説明

蓄光性樹脂組成物及び蓄光性成形体

【課題】蓄光表示は屋外や、屋内であっても一般に光線中に含まれる紫外線を受ける場所で、永年使用されるものであるため、耐候性に優れた樹脂でなければならない。エポキシ樹脂は一般に機械的性質、接着性、施工性などに優れ、広く使用されているが、太陽光や紫外線には弱く、強度が変化し、着色しやすい問題がある。蓄光材用の場合、樹脂の着色は成形物の光線透過率を著しく低下させるため大きな問題である。
【解決手段】特殊なエポキシ化合物を主剤とし、炭素シクロ環を有するジアミンであって不飽和結合を有しないものを硬化剤として用いるものであって、主剤及び硬化剤の合計100重量部に対して蓄光性顔料を15〜900重量部混合したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性樹脂組成物及び蓄光性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、地下鉄や地下街での災害時、また夜間の災害時に避難経路を示すものとして、壁面や床面に蓄光性の塗料で避難方向を描いたり、蓄光性の塗料で避難方向を明示するフィルム状物、シート状物あるいはプレートなどを貼ることが行われてきている。
このような蓄光性の塗料を利用したものは、付属するバッテリーや発光ライト等が不要であり安価であること、地震等によりほとんど破壊されても発光していること等が大きな利点である。
【0003】
この蓄光塗料による表示の問題点はその明るさと持続性である。この点については、JISで一定の基準が決められているが非常に低いものである。例えば、JISZ9107の最高グレードJDと第2のグレードJCの基準は次の通りである。蛍光灯D65、200Lxで20分間照射後、暗室中で残光輝度を測定した時の照射停止後の経時的な基準値を示す。単位はmcd/mである。
10分後 20分後 30分後 40分後
JC 210 100 62 30
JD 420 200 124 60
【0004】
この中で最高グレードの20分経過時に200mcd/mという数値は、従来は達成が非常に難しかった。よって、ほとんどがより低いグレードのもので実施されていた。
また、20分という基準も災害発生(停電)から20分あれば、安全な場所に避難できるだろうというもので、これも20分で完全とは言えない。
特許文献1の塗料も種々工夫されているが、その輝度は20分経過後で35〜44mcd/mである。これではJISの基準からすると非常に低いものであるが、2008年のJIS基準改正までは基準を満たしていたものである。
【0005】
また、蓄光材を薄く塗布するのではなく、厚く塗布して蓄光顔料の量を増加しようとしても、混合する樹脂の透明性が問題である。樹脂の透明性が悪ければ、蓄光顔料にエネルギーを与える外部から照射される光が十分透過されず、且つ蓄光顔料から光が照射される場合にもそれをある程度遮断することになる。
【0006】
更に、このような蓄光表示は屋外や、屋内であっても一般に光線中に含まれる紫外線を受ける場所で、永年使用されるものであるため、耐候性に優れた樹脂でなければならない。蓄光材粒子をバインダー樹脂と混合し、成形する場合、樹脂として種々の物が考えられる。エポキシ樹脂は一般に機械的性質(各種強度、耐久性など)、接着性、施工性などに優れ、広く使用されているが、太陽光や紫外線を含む光(蛍光灯など)には弱く、強度が変化し、着色しやすい問題がある。蓄光材用の場合、樹脂の着色は成形物の光線透過率を著しく低下させるため大きな問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−165203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、輝度が大きく、十分識別できる蓄光性樹脂組成物及び蓄光性成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような状況に鑑み、本発明者は鋭意研究の結果本発明蓄光性樹脂組成物及び蓄光性成形体を完成したものであり、その特徴とするところは、組成物については、化学式1で示されるエポキシ化合物を主剤とし、炭素シクロ環を有するジアミンであって不飽和結合を有しないものを硬化剤として用いるものであって、主剤及び硬化剤の合計100重量部に対して蓄光性顔料を15〜900重量部混合した点にあり、成形体にあっては、請求項1に記載の蓄光性樹脂組成物の硬化成形体の片側表面上に、化学式1で示されるエポキシ化合物である主剤、ジアミン硬化剤及び白色顔料からなる混合組成物の硬化物が密接した点にある。
【化1】

