説明

薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法

【課題】包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を伸張させて確実に搬送することが可能な薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法を提供する。
【解決手段】薄切片作製装置1は、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、包埋ブロックBを固定する試料台2と、試料台2をカッター3に対して所定の送り方向Xに相対移動させて、カッター3によって包埋ブロックBを薄切させる送り手段4と、カッター3の上方からカッター3の切れ刃3a後方に向かって配設されて、包埋ブロックBから薄切された薄切片B1を搬送する搬送ベルト20と、カッター3の切れ刃3aの前方に配置され、薄切される包埋ブロックBの切削面B2上に、切れ刃3aに向かう方向で、かつ、該切れ刃3aから離間した位置で、圧縮気体を吹き付け可能な送気手段4を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料を包埋した包埋ブロックを切削して薄切片を作製する薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックから薄切片を作製した後に、染色処理を行い、生体試料を観察する方法が知られている。このような包埋ブロックから作製される薄切片は、細胞レベルの観察を可能とするため、3〜5μm程度の厚さで均一に、かつ、包埋されている生体試料を損傷しないように切削する必要がある。このため、従来このような包埋ブロックから薄切片を作製する作業は、鋭利な状態に保たれた薄刃のカッターを使用して、熟練な作業者による手作業に委ねられてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製する必要があるため、近年、薄切片を作製する一連の工程の自動化が望まれている。
【0003】
このような薄切片の作製を自動化する薄切片作製装置としては、包埋ブロックを薄切するカッターと、包埋ブロックを固定する試料台をカッターに向かって移動させて、カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り機構と、薄切片が載置されて薄切片を搬送するベルトと、カッターの切れ刃の向きと略平行に切れ刃と近接してカッターの上方に設けられた方向切替部と、カッターの後方に設けられた後部ローラと、方向切替部と対向する 位置に配置され薄切された薄切片に送風する送風機とを備える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。そして、このような薄切片作製装置においては、カッターと送り機構により包埋ブロックから作製されていく薄切片に、送風機により送風することで、薄切片は作製されていくに伴ってカールしてしまうことが防止されてベルトに載置されるものとされている。
【0004】
また、薄切片が作製される包埋ブロックに隣接して搬送ベルトを配置するとともに、搬送ベルトと反対側に搬送ベルトに向かって送風可能に送風機が配置されている薄切片作製装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2007−178287号公報
【特許文献2】米国特許第3667330号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1による装置よれば、作製されていく薄切片のカールを防止するには包埋ブロックを薄切している間常に送風している必要があるが、薄切片は、常時風を受けることで変動してしまい、風の影響による変動が大きくなってしまった場合には、正確に薄切できず、あるいは、ベルト以外の部分に付着してしまうおそれがあった。また、何らかの原因によりカールしてしまった場合には、送風機の送風によりカール状の薄切片を包埋ブロックに押付けて潰してしまうこととなり逆効果となってしまうこともあった。また、特許文献2による装置によれば、送風機による送風は、搬送ベルトに向かって送風して、包埋ブロックから作製された薄切片を隣接する搬送ベルトに送るためだけのものであり、薄切片がカールしてしまった場合には、カールしたままの状態で搬送ベルトに送られてしまう問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を伸張させて確実に搬送することが可能な薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の薄切片作製装置は、包埋ブロックを薄切するカッターと、包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台を前記カッターに対して所定の送り方向に相対移動させて、該カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り手段と、前記カッターの上方から前記カッターの切れ刃後方に向かって配設されて、包埋ブロックから薄切された薄切片を搬送する搬送ベルトと、前記カッターの前記切れ刃の前方に配置され、薄切される包埋ブロックの切削面上に、該切れ刃に向かう方向で、かつ、該切れ刃から離間した位置で、圧縮気体を吹き付け可能な送気手段を備えることを特徴としている。
【0008】
また、本発明は、包埋ブロックをカッターによって薄切することで作製した薄切片を、前記カッターの上方から前記カッターの切れ刃後方に向かって配設された搬送ベルトに引き渡して搬送させる薄切片の搬送方法であって、前記カッターによって包埋ブロックを薄切する際に、前記カッターの前記切れ刃の前方側から薄切する包埋ブロックの切削面上に、前記切れ刃に向かう方向で、かつ、該切れ刃から離間した位置で、圧縮気体を吹き付けて作製される薄切片を伸張させて、前記搬送ベルトに引き渡すことを特徴としている。
