説明

蒸気タービンにおける温度制御装置及び温度制御方法

【課題】高精度な蒸気タービンを提供することを課題とする。
【解決手段】ケーシング内に流入した蒸気によりロータを回転させて動力を取得する蒸気タービンにおける温度制御装置において、前記ケーシング表面の一部又は全部を加熱する加熱手段と、前記ケーシングの温度を計測する温度計測手段と、前記加熱手段における熱の供給量を制御する温度制御手段とを有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンにおける温度制御装置及び温度制御方法係り、特に、蒸気タービンの発電効率を向上させるための温度制御装置及び温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船舶や火力発電、工場における大出力原動機として蒸気タービンが用いられている。蒸気タービンは、高温・高圧の蒸気をケーシング等に流入し蒸気を膨張させて、ケーシング内に設けられた羽根車に一定の方向から蒸気を当てて回転力を与え、その回転をプロペラ軸等に伝える原動機関である。なお、蒸気タービンは、重量が軽くて高馬力を出力することができるが、燃料消費量が大きいことが知られている。
【0003】
また、蒸気タービンの起動時には、高温の蒸気が蒸気流入口よりケーシング内に流入されるため、ケーシングの内外面には温度差が生じ、その結果ケーシングに熱応力が作用する。そこで、従来では蒸気タービンの起動時には、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止するため、定常運転に至るまでに十分な時間をかけて蒸気流入量を徐々に増加させる起動手法が用いられている。
【0004】
しかしながら、上述の起動方法では、流入する蒸気温度が高くなるにしたがって起動時間が長くなり、結果として蒸気タービンの発電効率を低下させてしまう。そのため、起動時間を短縮させるための手法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1により開示されている技術によれば、ガスタービンと排熱回収ボイラとを結ぶ排ガスダクトに、圧縮機からの圧縮空気を燃焼器及びガスタービンをバイパスとして排ガスダクトに導く排ガス温度調節弁を備えた空気抽出管を接続し、排熱回収ボイラの蒸気ドラムから蒸気タービンにかけての蒸気経路にそこを通る蒸気にスプレー水を注入する減温器を設けると共に、減温器と結ぶスプレー水管に主蒸気温度調節弁を設けている。
【0005】
これにより、蒸気サイクルの起動にあたり、通気条件の成立する前、排ガス温度調節弁を制御せずに排熱回収ボイラへの排ガスを高温に保持し、このとき発生する蒸気を蒸気タービンをバイパスして復水器に逃がし、通気条件の成立した後、排ガス温度調節弁の開度を制御して低温の圧縮空気を排ガス中に注入し、更に主蒸気温度調節弁の開度を制御して低温のスプレー水を発生蒸気中に注入して主蒸気温度をメタルマッチング条件を満たす望ましい温度に保って蒸気タービンに導入する。
【特許文献1】特開2000−130108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に示されている技術を実現するためには、従来の蒸気タービンの機構自体を大幅に変更する必要があるため簡便な手法とはいえない。また、起動時間は考慮されておらず、そのため蒸気タービンにおける発電効率を向上させることはできない。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止し、蒸気タービンの発電効率を向上させるための温度制御装置及び温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明は、ケーシング内に流入した蒸気によりロータを回転させて動力を取得する蒸気タービンにおける温度制御装置において、前記ケーシング表面の一部又は全部を加熱する加熱手段と、前記ケーシングの温度を計測する温度計測手段と、前記加熱手段における熱の供給量を制御する温度制御手段とを有することを特徴とする。これにより、加熱手段によるケーシングの温度制御を行うことができる。したがって、ケーシング内外面に発生する温度差を低減することができ、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止することができる。また、定常運転状態に至るまでの時間を短縮することができ、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0009】
更に、前記加熱手段は、前記ケーシング内に蒸気を流入するための蒸気流入部の周辺に設置することが好ましい。これにより、熱応力が大きく作用する蒸気流入部付近の破壊や損傷等を防止することができる。
【0010】
