説明

蓄電システム及びその制御方法

【課題】仮想同期発電機のコンセプトを用いることで、分散型電源からの電力変動及び配電系統の周波数変動に基づいて配電系統へ供給する電力を適切に制御する
【解決手段】分散型電源と配電系統との間に設けられ、蓄電装置と、分散型電源の出力電力に対して蓄電装置の充放電を行う電力変換装置と、電力変換装置の充放電の制御を行う充放電制御装置とを備えた蓄電システムにおいて、分散型電源の電力を検出する分散型電源電力検出部と、蓄電装置の充電容量を算出する蓄電装置充電容量算出部と、蓄電装置充電容量算出部の出力に基づいて、蓄電システムを含めた分散型電源の出力指令値を算出する出力指令値算出部と、出力指令値算出部と分散型電源電力検出部との出力結果に基づいて、電力変換装置に対して蓄電装置の充電または放電指令値を出力する蓄電装置充放電指令部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタや二次電池などの蓄電装置を備えた蓄電システム及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、またエネルギーセキュリティの観点から再生可能エネルギーが世界的に導入されている。日本もその例外では無く、自然エネルギーとして代表的な太陽光発電について政府方針として2020年までに現状の20倍、約2800万kW、また2030年までには現状の約38倍、約5300万kWの導入計画がある。
【0003】
しかし、将来の太陽光発電の大量導入を想定すると次のような解決すべき課題が指摘されている。
1.逆潮流による配電系統の電圧上昇
2.大量導入時の余剰電力対策
3.天候変化に伴う短時間的出力変動
4.大量導入時、特に離島などの小規模自立系統における系統周波数調整能力不足
【0004】
これらの課題は基本的には太陽光発電が連系される電力システム側で対策を検討すべきことであるが、上記の3と4については電源側(太陽光発電側)にて実施できる対策も考えられる。なお、上述した1〜4の課題は、太陽光発電に限らず、風力発電などの自然エネルギー発電といった分散型電源一般に適用するものである。
【0005】
小規模自立系統の電源として設置された太陽光発電装置には、周波数及び電力出力安定化のために蓄電システムが設けられることがある。本発明は上記の3と4についての対策の一つを提供するものであり、上述の蓄電システムにおいて出力制御原理として仮想同期発電機(Virtual Synchronous Generator)のコンセプトに基づき蓄電システムの充放電制御を行うものである。
【0006】
この仮想同期発電機のコンセプトは2007年にスタートした 欧州の研究グループで提唱されている。オランダのエネルギー研究所の主導のもと、オランダ、ベルギー、ルーマニア、ドイツの大学、研究機関が研究に参画している。(例えば、非特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Driesen, K. Visscher, Virtual synchronous generators, 2008, Proceedings of the IEEE PES Meeting, 20-24 July, Pittsburgh, PA, USA
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した仮想同期発電機のコンセプトを用い、太陽光発電装置などの分散型電源を対象にして、蓄電システムの充放電の具体的制御方法を実現した例はまだ報告されていない。
【0009】
そこで、本発明は以上の点を考慮してなされたもので、仮想同期発電機のコンセプトを用いることで、分散型電源からの電力及び周波数を適切に制御することの可能な、蓄電システム及びその制御方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、分散型電源と配電系統との間に設けられた蓄電システムに適用される。そして、蓄電装置と、分散型電源の出力電力に対して蓄電装置の充放電を行う電力変換装置と、電力変換装置の充放電の制御を行う充放電制御装置とを備え、充放電制御装置は、分散型電源の電力を検出する分散型電源電力検出部と、蓄電装置の充電容量を算出する蓄電装置充電容量算出部と、蓄電装置充電容量算出部の出力に基づいて、蓄電システムを含めた分散型電源の出力指令値を算出する出力指令値算出部と、出力指令値算出部と分散型電源電力検出部との出力結果に基づいて、電力変換装置に対して蓄電装置の充電または放電指令値を出力する蓄電装置充放電指令部とを備え、電力変換装置は、蓄電装置充放電指令部からの出力に基づいて蓄電装置の充放電を行うことにより上述の目的を達成せんとしている。
【0011】
ここで、出力指令値算出部は、蓄電装置充電容量算出部により算出された蓄電容量と、予め定められた蓄電装置の蓄電容量基準値とを比較して、出力指令値を算出してもよい。
