説明

薄膜形成方法及び薄膜形成装置

【課題】薄膜形成後の基板の湾曲が少ない光学物品の薄膜形成方法及び薄膜形成装置を提供する。
【解決手段】薄膜形成装置は、基板Sを保持する基板ホルダ13と、基板ホルダを挟んで成膜プロセス領域20、反応プロセス領域60のそれぞれ反対側に形成された成膜プロセス領域30,反応プロセス領域70と、を備え、基板の反対側の面に同時に薄膜を形成するが、この薄膜の膜厚は、基板の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定され、薄膜の内部応力による基板の湾曲を相殺しつつ、基板の両面に薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜形成方法及び薄膜形成装置に係り、特に薄膜を形成した後の基板の湾曲が少ない光学物品を提供することが可能な薄膜形成方法及び薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング等の物理蒸着により、基板表面に光学薄膜を形成させて干渉フィルタ、例えば反射防止フィルタ、ハーフミラー、各種バンドパスフィルタ、ダイクロイックフィルタなどの光学製品を製造したり、各種装飾品の表面に色付けコートを行って特定の光学特性を有する装飾品を製造することが一般的に行われている。
【0003】
このような光学製品は、真空容器内でガラス等の基板表面にターゲットから飛来する物質が付着することで形成される。
ところで、気相からの凝集によって基板表面に薄膜が形成された場合、この薄膜には内部応力が発生する。内部応力とは、物体の内部に考えた任意の単位面積を通して、その両側の物体部分が互いに相手に及ぼす力をいう。通常、内部応力には熱応力と真応力が含まれる。熱応力とは、薄膜と基板との間や薄膜と薄膜の間の物質間での熱膨張率の相違により発生する応力である。一方、真応力とは、薄膜表面や基板との界面付近での原子配列と薄膜内部の原子配列の相違により生じる応力である。内部応力は、その種類により、薄膜の中心方向へ向かって収縮しようとする圧縮応力と、薄膜の外方向へ向かって伸張しようとする伸張応力に大別される。
【0004】
例えば、酸化ケイ素(SiO2)は圧縮応力を有しており、酸化ケイ素からなる薄膜は膜の中心方向に向かって収縮しようとする力が働く。このため、酸化ケイ素膜を片面に被覆した基板では基板が薄膜側に湾曲するという現象が知られている。特に、近年では0.5mm以下の薄い基板を用いて薄膜形成が行われているため、内部応力による基板の湾曲は特に大きく、フィルタ等の製品の光学特性に大きな影響を及ぼしている。
【0005】
薄膜の内部応力による湾曲を防止するため、薄膜が形成された基板の裏面に薄膜の内部応力と釣り合う内部応力を有する薄膜を形成することで、基板の湾曲を補正することが従来から行われていた。例えば特許文献1には、基板の片面に高反射ミラー層を形成し、その後高反射ミラー層の引張応力に釣り合う内部応力を有するMgF2反射層を基板の裏面に蒸着することで、基板の湾曲を補正した光学部材が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特公昭62−018881号公報(第3頁、図3)
【0007】
このような光学部材は通常、まず片面に薄膜形成を行い、その後これを反転して裏面に薄膜を形成することにより作成される。従来の薄膜形成装置では、片面に薄膜を形成した後に、基板が保持された基板ホルダを真空容器から外へ搬出し、基板を反転してセットしなおし、その後再度基板ホルダを真空容器内に搬入して、基板の裏面に薄膜を形成していた。
また、基板を反転させる反転機構を真空容器内に設けて、基板の片面に薄膜形成処理を行った後に基板を反転して、裏面に薄膜形成処理を行う技術も知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように基板ホルダを真空容器の外へ搬出する場合にあっては、一旦真空容器内の真空状態を解除して基板ホルダを取り出し、その後、再度真空容器内を脱気して真空状態にしなければならないため、基板ホルダの搬入出や真空容器の排気等に時間がかかり、製造プロセスに時間がかかるといった不都合があった。また、成膜した基板を大気中に曝すため、基板表面が汚染される恐れもあった。
また、反転機構を備えた薄膜形成装置にあっては、基板ホルダを真空容器外に搬出したり、真空容器内を再度真空状態にするといった手間を省略することが可能であるが、真空中で基板を反転させるための複雑な反転機構が必要となり、また、反転機構に付着した汚れが基板を反転する際に剥離して、薄膜表面を汚染するという恐れもあった。
【0009】
更に、上記の技術では、基板の片面に薄膜を形成した後にこの裏面に別の薄膜を形成しているため、基板の片面に薄膜を形成した時点で、形成された薄膜の内部応力によりすでに基板が湾曲している。この基板を反転して基板の裏面に薄膜を形成して湾曲を補正しようとしても、一旦湾曲した基板を平坦な基板に戻すことは容易でなく、また、一旦湾曲した基板を湾曲方向と逆の応力を加えることで再度湾曲させるため、基板表面に形成した薄膜が剥離しやすいといった不都合があった。
また、湾曲した面に薄膜を形成するため、基板表面で膜厚分布に偏りが生じるといった不都合もあった。例えば、凹状に湾曲した基板に薄膜を形成した場合、基板の中央部に比べて外周部ほど膜厚が大きくなってしまい、均一な膜厚が得られないという不都合があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、薄膜を形成した後の基板の湾曲が少ない光学製品を提供することが可能な薄膜形成方法及び薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、請求項1の薄膜形成方法によれば、真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成するスパッタリング装置を用いた薄膜形成方法であって、前記基体の両面に対して夫々スパッタにより中間薄膜の形成を略同時に行う中間薄膜形成工程と、前記基体の両面に形成された中間薄膜に夫々反応性ガスを反応させて略同時に薄膜を形成する反応工程と、前記基体の一方の面には、前記基体の反対側の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を形成する工程と、を備え、前記基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定されること、により解決される。
【0012】
このように、請求項1の薄膜形成方法によれば、基体の一方の面には、反対側の面に形成された薄膜の応力による湾曲を相殺する薄膜を略同時に形成するが、基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定している。このように、薄膜の応力は、形成される薄膜の種類および膜厚により決定されるため、基体の一方の面に形成される薄膜の種類および膜厚が設定されると、これに基づいて基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚も決定される。従って、基板の片面に形成される薄膜の膜厚を調整することにより、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。また、従来の薄膜形成方法のように、基体の一方の面に薄膜を形成させた後に基体を反転して反対側の面に薄膜を形成させるという手間や不都合を省略しつつ、薄膜の応力による基体の湾曲が少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
さらに、請求項1の薄膜形成方法によれば、基体の一方の面に薄膜を形成しつつ、同時に反対側の面にも略同時に薄膜を形成している。このため、基体表面に形成される薄膜の応力による基体の湾曲を相殺しつつ薄膜を積層するため、基体を略平坦に保ったまま薄膜形成を行うことが可能となる。従って、薄膜形成により湾曲した基体を反転して裏面に薄膜を形成する従来の薄膜形成方法と比較して、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
【0013】
上記課題は、請求項2の薄膜形成方法によれば、真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成するスパッタリング装置を用いた薄膜形成方法であって、前記基体の両面に対して夫々スパッタにより第一の中間薄膜の形成を略同時に行う第一中間薄膜形成工程と、前記基体の両面に対して夫々スパッタにより前記第一の中間薄膜の屈折率と異なる屈折率を有する第二の中間薄膜の形成を略同時に行う第二中間薄膜形成工程と、前記基体の両面に形成された前記第一の中間薄膜及び前記第二の中間薄膜に夫々反応性ガスを反応させて略同時に薄膜を形成する反応工程と、前記基体の一方の面には、前記基体の反対側の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を形成する工程と、を備え、前記基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定されること、により解決される。
【0014】
