説明

蒸気タービンのシール構造および蒸気タービン

【課題】
回転構造物の外周面と回転構造物の外周面に対向する静止構造物の内周面との間の作動流体の漏洩を防止する蒸気タービンのシール構造において、静止構造物と回転構造物のロータ軸方向の熱伸び差による蒸気漏洩損失を低減し、シール性能の向上が図れる蒸気タービンのシール構造を提供する。
【解決手段】
回転構造物であるタービンロータ7の外周面と静止構造物であるノズルダイヤフラム内輪9の内周面との間の作動流体に対し、タービンロータ7の回転により、作動流体が蒸気低圧部5側から蒸気高圧部6側へ流れるように作用するらせん状シールフィン1をタービンロータ7の外周面に設け、ノズルダイヤフラム内輪9の内周面にハニカム構造のシール部材2を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンのシール構造に係り、特に、段間リーク蒸気を低減させる蒸気タービンのシール構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の蒸気タービンの一般的なシール構造として、静止部側に複数のシールフィンを設け、このシールフィンをロータ表面に半径方向の間隔を開けて対向して配置するとともに、シールフィンが対向するロータ表面部分に凹凸部を形成し、その凹凸部に合わせてシールフィン長さを変えたものが知られている(ハイロー型ラビリンスシール装置)。このハイロー型ラビリンスシール装置では、シールフィンとロータ表面の凹凸部との半径方向の間隙を可能な限り微小に設定するか、シールフィンを多数設けることにより蒸気通過距離を長くすることで、蒸気漏洩損失低減とそれによるタービン効率向上を図っている。
【0003】
なお、対向フィン形ラビリンスシールにおいて、静止側シールフィンと回転側シールフィンとが接触する場合に、フィン同士の接触域を縮小させ、シールフィンの接触抵抗を低減させるために、静止側シールフィンと回転側シールフィンのいずれか一方を螺旋状に配置し、他方を環状に配置させたものがある(特許文献1)。
【0004】
また、蒸気タービンの運転に支障をきたすことなく、回転構造物に永久曲がりなどの不具合を発生することなく蒸気タービンのシール性能を向上させ得るシール装置として、回転構造物の外周面に周設された円環状のシールフィンと、静止構造物の内周面に周設された円環状のハニカムセルとからなるシール装置が提案されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開平9−53411号公報
【特許文献2】特開2001−123803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、蒸気タービンはロータを含む回転構造物と静止構造物では、構造物の大きさが異なるために、タービン定常運転時と停止時とでは、熱伸び差の関係で、ロータを含む回転構造物と静止構造物の位置関係がずれてしまうという課題がある。そのため通常用いられるハイロー型ラビリンスシールにおいては、熱伸び差の影響を考慮した上でロータを含む回転構造物に設置されるシールフィンとそれに対面する静止構造物に設置されるシールフィンとの位置関係を決める必要がある。その影響でシールフィン枚数を減少させなくてはならず、シール性能の向上に限界がある。
【0007】
熱伸び差の影響を考慮する必要をなくすために、ロータを含む回転構造物に取り付けられたシールフィンを撤去し、静止構造物に設置されるシールフィンのみで構成したシール構造(ストレートフィン)があるが、ハイロー型ラビリンスシールと比較すると、そのシール性能は低い。そのため、熱伸び差が大きく、ハイロー型ラビリンスシールを用いることができない箇所においては、それにかわるシール構造のシール性能を上げることが急務となっている。
【0008】
なお、特許文献1では、シール性能の向上を目的としてシールフィンを螺旋状としたものではないので、螺旋の方向について考慮されていない。また、特許文献2では、シールフィンとの接触による摩擦熱を小さくする目的としてハニカムセルを用いていており、シールフィンの形状については特に考慮されていない。
【0009】
