説明

薄膜型無機EL素子

【課題】従来よりも高い発光輝度を示す薄膜型無機EL素子を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程との少なくとも二つの蒸着工程により形成される発光体層を有することを特徴とする薄膜型無機EL素子が提供される。本発明によれば、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程に、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程を追加することにより、発光輝度が向上した薄膜型無機EL素子を、製造コストを大幅に増大させることなく提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜型無機EL素子に関し、特に、高輝度な薄膜型無機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薄膜型無機EL素子は、大面積化が可能、長寿命、高画質などの特徴をもつ平面ディスプレイとして用いられている。
図3は、従来の薄膜型無機EL素子の代表的な構成の要部を示す斜視図である。EL素子10は、二重絶縁型の薄膜型無機EL素子であり、電気絶縁性を有する透明基板11上に、下部透明電極層12、下部絶縁体層13、発光体層14、上部絶縁体層15、及び上部電極層16がこの順に積層されたものである(特許文献1の図3を参照)。
【0003】
透明基板11としては、一般に青板ガラスなどが採用されている。下部電極層12は、通常、膜厚0.1〜1μm程度のITO(IndiumTin Oxide)から構成される。上部電極層16は、Alなどの金属から構成される。下部絶縁体層13及び上部絶縁体層15は、スパッタリング法や電子線蒸着法などにより形成された厚さ0.1〜1μm程度の薄膜であり、通常、Y、Ta、AlN、BaTiOなどから成る。発光体層14は、一般に、母体となる無機組成物に微量の発光中心元素を添加したもので、膜厚は通常0.05〜1μm程度である。
【0004】
母体となる無機組成物としては、一般に、ZnS、SrS、CaSなどのII−VI族二元化合物や、CaGa、SrGa、BaGa、BaAlなどII−III−VI族三元化合物が用いられる。発光中心元素として用いられるのは、一般に、Mn、Cu、Au、Ag、希土類などの金属元素である。薄膜型無機EL素子の発光色は、無機組成物と発光中心元素との組合せで決まり、例えば、ZnS:Mnは橙色、ZnS:Tbは緑色、BaAl:Euは青色の発光色を示すことが知られている。
【0005】
スパッタリングや電子線蒸着の際には、発光中心元素を添加した無機組成物をホットプレス法などにより焼結した単独の蒸着源を用いるのが一般的である。通常、スパッタリング用の蒸着源はターゲット、電子線蒸着用の蒸着源はペレットと呼ばれる。
【0006】
発光体層の化学量論組成の改善を図るために、蒸着源を複数に分けて、同時あるいは交互に蒸着する方法が知られている(特許文献2、3を参照)。具体的には、BaAl:Euからなる発光体層を電子線蒸着により成膜する場合に、蒸着源をAlからなる第1の蒸着源とEuを添加したBaSからなる第2の蒸着源に分けて、それぞれの蒸着源から蒸着される材料の比率を制御する。
【0007】
発光体層としてBaAl:Euを用いた無機EL素子は、青色EL発光の輝度が大幅に向上しており、これを用いたフルカラー大型平面ディスプレイの商品化が間近と言われている(非特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2004−265740号
【特許文献2】特表2005−513742号
【特許文献3】特開2005−290196号
【非特許文献1】月間ディスプレイ2005年7月号62〜67頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、無機ELはフルカラー大型平面ディスプレイへの応用の期待を持たれているが、PDPや液晶、有機ELなど他方式の平面ディスプレイの発光効率が年々向上しており、これらに対抗して普及を図るには、発光効率がより高いことが望まれる。本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、薄膜型無機EL素子の発光輝度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下のものが提供される。
[1] 上部電極層及び下部電極層とそれら電極層の間に位置する発光体層とを含んでなる薄膜型無機EL素子であって、発光体層は、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程との少なくとも二つの蒸着工程により形成されることを特徴とする、薄膜型無機EL素子。
【0010】
[2] 前記二つの蒸着工程が、少なくとも一定時間以上同時に行われることを特徴とする[1]に記載の薄膜型無機EL素子。
