説明

荷電粒子線顕微方法、荷電粒子線顕微装置、測長方法及び測長装置

【課題】 荷電粒子線応用装置及び測長装置などにおける所要の倍率範囲における倍率誤差を小さくする。
【解決手段】試料に対する倍率を実測した第1の画像を記録し、試料に対する倍率が未知の第2画像を記録し、画像解析を用いて第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することによって、試料に対する第2の画像の倍率を実測する。以後、第2の画像を第1の画像として上記倍率解析を繰り返す事により、全倍率範囲において倍率を実測する。全倍率範囲で試料に対する画像の倍率を実測して校正することにより、倍率誤差を一桁小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料の寸法を計測する荷電粒子線装置、更には半導体デバイスのパターン検査や解析に用いられる測長装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダの精度で試料寸法を測定する装置として例えば電子顕微鏡がある。電子顕微鏡は試料形状を数百倍から数百万倍に拡大して画像化する。そして必要な箇所の寸法を計測する。但し、拡大画像から計測される寸法は画素数である。画素数に試料に対する画像の倍率を乗じて試料寸法を計算する。つまり、試料寸法が真値であるかは倍率が真値であるかに依存する。
【0003】
試料寸法の測長精度が求められる装置として、測長SEM(Scanning Electron Microscope)がある。測長SEMは半導体デバイス作製プロセスにおけるパターン寸法管理に欠かせない装置となっている。測長SEMでは測長した値が真値であることが必要とされるため、繰返し周期が既知のピッチパターンで倍率校正を行っている。特開2002-15691号公報では、加速電圧やワーキングディスタンス(対物レンズと試料の間の距離)が変化した場合の倍率の変化をメッシュ等の標準試料を用いて測定し、表示倍率やスケールバーを校正する技術が記載されている。特開2000-337846号公報では、加速電圧やリターディング電圧、試料のチャージアップ等で生じる倍率変化を、繰返し周期が既知のピッチパターンを用いて測定し、設定倍率に補正係数を乗じて校正する技術が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−15691号公報
【特許文献2】特開2000−337846号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子顕微鏡の倍率範囲は数百倍から数百万倍である。しかし、標準試料を用いた校正ができる倍率は非常に限られている。具体的には、現在の加工技術で作成できるピッチパターンの周期は数百nmである。また加工誤差を平均化するために、ピッチパターンが10本以上含まれる画像を撮影し、該画像のフーリエ変換像から画像に映されたピッチパターンの周期(画素数)を求め、それがピッチパターンの周期(nm)になる倍率を計算する。ピッチパターンが10本程度含まれる倍率は1万倍程度である。上記公知例では、SEMをベースに倍率校正を記載しているが、電子顕微鏡にはSEMの他にもTEM(Transmission Electron Microscope)やSTEM(Scanning Transmission Electron Microscope)がある。SEMは試料表面から出射する電子線を検出して試料構造を可視化するが、TEMやSTEMは試料を透過した電子線を検出して試料構造を可視化する。そのためTEMやSTEMでは試料を薄膜化して観察する。TEMやSTEMでは試料内部の電子線の広がりが少ないので、TEMやSTEMの空間分解能はSEMの分解能よりも1桁高い。TEMやSTEMでは格子像の撮影が可能であり、ピッチパターンと共に格子像を倍率校正に用いている。格子間隔は、狭いもので金単結晶の0.102 nm、広いものではマイカ単結晶の1.0 nm等がある。格子像が観察できる倍率は数100万倍以上である。つまり、繰返し周期が既知の試料を用いて倍率校正ができるのは、1万倍以下と100万倍以上の倍率のみである。
【0006】
1万倍から100万倍では標準試料を用いた倍率校正は行えないため、試料に対する画像の倍率は電子光学系の制御電流から見積もった計算値を用いている。具体的には、SEMやSTEMの様に細く絞った電子線を試料上でラスター走査して画像を形成する装置では、走査用偏向器の電流範囲と入射電子線の走査範囲が比例するとして、任意画像の走査範囲つまり倍率を走査用偏向器の電流振幅から計算している。TEMの様に平行光を電子レンズで拡大する装置では、電子レンズの励磁電流から電子レンズの光学倍率を求め、試料に対する任意画像の倍率を計算している。
【0007】
以上の様に、実際に撮影された画像から倍率を解析し、校正しているのは極限られた倍率のみである。その他の倍率では、電子光学系の制御電流から計算された倍率を使用しているため、倍率に±5%程度の誤差が含まれる。ナノテクノロジーの進展に従い、半導体デバイス以外にもナノメータスケールに成型された工業製品が数多く生産される。これらの寸法は様々であり、様々な倍率での寸法管理が求められる。半導体デバイスにおいても、デバイスサイズが小さくなるに従い、ピッチパターン撮影倍率とは異なる倍率でパターン寸法測定を行う必要も出てくる。
【0008】
本発明の目的は、荷電粒子線応用装置及び測長装置などにおける所要の倍率範囲における倍率誤差を小さくすることである。
【0009】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は本明細書の記述及び添付図面から明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔1〕本発明では、試料に対する倍率を計測した第1の画像と、試料に対する倍率が未知の第2画像を記録し、画像解析を用いて第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することによって、試料に対する第2の画像の倍率を計測する。以後、第2の画像を第1の画像に置き換えて、上記倍率解析を繰り返す事によって、電子顕微鏡の全倍率範囲において、実際に撮影された画像から倍率を計測することができる。実測倍率を電子顕微鏡の制御条件と共に記録し、倍率校正を行うことによって、電子顕微鏡の倍率設定精度を一桁向上させることができる。
【0011】
〔2〕本発明の荷電粒子線顕微方法は、荷電粒子線を試料に照射し、当該試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して試料の画像を取得する方法であって、第1の制御条件で試料に荷電粒子線を照射して試料に対する倍率が既知とされる第1の画像を撮影する工程と、第2の制御条件で試料に荷電粒子線を照射して前記第1の画像と共通視野を有する第2の画像を撮影する工程と、前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を前記共通視野から解析する画像処理工程と、前記試料に対する前記第1の画像の倍率と前記第1の画像に対する前記第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求める工程と、前記試料に対する第2の画像の倍率を第2の制御条件と共に記録する工程と、を含む。
【0012】
前記画像処理工程において前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することができないとき、前記第1の画像に対する倍率差が第2の画像よりも小さくなる第3の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって前記第1の画像と共通視野を有する第3の画像を撮影する工程と、前記試料に対する前記第1の画像の倍率とを前記共通視野から解析する画像処理工程と、前記第3の画像に対する第2の画像の倍率を前記共通視野から解析する画像処理工程と、前記前記試料に対する前記第1の画像の倍率と、前記試料に対する前記第1の画像の倍率と、前記第3の画像に対する第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求める工程と、を更に含むのがよい。
【0013】
本発明の具体的な形態では、前記画像処理工程は、画像のフーリエ変換像を計算する工程と、前記フーリエ変換像の座標変換像を計算する工程を含み、前記座標変換像に基づいて倍率を求める。
【0014】
本発明の更に別の具体的な形態では、前記第1の制御条件は、取得した画像から結晶格子面間隔が測長可能な条件であり、試料に対する倍率は格子面間隔から実測された倍率である。
【0015】
〔3〕本発明に係る荷電粒子線応用装置は、第1の荷電粒子線を発生する荷電粒子源と、第1の荷電粒子線を試料へ導く第1の電磁界発生部と、第1の荷電粒子線に対する試料の位置を設定する試料ステージと、試料から出射する第2の荷電粒子線を検出器に導く第2の電磁界発生部と、第2の荷電粒子線を検出する検出器と、検出器出力に基づいて試料構造の画像を形成する画像形成部と、前記電磁界発生部を用いて試料に対する画像の倍率を設定する制御部とを含む。前記制御部は倍率校正部を有し、前記倍率校正部は、第1の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって試料に対する倍率が既知とされる第1の画像を記録し、第2の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって前記第1の画像と共通視野を有する第2の画像を記録し、記録した前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を求め、前記試料に対する前記第1の画像の倍率と前記第1の画像に対する前記第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求め、前記試料に対する第2の画像の倍率を第2の制御条件と共に記録する。
