薬剤拡散装置
【課題】 燃焼による熱や電気を用いることなく、安全性や携帯性に優れる薬剤拡散装置を提供する。
【解決手段】 薬剤拡散装置1は、本体部材11と薬剤保持部材12を有しており、薬剤保持部材12には常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部30と環状枠部31とが設けられている。環状枠部31は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができる。一巻状態では保持部30を広げた状態で保持部30の一部を把持部20によって挟んで持つことができ、複数巻き状態では把持部20によって保持部30を覆うことができる。
【解決手段】 薬剤拡散装置1は、本体部材11と薬剤保持部材12を有しており、薬剤保持部材12には常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部30と環状枠部31とが設けられている。環状枠部31は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができる。一巻状態では保持部30を広げた状態で保持部30の一部を把持部20によって挟んで持つことができ、複数巻き状態では把持部20によって保持部30を覆うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の有効成分を拡散させるための装置であり、特に、携帯や使用に便利な薬剤拡散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、薬剤を熱などにより有効成分を蒸散させる虫除け器や蚊取り線香などが用いられている。
【0003】
薬剤を熱などにより有効成分を蒸散させる虫除け器では、薬剤を加熱して蒸散させて虫除けを行う。蚊取り線香の場合には、燃焼による熱を用いて有効成分を揮発・拡散させて、虫除けを行う。
【0004】
また、特許文献1には、有効成分を放出させる装置が開示されている。
【特許文献1】特開平9−19491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来技術の虫除け器などでは、燃焼による熱や電気を用いて有効成分を蒸散させるため、煙によって使用者に不快感を与えたり、安全性や携帯性に問題があった。
【0006】
また、従来の虫除け器は、火源や電気を必要とするため、火源や電気が無い場合には使用することができなかった。さらに、安全性等を考慮して火源等を用いないで、有効成分を自然に拡散させるだけでは、虫除けのために必要な濃度まで拡散させることが難しかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気や火源を必要とせず、必要なときに効率的に薬剤の有効成分の拡散を行うことができる薬剤拡散装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、上記した目的を達成するための請求項1記載の発明は、常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部と、前記保持部及び保護部を固定する枠部材とが設けられ、保持部に保持された前記薬剤の有効成分を拡散することが可能であることを特徴とする薬剤拡散装置である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部が設けられ、保護部によって薬剤の有効成分の拡散を可能にしつつ、保持部に保持される薬剤に直接触れにくくすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、枠部材には環状枠部が設けられ、環状枠部の枠内に保護部及び保持部が配置されて、保護部及び保持部が枠部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤拡散装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、環状枠部の枠内に配置されて保護部及び保持部が固定されているので、保持部や保護部を広げた状態とすることが容易である。
【0012】
また、保護部を網状とすることができる(請求項3)。
【0013】
請求項4に記載の発明は、枠部材には把持部が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、枠部材には把持部が取り付けられているので、把持部を持って扇ぐことができ、使用時に薬剤の有効成分を効率よく拡散させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、拡散防止部が設けられ、前記拡散防止部は取り外し可能であって、保護部を覆うように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、保護部を覆うように取り付けられている拡散防止部が取り外し可能に設けられているので、販売の際や保管の際などの、薬剤の有効成分の拡散が不必要な時に薬剤の有効成分の拡散を抑制することができ、また、使用の際に拡散防止部を取り外すことにより薬剤の有効成分を容易に拡散させることができる。
【0017】
請求項6の発明は、常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と環状枠部とが設けられた薬剤保持部材と、把持部が設けられた本体部材を有し、前記保持部は変形可能であり、前記環状枠部は可撓性を有する環状の部材であって前記保持部の外周に設けられており、前記環状枠部は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、前記一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができ、前記一巻状態では保持部を広げた状態としつつ保持部の一部を把持部によって挟んで持つことができ、前記複数巻き状態では前記把持部によって保持部の全体を覆うことができることを特徴とする薬剤拡散装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、環状枠部は保持部を広げることが可能な一巻状態とすることにより、薬剤の有効成分の拡散を効率よく行うことができ、また、把持部によって保持部の全体を覆うことができる複数巻き状態にすることができるので、使用しない場合に薬剤の有効成分の拡散を阻止することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、薬剤保持部材には保護部を有し、前記保護部は、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられていることを特徴とする請求項6記載の薬剤拡散装置である。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられている保護部を有しているので、薬剤の有効成分の拡散を可能としつつ、使用者は保持部に直接触れにくい。
【0021】
保護部は網状とすることができる(請求項8)。
【0022】
請求項9に記載の発明は、把持部は、2枚の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、把持部は、2枚の板状の部材により構成されているので、薬剤保持部材を持ちやすい。
【0024】
請求項10に記載の発明は、把持部は、略同形の2枚の円形の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項9記載の薬剤拡散装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、把持部の2枚の板状の部材は円形であって略同形であるので、製作しやすく、また保持部の全体を覆いやすい。
【0026】
請求項11に記載の発明は、把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができることを特徴とする請求項9又は10記載の薬剤拡散装置である。
【0027】
請求項11に記載の発明によれば、把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができるので、使用しない場合には、保持部に保持された薬剤の有効成分の拡散を阻止することが可能である。
【0028】
請求項12に記載の発明は、把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0029】
請求項12に記載の発明によれば、把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられているので、保持部へ薬剤を供給して、より多くの薬剤を拡散させることができる。
【0030】
薬剤の有効成分を、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとすることができる(請求項13)。
【0031】
また、薬剤の有効成分を、ピレスロイド系化合物とすることができる(請求項14)。さらに、このピレスロイド系化合物を、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとすることができる(請求項15)。
【発明の効果】
【0032】