[3] 前記発光体層のPL強度が、前記無機組成物からなる蒸着源のみを蒸着して得られる発光体層のPL強度に比べて、10%以上向上していることを特徴とする[1]又は[2]に記載の薄膜型無機EL素子。
【0011】
[4] 前記発光体層中に含まれる前記Ir元素の量が、0.003〜5重量%の範囲であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
[5] 発光体層がその発光体層を蒸着後に熱処理することにより得られる、[1]〜[4]のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【0012】
[6] 上部電極層と発光体層との間及び下部電極層と発光体層との間の内の少なくとも一方に絶縁体層を含んでなる[1]〜[5]のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
[7] 上部電極層と発光体層との間及び下部電極層と発光体層との間の内の少なくとも一方に正孔輸送層及び電子輸送層の少なくともいずれか一方を含んでなる[1]〜[5]のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【0013】
[8] 下部電極層を形成し、下部電極層の上に位置する発光体層を形成し、発光体層の上に位置する上部電極層を形成する工程を含んでなる薄膜型無機EL素子の製造方法であって、発光体層を形成する工程は、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程との少なくとも二つの蒸着工程を含んでなる薄膜型無機EL素子の製造方法。
【0014】
[9] 発光体層を熱処理する工程をさらに含む、[8]に記載の薄膜型無機EL素子の製造方法。
[10] [8]又は[9]に記載の方法により製造される薄膜型無機EL素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程に、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程を追加することにより、これら少なくとも二つの蒸着工程により形成された発光体層が、従来よりも高い発光輝度を示すという新規な知見に基づくものである。また、本発明において、前記二つの蒸着工程を同時に行えば、全体の蒸着時間は従来と変わらず、生産効率が下がることが無い。したがって、本発明によれば、従来よりも製造コストを大きく上昇させることなく、高輝度な薄膜型無機EL素子を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明で用いられる蒸着方法としては、真空下の物理的蒸着法が用いられ、スパッタリングや電子線蒸着が好適である。
本発明の薄膜型無機EL素子の発光体層中に添加されたIr元素がどのようなメカニズムにより発光輝度を向上させるかは明らかではない。しかし、本発明者らは、各種元素を発光体層に添加する蒸着実験において、微量のIr元素が他の発光中心による発光輝度を著しく向上させる効果を持つ事実を発見したものである。前記発光体層中のIr元素の濃度は0.003〜5重量%であることが好ましい。添加量が少ないと効果が現れにくく、また、添加量が多すぎると金属Irの析出による透過率の低下が生じる。添加量は0.05〜3重量%がより好ましく、0.1〜1重量%がさらに好ましい。
【0017】
前記発光体層中にIr元素を添加するためには、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程とを少なくとも一定時間以上同時に実施することが好ましい。前記二つの蒸着工程で成膜される薄膜の膜厚を二つの膜厚計により管理することにより、発光体層中のIr元素濃度を調整することができる。膜厚計としては、水晶振動子膜厚計などが使用可能である。この場合の蒸着装置としては、複数の蒸着源を同時蒸着することが可能な多元同時蒸着装置を用いる必要がある。
【0018】
電子線蒸着の場合、Ir元素の前記添加濃度を実現するためには、無機組成物のペレットからの蒸着レートに比べて、Ir元素を含む組成物のペレットからの蒸着レートを非常に低い値に安定して保つ必要があるが、これは実際には簡単ではない。このため、無機組成物のペレットからの蒸着中の一定時間のみ同時にIr元素を含むペレットからの蒸着を実施するほうが作りやすさの点から好ましい。Ir元素は、蒸着後の熱処理工程により発光体層全体に拡散し、発光中心の発光輝度を向上させる機能を発揮する。
【0019】
スパッタリングにおいて、Ir元素の前記添加濃度を実現するには、Ir元素を含む組成物のターゲットに加える電力を低く設定するとともに、Ir元素を含む組成物のターゲットの大きさを無機組成物のターゲットより小さくすることが有効である。Ir元素が蒸着後の熱処理工程により発光体層中に拡散される点は電子線蒸着の場合と同様である。