【0009】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、包埋ブロックを試料台に固定し、送り手段によってカッターに対して所定の送り方向に試料台とともに包埋ブロックを相対移動させることで、カッターによって包埋ブロックを薄切し、薄切片を作製していくことができる。そして、送気手段によって包埋ブロックの切削面上に、切れ刃に向かう方向で、かつ、切れ刃から離間した位置で、圧縮気体を吹き付ければ、圧縮気体は、一度切削面に吹き付けられた後に、切削面に沿って薄切片が作製されていく切れ刃に向かって吹き付けられることとなる。このため、作製されて切れ刃から延びる薄切片には、切れ刃が位置する根元部分から吹き込むこととなり、カールしてしまったとしても、カール状の薄切片の内部に吹き込むこととなる。このため、薄切片は、カールしてしまったとしても、圧縮気体により、押し潰されてしまうことなく、カール状を呈する内部から押し広げられることとなり、確実に伸張させることができる。また、カールしたとしても圧縮気体により確実に伸張させることができることから、常に圧縮気体を送気させておく必要がなく、適切なタイミングで送気すれば良い。
【0010】
また、上記の薄切片作製装置において、前記送気手段を、前記カッターの前記切れ刃に対して位置調整する吹付位置調整手段を備えることがより好ましい。
【0011】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、吹付位置調整手段により送気手段をカッターの切れ刃に対して位置調整することができる。このため、包埋ブロックを薄切する厚さ、包埋ブロックに包埋されている生体試料の種類、あるいは、切削面の湿潤状態などの各種条件によって、作製される薄切片がカールする曲率は異なるが、現在の条件において、最適な位置で送気手段により圧縮気体を吹き付けることができ、より確実にカール状の薄切片を伸張させることができる。
【0012】
さらに、上記の薄切片作製装置において、前記吹付位置調整手段は、前記カッターの前記切れ刃に対して前後方向に位置を調整する距離調整部と、前記カッターの前記切れ刃によって包埋ブロックに形成される切削面からの高さを調整する高さ調整部と、該切削面に対する前記圧縮気体の吹き出し角度を調整する角度調整部とを有することがより好ましい。
【0013】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、距離調整部によりカッターの切れ刃に対して前後方向に、高さ調整部によって高さ方向に、また、角度調整分によって吹き出し角度を調整することができるので、各種条件に応じて圧縮気体を吹き付ける条件を細かく設定することができる。
【0014】
また、上記の薄切片作製装置において、前記送気手段による圧縮気体の吹付け圧力及び吹付け時間を制御する制御部を備えることがより好ましい。
【0015】
この発明に係る薄切片作製装置によれば、制御部により送気手段による圧縮気体の吹付け圧力及び吹付け時間を制御することができるので、各種条件に応じて圧縮気体を吹き付ける条件を細かく設定することができる。
【0016】
また、上記の薄切片作製装置において、前記カッターと前記送り手段とにより包埋ブロックの前端から薄切を開始し、包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記搬送ベルトの端部までの距離以上となった時に、前記送気手段によって圧縮気体を吹き付けさせる制御部を備えることがより好ましい。
【0017】
また、上記の薄切片の搬送方法において、前記カッターにより包埋ブロックの前端から薄切を開始し、包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記搬送ベルトの端部までの距離以上となった時に圧縮気体を吹き付けることがより好ましい。
【0018】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、カッターと送り手段とにより包埋ブロックの前端から薄切を開始し、包埋ブロックの前端からカッターの切れ刃までの最大距離が、切れ刃から搬送ベルトの端部までの距離以上となった時に、制御部によって送気手段から圧縮気体を吹き付けさせることで、最小限の時間及び回数だけ圧縮気体を吹き付けるだけで、伸張させた薄切片を確実に搬送ベルトに端部で受け取らせることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の薄切片作製装置によれば、上記の送気手段を備えることで、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を伸張させて確実に搬送することができる。
また、本発明の薄切片の搬送方法によれば、包埋ブロックの切削面上に切れ刃に向かう方向で、かつ、切れ刃から離間した位置で圧縮気体を吹き付けることで、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を伸張させて確実に搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1から図6は、この発明に係る実施形態を示している。図1及び図2に示す薄切片作製装置1は、生体試料が包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料を検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料は、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料を包埋剤によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。ここで、包埋剤は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、エタノールに浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。また、包埋ブロックBは、基本的に略長方形の切削面B2を有した直方体状に成形されており、本実施形態においても、直方体状に形成されているものとして説明するが、必ずしもこのような形状に限られるものではない。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0021】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、試料台2を移動させる送り手段である送り機構4と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片B1を所定の搬送方向に沿って搬送する搬送手段5と、搬送手段5で搬送された薄切片B1を受け取る薄切片受取手段である液槽6と、作製される薄切片B1に対して圧縮気体Gである圧縮空気を吹き付ける送気手段7と、各構成を制御する制御部であるコントローラ8とを備える。試料台2には、包埋ブロックBが載置されたカセットCを挟持部材9a、9bにより二方向から挟み込んで固定するとともに、位置決めするブロック固定機構9が設けられている。
