説明

蒸着物質を蒸着する方法

本発明は、気化物質を母材に蒸着する方法、特に、半導体物質をドープするための方法に関する。上記方法によると、一定量の気化物質(2)の電荷がエンベロープ(3)を用いて気密的に密封されている気化電荷(vaporizing charge)(1)が、気化チャンバーに導入される。そして、気化物質が、その後気化チャンバー中で気化し、母材に蒸着されるように、エンベロープ(3)は加熱及び/または減圧により開けられる。本発明は、さらに、上述の気化電荷(1)の製造方法および気化電荷(1)に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、蒸着物質を母材に蒸着する方法、特に、半導体物質をドープする方法に関する。本発明は、蒸着バッチ、及び上記蒸着バッチの製造方法にも関する。
【0002】
〔背景技術〕
現在、高度技術分野で用いられる多くの新しい物質は、物質を取り巻く雰囲気、すなわち、例えば、空気及び水蒸気に敏感に反応する。一つの例として、例えば、有機発光ダイオード(organic light-emitting diode (OLED))のような有機電子部品に用いられる物質がある。
【0003】
Tangらによる、低操作電圧の実験(C.W. Tang et al., Appl. Phys. Lett. 51(12), 913(1987)を参照)以来、OLEDは、新しい発光及び表示素子の製造のための候補であることを約束されてきた。OLEDは、一連の有機物質の薄層を含むが、この有機物質の薄層は、真空で蒸着により好適に塗布される、またはスピンオン蒸着(spin-on deposition)により重合体の形で(in their polymeric form)好適に塗布される。金属層によって電気的に接触させた後、有機物質の薄層は、例えば、ダイオード、発光ダイオード、またはフォトダイオードのような広範囲の電子部品もしくは光電子部品を形成する。上記有機薄層は、トランジスタを製造するためにも用いることができる。これらの有機部品は、無機層に基づく既存の部品と競合する。
【0004】
有機発光ダイオードの場合、外部からの電圧付加、その後の活性領域でのエキシトン(電子/と正孔のペア)の形成、及び上記のエキシトンが発光のために再結合した結果として、接触点から発生する電荷担体(すなわち、一方の側からの電子、及び、もう一方の側からの正孔)の隣接する有機層中への注入により光が発生し、上述の光は発光ダイオードから発せられる。
【0005】
従来の無機層に基づく部品、例えば、シリコンもしくはヒ化ガリウムのような半導体に優る有機層に基づく部品の利点は、実際に、非常に大きな表面積を有する素子、すなわち、スクリーンまたは表示板のような大きな表示素子を製造することができることにある。有機出発物質は、無機物質と比較して、比較的安価である。さらに、無機物質と比較して、処理温度がより低いため、上記有機出発物質は、可とう性基板に塗布することができる。そのような可とう性基板は、ディスプレー技術及び照明技術の分野で非常に多くの新しい応用の可能性を開く。
【0006】
米国特許第5,093,698号公報では、ピン型の有機発光ダイオードが記載されており、当該ピン型の有機発光ダイオードは、ドープされた電荷担体運搬層を有する有機発光ダイオードである。特に、電極として形成される2つの接点の間に位置する3層の有機層が用いられる。上述の公報において、n−ドープ層及びp−ドープ層は、電荷担体の注入、及び正孔と電子との両方が付随してドープ層へ移動することを改善する。電子と正孔との効率的な再結合を確実にするために、HOMO(“最高被占軌道”)及びLUMO(“最低空軌道”)のエネルギーレベルは、両タイプの電荷担体が発光領域で“補足される”ように好適に選択される。発光層及び/または電荷担体運搬層に対するイオン化ポテンシャル/電子親和性を適切に選択することにより、発光領域への電荷担体の注入が制限される。上記発光層は、蛍光発光ドーパントまたはリン光発光ドーパントでドープ可能である。
【0007】
米国特許第5,093,698号公報からわかる構成材は、接触点から有機層への電荷担体の注入を大いに改善する。ドープ層の高伝導率により、OLEDの稼動中にドープ層で起こる電圧降下がさらに軽減される。それ故に、ドープされていない構造と比較して、ドープされた部品は、所望の光濃度を得るために非常に低い操作電圧しか必要としなくなる。
【0008】
