説明

蒸発源と蒸発方法

【課題】 真空蒸着装置のホットプレート型蒸発源に関し、蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止する。また、蒸発材料が蒸発源に固着し蒸発レートが変化するのを防止する。
【解決手段】 真空容器70内に略階段状に配置した複数の傾斜板30、40、50と、前記各傾斜板を加熱する加熱手段91、92、93と、前記最上段に位置する傾斜板30の上端側近傍に配設した蒸発材料供給ノズル10とからなり、蒸発材料81が前記各傾斜板の上面を流動する間に蒸発材料81を蒸発させる構成。また、予熱部廃棄部、メイン蒸発部、老廃物廃棄部の3つのゾーンと加熱手段とを備えたフード20A、20B、20Cを傾斜板の上方に配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELまたは有機部材からなる皮膜を備えたコンデンサ等を構成する蒸発材料を真空容器内で蒸発させる蒸発源とその蒸発方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空状態の蒸発室内に配設した蒸発源を傾斜させる構成として、例えば特開平08−335316号公報が提案されている。また、真空状態の蒸発室内で液状の蒸発材料を加熱した傾斜板に滴下する構成が特開2001−062376号公報の図4に例示されている。
【特許文献1】特開平08−335316号公報
【特許文献2】特開2001−062376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし特許文献1においては蒸発源として坩堝を使用しており、蒸発材料が坩堝表面を流動落下するものでない。特許文献2においては傾斜板を1つ用いるものの、加熱手段を備えた傾斜板を略階段状に離間して複数配設するものでない。
前記特許文献1において有機ELを構成する蒸発材料や一般的な樹脂部材を略水平や傾斜した状態で保持した場合、加熱と経時変化により蒸発材料の粘度が上がり次第に固まっていく。傾斜している場合は一方向に偏って固まっていく。そして、経時とともに蒸発材料の蒸発レートが小さくなり、ついには蒸発材料が蒸発源上で固まって蒸発しなくなる恐れがある。
特許文献2においても傾斜板上で蒸発材料がわずかずつ残留し、蒸発材料の蒸発レートが変化する恐れがある。そして、ついには蒸発材料が蒸発源上で固まって蒸発しなくなる恐れがある。
【0004】
本発明は、真空状態の蒸発室内(真空容器内)に略階段状に配置した複数の傾斜板を用い該傾斜板上に滴下した蒸発材料を複数の傾斜板を流動する間に蒸発させることにより、蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止することを目的とする。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。さらに、真空状態の蒸発室内に離間して配置した複数の傾斜板により複数の蒸発材料を効率よく蒸発させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる第一の蒸発源は、真空容器内に離間して配置した複数の傾斜板と、前記複数の傾斜板をそれぞれ加熱する加熱手段と、少なくとも一つの前記傾斜板の上端側近傍に配設した蒸発材料供給ノズルとからなり、前記蒸発材料が前記傾斜板の上面を流動する間に前記蒸発材料が蒸発する構成とするのが好ましい。これにより複数の蒸発材料を効率よく蒸発させることができる。(請求項1)
【0006】
さらに本発明にかかる前記第一の蒸発源において、各傾斜板の加熱温度を異ならせ、各傾斜板で蒸発材料が異なる構成とするのが好ましい。これにより異なる蒸発材料を効率よく蒸発させることができる。 (請求項2)
【0007】
さらに本発明にかかる前記第一の蒸発源において、各傾斜板の傾斜角度を可変に構成するのが好ましい。これにより蒸発材料の最適蒸発レートを容易に求められる。(請求項3)
【0008】
