説明

蒸気タービン用タービンロータ及び蒸気タービン

【課題】高温運転での強度が高く、動翼外周部を均一に回転させることの可能な蒸気タービン用タービンロータを提供する。
【解決手段】複数の動翼が一体に形成された動翼リングが、根元部でロータディスクの外周部と溶接されて一体化されている構造を有するタービンロータであり、ロータディスクの外径、動翼リングの内径、または溶接金属部の幅を蒸気入口側と蒸気出口側で変えていることを特徴とする。具体的には、ロータディスクの蒸気入口側の外径を蒸気出口側の外径よりも小さく、動翼リングの蒸気入口側の内径を蒸気出口側の内径よりも大きく、溶接金属部の蒸気入口側の幅を蒸気出口側の幅よりも大きくした構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン用のタービンロータに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネと環境保全(CO2の低減)の高まりのなかで、蒸気タービン発電プラントにおいて大容量化と熱効率向上の関心が高まって来ている。これらは、熱効率向上は蒸気の温度と圧力を高くすることによって行われており、今後、更に高温化が図られる見通しである。
【0003】
高圧タービンの初段翼は回転体要素中で最初に高温高圧である蒸気にさらされる要素であり、強度信頼性の確保が高温化の最大の鍵となっている。主蒸気温度が600℃を越えると、材料の高温強度、特にクリープ強度が急激に低下するため、その強度確保が最大の課題である。
【0004】
従来技術においては、タービン動翼をロータディスクに取り付けるための接合構造として、タービン動翼の根元部に形成された溝とロータディスクに一体的に設けられたディスクの外周部の溝への嵌め込みによる締結方法が用いられている。この溝はタービン動翼の遠心力を受けるため、溝には高い応力が作用する。そのため、溝は高応力に耐えるように、様々な形状の工夫がなされている(特許文献1、2)。
【0005】
また、さらに強度向上を図るため、特許文献3では、一連の材料素材から翼形状を削り出したタービン動翼とロータディスクを溶接で締結することが示されている。この溶接部を用いた構造によれば、溝形状で締結した場合に比べて、さらに高い応力に耐えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−161007号公報
【特許文献2】特開2007−92695号公報
【特許文献3】特開2003−269106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載されたタービンロータ構造では、蒸気は動翼入口側から動翼に当たり、出口側に抜ける構造となっている。そのため、動翼の入口側温度は出口側よりも高いので、ロータディスクの熱変形が不均一となる。その結果、運転中に動翼外周部が不均等に回転したり、運転中の動翼と静翼とのギャップが設計仕様から外れたりするため、プラントの効率は低下する可能性がある。従って、更なる効率向上のためには、運転中に動翼外周部を均一に回転させることが必要である。
【0008】
そこで本願発明の目的は、高温条件下での強度が高く、高温条件下でも均一な回転を達成可能なタービンロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ロータシャフトと、複数の動翼が一体に形成された少なくとも一段分の動翼リングと、ロータシャフトと一体化され、前記動翼リングを前記ロータシャフトに固定するためのロータディスクとを有し、前記動翼リングの根元部と前記ロータディスクの外周部とが溶接金属部を介して溶接締結されている蒸気タービン用のロータに関する。
【0010】
特に、複数の動翼が一体に形成された動翼リングが、根元部でロータディスクの外周部と溶接されて一体化されている構造を有し、ロータディスクの外径、動翼リングの内径、または溶接金属部の幅の少なくともいずれかひとつを蒸気入口側と蒸気出口側で変えていることにある。ロータディスクの外径は、蒸気入口側を蒸気出口側よりも小さくする。動翼リングの内径は、蒸気入口側で、出口側よりも大きくする。溶接金属の幅は蒸気出口側よりも蒸気入口側を大きくする。さらに、溶接金属部の幅は、蒸気入口側では9〜30mm、かつ蒸気出口側では4〜12mmとすることが好ましい。
【0011】
動翼リングは、環状に一体成型されたものでも、いくつかの部材が溶接されてリング状となっているものでもよい。タービンロータの全部の動翼を動翼リングに置き換えてもよいが、少なくとも一段を動翼リングに置き換える。特に、高温の蒸気入口側の第一段の動翼を動翼リングとすることが好ましい。
【0012】
さらに、ロータディスクに動翼リング用の材料を使用してバタリングしたり、動翼リングにロータディスクの材料を用いてバタリングを施すことが望ましい。
【0013】
また、動翼リングと、ロータディスクとは、溶接金属部のみではなく中間リングを介して溶接することができる。
【0014】
複数段の動翼を動翼リングで置き換えるタービンロータでは、複数のロータディスクに対して動翼リングを溶接するため、蒸気入口側(前段)のロータディスク径が、蒸気出口側(後段)で使用される動翼リングの最内径よりも小さくする。その結果、環状の動翼リングをローシャフトの前段側より通して後段側のロータディスクに溶接することが可能となる。