このように、請求項2の薄膜形成方法によれば、成膜プロセス領域において基体の両面に屈折率の異なる二種類の中間薄膜を略同時に形成し、反応プロセス領域においてこの中間薄膜と反応性ガスを反応させて薄膜を形成することで、中間屈折率を有する薄膜を形成している。この際、基体の一方の面には、反対側の面に形成された薄膜の応力による基体の湾曲を相殺する薄膜を形成しているが、基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定される。このように、薄膜の応力は、形成される薄膜の種類および膜厚により決定されるため、基体の一方の面に形成される薄膜の種類および膜厚が設定されると、これに基づいて基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚も決定される。従って、基板の片面に形成される薄膜の膜厚を調整することにより、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。また、従来の薄膜形成方法のように、基体の一方の面に薄膜を形成させた後に、基体を反転して反対側の面に薄膜を形成させるという手間を省略しつつ、薄膜の応力による基体の湾曲が少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
さらに、請求項2の薄膜形成方法によれば、基体の一方の面に薄膜を形成しつつ、反対側の面にも略同時に薄膜を形成している。このため、基体表面に形成される薄膜の応力を相殺しつつ薄膜を積層するため、基体を略平坦に保ったまま薄膜形成を行うことが可能となる。従って、薄膜形成により湾曲した基体を反転して裏面に薄膜を形成する従来の薄膜形成方法と比較して、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
【0015】
また、請求項3の薄膜形成方法によれば、請求項1又は2の要件に加えて、前記膜厚は、成膜プロセス領域に設置された各ターゲットへの供給電力の設定、前記各ターゲットから基体へ向けて供給される膜原料物質を遮蔽する遮蔽板の開度の設定、前記各ターゲットを各成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の設定、のうち少なくともいずれかの設定をすることにより設定するとよい。
【0016】
このように、請求項3の薄膜形成方法によれば、ターゲットへの供給電力,遮蔽板の開度,成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の少なくともいずれかを調整することで、所望の膜厚を有する薄膜を形成することが可能となる。従って、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。
【0017】
また、請求項4の薄膜形成装置によれば、真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記真空容器内に設置され、前記基体を保持する基体ホルダと、該基体ホルダの片面側に配置され、前記基体の一方の面に中間薄膜を形成する第一の成膜プロセス領域と、前記基体ホルダを挟んで前記第一の成膜プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に中間薄膜を形成する第二の成膜プロセス領域と、前記第一の成膜プロセス領域と空間的に分離され、前記基体の一方の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第一の反応プロセス領域と、前記基体ホルダを挟んで前記第一の反応プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第二の反応プロセス領域と、を備え、前記第二の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域において、前記一方の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を前記反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成されるように、前記第二の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域を制御すること、により解決される。
【0018】
このように、請求項4の薄膜形成装置によれば、基体ホルダの両側に夫々第一および第二の成膜プロセス領域を設けて基体の両面に中間薄膜を形成し、反応プロセス領域においてこの中間薄膜と反応性ガスを反応させて薄膜を形成している。この際、基体の一方の面に形成された薄膜の応力による基体の湾曲を相殺する薄膜を、基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成されるように、第二の成膜プロセス領域及び第二の反応プロセス領域を制御している。このように、薄膜の応力は、形成される薄膜の種類および膜厚により決定されるため、基体の一方の面に形成される薄膜の種類および膜厚が設定されると、これに基づいて基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚も決定される。従って、基板の片面に形成される薄膜の膜厚を調整することにより、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。そして、従来の薄膜形成装置のように、基体の一方の面に薄膜を形成させた後に、基体を反転して反対側の面に薄膜を形成させるという手間を省略しつつ、薄膜の応力による基体の湾曲が少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
また、請求項4の薄膜形成装置によれば、基体の一方の面に薄膜を形成しつつ、反対側の面にも薄膜を形成している。このため、基体表面に形成される薄膜の応力を相殺しつつ薄膜を積層するため、基体を略平坦に保ったまま薄膜形成を行うことが可能となる。従って、薄膜形成により湾曲した基体を反転して裏面に薄膜を形成する従来の薄膜形成装置と比較して、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
【0019】
また、請求項5の薄膜形成装置によれば、真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する薄膜形成装置であって、前記真空容器内に設置され、前記基体を保持する基体ホルダと、該基体ホルダの片面側に配置され、前記基体の一方の面に中間薄膜を形成する第一の成膜プロセス領域と、前記基体ホルダを挟んで前記第一の成膜プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に中間薄膜を形成する第二の成膜プロセス領域と、前記第一の成膜プロセス領域および前記第二の成膜プロセス領域と空間的に分離された領域に形成され、且つ前記第一の成膜プロセス領域と同じ側に形成された第三の成膜プロセス領域と、前記第一乃至第三の成膜プロセス領域と空間的に分類された領域に形成され、前記基体ホルダを挟んで前記第三の成膜プロセス領域と反対側に配置された第四の成膜プロセス領域と、前記第一乃至第四の成膜プロセス領域と空間的に分離され、前記基体の一方の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第一の反応プロセス領域と、前記第一乃至第四の成膜プロセス領域および前記第一の反応プロセス領域と空間的に分離されると共に、前記基体ホルダを挟んで前記第一の反応プロセス領域と反対側に形成され、前記基体の反対側の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第二の反応プロセス領域と、を備え、前記第二の成膜プロセス領域,前記第四の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域において、前記一方の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を前記反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成するように、前記第二の成膜プロセス領域,前記第四の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域を制御すること、により解決される。
【0020】
このように、請求項5の薄膜形成装置によれば、成膜プロセス領域において基体の両面に屈折率の異なる二種類の中間薄膜を形成し、反応プロセス領域においてこの中間薄膜と反応性ガスを反応させて薄膜を形成することで、中間屈折率を有する薄膜を形成している。この際、基体の一方の面に形成された薄膜の応力による基体の湾曲を相殺する薄膜を、基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成するように第二の成膜プロセス領域,第四の成膜プロセス領域及び第二の反応プロセス領域を制御している。このように、薄膜の応力は、形成される薄膜の種類および膜厚により決定されるため、基体の一方の面に形成される薄膜の種類および膜厚が設定されると、これに基づいて基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚も決定される。従って、基板の片面に形成される薄膜の膜厚を調整することにより、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。
