説明

虚血および虚血−再灌流傷害におけるマイクロRNA調節

本発明は、虚血および虚血再灌流傷害後の心臓リモデリングに関与するmiRNAの同定に関する。これらのmiRNAのサブセットは、虚血事象後、短期間のうちに調節され、これらのmiRNAがその後の病理学的事象の誘導において重要な役割を果たすことを示している。心筋虚血および虚血再灌流傷害の治療または予防としてのこれらの同定されたmiRNAの調節を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年12月15日に出願された米国仮特許出願第61/286,622号の優先権の利益を主張し、その全体について参照により本明細書で援用する。
【0002】
政府による支援の記述
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号HL53351−06の下で政府による支援を受けてなされた。政府は、本発明における一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、一般に、心臓学、病理学、および分子生物学の分野に関する。特に、本発明は、虚血および虚血心臓組織の再灌流に応答して調節されるいくつかのmiRNAを包含する。これらの同定されたmiRNAの発現の操作は、心筋虚血および他の形態の虚血傷害の治療に対する新規の治療アプローチを提供する。
【背景技術】
【0004】
冠動脈疾患、心筋梗塞、鬱血性心不全、および心肥大を含む心疾患およびその徴候は、今日の米国における主要な健康リスクを明確に示している。これらの疾患に罹患している患者を診断し、治療し、支援するためのコストは、数十億ドルに及んでいる。心疾患の特に重篤な徴候は、心筋梗塞である。より一般的に心臓発作として知られる心筋梗塞(MI)は、最も多くは不安定プラークの破裂によって心臓の一部への血液供給が中断されるときに生じる病状である。血液供給の中断は、損傷を引き起こす虚血および酸素不足を最初にもたらし、これが進行して、心臓組織の死(すなわち、梗塞)に至ることがある。それは、世界の男女両方の主要な死因である。米国だけで、5人に1人が冠動脈疾患で死亡しており、約7,200,000人の男性および6,000,000人の女性が、何らかの形の冠動脈疾患を抱えて生活している。これらのうち、1,200,000人が、毎年、新しいまたは再発性の冠動脈発作に罹患し、そのうちの約40%が発作の結果として死亡する。これは、約65秒毎に1人の米国人が、冠動脈事象で死亡していることを意味する。
【0005】
心筋梗塞の前触れは心筋虚血である。心筋虚血は、酸素運搬が心臓における心筋代謝要求量を満たすことができないときに起こる。この欠乏は、酸素供給の低下(冠動脈血流の減少)か、または心筋酸素需要量の増加(壁応力もしくは後負荷の増大)のいずれかによって生じることがある。低酸素(hypoxia)は必須要素であるが、それは、虚血心が経験する唯一の環境ストレスではない。虚血は、心血管機能を障害する種々の環境ストレスを生じさせる。結果として、細胞損傷を最小限に抑え、かつ心拍出量を維持するために、複数のシグナル伝達経路が、虚血傷害時に哺乳動物細胞で活性化される。活性化される転写調節因子には、低酸素誘導因子(HIF)転写因子ファミリーのメンバーがある。酸素濃度の減少に応答して、HIF因子は、その全てが心臓において重要である、代謝(グルコース摂取の促進)、血管形成による新しい血管の形成、細胞生存、および酸素運搬を含む、数え切れないほどの細胞プロセスに影響を及ぼす種々の遺伝子を調節する。これらの遺伝子発現カスケードは迅速であり、心筋虚血に対する初期応答に影響を与える。この初期応答は、得られる心筋収縮能の低下に影響を及ぼす。虚血後には、組織の再灌流が続くことが多く、これにより、酸素、および虚血代謝産物に置き換わる代謝基質の再侵入が可能になる。再灌流のプロセスは、心筋の生化学的、構造的および機能的変化をもたらし、細胞生存や細胞死に決定的な影響を与え得る。
【0006】
心筋梗塞後のリモデリングと関連する遺伝子発現およびシグナル伝達経路の変化は、損傷した心臓の機能回復を可能にし得る治療標的を同定するという目的をもって、広く研究されている。最近、心疾患の新しい調節様式を示唆する心肥大および心不全におけるマイクロRNAの重要な役割が記載されている(van Rooij et al. (2006) Proc Natl Acad Sci USA, Vol. 103(48): 18255-60; van Rooij and Olson (2007) J Clin Invest., Vol. 117(9):2369-76; van Rooij et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USA, Vol. 105(35): 13027-32)。マイクロRNA(miRNA)は、個々のmiRNA遺伝子、タンパク質コード遺伝子のイントロン、または複数の密接に関連するmiRNAをコードすることが多いポリシストロン性転写産物に由来する、約18〜約25ヌクレオチド長の小さい、タンパク質をコードしない(non-protein coding)RNAである。Carringtonら(Science, Vol. 301(5631):336-338, 2003)による総説を参照されたい。miRNAは、その配列が完全に相補的であるときにその分解を促進することによって、またはその配列がミスマッチを含むときに翻訳を阻害することによって、標的mRNAのリプレッサーとして働く。