【0015】
複流型蒸気タービンでは、蒸気入口がロータの軸方向内側にあるため、ロータディスクに対して動翼リングを溶接するためには、動翼リングを溶接するロータディスクよりも高圧側で分割された複数の部材よりなるロータシャフトを使用する。もしくは、動翼リングを複数の部材(少なくとも2部材)から構成する。いずれも溶接により一体化することができ、ロータシャフトでは少なくとも一箇所を周方向に溶接、動翼リングでは少なくとも二箇所を半径方向に溶接を行う。
【0016】
動翼リングの材料は高クロム鋼系の材料、ロータシャフトやロータディスクの材料が低合金鋼系の材料とする。もしくは、動翼リングの材料をNi基超合金系の材料とし、ロータシャフトやロータディスクの材料を高クロム鋼系の材料の組み合わせとする。
【発明の効果】
【0017】
上記の構成によれば、動翼と静翼とのギャップを維持し、高温条件下での強度が高く、高温条件下でも均一な回転を達成可能なタービンロータを提供することができ、蒸気タービンプラントの高効率化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係る高圧タービン用溶接ロータの断面図。
【図2】タービンロータを溶接するためのタービンロータ溶接装置の模式図。
【図3】本発明の実施例1に係るタービンロータ溶接工程を示すフロー図。
【図4】溶接部近傍の模式図。
【図5】動翼リングが溶接されたロータディスクの断面模式図。
【図6】本発明の実施例4に係るタービンロータ溶接工程を示す模式図。
【図7】本発明の実施例4に係るバタリング工程を示す模式図。
【図8】本発明の実施例5に係るタービンロータ溶接工程を示す模式図。
【図9】本発明の実施例6に係るタービンロータ溶接工程を示す模式図。
【図10】本発明の実施例7に係るタービンロータ溶接工程を示す模式図。
【図11】本発明の実施例8に係る溶接部近傍の模式図。
【図12】本発明の実施例9に係るタービンロータ溶接工程を示す模式図。
【図13】本発明の実施例10に係る高圧タービン用溶接ロータの断面図。
【図14】本発明の実施例11に係る高圧タービン用溶接ロータの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述の通り、本発明は、複数の動翼が一体に形成された動翼リングが、根元部でロータディスクの外周部と溶接されて一体化されている構造を有する。一体成型された動翼リングを少なくとも1段分使用し、動翼リングの根元部とロータディスク外周部とが溶接金属を介して溶接締結されたタービンロータで、ロータディスクの外径、溶接部の幅、動翼の内径のうち少なくとも1つを、蒸気入口側と出口側で非対称とすることが特徴である。具体的には、ロータディスクの蒸気入口側の外径を蒸気出口側の外径よりも小さく、動翼リングの蒸気入口側の内径を蒸気出口側の内径よりも大きく、溶接金属部の蒸気入口側の幅を蒸気出口側の幅よりも大きくした構造とする。
【0020】
以下、本発明のタービンロータを実施するための形態を具体的な実施例によって詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
第1の実施例について図1から図5を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明に係る高圧蒸気用のタービンロータの断面図である。タービンロータはロータシャフトと、ロータシャフトに環状に設けられたロータディスクと、ロータディスクに固定された動翼よりなる。蒸気はタービンロータの高温側より流入し、低温側から流出する。本実施例では、蒸気が最初に当たるタービンロータの初段動翼は、ロータディスクに固定された動翼リングよりなる。
【0023】
図1に示すように、動翼リングは、ロータディスクと溶接により締結されている。溶接方法としては、タングステン・不活性ガス(TIG)溶接法、サブマージアーク(SAW)溶接法、被覆アーク溶接法、金属・不活性ガス(MIG)溶接法など、もしくはこれらの組み合わせを採用することができる。
【0024】
動翼リングは、高温強度を必要とするため、12Cr鋼を代表とする高クロム鋼を使用する。一方、ロータディスクには動翼ほど高温強度を必要としないため、より安価なCr−Mo−V鋼を代表とする低合金鋼を使用する。これらを溶接するための溶接金属部には、晒される温度が動翼リングに近い場合は高クロム鋼系、ロータディスクに近い場合は低合金高系の材料を用いる。表1にタービンロータのロータを構成する母材及び溶接ワイヤの化学組成(重量%)例示する。なお、残部はFeと不可避不純物である。
【0025】
【表1】

【0026】
