蒸気弁装置
【課題】蒸気弁装置のガイド部材とブッシュの線膨張係数の差から前記ガイド部材とブッシュ間に酸化スケールSが堆積し、弁の冷機時に前記堆積した酸化スケールSによってブッシュの内径が大きく収縮し、ブッシュが弁棒を締め付けることに起因する弁棒のスティックを防止する。
【解決手段】蒸気弁装置において、弁装置の冷機時にガイド部材8およびブッシュ9間に堆積した酸化スケールSによってガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加したときにガイド部材8からブッシュ9への嵌合面となる外周部が弾性変形するように、ブッシュ9の外周部に任意の傾斜角度θを持たせた溝91を設けたことを特徴とする。
【解決手段】蒸気弁装置において、弁装置の冷機時にガイド部材8およびブッシュ9間に堆積した酸化スケールSによってガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加したときにガイド部材8からブッシュ9への嵌合面となる外周部が弾性変形するように、ブッシュ9の外周部に任意の傾斜角度θを持たせた溝91を設けたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蒸気タービンプラントなどに用いられる蒸気弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8乃至図11は従来技術における各部の状態変化を示す説明図であって、弁棒のスティック発生メカニズムを示す説明図である。
図8に示す高温蒸気弁装置の弁棒部では、弁棒7の移動を案内し、かつ摺動部の蒸気をシールする弁棒用ガイド部材(以下、ガイド部材)8の内側にブッシュ9を嵌合配置し、このブッシュ9の内周面で弁棒7を摺動させるように構成している。そして、弁棒部の組立時には図8に示すように、ブッシュ9とガイド部材8間には間隙が無く、ブッシュ9と弁棒7間には酸化スケールSの発生を考慮して間隙を設けている。この状態であれば、弁棒7はブッシュ9に拘束されることなく、スムーズに動作することが可能である。
【0003】
次に、使用時に高温蒸気が流入して弁装置全体が高温状態になると、図9に示すように、ガイド部材8およびブッシュ9それぞれの部材は共に熱膨張する。このとき、ブッシュ9とガイド部材8の材質が異なっている場合には、それぞれの線膨張係数の差から、ブッシュ9とガイド部材8との間に間隙が生じる。
【0004】
前述のごとく、ブッシュ9とガイド部材8との間に間隙が発生した状態で、高温雰囲気中での使用が継続されると、弁棒7、ブッシュ9およびガイド部材8の表面に図10に示すように、酸化スケールSが発生し、これが次第に堆積して間隙を埋めていくことになる。
【0005】
その後、酸化スケールSが堆積した状態で弁の使用を停止し、弁が冷却(弁の冷機時)されていくと、ガイド部材8、ブッシュ9の各部材が収縮し、に戻ろうとする力が働く。この場合、図8の状態に比べてブッシュ9とガイド部材8との間に堆積した酸化スケールSの分だけ、ガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加した状態となり、ブッシュ9をその直径方向の中心に向かって圧縮する作用を惹き起こすことになる。
【0006】
前述のごとく、ブッシュ9の内周面と弁棒7との間には酸化スケールSの堆積を考慮した間隙Gを設けてブッシュ9と弁棒7の固着を防止しているが、図11に示すように、弁装置の冷機時にブッシュ9が直径方向の中心に向かって圧縮され内径が収縮すると、さらにブッシュ9と弁棒7間の間隙Gが小さくなり、ブッシュ9が弁棒7を締め付け、弁棒7のスティックを惹き起こすことが懸念される。
【0007】
一方、高温高圧の蒸気のもとで用いられる蒸気弁装置は、可動する弁棒7とブッシュ9間の間隙Gは蒸気リークおよび弁棒7の振動抑制のために、できるだけ小さくする必要がある。
【0008】
このような問題に対処するため、例えば特許文献1では、前記ガイド部材8とブッシュ9の嵌合部に突起を設け、この突起を介して前記ガイド部材8とブッシュ9とを部分的に嵌合させるように構成した技術が開示されている。
また特許文献2では、前記ガイド部材8とブッシュ9の嵌合部において、ブッシュ9の外周面に耐酸化性の被膜を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−193404号公報
【特許文献2】特開平8−93407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、弁棒7はその強度、酸化スケールSの発生の防止を考慮して12Cr鋼等により形成され、さらに弁棒7を摺動支持するブッシュ9も弁棒7と同じ材料で形成されているが、ガイド部材8は弁ケーシング1との取り合いの関係で、弁ケーシング1と同じ低合金鋼で形成されているため、ブッシュ9とガイド部材8との間には、その線膨張係数の差から前記間隙が生じることになる。
【0011】
そこで、従来、ブッシュ9や弁棒7の材料を12Cr鋼から、ニッケル−クロム−鉄が主成分のNi基合金のインコロイ(登録商標)に換えたり、弁棒7の表面をステライト(登録商標)盛りするなど、弁棒7が高温蒸気に触れても酸化スケールが発生しないような対策が講じられているが、これらは全て弁棒7とブッシュ9との間の酸化スケールSの発生を防止しようとする対策にほかならない。
