説明

薬液投与装置及び薬液投与方法

【課題】噴射孔に体内異物が付着していても、生体内の所定部位に限定して適正量の薬液を投与することができる薬液投与装置を提供する。
【解決手段】一部を生体内に挿入され、生体内の所定部位に薬液Aを投与する薬液投与装置10であって、薬液と空気Bとの混合流体を噴射する流体噴射手段11と、基端部12aが流体噴射手段に接続されるとともに混合流体を先端部12bに導くカテーテル12と、混合流体に電圧を印加する電圧印加部13と、カテーテルの先端部に設けられ、カテーテルに導かれた混合流体を霧状に噴射する噴射孔14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に薬液を投与する薬液投与装置及び薬液投与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、患部等の所定部位に薬液を効率良く投与するために、例えば核酸医薬等を体内代謝分解で劣化させないように、必要最小限の薬液を所定部位に限定して投与することが要望されている。
このような薬液投与装置として、例えば下記特許文献1に示されるような、先端側に噴射孔が形成された液体供給管である軟性管(カテーテル)の内部にスクリュー体とスクリュー体から噴射孔に伸びる針体が設けられ、軟性管の基端側に薬液を入れた注射筒(シリンジ)が接続された構成が知られている。
この構成において、噴射孔を生体内に挿入して注射筒のピストンを押込むと、注射筒から軟性管の内部に供給された薬液は、スクリュー体の外周部を通過する時に遠心力を受けて放射状に霧状の薬液が噴射されるが、接続口金の近傍を通る薬液は針体の外周面に沿って誘導噴出され、所定部位の散布領域全体に均一に薬液が噴射されることになる。
また、この噴霧される薬液の粒径は、噴射孔の孔径により定まることとなる。
【特許文献1】特開昭57−17635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の薬液投与装置では、噴射孔から霧状に噴霧される薬液の一部は所定部位の周辺に位置する周辺部位にも浮遊した状態で送達されるため、所定部位に送達される薬液の量が必要とされる薬液の量より少なくなることが考えられる。
また、従来の薬液投与装置では、生体表面に近い位置で薬液を噴射する時に、噴射孔に体内粘液や組織小片等の体内異物が付着することがあった場合に、薬液の正常な噴射が妨げられるために、薬液が所定部位以外の部位に付着し、目的部位に投与される薬液の量が少なくなることが考えられる。
【0004】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、噴射孔に体内異物が付着していても、生体内の所定部位に限定して適正量の薬液を投与することができる薬液投与装置及び薬液投与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の薬液投与装置は、一部を生体内に挿入され、該生体内の所定部位に薬液を投与する薬液投与装置であって、薬液と空気との混合流体を噴射する流体噴射手段と、基端部が該流体噴射手段に接続されるとともに前記混合流体を先端部に導くカテーテルと、前記混合流体に電圧を印加する電圧印加部と、前記カテーテルの先端部に設けられ、該カテーテルに導かれた前記混合流体を霧状に噴射する噴射孔と、を備えることを特徴としている。
【0006】
また、本発明の薬液投与方法は、上記に記載の薬液投与装置を用いて生体内の所定部位に薬液を投与する薬液投与方法であって、前記薬液と前記空気との混合流体の形で、かつ前記電圧印加部により帯電させた状態で、前記噴射孔から生体内の前記所定部位に向けて霧状に噴射させ、前記混合流体を前記患部に到達させることを特徴としている。
【0007】
この発明によれば、薬液と空気との混合流体は電圧印加部により電圧を印加され帯電しているので、噴射孔から霧状に噴射された混合流体を所定部位の周辺で浮遊させることなく直ちに所定部位に吸着させることが可能になる。この結果、生体内の所定部位に限定して正確な量の薬液を投与することができる。
また、薬液と空気の混合流体を噴射孔から霧状に噴射させるので、噴射孔に体内異物が付着していても、噴射される混合流体の圧力によって体内異物を除去することが可能となる。また、所定部位に投与する薬液の量が定まっている場合でも、体内異物に薬液の圧力だけでなく空気の圧力も作用させることにより、体内異物をより確実に除去することができるので、所定部位に適正量の薬液を投与することができる。
【0008】
