薄い柔軟な組織外科手術支持メッシュ
【課題】体内で展開するためにメッシュを巻いて折り曲げ、針のカニューレに挿入できるような厚さがあり、しかもマルチフィラメント糸から製造されるメッシュのしなやかで柔軟な特性と、モノフィラメント糸から製造されたメッシュの感染耐性の両方を兼ね備えた柔組織外科手術用メッシュを提供すること。
【解決手段】柔軟で曲げやすい柔軟な組織メッシュが提供される。このメッシュは、糸のフィラメント間に存在する間質空隙がマトリックス内に封入されている、耐感染性マトリックス内に包み込まれた複数フィラメント糸からなる支持用格子を含む。
【解決手段】柔軟で曲げやすい柔軟な組織メッシュが提供される。このメッシュは、糸のフィラメント間に存在する間質空隙がマトリックス内に封入されている、耐感染性マトリックス内に包み込まれた複数フィラメント糸からなる支持用格子を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は外科手術用メッシュに関し、より詳細には、細菌および他の感染性物体の存在に向上した耐性を示す、柔軟でしなやかなマルチフィラメント外科手術用メッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の再建および修復に外科手術用メッシュを使用することは周知である。例えば、身体の損傷部または弱体部の支持および/または補強のために外科手術用メッシュが使用され得る。この場合、移植後、組織が移植片を通って成長するよう、メッシュが十分に多孔性であることがさらに必要である。治癒組織は,移植したメッシュの多孔性開口部を通って成長し、メッシュは組繊と同化して組織が構造的に完全に近づく。
【0003】
外科手術用メッシュは、複数の糸を支持用格子に形成して、編物、織物、組物などで製造できる。さらに、上記メッシュは、ポリプロピレンおよびポリエステルなどの材料で出来たモノフィラメントまたはマルチフィラメント糸で製造できる。モノフィラメント糸で形成された外科手術用メッシュは満足な補強能力を提供するが、通常堅くて柔軟性に限度がある。対照的に、マルチフィラメン卜糸で形成された外科手術用メッシュは、モノフィラメント糸で形成されたメッシュと比較すると、柔らかくて柔軟性がある。
【0004】
しかし、マルチフィラメント糸で形成されたメッシュは、細菌などの感染性物体をかくまう傾向がある。特に、マルチフィラメンン卜糸のフィラメン間の小さな空間または隙間は上記細歯の繁殖を促進することがある。現在のところ、外科医は、感染性物体のかくまいを阻止するのに優れているという理由から、通常モノフィラメント設計のものを好んでいる。この選択の結果、外科医は,マルチフィラメント糸に関係する利点を締めなければならない。
【0005】
従来の外科手術用メッシュの例は、特許文献1で開示されている。ここで説明されている外科手術用メッシュは、ポリエチレン樹脂を成形して形成する相互接続された糸が完全に編み模様になっている。基本的に、この特許文献1のメッシュは、成形されたモノフィラメントメッシュであるため、比較的堅く柔軟性が限られている。
【0006】
特許文献2は、生体組織の再編および修復用の外科手術用メッシュについて別の例を開示している。ここで説明されている外科手術用メッシュは、モノフィラメントまたはマルチフィラメントのいずれかのポリエチレン糸で織ることができる。モノフィラメント糸で形成するとメッシュの柔軟性は限られ、マルチフィラメント糸で形成すると感染性物体をかくまう傾向があり得る。
【0007】
特許文献3は、外科手術用メッシュについてまた別の例を開示している。ここで説明されている外科手術用メッシュは、モノフィラメントのポリプロピレン糸で形成され、この糸は連続した管状に織られる。組織メッシュは多孔性で、モノフィラメント構造であるため、感染耐性の特性を持つ。しかし、モノフィラメントは堅くなりがちで比較的柔軟性がないため、メッシュを取り入れようとする身体の機能を低下する。
【0008】
外科手術用支持メッシュは、ヘルニア修復手術中など、柔軟な組織の修復に関する分野で極めて役立っている。鼡径部ヘルニア縫縮術は、最も古く一番広く行われている手技である。残念ながら、平均的な手術結果は、手術に伴う障害のため一時期不快さが伴う。罹患率および再発率を低減する目的で、腹腔内視鏡下ヘルニア縫縮術などの方法が開発されている。しかし、大抵の試みは、手技に関連する苦痛および障害をある程度改善したものに過ぎない。さらに、腹腔内視鏡下ヘルニア縫縮術に必更となる機器費用の増加、全身麻酔の必要性、手術室時間の増加のため、この手技はあまり理想的でないことが示されている。鼡径部ヘルニア患者に関する費用、障害、およびヘルニア再発についての全配慮事項を有効に解決できる手技の必要性が続く。
【0009】
現在、腹腔内視鏡下術または開腹術のいずれかで腹膜前空間に補てつ用メッシュを取り付けているが、これらよりもさらに低侵襲性の手段で手技を行うのが望ましい。そのような手段として考案されたものとして、腹膜腔にメッシュを選ぶのに針を使用するものが挙げられる。しかし、針のカニューレに通るのに十分に細く、しかもその意図される目的を適切に果すのに十分な強度と柔軟性があるメッシュが無いため、針でメッシュを送達するのは部分的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2,671,444号明細書
【特許文献2】米国特許第3,054,406号明細書
【特許文献3】米国特許第4,452,245号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、体内で展開するためにメッシュを巻いて折り曲げ、針のカニューレに挿入できるような厚さがあり、しかもマルチフィラメント糸から製造されるメッシュのしなやかで柔軟な特性と、モノフィラメント糸から製造されたメッシュの感染耐性の両方を兼ね備えた柔組織外科手術用メッシュが必要である。また、このメッシュは糸くずを出さず、すり切れ難く、ほぐれ難いものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1) 柔軟で曲げやすい柔軟な組織メッシュであって、糸のフィラメント間に存在する間質空隙がマトリックス内に封入されている、耐感染性マトリックス内に包み込まれた複数のフィラメント糸(yarn)からなる支持用格子を含む、メッシュ。
(項目2) 項目1に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、少なくとも上記糸のフィラメントを構成する素材の柔軟性に匹敵する柔軟性を有する素材からなる上記糸の外周を包囲する、メッシュ。
(項目3) 項目2に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、上記糸に浸透して存在する間質空隙を実質的に満たす、メッシュ。
(項目4) 項目3に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、およびそれらの共重合体からなるグループより選択された重合体からなる、メッシュ。
(項目5) 項目1に記載のメッシュであって、上記糸は、柔軟な芯と上記芯を包囲する融解(fuse)可能なシースを各々有する多数の2要素フィラメントからなり、シースは上記格子を加熱した際に上記間質空隙を閉塞すべく上記シースを互いに融解させる、芯の融点よりも低い融解温度を有する、メッシュ。
(項目6) 項目5に記載のメッシュであって、上記芯は、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステルからなり、上記シースは、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・コポリエステルからなる、メッシュ。
(項目7) 上記マルチフィラメント糸が上記支持用格子を形成するために規則正しく間隔を置いた接続部で互いに重なりあっており、上記重なり合う糸が上記メッシュのもつれ抵抗を高めるために、上記接合部で互いに接着している、項目1に記載のメッシュ。
(項目8) 上記マトリックスが薬品浸透性であり、上記メッシュを移植後、薬品が患者の体内に放出されるために上記マトリックスに組み込まれる、項目1に記載のメッシュ。
(項目9) 上記メッシュの厚みが約0.2ミリメートル以下である、項目1に記載のメッシュ。
(項目10) 上記マルチフィラメント糸が撚れずに分かれている、項目1に記載のメッシュ。
(項目11) 上記マルチフィラメント糸がほぼ楕円状の断面を有する、項目10に記載のメッシュ。
(項目12) マルチフィラメント糸で作られた支持用格子から入る感染物の存在に対して抵抗力の増加を示す柔軟で曲げ易い外科用のメッシュの生産方法であって、上記糸の間に置かれる間質空隙が、マトリックスで囲まれている非感染マトリックス内にある上記マルチフィラメント糸を包むことを含む、方法。
(項目13) 上記包むステップが上記格子の形成の前に、上記糸の外側に樹脂を付けるステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目14) 上記樹脂が上記糸に浸透し、空隙を十分充満するように上記格子の外側に十分な量の樹脂を十分な時間をかけて付ける、項目13に記載の方法。
