説明

蒸着装置及び蒸着方法

【課題】成膜時間の短縮化と連続成膜が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る蒸着装置1は、真空チャンバ2と、インデックステーブル30(回転台)と、複数の蒸発源31と、回動機構32と、第1及び第2の加熱機構33、34とを具備する。回転台は、回動機構によって回動されることで、回転台上の複数の蒸発源を予備加熱位置P1と成膜位置P2とに順次移動させる。第1の加熱機構は、成膜位置に属する蒸発源に収容された蒸着材料を加熱する。第2の加熱機構は、予備加熱位置に属する蒸発源に収容された蒸着材料を加熱する。各蒸発源は、予備加熱位置から成膜位置に移動させられる。成膜位置は、回転台の回動方向から見て、予備加熱位置の下流側に隣接して配置される。予備加熱位置で加熱された蒸発材料は、その温度が保持されたまま、成膜位置へ移動させられるので、蒸発に要する時間を短くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の蒸発源を有し連続成膜が可能な蒸着装置及び蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
画像医療の分野において、デジタル方式の放射線画像検出装置の開発が進められている。この種の放射線画像検出装置においては、放射線を可視光に変換するシンチレータパネルが用いられる。シンチレータパネルは、放射線により発光する特性を有するX線蛍光体で作製されたシンチレータ層を有する。
【0003】
近年、低線量の撮影においてのSN比を向上させるため、発光効率の高いシンチレータパネルが要求されている。一般に、シンチレータパネルの発光効率は、シンチレータ層の厚さ、蛍光体のX線吸収係数などによって決定される。例えば、シンチレータ層が厚いほど、感度が向上するため、発光効率が高くなる。しかし、シンチレータ層が厚いほど、シンチレータ内での発光光の散乱が発生するため、鮮鋭性(解像度)は低下する。
【0004】
一方、シンチレータ材料のひとつとして、ヨウ化セシウム(CsI)が知られている。ヨウ化セシウムは、X線から可視光への変換効率が比較的高いという利点がある。ヨウ化セシウムの柱状結晶は、光ガイド効果を有し、結晶内での発光光の散乱を抑える。したがって、鮮鋭性を低下させることなくシンチレータ層を厚くすることが可能となる。
【0005】
ヨウ化セシウムの柱状結晶は、真空蒸着法によって形成することができる。例えば特許文献1には、高真空中で原料を加熱し蒸発させることで、基板上に蛍光膜を蒸着する方法が記載されている。
【0006】
真空蒸着法においては蒸着材料の使用効率が比較的低いため、300〜1000μm程度の厚みの蒸着膜を形成する場合、大量の蒸着材料が必要となり、成膜時間も長時間に及ぶ。また、2つ以上の蒸発源を切り替えて蒸着膜を形成する方法が知られている。例えば特許文献2には、回転昇降台の上に複数個の蒸着源を配置し、加熱する蒸着源を順次切り替えて、蒸着膜を連続的に形成する蒸着装置及び蒸着方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭54−35060号公報(第2頁第4欄第28〜35行)
【特許文献2】特開平11−222668号公報(段落[0048]、[0049]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献2に記載の蒸着装置及び蒸着方法においては、蒸着源の切り替えの際、切り替えられた新しい蒸着源から蒸発材料を蒸発させるに先立って、当該蒸発材料を溶かし込む時間が必要となる。このため、成膜に要する時間が長くなるという問題がある。
【0009】
また上述のように、特許文献2に記載の蒸着装置は、蒸着源の切り替えの際に蒸発材料を溶かし込む時間が必要であるため、蒸着源の切り替えの前後にわたる連続成膜が不可能である。このため、上述したように比較的大きな厚みを有するヨウ化セシウムの成膜に上記特許文献2に記載の蒸着装置を適用した場合、成膜面へのガス吸着や基板温度などの条件の変動により柱状結晶の乱れや界面の形成が起こり、所望の鮮鋭度や発光効率が得られなくなる。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、成膜時間の短縮化と連続成膜が可能な蒸着装置及び蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸着装置は、チャンバと、回転台と、複数の蒸発源と、回動機構と、第1の加熱機構と、第2の加熱機構とを具備する。
上記チャンバは、真空排気可能に構成されている。
上記回転台は、上記チャンバの内部に配置される。上記回転台は、成膜位置と、上記成膜位置に隣接する予備加熱位置とを有する。
上記複数の蒸発源は、上記回転台上に所定角度間隔で同一円周上に配置される。上記複数の蒸発源は、上記成膜位置に属する第1の蒸発源と、上記予備加熱位置に属する第2の蒸発源とを含む。
上記回動機構は、上記回転台を上記所定角度ずつ回動させることで、上記複数の蒸発源を上記予備加熱位置と上記成膜位置とに順次移動させる。
上記第1の加熱機構は、上記第1の蒸発源と電気的に接続されることで、上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱することが可能である。
上記第2の加熱機構は、上記第2の蒸発源と電気的に接続されることで、上記第2の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱することが可能である。
【0012】