また、前記電圧印加部は、前記噴射孔から前記混合流体が霧状に噴射されている時のみ、前記混合流体に電圧を印加することがより好ましい。
この発明によれば、混合流体が霧状に噴射されていない時、すなわち混合流体を帯電させる必要のない時に電圧印加部で消費する電力を抑えることができる。
【0009】
また、前記流体噴射手段は、前記混合流体における前記薬液と前記空気との混合比率を調整可能とされていることがより好ましい。
この発明によれば、混合流体中の薬液の濃度を調節することができる。
【0010】
また、前記流体噴射手段は、内部に前記薬液と前記空気とが充填されるシリンジと、該シリンジから噴射される前記混合流体を前記カテーテルの基端部に導く流路と、を備えることがより好ましい。
この発明によれば、シリンジの内部に充填された薬液と空気との混合流体を圧縮することにより、シリンジから混合流体を噴射することが可能となる。そして、シリンジから噴射された混合流体を流路によりカテーテルの基端部に導くことで、基端部が流体噴射手段に接続されたカテーテルの先端部に備えられた噴射孔から混合流体を霧状に噴射することができる。
また、シリンジの中に充填される薬液と空気との比率を変えることにより、混合流体における薬液と空気との混合比率を調整することができる。
【0011】
また、前記流体噴射手段は、前記空気を貯留するシリンジと、基端部が該シリンジに接続されて、該シリンジから噴射される前記空気を途中の絞り部を経て前記カテーテルの基端部に導く流路と、前記絞り部の内面に設けられた導入孔と、前記薬液を収容する薬液タンクと、該薬液タンクから前記導入孔まで延びる薬液供給パイプと、を有することがより好ましい。
この発明によれば、シリンジの内部に貯留した空気を圧縮することにより、シリンジから空気を噴射することができる。シリンジから噴射された空気は流路に導かれて絞り部を通過する際に圧力が低下するので、薬液タンクに収容された薬液は薬液供給パイプを通って導入孔側に引き寄せられる。そして、導入孔から流れ出た薬液は絞り部における空気の流れにより霧状になる。これにより、薬液と空気との霧状の混合流体をカテーテルの基端部に導くことができる。
従って、絞り部における空気の圧力を低い状態で安定させることが可能となるため、噴射孔から噴射される混合流体の量及び混合流体中に含まれる薬液の濃度を安定させることができる。
【0012】
また、前記流体噴射手段は、内部に充填された前記空気を噴射する空気タンクと、基端部が該空気タンクに接続されて、該シリンジから噴射される前記空気を途中の絞り部を経て前記カテーテルの基端部に導く流路と、該流路において、前記絞り部前記空気タンク側に設けられ開閉弁と、前記絞り部の内面に設けられた導入孔と、前記薬液を収容する薬液タンクと、該薬液タンクから前記導入孔まで延びる薬液供給パイプと、を有することがより好ましい。
この発明によれば、開閉弁を開くことにより空気タンクから噴射された空気は、流路に導かれて絞り部を通過する際に圧力が低下する。このため、薬液タンクに収容された薬液は薬液供給パイプを通って導入孔側に引き寄せられる。そして、導入孔から流れ出た薬液は絞り形状部における空気の流れにより霧状になる。これにより、薬液と空気との霧状の混合流体をカテーテルの基端部に導くことができる。
従って、絞り部における空気の圧力を低い状態で安定させることが可能となるため、噴射孔から噴射される混合流体の量及び混合流体中に含まれる薬液の濃度を安定させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薬液投与装置及び薬液投与方法によれば、噴射孔に体内異物が付着していても、生体内の所定部位に限定して適正量の薬液を投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図1から図3を参照して詳細に説明する。
薬液投与装置10は、生体内に挿入され、生体内の所定部位に薬液を投与する装置である。ここで所定部位とは、生体内において病気や傷を治療する目的で本装置を用いる場合には患部、美容や整形の目的で本装置を用いる場合にはそれらの対象部位のことを意味する。本実施形態では、薬液投与装置10により患部に薬液を投与することを例にとって説明する。
図1に示すように、薬液投与装置10は、薬液Aと空気Bとを混合流体にして噴射する流体噴射手段11と、基端部12aが流体噴射手段11に接続されるとともに混合流体を導くカテーテル12と、混合流体に電圧を印加する電圧印加部13と、カテーテル12の先端部12bに設けられカテーテル12に導かれた混合流体を霧状に噴射する噴射孔14と、流体噴射手段11及び電圧印加部13を支持する本体部材18とを備えている。