【0016】
本発明の具体的な形態では、前記制御部は、前記第1の電磁界発生部を構成する偏向器を用いて倍率を設定する。また、前記制御部は、第2の電磁界発生部を構成するレンズを用いて倍率を設定する。
【0017】
〔4〕本発明に係る測長方法は、 荷電粒子を被測長試料に照射し、当該照射によって被測長試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して取得される画像のデータをコンピュータに入力して、被測長試料を測長する測長方法であって、少なくとも倍率校正用標準試料を含む第1の画像のデータをコンピュータに入力し、標準試料の実際の長さと第1の画像上での長さとの対応から試料に対する第1の画像の倍率を演算し、少なくとも被測長試料を含む第2の画像のデータをコンピュータに入力し、第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析して試料に対する第2の画像の倍率を求め、第2の画像上での被測長試料の長さを実際の長さに変換する。
【0018】
上記測長方法によれば、標準試料を用いて倍率校正された第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することにより、第2の画像の倍率を校正することができる。以後、第1の画像を第2の画像に置き換えて、上記計算を繰り返す事によって、全ての画像の倍率を校正することができ、測長精度の向上を期待することができる。
【0019】
〔5〕本発明に係る測長装置は、被測長試料及び校正用標準試料を載置する試料ステージと、当該被測長試料又は標準試料に対して荷電粒子線を照射する照射光学系と、前記荷電粒子線照射により前記被測長試料又は標準試料から二次的に発生する荷電粒子線を検出する検出器と、前記検出器より画像信号を取得する手段と、試料に対する画像の倍率を電子光学系の調整で設定する倍率制御部と撮像される画像の倍率を入力する入力手段と、前記画像信号から被測長物の長さを測定する測長部とを備え、前記倍率制御部は、前記入力手段により入力される画像の倍率に応じて電子光学系を第1の及び第2の倍率条件に設定し、前記測長部は、前記第1の倍率条件で撮像された標準試料の画面第1の画像を用い、当該標準試料の実際の長さと第1の画像上での長さとの対応から試料に対する第1の画像の倍率を計算し、前記第2の倍率条件で撮像された第2の画像の第1の画像に対する倍率を解析して、試料に対する第2の画像の倍率を求め、当該倍率情報を用いて前記被測長試料の長さを推定する。
別の観点による測長装置は、荷電粒子源より荷電粒子線を試料に照射し、当該試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して被測長試料の画像信号を取得する画像信号形成部と、前記画像信号形成部で形成された画像信号を入力して画像処理を行ない、画像処理結果に基づいて試料の測長を行なうデータ処理部とを有し、前記データ処理部は、第1の照射条件倍率で撮像された標準試料の画面第1の画像から、当該標準試料の実際の長さと、第1の画像上での長さの対応から試料に対する第1の画像の倍率を計算し、第2の照射条件で撮像された第2の画像の第1の画像に対する倍率を解析して、試料に対する第2の画像の倍率を求め、当該倍率情報を用いて前記被測長試料の長さを推定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明における全倍率範囲で、撮影画像を解析し、試料に対する画像の倍率を実測して校正することにより、倍率誤差を小さくすることが出来る。倍率誤差が小さくなると、試料寸法の測長精度が向上する。
【0021】
上記により、ナノメートルスケールの様々な工業製品の寸法管理精度が向上し、歩留り向上に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
《実施の形態1》
実施の形態1ではSTEMにおける倍率校正技術を示す。図2に、本実施例で用いるSTEMの基本構成図を示す。電子銃11及び1次電子線23の加速電圧や引き出し電圧を制御する制御回路11'、1次電子線23を収束させる照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12'、試料18に入射する1次電子線23の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器13及びその電流値を制御する制御回路13'、試料18に入射する1次電子線23のビーム形状を調整するスティグメータ14及びその電流値を制御する制御回路14'、試料18に入射する1次電子線23の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器15及びその電流値を制御する制御回路15'、試料18に入射する1次電子線23をラスター走査する走査用偏向器16およびその電流値を制御する制御回路16'、1次電子線23の試料18に対する焦点位置の調整する対物レンズ17およびその電流値を制御する制御回路17'、試料18の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19'、試料を透過した電子線24を検出する電子検出器20およびそのゲインやオフセットを制御する制御回路20'、STEM制御ソフトを搭載した計算機21、画像処理ソフトを搭載した計算機22から構成される。各制御回路は計算機21によってコマンド制御される。なお、計算機21、22の機能を一台の計算機で行うことも可能である。図7の構成において計算機21及び22はデータ処理部、その他の構成要素は画像信号形成部として位置付けることが可能である。
【0023】
まず、図2の装置を用いてSTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線23を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料18を試料ステージ20に載せ、Z方向より1次電子線23を入射する。照射レンズ12を用いて1次電子線23をnmオーダーまで収束し、走査用偏向器16を用いて試料18上でラスター走査する。1次電子線23を薄膜化した試料18に入射すると、大部分の電子は試料18を透過する。この透過電子線24を電子線検出器20で検出し、走査用偏向器16の電子線走査信号と同期させてSTEM像を形成する。
【0024】
試料に対するSTEM像の倍率は走査用偏向器16の電流振幅で設定する。寸法既知の構造を含む標準試料を用いて電子線走査領域を実測し、走査偏向器16の電流振幅を調整して所望の倍率に設定する。ただし、標準試料を用いて走査領域を実測ができる倍率は非常に限られている。具体的には、低倍率用の倍率校正用試料にはカーボングレーティングやメッシュがある。これらの試料に含まれる、周期が既知のピッチパターンを用い、倍率を校正する。現在の加工技術で作成できるピッチパターンの周期は数百nmであり、加工誤差を平均化するためにピッチパターンが10本以上含まれる画像を撮影し、該画像のフーリエ変換像から寸法を測定する。ピッチパターンが10本程度含まれる倍率は1万倍程度である。高倍率における倍率校正には格子像を用いる。格子間隔は狭いもので、金単結晶の0.102 nm、広いものではマイカ単結晶の1.0 nm等があり、格子像が観察できる倍率は数100万倍以上である。1万倍から100万倍では標準試料を用いた倍率校正は行えないため、従来は、走査偏向器16の電流振幅と入射電子線の走査範囲が比例関係にあると仮定して、標準試料で校正した倍率と電流振幅の関係を元にして倍率を計算していた。
【0025】
以上の様に、実際に撮影した画像から倍率を校正できるのは、極限られた倍率のみである。その他の倍率では、走査用偏向器16の制御電流から試料に対する倍率を計算しているため、倍率には±5%程度の誤差が含まれる。なぜなら、電流振幅と走査範囲の対応は厳密には比例関係には無い上、電子銃11からの電子の引き出し条件、照射系レンズ12や対物レンズ17による電磁界の非線形性、レンズ内の試料の高さ等によって電流振幅と走査範囲の比例係数が変化するからである。
【0026】
本発明では、倍率設定精度を向上させるために、全ての倍率において実際に画像を撮影し、撮影した画像から倍率を解析し、倍率を校正する。具体的な倍率解析工程を図1に示す。繰返し周期が既知の標準試料を用いて試料に対する倍率を測定した第1の画像を記録し(S1)、任意倍率における第2画像を記録し(S2)、画像解析を用いて第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することによって(S3)、試料に対する第2の画像の倍率を求める(S4)。以後、第2の画像を試料に対する倍率が既知の第1の画像として、上記倍率解析を繰り返す事によって、電子顕微鏡の全倍率範囲における倍率を実際に撮影された画像で解析する。実測倍率を電子顕微鏡の制御条件と共に記録し、倍率を校正する。これによって、電子顕微鏡の倍率精度を一桁向上させることができる。
【0027】
本実施の形態では以下の倍率解析方法を採用している。倍率解析は、画像の回転と倍率を平行移動に変換する工程と、変換画像間の位置ずれ解析工程から構成される。まず、画像の回転と倍率を平行移動に変換する工程を、図4を用いて説明する。入力画像をN×Nピクセルの離散画像f(n,n)、g(n,n)とする。数1の式ように各画像を離散フーリエ変換し、周波数スペクトルを得る。
【0028】
【数1】

