説明

薬剤散布装置

【課題】植付爪の回動等による泥撥ねによって、回転体付近に泥が付着することを回避でき、回転体が回りづらくなること防ぐ散布ノズルを有する薬剤散布装置を提供する。
【解決手段】田植機の苗載台16上に載置した苗マット74に、移植と同時に施薬する薬剤散布装置10において、散布部43に設ける散布ノズル65の先端部65bに、管状の回転体66を回動自在に外嵌し、前記散布ノズル65に、回転体66の外周の植付爪17側を覆う泥除け手段を設ける。前記泥除け手段を前記散布ノズル65と一体的に形成したり、前記回転体66の近傍の薬剤散布装置の支持手段に設ける。加えて、苗載台16下部に配置した苗マット押え機構36に、左右方向に延びる帯状に構成した泥除け手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤散布装置の技術、特に田植機等の苗載台上に載置された苗マット上に農薬や肥料等の薬剤を供給する薬剤散布装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、田植え直前の育苗箱に浸透移行性のある粒剤を散布し、移植後まもなく発生する害虫を駆除する箱施用剤が知られている。該箱施用剤は出穂以前に発生する主要病原虫のほとんどを一回だけの薬剤処理で防除できるものである。また、最近では稲作中期以降に発生する害虫や葉イモチ、紋枯病などの発生を抑制することができる長期残効性の箱施用剤も登場してきている。
そして、多忙な田植え直前の時期に手散布により育苗箱に所定量の薬剤を均一に散布する作業は非常に煩わしい作業であるため、動力散布装置等を用いて大量の薬剤散布作業を施していた。
しかし、そのような動力散布装置を用いる薬剤散布では、植付けられる苗に薬剤を均一に散布することは手間が掛かる作業であったため、近年では、田植機の苗載台上方にマット薬剤散布装置を搭載し、該マット薬剤散布装置によって苗マット上に薬剤を散布する、つまり、田植えと同時に施薬を行うことができる作業機が用いられる。
例えば、特許文献1に示すように、薬剤等が排出される散布ノズル先端部に管状の回転体を回動自在に外嵌し、該回転体の外周に複数の突起を設けて、苗と接触可能に配置するとともに、該回転体より突出して前記散布ノズル先端内面に延設したスクレーパによって、苗マット上の苗に付着している水滴が薬剤散布装置の散布ノズルの先端部に付着するのを防ぐ薬剤散布装置の技術は公知となっている。
【特許文献1】特開2006−158380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の薬剤散布装置においては、植付爪付近からの泥撥ね等により、回転体および回転体付近に泥等が付着し、回転体が回りづらくなる場合があった。
【0004】
本発明は以上の状況に鑑み、植付爪付近からの泥撥ね等による、回転体および回転体付近の泥等の付着が回避できる薬剤散布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、前記散布ノズルに、回転体の外周の植付爪側を覆う泥除け手段を設けたものである。
【0007】
請求項2においては、前記泥除け手段は、前記散布ノズルと一体的に形成したものである。
【0008】
請求項3においては、田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、前記回転体の近傍の薬剤散布装置の支持手段に、回転体の植付爪側を覆う泥除け手段を設けたものである。
【0009】
請求項4においては、田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、苗載台下部に配置した苗マット押え機構に、左右方向に延びる帯状に構成した泥除け手段を設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、植付爪の回動等による泥撥ねによって、回転体付近に泥が付着することを回避でき、回転体が回りづらくなること防ぐ。
【0012】
請求項2においては、一体的に形成したことにより部品の点数を減らすことができる。
また、突出部が設けられている側は回転体が苗と接触せず、突出部が設けられていない回転体の片側だけに苗が接触することで、回転力が相殺されず、回転体の回転がスムーズに行われる。
【0013】
請求項3においては、薬剤散布装置の支持手段に泥除け手段を設けたことで植付爪の回動等による泥撥ねによって、回転体付近に泥が付着することを回避でき、また泥除け手段の構造が単純なため、容易に支持手段に設置できる。
【0014】
