説明

荷電粒子線装置及び試料作製方法

【課題】FIB加工装置による加工で生じた試料のダメージ層の除去の精度は作業者の技量に依存する。
【解決手段】イオンビームにより発生したダメージ層の除去加工中に、電子ビーム光学システムで形成された電子ビームを試料に照射することにより発生する透過電子を二次元検出器で検出し、当該二次元検出器で得られたディフラクションパターンのぼけ量に基づいてダメージ層の除去加工を終了するタイミングを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査や不良解析の目的で、半導体デバイス等を加工する荷電粒子線装置及び当該装置を用いた試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスを構成する回路パターンの微細化に伴い、電気的不良の検査と原因解明が重要になっている。特に、不良の発生原因を究明するために、試料を切断、加工して、形状や材料を解析する不良解析の重要性が高まっている。微細化がナノメートルのレベルになると、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、以下「TEM」という。)や、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、以下「STEM」という。)による解析が必須となる。これら顕微鏡による観察には、試料を適切な寸法の試料片に切断、加工しなければならない。
【0003】
TEMやSTEMにより観察する試料片は、電子ビームが透過可能な100ナノメートル程度の厚さの薄片に加工されている必要がある。従来、この種の加工には、集束イオンビーム(Focused Ion Beam、以下「FIB」という。)加工装置が使用されている。FIB加工装置は、細く絞ったイオンビームを静電偏向によって走査し、試料を加工する。
【0004】
ところが、FIB加工装置による加工では、イオンが試料の内部に進入する。このため、以下の課題があった。
【0005】
例えば試料が結晶構造を有する場合、イオンの照射により結晶構造が崩れ、いわゆるダメージ層が生成される問題がある。ダメージ層は、電子ビームの障害になる。このため、TEMやSTEMで観察したい本来の結晶構造の電子線像を、顕微鏡において鮮明に観察できなくなる。そこで、従来、FIB加工装置による加工後に、気体イオン源からのイオンビームを低加速でダメージ層に照射し、ダメージ層を除去する方法が知られている。
【0006】
ダメージ層を除去する際には、ダメージ層の除去だけでなく、本来残すべき試料を加工しすぎないように加工の終点を検知することが重要となる。特許文献1には、STEM像を目視しながらダメージ層を除去するための手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−193977号公報
【特許文献2】特開2009−129221号公報
【特許文献3】特開平6−60186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、数ナノメートルの厚さのダメージ層が除去できたか否かをSTEM像の像質変化を目視確認するだけで判断するには、技術者に高度な技術が要求される。さらに、半導体デバイスの新製品の生産立ち上げ時に行われる不良解析では、新しい構造や材料を使用しているので、STEM像の像質変化だけでダメージ層が除去されたかどうかを判断することは非常に困難である。
【0009】
そこで、本発明者は、FIB加工装置による加工で生じた試料のダメージ層を不足なくかつ最小限に除去することができる荷電粒子ビーム装置及び当該装置を用いた試料作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明においては、イオンビームにより発生したダメージ層の除去加工中に、電子ビーム光学システムで形成された電子ビームを試料に照射することにより発生する透過電子を二次元検出器で検出し、当該二次元検出器で得られたディフラクションパターンのぼけ量に基づいてダメージ層の除去加工を終了するタイミングを判定する。この明細書において、ぼけ量とは、ディフラクションパターンに出現する輝度値を関数変換して算出される値であり、当該算出値がダメージ層の厚みを反映するものをいう。当該性質を満たす限り、ぼけ量を与える関数は任意である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダメージ層の除去加工の終点タイミングを自動的に検知できる。これにより、試料の材質や構造に関する情報の有無や作業者の熟練した技術に依存することなく、除去加工の失敗を防ぐことできる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】荷電粒子線装置の構成例を示す図。