【0020】
また、前記二つの蒸着工程は、同時ではなく、別々に行ってもよい。この場合も、それぞれの蒸着工程の膜厚を膜厚計で管理すれば、発光体層中のIr元素の濃度を調整可能である。この方法の場合の蒸着装置は、蒸着源を複数同時蒸着可能な多元蒸着装置である必要が無く、比較的廉価な単一蒸着源の蒸着装置を使用して、本発明の薄膜型無機EL素子を製造することが可能である。
【0021】
例えば、電子線蒸着では、最初に無機組成物のペレットからの蒸着を行い、次にIr元素を含む組成物のペレットからの蒸着を実施し、発光体層を2層の積層構造にする。その後で、再度、無機組成物のペレットからの蒸着を行い、発光体層を3層の積層構造にしても良い。発光体層を3層にすると、2層の場合より、熱処理後のIr元素の濃度分布が均一化されるため好ましい。スパッタリング法においても同様である。
【0022】
上述のような蒸着工程により形成された発光体層は、熱処理により発光中心元素が活性化されるとともに、Ir元素が発光体層全体に拡散する結果、高いPLやEL強度を示すようになる。熱処理の雰囲気としては、N、Arなどの不活性ガスが好ましく、用いる蛍光体材料に使われる化合物半導体の構成元素を含むガスを前記不活性ガスに混合して用いるとさらに良い。例えば、化合物半導体がZnSの場合は、窒素ガスにHSガスを0.02〜10%程度混合したガスを用いると、アニール時に蒸気圧の高いS成分が抜けることによるZnSの組成ずれを抑えることができ好適である。
【0023】
本発明で用いる無機組成物は、化合物半導体を主たる構成材料とし、これに発光中心となる微量の元素を添加したものである。化合物半導体としては、II−VI族化合物半導体やII−III−VI族化合物半導体が好ましい。II−VI族化合物半導体としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd,HgなどのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、O、S、Se、TeなどのVI族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物をあげることができる。発光色、発光輝度、化合物の安定性や入手し易さから、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CaS、SrSなどが好ましく、特に、ZnSが好ましい。また、II−III−VI族化合物半導体としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd,HgなどのII族元素より選ばれる一種類以上の元素と、O、S、Se、TeなどのVI族元素より選ばれる一種類以上の元素と、B、Al、Ga、In、TlなどのIII族元素より選ばれる一種類以上の元素との化合物をあげることができる。発光色、発光輝度、化合物の安定性や入手し易さから、CaGa、SrGa、BaGa、BaAlが好ましい。
【0024】
前記発光中心となる元素としては、Mn、Cu、Ag、Au、Hfなどの遷移金属、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Yなどの希土類元素などが挙げられる。化合物半導体の種類と発光中心元素との組合せにより、無機EL発光素子の発光色が決まるため、所望の発光色にあわせて、これらの材料を選択すればよい。また、発光中心元素は、単独で用いても良いし、複数種を混合して用いても良い。
【0025】
本発明で用いるIr元素を含む組成物としては、Ir元素単独でも良いし、塩化物、酸化物、硫化物、他の元素との塩、他の金属との合金の形で構成されていても良い。具体的には、組成物の安定性や入手し易さから、IrCl、IrCl、IrOなどが好ましい。これらは、単独で使用しても、複数種を混合して使用しても良い。
【実施例】
【0026】
本発明を以下の例により具体的に説明するが、本発明はこれら例によって限定されるものではない。
なお、膜厚の決定は、予め蒸着物質(IrCl、ZnS)を電子線蒸着したときの水晶振動式膜厚モニター(株式会社アルバック製:CRTM−9000)の読み取り値と、得られた薄膜の断面のSEM写真による実際の膜厚測定の結果から、膜厚モニターの読み取り値をキャリブレーションして行った。
また蒸着物質の付着量は膜厚モニターにより求められる膜厚とIr及びZnSの比重から求めた。
以下の例において、トッキ株式会社製、CME−60を使用して電子線蒸着を行った。
