説明

薬注装置、循環冷却システム及び膜分離システム

【課題】比較的簡易な構成で精度よく迅速に微生物の増減傾向をモニタリングすることができる微生物汚れモニターを用いた薬注装置、循環冷却システム及び膜分離システムを提供する。
【解決手段】プロトン透過性を有した非導電性の隔膜2と、該隔膜2の一方の面に設けられた、被検液が接触する第1の導電体(負極6)と、該隔膜2の他方の面に設けられた、塩化第2鉄水溶液などの電子受容体含有流体が接触する第2の導電体(正極5)とを備えてなる微生物汚れモニターの電位差又は電流値が経時的に増加するときには薬注量を増加させ、電位差又は電流値が経時的に減少するときには薬注量を減少させるように薬注制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ、冷却水系などの水系の微生物汚れをモニタリングして薬注を行う薬注装置に係り、特に微生物発電システムを利用した微生物汚れモニターを有する薬注装置に関する。また、本発明は、この薬注装置を備えた循環冷却システム及び膜分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水系のスライムをモニタリングするスライムモニターとして、特開2009−236715(特許文献1)に、プロトン透過性を有した非導電性の隔膜と、該隔膜の一方の面に設けられた、被検液が接触する第1の導電体と、該隔膜の他方の面に設けられた、酸素含有ガスが接触する第2の導電体とを備えてなるものが記載されている。
【0003】
このスライムモニターにあっては、被検液と接触した第1の導電体にスライムが付着すると、該第1の導電体が微生物発電装置の負極として機能する。また、酸素含有ガスと接触する第2の導電体が正極として機能する。
【0004】
この第1の導電体では、付着した微生物が有機物を以下の式にしたがって分解し、電子(e)とプロトン(H)が生成する。
【0005】
(有機物)+HO→CO+4H+4e
【0006】
第1の導電体と、酸素含有ガスが接触する第2の導電体とを電気配線で接続すると、上記反応で生成した電子はこの電気配線を通って正極へ到達し、非導電性隔膜を通過して第2の導電体に到達したプロトンとともに、酸素を電子受容体とした下記の反応式にしたがって水が生成する。このときの発生電圧は理論的には1.1Vとなる。
【0007】
+4H+4e→2H
【0008】
上記電気配線中に抵抗を挿入すると、抵抗値に応じた電流が流れると共に、抵抗と電流との積に相当する電位差(電圧降下)が抵抗の両端間に生じる。この電流又は電位差は、第1の導電体へのスライム付着量に比例するので、この電流又は電位差から被検液のスライム発生傾向を検知することができる。
【0009】
そこで、上記特開2009−236715では、同号公報の段落[0031]〜[0035]の通り、第1の導電体と第2の導電体との間の電位差又は電流に基づいて薬注量を制御する。
【0010】
なお、負極を有し、微生物及び電子供与体を含む液を保持する負極室と、該負極室に対しイオン透過性非導電性膜を介して隔てられており、該イオン透過性非導電性膜に接する正極を有する正極室とを備えた微生物発電装置の該正極室に空気などの酸素含有ガスを供給して発電を行う微生物発電方法及びその装置は、特開2010−170828号などに見られる通り公知である。
【0011】
また、この正極室内を液で満たし、この液を酸素含有ガスで曝気する微生物発電方法及び装置も公知である(特開2009−231230)。
【0012】
正極室内にフェリシアン化カリウム水溶液を通水し、フェリシアン化カリウムを電子受容体とした還元反応
Fe(CN)3−+e+H→FeH(CN)3−
を行わせてプロトンと電子で消費する微生物発電方法及び装置が特開2009−152091号及び特開2009−152097号に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−236715
【特許文献2】特開2010−170828
【特許文献3】特開2009−231230
【特許文献4】特開2009−152091
【特許文献5】特開2009−152097
