説明

蒸気タービン装置の一次制御のための方法

【課題】発電設備における、少なくとも2つの圧力段、つまり高圧蒸気タービン段(1)及び低圧蒸気タービン段(3)を備えている蒸気タービン装置の給電運転時の急速な出力制御のための方法を改善して、極めて低いコストで確実かつ急速な出力制御を保証する。
【解決手段】高圧蒸気タービン段(1)から部分的に膨張して流出する作動蒸気の少なくとも一部分を、直接に、つまり再加熱なしに、引き続く膨張のための低圧蒸気タービン段(3)内に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電設備における蒸気タービン装置の一次制御のための方法であって、少なくとも2つの圧力段、つまり高圧蒸気タービン段(高圧の蒸気タービン段)及び低圧蒸気タービン段(定圧の蒸気タービン段)を備えており、余剰出力の蓄えのために、前記蒸気タービン段のうちの少なくとも1つの蒸気タービン段へ通じる作動蒸気供給管路に設けられた生蒸気弁は、絞り状態で作動させられていて、給電周波数の減少、ひいては該減少に基づく給電周波数の上昇の必要な場合に、少なくとも絞り量の減少された状態に、つまり少なくともわずかしか絞られない状態に、換言すれば必要に応じてほぼ完全に開かれた状態に移されるようになっている形式のものに関する。
【背景技術】
【0002】
電気エネルギーの供給のために給電網に接続された発電所には、支障のない運転のための要求が課せられている。このことは、殊に給電網におけるいわゆる一次制御に当てはまり、該一次制御(基本制御)により、例えば出力低下、ひいては周波数低下に起因する支障の発生に際しても、発電所の二次領域は、定格運転又は正規運転の回復のために余剰出力の供給を受けて、給電網への給電を行うようになっていなければならない。つまり、発電所は、一次制御のために最大30秒の時間にわたって各発電定格出力の少なくとも二%の余剰出力で付加的に作動されるようになっていなければならない。
【0003】
蒸気タービン式発電所の場合には、各蒸気タービン段のための入口弁は、蒸気発生器の蒸気蓄え(スチームリザーブ)を発生する短時間の周波数ずれに際して入口弁の自動的な開放によって利用できるように、一般的に絞られた位置に保たれている。
このような構成により、蓄えられた余剰出力(蒸気蓄え)を短時間開放して、給電網内の周波数ずれを補償することができるようになっている。
【0004】
作動弁の絞り量の増加又は減少による出力増大のほかに、蒸気タービンの水・蒸気回路内に配置されていて蒸気タービンからの抽気蒸気によって加熱される予熱器を遮断することは周知である。同時に低圧予熱器を通して案内される凝縮水流は、数秒にわたって止められて、再び増大される。化石燃料燃焼式の発電所において予熱器の意図的な遮断による凝縮水流停止に基づく急速な出力制御のための上記手段は、例えばドイツ連邦共和国特許出願公告第3304292C2号明細書に記載してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公告第3304292C2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、発電設備における、少なくとも2つの圧力段、つまり高圧蒸気タービン段及び低圧蒸気タービン段を備えている蒸気タービン装置の給電運転時の急速な出力制御のための方法を改善して、極めて低いコストで確実かつ急速な出力制御を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、高圧蒸気タービン段から部分的に膨張して流出する作動蒸気の少なくとも一部分を、直接に、つまり再加熱なしに、引き続く膨張又はエネルギー変換のための低圧蒸気タービン段内に導入するようになっている。
【0008】
本発明に基づく技術思想は、部分的に膨張して高圧蒸気タービン段から流出する作動蒸気(作業蒸気)が、該作動蒸気を、部分的に膨張していて再加熱された蒸気として、低圧蒸気タービン段に供給するために、又は低圧蒸気タービン段の前に、つまり低圧蒸気タービン段の上流に接続された中圧蒸気タービン段(高圧と低圧との間の圧力用の、つまり中圧又は中間圧力用の蒸気タービン段)に供給するために、再加熱ユニットに供給されるようになっている蒸気タービン装置における従来の運転方法と異なり、再加熱ユニットを意図的に迂回するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に基づく上記構成により、高圧蒸気タービン段からより低い圧力レベルで作動する各後続の蒸気タービン段への供給に際して再加熱に起因して生じる時間的な遅れを避けることができて、その結果として、周波数の上昇の必要な場合に、作動蒸気の絞り量の減少により高圧蒸気タービン段内に解放された追加的な作動蒸気を、直接に、つまり高圧蒸気タービン段からの流出の後に再加熱することなしに、より低い作動圧又は運転圧で運転される後続の蒸気タービン段内に供給することができ、したがって従来の運転形式に比べて極めて短い時間での応答能力で、追加蒸気、ひいては追加出力を周波数の上昇のために供給できるようになっている。予備出力(リザーブ出力)の自動的な呼び出しのための従来の周波数上昇手段の応答時間(応働時間)は、一般的に3〜30秒であり、このことは、前記凝縮水流停止を用いる前記技術において、抽気蒸気の停止並びに、予備出力の蓄えのための蒸気弁の絞りにつながってしまうことになる。本発明に基づく上記構成により、予め蓄えられたすべての予備出力は、高圧蒸気タービン段及び低圧蒸気タービン段を介して3〜10秒以内に完全に呼び出され、つまり周波数の上昇のために利用される。短時間での出力呼び出しにより、給電網周波数の変動は、周波数の上昇のための従来の手段よりも極めて効果的に防止される。
