説明

蒸着装置

【課題】蒸着材料の加熱による性状劣化を防止して長時間の運転を行い得る蒸着装置を提供する。
【解決手段】容器本体4に充填された蒸着材料を蒸発させる蒸発用容器5及び蒸発した蒸着材料を材料移送管6を介して導きガラス基板Kの表面に蒸着させる蒸着用容器3を具備する蒸着装置であって、下側本体部4B内の蒸着材料を冷却水により冷却する冷却用ジャケット14を設けるとともに、上側本体部4Aと下側本体部4Bとの接続部分に断熱材8を配置し、材料移送管6及び上側本体部4Aを加熱する電熱線12を設けると共に、容器本体4内に充填された蒸着材料を、上記電熱線12により加熱された材料移送管6の内壁面からの輻射熱及び上側本体部4Aに設けられた電熱線12により加熱し蒸発させるようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガラス基板の表面に金属材料、有機材料などの蒸着材料を蒸着させるための蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイなどを製造する際に、例えばガラス基板の表面に金属材料、有機材料などの蒸着材料を蒸着させて薄膜を形成しているが、従来、このような薄膜を形成する場合、蒸着材料の蒸発室および蒸発した蒸着材料の蒸着室を有する蒸着装置が用いられている。
【0003】
すなわち、この蒸着装置は、蒸発室すなわち蒸着材料が充填され蒸発を行う容器本体を有する蒸発用容器と、この蒸発用容器の上方に配置されて蒸着室を有する蒸着用容器と、この蒸着用容器と蒸発用容器とを接続して蒸発室で蒸発した蒸着材料(以下、蒸着材蒸気という)を蒸着室に移送するための材料移送管とを有し、また容器本体を加熱して蒸着材料を蒸発させる加熱用ヒータが設けられたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記構成において、蒸着材料を蒸着させる場合、蒸着室内にガラス基板を保持具を介して保持させた後、所定の真空状態にするとともに、同じく真空にされた蒸発用容器における容器本体を加熱用ヒータにより溶融温度以上に加熱し、そして蒸着材蒸気は材料移送管を介して蒸着室に導かれるとともにガラス基板の表面に蒸着されていた。なお、ガラス基板の表面に均一に蒸着させるために、蒸着用容器における蒸着室の下部には、蒸着材蒸気を分散させるためのマニホールドが設けられている。
【特許文献1】特開2005−336527
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、容器本体内の蒸着材料は、通常、電熱線などの加熱用ヒータにより加熱されており、蒸着材料が入っている限り、その加熱は続けられていた。
しかし、蒸着材料によっては、加熱を必要以上に続けると、その性状が劣化するものがあり、この場合には、長時間の運転を行うことができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、蒸着材料の加熱による性状劣化を防止して長時間の運転を行い得る蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る蒸着装置は、容器本体に充填された蒸着材料を蒸発させる蒸発用容器および蒸発した蒸着材料を材料移送管を介して導き被蒸着部材の表面に蒸着させる蒸着用容器を具備する蒸着装置であって、
上記容器本体を上側本体部と下側本体部とに分割するとともに、上記下側本体部に蒸着材料を冷却する冷却手段を設け、
上記上側本体部と上記下側本体部との接続部分に断熱材を配置し、
上記材料移送管および上記上側本体部を加熱する加熱手段を設けるとともに、上記容器本体内に充填された蒸着材料を、上記加熱手段により加熱された材料移送管表面からの輻射熱および上記上側本体部に設けられた加熱手段により、加熱させるようにしたものである。
【0008】
また、請求項2に記載の蒸着装置は、請求項1に記載の蒸着装置における材料移送管の温度を検出する移送管用温度検出器および下側本体部の温度を検出する容器用温度検出器を設けるとともに、これら各温度検出器からの検出信号を入力して加熱手段および冷却手段を制御する制御部を具備したものである。
【発明の効果】
【0009】
上記蒸着装置の構成によると、容器本体に充填された蒸着材料の表面近傍つまり上側本体部の蒸着材料については、その上方に位置する材料移送管および上側本体部に設けられた加熱手段により加熱された際に、その内壁面から放射される輻射熱および加熱手段により加熱して当該蒸着材料を蒸発させるとともに、表面近傍から下方の部分、つまり下側本体部については冷却手段にて冷却するようにしたので、蒸着材料が温度により性状劣化し易いものである場合でも、性状が劣化するのを防止することができ、したがって長時間の運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る蒸着装置を、図面に基づき説明する。
