薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法
【課題】基板上に形成する新規な薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】薄膜は基板上に形成される。薄膜は母体材料中に希土類元素を含有する。母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。希土類元素は、Erであることが好ましい。薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット2上にチップ3を置き、ターゲット2と基板1の間に電圧を印加することにより、基板1上に薄膜を形成する。薄膜を形成した基板は、発光素子の構成要素として利用することができる。
【解決手段】薄膜は基板上に形成される。薄膜は母体材料中に希土類元素を含有する。母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。希土類元素は、Erであることが好ましい。薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット2上にチップ3を置き、ターゲット2と基板1の間に電圧を印加することにより、基板1上に薄膜を形成する。薄膜を形成した基板は、発光素子の構成要素として利用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成する新規な薄膜に関する。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子に関する。
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信用の光源として主に用いられているInGaAsP/InPなどの材料は、温度が1℃変化するだけで波長が0.1nmもずれてしまうため厳密な温度制御が不可欠で、構造が複雑になってしまう。また、資源寿命が短い元素を用いていることや、毒性の非常に強い元素を用いているため環境に対しての負荷が大きいといった問題もある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
そこで多くの希土類元素の中でも、特に、Erは光通信の低損失波長域である1.5μmから1.6μmに鋭い発光を示し、温度変化に対する発光波長の変化が少ない、また、鋭い発光ピークを示すという特徴を持つ。これは、4f殻電子が最外殻である5s、5p軌道の電子により電磁的な遮蔽効果を受けており、外部との相互作用を妨げ、外部の影響を受けにくいことに起因している。このようなことから、Si系の電子回路と発光デバイスの集積化や、Erのf殻を発光源とする半導体レーザーなど、Erの発光を利用した温度に対して安定で素子構造が簡単な光通信用の光源としての応用が考えられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、Erイオンの4f殻内遷移に基づく発光には、母体結晶に対するErの固溶限界が低い、Erイオンの発光効率が10-6と低い、温度消光が生じるために室温での発光強度が極めて低いといった問題点がある。これらの解決策としては、軽元素(O、N、C)などを共添加し、Erイオンと不純物の複合体が形成されて偏析が抑制され、その複合体が強く発光すること、バンドギャップが広い材料(AlGaAs、SiC、GaN)を母体に用いて温度消光を改善することがあげられる(例えば、非特許文献3、4、5参照)。
【0005】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献6参照。)。これは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0006】
【非特許文献1】河田聡、桑野幸徳:「光が創るマルチメディア新時代 超光エレクトロニクスがインターネット時代を駆け抜ける」、三田出版会、(1996)
【非特許文献2】星名輝彦:「希土類イオンのルミネッセンス」、Sony Research Center Reports、(1983)
【非特許文献3】Shin-ichiro Uekusa,Isao Tanaka and Tomoyuki Arai, at.Res.Soc. Symp.Proc.Vol.744,(2002),[M8.29]
【非特許文献4】F.Lu, R. Carius, A. Alam, M. Heuken, A. Rizzi, Ch. Buchal, Thin Solid Films 425 (2003) 171-174
【非特許文献5】J.C. Oliveira, A. Cavaleiro, M.T. Vieira, L. Bigot, C. Garapon, J.Mugnier, B.Jacquier, Thin Solid Films 446 (2004), 264-270
【非特許文献6】三浦啓志、円城寺聡、植草新一郎:春季第53回応用物理学会関係連合講演会、23p-ZR-9(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの技術によっても、母体結晶に対するErの固溶限界が低い、Erイオンの発光効率が低い、温度消光が生じるために室温での発光強度が極めて低いといった問題点を解決するまでには至っていない。
【0008】