(項目15) 上記包むステップが格子の形成後、上記糸の外側に樹脂を付けるステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目16) 上記樹脂が上記糸に浸透し、上記空隙を十分充満するように上記格子の外側に十分な量の樹脂を十分な時間をかけて付ける、項目15に記載の方法。
(項目17) 上記糸が各々弾力性のある芯と上記芯の周りに可溶性シースを持つ複数の2要素フィラメントから構成され、上記包むステップが上記シースがともに融解する上記シースの融解温度より上で、上記格子を加熱するステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目18) 上記融解ステップが、上記格子に熱または光波放射線を適用して達成される、項目17に記載の方法。
(項目19) 患者身体への上記メッシュの移植後、そこからの放出のため、上記マトリックスへ医療薬剤を取り込むステップをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目20) 滅菌したパッケージ中で、上記包まれた格子を密封するステップをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目21) 項目12に記載の方法であって、所望の厚みのメッシュをプレスするために圧縮力を加えるステップをさらに含む、方法。
(項目22) 患者の身体の損傷を受けた部分を修復する方法であって、柔軟な組織メッシュを提供すること、上記メッシュが耐感染性マトリックス内で包まれたマルチフィラメント糸から形成された支持用格子を含み、それによって、上記メッシュは柔軟でかつ曲げやすく、同時に感染性物体の存在に耐性を示すこと、上記身体の上記損傷を受けた部分に接近すること、上記損傷を受けた部分を補強するために、上記身体中に上記外科手術用メッシュを移植し、上記身体に、上記メッシュを同化させることを含む、方法。
(項目23) 項目22に記載の方法であって、上記糸はそれぞれ柔軟性のある芯および該芯を囲む可溶性シースを有する複数の2要素フィラメントから形成され、上記提供する工程が上記シースの溶融温度より上で上記格子を加熱するステップを含み、それによって上記シースがともに溶けて上記芯を包み込む、方法。
(項目24) 項目22に記載の方法であって、上記マトリックスは薬剤透過性であり、上記メッシュの移植後に患者の身体へ放出するための上記マトリックスに医療薬剤が組み入れられている、方法。
(項目25) 項目1に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が50ミクロンから400ミクロンの範囲のサイズを有する細孔を規定する、メッシュ。
(項目26) 項目7に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が0.05ミリメートルから0.5ミリメートルの範囲の厚さを有する、メッシュ。
(項目27) 項目7に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が0.20ミリメートルより薄い厚さを有する、メッシュ。
(項目28) 項目27に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が約5ミリメートルまたはそれより小さい直径を有するトロカールへの挿入が可能となるのに十分に薄い、メッシュ。
(項目29) 項目28に記載の柔軟組織メッシュであって、上記メッシュが広げられた状態で形状記憶を実現するのに十分な温度で十分な時間加熱状態にされる、メッシュ。
(項目30) 項目28に記載の柔軟組織メッシュであって、上記メッシュが形状記憶材質で作られた糸またはフィラメントを含む、メッシュ。
(発明の要旨)
本発明は、当該技術の必要性を提起し,柔軟で曲折可能な外科手術用メッシュを提供する。このメッシュは、耐感染性マトリックスに包まれた、マルチフィラメント糸(yarn)で形成される支持用格子を合み、それにより糸のフィラメント間に置かれた間質空隙は、マトリックス内に封じられる。また、このマトリックスはメッシュがほどけないための必要な抵抗を付与し、それによって糸が一ヶ所に片寄ったり、ほどけたりするのを防ぐ。このメッシュは微細なマルチフィラメント糸により編物状または織物状に構成され、これは組織の修復または補強で使用されるのに望ましい機械的強度および有孔性を有する。
【0013】
さらに、本発明は、マルチフィラメントの糸からなる支持用格子の感染物質の存在に対する抵抗性を高めることを示している、柔軟で曲折可能な外科用メッシュの製造方法を提供するものです。本方法は、マルチフィラメント糸を、耐感染性マトリックス内で包み込み、これにより糸のフィラメント間に置かれた間質空隙がマトリックス内に封じられるステップを含む。一つの実施態様として、侵襲性を最小限にとどめた器具を介して送達を容易にするために、布は極めて薄く製造される。この布の厚さは、その特定の用途およびデリバリー装置に合わせて調整される。また、布を希望の厚さに圧縮するために、仕上げ操作の段階で熱およびまたは圧力を使って糸を押すまたはカレンダーにかける技術が適用され得る。
【0014】
本発明は、例えばヘルニア修復期間のような、組織の修復および/または補強等、侵襲性が最小限の外科手術に特に有効なメッシュ布を提供する。その薄い構造のため、本メッシュ布は巻き上げたり、折りたたんだりすることができ、非常に小さなサイズでトロカール、カニューレ等の器具を使用して体内に導入および送達することが容易である。また、本メッシュにはデリバリー装置から取り外され時に、希望する配置に戻るよう弾性記憶が与えられ得る。例えば、本メッシュはデリバリー装置から取り外されたら、展開して比較的単純な配置に戻るように設計され得る。
【0015】
また、本発明は、患者体内の損傷部を修復する方法を提供する。本方法は、柔軟な外科手術用メッシュを提供するステップを含む。場合によっては、本メッシュはさらに丸めたり、折りたたまれたり、あるいは別の方法で容積を圧縮して腹腔鏡送達装置のカニューレにフィットするようにする。本発明のメッシュは、耐感染性マトリックス内で包み込まれたマルチフィラメント糸から形成される支持用格子を含み、それによって本メッシュは柔軟で曲げることができ、同時に感染物質の存在に対する抵抗を示す。本方法は、さらに人体の損傷部分に接近し、損傷部分を補強するために人体内に外科用メッシュを移植し、メッシュが体内に同化されることを含む。
【0016】
その結果、本発明は、マルチフィラメントの糸から成るメッシュの持つ柔軟で曲げることのできる特徴、およびモノフィラメント糸から作られるメッシュの感染抵抗性を両方示す、外科手術用支持メッシュを提供する。さらに、本発明は、けばを生じずほつれにくい外科手術用支持メッシュを提供する。さらに、本発明のメッシュは、腹腔鏡デバイスを使用して腹膜腔に送達できるように、適当な厚さに形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マルチフィラメント糸よりなる織物状の従来技術による支持メッシュの一部分である。
【図1a】図1の1a−1a線に沿った断面図である。
【図2】本発明に従って、マルチフィラメント糸から形成された織物状の支持用格子が、耐感染性マトリックス内に包み込まれた本発明の支持メッシュの一部である。
【図2a】図2の2a−2a線に沿った断面図である。
【図3】支持用格子が作成される前の耐感染性マトリックス内に包み込まれたマルチフィラメント糸の断面図である。
【図3a】図3のマルチフィラメント糸の断面図で、厚さが本発明によって縮小されたものである。
【図4】マトリックスを構成する包み込まれた樹脂が糸に浸透し、実質的に間質空隙を充満した、図3に類似する図である。
【図4a】図4のマルチフィラメント糸の断面図で、厚さが本発明によって縮小されたものである。
【図5】2要素繊維からなるマルチフィラメント糸の断面図。
【図6】ひとつの2要素繊維の拡大断面図である。
【図7】図5の2要素マルチフィラメント糸からなる本発明の織物状支持用メツシュの一部分であり、格子の組立の後に融解されるものである。
【図7a】図7の7a−7a線に沿った断面図である。
【図8】針のカニューレへの挿入のために丸められた状態の、本発明の薄いメッシュの図である。
【図9】本発明により作成されたメッシュの一部分の顕微鏡写真である。
【図9a】図9に示されたメッシュの断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
図、特に図1には、従来の発明である外科手術用支持メッシュ10が図示されている。メッシュ10はモノフィラメントまたはマルチフィラメントの糸から製造できる。図のとおり、従来のメッシュ10は横に伸びているマルチフィラメント糸12と縦に伸びているマルチフィラメント糸14が編み込まれて支持用格子を構成している。
【0019】
糸12および14のようなマルチフィラメント糸を使用することにより、モノフィラメントを使用した場合に比べ、より優れたしなやかさと柔軟性を備えたメッシュを実現できる。これらの特性は、各フィラメント径とフィラメント間の隙間または空間が、より小さいという2つの理由によるものである。
【0020】
特に、フィラメント(またはファイバー)は、一般的にその径が減少するとその柔軟性が増すものである。マルチフィラメント糸の断面における固体部分は、同じ径を持つモノフィラメント糸の断面における固体部分より小さいので、マルチフィラメント糸はモノフィラメント糸に比べ、しなやかさと柔軟性が高い。