この蒸着装置には、図1に示すように、内部に蒸着室1を有するとともにこの蒸着室1内に被蒸着部材であるガラス基板Kの保持具2が設けられた蒸着用容器3と、この蒸着用容器3内の下方に配置され且つ蒸着材料が充填される容器本体(坩堝ともいい、その内部が蒸発室となる)4を有する蒸発用容器5と、上記蒸着用容器3とこの蒸発用容器5との間に上下方向で配置されて容器本体4内すなわち蒸発室で蒸発された蒸着材料(以下、蒸着材蒸気という)を蒸着室1に導くための材料移送管(材料導入管ともいえる)6とが具備されている。なお、蒸着用容器3の側壁部には、ガラス基板Kの搬入出用の開口部3aが形成されるとともに、その開口部3aを開閉する開閉蓋7が具備されている。
【0011】
そして、上記蒸発用容器5の容器本体4は、上側本体部4Aと下側本体部4Bとに分割されるとともに、上側本体部4Aと下側本体部4Bとの間に、すなわち上側接続用フランジ部4aと下側接続用フランジ部4bとの間には、断熱材8が配置されている。なお、両者の分割比率については、上側本体部4Aが下側本体部4Bの半分以下となるようにされている。
【0012】
また、上記蒸着用容器3内すなわち蒸着室1の下部には、材料移送管6を介して移送された(導かれた)蒸着材蒸気を蒸着室1内に分散させるために複数の放出口9aが設けられた分散部材(分散管またはマニホールドともいう)9が配置されており、さらに上記材料移送管6の途中には、蒸着材蒸気の移送量を調節するための(言い換えれば、蒸発量を調節するための)調節弁11が設けられている。
【0013】
また、上記材料移送管6および上記蒸発用容器5の上側本体部4Aの周囲には加熱手段(加熱用ヒータともいえる)として電熱線12が巻き付けられているとともに、移送管表面には移送管用温度検出器13が設けられている。
【0014】
一方、蒸発用容器5の下側本体部4Bの外周には、冷却手段として、冷却用ジャケット14およびこの冷却用ジャケット14内に冷却媒体(例えば、冷却水、冷却用空気などである)を供給する冷却媒体供給管15が設けられるとともに、下側本体部4Bの表面、例えば底面には容器用温度検出器16が設けられている。
【0015】
また、上記電熱線12には発熱量を制御するコントローラ21が設けられており、当然に、この電熱線12には電源(図示せず)が接続されている。
さらに、蒸着装置には、上記温度検出器13,16からの検出信号を入力して、各検出部位がそれぞれに設定された温度となるように、電熱線12のコントローラ21および冷却媒体供給管15途中に設けられた流量制御弁20に制御信号を出力するための制御部22が具備されている。なお、蒸着装置には、上述した温度を制御するための制御部22以外に、他の制御機器を制御する制御本体が具備されているが、制御本体についての説明は省略する。
【0016】
上記構成において、蒸着動作について簡単に説明する。
まず、ガラス基板Kを、開口部3aより蒸着室1内に搬入した後、開閉蓋7を閉じる。そして、図示しない真空装置により、蒸着室1内を所定の真空度にする。なお、材料移送管6および容器本体(蒸発室である)4内も、同様に真空にされる。
【0017】
そして、制御部22によりそれぞれコントローラ21を介して各電熱線12を制御して、材料移送管6および蒸発用容器5の上側本体部4Aを加熱する。したがって、材料移送管6および上側本体部4Aがその外周に巻き付けられた電熱線12により所定温度つまり蒸着材料の溶融温度またはそれ以上となるように加熱される。
【0018】
ところで、上記材料移送管6の管内壁面からの輻射熱が容器本体4側に放出されることになり、この輻射熱と上側本体部4Aの外周に巻き付けられた電熱線12とにより、容器本体4内の蒸着材料、特に上側本体部4A内の蒸着材料が溶融温度まで加熱されて、蒸着材料が溶融し蒸発される。
【0019】
そして、この蒸発した蒸着材料、すなわち蒸着材蒸気は、材料移送管6を介して分散部材9内に入り、その放出口9aから上方に分散・放出されて、ガラス基板Kの表面に一様に蒸着される。
【0020】
このときの蒸着材蒸気量については、調節弁11により開口面積が調節されることにより制御が行われるとともに、材料移送管6および分散部材9の温度についても、制御部22からの指令により、予め設定された温度につまり壁面に付着しないような温度に維持されている。なお、蒸着材蒸気量については、制御本体により制御が行われている。
【0021】