【0010】
ここで、化学式1で示されるエポキシ化合物は、従来使用されているビスフェノールAのような芳香族環がなく、その他の二重結合も有しないことが大きな特徴である。これは、飽和型であるため、紫外線やその他の条件により酸化、変色されることが少ない。
【0011】
また硬化剤としては、炭素シクロ環を有するジアミンであって不飽和結合を有しないものを使用する。炭素シクロ環とは、ヘテロ原子を含まない環状構造である。且つ分子中に不飽和結合を有しない。これは直鎖の二重結合、三重結合を有しないだけでなく、芳香環も有しないということである。
【0012】
このような硬化剤として、化学式2、3、4及び5のものが好適である。
化学式2のものは、1,3−BACと呼ばれるものである。
【化2】

【0013】
化学式3のものはイソフオロジアミン(IPDA)と呼ばれものである。
【化3】

【0014】
化学式4のものは、ノルボルナンジアミンと呼ばれるものである。
【化4】

【0015】
化学式5のものは、TCDジアミンと呼ばれるものである。
【化5】

【0016】
これらの硬化剤は1種で使用しても、複数混合して使用してもよい。
主剤だけでなく、硬化剤も二重結合を有しないものにしたことが大きなポイントである。
本発明では蓄光性顔料を使用するため、樹脂の透明性が非常に大きな問題である。上記した主剤と硬化剤の組み合わせによって非常に透明性の高い樹脂が得られることが分かったのである。
【0017】
従来一般的に使用されているエポキシ樹脂の場合、初期段階から透明性が悪い(淡黄茶色)。主剤が二重結合を含有していたり、硬化剤に着色性の不純物が含まれたりすると、光と酸素の作用により酸化されるようになり経時的に着色が強まって成形物の光線透過率は低下する。樹脂中の蓄光材への光の照射、蓄光材からの光の照射の両方に大きな影響を与えるため、透明性はこの種の製品にとって最も重要な性質である。
【0018】
主剤と硬化剤との混合比率は、主剤100重量部に対して硬化剤が25〜60重量部程度である。
【0019】
しかし、この主剤に、化学式6及び化学式7で示されるエポキシ化合物を混合してもよい。これは硬化速度を速くするためであり、工場で塗布硬化させる場合には問題はないが、冬場や寒冷地で現場施工する場合には混合してもよい。混合量としては、本発明のポイントである化学式1の特徴を失わないように、30重量%以下、好ましくは10重量%以下にするのが望ましい。勿論、まったく混合しない方がよいことは間違いない。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
蓄光性顔料としては、原則としてどのようなものでもよく、市販されているものでよい。顔料は、粉体で混合するのがよい。粉体のサイズは、限定はしないが平均粒径として20〜500μmが好適である。
この顔料と樹脂の混合比率は、樹脂100重量部に対して顔料が15〜900重量部、なかでも30〜800重量部が好適である。
【0023】
本発明の組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記したもの以外に通常混合する添加剤を混合してもよい。例えば、顔料の沈降を抑える沈降防止剤(チキソトロピー性付与剤等)や混合を容易にするための溶剤(硬化時にはほとんどが揮発してなくなる)、難燃性を付与する添加剤(水酸化アルミニウムなど)その他透明なガラスビーズ、ガラス粉砕物等があげられる。
【0024】
本発明蓄光性樹脂組成物の使用方法について説明する。
本発明蓄光性樹脂組成物を標語や避難経路を示す矢印、安全マーク等の形状の型枠を作成し、これに本発明の蓄光性樹脂組成物を流し込み、硬化させると蓄光性樹脂板が得られる。この時の板の厚みは、1〜10mmが好まれ、非常にりん光輝度の高い物となる。この蓄光性樹脂板はそのまま使用することもできるが、金属板やガラス板などと複合して補強したり、装飾性を上げたりしたプレートにしてもよい。このようなプレートは各種の場所に置く、貼る、つり下げる等の使い方ができる。
また、地下鉄や地下街などの路面、広場などで災害時の避難、誘導のために一定幅と深さの溝を切り、その中に現場施工によって本発明の蓄光性樹脂組成物を注入して硬化させ、避難用蓄光ラインを形成することができる。
【0025】
従来の塗料を塗布するタイプにも適用できるが、本発明の蓄光材組成物は厚いタイプの成形物に適しており、厚さ1〜50mm、好ましくは1.5〜25mmである。
【0026】