【0022】
送り機構4は、試料台2の下方に設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを薄切する送り方向Xに移動させるXステージ4aと、包埋ブロックBを厚さ方向Zに位置調整するZステージ4bとを有する。そして、コントローラ8は、Xステージ4aによって一定の送り速度で、カッター3に向かって送り方向Xに試料台2を移動させることが可能であり、これによりカッター3によって送り速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを薄切していくことが可能となっている。また、コントローラ8は、Zステージ4bによって一定量だけ厚さ方向Zに包埋ブロックBを移動させることが可能であり、これにより対応する厚さだけカッター3によって包埋ブロックBを薄切することが可能となっている。
【0023】
ここで、試料台2と隣接する位置には、包埋ブロックBのサイズを検出するブロックサイズ検出器10と、包埋ブロックBの位置を検出するブロック位置検出器11と、包埋ブロックBの種類を検出するブロック種類検出器12とが設けられている。ブロックサイズ検出器10は、例えば、試料台2の上方に配置される撮像手段と、該撮像手段からの画像を解析する解析手段とで構成されており、包埋ブロックBの切削面B2を撮像した画像データを解析することにより、包埋ブロックBの切削面B2の送り方向Xに沿う辺の長さと、これと直交する方向の辺の長さとを検出することが可能となっている。ブロック位置検出器11は、例えば、レーザ光により包埋ブロックBの位置を検出するもので、レーザ光を送り方向Xと直交する方向で、包埋ブロックBに向かって照射し、その反射光を検出することで、包埋ブロックBの送り方向Xの位置を検出することが可能となっている。なお、上記のブロックサイズ検出器10の撮像手段によって包埋ブロックBの位置を検出することも可能である。また、ブロック種類検出器12は、例えば、バーコード及び2次元バーコードリーダであり、カセットCに予め印刷されているバーコード及び2次元バーコードを読み取ることでカセットCに載置された包埋ブロックBの種類を検出することが可能となっている。
【0024】
また、カッター3は、カッター固定部15に固定されている。カッター固定部15は、カッター3の切れ刃3aを下向きとして所定の角度で傾斜するようにして支持する固定台16と、固定台16に対してカッター3を上側から挟み込む刃押さえ17とを有している。なお、図示しないがカッター固定部15の固定台16の両端は、装置の外郭をなすフレームに固定されている。また、刃押さえ17の上面17aは、液体貯留部18として、凹状に形成されていて、後述するように給排手段27によって液体として水Wを貯留することが可能となっている。ここで、本実施形態では、液体貯留部18の底面18bは、親水性となる表面処理が行われている。親水性の表面処理は、例えば、酸化チタン膜を形成するなどして行われている。なお、本実施形態では、カッター3は、切れ刃3aが送り機構4による包埋ブロックBの送り方向Xと直交するようにカッター固定部15に固定されており、すなわち、引き角を90度として説明する。
【0025】
また、薄切片受取手段である液槽6は、液体として例えば水Wが貯留されており、包埋ブロックBから作製され、搬送された薄切片B1を、浮遊させて、次工程のスライドガラスへの薄切片の引渡しを可能とさせるものである。また、搬送手段5は、搬送方向Yに沿ってカッター3の上方から液槽6の内部まで配設された無端状の搬送ベルト20と、搬送ベルト20を走行させるローラ群21と、ローラ群21の一つである中間ローラ21cを回転駆動させる搬送駆動部22とを有する。ここで、搬送ベルト20による搬送方向Yは、平面視してカッター3の切れ刃3aと直交するように設定されていて、引き角を90度とする本実施形態においては、平面視して送り方向Xと略一致している。搬送ベルト20は、本実施形態では、網目状に形成されていて、特に水Wをしみ込みやすくするため親水性の線材で形成されていることが好ましい。
【0026】
ローラ群21は、カッター3に近接する側で搬送ベルト20を第一折返し部20aとして折り返す方向切替ローラ21aと、カッター3の切れ刃3a後方となる液槽6内部に設けられて搬送ベルト20を第二折返し部20bとして折り返す後部ローラ21bと、方向切替ローラ21aと後部ローラ21bとの間で搬送ベルト20の角度を変更する中間ローラ21c、21dとを有する。方向切替ローラ21aは、少なくとも一部が液体貯留部18の内部に収容されて、カッター3の切れ刃3aの向きと略平行となるようにして、刃押さえ17に回転可能に支持されている。そして、図3に示すように、搬送ベルト20は、下方から方向切替ローラ21aに巻き回されて第一折返し部20aで上方へ折り返され、当該第一折返し部20aで上方に折り返した位置を受取位置Pとして、カッター3によって薄切された薄切片B1を受け取ることが可能となっている。また、上記のように方向切替ローラ21aが液体貯留部18の内部に収容されているから、液体貯留部18に水Wが貯留された状態では、第一折返し部20aを折り返された搬送ベルト20は、液体貯留部18の水Wで湿潤な状態とすることが可能となっている。
【0027】
ここで、図3に示すように、方向切替ローラ21aと、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aとの離間距離は、大きくなると、搬送ベルト20が包埋ブロックBから薄切されて受取位置Pまで延びてくる薄切片B1と離れてしまうので、できる限り小さくする方が好ましい。一方で、搬送ベルト20が液体貯留部18の壁面18aと接触してしまうと、搬送ベルト20の走行が阻害され、また、液体貯留部18の水Wが壁面18a側に行き渡らないことから、方向切替ローラ21aは壁面18aと僅かに離間していることが好ましい。特に、液体貯留部18に貯留される液体の種類と、搬送ベルト20の材質にもよるが、搬送ベルト20と壁面18aとを所定の間隙に設定することで、貯留される液体の液面W2が、壁面18aの上端18cから搬送ベルト20の薄切片B1が載置される表面20cに向かって、表面張力によって傾斜して形成されるようになり、該液面W2により薄切片B1を吸着して誘導することができるので、より好ましい。