本発明の薬剤拡散装置は、電気や火源を必要とせず、必要なときに効率的に薬剤の有効成分の拡散を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下さらに本発明の具体的実施例について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を示した斜視図である。図2は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を把持部を開いた状態を示した斜視図である。図3は、環状枠部を示した斜視図である。図4は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材の縁付近を示した一部切り欠き斜視図である。図5、図6は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。図7は薬剤保持部材の変形例を示す斜視図である。図8は薬剤保持部材の変形例の一部を拡大した斜視図である。
【0034】
本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置1は、図1、図2に示されており、本体部材11と薬剤保持部材12とを有している。
【0035】
本体部材11は把持部20を有しており、把持部20は2枚の円板部材20a、20bとからなる。円板部材20aと円板部材20bとは端部で縫製されて接続され、ヒンジ22が形成されている。そして、円板部材20a、20bには、ヒンジ22とは反対側に設けられた着脱部材23が設けられ、着脱部材23によって円板部材20a、20bを合わせた状態を維持することができる。
【0036】
円板部材20a、20bはほぼ同形であり、円形の板状の部材である。そして、円板部材20a、20bは薬剤の有効成分の拡散を阻止する材質のものが用いられており、具体的には、樹脂製の板やシートなどを用いることができる。また、円板部材20a、20bを多層構造にして、一部の層が薬剤の有効成分の拡散を阻止できるものを用いることができる。
【0037】
薬剤保持部材12は、図4、図5に示されるように、シート状の保持部30と、保持部30の外周に設けられる環状枠部31と、環状枠部31を固定する枠部固定部33を有している。
【0038】
薬剤保持部材12は、本体部材11の円板部材20aと円板部材20bとの間に配置されており、円板部材20aと円板部材20bとによって薬剤保持部材12を挟むことができる。また、ヒンジ22付近には接続部材32が設けられ、薬剤保持部材12と本体部材11とを連結している。
【0039】
保持部30は、後述する薬剤を保持することができ、後述するように使用の際に扇いでも破壊されない程度に適度な強度を有するものであり、具体的には布などの繊維製品などが用いられている。保持部30は円形のシート状であり、変形が容易である。そして、保持部30の両面から薬剤の有効成分の拡散をすることができる。
また、図4に示されるように、保持部30の外周に枠部固定部33が縫製により固定されている。
【0040】
枠部固定部33は、細長い布が用いられており、図4に示すように、保持部30の外周を保持部30に対して折り目が外側となるようにし、折り目部分の内側を縫製して固定されている。また、枠部固定部33によって、内部に環状の空間33aが形成されている。そして、この空間33aに環状枠部31が配置される。このため、環状枠部31は、保持部30の外周に取り付けられた状態となっている。
【0041】
環状枠部31は、金属製の細長い板の端部同士を連結して環状としたものが用いられている。そして、力を加えない状態では、図5に示されるように、環状枠部31は全体で1巻きの環状である一巻状態で維持される。そして、この一巻状態では環状枠部31によって保持部30が伸ばされるようにして引っ張られ、保持部30がほぼ平面状態となる。
【0042】
また、環状枠部31は可撓性を有するものであり、環状枠部31を変形させることができる。そして、環状枠部31を上記の一巻状態よりも小さく、複数回巻いた状態にして半径が小さい状態である複数巻き状態にすることができる。本実施形態の環状枠部31の複数巻き状態は、図3に示されるように、3重巻き状態とすることができる。
そして、環状枠部31を複数巻き状態にすると、薬剤保持部材12がコンパクトとなる。この状態の薬剤保持部材12は、図2に示されるように、円板部材20a、20bの大きさよりも小さい。したがって、円板部材20a、20bを合わせた内側に配置することができ、後述する保持部30に保持された薬剤の有効成分の拡散を抑制することができる。
【0043】
また、環状枠部31は、複数巻き状態においては、一巻状態となるような復元力を有している。したがって、本体部材11の円板部材20a、20bの間に挟まれて、環状枠部31が複数巻き状態となっている状態から、円板部材20a、20b同士を離すと、自動的に環状枠部31が一巻状態となって、保持部30が開く。
【0044】
保持部30には薬剤が保持されている。
本実施形態の薬剤拡散装置1の薬剤の有効成分は、常温で揮散性を有するものであり、当該有効成分として、有害生物に対して防虫効果を有し、殺虫又は忌避による防除が可能であるものがよい。
なお、「防虫効果」とは「殺虫効果」と「害虫の忌避効果」の両方を包含する概念である。
【0045】
防虫効果を有して常温で揮散する有効成分の具体例としては以下のものがある。
1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2−クロロ−2−フルオロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパン−1−カルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(2−クロロ−2−フルオロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル (1R)−3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(一般名:エンペントリン)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル (1R)−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(一般名:トランスフルスリン)、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート 1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート 1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート等のピレスロイド化合物、2,2−ジクロロビニル ジメチル ホスフェート、N,N−ジエチル−m−トルアミド、カラン−3,4−ジオール。
【0046】
これらの有効成分の多くは常温で液体であり、そのまま薬剤としても使用可能である。
また、本発明に使用する有効成分は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとが望ましい。
ここで、Donovan法とは、New method for estimating vapor pressure by the use of gas chromatography : Journal of Chromatography A. 749 (1996) 123-129 にてStephen F.Donovan 氏によって報告された方法である。
【0047】
なお、薬剤の有効成分を蒸散させる目的は、防虫目的以外であってもよく、例えば、芳香目的に用いることもできる。この場合には芳香性を有する有効成分を含む薬剤が用いられる。さらに、芳香と防虫のための有効成分を含む薬剤でもよく、また、防虫や芳香以外の他の目的であってもよい。
【0048】
保持部30へ薬剤を保持する方法は、薬剤として、常温で揮散性を有する有効成分自体をそのまま用いて保持させても良いが、当該有効成分をエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコール類、イソペンタン、軽質イソパラフィンや軽質流動イソパラフィン(出光石油化学:IPソルベント1620、2028、2835 エクソンモービル:アイソパーE、G、H、L、M)、JIS1号灯油や2号灯油、アルキルベンゼンなどの炭化水素溶剤、酢酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、クエン酸トリブチルアセテートなどのエステル類、のうちから選択したいずれか、又は、それらの混合物で適宜希釈して得られる溶液(即ち、有効成分を有する薬剤)を用いて薬剤保持部材12の保持部30に保持させることができる。
この場合、このような液状の薬剤中に保持部30を浸漬して行ってもよく、また、液状の薬剤を滴下して保持部30に保持させても良い。
【0049】
次に、薬剤拡散装置1の使用方法について説明する。
薬剤の有効成分を拡散しない場合、例えば、販売の際や保管の際には、図1のような状態にしておく。すなわち、薬剤保持部材12の環状枠部31を小さくした状態で、本体部材11の円板部材20a、20bの間に挟まれた状態にしておく。この状態は、保持部30が折りたたまれて表面積が小さくなり、薬剤保持部材12の保持部30に保持されている薬剤の有効成分が拡散し難い状態である。
【0050】
そして、薬剤の有効成分の拡散を行う場所で、図2のように本体部材11の円板部材20a、20bの間を開いた状態にして、さらに、図5のように薬剤保持部材12の保持部30が平面状となるように広げる。そして、図6のように再び本体部材11の円板部材20a、20bを閉じ、広げられて平面状となった保持部30を、円板部材20a、20bによって挟んで持つことができる。
【0051】
保持部30は広げられて平面状となって表面積が大きくなるので、薬剤の有効成分の拡散をさせやすい。また、この平面状となった保持部30の一部を円板部材20a、20bによって挟んで持つことができるので、団扇のように扇いで、保持部30に保持された薬剤の有効成分をより拡散させることができる。