【0021】
図1aに見られるとおり、マルチフィラメント糸12および14は各々、複数のフィラメント糸16が混合され、または束ねられて糸を構成している。空気のポケットである隙間18は糸の隣接するフィラメントの間に出来る。これらの隙間はメッシュに柔らかさおよびしなやかさをもたらすものの、細菌やその他の感染性物体の、天然の繁殖基盤となる。
【0022】
当然、外科手術用メッシュは移植前に滅菌される。しかしながら、外科医は感染の危険を最小限に抑えるためモノフィラメントメッシュの使用を好む。その結果、マルチフィラメントメッシュの利点(身体にメッシュがより効果的に同化するのを助ける、柔らかさ、しなやかさなど)は通常犠牲となる。
【0023】
柔らかさとしなやかさを備えるマルチフィラメントメッシュの特性と、耐感染性に優れたモノフィラメントメッシュの特性を兼ね備えた手外科手術用支持メッシュが製造可能であるということがここに発見された。特筆すべきは、隣接するフィラメントの間に出来た隙間が、細菌の侵入を防ぐマトリックス内に閉じ込められるようになっている、マルチフィラメント糸で構成される支持用格子は、柔軟性を大幅に犠牲にすることなく、感染性物体が宿ることに対して要求される耐性を提供することが発見されたことである。
【0024】
特に糸のフィラメントの間の間質空隙を完全に取り囲むマトリックスは、糸の内側と外側の間を感染物質が通過するのに対して効果的な障壁を提供する。したがって当該糸の被包後糸に残っているいかなる空隙も結果として生ずるマトリックス内に閉じ込められて(それゆえ密封されて)いる。
【0025】
本発明の第一の実施態様を図2に示す。特にこの最初の実施態様は、マルチフィラメント糸22と24から形成される支持用格子20を含み、これは、交差接合点25で重なる。格子の形成の結果、当該格子は、マトリックス26内に封入される。このマトリックス26は、糸の外側を継続的に取り巻き、それによりフィラメント28(図2a参照)の間に位置する間質空隙27を取り囲むフレキシブルな材質であることが望ましい。ひとつの実施態様では、マトリックスが重合体の樹脂から形成されている。
【0026】
図2aに示すように、糸に樹脂を十分浸透させないように、樹脂を糸に付けることができる。特に樹脂の含浸は、付ける工程、たとえば付ける樹脂の量および/または被包時間などを通じて制御することができる。そのような実施態様では間質空間は、継続的なマトリックス内で(充填されるのではなく)閉じ込められる。しかし、樹脂が糸に含浸できるようにし、それによって、その中に位置する間質空間を十分に充填するように考慮する。
【0027】
本発明の他の実施例では、図3に示すように、個別の糸29が支持用格子の形成前にマトリックス30に被包されている。図3aは薄い格子を提供する圧縮された糸29を示す。被包の結果、糸に残る間質間隙32はこのマトリックス中に閉じ込められる。(したがって密封される)。これにより感染物質が糸の内部と外部の間を通過するのが防止される。言い換えれば、マトリックスは、望ましいフレキシビリティを維持すると同時に、被包後の糸に残るあらゆる間質空隙と当該糸の外側の間に耐感染性の障壁を提供する。
【0028】
前述の通り、マトリックスの含透の程度は、糸に付ける樹脂の量および/または塗布時間の調節により制御することができる。たとえば図4および図4aに示す糸34を参照すると、マトリックス36が糸のすき間スペースに含浸し、したがってそこに位置するエアスペースをの大部分を十分に充填する。
【0029】
格子を被包するために使用される樹脂は、個々のフィラメントの融点よりも低い融点を有することが望ましく、したがって格子を傷めることなく(すなわちフィラメントを溶かすことなく)、樹脂を適用できる。さらに形成されたメッシュが望ましい柔軟性を確実に維持できるように、樹脂は高度のフレキシビリティを有するべきである。樹脂のヤング係数(Young’s Modulus)はフィラメント材質の係数よりも低いことが望ましい。ポリエステル、ポリプロピレン、ボリエチレン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、またはそのコーポリマーにより形成した樹脂がこの使用に考慮される。
【0030】
本発明の一つの実施態様において樹脂溶液が形成された格子に付けられる。樹脂を含む溶媒は、次に蒸発し、それにより溶質が含浸し、したがって糸内の空隙を充填する。
【0031】
マルチフィラメント糸の被包は、糸の個々フィラメントの間に形成された間質空間を永久的に閉じ込める。特に継続的な耐感染性マトリックスが糸の外側に形成され、したがってフィラメントを被包し、それによりその間に形成された間質空間を充填および/または密封する。それゆえその結果として生ずる外科手術用メッシュは、モノフィラメント糸よりソフトで柔軟性を有し、同時に、通常のマルチフィラメント糸に多くみられる感染物質の通路にバリアを提供する。
【0032】
更に、糸の囲いこみが、支持用格子の形成に続いて、すなわち、布自体に対して行われるならば、図2に示されるように、格子の糸を交差点25で融解させて実行される。これは、形成されたメッシュのもつれ抵抗を改良する。また、これによって、メッシュの糸くずやほつれのできやすさが改善される。(すなわち、メッシュは糸くずやほつれのいずれもができにくくなる。)しかしながら、個別の糸が格子の形成の前に囲いこまれていれば、成型後も格子を加熱し、糸のコーティングを融解させ、それによって格子にほつれ抵抗を与え得る。
【0033】
図5および6を参照すると、本発明に使用されるマルチフィラメント糸、例えば糸40は、2要素繊維42を形成し得る。これらの2要素フィラメントには、シース44と芯46がある。シースは、好ましくは、フィラメントの芯を形成する物質よりも低い溶融または融解温度を持つ物質により形成する。つまり、フィラメントが特定の温度に加熱される時、シースは柔らかくなり隣り合うフィラメントのからシースと共に流れる。それによって、フィラメント間の空隙が満たされ、フィラメントの芯が囲いこまれます。もう1つの実施例では、例えば液体基剤のコーティング材料のような熱以外の手段が使用されていますが、溶媒が気化した後にコーティングが残り、フィラメントが囲いこまれ、および/またはそれらの間に形成される間隙が満たされる。
【0034】
シース44には、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートの共重合体がよい一方で、芯46には、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステルが使われる。もちろん、2要素フィラメントには他の適切な材料を用い得る。
【0035】
本発明のもう1つの実施態様を図7および7aに示す。特に、この実施態様には、糸40のような2要素のマルチフィラメント糸により形成された支持用格子48が含まれる。格子形成の後に、格子は予め設定されている温度、つまり、2要素フィラメントの融解温度に加熱される。
【0036】
この融解温度では、2要素フィラメントのシース44が溶け始め、一緒に流れ始める。それによって、少なくとも、フィラメント間の空隙が少なくとも実質的に満たされ、連続的なポリマーマトリックス内で芯46が包囲される。溶解したシースも、流れているポリマーが充填されていないあらゆる空隙50を包囲する。シース44のポリマーが芯46のポリマーよりも柔らかく、より柔軟であるため、形成された格子は、単一繊維糸よりも従来の多繊維糸によって形成されたものにより近い、外科的な支持用メッシュの柔軟性を呈する。2要素の撚っていない糸フィラメントでは、より展伸する傾向がある。この展伸性は、布を熱で圧縮中に糸にかかる横断力によって更に強調される。更に、シースのポリマーが多数のフィラメント間に介在する空隙に流出すると、繊維の間の空気が減少し、更に糸の結束が強められる。
【0037】
本発明による外科用メッシュは、布を織る、ニット加工する、編み上げる、または複数のマルチフィラメント糸を支持用格子構造の中に成形することによって形成し得る。マルチフィラメント糸として、伝統的なマルチフィラメント糸あるいは2要素のマルチフィラメント糸を用い得る。2要素のマルチフィラメント糸で形成される時、支持用メッシュは後に熱あるいは光エネルギーの作用を受け、フィラメント同士が融解される。例えば、メッシュがオーブンの中に置かれ、例えば180〜210℃の程度の温度、より好ましくは、200〜210℃の加熱がなされ、個別のフィラメントのシースが融解する。
【0038】
コーティングあるいは2要素フィラメントの融解による糸の包囲は、縦糸を織り込む構造の繊維質の特性を失わせる一方、「膜様の」触感の格子を提供する。更に、本発明によって、格子孔(例えば、図7に示される孔52)の大きさを制御し得る。例えば、孔の大きさ(好ましくは約50ミクロンまたはそれより大きい)は、格子の外部に適用する樹脂の量を調節することによって制御し得る。孔の大きさを制御することによって、格子の体内への同化が促進されると考えられる。
【0039】
本発明の一つの好ましい実施態様では、医薬物質(例えば抗生物質)が糸を包囲しているマトリックスに取りこまれている。薬剤が包囲用樹脂に直接分散されるか、あるいは複数の別個のキャリアに添加され、次いでこれらが包囲用樹脂に直接分散される。
【0040】
