説明

薬剤の投与のための新規な方法およびそれらに有用な装置

本発明は、患者の皮膚の接合層、すなわち、皮膚の皮下層の網状真皮と下皮との間の移行組織の中に物質を投与する方法に関する。本発明は、提供する他の利点の中で特に、投与された物質により起こされる望まない免疫応答及び偶発的な免疫毒作用を最小限にする非経口的薬物送達の改善された方法を提供する。加えて、改善された薬物動態プロファイルを、本発明の方法を用いることにより得ることができる。また、本発明の方法に従って使用することのできる装置も開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の皮膚の接合層、すなわち、皮膚の皮下層の網状真皮と下皮との間の移行組織の中に物質を投与する方法に関する。本発明は、提供する他の利点の中で特に、投与された物質により起こされる望まない免疫応答及び偶発的な免疫毒作用を最小限にする非経口的な薬物送達の改善された方法を提供する。加えて、改善された薬物動態プロファイルを、本発明の方法を用いることにより得ることができる。また、本発明の方法に従って使用することのできる装置も開示されている。
【背景技術】
【0002】
診断用試薬及び薬剤のような薬剤物質を効率よく安全に投与することの重要性は、長い間認められてきている。従来の針の使用により、皮膚を通して投与することによって人間及び動物に薬剤物質を送達する一つの手法が長い間提供されてきた。注射のしやすさを改良し、従来の針に関連する患者の不安及び/又は痛みを軽減させながら、かなりの努力が、再現性があり有効な皮膚を通しての送達を実現するためになされてきた。さらにある送達システムは、針を完全に省いて、化学メディエーター又は、イオン導入法的電流、電気穿孔法、熱的穿孔法、超音波導入法などの外的推進力に依拠して皮膚の最外層である角質層を破り、そして皮膚表面を通って物質を送達する。しかしながら、そのような送達システムは、皮膚バリアを破り、皮膚表面下の所定の深さまで薬剤物質を送達するのに再現性がなく、結果として、臨床結果が定まらない可能性がある。そのため、針を用いるなどの角質層を機械的に破ることにより、最も再現性のある皮膚表面を通しての物質の投与方法が提供され、且つ投与された物質の配置の制御及び確実性が提供されると考えられている。
【0003】
皮膚表面の直下に物質を送達する手法は、ほとんど経皮投与、すなわち皮膚を通して皮膚の直下の部位まで物質を送達することを含んでいる。経皮投与は、筋肉注射及び皮下注射が最も一般的に使用されている、皮下経路、筋肉経路、静脈経路の投与を含む。
【0004】
解剖学的に、体の外表面は、外側の表皮とその下にある真皮との二つの主要な組織層により作られており、それらはともに皮膚を構成する(確認のため、非特許文献1参照)。表皮は、全厚が75〜150μmの5層(layerまたはstratum)にさらに分割される。表皮の下は二つの層を含み、最も外側の部分は乳頭真皮と呼ばれ、より深い層は網状真皮と呼ばれる。乳頭真皮は、広大な微小循環系血液及びリンパ叢を含む。対照的に、網状真皮は相対的に細胞及び血管がなく、密なコラーゲンおよび弾力のある結合組織から作られている。表皮及び真皮の下は、下皮とも呼ばれる皮下組織で、結合組織及び脂肪組織で構成されている。筋肉組織は皮下組織の下に位置している。網状真皮及び皮下組織は、接合層と呼ばれる境界面で分離されている。
【0005】
接合層は、接合層のちょうど上で網状真皮を形成するいくつかのコラーゲンの束に縁取られている。これらの束は皮膚表面に平行に配置され、乳頭真皮の弾力のある繊維を固定する。接合層中では、滑らかで、柔軟で、分散されたコラーゲン繊維からなる繊維状の結合組織は網状真皮から垂直に配置されている。この結合組織はグリコアミノグリカン及びプロテオグリカンと結合し、神経芽細胞、いくらかの脂肪細胞、及び血管からの浸潤細胞を保持する。また、接合層の特徴は、真皮の毛細曲管に分けられる血管の密なネットワークの存在である。後部毛細静脈を集めた深部静脈叢が接合層中に配置されていることは重要である。皮膚接合層の下は、皮下層を形成する脂肪組織である。接合層の厚さは1.9〜3mmの間と推定されている。このデータは、X線CTスキャン技術及び高周波(20MHz)超音波画像法技術を用いた健常ボランティアの臨床研究に基づいたものである。
【0006】
上記に記載したとおり、一般に皮下組織及び筋肉組織の両方は、薬剤物質を投与する部位として使用されている。しかしながら、これらの区画中へ薬剤物質を投与することにおいて直面する最も重要な問題の一つは、患者に望まない免疫応答を引き起こすという潜在的な危険性である。いくつかの場合では、そのような望まない免疫応答により、患者が死に至る可能性がある。したがって、薬物動態を改善する結果となる物質の投与方法が継続して必要である一方、望まない免疫応答のような投与により引き起こされた潜在的に有害な影響を軽減させることのできる物質の投与方法に対する特有の必要性も存在する。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6494865号明細書
【特許文献2】米国特許出願第10/357502号明細書
【特許文献3】米国特許出願第10/337413号明細書
【非特許文献1】Physiology,Biochemistry,and Molecular Biology of the Skin, Second Edition,L.A.Goldsmith,Ed.,Oxford University Press, New York, 1991
【非特許文献2】Pharmacotherapy,2002,22(11):1511−5
【非特許文献3】Dermatol.Surg. 2001 27(1):47−52
【非特許文献4】Perfusion,2003,18(1):47−53
【非特許文献5】Eur.J.Pediatr.158(Suppl.3):S130−133(1999)
【非特許文献6】Clin.Ther.24(11):1757−1769(2002)
【非特許文献7】Goodman&Gilman,The Pharmacological Basis of Therapeutics,9th ed.,McGraw−Hill,NY(1996)
【非特許文献8】Remington’s Pharmaceutical Scieneces(Mack Pub.Co.,N.J.,current edition)
【0008】
本発明は、患者の皮膚の接合層を選択的に且つ特定して標的にすることによる新規非経口投与方法を提供し、それにより、結果として送達された物質の治療的効力を高める。本発明の方法に従い送達された物質は、皮内送達及び皮下送達を含む他の薬物送達方法と比較して改善された臨床的有用性及び治療的効力を有する。本発明は、これらに限定されないが、薬物動態の改善、好ましくなく有害な副作用の軽減、患者が感じる痛みの軽減又は解消、及び注射量に限界がないことを含む従来の薬物送達方法に対する利点ならびに改善点を提供する。
【0009】
本発明は、一つには患者の皮膚の接合層に物質を送達することが送達方法の向上をもたらすという、発明者の予期しなかった発見に基づいている。本明細書に使用されているとおり、接合層は、真皮の最深部層、すなわち網状真皮と、皮膚の皮下層の下皮との間の移行組織区域をいう。
【0010】
本明細書に使用されているとおり、接合層中への投与は、物質が、接合層の静脈叢の密なネットワークと後部毛細静脈とに容易に到達するように接合層中に配置され、迅速に吸収され、全身に分散するようなやり方での接合層中への物質の投与を含むことを意図している。本発明の方法に従い、接合層中への物質の配置は、主に少なくとも約1.5mm、少なくとも約2mmの深さで、約3mmを超えない、好ましくは約2.5mmを超えない深さまでで行われ、その結果、物質が迅速に吸収され、そして免疫応答が軽減される。したがって、本発明の方法に従い送達された物質は、ID(皮内)投与及びIM(筋肉)投与を含む他の投与経路より、より迅速にそれらの有益な作用を及ぼすことができる。
【0011】
本発明の方法に従い送達される物質は、患者の皮膚の接合層に、それを通り抜けることなく浸透することが好ましい。皮下層中(例えば2.5mmより深い深さで)への物質の配置は、物質の吸収が遅くなるばかりでなく、望まない免疫応答に関係するかもしれず、したがって、本発明の方法では好ましくない。
【0012】