また、従来の薄膜形成装置のように、基体の一方の面に薄膜を形成させた後に、基体を反転して反対側の面に薄膜を形成させるという手間を省略しつつ、薄膜の応力による基体の湾曲が少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
さらに、請求項5の薄膜形成装置によれば、基体の一方の面に薄膜を形成しつつ、もう反対側の面にも薄膜を形成している。このため、基体表面に形成される薄膜の応力を相殺しつつ薄膜を積層するため、基体を略平坦に保ったまま薄膜形成を行うことが可能となる。従って、薄膜形成により湾曲した基体を反転して裏面に薄膜を形成する従来の薄膜形成装置と比較して、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
【0021】
さらに請求項6の薄膜形成装置によれば、請求項3又は4の要件に加え、前記基体の湾曲を相殺する薄膜の膜厚は、成膜プロセス領域に設置された各ターゲットへの供給電力の設定、前記各ターゲットから基体へ向けて供給される膜原料物質を遮蔽する遮蔽板の開度の設定、前記各ターゲットを各成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の設定、のうち少なくともいずれかの決定により設定されるように構成されると好適である。
このように請求項6の薄膜形成装置によれば、ターゲットへの供給電力,遮蔽板の開度,成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の少なくともいずれかを調整することが可能となり、所望の膜厚を有する薄膜を形成することが可能となる。従って、薄膜の応力による基体の湾曲がより少ない、優れた光学特性を有する光学製品を容易に得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の薄膜形成方法および薄膜形成装置によれば、基体の一方の面に形成された薄膜の応力による基体の湾曲を相殺する薄膜を、反対側の面に対して形成している。このため、薄膜の応力による基体の湾曲が少ない、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
また、本発明の薄膜形成方法および薄膜形成装置によれば、基体の一方の面に薄膜を形成しつつ、反対側の面にも薄膜を形成している。すなわち、基体表面に形成される薄膜の応力を相殺しつつ薄膜を積層するため、基体を略平坦に保ったまま薄膜形成を行うことが可能となる。従って、優れた光学特性を有する光学製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
【0024】
図1乃至図3は本発明の一実施形態を示すものであり、図1は本発明における薄膜形成装置を上面から見た部分断面図、図2は図1の薄膜形成装置を矢視A方向から見た部分断面図、図3は図1の薄膜形成装置を矢視B方向から見た部分断面図である。また、図4は本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を上面から見た部分断面図、図5は本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を上面から見た部分断面図、図6は本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を側面から見た部分断面図である。
なお、マグネトロンスパッタ電極32,52およびアンテナ71については、図1,図4及び図5の上面図では本来は見えないものであるが、発明の理解を容易にするため、図中に点線で示してある。
【0025】
本実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行う薄膜形成装置を用いているが、スパッタの種類としてはこのようなマグネトロンスパッタに限定されるものでなく、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等の公知のスパッタを行う薄膜形成装置を用いることもできる。
【0026】
本実施形態の薄膜形成装置1では、目的の膜厚よりも薄い薄膜をスパッタで作成し、プラズマ処理を行うことを繰り返すことで目的の膜厚の薄膜を基板上に形成することができる。本実施形態では、スパッタとプラズマ処理によって平均0.01〜1.5nmの膜厚の薄膜を基板表面に形成する薄膜形成処理を基板ホルダ13の回転毎に繰り返すことで、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚の薄膜を形成する。
【0027】
本実施形態の薄膜形成装置1は、図1および図2に示すように、真空容器11と、基板ホルダ13と、モータ17と、第一のスパッタ手段20Aと、第二のスパッタ手段30Aと、第三のスパッタ手段40Aと、第四のスパッタ手段50Aと、第一のプラズマ発生手段60Aと、第二のプラズマ発生手段70Aとを主要な構成要素として備えている。
【0028】
真空容器11は、公知の薄膜形成装置で通常用いられるようなステンレススチール製で、多角形状をした中空体である。真空容器11の側壁には基板ホルダ13を搬入出するための入出口11dが形成されている。入出口11dは後述する基板ホルダ13を真空容器11の内部の出し入れ可能な大きさに形成されており、入出口11dの外側の壁面には、この入出口11dを被覆可能な大きさの扉16が設けられている。真空容器11の上方には扉16を収容する扉収納容器(不図示)が接続されており、扉16は、真空容器11の内部と扉収納室の内部との間でスライドすることで開閉する。真空容器11の外壁と扉16との間はゴムなどの弾性部材(不図示)が設けられており、真空容器11内の気密を保持している。
【0029】
なお、本実施形態の真空容器11は、真空室を一つ備えたシングルチャンバ方式を採用しているが、入出口11dの外側にロードロック室を設けたものを採用することも可能である。このようなロードロック室を採用した薄膜形成装置では、真空容器内の真空状態を保持した状態で基板の搬入出を行うことが可能となるため、基板を搬出する毎に真空容器内を脱気して真空状態にする手間を省くことが可能となり、高い作業効率で成膜処理を行うことができる。
また、複数の真空室を備え、それぞれの真空室で独立に薄膜形成を行うことが可能なマルチチャンバ方式を採用することも可能である。
【0030】
真空容器11の壁面には排気用の開口が3箇所設けられており、それぞれ配管15a,15b,15cに接続されている。これらの配管には真空容器11内を排気するための真空ポンプ(不図示)が接続されている。後述する第一の成膜プロセス領域20および第二の成膜プロセス領域30と、第一の反応プロセス領域60および第二の反応プロセス領域70との間には開口11aが設けられており、配管15aはこの開口11aを通じて真空容器11の内部と連通している。
【0031】
また、後述する第三の成膜プロセス領域40および第四の成膜プロセス領域50と、第一の反応プロセス領域60および第二の反応プロセス領域70との間には開口11bが設けられており、配管15bはこの開口11aを通じて真空容器11の内部と連通している。また、第一の反応プロセス領域60および第二の反応プロセス領域70の側面に位置する壁面には開口11cが設けられており、配管15cは開口11cを通じて真空容器11の内部と連通している。
【0032】
基板ホルダ13は、基板Sを真空容器11内で保持するための円板状の部材であり、本発明の基体ホルダに相当する。基板ホルダ13は、基板Sを保持するための円形の開口を複数備えており、基板Sはそれぞれこの開口に収容される。開口に保持された基板Sは、保持具13aにより脱落しないように保持される。保持具13aは内部に開口を有するドーナツ状の部材で、開口の直径が基板Sの直径よりも小さくなるように形成されている。
【0033】
保持具13aには2箇所にネジ穴が形成されており、基板ホルダ13の開口の周辺部にも保持具13aのネジ穴に相当する位置にネジ穴が設けられている。基板Sは基板ホルダ13の開口に収容された後、保持具13aで両面から狭持されることで保持される。保持具13aはボルト13bにより基板ホルダ13に固定される。
なお、基板ホルダとしては、本実施形態のような円板状のものに限定されず、例えば平板状のものであってもよい。
【0034】
基板ホルダ13は、真空容器11内部と真空容器11の外部との間を移動できるように構成されている。本実施形態では、真空容器11の側面にレール(不図示)が設置されており、基板ホルダ13は、このレールに沿って真空容器11内部の中央部に搬送される。基板ホルダ13は真空容器11の外部においてレールに載置され、入出口11dを通過して真空容器11内の中央部へ搬入される。
【0035】
真空容器11の内壁の中央下面および中央上面には、基板ホルダ13を保持するための下側支持部材14−1および上側支持部材14−2がそれぞれ設けられている。下側支持部材14−1は真空容器11の下部内壁の中央部に設置されており、上側支持部材14−2は真空容器11の上部内壁の中央部に設置されている。
【0036】
下側支持部材14−1には複数の突起14−1aが設けられている。突起14−1aは、中央に配置された円形状の突起と、その周辺に配設された複数の爪状の突起により構成される。突起14−1aは、下側支持部材14−1内に設けられた油圧シリンダ14−1bの下部に固定されており、図示しない油圧ポンプにより油圧シリンダ14−1bが駆動されることで上下に移動可能となっている。同様に、上側支持部材14−2にも突起14−2aが設けられている。