請求項4においては、苗マット押え機構に泥除け手段を設けることにより、泥除け効果を高めることができる。また、泥撥ねの原因付近に左右方向に延びる帯状の泥除け手段を設けることで効率よく泥除けを行うことができ、より一層効果的に、回転体付近に泥が付着することを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の実施例に係る乗用田植機の全体的な構成を示した側面図、図2は同じく苗載台を示した背面図、図3は散布部付近を示した側面図、図4は本発明の一実施例に係る散布ノズルを示した側断面図、図5は同じく散布ノズルを示した断面図、図6は本発明の他の一実施例に係る散布ノズルを示した側面図である。
【0016】
以下では、図1及び図3を用いて本発明に係る薬剤散布装置の実施の一形態である薬剤散布装置10を備える乗用田植機100の全体構成について説明する。
なお、本発明に係る薬剤散布装置10は田植機や移植機に広く適用可能であって、その適用範囲は本実施例の乗用田植機100に限定されるものではない。ここで、「田植機」とは、水田に稲の苗を植付ける機械を指し、作業者が乗って操作する乗用田植機及び作業者が手で押して操作する歩行式田植機の両方を含む。
以下の説明では、便宜上図1中の矢印Aの方向を「前方」と定義する。
【0017】
乗用田植機100は田植機の実施の一形態であり、走行部1の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4が配置されている。
走行部1は車体フレーム3前部上方にエンジン2が搭載され、前下部にて図示しないフロントアクスルケースを介して前輪6が支持され、後下部にてリヤアクスルケース7を介して後輪8が支持されている。エンジン2はボンネット9に覆われている。
【0018】
乗用田植機100はボンネット9の後部に設けられたダッシュボード5の上に操向ハンドル14が配置され、ボンネット9の左右両側およびボンネット9後部の車体フレーム3の上面は車体カバー12によって覆われている。該操向ハンドル14の後方には座席13が配置され、ボンネット9の左右両側と座席13の前方と座席13の左右両側と座席13の後方は作業者が足を載せるステップとされている。
【0019】
乗用田植機100には、座席13の側部に走行変速レバー30や植付昇降および作業走行変速用の副変速レバー31や植付感度調節レバー等が配設され、ダッシュボード5の下部のステップ上には主クラッチペダル32や左右ブレーキペダルが配設されて、座席13の後方には施肥機33が配設されている。
【0020】
植付部4は、主に、苗載台16、植付爪17、フロート34、薬剤散布装置10等から構成されている。苗載台16は前高後低に配設されて、その下部が下ガイドレール18に、前面上部が上ガイドレール19に左右往復摺動自在に支持されている。該下ガイドレール18および該上ガイドレール19は、フレーム等を介して植付センターケース20によって支持されている。植付センターケース20には、連結パイプを介して後方へと植付ケース21が突設されており、該植付ケース21の後部には一方向に回動するロータリケース22が設けられ、該ロータリケース22の両側に一対の植付爪17が設けられる。
【0021】
このようにして、乗用田植機100は、前進走行とともに苗載台16を横送り機構により左右に往復運動(摺動)し、この往復運動に同期させて植付爪17を駆動して各条に一株分の苗75を切り出しながら、連続的に植付け作業を行う。
なお、植付センターケース20の前部には、図示しないローリング支点軸を介して昇降リンク機構27が連結されており、詳しくは、該昇降リンク機構27がトップリンク25やロワーリンク26等から構成されて、座席13下方に配置された昇降シリンダ28によって植付部4を昇降させるように構成されている。
【0022】
図1乃至図3に示すように、苗載台16の上面には各条の左右両側にリブ85が前後方向に立設され、該リブ85間に苗マット載置部86が形成されている。つまり、隣り合うリブ85間に形成された苗マット載置部86とその上に載置された苗マット74とが、乗用田植機100が植付け作業を行う一条分に対応し、ガイドされるように構成されている。
苗載台16の苗マット載置部86上部にはガイドされた苗マット74を押える苗マット押え機構36が配設されている。
【0023】