更に、前記蒸気流入部に流入する蒸気量を制御する蒸気出力制御手段と、前記加熱手段における消費電力を計測する電力計測手段と、前記電力計測手段により得られる消費電力に基づいて、前記蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行う制御手段とを有することが好ましい。これにより、電力計測手段により得られる消費電力により蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行うことで、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0011】
更に、前記制御手段は、前記電力計測手段により得られる消費電力と、予め設定された電力とを比較し、比較した結果に基づいて前記起動又は稼動の制御を行うことが好ましい。これにより、消費電力が少なくなるように起動又は稼動の制御を行うことで、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0012】
更に、前記制御手段は、前記温度計測手段により得られる稼動中の前記ケーシングの内外面の温度差に基づいて、前記温度制御手段による温度制御、及び/又は前記蒸気出力制御手段による蒸気量の出力制御を行うことが好ましい。これにより、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止することができる。また、高精度な温度制御を実現することができる。
【0013】
更に、前記加熱手段は、シート状に形成されていることが好ましい。これにより、ケーシングが平坦部を有していなくても、ケーシングの所定の位置に直接加熱手段を設置することができ、効率的にケーシング外面の一部又は全部を加熱することができる。
【0014】
更に、前記加熱手段は、前記シートの所定の領域に前記ケーシングの表面と接着するための接着部を設けることが好ましい。これにより、加熱手段をケーシングの所定の位置に容易かつ迅速、確実に取り付けることができる。したがって、従来の蒸気タービンの機構自体を全く変更することなく、高精度な温度制御を実現することができる。
【0015】
また、本発明は、ケーシング内に流入した蒸気によりロータを回転させて動力を取得する蒸気タービンにおける温度制御を行うための温度制御方法において、前記ケーシングの一部又は全部を加熱する加熱ステップと、前記ケーシングの温度を計測する温度計測ステップと、前記加熱ステップにおける熱の供給量を制御する温度制御ステップとを有することを特徴とする。これにより、ケーシング内外面に発生する温度差を低減することができ、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止することができる。また、定常運転状態に至るまでの時間を短縮することができ、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0016】
更に、前記加熱ステップは、前記ケーシング内に蒸気を流入するための蒸気流入部の周辺を加熱することが好ましい。これにより、熱応力が大きく作用する蒸気流入部付近の破壊や損傷等を防止することができる。
【0017】
更に、前記蒸気流入部に流入する蒸気量を制御する蒸気出力制御ステップと、前記加熱ステップにおける消費電力を計測する電力計測ステップと、前記電力計測ステップにより得られる消費電力に基づいて、前記蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行う制御ステップとを有することが好ましい。これにより、電力計測ステップにより得られる消費電力により蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行うことで、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0018】
更に、前記制御ステップは、前記電力計測ステップにより得られる消費電力と、予め設定された電力とを比較し、比較した結果に基づいて前記起動又は稼動の制御を行うことが好ましい。これにより、消費電力が少なくなるように起動又は稼動の制御を行うことで、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0019】
更に、前記制御ステップは、前記温度計測ステップにより得られる稼動中の前記ケーシングの内外面の温度差に基づいて、前記温度制御ステップによる温度制御、及び/又は前記蒸気出力制御ステップによる蒸気量の出力制御を行うことが好ましい。これにより、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止することができる。また、高精度な温度制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止することができる。また、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<本発明の概要>