そのため、このような課題を解決する、新規な薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、基板上に形成する新規な薄膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【0013】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【0015】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0016】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0018】
本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜を提供することができる。
【0019】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な発光素子を提供することができる。
【0020】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0022】
薄膜の製造方法について説明する。本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有する方法である。
【0023】
基板としては、シリコン、サファイア、SiCなどを採用することができる。
【0024】
母体材料としては、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせなどを採用することができる。
【0025】
希土類元素としては、Erを採用することができる。
【0026】
薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット上にチップを置き、ターゲットと基板の間に電圧を印加することにより、基板上に薄膜を作製する。なか、高周波マグネトロンスパッタリング法は、薄膜の大量生産に向いている。
【0027】
チップの大きさは25〜100 mm2の範囲内にあることが好ましい。チップの大きさが25 mm2以上であると、少ないチップの枚数で、高濃度のErを添加することができるという利点がある。チップの大きさが100 mm2以下であると、チップの枚数を細かく変更することで、Er添加濃度の調整がしやすいという利点がある。
【0028】
チップの個数は1〜20個の範囲内にあることが好ましい。チップの個数が1〜20個の範囲内にあると、最適なEr添加濃度に近づくことから、発光強度が強くなるという利点がある。
【0029】
雰囲気ガスとしては、窒素ガス、窒素とアルゴンの混合ガスなどを採用することができる。
【0030】
動作圧力は1×10-3〜1×10-1 Torrの範囲内にあることが好ましい。動作圧力が1×10-3 Torr以上であると、スパッタ室内にある窒素の量が多くなるため、Al原子がより多くの窒素原子とぶつかることから組成が向上するという利点がある。動作圧力が1×10-1 Torr以下であると、スパッタ室内にある窒素の量が少なくなることから、Al原子がエネルギーを持ったまま基板に到達するため表面拡散により、安定状態になる。そのため、母体材料の結晶性が向上するという利点がある.
【0031】
RF電力は50〜450 Wの範囲内にあることが好ましい。RF電力が50 W以上であると、膜厚の上昇とともに、母体材料の結晶性が向上するという利点がある。RF電力が450 W以下であると、Alの飛ぶ量が少なくなっていくためその分母体結晶の組成がよくなるという利点がある。
【0032】
成膜時間は1〜300分の範囲内にあることが好ましい。成膜時間が1分以上であると、膜厚の上昇とともに母体結晶の結晶性が向上するという利点がある。成膜時間が300分以下であると、時間の短縮が可能であるという利点がある。
【0033】
熱処理温度は100〜1200 ℃の範囲内にあることが好ましい。また、熱処理温度は400〜900℃の範囲内にあることがさらに好ましい。熱処理温度が100〜1200 ℃の範囲内にあると、母体材料の結晶性の向上とともに発光強度が強くなるという利点がある。熱処理温度が400〜900℃の範囲内にあると、この効果がより顕著になる。
【0034】
熱処理時間は1〜120分の範囲内にあることが好ましい。熱処理時間が1〜120分の範囲内にあると、母体材料の結晶性の向上とともに発光強度が強くなるという利点がある。
【0035】
薄膜の製造方法は、上述の高周波マグネトロンスパッタリング法に限定されるものではない。このほか薄膜の製造方法としては、イオン注入法、熱拡散法、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などを採用することができる。
【0036】
薄膜について説明する。本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するものである。
【0037】
希土類元素添加濃度は0.1〜2.00 at%の範囲内にあることが好ましい。また、希土類元素添加濃度は0.36〜1.56 at%の範囲内にあることがさらに好ましい。希土類元素添加濃度が0.1〜2.00 at%の範囲内にあると、発光強度が強くなるという利点がある。希土類元素添加濃度が0.36〜1.56 at%の範囲内にあると、この効果がより顕著になる。
【0038】
薄膜の厚さは10〜1500 nmの範囲内にあることが好ましい。薄膜の厚さが10 nm以上であると、母体材料の結晶性が向上するという利点がある。薄膜の厚さが1500 nm以下であると、成膜時の時間短縮が可能になるという利点がある。
【0039】
発光素子について説明する。本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するものである。
【0040】
発光素子の用途としては、Si一体型光集積回路への応用、超量子井戸構造型発光素子、ナノ構造光電子変換素子、LSI間高密度光配線用光源、光通信用光源などを挙げることができる。