【0007】
miRNAは、RNAポリメラーゼII(pol II)またはRNAポリメラーゼIII(pol III;Qi et al. (2006) Cellular & Molecular Immunology, Vol. 3:41 1-419参照)によって転写され、通常は数千塩基長の一次miRNA転写産物(プリ−miRNA)と呼ばれる初期転写産物から生じる。プリ−miRNAは、DroshaというRNアーゼによって核内でプロセッシングされ、約70〜約100ヌクレオチドのヘアピン型前駆体(プレ−miRNA)になる。細胞質に輸送された後、ヘアピンプレ−miRNAは、Dicerによりさらにプロセッシングされて、二本鎖miRNAを生じる。その後、成熟miRNA鎖は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、この複合体の中で、塩基対相補性によってその標的mRNAと会合する。miRNA塩基対がmRNA標的と完全に一致する比較的珍しい場合には、それは、mRNA分解を促進する。より一般的には、miRNAは、標的mRNAとの不完全なヘテロ二重鎖を形成し、mRNA安定性に影響を及ぼすか、またはmRNA翻訳を阻害する。
【0008】
マウスおよびヒトでの遺伝学的研究に基づいて、miRNAが、実際、心臓のリモデリング、増殖、伝導性、および収縮性に積極的に関与することが次第に明らかになっている(van Rooij and Olson (2007) Journal of Clinical Investigation, Vol. 1 17(9):2369-2376に概説されている)。心虚血は、筋細胞喪失の度合いと、生き残った心筋組織のリモデリングの程度とに依存する、心室の機能や生存の予後に影響を及ぼし得るリモデリングを誘導する。虚血に応答する初期の細胞リモデリングプロセスに関与するmiRNAの同定および特徴付けは、虚血性障害の不適応な効果を軽減または排除するための新規の治療アプローチを提供することができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一部は、虚血事象または後に組織再灌流を伴う虚血の直後に心臓組織で調節されるいくつかのmiRNAの発見に基づいている。これらの同定されたmiRNAの調節は、心筋虚血を治療し、かつ心筋梗塞および心不全の発症を予防するための新規の治療アプローチを提示する。したがって、本発明は、必要とする対象における心筋虚血を治療または予防する方法であって、対象の心臓細胞における1種以上の同定されたmiRNAの発現または活性を調節することを含む方法を提供する。一実施形態では、1種以上のmiRNAは、miR−15ファミリーメンバー、miR−21、miR−26a、let−7b、miR−199、miR−320、miR−214、miR−10a、miR−10b、miR−574、miR−92a、miR−499、miR−101a、miR−101b、miR−125b、miR−145、miR−126、miR−30ファミリーメンバー、miR−143、miR−185、miR−34a、miR−1、miR−133、miR−210、およびmiR−29a〜cからなる群から選択される。特定の実施形態では、対象は冠動脈疾患を有する。
【0010】
一実施形態では、本方法は、対象に、1種以上の同定されたmiRNAの阻害剤を投与することを含む。例えば、阻害剤は、miR−15ファミリーメンバー、miR−92a、miR−320、miR−21、miR−199、miR−499、およびmiR−30ファミリーメンバーからなる群から選択されるmiRNAの発現または活性の阻害剤であることができる。1種以上のmiRNAの阻害剤は、アンタゴmirまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドを含むことができる。
【0011】
別の実施形態では、本方法は、対象に、1種以上の同定されたmiRNAのアゴニストを投与することを含む。いくつかの実施形態では、アゴニストは、miR−126、miR−143、miR−210、およびmiR−29a〜cからなる群から選択されるmiRNAの発現または活性を増大させる。特定の実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストは、1種以上のmiRNAの成熟配列を含むポリヌクレオチドである。アゴニストは、発現構築物からインビボで発現させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、心筋虚血を治療または予防する方法は、第2の心臓治療剤を投与することをさらに含む。第2の心臓治療剤は、狭心症または冠動脈疾患を治療するために製剤化される薬剤であることができる。一実施形態では、第2の心臓治療剤は、抗狭心症薬、β遮断薬、イオノトロープ(ionotrope)、利尿薬、ACE−I、AIIアンタゴニスト、エンドセリン受容体アンタゴニスト、HDAC阻害剤、およびカルシウムチャネル遮断薬からなる群から選択される。
