説明

蓄電デバイス

【課題】アニオンをキャリアとして用いる新規の蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】蓄電デバイスは、正極と、アニオンを担持する含窒素有機ポリマーとケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするSiシートとが複合化した複合体を含む負極と、正極と負極との間に介在しアニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、アニオンの移動により充放電するものである。この負極は、複合体が分枝構造を有する含窒素有機ポリマーを含むものとしてもよい。また、負極は、ポリエチレンイミンを含窒素有機ポリマーとして含むものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、アニオンホスト材料を含む正極及び負極による収容が可能なアニオン電化キャリアを用いる二次電気化学セルであって、正極にCF、負極にLaなどの金属、アニオンとしてF-を用いるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2009−529222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、正極にアニオン担持材料を使用し、負極には金属を用いる電池系であり、放電は負極で、充電は正極で化学反応が進行する電池系であるため、サイクル特性やレイト特性に問題が生じることがあり、新たな蓄電デバイスの開発が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、アニオンをキャリアとして用いる新規の蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、含窒素有機ポリマーにアニオンを担持し、Siシートと複合化すると、アニオンをキャリアとして充放電を行うことができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の蓄電デバイスは、正極と、アニオンを担持する含窒素有機ポリマーとケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするSiシートとが複合化した複合体を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在し前記アニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、アニオンの移動により充放電するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蓄電デバイスは、アニオンをキャリアとして充放電することができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、正極に炭素材料、負極にポリエチレンイミンを用いて複合体を作製した蓄電デバイスでは、負極反応は、次式(1)で表され、正極反応は、次式(2)で表すことができる。充電では、負極に担持されていたアニオンが正極へ移動し、放電では、正極に保持されたアニオンが再び負極へと移動する。このように、キャリアであるアニオンの移動が起こり、蓄電デバイスとして作用するものと推察される。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の蓄電デバイスの作動原理を示す模式図。
【図2】Siシートと含窒素有機ポリマーとの複合体の一例を示す模式図。
【図3】Siシートを含む層状ポリシランの模式図。
【図4】複合体のIRスペクトル。
【図5】複合体のX線回折測定結果。
【図6】複合体の電子顕微鏡(SEM)写真。
【図7】複合体のEDX測定結果。
【図8】実施例1の蓄電デバイスの充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の蓄電デバイスは、正極と、アニオンを担持する含窒素有機ポリマーとケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするSiシートとが複合化した複合体を含む負極と、正極と負極との間に介在しアニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えアニオンの移動により充放電するものである。図1は、本発明の蓄電デバイスの作動原理を示す模式図である。図1では、正極には炭素材料を用い、カチオンをA、アニオンをBとして表記し、含窒素有機ポリマーとしてポリエチレンイミン、アニオンとしてテトラフルオロホウ酸を一例として示した。なお、図中のm、n、xは任意の数である。この蓄電デバイスでは、放電時には負極にアニオンを吸蔵し、充電時には負極からアニオンを放出するものである。具体的には、例えば、放電時には含窒素有機ポリマーの窒素の部位にアニオンが結合して負極活物質が酸化され、充電時には含窒素有機ポリマーの窒素の部位からアニオンが脱離して負極活物質が還元されると考えられる。このとき、リザーブ型の反応を生じたり、電気二重層による静電容量を生じていてもよい。この蓄電デバイスでは、放電時には正極からアニオンを放出し、充電時には正極にアニオンを吸蔵すると考えられる。
【0013】
