説明

蓄電装置及びその作製方法、並びに二次電池及びキャパシタ

【課題】容量が大きい負極活物質層を得ること、及び、特性(例えばサイクル特性)が向上された蓄電装置を得ること課題とする。
【解決手段】集電体の表面に負極活物質として結晶性珪素膜が設けられ、前記結晶性珪素膜の表層部に導電性酸化物が含まれている負極を有する蓄電装置に関する。あるいは、集電体上に、非晶質珪素膜を形成し、前記非晶質珪素膜の表面に、前記非晶質珪素の結晶化を促進する触媒元素を添加し、前記触媒元素が添加された非晶質珪素膜を加熱することにより、前記非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成し、前記結晶性珪素膜を負極活物質層として用いる蓄電装置の作製方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示される発明の一様態は、蓄電装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境技術の高まりにより、従来の発電方式よりも環境への負荷が小さい発電装置(例えば、太陽光発電)の開発が盛んに行われている。発電装置の開発と並行して蓄電装置(あるいは蓄電デバイスともいう)の開発も進められている。
【0003】
蓄電装置の一つとして、二次電池、例えば、リチウムイオン二次電池(また、リチウムイオン蓄電池、あるいは単に、リチウムイオン電池、さらにあるいはリチウムイオンバッテリともいう)が挙げられる(特許文献1参照)。リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高く、小型化に適しているため広く普及している。
【0004】
また、同様に蓄電装置の一つとして、キャパシタの開発も進められている。このようなキャパシタの一つとして、例えばリチウムイオンキャパシタが挙げられる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−299580号公報
【特許文献2】特開2008−294314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような蓄電デバイスは、正極集電体と正極活物質を有する正極、負極集電体と負極活物質を有する負極、及び電解質を有する。
【0007】
特にリチウムイオン二次電池において、負極活物質として、黒鉛(例えば層状黒鉛)が代表的である。しかしながら、黒鉛のような炭素(C)材料よりも、珪素(Si)材料の方が容量が10倍大きいので負極活物質として有用である。
【0008】
上記問題を鑑み、開示される発明の一様態は、リチウムイオン二次電池に代表される蓄電装置において、容量が大きい負極活物質層を得ることを課題の1つとする。
【0009】
また開示される発明の一様態は、特性(例えばサイクル特性)が向上された蓄電装置を得ることを課題の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
開示される発明の一様態は、負極活物質層を有する蓄電装置であって、負極活物質層として結晶性珪素膜を有し、かつ、負極活物質層の最表面に導電性酸化物を有する。
【0011】
珪素材料を負極活物質として用いた場合、結晶性珪素を用いるとサイクル特性等の電池特性が良好となる。非晶質珪素よりも結晶性珪素の方がキャリアイオンであるリチウムイオンの拡散が速いからである。
【0012】
結晶性珪素は、非晶質珪素を加熱により結晶化させることによって得ることが可能である。この場合、結晶性珪素の表面が酸化して導電性が低下しないように、該結晶性珪素に導電性酸化物を含ませておく。導電性酸化物は結晶性珪素の表層部側に多く含まれるようにすることが好ましい。このような構成とすることで、結晶性珪素を負極活物質として用いる場合に、該結晶性珪素の表層部が酸化しても負極としての導電性が低下するのを防ぐことができる。
【0013】
このような負極は、以下のようにして得ることが可能である。まず非晶質珪素膜の表面に、結晶化を促進する触媒元素、例えばニッケル、を添加する。触媒元素が添加された非晶質珪素膜を加熱することにより、非晶質珪素膜を結晶化させ、結晶性珪素膜を得る。得られた結晶性珪素膜を負極活物質層として用いることにより、キャリアイオンの拡散が速い負極活物質層を得ることができる。
【0014】
触媒元素は結晶化のための加熱工程の際に非晶質珪素膜中を移動し、結晶性珪素膜の表面に偏析する。触媒元素としてニッケルを用いた場合、加熱工程により結晶性珪素膜の最表面に酸化ニッケルが形成される。
【0015】
酸化ニッケルは導電性酸化物である。このような最表面に導電性酸化物が形成された結晶性珪素膜を負極活物質層として用いると、蓄電装置の特性(例えばサイクル特性)が低下するのを抑制することができる。
【0016】
開示される発明の一様態は、集電体の表面に負極活物質として結晶性珪素膜が設けられ、前記結晶性珪素膜の表層部に導電性酸化物が含まれている負極を有することを特徴とする蓄電装置に関する。
【0017】
開示される発明の一様態は、集電体の表面に負極活物質として結晶性珪素膜が設けられ、前記結晶性珪素膜の表層部に導電性酸化物が含まれており、前記導電性酸化物は前記結晶性珪素膜の深さ方向の分布において該表層部に近いほど高濃度になっている負極を有することを特徴とする蓄電装置に関する。
【0018】
前記導電性酸化物は、酸化ニッケル、酸化銅、酸化インジウム、酸化スズ及び酸化銀から選択される一種又は複数種である。
【0019】