上述したように、蒸気タービンは高温の蒸気がケーシング内に流入されるため、ケーシングに熱応力が作用する。したがって、本発明ではケーシング表面のうち、高い熱応力が作用すると予測される位置(領域)に加熱手段を設け、通常起動時における蒸気流入前に予めケーシングを予熱しておき、蒸気流入時にケーシング内外面に発生する温度差を低減する。これにより、熱応力によるケーシングの破壊や損傷等を防止し、更に定常運転状態に至るまでの時間を短縮して蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0022】
更に、本発明では、従来の起動時間に比して短縮された時間及びケーシングの予熱に際して消費された電力を、例えば電力計測手段等を用いて毎起動時等に計測し、例えば「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力(総電力)」等の予め設定された電力(閾値)と、「予熱に際して消費された電力(総電力)」とを比較し、その比較結果に基づいて蒸気タービンの起動又は稼動時の制御を行うことで、蒸気タービンの発電効率を最大とすることができる。
【0023】
<実施形態>
以下に、本発明における蒸気タービンの発電効率を向上させるための温度制御装置及び温度制御方法を好適に実施した形態について、図面を用いて説明する。図1は、蒸気タービンにおける温度制御装置の概略構成の一例を示す図である。図1に示す温度制御装置10は、蒸気タービン11と、蒸気出力制御手段12と、加熱手段13(13−1,13−2)と、温度計測手段14と、温度制御手段15と、電力計測手段16と、制御手段17とを有するよう構成されている。
【0024】
また、蒸気タービン11は、ケーシング21と、蒸気流入部22と、ロータ23と、ステータ24と、ロータ軸受部25とを有するよう構成されている。また、ロータ23は、少なくとも1つの羽根部材31が形成されている。
【0025】
蒸気タービン11は、高温・高圧の蒸気をケーシング11の蒸気流入部22から流入(噴出)し膨張させて、羽根部材31に対して図1の矢印に示される方向から蒸気を当てて回転力を与え、その回転をロータ23に伝える。また、ステータ24は、ケーシング21内の蒸気の流れを調整することで回転を増幅させる。これにより、ロータ23は、ロータ軸受部25により固定された軸を中心に回転して、大出力の原動を取得することができる。
【0026】
また、蒸気出力制御手段12は、制御手段17により得られる制御信号に基づいて、ボンベ32等により得られる蒸気をどの程度蒸気タービンに供給するかの制御を行う。また、蒸気出力制御手段12は、設定された量の蒸気をガス弁等により調整して蒸気タービン11に出力する。
【0027】
また、加熱手段13は、ケーシング21の所定の位置(一部又は全部)を加熱する。具体的には、加熱手段13は、ケーシング21内に蒸気が流入される前に加熱手段13によりケーシング21を予め設定された温度(例えば、蒸気が流入された際のケーシング21内の温度と同程度)に予熱しておく。これにより、蒸気流入時にケーシング21の内外面に発生する温度差を低減することができる。したがって、熱応力によるケーシング21の破壊や損傷等を防止し、更に定常運転状態に至るまでの時間を短縮して蒸気タービン11の発電効率を向上させることができる。
【0028】
また、加熱手段13は、蒸気タービンを起動する時のみではなく、稼動している時にもケーシングの表面の温度を制御する。なお、加熱手段13としては、例えばヒータ等の電熱部材等を用いることができる。また、加熱手段13についての具体的な説明は後述する。
【0029】
温度計測手段14は、加熱手段13の実際の温度及び/又はケーシング21の温度を計測する。また、温度計測手段14は、計測した温度の情報を温度制御手段15に出力する。なお、温度計測手段14としては、例えば高温の温度を計測可能な温度センサ等を用いることができる。
【0030】
更に、温度計測手段14は、ケーシング21の内外面の温度を測定するような手段を設けてもよい。その場合、温度計測手段14は、内面、外面のそれぞれの温度を温度制御手段15に出力してもよく、内外面の温度差の情報を出力してもよい。
【0031】
また、温度制御手段15は、制御手段17により得られる制御信号に基づいて、加熱手段13に温度指令(電気信号)を出力する。ここで、温度制御手段15は、温度計測手段14により実際の温度を取得するため、予め設定された温度になるまで、より高精度に温度調整を行うことができる。
【0032】
また、電力計測手段16は、加熱手段13において、消費された電力を計測する。ここで、消費電力の計測は、例えば蒸気タービン11の毎起動時や所定の起動回数毎、又は所定の時間等に計測する。また、電力計測手段16は、計測した消費電力情報を制御手段17に出力する。
【0033】
制御手段17は、温度制御装置10の各構成部全体の制御を行う。具体的には、制御手段17は、蒸気出力制御手段12、及び温度制御手段15に対して、所定の動作が行われるようにそれぞれに制御信号を出力する。また、制御手段17は、電力計測手段16により得られる消費電力情報に基づいて、蒸気出力制御手段12に対して蒸気の温度や出力量の制御、及び前記温度制御手段15における予熱温度、及び予熱する時間等についての制御を行う。