本発明は、皮膚の接合層中への物質の配置を標的とすることを提供する。本発明の方法に従って、患者の接合層中へ物質を送達することは、薬物動態、例えば薬物動態的プロファイルを改善させる結果となる。特定の理論により拘束されることを意図するものではないが、接合層の一部となる静脈叢の細網及び後部毛細静脈に起因して、接合層中への物質の直接投与によって皮下投与又は筋肉投与より物質がより効果的に摂取されるので、その結果として薬物動態を改善すると考えられる。さらに、送達のために接合層を特定して且つ選択的に標的とすることにより、物質によって示された薬物動態は一貫して再現性があり、従来の他の送達方法に比較してPKパラメータの個体間のばらつきを減少させる結果となる。
【0013】
本発明の方法は、従来の薬物送達方法を越えた改善された薬物動態を提供するばかりでなく、物質の活性成分に対する望まない免疫応答や偶発的な免疫毒作用のような、物質の投与により引き起こされる有害な副作用の軽減を含む付加的な利点をも提供する。本明細書に使用されるとおり、「望まない免疫応答」という用語は、物質が投与されたときにそのような応答を誘発するとは意図されていないところでの、本発明の物質を受け入れている患者の自然な免疫応答を意味する。本発明の方法を使用して予防することのできる望まない免疫応答の具体例は、これらに限定されないが、以下のものを含む;例えば、インスリンやヘパリン及び活性成分としてタンパク質又は多糖類を有するものを基にした多くの他の薬物の非経口的な注入後に、記述されたような局部及び/又は全身の過敏性反応の危険を伴うIgE(免疫グロブリンE)介在性過敏症;循環する免疫複合体の配置に起因して腎臓及び/又は肝臓及び/又は微小血管の変質などの全身への有害事象を生じる免疫複合体介在性過敏症のような、抗体介在性細胞毒過敏症;注入部位での遅延型反応及び活性成分の免疫中和化、又はヘパリン処置により誘導された血小板減少症のような任意の全身への有害事象を含む危険を伴う細胞介在性過敏症。
【0014】
したがって、本発明の方法は、免疫応答の誘導が送達される物質の治療効果に有益ではないであろう治療用物質の送達に特に有益である。そのような物質の具体例は、低分子量ヘパリン、五糖、インターフェロンα及びβ、エリスロポエチン、抗体、ポリペプチドホルモン、成長ホルモン、ならびにインターロイキンを含む。本発明の送達方法に従い免疫毒作用の危険が軽減されるのは、一つには接合層中の免疫性細胞の優位性が低いためである。皮内空間は、例えば樹状突起細胞、単球、リンパ球、マクロファージなどの高濃度の免疫性細胞により特徴付けられるため、望まない免疫応答の危険性がより高く、したがって、本発明の方法はそのような物質の皮内送達より好ましい。特定の実施形態において、本発明の方法に従い投与される物質はワクチンではなく、これに対して免疫応答を最小限にすることは好ましくない場合がある。
【0015】
本発明の方法に従った物質送達により、患者の感じる痛みが軽減又は解消される。したがって、本発明の方法は、皮内送達を含む他の非経口送達方法より好ましい。作用の特定のメカニズムに拘束されることを意図するものではないが、皮下層は神経終末及び神経小体により特徴付けられる感覚器官である。対照的に、接合層は神経終末及び神経小体に乏しく、そのため接合層中への物質の投与により引き起こされる痛みの感覚は、皮下層への物質の送達により感じる痛みよりも小さい。
【0016】
本発明の方法に従った物質送達の別の利点は、別の組織区分に物質を送達するのに比べ、物質の注入量の制限が無いことである。したがって、本発明の方法は、皮内送達により注入される物質の量が、真皮層のコラーゲン束及びエラスチン繊維の高度なネットワークならびに真皮組織の変形性に一部起因して約50〜250μLに制限される皮内送達に対して特に有利である。結合性接合組織の柔軟性及び高度な変形性に基づく特定のメカニズムに拘束されることを意図するものではないが、接合層に物質を送達する場合、特にボーラス(bolus)の注射により送達する場合に注入量に関して制限が無い。本発明の方法で使用されてもよい物質の量は、皮下投与に対する量と同じ注入量でもあってもよい。したがって、本発明の方法を使用するとき、物質の注入量は約0.5mL又はそれ以上であってもよく、より詳細には約1.0mL又はそれ以上であってもよい。
【0017】
本発明は、患者の皮膚の接合層を正確且つ選択的に標的にするための任意の装置を包含する。使用される装置の本質は、装置が接合区域内の標的とする深さまで、その区域を突き抜けることなく患者の皮膚に進入する限り、重要なことではない。この装置は皮膚を少なくとも約2mmの深さで進入し、好ましくは約3mmを超えない深さまで、最も好ましくは約2.5mmを超えない深さまで進入する。
【0018】
いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも一つの針、好ましくは微小針を含む装置を使用して、患者の皮膚の接合層中に物質を送達することを包含する。針は、接合層に進入するのに十分な長さであり、且つ物質を接合層中に送達し、分散させるように接合層の範囲内の深さの出口を有するのが好ましい。いくつかの実施形態において、針の長さは約2〜約5mmであり、約2〜約3mmが好ましい。別の実施形態において、針の出口は、針を挿入したときに約2〜約3mmの深さに設置され、好ましくは約2〜約2.5mmの深さに設置される。
【0019】
本発明は、接合送達(junctional delivery)のための一つ又はそれ以上の物質を含む製薬剤を包含する。いくつかの実施形態において、本発明の物質を含む製剤は、治療上又は予防上効果的な量の物質を含む。別の実施形態において、本発明の製剤は、一つ又はそれ以上の添加物を含む。本発明の方法に従い投与される製剤は、接合送達に適した任意の形態であってもよい。
【0020】
本発明の方法を使用して、物質はボーラスとして、又は輸液により投与されてもよい。本明細書中に使用されているとおり、「ボーラス(bolus)」という用語は、10分より短い時間内に送達される量を意味すると意図されている。「注入(Infusion)」は、10分より長い時間以上の物質の送達を意味すると意図されている。ボーラス投与もしくはボーラス送達を、例えばポンプなどの速度制御装置を用いて、又は、例えば使用者の自己注射など、特定の速度制御装置を用いずに行うことができると解釈されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、一つには、患者の皮膚の接合層中に物質を、好ましくは選択的且つ特定して送達することを含む患者の皮膚への物質の投与方法に関する。一つの実施形態において、患者はヒト又は動物であり、好ましくはヒトである。本明細書中に使用されているとおり、接合層は、真皮の最深部層、すなわち網状真皮と、皮膚の皮下層の下皮との間の移行組織区域をいう。接合層は、接合層のちょうど上で網状真皮を形成するいくつかのコラーゲンの束により縁取られている。接合層中では、滑らかで、柔軟で、分散されたコラーゲン繊維からなる繊維状結合組織は網状真皮から垂直方向に配置されている。また、接合層の特徴は、真皮の毛細曲管に分解される血管の密なネットワークの存在である。後部毛細静脈を集めた深部静脈叢が、接合層中に配置されていることが重要である。
【0022】
本発明は、選択的に且つ特定して患者の皮膚の接合層を標的にすることにより新規な非経口投与方法を提供し、それにより、結果として与えられた物質の治療的有効性を高める。いくつかの実施形態において、接合層を直接的に標的とする。本明細書に使用されているとおり、接合層中への投与は、物質が、接合層の静脈叢の密なネットワークと後部毛細静脈とに容易に到達し、迅速に吸収され、全身に分散されるように接合層の中に配置されるようなやり方での接合層中への物質の投与を包含することを意図している。本発明の方法に従い、接合層中への物質の配置は、主に少なくとも約1.5mm、好ましくは約2mmの深さで、約3mmを超えない、好ましくは約2.5mmを超えない深さまでで行われ、その結果として物質が迅速に吸収されて、そして免疫応答が軽減される。したがって、本発明の方法に従い送達される物質は、SC(皮下)投与及びIM投与を含む他の投与経路よりも迅速にそれらの有益な作用を及ぼす可能性がある。
【0023】
本発明の方法は、例えば、投与された物質の薬物動態を改善し、望まない有害な副作用を軽減し、受ける痛みを軽減又は解消すること、及び注入量において容量の制限が無いことにより、従来の薬物送達方法よりも有益である。
【0024】