本発明のもう1つの実施態様では、およそ0.05〜0.50ミリメートルの範囲の厚さを持つ薄いメッシュが形成される。より好ましくは、本発明による薄いメッシュが約0.10〜0.20ミリメートルの厚さを持つ。メッシュの幅と長さの寸法は、特殊な用途と送達装置に応じて慣習的に使われている範囲で調節し得る。例えば、12センチ×15センチ〜14センチ×16センチの範囲である。このような範囲は一般に、成人の肛門括約筋孔の修復範囲をカバーするのに十分である。上述の通り、このような薄い外料用メッシュは、次いで巻き上げたり折りたたむことによって、例えば口径5ミリメートル以下の細い針のカニューレ内にフィットさせ得る。
【0041】
マルチフィラメント糸によって与えられる柔軟で曲げやすい特性の他に、個別のフィラメントあるいは繊維は、厚みを減らし輪郭を薄くする、展伸性や平坦さを与える。糸の平坦になる力を最大にするため、薄さを引き出す能力を妨げるような糸のねじれや他の指向性を最小限にするか、あるいは防ぐことが必要である。
【0042】
本発明による薄い織られたメッシュを製作する際に、糸同士に(つまり末端数)間隔を置くことに注意し、織物の構造によって定義される空間をせまく、特に約50〜約200ミクロンの間隔でおくことが必要である。このようにして作られた織物の構造は、強化組織に所望の機械的特性を与えるため、2要素のマルチフィラメント糸の使用を有利にする。更に、2要素糸は、1つの成分を溶融可能な樹脂にし、加熱することによって、布の中の他の糸と融解させ、織りこみ点で溶接し、構造を閉じ得る。
【0043】
織りこみの溶接は、糸を閉じることによって糸の束の中の孔をなくし、感染物がひっかかる危険性をなくす一方で、織物の構造の中の糸を安定化する。また、この処理によって、メッシュの柔軟性が失われ、カニューレから取り出されると平面を保とうとする。
【0044】
マルチフィラメント糸は、また、展伸すると、メッシュを薄くする。糸に撚りをかけたり、あるいは他の糸を加工することによって妨げられない場合、マルチフィラメント糸の平坦さの特徴が最大になる。織られた後、布には、単一のフィラメントの糸または良く撚られたマルチフィラメント糸によって保持される円形の断面より、むしろ楕円形の断面を糸が作り出す、ヒートセット加工がなされる。
【0045】
本発明による薄く織られたメッシュの実施例には、例えば円直径が約0.09ミリメートルの75デニールの2要素ポリエステル糸の使用が含まれる。本発明で使用されるマルチフィラメント糸は、本来の厚さの半分程度に薄くなり得る。薄くなると、糸は、約0.04〜0.06ミリメートル程度の、より小さな直径、あるいは糸の太さをもつ楕円形或いはレース・コース(長方形でコーナーが丸い)型の断面になり、大きい方の直径あるいは糸の幅は、約0.22〜0.28ミリメートルになると考えられる。末端数とピック数が1インチ平方当り70×70あるいは1平方センチ当り28×28程度の正方形の平織構造を使うと、長方形の孔の大きさはそれぞれ、片面あるいは両面で、0.05から0.07ミリメートル、すなわち50〜70ミクロンになる。
【0046】
織物構造によって、ニット加工するよりも大きな厚さに対する強度が得られる。また、織物構造によってメッシュは、例えば、ニット加工するよりも効果的に予測可能な状態で、かつより薄く、等方性または異方性の特性が与えられる。布の裂け強度は、約21kg/cm2あるいは300psiあるいは2068kPaと推定される。このような裂け強度は、本発明によって達成されるものよりずっと厚い、ヘルニア修復等の通常の外科修復用布の範囲にある。
【0047】
更に、メッシュに形状記憶させ得る。メッシュが広がった状態において、例えば、十分な時間十分な温度で加熱加工し得る。メッシュは、形状記憶されたニチノール糸のような個別の糸(thread)をも含み得る。メッシュは、それによって、配置した後に体温に達した時点で展開するような、平坦な構造に設計し得る。メッシュに与えられた形状記憶性は、例えば針カニューレのような送達器具中に保存された後も、メッシュが腹腔内に配置されると平坦に展開すると考えられる。この方法によって形状記憶性を柔組織メッシュに設計することにより、体内での配向が容易になる。更に、封入用マトリックスによって、メッシュは構造的な安定性とほつれ抵抗を持つようになり、子宮内視鏡保持装置を使って引っ張ったり、調整したりし得る。
【0048】
本発明による柔組織メッシュを、通常の外科手術または子宮内視鏡の手法を使って埋めこみ得る。より好ましくは、針のデリバリーによる新しい浸襲性が最小の手法を用い得る。このような方法では、針のデリバリー・システム内に包括できるように、メッシュは巻き上げられたり、折られたり、または他の方法で圧縮され容積および輪郭を減らす。図8に示されるように、巻き上げられたメッシュ54はカニューレ56に挿入され得る。メッシュは、十分に小さな容積でなければならず、針カニューレを通過し、患部で展開する。より好ましくは、メッシュはヒートセットを記憶しており、展開した後、比較的平坦な構造に戻る。もちろん、人体の個別用途に応じて、他の形状も使用し得る。メッシュがデリバリー・システムから取り出されると、メッシュは、適切な組織部位に向けられ処理される。
【0049】
例えば、薄い外科的な支持用メッシュは、針を経由して患者の腹腔に到達させ得る。第2の小さな針カニューレを、二酸化炭素をその腹腔領域に充填するために挿入し得る。ヘルニア・サックは切除され結さつされる。針によるヘルニア手術中の視覚化は、2〜5ミリメートル口径の子官内視鏡をカニューレ内に取りつけることで可能となる。メッシュは、針から取り出され横隔膜上に置かれ、その後、肛門括約筋孔をカバーするために処理される。メッシュには、カニューレから放出されたら平坦になるように、柔軟な記憶をさらに与えられる。メッシュは、腹腔組織を支えるように体内組織に同化させるために、必要に応じてへルニア領域に縫い付けたり、あるいはステープルでとめ得る。
【0050】
そのため、針によるヘルニア手術の手法によって、開腹手術の必要性を回避し得る。針によるヘルニア手術の手法では、開腹手術あるいは子宮内視鏡の手法に関連する、一般的な麻酔の必要がなく、痛みや身体的な不具合を減少させ得る。
【実施例】
【0051】
(実施例)
以下の実施例は本発明における外科手術用支持メッシュを説明する。
【0052】
(実施例1)
支持用格子は、特に250デニール/16フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で織られている。鐘紡Bellcouple(登録商標)糸には、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステル芯、および芯よりも融点が低いシースであるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・コポリエステル・シースが含まれる。
【0053】
支持用格子が構築された後、格子は対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで加熱することにより個々のシースを融解する。糸はここで包み込まれ、さらに糸の重複部分である接合点において相互に融合し合う。
【0054】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0055】
(実施例2)
支持用格子は、特に75デニール/24フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で縦編みされている。サポート・格子が構築された後、格子は対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで加熱することにより個々のシースを融解する。
【0056】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0057】
(実施例3)
支持用格子は、特に75デニール/24フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で単純織布状に織られている。糸数は1インチにつき70端数および1インチにつきピック数70本である。長方形孔の寸法は各面50から70ミクロメートルの範囲である。
支持用格子が構築された後、格子は強制熱空気対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで15分間加熱することにより個々のシースを融解する。構造の厚みはおよそ0.10ミリメートル以下である。図9は本例に基づいた構造の一部を示した顕微鏡写真である。図9aは同構造の断面図を示した顕微鏡写真である。
【0058】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0059】
本発明の例示的実施例は随伴する図を参照としながらここに詳述されているが、本発明はこれらの精密な実施例に限定されるものではなく、技術に優れた者により本発明の範囲または趣旨より逸脱することなくその他の様々な変化や修正を生じさせる可能性があることを理解するものである。