【0034】
更に具体的に説明すると、制御手段17は、電力計測手段16により得られる消費電力情報から、予めテスト運転等により取得している「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力」と、「予熱に際して消費された電力」とを比較し、ケーシング21の予熱処理により「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力」の方が値が小さい場合には予熱処理を行わない通常(従来)の起動方法を選択するよう制御する。
【0035】
また、逆に「予熱に際して消費された電力」の方が値が小さい場合には予熱処理を行う起動方法を選択するよう制御する。これにより、蒸気タービンの発電効率を最大とすることができる。
【0036】
また、制御手段17は、蒸気タービン11の起動時における温度制御だけでなく、上述した加熱手段13を用いた温度制御や、蒸気出力制御手段12を用いてケーシング21内に流入する蒸気の流入量の制御等により蒸気タービン11の稼動時における制御を行うことができる。これにより、ケーシング21に作用する熱応力を低減してケーシング21の破損や破壊等を防止することができる。
【0037】
ここで、制御手段17による上述した加熱手段13を用いた温度制御、及び蒸気の流入量の制御手法の例について図を用いて説明する。図2は、蒸気タービンの稼働中の温度制御について説明するための一例の図である。また、図3は、蒸気タービンの稼働中の蒸気出力制御について説明するための一例の図である。
【0038】
例えば、図2に示すように、蒸気タービン11のケーシング21の内外面に温度差があるような場合には、温度制御手段15は、制御手段17により得られる制御信号に基づいて、温度指令を加熱手段13に出力する。加熱手段13は、ケーシング21の一部又は全部を加熱して、ケーシング21の内外面の温度差を低減させる。ここで、電力計測手段16は、加熱手段13により消費された電力を計測し、消費電力を制御手段17に出力する。
【0039】
ここで、制御手段17は、上述したように電力計測手段16により得られる消費電力情報に基づいて、今後、蒸気タービンの稼動時に温度制御を行うか否かの判断を行う。これにより、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0040】
また、図3に示す制御では、蒸気タービン11のケーシング21の内外面に温度差があるような場合に、蒸気出力制御手段12により制御された量の蒸気をケーシング21に出力する。ここで、加熱手段13では、ケーシング21の一部又は全部を加熱しているが、ケーシング21内の蒸気量を制御することにより、稼働時のケーシング21の内外面の温度差を低減させることができる。ここで、電力計測手段16は、加熱手段13により消費された電力を計測し、消費電力を制御手段17に出力する。
【0041】
ここで、制御手段17は、上述したように電力計測手段16により得られる消費電力情報に基づいて、今後、蒸気タービンの稼動時に蒸気出力制御を行うか否かの判断を行う。
【0042】
これにより、ケーシングに作用する熱応力を低減してケーシングの破損や破壊を防止することができる。また、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0043】
上述したように、蒸気タービン11における温度制御装置10を有することにより、蒸気タービン11の起動時にケーシング21をヒータ等の加熱手段13で予熱することにより、起動時間を短縮することができる。また、加熱手段13の消費電力等を考慮して起動方法を選択又は制御することができるため、次回以降の蒸気タービン11の起動又は稼動時における消費電力を低減させることができ、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0044】
<加熱手段13>
ここで、加熱手段13の設定例について、図を用いて説明する。図4は、加熱手段の設置例を示す図である。なお、図4(a)〜(c)は、それぞれ加熱手段13の設置位置の一例を示すものである。
【0045】
図4(a)は、図1に対応した位置に加熱手段13が設置されている。具体的には、ケーシング21において、内外面の温度差が一番大きくなると予測される蒸気流入部22の周辺(表面)に加熱手段13−1,13−2を設置する。これにより、ケーシング21内部に作用する熱応力を低減することができる。
【0046】
なお、本発明における加熱手段13の設置位置は、図4(a)に示す限りではなく、例えば、図4(b)に示すように加熱手段13−1のみを設けるようにすることで、加熱手段13の加熱面積が小さくなるため、その分消費電力を低減することができる。また、図4(c)に示すように、ケーシング21全体(図4(c)の図示できない裏面も含む)を覆うように加熱手段13−1〜13−3を設置することにより、ケーシング21を短時間で所定の温度に設定することができる。