【0037】
下側支持部材14−1と同様に、上側支持部材41−2の突起14−2aは、中央に配置された円形状の突起と、その周辺に配設された複数の爪状の突起により構成される。突起14−2aは、上側支持部材14−1内に設けられた油圧シリンダ14−2bの上部に固定されており、図示しない油圧ポンプにより油圧シリンダ14−2bが駆動されることで上下に移動可能となっている。
【0038】
一方、基板ホルダ13の中央部には、基板ホルダ13の両面にそれぞれ複数の凹部が形成されている。凹部は、基板ホルダ13の中心に円形の凹みと、その周辺に配置された複数の小さな凹みから形成されており、この凹部は、下側支持部材14−1および上側支持部材14−2にそれぞれ設けられた複数の突起14−1aおよび突起14−2aと係合する形状となっている。
【0039】
真空容器11の中央部に搬入された基板ホルダ13は、下側支持部材14−1および上側支持部材14−2により狭持されることで真空容器11内に設置される。下側支持部材14−1の突起14−1aは、油圧シリンダ14−1bにより上方へ移動して、基板ホルダ13の下面中央部に設けられた凹部と係合する。また、上側支持部材14−2の突起14−2aは、油圧シリンダ14−2bにより下方へ移動して、基板ホルダ13の上面中央部に設けられた凹部と係合する。それぞれの油圧シリンダにより突起14−1aおよび突起14−2aは基板ホルダ13方向へ付勢され、下側支持部材14−1および上側支持部材14−2が協働して、基板ホルダ13が脱落しないように基板ホルダ13を狭持する。
【0040】
真空容器11の外部下側には、モータ17が設けられている。モータ17の回転軸17aは、真空容器11の下壁面を貫通して、下側支持部材14−1と接続されている。基板ホルダ13は、真空容器11内の真空状態を維持した状態で、真空容器11の下部に設けられたモータ17を駆動させることによって回転軸17aを中心に回転する。各基板Sは、基板ホルダ13上に保持されているため、基板ホルダ13が回転することで、回転軸17aを中心として公転する。回転軸17aと下部支持部材14との接合部は絶縁部材で構成されている。これにより、基板における異常放電を防止することが可能となる。
【0041】
基板Sは、本発明の基体に相当するものである。基板Sはガラス製の円板状部材で、その表面には薄膜形成処理により薄膜が形成される。基体としては本実施形態のような円板状のものに限定されず、レンズ状のものや管状のものなどを用いることもできる。また、基板Sの材質も、本実施形態のようなガラス製に限定されず、例えば水晶、サファイア、シリコン、ゲルマニウム、プラスチック等であってもよい。
【0042】
次に、基板Sの表面に薄膜を形成する第一のスパッタ手段20A、第二のスパッタ手段30A、第三のスパッタ手段40Aおよび第四のスパッタ手段50Aについて説明する。本例の薄膜形成装置1では、成膜プロセス領域(20,30,40,50)が4室(ゾーン)、反応プロセス領域(60,70)が2室(ゾーン)設けられている。成膜プロセス領域20,30,40,50は、スパッタを行って中間薄膜を形成するために設けられており、反応プロセス領域60,70は、中間薄膜にプラズマ処理を行って最終薄膜を形成するために設けられている。
【0043】
真空容器11の側壁には、矩形状の開口11e〜11jが形成され、この開口11e〜11jの各端部辺から基板ホルダ13へ向けてステンレススチール製の仕切壁18a〜18fが突出するように配設されている。また、開口11e〜11hを塞ぐように基板ホルダ13の外周面に対向してスパッタ手段20A,30A,40A,50Aが設けられている。また、真空容器11の開口11i,11jを塞ぐように基板ホルダ13の外周面に対向してプラズマ発生手段60A,70Aが設けられている。
【0044】
このように、成膜プロセス領域20は、4側面からなる仕切壁18a,基板ホルダ13の下面,スパッタ手段20Aに囲繞されて形成されている。成膜プロセス領域30は仕切壁18b,基板ホルダ13の上面,スパッタ手段30Aに囲繞されて形成され、成膜プロセス領域40は仕切壁18c,基板ホルダ13の下面,スパッタ手段40Aに囲繞されて形成され、成膜プロセス領域50は仕切壁18d,基板ホルダ13の上面,スパッタ手段50Aに囲繞されて形成されている。
また、反応プロセス領域60は、仕切壁18e,基板ホルダ13の下面,プラズマ発生手段60Aに囲繞されて形成されている。反応プロセス領域70は、仕切壁18f,基板ホルダ13の上面,プラズマ発生手段60Aに囲繞されて形成されている。
【0045】
このように成膜プロセス領域20,30,40,50および反応プロセス領域60,70は、それぞれ空間的に分離した領域に形成されている。本実施形態では、図1および図2に示されるように、成膜プロセス領域20,成膜プロセス領域40および反応プロセス領域60は真空容器11の下側にそれぞれ配設されている。また、成膜プロセス領域30,成膜プロセス領域50および反応プロセス領域70は真空容器11の上側にそれぞれ配設されている。
【0046】
また、成膜プロセス領域20および成膜プロセス領域30は、基板ホルダ13を挟んで略対向する位置に配設されている。また、成膜プロセス領域40および成膜プロセス領域50は、基板ホルダ13を挟んで略対向する位置に配設されている。また、反応プロセス領域60および反応プロセス領域70は、基板ホルダ13を挟んで略対向する位置に配置されている。ただし、成膜プロセス領域20,40および反応プロセス領域70の位置としてはこのように成膜プロセス領域30,50および反応プロセス領域60に略対向する位置に限定されず、多少ずれた位置に配置されていてもよい。
【0047】
成膜プロセス領域40,50は、基板ホルダ13の中心軸線を中心にして成膜プロセス領域20,30から約90度回転させた位置に設けられている。また、反応プロセス領域60,70は、基板ホルダ13の中心軸線を中心にして成膜プロセス領域20,30から約90度回転させた位置で、かつ基板ホルダ13の中心軸線Zを中心にして成膜プロセス領域20,30に対向する位置に設けられている。
【0048】
モータ17によって基板ホルダ13が回転させられると、基板ホルダ13の板面に保持された基板Sが公転して、基板Sの下面側は、スパッタ手段20A,40A(成膜プロセス領域20,40)に面した位置とプラズマ発生手段60A(反応プロセス領域60)に面した位置との間を、この順に繰り返し回転移動する。また、基板Sの上面側は、スパッタ手段30A,50A(成膜プロセス領域30,50)に面した位置と、プラズマ発生手段70A(反応プロセス領域70)に面した位置との間を、この順に繰り返し回転移動する。
【0049】
成膜プロセス領域20には、不活性ガスとしてのアルゴンガスを貯留するスパッタガスボンベ27と、反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ29からの配管が導かれていて、成膜プロセス領域20に不活性ガスと反応性ガスを供給可能な構成となっている。スパッタガスボンベ27からの不活性ガスの流量や、反応性ガスボンベ29からの反応性ガスの流量は、マスフローコントローラ26,28によってそれぞれ調整される。
【0050】
また、成膜プロセス領域30,40,50も成膜プロセス領域20と同様に構成されており、成膜プロセス領域30にはスパッタガスボンベ37、反応性ガスボンベ39、マスフローコントローラ36,38が設けられており、成膜プロセス領域40にはスパッタガスボンベ47、反応性ガスボンベ49、マスフローコントローラ46,48が設けられており、成膜プロセス領域50にはスパッタガスボンベ57、反応性ガスボンベ59、マスフローコントローラ56,58が設けられている。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガス等が用いられる。
【0051】
成膜プロセス領域20には、基板ホルダ13の下面に対向するように、本発明のスパッタ手段20Aが配設されている。スパッタ手段20Aは、一対のマグネトロンスパッタ電極22とトランス24を介して接続された交流電源25から構成される。マグネトロンスパッタ電極22は、真空容器11の開口11eを塞ぐように設けられた電極設置板23に、不図示の絶縁部材を介して固定されている。マグネトロンスパッタ電極22には、一対のターゲット21が保持される。本実施例の交流電源25は、1k〜100kHzの交番電界をマグネトロンスパッタ電極22の両方の電極上に保持されたターゲット21に印加する。
本例のターゲット21は、基板に対向して所定の面積を有するように膜原料物質を平板状に形成したものであり、基板ホルダ13の下面に対向するように保持される。ターゲットの材質としては任意のもの、例えば、ケイ素、ニオブ、チタン、アルミニウム、ゲルマニウム等を採用することが可能である。
【0052】
成膜プロセス領域30,40,50も成膜プロセス領域20と同様に構成されており、成膜プロセス領域30には一対のマグネトロンスパッタ電極32を有するスパッタ手段30Aが設けられ、このマグネトロンスパッタ電極32は電極設置板33に固定されトランス34および交流電源35に接続されている。また、図3に示されるように、成膜プロセス領域40には一対のマグネトロンスパッタ電極42を有するスパッタ手段40Aが設けられ、このマグネトロンスパッタ電極42は電極設置板43に固定されトランス45および交流電源44に接続されている。また、成膜プロセス領域50には一対のマグネトロンスパッタ電極52を有するスパッタ手段50Aが設けられ、このマグネトロンスパッタ電極52は電極設置板53に固定されトランス55および交流電源54に接続されている。したがって、各ターゲットに対して、独立して電力を供給することができ、これにより各ターゲットに対してスパッタによる成膜レートを独立して調整できる。