また、上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る蒸着方法は、回転台を所定角度回動させることで、上記回転台上に配置された第1の蒸発源を予備加熱位置へ移動させることを含む。
上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記予備加熱位置において第1の所定温度に保持される。
上記回転台を上記所定角度回動させることで、上記第1の蒸発源は上記予備加熱位置から成膜位置へ移動させられ、上記回転台上に上記第1の蒸発源に隣接して配置された第2の蒸発源は、上記予備加熱室へ移動させられる。
上記第2の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記予備加熱位置において上記第1の所定温度に加熱される。上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記成膜位置において上記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度で加熱され、これにより上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、蒸発させられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る蒸着装置の構成を示す部分側断面図である。
【図2】上記蒸着装置を構成する蒸発源ユニットを示す平面図である。
【図3】上記蒸発源ユニットの側断面図である。
【図4】上記蒸発源ユニットを構成する加熱機構を示す部分側断面図である。
【図5】上記蒸発源ユニットを構成するスイッチング機構を示す要部の平面図である。
【図6】上記スイッチング機構の動作を説明する要部の平面図である。
【図7】上記蒸着装置を構成するステージと蒸発源ユニットとの関係を説明する図であり、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【図8】上記蒸着装置の一作用を説明する図であり、成膜時間の比較を示すタイミングチャートである。
【図9】上記蒸着装置の他の作用を説明する図であり、蒸発源の指向特性を示す一実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る蒸着装置は、チャンバと、回転台と、複数の蒸発源と、回動機構と、第1の加熱機構と、第2の加熱機構とを具備する。
上記チャンバは、真空排気可能に構成されている。
上記回転台は、上記チャンバの内部に配置される。上記回転台は、成膜位置と、上記成膜位置に隣接する予備加熱位置とを有する。
上記複数の蒸発源は、上記回転台上に所定角度間隔で同一円周上に配置される。上記複数の蒸発源は、上記成膜位置に属する第1の蒸発源と、上記予備加熱位置に属する第2の蒸発源とを含む。
上記回動機構は、上記回転台を上記所定角度ずつ回動させることで、上記複数の蒸発源を上記予備加熱位置と上記成膜位置とに順次移動させる。
上記第1の加熱機構は、上記第1の蒸発源と電気的に接続されることで、上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱することが可能である。
上記第2の加熱機構は、上記第2の蒸発源と電気的に接続されることで、上記第2の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱することが可能である。
【0015】
上記蒸着装置において、回転台は、回動機構によって回動されることで、回転台上の複数の蒸発源を予備加熱位置と成膜位置とに順次移動させる。第1の加熱機構は、成膜位置に属する蒸発源(第1の蒸発源)に収容された蒸着材料を加熱する。第2の加熱機構は、予備加熱位置に属する蒸発源(第2の蒸発源)に収容された蒸着材料を加熱する。各蒸発源は、予備加熱位置から成膜位置に移動させられる。成膜位置は、回転台の回動方向から見て、予備加熱位置の下流側に隣接して配置される。これにより、予備加熱位置で加熱された蒸発材料は、その温度が保持されたまま、成膜位置へ移動させられる。
したがって、上記蒸着装置によれば、成膜位置に供給された蒸着材料は予備加熱位置であらかじめ加熱されているため、当該蒸着材料を成膜位置で溶かし込む時間を削減でき、速やかに蒸着材料を蒸発させることができる。これにより、成膜時間の短縮化を図ることができるとともに、複数の蒸発源を用いた連続成膜が可能となる。
【0016】
上記第1及び第2の蒸発源は第1の端子部を、第1及び第2の加熱機構は第2の端子部をそれぞれ有していてもよい。この場合、上記蒸着装置は、スイッチング機構をさらに具備することができる。上記スイッチング機構は、上記回転台の回転時に上記第1の端子部と上記第2の端子部とを離間させ、上記回転台の回転停止時に上記第1の端子部と上記第2の端子部とを相互に接触させる。
これにより、回転台の回動動作に影響を与えることなく、成膜位置及び予備加熱位置に属する各蒸発源と第1及び第2の加熱機構との間の電気的接続及び遮断が可能となる。また、複数の蒸発源のうち、成膜位置及び予備加熱位置に属する蒸発源に対して、第1及び第2の加熱機構を選択的に加熱することができる。
【0017】
上記スイッチング機構は、上記第1及び第2の蒸発源と上記第1及び第2の加熱機構との接続及び遮断を同時に切り替えてもよい。
これにより、成膜位置及び予備加熱位置それぞれについて別々に加熱機構を駆動する場合と比較して、工程時間の短縮化を図ることができ、複数の蒸発源を用いた連続成膜が実現可能となる。
【0018】
上記第1及び第2の加熱機構は、上記第2の端子部を上記第1の端子部に対して相対移動させるためのガイド部をさらに有してもよい。上記スイッチング機構は、上記第1及び第2の加熱機構の上記第2の端子部それぞれに連結された駆動ロッドと、上記駆動ロッドを伸縮させることで上記各第2の端子部を上記ガイド部に沿って移動させる駆動源とを有する。