【0012】
また、蓄電装置充放電指令部は、出力指令値算出部により算出された出力指令値と、分散型電源電力検出部により検出された分散型電源の電力とを比較し、これらの差分を解消するように蓄電装置の充電または放電指令値を出力してもよい。
【0013】
さらに、蓄電装置をキャパシタとしてもよく、この場合、蓄電装置充電容量算出部は、キャパシタの電圧を検出して充電容量を算出してもよい。
【0014】
また、充放電制御装置は、配電系統の周波数を検出し、この配電系統の定格周波数との偏差を検出する系統周波数検出部を備えてもよく、この場合、出力指令値算出部は、系統周波数検出部の出力にも基づいて蓄電システムを含めた分散型電源の出力指令値を算出してもよい。
【0015】
さらに、系統周波数検出部は、検出された偏差に対して一定値の時定数を有するフィルタ処理を行い、さらに一定値の時間遅れを持たせた値を出力値としてもよい。
【0016】
また、本発明は、分散型電源と配電系統との間に設けられ、蓄電装置と、分散型電源の出力電力に対して蓄電装置の充放電を行う電力変換装置と、電力変換装置の充放電の制御を行う充放電制御装置とを備えた蓄電システムの制御方法に適用され、そして、分散型電源の電力を検出する分散型電源電力検出工程と、蓄電装置の充電容量を算出する蓄電装置充電容量算出工程と、蓄電装置充電容量算出工程による算出結果に基づいて、蓄電システムを含めた分散型電源の出力指令値を算出する出力指令値算出工程と、出力指令値算出工程と分散型電源電力検出工程との結果に基づいて、電力変換装置に対して蓄電装置の充電または放電指令値を出力する蓄電装置充放電指令工程とを備え、電力変換装置は、蓄電装置充放電指令工程の出力に基づいて蓄電装置の充放電を行うことにより上述の目的を達成せんとしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、仮想同期発電機のコンセプトを用いることで、分散型電源からの電力及び周波数を適切に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】同期発電機の動特性を説明するブロック線図である。
【図2】本発明の一実施形態である蓄電システムを示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法を説明するための動特性説明図である。
【図4】本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法を説明するための動特性説明図の他の例である。
【図5】一実施形態の蓄電システムにおける充放電制御装置の動作を説明するための図である。
【図6】一実施形態の蓄電システムの制御方法におけるPVアレイ出力と太陽光発電システム出力指令値との関係を示す図である。
【図7】一実施形態の蓄電システムの制御方法におけるPVアレイ出力と蓄電装置充電指令値、蓄電装置放電指令値との関係を示す図である。
【図8】一実施形態の蓄電システムの制御方法における配電系統周波数変化と太陽光発電システム出力指令値、蓄電装置充電指令値、蓄電装置放電指令値との関係を示す図である。
【図9】一実施形態の蓄電システムの制御方法において配電系統が電源喪失した際の対策を説明するための図であり、そのシミュレーション回路を示す図である。
【図10】図9に示すシミュレーション回路によるシミュレーション結果を示す図である。
【図11】一実施形態の蓄電システムの制御方法において配電系統の周波数が変化した場合の太陽光発電システム出力と蓄電装置のSOC変化とを算出したシミュレーション結果を示す図である。
【図12】一実施形態の蓄電システムの制御方法によるPVアレイ出力平滑化効果を説明するシミュレーションのための系統モデルを示す図である。
【図13】図11に示すシミュレーションモデルによるシミュレーション結果を示す図である。
【図14】本発明の他の実施形態である蓄電システムの制御方法を示す動特性説明図である。
【図15】本発明のまた他の実施形態である蓄電システムの制御方法を示す動特性説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明の実施形態を説明する前に、本発明の概念について説明する。本発明は、仮想同期発電機コンセプトに基づいた以下の二つの制御を実現する。
【0020】
(1)太陽光アレイなどの分散型電源の出力の短周期変動の平滑化制御
例えば、日射強度変動による太陽光アレイ出力の短周期変化を蓄電装置の充放電により補償し、平滑化された電力を交流に変換して連系された電力系統へ供給する。これは仮想同期発電機において、太陽光アレイ出力を原動機出力の変動と見なし、蓄電装置の充放電を機械的慣性のフライホイール効果と見なす制御を実現する。
【0021】
(2)系統周波数変動の抑制制御