さらに本発明にかかる第一の蒸発方法において、真空容器内に配設した複数の傾斜板の温度をそれぞれ異ならせ、前記複数の傾斜板の上端側に粘度が5,000CP〜15,000CP(センチポイズ)の蒸発材料を滴下供給し、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板上を流動する間に蒸発させ、前記複数の傾斜板と対向配置した基板に成膜する構成とするのが好ましい。これにより各種蒸発材料を均質に効率よく蒸発させることができる。蒸発材料を広範囲の面積にわたって同時に蒸発させることができる。(請求項4)
【0009】
本発明にかかる第二の蒸発源は、真空容器内に略階段状に配置した複数の傾斜板と、前記複数の傾斜板を加熱する加熱手段と、最上段に位置する前記傾斜板の上端側近傍に配設した蒸発材料供給ノズルとからなり、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板の上面を流動する間に前記蒸発材料が蒸発する構成とするのが好ましい。これにより蒸発材料を複数段の傾斜板で蒸発させることにより蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止できる。(請求項5)
【0010】
さらに本発明にかかる前記第二の蒸発源において、略階段状に配置した3つの傾斜板からなり各傾斜板の加熱温度を上段、中段、下段で異ならせた構成とするのが好ましい。これにより蒸発材料を上段、中段、下段の3つの傾斜板で順次蒸発させることにより、蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。(請求項6)
【0011】
さらに本発明にかかる前記第二の蒸発源において、蒸発材料供給ノズルは、管の先端部を進退自由な栓で閉蓋するとともに、前記管の壁面に複数の開孔を配設し、前記栓を進退させて所望の数の孔だけ開口することにより蒸発材料の滴下量を制御可能にした構成とするのが好ましい。これにより蒸発材料の滴下量を所望に設定できる。(請求項7)
【0012】
さらに本発明にかかる前記第二の蒸発源において、予熱部廃棄部、メイン蒸発部、老廃物廃棄部の3つのゾーンと、加熱手段または冷却手段の内少なくとも一方とを備えてなるフードを傾斜板の上方に配設した構成とするのが好ましい。これにより蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止できる。また、蒸発材料が被蒸着基板に再付着するようにしたり、または再付着を防止したりできる。(請求項8)
【0013】
さらに本発明にかかる第二の蒸発方法において、複数の傾斜板を略階段状に配設し、最上段の前記傾斜板上端側に蒸発材料を滴下供給し、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板上を流動する間に蒸発させ、前記傾斜板と対向配置した基板に成膜する構成とするのが好ましい。これにより蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。(請求項9)
【0014】
さらに本発明にかかる前記第二の蒸発方法において、蒸発材料を傾斜板に供給する際、前記蒸発材料の粘度を5,000CP〜15,000CP(センチポイズ)の範囲とするのが好ましい。これにより上段、中段、下段の略階段状に3つの傾斜板を配設した場合にも、最上段から最下段の傾斜板に至るまで前記蒸発材料を確実に流動させられる。(請求項10)
【発明の効果】
【0015】
上記構成により本発明の蒸発源は複数の蒸発材料を同時にまたは異なるタイミングで蒸発させることができる。また、異なる蒸発材料を効率よく蒸発させることができる。さらに、傾斜板毎に蒸発材料の蒸発レートを変えられる。
さらに、上段、中段、下段の3つの傾斜板で順次、一つの蒸発材料を蒸発させることにより、蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板に蒸着されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる蒸発源は上述の通りである。本発明で蒸発させる蒸発材料(膜形成物質)は例えば、有機系のエレクトロルミネッセンス(EL)素子における発光膜を構成する物質を採用できる。EL素子における発光膜は、通常、正孔輸送膜と、電子輸送膜と、正孔輸送膜及び電子輸送膜で挟まれる発光体膜とを備えている。従って、膜形成物質としては、正孔輸送膜を構成する物質、電子輸送膜を構成する物質、発光体膜を構成する物質の少なくとも1種を採用できる。正孔輸送膜を構成する物質としては、従来と同様に、トリフェニルジアミン誘導体等のアミン誘導体、(ジ)スチリルベンゼン誘導体等のジ(トリ)アゾール誘導体、ナフタセン誘導体等を採用できる。電子輸送膜を構成する物質としては、従来と同様に、ポリシラン、アルミキノリノール錯体等がある。発光膜を構成する物質としては、従来と同様に、ジスチリルビフェニル誘導体、アルミキノリノール錯体等を採用できる。
