説明

薬剤耐性を獲得した癌細胞の検出方法

本発明の目的は、薬剤耐性癌細胞を検出可能な新たな遺伝子マーカーを見いだし、かつ、当該マーカーを用いた薬剤耐性癌細胞の効率的かつ網羅的な検出手段を提供することである。本発明では、特に副作用が重篤で、癌患者に投与する頻度が高い制癌剤として、カンプトテシン類、シスプラチン類、エトポシド類、アドリアマイシン(ADM)およびシトシンアラビノシド類の薬剤耐性癌細胞株と親癌細胞株における遺伝子増幅または欠失を解析することにより、癌細胞の薬剤耐性獲得に関連する新たな遺伝子マーカーとして、ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2、BCL2L10、BCL2L1、および、BCL2A1からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子の増幅を検出することにより、当該被験癌細胞における制癌剤に対する薬剤耐性の獲得を検出し得ることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、染色体の欠失或いは増幅を伴う、制癌剤に対する薬剤耐性を獲得した癌細胞の検出方法に関する発明である。
【背景技術】
これまで、数多くの制癌剤が癌を治療するために使用されているが、重篤な副作用の発生、並びに反復投与により薬剤の効果の消失や不応答性等が重要な問題となっている。それは多くの場合、制癌剤耐性獲得細胞の出現に由来する。薬剤耐性は癌細胞での遺伝子の変化に起因する。その遺伝子産物は、薬剤の細胞内への輸送を低下させる或いは薬剤の細胞内から外への排出を促進させる、薬剤の不活性化、薬剤の解毒を促進させる、プロドラック(前駆体)から活性型への転換を抑制する、薬剤の標的蛋白質量の低下或いは活性の低下を誘導する、DNA修復の活性を増大させる、アポトーシスの誘導を抑制すること等がその理由として上げられる(Harrison,D.J.:Molecular mechanism of drug resistance in tumours.J.Pathol.,175,7−12,1995)。癌細胞で上記耐性付与が複数同時に起こる場合もある。
薬剤耐性癌細胞ではMultidrug resistant protein(多剤耐性蛋白質:MDR及びMRP)と命名された細胞膜に局在するトランスポーターによる細胞からの薬剤の汲み出しが重要な役割を果たしている。例えば、ABCB1(MDR1)或いはABCC1(MRP1)遺伝子の増幅とその結果起こる過剰発現はかなりの数の薬剤耐性細胞に認められる(Kuwano,M.,Uchiumi,T.,Hayakawa,H.,Ono,M.,Wada,M.,Izumi,H.and Kohno,K.:The basic and clinical implications of ABC transporters,Y−box−binding protein−1(YB−1)and angiogenesis−related factors in human malignancies.Cancer Sci.,94,9−14,2003)。MDRをコードする遺伝子群の過剰発現をDNAチップで検出する方法、並びに、その蛋白質群をそれぞれ特異的な抗体を用いて検出する方法等が薬剤耐性癌細胞の検出法として用いられている。MDRは、ATP Binding Cassette(ABC)を有する蛋白質(ABC蛋白質という)に属し、分子量300−2,000程度の両親媒性化合物をATP加水分解のエネルギーを利用して細胞内から細胞外に排出する。
一方、Comparative genomic hybridization(CGH)を用いてプライマリー癌細胞と癌細胞株を解析すると、薬剤耐性と関連するクロモソームの特定領域の変化が見出される。(Wasenius,V.M.,Jekunen,A.,Monni,O.,Joensuu,H.,Aebi,S.,Howell,S.B.and Knuutila,S.:Comparative genomic hybridization analysis of chromosomal changes occurring during development of acquired resistance to cisplatin in human ovarian carcinoma cells.Genes Chromosomes Cancer,18,286−291,1997;Rao,P.H.,Houldsworth,J.,Palanisamy,N.,Murty,V.V.,Reuter,V.E.,Motzer,R.J.,Bosl,G.J.and Chaganti,R.S.:Chromosomal amplification is associated with cisplatin resistance of human male germ cell tumors.Cancer Res.,58,4260−4263,1998;Rooney,P.H.,Stevenson,D.A.,Marsh,S.,Johnston,P.G.,Haites,N.E.,Cassidy,J.and McLeod,H.L.:Comparative genomic hybridization analysis of Chromosomal alteration induced by the development of resistance to thymidylatesyntase inhibitors.Cancer Res.,58,5042−5045,1998;Leyland−Jones,B.,Kelland,L.R.,Harrap,K.R.and Hiorns,L.R.:Genomic imbalances associated with acquired resistance to platinum analogues.Am.J.Pathol.,155,77−84,1999;Struski,S.,Doco−Fenzy,M.,Trussardi,A.,Masson,L.,Gruson,N.,Ulrich,E.,Proult,M.,Jardillier,J.C.,Potron,G.and Cornillet−Lefebvre,P.:Identification of chromosomal loci associated with non−P−glycoprotein−mediated multidrug resistance to topoisomerase II inhibitor in lung adenocarcinoma cell line by comparative genomic hybridization.Genes Chromosomes Cancer,30,136−142,2001)。
薬剤耐性癌細胞に特徴的なゲノムの増幅並びに欠失は制癌剤耐性に寄与している可能性が高いと考えられるので、この領域を同定することは極めて重要である。しかしながら、癌細胞の薬剤応答性は多様であり、現在までに見いだされている知見では、薬剤耐性細胞を検出するには十分ではなく、新たなマーカーを見いだすことが必要であることは疑いがない。また、薬剤耐性癌細胞の解析を系統的に行い、癌細胞の薬剤耐性能を効率的かつ網羅的に検査できる方法もまた、未だ確立されていない。
よって、本発明が解決すべき課題は、薬剤耐性癌細胞を検出可能な新たな遺伝子マーカーを見いだし、かつ、当該マーカーを用いた薬剤耐性癌細胞の効率的かつ網羅的な検出手段を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、特に副作用が重篤で、癌患者に投与する頻度が高い制癌剤として、カンプトテシン(CPT)類、シスプラチン(CDDP)類、エトポシド(VP−16)類、アドリアマイシン(ADM)およびシトシンアラビノシド(Ara−C)類の薬剤耐性癌細胞株と親癌細胞株における遺伝子増幅または欠失を解析することにより、癌細胞の薬剤耐性獲得に関連する新たな遺伝子マーカーを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、被験癌細胞における、ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2、BCL2L10、BCL2L1、および、BCL2A1からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子の増幅を検出することにより、当該被験癌細胞における制癌剤に対する薬剤耐性の獲得を検出する検出方法(以下、本検出方法ともいう)を提供する発明である。