【0028】
また、図1に示すように、後部ローラ21bは、液槽6の内部で、液槽6に回転可能に支持されていて、液槽6に貯留された液体である水Wに浸漬されている。このため、薄切片B1を載置しつつ液槽6に向かって走行する搬送ベルト20の上側は、後部ローラ21bで第二折返し部20bとして下方へ折り返されて、第一折返し部20aに向かって走行することが可能となっている。また、搬送ベルト20は、第二折返し部20b近傍で、液槽6内部の水Wに浸漬されることとなり、液面W3と接する位置を引渡位置Qとして薄切片B1を水Wに引き渡すことが可能となっている。
【0029】
また、送気手段7は、カッター3の切れ刃3a前方に対向配置された吹出しノズル23と、吹出しノズル23と送気管23aを介して接続されて圧縮気体Gとして圧縮空気を生成するコンプレッサー24と、送気管23aに設けられて圧縮気体Gの流量を調整するバルブ25とを有する。図3から図5に示すように、吹出しノズル23は、切れ刃3aと略平行に配設された細長の開口23bを有し、薄切される包埋ブロックBの切削面B2上に、切れ刃3aに向かう方向で、かつ、切れ刃3aから離間した位置に圧縮気体Gを吹き付け可能に配置されている。ここで、開口23aの幅B23は、カッター3の切れ刃3aの引き角θが90度に設定されている本実施形態においては、使用が予定される包埋ブロックBの寸法Wb1、Wb2の最大寸法よりも大きく設定されている。このため、最大寸法を有する包埋ブロックBを寸法Wb1、Wb2の内の大きい寸法を示す辺が切れ刃3aと略平行となるように設置しても、切削面B1の幅方向全体に圧縮気体Gを吹き付けることができる。
【0030】
また、開口23bの高さH23は、包埋ブロックBから薄切片B1が作製され、カールする際に、当該カールの外径Db1よりも小さい寸法に設定されていることが好ましい。このようにすることで、カール状の薄切片B1の上部に直接吹き付けることを確実に防止することができ、圧縮気体Gによってカール状の薄切片B1を押し潰してしまうことを確実に防止することができる。また、包埋ブロックBの切削面B2上における吹出しノズル23による圧縮気体Gの位置としては、送り方向Xの切れ刃3aからの離間距離Lgが、作製される薄切片B1のカールの外径Db1以上となることが好ましい。このようにすることで、カールした薄切片B1に直接吹き付けることをより確実に防止することができる。また、吹出しノズル23の厚さ方向Zの位置としては、カッター3の切れ刃3aから吹出しノズル23の下端23cまでの厚さ方向Zの離間距離L23zが、予定される包埋ブロックBの薄切する厚さよりも大きく設定されている。これにより包埋ブロックBを薄切するのに、送り機構4のZステージ4bにより包埋ブロックBを厚さ方向Zに移動させたとしても、吹出しノズル23と包埋ブロックBとが干渉してしまうのを防ぐことができる。なお、薄切片B1が形成するカールの外径Db1は、包埋ブロックBを薄切する厚さ、包埋ブロックBに包埋されている生体試料の種類、包埋ブロックBの切削面B2の湿潤状態などによって異なるものである。このため、上記のような位置条件としては、経験則上の外径Db1の最大値よりも大きく設定し、あるいは、下記に示す吹付位置調整手段26により各薄切条件によって適宜変更することが好ましい。
【0031】
また、バルブ25の開閉量は、コントローラ8により制御されている。また、図3及び図4に示すように、吹出しノズル23には、吹出しノズル23の位置を調整する吹付位置調整手段26が設けられている。吹付位置調整手段26は、切れ刃3aの前後方向に向かって位置調整を行う距離調整部26aと、包埋ブロックBの切削面B2からの高さの調整を行う高さ調整部26bと、吹出しノズル23から吹き出される圧縮気体Gの吹き出し角度φを調整する角度調整部26cとを有する。そして、吹付位置調整手段26による吹出しノズル23の位置調整は、コントローラ8により制御されている。また、加湿器28は、ミスト状の気体を切削面B2に向かって吹き付け可能であり、図示しない移動機構によりコントローラ8の制御のもと、必要に応じて切削面B2の上方に配置させることが可能となっている。
【0032】
また、コントローラ8は、搬送駆動部22を制御することにより、後述するように、搬送ベルト20を受取速度、搬送速度、及び、引渡速度の3種類の速度で走行させることが可能となっている。ここで、受取速度は、作製された薄切片B1を受取位置Pにおいて搬送ベルト20で受け取る際の搬送ベルト20の速度である。受取速度は、送り機構4のXステージ4aによる送り速度に応じて設定され、切れ刃3aの引き角が90度である本実施形態では、送り速度と略等しいか、若しくは、送り速度の50%程度までの範囲で送り速度よりも遅く設定されている。また、搬送速度は、搬送ベルト20で作製された薄切片B1を搬送する際の速度で、受取速度よりも高速に設定されている。また、引渡速度は、搬送ベルト20から液槽6内部の水Wに薄切片B1を引き渡す際の速度で、搬送速度よりも低速に設定されている。なお、搬送速度については、受取速度によって異なる速度としても良いが、送り速度に応じて変動する受取速度よりも十分に大きな速度として、一定の値に設定しても良く、引渡速度もこれに応じて一定の値として良い。
【0033】
また、図1及び図2に示すように、本実施形態の薄切片作製装置1は、さらに、液体貯留部18に液体である水Wを給排する給排手段27と、包埋ブロックBに加湿を行う加湿器28と、各機構の駆動時間等を計測するタイマー29とを備える。給排手段27は、水Wを供給する供給槽27aと、供給槽27aから水Wを汲み上げる供給ポンプ27bと、液体貯留部18に開口し供給ポンプ27bからの水Wを供給する供給管27cと、液体貯留部18に開口する排出管27dと、排出管27dを介して液体貯留部18の内部の水Wを吸い出して供給槽27aに排出する排出ポンプ27eとを有する。供給管27cは、搬送ベルト20の幅方向一方側に隣接して設けられていて、開口が液体貯留部18の内部において、切れ刃3a側となるように設けられている。また、排出管27dは、搬送ベルト20の幅方向他方側に隣接して設けられていて、同様に開口が液体貯留部18の内部において、切れ刃3a側となるように設けられている。また、供給ポンプ27b及び排出ポンプ27eによる流量や駆動時間は、コントローラ8により制御されている。