【0012】
近年、エネルギー問題等の観点から火力発電プラント及びその設備に対する高効率化が求められており、このような高効率化への需要の高まりを受け、蒸気温度600℃以上の火力発電プラントが建設され、更には蒸気温度700℃以上の火力発電プラントの検討が開始されている。
【0013】
このような蒸気温度の高温化に伴い、前記従来技術ではそのいずれもガイド部材8とブッシュ9の線膨張係数の差から高温状態での使用時に両者間に間隙が生じ、これに伴いガイド部材8とブッシュ9間に酸化スケールSが堆積し、これが弁の冷機時に各部材が収縮したとき、前記堆積した酸化スケールSの分、ブッシュ9を径方向の中心に向かって圧縮し、このためブッシュ9の内径が収縮し、ブッシュ9がその内面全体で弁棒7を締め付けることによって惹き起こされる弁棒7のスティック事象がますます顕著に発生するという問題がある。
【0014】
また、従来の弁ケーシング1やガイド部材8の材料として使用されてきた低合金鋼、特にそれがフェライト系耐熱鋼では600℃以上の蒸気温度条件下で使用した場合の酸化スケールの成長が特に顕著となることが知られており、ますますガイド部材8とブッシュ9間の酸化スケールSの堆積量が増加するという問題も懸念される。
【0015】
そこで、本実施形態は、弁の高温状態での使用時にガイド部材とブッシュ間に堆積した酸化スケールによって弁装置の冷機時にガイド部材とブッシュとの嵌合締め代が増加し、ブッシュが弁棒を締め付けることによって弁棒のスティック事象の発生を防止するようにした蒸気弁装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態によれば、弁ケーシング内の弁座に対向配置された弁体を駆動する弁棒と、前記弁ケーシングに固定された弁棒用ガイド部材と、前記弁棒用ガイド部材の内周部に嵌合配置されて前記弁棒を摺動可能に支持するブッシュとを備えた蒸気弁装置において、前記ブッシュの外周部に径方向に対して任意の傾斜角度を有する溝を設け、当該ブッシュの外周部を弾性変形可能にしたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態で採用したブッシュの機能を説明するための一部拡大断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態で採用したブッシュの一部拡大平面図。
【図5】図4に示したブッシュの正面図。
【図6】本発明の第3の実施形態で採用したブッシュの一部拡大断面図。
【図7】本発明の第5の実施形態を示す要部の拡大断面図。
【図8】従来技術における弁装置の組立時の各部の様子を示す図。
【図9】従来技術における弁装置の高温使用状態での各部の様子を示す図。
【図10】従来技術における弁装置の高温使用状態での酸化スケール発生の様子を示す図。
【図11】従来技術における弁装置の冷機状態での各部の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、各図を通して、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は適宜省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。
図1は本実施形態による蒸気弁装置の縦断面図、図2は本実施形態の主要部の拡大断面図、図3はブッシュの機能を説明するための一部拡大断面である。
【0020】
図1において、1は蒸気弁装置の弁ケーシングであり、図示左側上部に主蒸気入口部2を設け、また反対側の図示右側下部に主蒸気出口部3を設け、さらにこれら主蒸気入口部2および主蒸気出口部3間に弁室4を形成し、この弁室4内に弁座5を配置し、この弁座5に対して上下方向に接離可能に弁体6を配置している。この弁体6は、図示下面部を弁棒7の一端に固定されている。
【0021】
弁棒7の中間部は弁ケーシング1の下部開口部から弁室4の内部に突出するように形成されている筒状のガイド部材8に冷やし嵌め等の手段により嵌合した円筒状のブッシュ9によって摺動自在に支持されており、他端部は弁ケーシング1の下部に設置されている図示していない駆動部に連結されるようになっている。
【0022】
ここで、本実施形態の弁棒7およびブッシュ9の材料は、一般の高温蒸気弁装置と同様に互いに類似材料、例えばニッケル、クロム、鉄が主成分のNi基合金(例えば、インコロイ(登録商標))で形成されており、また、弁ケーシング1およびガイド部材8は弁棒7やブッシュ9よりも線膨張係数の大きな材料、例えば、フェライト系耐熱合金で形成されている。
【0023】
なお、本実施形態のブッシュ9については、詳細を後述するが、筒状のガイド部材8の内周面に嵌合する外周部分が弾性変形できるように、径方向(すなわち、円筒状ブッシュ9の軸方向に直交する方向)に対して任意の角度θだけ下向きに傾斜した環状の溝91を長手方向に複数列設けている。この溝91を長手方向に複数列設けた結果、ブッシュ9の外周部には環状の溝91相互間に櫛の歯の形状の接触片(以下、便宜上「歯」と呼ぶ)92が残存し、この歯92によってブッシュ9はガイド部材8の内周面に嵌合される。なお、溝91の底部は丸みをおびており、溝91相互間に残存する歯92が弾性変形しても歯92の付根にひびが入り難いようにしてある。
【0024】