【0013】
本発明は、必要とする対象における虚血−再灌流傷害を予防または治療する方法も含む。特定の実施形態では、本方法は、再灌流傷害後に調節される1種以上のmiRNAのモジュレーターを投与することを含む。モジュレーターは、miRNA機能または発現の阻害剤またはアゴニストであることができる。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、必要とする対象における低酸素に応答した心筋細胞の喪失を予防または軽減する方法であって、miR−199、miR−320の阻害剤、および/またはmiR−210のアゴニストを対象に投与することを含む方法を包含する。いくつかの実施形態では、miR−210のアゴニストは、転写因子HIF1αである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】虚血性障害後の心臓組織におけるmiR−199aの発現。心筋梗塞の誘導から6、24、および48時間後のマウスの梗塞領域から単離した組織のmiR−199のリアルタイムPCR解析。
【図2】HIF1αは、miR−199阻害に応答して心筋細胞でアップレギュレートされる。A.miR−199aに対する抗miRまたはミスマッチ対照(MM)で処理した心筋細胞におけるHIF1α発現のノーザンブロット解析。B.マウスへの抗miR−199aまたはミスマッチ対照(MM)の静脈内注射後の様々な組織におけるmiR−199のリアルタイムPCR解析。
【図3】miR−320は、心筋虚血後、心臓組織でダウンレギュレートされる。心筋梗塞の誘導から6、24、および48時間後のマウスの梗塞領域から単離した組織のmiR−320のリアルタイムPCR解析。
【図4】miR−210の発現は、虚血および低酸素の後、心臓細胞で誘導される。A.心筋梗塞の誘導から6、24、および48時間後のマウスの梗塞領域から単離した組織のmiR−210のリアルタイムPCR解析。B.インビトロでの低酸素条件への曝露から6時間後および12時間後のラット新生児心筋細胞のmiR−210のリアルタイムPCR解析。
【図5】特異的miRNAが虚血再灌流に応答して調節される。再灌流後の虚血組織における統計的に有意な調節されたmiRNAのヒートマップ(P<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、一部は、虚血性障害の直後に調節されるmiRNAのサブセットの同定に基づいている。特に、本発明者らは、虚血組織で顕著にアップレギュレートされる少なくとも30個のmiRNA、および虚血事象後の最初の48時間のうちに虚血組織でダウンレギュレートされる少なくとも38個のmiRNAを発見した。このmiRNAのサブセットは、虚血事象の直後に動的調節を示した:miRNAの発現が、最初はダウンレギュレーションされ、その後、アップレギュレートされたものがある一方で、発現が、最初はアップレギュレートされ、その後、ダウンレギュレートされたものもあった。さらに、本発明者らは、重複しているが、固有のmiRNAサブセットが、虚血事象後、再灌流した心臓組織で調節されることを発見した。少なくとも32個のmiRNAが顕著にアップレギュレートされることが分かり、その一方で、少なくとも48個のmiRNAが再灌流した心臓組織で顕著にダウンレギュレートされた。調節されるmiRNAの重複から、miRNAは、異なる時点で異なる心疾患プロセスに関与し得、かつ疾患状態に影響を及ぼすように作用することができることが示唆される。したがって、虚血傷害に対する心臓の応答に関与し、また、これらの特異的miRNAの活性または発現の操作により、結果として起こる任意の潜在的な梗塞の大きさを限定し、かつ心筋収縮能を維持するような心臓リモデリングの制御がもたらされ得るmiRNAのセットが存在する。したがって、本発明は、必要とする対象における心筋虚血を治療または予防する方法であって、対象の心臓細胞における表1および2に記載された1種以上のmiRNAの発現または活性を調節することを含む方法を提供する。本発明は、表1および2に記載されたmiRNAの対応するヒト配列も含む。特定の実施形態では、1種以上のmiRNAは、miR−15ファミリーメンバー(例えば、miR−15a、miR−15b、miR−16−1、miR−16−2、miR−195、miR−424、およびmiR−497)(配列番号:1〜6)、miR−21(配列番号:7)、miR−199a(配列番号:8〜9)、miR−320(配列番号:10)、miR−214(配列番号:11)、miR−10a(配列番号:12)、miR−10b(配列番号:13)、miR−574(配列番号:14〜15)、miR−92a(配列番号:16)、miR−499(配列番号:17〜18)、miR−101a/miR−101b(配列番号:19)、miR−126(配列番号:20)、miR−30ファミリーメンバー(例えば、miR−30a、miR−30b、miR−30c、miR−30d、およびmiR−30e)(配列番号:21〜25)、miR−143(配列番号:26)、miR−185(配列番号:27)、miR−34a(配列番号:28)、miR−1(配列番号:29)、miR−133a/miR−133b(配列番号:30〜31)、miR−210(配列番号:32)、miR−29a〜c(配列番号:33〜35)、miR−26a(配列番号:37)、let−7b(配列番号:38)、miR−125b(配列番号:39)、ならびにmiR−145(配列番号:40)からなる群から選択される。