該苗マット押え機構36には、苗載台16の苗マット載置部86の上方に苗マット74を押える為の縦押え棒36aを配置する。一条分の苗マット載置部86に対して二本の縦押え棒36aが配置されている。縦押え棒36aの中間部は、苗マット載置部86に対して略平行で、苗送りベルト35の苗マット74送り方向に延長されている。縦押え棒36aの両端は、上方に折り曲げられており、下押えアーム36cと上押えアーム36bとに固着されている。苗載台16の傾斜下端部のリブ85上に、上下方向に伸縮可能な下押え棒支持フレーム36dが立設され、該下押え棒支持フレーム36dに下押えアーム36cが横設されるように連結される。また、下押え棒支持フレーム36dの傾斜下端部(苗載台16の傾斜下端側)は高さ調整可能に支持されている。苗載台16傾斜中途部の左右両端のリブ85上に上押え棒支持フレーム56aが立設され、該上押え棒支持フレーム56a上端に上押えアーム36bが横設され連結されている。
【0024】
一方、苗マット74の縦送り機構は、従動ローラ37、駆動ローラ38、苗送りベルト35等から構成される。苗マット載置部86の下部から上下中間位置にかけて開口部が設けられ、該開口部の上部に従動ローラ37と下部に駆動ローラ38とが配設され、従動ローラ37と駆動ローラ38の間に苗送りベルト35が巻回される。該苗送りベルト35の表面には多数の突起が設けられ、苗マット載置部86の下部から上下中間位置にかけて設けられた開口部から該苗送りベルト35の表面が露出する。
【0025】
このような構成にして、苗マット74の縦送り機構の上方に設けられた苗マット押え機構36と苗送りベルト35とによって、苗マット74が保持されつつ、苗マット74が正確に下方へ縦送りされながら、安定した苗75の植付けが行われる。
詳しくは、苗載台16の左右往復運動と、該往復運動に同期して植付爪17が行う苗75の切り出し作業によって、苗マット74の下端が一定幅ずつ切断され、切断された苗マット74が下方へと搬送されて、苗75が水田に植付けられていく。また、苗マット74は苗載台16の左右端での折り返し時に縦送り機構の苗送りベルト35によって下方へと運ばれる。
【0026】
そして、この植付作業の際、苗載台16上方に配設された薬剤散布装置10によって、苗75の植付けと同時に苗マット74上に散布ムラのない確実な施薬が行われる。
【0027】
以下では、図1乃至図3を用いて、本発明の要部である薬剤散布装置10の詳細構成を説明する。
【0028】
図1乃至図3に示すように、薬剤散布装置10は乗用田植機100の苗載台16の後方に設けられ、圃場への苗75の移植と同時に苗マット74に肥料や農薬等の薬剤を施薬するものである。つまり、薬剤散布装置10は苗載台16の苗マット載置部86に対向して配置される。薬剤散布装置10が取り扱う薬剤は、主に粉体の原料を粒状に成形したものであるが、他の粒状の薬剤(例えば、表面にコーティングを施した粒状の薬剤)に適用することも可能である。
【0029】
図2に示すように、本実施例の乗用田植機100は五条植えであり、一台の薬剤散布装置10によって二つまたは三つの苗マット載置部86に施薬可能な構成とされているが、薬剤散布装置10の台数及び施薬可能な条数は限定するものではない。
【0030】
本実施例における薬剤散布装置10は主に薬剤ホッパ41、繰出部42、散布部43等から構成され、後述する支持フレーム53によって走行部1の後部上方に支持されている。
まず、薬剤ホッパ41は苗マット74に施薬される薬剤を貯溜する容器であって、該薬剤ホッパ41の上部には蓋41aが着脱自在に設けられている。作業者等は、該蓋41aを開けて薬剤ホッパ41の内部に薬剤を補充する。薬剤ホッパ41の下半部は漏斗状になっており、下端部には開口部が設けられている。つまり、薬剤ホッパ41に貯溜された薬剤が、自重により薬剤ホッパ41の下端部に設けられた開口部より下方の繰出部42に落下する構成になっている。
【0031】
そして、繰出部42は、前記薬剤ホッパ41に貯溜された薬剤を所定量ずつ後述する散布部43へと繰り出すものであって、その内部には繰出ロール45が一方向クラッチ23を介して回動可能に収容されている。
詳しくは、図2及び図3に示すように、植付ケース21の後部にロッド駆動ケース67を設け、該ロッド駆動ケース67より出力軸を突出させ、該出力軸には前記植付爪17を駆動する動力を分岐して伝えるものとしている。該出力軸からは、下繰出用ロッド68b、上繰出用ロッド68a等を介して、図示しない繰出アームへと動力が伝達され、該繰出アームと前記ロール軸49に接続した一方向クラッチ23を介して繰出ロール45が間欠的に一方向へ回動する構成となっている。
【0032】
このように、薬剤ホッパ41の薬剤を散布部43に繰り出す繰出部42と、該繰出部42へ駆動力を伝達する下繰出用ロッド68bとが配設されている。