図3は、本実施形態のブッシュ9の一部拡大断面図であり、実線はブッシュ9を高温の蒸気のもとで外周部を拘束せずに自由に膨張させたときの形状を示す。これに対して破線はブッシュ9とガイド部材8との線膨張係数の差により、ブッシュ9の歯92がガイド部材8の内周部によって外側に向かって膨張することを拘束されて下側に弾性変形した様子を示している。
ここで、δは歯92の弾性変形量、tは歯92の厚さ、θは溝91の傾斜角度、Dは溝91の内径寸法、Lは歯92の奥行き長さ(溝91の深さ)をそれぞれ表す。
【0025】
なお、以下のi〜ivの条件のもと、歯92の1枚あたりの弾性変形量δから歯92の厚さtを試算した結果を以下に示す。
i.溝の内径寸法(D) ・・・100mm、
ii.歯の奥行き長さ(L) ・・・10mm、
iii.歯の弾性変形量(δ) ・・・0.5mm(Maxブッシュ9の直径隙間の半分)、
iv.傾斜角度(θ) ・・・30度、
v.歯の厚さ(t) ・・・1mm、
【0026】
なお、諸条件を考慮すると、歯92の厚さtは5mm以下で1〜2mm程度が好ましい。また、歯92を弾性変形させるうえでは溝91の傾斜角度θは±90°以下の任意の角度を設定することができるが、好ましくは±45°以下、特に好ましくは±30°が望ましい。
【0027】
ところで、本実施形態の蒸気弁装置を組立てた状態では、筒状ガイド部材部8と、円筒状のブッシュ9および弁棒7の位置関係は概ね図2の拡大断面図で示すとおり、ガイド部材8の内周面とブッシュ9の外周面との間の嵌合面には間隙は無く、ブッシュ9と弁棒7間には前述した図10、11の酸化スケールSの発生を考慮した間隙Gが存在するような寸法関係になっている。
【0028】
前述したように、弁棒7およびブッシュ9の材料は、インコロイ(登録商標)等の鉄が主成分のNi基合金(例えば、)形成されており、弁ケーシング1およびガイド部材8は弁棒7やブッシュ9よりも線膨張係数が大きいフェライト系耐熱合金で形成されているため、本実施形態の蒸気弁装置の場合も従来の蒸気弁装置と同様に、使用時に高温蒸気が流入して弁全体が高温状態になると、それぞれの部材が共に熱膨張する。この場合、前掲の図9の如く、ブッシュ9の線膨張係数よりもガイド部材8の線膨張係数の方が大きいので、両者の線膨張係数の差からブッシュ9とガイド部材8との嵌合面に間隙Gが生じる。
【0029】
ブッシュ9とガイド部材8間に間隙Gが生じた状態において、高温雰囲気中での使用が継続されると、前掲の図10と同様にガイド部材8、ブッシュ9および弁棒7の各表面(内外表面の全ての面)に酸化スケールSが堆積する。
【0030】
ついで、前掲の図11と同様に酸化スケールSが堆積した状態で蒸気弁装置の使用を停止すると、蒸気弁装置全体が冷却され、それによって各部材は収縮する。このとき、ブッシュ9およびガイド部材8間に堆積した酸化スケールSの分だけガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加する。
【0031】
しかしながら、本実施形態によれば、ブッシュ9の外周面には任意の角度θだけ傾斜した環状の溝91を長手方向に複数列加工し、溝91相互間に接触片としての歯92をブッシュ9の外周面に残しているので、ブッシュ9の外周部は弾性体として機能する。
【0032】
このため、高温状態での弁装置の使用時に、ガイド部材8とブッシュ9間の間隙に酸化スケールSが堆積し、弁の冷機時に各部材が収縮するに伴い堆積した酸化スケール分、ガイド部材からブッシュに対する嵌合締め代が増加したとしても、ガイド部材8のブッシュ9に対する圧縮力は、ブッシュ9の外周部に施された歯92が弾性変形して緩和することからブッシュ9をその直径方向の中心に向かって圧縮する作用を惹き起こすことにならない。従って、弁棒7のスティックを防止することが可能となり、蒸気弁装置の弁棒7の円滑な動作を確保することができる。
【0033】
本実施形態は、上記のようにガイド部材8に嵌合するブッシュ9の外周部を弾性変形可能に構成したことに加えて、ガイド部材8とブッシュ9の両者の嵌合面に硬質合金を施すようにしてもよい。この場合、ガイド部材8とブッシュ9間に堆積する酸化スケールSの堆積量を軽減させることができるので、より一層弁棒7を円滑に動作させることが可能となる。
【0034】
また、本実施形態は、ガイド部材8に嵌合するブッシュ9の外周部を弾性変形可能に構成したことに加えて、弁棒7との摺接面となるブッシュ9の内周面に表面硬化処理層Cを形成し、この表面硬化処理層Cをコバルト基合金またはニッケル基合金からなる硬質合金の肉盛により形成するか、またはブッシュ9自体を硬質合金により一体に構成してもよい。
【0035】
また、前述したブッシュ9の内面の表面硬化処理層Cとして、500℃程度の温度環境下で処理される物理的蒸着法により、ケイ素(Si)、炭素(C)、チタン(Ti)、窒素(N)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)等の成分及びそれらの組合せたものを含む成分の保護皮膜Cを施すようにしてもよい。さらに、前述したブッシュ9の内面の表面硬化処理層Cとして、クロムカーバイド層などの熱処理による表面硬化処理を施すことも可能である。
【0036】
[第2の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9の外周部に環状の溝91を長手方向に沿って複数列設けることによって、溝91の相互間に残存している歯92が熱膨張差を吸収するように弾性変形するため、従来の蒸気弁装置に比べて、ブッシュに対する締め付け力を大幅に低減することができるが、もしも、ブッシュ9の歯92が弾性変形し難い場合には、図4および図5で示すように、歯92の円周方向に複数個の微細幅のスリット93を加工するようにしてもよい。