これにより、駆動ロッドの伸縮動作によって、第1及び第2の蒸発源に対する第1及び第2の加熱機構の接続及び遮断を行うことができる。
【0019】
上記蒸発源は、上記蒸着材料を収容する複数の円筒状ボートをそれぞれ有してもよい。
各ボートに収容される蒸着材料は、同一の材料とされるが、異種の材料でも構わない。また、ボート毎に蒸着材料の蒸発量を調整するようにしてもよい。
【0020】
本発明の一実施形態に係る蒸着方法は、回転台を所定角度回動させることで、上記回転台上に配置された第1の蒸発源を予備加熱位置へ移動させることを含む。
上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記予備加熱位置において第1の所定温度に保持される。
上記回転台を上記所定角度回動させることで、上記第1の蒸発源は上記予備加熱位置から成膜位置へ移動させられ、上記回転台上に上記第1の蒸発源に隣接して配置された第2の蒸発源は、上記予備加熱室へ移動させられる。
上記第2の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記予備加熱位置において上記第1の所定温度に加熱される。上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記成膜位置において上記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度で加熱され、これにより上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料は、蒸発させられる。
【0021】
上記蒸着方法によれば、成膜位置に供給された蒸着材料は予備加熱位置であらかじめ加熱されているため、当該蒸着材料を成膜位置で溶かし込む時間を削減でき、速やかに蒸着材料を蒸発させることができる。これにより、成膜時間の短縮化を図ることができるとともに、複数の蒸発源を用いた連続成膜が可能となる。
【0022】
上記第2の蒸発源に収容された蒸着材料は、上記成膜位置において上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料が加熱されてから所定時間経過後に、上記予備加熱位置において加熱されるようにしてもよい。
すなわち、第2の蒸発源に収容された蒸着材料は、予備加熱位置から成膜位置へ移動されるまでに第1の所定温度に達していればよいので、第2の蒸発源における加熱開始時間は、第1の蒸発源側よりも遅れてもよい。これにより、蒸着材料の加熱によるエネルギーを低減することができる。
【0023】
上記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を蒸発させた後、上記回転台を上記所定角度回動させることで、上記第2の蒸発源は、上記予備加熱位置から上記成膜位置へ移動させられる。
これにより、第1の蒸発源と第2の蒸発源を用いた連続成膜が可能となる。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係る蒸着装置を示す図である。本実施形態の蒸着装置1は、真空チャンバ2と、蒸発源ユニット3とを備える。
【0026】
真空チャンバ2は、内部に蒸着室Vを形成し、バルブ4を介して真空ポンプ5と接続されることで蒸着室Vが真空排気可能とされている。真空チャンバ2には、蒸着室Vにプロセスガスを導入するためのガス導入管9が設置されている。プロセスガスとしては、アルゴン等の不活性ガスのほか、酸素や窒素等の反応性ガスが含まれる。
【0027】
蒸着室Vの上方には、基板を支持するステージ6が設置されている。ステージ6は、円形であり、その中心部に駆動モータ7の回転軸7aが固定されている。回転軸7aは、真空チャンバ2の上壁部を気密かつ回転自在に貫通している。これにより、ステージ6は、駆動モータ7によって回転自在に構成されている。
【0028】
ステージ6は、その下面に基板Sを支持する。基板Sには、例えば、ガラス基板が用いられる。基板Sの成膜面には、あらかじめ、アルミニウムやカーボンなどの下地膜、あるいは光学デバイス等の機能層が形成されていてもよい。また、成膜中、基板Sを所定温度に加熱するためのヒータ(図示略)を、ステージ6に設置してもよい。
【0029】
蒸発源ユニット3は、移動台車10に設置されている。移動台車10は、真空チャンバ2の一側壁部2aに対して着脱自在に構成されている。移動台車10が真空チャンバ2に接続されると、蒸発源ユニット3は、真空チャンバ2の内部の所定位置に配置される。蒸発源ユニット3のメンテナンス時、移動台車10は真空チャンバ2と分離され、蒸発源ユニット3は、真空チャンバ2の側壁部2aに形成された開口2bを介して、真空チャンバ2の外部へ取り出される。
【0030】
次に、蒸発源ユニット3の詳細について説明する。
【0031】
蒸発源ユニット3は、インデックステーブル30(回転台)と、複数の蒸発源31と、回動機構32と、第1の加熱機構33と、第2の加熱機構34とを有する。
【0032】
図2は、蒸発源ユニット3の平面図である。図3は、蒸発源ユニット3の要部の側断面図である。インデックステーブル30は、円盤形状を有しており、その中心部には基部30aが形成されている。インデックステーブル30は、後述する回動機構32によって、水平面内においてその中心のまわりに所定角度ピッチで回動可能に構成されている。蒸発源31は、インデックステーブル30の上面の同一円周上に上記所定角度ピッチで等間隔に配置されている。本実施形態では、蒸発源31は10個備えられており、インデックステーブル30の回転中心のまわりに36度ピッチで配置されている。蒸発源31の設置数は上記の例に限定されず、適宜変更することが可能である。