【0017】
有機発光材料の一例を上術したが詳しくは、「光電子機能有機材料ハンドブック(第2刷)、朝倉書店発行」396〜398頁に記載されている電子輸送性発光材料(表III.2.32)、同398〜399頁に記載されているホール輸送性発光材料(表III .2.33)、同399〜400頁に記載されている三層構造素子における発光材料、および同403〜404頁に記載されている単層型素子の発光材料(表III .2.36)などを挙げることができる。また、発光色を調整するために有機材料に蛍光色素をドーピングすることもできる。実用的な発光効率を得るために、有機発光層の厚さは通常10nm〜1μm好ましくは10〜200nmの範囲である。
カラー表示を目的とする有機膜を形成する物質は3色独立発光方式の場合、赤色発光用の物質、緑色発光用の物質、青発光用の物質との組み合わせで構成される。
【0018】
本発明方法で用いられる代表的な被蒸着基板は、透光ガラス基板、透光プラスチック基板、金属基板などとするのが好ましい。
被蒸着基板、蒸発材料供給ノズル、蒸発材料貯蔵タンク、傾斜板、フード等の加熱手段としては抵抗加熱ヒータたとえばシーズヒータ、カートリッジヒーター等を採用できる。例えばシーズヒータを所望に配列したホットプレートを本発明の蒸発源を構成する傾斜板とするのが好ましい。
なお、加熱手段は熱伝導で加熱する方式でも、熱輻射で加熱する方式でも、高エネルギビームで加熱する方式でも良い。従って加熱手段としては、高エネルギビーム照射装置たとえばレーザビーム照射装置、電子ビーム照射装置、強磁性体を誘導加熱する誘導加熱装置等を採用できる。
【0019】
蒸発材料を滴下し蒸発させる前記傾斜板の設定温度は室温〜500℃程度の範囲とするのが好ましい。例えば上段、中段、下段の略階段状に3つの傾斜板を配設し、上段の傾斜板に一つの液状材料を滴下し、上段、中段、下段の3つの傾斜板上を流動させて蒸発させる場合、上段の傾斜板温度を200℃±1℃、中段の傾斜板温度を250℃±1℃、下段の傾斜板温度を270℃±1℃などに設定するのが好ましい。なお、前記一つの液状材料は一種類の材料構成であってもよいし、複数種の材料が調製されていてもよい。
【0020】
さらに、蒸発材料供給ノズルから滴下して供給する蒸発材料の粘度は5,000CP(センチポイズ)〜15,000CP程度の範囲とするのが好ましい。例えば上段、中段、下段の略階段状に3つの傾斜板を配設し、上段の傾斜板に一つの液状材料を滴下、蒸発させる場合、液滴が下段の傾斜板の最終端まで流動する粘度に調製するのが好ましい。粘度が高いと各傾斜板の上面途中で固着してしまう恐れがある。
【0021】
蒸発材料を蒸発材料供給ノズルから滴下して傾斜板へ供給する時点の粘度は前述の通りである。溶剤、水等を用い所定の粘度に予め調製したものを貯蔵タンクに貯蔵しておき、ポンプ等を介して供給ノズルから滴下させるようにしてもよい。また、蒸発材料を溶剤で希釈、調製しない場合は貯蔵タンク、供給ノズル等で予め蒸発材料を予熱して液状化し、ノズル出口における蒸発材料の粘度が前述の所望粘度になるようにするのが好ましい。
【0022】
なお、蒸発材料の液滴粘度や滴下量に応じて傾斜板の温度を任意設定してよいことは自明である。例えば3種類の異なる蒸発材料を蒸発させる場合、蒸発材料の粘度が5,000CP(センチポイズ)の場合は傾斜板温度を200℃に、粘度が8,000CPの場合は傾斜板温度を250℃に、粘度が15,000CPの場合は傾斜板温度を300℃等に設定することができる。また、蒸発材料の滴下量は任意に設定してよい。例えば、毎分10〜500μl、さらには毎分200〜300μlとするのが好ましい。
【0023】