【0037】
このように歯92の円周方向に複数個の微細幅のスリット93を加工することによって前述した第1の実施形態よりも、より一層ブッシュ9外周部の歯92が弾性変形し易くなる。
【0038】
[第3の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9に施した溝91の傾斜角度θは、図示上部から下部に向かう向きであるが、図示とは逆方向の上部に向かって傾斜するようにしてもよい。すなわち、図2に示したブッシュ9を逆向きにしてガイド部材8に嵌合するようにしてもよい。
【0039】
また、図6で示すように、ブッシュ9を長手方向に複数個、例えば9A、Bに2分割し、その分割されたブッシュ9Aと9Bの溝91の傾斜角度が逆向きになるようにしてガイド部材8に嵌合してもよい。
この第3の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
[第4の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9に環状の溝91を軸方向に複数列設けるようにしたが、環状の溝91に替えて、螺旋状の傾斜溝(図示せず)を設けるようにしても良い。要はブッシュ9の外周部が弾性変形し易ければよい。
この第4の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0041】
[第5の実施形態]
以下、第5の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
図7は第5の実施形態を示す要部の拡大断面図であり、弁ケーシング1の内部に、弁棒部の蒸気をシールするガイド部材8が設けられている。
【0042】
前述した第1の実施形態では、弁棒7の外周面とブッシュ9の内面とが摺接面となっていたが、この第5の実施形態ではブッシュ9を省き、ガイド部材8の内周面に弁棒7を直接摺動可能として構成したものである。
【0043】
ガイド部材8の内周面には、表面硬化処理層Cとして、コバルト基合金またはニッケル基合金からなる硬質合金から成り、硬質合金の肉盛またはガイド部材8自体を硬質合金により一体に構成している。
【0044】
また、ガイド部材8の内面はその他の表面硬化処理層Cとして、500℃程度の温度環境下で処理される物理的蒸着法により、ケイ素(Si)、炭素(C)、チタン(Ti)、窒素(N)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)等の成分及びそれらの組合せたものを含む成分の保護皮膜を施すことも可能である。
【0045】
さらには、ガイド部材8の内面はその他の表面硬化処理層Cとして、クロムカーバイド層などの熱処理による表面硬化処理を施すことも可能である。
なお、弁棒7の外周面にも必要に応じて表面硬化処理層Cや保護皮膜Cを施すようにしてもよい。
【0046】
この第5の実施形態によれば、ブッシュ9を設けないため、ブッシュ9が弁棒7を締め付け、弁棒7のスティックを惹き起こすような不適合事象をなくすことができるため、弁棒7のスティックを防止することが可能となり、その得られる効果は大きい。
【0047】
以上説明したとおり、本発明の各実施形態によれば、蒸気弁の弁棒のガイド部材とブッシュの間に酸化スケールが堆積することを防ぐことができ、これによりブッシュの圧縮による弁棒のスティック事象の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0048】
1…弁ケーシング、2…蒸気入口、3…蒸気出口、4…弁室、5…弁座、6…弁体、7…弁棒、8…ガイド部材、9…ブッシュ、91…溝、92…歯、93…スリット、C…表面硬化処理層、保護皮膜、S…酸化スケール。
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蒸気タービンプラントなどに用いられる蒸気弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8乃至図11は従来技術における各部の状態変化を示す説明図であって、弁棒のスティック発生メカニズムを示す説明図である。
図8に示す高温蒸気弁装置の弁棒部では、弁棒7の移動を案内し、かつ摺動部の蒸気をシールする弁棒用ガイド部材(以下、ガイド部材)8の内側にブッシュ9を嵌合配置し、このブッシュ9の内周面で弁棒7を摺動させるように構成している。そして、弁棒部の組立時には図8に示すように、ブッシュ9とガイド部材8間には間隙が無く、ブッシュ9と弁棒7間には酸化スケールSの発生を考慮して間隙を設けている。この状態であれば、弁棒7はブッシュ9に拘束されることなく、スムーズに動作することが可能である。
【0003】
次に、使用時に高温蒸気が流入して弁装置全体が高温状態になると、図9に示すように、ガイド部材8およびブッシュ9それぞれの部材は共に熱膨張する。このとき、ブッシュ9とガイド部材8の材質が異なっている場合には、それぞれの線膨張係数の差から、ブッシュ9とガイド部材8との間に間隙が生じる。
【0004】