タービンロータ製造装置の例として、図2にタングステン・不活性ガス(TIG)溶接法により図1のタービンロータを製造するための溶接装置の模式図を示す。タービンロータ溶接装置8は、電極9が取り付けられるトーチ10、溶接部6を形成する溶接ワイヤ11、トーチ10及び溶接ワイヤ11を支持固定するアーム12、電極9に所定値の電流を供給する溶接電源13、溶接部6の酸化を抑制するために電極9周囲から噴射する不活性ガスを供給するガスボンベ14、タービンロータ1を支持しながら回転させるためのタービンロータ回転装置15及び溶接ワイヤ11を溶接部6に送給する溶接ワイヤ送給装置16を備える。電極9には、溶接電源13からの送電線17が取り付けられてあり、溶接電源13から電流が供給される。トーチ10には、ガスボンベ14から不活性ガスの供給をうけるためにガスホース18が取り付けてある。タービンロータ1には、電極9とタービンロータ1との間で電気アークを発生するために、電気線19が取り付けてある。タービンロータ回転装置15には、回転信号線20が取り付けてあり、溶接電源13からの制御信号を受けてタービンロータ回転装置15の回転速度および回転方向が制御される。溶接ワイヤ送給装置16は、送給信号線21からの制御信号を受けて溶接ワイヤ22の送給速度が制御されるように構成されてある。なお、図2では、ロータを垂直に配置して下向きに溶接している例を図示したが、ロータを水平に配置して横向きに溶接しても構わない。
【0027】
図3は、本発明に係るタービンロータにおいて、動翼35をロータディスク36に溶接する工程フローの一例を示している。まず、ステップ101で、動翼リング35をロータディスク36に組み込む。その後、ステップ102で、溶接工程を開始する指示がでると、ステップ103で、溶接時の熱応力を緩和するために、ロータを予熱する。そして、ステップ104において、図2で示したタービンロータ溶接装置によって溶接を行う。ステップ105では、本溶接で溶接部6に入った熱を均一化するために応力除去焼鈍を行う。ステップ106で溶接部6の溶接欠陥検査を行う。ステップ107で欠陥を検出して、さらにステップ108で欠陥サイズが機械強度上許容できない場合、ステップ109で溶接部6を切除して、さらにステップ110でロータ端面を開先加工する。ステップ107で欠陥を検出しなかった、あるいはステップ108で欠陥サイズを許容することが確認できた場合、ステップ111に進んで接合工程を終了する。
【0028】
図4は、溶接前後の溶接部近傍の断面を示している。動翼リングは、高温側(蒸気流入方向)の内径が低温側(蒸気流出側)の内径よりも大きい形状としてある。また、ロータディスクは、高温側の外径が低温側の外径と同じか、低温側よりも小さい形状となっている。その結果、つき合わせ部には高温側に開いた開先が形成されている。動翼リング35とロータディスク35は、インロー(鍵状)形状に加工された突合せ部で接触して、動翼リング35が所定の位置に収まるように支持されている。このとき、動翼リング35には重力が掛かるので、突合せ部は、動翼リングを組み込み方向に対して前側に位置する。動翼リング35をロータディスク36に適正に組み込んだ後、動翼リング35とロータディスク36の間にある溶接開先30に溶接金属を溶け込ませる。このようにすることで高温側、低温側での熱変形を調整することが可能となる。
【0029】
図5は、動翼リング35が溶接されたロータディスク36の断面模式図である。(a)は本発明であり、(b)は従来例を示す。ロータでは、蒸気入口側と蒸気出口側では温度差を生じる。式(1)に、熱変形量を示す簡易式を示す。
【0030】
ΔL=α・L・(T―T0) …式(1)
【0031】
ΔLは熱変形量、αは熱膨張係数、Lは部材の長さ、Tは温度である。
【0032】
式(1)より、α、L、及びΔTが大きいほど、ΔLは大きくなることを示している。この関係式を基にすると、本ロータの熱変形量は式(2)、及び式(3)のようになる。
【0033】
ΔLi=ΔLiR+ΔLiD+ΔLiB
=(αRiR+αDiD+αBiB)(Ti―rt) …式(2)
ΔLo=ΔLoR+ΔLoD+ΔLoB
=(αRoR+αDoD+αBoB)(To―rt) …式(3)
【0034】
下添え字のRはロータディスク36、Dは溶接金属37、Bは動翼リング35を意味する。rtは室温である。すなわち、LRはロータディスク外径、LDは溶接金属の幅、LBは動翼リングの幅(外径―内径)である。
【0035】
運転中の蒸気入口側と出口側の熱変形量を等しく(ΔLi=ΔLo)するためには、式(2)と式(3)を等しくする必要がある。蒸気入口側と蒸気出口側の温度(Ti、o)は運転条件であり、またαは材料の物性値なので容易に変えることができない。そのため、本発明では、まず形状因子であるLを調整することにした。式(2)及び式(3)を整理すると、式(4)の関係が成立する。
【0036】
(Ti―rt)/(To―rt)
=(αRoR+αDoD+αBoB)/(αRiR+αDiD+αBiB) …式(4)
【0037】
さらに、蒸気温度は、入口側の方が出口側よりも高いので、式(5)が成立する。
【0038】
(Ti―rt)/(To―rt)>1 …式(5)
【0039】
式(4)及び式(5)より、式(6)が成立する。
【0040】
(αRoR+αDoD+αBoB)>(αRiR+αDiD+αBiB) …式(6)
【0041】
3つの部材(動翼リング35、ロータディスク36、溶接金属37)の中で、ロータディスク36の外径(LiR、LoR)が最も大きい。従って、ロータディスク36の外径をLoR>LiRとすることが、式(6)を成立、つまり熱変形を等しくするのに最も効果的である。図5(b)に示す従来例のように、LiR≒LoRであると、熱変形を等しくすることは困難である。このように、本実施例によれば、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例2】
【0042】