開示される発明の一様態は、上記記載の負極と、正極集電体と正極活物質層とを有する正極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有することを特徴とする二次電池に関する。
【0020】
前記正極活物質層は、A(h>0、i>0、j>0)で表される材料を有し、前記Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムであり、前記Mは遷移金属であり、前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含む。
【0021】
前記正極活物質層は、APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料を有し、前記Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ベリリウム(Be)、又はマグネシウム(Mg)であり、前記Mは遷移金属であり、前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含む。
【0022】
開示される発明の一様態は、上記記載の負極と、正極集電体と正極活物質層とを有する正極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有することを特徴とするキャパシタに関する。
【0023】
前記正極活物質層は、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセンのいずれかを含み、前記負極活物質層は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンが導入され、前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含む。
【0024】
開示される発明の一様態は、集電体上に、非晶質珪素膜を形成し、前記非晶質珪素膜の表面に、前記非晶質珪素の結晶化を促進する触媒元素を添加し、前記触媒元素が添加された非晶質珪素膜を加熱することにより、前記非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法に関する。
【0025】
開示される発明の一様態は、集電体上に、非晶質珪素膜を形成し、前記非晶質珪素膜の表面に、前記非晶質珪素の結晶化を促進する触媒元素を含む溶液を添加し、前記触媒元素を含む溶液を、前記非晶質珪素膜の表面に均一に保持し、前記触媒元素が保持された非晶質珪素膜を加熱することにより、前記非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法に関する。
【0026】
前記触媒元素は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、銀(Ag)のいずれか1つの元素、あるいは2つ以上の元素である。
【発明の効果】
【0027】
開示される発明の一様態では、容量の大きい珪素を負極活物質層として用いることができる。またキャリアイオンの拡散が速い、結晶性珪素の負極活物質層を得ることができる。またこのような負極活物質層を用いることにより、特性(例えばサイクル特性)のよい蓄電装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】蓄電装置の作製工程を示す断面図。
【図2】蓄電装置を示す断面図。
【図3】蓄電装置の作製工程を示す断面図。
【図4】蓄電装置を示す断面図。
【図5】蓄電装置の作製工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本明細書に開示された発明の実施の態様について、図面を参照して説明する。但し、本明細書に開示された発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本明細書に開示された発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に示す図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0030】
[実施の形態1]
本実施の形態の蓄電装置及びその作製方法を、図1(A)〜図1(F)、図2(A)〜図2(C)、図3(A)〜図3(B)、図4(A)〜図4(C)、図5(A)〜図5(C)を用いて説明する。
【0031】
負極集電体101上に、負極活物質層104の前駆体である非晶質珪素膜102を形成する(図1(A)参照)。
【0032】
負極集電体101は、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等の単体あるいは化合物を用いればよい。
【0033】
本実施の形態では、プラズマCVD法やLPCVD法により、非晶質珪素膜102を成膜する。
【0034】
また非晶質珪素膜102の膜厚は、100nm〜5μm、好ましくは1μm〜3μmであればよい。非晶質珪素膜102の膜厚が100nmより小さいと負極活物質層104の膜厚が薄すぎて充放電できない恐れがある。また非晶質珪素膜102の膜厚が5μmより大きいと、非晶質珪素膜102が結晶化しない恐れがある。あるいは非晶質珪素膜102の膜厚が5μmより大きいと、負極活物質層104が充放電の際の応力変化によってピーリングしてしまう恐れがある。
【0035】
