説明

薬物および噴霧乾燥粒子を含有する口腔内速崩壊錠

【課題】4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドを含有する錠剤中において、安定に保存でき、錠剤の製造から服用に至る間における取り扱いに支障をきたさないような十分な硬度を有し、服用感が良好で口腔内での崩壊性に優れた錠剤の大量生産を提供することを目的とする。
【解決手段】下記(1)の噴霧乾燥粒子及び(2)の薬物を含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠:
(1)下記(a)〜(c)の成分を含み、各成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる噴霧乾燥粒子;
(a)マンニトール、
(b)キシリトール、及び、
(c)崩壊剤、並びに、
(2)薬物として4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド又はその生理学的に許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド(以下、「モサプリド」と呼ぶことがある)および噴霧乾燥粒子を含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠に関する。具体的には、上記薬物が安定でかつ通常の錠剤と同等の硬度を保ち、水が無くても口腔内で速やかに崩壊し得る製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会を迎え、高齢者や小児のごとき、錠剤を嚥下するのが困難な患者にとって、服用しやすい口腔内速崩壊錠の開発が要望されている。また、高齢者や小児でなくとも、水なしで服用できるという利便性からも、口腔内速崩壊錠の開発は急務である。
【0003】
口腔内速崩壊錠は、口腔内で約60秒以内の崩壊時間を有しつつ、錠剤製造時や運搬中に欠けや粉化がない程度の硬度を有する必要がある。しかし、硬度と崩壊時間は相反する要素であり、一般に崩壊時間を短くした場合は硬度が低くなり、硬度を高くした場合は崩壊時間が長くなる。この崩壊時間と硬度の関係の課題を解決するため、湿式打錠法、打錠加温法等の製法を用いることが知られている。しかしながら、これらの方法では、通常の圧縮成型用の製剤設備を用いることができず、また、加温装置、加湿装置、乾燥装置等の特別な設備を必要とする問題がある。
【0004】
また、これら課題を解決する別の手段として添加剤を加えることも知られている。そのような口腔内速崩壊錠用添加剤として、例えば特許文献1にはマンニトールとキシリトールとの組み合わせからなる糖類、無機賦形剤、崩壊剤の懸濁液を噴霧乾燥して得られる組成物及びそれを含む口腔内速崩壊錠が開示され、特許文献2にはさらに最後の製剤化の段階で崩壊補助剤を用いる口腔内速崩壊錠が開示されている。このような添加剤を口腔内速崩壊錠に用いることは簡便な手法であり製造方法、製造コストからも有用である。
【0005】
ところが、この市販の口腔内速崩壊錠用添加剤を消化管運動機能改善剤として知られるクエン酸モサプリドに適用したところ、口腔内速崩壊錠として十分な崩壊性が得られたが、加温条件下及び加温加湿条件下で該薬物が分解されることが判明した。また通常、薬物の分解は薬物と口腔内速崩壊錠用添加剤との物理的な非接触により回避でき得るため、今回薬物を前処理することにより口腔内速崩壊錠用添加剤との物理的接触を回避しようと試みたが、分解物を抑えることができず、薬物の安定性と優れた口腔内速崩壊性を満たすことはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−139168号公報
【特許文献2】国際公開2007/29376号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
消化器系薬剤は、一般的に消化器系の状態の悪いときに服用しなければならず、水等による服用がしばしば困難になることがある。また、高齢者が服用するときに他の薬剤とともに服用する際、なるべく少量の水等あるいは、水等なしで服用できることは有用である。クエン酸モサプリドを有効成分とするガスモチン(登録商標)は市場において、広く消化器系薬剤として使用されており、上記口腔内速崩壊錠を製造することは、患者にとっても服用に負担が少なく有用である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような背景から、本発明者が種々検討した結果、特定の組み合わせからなる口腔内速崩壊錠用添加剤を用いたところ、該薬物の安定性に優れ、しかも口腔内速崩壊錠としても有用である製剤化に成功し、本発明を完成させた。
本発明は下記の各種の態様の発明を提供するものである。
【0009】
[項1]下記(1)の噴霧乾燥粒子及び(2)の薬物を含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠:
(1)下記(a)〜(c)の成分を含み、各成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる噴霧乾燥粒子;