【0047】
なお、ケーシング21内では、蒸気流入部22付近の温度と、蒸気流入部22から離れた位置での温度とは異なる(蒸気流入部22から離れた位置の方が低い温度となる)。そのため、上述した図4(c)に示すように、ケーシング21の全体又はある程度大きな領域に対して加熱を行う場合には、制御手段17は、加熱手段13−1〜13−3のうち、少なくとも1つを異なる温度に設定することができる。具体的には、加熱手段13−1〜13−3が設置されるケーシング21の位置におけるケーシング21内の温度に応じて加熱手段13−1〜13−3のそれぞれにおける加熱温度を設定する。
【0048】
また、ケーシング21は、図1及び図4に示すように、通常は平坦な形状を有していない場合が多い。したがって、そのような場合にもケーシング21の表面に設置できるように、加熱手段13は、折曲可能なシート状で形成されていることが好ましい。そのため、加熱手段13は、例えば所定の大きさのシート状の中に電熱線等を張り巡らす等の構成により上述した折曲可能な形状を実現することができる。
【0049】
また、加熱手段13は、ケーシング21の適切な位置への設置を容易かつ迅速、確実に行うため、所定の位置に接着部を有していることが好ましい。つまり、この接着部により、ケーシング21の表面に加熱手段13を直接貼り付ける。これにより、加熱手段13をケーシングの所定の位置に容易かつ迅速、確実に設置することができる。したがって、従来の蒸気タービンの機構自体を全く変更することなく、また、ケーシングに直接貼り付けることで、高精度な温度制御を実現することができる。なお、上述した接着部としては、例えばケーシング21との着脱を容易にするような成分からなる接着剤等を用いることができる。
【0050】
また、加熱手段13をケーシング21に設置する際には、加熱手段13に接着部を有していなくてもよく、例えば両面に接着部を有するシートのようなものを介して加熱手段13をケーシング21の所定の位置に取り付けてもよい。更に、シート状の加熱手段13の所定の位置にフック等の係止部を設け、通常のケーシング21が有する突起部分等と係合させることで取り付けてもよく、またシートにマジックテープ(登録商標)のような部分を設け、シート状の加熱手段13をケーシング21に巻き付けてもよい。
【0051】
<制御手段17における温度制御処理手順>
ここで、本発明の制御手段17における温度制御処理手順についてフローチャートを用いて説明する。なお、温度制御処理手順については、蒸気タービンの起動時における温度制御処理と、蒸気タービン稼動時における制御処理とを有するため、それぞれにおける温度制御処理について以下に説明する。
【0052】
<蒸気タービン起動時における温度制御>
図5は、蒸気タービン起動時における温度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、蒸気タービンの起動時には、ケーシング21の表面の一部又は全部が予め設定された温度になるようにケーシング表面(外面)を加熱手段13により予熱する(S01)。ここで、S01の処理では、所定の温度になるまで加熱手段13による加熱を行う。
【0053】
更に、図5に示す温度制御処理では、所定の温度になった場合に、予熱により消費した電力を取得する(S02)。また、予め設定された「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力」と、「予熱により消費した電力」とを比較する(S03)。
【0054】
具体的には、例えば、「予熱により消費した電力」の方が、「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力」よりも小さいか否かを判断し(S04)、予熱により消費した電力が小さい場合(S04において、YES)、今後、上述した温度制御を行って蒸気タービン11を起動する(S05)。また、S04の処理において、「予熱により消費した電力」が「短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力」以上である場合(S04において、NO)、今後、予熱処理が行わず従来の起動方法で蒸気タービン11を起動させる(S06)。
【0055】
このように、消費電力に基づいて温度制御の要否を判断することにより、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。また、蒸気の流入条件や蒸気タービンの使用条件の変更等に応じて、発電効率の面から予熱処理の要否を迅速かつ容易に判断することができる。
【0056】
<蒸気タービン稼動時(起動後)における温度制御>
次に、蒸気タービン稼働時における温度制御手順について、フローチャートを用いて説明する。
【0057】
図6は、蒸気タービン稼動中における温度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、稼働中のケーシング21の温度を計測する(S11)。なお、S11では、ケーシング21の内面、外面の温度を計測する。次に、ケーシングの内外面での温度差が所定の温度差以上であるか否かを判断する(S12)。
