると共に該入射面の電位より低い電位が与えられたグリッド電極を備えてなり,前記グリッド電極が,該グリッド電極に前記イオンが照射されたときに発生する二次電子を前記マイクロチャネルプレートの入射面に対して離間する方向に移動させる機能を有することを特徴とする荷電粒子検出器として構成される。
本発明によれば,前記グリッド電極で発生した二次電子の前記マイクロチャネルプレートへの入射が抑制されるため,該二次電子に起因する検出結果の誤差を抑制することができる。
【0006】
例えば,前記グリッド電極は,前記イオンの入射方向の上流側から下流側の前記マイクロチャネルプレートに向けて先細となる断面形状を有する複数のグリッド線により形成されてなることが考えられる。具体的に,前記グリッド線各々の断面形状は,例えば正三角形や二等辺三角形などの三角形であることが考えられる。
これにより,前記イオンが入射方向上流側から前記グリッド線に衝突したときに前記マイクロチャネルプレート側に向けて出射される二次電子の発生を抑制することができる。例えば,前記グリッド線の断面形状が三角形である場合のように該グリッド線の上流側の端面が前記イオンの入射方向上に垂直な平面であれば,該イオンの衝突により発生する二次電子は前記イオンの入射方向上流側に向けて出射される。また,前記グリッド線が前記マイクロチャネルプレートに向けて先細であるため,前記グリッド電極に対して斜め方向に入射する前記イオンが前記グリッド線の側面に衝突するおそれを低減して二次電子の発生を抑制することができる。
【0007】
また,前記グリッド電極が,前記イオンの入射方向に見て開口位置が重なるように配置された少なくとも二以上のメッシュ層を有してなり,前記メッシュ層のうち前記マイクロチャネルプレートに対向して配置された最下流メッシュ層に該マイクロチャネルプレートよりも低い電位が与えられ,他のメッシュ層に前記最下流メッシュ層から前記イオンの入射方向上流側に向けて順に高くなる電位が与えられてなることも考えられる。
これにより,上段に配置されたメッシュ層にイオンが衝突して発生した二次電子は,そのメッシュ層の下段に配置されたメッシュ層との間の電位差により,上段のメッシュ層に向けて移動することになる。即ち,前記グリッド電極で発生した二次電子は,前記マイクロチャネルプレートの入射面に対して離間する方向に移動することになり,該マイクロチャネルプレートへの入射が抑制される。
ところで,本発明は,前記荷電粒子検出器を備え,荷電粒子ビームを試料に照射することにより発生するイオンが前記荷電粒子検出器で検出されるまでの飛行時間に基づいて該試料の質量を分析する飛行時間型質量分析装置の発明としても捉えてもよい。前記飛行時間型質量分析装置では,前記グリッド電極で発生した二次電子に起因する前記試料の質量の測定誤差を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,MCPへのイオンの入射方向上流側に配置されたグリッド電極で発生する二次電子に起因した検出誤差を防止することができる。具体的に,飛行時間型質量分析装置では,グリッド電極で発生した二次電子に起因する試料の質量の測定誤差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る荷電粒子検出器の概略構成を示す模式断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る荷電粒子検出器Xの要部拡大図。
【図3】本発明の実施の形態に係る荷電粒子検出器Xが備えるグリッド電極2の生成手法の一例を示す図。
【図4】本発明の実施例に係る荷電粒子検出器Yの概略構成を示す模式断面図。
【図5】本発明の実施例に係る荷電粒子検出器Yの要部拡大図。
【図6】従来の荷電粒子検出器の概略構成を示す模式断面図。
【図7】マイクロチャネルプレートの一例を説明するための図。
【図8】従来の荷電粒子検出器の要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下添付図面を参照しながら,本発明の実施の形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
まず,図1を用いて,本発明の実施の形態に係る荷電粒子検出器Xの概略構成について説明する。
図1に示すように,前記荷電粒子検出器Xは,イオンの入射方向に沿って2段に重ねられたMCP11,12と,前記MCP12の出射面12aから出射された二次電子を検出する二次検出器13と,前記MCP11の入射面11aに対向して配置されたグリッド電極2と,前記グリッド電極2を支持するグリッド支持部3とを有している。なお,前記荷電粒子検出器Xは,前記MCP11,12,前記二次検出器13,前記グリッド電極2に予め設定された電圧を個別に印加する電源(不図示)なども有している。
前記グリッド支持部3は,前記MCP11から2mm程度のギャップを介して前記グリッド電極2を支持する。これにより,前記グリッド電極2