また、単に本発明蓄光性樹脂組成物でプレート以外に種々の形状、例えば装飾品、玩具、小物などの形状に成形したり、このような一般の物品の表面に塗布したものでもよい。1枚で意味がある形状のものはよいが、単純な形状のものでも、避難誘導の場合のように多数連続すれば明確な意味を示す物となる。
【0027】
また、本発明の蓄光性樹脂組成物を成形したり、塗布する場合、下層となる光線の反射層、反射板を設置するのが好ましい。蓄光性樹脂成形物は、太陽光や蛍光灯の光線を吸収して蓄光するが、光線が蓄光粒子にすべて吸収されるわけではなく一定量しか吸収されず残りは通過しているものと考えられる。これは蓄光した粒子から放射される光についても言えることで、見る人への方向と逆方向への放射光は明るさに寄与することができない。反射層、反射板の持つ意味はこの点にある。
反射層や反射板は、片側のみに設けるのが普通であるが、避難誘導板等がつり下げタイプや、看板のような地面設置タイプの場合、中間部に反射層や反射板がありその両側に蓄光層を設けてもよい。
【0028】
反射用の板あるいは層は光沢のある金属面を持つアルミ箔、銀箔、金属蒸着フィルム、ガラスの鏡などや白色表面を持つ紙類、フィルム類などがあり、白色顔料、例えば酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、アルミナ、酸化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化ウラニウムなどから選ばれた顔料の白色塗料の硬化物が反射層としてあげられる。なかでも最も有効なのは酸化チタンであり、ルチル型のものが好ましい。
【0029】
白色顔料使用の白色塗料の製造には樹脂を使用し、前述の蓄光性樹脂組成物中の樹脂成分と同じ物を使用するのが最も好ましい。その理由は、耐光性に優れ、着色し難いことおよび、反射層であっても光線の透過を妨げてはいけないからである。反射層部に他のエポキシ樹脂を使用し、顔料として酸化チタンを用いた場合、一定暴露条件下で本願に比べ約50mcd/m以上の残光輝度の低下が見られた。
【0030】
このように反射板として構成すれば、外部から照射された光が透過する代わりに底部で吸収されず、反射されるためより蓄光顔料に有効に吸収される。また、蓄光顔料が光を放射する場合も、底部(反射板)方向へ放射された光が系外に逃げることなく反射されて外部にでるためより輝度が大きくなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明蓄光性樹脂組成物(反射層を含むこともある)には次のような効果がある。
(1) 特殊な主剤と硬化剤の組み合わせによって、非常に透明性の高いエポキシ樹脂となっているため、輝度が非常に大きい。
(2) 輝度が大きい場合、災害時より安全に避難できることは当然である。
(3) 本発明の樹脂を使用することにより、厚く塗布、成形することができ、より輝度の高い物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下実施例に沿ってより詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
蓄光性樹脂組成物aの調整(本発明実施例)
主剤として本文中の化学式1で示される炭素シクロ環を有するエポキシ化合物を100重量部、硬化剤として1,3−BAC(化学式2で示されるか化合物)およびIPDA(化学式3で表される化合物)を各々同重量部の混合物50重量部とを混合し、さらに蓄光性顔料(ネモト・ルミマテリアル社製のG−300L160)を120重量部混合して調整した。
【0034】
組成物aから調整した蓄光性プレートA−1
型枠5cm×5cm×0.3cm(容積7.5cm)に組成物aを3mmの厚さで注型し、硬化させた。
【0035】
蓄光性樹脂組成物bの調整(従来例)
樹脂の調整は、主剤がビスフェノールA型エポキシ樹脂(本文中化学式6)100重量部、硬化剤として脂肪族ジアミン50重量部及び蓄光性顔料(ネモト・ルミマテリアル社製のG−300L160)120重量部を混合して調整した。
【0036】
蓄光性樹脂組成物bから調整した蓄光性プレートB−1
型枠5cm×5cm×0.3cm(容積7.5cm)に組成物bを3mmの厚さで注型し、硬化させた。
【0037】
反射性樹脂組成物w−1の調整(本発明の反射層を作成する樹脂)