特に、上記電子運搬層のドーパントは、酸素及び水蒸気に対して非常に感受性がある。ドーパント分子は、n−ドーピングの場合に非常に強力な供与体(donor)であるので、ドーパント分子は、たとえ室温であっても周囲の空気と少なくとも一部は反応し、その後、OLEDで機能することができなくなる、または少なくとも完全には機能することができなくなる。これは、セシウムのような無機n−ドーパント及びデカメチルコバルトセン(decanethylcobaltocene)のような有機n−ドーパントの両方に当てはまる。
【0009】
発光ドーパントも空気中の酸素や水蒸気と室温で反応することが知られており、その結果として、OLEDの性能が低下し、場合により発光スペクトルがシフトする。そのような反応性物質の一例として、リン光発光体であるトリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)がある。しかし、有機部品に用いられる他の物質も、室温で周囲の雰囲気と反応することができる。
【0010】
これは、室温で周囲の雰囲気と反応するような物質は、有機部品の製造中及び一旦製造が終了しても周囲の空気から保護されなければならないことを意味する。そのような有機部品は、製造後に、例えば、いわゆる薄層カプセル封入、または、ガラスキャップもしくは金属キャップへの接着により封入されるので、上記部品の製造は特に重要である。有機部品の製造の間に、上記空気感受性物質は、真空装置中で熱的に蒸発され、部品の基板に蒸着する。この方法段階は、上記空気感受性物質にとっては重要ではない。なぜなら、上記方法段階は、通常、真空で行われ、それ故に、上記空気感受性物質は周囲の空気と反応することができないからである。一方、上記空気感受性物質の真空被覆チャンバーへの移動、及び上記空気感受性物質を用いた真空被覆チャンバーの充填は重要である。不活性ガスグローブボックスを経由しての充填は、通常不可能で、それ故に、周囲の空気を経由しての充填が必要である。
【0011】
蒸発による被覆のために、特に空気に感受性がある蒸着物質を用いて従来の被覆装置を充填するときには、できる限り被覆装置の改良を必要とせず、周囲の空気に蒸着物質を曝さずに行なうべきである。この目的のために、通常、真空チャンバーは、例えば、窒素及びアルゴンのような不活性ガスで満たされるグローブボックスと接続されている。上記感受性蒸着物質は、上記グローブボックスを経由して上記チャンバーに充填される。ほとんどの被覆装置は、グローブボックスに接続されておらず、そのようなグローブボックスの供給と維持とには非常に費用がかかり、複雑であるので、この手段は、全く実用的ではない。
【0012】
代替案として、まず、不活性ガスで満たされた容器に上記蒸着物質を満たし、その後、できるだけ素早く上記物質を真空チャンバーに運び、迅速に不活性ガスを排除する試みが行われた。この手法を用いると、周囲の空気との接触は確かに減少するが、この充填方法は、多くの高感受性蒸着物質にとって十分ではない。高感受性蒸着物質にとっては、たとえ感受性物質と周囲の空気との接触が短時間であっても、少なくとも一部が酸素や水と反応するには十分である。
【0013】
他の代替案は、蒸発装置から分離することができる蒸着物質源を用いることであり、この場合、上記蒸着物質源は、分離後、ガス密法(in a gas-tight manner)で密封する必要がある。上記蒸着物質源は、次いで、空気感受性蒸着物質と共に不活性ガス下でグローブボックス中に充填され、気密的に密封され、グローブボックスの外に運ばれ、被覆装置に再接続される。もはや真空装置中のいずれの酸素または水も無くなるや否や、蒸着物質源と被覆装置との間の隔離板が上げられ、上記空気感受性物質が反応する可能性が無い状態で、蒸着工程を始めることができる。この改良型の一つの欠点は、上記蒸着物質源が全く広く行き渡らないことである。上記蒸着物質源は高価で、上記充填方法は複雑である。
【0014】
蒸着物質を蒸着する方法は、知られており(JP59031865の要約書を参照)、蒸着物質の蒸着バッチは、覆いの中に設置され、次いで蓋で閉じられる。上記蓋は、加熱または内圧により壊すことができる物質でできている。一例として、石英でできた薄層を用いることができる。蒸着の間に、レーザー光は、蒸着物質の蒸着バッチを蒸発させるために上記蒸着バッチに照射される。
【0015】
〔発明の要旨〕