蒸発材料を滴下する傾斜板の上面は平板状または樋の様な凹面状など任意の形状としてよい(円弧状の凹面、コの字を90度横に向けた凹面など)。また、蒸発材料も任意の部材としてよいことも自明である。蒸発材料の供給形態は粉末状、線状、棒状、膜状、液状など任意であるが、加熱した傾斜板を用い蒸発させる場合は液状とするのが好ましい。
傾斜板の傾斜角度は任意に設定可能な可変手段を構成するのが好ましい。例えば回転駆動軸を傾斜版の側面中央部に挿通固定し、該回転駆動軸を回動可能に支承する構成とするのが好ましい。(図1における符号36、45、55参照)
【0024】
複数の傾斜板を略階段状に配設した場合、蒸発材料を供給する形態は任意に実施すればよい。例えば、一つの蒸発材料を最上段の傾斜板に供給し、順次、中段、下段の傾斜板へと流動させて蒸発させる方法、または、略階段状に配設した上段、中段、下段の各傾斜板ごとに異なる蒸発材料を供給する方法などとしてもよい。
【0025】
真空蒸着の条件は特に限定されないが、真空蒸着装置の蒸発室内は高真空雰囲気の10-3〜10-5Pa程度に設定するのが好ましい。そして、蒸発材料の蒸着速度は0.01〜1nm/sec 程度とすることが好ましい。また、真空中で連続して各層を形成することが好ましい。真空中で連続して形成すれば、各層の界面に不純物が吸着することを防げるため、高特性が得られる。また、有機EL素子の駆動電圧を低くしたり、ダークスポットの成長・発生を抑えたりすることができる。
これら各層の形成に真空蒸着法を用いる場合において、1層に複数の化合物を含有させる場合、化合物を滴下蒸発させる傾斜板を個別に温度制御して共蒸着してもよい。
【0026】
液状の蒸発材料をノズルで供給する手段は滴下方式、スプレー方式、押し出しポンプ方式等とするのが好ましい。また、液状の蒸発材料を滴下させるノズル材質及び傾斜板の材質はステンレス鋼など耐食性を備えた部材とするのが好ましい。そして、前記ノズルは任意の形状に構成してよい。
【0027】
本発明における蒸発源は、蒸発領域や蒸発レートを規制するフードを前記傾斜板の上方に配設するのが好ましい。前記フードは被蒸着基板に成膜するメイン蒸発部、予熱部廃棄部、老廃物廃棄部の3つのゾーンを備え、さらに、水冷手段及び加熱手段を併せて備えた構成とするのが好ましい。フードの水冷手段は、蒸発材料が被蒸着基板に再付着するのを防止したい場合に実施するのが好ましい。逆に、蒸発材料が被蒸着基板に付着するのを加速したい場合は、蒸発材料の融点温度以上にフードを加熱するのが好ましい。フードの加熱手段はたとえばマイクロシーズヒータ等を備えた構成とするのが好ましい。フードの加熱温度はRT(室温)〜300℃程度とするのが好ましい。フードの材質は例えば、厚さ1mm程度のステンレス鋼とするのが好ましい。
【0028】
有機皮膜を形成する蒸発材料は溶剤に溶解し、所定粘度の液状で前記加熱した傾斜板の上面に滴下、蒸発させることは前述した。溶剤は特に制限はなく、ホール輸送材料、オルトメタル化錯体、ホスト化合物、ポリマーバインダー等の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、ハロゲン系溶剤(クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、n-プロピルメチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族系溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、炭酸ジエチル等)、エーテル系溶剤(テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、アミド系溶剤(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、水等が挙げられる。有機皮膜を形成する液状材料において固形分量は特に制限はなく、その粘度も任意に選択することができる。
【0029】
なお、有機EL素子を構成する陽電極層はスパッタリング法とフォトリソグラフィー法により形成される。陽電極層の材料としては、金などの金属、もしくは、CuI、ITO(インジウムチンオキシド)、SnO2 、ZnOなどの電気伝導性透明材料などが一般に用いられる。陽電極層の厚さは、材料にもよるが、通常は、10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲内にある。