【0034】
また、コントローラ8は、図示しないがメモリを有しており、当該メモリに各種包埋ブロックを薄切するための薄切条件がテーブルデータとして記憶されている。具体的には、薄切条件としては、包埋ブロックBに包埋されている生体試料の種類、及び、包埋ブロックBのサイズと対応させて、面合わせの回数、薄切する厚さ、薄切時における必要加湿量、薄切速度すなわち送り機構による送り方向Xへの送り速度、並びに、送気手段7において吹出しノズル23の位置条件(切れ刃3aの前後方向に向かう距離、切削面B2からの高さ、圧縮気体Gを吹き出す角度など)、及び圧縮気体Gを吹き出す圧力、時間、開始及び終了のタイミングなどが挙げられる。そして、コントローラ8は、包埋ブロックの種類及びサイズに応じてテーブルデータから決定される薄切条件に従って、各構成を制御し、包埋ブロックBから薄切片B1の作製を行う。以下に、コントローラ8による制御の詳細、並びに、薄切片作製装置1による作用を説明する。
【0035】
図4から図6は、コントローラ8による制御に基づく、薄切片の作製、搬送のフローを示している。まず、準備工程S1として、図4に示すフローに基づいて、以下の動作を行う。試料台2に、包埋ブロックBが載置されたカセットCを載置し、ブロック固定機構9によって固定すると、ブロック種類検出器12は、カセットCに印刷されている情報からカセットCに載置されている包埋ブロックBの種類を検出し、種類データとしてコントローラ8に入力する(ステップS1−1)。次に、ブロックサイズ検出器10が、包埋ブロックBのサイズを検出し、サイズデータとしてコントローラ8に入力する(ステップS1−2)。次に、コントローラ8は、図示しないメモリに記憶されているテーブルを参照し(ステップS1−3)、入力された種類データ及びサイズデータと対応する薄切条件を決定する(ステップS1−4)。
【0036】
そして、次に面合わせを行う。すなわち、まず、コントローラ8は、加湿器28を駆動させて、予め決定した薄切条件の一つである必要加湿量に基づいて、包埋ブロックBの切削面B2の加湿を行う(ステップS1−5)。次に、コントローラ8は、面合わせとして包埋ブロックBを切削する(ステップS1−6)。すなわち、コントローラ8は、まず、予め決定した薄切条件である薄切する厚さに基づいて、送り機構4のZステージ4bを駆動して、包埋ブロックBを対応する分だけ厚さ方向Zに移動させる。次に、コントローラ8は、薄切条件の一つとして決定した薄切速度に基づいて、送り機構のXステージ4aを駆動して、包埋ブロックBをカッター3に向けて送り方向Xに移動させていく。これにより包埋ブロックBは、予め薄切条件として決定された厚さ、速度で、薄切されることとなる。なお、面合わせ時における包埋ブロックBの切削屑は、図示しないが下方の回収する手段に回収され廃棄される。次に、コントローラ8は、面合わせの回数が、薄切条件として予め決定された回数Nだけ実施されたかを判定する(ステップS1−7)。この場合は、まだ一回目であるので、回数Nに達していないと判定し、現在の回数1に1を加算し(ステップS1−8)、再度ステップS1−5からの面合わせを繰り返し実施する。そして、ステップS1−7において、所定回数Nだけ面合わせを実施したと判定された場合には、次の薄切片作製工程S2に移行して、図5に示すフローを実施する。
【0037】
すなわち、図5に示すように、まず、コントローラ8は、搬送手段5の搬送駆動部22を駆動して、搬送ベルト20を、受取速度で走行させる(ステップS2−1)。ここで、受取速度は、上記のように、送り機構4のXステージ4aによる送り方向Xへの送り速度と対応して決定されているものであり、例えば本実施形態では、コントローラ8は、決定された薄切条件の一つである薄切速度となる送り速度に基づいて、送り速度の60%となるように受取速度を決定し、搬送駆動部22を駆動させている。次に、コントローラ8は、加湿器28を駆動し、再び決定された必要加湿量で面合わせ完了後の包埋ブロックBの切削面B2の加湿を行う(ステップS2−2)。
【0038】
次に、包埋ブロックBの薄切を行う(ステップS2−3)。すなわち、コントローラ8は、まず、薄切条件の一つとして決定した薄切する厚さに基づいて、送り機構4のZステージ4bを駆動して、包埋ブロックBを対応する分だけ厚さ方向Zに移動させる。次に、薄切条件の一つとして決定した薄切速度に基づいて、送り機構のXステージ4aを駆動して、包埋ブロックBをカッター3に向けて送り方向Xに移動させていく。これにより包埋ブロックBは、予め薄切条件として決定された厚さ、薄切速度で、順次薄切されて薄切片B1が作製されていくこととなる。なお、本実施形態では、面合わせ及び、薄切片作製時における薄切する厚さ及び速度を区別することなく説明しているが、両工程における厚さ及び速度を異なるものとしても良い。
【0039】
また、ステップS2−3における包埋ブロックBの薄切に伴って、コントローラ8は、給排手段27の供給ポンプ27bを駆動して、刃押さえ17の液体貯留部18に、供給管27cから水Wを供給する(ステップS2−4)。なお、液体貯留部18への水Wの供給量は、液体貯留部18の容量に応じて予め設定されており、コントローラ8は、タイマー29による計測結果に基づいて対応する時間、予め設定されている流量で水Wを供給させることにより、図3に示すように、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aの上端18cに液面W2が設定されるようにする。ここで、本実施形態では、液体貯留部18の底面18bに親水性の表面処理が施されていることから、搬送ベルト20の一端側の供給管27cから供給された水Wを円滑に全体に亙って行き渡らせることができる。また、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aと、方向切替ローラ21aとの位置関係から、壁面18aの上端から搬送ベルト20の表面20cへは、表面張力によって貯留される水Wの液面W2が傾斜して形成されることとなる。そして、受取速度で走行している搬送ベルト20は、液槽6の水Wを通過して湿潤状態になるとともに、さらに、液体貯留部18の水Wを通過することで、最適な湿潤状態として、第一折返し部20aで折り返されて上側を受取位置Pから引渡位置Qへ走行することとなる。一方で、コントローラ8は、供給ポンプ27bを駆動して、所定時間、所定流量で水Wを供給し、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aの上端18cに液面W2が位置するように設定した後は、予め設定された上記流量より小さい流量で水Wを連続して供給していく。このため、搬送ベルト20の走行に伴って、液体貯留部18の水Wが搬送ベルト20に順次付着しても、常に液体貯留部18の水Wの量を一定に保つことができる。