本発明の方法を使用して投与された物質は、従来の送達方法により投与された同一物質に対して得られた薬物動態よりも優れ、且つ臨床的により適した薬物動態をもたらす。特定の理論に拘束されることを意図するものではないが、接合層の一部となる静脈叢の細網及び後部毛細静脈に起因して、接合層中への物質の直接の投与により、皮下投与又は筋肉投与より物質がより効果的に摂取されることとなり、その結果として薬物動態が改善されると考えられる。さらに、接合層を特定して且つ選択的に標的とすることにより、物質により示される薬物動態は一貫して再現性があり、従来の他の送達方法に比較してPKパラメータの個体間のばらつきを減少させる結果となる。
【0025】
本発明に従って改善された薬物動態は、従来の投与方法と比較して、生物学的利用効率の増加、遅延時間(Tlag)の減少、Tmaxの減少、より迅速な吸収速度、より迅速な開始、及び/又は投与物質の一定量に対するCmaxの増加を意味する。
【0026】
生物的利用効率は、血管区域に到達する投与物質の投与量の全量を意味する。一般に、これは濃度対時間のグラフにおける曲線より下の部分として測定される。「遅延時間」は、物質の投与から、血液又は血漿のレベルが測定可能もしくは検出可能になるまでの時間との間の遅延を意味する。Tmaxは物質が最大血中濃度に達するまでの時間を表す値であり、Cmaxは一定の投与量及び投与方法を用いて到達した最大血中濃度である。開始(onset)時間は、Tlag、Tmax,及びCmaxで決まるものであり、これらのパラメータの全てが、生物学的作用を発揮するために必要な血中(又は標的組織中)濃度に達するのに必要な時間に影響を与える。Tmax及びCmaxはグラフの結果を視覚的に調べて求めることができ、物質の二つの投与方法を比較するのに十分な情報を提供できることが多い。しかしながら、数学的モデル及び/又は当分野の技術者に既知の他の方法を用いて動力学的分析により、数値をより正確に求めることができる。
【0027】
薬物動態パラメータの測定及び最小有効濃度の決定は、当分野において慣行的に行われている。得られた値は、例えば皮下投与、皮内投与、筋肉投与などの一般的な投与経路と比較することにより改善されたと考えられる。そのような比較において、必ずしも重要ではないが、接合層中への投与と皮下投与のような参照部位中への投与は、同じ投与レベル、すなわち同量及び同濃度の薬物、ならびに同じ移動媒体と単位時間当りの量及び容量の点で同じ投与速度とを伴うことが好ましい。したがって、例えば、100μg/mLのような濃度と100μL/分の速度とで5分以上かける接合層中への一定製薬物質の投与は、同じ100μg/mLの濃度と100mL/分の速度とで5分以上かけて皮下空間中への同じ製薬物質の投与と比較することが好ましい。
【0028】
本発明の方法は、従来の薬物送達方法に比べ、送達された物質の改善された薬物動態を提供するばかりでなく、物質の投与により生じた、物質の活性成分に対する望まない免疫応対や偶発的な免疫毒作用などの有害な副作用の軽減を含む、付随的な利点も提供する。本明細書中に使用されるとおり、「望まない免疫応答」という用語は、投与の際にそのような応答を物質が誘発するとは意図していない、本発明の物質を受けた患者の自然な免疫応答を意味する。本発明の方法を使用して予防できる望まない免疫応答の具体例は、これらに限定されないが、IgE介在性過敏症、抗体介在性細胞毒過敏症、免疫複合体介在性過敏症、及び細胞介在性過敏症、抗体による活性成分の免疫中和化、ならびに投与物質として同じ抗原刺激を共有する天然化合物に対する活性物質に対して形成された抗体の最終交差反応性を含む。
【0029】
したがって、本発明の方法は、免疫応答の誘導が送達される物質の治療効果に有益ではないであろう治療用物質に特に有益である。本発明の方法に使用される治療用物質の具体例は、低分子量ヘパリン、五糖、インターフェロンα及びβ、エリスロポエチン、抗体、ポリペプチドホルモン、成長ホルモン、ならびにインターロイキンを含む。本発明の方法に用いられる治療用物質は、遺伝子組み換え型タンパク質を含む。これらに限定されないが、本発明の方法に使用してもよい付加的な具体例は、本明細書中5.1節に開示されている。本発明の送達方法に従い免疫毒作用の危険性が下げられたのは、一つには接合層中の免疫性細胞の優位性が低いためである。したがって、皮内空間は、例えば樹状突起細胞、単球、リンパ球、マクロファージなどの高濃度の免疫性細胞により特徴付けられるため、望まない免疫応答の危険性がより高いそのような物質の皮内送達よりも、本発明の方法は好ましい。特定の実施形態において、免疫応答を最小にすることが好ましくない場合には、本発明の方法に従って投与される物質はワクチンではない。
【0030】
さらに、物質送達のために接合層を選択的に標的にすることにより、感じる痛みの軽減のような、他の臨床的利点が結果として生じ得る。理論により拘束されることを意図するものではないが、接合層は神経終末及び神経小体に乏しく、そのため接合層中への物質の投与により引き起こされる痛みの感覚は、他の組織区分への物質の送達により感じる痛みよりも小さい場合がある。本発明の方法に従い物質を送達することにより、患者の感じる痛みは軽減又は解消される。したがって、本発明の方法は、皮内送達を含む他の薬物送達方法より好ましい。
【0031】
本発明の方法に従い物質を送達する他の利点は、他の組織区域への物質の送達に比べ、物質の注入量の制限が無いことである。したがって、本発明の方法は、皮内送達により注入される物質の量が一部には真皮層のコラーゲンの束及びエラスチン繊維の高度のネットワークならびに真皮組織の変形性のために約50〜250μLに制限される皮内送達に対して特に有利である。結合性接合組織の可動性及び高度な変形性による特定のメカニズムに拘束されることを意図するものではないが、接合層に物質を、特にボーラス注射により送達する場合に注入量に関して制限が無い。本発明の方法で使用されてもよい物質の量は、皮下投与に対する量と同じ注入量でもあってもよい。したがって、本発明の方法を使用するとき、物質の注入量は約0.5mL又はそれ以上であってもよく、より詳細には約1.0mL又はそれ以上であってもよい。
【0032】
そのため、本発明の方法は、患者の皮膚の接合層に本発明の一つ又はそれ以上の物質を送達することにより、病気、疾患、及び感染に関連する一つ又はそれ以上の治療方法、予防方法、もしくは回復方法を提供する。本発明の方法に従い投与された物質は、他の送達方法に比べ、臨床的有用性及び治療的効力を高めた。
【0033】
5.1 投与のための物質
本発明は、患者の接合層に幅広い種々の物質を選択的に標的とすることにより投与することを包含する。本発明の方法を用いて投与されうる物質の具体例は、これらに限定するものではないが、診断用試薬、医薬品を含む薬学的または生物学的活性物質、ならびに、これに限定するものではないが、機能性食品のような治癒上又は健康上の利点を提供する他の物質を含む。本発明は、当分野の技術者に既知の一般的な方法を用いて得ることのできる、任意のタンパク質、特に治療効果のあるタンパク質、ならびにそれらの全ての塩、多形体、アナログ、誘導体、断片、類似物(mimetics)、及びペプチドの投与を包含する。
【0034】
本発明の方法に特に適切な物質は、望まない免疫応答及び免疫毒作用の危険を軽減させることによる利益を得ることができ、そして、薬物動態プロファイルを改善させることにより利益を得ることができるものであり、これらに限定するものではないが、低分子量ヘパリン、五糖、インターフェロンα及びβ、エリスロポエチン、抗体、ポリペプチドホルモン、成長ホルモン、ならびにインターロイキンを含む。
【0035】
本発明の方法は、低分子量ヘパリン及び合成五糖などの抗血栓症剤の送達に特に有用である。これらの物質は、本発明の方法により達成された望まない免疫応答を軽減させることにより、非常に大きな利益を受けることができる。当分野において、有害な免疫反応が、エノキサパリン(登録商標)などの低分子量ヘパリンの投与を理由に記録されている。例えば、エノキサパリン(登録商標)のSC投与での過敏性反応(例えば非特許文献2参照)及びLMWヘパリン治療を受けた患者における遅延型過敏症(DTH)反応(例えば非特許文献3参照)の報告がある。加えて、ヘパリン誘導型血小板減少症(HIT)は、ヘパリン投与の主な副作用として報告されている。HITは、深刻で潜在的な生命を脅かす症候群であり、血小板因子4/ヘパリン複合体に対して作られた抗体の結果である。HITの発生は、ヘパリン治療を受けた全患者の1〜3%中であると推定されている(非特許文献4;非特許文献5参照)。フォンダパリヌクス(登録商標)などの合成五糖は低分子量ヘパリンより低い免疫毒危険性と関連して報告されているが、まだかなりの潜在的危険性が存在する。(非特許文献6)。したがって、本発明の方法は、低分子量ヘパリンを含むヘパリン等の抗血栓症剤を送達することにより、DTH及びHITなどの現在の抗血栓症治療に関連した望まない免疫応答が軽減または解消されることから、抗血栓症治療に対して別のより改善された方法を提供する。