前述のごとく、ブッシュ9とガイド部材8との間に間隙が発生した状態で、高温雰囲気中での使用が継続されると、弁棒7、ブッシュ9およびガイド部材8の表面に図10に示すように、酸化スケールSが発生し、これが次第に堆積して間隙を埋めていくことになる。
【0005】
その後、酸化スケールSが堆積した状態で弁の使用を停止し、弁が冷却(弁の冷機時)されていくと、ガイド部材8、ブッシュ9の各部材が収縮し、に戻ろうとする力が働く。この場合、図8の状態に比べてブッシュ9とガイド部材8との間に堆積した酸化スケールSの分だけ、ガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加した状態となり、ブッシュ9をその直径方向の中心に向かって圧縮する作用を惹き起こすことになる。
【0006】
前述のごとく、ブッシュ9の内周面と弁棒7との間には酸化スケールSの堆積を考慮した間隙Gを設けてブッシュ9と弁棒7の固着を防止しているが、図11に示すように、弁装置の冷機時にブッシュ9が直径方向の中心に向かって圧縮され内径が収縮すると、さらにブッシュ9と弁棒7間の間隙Gが小さくなり、ブッシュ9が弁棒7を締め付け、弁棒7のスティックを惹き起こすことが懸念される。
【0007】
一方、高温高圧の蒸気のもとで用いられる蒸気弁装置は、可動する弁棒7とブッシュ9間の間隙Gは蒸気リークおよび弁棒7の振動抑制のために、できるだけ小さくする必要がある。
【0008】
このような問題に対処するため、例えば特許文献1では、前記ガイド部材8とブッシュ9の嵌合部に突起を設け、この突起を介して前記ガイド部材8とブッシュ9とを部分的に嵌合させるように構成した技術が開示されている。
また特許文献2では、前記ガイド部材8とブッシュ9の嵌合部において、ブッシュ9の外周面に耐酸化性の被膜を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−193404号公報
【特許文献2】特開平8−93407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、弁棒7はその強度、酸化スケールSの発生の防止を考慮して12Cr鋼等により形成され、さらに弁棒7を摺動支持するブッシュ9も弁棒7と同じ材料で形成されているが、ガイド部材8は弁ケーシング1との取り合いの関係で、弁ケーシング1と同じ低合金鋼で形成されているため、ブッシュ9とガイド部材8との間には、その線膨張係数の差から前記間隙が生じることになる。
【0011】
そこで、従来、ブッシュ9や弁棒7の材料を12Cr鋼から、ニッケル−クロム−鉄が主成分のNi基合金のインコロイ(登録商標)に換えたり、弁棒7の表面をステライト(登録商標)盛りするなど、弁棒7が高温蒸気に触れても酸化スケールが発生しないような対策が講じられているが、これらは全て弁棒7とブッシュ9との間の酸化スケールSの発生を防止しようとする対策にほかならない。
【0012】
近年、エネルギー問題等の観点から火力発電プラント及びその設備に対する高効率化が求められており、このような高効率化への需要の高まりを受け、蒸気温度600℃以上の火力発電プラントが建設され、更には蒸気温度700℃以上の火力発電プラントの検討が開始されている。
【0013】
このような蒸気温度の高温化に伴い、前記従来技術ではそのいずれもガイド部材8とブッシュ9の線膨張係数の差から高温状態での使用時に両者間に間隙が生じ、これに伴いガイド部材8とブッシュ9間に酸化スケールSが堆積し、これが弁の冷機時に各部材が収縮したとき、前記堆積した酸化スケールSの分、ブッシュ9を径方向の中心に向かって圧縮し、このためブッシュ9の内径が収縮し、ブッシュ9がその内面全体で弁棒7を締め付けることによって惹き起こされる弁棒7のスティック事象がますます顕著に発生するという問題がある。
【0014】
また、従来の弁ケーシング1やガイド部材8の材料として使用されてきた低合金鋼、特にそれがフェライト系耐熱鋼では600℃以上の蒸気温度条件下で使用した場合の酸化スケールの成長が特に顕著となることが知られており、ますますガイド部材8とブッシュ9間の酸化スケールSの堆積量が増加するという問題も懸念される。
【0015】
そこで、本実施形態は、弁の高温状態での使用時にガイド部材とブッシュ間に堆積した酸化スケールによって弁装置の冷機時にガイド部材とブッシュとの嵌合締め代が増加し、ブッシュが弁棒を締め付けることによって弁棒のスティック事象の発生を防止するようにした蒸気弁装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態によれば、弁ケーシング内の弁座に対向配置された弁体を駆動する弁棒と、前記弁ケーシングに固定された弁棒用ガイド部材と、前記弁棒用ガイド部材の内周部に嵌合配置されて前記弁棒を摺動可能に支持するブッシュとを備えた蒸気弁装置において、前記ブッシュの外周部に径方向に対して任意の傾斜角度を有する溝を設け、当該ブッシュの外周部を弾性変形可能にしたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す要部の拡大断面図。
【図3】本発明の第1の実施形態で採用したブッシュの機能を説明するための一部拡大断面図。
【図4】本発明の第2の実施形態で採用したブッシュの一部拡大平面図。
【図5】図4に示したブッシュの正面図。
【図6】本発明の第3の実施形態で採用したブッシュの一部拡大断面図。
【図7】本発明の第5の実施形態を示す要部の拡大断面図。