【0053】
ターゲット31,41,51も、ターゲット21と同様に基板に対向して所定の面積を有するように膜原料物質を平板状に形成したものであり、基板ホルダ13の外周面に対向するように保持される。これらのターゲットには、基板上に形成する薄膜の屈折率に応じて膜原料物質が選択される。また、実施に際しては、本発明では必ずしも全ての成膜プロセス領域20,30,40,50にターゲットを配置しなくてもよく、三以上の成膜プロセス領域に異なる膜原料物質からなるターゲットを配置して成膜処理を行えばよい。
【0054】
次に、反応プロセス領域について説明する。反応プロセス領域60では、プラズマ処理が行われ、成膜プロセス領域20,40で形成された中間薄膜に不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種(ラジカル,イオン等)を照射して、中間薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて複合金属の化合物に変換する処理を行う。
【0055】
プラズマ発生手段60Aは、反応プロセス領域60に供給される不活性ガスと反応性ガスをプラズマ状態にするためのものである。反応プロセス領域60には、不活性ガスとしてのアルゴンガスを貯留する不活性ガスボンベ67と、反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ69からの配管が導かれていて、反応プロセス領域60に不活性ガスと反応性ガスを供給可能な構成となっている。不活性ガスボンベ67からの不活性ガスの流量や、反応性ガスボンベ69からの反応性ガスの流量は、マスフローコントローラ66,68によって調整される。
【0056】
マスフローコントローラはガスの流量を調節する装置である。マスフローコントローラは、ガスボンベからのガスが流入する流入口と、ガスを真空容器11側へ流出させる流出口と、ガスの質量流量を検出するセンサと、ガスの流量を調整するコントロールバルブと、流入口より流入したガスの質量流量を検出するセンサと、センサにより検出された流量に基づいてコントロールバルブの制御を行う電子回路とを主要な構成要素として備えている。電子回路には外部から所望の流量を設定することが可能となっている。
【0057】
流入口よりマスフローコントローラ内に送入されたガスの質量流量は、センサにより検出される。センサの下流にはコントロールバルブが設けられており、コントロールバルブは、センサで検出した流量と、設定された基準値とを比較し、ガスの流量が基準値に近づくようにコントロールバルブの制御を行う。
【0058】
本実施形態のプラズマ発生手段60は、開口11iを塞ぐように設けられた誘電体板62と、この誘電体板62の外側に渦巻き状に配設されたアンテナ61とを備えて構成されている。誘電体板62は、板状の誘電体で形成されているものであり、本例では石英で形成されている。誘電体板62は、反応プロセス領域60を介して基板ホルダ13に対向するように設けられている。開口11iの外壁には、ケース体63が取り付けられており、アンテナ61はケース体63に収納されている。ケース体63と誘電体板62はボルトなどで固定されており、両部材間にはOリングなどが設けられて、内部の気密が保たれている。すなわち、アンテナ61を収容するアンテナ収容室が形成されている。
【0059】
本実施形態では、アンテナ収容室の内部を排気して真空状態にするために、アンテナ収容室に排気用の配管(不図示)が接続されている。配管には、真空ポンプ(不図示)が接続されており、アンテナ収容室は真空ポンプによって真空状態となっている。
【0060】
アンテナ61は、マッチング回路を収容するマッチングボックス64を介して高周波電源65に電気的に接続されている。アンテナ61は、高周波電源65から電力の供給を受けて、反応プロセス領域60に誘導電界を発生させ、プラズマを発生させるためのものである。
【0061】
プラズマ発生処理としては、まず真空ポンプ(不図示)を作動させて、真空容器11の内部を10−2Pa〜10Pa程度まで減圧し、所定の真空状態を保持した状態で、反応性ガスボンベ69からの反応性ガスを真空容器11内へ導入する。その後は、真空容器11の内部が10−2Pa〜10Paを維持するように、適宜調整等を行う。
そして、真空容器11内を上記所定の圧力に保持した状態で、高周波電源65からアンテナ61に13.56MHzの電圧を印加してプラズマを発生させる。このようにして反応プロセス領域60にプラズマを発生させて、このプラズマによって、基板ホルダ13に保持された基板上の薄膜に対してプラズマ処理を行う。
【0062】
反応プロセス領域70も同様に、プラズマ処理が行われ、成膜プロセス領域20,40で形成された中間薄膜に不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種(ラジカル,イオン等)を照射して、中間薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて複合金属の化合物に変換する処理を行う。
【0063】
同様に、本実施形態のプラズマ発生手段70Aも、開口11jを塞ぐように設けられた誘電体板72と、この誘電体板72の外側に渦巻き状に配設されたアンテナ71とを備えて構成されている。開口11iの外壁には、ケース体73が取り付けられており、アンテナ71はケース体73に収納されている。ケース体73と誘電体板72はボルトなどで固定されており、アンテナ収容室が形成されている。
また、アンテナ収容室には、不活性ガスとしてのアルゴンガスを貯留する不活性ガスボンベ77と、それぞれのガスの流量を調背するマスフローコントローラ76,78が設けられており、それぞれのガスは配管を通じてアンテナ収容室に導入される。
【0064】
次に、薄膜形成装置1を用いて混合膜を形成する処理について説明する。
本例の薄膜形成装置1では、上述のように4つの成膜プロセス領域20,30,40,50があり、これらにそれぞれ異なる材料からなるターゲット21,31,41,51を配置することが可能である。そして、上記複数のターゲットによって、基板に複数の光学材料からなる混合膜を形成することができる。
【0065】
ここでは、4つの成膜プロセス領域20,30,40,50のうち、成膜プロセス領域20,30に関しては同じ材料(膜原料物質)、成膜プロセス領域40,50についても同じ材料を用いた場合について説明する。具体的には、ターゲット21,31に低屈折率膜形成材料としてケイ素(Si)を用い、ターゲット41,51に高屈折率膜材料としてニオブ(Nb)を用いた例について述べる。本実施形態では、低屈折率材料であるケイ素と高屈折率材料であるニオブを交互に積層して、中間屈折率を有する薄膜を形成する。基板の両面にそれぞれ中間屈折率を有する薄膜を同時に形成し、最終的に基板の両面に略同じ膜厚の薄膜を形成している。
【0066】
まず、膜厚設定工程として、基板Sの一方の面に形成する薄膜の膜厚および屈折率を任意に設定する。この設定膜厚に応じて、各ターゲット21,31,41,51から基板へ向けて供給される膜原料物質の供給量を決定するための条件が設定される。供給量を決定するための条件は、各ターゲットに供給する電力の大きさ、成膜時間、ターゲットの面積比等である。
【0067】
続いて、薄膜形成工程として、ターゲット21,31,41,51をマグネトロンスパッタ電極22,32,42,52に保持させる。この状態で、真空容器11の内部を10−2Pa〜10Pa程度の真空状態にする。そして、真空容器11の外部で基板ホルダ13に基板Sを保持させる。続いて、基板ホルダ13を図示しないレールに載置して真空容器11内の中央部に搬入する。真空容器11内の所定の位置に移動したら、下側支持部材14−1及び下側支持部材14−2の油圧シリンダ14−1b,14−2bを駆動させて、それぞれの突起14−1a,14−2aを基板ホルダ13の中央部に形成された凹部に係合させる。次に、扉16を閉じて真空ポンプを作動させて真空容器11の内部の排気を行い、10−2Pa〜10Pa程度の真空状態にする。
【0068】
真空容器11の内部は上述の所定の圧力に減圧されており、この状態でモータ17を作動させて基板ホルダ13を回転させる。その後、真空容器11の内部の圧力が安定した後に、成膜プロセス領域20の圧力を、1.0×10−1Pa〜1.3Paに調整する。
【0069】
次に、スパッタガスボンベ27,反応性ガスボンベ29から成膜プロセス領域20に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ26,28で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域20でスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、交流電源25からマグネトロンスパッタ電極22に周波数1〜100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲット21に対してスパッタを行う。スパッタによってターゲット21からはその面積に略比例して膜原料物質が基板へ向けて供給される。これにより、基板の膜形成面にケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(0<x<2))からなる中間薄膜が形成される(中間薄膜形成工程)。