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は外科手術用メッシュに関し、より詳細には、細菌および他の感染性物体の存在に向上した耐性を示す、柔軟でしなやかなマルチフィラメント外科手術用メッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の再建および修復に外科手術用メッシュを使用することは周知である。例えば、身体の損傷部または弱体部の支持および/または補強のために外科手術用メッシュが使用され得る。この場合、移植後、組織が移植片を通って成長するよう、メッシュが十分に多孔性であることがさらに必要である。治癒組織は,移植したメッシュの多孔性開口部を通って成長し、メッシュは組繊と同化して組織が構造的に完全に近づく。
【0003】
外科手術用メッシュは、複数の糸を支持用格子に形成して、編物、織物、組物などで製造できる。さらに、上記メッシュは、ポリプロピレンおよびポリエステルなどの材料で出来たモノフィラメントまたはマルチフィラメント糸で製造できる。モノフィラメント糸で形成された外科手術用メッシュは満足な補強能力を提供するが、通常堅くて柔軟性に限度がある。対照的に、マルチフィラメン卜糸で形成された外科手術用メッシュは、モノフィラメント糸で形成されたメッシュと比較すると、柔らかくて柔軟性がある。
【0004】
しかし、マルチフィラメント糸で形成されたメッシュは、細菌などの感染性物体をかくまう傾向がある。特に、マルチフィラメンン卜糸のフィラメン間の小さな空間または隙間は上記細歯の繁殖を促進することがある。現在のところ、外科医は、感染性物体のかくまいを阻止するのに優れているという理由から、通常モノフィラメント設計のものを好んでいる。この選択の結果、外科医は,マルチフィラメント糸に関係する利点を締めなければならない。
【0005】
従来の外科手術用メッシュの例は、特許文献1で開示されている。ここで説明されている外科手術用メッシュは、ポリエチレン樹脂を成形して形成する相互接続された糸が完全に編み模様になっている。基本的に、この特許文献1のメッシュは、成形されたモノフィラメントメッシュであるため、比較的堅く柔軟性が限られている。
【0006】
特許文献2は、生体組織の再編および修復用の外科手術用メッシュについて別の例を開示している。ここで説明されている外科手術用メッシュは、モノフィラメントまたはマルチフィラメントのいずれかのポリエチレン糸で織ることができる。モノフィラメント糸で形成するとメッシュの柔軟性は限られ、マルチフィラメント糸で形成すると感染性物体をかくまう傾向があり得る。
【0007】
特許文献3は、外科手術用メッシュについてまた別の例を開示している。ここで説明されている外科手術用メッシュは、モノフィラメントのポリプロピレン糸で形成され、この糸は連続した管状に織られる。組織メッシュは多孔性で、モノフィラメント構造であるため、感染耐性の特性を持つ。しかし、モノフィラメントは堅くなりがちで比較的柔軟性がないため、メッシュを取り入れようとする身体の機能を低下する。
【0008】
外科手術用支持メッシュは、ヘルニア修復手術中など、柔軟な組織の修復に関する分野で極めて役立っている。鼡径部ヘルニア縫縮術は、最も古く一番広く行われている手技である。残念ながら、平均的な手術結果は、手術に伴う障害のため一時期不快さが伴う。罹患率および再発率を低減する目的で、腹腔内視鏡下ヘルニア縫縮術などの方法が開発されている。しかし、大抵の試みは、手技に関連する苦痛および障害をある程度改善したものに過ぎない。さらに、腹腔内視鏡下ヘルニア縫縮術に必更となる機器費用の増加、全身麻酔の必要性、手術室時間の増加のため、この手技はあまり理想的でないことが示されている。鼡径部ヘルニア患者に関する費用、障害、およびヘルニア再発についての全配慮事項を有効に解決できる手技の必要性が続く。
【0009】
現在、腹腔内視鏡下術または開腹術のいずれかで腹膜前空間に補てつ用メッシュを取り付けているが、これらよりもさらに低侵襲性の手段で手技を行うのが望ましい。そのような手段として考案されたものとして、腹膜腔にメッシュを選ぶのに針を使用するものが挙げられる。しかし、針のカニューレに通るのに十分に細く、しかもその意図される目的を適切に果すのに十分な強度と柔軟性があるメッシュが無いため、針でメッシュを送達するのは部分的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2,671,444号明細書
【特許文献2】米国特許第3,054,406号明細書
【特許文献3】米国特許第4,452,245号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、体内で展開するためにメッシュを巻いて折り曲げ、針のカニューレに挿入できるような厚さがあり、しかもマルチフィラメント糸から製造されるメッシュのしなやかで柔軟な特性と、モノフィラメント糸から製造されたメッシュの感染耐性の両方を兼ね備えた柔組織外科手術用メッシュが必要である。また、このメッシュは糸くずを出さず、すり切れ難く、ほぐれ難いものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1) 柔軟で曲げやすい柔軟な組織メッシュであって、糸のフィラメント間に存在する間質空隙がマトリックス内に封入されている、耐感染性マトリックス内に包み込まれた複数のフィラメント糸(yarn)からなる支持用格子を含む、メッシュ。
(項目2) 項目1に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、少なくとも上記糸のフィラメントを構成する素材の柔軟性に匹敵する柔軟性を有する素材からなる上記糸の外周を包囲する、メッシュ。
(項目3) 項目2に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、上記糸に浸透して存在する間質空隙を実質的に満たす、メッシュ。
(項目4) 項目3に記載のメッシュであって、上記マトリックスは、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、およびそれらの共重合体からなるグループより選択された重合体からなる、メッシュ。
(項目5) 項目1に記載のメッシュであって、上記糸は、柔軟な芯と上記芯を包囲する融解(fuse)可能なシースを各々有する多数の2要素フィラメントからなり、シースは上記格子を加熱した際に上記間質空隙を閉塞すべく上記シースを互いに融解させる、芯の融点よりも低い融解温度を有する、メッシュ。
(項目6) 項目5に記載のメッシュであって、上記芯は、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステルからなり、上記シースは、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・コポリエステルからなる、メッシュ。
(項目7) 上記マルチフィラメント糸が上記支持用格子を形成するために規則正しく間隔を置いた接続部で互いに重なりあっており、上記重なり合う糸が上記メッシュのもつれ抵抗を高めるために、上記接合部で互いに接着している、項目1に記載のメッシュ。
(項目8) 上記マトリックスが薬品浸透性であり、上記メッシュを移植後、薬品が患者の体内に放出されるために上記マトリックスに組み込まれる、項目1に記載のメッシュ。
(項目9) 上記メッシュの厚みが約0.2ミリメートル以下である、項目1に記載のメッシュ。
(項目10) 上記マルチフィラメント糸が撚れずに分かれている、項目1に記載のメッシュ。
(項目11) 上記マルチフィラメント糸がほぼ楕円状の断面を有する、項目10に記載のメッシュ。
(項目12) マルチフィラメント糸で作られた支持用格子から入る感染物の存在に対して抵抗力の増加を示す柔軟で曲げ易い外科用のメッシュの生産方法であって、上記糸の間に置かれる間質空隙が、マトリックスで囲まれている非感染マトリックス内にある上記マルチフィラメント糸を包むことを含む、方法。
(項目13) 上記包むステップが上記格子の形成の前に、上記糸の外側に樹脂を付けるステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目14) 上記樹脂が上記糸に浸透し、空隙を十分充満するように上記格子の外側に十分な量の樹脂を十分な時間をかけて付ける、項目13に記載の方法。
(項目15) 上記包むステップが格子の形成後、上記糸の外側に樹脂を付けるステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目16) 上記樹脂が上記糸に浸透し、上記空隙を十分充満するように上記格子の外側に十分な量の樹脂を十分な時間をかけて付ける、項目15に記載の方法。
(項目17) 上記糸が各々弾力性のある芯と上記芯の周りに可溶性シースを持つ複数の2要素フィラメントから構成され、上記包むステップが上記シースがともに融解する上記シースの融解温度より上で、上記格子を加熱するステップを含む、項目12に記載の方法。
(項目18) 上記融解ステップが、上記格子に熱または光波放射線を適用して達成される、項目17に記載の方法。
(項目19) 患者身体への上記メッシュの移植後、そこからの放出のため、上記マトリックスへ医療薬剤を取り込むステップをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目20) 滅菌したパッケージ中で、上記包まれた格子を密封するステップをさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目21) 項目12に記載の方法であって、所望の厚みのメッシュをプレスするために圧縮力を加えるステップをさらに含む、方法。