本発明の目的は、蒸着物質を母材に蒸着する方法、具体的には、半導体をドープする方法を提供することであり、本方法は、蒸着物質の取り扱いを容易にする。さらに、取り扱いが容易なように改良された蒸着バッチ及び上記蒸着バッチの製造方法も提供される。
【0016】
本発明によると、この目的は、独立請求項1に記載の蒸着物質を母材に蒸着する方法、独立請求項5に記載の蒸着バッチ、及び独立請求項10に記載の蒸着バッチの製造方法により達成される。
【0017】
上記蒸着物質は、良く反応する。具体的には、空気に感受性がある。上記蒸着物質は、空気中に含まれる一つ以上のガス及び/またはガス混合物に感受性がある。代わりに、またはさらに、上記蒸着物質は水蒸気に感受性がある。
【0018】
従来の技術と比較して、本発明は、上記蒸着物質の取り扱いがより容易になるという利点を有しており、蒸発前の上記蒸着物質の正確な取り扱いは、周囲の環境から蒸着物質を保護することにより確実にされる。この方法では、上記蒸着物質の質は維持され、それらの運搬及び貯蔵は容易になる。本発明の状況の範囲内で、たとえシェルを通って水蒸気のわずかな浸透が可能であったとしても、気密封入は存続する。
【0019】
結果として、一方では、蒸着物質の気密封入を確実にし、他方では、蒸着物質を蒸発させる目的のためにシェルを容易に開けることを可能にする。これは、シェルを開ける工程段階と、その後、蒸着物質を蒸発させる工程段階との明確な分離を確実にする。
【0020】
一例として、合金または金属が融解性シェル物質として用いられる。低融点を有する合金または金属は、様々な実施形態において融解性シェル物質として知られる。そのため、特別な使用目的のために臨機応変に選択することができる。原理的に、蒸着物質を封入するためのシェルは、全体、または、一部のみ融解性シェル物質から形成されてもよい。
【0021】
シェルはバイメタルまたはバネ鋼からできた区分を有しており、これは、開閉可能な一種の蓋または開口部として働く。同様に、本発明の他の実施形態は、物質、特に、形状記憶を有する金属または合金の使用を提供することができる。この場合、“熱記憶効果(thermal memory effect)”は、シェルを開閉するために用いられる。
【0022】
本発明のさらなる発展的な一形態として、上記シェルは被膜として形成されるシェル区分の領域で開けられるよう備えられていてもよい。被膜は広範囲の処理方法を用いて処理することができ、物質の気密包装または物質のカプセル封入のための様々な用途で用いることができる。さらに、被膜の使用により、蒸着物質を蒸発させる目的のためにシェルを容易に開けることが可能になる。
【0023】
蒸着前に、他の化学物質または化合物と蒸着物質とが望まない反応をすることを避けるために、本発明の一つの有利な実施形態において、蒸着物質の蒸発及び蒸着の間に蒸着チャンバー中の真空環境または不活性ガス雰囲気が維持される。
【0024】
蒸着バッチ及び蒸着バッチの製造方法に関連する従属請求項に関して、それ相応に当てはまる関連の特徴を有する蒸着物質を蒸着する方法の従属請求項に関連して有用性が議論された。
【0025】
蒸着バッチに関して、本発明の一つの有用な実施形態では、シェルは、接着、冷間形成(cold forming)、溶接、またははんだ付けにより閉じられる。上記冷間形成処理は、具体的には、シェルを閉じるための圧迫も含む。
【0026】
本発明の有用なさらなる発展的な一形態では、蒸着バッチにおいて、シェルは少なくとも一部が坩堝により形成され、蒸着のために坩堝から蒸着物質が蒸発することができるようになる。上記坩堝は、蒸着物質と一緒に被覆装置に導入することができるので、結果として、被覆装置にいずれの改編も必要とせず、蒸着の間に、蒸着物質に適合した坩堝を用いることができる。
【0027】
本発明の一つの実施形態において、シェルが開けられるときに壊される少なくとも一つのシェル区分を受けるための受取装置が坩堝上に形成される。この方法では、蒸着後に被覆装置から坩堝が取り除かれるときに、壊されたシェルの残りを同時に取り除くことができる。一例として、シェルが融解するときに収縮するシェル区分を受ける受取装置を備える。
【0028】
蒸着物質がシェルにより気密的に覆われる蒸着バッチの製造に関連して、本発明のさらなる発展的な一形態により、蒸着物質のバッチ量が封入されるときに、バッチ量を保持する空間は、真空にされる及び/または不活性ガスで満たされる。そのため、シェルにより封入された空間に確実に空気が残らないようにすることができる。