【図2】薄片試料の断面構造例を説明する図。
【図3】ディフラクションパターンを示す図。
【図4】ダメージ層の除去手順を説明するフローチャート。
【図5】ぼけ量の計算に使用する領域例を説明する図。
【図6】ハローパターン例を示す図。
【図7】表示装置に表示されるインターフェース画面の例を示す図。
【図8】ぼけ量及びぼけ変化量の時系列変化を示す図。
【図9】ダメージ層の他の除去手順を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0014】
<形態例>
(1)装置構成
図1に、荷電粒子線装置の構成図を示す。荷電粒子線装置は、試料101を載置する可動の試料ステージ102と、試料位置制御装置103と、イオンビーム光学システム装置106と、イオンビーム光学システム制御装置109と、電子ビーム光学システム装置112と、電子ビーム光学システム制御装置113と、二次電子検出器114と、二次電子検出器制御装置115と、二次元検出器117と、二次元検出器制御装置118と、中央処理装置119と、表示装置120と、真空容器121とを有する。
【0015】
ここで、試料位置制御装置103は、試料ステージ102の制御装置であり、試料101の位置や姿勢を制御する。
【0016】
イオンビーム光学システム装置106は、試料101にイオンビーム105を照射して加工する装置であり、イオン源104、ブランカー107、閉止機構108、偏向コイル、対物レンズ等で構成される。この実施例の場合、イオン源104は、ダメージ層除去用の低加速度(低エネルギー)のイオンを発生する。もっとも、イオンの速度は引き出し電圧や加速電圧の制御を通じて可変することも可能である。また、イオン源104は、低下速度のイオンだけでなく、試料加工用の高加速度(高エネルギー)のイオンを選択的に発生できるものでも良い。ブランカー107は、イオンビーム105のブランキングに用いられる。閉止機構108は、遮蔽板その他の遮蔽機構の制御を通じ、イオンビーム105の試料101への到達を制御する。例えば遮蔽板がイオンビーム105のビーム径路を遮蔽すると、イオンビーム105による試料101の加工が停止される。イオンビーム光学システム制御装置109は、イオンビーム光学システム装置106を制御する装置である。
【0017】
電子ビーム光学システム装置112は、試料101に電子ビーム111を照射して顕微像を観察する装置であり、電子源110と、偏向コイル、対物レンズ等で構成される。電子ビーム光学システム制御装置113は、電子ビーム光学システム装置112を制御する装置である。
【0018】
二次電子検出器114は、電子ビーム111の照射により試料101で発生する二次電子や反射電子等を検出する装置である。二次電子検出器制御装置115は、二次電子検出器114を制御する装置である。
【0019】
二次元検出器117は、電子ビーム111の照射時に、試料101を透過した透過電子116を検出する装置であり、回折スポット像やこれに重畳するハローパターンの認識に十分な平面分解能を持つ。二次元検出器制御装置118は、二次元検出器117を制御する装置である。
【0020】
中央処理装置119は、試料位置制御装置103、イオンビーム光学システム制御装置109、電子ビーム光学システム制御装置113、二次電子検出器制御装置115及び二次元検出器制御装置118を制御する装置である。中央処理装置119は、これら制御装置の制御データを演算し、対応する装置に出力する。中央処理装置119には、例えばパーソナルコンピュータ、ワークステーション等が一般的に使用される。表示装置120は、ディスプレイを備えている。表示装置120は、インターフェース画面の表示に使用される。
【0021】
真空容器121は、真空雰囲気に試料101を収容する密閉型の容器である。また、真空容器121の内部には、試料ステージ102、イオンビーム光学システム装置106、電子ビーム光学システム装置112、二次電子検出器114、二次元検出器117が配置される。
【0022】
図1に示す荷電粒子線装置は、詳細は後述するが、以下のように動作する。まず、イオンビーム105による試料101のダメージ層除去中(すなわち、イオンビーム光学システム装置106で形成されたイオンビームによる加工中)に、電子ビーム111の照射により試料101を透過した透過電子116を二次元検出器117で検出する。次に、中央処理装置119は、二次元検出器117において取得された電子回折像(ディフラクションパターン)のうち注目領域のぼけ量に基づいてイオンビーム105によるダメージ層除去加工の終了タイミングを判定する。中央処理装置119は、ダメージ層の除去加工の終了に適したタイミングであると判定すると、閉止機構108の遮蔽板を駆動制御し、イオンビーム105が試料101に到達しないようにイオンビーム105を遮蔽する。