本発明の目的は、回転構造物の外周面と該回転構造物の外周面に対向する静止構造物の内周面との間の作動流体の漏洩を防止する蒸気タービンのシール構造(特に、タービンロータ近傍に設けられた蒸気タービンシール構造)において、静止構造物と回転構造物のロータ軸方向の熱伸び差による蒸気漏洩損失を低減し、シール性能の向上が図れる蒸気タービンのシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、回転構造物の外周面と静止構造物の内周面との間の作動流体に対し、タービンロータの回転により、作動流体が低圧側から高圧側へ流れるように作用するらせん状シールフィンを回転構造物の外周面に設け、回転構造物の外周面に対向(対面)する静止構造物の内周面にハニカム構造のシール部材を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、らせん状シールフィンとハニカム構造のシール部材は接触させる必要がないので、熱伸び差が大きな場所にも適用でき、また、らせん状シールフィンにより作り出される低圧部から高圧部に向かう作動流体の流れによって、ハニカム構造の間隙方向に向かう流れが効果的に誘起され、エネルギー損失をより広域で生み出すことができる。その結果、熱伸び差が大きな場所でも回転構造物の外周面と静止構造物の内周面との間の作動流体の漏洩量を減らすことができ、シール性能が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施例を詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明が適用される一般的な蒸気タービンの構成を示す図である。図1において、7はタービンロータ、8はタービンロータ7の周方向に配置された動翼、9はノズルダイヤフラム内輪(静翼内輪)、10は内部ケーシング(図示省略)に設けられたノズルダイヤフラム外輪(静翼外輪)、11はノズルダイヤフラム外輪10を介して設けられた静翼を各々示す。蒸気タービンは、動翼8と、静翼11とを交互に配置し、更にこの動翼1列と静翼1列とで形成されるタービン段落1段を複数段設けることにより構成されている(ここで、タービンロータと動翼は回転構造物であり、静翼と静翼内外輪は静止構造物である。)。そして、タービン内に引き込んだ蒸気(作動流体)を静翼11にて膨張・高速化させた後、動翼8の部分に流入させることによりタービンロータ7の回転運動としている。
【0014】
タービンロータ7と静翼11のノズルダイヤフラム内輪9の間には、タービンロータ7の回転運動を許容するための間隙が設けられているが、この間隙は静翼11に流入する蒸気の漏れの原因ともなっている。このような漏れはタービン効率低下の原因となるため、静翼11のノズルダイヤフラム内輪9のタービンロータ近傍には、一般にシール装置と呼ばれる蒸気漏れを防止するための部位が設けられている。
【0015】
次に本発明のシール構造について、図2〜図4を用いて説明する。
【0016】
本発明は、タービンロータ7の外周面に、らせん状シールフィン1を設置している。このらせん状シールフィンは、タービンロータ7の回転により、らせん状シールフィン1の間隙3の蒸気に対して、蒸気低圧部5から蒸気高圧部6に向かう流れが誘起されるように形成する。即ち、タービンロータが回転すると、らせん状シールフィン1の間隙3によって、蒸気低圧部5から蒸気高圧部6に向かって蒸気を運ぶ作用があり、蒸気低圧部5から蒸気高圧部6に向かう流れを誘起することが可能となる。
【0017】
また、タービンロータ7が回転することによって蒸気低圧部5から蒸気高圧部6に向かってフィンが移動するようになるために、蒸気が蒸気高圧部から蒸気低圧部に向かって流れる際、見かけ上、フィン枚数を多く設置したことと同じような効果がえられるようになる。
【0018】
また、タービンロータ7に対面して設置されている静止部であるノズルダイヤフラム内輪9の内周には、ハニカム構造のシール部材2がはめ込まれている。ハニカム構造のシール部材2を有することでハニカムの間隙4の方向に向かう流れが誘起される。
【0019】
そして、らせん状シールフィン1により誘起される蒸気高圧部6から蒸気低圧部5に向かう蒸気流れによって、ハニカムの間隙4に向かう流れが効果的に誘起される。即ち、図3に示すように、蒸気高圧部6から蒸気低圧部5に向かう流れ12は、らせん状シールフィン1により誘起される蒸気高圧部6から蒸気低圧部5に向かう蒸気流れによって乱され、ハニカムの間隙4に向かう流れが効果的に誘起される。そして、一般的なハイロー型ラビリンスシールにハニカム構造を組み合わせたものよりも、図4に示すシール部の多くの部分で生じ、エネルギーの損失をより広域で生み出すことでリーク量を減らす効果を有する。