【0036】
本発明は、疾患に関する血栓症の治療及び/または予防のために用いられる任意の試薬の送達を包含する。治療の主な4つのタイプ、抗血小板剤、抗凝固剤(ヘパリン)、ビタミンK拮抗薬(クマリン誘導体)、および血栓溶解剤は、血栓症を予防又は治療するために使用される。それぞれのタイプの試薬は、凝固経路中の異なる場所で凝固することを妨げる(非特許文献7参照)。ジピリダモールは、血栓症を防止又は治療するために時々使用されるもう一つの試薬である。それは、ワルファリン(クマリン誘導体)との併用で人工心臓弁に塞栓が形成するのを抑制し、そして、アスピリンとの併用で血栓症疾患の患者の血栓症を軽減する血管拡張剤である。また、本発明は、抗血栓症作用を有することで特徴付けられるトロンビン阻害剤と同様に、主に心臓病において必要である抗血栓症剤の新しい一群に属する細胞表面グリコプロテインGP IIb/IIIAの阻害剤も包含する。
【0037】
本発明の方法は、これらに限定されないが、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血栓性静脈炎、血栓症又は塞栓症による動脈閉塞、血管形成もしくは血栓溶解の間又はその後の動脈の再閉塞、動脈損傷又は侵襲性心臓学的方法に続く再狭窄、術後静脈血栓症又は塞栓症、急性又は慢性アテローム性動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、癌及びその転移、ならびに神経変性疾患を含む任意の血栓症に関する疾患を治療及び/又は予防するのに有用である。
【0038】
本発明の方法に従い使用してもよい診断用物質は、これらに限定されないが、インスリン、ACTH(例えば副腎皮質ホルモン注射)、黄体形成ホルモン放出ホルモン(例えば塩酸ゴナドレリン)、成長ホルモン放出ホルモン(例えば酢酸セルモレリン)、コレシストキニン(シンカリド(Sincalide))、副甲状腺ホルモン及びこれらの断片(例えば酢酸テリパラチド)、甲状腺放出ホルモン及びそれらのアナログ(例えばプロチレリン)、セクレチンなどを含む。
【0039】
本発明に使用されてもよい治療用物質は、これらに限定されないが、α−1抗トリプシン、抗血管形成剤、アンチセンス剤、ブトルファノール、カルシトニン及びアナログ、セレデース、Cox−II阻害剤、皮膚科用剤、ジヒドロエルゴタミン、ドーパミン作用薬及びドーパミン拮抗剤、エンケファリン及び別のオピオイドペプチド、表皮成長因子、エリトロポエチン及びアナログ、卵胞刺激ホルモン、G−CSF、グルカゴン、GM−CSF、グラニセトロン、成長ホルモン及びアナログ(成長ホルモン放出ホルモンを含む)、成長ホルモン拮抗剤、ヘパリン、ヒルジン及びヒルログなどのヒルジンアナログ、IgEサプレッサー、インスリン、インシュリノトロピン(insulinotropin)及びアナログ、インスリン様の成長因子、インターフェロン、インターロイキン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン及びアナログ、低分子量ヘパリン及び他の天然物改質型もしくは合成グリコアミノグリカン、M−CSF、メトクロプラミド、ミダルゾラム(midalzolam)、モノクローナル抗体、ペグ化(pegylated)抗体、ペグ化タンパク質あるいは親水性もしくは疎水性ポリマー又は付加的な官能基で修飾された任意のタンパク質、融解タンパク質、一本鎖抗体断片又は付着したタンパク質の任意の組合せによる同様のもの、高分子またはそれらの付加的な官能基、麻酔性鎮痛剤、ニコチン、非ステロイド系抗炎症剤、オリゴ糖、オンダンセトロン、副甲状腺ホルモン及びアナログ、副甲状腺ホルモン拮抗剤、プロスタグランジン拮抗剤、プロスタグランジン、組み換え型可溶性レセプター、スコポラミン、セロトニン作用剤及び拮抗剤、シルデナフィル、テルブタリン、サルブタノール、モダニフィニル、血栓溶解剤、組織プラスミノゲン活性剤、TNF及びその拮抗剤、ならびにワクチンを含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明の方法を使用して投与されてもよい物質は、その望ましいプロファイルにより迅速に作用が開始され、これに続き薬剤がより長く循環するレベルにされるものである。そのような物質の具体例はインスリンであり、これに対しては、糖又は他の非複合体炭化水素の消化及び吸収から得られた高グルコースレベルを補填するために迅速で高いピークの開始レベルが望まれ、そして、一方で血中グルコースを迅速に通常レベルまで戻すことが望まれている。本発明は、インスリン、グルカゴン様のペプチド、全ての塩、多形体、アナログ、誘導体、断片、類似物、及びそれらのペプチドの使用を包含する。本発明の方法に有用な物質のその他の具体例は、鎮痛剤(例えばCox阻害剤、モルフォリン、オピオイド及び麻酔性鎮痛剤及びトリプタン)、勃起性機能障害剤(例えばシルデナフィル)、抗凝固因子(例えば、ヘパリン、低分子量ヘパリン、GPIIb/IIa拮抗剤、フォンダパリン(fondaparine))、パニック発作などの抗急性不安症疾患(例えばミダゾラン(midazolan)、ジアゼパム、トリサイクリック)、急性日中睡眠発作(例えば、モダフィニル)、発作(例えばジアゼパム)である。さらに、より早い吸収は、例えばSCのような従来の送達方法により投与された場合に、一般にゆっくりと吸収される物質に対して好ましい場合がある。従来のSC投与に対して、高分子量の薬物は、吸収が分子量と反比例の関係であるため、ゆっくりと吸収される。そのような物質の具体例は、これらに限定されないが、高分子量又は疎水性の薬剤化合物を含む。
【0041】
5.2 接合送達のための製剤
本発明は、接合送達のための一つ又は複数の物質を含む製剤を包含する。いくつかの実施形態において、本発明の物質を含む製剤は、治療上又は予防上効果的な量の物質を含む。他の実施形態において、本発明の製剤は、一つ又は複数の他の添加物を含む。
【0042】
本明細書中に使用されているとおり、そして他に明示されていない限り、「治療上効果的な量」は、病気の治療もしくは処置において治療上の利益を与えるのに十分である、又は病気に関係した症状の進行を妨げたり、最小限に抑えたりするのに十分である、本発明の物質あるいは他の活性な成分の量を意味する。さらに、本発明の物質に関する治療上効果的な量は、その量だけで、又は他の治療と併用して、病気の治療もしくは処置において治療上の利益を提供することを意味している。本発明の物質の量と関係して使用された場合、この用語は、治療全般を改善し、病気の症状もしくは原因を軽減させるか又は防ぐ、あるいは他の治療薬の治療的有効性又は他の治療薬との相乗作用を強める量を包含することができる。
【0043】
本明細書中に使用されているとおり、そして他に明示されていない限り、「予防上効果的な量」は、病気の再発又は伝染を予防する結果となるのに十分な本発明の物質あるいは他の活性な成分の量を意味する。予防上効果的な量は、これに限定されないが、病気にかかりやすくなることを含む、初期の病気、病気の再発もしくは伝染、又は患者における病気の発生を予防するのに十分な量を意味してもよい。また、予防上効果的な量は、病気の予防において、予防上の利益を提供する量を意味してもよい。さらに、本発明の物質に関する予防上効果的な量は、その量だけで、又は他の治療と併用して、病気の予防において予防上の利益を提供することを意味している。本発明の物質の量と関係して使用された場合、この用語は、予防全般を改善し、又は他の予防薬の予防的有効性もしくは他の予防薬との相乗作用を強める量を包含することができる。
【0044】
本発明の物質を含む製剤に使用されてもよい添加剤は、例えば、湿潤剤、乳化剤、又はpH緩衝剤を含む。本発明の物質を含む製剤は、糖及びポリオールなどの一つ又は複数の賦形剤を含んでもよい。薬学上許容しうる担体は、それ自身では生理的応答、例えば免疫応答を誘導しないものが好ましい。薬学上許容しうる担体は、有害なあるいは望まない副作用を生じさせず、及び/又は不適当な毒性を生じさせないことが最も好ましい。本発明の製剤に使用される薬学上許容しうる担体は、これらに限定されないが、食塩水、緩衝食塩水、デキストロース、水、グリセロール、滅菌された等張性水性緩衝液、およびそれらの組合せを含む。薬学上許容しうる担体、希釈剤、賦形剤の追加的な具体例は、非特許文献8(その全てが参照により本明細書中に組み込まれる)中に提供されている。