【0027】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1による発光体層のPL測定用サンプルの断面模式図である。このサンプルは、無アルカリガラス基板1と、基板1上にスパッタリング法により成膜された膜厚500nmのITO層2と、前記ITO上に電子線蒸着法により成膜された発光体層3とにより構成されている。発光体層3は、無機組成物層3aと3cとの間にIr元素を含む組成物層3bを挟んだ構造である。無機組成物層3aと3cは、0.5重量%のMnを添加したZnS粉末を焼結したペレットを蒸着源として、電子線蒸着法により成膜される。蒸着時の真空度は5×10−4Pa以下、基板温度は200℃、蒸着速度は20Å/秒に設定している。ZnS:Mnペレットの焼結条件は、Arガス雰囲気中で、900℃、30MPa、1時間である。Ir元素を含む組成物層3bは、IrCl粉末を焼結したペレットを蒸着源とし、電子線蒸着法により成膜される。IrClペレットの焼結条件は、Arガス雰囲気中で、700℃、30MPa、30分である。IrClペレットの蒸着前に、ZnS:Mn蒸着源の蒸着を一旦停止し、IrClペレットの蒸着を実施した後、ZnS:Mn蒸着源の蒸着を再開する。発光体層3の膜厚は計600nm程度であり、発光体層3aが約300nm、発光体層3cが約300nm、Ir組成物層3bの厚みは、発光体層3中にIr元素が0.3重量%含まれるような膜厚に調節している。成膜後の発光体層3には、電気炉で熱処理が施され、発光中心元素であるMnの活性化とIr元素の熱拡散が行われる。熱処理条件は、Nガス雰囲気中で、550℃、1時間である。
【0028】
次に、このPL測定用サンプルの発光体層の上に、絶縁体層と電極を設けて、EL測定用サンプルを作製する。図4はEL測定用サンプルの素子構造を示す断面模式図である。絶縁体層5はTaを電子線蒸着により成膜しており、膜厚は約500nmである。上部電極層6はAlを抵抗加熱蒸着により成膜しており、膜厚は約100nmである。交流電源7により周波数400Hzの交流電圧をEL測定用サンプルに印加して、EL輝度−印加電圧特性を評価する。輝度測定には、株式会社トプコン製BM−9を用いる。結果を図5に示す。
【0029】
(実施例2)
Ir元素の添加量を0.5重量%とする以外は、実施例1と同様にして、PL測定用サンプルを得た。
【0030】
(実施例3)
Ir元素の添加量を1.0重量%とする以外は、実施例1と同様にして、PL測定用サンプルを得た。
【0031】
(実施例4)
図2は、本発明の実施例4による発光体層のPL測定用サンプルの断面模式図である。このサンプルは、無アルカリガラス基板1と、基板1上にスパッタリング法により成膜された膜厚500nmのITO層2と、前記ITO上に電子線蒸着法により成膜された発光体層3とにより構成されている。発光体層3の中には、無機組成物の蒸着源からの蒸着とIr元素を含む組成物の蒸着源とからの蒸着が同時に実施された層4を含む。すなわち、本実施例4の蒸着には二つのペレットから同時蒸着可能な2式の電子銃をもつ電子線蒸着装置(トッキ株式会社製、CME−60)を用いる。無機組成物は0.5重量%のMnを添加したZnSであり、この粉末にArガス雰囲気中で、900℃、30MPa、1時間のホットプレス処理を施し、ペレット形状に加工した。Ir元素を含む組成物はIrClであり、これにArガス雰囲気中で、700℃、30MPa、30分のホットプレス処理を施し、ペレット形状に加工した。発光体層3の膜厚は約600nmであり、蒸着時の真空度は5×10−4Pa以下、基板温度は200℃、蒸着速度は20Å/秒に設定している。IrClペレットからの蒸着は、ZnS:Mnの蒸着が約300nmに達したときから開始され、発光体層中にIr元素が0.5重量%だけ含まれる量に達した時点で蒸着を終了する。ZnS:Mnの蒸着はその膜厚が約600nmになるまで継続して行われる。成膜後の発光体層3には、電気炉で熱処理を施され、発光中心であるMnの活性化とIr元素の熱拡散が行われる。熱処理条件は、Nガス雰囲気中で、550℃、1時間である。
【0032】
(比較例1)
IrClペレットは使わず、0.5重量%のMnを添加したZnSを焼結したペレットのみを蒸着源とした以外は、実施例1と同様にして、PL測定用サンプルを得た。
【0033】
表1に、実施例1〜4のサンプルのPL測定結果を、比較例1のPL強度を基準とする相対値で示した。PL強度測定の励起波長は340nmであり、PL発光色は波長590nm付近をピークとする橙色である。表1より、Ir元素の添加によりMn由来の橙色PL強度が向上することが明らかである。
【0034】
次に、このPL測定用サンプルから、実施例1と同様にして、EL測定用サンプルを作製し、実施例1と同様にしてEL輝度−印加電圧特性を評価する。結果を図5に示す。
図5より、ZnS:Mnに比べて、Ir添加したサンプルでは、EL発光開始電圧が約30%低下し、最大発光輝度も約30%向上しており、EL発光効率が改善していることが明らかである。
【0035】
(実施例5)
発光中心元素をMnの代わりにCuとし、ZnSに対して0.05重量%を添加する。また、Ir元素の添加量を0.1重量%とする以外は、実施例1と同様にして、PL測定用サンプルを得た。
【0036】
(比較例2)
IrClペレットは使わず、0.05重量%のCuを添加したZnSを焼結したペレットのみを蒸着源とした以外は、実施例1と同様にして、PL測定用サンプルを得た。