【0029】
数2の式のようにF、Gのゼロ周波数成分が画像の中央に来るように再配置する。
【0030】
【数2】

【0031】
数3の式のようにCF、CGの振幅スペクトルを計算する。振幅スペクトルは画像f(n,n)、g(n,n)の平行移動に関する情報が含まれないので、AFとAGは平行移動に依存しない量となる。
【0032】
【数3】

【0033】
AF、AGをLog-Polar変換する。変換結果は数4に示される。
【0034】
【数4】

【0035】
ただし、rm1、rm2は数5の式に示されるものとする。
【0036】
【数5】

【0037】
ここで、数6の等式を仮定すると、数7の式となるので、数8の式を得る。
【0038】
【数6】

【0039】
【数7】

【0040】
【数8】

【0041】
数8において数9の式を満足するτを導入すると、数10の式を得ることができる。
【0042】
【数9】

【0043】
【数10】

【0044】
数10の式は、実空間での倍率αをm方向の平行移動に変換している。実空間での回転はm方向への平行移動に変換される。PGとPFの間の位置ずれ量を解析し、これを倍率と回転に変換し、倍率と回転を計算する。なお、数11の式に示されるようにAF、AGを対数変換したLG、LFを、AG、AFの代わりに用いると、計算精度が向上する。これは振幅画像AG,AFの高周波成分を強調させる効果がある。
【0045】
【数11】