【0023】
(2)ダメージ層の除去加工と加工終了タイミングの検出
図2に、イオンビーム105によるダメージ層202の除去加工のためのイオンビームの照射と、加工終了タイミングの自動検出のための電子ビームの照射がどのように行われるかについて示す。図2は、高加速FIB加工により、観察、解析対象である形状に既に加工された後の試料について表している。
【0024】
図2に示すように、目標試料201の表皮部分には、ダメージ層202が形成されている。ダメージ層202が存在すると、目標試料201のディフラクションパターン208だけでなくダメージ層202によるハローパターンを重ねた像が二次元検出器117の受光平面207で観察されることになる。
【0025】
このため、目標試料201の状態を鮮明に観察することができず、結果的に正確な分析を行うことができない。このため、イオンビーム105によるダメージ層202の除去加工が行われる。
【0026】
ダメージ層202の除去加工には、低加速電圧の気体イオンビームを用いると良い。例えば1キロボルト以下の低エネルギーイオンビームを用いると良い。1キロボルト以下の低エネルギーイオンビームは、試料への進入深さが浅いことが知られており、ダメージ層の除去加工中における新たなダメージ層の生成を低減することができる。
【0027】
しかも、気体イオンビームは、低加速電圧で放射しても試料101を汚染し難いという利点もある。この種の気体イオンビームには、例えばアルゴンビームやキセノンビームがある。この他、液体金属イオン源も、ダメージ層の除去加工用のイオン源に用いることができる。液体金属イオンビームは、生成されるダメージ層の厚みを数ナノメートル程度に抑制することができるためである。
【0028】
これらに対し、低加速電圧の液体金属イオンビームは、加工量よりも堆積量が増え、液体金属を試料に付着させるという問題がある。このため、液体金属イオンビームのダメージ層の除去加工への適用は一般に好ましくない。
【0029】
これらを考慮すると、イオン源に気体イオン源や液体金属イオン源を用いれば、高加速FIB加工から低加速FIB加工までを1つの装置で実現することが可能となる。高加速FIB加工と低加速FIB加工が1台の装置で可能であると、試料の作製時間を削減することができる。この他、イオンビーム光学システム装置106をイオン源の異なる2つの装置とすることもできる。例えば一方のイオンビーム光学システム装置のイオン源に液体金属イオン源を採用し、他方のイオンビーム光学システム装置のイオン源に気体イオン源を採用する荷電粒子線装置とすることも可能である。イオン源の異なる2種類のイオンビーム光学システムを有する場合、2つのイオン源の利点を享受でき、短時間で高品質な試料の作製が可能となる。
【0030】
さて、前述したように、ダメージ層の除去加工では、加工停止のタイミングが非常に重要である。本発明の場合、二次元検出器117の受光平面207に結像する電子回折像(ディフラクションパターン)のぼけ量を中央処理装置119で判定し、その判定結果に基づいてイオンビームによる加工の停止タイミングを制御する。
【0031】
電子回折像(ディフラクションパターン)は、試料101に照射された電子ビーム111の一部又はその多くが、試料内部で弾性及び非弾性散乱されて試料裏面へ透過し、二次元検出器117の受光平面207に結像することで得られる。この形態例の場合、二次元検出器117には、例えばCCDカメラやCMOSカメラといった二次元で検出位置を判断でき、各検出位置の強度を検出可能なイメージセンサを使用する。
【0032】
図3に、二次元検出器117で検出されるディフラクションパターン301の例を示す。ディフラクションパターン301には、目標試料201(結晶層)に起因する回折スポット302とダメージ層202に起因するハローパターン303が現われている。
【0033】
このとき、試料の厚さが照射される電子ビームの平均自由行程より短ければ、目標試料201にて透過散乱された電子は、結晶層及びダメージ層のいずれか一方とのみ相互作用したものと見なすことができる。この場合、ハローパターン303を含んだディフラクションパターン301のぼけ量を定量化することができ、現在のダメージ層の厚さを定量的に求めることが可能になる。本形態例の中央処理装置119は、定量化されたぼけ量と任意の閾値とを比較し、比較結果によりダメージ層の除去程度を把握することにより、加工の停止タイミングを判定する。
【0034】
なお、ぼけ量の低下とディフラクションパターンの鮮鋭度の増加は同じ意味である。ハローパターンの定量化とディフラクションパターンのぼけ量の定量化も同じ意味ある。また、ディフラクションパターンの取得は加工中だけでなく、加工とディフラクションパターンの取得を交互に行っても良い。
