説明

蓄光式標識板及びその製造方法

【課題】本発明は、遠心成形法により、接着剤を一切使用しないで、PETフィルム層と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層とを、接着剤を使用せず積層一体化してるため、少ない工程で、なおかつ接着剤の養生を行う必要がなく、蓄光顔料の平均粒径が100μm以上の高輝度仕様を使用可能とした蓄光式標識板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】PETフィルム層と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層とが順次積層されており、前記各層間が接着剤を使用せず一体接合していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内標識板、安全標識板や安全誘導表示板等の蓄光式標識板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、通常の蓄光式標識板は、(JIS Z9107(安全標識板)の蓄光式標識板に記載されているように)透明保護層、デザイン表示、蓄光層、白色反射層の構造となっている。
この種蓄光式標識板は、蓄光顔料入りアクリル板の裏面側を接着剤(アクリル系接着剤)で白色アクリル板と接着し、表面側にデザインを印刷した透明ポリエチレンテレフタレートフィルム(以下PETフィルムと略称する)を接着して製作していた。
しかし、この様な方法は、作業工程が多く、また接着剤を使用しているため2〜3日の養生期間が必要であるという問題点を有していた。
【0003】
これを改善した方法として、白色PETフィルムに蓄光顔料入りアクリル樹脂を塗工し、養生後デザインを印刷した透明PETフィルムを接着する方法があるが、上記方法と同様に工程が多く、接着材の養生期間が必要であるという問題点は改善されていない。
更に改善した方法として、白色反射層と蓄光層を予め注型法で成形しておき、ついでこの蓄光層の上にデザインを印刷した透明PETフィルムを載置し、この上に接着用透明ウレタン材を流し込み一体化する方法が提案された(例えば特許文献1参照)。
しかし、この方法においても、作業工程が多く、接着剤を使用しているため、接着材の養生期間が必要であるという問題点は改善されていない。
【0004】
また、これらに使用する蓄光顔料の粒径は、通常平均粒径が20〜70μmである。
そして、蓄光顔料の粒径が大きいほど残光輝度が良好である点が報告されている。
しかし、平均粒径が100μm以上の蓄光顔料は、通常の注型法及びスクリーン印刷等の塗工では成形が困難であった。
これは、蓄光顔料の粒径が大きくなると、注型法における攪拌棒や、塗工法におけるスクレパーを短期間に摩耗損傷させる不具合を発生させるため、この様な方式により、平均粒径が100μm以上の蓄光顔料を含む製品の量産化は困難であった。
【特許文献1】実用新案登録第3121034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記したような事情に鑑みてなされたものであり、遠心成形法により、接着剤を一切使用しないで、PETフィルム層と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層とを、積層一体化しているため、少ない工程で、なおかつ接着剤の養生を行う必要がなく、蓄光顔料の平均粒径が100μm以上の高輝度仕様を使用可能とした蓄光式標識板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係る蓄光式標識板にあっては、PETフィルム層と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層とが順次積層されており、前記各層間が接着剤を使用せず一体接合していることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る蓄光式標識板の製造方法にあっては、遠心成形ドラムの内面にPETフィルム層を固定し、ついで前記PETフィルム層の内周面に樹脂材に蓄光顔料を混合しした蓄光材を流し込んで蓄光層を形成し、ついで蓄光層の内周面に樹脂材に白色顔料を混合した白色反射材を流し込んで白色反射層を形成した後、前記遠心成形ドラムより取り出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、以下に記載される効果を奏する。
請求項1記載の発明の蓄光式標識板によれば、各層間が接着剤を使用せず一体接合しているため、接着剤の養生期間が不要であるため、工期が短縮出来ると共に、接着剤の変色による不具合を排除できる。
請求項2記載の発明の蓄光式標識板によれば、夜間表示用として利用可能な耐光性に優れると共に、極めて長時間の残光特性を持続できる。
【0009】