【0015】
この薬液投与装置10は、本実施形態では図2に示されるように、内視鏡1の鉗子チャンネル2にカテーテル12を挿通し、さらに鉗子栓3に薬液投与装置10の本体部材18を設置して用いられる。この時、カテーテル12の先端部12bに設けられた噴射孔14は、鉗子チャンネル2の先端部2aから所定長さLだけ突出するようにカテーテル12の長さが設定されている。
なお、図中には内視鏡1を操作する各種の操作スイッチ4の位置が示されている。
【0016】
図1に示すように、流体噴射手段11は、内部に薬液Aと空気Bとが充填されるシリンジ16と、シリンジ16から噴射される混合流体Cをカテーテル12の基端部12bに導く流路17aと、を備えている。そして、本実施形態では、流路17aは箱型の流路形成部材17の一部として内部に両端が開口する円筒状の空間を有するように形成されている。
シリンジ16は流路形成部材17に対して流路17aの一端17cにおいて着脱自在とされ、有底筒状の筒体16aと、筒体16aの内周面に対してシールされたプランジャー16bとを備えている。そして、筒体16aにプランジャー16bを取付けた時に形成されるシリンジ16の内部空間には、大気圧下において例えば同一体積の薬液Aと空気Bとがそれぞれ充填されている。筒体16aの先端部には同一軸線を有する筒先16cが設けられ、筒先16cにはその同一軸線上に貫通孔16dが形成されている。そして、流路17aの内径はシリンジ16の筒先16cの外径よりわずかに大きく設定されている。
流路17aの他端17d側には、その軸線方向に直交する方向に本体部材18側の側面から流路17aを越えた所まで達する内空部17bが形成されている。
なお、流路17aの一端17cとシリンジ16の筒先16cがより確実に着脱するように、この着脱部分にルアーロック部を形成してもよい。
【0017】
カテーテル12は、例えば四フッ化樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン、シリコン、ポリイミド、又はポリエーテルエーテルケトン等の、一定の柔軟性を有する材質で形成されている。
カテーテル12の内部には、薬液Aと空気Bとの混合流体Cが通る1本の通路孔が形成されていて、カテーテル12の基端部12aは流路17aの他端17dに接続されている。また、カテーテル12の外周面には図示しない目盛りが形成されていて、鉗子チャンネル2に挿入した長さが分かるようになっている。
【0018】
図3に示すように、カテーテル12の先端部12bには有底筒状でカテーテル12と同一軸線を有する先端部材24が備えられている。この先端部材24の底面における前述の同一軸線上には、噴射孔14が形成されている。
先端部材24の外径はカテーテル12の外径と等しく形成されている。また、先端部材24の内側には、同一軸線を有する略円筒状のスクリュー体25が配設されている。
このスクリュー体25の外周面には、その軸線に沿う全長にわたり螺旋状に径方向外側に突出した突出部25aが形成され、突出部25aの先端部は先端部材24の内周面に密着している。
なお、前述した体内異物Hは、例えば図3に示すように噴射孔14に付着することとなる。
また、カテーテル12の先端部12bに直接噴射孔14を形成してもよい。
【0019】
図1に示すように、電圧印加部13は、内空部17bに固定された主電極19と、電圧を発生する回路部20と、主電極19と回路部20との間に接続された副電極21と、回路部20に接続された例えば電池等の電源22と、回路部20に接続され主電極19に印加する電圧をオン/オフする電圧印加スイッチ23とを備えている。
さらに本実施形態では、回路部20に、生体の一部に接続されるグランドバンドGが接続されている。なお図示の例では、グランドバンドGは人体の指に接続されている。
【0020】
主電極19は、導電性を有する金属、導電性樹脂又は導電性を有する膜が形成された樹脂等により円管状に形成され、流路17aと内周面が一致するように配設されている。そして、主電極19の内側を通過する物質に電圧を印加することができるようになっている。
回路部20内には、図示しない高抵抗回路、過電流検出回路および圧電トランスがそれぞれ組み込まれている。高抵抗回路は、保護用の高抵抗が副電極21に直列に接続されて構成され、スパークの発生や生体への電撃を防止する。また、過電流検出回路は、回路部20に流れる電流値を検出し、その数値が設定値以上となったときに副電極21への電圧の印加を停止させる。そして、圧電トランスは、電源22から回路部20に供給された電圧を昇圧する。なお、この設定値は生体への安全性を考慮して、例えば約100μA好ましくは約10μAとしてもよい。