(項目22) 患者の身体の損傷を受けた部分を修復する方法であって、柔軟な組織メッシュを提供すること、上記メッシュが耐感染性マトリックス内で包まれたマルチフィラメント糸から形成された支持用格子を含み、それによって、上記メッシュは柔軟でかつ曲げやすく、同時に感染性物体の存在に耐性を示すこと、上記身体の上記損傷を受けた部分に接近すること、上記損傷を受けた部分を補強するために、上記身体中に上記外科手術用メッシュを移植し、上記身体に、上記メッシュを同化させることを含む、方法。
(項目23) 項目22に記載の方法であって、上記糸はそれぞれ柔軟性のある芯および該芯を囲む可溶性シースを有する複数の2要素フィラメントから形成され、上記提供する工程が上記シースの溶融温度より上で上記格子を加熱するステップを含み、それによって上記シースがともに溶けて上記芯を包み込む、方法。
(項目24) 項目22に記載の方法であって、上記マトリックスは薬剤透過性であり、上記メッシュの移植後に患者の身体へ放出するための上記マトリックスに医療薬剤が組み入れられている、方法。
(項目25) 項目1に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が50ミクロンから400ミクロンの範囲のサイズを有する細孔を規定する、メッシュ。
(項目26) 項目7に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が0.05ミリメートルから0.5ミリメートルの範囲の厚さを有する、メッシュ。
(項目27) 項目7に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が0.20ミリメートルより薄い厚さを有する、メッシュ。
(項目28) 項目27に記載の柔軟組織メッシュであって、上記格子が約5ミリメートルまたはそれより小さい直径を有するトロカールへの挿入が可能となるのに十分に薄い、メッシュ。
(項目29) 項目28に記載の柔軟組織メッシュであって、上記メッシュが広げられた状態で形状記憶を実現するのに十分な温度で十分な時間加熱状態にされる、メッシュ。
(項目30) 項目28に記載の柔軟組織メッシュであって、上記メッシュが形状記憶材質で作られた糸またはフィラメントを含む、メッシュ。
(発明の要旨)
本発明は、当該技術の必要性を提起し,柔軟で曲折可能な外科手術用メッシュを提供する。このメッシュは、耐感染性マトリックスに包まれた、マルチフィラメント糸(yarn)で形成される支持用格子を合み、それにより糸のフィラメント間に置かれた間質空隙は、マトリックス内に封じられる。また、このマトリックスはメッシュがほどけないための必要な抵抗を付与し、それによって糸が一ヶ所に片寄ったり、ほどけたりするのを防ぐ。このメッシュは微細なマルチフィラメント糸により編物状または織物状に構成され、これは組織の修復または補強で使用されるのに望ましい機械的強度および有孔性を有する。
【0013】
さらに、本発明は、マルチフィラメントの糸からなる支持用格子の感染物質の存在に対する抵抗性を高めることを示している、柔軟で曲折可能な外科用メッシュの製造方法を提供するものです。本方法は、マルチフィラメント糸を、耐感染性マトリックス内で包み込み、これにより糸のフィラメント間に置かれた間質空隙がマトリックス内に封じられるステップを含む。一つの実施態様として、侵襲性を最小限にとどめた器具を介して送達を容易にするために、布は極めて薄く製造される。この布の厚さは、その特定の用途およびデリバリー装置に合わせて調整される。また、布を希望の厚さに圧縮するために、仕上げ操作の段階で熱およびまたは圧力を使って糸を押すまたはカレンダーにかける技術が適用され得る。
【0014】
本発明は、例えばヘルニア修復期間のような、組織の修復および/または補強等、侵襲性が最小限の外科手術に特に有効なメッシュ布を提供する。その薄い構造のため、本メッシュ布は巻き上げたり、折りたたんだりすることができ、非常に小さなサイズでトロカール、カニューレ等の器具を使用して体内に導入および送達することが容易である。また、本メッシュにはデリバリー装置から取り外され時に、希望する配置に戻るよう弾性記憶が与えられ得る。例えば、本メッシュはデリバリー装置から取り外されたら、展開して比較的単純な配置に戻るように設計され得る。
【0015】
また、本発明は、患者体内の損傷部を修復する方法を提供する。本方法は、柔軟な外科手術用メッシュを提供するステップを含む。場合によっては、本メッシュはさらに丸めたり、折りたたまれたり、あるいは別の方法で容積を圧縮して腹腔鏡送達装置のカニューレにフィットするようにする。本発明のメッシュは、耐感染性マトリックス内で包み込まれたマルチフィラメント糸から形成される支持用格子を含み、それによって本メッシュは柔軟で曲げることができ、同時に感染物質の存在に対する抵抗を示す。本方法は、さらに人体の損傷部分に接近し、損傷部分を補強するために人体内に外科用メッシュを移植し、メッシュが体内に同化されることを含む。
【0016】
その結果、本発明は、マルチフィラメントの糸から成るメッシュの持つ柔軟で曲げることのできる特徴、およびモノフィラメント糸から作られるメッシュの感染抵抗性を両方示す、外科手術用支持メッシュを提供する。さらに、本発明は、けばを生じずほつれにくい外科手術用支持メッシュを提供する。さらに、本発明のメッシュは、腹腔鏡デバイスを使用して腹膜腔に送達できるように、適当な厚さに形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マルチフィラメント糸よりなる織物状の従来技術による支持メッシュの一部分である。
【図1a】図1の1a−1a線に沿った断面図である。
【図2】本発明に従って、マルチフィラメント糸から形成された織物状の支持用格子が、耐感染性マトリックス内に包み込まれた本発明の支持メッシュの一部である。
【図2a】図2の2a−2a線に沿った断面図である。
【図3】支持用格子が作成される前の耐感染性マトリックス内に包み込まれたマルチフィラメント糸の断面図である。
【図3a】図3のマルチフィラメント糸の断面図で、厚さが本発明によって縮小されたものである。
【図4】マトリックスを構成する包み込まれた樹脂が糸に浸透し、実質的に間質空隙を充満した、図3に類似する図である。
【図4a】図4のマルチフィラメント糸の断面図で、厚さが本発明によって縮小されたものである。
【図5】2要素繊維からなるマルチフィラメント糸の断面図。
【図6】ひとつの2要素繊維の拡大断面図である。
【図7】図5の2要素マルチフィラメント糸からなる本発明の織物状支持用メツシュの一部分であり、格子の組立の後に融解されるものである。
【図7a】図7の7a−7a線に沿った断面図である。
【図8】針のカニューレへの挿入のために丸められた状態の、本発明の薄いメッシュの図である。
【図9】本発明により作成されたメッシュの一部分の顕微鏡写真である。
【図9a】図9に示されたメッシュの断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
図、特に図1には、従来の発明である外科手術用支持メッシュ10が図示されている。メッシュ10はモノフィラメントまたはマルチフィラメントの糸から製造できる。図のとおり、従来のメッシュ10は横に伸びているマルチフィラメント糸12と縦に伸びているマルチフィラメント糸14が編み込まれて支持用格子を構成している。
【0019】
糸12および14のようなマルチフィラメント糸を使用することにより、モノフィラメントを使用した場合に比べ、より優れたしなやかさと柔軟性を備えたメッシュを実現できる。これらの特性は、各フィラメント径とフィラメント間の隙間または空間が、より小さいという2つの理由によるものである。
【0020】
特に、フィラメント(またはファイバー)は、一般的にその径が減少するとその柔軟性が増すものである。マルチフィラメント糸の断面における固体部分は、同じ径を持つモノフィラメント糸の断面における固体部分より小さいので、マルチフィラメント糸はモノフィラメント糸に比べ、しなやかさと柔軟性が高い。
【0021】
図1aに見られるとおり、マルチフィラメント糸12および14は各々、複数のフィラメント糸16が混合され、または束ねられて糸を構成している。空気のポケットである隙間18は糸の隣接するフィラメントの間に出来る。これらの隙間はメッシュに柔らかさおよびしなやかさをもたらすものの、細菌やその他の感染性物体の、天然の繁殖基盤となる。
【0022】
当然、外科手術用メッシュは移植前に滅菌される。しかしながら、外科医は感染の危険を最小限に抑えるためモノフィラメントメッシュの使用を好む。その結果、マルチフィラメントメッシュの利点(身体にメッシュがより効果的に同化するのを助ける、柔らかさ、しなやかさなど)は通常犠牲となる。
【0023】
柔らかさとしなやかさを備えるマルチフィラメントメッシュの特性と、耐感染性に優れたモノフィラメントメッシュの特性を兼ね備えた手外科手術用支持メッシュが製造可能であるということがここに発見された。特筆すべきは、隣接するフィラメントの間に出来た隙間が、細菌の侵入を防ぐマトリックス内に閉じ込められるようになっている、マルチフィラメント糸で構成される支持用格子は、柔軟性を大幅に犠牲にすることなく、感染性物体が宿ることに対して要求される耐性を提供することが発見されたことである。