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記特許文献1のように微生物発電装置の負極室に被検液を流通させ、第1の導電体と第2の導電体との間の電位差又は電流に基づいて薬注量を制御する薬注装置において、水質の急な変動に迅速に対応することができる薬注装置と、この薬注装置を用いた循環冷却システム及び膜分離システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明(請求項1)の薬注装置は、プロトン透過性を有した非導電性の隔膜と、該隔膜の一方の面に設けられた、被検液が接触する第1の導電体と、該隔膜の他方の面に設けられた、酸素含有ガスが接触する第2の導電体とを備えてなる微生物汚れモニターと、該微生物汚れモニターの前記第1の導電体と第2の導電体との間の電位差または電流値に基づいて水系に対するスライムコントロール剤の添加量を制御する薬注制御手段と、を有する薬注装置において、該薬注制御手段は、前記電位差又は電流値が経時的に増加するときには薬注量を増加させ、電位差又は電流値が経時的に減少するときには薬注量を減少させるように薬注制御を行うことを特徴とするものである。
【0016】
本発明(請求項2)の循環冷却システムは、冷却塔と、該冷却塔から冷却水が循環配管を介して通水される熱交換器と、冷却水にスライムコントロール剤を添加するスライムコントロール剤添加手段とを備えた循環冷却システムにおいて、請求項1の薬注装置を備え、該薬注装置の前記微生物汚れモニターの前記第1の導電体に冷却水を接触させ、前記薬注制御手段によって該スライムコントロール剤添加手段を制御することを特徴とするものである。
【0017】
本発明(請求項3)の膜分離システムは、膜分離装置と、該膜分離装置への供給水にスライムコントロール剤を添加するスライムコントロール剤添加手段とを備えた膜分離システムにおいて、請求項1の薬注装置を備え、該薬注装置の前記微生物汚れモニターの前記第1の導電体に該供給水を接触させ、前記薬注制御手段によって該スライムコントロール剤添加手段を制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の薬注装置は、上記微生物汚れモニターの電位差又は電流値が経時的に増加するときには薬注量を増加させ、電位差又は電流値が経時的に減少するときには薬注量を減少させる。このように微生物汚れモニターの電位差又は電流値の経時的変化に対応して薬注量を制御すると、水質の急な変化に対しても迅速に対応することができる。
【0019】
一般に、微生物発電装置では、負極室に通水する水に含まれる有機物の分解速度に比例して発電される。したがって、膜分離装置供給水や循環冷却水等を微生物発電装置に通水すると、その水の微生物生成ポテンシャルに比例した発電量にて発電されることになる。この発電量は、微生物発電装置の負極室に存在する生物の有機物分解速度に比例するため、薬剤の濃度だけではなく、有機物の濃度、共存する阻害物質や栄養塩等、被検水の生物に対する影響全体を反映したものとなる。
【0020】
被検水中に有機物や窒素が全く存在しない場合、発電はその時点ですでに負極に付着又は接触している微生物の内生呼吸によるもののみとなる。この状態で、負極室に窒素、有機物が流入すると、発電量は窒素、有機物の量に比例して増加する。
【0021】
水系に殺菌剤または増殖抑制剤を添加すると、微生物による有機物の分解速度は低下し、それにしたがって発電電位が低下する。この電位低下は、静菌効果、殺菌効果と正の相関があり、微生物発電装置の負極に付着又は接触している生物がすべて死滅すると、発電は停止する。
【0022】
すなわち、微生物発電装置の発電量が増加しているときは、該装置内の微生物が増殖過程にあることを示し、逆に減少しているときは、微生物活動が抑制されている(例えば微生物が減少している)ことを示している。微生物が増殖も減少もしていないときは、一定の値を示し、電圧は変化しない。
【0023】
これらの反応を利用して、被検水の微生物増殖にかかわる因子、および微生物増殖状態をモニタリングし、スライムコントロール剤の添加量を制御する。
【0024】
本発明では、微生物の代謝の程度が直接に検出され、微生物が増加傾向にあるか減少傾向にあるかを連続的にモニタリングすることができる。この電流又は電圧の経時的変化より、微生物増殖、減少を迅速にモニタリングすることができ、的確な薬注制御が可能である。本発明で用いる微生物汚れモニターは、その特性上、浮遊菌と付着菌どちらに対しても適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態で用いられる微生物汚れモニターの断面図である。
【図2】実施の形態に係る循環冷却システムのフロー図である。
【図3】試験結果を示すグラフである。