【0029】
〔本発明の好適な実施形態〕
本発明は、実施例に基づき、図面を引用して、以下により詳細に説明される。つまり、;
図1は、蒸着バッチの断面の概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量はシェルによって気密的に密封される。;
図2は、蒸着バッチの概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量は坩堝中に配置され気密的に密封される。;
図3は、蒸着バッチの概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量は、箱型の坩堝中に気密的に密封される。;
図4は、密接して形成される多くの蒸着バッチ配列の概略図を示す。図中では、多くのバッチ量のために、単一のシェルが形成される。;
図5は、閉じた状態及び開いた状態での、図2の蒸着バッチの断面の概略図を示す。;
図6は、蒸着バッチの断面の概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量を保持するためのシェルは、蓋を備える。;
図7は、蒸着バッチの断面の概略図を示す。図中では、シェルは、2つの半球状のシェルから形成される。;そして、
図8はCr(hpp)の化学構造式を示す。
【0030】
製造後、及び被覆装置又は蒸着装置によって蒸着に使われる前に、以下で蒸着物質とも呼ばれる蒸着のための感受性物質は、シェル内に気密的に密封され、蒸着される物質のバッチ数量を含む蒸着バッチが形成される結果、シェル内に気密的に密封される。これは、カプセル封入と呼ぶこともできる。本発明の状況の範囲内で、特に、たとえシェルを通じた水蒸気のわずかな浸透が可能であったとしても、気密封入は存続する。好ましくは、水蒸気の浸透は、最大でも約100〜1000g/m/日に制限される。
【0031】
図1は、蒸着バッチ1の断面の概略図を示す。図中、蒸着物質のバッチ量2は、シェル3中に気密的に密封される。蒸着バッチ1の製造は、例えば、不活性ガス雰囲気下または真空下におけるグローブボックス中において、例えば、蒸着される物質の蒸発温度よりも低い温度で融解する不活性シェル物質中に収縮包装することにより実施される。
【0032】
蒸着物質の蒸着の間に、上に述べたように形成された蒸着バッチ1は、次いで蒸着装置または被覆装置の被覆チャンバーまたは蒸着チャンバー内の蒸着坩堝中に設置される(図示せず)。この被覆チャンバーは、次いで排気される。蒸着バッチ1を製造するとき、カプセル封入中に含まれる不活性ガスをできるだけ少なくするよう注意を払わなければならない。なぜなら、そうしなければ、排気の間に、カプセルの形態でシェル3によって覆われる蒸着バッチ1の内部に過度の加圧がかかるため、シェル3を破壊する力がシェル物質に働くためである。もし、シェル3内に少量しか不活性ガスが含まれないなら、排気の間に、カプセルの破壊による開口も避けられる。
【0033】
上記蒸着物質を蒸着させる実施例では、上記蒸着坩堝は、次いで上記蒸着物質を蒸発させるために後の工程で加熱される。ここで、上記シェル物質は、上記蒸着物質の蒸発温度より低い融解温度で融解し、それ故に上記蒸着物質を放出する。このようにして放出された上記蒸着物質は既に真空下にあるため、化学的に反応しないが、むしろ、その蒸発温度に達したとき蒸発し、次いで母材に蒸着され被覆される。半導体物質は、例えば、この方法でドープすることができる。
【0034】
蒸着物質を気密的に密封するためのシェル用物質として、以下の特性のうち一つ以上を有する物質は、本発明の様々な実施形態で用いられてもよい。つまり、;
- 固相での低蒸発圧、
- 液相での低蒸発圧、
- たとえ高温であっても、蒸着物質と化学的に反応しない、
- カプセル封入に用いられる物質の融解温度は、蒸着物質の蒸発温度より低い、
- 蒸着坩堝及び蒸着物質の低湿性、
- シェル用物質の機械的特性、特に、あまり脆くないまたは壊れにくい物質は、蒸着物質の気密封入を可能にする、
- 酸素、空気、及び水蒸気の浸透性が無い、またはわずかな浸透性がある、または浸透性がある、
- 安価または再利用できる物質、
- 環境面で扱いやすい物質、である。
【0035】
一例として、以下の部類の物質を利用してもよい。
【0036】
- 金属合金、例えば、約100℃の融解温度を有し、50%ビスマス、30%鉛、及び20%スズから成るインダロイ57(Indalloy 57)、