【0045】
本発明の製剤は、元に戻すのに適した凍結乾燥された粉体などの固体、液状溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル、放出を持続する製剤、または粉体であることができる。
【0046】
本発明の物質を含む製剤は、当分野で既知の容認された任意の調製方法を用いて調製することができる。特定の調製方法は、投与される特定の物質により決まり、そしてそのような変形は当分野において通常の技術の範囲内である。
【0047】
本発明は、任意の物質から得られてもよい、迅速に作用する製剤と、中程度に作用する製剤と、長期に作用する製剤とを含む本発明の物質の溶液及び粒状形態物ならびにそれらの混合物の投与方法を包含する。本発明の方法及び製剤に用いられる製剤は、本発明の物質を含む一つ又は複数の混合物でもよい。
【0048】
製剤中の物質は、例えば単量体又は二量体状態の、異なる物理的会合状態であってもよい。物質の化学的状態は、標準的な組換えDNA技術により変更され、異なる会合状態で異なる化学式の物質を生成してもよい。代わりに、pHのような他の溶液パラメータを変更し、異なる会合状態の物質の製剤を生じさせてもよい。また、その他の発明の物質の化学的改質は、本発明により包含される。
【0049】
本発明の方法を用いると、従来の投与方法と同等の治療的有効性を得るために要求される物質の投与がより少ない量となる。本発明の方法に従い送達された物質は、従来の方法により送達された同じ物質と比較して治療的有効性を改善させている。
【0050】
生物学的分子が投与された場合、そのような分子は、これらに限定されないが、ブタ、ウシ、羊、ウマなどを含む異なる動物種からであってもよい。
【0051】
本発明は、本発明の物質が粒状形態である、すなわち全てが溶液中に溶解してはいない製剤を包含する。いくつかの実施形態において、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも75%の物質は粒状形態である。粒状形態の作用により拘束されることを意図するものではないが、物質が粒状形態である本発明の製剤は、物質の沈殿を促進させる少なくとも一つの試薬を有する。本発明の製剤に用いられてもよい沈殿剤は、タンパク性のもの(例えば、プロタミン、カチオン性ポリマー)、又は非タンパク性のもの(例えば亜鉛もしくは他の金属、又はポリマー)であってもよい。
【0052】
送達又は投与される物質の形態は、薬学上許容された希釈剤もしくは溶媒中のそれらの溶液、乳液、懸濁液、ゲル、懸濁又は分散されたマイクロ粒子及びナノ粒子などの粒子、ならびにその場で同様の媒体を形成するものを含む。本発明の物質を含む製剤は、接合送達に適切な任意の形態でもよい。一つの実施形態において、この本発明の接合製剤は、流動可能で注入しうる媒体、すなわち注射器で注入されうる低粘度の製剤の状態である。流動可能で注入しうる媒体は、液体でもよい。代わりに、媒体がその流動性を保持し、注入及び注射しうる(例えば注射器で投与されうる)ように、流動可能で注入しうる媒体は、粒状材料が懸濁された液体である。
【0053】
本発明の製剤を、単位投与量形態として調製することができる。バイヤル毎の単位投与量は、製剤を0.1〜1mL含んでもよい。いくつかの実施形態では、本発明の接合製剤の単位投与量形態は、約50〜100μL、50〜200μL、50〜500μL、又は50μL〜1mLの製剤を含んでもよい。もし必要であれば、これらの調製は、各バイヤルに滅菌された希釈剤を添加することにより、所望の濃度にまで調節することができる。
【0054】
本発明の方法に従い投与される製剤の容量は、それにより接合層が過負荷になって、皮下区分のような一つ又は複数に区切られている区分にまで導くことになるかもしれない容量では投与されない。しかしながら、本発明の接合投与を使用する場合の製剤の量は、他の従来の投与方法が使用された場合に比べると、ほとんど重要ではない。特定の理論により拘束されることなく、接合層は、接合連結組織の柔軟性及び高い変形性のために、より大きな容量のボーラスに対してはるかに受容力があると考えられている。したがって、本発明の方法を使用して、約0.5mL又はそれ以上、より詳細には約1.0mL又はそれ以上の注入量を接合層に投与することができる。
【0055】
5.3接合送達の方法
いくつかの実施形態において、本発明は、好ましくは選択的且つ特定して接合層を、それを突き抜けることなく標的にすることにより、本明細書中に記述され、例示された物質を患者の皮膚の接合層まで接合送達する方法を包含する。最も好ましい実施形態において、接合層を直接的に標的にする。送達される物質を含む製剤が調製されると、一般に製剤は接合送達のための注入装置(例えば注射器)に移される。本発明は、接合層への物質送達により、これらに限定されないが、IgE介在型過敏症、抗体介在型細胞毒過敏症、免疫複合体介在型過敏症、及び細胞介在型過敏症、活性成分の免疫中和及び/又は抗体の免疫交差反応性の危険性及び/又は天然物質に対する細胞介在型免疫を含む、望まない免疫応答ならびに免疫毒作用が軽減あるいは解消されるという発明者の発見に一部基づいている。本発明の方法に従った発明の製剤の送達により、物質の治療的及び臨床的有効性が改善される。本発明の物質を含む製剤により、接合層内の吸収による取込の改善のように薬物動態が改善された。
【0056】
本明細書中に使用されているとおり、接合層への投与は、物質が直ちに接合層の静脈叢及び後部毛細静脈の密なネットワークに到達し、そして、迅速に吸収され、全身的に生物学的に利用されうるようになるような方法で、接合層中に物質を送達することを包含するように意図されている。主に少なくとも約1.5mm、好ましくは少なくとも約2mmの深さで、約3mmを超えない、好ましくは約2,5mmを超えない深さまででの物質の配置により迅速な吸収が起こることとなり、免疫応答が軽減すると考えられている。本発明の方法に基づいて送達された物質は、患者の皮膚の接合層に、それを突き抜けることなく、進入することが好ましい。皮下層(例えば、2.5mm以上の深さで)中へ物質を配置することは、物質の吸収がより遅くなるだけでなく、望まない免疫応答とも関連する可能性があり、したがって、本発明の方法では好ましくはない。
【0057】
患者の皮膚に接合層内の所望の標的とされた深さまで接合層を突き抜けることなく進入する限り、製剤を接合層まで標的とする実際の方法は重要ではない。ほとんどの場合、装置は皮膚に約2〜3mmの深さまで、好ましくは2.5mmの深さまで進入する。いくつかの実施形態において、装置は皮膚を2.5mm以上の深さまで進入する。本発明の方法に従い接合層へ物質を送達することの利点の一つは、注入部位や特定の患者に依存しないことである。これらに限定されないが、もも、腹部、胸筋部又は胸部の三角筋、前腕又は前腕の後部、を含む接合投与に対する任意の注入部位を、本発明の方法に使用してもよい。
【0058】
接合投与方法は、微小針に基づく注射及び注入システム、又は接合層を正確に標的とするその他の任意の方法を含む。接合投与方法は、微小装置に基づく注入手段だけでなく、針無し又は針が不要な接合層への液体もしくは粉体の弾道的注射(ballistic injection)、微小装置により高められたイオン導入(ionotophoresis)、及び液体、固体、もしくは皮膚中へのその他の剤型を直接的に配置させることなどのその他の送達方法を包含する。本発明は、個々に、もしくは複数のニードルアレイに用いられる従来の注射針、カテーテル又は微小針の既知の全てのタイプを包含する。
【0059】
好ましい実施形態において、接合層への投与が針を伴う場合、針の最前部の先端は皮膚表面から2.5mmであり、斜面の後端は皮膚表面から2mmであるのが好ましい。正確且つ選択的に接合層を標的とするために、針は皮膚表面に垂直に挿入されることが好ましい。注射器の先端から斜面の終端までの斜面のサイズは、物質を接合層に送達するために0.55〜0.60mmの範囲でなければならない。
【0060】