本発明の蓄電デバイスにおいて、正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、アニオンを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や金属酸化物などが挙げられる。炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、活性炭などが挙げられ、黒鉛を主成分とするものであることが好ましい。ここで、「黒鉛を主成分とする」とは、黒鉛を50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上含むものとすることができる。このようなものであれば、非晶質炭素を含んでいてもよいし、その他の活物質を含んでいてもよい。黒鉛としては、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などが挙げられるが、人造黒鉛であれば、蓄電デバイスの電位をより高めることができ、エネルギー密度を高めることができる点で好ましい。更に、アルカリ賦活した人造黒鉛を用いると、黒鉛の層間が広がりイオンの出入りが容易となり出力特性が向上するため、好ましい。具体的には、NaやKなどのアルカリを黒鉛に添加し、不活性雰囲気中、600℃〜1000℃の高温で処理することにより、アルカリ賦活することができる。正極活物質として炭素材料を用いれば、アニオンを可逆的に吸蔵放出しやすく、好ましい。
【0014】
導電材は、電極性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。正極の集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0015】
本発明の蓄電デバイスにおいて、負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の電極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質は、アニオンを担持する含窒素有機ポリマーとケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするSiシートとが複合化した複合体を含む。図2は、Siシートと含窒素有機ポリマーとの複合体の一例を示す模式図である。なお、図中のm、nは任意の数である。図2に示すように、複合体は、含窒素有機ポリマーとSiシートとが結合した構造を有するものとしてもよい。また、含窒素有機ポリマーの窒素にアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。含窒素有機ポリマーは、窒素を材料内に含むポリマーであれば特に限定されず、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、このうちアニオンの吸蔵密度の観点から、ポリエチレンイミンが好ましい。含窒素有機ポリマーは、アニオンを担持でき、Siシートと反応可能な部位(例えば−OH、−NHR、−CR1=CR2など)をもつことが好ましい。なお、R,R1,R2は、官能基であり、鎖状(直鎖でもよいし分岐鎖を有していてもよい)の炭化水素基や、環状の炭化水素基などが挙げられる。また、「アニオンを担持した含窒素有機ポリマー」とは、含窒素有機ポリマーにアニオンをドープさせてもよいし、アニオンドープポリマーを用いてもよい。また、含窒素有機ポリマーは、二重結合を有していてもよいし、有していないものとしてもよい。充電時の電荷はSiシートでバランスをとることができる。含窒素有機ポリマーの分子量は、特に限定されないが2000以上100000以下の範囲であることが好ましい。担持するアニオンの種類は、特に限定されず、例えば、ハロゲン、カルコゲン、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ビス(トリフルオロメタンスルホン酸)イミドなどが挙げられ、このうち、充放電時の移動性の観点からテトラフルオロホウ酸(BF4-)がより好ましい。この含窒素有機ポリマーは、イオン伝導媒体(溶媒)に対して難溶化処理されているものが好ましい。難溶化処理としては、イオン伝導媒体への含窒素有機ポリマーの溶解性を低下させることができれば特に限定されず、例えば、ポリマーの加熱処理による熱分解や架橋剤による縮合などが挙げられ、このうち架橋剤による縮合処理がより好ましい。即ち、窒素含有ポリマーは、分枝構造を有するものとすることが好ましい。なお、難溶化処理として加熱処理を行う場合は、例えば100℃以上500℃以下の温度範囲で行うものとしてもよい。
【0016】
負極に含まれる複合体は、例えば、層状ポリシラン(Si66)と、含窒素有機ポリマーとを混合して反応させて得るものとしてもよい。反応方法は、化学反応の種類(例えばアルコキシ化、アミノ化、ヒドロシリル化など)や、液相、固相などは特に問わない。この複合体では、例えば、層状ポリシランの積層構造が消失する、即ち層状ポリシランに含まれるSiシート構造がランダムな状態で固定化されているものとしてもよい。図3は、複数のSiシートからなる層状ポリシランの模式図である。層状ポリシランは、図3に示すように、ケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするシート構造が、層状に形成されたものである。層状ポリシランは、二ケイ化カルシウムを−30℃で濃塩酸処理することで得ることができる。この層状ポリシランにおいて、ケイ素原子と結合するのは、水素であることが好ましいが、一部が他の元素や官能基などであるものとしてもよい。層状ポリシランと含窒素有機ポリマーとを混合して反応させる際には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトンなどの有機溶媒と混合してもよい。層状ポリシランの分散性をより高めることができるからである。この有機溶媒は無水物であることが好ましい。層状ポリシランは、水と反応しやすいからである。このようにして、複合体を得ることができる。