【0041】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜を提供することができる。
【0042】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な発光素子を提供することができる。
【0043】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【0044】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0046】
<試料作製方法>
【0047】
試料の作製には、高周波マグネトロンスパッタリング装置(SPF-210H、日電アネルバ社製)を使用した。図1に示すように直径4インチ(101.6 mm)Alターゲット2(純度99.999)を用い、Alターゲット2上に5mm角のErチップ3(純度99.9)を配置した。また、原料ガスには純窒素(純度99.9999)のみを用いた反応性スパッタリング法により基板上にAlN:Er薄膜を成長させた。
【0048】
図2に示すように成膜後、結晶性の改善のために赤外線ゴールドイメージ炉(RHL-P65CP、真空理工社製)を用いて熱処理を行った。熱処理を行う前にロータリーポンプを用いて試料室をおよそ1×10-2Torrまで排気した後、純窒素ガス(純度99.9995以上)を導入し、大気圧下で熱処理を行った。昇温速度は5℃/secとした。
【0049】
表1において、基板にはCZ-p型Si(111)を用いた。成膜前スパッタリング装置のチャンバー内を6.0×10-7Torrまで排気した後、純窒素ガスを導入し動作圧力5.0×10-3Torrで成膜を行った。ターゲットと基板との間の距離は4.2cmとした。成膜時のRF電力は250Wとし、60分間室温で成膜を行った。なお、本実施例で用いたスパッタリング装置ではRF電力250WのときAlの成膜速度はおよそ757nm/hである。したがって、AlN:Er薄膜の厚さは約757 nmである。熱処理は400℃から900℃まで100℃刻みでそれぞれ30分間行った。Er添加濃度は、Alターゲット2上のErチップ3の個数と配置により変化させた。Erチップ3の個数が1、1、2、4、8個であり、かつErチップ3の配置がそれぞれ、ターゲット中央、ターゲット右側マグネトロンリング上、ターゲット左右マグネトロンリング上、ターゲット上下左右マグネトロンリング上、ターゲット上下左右およびそれぞれの中央のマグネトロンリング上のとき、Er添加濃度はそれぞれ0.36at%、0.73at%、0.94at%、1.20at%、1.56at%であった。また、Er添加濃度は成膜後エネルギー分散X線分光法(EDX)を用い測定を行ったものである。
【0050】
【表1】
【0051】
<熱処理温度依存性>
【0052】
励起光源にはHe-Cdレーザー(325nm)を用い、15Kにて測定を行った。図3に示すように、as depositedでは発光は得られなかったが、400℃から900℃の温度範囲において、1.55μm帯に発光が観測された。観測されたピーク波長は1538.4nmで、1549nm付近と1569nm付近にもピークのようなものが観測され、Erイオンの第一励起準位である4I13/2から基底準位である4I15/2への遷移に基づく発光である。また、AlNのバンドギャップ(6.28eV)よりエネルギーの小さいHe-Cdレーザー(3.82eV)を励起光源に用いているため、直接励起による発光であると考えられる。400℃〜600℃の熱処理温度上昇に対して発光強度は増大するが、700℃以上になると発光強度は減少した。このことより、AlN:Er(Er:0.94at%)における最適熱処理温度は600℃であることがわかった。
【0053】
図4に示すように、XRDスペクトルは、as depositedから900℃の温度範囲において、2θ≒35.6°付近にAlN(002)に起因するピークが観測され、c軸方位への配向がされていることが確認できた。半値幅は最も狭いものでも0.73°でブロードであることから多結晶であると考えられる。また、ピーク強度は600℃において最大となり、半値幅は600℃で最も狭くなったことから発光スペクトルと結晶性に相関があることがわかる。600℃までは熱処理によってErが最適なAlサイトへ置換することにより、光学的に活性化されたのではないかと考えられる。700℃以上では結晶性に悪影響が出たために発光強度が下がったものと考えられる。700℃以上の熱処理において結晶性が悪くなり、発光強度が下がった原因として、熱処理により局所的にEr-N系の結晶が形成される、または、熱処理過程中に酸素が混入されAl-Oが形成されるなどの可能性が考えられる。
【0054】
<Er濃度依存性>
【0055】
励起光源にはHe-Cdレーザー(325nm)を用い、15Kにて測定を行った。図5に示すように、Erの添加濃度が0.36at%〜1.56at%の範囲において、1.55μm帯に発光が観測された。観測されたピーク波長は1538.4nmで、1549nm付近と1569nm付近にもピークのようなものが観測され、Erイオンの4I13/2から4I15/2への遷移に基づく発光である。添加濃度が0.36at%では発光強度が微弱であり、0.94at%で最大となり、それ以上の添加では発光強度が下がることがわかった。
【0056】
図6に示すように、non dope〜1.56at%の範囲において、2θ≒35.6°付近にAlN(002)に起因するピークが観測され、c軸方位への配向がされていることが確認できた。FWHMはnon dopeの時が最小の0.28°で添加濃度を増やすにつれて、FWHMは広くなった。これには2つの原因が考えられる。1つ目は過剰な添加によりErの偏析が起こるためであると考えられる。2つ目はErが非常に酸化性が強いために、添加濃度を増やすことによって酸素の混入量が増えたため、結晶構造に悪影響が出たものと考えられる。