本発明の第2の実施例について図5を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、対象とする長さのみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0043】
動翼リング35を溶接されたロータディスク36は、室温から運転を開始して、所定の高温で定常運転する。この間に、動翼リングの35の外径(Li、Lo)は均等に変形することが望ましい。このことから、式(7)及び式(8)が成立する。
【0044】
i=LiR+LiD+LiB、o=LOR+LOD+LOB …式(7)
iR+LiD+LiB=LOR+LOD+LOB …式(8)
【0045】
これより、実施例1で示したLiR<LoRが成立する場合、式(8)を満たすためには、溶接金属の幅はLiD>LoDであることが望ましい。これは、熱変形を等しくするのに効果がある。このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例3】
【0046】
本発明の第3の実施例について図5を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、対象とする長さのみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0047】
実施例1ではロータディスク径LRについて、実施例2では溶接金属の幅LDを規定した。同様に、これより、実施例1で示したLiR<LoRが成立する場合、式(8)を満たすためには、動翼リング35の内径はLiB>LoBであることが望ましい。これは、熱変形を等しくするのに効果がある。このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例4】
【0048】
本発明の第4の実施例について図6及び図7を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、バタリングの有無のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。バタリングで、突合せ溶接時に、突合せ溶接される各部材の表面に肉盛溶接などで金属層を作成することにより、各部材への溶接の影響を低減する。
【0049】
実施例1に示す形状のみで熱変形を等しくできない場合は、ロータディスク36の端面に、動翼と同じ材料でバタリング38を施す。その際に、蒸気入口側の面に、多量にバタリングすることにより、ロータディスク36の熱膨張係数を調整することができる。
【0050】
図6に、本実施例に係る溶接部近傍の模式図を示す。これは、ロータディスク36の熱膨張係数が、動翼リング35よりも大きい場合(αR>αB)に、特に有効である。これは、実施例1で示した式(6)における右辺第1項が、式(9)のように変更することを意味する。
【0051】
αRiR→αR(LiR―LBU)+αBBU …式(9)
【0052】
BUは、バタリングの幅である。LBU>0であるから、式(10)が成立するので、式(6)は成立しやすくなる。
【0053】
αRiR>αR(LiR―LBU)+αBBU …式(10)
【0054】
図7は、バタリングの施工する工程フローの一例を示している。まず、ステップ201で、バタリングを開始する指示がでると、ステップ202で、溶接時の熱応力を緩和するために、被溶接物を予熱する。そして、ステップ203において、図2で示したタービンロータ溶接装置によってバタリングを行う。ステップ204では、バタリングに入った熱を均一化するために応力除去焼鈍を行う。ステップ205でバタリングの溶接欠陥検査を行う。ステップ206で欠陥を検出して、さらにステップ207で欠陥サイズが機械強度上許容できない場合、ステップ208で溶接部6を切除して、さらにステップ209で開先を再加工する。ステップ206で欠陥を検出しなかった、あるいはステップ207で欠陥サイズを許容することが確認できた場合、ステップ210で本溶接用の開先を加工した後、ステップ211で進んでバタリングを終了する。バタリングの本溶接については、実施例1の図3と同じである。
【0055】
このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例5】
【0056】
本発明の第5の実施例について図8を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、バタリングの有無のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0057】
実施例1に示すロータディスクの形状のみで熱変形を等しくできない場合は、動翼リング35の端面に、ロータと同じ材料でバタリング39を施す。その際に、動翼リング35の蒸気出口側の面に、多量にバタリングすることにより、動翼リング35の熱膨張係数を調整することができる。図8に、本実施例に係る溶接部近傍の模式図を示す。これは、ロータディスク36の熱膨張係数が、動翼リング35よりも大きい場合(αR>αB)に、特に有効である。これは、実施例1で示した式(6)における左辺第3項が、式(11)のように変わることを意味する。
【0058】
αBoB→αRBU+αB(LoR―LBU) …式(11)
【0059】
BU>0であるから、式(12)が成立するので、式(6)は成立しやすくなる。
【0060】
αBoB<αRBU+αB(LoR―LBU) …式(12)