(1)本検出方法
上記に列挙した制癌剤のうち、「カンプトテシン類」としては、カンプトテシンの他に、カンプトテシン誘導体として、第一製薬が開発したDX−8951、イタリア・メナリーニ社が開発したT−0128、イギリス・スミスクライン・ビーチャム社が開発した塩酸ノギテカンが挙げられる。「シスプラチン類」は、白金製剤(プラチナを含有する)ともいい、シスプラチン、ビンブラスチン、カルボプラチンが挙げられる。「エトポシド類」として、エトポシドの他に、エトポシド誘導体として、日本化薬が開発したNK611(エトポシド誘導体錠)が挙げられる。「シトシンアラビノシド類」として、シトシンアラビノシドの他に、シトシンアラビノシド誘導体として、そのフッ素化誘導体であるゲムシタビンが挙げられる。
本検出方法において、制癌剤に対する耐性獲得のマーカーとして定義される上記に列挙した遺伝子の中で、ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子およびABCF2遺伝子は、いずれもATP Binding Cassette(ABC)トランスポーター系蛋白質をコードする遺伝子である。
ABCトランスポーターファミリーに属する蛋白質は、イオンから高分子蛋白質に至るまで非常に広範囲の物質のトランスポートに関与している。ABCB1(MDR1)遺伝子とABCC1(MRP1)遺伝子は細胞内からの薬剤の流出を増大させることにより多数の薬剤に対する耐性を誘導することが知られている(Ling,V.:Multidrug resistance:molecular mechanisms and clinical relevance,Cancer Chemother.Pharmacol.,40,S3−S8,1997)。また、ABC11遺伝子はカンプトテシン耐性白血病株で増幅しており、その過剰発現はタキソール耐性を誘導することが知られている(Childs,S.,Yeh,R.L.,Hui,D.and Ling,V.:Taxol resistance mediated by transfection of the liver−specific sister gene of P−glycoprotein.Cancer Res.,58,4160−4167,1998)。
本発明は、上記3種類の遺伝子に加えて、新たに上記の10種類のABCトランスポーター遺伝子群(ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子およびABCF2遺伝子)が薬剤耐性に関与することを明らかにした。例えば、エトポシド耐性ヒト大腸癌(HT−29/ETP)細胞で増幅しているクロモソーム16p12−p13の領域ではABCC1遺伝子よりもむしろABCA3遺伝子が増幅しかつ過剰発現しており、従って、ABCA3遺伝子がABCC1遺伝子よりもアンプリコン(遺伝子増幅を示す領域)として可能性が高いことが判明した。ABCC9遺伝子はATP−感受性K+チャネルの構成要素をコードする遺伝子である(Seino,S.ATP−sensitive potassium channels:a model of heteromultimeric potassium channel/receptor assemblies,Annu.Rev.Physiol.,61,337−362,1999)。ABCC9遺伝子はエトポシド耐性を示す肺癌(SK3/VP16)細胞と卵巣癌(SKOV3/VP)細胞で増幅していることが判明した。前者の細胞ではABCC9遺伝子の発現上昇が確認された。その他、後述するように、ABCA3遺伝子の増幅がエトポシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB6遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB8遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB10遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCC4遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCD4遺伝子の増幅がアドリアマイシンに対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCE1遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCF2遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であることが明らかとなった。
また、本検出方法において、制癌剤に対する耐性獲得のマーカーとして定義される上記に列挙した他の遺伝子である、BCL2ファミリー遺伝子は、制癌剤によるアポトーシス死を抑制する働きをする遺伝子である。本作用を利用して癌細胞に多剤耐性を付与することから、BCL2は、多剤耐性蛋白質と推定される。抗アポトーシスの作用を有する、特定のBCL2ファミリーの遺伝子(BCL2遺伝子、BCLXL遺伝子、MCL1遺伝子)は、その過剰発現により、癌細胞に対して臨床的に使用される薬剤に耐性を誘導することが判明している(Reed J.C.Dysregulation of apoptosis in cancer.J.Clin.Oncol.,17,2941−2953,1999)。
本発明では、上記の他のBCL2ファミリーの遺伝子(BCL2L2遺伝子、BCL2L10遺伝子、BCL2L1遺伝子およびBCL2A1遺伝子)もまた、薬剤耐性獲得の指標として用いることが可能であることを見いだした。すなわち、BCL2L2遺伝子の増幅が、カントプテシン類、シスプラチン類、エトポキシド類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、BCL2L10遺伝子の増幅が、カントプテシン類、シスプラチン類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、BCL2L1遺伝子の増幅が、カントプテシン類、シスプラチン類、エトポキシド類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であることが明らかとなった(後述する)。
上に列挙した、新規の癌細胞の薬剤耐性獲得のマーカーとして用いることが可能な、ABCトランスポーター系遺伝子およびBCL2ファミリー遺伝子は、個々が独立した遺伝子であり、かつ、本来的癌細胞の変異の多様性を鑑み、さらに本明細書の実施例においても、個々のマーカー毎に指標となる癌細胞の薬剤耐性獲得が異なる場合が多い。よって、上に列挙した遺伝子マーカー一つ一つが、独立した遺伝子マーカーとしての価値を有するものであるといえる。また、逆に、これらの一つ一つの遺伝子マーカーを多数組み合わせて、その検出結果を勘案することにより、網羅的な制癌剤耐性の検出が可能となる。
また、上記の新規に提供される制癌剤に対する耐性獲得の遺伝子マーカーに加えて、既知の同遺伝子マーカーを組み合わせて検出を行い、被験癌細胞の制癌剤に対する耐性の獲得を、いっそう的確に行うことができる。
かかる既知の制癌剤に対する耐性獲得の遺伝子マーカーとしては、例えば、ABCB1遺伝子、ABCC1遺伝子、ABCB11遺伝子等のABCトランスポーター系遺伝子;BCL2遺伝子、MCL1遺伝子、BCLXL遺伝子等のBCL2ファミリーの遺伝子;DCK1遺伝子、TOP1遺伝子等のDNA合成関連遺伝子を例示することができる。これらのうち、ABCトランスポーター系遺伝子とBCL2ファミリーの遺伝子については、上述した通りである。
DCK1遺伝子、TOP1遺伝子等のDNA合成関連遺伝子は、以下のような遺伝子である。
シトシンアラビノシド(Ara−C)はデオキシシチジンリン酸化酵素(DCK)により活性型リン酸化体(1−β−D−arabinofuranosylcytosine 5’−triphosphate)に変化する。それがDNAへ取り込まれることにより殺細胞効果を発揮する。従って、DCK酵素活性の低下はAra−Cに対する耐性を誘導することが報告されてぃる(Funato,T.,Satou,J.,Nishiyama,Y.,Fujimaki,S.,Miura,T.,Kaku,M.,and Sasaki,T:In vitro leukemia cell models of Ara−C resistance,Leuk.Res.,24,535−541,2000)。本明細書においても、Ara−C耐性白血病(K562/AC)細胞ではDCK遺伝子が半接合体で、その結果、DCK遺伝子発現が減少し、Ara−C耐性を誘導していることを開示した。