【0017】
負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0018】
本発明の蓄電デバイスのイオン伝導媒体としては、アニオンを伝導可能なものを用いることができ、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。このイオン伝導媒体は、イオン液体やカーボネート系などの有機溶媒を含むものとしてもよく、負極活物質に含まれる含窒素有機ポリマーに担持されたものと同種のアニオンを含むものが好ましい。また、カーボネート系の有機溶媒を含むものとすれば、低温での凍結などを防止し、低温での出力特性などの低温特性をより良好にすることができる。また、カーボネート系の有機溶媒を添加すれば、粘度を低下させて出力特性を良好にすることができる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0019】
イオン液体は、常温で溶融しているカチオンとアニオンとの塩であるが、カチオンとしては、イミダゾリウム、アンモニウム、コリン、ピリジニウム、ピペリジニウムなどが挙げられる。イミダゾリウムとしては、1−(ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウム等が挙げられ、アンモニウムとしては、N,N−ジメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等が挙げられ、ピリジニウムとしては、1−ブチル−3−メチルピリジニウムや1−ブチルピリジニウム等が挙げられ、ピペリジニウムとしては、1−エチル−1−メチルピペリジニウム等が挙げられる。また、アニオンとしては、TFSI-やBETI-等のイミドアニオンのほか、BF4-、ClO4-、PF6-、Br-、Cl-、F-等の無機アニオンが挙げられる。このうち、アニオンをテトラフルオロボレートとすれば、蓄電デバイスをより軽量化することができる。また、アニオンをTFSI-とすれば充放電特性をより高めることができる。アニオンをBF4-とするものとしては、具体的には、ジエチルメチル(2メトキシエチル)アンモニウム・BF4などが挙げられる。アニオンをTFSIとするものとしては、具体的には、N−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:PP13TFSI)、1−エチル−3−メチル−イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:EMITFSI)、N,N,N−トリメチル−N−プロピルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(略称:TMPATFSI)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。このうち、PP13TFSIが好ましい。イオン液体と有機溶媒とを混合して用いる場合、イオン液体の濃度は、0.5M以上2.0M以下が望ましい。
【0020】
本発明の蓄電デバイスに含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることが好ましく、0.7mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.5mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、2.0mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0021】
本発明の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ガラス繊維製のガラスフィルタや、ポリプロピレン製不織布、ポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。このうち、ガラスフィルタであれば、例えばBF4
のイオン液体などの電解液との濡れ性が良好であり、アニオンの移動を円滑にすることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
【0023】
以上詳述した本実施形態の蓄電デバイスでは、アニオンを担持した含窒素有機ポリマーとSiシートとが複合化した複合体を負極に含んでおり、アニオンの移動により充放電することができる。また、本発明の蓄電デバイスでは、アニオンをキャリアとして用いる蓄電デバイスであるため、例えばLiイオン電池などに比して、過負荷によるショートなどの発生を著しく低くすることができる。更に、蓄電系はキャパシタ的な挙動でアニオンの出し入れを行うため、高出力が期待される。容量は含窒素有機ポリマーに担持する量や用いるアニオンによって変化させることも容易に可能であり、高容量蓄電デバイスの構築も可能である。更にまた、構成される電極はいずれも大気中で安定であるため、その製造過程も非常に容易である。そしてまた、電極の構成元素に金属および金属酸化物材料を使用しなければ、電池の廃棄時の処理に関しても簡便に行うことができると考えられる。
【0024】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0025】
以下には、本発明の蓄電デバイスを具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0026】
[実施例1]