【図4】別の実施の形態で用いられる微生物汚れモニターの断面斜視図である。
【図5】図4の微生物汚れモニターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0027】
第1図は本発明の実施の形態で用いられる微生物汚れモニターとしての微生物発電装置1の概略的な構成を示す模式的断面図である。
【0028】
槽体内がプロトン透過性の区隔材2によって正極室3と負極室4とに区画されている。正極室3内にあっては、区隔材2に密着するように、導電性多孔質材料よりなる正極(第2の導電体)5が配置されている。正極5と槽体1の壁面との間のスペースは正極溶液で満たされている。この正極溶液は流入口3aから流入し、正極室上部の流出口3bから流出する。
【0029】
この正極溶液には、酸素、フェリシアン化カリウム又は塩化第2鉄などの電子受容体が溶解している。なお、後述の実施例では電子受容体として塩化第2鉄が溶解している。
【0030】
負極室4内には、導電性多孔質材料よりなる負極(第1の導電体)6が配置されている。この負極6は、区隔材2に密着しており、負極6から区隔材2にプロトン(H)が受け渡し可能となっている。
【0031】
負極室4には流入口4aから被検液(水系の水)を脱気処理してから導入し、流出口4bから廃液を排出させる。なお、負極室4内は嫌気性とされる。
【0032】
正極室3内に正極溶液を通液することにより、
(有機物)+HO→CO+H+e
なる反応が進行する。この電子eが負極6、端子9、外部抵抗8、端子7を経て正極5へ流れる。
【0033】
上記反応で生じたプロトンHは、区隔材2を通って正極5に移動する。正極5では、電子受容体が酸素の場合
+4H+4e→2H
なる反応が進行する。電子受容体がフェリシアン化カリウムの場合
Fe(CN)3−+e+H→FeH(CN)3−
なる反応が進行する。電子受容体が塩化第2鉄の場合
FeCl+H+e→FeCl+HCl
なる反応が進行する。なお、正極溶液中のフェリシアン化カリウム又は塩化第2鉄の濃度は0.01〜4wt%特に0.1〜2wt%程度が好適である。
【0034】
隔膜5としては、プロトン透過性を有した非導電性の合成樹脂膜が好適であり、例えばカチオン交換膜、アニオン交換膜、バイポーラ膜、精密濾過膜、逆浸透膜などが好適であるが、微生物汚れモニターの感度を高めるために、プロトンの移動の容易さからカチオン交換膜が特に好適である。プロトンを透過させ易くするために、隔膜は厚さが10μm〜1mm程度の薄いものが好ましい。
【0035】
負極6は、多くの微生物を保持できるよう、表面積が大きく空隙が多く形成され通水性を有する、且つ生物に対する毒性のない素材よりなる多孔体が好ましい。具体的には、導電体のシートや導電体をフェルト状、クロス状、ペーパー状、ハニカム状、格子状その他の多孔性シートにした多孔性導電体(例えばグラファイトフェルト、発泡チタン、発泡ステンレス等)が挙げられる。
【0036】
負極6は、厚さが0.03〜40mm、特に0.1〜10mm程度であることが好ましい。
【0037】
正極5としては、材料及び厚さ共に負極6と同様のものを用いることができる。なお、高感度とするためには、導電性材料で構成された多孔質基材に触媒を坦持させたものが好ましく、例えばグラファイトフェルトやカーボンペーパーを基材として白金等を坦持させたものが好適である。高感度を必要としない場合には、安価なグラファイトをそのまま(つまり、白金を担持させずに)使用してもよい。また、白金以外の安価な触媒、例えば、コバルト、ニッケル、マンガン等を使用しても良い。
【0038】
循環冷却システムの循環水や膜分離システムへの供給水を負極室4に通水すると共に、正極室に空気、酸素、酸素含有ガスなどや、電子受容体含有液を流通させることにより、負極6にスライム(微生物を含んだ粘着性物質)が生成し、また負極室中の浮遊菌も増加し、正極5と負極6との間に電位差が発生するようになる。
【0039】
この電位差は、負極室4に存在する微生物の量及び水系の有機物濃度に依存する。
【0040】
水系が有機物を多く含むなど微生物を生成させ易い状況にあるほど、微生物の代謝活動が活発となり、両極間の電位差Vが大きくなる。従って、この電位差Vから水系の微生物増加傾向を検知する(モニタリングする)ことができる。また、上記電位差が大きいほど、両極間に流れる電流Iも多くなることから、この電流Iを検出することによっても水系の微生物増加傾向を検知することができる。
【0041】
