説明

落石防止柵、落石防止柵を備えた構造物、および落石防止柵の施工方法

【課題】良好な衝撃吸収性能を発揮すると共に、効率的かつ簡便な施工を可能とする。
【解決手段】落石を受け止めるための落石防止柵であって、螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材縦横に組み合わせた網部材25にて構成され形状の自己保持が可能な中空柱体20であり、中空柱体20の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体20を、延長方向において互いの側端部26が重複するよう複数配置し、連結用螺旋線材55を前記側端部26の網部材25に追加してゆくことにより前記中空柱体20同士を互いに連結して落石防止柵を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、落石防止柵、落石防止柵を備えた構造物、および落石防止柵の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より斜面等からの落石を受け止める落石防止柵として種々のものが提案されている。広く用いられている落石防止柵の構造として、例えば、ロープの口開きを一定に規制しつつ、衝撃吸収性能の向上が図れる衝撃吸収技術を提供することを課題とした、所定の間隔を隔てて立設した支柱間に複数のロープを多段的に横架した衝撃吸収柵において、多段的に配置した複数のロープに跨り、ロープの交差方向に向けて波状の連結材を配置し、前記多段的に配置したロープと該連結材と交差部を締結具で締結したことを特徴とする、衝撃吸収柵(特許文献1参照)などが提案されている。
【0003】
また、合理的に形成された衝撃吸収材を使用して、能率的な施工が行え、製作費用が高価となることのない落石防護柵を提供することを課題とした、傾斜面に立設した支柱間に衝撃吸収材を横架して構成する落石防護柵において、前記支柱間に横架した衝撃吸収材は、受衝方向に対して傾斜した斜材を含む立体トラス構造体であることを特徴とする、落石防護柵(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−184035号公報
【特許文献2】特開2001−64917号公報
【特許文献3】特開2003−275802号公報
【特許文献4】特開2004−337892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には以下のような問題点が残されていた。例えば、支柱間に防護ネットを横架した構造であると、防護ネットによる衝撃吸収性能が大きくないだけでなく、柵全体を大型で大重量に設計する必要があり、所定の衝撃吸収性能を得るためにはコストが高くなりやすいという難点があった。
【0006】
他方、この点を改善するため、摩擦抵抗式の緩衝具を用い、ロープと緩衝具との間の摺動抵抗により衝撃を吸収する技術や、ロープの固定部にエネルギー吸収機能を持たせる技術なども提案されてはいるが、これらの技術を採用するに際し、多数の緩衝具等の治具や部品を用いる必要がある。そのため、緩衝具等の設置作業やロープの把持作業などに多くの人手と時間がかかり、低い作業効率や高コストといった問題が存在した。
【0007】
更に、落石に伴う受撃時において防護ネットの変形量が大きくなりやすいため、柵の設置場所が各種交通機関施設(道路、鉄道線路など)や住宅等に近接する場合は、当該柵の採用が難しいという問題があった。したがって、柵の設置場所に制約を受けやすく施工の自由度が低いという難点もあった。
【0008】
一方、立体トラス構造を採用した構造であると、立体トラス同士の接合が煩雑であり、設置現場での多くの手間と時間とがかかり、作業効率が良好ではなかった。しかも、煩雑になりがちな現場での接合作業を省略するために、当該接合作業を工場で予め行うとしても、製作される立体トラスが大きなブロックとなっていた。従って、設置現場にこの大型の立体トラスを搬入する際には、取り回しが難しくなり、大型のクレーン等を導入する必要があるなど機器導入コストの増大を招来しやすい課題があった。
【0009】
そこで本発明はこのような課題に着目してなされたもので、良好な衝撃吸収性能を発揮すると共に、効率的かつ簡便な施工を可能とする、落石防止柵、落石防止柵を備えた構造物、落石防止柵の施工方法,および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の落石防止柵は、落石を受け止めるための落石防止柵であって、螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成され中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結してなることを特徴とする(第1の発明)。