【0046】
つぎに、位置ずれ解析法を、図5を用いて説明する。位置ずれD=(Dx, Dy)のある2枚の離散画像S1(n, m)、S2(n, m)を仮定し、S1(n, m)=S2(n+Dx, m+Dy)と記述する。S1(n, m), S2(n, m)の2次元離散的フーリエ変換をS1'(k, l), S2'(k, l)とする。フーリエ変換にはF{S(n+Dx, m+Dy)}=F{S(n, m)}exp(iDx・k+iDy・l)の公式があるので、S1'(k, l)=S2'(k, l)exp(iDx・k+iDy・l)と変形できる。つまりS1'(k, l)とS2'(k, l)の位置ずれは位相差exp(iDx・k+iDy・l)=P'(k, l)で表現される。P'(k, l)は周期が(Dx, Dy)の波でもあるので、位相差画像P'(k, l)を逆フーリエ変換した解析画像P(n, m)には(Dx, Dy)の位置にδ的なピークが発生する。なお振幅の情報を全て除去するのではなく、S1'(k, l)・S2'(k, l)*=|S1'||S2'| exp(iDx・k+iDy・l)の振幅成分にlogもしくは√の処理を施して振幅成分を抑制した画像を計算し、該画像に逆フーリエ変換を施しても、位置ずれベクトルの位置(Dx, Dy)にδ的なピークが発生するので、該画像で位置ずれ解析を行っても良い。位相差画像P'(k, l)をフーリエ変換しても(-Dx, -Dy)にδ的なピークが発生するので、位相差画像P'(k, l)のフーリエ変換像で位置ずれ解析を実行しても良い。
【0047】
解析画像P(n, m)にはδ的なピークのみが存在すると仮定できるので、重心位置計算や関数フィッティングによって、δ的なピークの位置を小数点以下の精度で求められる。またδ的なピーク以外は雑音と見なすことが出来るので、解析画像P(n, m)全体の強度に対するδ的なピークの強度の割合を画像間の一致度と見なすことが出来る。従来の位置ずれ解析法では位置ずれ解析結果の信頼性を評価することは困難であり、解析に必要な周波数成分が不足していたために間違った位置ずれ量を出力しても、その位置ずれ量に基づいて解析・校正フローを進めてしまう。これに対し本位置ずれ解析法では一致度が出力されるので、一致度の下限値を設定し、一致度が下限値以下であれば画像の取り直しなどの対策を自動的に行う機能を設けてある。具体的には、図1に示す判断ステップ(S5)を設けてある。第1の画像に対する第2の画像の倍率が解析不能と判断された場合は、第1の画像に対する倍率差が第2の画像よりも小さい第3の画像(S6)を用い、第1の画像に対する第3の画像の倍率を解析し(S7)、第3の画像に対する第2の画像の倍率を解析し(S8)、両倍率を掛ける事によって第1の画像に対する第2の画像の倍率を求める。第1の画像に対する第3の画像の倍率が1に近づいても解析不能となった場合はコンタミネーション付着による像ボケ、装置エラーによる焦点外れや視野外れなどが考えられる。コンタミネーション付着など、当初から予想される阻害要因に対しては、予め対策を設けておく。例えば、解析に用いる視野を複数登録し、始めに使用した視野での解析が困難と判定された場合は、登録された別の視野で解析を行う。以上の対策を行っても原因が特定できない場合はエラーメッセージを表示して解析を中止する。
【0048】
第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析する際、画像間で共通でない領域は画像解析の阻害要因になるので、共通でない領域を出来るだけ削除した方が良い。そのための前処理方法が2つある。第1の前処理法は第1の画像に対する第2の画像の倍率が1に近くなるように、予め第1及び/若しくは第2の画像を拡大縮小しておく方法である。第2の前処理法は、共通な領域以外にマスクを掛ける方法である。
【0049】
また、画像間の倍率差が大きすぎると解析倍率不能となる場合がある。例えば、汎用装置では撮影画像の画素数は1,024×1,024程度である。倍率解析には少なくとも128×128程度の画素数は必要である。この場合、倍率差を8倍以上にすると倍率解析困難になると思われる。前記第1の前処理をした場合、第1の画像を128×128に縮小し、第2の画像から第1の画像と共通する領域を128×128の画像を切り取り、両者の倍率を解析する。更に、倍率差が8倍以上あると、第2の画像から第1の画像と共通する部分を切り取り、補間処理をしながら画像を拡大する必要がでてくる。同じ領域を撮影した画像でも、画像に含まれる情報量に違いが発生するのは明らかである。倍率解析可能か否かは、撮影に用いる試料の構造にも依存するので、適当な、例えば5倍程度の倍率差で第1の画像と第2の画像を撮影して倍率解析を行い、前述の一致度による判断フローを利用して、倍率が解析可能であったか否かを判断する。倍率解析不能であった場合は、第1の画像に対する倍率差が第2の画像よりも小さい第3の画像を用い、第1の画像と第3の画像の倍率を解析する。そして第3の画像に対する第2の倍率を解析し、それらの解析結果から第1の画像に対する第2の画像の倍率を得る。
【0050】
なお、倍率解析法として、上記方法以外の方法を用いても良い。例えば、位置ずれ解析法として、規格化相互相関法や最少二乗法を用いても良い。画像によっては位相を利用した位置ずれ解析法では解析不能であるが、他の解析法では解析可能となる場合がある。どの位置ずれ解析法を採用すべきかを、自動的に判断することも可能である。その手順を図9(a)に示す。画像間の位置ずれ量が既知の画像を用意する。例えば、1枚の画像から位置をずらせて画像を2枚切り出す。画像間の位置ずれ量を、位相を利用した位置ずれ解析法、規格化相関法、最少二乗法などで計算する。最も精度の高い計算結果が得られた方法を採用する。また、Log-Polar変換を用いない方法で倍率を解析しても良い。例えば、図10に示す方法で解析する。片方の画像の倍率を計算機内で変化させ、数12の式に示される他方の画像との相関値を計算する。相関値は2枚の画像が一致した時に最大値をとるので、相関値が最大となったときの倍率を解析結果と特定する。相関値の代わりに数13の式で示される最少二乗和を用いても良い。最少二乗和は2枚の画像が一致した時に最小値をとる。最少二乗和が最少となったときの倍率を解析結果と特定する。また、数14の式を用いても良い。この場合も、2枚の画像が一致した時に最小値をとる。どの倍率解析法を選択すべきかも、図9(b)に示す工程で、自動的に判断することが出来る。つまり、倍率が既知の画像を作製し、例えば1枚の画像から倍率を変えた2枚の画像を作成し、様々な倍率解析法で倍率を解析し、最も精度の高い解析結果が得られた方法を採用する。
【0051】
【数12】