【0021】
副電極21は、例えばステンレス鋼等で形成され、電圧を印加する方向つまり主電極19側に向けて尖る先鋭形状となっている。そして、この副電極21の先端部が主電極19に接続されている。なお、副電極21は、一般的な電気接触子の外表面に金メッキ層が形成されたコンタクトプローブ等であってもよい。
電圧印加スイッチ23は、本体部材18上に設けられた接触式のスイッチであり、主電極19に電圧を印加した状態のオンと、印加した電圧を解除した状態のオフとを切替える。
以上の電圧印加部13の構成において、電圧印加スイッチ23をオフからオンに切替えて電源22から回路部20に電圧が供給されると、この電圧が圧電トランスにより昇圧され、この昇圧された電圧が副電極21を介して主電極19に印加される。なお例えば、電源22の電圧は約6Vであるところ、主電極19に供給される電圧は約5kVとなる。
【0022】
次に、以上のように構成された薬液投与装置10を用いて患部Kに薬液Wを投与する方法について説明する。
なお、以下の工程を行う前に、電圧印加スイッチ23は予めオフに設定されている。
まず、図2に示すように、内視鏡1の鉗子チャンネル2を通じてカテーテル12を体腔内に挿入する。この時、カテーテル12の外周面に形成された図示しない目盛りによりカテーテル12の先端部12bと鉗子チャンネル2の先端部2aとの位置関係を求めることができる。また、鉗子栓3に薬液投与装置10の本体部材18を設置することにより、噴射孔14を鉗子チャンネル2の先端部2aから所定長さLだけ突出させ、カテーテル12の先端部12bを体腔内の患部Kの近傍に配置させる。
【0023】
続いて、図1に示すように、流路17aの一端17cに薬液Aと空気Bとを充填させたシリンジ16の筒先16cを取付け、電圧印加スイッチ23を押してオンにするとともに、シリンジ16の筒体16aを固定しつつ筒体16aに対してプランジャー16bを押込む。なお、プランジャー16bを押込む時はできるだけ速く押込むことが好ましい。
すると、シリンジ16内に充填されていた薬液Aと空気Bが、薬液Aと空気Bとの混合流体Cとなってシリンジ16の貫通孔16dから噴射され、一端17c側から流路17a内に流入する。
【0024】
この流路17a内に流入した混合流体Cは、円管状の主電極19の内側を通過する時に約5kVの電圧が印加された主電極19の内周面に接触する。このとき、混合流体C中の薬液Aはプラス極に帯電する。
そして、帯電した混合流体Cはカテーテル12の通路孔を通って先端部12bの先端部材24内に配設されたスクリュー体25に達し、突出部25a間を通って噴射孔14から噴射される。
【0025】
以上説明したように、本実施形態における薬液投与装置10によれば、シリンジ16の内部に充填された薬液Aと空気Bとの混合流体Cを圧縮することにより、シリンジ16から混合流体Cを噴射することが可能となる。そして、シリンジ16から噴射される混合流体Cを流路17aに導き、電圧印加部13により電圧を印加され帯電した混合流体Cをカテーテル12の先端部12bに備えられた噴射孔14から霧状に噴射する。
混合流体Cを噴射孔14から霧状に噴射させるので、噴射孔14に体内異物Hが付着していても、噴射される混合流体Cの圧力によって体内異物Hを除去することが可能となる。
また、患部Kに投与する薬液Aの量が定まっている場合でも、体内異物Hに薬液Aの圧力だけでなく空気Bの圧力も作用させることにより、体内異物Hをより確実に除去することができる。
【0026】
また、薬液Aと空気Bとの混合流体Cは電圧印加部13により電圧を印加され帯電している一方、生体の表面はグランドバンドGにより薬液投与装置10に対して0Vの電位になっているので、霧状の混合流体Cを患部Kの周辺で浮遊させることなく直ちに患部Kに吸着させることが可能になる。この結果、患部Kに限定して正確な量の薬液Aを投与することができる。
すなわち、カテーテル12の噴射孔14を体腔内の目的部位である患部Kに対向させると、その患部Kのみに確実に薬液Aを投与することができる。また、内視鏡1の鉗子チャンネル2内にカテーテル12を挿通して、患部Kを観察しながら薬液Aを所定量投与することができる。
【0027】
また、混合流体Cは噴射孔14から噴射される前にスクリュー体25の突出部25aの間を通過するので、混合流体Cに先端部材24の軸線周りの強い勢いの渦巻状の流れを生じさせることができる。従って、噴射孔14から霧状に噴射される混合流体Cを均等に、かつ広範囲に噴射させることができる。混合流体Cは渦巻状に流れる間に遠心力を受けて流れ攪拌されるので、噴射孔14から霧状に噴射される薬液Aの粒径を小さくすることができる。