【0035】
(3)ダメージ層の除去処理(その1)
次に、ダメージ層の除去に伴う動作の概要を説明する。図4は、ダメージ層の除去に伴い実行される処理動作の手順を示している。
【0036】
最初に、作業者が、ダメージ層を有する試料101を試料ステージ102に搭載し、真空容器121内に導入する(工程101)。この作業は、人手を介して実行される。なお、イオンビームエネルギーの切り換えにより、試料の加工とダメージ層の除去を選択的に実行可能な荷電粒子線装置の場合には、FIB加工に続きダメージ層の除去が連続的に実行される。このように、真空容器121に試料101が導入された状態のまま、ダメージ層の除去動作が実行される場合、試料の導入工程101は不要である。
【0037】
次に、作業者は、低加速イオンビームが加工位置に対して適切に照射されるように、試料101の位置や向きを調整する(工程102)。この際、作業者は表示装置120に表示されているインターフェース画面を目視確認しながら、試料101の向きを調整する。具体的には、不図示の入力装置を通じて中央処理装置119に指示を与え、試料ステージ102の位置及び向きを調整する。この調整の後、イオンビームの照射位置は、試料101の加工位置に位置決めされる。加工位置は、イオンビームの加工痕、電子ビームによる二次電子像、試料ステージと試料との位置関係に基づいて調整される。
【0038】
次に、作業者は、表示装置120に表示されている画面を目視確認しながら、ダメージ層の除去加工の開始を指示する(工程103)。加工開始の指示も、不図示の入力装置を通じて中央処理装置119に与えられる。ダメージ層の除去加工が開始されると、中央処理装置119は、閉止機構108を制御して遮蔽板をイオンビームの経路から退避させる。この結果、低加速イオンビームが試料101に到達し、ダメージ層の除去を開始する。
【0039】
中央処理装置119は、ダメージ層の除去加工の開始と同時に、二次元検出器117からディフラクションパターン(図3)を取得する(工程104)。
【0040】
次に、中央処理装置119は、取得されたディフラクションパターンのぼけ量を定量化する。ぼけ量の定量化には、以下に示すいずれかの方法を使用する。なお、中央処理装置119によるぼけ量の定量化処理は、ディフラクションパターンの画像全域に対して実行しても良いし、一部の部分領域についてのみ実行しても良い。
【0041】
図5に、ディフラクションパターンから複数の部分領域501(図では3箇所)を選択し、当該部分領域501についてのみ、ぼけ量を定量化する場合の領域選択イメージを示す。ここで、定量化処理を適用する領域は、作業者がGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を通じて手動で選択しても良いし、中央処理装置119が所定のルールに従って自動的に選択しても良い。また、部分領域501は必ずしも複数である必要はなく、1つでも良い。
【0042】
なお、ディフラクションパターンの全域を処理対象にすると、部分領域だけを処理対象とする場合に比して、中央処理装置119で実行されるプログラムの構造を単純化することができる。
【0043】
一方、部分領域501だけを処理対象とする場合、部分領域501を回折スポット以外の領域に設定することにより、ダメージ層に起因するハローパターンだけを処理対象に選択することができる。この場合、定量化データには、回折スポットの情報が含まれないため、定量化されたぼけ量の信頼性を高めることができる。図5の部分領域501は、いずれも回折スポットを避けるように設定されている。
【0044】
また、試料の結晶方位、電子ビーム、試料ステージの各傾斜角度の関係及び取得したディフラクションパターンから回折スポットの位置を自動的に特定できる場合には、中央処理装置119による信号処理を通じて部分領域501を自動的に選択させることができる。なお、回折スポットとハローパターンが混在するディフラクションパターンの中からハローパターンの出現領域だけに自動的に選択するためには、中央処理装置119が、回折スポットの位置及びスポット径に関する情報だけでなく、同心円状に広がるハローパターンの輝度に関する情報を有していること、又は取得できることが必要となる。
【0045】
因みに、ハローパターンは、内周側の輝度の方が周辺部よりも一般に高く現われる特性がある。従って、ハローパターンのぼけ量を通じてダメージ層の残量を判定するには、できるだけ内側のハローパターンに部分領域501を設定し、ぼけ量の低下を観察することが望ましい。もっとも、ディフラクションパターンの中心に出現するハローパターンは、同位置に出現する回折スポットと重なってしまう。従って、部分領域501の自動設定に際しては、ディフラクションパターンの中心に位置するハローパターンを避けると共に、回折スポットとも重ならない領域を部分領域501に選択すること望まれる。