トポイソメラーゼ(Topo)IとTopo IIαは、1本鎖DNA並びに2本鎖DNAにニックを入れ、複製中にDNA鎖を分離させることによりDNA複製を予定通り進行させる。カンプトテシン(CPT)はTopo I、をエトポシド(VP−16)はTopo IIαを阻害することによりDNA複製を阻害する。これまでの知見により、細胞内Topo I、Topo IIαのレベルと薬剤感受性が相関することが知られている。すなわち、両酵素の濃度が高いと制癌剤感受性が高く、その濃度が低いと制癌剤感受性が低いことが知られている(Yanase,K.,Sugimoto,Y.,Tsukahara,S.,Oh−Hara,T.,Andoh,T.,and Tsuruo,T.:Identification and characterization of a deletion mutant of DNA topoisomerase I mRNA in a camptothecin−resistant subline of human colon carcinoma,Jap.J.Cancer Res.,91,551−559,2000;McLeod,H.L.,and Keith,W.N.:Variation in topoisomerase I gene copy number as a mechanism for intrinsic drug sensitivity.,Br.J.Cancer,74,508−512,1996;Withoff,S.,Keith,W.N.,Knol,A.J.,Coutts,J.C.,Hoare,S.F.,Mulder,N.H.,and de Vries,E.G.:Selection of a subpopulation with fewer DNA topoisomerase II a gene copies in a doxorubicin−resistant cell line panel.,Br.J.Cancer,74,502−507,1996;Sugimoto,Y.,Tsukahara,S.,Oh−hara T.,Isoe,T.,and Tsuruo,T:Decreased expression of DNA topoisomerase I in camptothecin−resistant tumor cell lines as determined by a monoclonal antibody,Cancer Res.,50,6925−6930,1990)。後述するように、TOP1遺伝子発現のレベルは3種類のカンプトテシン耐性細胞、カンプトテシン耐性大腸癌(HT−29/CPT)細胞並びにカンプトテシン耐性胃癌(St−4/CPT)細胞、すなわち、試験した全てのカンプトテシン耐性細胞で低かった。その理由は、TOP1遺伝子コピー数がそれらの親株より低いためであった。TOP1遺伝子が局在する染色体20qの領域の増幅が大腸癌細胞、胃癌細胞で起こっていることが知られている(Knuutila,S.,Bjorkqvist,A.M.,Autio,K.,Tarkkanen,M.,Wolf,M.,Monni,O.,Szymanska,J.,Larramendy,M.L.,Tapper,J.,Pere,H.,El−Rifai,W.,Hemmer,S.,Wasenius,V.M.,Vidgren,V.,and Zhu,Y.:DNA copy number amplifications in human neoplasms:review of comparative genomic hybridization studies.Am.J.Pathol.,152,1107−1123,1998)。実際、本明細書においても、TOP1遺伝子のコピー数が親株の感受性細胞で有意に多い、すなわち、HT−29細胞で5倍に、St−4細胞で6倍に増大していたことを開示した。また、カンプトテシン耐性大腸癌(HT29/CPT)細胞で、2対のTOP1遺伝子の1対はTOP1欠失体であることを見出した。その結果、TOP1遺伝子発現の低下が直接カンプトテシン耐性の原因であることが明らかとなった。
また、5種類のエトポシド耐性細胞は、その親株よりTOP2A遺伝子発現が低く、染色体上の遺伝子コピー数は各々3コピーに減少していた。従って、TOP1とTOP2A遺伝子コピー数の減少がそれらの遺伝子発現を減少させ、カンプトテシン耐性並びにエトポシド耐性をもたらすと結論付けられる。さらに、チミジン合成酵素遺伝子並びにデヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ遺伝子もそれらのコピー数の減少は薬剤耐性を誘起することが容易に考えられる。
本検出方法は、例えば、CGH法、フローサイトメトリー法、ELISA法、DNAチップ法、定量PCR法により行うことが可能であり、DNAチップ法またはCGH法を行うことが好適であり、CGH法を行うことが特に好適である。
「フローサイトメトリー法」は、例えば、リンパ性白血病細胞で発現しているABC蛋白質を測定する場合、まず、そのFITC(Fluoresceinisothiocyanate)標識CD45モノクローナル抗体を用いて、リンパ球をフローサイトメトリーにより分取する。次に、Cy3等の蛍光色素標識抗ABC蛋白質抗体を用いて、リンパ性白血病細胞で発現しているABC蛋白質を測定することができる。本法は癌細胞膜表面に発現している蛋白質の検出に適している。
「ELISA(Enzyme−linked immunosorbent assay)法」は、例えば、2種類の抗ABC蛋白質抗体を使用するサンドイッチELISA法が一般的である。これ以外にも1種類の抗ABC蛋白質を使用する競合法がある。前者の方法は1種類の抗ABC蛋白質抗体をプレート上に固相し、癌細胞抽出液を加えて抗体と結合したABC蛋白質をもう一方の抗体で検出する方法である。具体的には、もう一方の抗体を標識する、あるいは、その抗体をアルカリホスファターゼ標識抗体、ペルオキシダーゼ標識抗体等で検出する方法である。本法は特異的抗体を使用することにより、細胞内で発現するどのような蛋白質にも適用可能である。
「DNAチップ法」は、癌細胞で発現しているmRNAを定量する方法である。例えば、基盤上にABC蛋白質群をコードする遺伝子を一部有する合成オリゴヌクレオチドを固定する(cDNAを固定することもできる)。癌細胞から調製したRNAをリバーストランスクリプターゼによりcDNAを合成する時に標識を行う。本標識cDNAと基盤上の合成オリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、結合した標識の量をスキャンすることによりmRNAの発現量を測定することができる。本発明は、このDNAチップ法で用いることができるDNAチップ、すなわち、「ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2遺伝子、BCL2L10遺伝子、BCL2L1遺伝子、および、BCL2A1遺伝子からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子を含有するDNA(cDNAであっても合成オリゴヌクレオチドであってもよい)」を定着させたDNA定着基盤をも提供する発明である(基盤の素材、製造工程等は、後述するCGHアレイとして用いるDNA定着基盤に準ずる)。
「定量PCR法」は、被験DNAの特定遺伝子(癌細胞の薬剤耐性獲得によって増幅または欠失する遺伝子)を含む領域をリアルタイムPCR法にて増幅させて、当該被験DNA由来のリアルタイムPCR増幅産物とコントロール(健常細胞のDNA由来の同一の遺伝子増幅用プライマーを用いて同一の条件でPCR法による遺伝子増幅を行った結果得られた遺伝子増幅産物)の生成物を定量し比較することにより、当該特定遺伝子の増幅または欠失を検出する方法である。
(2)CGH(Comparative Genomic Hybridization)法、または、DNAチップ法による本検出方法