非晶質珪素膜102の表面に、結晶化を助長する触媒元素103を添加する(図1(B)参照)。触媒元素103としては、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、銀(Ag)のいずれか1つの元素、あるいは2つ以上の元素を用いることができる。本実施の形態では、触媒元素103としてニッケルを用いる。
【0036】
触媒元素103を非晶質珪素膜102に添加することにより、非晶質珪素膜102の結晶化温度を50℃〜100℃も引き下げることが可能である。また非晶質珪素膜102の結晶化に要する時間も1/5〜1/10にまで低減することができる。
【0037】
図3(A)〜図3(B)に、触媒元素103を非晶質珪素膜102の表面に添加する具体的な方法を示す。
【0038】
まず非晶質珪素膜102の表面に、触媒元素103を含む溶液106を添加する。本実施の形態では、触媒元素103としてニッケルを用い、触媒元素103を含む溶液106として酢酸ニッケル溶液を用いる(図3(A)参照)。
【0039】
次いで、ニッケルを含む溶液106を非晶質珪素膜102の表面に保持する。スピナー107を用いてスピンドライを行う(図3(B)参照)。スピンドライを行うことにより、より均一に触媒元素103を非晶質珪素膜102の表面に保持することができる。
【0040】
本実施の形態では、触媒元素103を含む溶液106として酢酸ニッケル溶液を用いたが、溶液106としては、酢酸ニッケル溶液の他に、塩酸ニッケル溶液、硝酸ニッケル溶液、硫酸ニッケル溶液を用いることができる。
【0041】
なお溶液106として水を含む溶液を用いる場合、非晶質珪素膜の表面は疎水性であるため溶液を弾いてしまい、非晶質珪素膜表面全体に添加することができない恐れがある。そのため、溶液106として水を含む溶液を用いる場合は、ニッケルを含む溶液を添加する前に、非晶質珪素膜の表面をUV光等を照射して、非晶質珪素膜表面の膜質を改善してもよい。すなわち非晶質珪素膜表面を親水性となるように改善してもよい。
【0042】
また溶液106として、有機系のオクチル酸溶液やトルエン溶液を用いることもできる。有機系の溶液は、珪素と同族元素である炭素を含んでおり、非晶質珪素膜102の表面との濡れ性がよいので好適である。
【0043】
非晶質珪素膜102の表面に触媒元素103を添加した後、非晶質珪素膜102を加熱する(図1(C)参照)。この加熱工程により、非晶質珪素膜102を結晶化して結晶性珪素膜を得る。このようにして得られた結晶性珪素膜を、負極活物質層104として用いることができる(図1(D)参照)。
【0044】
結晶化のための加熱工程は、例えば加熱炉にて加熱してもよいし、レーザビーム等の光照射を行ってもよい。
【0045】
加熱工程を加熱炉において行う場合は、550℃〜620℃、例えば550℃の温度で、1時間〜10時間、例えば4時間加熱すればよい。
【0046】
また加熱工程をレーザビームを照射することで行う場合は、レーザビームの照射条件は、例えばエネルギー密度が200〜400mJ/cm、代表的には、250mJ/cmとしてもよい。本実施の形態では、レーザビームとして、KrFエキシマレーザのレーザビーム(波長248nm、パルス幅20nsec)を用いる。
【0047】
添加された触媒元素103は、加熱工程により非晶質珪素膜102中を移動し、結晶化が終わると結晶性珪素膜の最表面に偏析する。このため結晶性珪素膜においては、深さ方向(膜厚方向)において、表面に近くなれば近くなるほど、触媒元素103の濃度が高い。また触媒元素103は加熱されることにより酸化され、導電性酸化物108となる。例えば、触媒元素103としてニッケルを用いた場合、結晶性珪素膜の最表面に酸化ニッケルが偏析する。
【0048】
図1(E)及び図1(F)に、結晶性珪素膜からなる負極活物質層104の最表面に偏析した導電性酸化物108の偏析の様子を示す。図1(E)では、導電性酸化物108は粒子状の形状で負極活物質層104に偏析する。また図1(F)では、導電性酸化物108は、負極活物質層104の最表面に層状に偏析している。
【0049】
酸化ニッケルは導電性酸化物である。このような導電性酸化物を最表面に有する結晶性珪素膜を負極活物質層104として用いても、蓄電装置の特性(例えばサイクル特性)が低下するのを抑制することができる。
【0050】
また触媒元素103として、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、銀(Ag)のいずれかを用いた場合でも、それぞれ酸化されて酸化銅、酸化インジウム、酸化スズ、酸化銀となる。これら酸化物は、酸化ニッケルと同様、導電性酸化物であるので、蓄電装置の特性(例えばサイクル特性)が低下するのを抑制することができる。
【0051】
また触媒元素103であるニッケル、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、銀(Ag)が、負極活物質層104である結晶性珪素膜に残留していたとしても、触媒元素103を除去する必要はない。これは触媒元素103が金属であり導電性を有するからである。
【0052】
以上のようにして作製した負極集電体101及び負極活物質層104を用いた蓄電装置について、以下に述べる。なお、負極活物質層104には導電性酸化物108が含まれており、導電性酸化物108が偏析する様子は図1(E)及び図1(F)に示すとおりである。
【0053】
蓄電装置として、例えば二次電池が挙げられる。図2(A)〜図2(C)に二次電池130の構造の例を示す。
【0054】
本実施の形態の二次電池130は、上述の負極集電体101及び負極活物質層104を有する負極149と、正極148と、正極148と負極149との間の電解質とを有する。