まず、複合体の合成に用いる層状ポリシラン(Si66)を以下のように合成した。この合成は、−30℃に冷却した濃塩酸100ml中へ二ケイ化カルシウム(CaSi2)3gを添加し、1週間、−30℃の暗室で静置した。この処理で、黒色の二ケイ化カルシウムは黄色へ変化した。この黄色固体をAr雰囲気下で加圧ろ過し、脱気塩酸(−30℃)で洗浄し、脱気HF(フッ化水素)水溶液(−30℃)で洗浄し、さらに脱気アセトン(−30℃)で洗浄し、110℃で一晩減圧乾燥して層状ポリシランを合成した。合成した層状ポリシランを以下の実施例の合成に用いた。この層状ポリシランの合成の化学反応式を式(3)に示す。
【0027】
(化3)
3CaSi2+6HCl→Si66+3CaCl2 …(3)
【0028】
ポリエチレンイミン50%水溶液1.0gを氷浴で0℃に設定し、テトラフルオロホウ酸(HBF4)1.558gをゆっくり滴下した。これを室温に昇温し、18時間撹拌した。得られた混合物から水を真空除去することでBF4-が担持された含窒素有機ポリマーを得た。次に、上記合成した層状ポリシラン50mgと上記BF4-担持含窒素有機ポリマー75mgとに不活性雰囲気下でN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を加え、60℃、18時間、加熱撹拌した。得られた混合物からDMFを真空除去し、その後110℃で30分加熱を行うことで、実施例1のSiシート/含窒素有機ポリマー複合体を120mg得た。
【0029】
[IRスペクトル測定]
図4は、実施例1の複合体のIRスペクトルである。IRスペクトルは、IR測定装置(ニコレー社製Magna760型フーリエ赤外分光計)を用いてKBr法で行った。図4に示すIRスペクトルでは、Si−N結合の伸縮振動が925cm-1に観測されたことから、本材料はSi−N結合によって複合化された材料であることが示された。またSi−H結合やN−H結合があることから、すべての反応点が反応したわけではないことが示された。アニオンを担持するアンモニウム由来のN+−H結合の伸縮振動も3200cm-1に観測されていることから、アニオンが担持されていることが示唆された。
【0030】
[X線回折測定]
図5は、実施例1の複合体のX線回折測定結果である。X線回折は、リガク社製RINT−TTRにより、線源にはCuKα線を用いて行った。図5に示すように、得られた複合体のXRDを測定したところ、アモルファス構造を示し、層状ポリシラン特有の積層構造に由来する(00l)の回折ピークを確認することができなかった。以上のことから、Siシートは含窒素有機ポリマーの中にランダムに固定化されていることが示唆された。
【0031】
[電子顕微鏡(SEM)観察]
Siシート/含窒素有機ポリマー複合体のSEM像を観測した。SEM観察は、HITACHI社製S−3600Nを用いて行った。図6は、実施例1の複合体の電子顕微鏡(SEM)写真である。図6に示すように、板状の構造物を確認できることから、Siシートの構造そのものは維持されていることを確認した。また、SEM観察時に、Siシート/含窒素有機ポリマー複合体のEDX組成分析を行った。図7は、実施例1の複合体のEDX測定結果である。EDX組成分析では、Siシート由来のケイ素、含窒素有機ポリマー由来の窒素のほか、アニオン由来のフッ素を観測した。以上の事から、Siシート/アニオン担持含窒素有機ポリマー複合体の合成に成功したことを確認した。
【0032】
[蓄電デバイスの作製]
実施例1のSiシート/アニオン担持含窒素有機ポリマー複合体7mg、活性炭(ECP)2.5mg、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)0.5mgを混合して集電体であるメッシュに押しつけることで負極とした。正極は、集電体であるアルミ箔に20mgのグラファイトをバインダーに塗布、加熱処理して作製した。電解液はLiBF4を支持塩として、炭酸プロピレンに溶解させ、1mol/Lの濃度に調製したものを用いた。セパレータはグラスフィルターを使用した。作製したセルを実施例1の蓄電デバイスとした。図8は、実施例1の蓄電デバイスの充放電曲線である。図8に示すように、実施例1の蓄電デバイスは、充放電し、且つサイクルを重ねるごとに容量が安定していき、20サイクル後の充電が活物質あたり400mAh/g、放電が120mAh/gという容量を示した。この充放電は、上述した式(1)の負極反応及び式(2)の正極反応により行われるものと推察された。このように、アニオンを用いる新規な蓄電デバイスを開発することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、
アニオンを担持する含窒素有機ポリマーとケイ素原子で構成された六員環が複数連なった構造を基本骨格とするSiシートとが複合化した複合体を含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在し前記アニオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備え、
アニオンの移動により充放電する、蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極は、前記複合体が分枝構造を有する前記含窒素有機ポリマーを含む、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極は、ポリエチレンイミンを前記含窒素有機ポリマーとして含む、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221885(P2012−221885A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89336(P2011−89336)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】