- 低融解温度を有する金属、例えば、約156℃の融解温度を有するインジウム、
- 低融解性ガラスはんだ、例えば、約300℃の融解温度を有するDM2700。
【0037】
非常に低い温度で融解する様々な金属合金があるため、低融点を有する金属合金は、提案されたカプセル封入に特に適した金属類に相当する。特に、低融解性合金、すなわち、出発金属の融解温度よりもかなり低い融解温度を有する金属の合金系であってもよい。一例として、49%ビスマス、18%鉛、12%スズ、及び21%インジウム金属の混合物は、58℃で融解する。58%のビスマスと42%スズとの混合物は、一方で、138℃で融解する。両方の混合物は、共晶混合物であり、これは、それらの混合物が明確に定義された融解温度を有することを意味する。例えば、60%ビスマスと40%スズのようなその他の金属合金は、ある温度範囲内、この場合、138℃〜170℃の範囲内で融解する。両方の金属合金類は、空気感受性物質のカプセル封入に最適である。
【0038】
ガラスはんだの融解は、通常、いくらか高い温度、例えば、300℃以上で行なわれる。光電子工学部品に用いられる多くの物質もこの温度の範囲内で用いられるので、例えば、CuPcまたはZnPcといった部類の物質も蒸着物質のカプセル封入に用いることができる。
【0039】
上記のインジウム以外にシェル物質として適切な純金属としては、ガリウム(融解温度30℃)、スズ(232℃)、タリウム(304℃)、鉛(327℃)、及び亜鉛(419℃)を挙げることもできる。
【0040】
上述の実施形態において、および一般に、カプセル封入に用いられるシェルは、一つ以上の物質から形成されてもよい。すなわち、例えば、一つの融解物質のみから形成されてもよい。本明細書中で提示される特別な実施形態にかかわらず、例示される物質は、他の実施形態と組み合わせることもできる。
【0041】
図2は、蒸着バッチ10の概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量は、低融解物質からできたシェル区分12、つまり被膜として形成される上述のシェル区分により、気密的に閉じられる坩堝11中に配置される。蒸着バッチ10を製造するために、上記蒸着物質のバッチ量は、グローブボックス内の坩堝11に直接満たされる(図示せず)。次いで、上述の坩堝は、例えばインジウムからできた上記被膜により閉じられる。この場合、上記被膜は、例えば、ヨーグルト瓶または医薬品の包装を密封するのと同様の方法で原理的に知られる、はんだまたは接着により坩堝11に固定される。
【0042】
現在、蒸着物質は多くの場合、もはやいわゆる点光源(point source)から蒸発されず、むしろ線光源(linear source)から蒸発される。この場合も、上記で提案された方法でのカプセル封入または封入を用いることが可能である。図3は、蒸着バッチ20の概略図を示す。図中では、蒸着物質のバッチ量は箱型坩堝21としてデザインされた線光源内に配置される。この場合、箱型坩堝21は、蓋としてデザインされたシェル区分22により、気密的に閉じられる。シェル区分22は、低融解物質でできており、例えば、はんだ付けまたは接着により貼り付けられる。所望の長さを有する蒸着バッチも線光源として形成することができる。ここでは、蒸着物質は低融解物質からできたシェルにより気密的に密封される。この場合、線光源中での蒸着物質の分配の均一性が改善される結果として、図4に概略的に示されるように、ちょうど蒸着物質のバッチ量を含む単一の物質チャンバーが形成されてもよいし、あるいは空気感受性物質は多数のチャンバーに分配されてもよい。
【0043】
空気感受性物質のカプセル封入の前に、空気感受性物質に接触するどんな水分も排除するために、上記シェル及び/または上記坩堝のための物質は、ある時間、例えば一時間、シェル物質の融解温度よりは低いができるだけ高い温度で加熱されてもよい。
【0044】
ガス気密的に空気感受性物質をカプセル封入または封入するために、上述の接着やはんだ付けの方法に加えて、高温で操作し、物質が高温で軟化するという事実を活用した他の方法を用いることも可能である。さらに、例えば、冷間圧延、冷間圧接、またはリベット打ちのようなシェル物質の冷間形成に基づいた方法を用いることも可能である。
【0045】