【図8】従来技術における弁装置の組立時の各部の様子を示す図。
【図9】従来技術における弁装置の高温使用状態での各部の様子を示す図。
【図10】従来技術における弁装置の高温使用状態での酸化スケール発生の様子を示す図。
【図11】従来技術における弁装置の冷機状態での各部の様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、各図を通して、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は適宜省略する。
【0019】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態について図1乃至図3を参照して説明する。
図1は本実施形態による蒸気弁装置の縦断面図、図2は本実施形態の主要部の拡大断面図、図3はブッシュの機能を説明するための一部拡大断面である。
【0020】
図1において、1は蒸気弁装置の弁ケーシングであり、図示左側上部に主蒸気入口部2を設け、また反対側の図示右側下部に主蒸気出口部3を設け、さらにこれら主蒸気入口部2および主蒸気出口部3間に弁室4を形成し、この弁室4内に弁座5を配置し、この弁座5に対して上下方向に接離可能に弁体6を配置している。この弁体6は、図示下面部を弁棒7の一端に固定されている。
【0021】
弁棒7の中間部は弁ケーシング1の下部開口部から弁室4の内部に突出するように形成されている筒状のガイド部材8に冷やし嵌め等の手段により嵌合した円筒状のブッシュ9によって摺動自在に支持されており、他端部は弁ケーシング1の下部に設置されている図示していない駆動部に連結されるようになっている。
【0022】
ここで、本実施形態の弁棒7およびブッシュ9の材料は、一般の高温蒸気弁装置と同様に互いに類似材料、例えばニッケル、クロム、鉄が主成分のNi基合金(例えば、インコロイ(登録商標))で形成されており、また、弁ケーシング1およびガイド部材8は弁棒7やブッシュ9よりも線膨張係数の大きな材料、例えば、フェライト系耐熱合金で形成されている。
【0023】
なお、本実施形態のブッシュ9については、詳細を後述するが、筒状のガイド部材8の内周面に嵌合する外周部分が弾性変形できるように、径方向(すなわち、円筒状ブッシュ9の軸方向に直交する方向)に対して任意の角度θだけ下向きに傾斜した環状の溝91を長手方向に複数列設けている。この溝91を長手方向に複数列設けた結果、ブッシュ9の外周部には環状の溝91相互間に櫛の歯の形状の接触片(以下、便宜上「歯」と呼ぶ)92が残存し、この歯92によってブッシュ9はガイド部材8の内周面に嵌合される。なお、溝91の底部は丸みをおびており、溝91相互間に残存する歯92が弾性変形しても歯92の付根にひびが入り難いようにしてある。
【0024】
図3は、本実施形態のブッシュ9の一部拡大断面図であり、実線はブッシュ9を高温の蒸気のもとで外周部を拘束せずに自由に膨張させたときの形状を示す。これに対して破線はブッシュ9とガイド部材8との線膨張係数の差により、ブッシュ9の歯92がガイド部材8の内周部によって外側に向かって膨張することを拘束されて下側に弾性変形した様子を示している。
ここで、δは歯92の弾性変形量、tは歯92の厚さ、θは溝91の傾斜角度、Dは溝91の内径寸法、Lは歯92の奥行き長さ(溝91の深さ)をそれぞれ表す。
【0025】
なお、以下のi〜ivの条件のもと、歯92の1枚あたりの弾性変形量δから歯92の厚さtを試算した結果を以下に示す。
i.溝の内径寸法(D) ・・・100mm、
ii.歯の奥行き長さ(L) ・・・10mm、
iii.歯の弾性変形量(δ) ・・・0.5mm(Maxブッシュ9の直径隙間の半分)、
iv.傾斜角度(θ) ・・・30度、
v.歯の厚さ(t) ・・・1mm、
【0026】
なお、諸条件を考慮すると、歯92の厚さtは5mm以下で1〜2mm程度が好ましい。また、歯92を弾性変形させるうえでは溝91の傾斜角度θは±90°以下の任意の角度を設定することができるが、好ましくは±45°以下、特に好ましくは±30°が望ましい。
【0027】
ところで、本実施形態の蒸気弁装置を組立てた状態では、筒状ガイド部材部8と、円筒状のブッシュ9および弁棒7の位置関係は概ね図2の拡大断面図で示すとおり、ガイド部材8の内周面とブッシュ9の外周面との間の嵌合面には間隙は無く、ブッシュ9と弁棒7間には前述した図10、11の酸化スケールSの発生を考慮した間隙Gが存在するような寸法関係になっている。
【0028】
前述したように、弁棒7およびブッシュ9の材料は、インコロイ(登録商標)等の鉄が主成分のNi基合金(例えば、)形成されており、弁ケーシング1およびガイド部材8は弁棒7やブッシュ9よりも線膨張係数が大きいフェライト系耐熱合金で形成されているため、本実施形態の蒸気弁装置の場合も従来の蒸気弁装置と同様に、使用時に高温蒸気が流入して弁全体が高温状態になると、それぞれの部材が共に熱膨張する。この場合、前掲の図9の如く、ブッシュ9の線膨張係数よりもガイド部材8の線膨張係数の方が大きいので、両者の線膨張係数の差からブッシュ9とガイド部材8との嵌合面に間隙Gが生じる。
【0029】
ブッシュ9とガイド部材8間に間隙Gが生じた状態において、高温雰囲気中での使用が継続されると、前掲の図10と同様にガイド部材8、ブッシュ9および弁棒7の各表面(内外表面の全ての面)に酸化スケールSが堆積する。