【0070】
基板の膜形成面には、基板ホルダ13の回転にともなってマグネトロンスパッタ電極22に面する位置(すなわちターゲット21に面する位置)を通過するときに中間薄膜が形成される。
【0071】
成膜プロセス領域20においてケイ素或いは不完全酸化ケイ素の中間薄膜を形成すると同時に、成膜プロセス領域30においても同様の操作によりケイ素或いは不完全酸化ケイ素の中間薄膜を形成する。成膜プロセス領域30での薄膜形成は、まず、スパッタガスボンベ37,反応性ガスボンベ39から成膜プロセス領域30に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ36,38で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域30でスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、交流電源35からマグネトロンスパッタ電極32に周波数1〜100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲット31に対してスパッタを行う。
【0072】
次に、スパッタガスボンベ27,反応性ガスボンベ29から成膜プロセス領域20に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ26,28で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域20でスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、交流電源25からマグネトロンスパッタ電極22に周波数1〜100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲット21に対してスパッタを行う。スパッタによってターゲット21からはその面積に略比例して膜原料物質が基板へ向けて供給される。これにより、基板の膜形成面にケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(0<x<2))からなる中間薄膜が形成される(中間薄膜形成工程)。
【0073】
次に、成膜プロセス領域40,50について説明する。成膜プロセス領域40では、ニオブ或いは不完全酸化ニオブの中間薄膜が形成される。成膜プロセス領域40で中間薄膜が形成されると同時に、成膜プロセス領域50においても同様の操作によりニオブ或いは不完全酸化ニオブの中間薄膜が形成される。成膜プロセス領域40での薄膜形成は、まず、スパッタガスボンベ47,反応性ガスボンベ49から成膜プロセス領域40に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ46,48で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域40でスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、交流電源44からマグネトロンスパッタ電極42に周波数1〜100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲット41に対してスパッタを行う。
【0074】
続いて、スパッタガスボンベ47,反応性ガスボンベ49から成膜プロセス領域40に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ46,48で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域40でスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、交流電源44からマグネトロンスパッタ電極42に周波数1〜100KHzの交流電圧を印加することにより、ターゲット41に対してスパッタを行う。スパッタによってターゲット41からはその面積に略比例して膜原料物質が基板へ向けて供給される。これにより、基板の膜形成面にニオブ或いは不完全酸化ニオブからなる中間薄膜が形成される(中間薄膜形成工程)。
【0075】
基板の膜形成面には、基板ホルダ13の回転にともなってマグネトロンスパッタ電極42に面する位置(すなわちターゲット21に面する位置)を通過するときに中間薄膜が形成される。
【0076】
成膜プロセス領域40においてケイ素或いは不完全酸化ケイ素の中間薄膜を形成すると同時に、成膜プロセス領域50においても同様の操作によりケイ素或いは不完全酸化ケイ素の中間薄膜を形成する。成膜プロセス領域50での薄膜形成は、まず、スパッタガスボンベ57,反応性ガスボンベ59から成膜プロセス領域50に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガス,反応性ガスである酸素ガスを、マスフローコントローラ56,58で流量を調整しながら導き、成膜プロセス領域50でスパッタを行うための雰囲気を調整する。
【0077】
次に、交流電源54からマグネトロンスパッタ電極52に所定の周波数を有する交流電圧を印加することにより、ターゲット51に対してスパッタを行う。ここで、印加する交流電圧の周波数は、10k〜1MkHzであることが好ましい。これは、印加交流電圧の周波数が10kHzよりも低いと異常放電が発生しやすくなり、薄膜形成を安定して行うことが困難となる。一方、1MkHzよりも高いとマッチングボックスによる成膜レートの調整が困難となり、好ましくない。
【0078】
次に、反応プロセス領域60,70におけるプラズマ処理について説明する。反応プロセス領域60には、反応性ガスボンベ69から反応性ガスとして酸素ガスを導入するとともに、不活性ガスボンベ67から不活性ガスとしてアルゴンガスが導入されている。また、アンテナ61には13.56MHzの高周波電圧が印加され、プラズマ発生手段60Aによって反応プロセス領域60にプラズマを発生させている。このとき、反応プロセス領域60の圧力は、0.7×10−1〜1.0Paに維持される。
【0079】
基板ホルダ13の回転にともなって、各ターゲット21,31,41,51による中間薄膜が形成された基板Sが、反応プロセス領域60を通過すると、反応プロセス領域60では、中間薄膜をプラズマ処理によって酸化反応させる処理が行われる。
すなわち、プラズマ発生手段60Aによって反応プロセス領域60に酸素ガスのプラズマを発生させ、この酸素ガスのプラズマで、例えば成膜プロセス領域20で形成されたケイ素或いは不完全酸化ケイ素を酸化反応させて、所望の組成の不完全酸化ケイ素或いは酸化ケイ素に変換する。また、成膜プロセス領域40で形成されたニオブ或いは不完全酸化ニオブを酸化反応させて、所望の組成の不完全酸化ニオブ或いは酸化ニオブに変換する。これにより、基板上に混合膜である最終薄膜が形成される(最終薄膜形成工程)。
【0080】
このように、基板が真空容器11内で回転することにより、成膜プロセス領域20,30では基板表面にケイ素や不完全ケイ素酸化物が、成膜プロセス領域40,50では基板表面にニオブや不完全ニオブ酸化物が積層した中間薄膜が形成され、反応プロセス領域60,70では形成された中間薄膜をプラズマ処理して混合膜である最終薄膜が形成される。したがって、基板が回転するにともなって次第に最終薄膜が積層され、所定の時間、成膜処理を行うことによって、所望の膜厚の混合膜を得ることができる。
【0081】
なお、反応プロセス領域でのプラズマ処理は、成膜プロセス領域20,30での中間薄膜の形成と成膜プロセス領域40,50での中間薄膜の形成がされた後に両中間薄膜に対して同時に反応プロセス領域60,70でプラズマ処理を行ってもよいが、成膜プロセス領域20,30で中間薄膜を形成した後、成膜プロセス領域40,50では中間薄膜の形成を行わずに反応プロセス領域60,70でプラズマ処理を行ってもよい。また、成膜プロセス領域20,30で中間薄膜の形成を行わず、成膜プロセス領域40,50で中間薄膜の形成を行った後に反応プロセス領域60,70でプラズマ処理を行ってもよい。
このように、成膜プロセス領域で形成される中間薄膜の厚さを制御することにより、所望の屈折率を有する薄膜を形成することが可能となる。
【0082】
ここで、基板Sの一方の面には、反対側の面で形成される薄膜の内部応力による基板の湾曲を相殺する薄膜を形成するように、成膜プロセス領域および反応プロセス領域を制御して薄膜形成を行う。例えば、基板Sの両面に同じ種類の薄膜を形成する場合は、基板Sの両面に形成される薄膜の膜厚が同じになるように薄膜を形成すると、基板両面に形成された薄膜の内部応力による基板の湾曲は相殺される。従って、薄膜の内部応力による基板の湾曲は最小となる。
【0083】
一方、基板Sの両面にそれぞれ異なる種類の薄膜を形成する場合には、基板Sの一方の面に形成される薄膜の種類や膜厚によって、反対側の面に形成される薄膜の膜厚が決定される。例えば、バンドパスフィルタを作成する場合、基板Sの一方の面に短波長透過フィルタを形成し、反対側の面に長波長透過フィルタを形成する。この場合において、例えば基板Sの一方の面にNb2O5とSiO2を積層した薄膜(Nb2O5/SiO2の膜厚比0.56)からなる短波長透過フィルタを3.7μm形成した場合、基板Sの反対側の面にはNb2O5とSiO2を積層した薄膜(Nb2O5/SiO2の膜厚比0.17)からなる長波長透過フィルタを3.5μm形成すれば両薄膜の内部応力による基板の湾曲は相殺されることとなる。従って、薄膜の内部応力による基板の湾曲は最小となる。