【0020】
また、らせん状シールフィン1とハニカム構造のシール部材2は、間隔をおいて設置されているので、ハイロー型ラビリンスシールと異なり、ストレートフィンと同様にロータ軸方向の熱伸び差の影響を考慮する必要がない。
【0021】
本発明の実施例によれば次の効果が得られる。
(1)静止部(ノズルダイヤフラム内輪側)と回転部(ロータ側)のロータ軸方向の熱伸び差による蒸気漏洩損失を低減し、シール性能の向上が図れ、その結果、タービン効率を向上できる。
(2)シールフィン同士の接触を回避し、ラビング振動の発生やシールフィンの変形を防止することができる。
(3)シール装置1機当たりのシール性能が向上するので、ロータ回転軸方向に沿って配置されるシール装置数を削減できる。
(4)シール装置数を削減できるので、ロータ軸長及びケーシング部軸方向長さを短縮できる。
【0022】
尚、らせん状シールフィンは、上述の実施例では、静翼内輪と対向するタービンロータの外周面に形成した例を示したが、タービングランドリーク用に用いられるシャフトパッキンとしても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明が適用される蒸気タービンの構造をしめしたものである。
【図2】本発明のシール構造を示したものである。
【図3】本発明のシール構造における蒸気の流れを示したものである。
【図4】本発明のシール構造を半径方向から見た図を示したものである。
【符号の説明】
【0024】
1 らせん状シールフィン
2 ハニカム構造のシール部材
3 らせん状シールフィン1の間隙
4 ハニカムの間隙
5 蒸気低圧部
6 蒸気高圧部
7 タービンロータ
8 動翼
9 ノズルダイヤフラム内輪(静翼内輪)
10 ノズルダイヤフラム外輪(静翼外輪)
11 静翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータと前記タービンロータに取り付けられた動翼を含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径側に設けられた静翼内輪とを含む静止構造物とを備えた蒸気タービンにおける前記回転構造物の外周面と該回転構造物の外周面に対向する前記静止構造物の内周面との間の作動流体の漏洩を防止する蒸気タービンのシール構造であって、
前記回転構造物の外周面と前記静止構造物の内周面との間の前記作動流体に対し、前記タービンロータの回転により、前記作動流体が低圧側から高圧側へ流れるように作用するらせん状のシールフィンを前記回転構造物の外周面に設け、前記回転構造物の外周面に対向する前記静止構造物の内周面にハニカム構造のシール部材を設けたことを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項2】
請求項1において、前記らせん状のシールフィンは、前記タービンロータの外周面に設けられ、前記ハニカム構造のシール部材は、前記静翼内輪の内周面に設けられていることを特徴とする蒸気タービンのシール構造。
【請求項3】
タービンロータと前記タービンロータに取り付けられた動翼を含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径側に設けられた静翼内輪とを含む静止構造物とを備え、
前記タービンロータの外周面と該タービロータの外周面に対向する前記静翼内輪の内周面との間の作動流体の漏洩を防止するシール構造として、前記タービンロータの外周面に設けられたシールフィンであって、前記タービンロータの回転により、前記タービンロータの外周面と前記静翼内輪の内周面との間の前記作動流体が低圧側から高圧側へ流れるように形成したらせん状のシールフィンと、前記静翼内輪の内周面に設けられたハニカム構造のシール部材とからなるシール構造を備えたことを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−106778(P2010−106778A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280677(P2008−280677)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】