そして、散布部43は繰出部42に連結され、繰出部42により繰り出された薬剤を導いて、苗マット74へと施薬するものである。散布部43は主に分岐部材61、ガイドホース64、散布ノズル65等から構成される。
分岐部材61は繰出部42下端に連結される略漏斗状の部材であって、下端部に四箇所の開口部が設けられて、それぞれがガイドホース64に連結されるものである。
【0033】
図2及び図3に示すように、ガイドホース64は管状の部材であり、その上端部が分岐部材61の下端部に嵌入し連結され、ガイドホース64の下部は後述するガイドホース接続部材60に連結されている。該ガイドホース接続部材60は挟持部材63及び横ノズルステー59を介して後述する前後ノズルステー51に支持されている。また、各ガイドホース接続部材60下部60aには散布ノズル65が枢設されている。
【0034】
前後ノズルステー51に支持された際の各ガイドホース64の姿勢は、該ガイドホース64の上端部が機体後方かつ上方を向き、ガイドホース64の下端部が機体前方かつ下方を向く、つまり、苗載台16下部方向に向くように支持されている。
【0035】
次に、図2及び図3を用いて、薬剤散布装置10の支持手段の構成について説明する。
支持フレーム53は、薬剤散布装置10を乗用田植機100の苗載台16の後上方に固定するための部材であって、主に、基部フレーム54、支持柱55、支持プレート58、上部支持杆55b、前後ノズルステー51、横ノズルステー59等から構成されている。
【0036】
まず、左右の支持プレート58は前記左右の植付ケース21の後上部に立設され、該支持プレート58の上部に基部フレーム54が上方に突出して固設されている。該基部フレーム54の下部に支持柱55下端部を枢支して薬剤散布装置10を後方に傾倒可能に構成している。
【0037】
詳しくは、植付ケース21の後上部に支持プレート58がボルト固定または溶接等によって固設され、該支持プレート58上部に基部フレーム54の下部が固設され、該基部フレーム54の下部に左右方向に支持軸56が固定されている。また、補助支持部材57が、植付ケース21の前後中間上部と支持プレート58の間に架設されて補強している。支持柱55の下部には板状の支持柱下部部材55aが溶接等によって固設されており、該支持柱下部部材55aの下端が支持軸56により回転自在に枢支され、該支持柱下部部材55aの上端側には、ボルト孔が開口され、同じく基部フレーム54の上端側にも複数のボルト孔が開口されており、ノブ62等によって、基部フレーム54に対して位置調整可能に一体的に固定することが可能となっている。
【0038】
従って、ノブ62を緩め外すことにより、薬剤散布装置10自体を前後方向に揺動させることが可能になっており、後方に傾倒させた状態とすることで、薬剤の補給やメンテナンス等を容易にできるようにしている。
【0039】
逆に、該ノブ62を締め付けることによって、薬剤散布装置10を乗用田植機100の走行部1に対して固定可能としている。
【0040】
図2乃至図4に示すように、支持柱55は略角柱形状の部材であって、前述したように該支持柱55の下端部は支持柱下部部材55aに固設されている。該支持柱55の下部の支持柱下部部材55a上側から前方に、前後ノズルステー51が突設され、該前後ノズルステー51の前端に横ノズルステー59を横設して後述する散布ノズル65を取り付けている。
【0041】
前述したように、乗用田植機100には、それぞれ薬剤ホッパ41と繰出部42と散布部43とからなる薬剤散布装置10が配設されており、詳しくは、乗用田植機100の左右両側において、繰出部42の下部が繰出部支持プレート55cにボルト等により固定され、薬剤ホッパ41等が載置されている。繰出部支持プレート55cは乗用田植機左右に配設された支持柱55の上端部に横設された上部支持杆55bに固設されている。
【0042】
前記前後ノズルステー51は、前述したように溶接等により支持柱55の下部付近から前方へ向けて延設され、その前端部には左右方向に横ノズルステー59が横設されている。該横ノズルステー59は側面視逆L字状に構成され、前記ガイドホース64の下部がガイドホース接続部材60に接続され、それぞれのガイドホース接続部材60の外周が可撓性の挟持部材63に挟持される。該挟持部材63がボルト等により横ノズルステー59に固設支持されている。つまり、ガイドホース64の下部は該挟持部材63に脱着可能な構成としている。前記構成により、散布部43下部は、前後ノズルステー51等により安定して固定することができる。
【0043】
次に、散布部43について説明する。