【0024】
特に糸のフィラメントの間の間質空隙を完全に取り囲むマトリックスは、糸の内側と外側の間を感染物質が通過するのに対して効果的な障壁を提供する。したがって当該糸の被包後糸に残っているいかなる空隙も結果として生ずるマトリックス内に閉じ込められて(それゆえ密封されて)いる。
【0025】
本発明の第一の実施態様を図2に示す。特にこの最初の実施態様は、マルチフィラメント糸22と24から形成される支持用格子20を含み、これは、交差接合点25で重なる。格子の形成の結果、当該格子は、マトリックス26内に封入される。このマトリックス26は、糸の外側を継続的に取り巻き、それによりフィラメント28(図2a参照)の間に位置する間質空隙27を取り囲むフレキシブルな材質であることが望ましい。ひとつの実施態様では、マトリックスが重合体の樹脂から形成されている。
【0026】
図2aに示すように、糸に樹脂を十分浸透させないように、樹脂を糸に付けることができる。特に樹脂の含浸は、付ける工程、たとえば付ける樹脂の量および/または被包時間などを通じて制御することができる。そのような実施態様では間質空間は、継続的なマトリックス内で(充填されるのではなく)閉じ込められる。しかし、樹脂が糸に含浸できるようにし、それによって、その中に位置する間質空間を十分に充填するように考慮する。
【0027】
本発明の他の実施例では、図3に示すように、個別の糸29が支持用格子の形成前にマトリックス30に被包されている。図3aは薄い格子を提供する圧縮された糸29を示す。被包の結果、糸に残る間質間隙32はこのマトリックス中に閉じ込められる。(したがって密封される)。これにより感染物質が糸の内部と外部の間を通過するのが防止される。言い換えれば、マトリックスは、望ましいフレキシビリティを維持すると同時に、被包後の糸に残るあらゆる間質空隙と当該糸の外側の間に耐感染性の障壁を提供する。
【0028】
前述の通り、マトリックスの含透の程度は、糸に付ける樹脂の量および/または塗布時間の調節により制御することができる。たとえば図4および図4aに示す糸34を参照すると、マトリックス36が糸のすき間スペースに含浸し、したがってそこに位置するエアスペースをの大部分を十分に充填する。
【0029】
格子を被包するために使用される樹脂は、個々のフィラメントの融点よりも低い融点を有することが望ましく、したがって格子を傷めることなく(すなわちフィラメントを溶かすことなく)、樹脂を適用できる。さらに形成されたメッシュが望ましい柔軟性を確実に維持できるように、樹脂は高度のフレキシビリティを有するべきである。樹脂のヤング係数(Young’s Modulus)はフィラメント材質の係数よりも低いことが望ましい。ポリエステル、ポリプロピレン、ボリエチレン、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、またはそのコーポリマーにより形成した樹脂がこの使用に考慮される。
【0030】
本発明の一つの実施態様において樹脂溶液が形成された格子に付けられる。樹脂を含む溶媒は、次に蒸発し、それにより溶質が含浸し、したがって糸内の空隙を充填する。
【0031】
マルチフィラメント糸の被包は、糸の個々フィラメントの間に形成された間質空間を永久的に閉じ込める。特に継続的な耐感染性マトリックスが糸の外側に形成され、したがってフィラメントを被包し、それによりその間に形成された間質空間を充填および/または密封する。それゆえその結果として生ずる外科手術用メッシュは、モノフィラメント糸よりソフトで柔軟性を有し、同時に、通常のマルチフィラメント糸に多くみられる感染物質の通路にバリアを提供する。
【0032】
更に、糸の囲いこみが、支持用格子の形成に続いて、すなわち、布自体に対して行われるならば、図2に示されるように、格子の糸を交差点25で融解させて実行される。これは、形成されたメッシュのもつれ抵抗を改良する。また、これによって、メッシュの糸くずやほつれのできやすさが改善される。(すなわち、メッシュは糸くずやほつれのいずれもができにくくなる。)しかしながら、個別の糸が格子の形成の前に囲いこまれていれば、成型後も格子を加熱し、糸のコーティングを融解させ、それによって格子にほつれ抵抗を与え得る。
【0033】
図5および6を参照すると、本発明に使用されるマルチフィラメント糸、例えば糸40は、2要素繊維42を形成し得る。これらの2要素フィラメントには、シース44と芯46がある。シースは、好ましくは、フィラメントの芯を形成する物質よりも低い溶融または融解温度を持つ物質により形成する。つまり、フィラメントが特定の温度に加熱される時、シースは柔らかくなり隣り合うフィラメントのからシースと共に流れる。それによって、フィラメント間の空隙が満たされ、フィラメントの芯が囲いこまれます。もう1つの実施例では、例えば液体基剤のコーティング材料のような熱以外の手段が使用されていますが、溶媒が気化した後にコーティングが残り、フィラメントが囲いこまれ、および/またはそれらの間に形成される間隙が満たされる。
【0034】
シース44には、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレートの共重合体がよい一方で、芯46には、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステルが使われる。もちろん、2要素フィラメントには他の適切な材料を用い得る。
【0035】
本発明のもう1つの実施態様を図7および7aに示す。特に、この実施態様には、糸40のような2要素のマルチフィラメント糸により形成された支持用格子48が含まれる。格子形成の後に、格子は予め設定されている温度、つまり、2要素フィラメントの融解温度に加熱される。
【0036】
この融解温度では、2要素フィラメントのシース44が溶け始め、一緒に流れ始める。それによって、少なくとも、フィラメント間の空隙が少なくとも実質的に満たされ、連続的なポリマーマトリックス内で芯46が包囲される。溶解したシースも、流れているポリマーが充填されていないあらゆる空隙50を包囲する。シース44のポリマーが芯46のポリマーよりも柔らかく、より柔軟であるため、形成された格子は、単一繊維糸よりも従来の多繊維糸によって形成されたものにより近い、外科的な支持用メッシュの柔軟性を呈する。2要素の撚っていない糸フィラメントでは、より展伸する傾向がある。この展伸性は、布を熱で圧縮中に糸にかかる横断力によって更に強調される。更に、シースのポリマーが多数のフィラメント間に介在する空隙に流出すると、繊維の間の空気が減少し、更に糸の結束が強められる。
【0037】
本発明による外科用メッシュは、布を織る、ニット加工する、編み上げる、または複数のマルチフィラメント糸を支持用格子構造の中に成形することによって形成し得る。マルチフィラメント糸として、伝統的なマルチフィラメント糸あるいは2要素のマルチフィラメント糸を用い得る。2要素のマルチフィラメント糸で形成される時、支持用メッシュは後に熱あるいは光エネルギーの作用を受け、フィラメント同士が融解される。例えば、メッシュがオーブンの中に置かれ、例えば180〜210℃の程度の温度、より好ましくは、200〜210℃の加熱がなされ、個別のフィラメントのシースが融解する。
【0038】
コーティングあるいは2要素フィラメントの融解による糸の包囲は、縦糸を織り込む構造の繊維質の特性を失わせる一方、「膜様の」触感の格子を提供する。更に、本発明によって、格子孔(例えば、図7に示される孔52)の大きさを制御し得る。例えば、孔の大きさ(好ましくは約50ミクロンまたはそれより大きい)は、格子の外部に適用する樹脂の量を調節することによって制御し得る。孔の大きさを制御することによって、格子の体内への同化が促進されると考えられる。
【0039】
本発明の一つの好ましい実施態様では、医薬物質(例えば抗生物質)が糸を包囲しているマトリックスに取りこまれている。薬剤が包囲用樹脂に直接分散されるか、あるいは複数の別個のキャリアに添加され、次いでこれらが包囲用樹脂に直接分散される。
【0040】
本発明のもう1つの実施態様では、およそ0.05〜0.50ミリメートルの範囲の厚さを持つ薄いメッシュが形成される。より好ましくは、本発明による薄いメッシュが約0.10〜0.20ミリメートルの厚さを持つ。メッシュの幅と長さの寸法は、特殊な用途と送達装置に応じて慣習的に使われている範囲で調節し得る。例えば、12センチ×15センチ〜14センチ×16センチの範囲である。このような範囲は一般に、成人の肛門括約筋孔の修復範囲をカバーするのに十分である。上述の通り、このような薄い外料用メッシュは、次いで巻き上げたり折りたたむことによって、例えば口径5ミリメートル以下の細い針のカニューレ内にフィットさせ得る。
【0041】
マルチフィラメント糸によって与えられる柔軟で曲げやすい特性の他に、個別のフィラメントあるいは繊維は、厚みを減らし輪郭を薄くする、展伸性や平坦さを与える。糸の平坦になる力を最大にするため、薄さを引き出す能力を妨げるような糸のねじれや他の指向性を最小限にするか、あるいは防ぐことが必要である。
【0042】