【0057】
図7に示すように、non dope時に比べるとErを0.94at%添加したものはAlNの結晶構造に悪影響が出たものと考えられ、強度の減少と共にFWHMが広くなっていることが確認できる。
【0058】
また、Erの添加濃度を増やすにつれて表面が平坦になることがわかり、Raは、non dopeで1.972nm、Er添加濃度0.94at%で1.751nm、Er添加濃度1.56at%で1.720nmであった。これはErの原子量、原子半径ともにAlに対して大きく、スパッタ率がAlのスパッタ率に対して70%程度しかなく、また、基板表面に到達した時の表面拡散が弱いことが予想でき、Erを増やすことで基板表面上での表面拡散が抑えられ凝集が起こらないことにより、表面の平坦性が増したのではないかと考えられる。
【0059】
<測定温度依存性>
【0060】
図8に示すように、100Kまでは温度消光が激しいが、100K以降については比較的安定であることがわかった。FWHMに関しては15Kにおいて11.1nmに対し、300Kではピーク強度が下がり、ブロードになったことにより43.0nmとなってしまったが、温度消光に関しては300Kにおける発光強度は15Kにおける強度の21.3%とこれまで発明者が作製していた試料に比べて改善が見られた。これは母体結晶にバンドギャップの広いAlN(6.28eV)を用いたためでると考えられる。
【0061】
また、300Kから15Kにした時のピーク波長のずれは、1.65nmで環境温度に対して発光波長が安定であることも確認された。
【0062】
以上のことから、本実施例によれば、熱的・機械的に安定で高温熱処理にも耐えられることや、資源的にも豊富で環境にも低負荷であることからAlN(Eg≒6.28eV)は母体結晶として十分であると考えられる。また、組成の制御が容易で高濃度添加が可能、また、生産性に優れた高周波マグネトロンスパッタリング法によりAlNを作製し、発光強度の改善並びに温度消光の改善による室温での強い発光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】スパッタリング装置の概略図である。
【図2】赤外線ゴールドイメージ炉の概略図である。
【図3】熱処理温度の依存性を示す図である。
【図4】熱処理温度の依存性を示す図である。
【図5】Er濃度の依存性を示す図である。
【図6】Er濃度の依存性を示す図である。
【図7】Er濃度の依存性を示す図である。
【図8】測定温度の依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1‥‥基板、2‥‥Alターゲット、3‥‥Erチップ、4‥‥プレーナマグネトロンカソード、5‥‥石英管、6‥‥試料、7‥‥熱電対
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に形成する新規な薄膜に関する。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子に関する。
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光通信用の光源として主に用いられているInGaAsP/InPなどの材料は、温度が1℃変化するだけで波長が0.1nmもずれてしまうため厳密な温度制御が不可欠で、構造が複雑になってしまう。また、資源寿命が短い元素を用いていることや、毒性の非常に強い元素を用いているため環境に対しての負荷が大きいといった問題もある(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
そこで多くの希土類元素の中でも、特に、Erは光通信の低損失波長域である1.5μmから1.6μmに鋭い発光を示し、温度変化に対する発光波長の変化が少ない、また、鋭い発光ピークを示すという特徴を持つ。これは、4f殻電子が最外殻である5s、5p軌道の電子により電磁的な遮蔽効果を受けており、外部との相互作用を妨げ、外部の影響を受けにくいことに起因している。このようなことから、Si系の電子回路と発光デバイスの集積化や、Erのf殻を発光源とする半導体レーザーなど、Erの発光を利用した温度に対して安定で素子構造が簡単な光通信用の光源としての応用が考えられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
しかし、Erイオンの4f殻内遷移に基づく発光には、母体結晶に対するErの固溶限界が低い、Erイオンの発光効率が10-6と低い、温度消光が生じるために室温での発光強度が極めて低いといった問題点がある。これらの解決策としては、軽元素(O、N、C)などを共添加し、Erイオンと不純物の複合体が形成されて偏析が抑制され、その複合体が強く発光すること、バンドギャップが広い材料(AlGaAs、SiC、GaN)を母体に用いて温度消光を改善することがあげられる(例えば、非特許文献3、4、5参照)。
【0005】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献6参照。)。これは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【0006】
【非特許文献1】河田聡、桑野幸徳:「光が創るマルチメディア新時代 超光エレクトロニクスがインターネット時代を駆け抜ける」、三田出版会、(1996)