本発明の接合導入方法により、結果として物質から得られた薬物動態(PK)及び薬力学(PD)が改善される。「薬物動態の改善」は、例えば、最大血漿濃度までの時間(Tmax)、最大血漿濃度の大きさ(Cmax)、最低検出血液濃度又は血漿濃度になるまでの時間(Tlag)などの一般的な薬物動態パラメータにより測定されるように、薬物動態プロファイルを高めることが達成されることを意味する。「高められた吸収プロファイル」は、そのような薬物動態パラメータにより測定されるように、吸収が改善されるか、又は大きくなることを意味する。薬物動態パラメータの測定及び最低有効濃度の決定は、当分野で日常的に行われている。得られた値は、例えば皮下投与又は筋肉投与などの一般的な投与経路と比較して、高められたと思われる。そのような比較において、必ずしも重要ではないが、接合層への投与と皮下投与のような参照部位への投与は、同じ投与レベル、すなわち同量及び同濃度の薬物、ならびに同じ移動媒体と単位時間当たりの量及び容量の点での同じ投与速度とを伴うことが好ましい。したがって、例えば、100μg/mLのような濃度と100μL/分の速度とで5分以上かける接合層中への一定製薬物質の投与は、同じ100μg/mLの濃度と100mL/分の速度とで5分以上かけて皮下空間中への同じ製薬物質の投与と比較することが好ましい場合がある。
【0061】
上記に言及したPKおよびPDの利点は、正確で直接的に接合層を標的とすることにより最もよく実現される。例えば、これは、外径が約250ミクロンより小さく、露出された長さが5mmより小さい、好ましくは3mmより小さい微小針システムを使用することにより達成することができる。本発明の方法において使用するのに好ましい送達装置は、薬物の貯蔵庫である注射器に組合せられた2mmの針長の30Gである。そのようなシステムは、鋼鉄、シリコン、セラミック、ならびに他の金属、プラスティック、ポリマー、糖、生物学的及び又は生物分解性材料、及び/又はそれらの組合せを含む種々の材料から既知の方法を使用して組立てられることができる。
【0062】
接合投与方法特有の特徴により臨床的に有用なPK/PD及び投与量の正確さがもたらされることが見出された。例えば、皮膚内の針の出口の設置がPK/PDパラメータに特に影響することが見出された。
【0063】
本発明のその他の利点は、接合層に物質を送達する場合、ID送達に比べ、背圧の危険性が軽減されることである。作用の特定のメカニズムに拘束されることを意図するものではないが、これは、一つには接合層中にエラスチン繊維がないためであるかもしれない。
【0064】
一般に、ボーラスとしてID経路により100〜120μLを送達するための注入時間は、一つには真皮区分の本質的な弾力性のために8〜15秒の範囲である。真皮区画への最大注入容量は、体の部位により決まり、50〜250μLの範囲である。ID送達とは対照的に、接合送達に対する注入時間はより早く、すなわち10秒以下であり、最大注入容量は、注入部位に関係なく、250μL以上である。
【0065】
本発明を行うのに適切な投与方法は、ヒト又は動物の患者に対する本発明の物質のボーラス送達及び注入送達の両方を含む。ボーラス投与量は、通常約10秒より短い比較的短時間にわたり単一の容量単位で送達された単一用量である。注入投与は、通常約10分以上である比較的長い時間にわたり、一定又は不定の選択された速度で流体を投与することを含む。物質を送達するために、接合層到達手段は患者の皮膚に接して設置され、接合層内部で直接的に標的とされた経路を提供し、そして一つ又は複数の物質は、それらが局所的に作用するか、血流により吸収され、体系的に分散されることができる接合層に送達又は投与される。接合到達手段は、送達される物質を含有する貯蔵庫と接続させてもよい。
【0066】
貯蔵庫からの接合層への送達は、受動的に送達される物質に対して外圧もしくは他の駆動手段を適用しない、及び/又は、能動的に圧もしくは他の駆動手段を適用するのいずれで行われてもよい。圧発生装置の好ましい具体例は、ポンプ、注射器、エラストマー膜、ガス気圧力、圧電性ポンプ、電動ポンプ、電磁ポンプ、又はさらばね(Belleville spring)もしくはワッシャーあるいはこれらの組合せを含む。所望により、物質の送達速度は、圧力発生手段により、可変的に制御されてもよい。結果として、物質は接合層に入り込み、臨床的に有効な結果を生じるのに十分な量及び速度で吸収される。
【0067】
本明細書中に使用されるとおり、「臨床的に有効な結果」という用語は、本発明の物質の投与の結果である、診断上及び治療上有用な応答の両方を含む臨床的に有用な生理学的応答を意味する。例えば、診断テストあるいは、病気もしくは体調の予防、管理又は治療は、臨床的に有効な結果である。
【0068】
5.4 接合送達のための装置
本発明は、患者の皮膚の接合層を正確且つ選択的に標的とする任意の装置を包含する。使用される装置の本質は、装置が接合層中の標的とした深さまで、それを突き破ることなく患者の皮膚を進入する限り、重要ではない。装置は、皮膚を少なくとも約2mmの深さで、約3mmを超えない深さまでで進入することが好ましく、最も好ましくは約2.5mmを超えない深さである。本発明は、それらの全てが本明細書中に組み込まれる特許文献1と、特許文献2及び特許文献3(それぞれ2003年2月4日及び2003年1月7日に出願された)とに開示された薬物送達装置及び針組立品を含む。ひとたび当分野の技術者が接合層の境界に関する本明細書の知識を備えると、上記で特定された特許及び特許出願明細書に開示の装置を、接合送達に適合させるために通常の実験法を用いて変更することができる。
【0069】
本発明は、単独又は複数のニードルアレイで用いられる、既知の全てのタイプの従来の注射針、カテーテルまたは微小針を包含する。代わりに、本発明は、弾道的注射装置を含む針のない装置を包含する。本明細書中で使用されるとおり、「針(”needle”及び”needles”)」という用語は、全ての針様の構造を包含することを意図している。これらに限定されないが、具体例は、既知の全てのタイプの従来からの注射針、カニューレ、カテーテル、又は微小針を含む。本明細書中で使用されるとおり、「微小針」という用語は、本質的にそのような構造が円柱状の場合に、30ゲージ及びそれより小さい、通常約31〜51ゲージの構造を包含することを意図している。したがって、微小針という用語により包含される非円柱状構造は、類似の直径であって、錐体、長方形、八角形、楔形、及びその他の幾何形態を含む。
【0070】
本発明は、少なくとも一つの針、好ましくは微小針を含む装置を使用して接合層へ物質を送達することを包含する。物質が接合層中に送達されて、分散されるように、針は接合層を進入するのに十分な長さと、接合層の範囲内の深さの出口とを有することが好ましい。いくつかの実施形態において、針の長さは、約2〜約5mm、好ましくは約2〜約3mmである。他の実施形態において、針が挿入された場合、針の出口は約2〜約3mm、好ましくは約2〜約2.5mmの深さに設置される。しかしながら、装置は、接合層内の所望の深さまでに皮膚への進入を操作する構造的な手段を有することが好ましい。最も一般的には、このことは、皮膚中の針の進入が、ニードルハブか、代わりに針がより深く進入することを妨げる構成部品かのどちらかにより制限されるまで皮膚表面から垂直角で微小針が挿入されることにより達成される。構成部品は、微小針カニューレ、又は組立てられた構成部品の一部であることができる。接合送達のための微小針の長さは、組立てプロセス中に容易に変更され、通常3mmより小さい長さに製造される。微小針は、例えば注射器のような薬物の容器に組み立てられた使い捨て針であってもよく、注射器の先端にあらかじめ取り付けられた針であってもよい。また、本発明の方法において用いられる微小針は、注射又は輸液中の痛み及び他の感覚をさらに軽減するために、非常に鋭く、そして30もしくは34Gなどの非常に小さいゲージのものである。それらは、一定の時間内に送達される物質の送達速度もしくは量を増加させるように、直線的アレイ又は2次元アレイに組立てられるか、製作されることのできる個々の一つ穴微小針、または複数の微小針として、本発明に使用されてもよい。進入の深さを制限するのに役に立ちうるホルダー又はハウジングのような種々の装置に、微小針を組み込んでもよい。また、本発明の接合送達装置は、物質を送達する前に物質を入れる貯蔵庫、又はポンプ、又は圧力下で薬物もしくは他の物質を送達するための他の装置を組込んでもよい。代わりに、接合送達装置は、そのような付加的な構成部品と外部で連結されてもよい。
【0071】
一つの実施形態において、接合送達のための本発明の装置は、次の構成部品を含む:物質が接合層中に送達及び分散されるように、接合層を進入するのに十分な長さと接合層内部の深さでの出口とを有する針;物質を装填し、貯蔵し、投与する構造物;接合層内部の所望の深さまでに皮膚への進入を制御するための構造物。一つの実施形態において、物質を装填し、貯蔵し、投与する構造物は注射器である。別の実施形態において、この構造物は、これらに限定されないが、ペン、銃又は自動注射器のような自動化された注射器である。皮膚への進入を制御するための構造物は、患者の皮膚への針を垂直に挿入させるために作用してもよい。