樹脂の調整は上記a調整時の主剤、硬化剤と同じ物を同じ重量比で調整した物を使用した。酸化チタン(石原産業社製)はルチル型の物を使用した。酸化チタン含有率は組成物中15重量%とした。
【0038】
組成物aおよびw−1から調整の反射層付き蓄光性プレートA−2
型枠5cm×5cm×0.4cm(容積10.0cm)に組成物aを厚さ1mmまで注型し、硬化させたのち、その白色反射層の上に組成物aを厚さ3mm注型し、硬化させて厚さ4mmの反射層付き蓄光性プレートA−2を調整した。
【0039】
反射性樹脂組成物w−2の調整(従来例の反射層を作成する樹脂)
樹脂の調整は、主剤がビスフェノールA型エポキシ樹脂(本文中化学式6)100重量部、硬化剤として脂肪族ジアミン50重量部さらに酸化チタン(ルチル型)とを混合し、反射性樹脂組成物w−2を調整した。酸化チタンの含有率は15重量%である。
【0040】
組成物aおよびw−2から調整の反射層付き蓄光性プレートA−3
型枠5cm×5cm×0.4cm(容積10.0cm)に組成物w−2を厚さ1mmまで注型し、硬化後さらにその白色反射層の上に組成物aを厚さ3mm注型し、硬化させて厚さ4mmの反射層付き蓄光性プレートA−3を調整した。
【0041】
上記プレートの輝度を経時的に測定した。
その結果は次の表1の通りであった。測定は、JISにのっとりプレートを蛍光灯D65、200Lxで20分間照射後、暗室中で残光輝度(りん光輝度)を経過時間ごとに測定した。単位はmcd/mである。
表1
実施例1 比較例1
プレートNo. A−1 B−1
蓄光層 a b
10分後: 450 330
20分後: 243 185
60分後: 81 61
【0042】
りん光輝度の経過時間変化から本発明実施例1は比較例1に対して優位にあることは明白である。本発明樹脂は極めて透明性に優れているが、従来良く使用されている樹脂は明らかな着色が見られ、光によって着色は増大している。
【0043】
次に樹脂の耐候性(紫外線等による着色等)を調べた。
上記サンプルと同条件で調整したサンプルを約40mの室内で蛍光灯(40W)8本、2m下に設置し450時間照射した。
そして前記同様JISにのっとり暗室中で残光輝度(りん光輝度)を経過時間ごとに測定した。結果は次の表2の通りであった。
表2
実施例1 比較例1
プレートNo. A−1 B−1
蓄光層 a b
10分後: 452 270
20分後: 242 131
60分後: 82 39
【0044】
表2から分かるように、実施例1は長期間の紫外線受光の後にも、りん光輝度の低下は実質的に認められないが、比較例1のりん光輝度の低下は著しいことがわかる。
【0045】
次に、A−1同様にA−2、A−3を測定した。
結果は次の表3の通りである。
表3
実施例2 実施例3
プレートNo. A−2 A−3
蓄光層 a a
蓄光層 w−1 w−2
10分後: 725 579
20分後: 419 329
60分後: 148 112
【0046】
実施例2と実施例3の結果から明らかなように、反射層の設置により、りん光輝度の値は著しく高くなっている。しかし、実施例3の場合には、蓄光層が実施例2と同一で反射層に同じ強度の光が入ったにもかかわらず、りん光輝度が実施例2よりかなり低下していることは、反射層に用いられた樹脂が従来品であり、劣化・着色しているためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で示されるエポキシ化合物を主剤とし、炭素シクロ環を有するジアミンであって不飽和結合を有しないものを硬化剤として用いるものであって、主剤及び硬化剤の合計100重量部に対して蓄光性顔料を15〜900重量部混合したことを特徴とする蓄光性樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の蓄光性樹脂組成物の硬化成形体の片側表面上に、化学式1で示されるエポキシ化合物主剤、ジアミン硬化剤及び白色顔料からなる混合組成物の硬化物が密接したことを特徴とする蓄光性成形体。



【公開番号】特開2010−202813(P2010−202813A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51567(P2009−51567)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(592189376)オサダ技研株式会社 (23)
【出願人】(591167278)中外商工株式会社 (12)
【Fターム(参考)】