本実施例における散布部43は、ガイドホース64、散布ノズル65、回転体66等で構成されている。
【0044】
図1乃至図3に示すように、ガイドホース64は管状の部材であり、前述したように上端部は分岐部材61に嵌入し接続され、下部はガイドホース接続部材60に嵌入し接続されている。図4に示すように、該ガイドホース接続部材60下部60aの内周に小径部が形成されている。該小径部はガイドホース接続部材60下部60aの内部の筒厚が肉薄化され、該小径部の直上内径よりも小さい内径で形成されている。一方、散布ノズル65上部65aの外径はガイドホース接続部材60下部60aの内径と略同じ外径を有する略管状の部材である。ガイドホース接続部材60は散布ノズル65に挿入嵌装され、ガイドホース接続部材60下部60a(小径部)直上の内径と散布ノズル65上部65aの内径は略同径である。また、散布ノズル65の内径は上部65aから上下中途部まで縮径され、上下中途部から先端部65bに至るまで最縮径された内径となっている。つまり、散布ノズル65の内径は略漏斗状に形成されている。
【0045】
そして、後述する回転体66が散布ノズル65の下部に外嵌されるために、散布ノズル65の先端部65bの外周は筒厚が肉薄化され、回転体66の上部66aの内径は散布ノズル65先端部65bの外径よりも若干大きく、図4及び図5に示すように、回転体66は散布ノズル65の先端部65bに回転自在に嵌設される。また、散布ノズル65の先端部65bの外周には環状の係止溝65eが形成され、散布ノズル65の先端部65bが回転体66に外装された後に、環状である係止リング72を係止溝65eに外嵌して抜け止めが成され、回転体66が散布ノズル65の先端部65bに固定される。
【0046】
一方、管状の散布ノズル65の上下中途部より下方に、下方に向かって広がる傘状のカバー65cが一体的に延設されている。該カバー65cは回転体66の回転を邪魔しないように所定間隔離れて覆うように形成されている。さらに、該カバー65cは前側(斜め上側)が短く形成され、進行方向後側(斜め下側)が長く形成されて泥除け手段となる突出部65dを形成している。該突出部65dは回転体66の外周面より突出した後述する突起部66cと邪魔することなく覆っている。つまり、前記カバー65cは散布ノズル65の上下中途部から回転体66の上部66aまではラッパ状に延設し、更に、カバー65cの下側のみを更に下方へ延設して回転体66の突起部66cが位置する部分から、その半径のまま回転体66の先端部66bまでさらに延設している。
【0047】
カバー65cの下部内面と回転体66の上部66a外周との間には滴り落ちる雨水が入り込まない程度のスペースを有する構成とするとともに、突起部66cの先端が苗75との接触を邪魔しないように突出している。
【0048】
このように、前記回転体66の上側周囲を覆う傘状のカバー65cを設けたことで、回転体66の上方のガイドホース64や散布ノズル65のカバー65c等に降り落ちた雨等の水は、下方に伝って落下しカバー65cの下端から苗マット上に落ちる。このとき、カバー65cの下端と回転体66の外周との間には空間があるため、雨水は回転体66の上端と散布ノズル65との隙間に水が浸入することがなくなり、回転体66の外周に落下するのである。よって、回転体66の上部に雨水が浸入して散布ノズル65の下端に至り、その周囲を湿らせて薬剤や肥料等が付着し、詰まるようなことを防止することができる。
また、回転体66の後側を覆う突出部65dが設けられていることにより植付け時の植付爪17近傍からの泥撥ね等によって、回転体66及び回転体66付近に泥が付着することを回避できる。
【0049】
次に、散布ノズル65に外嵌する回転体66の実施例を図4乃至図6を用いて説明する。
回転体66は筒形の部材であり、硬質部材である金属または合成樹脂等のパイプ等で構成される。
【0050】
前述したように、回転体66が散布ノズル65の下部に外嵌された状態で、回転体66の先端部66bは、散布ノズル65の先端部65bよりも突出されるよう構成されている。よって、雨や露等が回転体66外周に付着しても散布ノズル65先端に回り込んで付着することなく、薬剤がその水により散布ノズル65の先端部65b内周に付着して固まることを防止している。
【0051】
また前述したように、回転体66の先端部66bの内径は散布ノズル65先端部65bの外径よりも所定隙間ができるように大きく構成されている。つまり、その先端部65b(下端部)はラッパ状に拡径されている。こうして、回転体66の外周に水が付着しても、回転体66先端から散布ノズル65先端にその水が至ることはなく、薬剤が水により散布ノズル65先端部65bの外周に付着して固まることを防止している。そして、回転体66の先端部66bは施薬の対象である苗マット載置部86に載置された苗マット74に近接した位置に配置され、回転体66によりかき分けられた苗マット74上の苗75の根元部分に施薬するように構成されている。