と前記MCP11とは絶縁状態となる。
前記二次検出器13は,当該荷電粒子検出器Xに入射されるイオンが前記MCP11,12を通過することで出力される二次電子を検出するためのアノード電極やフォスファースクリーン等である。
【0011】
前記荷電粒子検出器Xは,荷電粒子ビーム(イオンビーム,電子ビーム,X線など)を試料に照射したときに該試料から発生するイオン(以下,「二次イオン」と言う)を加速させ,その二次イオンが試料から所定距離だけ離れた位置に配置された前記荷電粒子検出器Xで検出されるまでの飛行時間を測定し,その飛行時間に基づいて前記試料の質量を分析する飛行時間型質量分析装置に搭載される。本発明は,前記飛行時間型質量分析装置の発明として捉えることも可能である。なお,前記飛行時間型質量分析装置の基本構成については従来と同様であってよいため,ここでは説明を省略する。もちろん,前記荷電粒子検出器Xの用途は飛行時間型質量分析装置に限らない。
【0012】
前記MCP11,12各々は,既に図7を用いて説明したように,ガラス材51で形成されており,その表裏面を貫通する多数のチャネル52(光電子倍増管),該チャネル52が形成されていない非チャネル部53等を有している。例えば,前記MCP11,12における前記チャネル52による開口率は約55%程度である。また,図1に示すように,前記チャネル52各々は,前記MCP11,12の表裏面に対して所定角度(例えば用途に応じて5°〜20°程度)だけ傾斜して形成されている。
そして,前記MCP11,12では,前記MCP11の入射面11aに対して略垂直な方向から前記チャネル52内に二次イオンが入力される。これにより,前記チャネル52内では,その入力された二次イオンが該チャネル52の内壁に衝突して新たな二次電子が発生し,同様の衝突が繰り返し行われることにより増幅された多数の二次電子が出力される。なお,前記荷電粒子検出器Xでは,前記MCP11,12における二次電子の増幅率を高めるべく,該MCP11,12は前記チャネル52の傾斜方向が逆となるように重ねられている。
また,前記MCP11の入射面11aや前記MCP12の出射面12aは,不図示の電源から電圧が印加される前記電極54としての働きを備えている。そして,前記電極54として作用する前記入射面11a及び前記出射面12a各々には,該出射面12aの電位Voutが該入射面11aの電位Vinよりも高くなるように予め設定された電圧が不図示の電源から印加されている。これにより,前記MCP11,12内では二次電子が前記二次検出器13の方向に向けて加速される。なお,前記二次検出器13には,前記MCP12の出射面12aの電位Voutより高い電位Vsが不図示の電源から与えられている。即ち,電位Vin,Vout,Vsは,Vin<Vout<Vsの関係にある。例えば,電位Vinが−2200[V],電位Voutが−200[V],電位Vsが0[V]である。
【0013】
続いて,図2を参照しつつ,前記グリッド電極2の詳細な形状について説明する。ここに,図2は,前記荷電粒子検出器Xの要部拡大図である。
図2に示すように,前記グリッド電極2は,複数のグリッド線21が縦横に交差して格子状に配置されることにより形成された電極である。例えば,前記グリッド電極2は,前記グリッド線21の幅が20[μm],前記グリッド線21のピッチが400[μm]である開口率90%のステンレス製メッシュである。なお,前記グリッド電極2のグリッド線21各々には二次電子放出係数の小さいカーボン(C)や窒化チタン(TiN)などの物質をコーティングすることが望ましい。これにより,前記グリッド線21における二次電子の発生量を抑制することができる。
また,前記荷電粒子検出器Xにおいて,前記グリッド電極2には,不図示の電源から電圧が印加されることにより,前記MCP11の入射面11aの電位Vinよりも低い電位Vgが与えられている(Vg<Vin)。即ち,前記グリッド電極2と前記MCP11の入射面11aとの間には該入射面11a側がプラスとなる電位差が生じている。そのため,前記二次イオンが前記MCP11の非チャネル部53に衝突することにより発生した二次電子e-は,前記グリッド電極2と前記MCP11の入射面11aとの電位差により,該入射面11aに戻されて前記チャネル52に入射されることになる。これにより,例えば前記MCP11の開口率約55%によって制限される検出効率を約70%程度まで改善することができる。
【0014】
さらに,前記荷電粒子検出器Xでは,前記グリッド電極2が,該グリッド電極2に前記二次イオンが照射されたときに発生する二次電子を前記MCP11の入射面11aに対して離間する方向に移動させる機能を有している。