連系する電力系統の容量に対して例えば太陽光発電導入量の割合が大きい場合、系統内の負荷変化に起因する系統周波数の変動に対して、系統周波数の調整容量の不足により系統周波数を一定範囲内に維持することが難しくなる。例えば電力需要が少ない小規模自立系統を有する離島にてディーゼル発電とともに太陽光発電が主要な電源である場合がこの条件に相当する。
【0022】
ディーゼル発電だけでなく、もし太陽光発電もその導入容量に応じて周波数制御の役割が分担できれば系統の安定運用のために望ましい。これを実現する一つのアプローチが蓄電装置の充放電作用に基づく仮想同期発電機模擬である。従来の同期発電機の周波数制御機能(回転速度制御機能)を有する仮想同期発電機と等価な制御方法を実現する。
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の蓄電システム及びその制御方法の実施形態について説明する。
【0024】
まず、本発明の発明者が本発明を想到するに至った契機である同期発電機の動特性について説明する。図1は、同期発電機の動特性を説明するブロック線図である。この図において、101は原動機出力、104は同期発電機出力であり、これらの差が発電機回転子を回転させようとする加速トルクとなり、回転速度変化102として現れる。図中では積分器2を用いて数学的に表現されている。回転速度変化102は電力システム3に対する位相角103の変化を生じて、それが同期発電機出力104を変化させる。図中では積分器4を用いて数学的に表現されている。同期発電機には回転速度変化102を解消するように速度制御系5が設備されており、この速度制御系5は、回転速度変化102を検出して原動機1に速度制御系出力信号105を与えてその出力を制御する。本発明の蓄電システム及びその制御方法は、図1に説明した同期発電機の動特性を蓄電システムの充放電制御により実現しようとするものである。
【0025】
図2は、本発明の一実施形態である蓄電システムを示すブロック図である。本実施形態の蓄電システムは太陽光発電システムに適用されたものである。この図において、27はPV(Photovoltaic:太陽電池)アレイであり、その直流出力はDC/AC変換装置29に入力されて交流に変換され、配電系統30に供給される。PVアレイ27は複数の太陽電池モジュールが組み合わされて一つの分散型電源として構成されたものである。ここに、個々の太陽電池モジュールの特性等は任意であり、本明細書ではその詳細な説明を省略する。DC/AC変換装置(インバータ)29は、PVアレイ27から出力され、後述する蓄電装置28から適宜充放電がされることで平滑化制御された直流電力を、商用電源(日本であれば定格周波数が50または60Hz)の単相または3相の交流電力に変換する。従来、PVアレイと配電系統との間にはPCS(Power Conditioning System:パワーコンディショナ装置)が設置され、電圧及び周波数制御が行われるとともに、商用電源に用いられる交流電力への変換が行われる。本実施形態においては、蓄電システム及びDC/AC変換装置29を含めて従来のパワーコンディショナ装置に相当すると考えることができる。
【0026】
28は蓄電装置であり、PVアレイ27からの出力直流電力の充放電を行う機能を持つ。蓄電装置28は、例えば二次電池やキャパシタから構成されうるが、頻繁な充放電を行うことを考慮すると、繰り返し充放電寿命及び正確な充電容量把握の観点から二次電池よりも優れた性能をもつキャパシタ、特に大静電容量が実現可能なスーパーキャパシタあるいはウルトラキャパシタと呼ばれる電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタが好適である。
【0027】
蓄電装置28の充放電は、この蓄電装置28とPVアレイ27の出力との間に配置されたDC/DC変換装置(コンバータ)33により行われる。このDC/DC変換装置33は、いわゆる双方向DC/DCコンバータであり、外部からの制御(本実施形態では後述する充放電制御装置24)に基づいて蓄電装置28の充電及び放電の動作を繰り返す。
【0028】
DC/DC変換装置33により制御される蓄電装置28の充放電は、充放電制御装置24により指令が行われる。この充放電制御装置24は、例えばCPU等のプロセッサとRAM、ROMなどの記憶装置(いずれも図略)を備え、記憶装置内に格納されたプログラムが実行されることで各種制御を実行できる構成となっている。そして、このプログラムが実行されることで、この充放電制御装置24内には、PVアレイ27の電力値を検出するPVアレイ電力検出部(分散型電源電力検出部)241、蓄電装置28の電圧を検出して、この蓄電装置28の充電容量(SOC:State of Charge)を算出する蓄電装置SOC算出部(蓄電装置充電容量算出部)242、配電系統30の周波数を測定してこの配電系統30の定格周波数(上述のように日本であれば50または60Hz)との偏差を検出する系統周波数検出部243、上述の蓄電装置28のSOCの基準値を出力するSOC基準値出力部244、これらPVアレイ電力検出部241、蓄電装置SOC算出部242、系統周波数検出部243及びSOC基準値出力部244の出力結果に基づいて、太陽光発電システムの出力指令値を算出する太陽光発電システム出力指令値算出部(出力指令値算出部)245、及び、この太陽光発電システム出力指令値算出部245から出力される指令値に基づいて、蓄電装置28の充放電を制御するための信号をDC/DC変換装置33に出力する蓄電装置充放電指令部246を備える。なお、SOC基準値出力部244が出力するSOC基準値は、一例として60〜80%の所定値とされる。この値は、適宜設定可能である。