【0052】
本体部材11が閉じた状態で薬剤の有効成分の拡散をさらに低減するため、円板部材20a、20b同士の縁が密着するように、円板部材20a、20bの縁に密着部を設けることができる。
この密着部の具体例としては、ファスナー、面ファスナーなどがある。
【0053】
また、把持部20の円板部材20a、20bの内側に、薬剤を貯留して、保持部30へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部を設けることができる。そして、薬剤供給部を設けた場合には、より多くの薬剤の有効成分を拡散させることができる。
【0054】
さらに、図7、図8に示されるような、薬剤保持部材51を用いることができる。そして、薬剤保持部材51には網状の保護部52が設けられており、この保護部52は、図8に示されるように、保持部30の両側の表面に設けられている。なお、保護部52はその周囲が枠部固定部33によって固定されている。また、他の構造は薬剤保持部材12と同様である。
【0055】
薬剤保持部材51には保護部52が設けられているので、使用者が薬剤保持部材51に触れた場合でも保持部30に触れにくく、保持部30に保持されている液状の薬剤を直接触れることがない。
また、保護部52は網状であって薬剤の有効成分の通過が可能であるので、保持部30に保持されている薬剤の有効成分の拡散を行うことが可能である。保護部52の網の貫通部分の大きさは、用途に合わせて用いることができるが、貫通部分が1mm角(面積で1mm2)〜5mm角(面積で25mm2)が、使用者が保持部30に触れにくく、薬剤の有効成分の拡散性もよく、かかる範囲が望ましい。
さらに、保護部52を、後述する第2の実施形態の薬剤拡散装置2の保護部61と同様な材質のシートも採用することができる。
【0056】
次に本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置2について説明する。薬剤拡散装置2は、図9に示されており、保持部30、保護部61、枠部材60を有している。
【0057】
保持部30は上記した第1の実施形態の薬剤拡散装置1と同様なものが用いられており、シート状であり、薬剤が保持されている。
保持部30へ薬剤を保持する方法は、上記した第1の実施形態と同様の方法を用いることができる。
すなわち、薬剤として、常温で揮散性を有する有効成分自体をそのまま用いて保持させても良く、また、当該有効成分を適宜希釈して得られる溶液(即ち、有効成分を有する薬剤)を用いて薬剤保持部材12の保持部30に保持させることができる。なお、希釈に用いる薬剤は、上記した第1の実施形態と同様なものを用いることができる。
この場合、このような液状の薬剤中に保持部30を浸漬して行ってもよく、また、液状の薬剤を滴下して保持部30に保持させても良い。
【0058】
また、保護部61はシート状であり、保持部30に保持されている気化した薬剤の有効成分を通過させることができる通気性樹脂フィルムである。なお、保護部61には不織布のような通気性に優れ、薬剤のしみこみが少ないものを用いることができる。また、薬剤拡散装置2の保護部61は2枚用いられ、保持部30の両側の面に覆うように設けられている。
【0059】
保護部61及び保持部30は、ほぼ同形であり、後述する枠部材60の環状枠部62の形状に合わせられ、環状枠部62の枠内に配置している。
【0060】
枠部材60は、樹脂製の成形品であり、第1枠部材60aと第2枠部材60bの2個の部材からなる。そして、第1枠部材60aと第2枠部材60bとは同形である。保持部30や保護部61を挟んだ状態で、第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化することができるものである。また、枠部材60は環状枠部62と把持部63を有している。
【0061】
枠部材60の材質はどのようなものでも良く、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、生分解性樹脂等の樹脂材料、アルミニウム、チタン、鉄等の金属材料、ブリキやトタンなどの金属材料にめっきをした材料、紙、竹、木材等の材料を用いることができる。また、異なる材質の層を有する積層体を用いることができ、この層の一部にポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アルミなどのガスバリア性に優れる層をコーティングなどで設けることができる。なお、ポリアミドを用いた場合には、薬剤がしみこみにくいので望ましい。
【0062】
環状枠部62は、図9に示されるように、環状の枠であり、この枠の内側に保持部30や保護部61が配置しており、保持部30及び保護部61は枠部材60に固定されている。
把持部63は棒状の部分であり、環状枠部62の枠内とは反対側の枠外に延びるように突出している。図9に示されるように、把持部63は、第1枠部材60a及び第2枠部材60bの両方に設けられているが、一方でも良い。
【0063】
そして、保持部30を2枚の保護部61によって挟んだ状態で、枠部材60の第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化して、薬剤拡散装置2が製作される。
そうすると、図10に示されるように、枠部材60、保持部30、保護部61が一体化して固定される。なお、一体化の方法は、どのような方法でも良いが、熱溶着や、接着剤による接着などを用いることができる。
また、枠部材60の第1枠部材60aと第2枠部材60bに係合部(図示せず)を設けて、金魚すくい用の枠のように、着脱可能に一体化できるようにしてもよい。
【0064】
また、枠部材60の成形の際に保護部61をインサート成形して、枠部材60の製作の際に保護部61とを固定することもできる。
【0065】
次に、薬剤拡散装置2の使用方法について説明する。
薬剤拡散装置2を薬剤の有効成分の拡散を行う場所に移動させる。そうすると、保持部30に保持された薬剤の有効成分が拡散する。保持部30の両側の面には保護部61が覆うように設けられているが、保護部61は気化した薬剤の有効成分が通過するので、保持部30からの拡散を可能とする。また、保護部61によって、使用者が保持部30に直接触れにくくすることができ、安全性が高い。
【0066】
図11に示す、薬剤拡散装置3では、薬剤拡散装置2に比較して保護部61が異なるものであり、保護部61として網状の保護部61bを用いている。また、薬剤拡散装置3は枠部材60と保護部61とが一体のものを用いている。
枠部材60と保護部61との一体化は、上記したインサート成形によっても行うことができるが、枠部材60と保護部61の材質を同じ樹脂として、枠部材60と保護部61とを同じ樹脂成形品とすることもできる。
【0067】
図12に示す、薬剤拡散装置4のように、2枚の保護部61の内、一方を網状の保護部61bとし、他方を網状でない透過性樹脂シートの保護部61aを用いることができる。
そして、枠部材60を1個として、この枠部材60と網状の保護部61bとが一体化されている。
保護部61として網状のものを用いた場合、その網の貫通部分の大きさは、用途に合わせて用いることができるが、貫通部分が1mm角(面積で1mm2)〜5mm角(面積で25mm2)とすることが望ましく、使用者が保持部30に触れにくく、薬剤の有効成分の拡散性もよい。
【0068】
図13に示す薬剤拡散装置5は、上記した薬剤拡散装置2に比べて、枠部材60を1個とした点が異なっている。
【0069】
そして、本発明の枠部材60の構造は、図9〜図11や示される薬剤拡散装置2、3、4のように、第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化した構造でも良く、図12、図13や示される薬剤拡散装置5のように、枠部材60を単一の部材として、これに保護部61や保持部30を取り付けた構造でも良い。
【0070】
また、図14〜図17に示す、薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aを採用することもできる。薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aは、上記で説明した薬剤拡散装置2、3、4、5を構成する保護部61の外側の層に、拡散防止部65を配置したものである。
【0071】
拡散防止部65は、気化した薬剤の有効成分の通過を阻止することができるものであり、取り外し容易に取り付けられている。
そして、拡散防止部65は、流通や販売の際に取り付けておき、使用の際には取り外されるものである。したがって、薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aのような構成とすれば、使用までに拡散される無駄な薬剤の有効成分を低減することができる。
【0072】
また、上記した薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aでは、枠部材60の環状枠部62が単一であり、保護部61や保持部30が1ヵ所の枠内に設けられているものであったが、図18、図19に示される薬剤拡散装置6ように、複数の枠部材70を有し、枠部材70のそれぞれに保護部61や保持部30を設けても良い。
【0073】
薬剤拡散装置6では枠部材70を複数有し、軸部71を設けて回転可能に連結して、扇子状としている。したがって、薬剤拡散装置6は、使用時に図18に示すように広げるようすることにより保持部30から薬剤の有効成分の拡散がされ易くなり、使用しない時に図19に示すように枠部材70が重なるように畳むことにより、薬剤の有効成分の拡散がされに難くすることができる。