具体的に,前記グリッド電極2のグリッド線21各々は,図2に示すように,前記二次イオンの入射方向の上流側から下流側の前記MCP11に向けて先細となる三角形の断面形状を有している。特に,前記グリッド線21の前記二次イオンの入射方向上流側の端面21aは,該二次イオンの入射方向に垂直な平面である。例えば,前記グリッド線21の断面形状は正三角形や二等辺三角形である。
なお,前記グリッド電極2のグリッド線21各々の断面形状を三角形状とする手法は各種の従来周知の加工技術を利用すればよい。例えば,図3(a)〜(f)に示すように,異方性フォトマスクエッチングにより断面形状が略三角形となるメッシュ状の前記グリッド電極2を形成することが可能である。
【0015】
このように構成された前記荷電粒子検出器Xでは,図2に示すように前記二次イオンの大部分が,前記グリッド電極2のメッシュ開口を通過して前記MCP11の入射面11aに入射することになる。但し,前記二次イオンの一部が前記グリッド電極2のグリッド線21に衝突するため,該グリッド線21で二次電子e-が発生する。
しかしながら,前記荷電粒子検出器Xにおいて,前記グリッド線21は前記二次イオンの入射方向の上流側から下流側の前記MCP11に向けて先細となる凸形状を成すものである。即ち,図2に示すように,前記グリッド線21における前記二次イオンの入射方向に垂直な方向の外径は,前記グリッド線21の端面21aが最大となる。そのため,前記グリッド線21の端面21aに前記二次イオンが衝突して発生する二次電子e-は,該端面21aから前記MCP11に向けて出射されることなく,該MCP11に対して離間する方向に出射されることになる。従って,前記グリッド電極2で発生した二次電子e-の前記MCP11への入射を従来に比べて抑制することができる。
また,前記グリッド線21の側面には,前記二次イオンの入射方向下流側の端部に向けて先細となる傾斜が形成されている。そのため,前記グリッド電極2に対して斜め方向から入射する前記二次イオンが前記グリッド線21の側面に接触するおそれが低減され,前記グリッド線21における二次電子の発生量が抑制される。
【0016】
以上説明したように,前記荷電粒子検出器Xでは,前記グリッド電極2で発生する二次電子の前記MCP11への入射が抑制されるため,該二次電子に起因する検出結果の誤差を抑制することができる。具体的に,前記荷電粒子検出器Xが搭載された飛行時間型質量分析装置では,前記グリッド電極2で発生した二次電子に起因する試料の質量の測定誤差を抑制することができる。
なお,前記グリッド線21の断面形状は三角形に限らない。具体的に,前記グリッド線21の断面形状は,前記二次イオンの入射方向の下流側から上流側に向けて拡径する形状であればよい。例えば,前記グリッド線21の断面形状は半円状などであってもよい。また,前記グリッド線21の端面21aは,例えば前記二次イオンの入射方向下流側方向の窪みを有する凹部形状であってもよい。
【実施例】
【0017】
本実施例では,図4及び図5を参照しつつ,前記グリッド電極2で発生する二次電子の前記MCP11への入射を抑制するための他の手法について説明する。なお,本実施例に係る荷電粒子検出器Yについて,前記実施の形態で説明した荷電粒子検出器Xと同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
図4及び図5に示すように,本実施例に係る荷電粒子検出器Yは,前記グリッド電極2に代えて,前記二次イオンの入射方向に見て開口位置が重なるように配置された二つのメッシュ層41,42を有するグリッド電極4を備えている。前記メッシュ層41,42各々は,前記グリッド電極2と同様に複数のグリッド線41a,42aが縦横に交差して配置された格子状の電極である。なお,前記グリッド線41a,42a各々の断面形状は円形である。そのため,前記グリッド電極4は,前記二次イオンの入射方向に見たときに一つのメッシュで形成されているように見える。
なお,前記メッシュ層41,42各々のメッシュ開口の位置が重なるように配置するための手法としては,例えば該メッシュ層41,42各々の開口に内接する位置決め部材を,該メッシュ層41,42に2箇所以上嵌挿させることが考えられる。また,前記メッシュ層41,42各々を重ねて配置した状態で,前記荷電粒子検出器Yに入力される二次イオンを前記二次検出器13で検出し,その検出結果に基づいて該メッシュ層41,42の位置を調節して固定することも考えられる。例えば,メッシュ開口が完全に重なる位置では,前記二次検出器13で検出される二次イオンが最大になると考えられるため,その位置を前記メッシュ層41,42の固定位置とすることが考えられる。
【0018】
また,前記グリッド電極4のメッシュ層41,42各々は絶縁部材43を介在することによって絶縁状態で配置されており,該メッシュ層41,42各々に異なる電圧を印加することが可能である。