【0029】
図3は太陽光発電システムを一例とした本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法を示す動特性説明図である。図3に示す動特性説明図は、図2に示す蓄電システムに適用されるものである。従って、同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を簡略化する。
【0030】
図3において、PVアレイ27の出力はDC/AC変換装置29を介して配電系統30に電力を供給している。PVアレイ27とDC/AC変換装置29の間にDC/DC変換装置33を介して蓄電装置28が接続される。DC/DC変換装置33は、充放電制御装置24の充電指令値25によりDC回路31から蓄電装置28へ充電し、また逆に放電指令値26により蓄電装置28からDC回路31へ放電する。充放電制御装置24はPVアレイ出力検出値11と後述する太陽光発電システム出力指令値16との差の電力値に基づいて動作する。なお充放電制御装置24の具体的な動作原理については図4を用いて後述する。
【0031】
蓄電装置28の充電容量(State of Charge, SOCと略す)は、それがキャパシタの場合、次式で示すように蓄電装置28の電圧を検出することで容易に、かつ精度良く検出することができる。これが図中のキャパシタSOC検出信号201であり、蓄電装置SOC算出部242により算出される。
【0032】
【数1】

ここで、Ecapacitorは充電電力、(Ws)ratedや(kWh)ratedは蓄電装置28の定格容量(Ws単位、kWh単位)、Cは静電容量(F)、Vc、Vcminはそれぞれ蓄電装置28の検出電圧(V)と定格最低電圧(V)である。
【0033】
もし、積分器19の出力信号204を無視した場合、SOC基準値出力部244が出力するSOC基準値14と蓄電装置SOC算出部242が算出するキャパシタSOC検出信号201とを比較して、その差信号が正の制御ゲイン15の入力となる。制御ゲイン15の出力信号202はキャパシタSOC検出信号201とSOC基準値14との差信号に制御ゲイン15を乗じたもので、その時の蓄電装置28の充電容量がSOC基準値14よりも大きい場合に正、その逆の場合に負の信号を得る。キャパシタ充電容量(SOC)は蓄電装置28の充電電力の時間積分に比例する。この関係は、図1の同期発電機の動特性を説明するブロック図において積分器2の動作と同じであることが容易に分かる。それ故、制御ゲイン出力信号202と図1の回転速度変化102とは対応関係にある。即ち、制御ゲイン出力信号202は同期発電機の等価的な回転速度変化に相当すると見なすことができる。ここで過渡ゲイン回路出力信号206を無視した場合、制御ゲイン出力信号202は回転速度相当信号203に等しく、積分器4を介して太陽光発電システム出力指令値16を得る。この出力指令値16は図1の同期発電機の場合の同期発電機出力104に相当するものである。なお、PVアレイ電力検出部241により検出されるPVアレイ出力検出値11は図1の原動機出力101に相当するものである。
【0034】
以上説明したように、図3に示す本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法において、積分器19の出力信号204と過渡ゲイン回路出力信号206を無視した場合には、図1の同期発電機の動特性を説明するブロック図において、速度制御系出力信号105を無視した場合と動特性が等価であることが分かる。
【0035】
図3において、配電系統30の系統周波数207が関与する場合について本実施形態の蓄電システムの制御方法を説明する。系統周波数検出部243の出力信号に制御ゲイン18を乗じて、その信号にハンチング抑制回路20からのハンチング抑制回路出力信号205を加算して積分器19の入力とする。積分器19の出力信号204はSOC基準値14とキャパシタSOC検出信号201の信号に加算されてその信号は制御ゲイン15の入力とされる。また同時に、系統周波数検出部243の出力信号は過渡ゲイン回路21に入力されて、過渡ゲイン回路21の出力信号206は制御ゲイン15の出力信号202に加算される。