請求項3記載の発明の蓄光式標識板によれば、意匠(デザイン)がPETフィルム層により保護されているため、床に使用されても、意匠が損傷することが無い。
請求項4記載の発明の蓄光式標識板によれば、接着剤を使用することなく、PETフィルム層と蓄光層とを強固に一体化出来る。
【0010】
請求項5記載の発明の蓄光式標識板によれば、PETフィルムの表面の傷つきをより確実に防止できる。
請求項6記載の発明の蓄光式標識板によれば、より高い発光性能と残光輝度を備えた蓄光式標識板とすることが出来、避難誘導標識として好適である。
【0011】
請求項7記載の発明の蓄光式標識板によれば、更に発光輝度を高めることが出来ると共に、蓄光式標識板の反りを改善できる。
請求項8記載の発明の蓄光式標識板の製造方法によれば、各層間が接着剤を使用せず一体接合しているため、接着剤の養生期間が不要であるため工期が短縮出来ると共に、蓄光顔料の不均一化を防止出来るため、輝度の低下を抑えることが出来る。
【0012】
請求項9記載の発明の蓄光式標識板の製造方法によれば、平板の製品を容易に得ることが出来る。
請求項10記載の発明の蓄光式標識板の製造方法によれば、接着剤を使用することなく、PETフィルム層と蓄光層とを強固に一体化出来る。
【0013】
請求項11記載の発明の蓄光式標識板の製造方法によれば、耐摩耗性が良好な製品とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
第1図に基づき発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明の実施例に係る蓄光式標識板を示す概略断面図である。
【0015】
本発明に係る蓄光式標識板は、PETフィルム層1と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層2と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層3とが順次積層されており、これら各層間には接着剤が使用されておらず、一体接合している。
樹脂材には、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等が適宜選択して用いられるが、熱硬化性ポリウレタンが特に好ましい。
PETフィルム層1の蓄光層2側の面には、避難口等の避難誘導のための表示を表した意匠11が施してある。
そして、このPETフィルム層1の意匠を施してある面側は、インク受容層が形成されている。このインク受容層は、ポリビニルアルコール若しくはアルコキシド化合物の加水分解―縮合反応した5〜20μmの樹脂層から成る。
また、PETフィルム層1の意匠を施してある面と反対側の面は、ハードコート処理(アクリルハードコート処理)されている。
このハードコート処理は、アクリレート系UV硬化樹脂で鉛筆硬度H2以上、厚み1〜5μmから成る。
【0016】
蓄光顔料としては、M−x Al−xで表わされる組成の化合物で、Mは、カルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にし、更にxを、−0.33≦x≦0.60の範囲にすると共に、賦活剤としてユウロピウムを、Mで表わす金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下添加し、さらに共賦活剤としてネオジウム、ジスプロシウム元素を、Mで表わす金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下添加したものが使用される。
特に、Sr Al:Eu、Dyで表される蓄光顔料が好適に使用される。
なお、蓄光顔料の平均粒径は、50〜250μmのものが好ましく、特に100μm以上の高輝度仕様であることが望ましい。
また、蓄光層2及び白色反射層3にはガラスビーズが混合されている。
このガラスビーズは、CaO−B−Al−SiOの低アルカリガラスで比重2.6、屈折率(nD)1.53〜1.57で蓄光顔料の粒径と同じものを使用した。
ついで、本実施例に係る蓄光式標識板の製造方法について説明する。
まず、遠心成形ドラム型の内面に、PETフィルム1を、両面テープを利用して固定する。このPETフィルムの内面には、意匠が印刷されており、インク受容層が形成されている。
ついでこのPETフィルム層1の内周面に、無黄変ウレタンプレポリマー100部、平均粒径150μmの蓄光顔料100部、平均粒径150μmのガラスビーズ100部、アミン系硬化剤10部を均一に混合した蓄光材を、型温度100℃、回転数100rpmで回転するPETフィルム上に流し込む。
【0017】
ついで、10〜15分経過して蓄光層2が形成された後、無黄変ウレタンプレポリマー30部、白色顔料1部、平均粒径150μmのガラスビーズ30部、アミン系硬化剤3部を均一に混合して、蓄光層2上に流し込み、白色反射層3を形成し、流し込みから20〜30分後に離型する。
ついで、遠心成形ドラムより取り出した成形品をカットした後、カット品を平坦な板に挟んで、100℃で3時間熱処理を施す。