このように、カテーテル12の噴射孔14に付着した体内異物Hを、スクリュー体25を通過してこの噴射孔14から霧状に噴射される混合流体Cの勢いにより、効果的に除去することができる。よって、体内異物Hの影響を受けて薬液Aが噴射孔14から垂れたり、噴射孔14からの噴霧が不安定になったりすることを抑えることが可能となる。
【0028】
また、回路部20と人体の指とをグランドバンドGで接続しているので、帯電した霧状の薬液Aが患部Kに吸着した時に患部Kの電位が帯電した薬液Aの電位に近づくのを抑え、帯電した薬液Aを確実に患部Kに吸着させることができる。
【0029】
また、混合流体C、すなわち薬液Aを帯電させないと、微小な液滴自身の表面張力により球形状を維持しようとする力が働く。その力は小さい液滴ほど強く作用するために、この液滴を患部Kに向けて送り出しても患部Kに付着しないで舞い上がる、いわゆるドライフォグ現象が発生し易くなって、患部Kへの薬液Aの投与量が少なくなるばかりでなく、その投与量の把握も困難になる。
ところが本実施形態のように薬液Aを帯電させることによって、薬液Aを患部Kに吸着させることが可能になり、この投与量を正確にしかつ投与量の把握を容易にすることができる。
【0030】
さらにまた、例えば患部Kが呼吸器系の肺や肺胞などの場合には、薬液Aを本実施形態のように帯電させないと、薬液Aが呼吸の吐き出しに伴い口から排出され易くなる。このため従来から、吸入療法等で使用されるネブライザーなどを用いて薬液Aを投与する際には、患者が息を吸い込む時に合わせて薬液Aを投与するなどの対策が必要であった。
ところが本実施形態のように、薬液Aを帯電させ、しかも患部Kの近くで薬液Aを噴射孔14から霧状に噴射することによって、患者が息を吐き出すタイミングに合わせなくても、薬液Aを患部Kに容易かつ正確に吸着させることができる。
【0031】
また、混合流体Cが霧状に噴射されていない時すなわち混合流体Cを帯電させる必要のない時に、電圧印加スイッチ23をオフにして主電極19への電圧の印加を停止することとしてもよい。この場合、電圧印加部13で消費する電力を抑えることができる。
また、シリンジ16の中に充填される薬液Aと空気Bとの比率を変えることにより、混合流体Cにおける薬液Aと空気Bとの混合比率を調整することができ、混合流体C中の薬液Aの濃度を調節することができる。
また、混合流体Cを噴射する時の噴射孔14と患部Kとの距離を近くすることで、混合流体Cが吸着される患部Kの範囲を抑え、単位面積当たりの患部Kに投与する薬液Aの量を増加させることができる。一方、混合流体Cを噴射する時の噴射孔14と患部Kとの距離を遠くすることで、混合流体Cが吸着される患部Kの範囲を広げ、単位面積当たりの患部Kに投与する薬液Aの量を減少させることができる。
また、図2に示すように、内視鏡1を操作する各種の操作スイッチ4と薬液投与装置10の本体部材18を隣合うように配置させることができるので、同一使用者が内視鏡1を操作しながら薬液投与装置10も操作することが可能となっている。
【0032】
また、本実施形態では、先端部材24の内側にスクリュー体25を配設したが、図4に示すように、このスクリュー体25を用いなくてもよい。この場合、噴射孔14から噴射される混合流体Cが広がる角度を抑え、混合流体Cをより軸方向に沿って噴射させることができる。
また、本実施形態では、電圧印加スイッチ23を設けなくてもよい。
【0033】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態の薬液投与装置の概略図である。なお説明の便宜上、本発明の第2実施形態において、前述の第1実施形態で説明した構成要素と同一の構成要素については同一符号を付して、その説明を省略する。
第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、流体噴射手段11に替えて、流体噴射手段31を備えている点である。
この流体噴射手段31は、空気Bを貯留するシリンジ16と、シリンジ16から噴射される空気Bをカテーテル12の基端部12aに導く経路の中間部に絞り部32cが形成された流路32fと、絞り部32cの内面に設けられた導入孔32dと、薬液Aを収容する薬液タンク33と、導入孔32dから薬液タンク33内に収容された薬液Aまで延びる薬液供給パイプ34と、を有する。
【0034】