陰電極層の材料としては、Na、K、Mg、Li、In、希土類金属、Na・K合金、Mg・Ag合金、Mg・Cu合金、Al・Li合金、Al/Al23混合物が一般に用いられる。陰電極層の厚さは、材料にもよるが、通常10nm〜1μm、好ましくは50〜200nmの範囲内にある。
【実施例1】
【0030】
以下、本発明の一実施例における蒸発源を図面とともに説明する。図1は本発明の一実施例における蒸発源を備えた真空蒸着装置の概念の側面図、図2は図1においてS1―S1方向から見た蒸発源の要部平面図、図3は図2を切断線S2―S2で切断した要部断面図、図4は本発明の蒸発源を構成するもう一つの傾斜板の要部断面図、図5は本発明の蒸発源を構成するもう一つの傾斜板の要部断面図、図6は本発明の蒸発源を構成するもう一つの蒸発材料供給ノズルの要部断面図を示す。
【0031】
図1〜図3において真空蒸着装置示100は10-5Pa程度の真空状態の真空容器70と、蒸発源200を構成する3つの傾斜板30、40、50と、被蒸着基板60と、蒸発材料供給ノズル10と、蒸発材料の蒸発成分を分別し規制するフード20A、20B、20Cと、廃材受け部75と、真空容器70に連通する真空排気ポンプ71とを配設してなる。
蒸発材料81は貯蔵タンク80からポンプ85により吸い上げられ傾斜板30の上端側上面部に所定量ずつ滴下供給される。前記蒸発材料供給ノズル10と傾斜板30、40、50とは各々加熱手段91、92、93、95を備えている。また、被蒸着基板60も加熱手段94により所望温度に加熱される。
【0032】
本発明における蒸発源200は前述のごとく上段、中段、下段の略階段状に3つの傾斜板30、40、50を配設した。上段の傾斜板30温度を、蒸発材料に含まれる希釈溶剤、余分な成分(不純物)を蒸発させるのに有効な200℃±1℃に、中段の傾斜板40の温度を蒸発材料(メインの成膜材料)の分子が気体になる250℃±1℃に、下段の傾斜板50の温度を傾斜板50にこびりついた蒸発材料(または老廃物等)を蒸発させる270℃±1℃に設定した。各傾斜板30、40、50の上面は図3に示すごとく平板面31とした。また、図2に示すごとく上段から下段の傾斜板へ順次幅を広くし液滴の拡散に対応させた。
【0033】
蒸発材料は発光材料のキレート錯体化合物である低分子材料のAlq3(アルミキノリール三量体錯体、約0.5wt%)に潤滑材のフォブリン(登録商標)(約15wt%)を加えたものを有機溶剤(メタノール等)で粘度5,000cp程度に調製した。前記調製部材を最上段の傾斜板30上方に配置したステンレス製ノズル10から毎分250μl程度の割合で傾斜板30の上端側上面に滴下供給した。
最上段の傾斜板30を流れ落ちた前記蒸発材料は順次、中段、下段の傾斜板40、50へと引き続き流動し、所望に蒸発させた。蒸着速度は0.2nm〜1 nm/secにより約40nm〜200nm成膜し、発光層とした。
【0034】
また、本発明の蒸発源200は蒸発領域や蒸発成分(または蒸発レート)を規制するフード20(20A、20B、20Cからなる。)を前記傾斜板の上方に配設した。前記フード20は予熱部廃棄部、被蒸着基板60に成膜するメイン蒸発部、老廃物廃棄部の3つのゾーンを備え、前記フード20に配設したマイクロシーズヒータ等(図示せず)により90℃程度に加熱されている。なお、フード20は前述したごとく、加熱手段に加えて水冷手段を備えているのが望ましい。(図示せず)
【0035】
上記のごとく複数段の傾斜板を用い一つの蒸発材料を蒸発させることにより、蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板60に成膜されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。
なお、本発明の蒸発源200は下段の傾斜板50の下端側近傍に蒸発材料の廃材を受ける廃材受け部75を配設した。これにより真空容器70外への廃材の排出処理が容易になる。
【実施例2】
【0036】