また、有機物濃度が短時間のうちに急激に上昇した場合には、電位差−時間グラフ又は電流−時間グラフの傾き(ΔV/Δt又はΔI/Δt)が大きくなり、有機物濃度が短時間のうちに急激に減少した場合にもこれらのグラフの傾き(ΔV/Δt又はΔI/Δtの絶対値)が大きくなる。そこで、本発明では、かかるΔV/Δt又はΔI/Δtなど、微生物汚れモニター1の検出値の経時的変化を検知することによって、水系のスライム傾向を検知する。
【0042】
なお、被検液(水系の水)を微生物発電装置に通水する場合、直接に供給してもよく、受槽を介して供給してもよい。受槽を用いる場合、一過式通水、循環通水のいずれでもよい。
【0043】
被検水の供給速度は、速いほど感度が高くなるため望ましい。具体的には、負極室での対象水の滞留時間は1秒から1時間程度、望ましくは1秒から10分程度が好ましい。
【0044】
受槽を用いて被検水を循環する場合は、被検水の供給速度は連続給水の場合の1/10〜1/100程度が好ましい。循環水量は、負極室の滞留時間を10秒〜10分程度にする程度が好ましい。これは、被検水中の有機物のすべてを負極室内の微生物が分解するように通水量を設定することによって、正確なスライムポテンシャルが測定できるためである。
【0045】
測定にあたっては、生物発電装置に供給する対象水のpH、温度を一定に保つことが望ましい。測定中に、pH、温度が変動すると、発電電位もそれにつれて変動するため、誤差の原因となる。pHは6〜9、温度は10℃〜45℃が望ましい。
【0046】
上記の操作によって生物発電装置の電位差又は電流を測定し、電位差又は電流の上昇時にはスライムコントロール剤の添加量を増加させ、電位差又は電流の低下時には添加量を減少させる。この操作を連続的に行ってもよく、間欠的、例えば定期的に電位差又は電流を測定して添加量を制御してもよいが、連続的に測定して薬注制御する方が、薬剤添加量を的確に制御できるため好ましい。
【0047】
この水系としては、ボイラ水系、循環冷却水系、紙パルプ水系、純水製造などの用水系、ガス処理のスクラバー用水系などが例示されるが、これらに限るものではない。
【0048】
第2図は本発明の実施の形態に係る循環冷却システムとしての開放循環冷却水系の系統図である。
【0049】
この開放循環冷却水系では、冷却塔31から、ポンプPを有する循環配管32により冷却水が熱交換器33に送給され、戻り水が配管34より冷却塔31に戻される。35は補給水の導入配管、36はブロー配管である。
【0050】
冷却塔31には、冷却水の電気伝導度を検知する電気伝導度計40が設けられており、この電気伝導度計40の検出値が濃縮管理装置41に入力され、濃縮管理装置41は、電気伝導度が規定範囲内に納まるように補給水配管35のバルブ35aとブロー配管36のバルブ36aを制御する。
【0051】
また、この冷却塔31内の水は、ポンプPを有する配管43を介して微生物汚れモニター1の負極室6に導入される。この微生物汚れモニター1の検出電圧又は電流が薬注手段44に入力される。
【0052】
図示は省略するが、この薬注手段44は、薬注タンク、薬注ポンプ及び該薬注ポンプの制御器を備えている。微生物汚れモニター1からの検出値が該制御器に入力され、上記の通り、この検出値の経時的変化に基いてスライムコントロール剤の薬注量が制御される。
【0053】
スライムコントロール剤は微生物の活動を抑制する作用を有するものであり、例えば、MBT(メチレンビスチオシアネート)、DBNPA(2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド)、DBNE(2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール)、BBAB(ビス−1,4−ブロモアセトキシ−2−ブテン)、MIT(5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン)、ジチオール(4,5−ジクロロ−1,2−ジチオラン−3−オン)、CFIPN(5−クロロ−2,4,6−トリフルオロイソフタロニトリル)、HBDS(ヘキサブロモジメチルスルホン)、TCS(3,3,4,4−テトラクロロテトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド)、BNP(2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール)、BIT(ベンゾイソチアゾリン−3−オン)、GA(グルタールアルデヒド)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0054】