【0030】
ついで、前掲の図11と同様に酸化スケールSが堆積した状態で蒸気弁装置の使用を停止すると、蒸気弁装置全体が冷却され、それによって各部材は収縮する。このとき、ブッシュ9およびガイド部材8間に堆積した酸化スケールSの分だけガイド部材8のブッシュ9に対する嵌合締め代が増加する。
【0031】
しかしながら、本実施形態によれば、ブッシュ9の外周面には任意の角度θだけ傾斜した環状の溝91を長手方向に複数列加工し、溝91相互間に接触片としての歯92をブッシュ9の外周面に残しているので、ブッシュ9の外周部は弾性体として機能する。
【0032】
このため、高温状態での弁装置の使用時に、ガイド部材8とブッシュ9間の間隙に酸化スケールSが堆積し、弁の冷機時に各部材が収縮するに伴い堆積した酸化スケール分、ガイド部材からブッシュに対する嵌合締め代が増加したとしても、ガイド部材8のブッシュ9に対する圧縮力は、ブッシュ9の外周部に施された歯92が弾性変形して緩和することからブッシュ9をその直径方向の中心に向かって圧縮する作用を惹き起こすことにならない。従って、弁棒7のスティックを防止することが可能となり、蒸気弁装置の弁棒7の円滑な動作を確保することができる。
【0033】
本実施形態は、上記のようにガイド部材8に嵌合するブッシュ9の外周部を弾性変形可能に構成したことに加えて、ガイド部材8とブッシュ9の両者の嵌合面に硬質合金を施すようにしてもよい。この場合、ガイド部材8とブッシュ9間に堆積する酸化スケールSの堆積量を軽減させることができるので、より一層弁棒7を円滑に動作させることが可能となる。
【0034】
また、本実施形態は、ガイド部材8に嵌合するブッシュ9の外周部を弾性変形可能に構成したことに加えて、弁棒7との摺接面となるブッシュ9の内周面に表面硬化処理層Cを形成し、この表面硬化処理層Cをコバルト基合金またはニッケル基合金からなる硬質合金の肉盛により形成するか、またはブッシュ9自体を硬質合金により一体に構成してもよい。
【0035】
また、前述したブッシュ9の内面の表面硬化処理層Cとして、500℃程度の温度環境下で処理される物理的蒸着法により、ケイ素(Si)、炭素(C)、チタン(Ti)、窒素(N)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)等の成分及びそれらの組合せたものを含む成分の保護皮膜Cを施すようにしてもよい。さらに、前述したブッシュ9の内面の表面硬化処理層Cとして、クロムカーバイド層などの熱処理による表面硬化処理を施すことも可能である。
【0036】
[第2の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9の外周部に環状の溝91を長手方向に沿って複数列設けることによって、溝91の相互間に残存している歯92が熱膨張差を吸収するように弾性変形するため、従来の蒸気弁装置に比べて、ブッシュに対する締め付け力を大幅に低減することができるが、もしも、ブッシュ9の歯92が弾性変形し難い場合には、図4および図5で示すように、歯92の円周方向に複数個の微細幅のスリット93を加工するようにしてもよい。
【0037】
このように歯92の円周方向に複数個の微細幅のスリット93を加工することによって前述した第1の実施形態よりも、より一層ブッシュ9外周部の歯92が弾性変形し易くなる。
【0038】
[第3の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9に施した溝91の傾斜角度θは、図示上部から下部に向かう向きであるが、図示とは逆方向の上部に向かって傾斜するようにしてもよい。すなわち、図2に示したブッシュ9を逆向きにしてガイド部材8に嵌合するようにしてもよい。
【0039】
また、図6で示すように、ブッシュ9を長手方向に複数個、例えば9A、Bに2分割し、その分割されたブッシュ9Aと9Bの溝91の傾斜角度が逆向きになるようにしてガイド部材8に嵌合してもよい。
この第3の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
[第4の実施形態]
上述した第1の実施形態では、ブッシュ9に環状の溝91を軸方向に複数列設けるようにしたが、環状の溝91に替えて、螺旋状の傾斜溝(図示せず)を設けるようにしても良い。要はブッシュ9の外周部が弾性変形し易ければよい。
この第4の実施形態においても、前述した第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0041】
[第5の実施形態]
以下、第5の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
図7は第5の実施形態を示す要部の拡大断面図であり、弁ケーシング1の内部に、弁棒部の蒸気をシールするガイド部材8が設けられている。
【0042】
前述した第1の実施形態では、弁棒7の外周面とブッシュ9の内面とが摺接面となっていたが、この第5の実施形態ではブッシュ9を省き、ガイド部材8の内周面に弁棒7を直接摺動可能として構成したものである。
【0043】
ガイド部材8の内周面には、表面硬化処理層Cとして、コバルト基合金またはニッケル基合金からなる硬質合金から成り、硬質合金の肉盛またはガイド部材8自体を硬質合金により一体に構成している。
【0044】