【0046】
この他、フィルタ処理により、回折スポットだけをディフラクションパターンから排除し、フィルタ処理後のディフラクションパターン(すなわち、ハローパターンのみ)を対象としてぼけ量の定量化処理を実行しても良い。ここで、ハローパターンだけを抽出する方法には、同心円上に出現する回折スポットの輝度及び径の変化の関係に基づいて回折スポットだけを排除する方法がある。また、ハローパターンは、各半径の円周位置で輝度変化が一定になる特性がある。従って、変化がある部分は回折スポットであると判断できる。そこで、ディフラクションパターンから同一半径上において輝度変化がある領域を回折スポットとみなし、これを排除する方法を用いても良い。
【0047】
図4の説明に戻る。次に、中央処理装置119は、取得したディフラクションパターンからぼけ量を数値として算出し(定量化し)、算出されたぼけ量を表示装置120に表示する(工程105)。なお、ぼけ量の算出に用いる関数は、処理領域に回折パターンも含まれるか、ハローパターンだけか、部分領域か領域全体かによっても異なる。例えば部分領域501を処理対象とする場合には、平均輝度を関数処理した値をぼけ量として与えても良い。
【0048】
この形態例においては、ぼけ量を各空間周波数成分の和と定義する。当該定義は、以下の説明より導き出される。まず、画像f(x,y)に対するフーリエ変換F(μ,ν)を次式により求める。
【0049】
【数1】

【0050】
ここで、x、yは画像中の位置を表すパラメータであり、μ、νは空間周波数である。
このとき、F(μ,ν)のパワースペクトルP(μ,ν)は、次式で定義される。
【0051】
【数2】

【0052】
パワースペクトルP(μ,ν)の値は、空間周波数(μ,ν)の強さを表している。このパワースペクトルP(μ,ν)を極座標形式で表すと、P(r,θ)となる。そこで、P(r)を以下のように定義する。
【0053】
【数3】

【0054】
ここで、原画像をf1(x)、ぼけ画像をf2(x)(説明を簡単にするため、ここでは1次元で考えることにする)とし、各フーリエ変換をF1(μ)、F2(μ)とすると、F1(μ)とF2(μ)の間には次式が成立する。
【0055】
【数4】

【0056】
ここで、δはぼけ量を表す定数である。当式より、画像がぼけると、直流成分以外の全ての周波数成分が小さくなることが分かる。
【0057】
そこで、本形態例においては、ぼけ量Eを、次式で与えられるように各空間周波数成分の和と定義する。
【0058】
【数5】

【0059】
図7に、ぼけ量の表示に使用するGUI画面例を示す。図7に示すGUI画面a及びbは、ディフラクションパターンを模式図として表示欄701に表示する例について表している。もっとも、表示欄701の表示は、模式図に限られるものでなく、二次元検出器117で取得されたディフラクションパターン像(図3)そのものでも良い。また、取得されたディフラクションパターンに、例えば輝度調整、数値表示、色表示のいずれか1つ又は複数を組み合わせた画像処理を施したディフラクションパターンを表示しても良い。画像処理を施したディフラクションパターンを表示することで、ダメージ層除去加工中の試料の様子が分かり易くなる。
【0060】
また、図7の画面aは、定量化されたぼけ量の表示欄702と閾値の表示欄704を、ディフラクションパターンの表示欄701とは別に配置する例を示しているが、図7の画面bに示すように、ぼけ量の表示欄703を部分領域501に対してポップアップ形式で表示しても良い。ここで、表示欄703は、3つの部分領域501に対応付ける。画面bの場合、ディフラクションパターン701から目を離さずにぼけ量を認識することができる。図7の画面例の場合、ぼけ量はいずれも「30」であり、閾値は「20」である。
【0061】
この他、GUI画面には、加工処理の経過に伴い算出されるぼけ量を時系列グラフとして表しても良い。
【0062】
図8に、この種のグラフ例を示す。画面a及びbの横軸は時間であり、縦軸はぼけ量の大きさである。画面aにおいて、太線で現した曲線801は、過去に算出されたぼけ量を表し、黒丸802はぼけ量の現在値を表している。曲線801や黒丸802からぼけ量の減衰の様子を容易に知ることができる。なお、画面bは、縦軸をぼけ量の変化量で表したグラフである。
【0063】
図8において、閾値は破線803で示す。閾値803は、低加速イオンビームによる加工の終了時点を与える値である。例えば、閾値を「0」等の分かり易い値にすることができる。また、図7及び図8では、いずれも算出された値をぼけ量として表示しているが、予めぼけ量とダメージ層の厚さの関係が分かっている場合(例えば対応関係が中央処理装置119の記憶領域に格納されている場合)、算出されたぼけ量を「ダメージ層の厚さ」、「膜厚」その他の情報に変換して表示しても良い。膜厚そのものを表示することにより、作業者による理解が容易になる。