【0055】
上述のように、負極149は、負極集電体101及び負極活物質層104を有している。そのため、容量が大きく、かつ、特性(例えばサイクル特性)のよい二次電池を得ることができる。
【0056】
正極148は、正極集電体142と正極活物質層143を有する。
【0057】
正極集電体142には、例えば導電材料などを用いることができ、導電材料としては、例えばアルミニウム、銅、ニッケル、またはチタンを用いることができる。また、正極集電体142としては、上記導電材料のうち複数からなる合金材料を用いることもでき、合金材料としては、例えばAl−Ni合金、又はAl−Cu合金などを用いることもできる。また、別途基板上に成膜することにより設けられた導電層を剥離して正極集電体142として用いることもできる。
【0058】
正極活物質層143としては、例えばキャリアとなるイオン及び遷移金属を含む材料を用いることができる。キャリアとなるイオン及び遷移金属を含む材料としては、例えば一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えば、リチウム、ナトリウムもしくはカリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム若しくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガンもしくはコバルトなどの遷移金属である。一般式APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えばリン酸鉄リチウム、リン酸鉄ナトリウムなどが挙げられる。Aで表される材料およびMで表される材料は、上記のいずれか一または複数を選択すればよい。
【0059】
または、一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料を用いることができる。ここでAは、例えばリチウム、ナトリウム、もしくはカリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウムもしくはバリウムなどのアルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムである。Mは、例えば、鉄、ニッケル、マンガン、若しくはコバルトなどの遷移金属である。一般式A(h>0、i>0、j>0)で表される材料としては、例えばコバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムまたはニッケル酸リチウムなどが挙げられる。Aで表される材料およびMで表される材料は、上記のいずれか一または複数を選択すればよい。
【0060】
正極活物質層143は、導電助剤(例えばアセチレンブラック(AB))やバインダ(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF))などを混合させてペースト化して正極集電体142上に塗布して形成してもよいし、スパッタリング法により形成してもよい。正極活物質層143を塗布法により形成した場合についても、必要に応じて加圧成形するとよい。
【0061】
なお、厳密には「活物質」とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質のみを指す。ただし本明細書では、塗布法を用いて正極活物質層143を形成した場合、便宜上、正極活物質層143の材料、すなわち、本来「正極活物質」である物質に、導電助剤やバインダなどを含めて正極活物質層143と呼ぶこととする。
【0062】
ここで、正極活物質層143、並びに、正極活物質層143を正極集電体142上に有する正極148の作製方法について説明する。
【0063】
まず正極集電体142を準備する。正極集電体142の材料及び形成方法については上で述べたので詳細な説明は省略する。
【0064】
次いで正極集電体142上に、正極活物質層143を形成する。正極活物質層143の材料は上に述べたとおりである。また正極活物質層143の形成方法は、上述したようにスパッタリング法や塗布法により形成すればよい。以上により正極集電体142上に正極活物質層143が形成された正極148が形成される。
【0065】
正極活物質層143を塗布法によって形成する場合は、正極活物質層143の材料に、導電助剤やバインダなどを混合させてペースト化して正極集電体142上に塗布して乾燥させて形成する。正極活物質層143を塗布法により形成した場合、必要に応じて加圧成形するとよい。
【0066】
なお、上記の導電助剤としては、蓄電装置中で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維などの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウム若しくは銀などの金属材料またはこれらの混合物の粉末や繊維などを用いることができる。
【0067】
なお、上記のバインダとしては、多糖類、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有するポリマーなどが挙げられる。例えば、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムなどを用いることができる。その他、ポリビニルアルコールやポリエチレンオキシドなどを用いてもよい。
【0068】