【0061】
このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例6】
【0062】
本発明の第6の実施例について図9を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、バタリングの有無のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0063】
実施例1に示すロータディスクの形状のみで熱変形を等しくできない場合は、ロータディスク36の端面に、動翼と同じ材料でバタリング38を施す。その際に、ロータディスク36の蒸気出口側の面に、多量にバタリング38を施すことにより、ロータディスク36の熱膨張係数を調整することができる。図9に、本実施例に係る溶接部近傍の模式図を示す。これは、ロータディスク36の熱膨張係数が、動翼リング35よりも小さい場合(αR<αB)に、特に有効である。これは、実施例1で示した式(6)における左辺第1項が、式(13)のように変わることを意味する。
【0064】
αRoR→αR(LoR―LBU)+αBBU …式(13)
【0065】
BU>0であるから、式(14)が成立するので、式(6)は成立しやすくなる。
【0066】
αRoR<αR(LoR―LBU)+αBBU …式(14)
【0067】
このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例7】
【0068】
本発明の第7の実施例について図10を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、バタリングの有無のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0069】
実施例1に示すロータディスクの形状のみで熱変形を等しくできない場合は、動翼リング35の端面に、ロータと同じ材料でバタリング39を施す。その際に、動翼リング35の蒸気入口側の面に、多量にバタリング39を施すことにより、動翼リング35の熱膨張係数を調整することができる。図10に、本実施例に係る溶接部近傍の模式図を示す。これは、ロータディスク36の熱膨張係数が、動翼リング35よりも小さい場合(αR<αB)に、特に有効である。これは、実施例1で示した式(6)における右辺第3項が、式(15)のように変わることを意味する。
【0070】
αBiB→αRBU+αB(LiR―LBU) …式(15)
【0071】
BU>0であるから、式(16)が成立するので、式(6)は成立しやすくなる。
【0072】
αBiB>αRBU+αB(LiB―LBU) …式(16)
【0073】
このように、本実施例によれば、室温での運転開始時から定常運転時まで、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例8】
【0074】
本発明の第8の実施例について図11を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、中間リングの有無のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0075】
実施例1に示すロータディスクの形状のみで熱変形を等しくできない場合は、ロータディスク36に、動翼と同じ材料で製作された中間リング47を組込み、溶接する。その後、動翼リング35を組み込み、溶接する。これにより、実施例6に比べて、より広範囲に渡りロータの熱膨張係数を調整することができる。
【0076】
このように、本実施例によれば、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例9】
【0077】
本発明の第9の実施例について図12を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、対象とするロータディスク数のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0078】
実施例1では、1体のロータディスクに対して示したが、本実施例では複数体のロータディスクに対して動翼リングを溶接する場合を示す。これは、より蒸気温度が高い、あるいは前段の動翼を通過した蒸気の温度が高い場合には、後段のロータディスクにおいても動翼リングを溶接するためである。図12は、複数体のロータディスクに動翼リングを溶接する場合の模式図を示す。DR1は前段のロータディスクの最大外径、DB2は後段の動翼リングの最大内径である。後段のロータディスク41に組み込む動翼リング35は、前段のロータディスクを通過する必要がある。そのため、前段のロータディスクの最大外径DR1は、後段の動翼リングの最大内径DB2よりも小さく(DR1<DB2)する必要がある。この条件は、さらに後段の複数体のロータディスクについても、同様に成立する。
【0079】
このように、本実施例によれば、複数体のロータに対して動翼リングを溶接することができ、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例10】
【0080】