【0052】
そして、回転体66には、散布ノズル65の先端部65bの内周に延設したスクレーパ69が設けられている。該スクレーパ69は線材等が折り曲げられ略U字状になるよう形成されている。そして、回転体66先端部66bの外周の任意位置には、ボルト71等の固定手段によってスクレーパ69の一端が固設されている。該スクレーパ69の他端は散布ノズル65の先端部65b内周に接して摺動できるように形成されている。なお、固定手段は限定するものではなく、溶接であっても、接着であっても、また、一体的に成形して回転体66からスクレーパ69が突出する構成であってもよい。また、本実施例ではスクレーパ69は一つだけ設けているが、回転体66外周に二個以上配置することも可能である。
【0053】
回転体66は、図4乃至図6に示すように、回転体66の外周に複数の突起部66cが一体的に設けられている。即ち、回転体66の外周には半径方向に棒状の突起部66c・66c・・・が所定間隔を開けて放射状に突設されている。但し、突起部66cは棒状に限定するものではなく、プレート状であってもよく、苗75を傷めることがなく、軽量なものであればよい。よって、突起部66cを設ける代わりに星状のプレートを回転体66外周に固設する構成であってもよい。
【0054】
この場合、苗マット74の苗75の抵抗で回転体66を回転させるようにしている。即ち、図3に示すように、回転体66は苗載台16上に載置された苗マット74の苗75の株元近傍に位置させて固定される。好ましくは、散布ノズル65が苗75の植立方向に対して傾けて配置される。また、前述した突出部65dにより、回転体66の外周に設けた突起部66cのうち、上前部一側のみ苗75が接触されるようにされる。
【0055】
よって、突出部65dを設けていない場合、回転体66の全周が苗75と接触されることとなり、例えば、苗載台16が左に移動されると、回転体66の上前部付近には突起部66cと苗75との摩擦抵抗により左の回転力が与えられ、下後部(植付爪17側)付近には右の回転力が与えられることになる。つまり、回転体66に与えられる上下部逆方向の回転力であり、両者の回転力が相殺されることとなり効率よく回転体66が回転されない。
【0056】
しかし、前記構成とすることにより、植付作業時において、苗載台16が左右往復移動されると、突出部65dによって苗マット74の苗75に突起部66cが上前部一側のみ苗75と接触されることとなり、その抵抗力により一方向の回転力が与えられ回転体66が回転するようになる。つまり、苗載台16が左または右方向に移動されると、回転体66の突起部66cは苗75との摩擦力により引っ掛かって左回転または右回転され、この回転により、回転体66に固設されたスクレーパ69が散布ノズル65先端の内周を摺接して、付着した泥や薬剤を掻き取るようになるのである。そして、苗載台16が左端または右端に至り、逆方向に移動すると、回転体66は逆方向に回転することになる。
【0057】
よって、突出部65dを設けていない場合よりも効率的に回転体66を回転させることができる。回転体66を苗マット74の横移動により確実に回転させることができるようになり、回転体66により苗75を傷つけることも防止できる。
【0058】
この場合、苗75と突出部65dとの接触抵抗で回転体66を回転させるようにしている。また、図3に示すように、散布ノズル65、回転体66が苗載台16上に載置した苗マット74の苗75の株元近傍に位置させて固定するのである。好ましくは、散布ノズル65を苗75の植立方向に対して傾けて配置して、回転体66の外周に設けた突起部66cのうち、一側のみ苗75が接触されるように配設する。散布ノズル65は鉛直方向に配置すると、薬剤が自然落下して、散布ノズル65内を抵抗なく落下し、薬剤は傷められることがなく、詰まりも殆ど生じることはない。
【0059】
また、泥除け手段としての突出部65dを、前記のように散布ノズル65に一体的に取付けるのではなく、薬剤散布装置10の支持手段または苗載台に設ける苗マット押え機構36に設けることも可能である。つまり、泥除け手段を薬剤散布装置10の支持手段に設ける実施例として、横ノズルステー59の散布ノズル65近傍に泥除け手段として泥除け板91を設ける構成について説明する。
【0060】