さらに、畳んだ状態の枠部材70の最外層に、拡散防止層72を設けることもできる。
【0074】
上記した薬剤拡散装置1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5aでは、保持部30の両面から薬剤の有効成分の拡散が可能であったが、保持部30の片方の面のみを薬剤の有効成分の拡散を可能とし、他方の面を薬剤の有効成分の拡散を阻止するようにして、薬剤を拡散させる空間を選択することができるようにしてもよい。
なお、この場合、上記した保護部52、61は、薬剤の有効成分の拡散が可能な面のみ設けることができ、また、拡散防止部65もかかる面に取り付けられる。
【0075】
本発明の薬剤拡散装置1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5aにより防除しうる害虫としては、各種の有害昆虫を挙げることができ、特に有害飛翔性害虫、例えば、アカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、シナハマダラカ等のハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエ等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類、ヌカカ類等の双翅目害虫、スズメバチ類、アリガタバチ類、カブラハバチ等のハバチ類等の膜翅目害虫等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下のように、薬剤拡散装置を作製し、当該薬剤拡散装置による防虫効果を確認した。具体的には、密閉した槽に薬剤拡散装置を入れて、20分後にアカイエカ(雌)のランディング数(%)を求めた。
【0077】
(実施例1)
図9に示される薬剤拡散装置2を用いた。なお、保持部30の面積は1000cm2とし、保持部30の材質は不織布を用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン7mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Aを作製した。
【0078】
(実施例2)
図11に示される薬剤拡散装置3を用いた。なお、保持部30の面積は680cm2とし、保持部30の材質は網状のものを用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Bを作製した。
【0079】
(実施例3)
図18に示される薬剤拡散装置6を用いた。なお、保持部30の面積は700cm2とし、保持部30の材質は不織布を用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Cを作製した。
【0080】
(実施例4)
図11に示される薬剤拡散装置3を用いた。なお、保持部30の面積は680cm2とし、保持部30の材質は網状のものを用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤20mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Dを作製した。
【0081】
(試験例1)
上記の実施例1〜3の薬剤拡散装置を、70cm×70cm×70cmのガラス槽の中央上面に吊るし、ほぼ同時にアカイエカ(雌)20匹を放した。20分経過後に、ランディングした虫をカウントした。
これらの結果について表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示されるように、実施例1〜3の薬剤拡散装置には優れた防虫効果が確認された。
【0084】
(試験例2)
上記の実施例4で作製された供試薬剤拡散装置Dを野外において、団扇のように扇いで、保持部30に保持された薬剤の有効成分を拡散させ、当該薬剤拡散装置の周辺に存在したアカイエカ(雌)を観察した。その結果、アカイエカ(雌)の防除が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を示した斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を把持部を開いた状態を示した斜視図である。
【図3】環状枠部を示した斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材の縁付近を示した一部切り欠き斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。
【図7】薬剤保持部材の変形例を示す斜視図である。
【図8】薬剤保持部材の変形例の一部を拡大した斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の斜視図である。
【図11】本発明の第3の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図12】本発明の第4の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図13】本発明の第5の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図14】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図15】本発明の第3の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図16】本発明の第4の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図17】本発明の第5の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図18】本発明の第6の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤の有効成分を拡散させる状態の正面図である。
【図19】本発明の第6の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤の有効成分を拡散させない状態の正面図である。
【符号の説明】
【0086】
1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5a 薬剤拡散装置
11 本体部材
12、51 薬剤保持部材
20 把持部
20a、20b 円板部材
30 保持部
31、62 環状枠部
52、61 保護部
65 拡散防止部
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の有効成分を拡散させるための装置であり、特に、携帯や使用に便利な薬剤拡散装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、薬剤を熱などにより有効成分を蒸散させる虫除け器や蚊取り線香などが用いられている。
【0003】
薬剤を熱などにより有効成分を蒸散させる虫除け器では、薬剤を加熱して蒸散させて虫除けを行う。蚊取り線香の場合には、燃焼による熱を用いて有効成分を揮発・拡散させて、虫除けを行う。
【0004】
また、特許文献1には、有効成分を放出させる装置が開示されている。
【特許文献1】特開平9−19491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来技術の虫除け器などでは、燃焼による熱や電気を用いて有効成分を蒸散させるため、煙によって使用者に不快感を与えたり、安全性や携帯性に問題があった。
【0006】
また、従来の虫除け器は、火源や電気を必要とするため、火源や電気が無い場合には使用することができなかった。さらに、安全性等を考慮して火源等を用いないで、有効成分を自然に拡散させるだけでは、虫除けのために必要な濃度まで拡散させることが難しかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、電気や火源を必要とせず、必要なときに効率的に薬剤の有効成分の拡散を行うことができる薬剤拡散装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、上記した目的を達成するための請求項1記載の発明は、常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部と、前記保持部及び保護部を固定する枠部材とが設けられ、保持部に保持された前記薬剤の有効成分を拡散することが可能であることを特徴とする薬剤拡散装置である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部が設けられ、保護部によって薬剤の有効成分の拡散を可能にしつつ、保持部に保持される薬剤に直接触れにくくすることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、枠部材には環状枠部が設けられ、環状枠部の枠内に保護部及び保持部が配置されて、保護部及び保持部が枠部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤拡散装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、環状枠部の枠内に配置されて保護部及び保持部が固定されているので、保持部や保護部を広げた状態とすることが容易である。
【0012】
また、保護部を網状とすることができる(請求項3)。
【0013】