【0017】
本明細書で使用する場合、「調節する」という用語は、miRNAの生物学的活性の変化または変更を指す。調節は、miRNAの発現レベルの変化、miRNAの(例えば、標的mRNAに対する、もしくはRISC複合体の構成要素に対する)結合特性の変化、またはmiRNAと関連する生物学的もしくは機能的特性の任意の他の変化であってもよい。調節は、miRNAの発現または機能の増大または減少のいずれかであることができる。「モジュレーター」という用語は、上記のようなmiRNAの発現または生物学的活性を変化させるかまたは変更することが可能な任意の分子または化合物を指す。モジュレーターは、miRNA機能もしくは発現の阻害剤であることができるか、またはそれは、miRNA機能もしくは発現のアゴニストであることができる。
【0018】
本明細書で使用する場合、「心筋虚血」または「虚血」という用語は、心筋への血液供給障害から生じる心臓内の状態を指す。虚血は、例えば、心臓組織に通常供給する1種以上の冠動脈を通る流れの遮断または低下の結果として心臓組織へのブローフローの制限を伴うことがある。虚血性障害には、心筋細胞の喪失、心肥大、心筋症、心筋収縮能の低下、および不整脈が含まれる。梗塞は、局部的な領域への血液供給が長期間にわたって奪われて、その結果、心臓細胞が死ぬときに起こる。「梗塞」は、その領域への循環の閉塞によって生じる組織内の凝固壊死の領域である。対象の心臓組織における本明細書に開示された1種以上のmiRNAの発現または活性の調節は、虚血事象を経験した対象または虚血事象を経験するリスクのある対象における梗塞の発症の予防または梗塞サイズの低下、心筋収縮能の維持、および心臓リモデリングの最小化を含む、虚血性障害の軽減または予防に効果的である。
【0019】
心臓における虚血および結果として起こる虚血性障害は、虚血事象または虚血傷害によって引き起こされる。「虚血事象」または「虚血傷害」は、心臓組織への血液供給障害を生じさせるか、または生じさせ得る任意の事例である。本発明よって包含される虚血事象または虚血傷害には、低血糖、頻脈、アテローム性動脈硬化、低血圧、血栓塞栓症、血管の外部圧迫、塞栓症、鎌状赤血球症、炎症血管の内腔の血栓に伴って起こることが多い炎症過程、出血、心不全および心停止、敗血症性ショックおよび心原性ショックを含むショック、高血圧、血管腫、ならびに低体温が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
一実施形態では、必要とする対象における心筋虚血を治療または予防する方法は、表1および2に記載された1種以上のmiRNAの阻害剤を対象に投与することを含む。別の実施形態では、阻害剤は、miR−15ファミリーメンバー(例えば、miR−15a、miR−15b、miR−16−1、miR−16−2、miR−195、miR−424、およびmiR−497)(配列番号:1〜6)、miR−92a(配列番号:16)、miR−21(配列番号:7)、miR−199a(配列番号:8〜9)、miR−320(配列番号:10)、miR−499(配列番号:17〜18)、ならびにmiR−30ファミリーメンバー(例えば、miR−30a、miR−30b、miR−30c、miR−30d、およびmiR−30e)(配列番号:21〜25)からなる群から選択される1種以上のmiRNAの発現または活性の阻害剤である。
【0021】
特定の実施形態では、1種以上のmiRNAの阻害剤は、アンチセンスオリゴヌクレオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドまたはこれらの組合せを含むことができる。好ましくは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの化学修飾(例えば、糖または骨格修飾)を有する。例えば、好適なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、BSNを含むオリゴヌクレオチドとその相補的マイクロRNA標的鎖との間に形成される複合体に対する増大した熱安定性を付与する1種以上の「立体構造的に拘束された」または二環式の糖ヌクレオシド修飾(BSN)から構成されていてもよい。例えば、一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの「ロックド(locked)核酸」を含む。