【0072】
一つの実施形態において、本発明の装置は、本発明の物質を含む製剤を装填し、貯蔵し、投与する構造的な手段、すなわち貯蔵庫であってもよい。貯蔵庫から接合層への送達は、受動的に送達される物質に対して外圧もしくは他の駆動手段を適用しない、及び/又は、能動的に圧もしくは他の駆動手段を適用するのいずれで行われてもよい。圧力発生装置の好ましい具体例は、ポンプ、注射器、エラストマー膜、ガス気圧力、圧電性ポンプ、電動ポンプ、電磁ポンプ、又はさらばねもしくはワッシャーあるいはこれらの組合せを含む。特に、注射器、又は、これらに限定されないがペン、銃もしくは自動注射器のような自動化された注射器は、本発明に基づいて使用されるのに有効な場合がある。
【0073】
所望により、物質の送達速度は、圧力発生手段により、可変的に制御されてもよい。結果として、物質は接合層に入り込み、臨床的に有効な結果を生じるのに十分な量及び速度で吸収される。いくつかの実施形態において、送達速度及び容量は、論理コンポーネントを有するアルゴリズムを用いることにより、機械的に制御されてもよい。そのようなアルゴリズムの具体例は、これらに限定されないが、生理学的モデル、モデル又は移動平均法に基づく法則、治療薬物動態モデル、シグナル監視プロセスアルゴリズム(monitoring signal processing algorithms)、予測制御モデル及びこれらの組合せを含む。
【0074】
一つの実施形態において、装置は接合層内部の所望の深さまでに皮膚への進入を制御する構造的な手段を有する。最も一般的には、このことは、針を取付ける支持構造物もしくはプラットホームの形態をとりうる接合到達手段の軸と結合される拡張された部分又はハブを用いて達成される。接合到達手段としての針の長さは、組立てプロセス中に容易に変更され、通常5mmより小さい、好ましくは3mmより小さい長さで製造される。針は、注射又は注入中の痛み及び他の感覚をさらに軽減するために、非常に鋭く、非常に小さいゲージのものである。それらは、一定の時間内に送達される物質の送達速度もしくは量を増加させるように、直線的アレイ又は2次元アレイに組み立てられるか、製作されうるそれぞれの一つ穴針、または複数の針として、本発明に使用されてもよい。進入の深さを制限するのに役立ちうるホルダー又はハウジングのような種々の装置に針を組込んでもよい。接合到達手段を収納する装置は、貯蔵庫又は投与量および投与速度を制御する手段のような付加的な構成物と外部から連結されてもよい。
【0075】
また、本発明の方法は、直接皮膚に進入して送達のための手段を提供する又は接合層内部の標的とした部位へ物質を直接送達させる、弾道的流体注射(bllistic fluid injection)装置、粉末ジェット送達装置、圧電補助送達装置、電動補助送達装置、電磁補助送達装置、気体補助送達装置を含む。
【0076】
5.5 治療的有効性の決定
本発明の物質を含む製剤の治療的有効性を、当分野の技術者に既知の又は本明細書に記載の任意の一般的な方法を用いて決定することができる。本発明の製剤の治療的有効性を決定するためのアッセイは、動物に基づくアッセイを含むin vivo又はin vitroに基づくアッセイでもよい。本発明の製剤の治療的有効性は、臨床的環境下において行われることが好ましい。
【0077】
いくつかの実施形態において、本発明の物質の送達についての薬物動態及び薬動力学パラメータは、当分野の技術者に既知の一般的な方法を用いて、好ましくは定量的に決定される。好ましい実施形態において、本発明の方法を使用して送達される発明の物質の薬動力学及び薬物動態的特性は、例えば皮下送達又は筋肉送達などの他の従来の投与方法により送達された物質の特性と比較され、本発明の方法に従い投与された物質の治療的有効性を立証している。本発明の方法に従い測定されうる薬物動態パラメータは、これらに限定されないが、Tmax、Cmax、Tlag、AUC値などを含む。本発明の方法の中で測定されてもよいその他の薬物動態パラメータは、例えば半減期(t1/2)、排泄速度定数及び部分AUC値を含む。当分野の技術者に既知の一般的な統計学的試験を、得られた薬物動態及び薬動力学パラメータの統計学的分析に使用してもよい。
【0078】
特定の実施形態において、本発明は、薬物動態プロファイルを、例えば皮下送達又は筋肉送達のプロファイルと比較することにより、本発明の方法に基づいて投与された物質の治療的有効性を決定することを包含する。物質の治療的有効性を測定するための代表的なアッセイは、次のことを含んでもよい:30G、1.5mm針;34G、2mm針;34G 3mm針を用いた本発明の方法に基づく物質の投与、又はヒトに対する皮下注射もしくは筋肉注射する。筋肉注射には5/8インチ25G針を使用することが好ましい。接合送達及び皮下送達に対しては0.2mLの注入容量を使用し、筋肉注射に対しては0.5mLの注入容量を使用する。ワクチンの場合、追加抗原刺激(ブースター)注射を0日目、7日目、21日目に投与する。血液サンプルを採取し、血液採取の1時間以内に、2〜8℃の温度で少なくとも15分間、3000rpmで遠心分離させるのが好ましい。血清レベルを分析するため、採取チューブから血清を移す。
【0079】
これに限定されない続く実施例により、本発明をさらに説明することができる。
【実施例】
【0080】
6.1 エノキサパリン(登録商標)の接合送達
2000及び4000aXa IU製剤中のエノキサパリン(登録商標)を患者の接合層に注射した。エノキサパリン(登録商標)の接合注射により、1.5〜2.3時間のTmaxが得られ、これは皮下注射から得られたものよりも早く、接合的に投与された場合により早くエノキサパリンの作用が開始することを示した。Cmax値(0.2〜0.6aXa IU/mL)及び全体のAUC(2〜4.5aXa IU/mL/時間)は、接合注射及び皮下注射の両方に対して実質的に同じであった。
【0081】
6.2 フォンダパリヌクス(登録商標)の接合送達
フォンダパリヌクス(登録商標)を患者の接合層に注射した。フォンダパリヌクス(登録商標)の接合注射により、1.5〜2.3時間のTmaxが得られ、接合的に投与された場合、皮下注射と比較してより早くエノキサパリンの作用が開始することを示した。Cmax値(0.3〜0.45mg/mL)及び全体のAUCは、接合注射及び皮下注射の両方に対して実質的に同じであった。
【0082】
6.3 健常人ボランティアの狂犬病ウイルスワクチン接種における任意抽出された予備的一般臨床試験
この研究の主な目的は、狂犬病抗原に対する抗体応答を評価することにより、狂犬病ワクチンに対する免疫応答における送達の深さの影響を調査することであった。狂犬病ワクチンを血清陰性のヒトボランティアに送達し、異なる長さの針を用いて送達の深さを多様にした。試験計画は、同性質のグループを任意抽出した、一般試験であった。
【0083】
被験者:18〜40歳の男女を含むグループごとに10人の被験者を登録した。選択基準及び除外基準は、以下の表1及び表2に記載されている。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
(調査薬物):精製ベロ細胞狂犬病ワクチン(PVRV)をこの研究に使用した。このワクチンは、Aventis Pasteur(フランス)によりベロ細胞から製造され、安全で、且つヒトの狂犬病の予防及び治療に有効であることが示されている。数多くの研究により、PVRVの筋肉送達の安全性及び有効性について報告されている。加えて、狂犬病ワクチンの皮内送達も、徹底的にヒトについて調査され、専門家パネルの検査のために報告されている。狂犬病ワクチンの皮内送達経路は、免疫付与の暴露の前後に対して筋肉経路と同様に有効であり且つ安全であることが確認されている。皮内経路の主な利点は、例えば筋肉投与量の1/10に、抗原投与量を節約することであり、これは狂犬病が公衆の健康問題に残っている発展途上国にとって、実質的にコストの軽減を意味する。
【0087】
PVRV狂犬病抗原の高い抗原性作用のために、若い健常ボランティア全てが、臨床試験中、免疫化後の追跡により記録されたとおり、重大な副作用の危険もなく、ワクチン応答者(respondor)である。したがって、PVRV狂犬病ワクチンは、臨床調査における安全で信頼しうる免疫薬理学モデルと考えられている。ワクチンの安全プロファイルに加えて、臨床調査モデルとしてPVRV狂犬病ワクチンを選ぶことには、成人について約100%のワクチンに対する応答者を有するその強力な抗原性作用を含む、他の利点がある。さらに、フランスでは狂犬病免疫化は義務的なワクチン接種ではないため、ほとんどのフランス市民がPVRP抗原に対して血清陰性である。