【0010】
次に本発明を、唯一の図面に示す三段式の蒸気タービン装置(蒸気タービン設備)に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】蒸気タービン装置の構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に構成を概略的に示してあるタービン装置は、高圧蒸気タービン段1、中圧蒸気タービン段2及び低圧蒸気タービン段3を含んでいる。すべてのタービン段は、発電機5の駆動のための共有の1つの軸4上に配置されている。
【0013】
通常運転又は通常動作において、高圧蒸気タービン1は、加熱器6を含む蒸気ボイラーから作動蒸気の供給を受けるようになっている。高圧蒸気タービン1から部分的に膨張して流出する作動蒸気は、下流の蒸気管路9を経て再加熱ユニット10内に達して、該再加熱ユニット内で再加熱され、次いで後続の部分膨張のための中圧蒸気タービン2に送られる。さらに、中圧蒸気タービン2から流出する部分的に膨張した蒸気は低圧蒸気タービン3に達するようになっている。
【0014】
余剰出力(予備出力又は蓄え出力)の蓄えのために、それ自体周知のように生蒸気弁8は絞られ、その結果として上流側で蒸気供給管路7に沿って高い圧力レベルが生ぜしめられるようになっている。給電周波数障害、つまり公称周波数、例えば50Hzからの不当な周波数ずれが生じる場合には、周波数不足の検出に基づき生蒸気弁8の絞り量は、弁の完全な開放まで減少され、その結果として、蓄えられている余剰出力は、自動的に増加された蒸気量の形で高圧蒸気タービン段1に供給されるようになっている。この場合に、高圧蒸気タービン段1から部分的に膨張して流出する蒸気量は、引き続く作業、つまりエネルギー変換のために、弁ユニット13の開放により、蒸気供給管路11を経て、再加熱なしに部分的に、有利には完全に直接低圧蒸気タービン段3内へ導かれるようになっている。高圧蒸気タービン段1と低圧蒸気タービン段3との間の直接的な蒸気供給に基づき、軸4は実質的に、再加熱ユニット10を遮断することに起因する時間的な遅れなしに、高圧蒸気タービン段1及び低圧蒸気タービン段3によって駆動されるようになり、その結果として、10%までの出力増加が自動的に、周波数の上昇のために発電機5から取り出されるようになっている。
【符号の説明】
【0015】
1 高圧蒸気タービン段、 3 低圧蒸気タービン段、 2 中圧蒸気タービン段、 4 軸、 5 発電機、 6 加熱器、 7 蒸気供給管路、 生蒸気弁8、 9 蒸気管路、 11 バイパス管路、 13 弁ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備における蒸気タービン装置の一次制御のための方法であって、少なくとも2つの圧力段、つまり高圧蒸気タービン段(1)及び低圧蒸気タービン段(3)を備えており、余剰出力の蓄えのために、前記蒸気タービン段のうちの少なくとも1つの蒸気タービン段(1)へ通じる作動蒸気供給管路(7)に設けられた生蒸気弁(8)は、絞り状態で作動させられていて、給電周波数の減少、ひいては該減少に基づく給電周波数の上昇の必要な場合に、少なくとも絞り量の減少された状態に移されるようになっている形式のものにおいて、前記高圧蒸気タービン段(1)から部分的に膨張して流出する作動蒸気の少なくとも一部分を、直接に、つまり再加熱なしに、引き続く膨張のための前記低圧蒸気タービン段(3)内に導入することを特徴とする、蒸気タービン装置の一次制御のための方法。
【請求項2】
余剰出力の蓄えのために前記生蒸気弁(8)を絞る運転状態では、前記高圧蒸気タービン段(1)から部分的に膨張して流出する作動蒸気は、再加熱ユニット(10)を介して供給されて、部分的に膨張して再加熱された作動蒸気を維持し、該作動蒸気は中圧蒸気タービン段(2)、次いで後続の低圧蒸気タービン段(3)に供給され、かつ、前記給電周波数の上昇の場合に、前記高圧蒸気タービン段(1)から部分的に膨張して流出する作動蒸気の少なくとも一部分は、バイパス管路(11)を介して前記低圧蒸気タービン段(3)に供給される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイパス管路(11)に弁ユニット(13)を設けてあり、該弁ユニットは前記給電周波数の上昇の場合にのみ開かれる請求項2に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270756(P2010−270756A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115003(P2010−115003)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】