正極148及び負極149を形成したら、正極148及び負極149との間に電解質を設ける。
【0069】
電解質は、液体の電解質である電解液や、固体の電解質である固体電解質を用いればよい。電解液は、キャリアイオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含み、このキャリアイオンが電気伝導を担っている。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、若しくはカリウムイオンが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、ストロンチウムイオン、若しくはバリウムイオンが挙げられる。
【0070】
電解液147は、例えば溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩またはナトリウム塩とから構成されている。リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、硼弗化リチウム(LiBF)、LiAsF、LiPF、Li(CSON等が挙げられる。ナトリウム塩としては、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、フッ化ナトリウム(NaF)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、硼弗化ナトリウム(NaBF)等が挙げられる。
【0071】
電解液147の溶媒として、例えば、エチレンカーボネート(以下、ECと略す)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソブチルカーボネート(MIBC)、およびジプロピルカーボネート(DPC)などの非環状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、およびプロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、およびエトキシメトキシエタン(EME)等の非環状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン等やリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、およびリン酸トリオクチルなどのアルキルリン酸エステルやそのフッ化物があり、これらの一種または二種以上を混合して使用する。
【0072】
セパレータ146として、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ビナロンともいう)(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いればよい。ただし、後述する電解液147に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
【0073】
より具体的には、セパレータ146の材料として、例えば、フッ素系ポリマ、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子およびこれらの誘導体、セルロース、紙、不織布から選ばれる一種を単独で、または二種以上を組み合せて用いることができる。
【0074】
図2(A)に示す二次電池は、正極148及び負極149との間にセパレータ146を有する。該二次電池は、正極148、負極149、セパレータ146を筐体141中に設置し、筐体141中に電解液147を有する二次電池である。
【0075】
図2(A)と異なる構造を有する二次電池の例を、図2(B)に示す。図2(B)における二次電池130では、正極148及び負極149との間に設けたセパレータ156に、液状の電解質である電解液を含浸させている。
【0076】
図2(B)に示す二次電池130の場合、セパレータ156は多孔質膜であることが好ましい。該多孔質膜の材料としては、合成樹脂材料またはセラミック材料などを用いればよい。多孔質膜の材料として、好ましくは、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどが挙げられる。
【0077】
また、正極148及び負極149との間に、固体電解質167を設けた例を、図2(C)に示す。
【0078】
固体電解質167の例として、ポリマー電解質またはゲル電解質が挙げられる。ポリマー電解質の例としては、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide、略称PEO)やポリプロピレンオキシド(polypropylene oxide、略称PPO)に代表されるポリマーと上述のリチウム塩の複合材料が挙げられる。またリチウム塩の代わりに上述のナトリウム塩を用いてもよい。
【0079】
ゲル電解質(ポリマーゲル電解質)の例としては、担体としてホストポリマーを用い、上述の電解液を含有させたものが挙げられる。ホストポリマーとして、ポリビニリデンフルオライド(ポリフッ化ビニリデンともいう)略称:PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF−HFP、ポリエチレンオキシド(PEO)、多孔質PVDF等を用いる。
【0080】
固体電解質167は、液体である電解液を含み、全体として準固体状態である。固体電解質167が全体として準固体状態であるので、液漏れしにくい。固体電解質167は液漏れが起こりにくいので、安全性が高い。
【0081】