【0011】
の発明は、第1の発明において、前記網部材の線材が、鋼製または合成樹脂製のいずれかであることを特徴とする。
【0012】
の発明は、第1又は第2の発明において、前記中空柱体の水平断面が、円形、楕円形、多角形、隅部がR加工された多角形のいずれかであることを特徴とする。
【0013】
の発明は、第1〜第のいずれかの発明において、前記中空柱体の中空部分に緩衝材を挿入又は充填したことを特徴とする。
【0014】
の発明は、第の発明において、前記緩衝材が、木材、木材チップ、発泡スチロール、発泡ウレタン、硬質ゴム、土砂、砕石、薄肉鋼管の少なくともいずれかからなることを特徴とする。
【0015】
の発明は、落石を受け止めるための落石防止柵を備えた構造物であって、螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成された中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結してなる落石防止柵を備えた構造物にかかる。
【0016】
の発明は、落石を受け止めるための落石防止柵の施工方法であって、螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成された中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結することを特徴とする落石防止柵の施工方法にかかる。
【0017】
の発明は、落石防止柵に使用する中空柱体の製造方法であって、略長方形の平板状の網部材における長手方向の両端部を、長手方向に所定の長さに渡って前記平板状の網部材に対して略直角となるように折り曲げた後、前記網部材が中空柱体を形成するように円筒状に丸めて両端部を突き合わせ、当該両端部を中空柱体の長さ方向に渡って挟持金物でボルト接合することを特徴とする中空柱体の製造方法にかかる。
【0018】
の発明は、落石防止柵に使用する中空柱体の製造方法であって、第の発明において、前記挟持金物は、断面がL字状でボルト挿通孔を有するの2つのL字状部材と、ボルト挿通孔を有する平鋼A及び平鋼Bとからなり、前記両端部において、前記突き合わせられた網部材の間に平鋼Aを挟み、前記略直角に折り曲げられた網部材の形状に合せて前記2つのL字状部材を前記両端部にそれぞれ設置し、前記平鋼Aと前記2つのL字状部材とで前記突き合わせられた網部材をボルト接合し、更に、前記平鋼Bを前記略直角に折り曲げられた側と反対側の前記中空柱体に設置して、前記2つのL字状部材とで前記網部材を挟んでボルト接合することを特徴とする中空柱体の製造方法にかかる。
【0019】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明の実施の形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の落石防止柵、落石防止柵を備えた構造物、および落石防止柵の施工方法によれば、良好な衝撃吸収性能を発揮すると共に、効率的かつ簡便な施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態の落石防止柵における形態例1を示す側面図である。
【図2】本実施形態の落石防止柵における形態例1を示す、(a)平面図および正面図、(b)他の例の平面図である。
【図3】本実施形態における中空柱体の連結手順を示す図である。
【図4】本実施形態の落石防止柵における形態例2を示す側面図である。
【図5】本実施形態の落石防止柵における形態例2を示す正面図である。
【図6】本実施形態における網部材を構成する螺旋材を示す俯瞰図である。
【図7】本実施形態における網部材を構成する螺旋材の側面および断面を示す図である。
【図8】本実施形態の網部材における線材の組合せ状況を示す図である。
【図9】(a)本実施形態における中空部材の結合部の一例を示した断面図であり、(b)(a)のA−A断面を示した図である。
【図10】金網の種類による衝撃吸収能力の違いを示した図である。
【図11】本実施形態における接合部の有無による強度の差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、一例として、山腹など傾斜の大きな法面の法尻近傍に本発明の落石防止柵を設置し、前記法面等からの落石を前記落石防止柵で受け止めてその衝撃を吸収する状況を想定するが、これに適用対象が限定されるものではなく、落石が生じうるいずれの状況にも本発明の落石防止柵は適用可能である。