【0052】
【数13】

【0053】
【数14】

【0054】
次に倍率解析手順について述べる。前述の様に、STEMでは繰返し周期が既知の標準試料を用いた倍率校正ができない範囲が1万倍から100万倍と広いため、画像処理による倍率解析を多段階で実施する必要がある。倍率解析回数が増加すると解析誤差が蓄積されていく。解析誤差の蓄積を最小限にするために、解析精度の向上と共に解析回数の削減が要求される。解析フローを工夫することで、標準試料で校正された倍率から解析したい倍率に達するまでの解析回数を削減することは可能である。図3(a)に示す様に高倍率から低倍率へと一方向に解析を進め、低倍率の標準試料とクロスチェックするより、図3(b)に示す様に2方向、つまり高倍率から中倍率と低倍率から中倍率で解析を進め、中倍率でクロスチェックした方が解析誤差の蓄積は少ない。更に図3(c)に示す様に、粗い倍率間隔で倍率解析した後、間の倍率は解析済の画像を第1の画像に設定して倍率解析することによって、標準試料で倍率校正された倍率から解析したい倍率までの解析回数が削減される。
【0055】
なお、画像間の倍率差を大きくすると解析回数は少なくなるが、画像間の共通構造が減少して解析精度が劣化することが懸念される。つまり、倍率差を大きくした場合、解析回数は減るが個々の解析誤差は増加する。倍率差を小さくした場合、解析回数は増加するが個々の解析誤差は減少する。大凡の解析誤差が見積もれる場合、それを利用して解析フローを選択する。例えば、倍率と回転を平行移動に変換し、位相を利用した解析法で位置ずれを解析する方法では、δ的なピーク強度つまり一度から解析誤差を見積もることが出来る。具体的には、128×128画素の2枚の画像が一致した時の一致度を100、全く異なる時の一致度を0として規格化した場合、一致度が30以上であれば解析誤差は0.1画素以下であるが、一致度が30以下になると解析誤差は徐々増加し、一致度が10以下になると0.3画素程度になる。倍率差を大きく設定した場合と小さく設定した場合で倍率解析を行い、一致度から解析誤差の蓄積を見積もり、解析誤差の蓄積の少ない方を選択する。
【0056】
最適な倍率解析フローは解析に用いる試料構造に依存する。最適な解析フローを検討するためには、撮影した画像をハードディスクに保存しておく必要がある。一方、最適な解析フローが特定さている試料構造で解析する場合、画像をハードディスクに保存せず、撮影と解析を交互に実行した方が効率的である。撮影した画像は、まずフレームメモリに記録される。そこで画像解析を行い解析結果のみを保存した後、画像は消去する。一般にバードディスクへの記録は速度が遅いので、画像は保存せずに解析結果のみ記録した方が、高速化が図られる。
【0057】
次に、倍率解析に用いる画像の撮影順序について述べる。倍率解析では画像間で共通の構造が存在する必要がある。つまり同じ領域に電子線を照射する必要がある。長時間、電子線を照射すると照射領域にコンタミネーションが付着する。高倍率ほどコンタミネーション付着量が多いうえ、高倍率ほどコンタミネーション付着による像ボケの影響は大きい。コンタミネーションが付着した領域で格子像を撮影することは一般に困難である。従って、始めに最高倍率で画像を撮影し、順次倍率を下げながら画像を撮影した方が良い。
【0058】
上記の倍率解析技術を用いて、全倍率範囲において装置の倍率を校正する手順を図6に示す。まず倍率校正用の試料を選択する。条件の1つは数百倍から数百万倍までのどの倍率で画像を撮影しても、適当な周波数成分を持つ画像が撮影できることである。一様な画像やボケた画像では倍率解析が行えないからである。微細構造が存在しないために高倍率では一様な画像しか撮影できない、試料サイズが小さすぎるために低倍では一様な画像しか撮影できない、という試料は不向きである。条件の2つ目は、繰返し周期が既知の構造を含むことである。出来れば、低倍率用と高倍率用の構造を含むことが望ましい。例えば、カーボングレーティングに金などを蒸着した試料やマイクログリットに金などを蒸着した試料などが適している。カーボングレーティングは従来から低倍率における倍率校正に用いられており、金の格子面間隔は高倍率における倍率校正に用いられている。また、蒸着金粒子が不定形に配置されており、どの倍率でも適当な周波数成分を持つ画像が得られる。マイクログリットはメッシュに炭素薄膜を載せた試料であり、メッシュを低倍率における倍率校正に、金の格子間隔を高倍率用の倍率校正に用いることが出来る。なお、金の格子面間隔は狭いので、初心者用にカーボングラファイト等、格子像を撮影し易い材料をカーボングレーティングやマイクログリットに添付しても良い。また、繰返し周期が数100 nmのピッチパターン及び数nm〜と数10 nmサイズの構造、例えば酸化膜や多結晶構造を含む半導体SiデバイスをTEM用に薄膜加工した試料も適している。低倍率校正にはピッチパターンを高倍率校正にはSiの格子面間隔を用いる。デバイス構造の寸法は製造装置の制御性に依存するので倍率校正には不向きであるが、中倍率の画像解析における参照構造として必要である。
【0059】
次に倍率校正を行う装置条件を設定する。STEMの倍率は、加速電圧V0、電子銃11からの電子の引き出し条件、照射系レンズ12や対物レンズ17による電磁界の非線形性、レンズ内の試料の高さ、等の影響を受ける。鏡体に加速電圧V0を印加し、V0を記録する。電子源が同一であれば、電子銃11からの電子線の引き出し条件は引き出し電圧V1からモニタできるので、1次電子線23の電流量を引き出し電圧V1で調整した後、引き出し電圧V1の値を記録する。照射系レンズ12による電磁界をモニタするために、各レンズの励磁電流を記録する。なお、電磁界をできるだけ一定の条件に揃えるために、軸調整は済ませておくべきである。試料の高さはジャストフォーカスにおける対物レンズ17の励磁電流からモニタできるので、試料18に焦点を合わせた時の対物レンズ17の励磁電流を記録しておく。さらに電子線走査速度を高速から低速まで設定できる電子顕微鏡では、走査信号の発生回路が高速と低速では異なる場合がある。この場合、電子線走査速度も記録しておく。
【0060】
高倍率で格子像を含む第1の画像を撮影し、第1の画像をフーリエ変換して格子面間隔を解析し、試料に対する第1の画像の倍率を解析する。次に倍率を下げて、つまり走査用偏向器16の電流振幅を増加させて走査範囲を広げ、第2の画像を撮影する。解析後の倍率校正を簡便に行うために、走査用偏向器16以外の装置パラメータは一定にしておいた方が良い。前期画像解析により、試料に対する第2の画像の倍率が実測される。試料に対する第2の画像の倍率を第2の画像を撮影した時の装置パラメータと共に保存する。以後、倍率解析済の第2の画像を試料に対する倍率が既知の第1の画像として、上記倍率解析を繰り返す。
【0061】
以上、ある装置条件における走査用偏向器16の電流振幅と倍率の関係を実測した後、別の装置条件で走査用偏向器16の電流振幅と倍率の関係を実測するかを選択する。照射系レンズ12設定や電子線走査速度などはモードが予め設定されているので、各モードにおいて倍率を解析し、校正する。引き出し電圧V1やレンズ内の試料高さは連続的に設定されるので、幾つかの設定値において倍率を解析した後、それらの補間値を用いて倍率を校正する。倍率校正に必要は装置条件のデータが測定できたら解析を終了し、得られたデータに基づいて倍率を校正する。
【0062】
倍率校正の具体的な手段として、走査用偏向器16の制御電流に反映する方法と、倍率解析結果を画像と共に表示されるスケールバーや表示倍率に反映する方法がある。装置キャリブレーションでは、以後の操作性を向上させるために、解析結果を走査用偏向器16の制御電流に反映させた方が良い。
【0063】