【0018】
尚、ここで、蓄光層2が形成された後であっても、完全に硬化するまでの間に、次のウレタンプレポリマーを流し込むことが好ましい。
これは、未反応の反応基が存在している間に行うことにより、層間の接合が強固になるからである。
本実施例のウレタン材は、注型ウレタン材であり、プレポリマーと言われる反応基(−NCO)を持つ主材と硬化剤(アミン系)とが反応してポリウレタンになるものである。
【0019】
第1の混合物(蓄光材)を構成するウレタン材においては、主材と硬化剤とが混合され、注入された後、硬化することとなるが、未反応の反応基が存在している間に第2の混合物(白色反射材)が注入されることにより、第1混合物の未反応の反応基と第2混合物とが反応する。
これにより、第1混合物から成形された蓄光層2と、第2混合物とから形成された白色反射層が、より強固に一体化した成形物が成形されることとなる。
また、熱可塑性ポリウレタン材を使用しているため、蓄光式標識板が一定の柔軟性を備えており、平面以外の取付け面に対しても、取り付けが可能である。
具体的には、地下鉄、地下街の円柱に取付ける避難誘導標識や、その他曲率の異なる相手面に対しても柔軟に馴染むため、使用することが出来る。
更に、白色反射層側に両面テープ等の粘着層を設けておくことにより、蓄光式標識板を必要な箇所に簡単に取付けることが出来る。
【0020】
次に、次に、上記一実施の形態の実施例として、本発明の蓄光式表示板とその特性について説明する。
【実施例1】
【0021】
まず、遠心成形ドラム型の内面にPETフィルム1を、両面テープを用いて固定する。
このPETフィルムの内面には、意匠が印刷されており、インク受容層が形成されている。
つぎに、蓄光材の材料として、無黄変ウレタンプレポリマー(ユニマテック品番UE06−1)100部と、平均粒径D50が約250μmの蓄光顔料(TEST NO.PL250S−001蓄光顔料 根本特殊化学製)100部と、平均粒径D50が150μmのガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ社製)100部と、アミン系硬化剤(ユニマテック品番UE06−2)10部とを用意する。
これら蓄光材の材料を均一になるように充分に混合して得た蓄光材を、型温度100℃、回転数100rpmで回転する上記遠心成形ドラム型の、PETフィルムの内周面上に流し込む。
【0022】
ついで、約15分経過して蓄光層が形成された後、無黄変ウレタンプレポリマー30部、白色顔料(酸化チタン系白色顔料)1部、平均粒径D50が150μmのガラスビーズ30部、アミン系硬化剤3部を均一になるように充分に混合して、上記蓄光層上に流し込み、約30分後に白色反射層を形成した後に、離型し、成形品を得る。
得られた成形品を任意の大きさに切り出し、これを平坦な板に挟み、100℃で約3時間熱処理を施して、本発明の蓄光式表示板を得た。これの蓄光式表示板を実施例1とする。
【0023】
比較のため、従来の方法である注型法を用いて、蓄光式表示板を作成した。このとき、上記実施例1で用いた平均粒径D50が約250μmの蓄光顔料(TEST NO.PL250S−001蓄光顔料 根本特殊化学製)の他に、一般的な用途に利用される平均粒径D50が約30μmの蓄光顔料(品番:G−300M,根本特殊化学製)も用いたほかは、蓄光層の材料および白色反射層の材料は実施例1と同様のものを用いた。
金型にPETフィルムをおき、その上に混合した蓄光材を流し込み、硬化し蓄光層となった後に、さらに混合した白色反射層の材料を流し込み、硬化後離型した後、同様に100℃で3時間の熱処理を施して、蓄光式表示板を得た。このとき、平均粒径D50が約250μmの蓄光顔料を用いたものを比較例1、平均粒径D50が約30μmの蓄光顔料を用いたものを比較例2とした。
さらに比較のため、従来の別の方法であるキャスティング法を用いて、蓄光式表示板を作成した。このときのプレポリマーはポリ塩化ビニルを用いた。この場合の蓄光顔料は、キャスティング法では大粒子である平均粒径D50が約250μmの蓄光顔料を用いて製造するのが困難なため、平均粒径D50が約30μmの蓄光顔料のみを用いた。これを比較例3とした。
【0024】
得られた実施例1および比較例1ないし比較例3の蓄光式表示板について、励起条件としてD65標準光源で2001x、20分間で励起した際の残光輝度を測定した。
以上の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示した結果から明らかなように、注型法を用いた比較例1の場合、大粒子の蓄光顔料を用いた為に、蓄光顔料が偏りやすくなり、ムラが生じて外観が著しく悪くなった。
常時人の目にさらされる蓄光式表示板としては、外観にムラ等の問題があるものは採用できず、残光輝度にもムラがあるため、残光輝度も評価していない。
また、本発明の蓄光式表示板である実施例1は、比較例2および比較例3に比べていずれも高い残光輝度を有しており、蓄光式表示板として優れた特性を有していることがわかる。