【0023】
−−−落石防止柵の全体構造1−−−
図1は本実施形態の落石防止柵における形態例1を示す側面図であり、図2は本実施形態の落石防止柵における形態例1を示す、(a)平面図および正面図、(b)他の例の平面図である。以下、図1と図2を合わせて用いつつ説明を行う。ここで示す落石防止柵100は、地山10の法面11からの落石を受け止めるべく、前記法面11の法尻12の近傍において設置されるものである。そのため、前記地山10の適宜な切り土を行うなどして形成した路盤13中にコンクリートの基礎14を打設している。このコンクリート基礎14は、落石防止柵100を支持する基礎となり、例えばH型鋼、鋼管などの適宜な強度を備える支柱部材15の下端と固着している。
【0024】
更に、この支柱部材15は、前記コンクリート基礎14との一体化を確かなものとするため、例えば断面L字型のフランジ材16を当接し、このフランジ材16と前記コンクリート基礎14とをボルト・ナット17等により締結固定している。
【0025】
こうした、コンクリート基礎14および支持部材15は、前記路盤13上において必要な延長分だけ適宜な間隔を置いて前記法面11の横断方向に繰り返し施工されることとなる。勿論、上述したコンクリート基礎14の形成と支柱部材15の設置の工程については一例であり、本発明の落石防止柵をなす中空柱体を介して受ける、落石時の衝撃に抗しうる支持力を奏するものであれば、いずれの基礎および支柱部材の施工形態であってもよい。
【0026】
図2に示すように、上記支柱部材15の間は、線材21、22を縦横に組み合わせた網部材25にて構成され形状の自己保持が可能な中空柱体20を、前記法面11の横断方向に連結することで壁面を形成している。この中空柱体20は、前記網部材25を水平断面が円形、楕円形、多角形、隅部がR加工された多角形のいずれかに成形してなしたものである。
【0027】
図3は本実施形態における中空柱体の連結手順を示す図である。中空柱体20同士の連結にあたっては、前記法面11の横断方向において互いの側端部26が重複するよう配置し、連結用螺旋線材55を前記側端部26の網部材25に追加してゆく。このような施工を行うことで前記中空柱体20同士を互いに連結することとなる。したがって、溶接やボルト締結といった作業や特殊部材、特殊工具等を中空柱体20同士の連結に用いることがないため、簡便で施工性の良い施工が可能となる。
【0028】
側端部26を重複させるにあたっては、中空柱体20の側端部26を構成する部位の網部材25において、縦方向の線材21を配置しないものとする。縦方向の線材21が配置されておらず横方向の線材22のみであれば、側端部26同士を嵌め合いやすくなり重複処理が円滑に行えることとなる
図2に示す例では、前記支柱部材15と前記中空柱体20との取り合いを図るため、支柱部材15の側部近傍に補助棒状材31を配置し、これら支柱部材15と補助棒状材31とを挿通させる補助中空柱体28を設けている。この場合、前記中空柱体20同士の連結と同様に、前記補助中空柱体28および中空柱体20を各々の側端部26で重複させ、連結用螺旋線材55を前記側端部26の網部材25に追加してゆくこととなる。
【0029】
棒状材30、補助棒状材31の形状は、特に限定されず、角柱状、円柱状等を適宜使用できるが、斜面等の地形が、例えば図2(b)で示す地山10の法面11における法尻12の形状のように、直線状ではなく変化するような状況に応じて中空柱体20や補助中空柱体28の連結時の角度を変える必要がある場合は、角度変更が容易となることから円柱状が好ましい。
【0030】
なお、前記支柱部材15と前記補助中空柱体28との固定が必要な場合は、例えば、前記補助中空柱体28を所定面積覆う圧接片70を設置し、この圧接片70を支柱部材15とボルト71による締結を行うことで対応できる。
【0031】
また、前記中空柱体20の中空部分29に、間伐材等の木材3や、発泡ウレタン4などの緩衝材5を挿入又は充填することができる。緩衝材5としては、その他木材チップ、発泡スチロール、硬質ゴム、土砂、砕石、薄肉鋼管なども用いることができる。それぞれ、中空柱体に挿入又は充填することで、優れた緩衝作用を発揮することができる。この挿入又は充填を行うにあたっては、中空柱体20の緩衝性能を確保するべく、中空部分29における緩衝材5の配置は、緩衝材の硬さや性能に応じて、適正な緩衝作用を発揮できるように、その配置の密度等を調節するとよい。例えば、間伐材や砕石や鋼管等の比較的硬いものを挿入するときには、その配置が粗となるよう配慮する。一方、発泡ウレタンや発泡スチロール等の材料自体に緩衝機能を有するものは密に充填、配置したほうが、緩衝作用をより有効に活用できる。