流路32fは箱型の流路形成部材32の一部として内部に両端が開口する略円筒状の空間を有するように形成されている。
流路32fは、一端32aがシリンジ16の筒先16cに着脱自在とされ、他端32bがカテーテル12の基端部12aに接続されている。
また、薬液供給パイプ34の導入孔32dに接続されている側とは逆側の端部は、薬液タンク33内の薬液Aに浸されている。
薬液タンク33の側面に形成され外部に達する薬液注入孔32gにはゴム栓35が取付けられ、ゴム栓35には針が通るような小さな孔が形成されている。
【0035】
次に、以上のように構成された薬液投与装置30を用いて患部Kに薬液Wを投与する方法について説明する。
なお、基本的な方法は上記第1実施形態と同様なので、異なる点のみ説明する。
まず、ゴム栓35を介して注射針等により薬液タンク33に一定量の薬液Aを注入する。
次に、内部に空気Bを貯留したシリンジ16の筒先16cを流路32fの一端32aに取付ける。そして、電圧印加スイッチ23をオンにして主電極19に電圧を印加するとともに、シリンジ16の筒体16aを固定しつつプランジャー16bを筒体16aに対して押込む。すると、シリンジ16内で圧縮された空気Bが、シリンジ16の貫通孔16dから噴射される。
【0036】
シリンジ16から噴射された空気Bは流路32fに導かれて絞り部32cを通過する際に圧力が低下するので、薬液タンク33に収容された薬液Aは薬液供給パイプ34を通って導入孔32d側に吸引される。そして、導入孔32dから流れ出た薬液Aは絞り部32c部における空気Bの流れにより霧状になり、薬液Aと空気Bとの霧状の混合流体Cをカテーテル12の基端部12aに導くことができる。
これ以降の方法は、上記第1実施形態と同様なので省略する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態における薬液投与装置30によれば、シリンジ16から空気Bが噴射されている間は流路32fに薬液Aが供給されるので、噴射孔14から連続的に霧状の混合流体Cを噴射することができる。従って、噴射孔14から連続的に霧状の混合流体Cを噴射している間に、噴射孔14に体内異物Hが付着することを防止することができる。
また、絞り部32c部における空気Bの圧力を低い状態で安定させることが可能となるため、噴射孔14から噴射される混合流体Cの量及び混合流体C中に含まれる薬液Aの濃度を安定させることができる。
また、単位時間当たりに薬液供給パイプ34に吸引される薬液Aの供給量を一定に近づけることができるので、噴射孔14から噴霧される薬液Aの粒径を均一に近づけることができる。
なお、薬液タンク33において、薬液Aが吸引された分の体積の外気が、ゴム栓35に形成された小さな孔から供給されることとなる。
【0038】
なお、図6に示すように、薬液供給パイプ34に薬液Aの流量制御装置36を設けてもよい。これにより、流路32fに吸引される薬液Aの量を一定にしたり調整したりすることができる。また、噴射孔14から噴霧される薬液Aの粒径をより均一に近づけたり、薬液Aの投与量を調整したり、薬液特性に応じた最適な条件での薬液Aの投与をすることができる。
また、流量制御装置36の替わりに圧力制御装置を設けても、同様の効果を奏功することができる。
【0039】
(第3の実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態の薬液投与装置の概略図である。なお説明の便宜上、本発明の第3実施形態において、前述の第1実施形態及び第2実施形態で説明した構成要素と同一の構成要素については同一符号を付して、その説明を省略する。
第3実施形態が第2実施形態と異なる点は、流体噴射手段31に替えて、流体噴射手段41を備えている点である。
すなわち、空気Bを貯留するシリンジ16に替えて、内部に充填された空気Bを噴射する空気タンク42と、空気タンク42に空気Bを充填するために本体部材18上に配置された逆止弁46とを備えている。
なお、空気タンク42は金属や高強度樹脂等で形成されていることが好ましい。
【0040】
また、第3実施形態では、第2実施形態で備えられていた流路形成部材32に替えて、
内部に両端が開口しL字状に曲がる部材内流路43cが形成された流路形成部材43と、空気タンク42と流路形成部材43とに接続された連結パイプ49とを備えている。なお、本実施形態では、流路は部材内流路43cと連結パイプ49とで構成されている。
部材内流路43cは一端43aが連結パイプ49に連結され、空気Bをカテーテル12の基端部12aに導く経路の中間部に絞り部32cが形成されている。この絞り部32cには第2実施形態と同様に、導入孔32d、薬液供給パイプ34及び薬液タンク33が備えられている。