前述のように、全装置設定条件における全倍率範囲の倍率校正を行う、いわゆる装置キャリブレーションの他に、個別の倍率校正に対するニーズも高い。装置条件から得られた倍率よりも、撮影画像から実測された倍率の方が精度は高いからである。個別の倍率校正では、走査用偏向器16以外の装置パラメータを出来るだけ一定しに、繰返し周期が既知の構造を含む倍率から寸法を測定したい倍率まで順次画像を解析し、倍率校正を行う。例えば、半導体デバイスの断面試料を用いてデバイスの寸法を計測する場合、第1の画像として基板Siの格子像を撮影し、試料に対する第1の画像の倍率を解析し、寸法測定したい倍率まで、倍率を下げながら順次倍率を解析し、倍率校正を行った後、所望の寸法を測定する。また、第1の画像として半導体デバイス内の周期が既知のピッチパターンを低倍で撮影し、試料に対する第1の画像の倍率を解析し、寸法測定したい倍率まで、倍率を上げながら順次倍率を解析し、倍率を校正する。個別の倍率校正では、走査用偏向器16の走査範囲を変えて倍率を校正する、つまり装置条件を変更するより、解析結果を表示倍率もしくはスケールバーに反映させる方が良い。装置条件を変えると倍率が僅かに変化する可能性があるからである。
【0064】
個別の倍率解析では、第1の画像に用いる領域や寸法を測定したい領域はユーザーニーズに合わせて選択する必要がある。また、求められる倍率精度もユーザーニーズによって違うので、ユーザーニーズに合わせて撮影画像や解析パラメータが設定できるようにしておいたほうが良い。図11には計算機21,22による表示画面の一例が示される。図11に示す画面で、パラメータを設定し、解析結果を確認する。画面は、スタート(start)、ポーズ(pause)、ストップ(stop)など、処理の進行を制御する処理制御部41と、取込中もしくは解析中の画像を表示する画像表示部42と、解析結果及び解析誤差表示部43から構成される。スタート(start)は以上説明した倍率校正(オートスケーリング)処理の開始指示ボタンとされる。パラメータ設定部44はユーザーによって使用頻度が非常に異なるので、必要に応じてウィンドウが開くようにしておく。また、ピッチパターンから試料に対する第1の画像の倍率を解析する倍率入力部45のウィンドウも設けておく。ピッチパターンのフーリエ変換像を表示し、フーリエ変換像に現れるスポットから倍率校正に用いるピッチパターンのスポットを選択する。そのスポットがピッチパターンに対応しているか否化の確認は、そのスポット以外領域をマスキングした画像を逆フーリエ変換した画像で確認できる。また、ユーザーがスポットを含む領域を選択すれば、重心計算や関数フィッティングでスポットの中心を特定する機能を設けておくと良い。スポット位置の逆数がピッチパターン間隔であり、この間隔が既知の間隔になる倍率を計算する。図11において解析誤差表示がチェックされると、解析結果及び解析誤差表示部43に解析誤差が表示される。解析誤差は図3(a)〜図3(c)で説明したような解析誤差である。
【0065】
更に寸法精度を向上させるためには、試料の設置方向も重要になってくる。電子は鏡体内をらせん状に進行するため、照射レンズ12や対物レンズ17の設定を変えると像が回転する。像が回転すると寸法を測る方向がずれるため、測定結果にずれが生じる。今回用いた倍率解析法では倍率と同時に回転角度も計算される。倍率と共に回転角度を保存し、走査用偏向器16のXYに流れる電流比を調整することよって像を回転させるラスターローテーションを用いて像の方向が一定になるように補正した方が良い。この補正は、走査用偏向器16の設定を変えた時、つまり倍率を変えた時よりも、照射レンズ12や対物レンズ17の設定を変えた時には必須である。第1の画像における回転方向を基準とし、第1の画像に対する回転角度がゼロになるように校正する。回転校正の手順は図6に示す「倍率」を、「倍率と回転」に置き換えれば実行できる。各画像間の解析も、図1に示す「倍率」を「倍率」と回転に置き換えれば良い。
【0066】
《実施の形態2》
実施の形態2ではTEMにおける倍率校正技術を示す。図7に本実施の形態で用いるTEMの基本構成図を示す。電子銃11及び1次電子線加速電圧や引き出し電圧を制御する制御回路11'、1次電子線23の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12'、試料19に入射する1次電子線23の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器13及びその電流値を制御する制御回路13'、試料18に入射する1次電子線23のビーム形状を調整するスティグメータ14及びその電流値を制御する制御回路14'、1次電子線23の試料18に対する焦点位置を調整する対物レンズ17およびその電流値を制御する制御回路18'、試料18の試料室内での位置を設定する試料ステージ20およびその位置を制御する制御回路20'、試料18を通過した透過電子線24を拡大して投影する投影レンズ25及びその電流値を制御する制御回路25'、拡大して投影された電子線24を検出する電子検出用カメラ26およびそのゲインやオフセットを制御する制御回路26'、 TEM制御ソフトを搭載した計算機22、画像処理ソフトを搭載した計算機23から構成される。各制御回路は計算機21によってコマンド制御される。なお、計算機22、23の機能を一台の計算機で行うことも可能である。
【0067】
まず、図7の装置を用いてTEM像を得る工程を説明する。電子銃11から1次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸とほぼ平行な方向をZ方向、光軸とほぼ直交する面をXY平面とする。薄膜化した試料18を試料ステージ20に載せ、Z方向より1次電子線23を入射する。照射レンズ12、軸ずれ補正用偏向器13、スティグメータ14を用いて1次電子線23がZ軸と平行な入射角度で試料に平行入射するように調整する。1次電子線23を薄膜化した試料18に入射すると、大部分の電子は試料18を透過する。この透過電子線24を、投影レンズ25を用いて電子検出用カメラ26に拡大・投影する。
【0068】
試料に対するTEM像の倍率は投影レンズ25の励磁電流によって設定する。各レンズの励磁電流を調整して光学倍率を設定し、投影レンズ全体の倍率を設定する。試料に対するTEM像の倍率を調整するためには、繰返し周期が既知の構造を含む標準試料が必要である。しかし、実施例1のSTEMの場合と同様、繰返し周期が既知の標準試料を用いた校正ができる倍率は非常に限られている。その他の倍率は、標準試料で解析された倍率を基準にして、投影レンズ25の制御電流値から電子光学シミュレータによって計算された計算値を使用している。そのため表示倍率には±5%程度の誤差が含まれる。
【0069】
倍率誤差の要因として、投影レンズ25における励磁電流と光学倍率の対応誤差、電子銃11からの電子の引き出し条件の変化、照射系レンズ12や対物レンズ17における励磁電流と光学倍率の対応誤差、レンズ内の試料の高さ変化などが挙げられる。標準試料を用いて試料に対する倍率を解析した第1の画像と、その時の各レンズの励磁電流や引き出し電圧などの第1の装置条件を記録し、投影レンズ25の設定を変えて第2の画像を撮影し、その時の第2の装置条件を記録し、画像処理によって第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析し、試料に対する第2の画像の倍率を第2の装置条件と共に記録する。以後、倍率が解析された第2の画像を第1の画像に置き換えて、様々な装置条件における倍率を実測し、装置条件と共に記録する。記録された装置条件と倍率解析結果を元に、TEMの倍率を校正する。
【0070】