シェルに用いることができるいくつかの低融解物質は、あまり費用効率が高くないので、上述の物質は、任意に再利用してもよい。つまり、蒸着の終わりに、蒸着坩堝中に残存するシェル物質を取り除き、必要であれば例えば溶錬により精製し、その後更なるカプセル封入に再利用してもよい。坩堝は、この再利用の為に特別にデザインされてもよい。
【0046】
図5は、図2の蒸着バッチの開閉状態での断面の概略図を示す。閉じた状態では、坩堝11は、低融解物質から作られたシェル区分12、つまり蓋として設計される上述のシェル区分により閉じられている。被覆装置での加熱によりシェル区分12の物質が融解するとき、当該物質は、表面張力のために縮み、小球状になって坩堝11中に落ちる。当該物質は収集溝13によって集められるので、蒸着物質のバッチ量14と接触しない。結果として、たとえシェル物質が完全に不活性でなかったとしても、そのためにシェル区分12の物質と蒸着物質がお互いに反応するような状況を確実に除外することができる。収集溝13は、蒸着物質の蒸発の間にシェルが壊れたときにシェルの残留物を受ける収集装置の一形態である。
【0047】
空気感受性物質のためのシェルは、冷えると自身で再び閉じるようにも提供することができる。図6で示されるように、空気感受性物質が収容されているシェル60は、バイメタルからできた蓋61を有している。蓋61自身またはシェル60の加熱の間に、つまり蒸着の配置での加熱段階の間に、加熱作用により、熱膨張係数が異なるため、せん断応力が生じる。このせん断応力により、蒸発物質が開口部62から出て行くことができるようにバイメタルが変形する。任意に、ちょうど蓋61の部分を、例えば、熱変形を受け、それ故に蓋61があがり、シェルが開くようなバイメタルの結合層から作ることも可能である。バイメタル成分の層は、曲がることによって開くように調整される。冷却されると、バイメタル成分は元の形に戻り、開口部を閉じる。この手順は、加熱作用を用いることにより可逆的に構成することができる。
【0048】
可逆的ではないが反復可能である同様のin situ装置は、“記憶合金”(例えば、ニッケル/チタン合金である“ニチノール”)を用いて達成することもできる。この場合、シェルの閉鎖部分またはその一部(図6を参照)は記憶合金で作られる。所定の温度(ニチノールの場合、約50℃)での合金の金属グリッドの突然転位(sudden rearrangement)に基づく“熱記憶効果”が用いられる。金属グリッド転位点以上の温度で蒸発物質が収容されるシェルが開けられるように、蓋またはその一部は構成される。続く冷却段階の間に、金属グリッドは再配向されるが、構成材の外形は同じままである。空気感受性物質は、その後、保護ガス雰囲気下で導入され、そして、開口部は、記憶合金でできた閉鎖部を屈曲させることにより閉じられる。蒸発源の加熱段階の間に、金属グリッド転位の臨界温度を超えると形態の変化が誘発され、上記閉鎖部の形は屈曲させる前の元の形に戻る。すなわち、シェルは再び開けられ、空気感受性物質の蒸発を真空で行なうことができる。
【0049】
充填後、例えばバネ鋼またはバイメタルまたは記憶合金から作られた蓋が、外部の過圧により特に十分に密閉されるようにシェルを排気することができる。しなやかに変形できる蓋がすぐに開くように、または前述したように、その後の加熱段階の間の加熱により変形/開口するように、真空蒸発チャンバーの排気の間に圧力差は持続的に減少する。
【0050】
図7は実施形態のさらなる一例を示す。一方が開いている2つの中空体、この場合は、気密物質からできておりその中に空気感受性物質が保護ガス雰囲気下で充填されている2つの半球上のシェル71は、そのときお互いに円形の縁で合金72を用いて気密的に結合される。熱を加えることにより、合金72からできた繋ぎ目は、空気感受性物質の蒸発温度以下で融解する。その結果、半球状のシェル71がお互いに離れ、蒸発温度に達したときにその中に入れられた物質が昇華し、母材に蒸着される。2つの半球状のシェル71を結合し、その後空洞を真空にするだけで、空気や水蒸気に対する密封を確実にすることもできる。既に上述したように、真空蒸着チャンバーの排気中に、蒸着チャンバー内部の圧力が球状のシェル内部に行き渡る圧力以下に落ちるとすぐに、この装置は自動的に開く。
【0051】
実施形態のさらなる一例に基づいて本発明をより詳細に説明する。特に、図1〜5を参照することにより論じることができる特徴について説明する。
【0052】