また、部材内流路43cの他端43bがカテーテル12の基端部12aに接続されている。
【0041】
また、第3実施形態では、連結パイプ49に、連結パイプ49に流れる空気Bの流量を調整する流量調整装置44、連結パイプ49に空気Bを流す開の状態と流さない閉の状態を切替える開閉弁45が設けられている。そして、本体部材18上に配置され開閉弁45の開と閉の状態を切替える弁切替えスイッチ47と、開閉弁45の開と閉の状態を検知して検出結果を回路部20に送信する弁位置検出センサ48をさらに備えている。
【0042】
次に、以上のように構成された薬液投与装置40を用いて患部Kに薬液Wを投与する方法について説明する。
なお、以下の工程を行う前に、開閉弁45は閉の状態に設定されている。
また、基本的な方法は上記第2実施形態と同様なので、異なる点のみ説明する。
まず、逆止弁46を介して空気タンク42に0.3MPa程度まで空気Bを充填する。
次に、弁切替えスイッチ47を押して開閉弁45を閉の状態から開の状態に切替える。すると、空気タンク42に充填され噴射された空気Bは、流量調整装置44で流量を一定に調整され、絞り部32cを通過する際に圧力が低下する。
【0043】
これと同時に、開閉弁45が開の状態にあることを弁位置検出センサ48により検知すると、回路部20は電源22の電圧を圧電トランスにより昇圧した後、副電極21を介して主電極19に印加する。
なお、これ以降の方法は、上記第2実施形態と同様なので省略する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態における薬液投与装置40によれば、空気タンク42が設けられるとともに、連結パイプ49に流量調整装置44と開閉弁45が設けられているので、薬液タンク33から一定量の薬液Aを安定して吸引することができる。従って、噴射孔14から噴霧される薬液Aの粒径を均一に近づけることができる。また、絞り部32c部における空気Bの圧力を低い状態で安定させることが可能となるため、噴射孔14から噴射される混合流体Cの量及び混合流体C中に含まれる薬液Aの濃度をより安定させることができる。
また、上記第2実施形態のように部材内流路43cに供給する薬液Aの量を調整することができるので、生体への薬液Aの投与量を調整することができる。また、上記実施形態のように薬液Aを投与する時にシリンジ16を操作することがないので、薬液Aの投与を容易に行うことができる。
【0045】
なお、上記実施形態では、流量調整装置44は設けなくてもよい。開閉弁45により薬液Aの投与量の調整は可能だからである。
また、上記実施形態では、逆止弁46は設けなくてもよい。予め空気Bが充填された空気タンク42を一度だけ用いる場合もあるからである。
【0046】
ここで、薬液の種類によっては、泡立ちやすいものや分散粒子が含有されているものがある。ネブライザーなどに適用される超音波霧化原理では、泡立ちやすい薬液は超音波の伝播を阻害するため薬液が霧化されない場合もある。また、超音波霧化原理のなかでも薬液の液滴を微細化するために、数μmの微細穴のメッシュを使用するものは、分散粒子が含有されている液体を霧化させる際に、メッシュが目詰まりして霧化できなくなる場合もある。
ところが本実施形態では、薬液に超音波をかけたりメッシュを用いたりしないので、このような泡立ちやすい薬液や分散粒子を含有する薬液においても、前述の作用効果を奏功させることが可能になる。
【0047】
以上、本発明の第1実施形態から第3実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更等も含まれる。
例えば、上記第1実施形態から第3実施形態では、回路部20に、生体の一部に接続されるグランドバンドGを接続したが、このグランドバンドGは設けなくてもよい。
この場合においても、一般に生体の電位は0V程度(グランド側)になっているため、薬液Aが極性にかかわらず帯電していれば、患部Kに薬液Aを吸着させることができるからである。
【0048】
また、上記第1実施形態から第3実施形態では、流路形成部材17の先端側に電圧印加部13の円管状の主電極19を配置した。しかし、主電極としてカテーテル12の内部に設置された微細な導線を用いてもよいし、主電極を薬液タンク33内に配置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1実施形態の薬液投与装置の概略図である。