【非特許文献2】星名輝彦:「希土類イオンのルミネッセンス」、Sony Research Center Reports、(1983)
【非特許文献3】Shin-ichiro Uekusa,Isao Tanaka and Tomoyuki Arai, at.Res.Soc. Symp.Proc.Vol.744,(2002),[M8.29]
【非特許文献4】F.Lu, R. Carius, A. Alam, M. Heuken, A. Rizzi, Ch. Buchal, Thin Solid Films 425 (2003) 171-174
【非特許文献5】J.C. Oliveira, A. Cavaleiro, M.T. Vieira, L. Bigot, C. Garapon, J.Mugnier, B.Jacquier, Thin Solid Films 446 (2004), 264-270
【非特許文献6】三浦啓志、円城寺聡、植草新一郎:春季第53回応用物理学会関係連合講演会、23p-ZR-9(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの技術によっても、母体結晶に対するErの固溶限界が低い、Erイオンの発光効率が低い、温度消光が生じるために室温での発光強度が極めて低いといった問題点を解決するまでには至っていない。
【0008】
そのため、このような課題を解決する、新規な薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、基板上に形成する新規な薄膜を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記薄膜を構成要素とする新規な発光素子を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記薄膜を基板上に形成する、新規な薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0012】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【0013】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0014】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【0015】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有することを特徴とする。
【0016】
ここで、限定されるわけではないが、母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とすることが好ましい。また、限定されるわけではないが、希土類元素は、Erであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0018】
本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜を提供することができる。
【0019】
本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な発光素子を提供することができる。
【0020】
本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、薄膜、発光素子、および薄膜の製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0022】
薄膜の製造方法について説明する。本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有する方法である。
【0023】
基板としては、シリコン、サファイア、SiCなどを採用することができる。
【0024】
母体材料としては、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせなどを採用することができる。
【0025】
希土類元素としては、Erを採用することができる。
【0026】
薄膜の製造方法としては、高周波マグネトロンスパッタリング法を採用することができる。高周波マグネトロンスパッタリング法においては、ターゲット上にチップを置き、ターゲットと基板の間に電圧を印加することにより、基板上に薄膜を作製する。なか、高周波マグネトロンスパッタリング法は、薄膜の大量生産に向いている。
【0027】
チップの大きさは25〜100 mm2の範囲内にあることが好ましい。チップの大きさが25 mm2以上であると、少ないチップの枚数で、高濃度のErを添加することができるという利点がある。チップの大きさが100 mm2以下であると、チップの枚数を細かく変更することで、Er添加濃度の調整がしやすいという利点がある。
【0028】
チップの個数は1〜20個の範囲内にあることが好ましい。チップの個数が1〜20個の範囲内にあると、最適なEr添加濃度に近づくことから、発光強度が強くなるという利点がある。
【0029】
雰囲気ガスとしては、窒素ガス、窒素とアルゴンの混合ガスなどを採用することができる。
【0030】
動作圧力は1×10-3〜1×10-1 Torrの範囲内にあることが好ましい。動作圧力が1×10-3 Torr以上であると、スパッタ室内にある窒素の量が多くなるため、Al原子がより多くの窒素原子とぶつかることから組成が向上するという利点がある。動作圧力が1×10-1 Torr以下であると、スパッタ室内にある窒素の量が少なくなることから、Al原子がエネルギーを持ったまま基板に到達するため表面拡散により、安定状態になる。そのため、母体材料の結晶性が向上するという利点がある.