STEMでは走査用偏向器16の制御電流で倍率を校正したが、TEMでは透過レンズの設定条件変更で倍率校正を行う。倍率校正は、投影レンズ25の内、試料から最も離れた位置にある、つまり電子線検出用カメラに最も近い位置にある投影レンズ25-1の励磁電流で調整するのが良い。倍率調整用レンズと電子線検出用のカメラの間に別のレンズが存在すると、調整が複雑になるからである。倍率誤差が大きく、投影レンズ25-1のみでは調整不可能となった場合のみ、他の投影レンズ25の励磁電流も調整する。
【0071】
その他の工程は、STEMにおける倍率校正とほぼ同じ手順で実行する。
【0072】
《実施の形態3》
図8は本実施例で使用するウェハ対応SEMの基本構成図である。電子銃11及び一次電子線23の加速電圧や引き出し電圧を制御する制御回路11'、1次電子線23の収束条件を調整する照射レンズ12及びその電流値を制御する制御回路12'、試料18に入射する1次電子線23の入射角度を調整する軸ずれ補正用偏向器13及びその電流値を制御する制御回路13'、試料18に入射する1次電子線23のビーム形状を調整するスティグメータ14及びその電流値を制御する制御回路14'、試料18に入射する1次電子線23の照射領域を調整するイメージシフト用偏向器15及びその電流値を制御する制御回路15'、試料18に入射する1次電子線23をラスター走査する走査用偏向器16およびその電流値を制御する制御回路16'、1次電子線23の試料18に対する焦点位置を調整する対物レンズ17およびその電流値を制御する制御回路17'、試料18の試料室内での位置を設定する試料ステージ19およびその位置を制御する制御回路19'、試料表面から出射する電子30を所定の方向へ偏向するE×B用偏向器31及びその電流値を制御する制御回路31'、偏向された電子線30が衝突する反射板32、反射板32から出射する電子線を検出する電子検出器20及びそのゲインやオフセットを制御する制御回路20'、レーザー光33を用いた試料高さセンサー34及びそれを制御する制御回路34'、SEM制御ソフトを搭載した計算機21、画像処理ソフトを搭載した計算機22から構成される。各制御回路は計算機21によってコマンド制御される。なお、計算機21、22の機能を一台の計算機で行うことも可能である。
【0073】
まず、SEM像を得るまでの工程を説明する。電子銃11から一次電子線を引出し電圧V1で引出し、加速電圧V0を印加する。鏡体の光軸と平行な方向をZ方向、光軸と直交する面をXY平面とする。試料18を挿入し、レーザーを用いた試料高さセンサー34で試料18の高さを求め、試料ステージ19のZ位置調整または対物レンズ17の制御値調整によって画像解析可能な範囲に焦点を補正する、つまり焦点の粗調整を行う。この粗調整は低倍で試料18の画像を確認し、該画像を用いて行っても良い。試料ステージ19のXY移動機構を用いて電子光学系調整用の視野を選択する。概電子光学系調整用視野で、軸ずれ、焦点、非点を補正する。次に試料ステージ19を用いて撮影用視野に移動し、画像が鮮明に観察できる様に対物レンズ19の焦点を微調整した後、画像の取込みを行う。
【0074】
近年のウェハ対応SEMは空間分解能向上のために1次側の加速電圧を高くし、試料側に負の電圧を印加して試料入射電圧を減速させる減速電界方式(以下、リターディング方式)が採用されている。試料側に印加される負の電圧をリターディング電圧Vrと呼ぶ。測長SEMでは試料入射電圧がゼロに近づくようにリターディング電圧を設定する。また、リターディング電圧Vrを変化させて試料表面の帯電状態を変化させ、デバイスのリークを検査するSEM式検査装置もある。リターディング電圧Vrが変化すると試料に対するSEM像の倍率が変化する。ウェハ対応SEMでは、倍率解析結果と共に記録される装置条件にリターディング電圧Vrを加える必要がある。リターディング電圧は、ウェハ上に形成されたデバイス構造によっては、ウェハ全面に一様に印加される保障は無いので、ウェハ内での倍率測定位置も装置条件として保存しておく必要がある。
【0075】
試料に対する第1の画像の倍率は、ウェハ上に形成されたデバイスパターンから繰返し周期が既知のパターンを選択し、その繰返し周期から解析する。現在、倍率設定誤差を最小限にするために、標準試料で校正した倍率とパターン幅を計測する倍率はほぼ等しく設定されている。しかし、パターン加工誤差を平均化するためには第1の画像は低倍率で撮影した方が良い。一方、パターン幅を計測する倍率はSEMの空間分解能から最適化されるべきである。更に最近では、パターン幅だけでなく、パターン表面の凹凸も評価項目になっており、更に高い倍率で観察する必要もでてきている。第1の画像の倍率を低くして繰返し周期の解析精度つまり試料に対する第1の画像の倍率精度を向上させ、パターン幅計測時の条件で第2の画像を撮影し、第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析し、試料に対する第2の画像の倍率を解析した方が、パターン寸法計測解析精度が向上する。
【0076】
STEMとSEMでは上記の違いはあるが、図6に示す手順、つまり装置条件を記録し、その条件で走査用偏向器の電流振幅を変化させた時の倍率を解析し、倍率解析結果を装置条件と共に記録する。得られた結果を元に倍率校正を行うという手順は同じである。
《実施例4》
本発明における倍率解析・校正技術は、電子顕微鏡のみならず他の荷電粒子線装置にも適用可能である。例えば、イオンビームを細く集束して試料上をラスター走査し、試料から発生する電子線もしくは2次イオンを検出して試料構造を可視化するFocused Ion Beam (FIB)にも適用可能である。また、様々なプローブ顕微鏡、例えばScanning tunnel Microscopy、 Atomic Force Microscopyにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】試料に対する画像の倍率を解析する工程を示すフローチャート。
【図2】STEMの基本構成図。
【図3】多段階倍率校正による解析誤差の蓄積を示す説明図であり、(a)は高倍率から低倍率へ、(b)は高倍率から中倍率と低倍率から中倍率へ、(c)は倍率間隔を変えて倍率解析を行った時の誤差の蓄積を示す。
【図4】画像の回転と倍率を平行移動に変換する工程を示す説明図。
【図5】位置ずれ解析の計算工程を示す説明図。
【図6】装置倍率の校正手順を示すフローチャート。
【図7】TEMの基本構成図。
【図8】SEMの基本構成図。
【図9】解析方法の選択手順を示すフローチャートであり、(a)は位置ずれ解析方法の、(b)は倍率解析方法の選択手順を示す。
【図10】倍率解析方法を示す説明図。
【図11】倍率解析における制御画面の概略図。
【符号の説明】
【0078】
11…電子銃
11'…電子銃制御回路
12…照射レンズ
12'…照射レンズ制御回路
13…軸ずれ補正用偏向器
13'…軸ずれ補正用偏向器制御回路
14…スティグメータ
14'…スティグメータ制御回路
15…イメージシフト用偏向器
15'…イメージシフト用偏向器制御回路
16…走査用偏向器
16'…走査用偏向器制御回路
17…対物レンズ
17'…対物レンズ制御回路
18…試料
19…試料ステージ
19'…試料ステージ制御回路
20…電子検出器
20'…電子検出器制御回路
21…電子顕微鏡制御ソフトを搭載した計算機
23…STEM制御ソフトを搭載した計算機
24…薄膜化した試料
22…画像処理ソフトを搭載した計算機
23…1次電子線
24…透過電子線
25…投影レンズ
25'…投影レンズ制御回路
26…電子線検出用カメラ
26'…電子線検出用カメラ制御回路
30…試料表面から出射する電子線
31…E×B偏向器
32…反射板
33…レーザー光33を用いた試料高さセンサー34
34'…高さセンサー制御回路
41…処理制御部
42…画像表示部
43…解析結果及び解析誤差表示部
44…パラメータ設定部
45…倍率入力部45