請求項4に記載の発明は、枠部材には把持部が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、枠部材には把持部が取り付けられているので、把持部を持って扇ぐことができ、使用時に薬剤の有効成分を効率よく拡散させることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、拡散防止部が設けられ、前記拡散防止部は取り外し可能であって、保護部を覆うように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、保護部を覆うように取り付けられている拡散防止部が取り外し可能に設けられているので、販売の際や保管の際などの、薬剤の有効成分の拡散が不必要な時に薬剤の有効成分の拡散を抑制することができ、また、使用の際に拡散防止部を取り外すことにより薬剤の有効成分を容易に拡散させることができる。
【0017】
請求項6の発明は、常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と環状枠部とが設けられた薬剤保持部材と、把持部が設けられた本体部材を有し、前記保持部は変形可能であり、前記環状枠部は可撓性を有する環状の部材であって前記保持部の外周に設けられており、前記環状枠部は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、前記一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができ、前記一巻状態では保持部を広げた状態としつつ保持部の一部を把持部によって挟んで持つことができ、前記複数巻き状態では前記把持部によって保持部の全体を覆うことができることを特徴とする薬剤拡散装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、環状枠部は保持部を広げることが可能な一巻状態とすることにより、薬剤の有効成分の拡散を効率よく行うことができ、また、把持部によって保持部の全体を覆うことができる複数巻き状態にすることができるので、使用しない場合に薬剤の有効成分の拡散を阻止することができる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、薬剤保持部材には保護部を有し、前記保護部は、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられていることを特徴とする請求項6記載の薬剤拡散装置である。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられている保護部を有しているので、薬剤の有効成分の拡散を可能としつつ、使用者は保持部に直接触れにくい。
【0021】
保護部は網状とすることができる(請求項8)。
【0022】
請求項9に記載の発明は、把持部は、2枚の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0023】
請求項9に記載の発明によれば、把持部は、2枚の板状の部材により構成されているので、薬剤保持部材を持ちやすい。
【0024】
請求項10に記載の発明は、把持部は、略同形の2枚の円形の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項9記載の薬剤拡散装置である。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、把持部の2枚の板状の部材は円形であって略同形であるので、製作しやすく、また保持部の全体を覆いやすい。
【0026】
請求項11に記載の発明は、把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができることを特徴とする請求項9又は10記載の薬剤拡散装置である。
【0027】
請求項11に記載の発明によれば、把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができるので、使用しない場合には、保持部に保持された薬剤の有効成分の拡散を阻止することが可能である。
【0028】
請求項12に記載の発明は、把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の薬剤拡散装置である。
【0029】
請求項12に記載の発明によれば、把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられているので、保持部へ薬剤を供給して、より多くの薬剤を拡散させることができる。
【0030】
薬剤の有効成分を、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとすることができる(請求項13)。
【0031】
また、薬剤の有効成分を、ピレスロイド系化合物とすることができる(請求項14)。さらに、このピレスロイド系化合物を、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとすることができる(請求項15)。
【発明の効果】
【0032】
本発明の薬剤拡散装置は、電気や火源を必要とせず、必要なときに効率的に薬剤の有効成分の拡散を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下さらに本発明の具体的実施例について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を示した斜視図である。図2は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を把持部を開いた状態を示した斜視図である。図3は、環状枠部を示した斜視図である。図4は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材の縁付近を示した一部切り欠き斜視図である。図5、図6は、本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。図7は薬剤保持部材の変形例を示す斜視図である。図8は薬剤保持部材の変形例の一部を拡大した斜視図である。
【0034】
本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置1は、図1、図2に示されており、本体部材11と薬剤保持部材12とを有している。
【0035】
本体部材11は把持部20を有しており、把持部20は2枚の円板部材20a、20bとからなる。円板部材20aと円板部材20bとは端部で縫製されて接続され、ヒンジ22が形成されている。そして、円板部材20a、20bには、ヒンジ22とは反対側に設けられた着脱部材23が設けられ、着脱部材23によって円板部材20a、20bを合わせた状態を維持することができる。
【0036】
円板部材20a、20bはほぼ同形であり、円形の板状の部材である。そして、円板部材20a、20bは薬剤の有効成分の拡散を阻止する材質のものが用いられており、具体的には、樹脂製の板やシートなどを用いることができる。また、円板部材20a、20bを多層構造にして、一部の層が薬剤の有効成分の拡散を阻止できるものを用いることができる。
【0037】
薬剤保持部材12は、図4、図5に示されるように、シート状の保持部30と、保持部30の外周に設けられる環状枠部31と、環状枠部31を固定する枠部固定部33を有している。
【0038】
薬剤保持部材12は、本体部材11の円板部材20aと円板部材20bとの間に配置されており、円板部材20aと円板部材20bとによって薬剤保持部材12を挟むことができる。また、ヒンジ22付近には接続部材32が設けられ、薬剤保持部材12と本体部材11とを連結している。
【0039】
保持部30は、後述する薬剤を保持することができ、後述するように使用の際に扇いでも破壊されない程度に適度な強度を有するものであり、具体的には布などの繊維製品などが用いられている。保持部30は円形のシート状であり、変形が容易である。そして、保持部30の両面から薬剤の有効成分の拡散をすることができる。
また、図4に示されるように、保持部30の外周に枠部固定部33が縫製により固定されている。
【0040】
枠部固定部33は、細長い布が用いられており、図4に示すように、保持部30の外周を保持部30に対して折り目が外側となるようにし、折り目部分の内側を縫製して固定されている。また、枠部固定部33によって、内部に環状の空間33aが形成されている。そして、この空間33aに環状枠部31が配置される。このため、環状枠部31は、保持部30の外周に取り付けられた状態となっている。
【0041】
環状枠部31は、金属製の細長い板の端部同士を連結して環状としたものが用いられている。そして、力を加えない状態では、図5に示されるように、環状枠部31は全体で1巻きの環状である一巻状態で維持される。そして、この一巻状態では環状枠部31によって保持部30が伸ばされるようにして引っ張られ、保持部30がほぼ平面状態となる。
【0042】
また、環状枠部31は可撓性を有するものであり、環状枠部31を変形させることができる。そして、環状枠部31を上記の一巻状態よりも小さく、複数回巻いた状態にして半径が小さい状態である複数巻き状態にすることができる。本実施形態の環状枠部31の複数巻き状態は、図3に示されるように、3重巻き状態とすることができる。
そして、環状枠部31を複数巻き状態にすると、薬剤保持部材12がコンパクトとなる。この状態の薬剤保持部材12は、図2に示されるように、円板部材20a、20bの大きさよりも小さい。したがって、円板部材20a、20bを合わせた内側に配置することができ、後述する保持部30に保持された薬剤の有効成分の拡散を抑制することができる。
【0043】