【0064】
図4の説明に戻る。次に、中央処理装置119は、予め設定された閾値803と現在のぼけ量を比較する(工程106)。この形態例の場合、現在のぼけ量が閾値以下か否かが判定される。否定結果が得られた場合、中央処理装置119は、イオンビームによる加工を継続する。このため、中央処理装置119は、工程104に戻り、新たなディフラクションパターンを取得する。一方、肯定結果が得られた場合、中央処理装置119は、工程107に進み、イオンビームの照射を停止制御する。
【0065】
ところで、閾値は、図7や図8に示すGUI画面において、その設定及び変更が可能である。例えば図7に示すGUI画面であれば、作業者が表示欄704に数値を直接入力することにより、閾値を設定することができる。また例えば図8に示すGUI画面であれば、グラフ上に閾値を示す破線803を描くことで設定することができる。勿論、閾値の指定に用いる線種は破線に限られない。また、図7のGUI画面と図8のGUI画面は互いに連動しており、一方のGUI画面で閾値を設定すると、他方のGUI画面にも設定内容が反映されるよう構成されるものとする。
【0066】
また、閾値の具体的な決定方法には、事前に同様な試料を加工した実験データから設定する方法、ディフラクションパターンの表示欄701(図7)やぼけ量の変化(図8)を確認して設定する方法などがある。さらに、ぼけ量の算出領域が部分領域501として個別に設定される場合には、当該領域の中心からの距離に応じて閾値を決定する。ぼけ量の開始値は中心付近が高く、周辺部ほど小さくなるためである。
【0067】
また、この形態例の場合、閾値は絶対値で与えても良いし、イオンビームによるダメージ層の除去加工を開始した時点のぼけ量を100として相対的な大きさで表しても良い。
【0068】
なお、前述の説明においては、中央処理装置119によるダメージ層の除去加工の終了判定と並行して、GUI画面(図7、図8)を表示装置120に表示するものとして説明したが、これらGUI画面を表示装置120に表示させないようにしても良い。
【0069】
図4の説明に戻る。中央処理装置119は、工程106で工程結果が得られると、ダメージ層除去加工の終点に達したと判定し、試料に対するイオンビームの照射を停止制御する(工程107)。具体的には、中央処理装置119は、閉止機構108を通じて遮蔽板を駆動制御し、イオンビームの経路を遮蔽する。
【0070】
なお、前述の説明においては、試料に対するイオンビームの照射を停止する方法として、GUNバルブの閉止機構108を制御する場合について説明したが、これ以外にもブランカー107の制御を通じてイオンビームを偏向し、イオンビームが試料に到達しないようにする方法、イオン源104の加速電圧を落とす方法、試料位置制御装置103を駆動して試料101をイオンビームの照射範囲外に移動させる方法等を採用することもできる。なお、これらの制御方法の一つだけを用いるのではなく、複数を組合せて用いても良い。
【0071】
以上説明したように、工程107の実行により一連の加工処理は終了する。もっとも、工程107の実行後、表示装置120に、閾値を変更してダメージ層の除去加工を再度繰り返すか、それともこのまま終了するかを作業者に確認するGUI画面を表示しても良い。前者の場合は、工程104のディフラクションパターンの取得処理に戻り、後者の場合は終了する。
【0072】
(4)ダメージ層の除去処理(その2)
続いて、ダメージ層の除去処理の他の実施例を説明する。前述した処理手順では、工程102でイオンビームの加工位置を調整した後は、イオンビームによる試料の加工位置を変更しない場合を想定していた。しかしながら、図9に示す処理手順のように、ダメージ層の除去加工中に、加工処理を一旦中断し、加工位置を調整しても良い。また、ダメージ層の除去加工の中断後、試料ステージ102を所定の位置及び向きに制御する工程(例えば試料の断面と電子ビームの光軸が垂直になるように制御する工程)を追加しても良い。このような工程を追加することにより、ダメージ層の除去加工の直前に取得したい結晶方位のディフラクションパターンを決定できる。
【0073】
以下、図9に表した処理手順の詳細を説明する。図9に示す処理手順の場合も、作業者による試料の導入及び加工位置の調整が実行される(工程201、202)。
【0074】
次に、作業者は、不図示のGUI画面を通じて加工中断条件(例えば処理時間、走査回数等)を設定し、ダメージ層の除去加工の開始を指示する(工程203)。
【0075】