【0032】
このように、中空部分29における緩衝材5の施工を行うことで、受撃時における当該緩衝材5によるエネルギー吸収が期待できる一方で、中空柱体20が潰れることによるエネルギー吸収を期待しにくい代わりに、大きな変形を抑制することもできる。従って、落石防止柵100の設置現場が各種交通機関施設や住宅等に接近する場合にもそれらに影響を及ぼすことが少なくなり、施工範囲の自由度が高まることとなる。更には、間伐材などの有効利用を図ることにもつながる。
【0033】
−−−落石防止柵の全体構造2−−−
図4は本実施形態の落石防止柵における形態例2を示す側面図であり、図5は本実施形態の落石防止柵における形態例2を示す正面図である。以下、図4と図5を合わせて用いつつ説明を行う。ここで示す落石防止柵100は、先に示した全体構造1の例と同様に、地山10の法面11からの落石を受け止めるべく、前記法面11の法尻12の近傍において設置されるものである。そのため、前記地山10の適宜な切り土を行うなどして形成した路盤13中にコンクリートの基礎14を打設している。このコンクリート基礎14は、落石防止柵100を支持する基礎となり、例えばH型鋼、鋼管などの適宜な強度を備える支柱部材15の下端と固着している。
【0034】
更に、この支柱部材15は、前記コンクリート基礎14との一体化を確かなものとするため、例えば断面L字型のフランジ材16を当接し、このフランジ材16と前記コンクリート基礎14とをボルト・ナット17等により締結固定している。
【0035】
こうした、コンクリート基礎14および支持部材15は、前記路盤13上において必要な延長分だけ適宜な間隔を置いて前記法面11の横断方向に繰り返し施工されることとなる。勿論、上述したコンクリート基礎14の形成と支柱部材15の設置の工程については一例であり、本発明の落石防止柵をなす中空柱体を介して受ける、落石時の衝撃に抗しうる支持力を奏するものであれば、いずれの基礎および支柱部材の施工形態であってもよい。
【0036】
図4に示すように、上記支柱部材15の間は、線材21、22を縦横に組み合わせた網部材25にて構成され形状の自己保持が可能な中空柱体20を、前記法面11の横断方向に連結することで壁面を形成している。この中空柱体20は、前記網部材25を水平断面が円形、楕円形、多角形、隅部がR加工された多角形のいずれかに成形してなしたものである。
【0037】
中空柱体20同士の連結にあたっては、図3で既に示したように、前記法面11の横断方向において互いの側端部26が重複するよう配置し、連結用螺旋線材55を前記側端部26の網部材25に追加してゆく。このような施工を行うことで前記中空柱体20同士を互いに連結することとなる。したがって、溶接やボルト締結といった作業や特殊部材、特殊工具等を中空柱体20同士の連結に用いることがないため、簡便で施工性の良い施工が可能となる。側端部26を重複させるにあたっては、中空柱体20の側端部26を構成する部位の網部材25において、縦方向の線材21を配置しないものとする。縦方向の線材21が配置されておらず横方向の線材22のみであれば、前記棒状材30の前記空間27への挿入を妨げることがない上、何より側端部26同士を嵌め合いやすくなり重複処理が円滑に行えることとなる
図5に示す例では、前記支柱部材15と前記中空柱体20との取り合いを図るため、支柱部材15の側部近傍に前記棒状材30を配置している。そして、これら支柱部材15と棒状材30とをボルト・ナット40により挿通し互いに締結することで固定している。この場合、前記支柱部材15の法面11との対向面に中空柱体20が配置されることとなり、支柱部材15自体を中空柱体20が挿通することはない。中空柱体20はあくまでも側端部26において棒状材30を挿通するのみである。
【0038】
また、前記中空柱体20の中空部分29に、間伐材等の木材3や、発泡ウレタン4などの緩衝材5を挿入又は充填することができる。緩衝材5としては、その他木材チップ、発泡スチロール、硬質ゴム、土砂、砕石、薄肉鋼管なども用いることができる。それぞれ、中空柱体に挿入又は充填することで、優れた緩衝作用を発揮することができる。この挿入又は充填を行うにあたっては、中空柱体20の緩衝性能を確保するべく、中空部分29における緩衝材5の配置は、緩衝材の硬さや性能に応じて、適正な緩衝作用を発揮できるように、その配置の密度等を調節するとよい。例えば、間伐材や砕石や鋼管等の比較的硬いものを挿入するときには、その配置が粗となるよう配慮する。一方、発泡ウレタンや発泡スチロール等の材料自体に緩衝機能を有するものは密に充填、配置したほうが、緩衝作用をより有効に活用できる。