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を試料に照射し、当該試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して試料の画像を取得する荷電粒子線顕微方法であって、
第1の制御条件で試料に荷電粒子線を照射して試料に対する倍率が既知とされる第1の画像を撮影する工程と、
第2の制御条件で試料に荷電粒子線を照射して前記第1の画像と共通視野を有する第2の画像を撮影する工程と、
前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を前記共通視野から解析する画像処理工程と、
前記試料に対する前記第1の画像の倍率と前記第1の画像に対する前記第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求める工程と、
前記試料に対する第2の画像の倍率を第2の制御条件と共に記録する工程と、を含む荷電粒子線顕微方法。
【請求項2】
前記画像処理工程において前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析することができないとき、
前記第1の画像に対する倍率差が第2の画像よりも小さくなる第3の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって前記第1の画像と共通視野を有する第3の画像を撮影する工程と、
前記試料に対する前記第1の画像の倍率とを前記共通視野から解析する画像処理工程と、
前記第3の画像に対する第2の画像の倍率を前記共通視野から解析する画像処理工程と、
前記前記試料に対する前記第1の画像の倍率と、前記試料に対する前記第1の画像の倍率と、前記第3の画像に対する第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求める工程と、を更に含む請求項1記載の荷電粒子線顕微方法。
【請求項3】
前記画像処理工程は、画像のフーリエ変換像を計算する工程と、前記フーリエ変換像の座標変換像を計算する工程を含み、前記座標変換像に基づいて倍率を求める請求項2記載の荷電粒子線顕微方法。
【請求項4】
前記第1の制御条件は取得した画像から結晶格子面間隔が測長可能な条件であり
試料に対する倍率は格子面間隔から実測された倍率である請求項3記載の荷電粒子線顕微方法。
【請求項5】
第1の荷電粒子線を発生する荷電粒子源と、
第1の荷電粒子線を試料へ導く第1の電磁界発生部と、
第1の荷電粒子線に対する試料の位置を設定する試料ステージと、
試料から出射する第2の荷電粒子線を検出器に導く第2の電磁界発生部と、
第2の荷電粒子線を検出する検出器と、
検出器出力に基づいて試料構造の画像を形成する画像形成部と、
前記電磁界発生部を用いて試料に対する画像の倍率を設定する制御部とを含み、
前記制御部は倍率校正部を有し、前記倍率校正部は、
第1の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって試料に対する倍率が既知とされる第1の画像を記録し、第2の制御条件で試料に荷電粒子線を照射することによって前記第1の画像と共通視野を有する第2の画像を記録し、記録した前記第1の画像に対する第2の画像の倍率を求め、前記試料に対する前記第1の画像の倍率と前記第1の画像に対する前記第2の画像の倍率とから前記試料に対する第2の画像の倍率を求め、前記試料に対する第2の画像の倍率を第2の制御条件と共に記録する荷電粒子線応用装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の電磁界発生部を構成する偏向器を用いて倍率を設定する請求項5記載の荷電粒子線応用装置。
【請求項7】
前記制御部は、第2の電磁界発生部を構成するレンズを用いて倍率を設定する請求項5記載の荷電粒子線応用装置。
【請求項8】
荷電粒子を被測長試料に照射し、当該照射によって被測長試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して取得される画像のデータをコンピュータに入力して、被測長試料を測長する測長方法であって、
少なくとも倍率校正用標準試料を含む第1の画像のデータをコンピュータに入力し、標準試料の実際の長さと第1の画像上での長さとの対応から試料に対する第1の画像の倍率を演算し、
少なくとも被測長試料を含む第2の画像のデータをコンピュータに入力し、第1の画像に対する第2の画像の倍率を解析して試料に対する第2の画像の倍率を求め、第2の画像上での被測長試料の長さを実際の長さに変換する測長方法。
【請求項9】
被測長試料及び校正用標準試料を載置する試料ステージと、
当該被測長試料又は標準試料に対して荷電粒子線を照射する照射光学系と、
前記荷電粒子線照射により前記被測長試料又は標準試料から二次的に発生する荷電粒子線を検出する検出器と、
前記検出器より画像信号を取得する手段と、
試料に対する画像の倍率を電子光学系の調整で設定する倍率制御部と、
撮像される画像の倍率を入力する入力手段と、
前記画像信号から被測長物の長さを測定する測長部とを備え、
前記倍率制御部は、
前記入力手段により入力される画像の倍率に応じて電子光学系を第1の及び第2の倍率条件に設定し、
前記測長部は、前記第1の倍率条件で撮像された標準試料の第1の画像を用い、当該標準試料の実際の長さと第1の画像上での長さとの対応から試料に対する第1の画像の倍率を計算し、
前記第2の倍率条件で撮像された第2の画像の第1の画像に対する倍率を解析して、試料に対する第2の画像の倍率を求め、
当該倍率情報を用いて前記被測長試料の長さを推定する測長装置。
【請求項10】
荷電粒子源より荷電粒子線を試料に照射し、当該試料から二次的に発生する荷電粒子を検出して被測長試料の画像信号を取得する画像信号形成部と、
前記画像信号形成部で形成された画像信号を入力して画像処理を行ない、画像処理結果に基づいて試料の測長を行なうデータ処理部とを有し、
前記データ処理部は、第1の照射条件倍率で撮像された標準試料の第1の画像から、当該標準試料の実際の長さと、第1の画像上での長さの対応から試料に対する第1の画像の倍率を計算し、第2の照射条件で撮像された第2の画像の第1の画像に対する倍率を解析して、試料に対する第2の画像の倍率を求め、当該倍率情報を用いて前記被測長試料の長さを推定する測長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−58210(P2006−58210A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242103(P2004−242103)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】