この態様の本検出方法は、それぞれ異なる蛍光色素で標識した対照DNAと薬剤耐性の獲得を検出する対象となる被験癌細胞のDNAを、上記DNA定着基盤上において同時に接触させてハイブリダイズを行うことにより得られる蛍光色を指標として、被験DNAの特定領域の増幅または欠失を定量的に検出する、薬剤耐性獲得癌細胞の検出方法である。
CGH法またはDNAチップ法に用いるヒトDNAの定着基盤
これらのDNA検出法に用いるDNA定着基盤(本発明は、当該DNA定着基盤をも提供する発明である)に定着させるヒトDNAは、選択する検出法に応じて選択することが可能である、すなわち、本検出方法の態様として、DNAチップ法を行う場合には、cDNAまたは合成オリゴヌクレオチドが挙げられる。また、CGH法を行う場合には、ゲノムDNAが挙げられる。
DNAの採取、調製は、常法により行うことも可能であり、特に対照DNAは市販品を用いることも可能である。
本検出方法において特に好適な態様として、CGH法を、特定のゲノムDNA領域を有するBAC(Bacterial Artificial Chromosome)DNA、YAC(Yeast Artificial Chromosome)DNA、または、PAC DNA(Phage Artificial Chromosome)DNAから得られる複数種類の遺伝子増幅産物が、当該遺伝子増幅産物毎に定着している基盤を用いる態様を挙げることができる。
すなわち、癌細胞の制癌剤に対する耐性の獲得に伴い、増幅または欠失しているゲノムの領域は巨大である場合も認められる。このように、本定着基盤においては、一単位として巨大な遺伝子が反映されているゲノムDNAを定着する必要があり、かかる必要性を満足することができる程度に、許容される遺伝子の組み込み容量が大きな、BAC DNA、YAC DNA、または、PAC DNA(以下、BAC DNA等ともいう)を用いる必要がある。本発明に用いることができるBAC DNA等は、常法により、用いるゲノムを組み込んで得られる遺伝子ライブラリーから選択してもよいし、市販されている遺伝子ライブラリーから選択してもよい。各目的に応じて選択されるべきBAC DNAまたはPAC DNAについては後述する。選択されたクローンが組み込まれた宿主を培養し、BAC DNA等の精製を行うことができる。
このように通常に得られるBAC DNA等は、ゲノムDNA定着基盤を多数製造して実用化するには少量であるので、当該DNAを遺伝子増幅産物として得る必要がある(この遺伝子増幅行程を「無尽蔵化」ともいう)。無尽蔵化においては、まずBAC DNA等を、4塩基認識酵素、例えば、RsaI、DpnI、HaeIII等で消化した後、アダプターを加えてライゲーションを行う。アダプターは10〜30塩基、好適には15〜25塩基からなるオリゴヌクレオチドで、2本鎖は相補的配列を有し、アニーリング後、平滑末端を形成する側の3‘−末端のオリゴヌクレオチドをリン酸化する必要がある。次に、アダプターの一方のオリゴヌクレオチドと同一配列部分を有するプライマーを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅し、無尽蔵化することができる。一方、各BAC DNA等に特徴的な50〜70塩基のアミノ化オリゴヌクレオチドを、検出用プローブとして用いることもできる。
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等(これ以外の態様のゲノムDNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドでも同様)を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。
固体基盤としては、ガラス、プラスチック、メンブレン、3次元アレイ等があげられ、スライドガラス等のガラス基板が好ましい。ガラス等の固体基盤は、ポリ−L−リジン、アミノシラン、金・アルミニウム等の凝着により基盤をコートすることがより好ましい。
上記の無尽蔵化したDNA(これ以外の態様のゲノムDNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドでも同様)を基盤上にスポットする濃度は、好ましくは10pg/μl〜5μg/μl、より好ましくは1ng/μl〜200ng/μlである。スポットする量は好ましくは1nl〜1μl、より好ましくは10nl〜100nlである。また、基盤に定着させる個々のスポットの大きさ及び形状は、特に限定されないが、例えば、大きさは直径0.01〜1mmであり得、上面から見た形状は円形〜楕円形であり得る。乾燥スポットの厚みは、特に制限はないが、1〜100μmである。さらに、スポットの個数は、特に制限はないが、使用する基盤あたり10〜50,000個、より好ましくは100〜5,000個である。それぞれのDNAはSingularからQuadruplicateの範囲でスポットするが、Duplicate或いはTriplicateにスポットすることが好ましい。
乾燥スポットの調製は、例えば、スポッターを用いて無尽蔵化したBAC DNA等(これ以外の態様のゲノムDNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドでも同様)を基盤上にたらして、複数のスポットを形成した後、スポットを乾燥することにより製造することができる。スポッターとしてインクジェト式プリンター、ピンアレイ式プリンター、バブルジェット式プリンターが使用できるが、インクジェット式プリンターを使用することが好ましい。例えば、Cartesian Technologies社(米)のハイスループット インクジェット分注システムSQシリーズ等を使用できる。
このようにして無尽蔵化したBAC DNA等(これ以外の態様のゲノムDNA、cDNA、合成オリゴヌクレオチドでも同様)を基盤上、好適には固体基盤上に定着させることにより、所望するDNA定着基盤を製造することができる。
検出の態様
上述したDNA定着基盤を用いて、被験DNAの特定領域の増幅または欠失を定量的に検出する場合、特定領域のゲノムDNA等の断片が、好適には網羅的に定着している本定着基盤に、それぞれ異なる蛍光色素で標識した対照ゲノムDNA等(正常細胞または正常組織のゲノムDNA等)と被験ゲノムDNA等(薬剤耐性を獲得しているか否かを検出する対象となる癌細胞または癌組織のゲノムDNA等)を同時に接触させてハイブリダイズを行うことにより得られる蛍光色を指標として、被験ゲノムDNA等の特定領域の増幅または欠失を定量的に検出する検出方法である。
被験ゲノムDNA等の特定領域の増幅または欠失を定量的または定性的に検出することにより、被験癌細胞の制癌剤に対する耐性の獲得の有無、耐性の種類等を明らかにすることができる。
ヒトゲノムDNA等は市販品を使用することが可能であり、健常人から採血した血漿より、常法により抽出することもできる。また、癌患者本人の正常組織から常法に従い得ることも可能である。
対照ゲノムDNA等(正常細胞または正常組織のゲノムDNA等)と被験ゲノムDNA等(薬剤耐性を獲得しているか否かを検出する対象となる癌細胞または癌組織のゲノムDNA等)は、それぞれ異なる蛍光色素、例えば、Cy3とCy5等、を常法(例えば、dCTPを用いたニックトランスレーション法)により標識することができる。このdCTPを用いたニックトランスレーション法を行う標識キットは、PanVera社(日本代理店:宝酒造株式会社)、Invitrogen社(CA、USA)等で販売されている。標識DNAをCGHアレイにプリントしたDNAとハイブリダイズする時にはCot−1DNA、ホルムアミド、Dextran Sulfate、SSC(150mM NaCl/15mM Sodium Citrate)、Yeastt−RNA、SDS(Sodium Deoxysulfate)を加えることがより好ましい。また、標識DNAを含む溶液を熱変性させて加えることが好ましい。ハイブリダイズする容器として、ロッキング機能付プラットフォームに乗せることが可能であり、少量の溶液を用いて本定着基盤上でまんべんなく接触できる容器、例えば、ハイブリマンを用いることがより好ましい。ハイブリダイゼーションの温度は30〜70℃が好適であり、38〜45℃がより好適である。ハイブリダイズの時間は、12〜200時間が好適であり、40〜80時間がより好適である。本定着基盤の洗浄はホルムアミド、SSC溶液等を用いて室温で行うことができる。この本定着基盤の洗浄は、非特異的シグナルをできるだけなくすために重要なステップであり、室温で洗浄後、同洗浄液を用いて40〜60℃で洗浄し、さらに、SSC−SDSを含む溶液中50℃で洗浄を行い、リン酸バッファー/NP−40を含む溶液に静置し、最後にSSCを含む溶液中で振とうすることがより好ましい。