【0084】
膜厚の調整は、成膜プロセス領域に設置された各ターゲットへの供給電力を調整することで行われる。すなわち、図1および図2に示す交流電源25からトランス24へ供給される電力を調整することにより、成膜プロセス領域20に設置されたターゲットへの供給電力の調整を行い、ターゲットから基板Sに付着する膜原料物質の量を調整することが可能となる。例えば、交流電源25からトランス24に供給される電力が大きくなると、ターゲットへの供給電力が大きくなり、ターゲットから基板Sに飛翔する膜原料物質の量が増加する。逆に、交流電源25からトランス24に供給される電力が小さくなると、ターゲットへの供給電力が小さくなり、ターゲットから基板Sに飛翔する膜原料物質の量が減少する。このように、交流電源25からトランス24へ供給される電力を調整することにより、所望の膜厚を有する薄膜を基板表面に形成することが可能となる。
【0085】
同様に、交流電源35,45,55からトランス34,44,54へ供給される電力をそれぞれ調整することにより、成膜プロセス領域30,40,50に設置されたターゲットへの供給電力の調整を行い、各ターゲットから基板Sに付着する膜原料物質の量を調整することが可能となる。これにより、所望の膜厚を有する薄膜を形成することができる。
【0086】
また、ターゲットと基板Sとの間に膜原料物質を遮蔽する遮蔽板を設け、この遮蔽板の開度を調整することで、基板表面に形成される薄膜の膜厚を調整することも可能である。例えば、図6の薄膜形成装置では、基板Sとターゲット21との間に遮蔽板81が設けられている。遮蔽板81は回転軸82を介して真空容器11の外に設けられたモータ83の回転軸と接続されている。従って、モータ83を回動して遮蔽板81の位置を移動することにより、ターゲット21の前面を遮蔽する面積を調整することができる。すなわち、モータ83を駆動して遮蔽板81の開度を調整することで、基板Sの表面に付着する膜原料物質の量を調整することが可能となる。これにより、所望の膜厚を有する薄膜を形成することができる。
【0087】
同様に、成膜プロセス領域30では、基板Sとターゲット31との間に遮蔽板91を設け、この遮蔽板91を、回転軸92を介してモータ93と接続している。遮蔽板91の開度を調整することで、所望の膜厚を有する薄膜を形成することができる。
また、図示しないが、成膜プロセス領域40,50にも同様に、ターゲットと基板Sとの間に遮蔽板を設けて、基板の表面に形成される膜厚を調整することが可能となる。
【0088】
更に、各成膜プロセス領域に供給されるガスの流量を調整することで、基板表面に形成される薄膜の膜厚を調整することが可能となる。例えば、成膜プロセス領域20には、スパッタガスボンベ27からアルゴンガスなどのスパッタガス、反応性ガスボンベ29からは酸素ガスなどの反応性ガスが供給されるが、それぞれマスフローコントローラ26,28でガス流量を調整することで、成膜プロセス領域20に供給されるガス流量を調整し、これにより基板表面に形成される薄膜の膜厚を調整することが可能となる。
マスフローコントローラによりガス流量を調整するには、マスフローコントローラの内部に設けられた電子回路に、オペレータが所望の流量を設定することで調整することが可能となる。
【0089】
本発明の薄膜形成装置では、成膜プロセス領域20,30での中間薄膜形成や成膜プロセス領域40,50での中間薄膜形成、また、反応プロセス領域60,70での最終薄膜の形成を同時に行うことで、基板の一方の面に形成された薄膜による内部応力によって生じる基板の湾曲を、基板の反対側の面に形成される薄膜の内部応力による湾曲で相殺しつつ、基板を平坦に保った状態で薄膜の形成を行っている。従って、基板の一方の面に薄膜を形成した後で基板を反転して反対側の面に薄膜を形成する従来技術と比較して、基板に湾曲が生じにくく、光学特性に優れた光学製品を提供することが可能となる。
【0090】
なお、上記実施形態では、異なる屈折率を有するターゲットを備えた成膜プロセス領域を複数設けて中間薄膜を形成し、反応プロセス領域で中間薄膜を最終薄膜に変換する反応性薄膜形成装置について説明したが、本発明の薄膜形成方法はこのような薄膜形成装置にのみ適用できるものでなく、他の薄膜形成装置においても実施できる。例えば、図4に示すように、成膜プロセス領域20,30のみを有し、反応プロセス領域や、異なる種類のターゲットを備えた他の成膜プロセス領域を備えていない薄膜形成装置においても実施できる。
また、図5に示すように、一種類のターゲットを備えた成膜プロセス領域20,30と、反応プロセス領域60,70とを備えた薄膜形成装置においても実施できる。
【0091】
所望の膜厚の混合膜を形成する工程が終了すると、真空容器11内の真空状態を解除して扉16を開ける。そして、基板ホルダ13を真空容器11の外へ搬出する。
本例の薄膜形成装置1では、上記のように異なる2種類の膜原料物質をそれぞれターゲット21,31およびターゲット41,51に用いることができるため、最大で2つの膜原料物質を元にして中間屈折率を有する混合膜を形成することができる。
【0092】
以下に、本発明の薄膜形成方法を実施して基板に薄膜形成を行った実施例と、これに対する比較例を示す。実施例および比較例いずれの場合も、光学用ガラス製の直径30mm、厚さ0.3mmの円板状の基板を用いて薄膜形成を行った。
(実施例)
まず、実施例では、本例の薄膜形成装置1を用い、第一の膜原料物質としてケイ素(Si)を成膜プロセス領域20,30のターゲット21,31として用いた。また、第二の膜原料物質としてニオブ(Nb)を成膜プロセス領域40,50のターゲット41,51として用いた。上記真空装置を用いて成膜処理を行い、基板上にSi,Nbに基づくSiO2(屈折率:1.46),Nb2O5(屈折率:2.35)を組成とした混合膜を基板の両面に略同じ最終膜厚となるように形成した。
【0093】
本実施例のスパッタ条件は以下のとおりである。
(1)成膜プロセス領域20,30条件
投入電力:0.2〜2kW
成膜プロセスゾーン内圧力:0.2〜2Pa
アルゴンガス流量:100〜500sccm
印加交流電圧周波数:10〜100kHz
(2)成膜プロセス領域40,50条件
投入電力:0.2〜2kW
成膜プロセスゾーン内圧力:0.2〜2Pa
アルゴンガス流量:100〜500sccm
印加交流電圧周波数:10〜100kHz
(3)反応プロセス領域60,70条件
投入電力:0.2〜2kW
反応プロセス領域内圧力:0.2〜2Pa
酸素ガス流量:20〜200sccm
【0094】
(比較例)
比較例では、成膜プロセス領域20,40と反応プロセス領域60においてのみスパッタリングによる中間薄膜形成および中間薄膜に対する酸化処理を行い、基板の片面のみに薄膜の形成を行った。スパッタ圧力その他の条件については、上記実施例と同じである。形成された薄膜は、基板の表面側に4.7μm、裏面側では0μmであった。
【0095】
湾曲度の測定は、レーザー光を薄膜表面に照射して、反射する光の位置を観測する手法で行った。本例では、基板の中央(すなわち、測定位置0mm地点)を基準として、その周辺±10mmまでの複数の位置における基板の湾曲度を測定することで行った。
【0096】
図7に、実施例および比較例に記載の方法で得られた基板の湾曲度を測定した結果を示す。図中の実線で表された曲線は実施例の結果、破線で表された曲線は比較例の結果を表している。
この図で示すとおり、基板の片面のみに薄膜形成を行った比較例では、40μm以上の湾曲が見られたのに対し、両面同時に薄膜形成を行った実施例では、半径10mmの範囲で湾曲度が5μm以下であった。つまり、基板の片面のみに薄膜を形成した場合と比較して、両面に同時に薄膜を形成した場合では、基板の湾曲の度合いが大幅に少なくなることがわかる。
【0097】
以上のように、本発明の薄膜形成方法および薄膜形成装置によれば、基板の片面に形成された薄膜の応力を相殺する応力を有する薄膜を基板の裏面に形成するため、基板の表面に形成された薄膜の応力によって基板が湾曲するという不都合を減少することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明における薄膜形成装置を上面から見た部分断面図である。
【図2】図1の薄膜形成装置を矢視A方向から見た部分断面図である。
【図3】図1の薄膜形成装置を矢視B方向から見た部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を上面から見た部分断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を上面から見た部分断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態おける薄膜形成装置を側面から見た部分断面図である。
【図7】実施例および比較例に記載の方法で得られた基板の湾曲度を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0099】
1 薄膜形成装置
11 真空容器
11 真空容器
11a 開口
11b 開口
11c 開口
11d 入出口
11e 開口
11f 開口
11i 開口
11j 開口
13 基板ホルダ(基体ホルダ)