【0036】
ここで、ハンチング抑制回路20は制御回路の不要な発振を防止して安定化を図る目的で使用するもので、数学的には比例要素と不完全微分要素などで容易に実現できる公知のものである。このハンチング抑制回路20を設けることにより、蓄電システムの充放電制御において発生する可能性のあるハンチング動作を事前に防止することが期待できる。過渡ゲイン回路21もハンチング抑制回路20と同様、比例要素と不完全微分要素などの組み合わせで構成される。
【0037】
積分器19の出力信号204は、同期発電機の動特性を説明する図1のブロック線図における、速度制御系出力信号105と等価的な役割を持たせるための信号である。なお、同期発電機の回転速度変化102に相当するのは、図3に示す本実施形態においては系統周波数検出部243の出力信号に対応する。図1の場合、速度制御系出力信号105は原動機1を介して積分器2の入力側に印加されるが、図3に示す本実施形態の場合には積分器2に相当する蓄電装置28の出力側に加算する形となるため、図1との等価性を持たせるために積分器19を導入した。これにより、系統周波数207が配電系統30の定格周波数より高めの時にはPVアレイ27の出力の一部を蓄電装置28に充電して配電系統30へ供給する電力を減らし、また逆に系統周波数207が配電系統30の定格周波数より低めの時には蓄電装置28から放電して、PVアレイ27の出力に加えて配電系統30へ供給する電力を増やして、太陽光発電システムの周波数変動の安定化に寄与することができる。また、過渡ゲイン回路21を介する制御ループは出力制御の応答性を改善するために付加したものである。これにより、制御応答効果を高めた太陽光発電システムの周波数変動の安定化に寄与することができる。
【0038】
図4は、本発明の一実施形態であるである蓄電システムの制御方法を示す図3の動特性説明図において過渡ゲイン回路21を除外した等価的な動特性説明図である。図4において積分器22を導入したが、これは蓄電装置28の充電容量(SOC)が次式の積分式で表されることによる。前述したように、蓄電装置28の充電容量(SOC)は蓄電装置28の充電電力を積分したものに等しい。蓄電装置28の充電容量を、太陽光発電システム全体の入出力電力の差で考えた計算式で表すと、
【0039】
【数2】

ここで、ΔParrayはPVアレイ27の出力電力の変化分、△Poutは太陽光発電システムの出力電力の変化分、(kW)ratedはPVアレイ27の定格出力であり、ここで(kWs)rated/(kW)rated=Heqとおいた。これを仮想同期発電機の等価慣性定数と定義する。
【0040】
説明を容易にするため、図3の過渡ゲイン回路21を無視して図1と対比しやすく図3を等価的に変形したのが、図4の等価的な動特性説明図である。これより、図3に示す本実施形態の蓄電システムの制御方法を示す動特性説明図と図1の同期発電機の動特性を説明するブロック図とは、制御ゲインの任意性があるものの、基本的に等価な動特性を有すると考えてよい。
【0041】
ここで、図2及び図3における充放電制御装置24の動作について説明する。図5は蓄電装置28の時々刻々の充放電電力の決定方法を示す。図3または図4における太陽光発電システム出力指令値16とPVアレイ27の出力11を元にして蓄電装置28の充電電力と放電電力を計算し、蓄電装置28とPVアレイ27の出力との間に設けられたDC/DC変換装置33を制御して充放電制御を行う。時刻tにおける太陽光発電システム出力指令値16の値をPcon(t)、またPVアレイ27の出力11の値をPpv(t)とすると、時刻tにおける蓄電装置の充電電力指令値Pcharge(t)と放電電力指令値Pdischarge(t)とは次のように計算される。
(a)Pcon(t)<Ppv(t)の時、Pcharge(t)=Ppv(t)-Pcon(t)、Pdischarge(t)=0
(b)Pcon(t)>Ppv(t)の時、Pcharge(t)=0、Pdischarge(t)=Pcon(t)-Ppv(t)
【0042】
つまり、本実施形態では、充放電制御装置24は、太陽光発電システム出力指令値16の値Pcon(t)とPVアレイ27の出力11の値Ppv(t)とを比較し、太陽光発電システム出力指令値16の値Pcon(t)がPVアレイ27の出力11の値Ppv(t)より小さければ、その差分値を充電電力指令値Pcharge(t)とし、太陽光発電システム出力指令値16の値Pcon(t)がPVアレイ27の出力11の値Ppv(t)より大きければ、その差分値を放電電力指令値Pdischarge(t)とし、結果的に、太陽光発電システム出力指令値16の値Pcon(t)とPVアレイ27の出力11の値Ppv(t)との差分を打ち消すように蓄電装置28に充放電を行わせるように制御している。この制御は、主に蓄電装置充放電指令部246の動作として実行される。
【0043】