以上のようにして作製された二次電池130は、ボタン型、積層型、筒型、ラミネート型など様々な構造にすることができる。
【0082】
以上のように、本実施の形態では、容量の大きい珪素を負極活物質層として用いることができる。また本実施の形態により、キャリアイオンの拡散が速い、結晶性珪素の負極活物質層を得ることができる。またこのような負極活物質層を用いることにより、特性(例えばサイクル特性)のよい二次電池を得ることができる。
【0083】
また、蓄電装置の別の例として、キャパシタが挙げられる。図4(A)〜図4(C)に、キャパシタ150の構造の例を示す。
【0084】
本実施の形態のキャパシタ150は、上述の負極集電体101、及び、負極活物質層154を有する負極159を有する。負極活物質層154は、上述の負極活物質層104にキャリアイオンをあらかじめ導入することによって形成される。あらかじめキャリアイオンを導入しておくことで、より多くのキャリアとなるイオンを利用することができる。
【0085】
上述の負極活物質層104にキャリアイオンをあらかじめ導入して(プレドープともいう)、負極活物質層154を形成する方法について以下に述べる。
【0086】
まず図1(A)〜図1(D)までの作製工程、すなわち負極集電体101上に、負極活物質層104である結晶性珪素膜を形成するまでの工程を行う(図5(A)参照)。
【0087】
次いで、負極活物質層104である結晶性珪素膜上に、キャリアイオンを含む金属層112を形成する(図5(B)参照)。キャリアイオンは上述のようにアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンであればよい。
【0088】
金属層112としては、上述のキャリアイオンを含む金属を用いることができる。ここでは一例として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムからなる金属シートを別途用意し、形成する例について説明するが、これに限定されず、例えば化学気相成長法、物理気相成長法などを用いて金属層112を成膜することもできる。化学気相成長法としては、例えばCVD法を用いることができ、物理気相蒸着法としては、例えばスパッタリング法又は真空蒸着法を用いることもできる。なお、図5(B)では、金属層112を均一な厚さで示しているが、これに限定されず、複数の膜厚の異なる部分を有していてもよく、また、複数に分離していてもよい。
【0089】
その後、負極活物質層104上に金属層112を形成後、電解液に浸すことにより金属層112をイオン化させつつ、負極活物質層104に含浸させる。
【0090】
金属層112のイオン化は経時的に進み、図5(C)に示すように、負極活物質層154が形成される。なお、図5(C)において、金属層112の全てがイオン化し、負極活物質層104に含浸される例について説明するが、これに限定されず、金属層112の一部が負極活物質層154の一表面の上に残存してもよい。
【0091】
負極にあらかじめキャリアイオンを導入することにより、負極を低電位化し、負極と正極の電位差を利用することによって、高い耐電圧を得ることが可能である。
【0092】
また本実施の形態のキャパシタ150は、正極集電体152及び正極活物質層153を有する正極158、正極158と負極159との間の電解質とを有する(図4(A)〜図4(C)参照)。
【0093】
正極集電体152は、図2(A)〜図2(C)中の正極集電体142と同様である。
【0094】
正極活物質層153は、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセンなどを用いて形成することができる。また正極活物質層153はスパッタ法や塗布法により形成すればよい。
【0095】
あるいは、正極活物質層153として、負極活物質層104と同様の材料、すなわち、非晶質珪素膜をニッケルにより結晶化させた結晶性珪素膜を用いることもできる。
【0096】
正極活物質層153を塗布法によって形成する場合は、導電助剤やバインダなどを混合させてペースト化して正極集電体152上に塗布して形成してもよい。正極活物質層153を塗布法により形成した場合についても、必要に応じて加圧成形するとよい。
【0097】
なお、厳密には「活物質」とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質のみを指す。ただし本明細書では、塗布法を用いて正極活物質層153を形成した場合、便宜上、正極活物質層153の材料、すなわち、本来「正極活物質」である物質に、導電助剤やバインダなどを含めて正極活物質層153と呼ぶこととする。
【0098】
図4(A)〜図4(C)に示すキャパシタ150では、図2(A)〜図2(C)で示す二次電池130の構造を有する。すなわち、図4(A)のキャパシタ150は、図2(A)に示す二次電池130と同様の構造を有しており、正極158及び負極159との間にセパレータ146を有する。該キャパシタ150は、正極158、負極159、セパレータ146を筐体141中に設置し、筐体141中に電解液147を有するキャパシタである。
【0099】
図4(B)に示すキャパシタ150は、図2(B)に示す二次電池130と同様の構造を有しており、正極158及び負極159との間に設けたセパレータ156に、液状の電解質である電解液を含浸させているキャパシタである。
【0100】
図4(C)に示すキャパシタ150は、図2(C)に示す二次電池130と同様の構造を有しており、正極158及び負極159との間に、固体電解質167を設けたキャパシタである。