13a 保持具
13b ボルト
14−1 下側支持部材
14−1a 突起
14−1b 油圧シリンダ
14−2 下部支持部材
14−2a 突起
15a 配管
15b 配管
15c 配管
16 扉
17 モータ
17a 回転軸
18a 仕切壁
18b 仕切壁
18c 仕切壁
18d 仕切壁
18e 仕切壁
18f 仕切壁
20 成膜プロセス領域(第一の成膜プロセス領域)
20A スパッタ手段
21 ターゲット
22 マグネトロンスパッタ電極
23 電極設置板
24 トランス
25 交流電源
26 マスフローコントローラ
27 スパッタガスボンベ
28 マスフローコントローラ
29 反応性ガスボンベ
30 成膜プロセス領域(第二の成膜プロセス領域)
31 ターゲット
32 マグネトロンスパッタ電極
33 電極設置板
34 トランス
35 交流電源
36 マスフローコントローラ
37 スパッタガスボンベ
38 マスフローコントローラ
39 反応性ガスボンベ
40 成膜プロセス領域(第三の成膜プロセス領域)
40A スパッタ手段
41 ターゲット
42 マグネトロンスパッタ電極
43 電極設置板
44 交流電源
45 トランス
46 マスフローコントローラ
47 スパッタガスボンベ
48 マスフローコントローラ
49 反応性ガスボンベ
50 成膜プロセス領域(第四の成膜プロセス領域)
50A スパッタ手段
51 ターゲット
52 マグネトロンスパッタ電極
53 電極設置板
54 交流電源
55 トランス
56 マスフローコントローラ
57 スパッタガスボンベ
58 マスフローコントローラ
59 反応性ガスボンベ
60 反応プロセス領域(第一の反応プロセス領域)
60A プラズマ発生手段
61 アンテナ
62 誘電体板
63 ケース体
64 マッチングボックス
65 高周波電源
66 マスフローコントローラ
67 不活性ガスボンベ
68 マスフローコントローラ
69 反応性ガスボンベ
70 反応プロセス領域(第二の反応プロセス領域)
70A プラズマ発生手段
71 アンテナ
72 誘電体板
73 ケース体
76 マスフローコントローラ
77 不活性ガスボンベ
78 マスフローコントローラ
79 反応性ガスボンベ
81 遮蔽板
82 回転軸
83 モータ
91 遮蔽板
92 回転軸
93 モータ
S 基板(基体)
Z 中心軸線



【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成するスパッタリング装置を用いた薄膜形成方法であって、
前記基体の両面に対して夫々スパッタにより中間薄膜の形成を略同時に行う中間薄膜形成工程と、
前記基体の両面に形成された中間薄膜に夫々反応性ガスを反応させて略同時に薄膜を形成する反応工程と、
前記基体の一方の面に、前記基体の反対側の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を形成する工程と、を備え、
前記基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定されることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成するスパッタリング装置を用いた薄膜形成方法であって、
前記基体の両面に対して夫々スパッタにより第一の中間薄膜の形成を略同時に行う第一中間薄膜形成工程と、
前記基体の両面に対して夫々スパッタにより前記第一の中間薄膜の屈折率と異なる屈折率を有する第二の中間薄膜の形成を略同時に行う第二中間薄膜形成工程と、
前記基体の両面に形成された前記第一の中間薄膜及び前記第二の中間薄膜に夫々反応性ガスを反応させて略同時に薄膜を形成する反応工程と、
前記基体の一方の面に、前記基体の反対側の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を形成する工程と、を備え、
前記基体の反対側の面に形成される薄膜の膜厚は、前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定されることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項3】
前記膜厚は、成膜プロセス領域に設置された各ターゲットへの供給電力の設定、前記各ターゲットから基体へ向けて供給される膜原料物質を遮蔽する遮蔽板の開度の設定、前記各ターゲットを各成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の設定、のうち少なくともいずれかの決定により設定されることを特徴とする請求項1又は2記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記真空容器内に設置され、前記基体を保持する基体ホルダと、
該基体ホルダの片面側に配置され、前記基体の一方の面に中間薄膜を形成する第一の成膜プロセス領域と、
前記基体ホルダを挟んで前記第一の成膜プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に中間薄膜を形成する第二の成膜プロセス領域と、
前記第一の成膜プロセス領域と空間的に分離され、前記基体の一方の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第一の反応プロセス領域と、
前記基体ホルダを挟んで前記第一の反応プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第二の反応プロセス領域と、を備え、
前記第二の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域において、前記一方の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を前記反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成されるように、前記第二の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域を制御することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項5】
真空容器内の成膜プロセス領域に配設されたターゲットに対してスパッタを行うことで基体に中間薄膜を形成させ、前記真空容器内の反応プロセス領域において前記中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
前記真空容器内に設置され、前記基体を保持する基体ホルダと、
該基体ホルダの片面側に配置され、前記基体の一方の面に中間薄膜を形成する第一の成膜プロセス領域と、
前記基体ホルダを挟んで前記第一の成膜プロセス領域と反対側に配置され、前記基体の反対側の面に中間薄膜を形成する第二の成膜プロセス領域と、
前記第一の成膜プロセス領域および前記第二の成膜プロセス領域と空間的に分離された領域に形成され、且つ前記第一の成膜プロセス領域と同じ側に形成された第三の成膜プロセス領域と、
前記第一乃至第三の成膜プロセス領域と空間的に分離された領域に形成され、前記基体ホルダを挟んで前記第三の成膜プロセス領域と反対側に配置された第四の成膜プロセス領域と、
前記第一乃至第四の成膜プロセス領域と空間的に分離され、前記基体の一方の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第一の反応プロセス領域と、
前記第一乃至第四の成膜プロセス領域および前記第一の反応プロセス領域と空間的に分離されると共に、前記基体ホルダを挟んで前記第一の反応プロセス領域と反対側に形成され、前記基体の反対側の面に形成された中間薄膜と反応性ガスとを反応させて薄膜を形成する第二の反応プロセス領域と、を備え、
前記第二の成膜プロセス領域,前記第四の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域において、前記一方の面に形成される薄膜による基体の湾曲を相殺する薄膜を前記反対側の面に形成される薄膜の膜厚が前記基体の一方の面に形成された薄膜の種類及び膜厚に基づいて決定して形成するように、前記第二の成膜プロセス領域,前記第四の成膜プロセス領域及び前記第二の反応プロセス領域を制御することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項6】
前記基体の湾曲を相殺する薄膜の膜厚は、成膜プロセス領域に設置された各ターゲットへの供給電力の設定、前記各ターゲットから基体へ向けて供給される膜原料物質を遮蔽する遮蔽板の開度の設定、前記各ターゲットを各成膜プロセス領域に供給されるガスの流量の設定、のうち少なくともいずれかの決定により設定されることを特徴とする請求項4又は5記載の薄膜形成装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−102436(P2011−102436A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288622(P2010−288622)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【分割の表示】特願2004−324192(P2004−324192)の分割
【原出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】