【0040】
また、ステップS2−5として、コントローラ8は、包埋ブロックBを薄切していくに際して、包埋ブロックBの送り方向Xの位置を、ブロック位置検出器11によって検出して入力されるブロック位置データに基づいて監視する。そして、コントローラ8は、包埋ブロックBが、予め設定された吹付け位置に達したと判断した場合には、送気手段7により、薄切条件として予め決定されている圧力、時間、開始及び終了のタイミングで、吹出しノズル23から圧縮気体Gを包埋ブロックBの切削面B2に吹き付けさせる(ステップS2−6)。なお、吹出しノズル23の送り方向X及び厚さ方向Zの位置、並びに、吹付け角度φは、吹付位置調整手段26により予め決定されている薄切条件に基づいて調整されている。ここで、包埋ブロックBの吹付け位置とは、包埋ブロックBの前端B3が、カッター3の切れ刃3aに接触し、薄切が開始されてからの薄切して薄切片B1として作製された長さ、すなわち包埋ブロックBの前端B3からカッター3の切れ刃3aまでの距離Lbが、カッター3の切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lp以上となる位置であり、本実施では両者が略等しくなる位置として設定されている。
【0041】
そして、包埋ブロックBが薄切され、薄切片B1が次第に作製されていくに従い、薄切片B1は、作製される厚さ、包埋されている生体試料の性質によりカールしてしまうが、ステップS2−6で送気手段7により包埋ブロックBの切削面B2に圧縮気体Gを吹き付けることにより、圧縮気体Gは、包埋ブロックBの切削面B2上に、切れ刃3aに向かう方向で、かつ、切れ刃3aから離間した位置で、一度吹き付けられた後に、切削面B2に沿って薄切片B1が作製されていく切れ刃3aに向かって吹き付けられることとなる。このため、作製されて切れ刃3aから延びる薄切片B1には、切れ刃3aが位置する根元部分から吹き込むこととなり、カールしてしまったとしても、カール状の薄切片B1の内部に吹き込むこととなる。このため、薄切片B1は、カールしてしまったとしても、圧縮気体Gにより、押し潰されてしまうことなく、カール状を呈する内部から押し広げられることとなり、確実に伸張させることができる。そして、送気手段7による送気を、包埋ブロックBが吹付け位置となった時に行うことで、伸張した薄切片B1の先端は、受取位置Pに達し、搬送ベルト20に接触することとなる。このため、薄切片B1は、包埋ブロックBから作製されつつ、作製された先端側が搬送ベルト20によって受け取られ、受取位置Pから引渡位置Qへ搬送方向Yに沿って搬送されることとなる。ここで、搬送ベルト20は、湿潤状態にあり、特に液体貯留部18の水Wに受取位置Pの直前に浸漬されることにより、最適な湿潤状態とすることができ、浸潤した水Wの吸着力により確実に薄切片B1を受け取ることができる。さらに、本実施形態では、液体貯留部18の水Wの液面W2が壁面18aの上端18cから搬送ベルト20の表面20cへ、表面張力によって傾斜して形成されているので、薄切片B1は、液面W2に吸着されて搬送ベルト20の表面20cに誘導されることとなり、より確実に搬送ベルト20によって薄切片B1を受け取ることができる。
【0042】
また、受け取られた薄切片B1の先端側は、搬送ベルト20によって順次搬送されるとともに、基端側では包埋ブロックBからさらに作製されることとなる。この際、搬送ベルト20の速度が、上記受取速度に設定されていることから、搬送される先端側が、基端側で作製される速度よりも速くなって引っ張られ、切れることを防ぐことができる。また、搬送される先端側が、基端側で作製されていく速度よりも遅すぎて、受取位置Pとカッター3の切れ刃3aとの間で作製された薄切片B1が圧縮されてしわになることを防ぐことができる。
【0043】
そして、ステップS2−7として、コントローラ8は、ブロック位置検出器11から入力されるブロック位置データを監視し、包埋ブロックBがカッター3の切れ刃3aを通過と判断した場合、すなわち包埋ブロックBの薄切が完了した場合には、送り機構4のXステージ4aの駆動を停止させ、ステップS2−8に移行する。ステップS2−8では、コントローラ8は、給排手段27の供給ポンプ27bの駆動を停止させて液体貯留部18への水Wの供給を停止させ、搬送工程S3に移行して、図6に示すフローを実施する。
【0044】
すなわち、図6に示すように、まず、コントローラ8は、給排手段27の排出ポンプ27eを駆動して、液体貯留部18の水Wを排出管27dから排出させる(ステップS3−1)。次に、コントローラ8は、搬送駆動部22を制御して、搬送ベルト20の走行する速度を、受取速度から搬送速度に切り替える(ステップS3−2)。このため、搬送ベルト20に受け取られた薄切片B1は、受取速度より高速の搬送速度で引渡位置Qまで速やかに搬送されることとなる。そして、コントローラ8は、ステップS2−1で搬送ベルト20の走行を開始してからの走行距離を監視し、薄切片B1が引渡位置Q近傍に到達するように予め設定された走行距離分だけ走行させた否かの判定を行い(ステップS3−3)、当該走行距離分だけ走行させた場合には、給排手段27による液体貯留部18からの水Wの排出を停止し(ステップS3−4)、さらに、搬送駆動部22を制御して搬送ベルト20の走行する速度を搬送速度から引渡速度に切り替える(ステップS3−5)。このため、搬送ベルト20上の薄切片B1は、引渡速度で引渡位置Qまで達し、引渡位置Qに位置する液槽6の水Wの液面W3に触れて、搬送ベルト20から離脱して水Wに引き渡されることとなる(ステップS3−6)。そして、コントローラ8は、搬送ベルト20の走行距離が、受取位置Pから引渡位置Qまでの搬送距離以上となったら、搬送駆動部22の駆動を停止し、搬送ベルト20の走行を停止させる。