本発明の第10の実施例について図13を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、前段のロータディスク径のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0081】
実施例1では蒸気が、一方向に流れる方式のタービンについて示したが、本実施例では蒸気が複数方向に流れる複流方式のタービンについて示す。これは、高中圧一体型ロータのように、蒸気がロータの中心部から両端方向に分かれて流れることにより、ロータの圧力分布を対称とした方式である。ロータディスク径は、中央部の高圧側よりも端部の低圧側の方が大きい。高圧側前段のロータディスクの最大外径をDR1、低圧側後段のロータディスクの最大外径をDR2とすると、DR1<DR2が成立する。そのため、端部から動翼リング35を組み込むことはできない。この場合は、DR1<DB2が成立するようなシャフト部で分割したロータに対して、動翼35をロータディスクに組込み、その後、シャフト部を溶接金属42で溶接する。すなわち、複流方式のタービンロータに対して、動翼リングをロータディスクに溶接する場合、ロータシャフト部に少なくとも1箇所の溶接部を含むことになる。
【0082】
このように、本実施例によれば、複流方式のタービンロータにおいても、複数体のロータに対して動翼リングを溶接することができ、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例11】
【0083】
本発明の第11の実施例について図14を用いて説明する。本実施例は、実施例1とは、前段のロータディスク径のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0084】
実施例9では、ロータのシャフト部に溶接部を含むが、本実施例では動翼リング35に半径方向に伸びる溶接部を含む。これは、実施例9で説明したとおり、複流方式のタービンロータでは、端部から動翼リング35を組み込むことはできない。そこで、予め動翼リング35を少なくとも2ヶに分割して製作することにより、それぞれをロータディスクに組み込むことができる。その後、動翼リング35を半径方向に溶接することにより、一体化する。
【0085】
このように、本実施例によれば、複流方式のタービンロータにおいても、複数体のロータに対して動翼リングを溶接することができ、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例12】
【0086】
本発明の第12の実施例について説明する。本実施例は、実施例1とは、動翼リング35、及びロータディスク36の材料のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0087】
動翼リング35は、ロータディスク35に比べて、蒸気に直接触れる箇所が多いため、到達温度も高くなる。その結果、動翼リング35は、ロータディスク35よりも、高い耐用温度を必要とする。このことから、実施例1では、動翼リング35は高クロム鋼系、ロータディスク36は低合金鋼系を採用した。本実施例では、さらに高い蒸気温度を想定して、動翼リング35はNi基超合金系、ロータディスク36は高クロム鋼系を採用する。
【0088】
このように、本実施例によれば、さらに高い蒸気温度でのプラントにおいても、ロータに対して動翼リングを溶接することができ、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【実施例13】
【0089】
本発明の第13の実施例について説明する。本実施例は、実施例1とは、溶接金属の幅のみが異なり、その他については同じなので、説明は割愛する。
【0090】
実際の動翼リング35は、中実ではなく、ロータディスク36と溶接する根元部、蒸気が通過する翼部、翼部を支える外周部から構成される。そのため、熱変形は一様ではない。このことから、実際の動翼リング35などの形状条件、入口側と出口側の蒸気温度などの運転条件、及び、開先30内に投入するトーチ10の形状などの施工条件を考慮して、熱変形に関する数値解析を行った。その結果、溶接金属の幅は、蒸気入口側では9〜30mm、蒸気出口側では4〜12であることが望ましいことを明らかにした。これらの数値の下限値は、溶接中の熱変形により開先30内が収縮した場合においても、トーチ10を適正に走査するための条件から算出した。また、数値の上限値は、溶接入熱による開先30の熱収縮と入口側と出口側での蒸気温度差による熱変形を考慮して算出した。
【0091】
このように、本実施例によれば、適正に動翼リング35をロータディスク26に溶接できる条件を求めて、動翼と静翼とのギャップを維持できるので、プラントの高効率化を図れる。
【符号の説明】
【0092】
1,2 タービンロータ
6 溶接部
8 タービンロータ溶接装置
9 電極
10 トーチ
11,37 溶接金属
12 アーム
13 溶接電源
14 ガスボンベ
15 タービンロータ回転装置
16 溶接ワイヤ送給装置
17 送電線
18 ガスホース
19 電気線
20 回転信号線
21 送給信号線
30 溶接開先
31 半径方向に伸びる外側の接触面
32 軸方向に伸びる接触面
33 半径方向に伸びる内側の接触面
34 切欠
35 動翼リング
36 ロータディスク
38 動翼材料によるバタリング
39 ロータ材料によるバタリング
40 前段のロータディスク
41 後段のロータディスク