【0039】
このように、中空部分29における緩衝材5の施工を行うことで、受撃時における当該緩衝材5によるエネルギー吸収が期待できる一方で、中空柱体20が潰れることによるエネルギー吸収を期待しにくい代わりに、大きな変形を抑制することもできる。従って、落石防止柵100の設置現場が各種交通機関施設や住宅等に接近する場合にもそれらに影響を及ぼすことが少なくなり、施工範囲の自由度が高まることとなる。更には、間伐材などの有効利用を図ることにもつながる。
【0040】
−−−螺旋状の線材およびこの螺旋線材からなる網部材、並びに中空柱体−−−
図6は本実施形態における網部材を構成する螺旋材を示す俯瞰図であり、図7は本実施形態における網部材を構成する螺旋材の側面および断面を示す図である。次に、本実施形態における中空柱体20を構成する網部材25の成り立ちについて説明する。網部材25を構成すべく縦横に配置された線材21、22のうち、中空柱体20の鉛直方向に沿って配置される線材21を縦線、中空柱体20の円周方向に沿って配置される線材22を横線と想定する。但し、いずれの線材21、22も形状は同じである。
【0041】
図6に示す例では、縦線21、横線22ともに、螺旋形状の線材(螺旋線材)となっている。この螺旋線材50は、所定の直径からなる線材を、螺旋の外径53が上記線材の外径54の約2倍となるようにし、山部51及び谷部52とがほぼ相対する形状からなると共に、各谷部52が螺旋中心の外側(山部51側)に位置するように所定のリード及びピッチで螺旋状に巻回してなり、同一形状の山部51と谷部52とが軸線方向に相対して繰り返される螺旋状であり、かつ谷部52が螺旋中心軸A-Aに接する位置またはそれに近い位置に旋回する線材である。
【0042】
このように、中心(つまり螺旋中心軸A-A)に空洞を持たない、いわゆる内径ゼロに近い螺旋線材は、図7に示すように、前記縦線21や横線22を相互の山部51および谷部52が係合するように組み合わせて網体を形成すると、相互に係合しあう山部51及び谷部52により位置ずれが規制されることとなる。これにより、図8に示すように、形状が安定した強靭な網部材25となり、ひいては形状を自己保持可能な中空柱体20をなすことができるのである。
【0043】
尚、このような螺旋線材は、特許文献3や特許文献4に記載されているような公知の方法によって製造できる。
【0044】
前記網部材25で中空柱体20を構成する際には、上述した通り螺旋線材50同士を組み合わせることで螺旋線材50同士の係合作用を利用できるため、溶接等の処理を不要とできる。さらに、螺旋線材50で網部材25を構成しているので、網部材25として編んだ後でも、螺旋線材50を回転して前進または後退させるようにずらすことで、前記山部51と谷部52の係合が外れ、網部材25の分解、螺旋線材50の部分的交換や追加が容易にできる。
【0045】
なお、前記網部材25を構成する線材21、22(螺旋線材50含む)は、金属製または合成樹脂製のいずれかであることが想定できる。金属としては、一般的な鋼製の線材を使用することができる。但し、強度や加工性および組立施工性の点から、例えば、加工性に優れた軟鋼からなる線材を用いることが好適である。また、線材直径が1〜5mm、螺旋の外径が線材直径の約2倍、螺旋ピッチが線材の5〜8倍のものが想定できる。更に、線材21、22としてメッキ鋼線やチタン、或いはその他耐食性の合金を用いることとすれば、耐候性や防食の点から耐久性を高めることが可能で、落石防止柵100自体の緩衝性能等の性能が経年変化しにくくなる。
【0046】
本願発明者等の実験結果によれば、中心に空洞を持たない螺旋線材により構成される螺旋金網は、溶接金網や菱形金網などに比べて衝撃力を受けた時のエネルギー吸収能力が極めて高いことが確かめられている。
【0047】
以下に本願発明者等が行った実験について記述する。実験では、溶接金網、菱形金網、螺旋金網を約1m×1mずつ用意し、中央部に100kg・200kg・300kgの錘を2mの高さから落下させて衝撃吸収性能を調査した。菱形金網および溶接金網が素線径φ4mmで配置間隔が50mmの網材であり、螺旋金網は素線径φ4.5mmで配置間隔が77.5mmの網材について試験を行っており、螺旋金網の方が,単位面積当たりの鋼材料は若干少ない。評価指標として、錘の落下直後の反発(撥ね返り)における加速度を測定し、これが小さいほど衝撃吸収能力に優れると評価できる。
【0048】