図9の場合、イオンビームによるダメージ層の除去加工は、事前に設定された加工中断条件を満たすタイミングで中断される。すなわち、前述したいずれかの方法により、中央処理装置119は、イオンビームが試料に到達しない状態に制御する。加工中断後、中央処理装置119は、試料ステージ102を駆動制御し、例えば試料断面と電子ビームの光軸が垂直になるように調整する(工程204)。
【0076】
試料ステージの制御が終了すると、以後、図4の工程104〜107と同様に、ディフラクションパターンの取得(工程205)、ぼけ量の定量化と画面表示(工程206)、現在ぼけ量と閾値との比較(工程207)、試料へのイオンビームの照射の停止(工程208)を実行する。
【0077】
図4の処理手順との相違点は、工程207において否定結果が得られた場合(閾値を下回らない場合)、中央処理装置119は、工程204で試料ステージを制御した分を元に戻す工程209を工程202に戻る前で実行する点である。また、図9の場合、繰り返し工程が、工程202〜工程207、工程209である点である。
【0078】
(まとめ)
以上説明したように、本形態例に係る荷電粒子線装置は、低加速イオンビームによるダメージ層の除去加工中におけるダメージ層の膜厚を、ディフラクションパターン(輝度分布)から算出されるぼけ量に基づいて定量的に観察する方式を採用する。そして、本形態例に係る荷電粒子線装置は、算出されたぼけ量が事前に定めた閾値以下になるタイミングをダメージ層除去加工の終了タイミングとして自動的に検出し、イオンビームの照射を自動的に停止する。これにより、試料の材質や構造に関する情報の有無や作業者の熟練した技術に依存することなく、除去加工の失敗を防ぐことできる。
【0079】
また、本形態例に係る荷電粒子線装置は、真空容器121にイオンビーム光学システム装置106と電子ビーム光学システム装置112の両方を有するため、低加速FIB装置とTEM又はSTEM装置との間で試料を受け渡す必要がない。このため、受け渡しに要する時間や手間を従来装置に比して低減することができる。
【0080】
また、本形態例に係る荷電粒子線装置で取得されるディフラクションパターンは、試料の結晶方位合わせにも使用できる。このため、本装置は、構造解析技術の向上にも貢献できる。
【0081】
<他の形態例>
前述した形態例の場合には、イオンビームが単一原子のイオンビームである場合を想定した。しかしながら、イオンビームは、クラスターイオンビームであっても良い。クラスターイオンビームは、単一原子のイオンビームと比べ、イオン進入深さが浅く、ダメージ層が生じ難い特徴がある。このため、低加速電圧でも加工速度を落とすことなくダメージ層を除去することが可能となる。
【0082】
また、前述した形態例の場合には、イオンビームは基本的に収束されていることを前提とするが、必ずしも収束されていなくても良い。すなわち、集束していないブロードイオンビームを用いて、ダメージ層の除去加工を実行しても良い。ブロードイオンビームの採用により、イオンビーム光学システム装置106と、イオンビーム光学システム装置106を制御するイオンビーム光学システム制御装置109を小型で安価に作製することが可能となる。
【0083】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成を追加、削除又は置換することも可能である。
【0084】
また、上述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路その他のハードウェアとして実現しても良い。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することにより実現しても良い。すなわち、ソフトウェアとして実現しても良い。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、ICカード、SDカード、DVD等の記憶媒体に格納することができる。
【0085】
また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。
【符号の説明】
【0086】
101 試料
102 試料ステージ
103 試料位置制御装置
104 イオン源
105 イオンビーム
106 イオンビーム光学システム装置
107 ブランカー
108 閉止機構
109 イオンビーム光学システム制御装置
110 電子源
111 電子ビーム
112 電子ビーム光学システム装置
113 電子ビーム光学システム制御装置
114 二次電子検出器
115 二次電子検出器制御装置
116 透過電子
117 二次元検出器
118 二次元検出器制御装置
119 中央処理装置
120 表示装置
121 真空容器
201 目標試料
202 ダメージ層
205 電子ビームの光軸