また、環状枠部31は、複数巻き状態においては、一巻状態となるような復元力を有している。したがって、本体部材11の円板部材20a、20bの間に挟まれて、環状枠部31が複数巻き状態となっている状態から、円板部材20a、20b同士を離すと、自動的に環状枠部31が一巻状態となって、保持部30が開く。
【0044】
保持部30には薬剤が保持されている。
本実施形態の薬剤拡散装置1の薬剤の有効成分は、常温で揮散性を有するものであり、当該有効成分として、有害生物に対して防虫効果を有し、殺虫又は忌避による防除が可能であるものがよい。
なお、「防虫効果」とは「殺虫効果」と「害虫の忌避効果」の両方を包含する概念である。
【0045】
防虫効果を有して常温で揮散する有効成分の具体例としては以下のものがある。
1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2−クロロ−2−フルオロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパン−1−カルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(2−クロロ−2−フルオロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル (1R)−3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(一般名:エンペントリン)、2,3,5,6−テトラフルオロベンジル (1R)−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(一般名:トランスフルスリン)、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート 1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2−メチル−1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート 1−エチニル−2−メチル−2−ペンテニル 3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート等のピレスロイド化合物、2,2−ジクロロビニル ジメチル ホスフェート、N,N−ジエチル−m−トルアミド、カラン−3,4−ジオール。
【0046】
これらの有効成分の多くは常温で液体であり、そのまま薬剤としても使用可能である。
また、本発明に使用する有効成分は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgとが望ましい。
ここで、Donovan法とは、New method for estimating vapor pressure by the use of gas chromatography : Journal of Chromatography A. 749 (1996) 123-129 にてStephen F.Donovan 氏によって報告された方法である。
【0047】
なお、薬剤の有効成分を蒸散させる目的は、防虫目的以外であってもよく、例えば、芳香目的に用いることもできる。この場合には芳香性を有する有効成分を含む薬剤が用いられる。さらに、芳香と防虫のための有効成分を含む薬剤でもよく、また、防虫や芳香以外の他の目的であってもよい。
【0048】
保持部30へ薬剤を保持する方法は、薬剤として、常温で揮散性を有する有効成分自体をそのまま用いて保持させても良いが、当該有効成分をエタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコール類、イソペンタン、軽質イソパラフィンや軽質流動イソパラフィン(出光石油化学:IPソルベント1620、2028、2835 エクソンモービル:アイソパーE、G、H、L、M)、JIS1号灯油や2号灯油、アルキルベンゼンなどの炭化水素溶剤、酢酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、クエン酸トリブチルアセテートなどのエステル類、のうちから選択したいずれか、又は、それらの混合物で適宜希釈して得られる溶液(即ち、有効成分を有する薬剤)を用いて薬剤保持部材12の保持部30に保持させることができる。
この場合、このような液状の薬剤中に保持部30を浸漬して行ってもよく、また、液状の薬剤を滴下して保持部30に保持させても良い。
【0049】
次に、薬剤拡散装置1の使用方法について説明する。
薬剤の有効成分を拡散しない場合、例えば、販売の際や保管の際には、図1のような状態にしておく。すなわち、薬剤保持部材12の環状枠部31を小さくした状態で、本体部材11の円板部材20a、20bの間に挟まれた状態にしておく。この状態は、保持部30が折りたたまれて表面積が小さくなり、薬剤保持部材12の保持部30に保持されている薬剤の有効成分が拡散し難い状態である。
【0050】
そして、薬剤の有効成分の拡散を行う場所で、図2のように本体部材11の円板部材20a、20bの間を開いた状態にして、さらに、図5のように薬剤保持部材12の保持部30が平面状となるように広げる。そして、図6のように再び本体部材11の円板部材20a、20bを閉じ、広げられて平面状となった保持部30を、円板部材20a、20bによって挟んで持つことができる。
【0051】
保持部30は広げられて平面状となって表面積が大きくなるので、薬剤の有効成分の拡散をさせやすい。また、この平面状となった保持部30の一部を円板部材20a、20bによって挟んで持つことができるので、団扇のように扇いで、保持部30に保持された薬剤の有効成分をより拡散させることができる。
【0052】
本体部材11が閉じた状態で薬剤の有効成分の拡散をさらに低減するため、円板部材20a、20b同士の縁が密着するように、円板部材20a、20bの縁に密着部を設けることができる。
この密着部の具体例としては、ファスナー、面ファスナーなどがある。
【0053】
また、把持部20の円板部材20a、20bの内側に、薬剤を貯留して、保持部30へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部を設けることができる。そして、薬剤供給部を設けた場合には、より多くの薬剤の有効成分を拡散させることができる。
【0054】
さらに、図7、図8に示されるような、薬剤保持部材51を用いることができる。そして、薬剤保持部材51には網状の保護部52が設けられており、この保護部52は、図8に示されるように、保持部30の両側の表面に設けられている。なお、保護部52はその周囲が枠部固定部33によって固定されている。また、他の構造は薬剤保持部材12と同様である。
【0055】
薬剤保持部材51には保護部52が設けられているので、使用者が薬剤保持部材51に触れた場合でも保持部30に触れにくく、保持部30に保持されている液状の薬剤を直接触れることがない。
また、保護部52は網状であって薬剤の有効成分の通過が可能であるので、保持部30に保持されている薬剤の有効成分の拡散を行うことが可能である。保護部52の網の貫通部分の大きさは、用途に合わせて用いることができるが、貫通部分が1mm角(面積で1mm2)〜5mm角(面積で25mm2)が、使用者が保持部30に触れにくく、薬剤の有効成分の拡散性もよく、かかる範囲が望ましい。
さらに、保護部52を、後述する第2の実施形態の薬剤拡散装置2の保護部61と同様な材質のシートも採用することができる。
【0056】
次に本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置2について説明する。薬剤拡散装置2は、図9に示されており、保持部30、保護部61、枠部材60を有している。
【0057】
保持部30は上記した第1の実施形態の薬剤拡散装置1と同様なものが用いられており、シート状であり、薬剤が保持されている。
保持部30へ薬剤を保持する方法は、上記した第1の実施形態と同様の方法を用いることができる。
すなわち、薬剤として、常温で揮散性を有する有効成分自体をそのまま用いて保持させても良く、また、当該有効成分を適宜希釈して得られる溶液(即ち、有効成分を有する薬剤)を用いて薬剤保持部材12の保持部30に保持させることができる。なお、希釈に用いる薬剤は、上記した第1の実施形態と同様なものを用いることができる。
この場合、このような液状の薬剤中に保持部30を浸漬して行ってもよく、また、液状の薬剤を滴下して保持部30に保持させても良い。
【0058】
また、保護部61はシート状であり、保持部30に保持されている気化した薬剤の有効成分を通過させることができる通気性樹脂フィルムである。なお、保護部61には不織布のような通気性に優れ、薬剤のしみこみが少ないものを用いることができる。また、薬剤拡散装置2の保護部61は2枚用いられ、保持部30の両側の面に覆うように設けられている。
【0059】
保護部61及び保持部30は、ほぼ同形であり、後述する枠部材60の環状枠部62の形状に合わせられ、環状枠部62の枠内に配置している。
【0060】
枠部材60は、樹脂製の成形品であり、第1枠部材60aと第2枠部材60bの2個の部材からなる。そして、第1枠部材60aと第2枠部材60bとは同形である。保持部30や保護部61を挟んだ状態で、第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化することができるものである。また、枠部材60は環状枠部62と把持部63を有している。
【0061】