「ロックド核酸」(LNA)は、リボース糖部分が「ロックされた」立体構造である2’−O,4’−C−メチレンリボヌクレオシド(構造A)を含む。別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1つの2’,4’−C−架橋2’デオキシリボヌクレオシド(CDNA、構造B)を含む。例えば、米国特許第6,403,566号およびWang et al.,(1999) Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,Vol.9:1147-1150を参照されたく、これらは両方とも、その全体について参照により本明細書で援用する。さらに別の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、構造Cに示す構造を有する少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含む。1種以上のmiRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、BSN(LNA、CDNAなど)または他の修飾ヌクレオチドとリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの組合せを含むことができる。
【化1】

【0022】
あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、糖−リン酸骨格ではなくペプチドをベースとする骨格を含む、ペプチド核酸(PNA)を含むことができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドに対する他の修飾糖またはホスホジエステル修飾も企図される。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドが含有し得る他の化学修飾には、2’−O−アルキル(例えば、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル)、2’−フルオロ、および4’チオ修飾などの糖修飾、ならびに1種以上のホスホロチオエート、モルホリノ、またはホスホノカルボキシレート結合などの骨格修飾が含まれるが、これらに限定されない(例えば、その全体が参照により本明細書で援用する、米国特許第6,693,187号および同第7,067,641号を参照されたい)。一実施形態では、1種以上のmiRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、各塩基上に2’O−メチル糖修飾を含有し、ホスホロチオエート結合で連結されている。アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、長さがより短い(例えば、15ヌクレオチド未満の)アンチセンスオリゴヌクレオチドは、限定するものではないが、LNA、二環式ヌクレオシド、ホスホノフォルメート、2’O−アルキル修飾および同様のものなどの、1種以上の親和性増強修飾を含むことができる。いくつかの実施形態では、好適なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端と3’末端の両方に2’−O−メトキシエチル修飾リボヌクレオチドを含有し、少なくとも10個のデオキシリボヌクレオチドを中央に有する、2’−O−メトキシエチル「ギャップマー(gapmer)」である。これらの「ギャップマー」は、RNA標的のRNアーゼH依存性の分解機構の引き金になり得る。その全体を参照により本明細書で援用する米国特許第6,838,283号に記載されている修飾など、安定性を強化し、かつ効力を向上させるためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの他の修飾が当技術分野で公知であり、かつ本発明の方法で用いるのに好適である。例えば、インビボ送達および安定性を促進するために、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、その3’末端で、コレステロール部分などのステロイド、ビタミン、脂肪酸、炭水化物もしくはグリコシド、ペプチド、または他の小分子リガンドと結合させてもよい。
【0023】