【0058】
ここで、所定の温度差以上である場合(S12において、YES)、所定の温度差より小さくなるように温度制御を行う(S13)。これにより、熱応力によるケーシング21の破壊や損傷等を防止することができる。
【0059】
更に、図6に示す温度制御では、「温度制御により消費した電力」を取得し(S14)、「予め設定された電力」と、「温度制御により消費した電力」とを比較する(S15)。
【0060】
具体的には、例えば「温度制御により消費した電力」の方が、「予め設定された電力」よりも小さいか否かを判断し(S16)、「温度制御により消費した電力」の方が小さい場合(S16において、YES)、今後、蒸気タービン11の稼動時に上述した温度制御を実行するよう制御する(S17)。
【0061】
また、S16の処理により、「温度制御により消費した電力」が、「予め設定された電力」以上である場合(S16において、NO)、今後、蒸気タービン11の稼動時に上述した温度制御を実行しないよう制御する(S18)。このように制御することにより、蒸気タービンの消費電力を削減することができる。したがって、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0062】
<蒸気タービン稼動中(起動後)における蒸気出力制御>
次に、蒸気タービン稼働中(起動後)における蒸気出力制御手順について、フローチャートを用いて説明する。
【0063】
図7は、蒸気タービン稼動時における蒸気出力制御処理手順の一例を示すフローチャートである。まず、稼動時のケーシング21の温度を計測する(S21)。なお、S21では、ケーシング21の内面、外面の温度を計測する。次に、ケーシングの内外面での温度差が所定の温度差以上であるか否かを判断する(S22)。
【0064】
ここで、所定の温度差以上である場合(S22において、YES)、所定の温度差より小さくなるようにケーシング21に流入する蒸気の量を制御する蒸気出力制御を行う(S23)。これにより、熱応力によるケーシング21の破壊や損傷等を防止することができる。
【0065】
更に、図7に示す蒸気出力制御では、蒸気出力制御により消費した電力を取得し(S24)、「予め設定された電力」と、「蒸気出力制御により消費した電力」とを比較する(S25)。
【0066】
具体的には、例えば「蒸気出力制御により消費した電力」の方が、「予め設定された電力」よりも小さいか否かを判断し(S26)、「蒸気出力制御により消費した電力」の方が小さい場合(S26において、YES)、今後、蒸気タービン11の稼動時に蒸気出力制御を実行するよう制御する(S27)。
【0067】
また、S26の処理により、「蒸気出力制御により消費した電力」が、「予め設定された電力」以上である場合(S26において、NO)、今後、蒸気タービン11の稼動時に蒸気出力制御を実行しないよう制御する(S28)。このように制御することにより、蒸気タービンの消費電力を削減することができる。したがって、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0068】
上述したように本発明によれば、高精度な蒸気タービンを提供することができる。具体的には、例えばケーシング表面の高い熱応力が作用すると予測される位置にヒータ等の加熱手段を設置し、通常起動時における蒸気流入時のケーシング温度に予熱しておき、蒸気流入時にケーシング内外面に発生する温度差を低減することで定常運転状態に至るまでの時間を短縮することができる。また、ヒータ等の消費電力を考慮して起動方法を選択又は制御するシステムを導入することにより発電効率を向上させることができる。
【0069】
更に、本発明では、従来の起動時間に比して短縮された時間及びケーシングの予熱に際して消費された電力を、例えば毎起動時等に計測し、短縮された時間分の定常運転を行った場合に発電可能な電力と、予熱に際して消費された電力とを比較し、前者が小さい場合には通常の起動方法を選択し、後者が小さい場合には本発明の起動方法を選択するよう制御することで、蒸気タービンの発電効率を向上させることができる。
【0070】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】蒸気タービンにおける温度制御装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】蒸気タービンの稼働中の温度制御について説明するための一例の図である。
【図3】蒸気タービンの稼働中の蒸気出力制御について説明するための一例の図である。
【図4】加熱手段の設置例を示す図である。
【図5】蒸気タービン起動時における温度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図6】蒸気タービン稼動時における温度制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【図7】蒸気タービン稼動時における蒸気出力制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0072】