【0033】
インデックステーブル30は、矢印Rで示す方向に回転することで、その周方向に10分割された位置P1〜P10に各蒸発源31を順次移動させる。本実施形態では、位置P1は予備加熱位置、位置P2は成膜位置、位置P3〜P10は待機位置とされている。予備加熱位置P1において、蒸発源31に収容された蒸着材料は、その融点よりも低い予備加熱温度に加熱される。成膜位置P2において、蒸発源31に収容された蒸着材料は、その融点以上の温度に加熱される。待機位置P3〜P10においては、蒸発源31に収容された蒸着材料は、加熱されない。
【0034】
各蒸発源31は、それぞれ同一の構成を有している。蒸発源31は、蒸着材料を収容する複数個のボート42を有している。ボート42はそれぞれ同一の構成を有し、円筒形状であって、上面に蒸気放出用の長方形状の開口42aが形成されている。ボート42の設置数は上記の例に限定されず、適宜変更することができる。各ボート42は共通に加熱制御されてもよいし、個別に加熱制御されてもよい。
【0035】
各ボート42には、それぞれ同一の蒸着材料が収容されるが、用途に応じてボート42毎に異なる蒸着材料が収容されてもよい。蒸着材料には、金属、合金、その他の材料が用いられる。蒸着材料は、蒸着膜の種類に応じて適宜選定することができ、シンチレータを製造する場合には、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)、ヨウ化ナトリウム、臭化セシウムが用いられる。一方、ボート42の構成材料には、典型的には高融点材料が用いられ、例えば、Ta、W、Nb、Zr、Ni、Moなどの金属または合金が挙げられる。また、これら金属とC、B、N等との化合物が用いられてもよい。
【0036】
各蒸発源31は、例えば、抵抗加熱式の蒸発源で構成されている。各蒸発源31は、後述する加熱機構33、34から電力の供給を受けるための受電端子部310a、310b(第1の端子部)を有している。受電端子部310a、310bは、図3に示すように、インデックステーブル30の下方側に突出するようにして、各蒸発源31の両端部に形成されている。受電端子部310aは、各ボート42に対して共通の単一の端子部で構成されており、受電端子部310bは、各ボート42に独立して設けられた複数の端子部で構成されている。受電端子部310a、310bの構成は上記の例に限定されない。
【0037】
回動機構32は、インデックステーブル30を矢印Rで示す方向に回動させる。回動機構32は、インデックステーブル30の基部30aを貫通する回動軸321と、回動軸321に対して基部30aを回動自在に支持する軸受322とを有する。回動軸321は、インデックステーブル30の下方に設置された台座35の底部35aに固定されており、台座35は、隔壁8に固定されている。隔壁8は、蒸発源ユニット3が真空チャンバ2の内部に設置されたとき、真空チャンバ2の側壁部2aに接合されることで、開口2bを気密に閉塞する。
【0038】
回動機構32はさらに、水平方向に延在する駆動軸323aを含む駆動源323を有している。駆動軸323aの先端部には、インデックステーブル30の基部30aの下端部に取り付けられた第1のギヤ324と噛み合う第2のギヤ325が取り付けられている。第1のギヤ324及び第2のギヤ325は、駆動軸323aの回転動力をインデックステーブル30の水平面内での回転動力に変換する。
【0039】
駆動源323は、典型的には、電動モータで構成されている。駆動源323は、隔壁8に気密に固定されている。駆動軸323aは、隔壁8を貫通している。駆動源323は、移動台車10に設置されたコントローラ101から駆動信号が入力され、インデックステーブル30を上記所定角度ピッチで間欠的に回動させる。これにより、インデックステーブル30上の各蒸発源31は、位置P1〜P10に順次移動させられる。
【0040】
インデックステーブル30の回転軸線L1は、ステージ6の回転軸線L2とは異なる直線上に位置している。本実施形態では、インデックステーブル30の成膜位置P2がステージ6の回転軸線L2に位置するように、インデックステーブル30の回転軸線L1が定められている。また、図7(A)、(B)は、成膜位置P2に位置する蒸発源31と、ステージ6との位置的関係を示しており、(A)は側方側から見た図、(B)は上方側から見た図である。軸線L2をZ軸、ボート42の軸線と平行な軸をX軸、X軸及びX軸にそれぞれ直交する軸をY軸としたときに、蒸発源31の中心部は、X−Y−Z座標系の原点に位置している。ここでは、蒸発源31の中心部は、中央に位置するボート42の中心部とした。
【0041】
次に、第1及び第2の加熱機構33、34の構成について説明する。
【0042】
第1及び第2の加熱機構33、34は、台座35の底部35a上に設置されている。第1の加熱機構33は、インデックステーブル30の成膜位置P2に属する蒸発源31(第1の蒸発源)の直下に位置し、第2の加熱機構34は、インデックステーブル30の予備加熱位置P1に属する蒸発源31(第2の蒸発源)の直下に位置している。第1及び第2の加熱機構33、34はそれぞれ同一の構成を有しているため、ここでは第1の加熱機構33について説明する。
【0043】
第1の加熱機構33は、給電端子部300a、300b(第2の端子部)を有する。給電端子部300a、300bは、成膜位置P2に位置する蒸発源31の受電端子部310a、310bにそれぞれ対向する。給電端子部300は、受電端子部310bに対応して単一の端子部で構成されており、給電端子部300bは、受電端子部310bに対応して複数の端子部で構成されている。給電端子部300a、300bは、共通の支持板301の上面に設置されており、支持板301は、ガイド部302を介して台座35に支持されている。