【図2】図1に示す薬液投与装置を内視鏡の鉗子栓に装着して用いている状態を示す概略側面図である。
【図3】本発明の第1実施形態の薬液投与装置の先端部材の断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態の薬液投与装置の先端部材の変形例の断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態の薬液投与装置の概略図である。
【図6】本発明の第2実施形態の薬液投与装置の変形例の概略図である。
【図7】本発明の第3実施形態の薬液投与装置の概略図である。
【符号の説明】
【0050】
10、30、40 薬液投与装置
11、31,41 流体噴射手段
12 カテーテル
13 電圧印加部
14 噴射孔
16 シリンジ
17、32、43 ガイド部
32c 絞り形状
32d 導入孔
33 薬液タンク
34 薬液供給パイプ
42 空気タンク
45 開閉弁
A 薬液
B 空気
C 混合流体
K 患部(所定部位)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部を生体内に挿入され、該生体内の所定部位に薬液を投与する薬液投与装置であって、
薬液と空気との混合流体を噴射する流体噴射手段と、
基端部が該流体噴射手段に接続されるとともに前記混合流体を先端部に導くカテーテルと、
前記混合流体に電圧を印加する電圧印加部と、
前記カテーテルの先端部に設けられ、該カテーテルに導かれた前記混合流体を霧状に噴射する噴射孔と、を備えることを特徴とする薬液投与装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薬液投与装置において、
前記電圧印加部は、前記噴射孔から前記混合流体が霧状に噴射されている時のみ、前記混合流体に電圧を印加することを特徴とする薬液投与装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の薬液投与装置において、
前記流体噴射手段は、前記混合流体における前記薬液と前記空気との混合比率を調整可能とされていることを特徴とする薬液投与装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薬液投与装置において、
前記流体噴射手段は、内部に前記薬液と前記空気とが充填されるシリンジと、該シリンジから噴射される前記混合流体を前記カテーテルの基端部に導く流路と、を備えることを特徴とする薬液投与装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薬液投与装置において、
前記流体噴射手段は、
前記空気を貯留するシリンジと、
基端部が該シリンジに接続されて、該シリンジから噴射される前記空気を途中の絞り部を経て前記カテーテルの基端部に導く流路と、
前記絞り部の内面に設けられた導入孔と、
前記薬液を収容する薬液タンクと、
該薬液タンクから前記導入孔まで延びる薬液供給パイプと、
を有することを特徴とする薬液投与装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薬液投与装置において、
前記流体噴射手段は、
内部に充填された前記空気を噴射する空気タンクと、
基端部が該空気タンクに接続されて、該空気タンクから噴射される前記空気を途中の絞り部を経て前記カテーテルの基端部に導く流路と、
該流路において、前記絞り部より前記空気タンク側に設けられ開閉弁と、
前記絞り部の内面に設けられた導入孔と、
前記薬液を収容する薬液タンクと、
該薬液タンクから前記導入孔まで延びる薬液供給パイプと、
を有することを特徴とする薬液投与装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の薬液投与装置を用いて生体内の所定部位に薬液を投与する薬液投与方法であって、
前記薬液と前記空気との混合流体の形で、かつ前記電圧印加部により帯電させた状態で、前記噴射孔から生体内の前記所定部位に向けて霧状に噴射させ、前記混合流体を前記患部に到達させることを特徴とする薬液投与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−268787(P2009−268787A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123218(P2008−123218)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】