また、本検出方法において、ハイブリダイズを行った本定着基盤における蛍光の発生の内容を把握するためには、例えば、スキャナーを用いることができる。当該スキャナーとしては、例えば、GenePix 4000B(Amersham Biosciences K.K.、東京)等を挙げることができる。結果の解析は、例えば、対照ゲノムDNAをCy5で、被験癌細胞由来のゲノムDNAをCy3で標識する場合、本定着基盤上のCy3蛍光強度の平均とCy5蛍光強度の平均を同じ値に補正することが好適である。さらに、各BAC DNA(各ピクセル)上でCy3/Cy5のRatioを求めLogRatioの値で表示することが好適である。当該蛍光の強度比(肉眼的には蛍光色)を指標とすることにより、被験癌細胞から得られるゲノムDNA検体において、検出目的とする遺伝子の特定部分の増幅や欠失が認められるかを定量的(もちろん定性的にも)に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
図1 下記細胞株のメタフェーズクロモソームを用いた蛍光in situハイブリダイゼーションによる遺伝子増幅並びに欠失の解析した結果を表す写真である。
(A)ヒト大腸癌細胞HT−29株、(B)エトポシド耐性ヒト大腸癌細胞HT−29/ETP株、(C)ヒト卵巣癌細胞SKOV3株、(D)エトポシド耐性ヒト卵巣癌細胞SKOV3/VP株、(E)ヒト白血病K562株、(F)シトシンアラビノシド耐性ヒト白血病K562/AC株、(G)ヒト大腸癌細胞HT−29株、(H)カンプトテシン耐性ヒト大腸癌細胞HT−29/CPT株
HT−29細胞はABCA3遺伝子に由来する緑色蛍光とABCC1(MRP1)遺伝子に由来する赤色蛍光が3ヶ所に検出された(A)。HT−29/ETP細胞ではABCA3遺伝子に由来する緑色蛍光が全染色体中の7ヶ所に、ABCC1(MRP1)遺伝子に由来する赤色蛍光が全染色体中の5ヶ所に検出された(B)。SKOV3細胞でABCA3遺伝子に由来する緑色蛍光は7ヶ所に、HNF3A遺伝子に由来する赤色蛍光は4ヶ所に検出された(C)。SKOV3/VP細胞ではBCL2L2遺伝子に由来する緑色蛍光は6ヶ所に、HNF3A遺伝子に由来する赤色蛍光は4ヶ所に検出された(D)。K562細胞ではDCK遺伝子に由来する緑色蛍光が1ヶ所検出された(E)。K562/AC細胞ではDCK遺伝子に由来する緑色蛍光が1ヶ所検出された(F)。HT−29細胞ではTOP1に由来する緑色蛍光が5ヶ所検出された(G)。HT−29/CPT細胞ではTOP1に由来する緑色蛍光が2ヶ所検出された(H)。
(A)と(B)ではABCA3遺伝子とABCC1遺伝子が非常に近い部位に局在するために、緑色蛍光と赤色蛍光が重なり黄色を呈している。蛍光in situハイブリダイゼーションで使用したBacterial Artificial Chromosome(BAC)並びにP1−Artificial Chromosome(PAC)を下記に示した。

HT−29/ETP細胞染色体上のアンプリコン(遺伝子増幅を示す領域)のマップは16p12−p13にあり、ABCA3遺伝子とABCC1(MRP1)遺伝子が隣接して存在する(I)。SKOV3/VP細胞染色体上のアンプリコンは14q11−q21にあり、BCL2L遺伝子とHNF3A遺伝子が存在する(J)。
蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH:Fluorescence in situ hybridization)はYasui,K.,Imoto,I.,Fukuda,Y.,Pimkahaokham,A.,Yang,Z.Q.,Naruto,T.,Shimada,Y.,Nakamura,Y.,and Inazawa:Identification of target genes within an amplicon at 14q12−q13 in esophageal squamous cell carcinoma.Genes Chromosomes Cancer,32,112−118,2001の方法に従って行った。
(I)と(J)はBAC並びにPAC(それらの番号を記載)を標識プローブに用いてFISHを行い、エトポシド耐性大腸癌(HT−29/ETP)細胞並びにエトポシド耐性卵巣癌(SKOV3/VP)細胞のクロモソーム上での検出部位を→で図中に表示した。その結果をクロモソーム上での局在部位、その領域内に存在するSTS(equence−agged ite)、その領域をカバーするBAC並びにPACクローン名、それらのBAC並びにPACをプローブに用いてHT−29/ETP細胞における本クロモソーム領域の増幅を平均コピー数で表した。ABCA3遺伝子、MRP1遺伝子、BCL2L遺伝子、HNF3A遺伝子が存在するクロモソームの領域を矢印で示した。HT−29/ETP細胞並びにSKOV3/VP細胞の蛍光写真の右上にはプローブに用いたBAC名或いはPAC名を記載した。
図2 薬剤耐性細胞株におけるABCA3遺伝子、ABCC1(MPR1)遺伝子、BCL2L2遺伝子及びABCC9遺伝子の過剰発現を示す図面である。
(A)HT−29細胞及びHT−29/ETP細胞におけるABCA3及びABCC1(MRP)遺伝子発現のNorthernブロット法による解析。これら2種類の細胞から2μgのポリ(A)RNAを調製し、常法によりNorthernブロットを行い、上記2種類の遺伝子発現量を測定した。ABCA3遺伝子及びABCC1(MRP1)遺伝子を検出するためのプローブとして各々IMAGEクローン179576及び2205297(Incyte Genomics,Palo Alto,CA)を使用した。GAPDH(Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)遺伝子プローブはサンプル間の誤差を修正するためのスタンダードとして使用した。
(B)SKOV3細胞及びSKOV3/VP細胞におけるBCL2L2遺伝子発現のNorthernブロット法による解析。これら2種類の細胞から2μgのポリ(A)RNAを調製し、常法を用いてNorthernブロットを行い、BCL2L2遺伝子発現量を測定した。BCL2L2遺伝子を検出するためのプローブは2種類のプライマー(Forward:5’−TATAAGCTGAGGCAGAAGGG−3’(配列番号1)とReverse:5’−TCAGCACTGTCCTCACTGAT−3’(配列番号2))を用いてPCR(polymerase chain reaction)により増幅し、調製した。GAPDH遺伝子プローブはサンプル間の誤差を修正するためのスタンダードとして使用した。
(C)SK3細胞、SK3/VP細胞、並びにSKOV3/VP細胞を用いてABCC9 mRNAの発現解析。これらの細胞よりRNAを調製し、リアルタイム逆転写一PCR法(Yasui,K.,Arii,S.,Zhao,C.,Imoto,I.,Ueda,M.,Nagai,H.,Emi.,M.and Inazawa J.:TFDP1,CUL4A and CDC16 identified as targets for amplification at 13q34 in hepatocellular carcinomas,Hepatology,35,1476−1484,2002)を用いてABCC9遺伝子mRNAを定量した。サンプル間の差を標準化するために、ABCC9遺伝子と対照遺伝子(GAPDH)の発現レベルの比を求め、SK3細胞での比(ABCC9発現量/GAPDH発現量)を1とし、各細胞でのABCC9遺伝子発現量の相対比を図示した。
図3 親株と比較した薬剤耐性細胞株のBCL2ファミリー遺伝子の発現を示す図面である。
各細胞で対照遺伝子(GAPDH)と目的とする遺伝子の発現量の比を求めた。各薬剤耐性細胞の親株の比を1として、各薬剤耐性細胞での発現量の比を示した。遺伝子発現量はリアルタイム逆転写PCRにより測定した。
左欄には薬剤耐性癌細胞名、各バーグラフの上欄には検討した遺伝子名、下欄には上欄に示した遺伝子の発現量を親株と比較した値で示した。
図4 カスパーゼ活性並びにBCL2ファミリー遺伝子発現とエトポシド耐性との関係を示す図面である。
(A)エトポシド(VP−16)処理を行った卵巣癌細胞(SKOV3とSKOV3/VP)のカスパーゼ活性を示している。