(a)マンニトール、
(b)キシリトール、及び、
(c)崩壊剤、並びに、
(2)薬物として4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド又はその生理学的に許容される塩。
【0010】
[項2]崩壊剤(c)が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ及びライススターチからなる群から選択される少なくとも1種である項1に記載の口腔内速崩壊錠。
【0011】
[項3]崩壊剤(c)が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む項2に記載の口腔内速崩壊錠。
【0012】
[項4]噴霧乾燥粒子(1)が、カルボキシメチルセルロース(d)および/または無機化合物(e)の成分を更に含み、(a)〜(c)の各成分と(d)および/または(e)の成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる項1〜3のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【0013】
[項5]無機化合物(e)が、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム及びリン酸水素カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である項4に記載の口腔内速崩壊錠。
【0014】
[項6]噴霧乾燥粒子(1)の組成物全量100重量%に対して、
(a)マンニトールを60〜95重量%、
(b)キシリトールを0.5〜10重量%、及び、
(c)崩壊剤を1〜15重量%、
の割合で含む項1に記載の口腔内速崩壊錠。
【0015】
[項7]噴霧乾燥粒子(1)の組成物全量100重量%に対して、カルボキシメチルセルロース(d)の成分を1〜20重量%および/または無機化合物(e)の成分を0.01〜15重量%の割合で更に含む項6に記載の口腔内速崩壊錠。
【0016】
[項8]薬物が、(±)4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・1クエン酸塩・2水和物である項1〜7のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【0017】
[項9]口腔内速崩壊錠100重量%あたり、(1)の噴霧乾燥粒子を60〜98重量%、および(2)の薬物を0.5〜10重量%の割合で含む項1〜8のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【0018】
[項10](1)の噴霧乾燥粒子は(3)のその他の製剤化成分を更に含み、各成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる、項1〜9のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【0019】
[項11](2)の薬物は(3)のその他の製剤化成分と合わせて薬物含有粒子として口腔内速崩壊錠中に配合される、項1〜10のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【発明の効果】
【0020】
4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドを含有する錠剤中において、安定に保存でき、錠剤の製造から服用に至る間における取り扱いに支障をきたさないような十分な硬度を有し、服用感が良好で口腔内での崩壊性に優れた錠剤を大量生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明において、「口腔内速崩壊錠」とは、錠剤等の製剤を服用するために水を摂取することなく、口腔内での主として唾液による試験又は装置による試験において約60秒以内、好ましくは40秒以内に崩壊する製剤を意味する。本発明における錠剤に対する本試験は、口腔内崩壊試験器(富山産業製、ODT−101)を用いることができる。
【0022】
本特許請求の範囲及び本明細書において「平均粒子径」は、例えばシンパテック(SYMPATEC)社のレーザー回折式粒度測定器[ヘロスアンドロドス(HELOS&RODOS)]で測定された値で表される。
【0023】
本特許請求の範囲及び本明細書において単に「重量%」で表示されたものは、最終製剤一錠あたりの総重量を100重量%としたときの重量%を意味する。また、噴霧乾燥粒子内の成分において「重量%」で表示されたものは、粒子内の組成物全量100重量%に対する製造時における配合割合を意味する。
【0024】
本発明の口腔内速崩壊錠は、下記(1)の噴霧乾燥粒子及び(2)の薬物を含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠:
(1)下記(a)〜(c)の成分を含み、各成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる噴霧乾燥粒子;
(a)マンニトール、
(b)キシリトール、及び、
(c)崩壊剤、並びに、
(2)薬物として4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド又はその生理学的に許容される塩
であり、以下に各成分について説明する。
【0025】
(1)噴霧乾燥粒子
(a)マンニトール
マンニトールの配合量は、通常、噴霧乾燥粒子の組成物全量100重量%に対し60〜95重量%であり、好ましくは70〜90重量%、より好ましくは75〜85重量%、一層好ましくは75〜80重量%である。
【0026】
(b)キシリトール
キシリトールの配合量は、通常、噴霧乾燥粒子の組成物全量100重量%に対し0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜5重量%、一層好ましくは2〜3重量%である。
【0027】
(c)崩壊剤
本発明に用いられる崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、ライススターチ等から選ばれる1種又はそれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。ここで、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは、ヒドロキシプロポキシル基の含有量が5〜16重量%のヒドロキシプロピルセルロースをいう。崩壊剤の配合量は、通常、噴霧乾燥粒子の組成物全量100重量%に対し、1〜15重量%であり、好ましくは5〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%、一層好ましくは9〜10重量%である。
【0028】
(d)カルボキシメチルセルロース
また、本発明における噴霧乾燥粒子においてはカルボキシメチルセルロース(本明細書中、カルメロースと呼ぶこともある)を配合してもよい。本発明で用いられるカルボキシメチルセルロースの配合量は、通常、1〜20重量%であり、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは5〜15重量%、一層好ましくは5〜10重量%である。
【0029】
(e)無機化合物
本発明における噴霧乾燥粒子においては無機化合物を配合してもよい。無機化合物を配合することで崩壊時間がさらに短くなるという効果がある。本発明に用いられる無機化合物としては、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等から選ばれる1種又はそれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい無機化合物としては、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及びケイ酸カルシウムであり、無機化合物の配合量は、通常、噴霧乾燥粒子の組成物全量100重量%に対し、0.01〜15重量%であり、好ましくは2〜12重量%、より好ましくは5〜10重量%、一層好ましくは4〜6重量%である。
【0030】
当該噴霧乾燥粒子は、上記(a)〜(c)の各成分と適宜(d)および/または(e)の成分を含み、(a)〜(c)の各成分と適宜(d)および/または(e)の成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなるものであり、具体的には、上記(a)〜(c)の各成分と適宜(d)および/または(e)の成分を合わせてまたは個々に分散溶媒に加えて混合・噴霧乾燥したものである。例えば、(a)〜(c)の各成分と適宜(d)および/または(e)の成分を溶媒に溶解させ又は分散させ、水溶液又は水溶性分散液に調整後、噴霧乾燥させて製造することができる。
【0031】
上記分散溶媒としては、組成物の特性に影響を及ぼさず、医薬品や食品に使用しても安定性や安全性の面で許容される溶媒であればよく、例えば水、エタノール、メタノール等から選ばれる1種又はそれらの2種以上の組み合わせの混合溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。噴霧乾燥の条件は特に限定されないが、噴霧乾燥としては、円盤式又はノズル式の噴霧乾燥を用いるのが好ましい。そして、噴霧乾燥の際の温度は、入口温度が約120〜220℃であり、出口温度は約80〜130℃が好ましい。分散液は、公知の方法により調整することができ、例えば、通常の攪拌、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、超音波照射等が挙げられるが、水性分散液中で粒子を均一に分散できる方法であれば良い。分散液の含有割合としては、分散液の粘度等によって噴霧乾燥できる範囲であればよく、すなわち5〜50重量%であり、好ましくは10〜45重量%である。
【0032】
当該噴霧乾燥粒子の配合量は、口腔内速崩壊錠100重量%あたり、通常、60〜98重量%であり、好ましくは80〜98重量%、より好ましくは90〜98重量%、一層好ましくは95〜98重量%であり、薬物の配合量が多い場合は適宜減量することができる。その粒子の製剤化する前の平均粒子径は通常400μm程度以下であり、例えば1〜400μm、好ましくは5〜300μmである。
【0033】
(2)4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド
本発明は薬物として4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド又はその生理学的に許容される塩に適応できる。該化合物(又はその酸付加塩或いはこれらの水和物)は選択的セロトニン4受容体アゴニストであり、良好な消化管運動促進作用を示す。当該化合物は米国特許第4,870,074号公報に開示されている。国際公開2005/55989号パンフレットには該化合物を含有する粒子についてマンニトールとメチルセルロースとの組合わせによる粒子が開示されているが、実施例には噴霧乾燥してなる粒子との組合わせ及びその効果についての開示はない。この4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドは、ラセミ体であっても、一方の光学活性体であってもよいが、ラセミ体が好適である。また、該化合物はフリー体であってもよいし、その生理学的に許容される塩であってもよい。塩としては好ましくは酸付加塩がよい。たとえば有機酸の付加塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、乳酸塩、アジピン酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩等が挙げられるがこれらに限定されない。無機酸の付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。この中でも特にクエン酸塩が好ましい。さらに、該化合物又はその生理学的に許容される塩は、溶媒和物であってもよく、水和物及び非水和物であってもよい。好ましくはクエン酸塩の水和物であり、とりわけクエン酸塩・2水和物が好ましい。
【0034】
当該薬物の配合量は、通常、口腔内速崩壊錠の組成物全量100重量%に対し0.5〜10重量%であり、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜5重量%、一層好ましくは2〜3重量%である。本発明においては、打錠する前に薬物を含む成分及び溶媒を混合して得られる粒子を調製するため、薬物を平均粒子径が1μm〜30μm、好ましくは1μm〜15μm、より好ましくは1μm〜10μm、一層好ましくは5μm〜10μmに微粉砕化することが推奨される。
また、薬物に対して下記のその他の製剤化成分を加えて、予め薬物含有粒子を製造することもできる。具体的には下記、参考例1および2に示すような苦味マスクのための粒子または徐放剤のコーティング粒子等が挙げられる。
口腔内速崩壊錠の製造において、当該薬物および下記のその他の製剤化成分を含有する薬物含有粒子を予め調製する場合には、平均粒子径が10μm〜300μm程度、好ましくは50μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μm、一層好ましくは80μm〜180μm、最も好ましくは90〜150μmに微粉砕化することが推奨される。
【0035】
(3)その他の製剤化成分
本発明の口腔内速崩壊錠においては、上記(1)の(a)〜(c)の各成分及び適宜(d)および/または(e)の成分を含む粒子、並びに上記(2)の薬物を含有することを必須とするが、通常、その他の製剤化成分を加えて製剤化する。これら製剤化成分は、また必要に応じて(1)の粒子中に加えてもよく、(2)の薬物と合わせて薬物含有粒子として口腔内速崩壊錠に配合してもよく、又は(1)、(2)以外の製剤化成分として用いても良く、あるいはそれらのいずれの場合の組み合わせとして用いても良い。本発明で用いられることもある「その他の製剤化成分」としては、配合しても薬剤の安定性に問題が無く、製剤化するのに問題の無い成分であればいずれでもよい。例えば、滑沢剤、矯味剤、結合剤、賦形剤、安定化剤、界面活性剤、流動化剤、着色剤、香料等から選ばれる1種又はそれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。「その他の製剤化成分」の配合量は0.01〜25重量%であり、好ましくは0.1〜25重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、一層好ましくは0.1〜1重量%である。
【0036】
滑沢剤
本発明で用いられる滑沢剤の具体例としては、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ショ糖脂肪酸エステル、タルク、硬化油、マクロゴール等から選ばれる1種又はそれらの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ステアリン酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等が挙げられるがこれらに限定されない。この中でステアリン酸マグネシウムが好ましい。滑沢剤の製剤化する前の平均粒子径は0.5〜50μmであり、好ましくは1〜30μm、より好ましくは1〜10μm、一層好ましくは1μm〜5μm、最も好ましくは1μmである。ステアリン酸又はステアリン酸金属塩の配合量は、通常製剤中に0.01〜2.0重量%であり、好ましくは0.1〜1.0重量%、より好ましくは0.1〜0.8重量%、一層好ましくは0.2〜0.5重量%である。
【0037】
矯味剤
本発明においては、矯味剤を配合してもよい。具体的には、ネオテーム、ソーマチン(タウマチン)、アスパルテーム、ステビア、サッカリンナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等が挙げられるがこれらに限定されない。これらは単独で使用してもよいが、2種又は数種の併用であってもよい。
【0038】
結合剤
結合剤の具体例としては、アラビアゴム、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、プルラン、ゼラチン、エチルセルロース、メチルセルロース、カルメロースナトリウム、デキストリン、ポビドン等が挙げられるがこれらに限定されない。結合剤の配合量は、錠剤の硬度を維持し、且つ口腔内での崩壊に支障のない量であればよい。
【0039】
賦形剤
賦形剤の具体例としては、乳糖、ショ糖、マンニトール(例えば、D−マンニトール)、デンプン、結晶セルロース、エリスリトール、トレハロース、無水リン酸水素カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
安定化剤
安定化剤の具体例としては、エデト酸ナトリウム、トコフェロール等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
界面活性剤
界面活性剤の具体例としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、硬化油等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
流動化剤
流動化剤の具体例としては、軽質無水ケイ酸、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
コーティング剤
コーティング剤の具体例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メタクリル酸コポリマーLD、エチルセルロース等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0044】
着色剤
着色剤の具体例としては、食用色素、三二酸化鉄、カルミン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
香料
香料の具体例としては、ストロベリーを含む種々の果実香料並びにヨーグルト、ミント、メントール等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0046】
口腔内速崩壊錠及びその製造方法
本発明の口腔内速崩壊錠は、製剤分野において慣用の方法を用いて製造することができる。例えば本発明の薬物及び噴霧乾燥粒子に上述のような製剤化成分を均一に混合した後、その混合物を公知手段で製剤化することができる。例えば錠剤、顆粒剤、丸剤、散剤、細粒剤等の経口投与に適した各種固形製剤に製剤化することができる。例えば、錠剤の場合は、通常の打錠機により、上述の噴霧乾燥粒子及び薬物を前述の製剤化成分とともに打錠することにより製造できる。また、ステアリン酸又はステアリン酸金属塩を杵及び臼に付着させた打錠機により、上述の噴霧乾燥粒子及び薬物を前述の製剤化成分とともに打錠することにより製造してもよい。
【0047】
かくして得られる本発明の口腔内速崩壊錠は、口腔内で速やかな崩壊性及び適度な硬度を示す。本発明の口腔内速崩壊錠の崩壊時間は、後述する口腔内崩壊試験器(富山産業製、ODT−101)において通常、約60秒以内、好ましくは40秒以内である。また、後述する錠剤硬度計(富山産業製、TH−203MP)を用いた硬度は、通常、15〜70Nで、好ましくは15〜60Nである。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
なお、表中のクエン酸モサプリド・2水和物とは、(±)4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド クエン酸塩・2水和物であって、大日本住友製薬製を使用する(平均粒子径約5μm)。メチルセルロースは、信越化学工業製のメトローズSM−25(粘度2.53mm/S(20℃における2%水溶性粘度(日本薬局方)))を使用し、D−マンニトールは、ロケット社(ROQUETTE)製のパーリトール160C(平均粒子径60μm)を用いる。
【0050】
タルクは、林化成製のものを、メタクリル酸コポリマーLDは、三洋化成工業製のポリキッドPA−30Sを用いる。軽質無水ケイ酸は、日本アエロジル製のアエロジール200を用いる。キシリトールは、東和化成工業製のキシリットを使用し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、信越化学製のLH−21を用い、カルボキシメチルセルロースは五徳薬品工業製のカルボキシメチルセルロースNS−300を用い、ケイ酸カルシウムはエーザイフードケミカル社製のフローライトREを用い、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは富士化学工業製のノイシリンURF2を用いる。結晶セルロースPH−101は旭化成製のセオラスPH−101を用い、結晶セルロースKG−802は旭化成製のセオラスKG−802を用い、無水リン酸カルシウムは富士化学工業製のフジカリンを用いる。コーンスターチは、日本食品化工製のコーンスターチ(XX16)Wを使用し、ステアリン酸マグネシウムは、太平化学産業製のステアリン酸マグネシウム(植物性)を使用する。市販の噴霧乾燥粒子は、富士化学工業製のエフメルト(Type C)を使用する。
【0051】
参考例1
薬物含有粒子1の製造
表1に示す処方に従って、被膜コーティング分散液を調整した。即ち、精製水(620g)にタルクを加え十分に攪拌したのち、メタクリル酸コポリマーLDを徐々に加え攪拌し、177μm開口径のメッシュ網で篩過し、被覆コーティング分散液とし調整した。
クエン酸モサプリド・2水和物346.5gと軽質無水ケイ酸3.5gを500μm開口径のメッシュ網で篩過後、ポリエチレン袋内で十分に混合し、薬物含有組成物を調製後、強制循環装置付ワースター型流動層造粒機(改良ワースター型流動層造粒機、MP−01 SPC,パウレック製)に入れ、上記の被覆コーティング分散液を噴霧した。噴霧時は給気温度を約80〜90℃、排気温度を約26〜30℃に保ち、ボトムスプレーで噴霧液流量10〜12g/分、スプレーエア流量80L/分、スプレーエアー圧力0.2〜0.3MPa、サイドエアー圧力0.2〜0.25MPa、給気風量約0.30〜0.55m/分で製造を行った。被覆コーティング分散液の噴霧量が約1306gの時点でコーティングを終了し、排気温度が42℃になるまで乾燥した。得られた粒子を32メッシュ(目開き500μm)の篩で篩過し、平均粒子径が約98μmの薬物含有粒子1を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
参考例2
薬物含有粒子2の製造
薬物含有粒子2は、表2の処方に従って製造した。即ち、薬物含有粒子を構成する各成分を攪拌造粒機(パウレック製、FM−VG−05)で精製水130gを噴霧して造粒し、引き続き棚型乾燥機で乾燥した。得られる粒子を32メッシュ(目開き500μm)の篩で篩過し、平均粒子径が約150μmの薬物含有粒子2を得た。
【0054】
【表2】

【0055】
比較例1
口腔内速崩壊錠の製造
市販の噴霧乾燥粒子、クエン酸モサプリド・2水和物及びステアリン酸マグネシウムを表3に示す処方に従って混合し、打錠圧2.0MPaで打錠し、1錠重量200mg、直径8mmの錠剤を得た。
【0056】
【表3】

【0057】
比較例2及び3
口腔内速崩壊錠の製造
参考例1及び2で得られた薬物含有粒子1及び薬物含有粒子2を用いて、比較例1と同様にして、下記表4及び表5の処方に従って、口腔内速崩壊錠(1錠重量:200mg)を製造した。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

【0060】
実施例1〜4
噴霧乾燥粒子および口腔内速崩壊錠の製造
下記表6及び表7の処方に従って、噴霧乾燥粒子および口腔内速崩壊錠(1錠重量:200mg)を製造した。すなわち、噴霧乾燥粒子を構成する各成分を水(186g)に均一に分散させたのち、噴霧乾燥機(大川原化工機社製、L−8)を用いて、出口温度80℃で噴霧乾燥し、流動性の良い白色球状の噴霧乾燥粒子を得た。
得られた噴霧乾燥粒子を用いて、比較例1と同様にして、下記表6及び表7の処方に従って、口腔内速崩壊錠(1錠重量:200mg)を製造した。
【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
試験例1
各実施例及び比較例で製造された錠剤の各特性を調べ、表8の結果を得た。表中に示す通り、各実施例で得られる口腔内速崩壊錠は適度な硬度を有し、且つ崩壊時間は40秒以内であり、十分な口腔内崩壊性を有していた。
【0064】
【表8】

【0065】
*1:打錠時に杵全体にかかっている圧力を打錠機(理研製、油圧式プレス機)
に装備されている圧力計の値を読み取った。
*2:口腔内崩壊試験器(富山産業製、ODT−101)を用いて、直径15mm、重さ15gのおもりが錠剤を崩壊してメッシュに到達するまでの時間を測定した。
*3:錠剤硬度計(富山産業製、TH−203MP)を用いて硬度を測定した。
【0066】
試験例2
上記各実施例及び比較例で製造された錠剤におけるクエン酸モサプリドの安定性を調べ、表9の結果を得た。即ち、製造直後、並びに表9に示す通り、60℃(ガラス瓶中)2週間、および60℃75%RH条件下2週間、保存した錠剤中の類縁物質の生成量(総類縁物質量)を測定した。総類縁物質量は、高速液体クロマトグラフ法(面積百分率)で測定した。尚、総類縁物質量とは、クエン酸モサプリドの分解生成物、製造時の中間体、製造時の不純物の和の総量を意味する。
【0067】
分析用試料は、上記ガラス容器に水:メタノールを1:9の割合で加え、20分間振り混ぜた後遠心分離し、上澄み液を得ることによって調製した。使用したカラムはL−column 4.6mm×150mm、5μm(化学物質評価研究機構製)であり、移動相は移動相A:クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4.0)、移動相B:アセトニトリルを用い、測定時間40分間の間に移動相A、Bの混合比をA:B、85:15から45:55(容量%)のように変えて濃度勾配制御を行って測定した。測定波長は274nmを用いた。
【0068】
結果、上記表8中に示す通り、実施例1〜4の各口腔内速崩壊錠は、製造直後の崩壊時間及び硬度において、市販の噴霧乾燥粒子を用いた比較例1〜3の錠剤と同程度であった。一方、下記表9中に示す通り、比較例ではどの試料も60℃ 2週間保存および60℃75%RH条件下2週間保存のいずれの条件下でも、すべての試料で総類縁物質量が1.0%以上になったが、実施例の試料はどの条件でも総類縁物質量が0.6%以下であった。
【0069】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミドを含有する錠剤中において、安定に保存でき、錠剤の製造から服用に至る間における取り扱いに支障をきたさないような十分な硬度(堅牢性)を有し、小型で服用感が良好で、口腔内での崩壊性及び消化管内における溶出性に優れた錠剤を大量生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)の噴霧乾燥粒子及び(2)の薬物を含有することを特徴とする口腔内速崩壊錠:
(1)下記(a)〜(c)の成分を含み、各成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる噴霧乾燥粒子;
(a)マンニトール、
(b)キシリトール、及び、
(c)崩壊剤、並びに、
(2)薬物として4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド又はその生理学的に許容される塩。
【請求項2】
崩壊剤(c)が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ及びライススターチからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項3】
崩壊剤(c)が、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを含む請求項2に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項4】
噴霧乾燥粒子(1)が、カルボキシメチルセルロース(d)および/または無機化合物(e)の成分を更に含み、(a)〜(c)の各成分と(d)および/または(e)の成分を分散溶媒に分散させ、噴霧乾燥してなる請求項1〜3のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項5】
無機化合物(e)が、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、無水ケイ酸、軽質無水ケイ酸、ケイ酸カルシウム及びリン酸水素カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である請求項4に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項6】
噴霧乾燥粒子(1)の組成物全量100重量%に対して、
(a)マンニトールを60〜95重量%、
(b)キシリトールを0.5〜10重量%、及び、
(c)崩壊剤を1〜15重量%、
の割合で含む請求項1に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項7】
噴霧乾燥粒子(1)の組成物全量100重量%に対して、カルボキシメチルセルロース(d)の成分を1〜20重量%および/または無機化合物(e)の成分を0.01〜15重量%の割合で更に含む請求項6に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項8】
薬物が、(±)4−アミノ−5−クロロ−2−エトキシ−N−[[4−(4−フルオロベンジル)−2−モルホリニル]メチル]ベンズアミド・1クエン酸塩・2水和物である請求項1〜7のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。
【請求項9】
口腔内速崩壊錠100重量%あたり、(1)の噴霧乾燥粒子を60〜98重量%、および(2)の薬物を0.5〜10重量%の割合で含む請求項1〜8のいずれか一項に記載の口腔内速崩壊錠。

【公開番号】特開2011−37767(P2011−37767A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186644(P2009−186644)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】