図6は図5の動特性説明図による蓄電装置28の充放電動作の説明図である。太陽光発電システム出力指令値16とPVアレイ27の出力11とも時々刻々と変化するが、その大小関係に応じて、蓄電装置の充電電力と放電電力とが交互に入れ替わって変化する。この結果、太陽光発電システム出力をPsystem(t)とすると、
(a)Pcon(t)<Ppv(t)の時、Psystem(t)=Ppv(t)-Pcharge(t)=Pcon(t)
(b)Pcon(t)>Ppv(t)の時、Psystem(t)=Ppv(t)+Pdisrge(t)=Pcon(t)
【0044】
となって太陽光発電システム出力Psystem(t)は原理的に太陽光発電システム出力指令値16の値Pcon(t)に等しくなるように制御される。
【0045】
図7を用いて、PVアレイ27の出力が変動した場合の本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法について説明する。図7の上段にPVアレイ27の出力と太陽光発電システム出力指令値16の時間変化を示す。PVアレイ27の出力が太陽光発電システム出力指令値16よりも小さい期間には放電動作となり、逆にPVアレイ27の出力が太陽光発電システム出力指令値16よりも大きい期間には充電動作となり、太陽光発電システムの出力を一定に維持するように働く。
【0046】
図8を用いて、配電系統周波数が変動した場合の本発明の一実施形態である蓄電システムの制御方法について説明する。図8の上段に系統周波数の時間変化を示す。実際の周波数が商用電源の定格周波数(50または60Hz)よりも大きい期間には充電動作となり、逆に実際の周波数が定格周波数よりも小さい期間には放電動作となり、周波数変動を抑制する方向に働く。
【0047】
なお、従来の太陽光発電システム用のパワーコンディショナ装置には単独運転検出装置が組み込まれており、この単独運転検知装置は、配電系統側が電源喪失した場合において太陽光発電システムの単独運転移行を防止し、系統側の復旧を容易にする機能を有する。単独運転移行の際の急峻な周波数変化に応答して、本実施形態である蓄電システムの制御方法が高速に出力制御を行い、単独運転検出に支障を与えることを防止する対策として、周波数変化に対応する制御信号を下記のように制約を持たせることもできる。なお、以下の動作は、系統周波数検出部243の動作として行えば良い。
【0048】
(1)検出した周波数に1秒以上の時定数を持つ一次遅れ伝達関数を適用して急峻な変化を除去するようにフィルタリングする。
【0049】
(2)フィルタリング後の周波数信号に対して、さらに2秒以上の時間遅れ伝達関数(Time Delay)を適用してその出力を制御信号とする。従って、急峻な周波数変化があっても実際に制御に反映されるのは2秒後以降となる。
【0050】
図9に上記対策の簡単なシミュレーションモデル構成図、図10に周波数がステップ状に変化した場合の制御信号の応答例を示す。図10に示すように、制御信号は変化後2秒間は無反応であり、この間に単独運転検出機能は1秒以内で完了する。このようにフィルタリングと2秒以上の時間遅れ要素の適用により、単独運転検出機能との動作時間の棲み分けができる。
【0051】
図11〜図13は本発明の一実施形態である蓄電システムの応答をシミュレーションにより検証した例である。
【0052】
図11に本実施形態による周波数制御効果をシミュレーション例にて示す。系統周波数をステップ状に変化させて、本実施形態の蓄電システムを含む太陽光発電システムの出力応答、及び蓄電装置28のSOCの変化を模擬したものである。図11のシミュレーション例は、制御ゲインの値が次の場合のケースである。
【0053】
【数3】

ここで、Kbは図3または図4における制御ゲイン15、Heqは図4における積分器22の等価慣性定数、Kpは図3または図4における制御ゲイン18である。
【0054】
周波数が増加した場合には太陽光発電システムの出力を減少させ、逆に周波数が減少した場合には太陽光発電システムの出力を増加させて系統の需給不平衡に伴う周波数変化を抑制して系統安定化に貢献できることが分かる。
【0055】
小規模系統モデルを用いてPVアレイ27の出力変動に対する抑制効果のシミュレーション例を示す。図12はシミュレーションで用いた系統モデルである。太陽光発電システムの定格を4kWとし、ディーゼル発電機の容量9.3kVAおよび系統負荷量6.7kWについては全電源容量の約30%が太陽光発電システムの導入容量となるように調整して設定したケースである。系統は電源容量の約30%が太陽光発電システムの導入容量のケースである。図13はPVアレイ27の出力平滑化効果を説明するシミュレーション例である。
【0056】