枠部材60の材質はどのようなものでも良く、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、生分解性樹脂等の樹脂材料、アルミニウム、チタン、鉄等の金属材料、ブリキやトタンなどの金属材料にめっきをした材料、紙、竹、木材等の材料を用いることができる。また、異なる材質の層を有する積層体を用いることができ、この層の一部にポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、アルミなどのガスバリア性に優れる層をコーティングなどで設けることができる。なお、ポリアミドを用いた場合には、薬剤がしみこみにくいので望ましい。
【0062】
環状枠部62は、図9に示されるように、環状の枠であり、この枠の内側に保持部30や保護部61が配置しており、保持部30及び保護部61は枠部材60に固定されている。
把持部63は棒状の部分であり、環状枠部62の枠内とは反対側の枠外に延びるように突出している。図9に示されるように、把持部63は、第1枠部材60a及び第2枠部材60bの両方に設けられているが、一方でも良い。
【0063】
そして、保持部30を2枚の保護部61によって挟んだ状態で、枠部材60の第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化して、薬剤拡散装置2が製作される。
そうすると、図10に示されるように、枠部材60、保持部30、保護部61が一体化して固定される。なお、一体化の方法は、どのような方法でも良いが、熱溶着や、接着剤による接着などを用いることができる。
また、枠部材60の第1枠部材60aと第2枠部材60bに係合部(図示せず)を設けて、金魚すくい用の枠のように、着脱可能に一体化できるようにしてもよい。
【0064】
また、枠部材60の成形の際に保護部61をインサート成形して、枠部材60の製作の際に保護部61とを固定することもできる。
【0065】
次に、薬剤拡散装置2の使用方法について説明する。
薬剤拡散装置2を薬剤の有効成分の拡散を行う場所に移動させる。そうすると、保持部30に保持された薬剤の有効成分が拡散する。保持部30の両側の面には保護部61が覆うように設けられているが、保護部61は気化した薬剤の有効成分が通過するので、保持部30からの拡散を可能とする。また、保護部61によって、使用者が保持部30に直接触れにくくすることができ、安全性が高い。
【0066】
図11に示す、薬剤拡散装置3では、薬剤拡散装置2に比較して保護部61が異なるものであり、保護部61として網状の保護部61bを用いている。また、薬剤拡散装置3は枠部材60と保護部61とが一体のものを用いている。
枠部材60と保護部61との一体化は、上記したインサート成形によっても行うことができるが、枠部材60と保護部61の材質を同じ樹脂として、枠部材60と保護部61とを同じ樹脂成形品とすることもできる。
【0067】
図12に示す、薬剤拡散装置4のように、2枚の保護部61の内、一方を網状の保護部61bとし、他方を網状でない透過性樹脂シートの保護部61aを用いることができる。
そして、枠部材60を1個として、この枠部材60と網状の保護部61bとが一体化されている。
保護部61として網状のものを用いた場合、その網の貫通部分の大きさは、用途に合わせて用いることができるが、貫通部分が1mm角(面積で1mm2)〜5mm角(面積で25mm2)とすることが望ましく、使用者が保持部30に触れにくく、薬剤の有効成分の拡散性もよい。
【0068】
図13に示す薬剤拡散装置5は、上記した薬剤拡散装置2に比べて、枠部材60を1個とした点が異なっている。
【0069】
そして、本発明の枠部材60の構造は、図9〜図11や示される薬剤拡散装置2、3、4のように、第1枠部材60aと第2枠部材60bとを合わせて一体化した構造でも良く、図12、図13や示される薬剤拡散装置5のように、枠部材60を単一の部材として、これに保護部61や保持部30を取り付けた構造でも良い。
【0070】
また、図14〜図17に示す、薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aを採用することもできる。薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aは、上記で説明した薬剤拡散装置2、3、4、5を構成する保護部61の外側の層に、拡散防止部65を配置したものである。
【0071】
拡散防止部65は、気化した薬剤の有効成分の通過を阻止することができるものであり、取り外し容易に取り付けられている。
そして、拡散防止部65は、流通や販売の際に取り付けておき、使用の際には取り外されるものである。したがって、薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aのような構成とすれば、使用までに拡散される無駄な薬剤の有効成分を低減することができる。
【0072】
また、上記した薬剤拡散装置2a、3a、4a、5aでは、枠部材60の環状枠部62が単一であり、保護部61や保持部30が1ヵ所の枠内に設けられているものであったが、図18、図19に示される薬剤拡散装置6ように、複数の枠部材70を有し、枠部材70のそれぞれに保護部61や保持部30を設けても良い。
【0073】
薬剤拡散装置6では枠部材70を複数有し、軸部71を設けて回転可能に連結して、扇子状としている。したがって、薬剤拡散装置6は、使用時に図18に示すように広げるようすることにより保持部30から薬剤の有効成分の拡散がされ易くなり、使用しない時に図19に示すように枠部材70が重なるように畳むことにより、薬剤の有効成分の拡散がされに難くすることができる。
さらに、畳んだ状態の枠部材70の最外層に、拡散防止層72を設けることもできる。
【0074】
上記した薬剤拡散装置1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5aでは、保持部30の両面から薬剤の有効成分の拡散が可能であったが、保持部30の片方の面のみを薬剤の有効成分の拡散を可能とし、他方の面を薬剤の有効成分の拡散を阻止するようにして、薬剤を拡散させる空間を選択することができるようにしてもよい。
なお、この場合、上記した保護部52、61は、薬剤の有効成分の拡散が可能な面のみ設けることができ、また、拡散防止部65もかかる面に取り付けられる。
【0075】
本発明の薬剤拡散装置1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5aにより防除しうる害虫としては、各種の有害昆虫を挙げることができ、特に有害飛翔性害虫、例えば、アカイエカ、コガタアカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、シナハマダラカ等のハマダラカ類、ユスリカ類、イエバエ、オオイエバエ、ヒメイエバエ等のイエバエ類、クロバエ類、ニクバエ類、ショウジョウバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、サシバエ類、ヌカカ類等の双翅目害虫、スズメバチ類、アリガタバチ類、カブラハバチ等のハバチ類等の膜翅目害虫等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
以下のように、薬剤拡散装置を作製し、当該薬剤拡散装置による防虫効果を確認した。具体的には、密閉した槽に薬剤拡散装置を入れて、20分後にアカイエカ(雌)のランディング数(%)を求めた。
【0077】
(実施例1)
図9に示される薬剤拡散装置2を用いた。なお、保持部30の面積は1000cm2とし、保持部30の材質は不織布を用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン7mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Aを作製した。
【0078】
(実施例2)
図11に示される薬剤拡散装置3を用いた。なお、保持部30の面積は680cm2とし、保持部30の材質は網状のものを用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Bを作製した。
【0079】
(実施例3)
図18に示される薬剤拡散装置6を用いた。なお、保持部30の面積は700cm2とし、保持部30の材質は不織布を用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤300mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Cを作製した。
【0080】
(実施例4)
図11に示される薬剤拡散装置3を用いた。なお、保持部30の面積は680cm2とし、保持部30の材質は網状のものを用いた。また、薬剤の有効成分として、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル (1R)−トランス−3−(1−プロペニル(E/Z=1/8))−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、この薬剤20mgをアセトン5mlで希釈して薬剤を調整し、保持部30に滴下して15分風乾することにより、供試薬剤拡散装置Dを作製した。
【0081】
(試験例1)
上記の実施例1〜3の薬剤拡散装置を、70cm×70cm×70cmのガラス槽の中央上面に吊るし、ほぼ同時にアカイエカ(雌)20匹を放した。20分経過後に、ランディングした虫をカウントした。
これらの結果について表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示されるように、実施例1〜3の薬剤拡散装置には優れた防虫効果が確認された。
【0084】
(試験例2)