【0045】
以上のように、本実施形態の薄切片作製装置1では、送気手段7によって包埋ブロックBの切削面B2上に、切れ刃3aに向かう方向で、かつ、切れ刃3aから離間した位置で、圧縮気体Gを吹き付けることで、作製されていく薄切片B1がカールしてしまったとしても、確実に伸張させて搬送ベルト20に受け取らせることができる。また、薄切片B1がカールしたとしても圧縮気体Gにより確実に伸張させることができることから、送気手段7によって常に圧縮気体Gを送気させておく必要がなく、適切なタイミングで送気すれば良い。すなわち、コントローラ8による制御のもと、カッター3と送り機構4とにより包埋ブロックBの前端B3から薄切を開始し、包埋ブロックBの前端B3からカッター3の切れ刃3aまでの距離Lbが、切れ刃3aから搬送ベルト20の端部となる受取位置Pまでの距離Lp以上となった時に、送気手段7から圧縮気体Gを吹き付けさせることで、最小限の時間及び回数だけ圧縮気体Gを吹き付けるだけで、伸張させた薄切片B1を確実に搬送ベルト20に受取位置Pで受け取らせることができる。また、本実施形態では、吹付位置調整手段26により送気手段7を、カッター3の切れ刃3aの前後方向となる送り方向X、厚さ方向Zに位置調整し、吹付け角度φを調整することができる。このため、包埋ブロックBを薄切する厚さ、包埋ブロックBに包埋されている生体試料の種類、あるいは、切削面B2の湿潤状態などの各種条件によって、作製される薄切片B1がカールする曲率は異なるが、現在の条件において、最適な位置で送気手段7により圧縮気体Gを吹き付けることができ、より確実にカール状の薄切片B1を伸張させて搬送ベルト20に受け取らせることができる。また、この際に、搬送ベルト20は、湿潤状態となっていて、特に液体貯留部18により受け取る直前に水Wに浸漬されていることで、最適な湿潤状態として送気手段7によって伸張された薄切片B1をより確実に受け取ることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、準備工程S1において、各種薄切条件はテーブルデータを参照して決定するものとしたが、全て手動入力によって決定しても良い。また、薄切片作製工程S2において、最初にステップS2−1として搬送ベルト20を受取速度で走行させるものとしたが、これに限るものではない。少なくとも薄切を開始して包埋ブロックBの前端B3から切れ刃3aまでの距離Lbが、すなわち薄切した長さが、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lpと等しくなるまでに、搬送ベルト20を受取速度で走行させるようにすれば良い。また、ステップS2−4として給排手段27による液体貯留部18への水Wを貯留させるタイミングとしては、本実施形態に限られず、準備工程S1において実施しておいても良く、少なくとも作製されていく薄切片B1の先端が受取位置Pに達するまでに供給が完了していれば良い。また、給排手段27による水Wの供給量の管理としては、時間によるものに限られず、例えば液体貯留部18に液面センサを設けてこれにより管理するものとしても良い。また、給排手段27による液体貯留部18からの水Wの排出について、ステップS3−3で薄切片B1を引渡位置Q近傍に搬送するまで継続的に排出を行うものとしているが、排出が完了していれば、その時点で排出ポンプ27eの駆動を停止させても良い。
【0047】
また、送り機構4により、カッター3に対して包埋ブロックBを固定した試料台2を送り方向X及び厚さ方向Zに移動させて薄切するものとしたが、これに限るものではなく、カッター3を移動させるものとしても良い。なお、この場合には、搬送ベルト20も追従して移動可能とする必要がある。また、本実施形態では、カッター3の切れ刃3aは、引き角θが90度として、送り方向Xと直交するようにしてカッター固定部15に固定されているものとしたが、これに限るものではなく、図9に示すように一定の引き角θを有するものとしても良い。この場合、搬送手段5の搬送ベルト20による搬送方向Yは、切れ刃3aと平面視して直交する方向となるため、送り方向Xとは平面視して引き角θ分だけ異なる方向となる。そして、図9に示すように、送気手段7によって送気する方向は、平面視して、搬送方向Yと一致する方向、すなわち切れ刃3aと直交する方向に吹き付けることが好ましい。このようにすることによって薄切片B1の伸張する方向を、搬送ベルト20によって受け取る方向と一致させることができ、薄切片B1を確実に搬送ベルト20で受け取らせることができる。また、包埋ブロックBの切削面B2上における吹出しノズル23による圧縮気体Gの位置としては、送り方向Xの切れ刃3aからの離間距離Lgが、カールする薄切片B1の外径Db1以上であるとともに、包埋ブロックBの寸法Wb1、Wb2の内、送り方向Xに沿う辺の寸法をWb1、送り方向Xに直交する方向に沿う辺の寸法をWb2とすれば、<Lg≦(Wb1・sinθ−Wb2cosθ)>を満たすように設定することが好ましい。このようにすることで、カッター3による包埋ブロックBの切削幅が最大、すなわち、カッター3の切れ刃3aが前端B3において切れ刃3aから離間する側の角部B3aに達したとしても、切削面B1の幅方向全体に圧縮気体Gを吹き付けることができる。
【0048】
また、引き角θを有する場合において、図7に示すステップS2−5における送気手段7による圧縮気体Gの吹き付けのタイミングとしては、包埋ブロックBの前端B3から切り刃3aまでの最大距離Lbmax、すなわち前端B3の切れ刃3aに近接する角部B3bから、切れ刃3aまでの垂直距離と、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lp(図3参照)との関係により決定される。なお、図9に示すように、最大距離Lbmaxは、包埋ブロックBを位置M1から位置M2まで移動させて、前端B3の角部B3aから薄切を開始してからの送り方向Xの薄切した長さLbxを用いれば、<Lbx・sinθ>で表わされる。そして、搬送ベルト20を受取速度で走行を開始するタイミングも同様で、最大距離Lbmaxが、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lpとなるまでであれば良い。なお、搬送ベルト20の受取速度としては、送り速度Vbの搬送方向Y成分、すなわち送り速度Vbに引き角θの正弦を乗じた値<Vb・sinθ>と略等しいか、若しくは<Vb・sinθ>の50%程度までの範囲で<Vb・sinθ>よりも遅く設定すれば良い。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0050】