シミュレーション結果より、PVアレイ27の出力が短周期で大きく変動しても本実施形態である蓄電システムの制御方法により、変動は平滑化され系統への影響を抑制していることが示された。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、天候変化に伴う短時間的出力変動の抑制、及び大量導入時、特に離島などの小規模自立系統における系統周波数調整能力不足に対して、電源側として系統安定運用に貢献できる新しいタイプの蓄電システムが提供できる。
【0058】
また、本実施形態は仮想同期発電機の概念に基づいており、その特徴は蓄電装置28の充電容量SOCを検出して制御するものであるので、充放電に際して蓄電装置28の充電容量の過多を考慮した制御が実現できるとともに、制御のためのパラメータ(制御ゲイン)が少ないためにシンプルな構成になっており、調整が容易である。
【0059】
なお、本発明の蓄電システム及びその制御方法は、その細部が本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の太陽光発電システムに適用することが可能である。
【0060】
例えば、配電系統との連系用インバータであるDC/AC変換装置が、出力電流を基準と比較する一般の電流制御形インバータである場合は図2及び図3に示す一実施形態がそのまま適用できるが、出力電圧を基準と比較する電圧制御形のDC/AC変換装置を採用した場合においては、配電系統側電圧位相を検出し、太陽光発電システムの出力目標値に相当する位相角を算出して、それを検出した配電系統側電圧位相に加算してインバータ出力電圧位相とすれば本発明を適用することができる。具体的には図3において太陽光電システム出力指令値16をDC/AC変換装置29に入力して太陽光発電システムの出力目標値とする。
【0061】
また、本発明の蓄電システム及びその制御方法は、上述の一実施例のように太陽光発電システムに用いられるばかりでなく、その細部が本発明の趣旨を逸脱しない範囲において太陽光発電以外の種々の直流発電システムに適用することが可能である。例えば、図2〜図4におけるPVアレイ27の代わりに、例えば燃料電池の発電部を用いても同じ効果が期待される。
【0062】
さらに、本発明の蓄電システム及びその制御方法は、上述の一実施例のように直流発電システムに用いられるばかりでなく、その細部が本発明の趣旨を逸脱しない範囲において直流発電システム以外の交流発電システムにも適用することが可能である。図14は図2及び図3におけるPVアレイ27の代わりに、例えば交流電源である風力発電機50を適用した場合を示す。この場合にはDC/DC変換器33の代わりにAC/DC変換器52を適用する。PVアレイ出力検出値11の代わりに風力発電出力検出値51を充放電制御装置24への入力信号とする。風力発電機の場合にはその出力変動を抑制することが本発明に期待される効果であるので、図14には図3における配電系統30からの周波数検出に基づく制御部分(18、21、206、207、243)は省略してある。
【0063】
さらに、本発明の蓄電システム及びその制御方法は、上述の一実施例のように発電システムに用いられるばかりでなく、その細部が本発明の趣旨を逸脱しない範囲において発電システム以外の所謂ハイブリッド蓄電システムにも適用することが可能である。図15は図2及び図3におけるPVアレイ27の代わりに配電系統30に連系するAC/DC変換装置52を、またDC/AC変換装置29の代わりに第二の蓄電装置53を適用した場合を示す。PVアレイ出力検出値11の代わりにAC/DC変換装置52の変換電力検出値54を充放電制御装置24への入力信号とする。このハイブリッド蓄電システム場合には蓄電装置28として充放電サイクル寿命に優れたリチウムイオンキャパシタなどの所謂スーパーキャパシタを選択し、第二の蓄電装置53としてエネルギー密度の高いリチウムイオン電池などの二次電池を選択して第二の蓄電装置53への充放電電力変動量を抑制することで、第二の蓄電装置53のサイクル寿命を延ばすこと第二の蓄電装置53への充放電電力変動を抑制することが図15に示す例に期待される効果である。従って、図15には図2における配電系統30からの周波数検出に基づく制御部分(18、21、206、207、243)は省略してある。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば直流発電システム、例えば太陽光発電システムが系統容量に対して大きな比率で連系される場合に配電系統の安定運用に電源として貢献することができる。また、交流発電システムやハイブリッド蓄電システムにおける出力変動を蓄電装置で吸収して安定した電力に変換する、平滑フィルタとして貢献することができる。
【符号の説明】
【0065】
11 PVアレイ出力検出値
14 SOC基準値
15 制御ゲイン
16 太陽光発電システム出力指令値
17 系統周波数変化
18 制御ゲイン
19 積分器
20 ハンチング抑制回路
21 過渡ゲイン回路
22 積分器
23 制御ゲイン
24 充放電制御装置
25 蓄電装置充電指令値