蒸着バッチ製造の1つの実施形態では、ビスマス50%、鉛30%、スズ20%の組成を有し、約100℃の融点を有するインダロイ57の2層の被膜様シートが用いられる。0.5gのトリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)は2層の被膜シートの間に配置され、被膜の端部は、例えば、従来のはんだごてを用いてはんだ付けされる。
【0053】
密封された“パッケージ”を、真空蒸着装置の蒸着チャンバー内のセラミック製蒸着坩堝中に置いた(図示せず)。蒸着チャンバーは、10-mbarの圧力に排気された。次にセラミック製の蒸着坩堝を加熱した。280℃の温度で、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)の蒸着率を測定した。これは、カプセル封入せずグローブボックスを用いる従来の方法で、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)を坩堝に充填した状況での蒸着率と一致している。この蒸着工程を用い、カプセル封入された発光物質を用いて有機発光ダイオードを製造した。この有機発光ダイオードは、(0.68;0.32)のCIEカラーコーディネートを有し、2.9Vの電圧で100cd/mの発光を示した。これらの値は、気密シェルではなく、むしろ従来法で発光物質を用い、発光物質であるトリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)を用いて製造された有機発光ダイオードの参照値と非常によく一致した。
【0054】
有機発光ダイオードの製造後、トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)のセラミック製の蒸着坩堝を調査した。インダロイ57は坩堝中に塊として残っていた。一方、残留トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム(III)の粉末は、坩堝中に分離した状態で存在していることがわかった。このことは、少しの問題も無く、シェル物質の再利用が可能であることも示している。
【0055】
実施形態の他の例では、表面に蒸着した可能性があるいずれの水蒸気も完全に除くために、インジウム被膜をグローブボックスにおいて、120℃で一時間加熱した。次に、この被膜を、空気感受性ドーパントであるCr(hpp)(図8を参照)が充填されたエンベロープを作るように折りたたんだ。エンベロープを気密にするために、端部に圧力をかけるための一対のやっとこを用いて端部を冷間溶接し、2つのエンベロープを調製した。第1のエンベロープをガラスシリンダーに入れ、次いで真空にした。カプセル封入が気密であることを示すように、エンベロープは膨張した。エンベロープは破壊されなかった。その後、エンベロープ中の圧力の低下によって吹き飛ばされることなくインジウムが融解し、カプセル封入された物質が放出されるまでシリンダーは加熱された。
【0056】
第2のエンベロープは、有機発光ダイオードのためのドープ電荷担体運搬層を作るために用いられた。ZnPcは、電荷担体運搬層のためのマトリックスとして用いられた。測定されたドープ電荷担体運搬層の伝導率は、蒸着チャンバーに充填されたドーパントを用いて、カプセル封入せずにグローブボックスを用いる従来の方法で作られた参照サンプルの伝導率の範囲であった。
【0057】
ここに開示した2つの実施例は、低融解物質、例えば、金属または金属合金は、熱真空蒸着装置または被覆装置中で処理して、周囲の空気から空気感受性物質を密閉して密封するには最適であることを示す。この方法でカプセル封入された物質は、性能の点でいずれの損失も無く、従来の方法で蒸発させることができる。
【0058】
上記で開示される本発明の特徴、請求の範囲、および図面は、様々な実施形態において本発明を実施するために、個々に、及びお互いのいずれかの組み合わせにおいて重要である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着物質を母材に蒸着する方法、特に、半導体物質をドープする方法であって、
上記蒸着物質がシェル(3)により気密的に密封される蒸着バッチ(1;10,20)が蒸着チャンバーに導入され、
上記シェル(3)の少なくとも一部を形成する融解性シェル物質が上記蒸着物質の蒸発温度より低い融解温度で加熱されることによって、上記シェル(3)の少なくとも一部が融解することにより、上記シェル(3)が上記蒸着チャンバー中で開けられ、