【0031】
RF電力は50〜450 Wの範囲内にあることが好ましい。RF電力が50 W以上であると、膜厚の上昇とともに、母体材料の結晶性が向上するという利点がある。RF電力が450 W以下であると、Alの飛ぶ量が少なくなっていくためその分母体結晶の組成がよくなるという利点がある。
【0032】
成膜時間は1〜300分の範囲内にあることが好ましい。成膜時間が1分以上であると、膜厚の上昇とともに母体結晶の結晶性が向上するという利点がある。成膜時間が300分以下であると、時間の短縮が可能であるという利点がある。
【0033】
熱処理温度は100〜1200 ℃の範囲内にあることが好ましい。また、熱処理温度は400〜900℃の範囲内にあることがさらに好ましい。熱処理温度が100〜1200 ℃の範囲内にあると、母体材料の結晶性の向上とともに発光強度が強くなるという利点がある。熱処理温度が400〜900℃の範囲内にあると、この効果がより顕著になる。
【0034】
熱処理時間は1〜120分の範囲内にあることが好ましい。熱処理時間が1〜120分の範囲内にあると、母体材料の結晶性の向上とともに発光強度が強くなるという利点がある。
【0035】
薄膜の製造方法は、上述の高周波マグネトロンスパッタリング法に限定されるものではない。このほか薄膜の製造方法としては、イオン注入法、熱拡散法、有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などを採用することができる。
【0036】
薄膜について説明する。本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するものである。
【0037】
希土類元素添加濃度は0.1〜2.00 at%の範囲内にあることが好ましい。また、希土類元素添加濃度は0.36〜1.56 at%の範囲内にあることがさらに好ましい。希土類元素添加濃度が0.1〜2.00 at%の範囲内にあると、発光強度が強くなるという利点がある。希土類元素添加濃度が0.36〜1.56 at%の範囲内にあると、この効果がより顕著になる。
【0038】
薄膜の厚さは10〜1500 nmの範囲内にあることが好ましい。薄膜の厚さが10 nm以上であると、母体材料の結晶性が向上するという利点がある。薄膜の厚さが1500 nm以下であると、成膜時の時間短縮が可能になるという利点がある。
【0039】
発光素子について説明する。本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するものである。
【0040】
発光素子の用途としては、Si一体型光集積回路への応用、超量子井戸構造型発光素子、ナノ構造光電子変換素子、LSI間高密度光配線用光源、光通信用光源などを挙げることができる。
【0041】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜は、基板上に形成される薄膜において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜を提供することができる。
【0042】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の発光素子は、薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な発光素子を提供することができる。
【0043】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、本発明の薄膜の製造方法は、基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、前記薄膜が母体材料中に希土類元素を含有するので、新規な薄膜の製造方法を提供することができる。
【0044】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0045】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0046】
<試料作製方法>
【0047】
試料の作製には、高周波マグネトロンスパッタリング装置(SPF-210H、日電アネルバ社製)を使用した。図1に示すように直径4インチ(101.6 mm)Alターゲット2(純度99.999)を用い、Alターゲット2上に5mm角のErチップ3(純度99.9)を配置した。また、原料ガスには純窒素(純度99.9999)のみを用いた反応性スパッタリング法により基板上にAlN:Er薄膜を成長させた。
【0048】
図2に示すように成膜後、結晶性の改善のために赤外線ゴールドイメージ炉(RHL-P65CP、真空理工社製)を用いて熱処理を行った。熱処理を行う前にロータリーポンプを用いて試料室をおよそ1×10-2Torrまで排気した後、純窒素ガス(純度99.9995以上)を導入し、大気圧下で熱処理を行った。昇温速度は5℃/secとした。
【0049】