なお、薬注は補給水に対して行われてもよい。また、微生物汚れモニター1への冷却水の採取は、配管32又は34から行われてもよい。
【0055】
第2図では循環冷却システムが示されているが、本発明は逆浸透膜分離装置の供給水へのスライムコントロール剤の薬注制御にも適用可能である。
【0056】
本発明では、被検水を脱気処理してから負極室に導入してもよい。このようにすれば、被検水中の溶存酸素の影響が排除され、水系におけるスライムの発生傾向を精度よくモニタリングすることができる。
【0057】
脱気手段としては、窒素脱気装置、膜脱気装置など各種のものを用いることができる。脱気の程度は、溶存酸素(DO)が実質的に0mg/Lであることが最も好ましいが、実用的には、コスト及び手間を勘案して、冷却水系では1mg/L以下、特に0.5mg/L以下程度、逆浸透膜装置への通水系(RO通水系)であれば0.5mg/L以下、特に0.1mg/L以下となる程度が望ましい。
【0058】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は図示以外の、例えば前記特許文献2〜5の微生物発電装置を微生物汚れモニターとして用いてもよい。また、本発明では、前記特許文献1のスライムモニターを用いてもよい。第4,5図はこの特許文献1の構成を有したスライムモニターを示すものである。
【0059】
このスライムモニター11は、それぞれフランジ12a,13aを有した短い円筒形のホルダ12,13を用いてプロトン透過性を有した非導電性の隔膜14を保持し、この隔膜14の一方の面に密着するように負極としての第1の導電体21を配置し、隔膜14の他方の面に密着するように正極としての第2の導電体22を配置したものである。ホルダ12,13は、アクリル等の非導電性合成樹脂よりなるものであり、フランジ12a,13aを対峙させて同軸状に配置され、フランジ12a,13a間で隔膜14を挟持している。
【0060】
導電体11,12,隔膜14の材料は、前記実施の形態の負極、正極、及び隔膜と同様のものを用いることができる。ホルダ12,13の直径は、例えば5〜100mm程度とされるが、これに限定されない。
【0061】
導電体21,22間は、リード線23,25と抵抗24とによって電気的に接続されている。リード線23,25は、導電体21,22中に差し込まれることにより導電体21,22と導通している。
【0062】
リード線23,25及び抵抗24に流れる電流を測定するように電流計26が設けられていると共に、抵抗24の両端間の電位差を測定するように電圧計27が設けられている。なお、電流計26と電圧計27の一方のみが設けられてもよい。
【0063】
このスライムモニター11の第2の導電体(負極)22側へ必要に応じ脱気処理した被検液(水系の水)を流通させると共に、第1の導電体(正極)21側へ電子受容体含有流体(例えば塩化第2鉄水溶液、フェリシアン化カリウム水溶液又は空気など)を流通させることにより、水系のスライム傾向をモニタリングすることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び参考例について説明する。
【0065】
[実施例1]
微生物汚れモニターとして第1図に示す微生物発電装置を作成した。この発電装置の槽体の全体の容積は60mL、負極室4の容積は37.5mL、正極室3の容積は22.5mLである。
【0066】
区隔材5としてカチオン透過膜(アストム社製,厚さ170μm)を使用した。
【0067】
負極6としては、50mm×150mmで厚さ5mmのグラファイトフェルトを用い、正極5としては、50mm×150mmで厚さ3mmのグラファイトフェルトを用いた。抵抗8として1kΩのものを用い、この抵抗8による電位差を検出信号(電圧値)として出力させるようにした。
【0068】
この微生物汚れモニターの正極室5にFeClの3g/L水溶液を5mL/minで循環通水すると共に、負極室4に、野木町水を補給水とする循環冷却システムの循環水(以下、原水ということがある。)に酢酸ナトリウム10mg/L及び酵母エキス10mg/Lを添加してなる模擬検水を5mL/minで2日間通水した。その結果、1kΩの抵抗の両端の電圧は580mVになり、微生物の増殖による発電が観察された。その後、16時間、酢酸ナトリウム及び酵母エキスを添加しない上記循環水を通水した。その結果、第3図(a)の通り、電圧は270mVに低下した。電圧はその後も徐々に低下を続け、0.003〜0.005mV/minの速度で電位は低下していった。