そして,前記荷電粒子検出器Yでは,前記メッシュ層41,42のうち前記MCP11に対向して配置されたメッシュ層42(最下流メッシュ層に相当)に,該MCP11の入射面11aの電位Vinよりも低い電位Vg2が与えられている。一方,前記メッシュ層42には,前記メッシュ層41の電位Vg2よりも高い電位Vg1が与えられている。即ち,前記荷電粒子検出器Yにおいては,前記電位Vg1,Vg2,Vin,Vout,Vsに,Vg1>Vg2<Vin<Vout<Vsの関係が成立している。例えば,電位Vg1が−2200[V],前記電位Vg2が−2300[V],電位Vinが−2200[V],電位Voutが−200[V],電位Vsが0[V]である。
【0019】
このように構成された前記荷電粒子検出器Yでは,図5に示すように,前記グリッド電極4のメッシュ層41に二次イオンが衝突したときに二次電子e-が発生する。
特に,前記メッシュ層41のグリッド線41aの頂部以外の箇所に二次イオンが衝突した場合には,その衝突により生じた二次電子が前記MCP11の方向に向けて出射されることになる。しかし,その二次電子e-はエネルギー(例えば0.1[keV]程度)が小さい。
そのため,前記グリッド線41aで発生した二次電子e-は,前記メッシュ層41,42の間の電位差(Vg1>Vg2)により,前記メッシュ層42から前記メッシュ層41に近づく方向,即ち前記MCP11に対して離間する方向に移動することになる。なお,前記二次イオンはそのエネルギー(例えば8[keV]程度)が大きいため,前記メッシュ層41,42の電位差にかかわらず前記MCP11に向けて移動する。また,前記グリッド電極4に対して斜めに前記二次イオンが入射した場合には,前記グリッド線42aにも二次イオンが衝突することになるが,該グリッド線42aで発生する二次電子についても同様に前記グリッド線41a側に移動することとなる。
【0020】
以上説明したように,前記荷電粒子検出器Yにおいても,前記グリッド電極4に二次イオンが衝突することにより発生する二次電子の前記MCP11への入射を抑制することができ,該二次電子に起因する測定結果の誤差を抑制することができる。
なお,前記グリッド電極4は,前記二次イオンの入射方向に見て開口位置やグリッド線が重なるように配置された少なくとも二以上のメッシュ層を有するものであれば,該メッシュ層の数は更に多くてもよい。この場合には,そのメッシュ層のうち前記MCP11に対向して配置された最下流メッシュ層に該MCP11よりも低い電位を与え,他のメッシュ層にはその最下流メッシュ層から前記二次イオンの入射方向上流側に向けて順に高くなる電位を与えればよい。
また,前記グリッド電極4のメッシュ層を形成するグリッド線の断面形状については特に円形に限定されず,前記実施の形態で説明したような三角形などの他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0021】
11,12:MCP(マイクロチャネルプレート)
11a:入射面
12a:出射面
13:二次検出器
2,4:グリッド電極
3:グリッド支持部
21,41a,42a:グリッド線
41,42:メッシュ層
51:ガラス材
52:チャネル
53:非チャネル部
54:電極
X,Y:荷電粒子検出器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射されるイオンをマイクロチャネルプレートを通過させて検出する荷電粒子検出器であって,
前記マイクロチャネルプレートへの前記イオンの入射面に対向して配置されると共に該入射面の電位より低い電位が与えられたグリッド電極を備えてなり,
前記グリッド電極が,該グリッド電極に前記イオンが照射されたときに発生する二次電子を前記マイクロチャネルプレートの入射面に対して離間する方向に移動させる機能を有することを特徴とする荷電粒子検出器。
【請求項2】
前記グリッド電極が,前記イオンの入射方向の上流側から下流側の前記マイクロチャネルプレートに向けて先細となる断面形状を有する複数のグリッド線により形成されてなる請求項1に記載の荷電粒子検出器。
【請求項3】
前記グリッド線各々の断面形状が三角形である請求項2に記載の荷電粒子検出器。
【請求項4】
前記グリッド電極が,前記イオンの入射方向に見て開口位置が重なるように配置された少なくとも二以上のメッシュ層を有してなり,
前記メッシュ層のうち前記マイクロチャネルプレートに対向して配置された最下流メッシュ層に該マイクロチャネルプレートよりも低い電位が与えられ,他のメッシュ層に前記最下流メッシュ層から前記イオンの入射方向上流側に向けて順に高くなる電位が与えられてなる請求項1に記載の荷電粒子検出器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の荷電粒子検出器を備えてなり,
荷電粒子ビームを試料に照射することにより発生するイオンが前記荷電粒子検出器で検出されるまでの飛行時間に基づいて該試料の質量を分析する飛行時間型質量分析装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate