説明

藺草織物及びその織成方法

【課題】藺草織物において、生地の皺や波打ちがないか又は低減されて、しかも藺草の密度が通常のものより低くなることによる生地の厚みの変化や藺草の本数の変化が、使用感や市松柄の表現力において実用上問題とならないようにして、畳表としてだけでなく、床に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用ができるようにした藺草織物を提供する。
【解決手段】無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成される藺草織物であって、所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下で、無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成されており、打ち込まれた藺草1の経糸2方向の密度が二百十〜二百三十本/10cm、使用される経糸2は百五十八本/88cmである藺草織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藺草織物及びその織成方法に関するものである。更に詳しくは、無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成される藺草織物において、生地の皺や波打ちがないか又は低減されて、畳表と違って床(とこ)に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用ができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、畳表に細かい格子が連続して形成された伝統的な市松柄(市松模様)の畳がある。この畳の市松柄は、「非特許文献1」に開示されているように、藺草を染めているのではなく、無染色の藺草の根側の白っぽい部分と、先側の濃い緑色の部分とを組み合わせ、これらが四角形状に交互に表面に表れるように織成することで形成されており、さらには畳の巾方向中心部に近づくに従って市松柄から普通の畳の色へと変化するグラデーションがかかっており、見た目に美しく商品価値が高い。
【0003】
また、このような市松柄の畳表を織成する織機としては、「特許文献1」に記載された織機がある。この織機は、い草の保持送り機構と、送り機構と保持送り機構に連係し、送り機構のい草飛動部へのい草の送り供給動作と保持送り機構のい草の保持送り動作を行なわせる回転カムと、回転カムの回転を継続させつつ前記保持送り機構の1本づつのい草の保持送りを規制する保持送り規制部とを有している。
【0004】
そして、制御部により保持送り規制部をオン、オフ動作させることにより、縦糸の前後動作ごとに異なる方向からい草を飛動させる動作を左右交互に行わせ、さらに、そのときのい草の飛動順序を制御することにより、高いサイクルタイムを維持しつつ無染色い草を用いて市松柄の織り部を織成でき、商品価値の高い畳表や蓙等のい草製品を織成することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−34648
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tatamizuki ホームページ <URL:http://item.rakuten.co.jp/tatamizuki/og-ic-e-0005/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来の市松柄の畳表は、前記織機等のいわゆる変わり織機により織成されてきたが、次のような課題も生じていた。
すなわち、藺草は、長手方向の位置によって太さが異なっており、根側から中間部分にかけて徐々に太くなり、さらに先側へかけて徐々に細くなる。このため、藺草の長手方向の各部で同じように経糸で織成しても、藺草の太い部分では経糸が引っ張られて張力が強くなることによって、織成された藺草織物の各部経糸の張力にムラが生じ、これが原因で生地が歪んだり波打ってしまう問題があった。
【0008】
すなわち、藺草織物を織成する際、各経糸は一様な張力及び長さで繰り出されており、一定長さの各経糸を藺草の径の異なる周面に沿わせるときに、径大の周面に沿う経糸は径小の周面に沿う経糸よりも引っ張られた状態となり、この状態で織成される。したがって、織成後、経糸の引っ張り力を解舒したときに、引っ張り状態にあった径大の周面に沿う経糸が縮むため、生地の藺草径大部分が位置する箇所に皺が生じ、生地が歪んだり波打つことになる。
【0009】
このように藺草織物の生地が歪んだり波打ってしまっても、畳表として使用する場合は畳床に張るときに生地に十分な張力がかけられるため多少の皺や波打ちは修正されるので問題はない。しかし、藺草織物を茣蓙や畳カバーとして使用する場合は、床にそのまま載せる通常の使用では生地に大きな張力がかからず、皺や波打ちが修正されることはないので、商品としての価値はなくなってしまうか又は低下する。
【0010】
本願発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。そして、試行を繰り返す中で、織成する藺草の密度を、通常行われている密度ではなく、通常のものより密度が低いある一定の範囲内に収めることによって、織成された藺草織物の生地が歪んだり波打ってしまうことを防止でき、しかも藺草の密度が低くなることによる生地の厚みの変化や藺草の本数の変化が、使用感や市松柄の表現力において実用上問題とならないことを知見し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(本発明の目的)
本発明は、無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成される藺草織物において、生地の皺や波打ちがないか又は低減されて、しかも藺草の密度が通常のものより低くなることによる生地の厚みの変化や藺草の本数の変化が、使用感や市松柄の表現力において実用上問題とならないようにして、畳表としてだけでなく、床に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用ができるようにした藺草織物及びその織成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
(1)本発明は、
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物であって、
所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下で織成されており、打ち込まれた藺草の経糸方向の密度が二百十〜二百三十本/10cmであり、使用された経糸は百五十八本/88cmである、
藺草織物である。
【0013】
(2)本発明は、
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物であって、
所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下で織成されており、打ち込まれた藺草の経糸方向の密度が二百二十本/10cm、使用された経糸は百五十八本/88cmである、
藺草織物である。
【0014】
(3)本発明は、
市松柄の1区画に藺草が二十四本収まるように織成されている、
前記(1)又は(2)の藺草織物である。
【0015】
(4)本発明は、
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物の織成に当たり、