実施例1と同様の真空蒸着装置と蒸発源を用いた。上段の傾斜板30の温度を200℃±1℃、中段の傾斜板40の温度を250℃±1℃、下段の傾斜板50の温度を270℃±1℃に設定した。各傾斜板30、40、50の上面は図4に示す凹面32とした。
蒸発材料はPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)とした。PEDOTは可水溶性で、ITO電極面上に膜形成させることで凹凸を滑らかにすることができる。
発光層を形成するPEDOTを水または有機溶剤(メタノールなど)で粘度8,000cp程度に調製し、最上段の傾斜板30上方に配置したステンレス製ノズル10により毎分250μl程度の割合で滴下した。
最上段の傾斜板30に続き順次、中段、下段の傾斜板40、50へとPEDOTを流動させて蒸発させた。蒸着速度は0.2nm〜1 nm/secにより約40nm〜200nm成膜した。
【0037】
この場合も蒸発領域や蒸発レートを規制するフードを前記傾斜板の上方に配設した。前記フードは被蒸着基板に成膜するメイン蒸発部、予熱部廃棄部、老廃物廃棄部の3つのゾーンを備え、前記フードに配設したマイクロシーズヒータにより90℃程度に加熱した。
これにより1つの蒸発材料を複数段の傾斜板で蒸発させることにより蒸発材料中に含まれた余分な成分、分解物、溶剤、ガス等が被蒸着基板60に成膜されるのを防止できる。さらに、蒸発材料の蒸発レートが変化したり固まったりするのを防止する。
【実施例3】
【0038】
実施例1と同様の真空蒸着装置と3つの傾斜板を用いた。上段の傾斜板30の温度を200℃±1℃、中段の傾斜板40の温度を250℃±1℃、下段の傾斜板50の温度を270℃±1℃に設定した。各傾斜板30、40、50の上面は図3に示す平板面31とした。蒸発材料はAlq3(アルミキノリール三量体錯体、約0.5wt%)とした。Alq3が図6に示す供給ノズル610を通過する過程で溶融状態になるようバンドヒータ等の加熱手段613で予熱し、ノズル開孔615を滴下する際のAlq3粘度を5,000cp程度の液状とした。前記液状の蒸発材料を最上段の傾斜板30上方に略平行に配置したステンレス製供給ノズル610の底側管壁に配設した3つの開孔615から毎分250μl程度の割合で傾斜板30の上端側上面に滴下供給した。
【0039】
前記ノズルは任意の形態に構成してよいことは自明である。例えば図6に示すように、管(パイプ)611の先端部を進退自由な丸棒の栓612で閉蓋するとともに、該管端の近傍壁面に複数の開孔615を所定の間隔に配設し、前記栓612を進退させて所望の数の孔だけ開口するようにしてもよい。これにより蒸発材料の滴下量を制御できる。栓612の固定は例えば締結ネジ614により行えばよい。
【0040】
最上段の傾斜板30を流れ落ちた前記蒸発材料は順次、中段、下段の傾斜板40、50へと引き続き流動し、所望に蒸発させた。蒸着速度は0.2nm〜1 nm/secにより約40nm〜200nm成膜し、発光層とした。
【0041】
この場合も蒸発領域や蒸発レートを規制するフードを前記傾斜板の上方に配設した。前記フードは被蒸着基板に成膜するメイン蒸発部、予熱部廃棄部、老廃物廃棄部の3つのゾーンを備え、前記フードに配設したマイクロシーズヒータにより90℃程度に加熱した。
なお、該フードは前述したごとく、加熱手段に加え水冷手段を備えていてもよい。
【0042】
なお上記実施例において、略階段状に配設した上段、中段、下段の各傾斜板にそれぞれ個別にノズルを配設し、それぞれ異なる蒸発材料を異なるタイミングで供給し、効率よく蒸発させるようにしてよい。
さらに、略階段状に配設した傾斜板が行列(マトリクス)を形成するごとく複数列並べてもよい。勿論、略階段状に複数の傾斜板を配設することに代え、各傾斜板をマトリクス状に配設してもよい。
【0043】