上記の実施例4で作製された供試薬剤拡散装置Dを野外において、団扇のように扇いで、保持部30に保持された薬剤の有効成分を拡散させ、当該薬剤拡散装置の周辺に存在したアカイエカ(雌)を観察した。その結果、アカイエカ(雌)の防除が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を示した斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置を把持部を開いた状態を示した斜視図である。
【図3】環状枠部を示した斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材の縁付近を示した一部切り欠き斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤保持部材を開いた状態を示した斜視図である。
【図7】薬剤保持部材の変形例を示す斜視図である。
【図8】薬剤保持部材の変形例の一部を拡大した斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の斜視図である。
【図11】本発明の第3の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図12】本発明の第4の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図13】本発明の第5の実施形態の薬剤拡散装置の分解斜視図である。
【図14】本発明の第2の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図15】本発明の第3の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図16】本発明の第4の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図17】本発明の第5の実施形態の薬剤拡散装置の変形例の分解斜視図である。
【図18】本発明の第6の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤の有効成分を拡散させる状態の正面図である。
【図19】本発明の第6の実施形態の薬剤拡散装置の薬剤の有効成分を拡散させない状態の正面図である。
【符号の説明】
【0086】
1、2、3、4、5、6、2a、3a、4a、5a 薬剤拡散装置
11 本体部材
12、51 薬剤保持部材
20 把持部
20a、20b 円板部材
30 保持部
31、62 環状枠部
52、61 保護部
65 拡散防止部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部と、前記保持部及び保護部を固定する枠部材とが設けられ、保持部に保持された前記薬剤の有効成分を拡散することが可能であることを特徴とする薬剤拡散装置。
【請求項2】
枠部材には環状枠部が設けられ、環状枠部の枠内に保護部及び保持部が配置されて、保護部及び保持部が枠部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤拡散装置。
【請求項3】
保護部は網状であることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤拡散装置。
【請求項4】
枠部材には把持部が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項5】
拡散防止部が設けられ、前記拡散防止部は取り外し可能であって、保護部を覆うように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項6】
常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と環状枠部とが設けられた薬剤保持部材と、把持部が設けられた本体部材を有し、前記保持部は変形可能であり、前記環状枠部は可撓性を有する環状の部材であって前記保持部の外周に設けられており、
前記環状枠部は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、前記一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができ、前記一巻状態では保持部を広げた状態としつつ保持部の一部を把持部によって挟んで持つことができ、前記複数巻き状態では前記把持部によって保持部の全体を覆うことができることを特徴とする薬剤拡散装置。
【請求項7】
薬剤保持部材には保護部を有し、前記保護部は、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられていることを特徴とする請求項6記載の薬剤拡散装置。
【請求項8】
保護部は網状であることを特徴とする請求項7記載の薬剤拡散装置。
【請求項9】
把持部は、2枚の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項10】
把持部は、略同形の2枚の円形の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項9記載の薬剤拡散装置。
【請求項11】
把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができることを特徴とする請求項9又は10記載の薬剤拡散装置。
【請求項12】
把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項13】
薬剤の有効成分は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項14】
薬剤の有効成分は、ピレスロイド系化合物であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項15】
ピレスロイド系化合物が、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgであることを特徴とする請求項14記載の薬剤拡散装置。
【請求項1】
常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と、薬剤の有効成分の通過が可能であって保持部を覆う保護部と、前記保持部及び保護部を固定する枠部材とが設けられ、保持部に保持された前記薬剤の有効成分を拡散することが可能であることを特徴とする薬剤拡散装置。
【請求項2】
枠部材には環状枠部が設けられ、環状枠部の枠内に保護部及び保持部が配置されて、保護部及び保持部が枠部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の薬剤拡散装置。
【請求項3】
保護部は網状であることを特徴とする請求項1又は2記載の薬剤拡散装置。
【請求項4】
枠部材には把持部が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項5】
拡散防止部が設けられ、前記拡散防止部は取り外し可能であって、保護部を覆うように取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項6】
常温で揮散性を有する有効成分を含有する薬剤を保持してなる保持部と環状枠部とが設けられた薬剤保持部材と、把持部が設けられた本体部材を有し、前記保持部は変形可能であり、前記環状枠部は可撓性を有する環状の部材であって前記保持部の外周に設けられており、
前記環状枠部は、全体で1巻きの大きな環状となっている一巻状態と、前記一巻状態よりも小さく2巻き以上の状態となっている複数巻き状態とにすることができ、前記一巻状態では保持部を広げた状態としつつ保持部の一部を把持部によって挟んで持つことができ、前記複数巻き状態では前記把持部によって保持部の全体を覆うことができることを特徴とする薬剤拡散装置。
【請求項7】
薬剤保持部材には保護部を有し、前記保護部は、薬剤の有効成分の通過が可能であって、保持部の表面に設けられていることを特徴とする請求項6記載の薬剤拡散装置。
【請求項8】
保護部は網状であることを特徴とする請求項7記載の薬剤拡散装置。
【請求項9】
把持部は、2枚の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項10】
把持部は、略同形の2枚の円形の板状の部材により構成されていることを特徴とする請求項9記載の薬剤拡散装置。
【請求項11】
把持部によって薬剤保持部材を密閉状態とすることができることを特徴とする請求項9又は10記載の薬剤拡散装置。
【請求項12】
把持部の内側には、保持部へ薬剤の供給をすることができる薬剤供給部が設けられていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項13】
薬剤の有効成分は、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgであることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項14】
薬剤の有効成分は、ピレスロイド系化合物であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載の薬剤拡散装置。
【請求項15】
ピレスロイド系化合物が、Donovan法による25℃における蒸気圧が1×10-5〜5×10-3mmHgであることを特徴とする請求項14記載の薬剤拡散装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2006−101834(P2006−101834A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296604(P2004−296604)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]