10に、錘落下直後の撥ね返りにおける加速度を示す。溶接金網が最も加速度が高く、しかも200kgで錘が貫通(網が破損)した。菱形金網も溶接金網とほぼ同様で、200kgで錘が貫通(網が破損)した。一方で、螺旋金網は他の金網に比べてかなり加速度が小さく、300kgの錘においても錘が貫通(網が破損)することなく十分に持ちこたえることができた。
【0049】
これは螺旋網の衝撃吸収能力が一般の網と比較して極めて高いことを示すものである。螺旋金網の衝撃吸収能力が極めて優れているのは、衝撃力を受けた際に、螺旋線材が伸びることで衝撃エネルギーを吸収するためであることが分っている。
【0050】
また、図3に示すように、本実施形態の構造において中空柱体20は、円筒柱体に落石が衝突した際に、落石による力を受け止め、落石のエネルギーを吸収するため、横線22が円周方向に連続している必要がある。
【0051】
そのため、このような中空柱体20を製作する方法としては、1)円形に閉合された横線22を等間隔にて配置し、縦線21により横線を結合する方法や 2)横線22をスパイラル状に連続的に何重にも巻く様に配置した後、縦線21により横線22を結合する方法で製作可能である。
【0052】
このとき、先述のような中心に空洞を持たない、いわゆる内径ゼロに近い螺旋線材の縦線21と横線22の結合は、横線21及び縦線22の山部および谷部が係合するように組み合わせて行うが、この際、横線を等間隔に配置したのち、縦線をこれに上記の様に噛み合うように縦線を回転させながら前進させることにより係合させてゆく。
【0053】
しかしながら、1)の方法では、横線22の1本1本を溶接等の方法で円形に接合する必要があり手間がかかり、また、1)、2)の方法共に、横線22を円筒状に成形しつつ、同時に1本1本の縦線を少しずつ回転および前進させながら縦線21と横線22との係合を行う必要があり、やはり大きな手間がかかるため、中空柱体20は下記の方法で製作することが好ましい。
【0054】
すなわち、螺旋線材による平板状の網体を製作した後、この平網を円筒状に丸めて、その平網の両端を突き合わせて結合する方法である。
【0055】
(a)、(b)に接合部の構造を示す。両端の結合方法としては、先ずは、略長方形の平板状の網部材25における長手方向の両端部を、長手方向に所定の長さに渡って平板状の網部材25に対して略直角となるように折り曲げた後、この網部材25が中空部材20を形成するように、円筒状に丸めて、この両端部を突き合わせるようにする。この際、網部材25の折り曲げた側が中空部材20の中空部分29側となるようにすると、中空部材外側への突起形成を抑制でき、設置スペースの抑制、美観、安全性の面から好ましい。
【0056】
次に、この突き合わせた両端部の網部材25を挟持金物60で挟み込んで固定する。この挟持金物60は、ボルト挿通孔を有する2種類の平鋼(61a、61b)1枚ずつと、断面がL字状でボルト挿通孔を有するアングル等のL字状部材62(2つ)とから構成される。
【0057】
すなわち、突き合わせ部において中空部材の長手方向(高さ方向)に渡って、1)突き合わせられた網部材25の両端部の間に挟むように帯状の平鋼61aと、2)両端部の折り曲げられた側と反対側に平鋼61bを配置する。
【0058】
そして、断面がL字状のL字状部材62を、両端部の網部材25を平鋼61a及び平鋼61bとで挟むように、中空部材の長手方向(高さ方向)に渡って配置し、網部材25の縦線21と横線22を挟み込んだ状態で、平鋼61aと2つのL字状部材62を貫通するボルト65aとナット66aにて締結し、更に、平鋼61bと2つのL字状部材62とを、貫通するボルト65bとナット66bにて締結して、両端部を固定し、中空部材20を形成する。
【0059】
このとき、平鋼61b上に存在する縦線21において、当該縦線21の少なくとも1本を前記ボルト65bよりも接合部側に配置すると、挟持金物60が網部材25をしっかりと挟み込みことができ、好ましい。(図(b)では、2本の縦線21をボルト65bよりも接合部側に配置している。)
ボルト65a、及び、ボルト65bは、中空部材20の長手方向において、挟持金物60に、所定の間隔をあけて複数設けられる。
【0060】
尚、図(a)においては、平鋼61aと平鋼61bは分かれているが、平鋼61aと平鋼61bとが一体化したT字状の部材であっても構わない。
【0061】