所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下において、藺草の経糸方向の密度を、通常の二百五十〜二百七十本/10cmより低く、かつ織成後に経糸の引っ張り力を解舒したときに生地に皺又は波打ちが生じない範囲内に設定して織成する、
藺草織物の織成方法である。
【0016】
藺草の密度が二百十本/10cm未満である場合は、藺草の密度が低くなりすぎて、藺草織物の生地が薄くなり、使い心地が悪くなるという傾向がある。また、市松柄の表現力においても緻密さで劣る傾向がある。
藺草の密度が二百三十本/10cmを超えると、藺草の密度が高くなりすぎて、藺草の太い部分では経糸が引っ張られて張力が強くなることによって、織成された藺草織物の各部経糸の張力にムラが生じ、これが原因で生地が歪んだり波打つという傾向にある。
【0017】
(作用)
本発明に係る藺草織物の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0018】
藺草織物は、藺草(1)の経糸(2)方向の密度が二百十〜二百三十本/10cm、及び使用される経糸(2)は百五十八本/88cm、の本数で織成されている。前記従来の市松柄の藺草織物では、藺草(1)の密度が通常二百五十〜二百七十本/10cmであり、経糸(2)は百二十八本/88cmである。したがって、藺草(1)に関しては、密度が通常のものより低くなっており、織成の際の藺草(1)の中間部(太い部分)に掛かる経糸の張力も押さえられている。
【0019】
これにより、織成後に所要長さに切断される等して経糸の引っ張り力が解舒されたときも、藺草織物の生地は従来に比べて皺や波打ちがないか又は低減されている。しかも藺草(1)の密度が通常のものより低くなることによる生地の厚みの変化や藺草(1)の本数の変化が、使用感や市松柄の表現力において実用上問題とならないので、畳表としてだけでなく、床に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成される藺草織物において、この藺草織物に好適な藺草の密度で織成されているので、織成された藺草織物の生地の皺や波打ちがないか又は低減されており、しかも藺草の密度が通常のものより低くなることによる生地の厚みの変化や藺草の本数の変化が、使用感や市松柄の表現力において実用上問題とならない。
したがって、本発明に係る藺草織物は、畳表としてだけでなく、床に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用が可能になり、藺草織物としての商品価値を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る藺草織物の一実施の形態を示す要部平面図。
【図2】藺草織物の表面側の一部拡大説明図。
【図3】図2のA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を図1乃至図3に示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
藺草織物Rは、無染色の藺草の根側の白っぽい部分と、先側の濃い緑色の部分とを組み合わせ、これらが四角形状に交互に表面に表れるように織成することで市松柄で形成されており、さらにこの市松柄は畳の巾方向中心部に近づくに従って、藺草の根側の白っぽい部分と先側の濃い緑色の市松柄から中間部の普通の畳の色へと変化するグラデーションがかかっている(図1参照)。藺草織物Rは、外周部に縁3が設けられている。
【0023】
藺草織物Rの藺草1の経糸2方向の密度は、本実施の形態では目付けが二百二十本/10cmに設定されている。また、経糸2には、ポリプロピレン・マルチフィラメント繊維糸(パイレン:商標名 東洋レーヨン株式会社)が使用されており、生地10の全体の張力を保ちやすいようにしている。そして、経糸2の本数は、本実施の形態では百五十八本/88cm(従来のものは百二十八本/88cm)に設定されている。
【0024】
これにより、藺草織物Rは、市松柄部分の巾が、縦横共に約1.1cmとなっており、通常よりやや多くして市松柄の目立ちをはっきりさせている。この市松柄の一つの区画には藺草1が二十四本収まるように織成されており、一方の面側(例えば表側)に藺草1の先側の濃い緑色の部分11のみが十二本表れるように、その反対の面側(裏側)に藺草1の根側の白っぽい部分12のみが十二本表れるようにしてあり(図2、図3参照)、縦横方向に隣接する区画はその逆となっている。
この市松柄の織成部の構成は、生地10の皺や波打ちの防止又は低減と市松柄の表現の緻密さを両立できる最も好ましい構成である。
【0025】
(作用)
藺草織物Rは、例えば特許文献1に開示されているような変わり織機を使用して織成されている。藺草織物Rは、前記のように織成されているので、織成された藺草織物Rの生地10の皺や波打ちがないか又は低減されている。また、藺草1の密度は通常のものより低くなっているが、これにより生地10の厚みが薄くなることによって使用感が悪くなることはなく、藺草の本数が少なくなることにより市松柄の表現力が特に緻密さにおいて劣ることもないので、実用上問題とはならない。
したがって、藺草織物Rは、畳表としてだけでなく、床に固定しない茣蓙や畳カバーとしての使用が可能になり、藺草織物としての商品価値が高くなる。
【0026】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0027】
R 藺草織物
10 生地
1 藺草
11 藺草の先側の濃い緑色の部分
12 藺草の根側の白っぽい部分
2 経糸
3 縁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物であって、
所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下で織成されており、打ち込まれた藺草(1)の経糸(2)方向の密度が二百十〜二百三十本/10cmであり、使用された経糸(2)は百五十八/88cmである、
藺草織物。
【請求項2】
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物であって、
所要数の経糸が一様な張力及び長さで繰り出される条件下で織成されており、打ち込まれた藺草(1)の経糸(2)方向の密度が二百二十本/10cmであり、使用された経糸(2)は百五十八本/88cmである、
藺草織物。
【請求項3】
市松柄の1区画に藺草(1)が二十四本収まるように織成されている、
請求項1又は2記載の藺草織物。
【請求項4】
無染色の藺草の自然な色合いを利用してグラデーションがかかった市松柄に織成された藺草織物の織成に当たり、
所要数の経糸(2)が一様な張力及び長さで繰り出される条件下において、藺草(1)の経糸(2)方向の密度を、通常の二百五十〜二百七十本/10cmより低く、かつ織成後に経糸(2)の引っ張り力を解舒したときに生地(10)に皺又は波打ちが生じない範囲内に設定して織成する、
藺草織物の織成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−214181(P2011−214181A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81975(P2010−81975)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(590001049)株式会社イケヒコ・コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】