図6に示すように、前記実施例同様、管状の散布ノズル65の上下中途部より、該回転体66の上部を所定間隔離れて覆う傘状のカバー65cが延設されている。前記散布ノズル65及び回転体66の後方には鉄板や合成樹脂板等で構成した泥除け板91が設けられる。該泥除け板91は背面視で散布ノズル65及び回転体66が隠れる程度の大きさの略矩形状の板材で構成され、該泥除け板91の上部が横ノズルステー59に固設される。こうして、泥除け板91は植付爪17側の回転体66の先端部66bを覆うとともに、泥除け板91は回転体66及び突起部66cと邪魔することがないように、所定の間隔が空けられている。そして、泥除け板91の取付構造は、挟持部材63と泥除け板91が横ノズルステー59を挟み込むように、ボルト等で固設されている。
【0061】
泥除け板91の材質を鉄や硬質合成樹脂等としているが、特に限定するものではない。また、平板状ではなく、略矩形状の板材を左右方向に湾曲させてもよい。
【0062】
前記構成により植付爪17の回動等による泥撥ねによって、回転体66付近に泥が付着することを回避でき、また、構造が単純な略矩形状の板材を横ノズルステー59に取付けるだけである為、容易に設置が可能である。これによって、回転体66が回転し難く、もしくは停止することを回避できる。
【0063】
また、泥除け手段を苗載台側に設ける実施例として、苗マット押え機構36に取付けて左右方向に伸びる帯状の泥除け帯体95で構成することもできる。つまり、図1乃至図3に示すように、該泥除け帯体95は、苗載台の上方に左右方向に複数配設される散布ノズル65・65・・・の取付位置の左右幅であって、植付爪17の回動により前上方への泥の飛散を防止できる前後幅を有する。そして、泥除け帯体95の上端は苗載台16の下後部に苗マット74を押える役割を果たす苗マット押え機構36を構成する棒状の下押えアーム36cを軸として回動可能に取付けられている。
【0064】
前記泥除けである帯状の泥除け帯体95を設けることにより、泥除け効果を高めることができる。また、泥撥ねの原因である植付爪17近傍に帯状に設けることで苗マットに泥がかかることを防止でき、突出部65dや泥除け板91の設置のみよりも、より一層、回転体付近に泥が付着することを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例に係る乗用田植機の全体的な構成を示した側面図。
【図2】同じく苗載台を示した背面図。
【図3】散布部付近を示した側面図。
【図4】本発明の一実施例に係る散布ノズルを示した側断面図。
【図5】同じく散布ノズルを示した断面図。
【図6】本発明の他の一実施例に係る散布ノズルを示した側面図。
【符号の説明】
【0066】
10 薬剤散布装置
16 苗載台
43 散布部
65 散布ノズル
66 回転体
74 苗マット
65d 突出部
91 泥除け板
100 乗用田植機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、
散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、
前記散布ノズルに、回転体の外周の植付爪側を覆う泥除け手段を設けたことを特徴とする薬剤散布装置。
【請求項2】
前記泥除け手段は、前記散布ノズルと一体的に形成したことを特徴とする請求項1に記載の薬剤散布装置。
【請求項3】
田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、
散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、
前記回転体の近傍の薬剤散布装置の支持手段に、回転体の植付爪側を覆う泥除け手段を設けたことを特徴とする薬剤散布装置。
【請求項4】
田植機の苗載台上に載置した苗マットに、移植と同時に施薬する薬剤散布装置において、
散布部に設ける散布ノズルの先端部に、管状の回転体を回動自在に外嵌し、
苗載台下部に配置した苗マット押え機構に、左右方向に延びる帯状に構成した泥除け手段を設けたことを特徴とする薬剤散布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−4780(P2010−4780A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166012(P2008−166012)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(391025914)八鹿鉄工株式会社 (131)
【Fターム(参考)】