また、ガイド部材8の内面はその他の表面硬化処理層Cとして、500℃程度の温度環境下で処理される物理的蒸着法により、ケイ素(Si)、炭素(C)、チタン(Ti)、窒素(N)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)等の成分及びそれらの組合せたものを含む成分の保護皮膜を施すことも可能である。
【0045】
さらには、ガイド部材8の内面はその他の表面硬化処理層Cとして、クロムカーバイド層などの熱処理による表面硬化処理を施すことも可能である。
なお、弁棒7の外周面にも必要に応じて表面硬化処理層Cや保護皮膜Cを施すようにしてもよい。
【0046】
この第5の実施形態によれば、ブッシュ9を設けないため、ブッシュ9が弁棒7を締め付け、弁棒7のスティックを惹き起こすような不適合事象をなくすことができるため、弁棒7のスティックを防止することが可能となり、その得られる効果は大きい。
【0047】
以上説明したとおり、本発明の各実施形態によれば、蒸気弁の弁棒のガイド部材とブッシュの間に酸化スケールが堆積することを防ぐことができ、これによりブッシュの圧縮による弁棒のスティック事象の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0048】
1…弁ケーシング、2…蒸気入口、3…蒸気出口、4…弁室、5…弁座、6…弁体、7…弁棒、8…ガイド部材、9…ブッシュ、91…溝、92…歯、93…スリット、C…表面硬化処理層、保護皮膜、S…酸化スケール。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁ケーシング内の弁座に対向配置された弁体を駆動する弁棒と、前記弁ケーシングに固定された弁棒用ガイド部材と、前記弁棒用ガイド部材の内周部に嵌合配置されて前記弁棒を摺動可能に支持する円筒状のブッシュとを備えた蒸気弁装置において、
前記ブッシュの外周部に径方向に対して任意の傾斜角度を有する溝を設け、当該ブッシュの外周部を弾性変形可能にしたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
前記ブッシュの外周部に設けた溝は、長手方向に複数列設けた環状溝または螺旋状溝であることを特徴とする請求項1記載の蒸気弁装置。
【請求項3】
前記ブッシュの外周部に設けた溝は、当該ブッシュの径方向に対して45°以下の傾斜角度を有することを特徴とする請求項1または2記載の蒸気弁装置。
【請求項4】
前記ブッシュの外周部に設けた溝の相互間に残存する歯状の接触片に対して、円周方向に沿って複数個のスリットを設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【請求項5】
前記ブッシュは、長手方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【請求項6】
複数個の前記ブッシュを、溝の傾斜角度が互いに逆向きとなるように前記ガイド部材に嵌合することを特徴とする請求項5記載の蒸気弁装置。
【請求項7】
前記ブッシュの内周面に保護皮膜処理層または表面硬化処理層を施したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【請求項1】
弁ケーシング内の弁座に対向配置された弁体を駆動する弁棒と、前記弁ケーシングに固定された弁棒用ガイド部材と、前記弁棒用ガイド部材の内周部に嵌合配置されて前記弁棒を摺動可能に支持する円筒状のブッシュとを備えた蒸気弁装置において、
前記ブッシュの外周部に径方向に対して任意の傾斜角度を有する溝を設け、当該ブッシュの外周部を弾性変形可能にしたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
前記ブッシュの外周部に設けた溝は、長手方向に複数列設けた環状溝または螺旋状溝であることを特徴とする請求項1記載の蒸気弁装置。
【請求項3】
前記ブッシュの外周部に設けた溝は、当該ブッシュの径方向に対して45°以下の傾斜角度を有することを特徴とする請求項1または2記載の蒸気弁装置。
【請求項4】
前記ブッシュの外周部に設けた溝の相互間に残存する歯状の接触片に対して、円周方向に沿って複数個のスリットを設けたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【請求項5】
前記ブッシュは、長手方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【請求項6】
複数個の前記ブッシュを、溝の傾斜角度が互いに逆向きとなるように前記ガイド部材に嵌合することを特徴とする請求項5記載の蒸気弁装置。
【請求項7】
前記ブッシュの内周面に保護皮膜処理層または表面硬化処理層を施したことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の蒸気弁装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−97592(P2012−97592A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243814(P2010−243814)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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