本結合方法を用いることで、中空部材20を形成する横線22に、周方向の力が作用するとき、この力は、ボルト65bの上部において、横線22と直角に交差する縦線21に伝わる。このとき、縦線21がボルト65bで係止されていることで固定側となり、横線22に作用する周方向の力が横線22を伸ばすと共に回転させるようになる。しかし、このとき横線22の先端の折り曲げ部が挟持部材60で挟持されていることで、横線22の回転が阻止される。これにより横線22が縦線21から引き抜かれるように下方に伸びる(移動する)不具合を解消できる。
【0062】
折り曲げ部の長さは、回転を拘束できるに十分な量であれば良く、折り曲げ長さとしては、螺旋線材の線径の3〜4倍以上が好ましい。
【0063】
螺旋線材50による平板状の網部材25は、一定長さの横線22を所定の間隔に並べて配置した後、縦線21を、機織りを行う要領で挿入し(隣り合う横線22を、網部材25の鉛直方向において逆方向に押し広げる)、横線22に係合させて製作することができるため、極めて能率よく製造することができる。更に、上述した好ましい接合方法をとれば、横線を一本一本それぞれ接合する必要が無く、所定の間隔で配置したボルトにより挟持金物60を締め付けるだけで容易に円筒状の中空部材20を製作することができる。
【0064】
11には、本実施形態における接合部の強度を実験により発明者等が調査した結果を示す。幅20cmで長さ100cmの網材の二つの試験片について、一方は中央に本実施形態による継手を設けたものと、もう一方は継手のない試験片の引張試験を行っている。網材は,線材径は3.2とし,配置ピッチは約14mmとしている.グラフでは、縦軸に荷重をとり、横軸に試験体の伸びをとり、試験体の荷重と伸びの関係を示しているが、実線が接合部のない試験体で、破線が該接合部を有する試験体である。グラフより、実線のグラフの最大値と破線のグラフの最大値はいずれも大きな差はなく、本接合構造が、接合部のない試験体の引張り強度とほとんど同等の強度を有することがわかる
螺旋線材は、相互の山部51および谷部52が係合するように組み合わせることで、相互に係合しあう山部51及び谷部52により位置ずれが規制される特性を有している。一方で、螺旋線材を回転して前進させるようにずらすことで、網部材25への螺旋線材50の部分的追加が可能でもある。
【0065】
こうした螺旋線材50の特性を有する前記連結用螺旋線材55を、前記横線22のみで構成されている側端部26に対して、回転して前進させるようにずらすことで追加する。これにより、隣接する中空柱体20同士で互いに重複している側端部26が、前記連結用螺旋線材55の挿入でもって係合状態となる。これにより前記中空柱体20同士を互いに連結することとなる。したがって、溶接やボルト締結といった作業や特殊部材、特殊工具等を中空柱体20同士の連結に用いることがないため、簡便で施工性の良い施工が可能となる。
【0066】
本発明によれば、鉄骨等の重量物に比較して比較的軽量で取扱容易な中空柱体を順次連結することで、落石防止柵を随意に延長することが可能であり、施工性や施工効率に優れる。また、中空柱体同士の連結にあたっても、溶接やボルト締結といった作業や特殊部材、特殊工具等を用いることがないため、簡便な施工が可能となる。
【0067】
また、本発明の落石防止柵は、受撃時に中空柱体が潰れることによるエネルギー吸収効果と、その後に網部材が伸びることによるエネルギー吸収効果とが発揮され、従来の落石防止柵に比して衝撃吸収性能が大いに優れる。また、前記網部材の線材として内径ゼロの螺旋材を用いることで、前記螺旋が伸びることによる大きなエネルギー吸収効果を更に奏する。加えて、前記螺旋の伸び等に伴って前記螺旋材のうち横方向に配置されたものが網部材の構造から抜け出す動きを示すことで、中空柱体として更に大きな変形を生じさせることができる。したがって、更なるエネルギー吸収効果を奏することとなる。
【0068】
また、中空柱体の中空部に材木などの緩衝材を挿入または充填することで、受撃時における当該緩衝材によるエネルギー吸収が期待できる一方で、中空柱体が潰れることによるエネルギー吸収を期待しにくい代わりに、大きな変形を抑制することもできる。従って、落石防止柵の設置現場が各種交通機関施設や住宅等に接近する場合にもそれらに影響を及ぼすことが少なくなり、施工範囲の自由度が高まることとなる。
【0069】
したがって、良好な衝撃吸収性能を発揮すると共に、効率的かつ簡便な施工が可能となる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0071】
3 木材 4 発泡ウレタン
5 緩衝材 10 地山
11 法面 12 法尻
13 路盤 14 コンクリート基礎
15 支持部材 16 フランジ材
17 ボルト・ナット 20 中空柱体
21 縦線 22 横線
25 網部材 26 側端部