表1において、基板にはCZ-p型Si(111)を用いた。成膜前スパッタリング装置のチャンバー内を6.0×10-7Torrまで排気した後、純窒素ガスを導入し動作圧力5.0×10-3Torrで成膜を行った。ターゲットと基板との間の距離は4.2cmとした。成膜時のRF電力は250Wとし、60分間室温で成膜を行った。なお、本実施例で用いたスパッタリング装置ではRF電力250WのときAlの成膜速度はおよそ757nm/hである。したがって、AlN:Er薄膜の厚さは約757 nmである。熱処理は400℃から900℃まで100℃刻みでそれぞれ30分間行った。Er添加濃度は、Alターゲット2上のErチップ3の個数と配置により変化させた。Erチップ3の個数が1、1、2、4、8個であり、かつErチップ3の配置がそれぞれ、ターゲット中央、ターゲット右側マグネトロンリング上、ターゲット左右マグネトロンリング上、ターゲット上下左右マグネトロンリング上、ターゲット上下左右およびそれぞれの中央のマグネトロンリング上のとき、Er添加濃度はそれぞれ0.36at%、0.73at%、0.94at%、1.20at%、1.56at%であった。また、Er添加濃度は成膜後エネルギー分散X線分光法(EDX)を用い測定を行ったものである。
【0050】
【表1】
【0051】
<熱処理温度依存性>
【0052】
励起光源にはHe-Cdレーザー(325nm)を用い、15Kにて測定を行った。図3に示すように、as depositedでは発光は得られなかったが、400℃から900℃の温度範囲において、1.55μm帯に発光が観測された。観測されたピーク波長は1538.4nmで、1549nm付近と1569nm付近にもピークのようなものが観測され、Erイオンの第一励起準位である4I13/2から基底準位である4I15/2への遷移に基づく発光である。また、AlNのバンドギャップ(6.28eV)よりエネルギーの小さいHe-Cdレーザー(3.82eV)を励起光源に用いているため、直接励起による発光であると考えられる。400℃〜600℃の熱処理温度上昇に対して発光強度は増大するが、700℃以上になると発光強度は減少した。このことより、AlN:Er(Er:0.94at%)における最適熱処理温度は600℃であることがわかった。
【0053】
図4に示すように、XRDスペクトルは、as depositedから900℃の温度範囲において、2θ≒35.6°付近にAlN(002)に起因するピークが観測され、c軸方位への配向がされていることが確認できた。半値幅は最も狭いものでも0.73°でブロードであることから多結晶であると考えられる。また、ピーク強度は600℃において最大となり、半値幅は600℃で最も狭くなったことから発光スペクトルと結晶性に相関があることがわかる。600℃までは熱処理によってErが最適なAlサイトへ置換することにより、光学的に活性化されたのではないかと考えられる。700℃以上では結晶性に悪影響が出たために発光強度が下がったものと考えられる。700℃以上の熱処理において結晶性が悪くなり、発光強度が下がった原因として、熱処理により局所的にEr-N系の結晶が形成される、または、熱処理過程中に酸素が混入されAl-Oが形成されるなどの可能性が考えられる。
【0054】
<Er濃度依存性>
【0055】
励起光源にはHe-Cdレーザー(325nm)を用い、15Kにて測定を行った。図5に示すように、Erの添加濃度が0.36at%〜1.56at%の範囲において、1.55μm帯に発光が観測された。観測されたピーク波長は1538.4nmで、1549nm付近と1569nm付近にもピークのようなものが観測され、Erイオンの4I13/2から4I15/2への遷移に基づく発光である。添加濃度が0.36at%では発光強度が微弱であり、0.94at%で最大となり、それ以上の添加では発光強度が下がることがわかった。
【0056】
図6に示すように、non dope〜1.56at%の範囲において、2θ≒35.6°付近にAlN(002)に起因するピークが観測され、c軸方位への配向がされていることが確認できた。FWHMはnon dopeの時が最小の0.28°で添加濃度を増やすにつれて、FWHMは広くなった。これには2つの原因が考えられる。1つ目は過剰な添加によりErの偏析が起こるためであると考えられる。2つ目はErが非常に酸化性が強いために、添加濃度を増やすことによって酸素の混入量が増えたため、結晶構造に悪影響が出たものと考えられる。
【0057】
図7に示すように、non dope時に比べるとErを0.94at%添加したものはAlNの結晶構造に悪影響が出たものと考えられ、強度の減少と共にFWHMが広くなっていることが確認できる。
【0058】
また、Erの添加濃度を増やすにつれて表面が平坦になることがわかり、Raは、non dopeで1.972nm、Er添加濃度0.94at%で1.751nm、Er添加濃度1.56at%で1.720nmであった。これはErの原子量、原子半径ともにAlに対して大きく、スパッタ率がAlのスパッタ率に対して70%程度しかなく、また、基板表面に到達した時の表面拡散が弱いことが予想でき、Erを増やすことで基板表面上での表面拡散が抑えられ凝集が起こらないことにより、表面の平坦性が増したのではないかと考えられる。
【0059】
<測定温度依存性>
【0060】
図8に示すように、100Kまでは温度消光が激しいが、100K以降については比較的安定であることがわかった。FWHMに関しては15Kにおいて11.1nmに対し、300Kではピーク強度が下がり、ブロードになったことにより43.0nmとなってしまったが、温度消光に関しては300Kにおける発光強度は15Kにおける強度の21.3%とこれまで発明者が作製していた試料に比べて改善が見られた。これは母体結晶にバンドギャップの広いAlN(6.28eV)を用いたためでると考えられる。
【0061】
また、300Kから15Kにした時のピーク波長のずれは、1.65nmで環境温度に対して発光波長が安定であることも確認された。