26 蓄電装置放電指令値
27 PVアレイ
28 蓄電装置
29 DC/AC変換装置
30 配電系統
50 風力発電機
51 風力発電出力検出値
52 AC/DC変換器
53 第二の蓄電装置
54 変換電力検出値
201 キャパシタSOC検出信号
202 制御ゲイン出力信号
203 回転速度相当信号
204 積分器出力信号
205 ハンチング抑制回路出力信号
206 過渡ゲイン回路出力信号
207 系統周波数
241 PVアレイ電力検出部
242 蓄電装置SOC算出部
243 系統周波数検出部
244 SOC基準値出力部
245 太陽光発電システム出力指令値算出部
246 蓄電装置充放電指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散型電源と配電系統との間に設けられた蓄電システムにおいて、
蓄電装置と、
前記分散型電源の出力電力に対して前記蓄電装置の充放電を行う電力変換装置と、
前記電力変換装置の充放電の制御を行う充放電制御装置とを備え、
前記充放電制御装置は、
前記分散型電源の電力を検出する分散型電源電力検出部と、
前記蓄電装置の充電容量を算出する蓄電装置充電容量算出部と、
前記蓄電装置充電容量算出部の出力に基づいて、前記蓄電システムを含めた前記分散型電源の出力指令値を算出する出力指令値算出部と、
前記出力指令値算出部と前記分散型電源電力検出部との出力結果に基づいて、前記電力変換装置に対して前記蓄電装置の充電または放電指令値を出力する蓄電装置充放電指令部とを備え、
前記電力変換装置は、前記蓄電装置充放電指令部からの出力に基づいて前記蓄電装置の充放電を行う
ことを特徴とする蓄電システム。
【請求項2】
請求項1記載の蓄電システムにおいて、
前記出力指令値算出部は、前記蓄電装置充電容量算出部により算出された前記蓄電容量と、予め定められた前記蓄電装置の蓄電容量基準値とを比較して、前記出力指令値を算出することを特徴とする蓄電システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置充放電指令部は、前記出力指令値算出部により算出された前記出力指令値と、前記分散型電源電力検出部により検出された前記分散型電源の電力とを比較し、これらの差分を解消するように前記蓄電装置の充電または放電指令値を出力することを特徴とする蓄電システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の蓄電システムにおいて、
前記蓄電装置はキャパシタであり、
前記蓄電装置充電容量算出部は、前記キャパシタの電圧を検出して前記充電容量を算出することを特徴とする蓄電システム。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の蓄電システムにおいて、
前記充放電制御装置は、前記配電系統の周波数を検出し、この配電系統の定格周波数との偏差を検出する系統周波数検出部を備え、
前記出力指令値算出部は、前記系統周波数検出部の出力にも基づいて前記蓄電システムを含めた前記分散型電源の出力指令値を算出する
ことを特徴とする蓄電システム。
【請求項6】
請求項5記載の蓄電システムにおいて、
前記系統周波数検出部は、前記検出された偏差に対して一定値の時定数を有するフィルタ処理を行い、さらに一定値の時間遅れを持たせた値を出力値とする
ことを特徴とする蓄電システム。
【請求項7】
分散型電源と配電系統との間に設けられ、蓄電装置と、前記分散型電源の出力電力に対して前記蓄電装置の充放電を行う電力変換装置と、前記電力変換装置の充放電の制御を行う充放電制御装置とを備えた蓄電システムの制御方法であって、
前記分散型電源の電力を検出する分散型電源電力検出工程と、
前記蓄電装置の充電容量を算出する蓄電装置充電容量算出工程と、
前記蓄電装置充電容量算出工程による算出結果に基づいて、前記蓄電システムを含めた前記分散型電源の出力指令値を算出する出力指令値算出工程と、
前記出力指令値算出工程と前記分散型電源電力検出工程との結果に基づいて、前記電力変換装置に対して前記蓄電装置の充電または放電指令値を出力する蓄電装置充放電指令工程とを備え、
前記電力変換装置は、前記蓄電装置充放電指令工程の出力に基づいて前記蓄電装置の充放電を行う
ことを特徴とする蓄電システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−46503(P2013−46503A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183204(P2011−183204)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構 新エネルギーベンチャー技術革新事業、委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】