27 側端部で囲まれる空間 28 補助中空柱体
29 中空部 31 補助棒状材
40 ボルト・ナット 50 螺旋線材
51 山部 52 谷部
53 螺旋の外径 54 線材の外径
55 連結用螺旋線材 60 挟持部材
61a 平鋼 61b 平鋼
62 L字状部材 65a、65b ボルト
66a、66b ナット 100 落石防止柵

【特許請求の範囲】
【請求項1】
落石を受け止めるための落石防止柵であって、螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成され中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結してなることを特徴とする落石防止柵
【請求項2】
請求項1において、
前記網部材の線材が、鋼製または合成樹脂製のいずれかであることを特徴とする落石防止柵。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記中空柱体の水平断面が、円形、楕円形、多角形、隅部がR加工された多角形のいずれかであることを特徴とする落石防止柵。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかにおいて、
前記中空柱体の中空部分に緩衝材を挿入又は充填したことを特徴とする落石防止柵。
【請求項5】
請求項において、
前記緩衝材が、木材、木材チップ、発泡スチロール、発泡ウレタン、硬質ゴム、土砂、砕石、薄肉鋼管の少なくともいずれかからなることを特徴とする落石防止柵。
【請求項6】
落石を受け止めるための落石防止柵を備えた構造物であって、
螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成された中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結してなる落石防止柵を備えた構造物。
【請求項7】
落石を受け止めるための落石防止柵の施工方法であって、
螺旋の外径が線材の直径の約2倍である螺旋状に成形された線材を縦横に組み合わせて形状の自己保持が可能な網部材にて構成された中空柱体であり、当該中空柱体の側端部を構成する網部位は,縦方向の線材を配置しない構成である中空柱体を、延長方向において互いの側端部が重複するよう複数配置し、前記重複した側端部における前記網部材に前記線材を縦方向に配置し前記中空柱体同士を互いに連結することを特徴とする落石防止柵の施工方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の落石防止柵に使用する中空柱体の製造方法であって、略長方形の平板状の網部材における長手方向の両端部を、長手方向に所定の長さに渡って前記平板状の網部材に対して略直角となるように折り曲げた後、前記網部材が中空柱体を形成するように円筒状に丸めて両端部を突き合わせ、当該両端部を中空柱体の長さ方向に渡って挟持金物でボルト接合することを特徴とする中空柱体の製造方法。
【請求項9】
前記挟持金物は、断面がL字状でボルト挿通孔を有する2つのL字状部材と、ボルト挿通孔を有する平鋼A及び平鋼Bとからなり、前記両端部において、前記突き合わせられた網部材の間に平鋼Aを挟み、前記略直角に折り曲げられた網部材の形状に合せて前記2つのL字状部材を前記両端部にそれぞれ設置し、前記平鋼Aと前記2つのL字状部材とで前記突き合わせられた網部材をボルト接合し、更に、前記平鋼Bを前記略直角に折り曲げられた側と反対側の前記中空柱体に設置して、前記2つのL字状部材とで前記網部材を挟んでボルト接合することを特徴とする請求項記載の中空柱体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−133248(P2010−133248A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28559(P2010−28559)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【分割の表示】特願2006−64194(P2006−64194)の分割
【原出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(598131096)有限会社カッパー・ヘリシーズ研究所 (3)
【出願人】(595126750)株式会社大平製作所 (15)
【出願人】(390019323)小岩金網株式会社 (32)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】