【0062】
以上のことから、本実施例によれば、熱的・機械的に安定で高温熱処理にも耐えられることや、資源的にも豊富で環境にも低負荷であることからAlN(Eg≒6.28eV)は母体結晶として十分であると考えられる。また、組成の制御が容易で高濃度添加が可能、また、生産性に優れた高周波マグネトロンスパッタリング法によりAlNを作製し、発光強度の改善並びに温度消光の改善による室温での強い発光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】スパッタリング装置の概略図である。
【図2】赤外線ゴールドイメージ炉の概略図である。
【図3】熱処理温度の依存性を示す図である。
【図4】熱処理温度の依存性を示す図である。
【図5】Er濃度の依存性を示す図である。
【図6】Er濃度の依存性を示す図である。
【図7】Er濃度の依存性を示す図である。
【図8】測定温度の依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1‥‥基板、2‥‥Alターゲット、3‥‥Erチップ、4‥‥プレーナマグネトロンカソード、5‥‥石英管、6‥‥試料、7‥‥熱電対
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成される薄膜において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする薄膜。
【請求項2】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項3】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項4】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項5】
薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする発光素子。
【請求項6】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項7】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項8】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項9】
基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項10】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【請求項1】
基板上に形成される薄膜において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする薄膜。
【請求項2】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項3】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項4】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項1記載の薄膜。
【請求項5】
薄膜を形成した基板を、構成要素とする発光素子において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする発光素子。
【請求項6】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項7】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項8】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項5記載の発光素子。
【請求項9】
基板上に薄膜を形成する、薄膜の製造方法において、
前記薄膜は、母体材料中に希土類元素を含有する
ことを特徴とする薄膜の製造方法。
【請求項10】
母体材料は、AlN、GaN、AlGaAs、SiC、InGaN、InGaAsの群から選ばれる1種、または2種以上の組み合わせを構成成分とする
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【請求項11】
母体材料は、AlNを構成成分とする
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【請求項12】
希土類元素は、Erである
ことを特徴とする請求項9記載の薄膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2008−45073(P2008−45073A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223704(P2006−223704)
【出願日】平成18年8月19日(2006.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月19日(2006.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】
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