42 シャフト部の溶接金属
43 動翼内半径方向の溶接部
44 中間リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータシャフトと、複数の動翼が一体に形成された少なくとも一段分の動翼リングと、ロータシャフトと一体化され、前記動翼リングを前記ロータシャフトに固定するためのロータディスクとを有し、
前記動翼リングの根元部と前記ロータディスクの外周部とが溶接金属部を介して溶接締結されている蒸気タービン用のロータであって、
前記ロータディスクの蒸気入口側の外径は、蒸気出口側の外径よりも小さいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項2】
請求項1に記載された蒸気タービン用ロータであって、前記動翼リングの蒸気入口側の内径は、蒸気出口側の内径よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載された蒸気タービン用ロータであって、前記溶接金属部の蒸気入口側の幅は、蒸気出口側の幅よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項4】
ロータシャフトと、複数の動翼が一体に形成された少なくとも一段分の動翼リングと、前記動翼リングを前記ロータシャフトに固定するためのロータディスクとを有し、
前記動翼リングの根元部と前記ロータディスクの外周部とが溶接金属部を介して溶接締結されている蒸気タービン用のロータであって、
前記動翼リングの蒸気入口側の内径は、蒸気出口側の内径よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項5】
ロータシャフトと、複数の動翼が一体に形成された少なくとも一段分の動翼リングと、前記動翼リングを前記ロータシャフトに固定するためのロータディスクとを有し、
前記動翼リングの根元部と前記ロータディスクの外周部とが溶接金属部を介して溶接締結されている蒸気タービン用のロータであって、
前記溶接金属部の蒸気入口側の幅は、蒸気出口側の幅よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記ロータディスクは、動翼リングと同じ成分の合金でバタリングがされていることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記動翼リングは、ロータディスクと同じ成分の合金でバタリングがされていることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記動翼リングは、中間リングを介して前記ロータディスクに溶接されていることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
複数段分の動翼リングを有し、前記動翼リングは対応するロータディスクにそれぞれ固定されており、
蒸気入口側の動翼リングに対応するロータディスクの外径は、蒸気出口側の動翼リングに対応するロータディスクの蒸気出口側の外径よりも小さいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記ロータシャフトは少なくとも一箇所がロータ周方向のシャフト溶接部で溶接された複数の部材よりなり、前記シャフト溶接部は、動翼リングを溶接されたロータディスクよりも高圧側であり、複流型蒸気タービン用のロータとして用いられることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記動翼リングは、リングの半径方向に溶接された少なくとも二つの部材より構成されており、
複流型蒸気タービン用のロータとして用いられることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記動翼リングは9〜12%のクロムを含む高クロム鋼よりなり、前記ロータシャフトは低合金鋼よりなることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項13】
請求項1ないし11のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記動翼リングはNi基合金よりなり、前記ロータシャフトは9〜12%のクロムを含む高クロム鋼よりなることを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータであって、
前記ロータディスクと前記動翼リングとの間に設けられた溶接金属部の幅は、蒸気入口側が9〜30mm、蒸気出口側が4〜12mmであって、蒸気入口側が蒸気出口側よりも大きいことを特徴とする蒸気タービン用ロータ。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載された蒸気タービン用ロータを用いたことを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−236404(P2010−236404A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84000(P2009−84000)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】