【0069】
上記の状態で負極循環水に対しスライムコントロール剤としてタワークリンNT(栗田工業(株)製、塩素系スライムコントロール剤)を塩素として5mg/L添加した[第3図(a)タワークリンNT添加1]。薬剤が装置内に到達すると同時に5〜10mV/min程度の電位の低下が観察され、約1時間で70mV低下した。薬剤添加前後の電位低下を経時的に3点程度測定すれば薬注の効果を明らかにすることが可能であり、数分で判定が可能であった。
【0070】
このように、電圧−時間のグラフにおける傾きから微生物増殖の増加または減少傾向を即座に判断することが可能であった。なお、電位の絶対値で判断するためには、安定値をとる必要があり、安定した値に達するまでに30分以上を要した。
【0071】
ついで70分後にタワクリンNTを塩素として10mg/L追加添加した[第3図のタワークリンNT添加2]。薬剤が装置内に到達すると同時に電圧低下が加速した。電圧の絶対値は約10分後に安定に達した。このように、薬剤を追加添加する場合においても、電圧−時間のグラフにおける傾きによる判定のほうが迅速であった。
【0072】
[参考例1]
実施例1と同じ装置を用い、まず原水にBOD源として酵母エキス10mg/Lを添加し2.5日間通水した。その結果、電位は約500mVに上昇し、微生物による発電が確認された。その後、酵母エキスを添加していない原水のみを通水した。その結果、発電電圧は約300mVになった。
【0073】
そこで、原水にBOD源として酢酸ナトリウムを3mg/Lとなるよう添加した。結果を第3図(b)に示す。酢酸ナトリウムが系に達すると同時に電圧の上昇が起こった。その上昇速度は約2mV/minで約一時間後に電位は420mVに達した。電圧の増加傾向は3点程度の測定で明らかであり、要した時間は数分であり、BOD添加後即座に微生物の増加傾向をとらえることができた。
【符号の説明】
【0074】
1 微生物汚れモニター(微生物発電装置)
2 区隔材
3 正極室
4 負極室
5 正極
6 負極
8 抵抗
11 スライムモニター
12,13 ホルダ
12a,13a フランジ
14 隔膜
21 第1の導電体
22 第2の導電体
31 冷却塔
44 薬注手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン透過性を有した非導電性の隔膜と、
該隔膜の一方の面に設けられた、被検液が接触する第1の導電体と、
該隔膜の他方の面に設けられた、酸素含有ガスが接触する第2の導電体と
を備えてなる微生物汚れモニターと、
該微生物汚れモニターの前記第1の導電体と第2の導電体との間の電位差または電流値に基づいて水系に対するスライムコントロール剤の添加量を制御する薬注制御手段と、
を有する薬注装置において、
該薬注制御手段は、前記電位差又は電流値が経時的に増加するときには薬注量を増加させ、電位差又は電流値が経時的に減少するときには薬注量を減少させるように薬注制御を行うことを特徴とする薬注装置。
【請求項2】
冷却塔と、該冷却塔から冷却水が循環配管を介して通水される熱交換器と、冷却水にスライムコントロール剤を添加するスライムコントロール剤添加手段とを備えた循環冷却システムにおいて、
請求項1の薬注装置を備え、該薬注装置の前記微生物汚れモニターの前記第1の導電体に冷却水を接触させ、前記薬注制御手段によって該スライムコントロール剤添加手段を制御することを特徴とする循環冷却システム。
【請求項3】
膜分離装置と、該膜分離装置への供給水にスライムコントロール剤を添加するスライムコントロール剤添加手段とを備えた膜分離システムにおいて、
請求項1の薬注装置を備え、該薬注装置の前記微生物汚れモニターの前記第1の導電体に該供給水を接触させ、前記薬注制御手段によって該スライムコントロール剤添加手段を制御することを特徴とする膜分離システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−101194(P2012−101194A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252979(P2010−252979)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】