ところで、容器本体4内の蒸着材料、特に下側本体部4B内の蒸着材料については、やはり、制御部22からの指令により、例えば冷却媒体供給管15に設けられた流量制御弁20を介して冷却用ジャケット14に供給される冷却媒体が制御されて、所定温度以下つまり蒸着材料が性状劣化しないような温度に維持されている。
【0022】
勿論、材料移送管6および上側本体部4Aから伝わる熱の殆どが断熱材8により遮断されていることから、容器本体4内の表面近傍つまり上側本体部4A内の蒸着材料は、材料移送管6からの輻射熱および上側本体部4Aに設けられた電熱線12により溶融温度以上に加熱されるとともに、その表面近傍より下方部位、つまり下側本体部4B側の蒸着材料の温度については、性状が劣化しないような低い温度に維持することができる。
【0023】
なお、本実施の形態のように、容器本体4の下側本体部4Bを冷却した場合の蒸着材料の温度分布[単位はK(ケルビン)である]を図2に示しておく。
図2から、上方の温度が、大体、500〜580Kであり、またその下方は、400〜499Kであり、さらにその下方では、400K以下であり、蒸着材料にとっては、性状劣化が少ない温度範囲になっているのが分かる。
【0024】
なお、比較のために、容器本体を冷却しない場合の蒸着材料の温度分布[単位はK(ケルビン)である]を図3に示しておく。図3から、その断面において、容器本体の縦断面において、少なくとも、周囲全体に亘って、580K以上の高い温度範囲があり、したがって蒸着材料の性状の劣化範囲が大きいことが分かる。なお、この場合には、580Kより低い温度になれば良い。
【0025】
このように、容器本体4に充填された蒸着材料の表面近傍については、その上方に位置する材料移送管6が電熱線12により加熱された際にその内壁面から放射される輻射熱および上側本体部4Aに設けられた電熱線12により加熱して当該蒸着材料を蒸発させるとともに、表面近傍から下方部分、つまり下側本体部4Bの蒸着材料については、下側本体部4Bの外側に設けられた冷却用ジャケット14に供給される冷却媒体により所定温度以下、例えば溶融温度以下で且つ性状劣化が少ない温度に冷却するようにしたので、蒸着材料が温度により性状劣化し易いものである場合でも、できるだけ性状が劣化するのを防止することができ、したがって長時間の運転が可能となる。
【0026】
簡単に言えば、蒸着材料の表面近傍だけが溶融温度以上に加熱されるが、表面近傍から下方の部分にあっては、当該蒸着材料の性状劣化温度より低い温度に維持することが可能となるので、長時間での運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る蒸着装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同蒸着装置における容器本体内の蒸着材料の温度分布図である。
【図3】本発明と比較するための容器本体内の蒸着材料の温度分布図である。
【符号の説明】
【0028】
1 蒸着室
3 蒸着用容器
4 容器本体
4A 上側本体部
4B 下側本体部
5 蒸発用容器
6 材料移送管
8 分散部材
11 調節弁
12 電熱線
13 移送管用温度検出器
14 冷却用ジャケット
15 冷却媒体供給管
16 容器用温度検出器
20 流量制御弁
22 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体に充填された蒸着材料を蒸発させる蒸発用容器および蒸発した蒸着材料を材料移送管を介して導き被蒸着部材の表面に蒸着させる蒸着用容器を具備する蒸着装置であって、
上記容器本体を上側本体部と下側本体部とに分割するとともに、上記下側本体部に蒸着材料を冷却する冷却手段を設け、
上記上側本体部と上記下側本体部との接続部分に断熱材を配置し、
上記材料移送管および上記上側本体部を加熱する加熱手段を設けるとともに、上記容器本体内に充填された蒸着材料を、上記加熱手段により加熱された材料移送管表面からの輻射熱および上記上側本体部に設けられた加熱手段により、加熱させるようにしたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
材料移送管の温度を検出する移送管用温度検出器および下側本体部の温度を検出する容器用温度検出器を設けるとともに、これら各温度検出器からの検出信号を入力して加熱手段および冷却手段を制御する制御部を具備したことを特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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