カスパーゼ活性の測定はカロリメトリックCaspACEアッセイシステム(Promega Co.,Madison,WI,USA)を用いて説明書に従って行った。SKOV3細胞とSKOV3/VP細胞を100μg/mlのVP−16、VP−16とカスパーゼ阻害剤Z−VAD−FMK、或いは培地(コントロール)だけの存在下で24時間培養した。細胞をリシスバッファーを用いて溶解し、4℃で15,000xg 20分間遠心分離を行い、その上清(100μg蛋白質含有)をカスパーゼ活性測定のための基質(Ac−DEVD−pNA)と共に37℃で4時間インキュベーションを行い、405nmの吸光度を測定することにより、その活性を求めた。
(B)BCL2L2アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理をしたSKOV3/VP細胞でのBCL2L2 mRNAの発現レベルを示している。
SKOV3/VP細胞を無処理、トランスフェクション試薬であるオリゴフェクタミン処理、ホスホロチオエート骨格を有するBCL2L2アンチセンスオリゴヌクレオチド(BCL2L2 cDNAの2374番から2394番までの配列:5’−AGCCTACCACCTCCCCTAGAA−3’(配列番号3))をオリゴフェクタミン処理によりトランスフェクションした場合、スクランブル配列のホスホロチオエート骨格を有するコントロールオリゴヌクレオチド(配列:5’−AAGATCCCCTCCACCATCCGA−3’(配列番号4))をオリゴフェクタミン処理によりトランスフェクションした場合の各々について、RNAを抽出し、リアルタイム逆転写PCR法により、BCL2L2mRNA量を測定した。
(C)BCL2L2遺伝子の発現抑制によるSKOV3/VP3細胞のエトポシドVP−16に対する感受性の増大について示している。
ホスホロチオエート骨格を有するBCL2L2アンチセンスオリゴヌクレオチドをオリゴフェクタミン処理によりトランスフェクション、スクランブル配列のホスホロチオエート骨格を有するコントロールオリゴヌクレオチドをオリゴフェクタミン処理によりトランスフェクション、並びに、無処理の条件でSKOV3/VP3細胞を処理し、24時間後に図に示した各濃度のVP−16存在下で細胞を48時間培養した。SKOV3/VP3細胞の生存率をトランスフェクション72時間後にCell−Counting Kit−8(同仁化学研究所、熊本)を用いてテトラゾリウムアッセイ法により測定した。生存率を%で表示したが、%は上記処理条件下で測定された吸光度をVP−16無添加・無処理の条件下で測定された吸光度で割り算し求めた。各々の値は5回の実験の平均値で、その値は各プロット上の平均値±SDで表示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
薬剤耐性癌細胞に特異的に認められる特定のゲノムDNA領域の変化
Subtractive CGH法は親株のゲノムとそれから誘導した薬剤耐性細胞のゲノム各領域のコピー数を比較し、差し引くことにより遺伝子の増幅の度合いと欠失を定量的に算出する方法である。本法を用いて、親株と比較して23種類の薬剤耐性癌細胞で見出された遺伝子の増幅・欠失の変化を表1に示した。


19種類(全細胞種の83%に相当)の薬剤耐性細胞はDNAコピー数が変化していた。1細胞の全染色体当たり異常が起こっている箇所は0から12ヶ所の範囲であり、平均値は3.7ヶ所であった。遺伝子増幅は0から7ヶ所の範囲で、平均値が2.1ヶ所であった、欠失は0から6ヶ所の範囲で、平均値が1.6ヶ所であった。遺伝子増幅は4細胞(全細胞種の17%に相当)で共通してクロモソーム14qに見出され、3細胞(全細胞種の13%に相当)で共通してクロモソーム4p、6q、7q、13qに見出された。数コピー以上の増幅がカンプトテシン耐性肺癌(A549/CPT)細胞のクロモソーム2q23−q34領域に、シスプラチン耐性膀胱癌(T24/DDP10)細胞のクロモソーム4pに、エトポシド耐性肺癌(SK3/VP16)細胞のクロモソーム7q21−q22領域に、シトシンアラビノシド耐性白血病(K562/AC)細胞のクロモソーム15q21−q24領域に検出された。遺伝子欠失は4細胞(全細胞種の17%に相当)でクロモソーム5pと11pに、3細胞(全細胞種の13%に相当)でクロモソーム11qと20qに検出された。8種類のシスプラチン耐性細胞を試験し、共通に認められるクロモソーム増幅の最小領域は3p22−p26(大腸癌HT−29/cDDP細胞と膀胱癌T24/DDP10細胞)、4p15−p16(膀胱癌T24/DDP5、T24/DDP7及びT24/DDP10細胞)、及び5p15(大腸癌HT−29/cDDP細胞と膀胱癌T24/DDP10細胞)であった。シスプラチン耐性細胞で共通して欠失しているクロモソームの領域は、5p(膀胱癌KK47/DDP10細胞並びにKK47/DDP20細胞)、13q14−q34(膀胱癌T24/DDP5及びT24/DDP10細胞)、及び15q11−q21(大腸癌HT−29/CDDP並びに膀胱癌T24/DDP10細胞)であった。さらに、10種類のエトポシド耐性癌細胞で2種類のクロモソーム領域の変化が共通して検出された。それは、クロモソーム16p12−p13領域の増幅(大腸癌HT−29/ETP細胞、白血病K562/etop20細胞及び白血病K562etop80細胞)とクロモソーム20q12−q13の領域の欠失(肺癌SK3/VP細胞及び卵巣癌SKOV3/VP細胞)である。クロモソーム11p11−p14領域の欠失は3種類すべてのカンプトテシン耐性細胞(大腸癌HT−29/CPT、肺癌A549/CPT及び胃癌St−4/CPT細胞)で共通に認められた。次に、これらのクロモソーム領域の増幅並びに欠失領域に含まれる薬剤耐性と密接に関連する遺伝子群の同定を進めた。
【実施例2】
ABCトランスポーター遺伝子の増幅と過剰発現
ABCトランスポーターをコードするヒト遺伝子として48種類がこれまで知られている(Dean,M.,Hamon,Y.and Chimini,G.:The human ATP−binding cassette(ABC)transporter superfamily,J.Lipid Res.,42,1007−1017,2001)。ここで試験した薬剤耐性細胞中では20種類のABCトランスポーター遺伝子が増幅していた。その中で、17種類の遺伝子の増幅をFISH法で確認した。
13種類のABCトランスポーターは親株と比較すると19種類の薬剤耐性細胞で確実に増幅していた(表2)。

特に、ABCA3遺伝子、ABCB1(MDR1)遺伝子、ABCC9(SUR2)遺伝子はコピーナンバーで2コピー以上の増幅が認められた。CGH法によりクロモソーム16p12−p13領域で遺伝子増幅が検出されたエトポシド耐性大腸癌HT−29/ETP細胞では、クロモソーム16p13.3に局在するABCA3遺伝子のFISH法で求めたコピー数は7コピーで、16p13.1に局在するABCC1(MRP1)遺伝子のそれは5コピーであった。一方、HT−29/ETP細胞の親株(HT−29)では両遺伝子のコピー数は3コピーで、より低い値を示した(図1AとB)。この結果は親株が耐性株と比較しエトポシドに感受性がより高いことを示している。FISH法を用いて、エトポシド耐性大腸癌(HT−29/ETP)細胞で増幅されたABCA3遺伝子が局在するクロモソームの最小の染色体領域をBACクローン番号RP11−334D3(マーカーD16S525を含む)とRP11−95P2(マーカーSHGC−11838を含む)の間に同定した(図11)。クロモソーム7q21に局在するABCB1遺伝子のFISH法で求めたコピー数はエトポシド耐性肺癌(SK3/VP16)細胞では11コピーであり、親細胞の3コピーと比較すると顕著に高い値であった。クロモソーム12p12.1に局在するABCC9遺伝子のFISH法で求めたコピー数はエトポシド耐性肺癌(SK3/VP16)細胞とエトポシド耐性卵巣癌(SKOV3/VP)細胞では5コピーであり、親株の2コピーより有意に高い値である。次に、これらの遺伝子の増幅はそのmRNAの高発現を誘導すると考えられるので、その確認をおこなった。親株並びにその親株より得られた薬剤耐性細胞からRNAを抽出し、Northernブロッティングを行うと親株の大腸癌HT−29細胞と比較して、エトポシド耐性HT−29/ETP細胞はABCA3遺伝子発現が10.6倍、ABCC1遺伝子発現が2.6倍増大していた(図2A)。この結果より両遺伝子はクロモソーム16p12−13領域に存在するが、ABCA3遺伝子はABCC1遺伝子よりもよりエトポシド耐性を付与するより重要な遺伝子である。ABCB1遺伝子発現はエトポシド耐性肺癌(SK3/VP16)細胞では親細胞(SK3)よりも3.3倍高い発現を示した。ABCC9遺伝子発現はSK3/VP16細胞では親細胞よりも13.3倍高い発現を示した。一方、それはエトポシド耐性卵巣癌(SKOV3/VP)細胞ではその親細胞(SKOV3)と比較して1.6倍の発現を示すのみであった(図2C)。従って、細胞種により薬剤耐性に関与するABCトランスポーター遺伝子が異なることが示唆される。薬剤耐性を解析するためには、広範囲のABCトランスポーター遺伝子群を網羅的に解析することが必要となる。