なお、上記各実施形態では、液体貯留部18を備えるものとしたが、これに限るものではなく、液体貯留部18を備えない構成としても良い。少なくとも、上記のように搬送ベルト20を受取速度から搬送速度に切り換えることで、作製した薄切片B1を確実に受け取り、効率良く搬送することができる。また、搬送手段5の搬送ベルト20は、無端状に形成されており、第一折返し部20aで折り返された位置を受取位置としていたが、これに限るものではなく、カッター3の上方を端部として後方に延びて巻き取られる構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の実施形態の薄切片作製装置を示す全体図である。
【図2】この発明の実施形態の薄切片作製装置を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施形態の薄切片作製装置のカッター近傍の詳細を示す断面図である。
【図4】この発明の実施形態の薄切片作製装置のカッター近傍の詳細を示す平面図である。
【図5】この発明の実施形態の薄切片作製装置において、送気手段の吹付けノズルの詳細を示す斜視図である。
【図6】この発明の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の準備工程の詳細を示すフロー図である。
【図7】この発明の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の薄切片作製工程の詳細を示すフロー図である。
【図8】この発明の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の搬送工程の詳細を示すフロー図である。
【図9】この発明の第1の実施形態の第1の変形例の薄切片作製装置のカッター近傍の詳細を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 薄切片作製装置
2 試料台
3 カッター
3a 切れ刃
4 送り機構(送り手段)
5 搬送手段
7 送気手段
8 コントローラ(制御部)
20 搬送ベルト
26 吹付位置調整手段
G 圧縮気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包埋ブロックを薄切するカッターと、
包埋ブロックを固定する試料台と、
該試料台を前記カッターに対して所定の送り方向に相対移動させて、該カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り手段と、
前記カッターの上方から前記カッターの切れ刃後方に向かって配設されて、包埋ブロックから薄切された薄切片を搬送する搬送ベルトと、
前記カッターの前記切れ刃の前方に配置され、薄切される包埋ブロックの切削面上に、該切れ刃に向かう方向で、かつ、該切れ刃から離間した位置で、圧縮気体を吹き付け可能な送気手段を備えることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片作製装置において、
前記送気手段を、前記カッターの前記切れ刃に対して位置調整する吹付位置調整手段を備えることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項3】
請求項2に記載の薄切片作製装置において、
前記吹付位置調整手段は、前記カッターの前記切れ刃に対して前後方向に位置を調整する距離調整部と、
前記カッターの前記切れ刃によって包埋ブロックに形成される切削面からの高さを調整する高さ調整部と、
該切削面に対する前記圧縮気体の吹き出し角度を調整する角度調整部とを有することを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記送気手段による圧縮気体の吹付け圧力及び吹付け時間を制御する制御部を備えることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記カッターと前記送り手段とにより包埋ブロックの前端から薄切を開始し、包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記搬送ベルトの端部までの距離以上となった時に、前記送気手段によって圧縮気体を吹き付けさせる制御部を備えることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項6】
包埋ブロックをカッターによって薄切することで作製した薄切片を、前記カッターの上方から前記カッターの切れ刃後方に向かって配設された搬送ベルトに引き渡して搬送させる薄切片の搬送方法であって、
前記カッターによって包埋ブロックを薄切する際に、前記カッターの前記切れ刃の前方側から薄切する包埋ブロックの切削面上に、前記切れ刃に向かう方向で、かつ、該切れ刃から離間した位置で、圧縮気体を吹き付けて作製される薄切片を伸張させて、前記搬送ベルトに引き渡すことを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項7】
請求項6に記載の薄切片の搬送方法において、
前記カッターにより包埋ブロックの前端から薄切を開始し、包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記搬送ベルトの端部までの距離以上となった時に圧縮気体を吹き付けることを特徴とする薄切片の搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−54444(P2010−54444A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222003(P2008−222003)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】