【0088】
(調査装置):4つの異なる装置をこの研究に使用した。
【0089】
筋肉注射(IM)の陽性対照として、16mmの長さの針を使用した。この場合、1回の注射ごとのワクチン送達の投与量は0.5mLであった。皮内注射(ID)に対しては、30G,1.5mmの針を使用し、1回の注射ごとのワクチン送達の投与量は0.2mLであった。接合注射(JI)に対しては、針の長さが2mm及び3mmの34Gの針を使用し、1回の注射で送達された投与量は、ID送達に使用されたものと同じであった。
【0090】
(研究計画):処置グループにつき成人10名の男女の健常ボランティアを、以下の処置グループに基づき登録した;グループI:1.5mmの針を使用する皮内注射;グループII:2mmの針を使用する接合注射;グループIII:3mmの針を使用する接合注射;グループIV:16mmの針を使用する筋肉注射(IM)。
【0091】
調査の目的は、免疫応答の誘導段階中、循環している抗体の滴定量により測定されるような免疫応答間の差異を調査することであった。したがって、狂犬病ワクチンの単回投与から発生するD0〜D14の抗体滴定量を比較した。抗狂犬病免疫投薬計画は、D0、D14、D21での3つの連続注射から構成された。抗原滴定量の測定を、免疫付与後、D0、D7、D14、D21およびD49で行った。
【0092】
(結果):
図3及び表3は、狂犬病ワクチンを1回注射した後の抗体の相乗平均滴定量(GMT)を示す。2mmの長さの針を使用した接合注射により、他の送達経路より低いGMTが得られた。接合注射からのD7で、このより低いGMT値は、おそらく抗原が2mmの深さの接合層に送達されたときに免疫応答が遅れたためである。
【0093】
狂犬病ワクチンが非常に強力な抗原であることを考慮すると、深さ2mmの接合送達についてD7及びD14のGMTがより低いことから、接合層は狂犬病ウイルス性抗原に対して免疫応答を誘導する反応性が真皮及び筋肉よりも低いことが示唆される。しかしながら、3mmの深さでの送達は、引き起こされた免疫応答の大きさの点で皮内送達と同等である。
【0094】
それに続く2度及び3度の注射後は、免疫応答は実質的に送達経路による影響はなかった(図4)。
【0095】
【表3】

【0096】
本発明は特定の実施形態に対して記述されているが、種々の変更及び修正が添付されたクレームにより列挙されているような本発明の精神及び範囲から反せずに行われてもよいことは、当分野の技術者に対して明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】皮膚の解剖学的構造を表した図である。各々の境界線を有する皮膚の種々の層が概略的に示されている。
【図2】注射装置の図である。送達装置の針の長さが標的とされる皮膚の区分により決定され、皮内注射、接合注射及び浅い皮下注射のために最適な針の長さは、それぞれ1.5mm、2〜3mm、及び4〜5mmである。
【図3】抗体の相乗平均滴定量を表すグラフである。狂犬病ワクチンの1回投与を起因とするD0、D7、D14での抗体滴定量を、異なる経路間の注射で比較する。狂犬病ワクチンはIM、ID又は接合経路により投与された。
【図4】抗体の相乗平均滴定量を表すグラフである。2回及び3回の連続注射後の抗体滴定量を経時的に記録していた。狂犬病ワクチンはIM、ID又は接合経路により投与された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトである患者に物質を送達する方法における医薬製造のために、低分子量ヘパリン、五糖、インターフェロンβ、エリトロポエチン、抗体、タンパク質、ポリペプチドホルモン、成長ホルモン、抗血栓症剤、及びインターロイキンからなる群から選択される物質を使用する方法であって、
前記送達方法は、ヒトである患者の皮膚接合層中に、前記接合層中に挿入された小さいゲージ針を通して物質を送達する工程を含み、前記針は接合層に進入するのに十分な長さと、出口の深さとを有することを特徴とする使用方法。
【請求項2】
ヒトである患者に物質を送達する方法における医薬製造のために、低分子量ヘパリン、五糖、インターフェロンβ、エリトロポエチン、抗体、タンパク質、ポリペプチドホルモン、成長ホルモン、抗血栓症剤、及びインターロイキンからなる群から選択される物質を使用する方法であって、
前記送達方法は、ヒトである患者の皮膚接合層中に、前記接合層中に挿入された小さいゲージ針を通して物質を送達する工程を含み、前記針は、物質が接合層中に配置されるように接合層に進入するのに十分な長さと、接合層の範囲内の深さの出口とを有する特徴とする使用方法。
【請求項3】
針は患者の皮膚の接合層中に垂直に挿入されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項4】
物質は、直ちに接合層の静脈叢の密なネットワークと後部毛細静脈とに容易に到達し、迅速に吸収され、全身に分散することを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項5】
物質は望まない免疫応答を起こさないことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項6】
針は2〜5mmの長さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項7】
針は2〜3mmの長さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項8】
針は30〜34Gであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項9】
一つの針が使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項10】
針は微小針、カテーテル針、及び注射針からなる群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項11】
出口の深さは、針が挿入された場合に約2〜2.5mmの深さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項12】
物質は0.5mL又はそれ以上の容量で送達されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項13】
物質は1.0mL又はそれ以上の容量で送達されることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項14】
物質は低分子量ヘパリン又は五糖であることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項15】
物質はエノキサパリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項16】
物質はフォンダパリヌクスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項17】
物質はインスリンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の使用方法。
【請求項18】
患者の皮膚に物質を接合送達するための針であって、
皮膚に針が進入するのを制限する手段と、
針が前記進入制限手段により決定された深さまで皮膚中へ挿入されたときに、物質が接合層中に配置されるように出口が接合層の範囲内の深さであるように、前記進入制限手段に対して配置された出口を有する手段と、を備えることを特徴とする針。
【請求項19】
患者の皮膚に物質を接合送達するための装置であって、
請求項18に記載の針と、物質を装填し、貯蔵し、投与するための手段と、
を備えることを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−527191(P2006−527191A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514331(P2006−514331)
【出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/014469
【国際公開番号】WO2004/098676
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】