【0044】
図4は、第1の加熱機構33の構成の詳細を示す要部の側面図である。ガイド部302は、支持板301をインデックステーブル30の径方向に沿って移動させるためのものであり、架台303と、ガイドレール304と、リニア軸受305などを有する。架台303は、台座35に固定されている。
【0045】
架台303には、電力供給源102(図1)と給電端子部300a、300bとの間における電力の授受を中継する中継基板306が設置されている。給電端子部300a、300bと中継基板306とは、フレキシブル配線基板307a、307bを介して相互に接続される。これにより、中継基板306に対して相対移動する給電端子部300a、300bに電力を安定して供給することが可能となる。
【0046】
電力供給源102は、移動台車10に設置されており、当該電力供給源102と中継基板306との間は、電力ケーブル等の配線部材(図示略)によって接続されている。本実施形態では、電力供給源102は、コントローラ101によって制御される。すなわち、給電端子部300a、300bに対する電力供給は、コントローラ101によって制御される。電力供給源102は、第1及び第2の加熱機構33、34に対して相互に異なる電力を各々供給できるように構成されている。例えば、電力供給源102は、第1の加熱機構33に電力を供給するための電源と、第2の加熱機構34に電力を供給するための電源とをそれぞれ備えていてもよい。
【0047】
ガイドレール304は、架台303の上部に敷設されている。ガイドレール304は、架台303に対して、それぞれ平行に一対設けられている。リニア軸受305は、ガイドレール304と支持板301との間に取り付けられ、支持板301の直線移動を案内する。
【0048】
支持板301は、シリンダ装置や電動モータによってガイドレール304の上を移動される。ガイドレール304に対して支持板301が往復移動されることで、給電端子部300a、300bが受電端子部310a、310bから離間する第1の状態(スイッチオフ状態)と、給電端子部300a、300bが受電端子部310a、310bと接触する第2の状態(スイッチオン状態)とを選択的にとることが可能となる。
【0049】
一方、第2の加熱機構34もまた、給電端子部300a、300b(第2の端子部)とを有する(図5)。これら給電端子部300a、300bは、予備加熱位置P1に位置する蒸発源31の受電端子部310a、310bにそれぞれ対向している。給電端子部300a、300b及びこれらを支持する支持板301を含むガイド部の構成は、第1の加熱機構33におけるそれらと同一の構成を有するので、その説明は省略する。
【0050】
蒸発源ユニット3は、第1及び第2の加熱機構33、34の給電端子部300a、300bをそれぞれ上記第1の状態と第2の状態との間で往復移動させるスイッチング機構36をさらに備える。図5及び図6は、スイッチング機構36の構成を示す要部の平面図である。スイッチング機構36は、給電端子部300a、300bを架台303に対して移動させる駆動源308を有する。駆動源308は、給電端子部300a、300bをインデックステーブル30の径方向に沿って移動させる。駆動源308は、例えばシリンダ装置で構成されており、隔壁8の外面側に気密に取り付けられている。
【0051】
駆動源308は、その軸方向に伸縮する駆動ロッド308aを有している。駆動ロッド308aは隔壁8を貫通し、駆動ロッド308aの先端部は、インデックステーブル30の基部30aの周囲を取り囲むように形成された枠状の治具308bに取り付けられている。治具308bは、連結部309を介して、第1及び第2の加熱機構33、34の各々の支持板301に連結されている。
【0052】
連結部309は、治具308bに形成された一対の連結板309aと、各連結板309aに形成された貫通孔309bと、第1及び第2の加熱機構33、34の各々の支持板301に形成されたピン309cとを有する。ピン309cは、貫通孔309bに嵌合することで、支持板301と治具308bとが相互に連結される。これにより、駆動ロッド308aの伸縮動作によって、各支持板301を同時に移動させることが可能となる。
【0053】
ここで、各貫通孔309bは、ピン309cが遊動可能となるように長孔状に形成されている。これにより、図5及び図6に示すように、駆動ロッド308aの伸縮動作に伴う支持板301間の相対距離の変動が貫通孔309bに対するピン309cの相対移動で吸収され、各支持板301の円滑な移動が確保される。
【0054】
コントローラ101は、駆動源308の駆動を制御することで、上記スイッチング機構の切替動作を制御する。本実施形態では、インデックステーブル30の回転時に、給電端子部300a、300bが上記第1の状態をとるようにスイッチング機構36を制御し、インデックステーブル30の回転停止時に給電端子部300a、300bが上記第2の状態をとるようにスイッチング機構36を制御する。以上のようにして、予備加熱位置P1及び成膜位置P2に属する蒸発源31と、第1及び第2の加熱機構33、34との接続及び遮断が、スイッチング機構36によって同時に切り替えられる。これにより、接点の切り替えに要する時間の短縮を図ることができる。
【0055】
本実施形態の蒸着装置1は、以上のように構成される。次に、蒸着装置1の典型的な動作について説明する。ここでは、蒸着材料にヨウ化セシウムを用いて、ガラス製の基板S上にヨウ化セシウム膜を蒸着させる方法について説明する。
【0056】