【実施例3】
BCL2ファミリーに属する抗アポトーシス蛋白質をコードする遺伝子の増幅と高発現
BCL2遺伝子、BCL2L1(BCLXL)遺伝子、BCL2L2(BCLW)遺伝子、BCL2A1遺伝子、MCL1遺伝子及びBCL2L10遺伝子の各遺伝子群はBCL2ファミリーに属し、抗アポトーシスの作用を有する制御蛋白質である(Gross,A.,McDonnell,J.M.,and Korsmeyer,S.J.:BCL−2 family members and the mitochondria in apoptosis,Genes Dev.13,1899−1911,1999)。
BCL2L1(BCLXL)遺伝子を除く5種類の遺伝子は薬剤耐性細胞で遺伝子増幅が認められた。FISHを用いた解析で、それぞれの親株と比較して、エトポシド耐性卵巣癌(SKOV3/VP)細胞ではBCL2L2遺伝子の増幅、カンプトテシン耐性大腸癌(HT−29/CPT)細胞ではMCL1遺伝子の増幅、シトシンアラビノシド耐性白血病(K562/AC)細胞ではBCL2L10遺伝子の増幅が起こっていた(表2)。この場合、エトポシド耐性卵巣癌(SKOV3/VP)細胞ではその親細胞と比較して、クロモソーム14q11−q21の領域が増幅しており、クロモソーム14q11.2−q12に局在するBCL1L2遺伝子のFISH法により求めたコピー数は6コピーであった(図1、CとD)。
Hepatocyte nuclear factor 3ファミリー遺伝子であるHNF3A遺伝子はクロモソーム14q12にマップされ、食道癌であるEsophageal squamous cell carcinomasのクロモソーム14q12−q13上にこの領域の増幅を誘起するアンプリコンとして見出されている。エトポシド耐性卵巣癌細胞で、HNF3A遺伝子のFISH法で求めたコピー数は4コピーであった(図1D)。BCL2L2遺伝子はエトポシド耐性細胞株SKOV3/VP細胞においてクロモソーム14q11−q21領域でのアンプリコンとして可能性の高い領域に存在している。さらに、BCL2L2遺伝子を含むアンプリコンはマーカーD14S879(BACクローンRP11−146E13)とSHGC−10164(BACクローンRP11−144C18)の間に存在する(図1J)。Northernブロット法によりBCL2L2遺伝子の発現を検討した所、親株と比較してSKOV3/VP細胞ではその遺伝子発現は3.3倍に増大していた(図2B)。
次に、上記6種類のBCL2ファミリー遺伝子発現を22種類の薬剤耐性細胞で比較した(図3)。BCL2遺伝子発現は4種類の薬剤耐性細胞で親株と比較して2倍以上の高レベル発現を示した。同様にBCL2L1(BCLXL)遺伝子発現は1種類の薬剤耐性癌細胞で、BCL2L2遺伝子発現は3種類の薬剤耐性癌細胞で、MCL1遺伝子発現は1種類の薬剤耐性癌細胞でBCL2A1遺伝子発現は1種類の薬剤耐性癌細胞で、BCL2L10遺伝子発現は5種類の薬剤耐性癌細胞でそれぞれの親株と比較して2倍以上の高レベル発現を示した(図2Bと図3)。
MCL1遺伝子はカンプトテシン耐性大腸癌HT−29/CPT細胞で、BCL2L10遺伝子はシトシンアラビノシド耐性白血病K562/AC細胞で、それらの遺伝子増幅に比例して高い発現をしていた(表2と図3)。従って、BCL2ファミリー遺伝子の高発現は制癌剤耐性を誘導することが判明し、その遺伝子増幅の解析は薬剤耐性能を検査上で重要であることが判明した。
【実施例4】
エトポシド(VP−16)により誘導されたアポトーシスに対するBCL2L2の影響
制癌剤によるアポトーシスの誘導に対するBCL2L2遺伝子発現の影響を検討した。ヒト卵巣癌SKOV3細胞とエトポシド耐性卵巣癌SKOV3/VP細胞を100μg/mlのVP−16存在下で24時間培養し、caspase−3の活性化に伴うアポトーシスを測定した。その結果、カスパーゼ活性は親株と比較するとエトポシド耐性SKOV3/VP細胞では約1/2に低下した(図4A)。次に、BCL2L2遺伝子の役割を解析するために、BCL2L2のアンチセンスオリゴヌクレオチドで細胞を処理し、BCL2L2遺伝子発現を抑制した条件でVP−16の影響を検討した。トランスフェクション試薬(Oligofectamine)単独、BCL2L2のセンスオリゴヌクレオチド(スクランブル配列のコントロールオリゴヌクレオチド)は影響しないが、BCL2L2のアンチセンスオリゴヌクレオチドを添加するとBCL2L2遺伝子発現が低下した(図4B)。この条件でSKOV3/VP細胞のエトポシド(VP−16)に対する感受性が増大した(図4C)。従って、BCL2ファミリー遺伝子の増幅がカスパーゼ活性を低下させ、制癌剤耐性を誘導しているといえる。
【実施例5】
DCK、TOP1、TOP2Aの遺伝子コピー数と発現レベル
シトシンアラビノシド耐性白血病K562/AC細胞はデオキシシチジンキナーゼ(DCK)遺伝子が局在するクロモソーム4qの領域を欠失、カンプトテシン耐性大腸癌HT−29/CPT細胞はトポイソメラーゼ1(TOP1)が局在するクロモソーム20qを欠失する。一方、TOP2Aが局在するクロモソーム17q21−22の領域は5種類のエトポシド(VP−16)耐性細胞では増幅・欠失は認められない(表1)。シトシンアラビノシド(Ara−C)、カンプトテシン(CPT)及びエトポシド(VP−16)耐性細胞で、FISH法を用いてDCK遺伝子、TOP1遺伝子、TOP2A遺伝子のコピー数を求め、リアルタイム逆転写−PCR法によりそれらの発現レベルを測定した(表3)。

親株と比較してシトシンアラビノシド耐性白血病(K562/AC)細胞はDCK遺伝子のFISH法により求めたコピー数は1コピーであった。これはAra−C耐性細胞における2対の遺伝子中で1対の欠失を示している(図1EとF)。DCK遺伝子の発現はヒト白血病K562細胞で明らかに検出されたが、シトシンアラビノシド耐性白血病K562/AC細胞では検出されなかった。大腸癌HT−29細胞はTOP1遺伝子を5コピー有しているが、カンプトテシン耐性大腸癌HT−29/CPT細胞では2コピーであり、顕著に低下していた(図1GとH)。同様に、親株胃癌(St−4)細胞ではTOP1のコピー数は6コピーであったが、カンプトテシン耐性胃癌(St−4/CPT)細胞では3コピーに減少し、3種類のカンプトテシン耐性細胞株ではすべて3コピー以下に減少していた。TOP2A遺伝子のコピー数はそれぞれの親株と比較して、カンプトテシン耐性大腸癌HT−29/ETP細胞、エトポシド耐性白血病(K562/etop20及びK562/etop80)細胞で減少し、TOP2A遺伝子発現は5種類すべてのエトポシド耐性細胞株で低下していた。
従って、DCK遺伝子、TOP1遺伝子及びTOP2A遺伝子のコピー数の減少は制癌剤の耐性と密接に関係しており、クロムソームのこれらの遺伝子の増幅並びに欠失を解析することは癌細胞の制癌剤耐性能を検査する上で極めて重要である。
【実施例6】
癌細胞及び癌組織の薬剤耐性能を診断するCGHアレイの作成
ABCトランスポーターファミリーに属するABCA3遺伝子、ABCB1遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCB11遺伝子、ABCC1遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子及びABCF2遺伝子はそれぞれBACクローン、RP11−304L19、RP11−212B1、RP11−803J6、RP11−606P1、RP4−613A2、RP11−704B8、RP11−516F7、RP11−124D15、RP11−729I10、RP11−272P3、RP5−919J22、RP11−543H9及びRP4−548D19に含まれている。BCL2ファミリーに属するBCL2L2遺伝子、MCL1遺伝子及びBCL2L10遺伝子はそれぞれBACクローン、RP11−124D2、RP11−243G22及びRP11−337B11に含まれる。これらのBAC DNAを4塩基認識酵素RsaIで消化した後アダプターを加えてライゲーションを行った。その後、アダプターの配列をプライマーに用いてPCRを行い、遺伝子増幅を行った(この増幅工程を無尽蔵化と言う)。コントロールDNAとして、上記以外の5種類のBAC DNA(RP11−98A20、RP11−252O11、RP11−357G3、RP11−196F4及びRP11−736A8)を無尽蔵化して調製した。