その結果、上記蒸着チャンバー内の上記蒸着物質が蒸発し、上記母材に蒸着される方法。
【請求項2】
上記融解性シェル物質として合金または金属が用いられることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記シェル(3)は、被膜として形成されるシェル区分領域で開けられることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記蒸着物質の蒸発及び蒸着の間に、上記蒸着チャンバー内で真空環境または不活性ガス雰囲気が維持されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
母材に蒸着するための蒸着物質、特に、半導体物質をドープするための蒸着物質を含み、
上記蒸着物質のバッチ量(2;14)は、シェル(3)により気密的に密封され、
上記シェル(3)は、加熱により蒸着チャンバー内で開けるために、少なくとも一部は上記蒸着物質の蒸発温度よりも低い融解温度を有する融解性シェル物質から形成されることを特徴とする、蒸着バッチ(1;10,20)。
【請求項6】
上記融解性シェル物質は、合金または金属であることを特徴とする、請求項5に記載の蒸着バッチ(1;10,20)。
【請求項7】
上記シェル(3)は、接着、冷間形成、溶接、またははんだ付けにより閉じられることを特徴とする、請求項5または6に記載の蒸着バッチ(1;10,20)。
【請求項8】
上記シェル(3)は、少なくとも一部は坩堝(11;21)により形成されており、
上記蒸着物質のバッチ量(2;14)は、蒸着のために坩堝から蒸発しうることを特徴とする、請求項5から7のいずれか1項に記載の蒸着バッチ(1;10,20)。
【請求項9】
上記シェル(3)が開けられるときに壊される少なくとも一つのシェル区分を受けるための受取装置(13)は、坩堝(11;21)に形成されることを特徴とする、請求項8に記載の蒸着バッチ(1;10,20)。
【請求項10】
母材への蒸着のための蒸着物質、特に、半導体物質をドープするための蒸着物質を含む蒸着バッチ(1;10,20)の製造方法であって、
上記蒸着物質のバッチ量(2;14)を供給し、
上記蒸着物質の上記バッチ量(2;14)を、少なくとも一部が加熱融解性シェル物質によって形成されていることを特徴とするシェル(3)によって気密的に密封し、
上記融解性シェル物質が、上記蒸着物質の蒸発温度よりも低い融解温度を有する、蒸着バッチ(1;10,20)の製造方法。
【請求項11】
合金または金属が、上記融解性シェル物質として用いられることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記シェル(3)は、接着、冷間形成、溶接、またははんだ付けにより閉じられることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
上記シェル(3)は、少なくとも一部は坩堝(11;21)により形成され、
上記蒸着物質は、坩堝から蒸発しうることを特徴とする、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記シェル(3)が開けられるときに壊される少なくとも一つのシェル区分を受けるための受取装置(13)が上記坩堝(11;21)に形成されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記蒸着物質の上記バッチ量(2;14)が封入されるとき、上記バッチ量(2;14)を保持する空間は、真空にされる及び/又は不活性ガスで満たされることを特徴とする、請求項10から14のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−518539(P2009−518539A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543734(P2008−543734)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011775
【国際公開番号】WO2007/065685
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(503180100)ノヴァレッド・アクチエンゲゼルシャフト (47)
【Fターム(参考)】