図1に示すように、移動台車10が真空チャンバ2に装着され、各蒸発源31に蒸着材料が収容された蒸発源ユニット3が真空チャンバ2の内部に配置される。その後、真空ポンプ5が駆動され、真空チャンバ2の内部(蒸着室V)が1×10−3Pa以下に真空排気された後、Arなどのガスを導入し1〜0.05Pa程度に調整される。
【0057】
基板Sは、ステージ6の下面に支持されており、基板Sの中心部は、成膜位置にP2に属する蒸発源31と対向している。ステージ6は、内蔵するヒータによって基板Sを所定温度に加熱し、かつ、駆動モータ7の駆動により、中心軸のまわりに所定の回転数で回転させられる。上記所定温度は特に限定されず、例えば、100〜300℃程度とされる。
【0058】
蒸発源ユニット3において、インデックステーブル30の回転は停止されており、第1及び第2の加熱機構33、34の給電端子部300a、300bは、予備加熱位置P1及び成膜位置P2に属する蒸発源31の受電端子部310a、310bと接触した状態(図6)とされる。この状態で、コントローラ101は、電力供給源102を制御して、第1及び第2の加熱機構33、34に対して所要の電力を供給する。これにより、予備加熱位置P1及び成膜位置P2に属する各蒸発源31に収容された蒸着材料が、それぞれ所定温度に加熱される。
【0059】
予備加熱位置P1において、当該位置に属する蒸発源31(ボート42)に収容されている蒸着材料は、所定の予備加熱温度に加熱されるとともに、その温度に保持される。予備加熱温度は、蒸着材料の融点より低い温度であれば特に制限されない。この予備加熱温度は、成膜位置P2において、効率よく蒸発させることができるように蒸着材料を溶かし込むことができる温度に設定することができる。例えば、蒸着材料をヨウ化セシウムとし、その蒸発温度を500〜750℃とした場合、予備加熱温度は、300〜500℃に設定される。
【0060】
一方、成膜位置P2において、当該位置に属する蒸発源31(ボート42)に収容されている蒸着材料は、当該蒸着材料の融点以上である所定の蒸発温度に加熱される。例えば、蒸着材料をヨウ化セシウムとした場合、蒸発温度は500〜750℃に設定される。蒸着材料の蒸発粒子は、対向するステージ6上の基板Sの表面に堆積する。これにより、基板Sの表面に、ヨウ化セシウム膜が形成される。
【0061】
例えばシンチレータパネルを構成するシンチレータ層は、300〜1000μmの厚みで形成される。このように厚みの大きな蒸着膜をひとつの蒸発源で成膜することが困難である場合、複数の蒸発源を順次切り替えて連続的に成膜する方法が採られている。そこで本実施形態では、以下のように、インデックステーブル30上の複数の蒸発源31を用いて厚みの大きな蒸着膜を連続的に成膜するようにしている。
【0062】
本実施形態の蒸着装置1においては、インデックステーブル30を矢印R(図2)方向に所定角度回転させることによって、予備加熱位置P1に位置する蒸発源31を成膜位置P2へ移動させる。蒸発源31の切り替えのタイミングは適宜設定することができ、典型的には、ひとつの蒸発源31による成膜時間で決定することができる。また、蒸着材料の残存量をモニタリングし、その量が所定以下になったときにインデックステーブル30を回転させるようにしてもよい。
【0063】
成膜位置P2に属する蒸発源31の切り替え動作は、以下のようにして行われる。
【0064】
まず、コントローラ101は、電力供給源102から加熱機構33、34の各給電端子部300a、300bへの電力の供給を遮断した後、駆動源308を駆動させて、スイッチング機構36を上記第1の状態とする。これにより、給電端子部300a、300bは、受電端子部310a、310bから離間する(図5)。次いで、コントローラ101は、駆動源323を駆動して、インデックステーブル30を矢印R(図2)方向へ1ピッチ分回転させる。これにより、予備加熱位置P1上の蒸発源31が成膜位置P2へ移動させられる。
【0065】
成膜位置P2に属する蒸発源31が切り替えられた後、コントローラ101は、駆動源308を駆動させて、スイッチング機構36を上記第2の状態とする。これにより、新たな蒸発源31の受電端子部310a、310bに対して給電端子部300a、300bが接続される(図6)。その後、電力供給源102から各給電端子部300a、300bへそれぞれ所要の電力が供給される。これにより、成膜位置P2に供給された新しい蒸発源31を用いて、基板Sに対する蒸着処理が再開される。本実施形態においては、基板Sに対して柱状結晶構造のヨウ化セシウム膜が形成される。なお、待機位置P10から予備加熱位置P1へ移動された蒸発源31は、予備加熱位置P1において上述した予備加熱処理が施される。
【0066】
上述のようにして成膜位置P2へ移動された蒸発源31は、あらかじめ予備加熱位置P1において所定温度に加熱され、その温度が保持された状態で成膜位置P2へ導入される。したがって、成膜位置P2に移動された後、蒸着材料の溶かし込みに要する時間を大幅に削減できるため、蒸発源31に収容されている蒸着材料は、成膜位置P2において速やかに蒸発させられる。これにより、蒸発源31の切り替え前後にわたる成膜停止時間を極力短くすることができるため、基板Sに対する連続成膜が可能となる。
【0067】
以後、同様な動作を繰り返して、インデックステーブル30上の蒸発源31が順次、予備加熱位置P1及び成膜位置P2へ移動される。そして、予備加熱位置P1及び成膜位置P2において、蒸発源31のボート42に収容された蒸着材料に対して、それぞれ上述した予備加熱処理及び蒸発のための加熱処理が行われる。
【0068】