無尽蔵化したDNAをインクジェット式プリンターを用いてアミノ化オリゴヌクレオチド固定化アレイ用スライドグラスにTriplicateにスポットすることによりDNA定着基盤を作成した。
健常者組織に由来するDNAをCy5で標識し、癌患者より摘出した癌組織に由来するDNAをCy3で標識する。その混液をDNA定着基盤上でハイブリダイゼーションを行い、そのアレイをスキャンし、Cy3のシグナルとCy5のシグナルを標準化した後Cy3/Cy5の強度比を求める。その比が2であればDNA定着基盤にプリントした遺伝子を含むゲノムの領域が癌組織で2倍に増幅、その比が4であれば4倍に増幅していることを示す。
【産業上の利用可能性】
ヒトABCトランスポーター系遺伝子、BCL2ファミリー遺伝子またはDNA合成関連遺伝子群は、制癌剤耐性に密接に関連している。従って、本発明により、癌細胞の染色体上でのこれらの遺伝子領域の増幅及び欠失を調べることにより、癌細胞の制癌剤耐性を判定することが可能である。その結果、癌患者の患部の細胞が制癌剤耐性かどうか容易に診断することが可能である。これは患者個人に適切な化学療法即ちオーダーメイド医療を可能にし、制癌剤耐性能獲得に基づく奏効率の極めて低い化学療法を避けることが可能であり、かつ、患者のQuality of Lifeの無用な低下を防ぐことができる。
【図1】


【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験癌細胞における、ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2、BCL2L10、BCL2L1、および、BCL2A1からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子の増幅を検出することにより、当該被験癌細胞における制癌剤に対する薬剤耐性の獲得を検出する、検出方法。
【請求項2】
ABCA3遺伝子の増幅がエトポシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB6遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB8遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCB10遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCC4遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCC9遺伝子の増幅がエトポシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCD3遺伝子の増幅がエトポシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCD4遺伝子の増幅がアドリアマイシンに対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCE1遺伝子の増幅がカンプトテシン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、ABCF2遺伝子の増幅がシスプラチン類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、BCL2L2遺伝子の増幅がカントプテシン類、シスプラチン類、エトポキシド類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、BCL2L10遺伝子の増幅が、カントプテシン類、シスプラチン類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標であり、BCL2L1遺伝子の増幅が、カントプテシン類、シスプラチン類、エトポシド類またはシトシンアラビノシド類に対する薬剤耐性獲得の指標である、請求項1記載の検出方法。
【請求項3】
検出方法を、CGH法、フローサイトメトリー法、ELISA法、DNAチップ法、または、定量PCR法により行う、請求項1または2の検出方法。
【請求項4】
検出方法をCGH法またはDNAチップ法により行う、請求項1または2記載の検出方法。
【請求項5】
CGH法またはDNAチップ法に用いる基盤が、ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2遺伝子、BCL2L10遺伝子、BCL2L1遺伝子、および、BCL2A1遺伝子からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子を含有するDNAの定着基盤である、請求項4記載の検出方法。
【請求項6】
上記DNAの定着基盤が、さらに、ABCB1遺伝子、ABCC1遺伝子、ABCB11遺伝子、BCL2遺伝子、MCL1遺伝子、BCLXL遺伝子、DCK1遺伝子、TOP1遺伝子、および、TOP2A遺伝子からなる群のABCトランスポーター系遺伝子、BCL2ファミリー遺伝子またはDNA合成関連遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子を含有するDNA定着基盤である、請求項5記載の検出方法。
【請求項7】
それぞれ異なる蛍光色素で標識した対照DNAと薬剤耐性の獲得を検出する対象となる被験癌細胞のDNAを、上記DNA定着基盤上において同時に接触させてハイブリダイズを行うことにより得られる蛍光色を指標として、被験DNAの特定領域の増幅または欠失を定量的に検出する、請求項4〜6のいずれかに記載の薬剤耐性獲得癌細胞の検出方法。
【請求項8】
上記DNA定着基盤に定着されるDNAと被験DNAと対照DNAが、ゲノムDNAである、請求項7記載の薬剤耐性獲得癌細胞の検出方法。
【請求項9】
ABCA3遺伝子、ABCB6遺伝子、ABCB8遺伝子、ABCB10遺伝子、ABCC4遺伝子、ABCC9遺伝子、ABCD3遺伝子、ABCD4遺伝子、ABCE1遺伝子、ABCF2遺伝子、BCL2L2遺伝子、BCL2L10遺伝子、BCL2L1遺伝子、および、BCL2A1遺伝子からなる群のABCトランスポーター系遺伝子またはBCL2ファミリー遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子を含有するDNAが定着している、DNAの定着基盤。
【請求項10】
さらに、ABCB1遺伝子、ABCC1遺伝子、ABCB11遺伝子、BCL2遺伝子、MCL1遺伝子、BCLXL遺伝子、DCK1遺伝子、TOP1遺伝子、および、TOP2A遺伝子からなる群のABCトランスポーター系遺伝子、BCL2ファミリー遺伝子またはDNA合成関連遺伝子から選ばれる1種以上の遺伝子を含有する複数種類のDNAが定着している、請求項8記載のDNAの定着基盤。
【請求項11】
基盤に定着させる複数種類のDNAが、ゲノムDNA、cDNA、または、合成オリゴヌクレオチドである、請求項9または10記載のDNAの定着基盤。
【請求項12】
複数種類のDNAがゲノムDNAであり、かつ、当該ゲノムDNAが、BAC DNA、YAC DNA、または、PAC DNAの遺伝子増幅産物である、請求項11記載のDNAの定着基盤。

【国際公開番号】WO2005/078100
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517852(P2005−517852)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001574
【国際出願日】平成16年2月13日(2004.2.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(503073916)
【出願人】(591083336)株式会社ビー・エム・エル (31)
【Fターム(参考)】