207 二次元検出器の受光平面
208 ディフラクションパターン
301 ディフラクションパターン
302 回折スポット
303 ハローパターン
501 ぼけ量の計算に使用する領域(部分領域)
601 抽出したハローパターン
701 ディフラクションパターンの表示欄
702 ぼけ量の表示欄
703 ぼけ量の表示欄
704 閾値の表示欄
803 閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源と、
イオンビームを照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビームの照射を制御する第1の制御装置と、
電子源と、
電子ビームを照射する電子ビーム光学システム装置と、
前記電子ビームの照射を制御する第2の制御装置と、
試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記電子ビームのうち前記試料を透過した電子によって生成されるディフラクションパターンを取得する二次元検出器と、
前記イオンビームによる前記試料のダメージ層の除去加工時に、前記ディフラクションパターンのぼけ量を算出し、当該ぼけ量に基づいて前記試料に対するイオンビームの照射停止タイミングを制御する第3の制御部と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記ぼけ量は、ディフラクションパターンに出現する輝度値を関数変換して算出される値である
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2の記載の荷電粒子線装置において、
前記イオンビームは、液体金属イオン源で発生する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項2の記載の荷電粒子線装置において、
前記イオンビームは、気体イオン源で発生する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項2の記載の荷電粒子線装置において、
前記第3の制御装置は、ダメージ層除去加工中に前記ディフラクションパターンを表示装置に表示する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項2の記載の荷電粒子線装置において、
前記第3の制御装置は、前記ぼけ量が所定の閾値以下となるタイミングを、前記イオンビームの照射停止タイミングとして検出する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6の記載の荷電粒子線装置において、
ぼけ量の前記閾値を変更する手段を有する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項2の記載の荷電粒子線装置において、
前記第3の制御装置は、逐次算出されるぼけ量を時系列グラフとして表示装置に表示する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
イオン源と、イオンビームを照射するイオンビーム光学システム装置と、前記イオンビームの照射を制御する第1の制御装置と、電子源と、電子ビームを照射する電子ビーム光学システム装置と、前記電子ビームの照射を制御する第2の制御装置と、試料を保持する試料保持機構と、真空容器と、前記電子ビームのうち前記試料を透過した電子によって生成されるディフラクションパターンを取得する二次元検出器とを有する荷電粒子線装置を用いた試料作成方法において、
前記イオンビームによる前記試料のダメージ層の除去加工時に、前記ディフラクションパターンのぼけ量を算出する工程と、
前記ぼけ量に基づいて前記試料に対するイオンビームの照射停止タイミングを制御する工程と
を有する荷電粒子線装置を用いた試料作成方法。
【請求項10】
イオン源と、
イオンビームを照射するイオンビーム光学システム装置と、
前記イオンビームの照射を制御する第1の制御装置と、
電子源と、
電子ビームを照射する電子ビーム光学システム装置と、
前記電子ビームの照射を制御する第2の制御装置と、
試料を保持する試料保持機構と、
真空容器と、
前記電子ビームのうち前記試料を透過した電子によって生成されるディフラクションパターンを取得する二次元検出器と、
前記イオンビームによる前記試料のダメージ層の除去加工時に、前記ディフラクションパターンのぼけ量を算出し、当該ぼけ量を表示装置に表示する第3の制御装置と
を有することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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