図8(A)、(B)は、予備加熱した蒸着材料を蒸発させるときのプロセス時間と、予備加熱していない蒸着材料を蒸発させるときのプロセス時間とを比較した説明図である。蒸着材料を予備加熱しない場合、図8(A)に示すように、1組目の蒸発源を2組目の蒸発源に切り替えた後、成膜位置において2組目の蒸着材料の溶かし込みのための時間が必要となり、その分、基板Sに対する所定厚みの蒸着膜の形成時間が長くなる。これに対して、本実施形態のように予備加熱した2組目の蒸着材料を成膜位置へ搬送する場合、図8(B)に示すように、成膜位置における2組目の蒸着材料の溶かし込みに要する時間を大幅に削減できるため、所定厚みの蒸着膜を短時間で形成することが可能となる。
【0069】
また、蒸発源31の切り替えに伴う成膜停止時間を極力短くすることができるため、ガス吸着や基板温度の変動による界面の形状や柱状結晶の乱れを生じさせることなく、厚みの大きな蒸着膜を形成することが可能となる。特に、例えばシンチレータ層の成膜に本実施形態を適用した場合、所望とする発光効率を有するシンチレータ層を安定して形成することが可能となる。
【0070】
一方、本実施形態の蒸着装置1は、インデックステーブル30上の予備加熱位置P1及び成膜位置P2に属する蒸発源31にのみ加熱用電源の接点機構が構成されている。これにより、複数の蒸発源の中から特定の蒸発源に対してのみ加熱処理を施すことが可能となるため、電力供給源102の電力供給量を小さくすることができる。また、全ての蒸発源を電力供給源に接続する場合と比較して、装置構成の複雑化を抑えることができる。
【0071】
予備加熱位置P1及び成膜位置P2に属する各々の蒸発源31に対する給電端子部300a、300bと受電端子部310a、310bとの間の接続/遮断は、上記スイッチング機構によって同時に行われる。このように、各加熱機構33、34に対するスイッチング機構を各々独立して構成する場合と比較して、装置構成の簡素化を図ることができる。また、インデックステーブル30は、給電端子部300a、300bと受電端子部310a、310bとが相互に離間した状態(第1の状態)において駆動源323から回転駆動力を受けるため、インデックステーブル30の円滑な回転動作が確保される。
【0072】
一方、電力供給源102から給電端子部300a、300bへの電力の供給は各加熱機構33、34に対して同期させてもよいが、これに限られない。図8(B)に示したように、予備加熱位置P1における蒸着材料の加熱開始を、成膜位置P2における蒸着材料の加熱開始よりも遅らせることにより、トータル電力の更なる削減を図ることができる。予備加熱位置P1における蒸着材料の加熱開始遅延時間は、蒸着材料の融点や収容量、昇温速度などに応じて適宜設定することができる。
【0073】
以上のように、本実施形態によれば、インデックステーブル30上の複数の蒸発源31を予備加熱位置P1及び成膜位置P2へ順次移動させながら、基板Sに対する連続成膜が可能となる。これにより、生産性の向上を図ることができるとともに、所望とする膜構造を有し、かつ比較的厚みの大きい蒸着膜を安定して形成することが可能となる。
【0074】
一方、本実施形態では、蒸発源31は複数のボート42を収容し、これら各ボート42を同時に加熱して蒸着材料を蒸発させるようにしている。このため、各ボート42から放出される蒸気が、隣接するボート42から放出される蒸気と干渉し合うことで、蒸気が蒸発源31の直上方向(Z軸方向)に向けられる。これにより、蒸気の指向性が大きくなり、蒸着材料の使用効率を高めることが可能となる。
【0075】
ここで、蒸発材料の蒸気の指向性は、一般にcos(n+3)θで表され、nの値が大きいほど蒸発源からの蒸気の広がり角(立体角)が小さく、蒸気の指向性が高くなる。ここで、n値は蒸発材料の蒸気の広がり方を表しており、nが大きいほど蒸気が広がらず絞られて、指向性が高くなる。蒸気の指向性が高いほど、基板への付着量は大きくなる。また、それに伴い、真空チャンバ2の内壁面への材料の付着量は少なくなる。つまり、より指向性の大きな蒸発源を用いることで、材料の使用効率及び基板への成膜効率をともに向上させることが可能となる。
【0076】
本発明者らは、1〜10mm×40〜100mmの大きさの開口を有するボートを10〜300mmのピッチで2個以上並列に並べ、同時に加熱することにより、蒸気の指向性を向上させることができることを見出した。すなわち、上述の条件で蒸発源を構成することにより、ボートの開口から放出される蒸気がボート間で相互に干渉し合い、各ボートから放出される蒸気の流れを蒸発源の直上方向に向けさせることができる。
【0077】
図7に示すように、縦5mm×横70mmの開口42aを有する直径30mmφ×長さ100mmのTa製の円筒形ボート42を3個、40mmピッチで並べた蒸発源31を用意した。蒸発源31と基板Sとの間の距離は450mmとした。この蒸発源31を用いて実際に基板Sに蒸着材料を蒸着させ、その膜厚分布(実測値)を得た。成膜時はチャンバ内にアルゴンガスを導入し、圧力は1×10E−1(1×10−1)Paとした。一方、比較例として、上記構成のボートを1本だけ用いて成膜したときの膜厚分布を基に、当該ボートを40mmピッチで3本並べて成膜した場合の膜厚分布(計算値)を得た。上記実験の実測値と計算値とを図9に示す。図9から明らかなように、計算値に比べて実測値の方が、ボートから放出される蒸気流の指向性が高いことが確認された。
【0078】
上記構成において、ボート42単独でのn値は0.5であった。3本のボート42を50mmピッチで並べて蒸発源を構成したときのn値は2であった。ボート42の配置間隔(ピッチ)が大きくなるほど、各ボートから放出される蒸気間の干渉効果が小さくなるため、n値はボート単独でのn値に近づく。したがって、n値を大きくするためには、ボート間のピッチは小さいほどよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0080】