【0101】
以上のようにして作製されたキャパシタ150は、ボタン型、積層型、筒型、ラミネート型など様々な構造にすることができる。
【0102】
以上のように、本実施の形態では、容量の大きい珪素を負極活物質層として用いることができる。また本実施の形態により、キャリアイオンの拡散が速い、結晶性珪素の負極活物質層を得ることができる。またこのような負極活物質層を用いることにより、特性(例えばサイクル特性)のよいキャパシタを得ることができる。
【符号の説明】
【0103】
101 集電体
102 非晶質珪素膜
103 触媒元素
104 負極活物質層
106 溶液
107 スピナー
108 導電性酸化物
112 金属層
130 二次電池
141 筐体
142 正極集電体
143 正極活物質層
146 セパレータ
147 電解液
148 正極
149 負極
152 正極集電体
153 正極活物質層
154 負極活物質層
156 セパレータ
158 正極
159 負極
167 固体電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体の表面に負極活物質として結晶性珪素膜が設けられ、前記結晶性珪素膜の表層部に導電性酸化物が含まれている負極を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
集電体の表面に負極活物質として結晶性珪素膜が設けられ、前記結晶性珪素膜の表層部に導電性酸化物が含まれており、前記導電性酸化物は前記結晶性珪素膜の深さ方向の分布において該表層部に近いほど高濃度になっている負極を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、前記導電性酸化物は、酸化ニッケル、酸化銅、酸化インジウム、酸化スズ及び酸化銀から選択される一種又は複数種であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の負極と、正極集電体と正極活物質層とを有する正極と、前記正極及び前記負極の間に設けられた電解質とを有することを特徴とする二次電池。
【請求項5】
請求項4において、
前記正極活物質層は、A(h>0、i>0、j>0)で表される材料を有し、前記Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムであり、前記Mは遷移金属であり、
前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含むことを特徴とする二次電池。
【請求項6】
請求項4において、
前記正極活物質層は、APO(h>0、i>0、j>0)で表される材料を有し、前記Aは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ベリリウム、又はマグネシウムであり、前記Mは遷移金属であり、
前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含むことを特徴とする二次電池。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の負極と、正極集電体と正極活物質層とを有する正極と、前記正極及び前記負極の間に設けられた電解質とを有することを特徴とするキャパシタ。
【請求項8】
請求項7において、
前記正極活物質層は、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセンのいずれかを含み、
前記負極活物質層は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウム、又はマグネシウムが導入され、
前記電解質はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含むことを特徴とするキャパシタ。
【請求項9】
集電体上に、非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜の表面に、前記非晶質珪素の結晶化を促進する触媒元素を添加し、
前記触媒元素が添加された非晶質珪素膜を加熱することにより、前記非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項10】
集電体上に、非晶質珪素膜を形成し、
前記非晶質珪素膜の表面に、前記非晶質珪素の結晶化を促進する触媒元素を含む溶液を添加し、
前記触媒元素を含む溶液を、前記非晶質珪素膜の表面に均一に保持し、
前記触媒元素が保持された非晶質珪素膜を加熱することにより、前記非晶質珪素膜を結晶化して結晶性珪素膜を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10において、
前記触媒元素は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、インジウム(In)、スズ(Sn)、銀(Ag)のいずれか1つの元素、あるいは2つ以上の元素であることを特徴とする蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−198756(P2011−198756A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35417(P2011−35417)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】