さらに、図5に示すごとく一つの傾斜板250の上面側に3つの平面レーン230、231、232を配設し、各レーンごとに蒸発材料供給ノズル210、211、212を配設するようにしてもよい。これにより大面積の被蒸着基板に効率よく均一に成膜できる。勿論、ノズルごとに異なる蒸発材料を滴下させるようにしてよいことも自明である。その場合、蒸発材料の滴下タイミングをずらせてもよい。さらに、各レーンごとに加熱手段291の設定温度を異ならせてよいことも自明である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかる蒸発源は、有機ELを構成する正孔注入材料、発光材料、電子注入材料だけでなく、各種透明電極材料、各種金属材料、各種樹脂、各種潤滑材等の蒸発に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例における蒸発源を備えた真空蒸着装置の概念の側面図
【図2】図1においてS1―S1方向から見た蒸発源の要部平面図
【図3】図2を切断線S2―S2で切断した要部断面図
【図4】本発明の蒸発源を構成するもう一つの傾斜板の要部断面図
【図5】本発明の蒸発源を構成するもう一つの傾斜板の要部断面図
【図6】本発明の蒸発源を構成するもう一つのノズルの要部断面図
【符号の説明】
【0046】
10、210、211、212、610 ノズル
20A、20B、20C フード
30、40、50、35、250 傾斜板
36、45、55 回転駆動軸
60 被蒸着基板
70 真空容器
71 排気ポンプ
75 廃材受け部
80 貯蔵タンク
81 蒸発材料
85 供給ポンプ
91、92、93、94、95、291、613 加熱手段
100 真空蒸着装置
200 蒸発源
230、231、232 レーン
611 管(パイプ)
612 栓
614 締結ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に離間して配置した複数の傾斜板と、前記複数の傾斜板をそれぞれ加熱する加熱手段と、少なくとも一つの前記傾斜板の上端側近傍に配設した蒸発材料供給ノズルとからなり、前記蒸発材料が前記傾斜板の上面を流動する間に前記蒸発材料が蒸発することを特徴とする蒸発源。
【請求項2】
各傾斜板の加熱温度を異ならせたことを特徴とする請求項1記載の蒸発源。
【請求項3】
各傾斜板の傾斜角度を可変としたことを特徴とする請求項1記載の蒸発源。
【請求項4】
真空容器内に配設した複数の傾斜板の温度をそれぞれ異ならせ、少なくとも一つの前記傾斜板の上端側に粘度が5,000CP〜15,000CP(センチポイズ)の蒸発材料を滴下供給し、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板上を流動する間に蒸発させ、前記複数の傾斜板と対向配置した基板に成膜することを特徴とする蒸発方法。
【請求項5】
真空容器内に略階段状に配置した複数の傾斜板と、前記複数の傾斜板をそれぞれ加熱する加熱手段と、最上段に位置する前記傾斜板の上端側近傍に配設した蒸発材料供給ノズルとからなり、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板の上面を流動する間に前記蒸発材料が蒸発することを特徴とする蒸発源。
【請求項6】
略階段状に配置した3つの傾斜板からなり各傾斜板の加熱温度を上段、中段、下段で異ならせたことを特徴とする請求項5記載の蒸発源。
【請求項7】
蒸発材料供給ノズルは、管の先端部を進退自由な栓で閉蓋するとともに、前記管の壁面に複数の開孔を配設し、前記栓を進退させて所望の数の孔だけ開口することにより蒸発材料の滴下量を制御可能にしたことを特徴とする請求項5記載の蒸発源。
【請求項8】
予熱部廃棄部、メイン蒸発部、老廃物廃棄部の3つのゾーンと、加熱手段または冷却手段の内少なくとも一方とを備えてなるフードを傾斜板の上方に配設したことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の蒸発源。
【請求項9】
複数の傾斜板を略階段状に配設し、最上段の前記傾斜板上端側に蒸発材料を滴下供給し、前記蒸発材料が前記複数の傾斜板上を流動する間に蒸発させ、前記傾斜板と対向配置した基板に成膜することを特徴とする蒸発方法。
【請求項10】
蒸発材料を傾斜板に供給する際、前記蒸発材料の粘度を5,000CP〜15,000CP(センチポイズ)の範囲としたことを特徴とする請求項9記載の蒸発方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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