例えば以上の実施形態では、単一の蒸発源ユニット3を備えた蒸着装置を例に挙げて説明したが、蒸発源ユニット3以外の他の蒸発源を備えていてもよい。当該他の蒸発源は、例えば、添加元素や合金元素の蒸発源とすることができる。また、当該他の蒸発源もまた、蒸発源ユニット3と同様に構成してもよい。
【0081】
各蒸発源31の3本のボート42に対して加熱用の電力を供給するに際して、当該電力値は、ボート42毎に異ならせてもよい。例えば、中央に位置するボートよりも外側に位置するボートの方が加熱温度が大きくなるように供給電力値が調整されてもよい。
【0082】
また、以上の実施形態では、蒸発源ユニット3を真空チャンバ2に対して着脱自在に構成した蒸着装置1を例に挙げて説明したが、これに限られず、当該蒸発源ユニットを真空チャンバの内部に固定した蒸着装置にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…蒸着装置
2…真空チャンバ
3…蒸発源ユニット
6…ステージ
10…移動台車
30…インデックステーブル
31…蒸発源
32…回動機構
33…第1の加熱機構
34…第2の加熱機構
36…スイッチング機構
42…ボート
101…コントローラ
102…電力供給源
300a、300b…給電端子部
310a、310b…受電端子部
302…ガイド部
308、323…駆動源
P1…予備加熱位置
P2…成膜位置
P3〜P10…待機位置
S…基板
V…蒸着室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気可能なチャンバと、
前記チャンバの内部に配置され、成膜位置と前記成膜位置に隣接する予備加熱位置とを有する回転台と、
前記回転台上に所定角度間隔で同一円周上に配置され、前記成膜位置に属する第1の蒸発源と前記予備加熱位置に属する第2の蒸発源とを含む複数の蒸発源と、
前記回転台を前記所定角度ずつ回動させることで、前記複数の蒸発源を前記予備加熱位置と前記成膜位置とに順次移動させる回動機構と、
前記第1の蒸発源と電気的に接続されることで、前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱可能な第1の加熱機構と、
前記第2の蒸発源と電気的に接続されることで、前記第2の蒸発源に収容された蒸着材料を加熱可能な第2の加熱機構と
を具備する蒸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記第1及び第2の蒸発源は、第1の端子部をそれぞれ有し、
前記第1及び第2の加熱機構は、前記第1の端子部と当接可能な第2の端子部をそれぞれ有し、
前記蒸着装置は、前記回転台の回転時に前記第1の端子部と前記第2の端子部とを離間させ、前記回転台の回転停止時に前記第1の端子部と前記第2の端子部とを相互に接触させるスイッチング機構をさらに具備する
蒸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸着装置であって、
前記スイッチング機構は、前記第1及び第2の蒸発源と前記第1及び第2の加熱機構との接続及び遮断を同時に切り替える
蒸着装置。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸着装置であって、
前記第1及び第2の加熱機構は、前記第2の端子部を前記第1の端子部に対して相対移動させるためのガイド部をさらに有し、
前記スイッチング機構は、
前記第1及び第2の加熱機構の前記第2の端子部それぞれに連結された駆動ロッドと、
前記駆動ロッドを伸縮させることで前記各第2の端子部を前記ガイド部に沿って移動させる駆動源とを有する
蒸着装置。
【請求項5】
請求項1に記載の蒸着装置であって、
前記蒸発源は、前記蒸着材料を収容する複数の円筒状ボートをそれぞれ有する
蒸着装置。
【請求項6】
回転台を所定角度回動させることで、前記回転台上に配置された第1の蒸発源を予備加熱位置へ移動させ、
前記予備加熱位置において前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を第1の所定温度に保持し、
前記回転台を前記所定角度回動させることで、前記第1の蒸発源を前記予備加熱位置から成膜位置へ移動させ、前記回転台上に前記第1の蒸発源に隣接して配置された第2の蒸発源を前記予備加熱位置へ移動させ、
前記予備加熱位置において前記第2の蒸発源に収容された蒸着材料を前記第1の所定温度に保持し、前記成膜位置において前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を前記第1の所定温度よりも高い第2の所定温度に加熱することで前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を蒸発させる
蒸着方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蒸着方法であって、
前記第2の蒸発源に収容された蒸着材料は、前記成膜位置において前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料が加熱されてから所定時間経過後に、前記予備加熱位置において加熱される
蒸着方法。
【請求項8】
請求項6に記載の蒸着方法であって、さらに、
前記第1の蒸発源に収容された蒸着材料を蒸発させた後、前記回転台を前記所定角度回動させることで、前記第2の蒸発源を前記予備加熱位置から前記成膜位置へ移動させる
蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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