本発明の蓄光式表示板は、蓄光顔料として例えば平均粒径D50が約250μmといった大粒子の蓄光顔料を用いることができ、蓄光顔料の含有量も大きくすることができる一方、蓄光顔料の均一性に優れ、好ましい外観を特つといった優れた特徴を有する。
また、本発明の蓄光式表示板は、従来の注型法を用いたものと比較して、量産性が高く、より低コストで製造することができる特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は本発明の実施例に係る蓄光式標識板を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1…PETフィルム
2…蓄光層
3…白色反射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)と、樹脂材に蓄光顔料を混合した蓄光層(2)と、樹脂材に白色顔料を混合した白色反射層(3)とが順次積層されており、前記各層間が接着剤を使用せず一体接合していることを特徴とする蓄光式標識板。
【請求項2】
前記蓄光顔料は、M−x Al−xで表わされる組成の化合物で、Mは、カルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素からなる化合物を母結晶にし、更にxを、−0.33≦x≦0.60の範囲にすると共に、賦活剤としてユウロピウムを、Mで表わす金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下添加し、さらに共賦活剤としてネオジウム、ジスプロシウム元素を、Mで表わす金属元素に対するモル%で0.001%以上10%以下添加したことを特徴とする請求項1記載の蓄光式標識板。
【請求項3】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)の前記蓄光層(2)側の面に意匠を施してあることを特徴とする請求項1記載の蓄光式標識板。
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)の意匠を施してある面側にインク受容層があることを特徴とする請求項1または2記載の蓄光式標識板。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)の意匠を施してある面と反対側の面がハードコート処理されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項記載の蓄光式標識板。
【請求項6】
前記蓄光顔料が平均粒径100μm以上であることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項記載の蓄光式標識板。
【請求項7】
前記蓄光層(2)及び白色反射層(3)にはガラスビーズが混合されていることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項記載の蓄光式標識板。
【請求項8】
遠心成形ドラムの内面にポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)を固定し、ついで前記ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)の内周面に樹脂材に蓄光顔料を混合しした蓄光材を流し込んで蓄光層(2)を形成し、ついで蓄光層(2)の内周面に樹脂材に白色顔料を混合した白色反射材を流し込んで白色反射層(3)を形成した後、前記遠心成形ドラムより取り出すことを特徴とする蓄光式標識板の製造方法。
【請求項9】
前記遠心成形ドラムより取り出した成形品をカットした後、前記カット品を平坦な板に挟んで一定時間熱処理を施すことを特徴とする請求項7記載の蓄光式標識板の製造方法。
【請求項10】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルム層(1)の前記蓄光層(2)と接する側の面がアンカー処理されていることを特徴とする請求項7または8記載の蓄光式標識板の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂材が熱硬化性ポリウレタンであることを特徴とする請求項7〜9いずれか一項記載の蓄光式標識板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−163022(P2009−163022A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−919(P2008−919)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(502145313)ユニマテック株式会社 (169)
【出願人】(390031808)根本特殊化学株式会社 (21)
【出願人】(000200666)泉株式会社 (24)
【Fターム(参考)】