【0037】
表2に、実施例5のサンプルのPL測定結果を、比較例2のPL強度を基準とする相対値で示した。PL強度測定の励起波長は340nmであり、PL発光色は波長540nm付近をピークとする緑色である。表2より、Ir元素の添加によりCu由来の緑色PL強度が向上することが明らかである。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、発光輝度が向上した薄膜型無機EL素子を、製造コストを大幅に増大させることなく提供できるので、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1〜3と実施例5の発光体層のPL測定用サンプルの断面模式図である。
【図2】本発明の実施例4の発光体層のPL測定用サンプルの断面模式図である。
【図3】従来の薄膜型無機EL素子の代表的な構成の要部を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例1及び比較例1で作製したEL測定用サンプルの素子構造を示す断面模式図である。
【図5】実施例1及び比較例1で作製したEL測定用サンプルのEL輝度−印加電圧特性を示すグラフである。図中、「Ir添加」は実施例1の結果を示し、「Mnのみ」は比較例1の結果を示す。
【符号の説明】
【0042】
1 透明基板(無アルカリガラス)
2 下部透明電極層(ITO)
3 発光体層
3a ZnS:Mn発光体層
3b Ir層
3c ZnS:Mn発光体層
4 ZnS:MnとIrが混合した発光体層
5 絶縁体層
6 上部電極層
7 交流電源
10 EL素子
11 透明基板
12 下部透明電極層
13 下部絶縁体層
14 発光体層
15 上部絶縁体層
16 上部電極層
17 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極層及び下部電極層とそれら電極層の間に位置する発光体層とを含んでなる薄膜型無機EL素子であって、発光体層は、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程との少なくとも二つの蒸着工程により形成されることを特徴とする、薄膜型無機EL素子。
【請求項2】
前記二つの蒸着工程が、少なくとも一定時間以上同時に行われることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項3】
前記発光体層のPL強度が、前記無機組成物からなる蒸着源のみを蒸着して得られる発光体層のPL強度に比べて、10%以上向上していることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項4】
前記発光体層中に含まれる前記Ir元素の量が、0.003〜5重量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項5】
発光体層がその発光体層を蒸着後に熱処理することにより得られる、請求項1〜4のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項6】
上部電極層と発光体層との間及び下部電極層と発光体層との間の内の少なくとも一方に絶縁体層を含んでなる請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項7】
上部電極層と発光体層との間及び下部電極層と発光体層との間の内の少なくとも一方に正孔輸送層及び電子輸送層の少なくともいずれか一方を含んでなる請求項1〜5のいずれかに記載の薄膜型無機EL素子。
【請求項8】
下部電極層を形成し、下部電極層の上に位置する発光体層を形成し、発光体層の上に位置する上部電極層を形成する工程を含んでなる薄膜型無機EL素子の製造方法であって、発光体層を形成する工程は、無機組成物を蒸着源とする蒸着工程と、Ir元素を含む組成物を蒸着源とする蒸着工程との少なくとも二つの蒸着工程を含んでなる薄膜型無機EL素子の製造方法。
【請求項9】
発光体層を熱処理する工程をさらに含む、請求項8に記載の薄膜型無機EL素子の製造方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法により製造される薄膜型無機EL素子。

【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−251336(P2008−251336A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−90887(P2007−90887)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(506297717)クラレルミナス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】