本発明による薄い織られたメッシュを製作する際に、糸同士に(つまり末端数)間隔を置くことに注意し、織物の構造によって定義される空間をせまく、特に約50〜約200ミクロンの間隔でおくことが必要である。このようにして作られた織物の構造は、強化組織に所望の機械的特性を与えるため、2要素のマルチフィラメント糸の使用を有利にする。更に、2要素糸は、1つの成分を溶融可能な樹脂にし、加熱することによって、布の中の他の糸と融解させ、織りこみ点で溶接し、構造を閉じ得る。
【0043】
織りこみの溶接は、糸を閉じることによって糸の束の中の孔をなくし、感染物がひっかかる危険性をなくす一方で、織物の構造の中の糸を安定化する。また、この処理によって、メッシュの柔軟性が失われ、カニューレから取り出されると平面を保とうとする。
【0044】
マルチフィラメント糸は、また、展伸すると、メッシュを薄くする。糸に撚りをかけたり、あるいは他の糸を加工することによって妨げられない場合、マルチフィラメント糸の平坦さの特徴が最大になる。織られた後、布には、単一のフィラメントの糸または良く撚られたマルチフィラメント糸によって保持される円形の断面より、むしろ楕円形の断面を糸が作り出す、ヒートセット加工がなされる。
【0045】
本発明による薄く織られたメッシュの実施例には、例えば円直径が約0.09ミリメートルの75デニールの2要素ポリエステル糸の使用が含まれる。本発明で使用されるマルチフィラメント糸は、本来の厚さの半分程度に薄くなり得る。薄くなると、糸は、約0.04〜0.06ミリメートル程度の、より小さな直径、あるいは糸の太さをもつ楕円形或いはレース・コース(長方形でコーナーが丸い)型の断面になり、大きい方の直径あるいは糸の幅は、約0.22〜0.28ミリメートルになると考えられる。末端数とピック数が1インチ平方当り70×70あるいは1平方センチ当り28×28程度の正方形の平織構造を使うと、長方形の孔の大きさはそれぞれ、片面あるいは両面で、0.05から0.07ミリメートル、すなわち50〜70ミクロンになる。
【0046】
織物構造によって、ニット加工するよりも大きな厚さに対する強度が得られる。また、織物構造によってメッシュは、例えば、ニット加工するよりも効果的に予測可能な状態で、かつより薄く、等方性または異方性の特性が与えられる。布の裂け強度は、約21kg/cm2あるいは300psiあるいは2068kPaと推定される。このような裂け強度は、本発明によって達成されるものよりずっと厚い、ヘルニア修復等の通常の外科修復用布の範囲にある。
【0047】
更に、メッシュに形状記憶させ得る。メッシュが広がった状態において、例えば、十分な時間十分な温度で加熱加工し得る。メッシュは、形状記憶されたニチノール糸のような個別の糸(thread)をも含み得る。メッシュは、それによって、配置した後に体温に達した時点で展開するような、平坦な構造に設計し得る。メッシュに与えられた形状記憶性は、例えば針カニューレのような送達器具中に保存された後も、メッシュが腹腔内に配置されると平坦に展開すると考えられる。この方法によって形状記憶性を柔組織メッシュに設計することにより、体内での配向が容易になる。更に、封入用マトリックスによって、メッシュは構造的な安定性とほつれ抵抗を持つようになり、子宮内視鏡保持装置を使って引っ張ったり、調整したりし得る。
【0048】
本発明による柔組織メッシュを、通常の外科手術または子宮内視鏡の手法を使って埋めこみ得る。より好ましくは、針のデリバリーによる新しい浸襲性が最小の手法を用い得る。このような方法では、針のデリバリー・システム内に包括できるように、メッシュは巻き上げられたり、折られたり、または他の方法で圧縮され容積および輪郭を減らす。図8に示されるように、巻き上げられたメッシュ54はカニューレ56に挿入され得る。メッシュは、十分に小さな容積でなければならず、針カニューレを通過し、患部で展開する。より好ましくは、メッシュはヒートセットを記憶しており、展開した後、比較的平坦な構造に戻る。もちろん、人体の個別用途に応じて、他の形状も使用し得る。メッシュがデリバリー・システムから取り出されると、メッシュは、適切な組織部位に向けられ処理される。
【0049】
例えば、薄い外科的な支持用メッシュは、針を経由して患者の腹腔に到達させ得る。第2の小さな針カニューレを、二酸化炭素をその腹腔領域に充填するために挿入し得る。ヘルニア・サックは切除され結さつされる。針によるヘルニア手術中の視覚化は、2〜5ミリメートル口径の子官内視鏡をカニューレ内に取りつけることで可能となる。メッシュは、針から取り出され横隔膜上に置かれ、その後、肛門括約筋孔をカバーするために処理される。メッシュには、カニューレから放出されたら平坦になるように、柔軟な記憶をさらに与えられる。メッシュは、腹腔組織を支えるように体内組織に同化させるために、必要に応じてへルニア領域に縫い付けたり、あるいはステープルでとめ得る。
【0050】
そのため、針によるヘルニア手術の手法によって、開腹手術の必要性を回避し得る。針によるヘルニア手術の手法では、開腹手術あるいは子宮内視鏡の手法に関連する、一般的な麻酔の必要がなく、痛みや身体的な不具合を減少させ得る。
【実施例】
【0051】
(実施例)
以下の実施例は本発明における外科手術用支持メッシュを説明する。
【0052】
(実施例1)
支持用格子は、特に250デニール/16フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で織られている。鐘紡Bellcouple(登録商標)糸には、ポリエチレンテレフタレート・ポリエステル芯、および芯よりも融点が低いシースであるポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・コポリエステル・シースが含まれる。
【0053】
支持用格子が構築された後、格子は対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで加熱することにより個々のシースを融解する。糸はここで包み込まれ、さらに糸の重複部分である接合点において相互に融合し合う。
【0054】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0055】
(実施例2)
支持用格子は、特に75デニール/24フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で縦編みされている。サポート・格子が構築された後、格子は対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで加熱することにより個々のシースを融解する。
【0056】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0057】
(実施例3)
支持用格子は、特に75デニール/24フィラメント/タイプのLHCV鐘紡Bellcouple(登録商標)ポリエステル糸による2要素糸で単純織布状に織られている。糸数は1インチにつき70端数および1インチにつきピック数70本である。長方形孔の寸法は各面50から70ミクロメートルの範囲である。
支持用格子が構築された後、格子は強制熱空気対流式オーブンにかけられ、およそ210℃まで15分間加熱することにより個々のシースを融解する。構造の厚みはおよそ0.10ミリメートル以下である。図9は本例に基づいた構造の一部を示した顕微鏡写真である。図9aは同構造の断面図を示した顕微鏡写真である。
【0058】
結果として生じたメッシュはこの後、滅菌パッケージの中に密封される。
【0059】
本発明の例示的実施例は随伴する図を参照としながらここに詳述されているが、本発明はこれらの精密な実施例に限定されるものではなく、技術に優れた者により本発明の範囲または趣旨より逸脱することなくその他の様々な変化や修正を生じさせる可能性があることを理解するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載される外科手術用メッシュ。
【請求項1】
本明細書中に記載される外科手術用メッシュ。
【図1】
【図1a】
【図2】
【図2a】
【図3】
【図3a】
【図4】
【図4a】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7a】
【図8】
【図9】
【図9a】
【図1a】
【図2】
【図2a】
【図3】
【図3a】
【図4】
【図4a】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7a】
【図8】
【図9】
【図9a】
【公開番号】特開2009−273926(P2009−273926A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194879(P2009−194879)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【分割の表示】特願2000−504813(P2000−504813)の分割
【原出願日】平成10年8月4日(1998.8.4)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【分割の表示】特願2000−504813(P2000−504813)の分割
【原出願日】平成10年8月4日(1998.8.4)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】
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