10 温度制御装置
11 蒸気タービン
12 蒸気出力制御手段
13 加熱手段
14 温度計測手段
15 温度制御手段
16 電力計測手段
17 制御手段
21 ケーシング
22 蒸気流入部
23 ロータ
24 ステータ
25 ロータ軸受部
31 羽根部材
32 ボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内に流入した蒸気によりロータを回転させて動力を取得する蒸気タービンにおける温度制御装置において、
前記ケーシング表面の一部又は全部を加熱する加熱手段と、
前記ケーシングの温度を計測する温度計測手段と、
前記加熱手段における熱の供給量を制御する温度制御手段とを有することを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
前記加熱手段は、
前記ケーシング内に蒸気を流入するための蒸気流入部の周辺に設置することを特徴とする請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記蒸気流入部に流入する蒸気量を制御する蒸気出力制御手段と、
前記加熱手段における消費電力を計測する電力計測手段と、
前記電力計測手段により得られる消費電力に基づいて、前記蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行う制御手段とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の温度制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記電力計測手段により得られる消費電力と、予め設定された電力とを比較し、比較した結果に基づいて前記起動又は稼動の制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の温度制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記温度計測手段により得られる稼動中の前記ケーシングの内外面の温度差に基づいて、前記温度制御手段による温度制御、及び/又は前記蒸気出力制御手段による蒸気量の出力制御を行うことを特徴とする請求項3又は4に記載の温度制御装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、シート状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の温度制御装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記シートの所定の領域に前記ケーシングの表面と接着するための接着部を設けることを特徴とする請求項6に記載の温度制御装置。
【請求項8】
ケーシング内に流入した蒸気によりロータを回転させて動力を取得する蒸気タービンにおける温度制御を行うための温度制御方法において、
前記ケーシングの一部又は全部を加熱する加熱ステップと、
前記ケーシングの温度を計測する温度計測ステップと、
前記加熱ステップにおける熱の供給量を制御する温度制御ステップとを有することを特徴とする温度制御方法。
【請求項9】
前記加熱ステップは、
前記ケーシング内に蒸気を流入するための蒸気流入部の周辺を加熱することを特徴とする請求項8に記載の温度制御方法。
【請求項10】
前記蒸気流入部に流入する蒸気量を制御する蒸気出力制御ステップと、
前記加熱ステップにおける消費電力を計測する電力計測ステップと、
前記電力計測ステップにより得られる消費電力に基づいて、前記蒸気タービンの起動又は稼動の制御を行う制御ステップとを有することを特徴とする請求項8又は9に記載の温度制御方法。
【請求項11】
前記制御ステップは、
前記電力計測ステップにより得られる消費電力と、予め設定された電力とを比較し、比較した結果に基づいて前記起動又は稼動の制御を行うことを特徴とする請求項10に記載の温度制御方法。
【請求項12】
前記制御ステップは、
前記温度計測ステップにより得られる稼動中の前記ケーシングの内外面の温度差に基づいて、前記温度制御ステップによる温度制御、及び/又は前記蒸気出力制御ステップによる蒸気量の出力制御を行うことを特徴とする請求項10又は11に記載の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−113532(P2007−113532A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−307877(P2005−307877)
【出願日】平成17年10月21日(2005.10.21)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】