miRNAの活性を阻害するのに有用な好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約5〜約25ヌクレオチド長、約10〜約30ヌクレオチド長、または約20〜約25ヌクレオチド長である。特定の実施形態では、本明細書に記載の1種以上のmiRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約8〜約18ヌクレオチド長、および他の実施形態では、約12〜約16ヌクレオチド長である。標的miRNAと相補的な任意の8mer以上のもの、すなわち、miRNAの5’末端と相補的であり、かつ標的miRNAの相補配列全体にわたって伸びている任意の抗miRを用いてもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、1種以上のmiRNA由来の成熟miRNA配列と少なくとも部分的に相補的な配列を含むことができる。「部分的に相補的な」とは、標的miRNA配列と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的な配列を指す。いくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的miRNA配列と少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的な成熟miRNA配列と実質的に相補的であることができる。一実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、成熟miRNA配列と100%相補的な配列を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンタゴmirである。「アンタゴmir」は、少なくとも1つの成熟miRNA配列と少なくとも部分的に相補的な一本鎖の化学修飾リボヌクレオチドである。アンタゴmirは、2’−O−メチル-糖修飾などの1種以上の修飾ヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施形態では、アンタゴmirは、修飾ヌクレオチドのみを含む。アンタゴmirは、部分的または完全なホスホロチオエート骨格を生じさせる1種以上のホスホロチオエート結合を含むこともできる。インビボ送達および安定性を促進するために、アンタゴmirは、その3’末端でコレステロールまたは他の部分と結合させることができる。1種以上のmiRNAを阻害するのに好適なアンタゴmirは、約12〜約70ヌクレオチド長、約15〜約50ヌクレオチド長、約18〜約35ヌクレオチド長、約19〜約28ヌクレオチド長、または約20〜約25ヌクレオチド長であることができる。アンタゴmirは、成熟miRNA配列と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的であることができる。いくつかの実施形態では、アンタゴmirは、標的ポリヌクレオチド配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%相補的な成熟miRNA配列と実質的に相補的であり得る。他の実施形態では、アンタゴmirは、成熟miRNA配列と100%相補的である。
【0025】
別の実施形態では、必要とする対象における心筋虚血を治療または予防する方法は、表1および2に記載された1種以上のmiRNAのアゴニストを対象に投与することを含む。特定の実施形態では、アゴニストは、miR−126(配列番号:20)、miR−143(配列番号:26)、miR−210(配列番号:32)、およびmiR−29a〜c(配列番号:33〜35)からなる群から選択される1種以上のmiRNAのアゴニストである。
【0026】
本明細書で使用する場合、「アゴニスト」は、標的miRNAの発現または活性を増強する分子または化合物である。アゴニストは、miRNA配列をコードするポリヌクレオチドであることができる。例えば、一実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストは、1種以上のmiRNAの成熟配列を含むポリヌクレオチドである。別の実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストは、1種以上のmiRNAのプリ−miRNAまたはプレ−miRNA配列を含むポリヌクレオチドであることができる。成熟miRNA、プレ−miRNA、またはプリ−miRNA配列を含むポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖であることができる。ポリヌクレオチドは、ロックド核酸、ペプチド核酸などの1種以上の化学修飾、2’−O−アルキル(例えば、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル)、2’−フルオロ、および4’チオ修飾などの糖修飾、ならびに1種以上のホスホロチオエート、モルホリノ、またはホスホノカルボキシレート結合などの骨格修飾を含み得る。いくつかの実施形態では、1種以上のmiRNA配列を含むポリヌクレオチドは、コレステロールなどのステロイド、ビタミン、脂肪酸、炭水化物もしくはグリコシド、ペプチド、または別の小分子リガンドにコンジュゲートされる。特定の実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストは、1種以上のmiRNAの機能を高めるか、補強するか、またはそれに置き換わるように作用するmiRNAそれ自体とは異なる作用剤である。
【0027】
本発明のmiRNAの阻害剤およびアゴニストは、インビボでベクターから発現させることができる。「ベクター」は、目的の核酸を細胞の内部に送達するために用いることができる物質の組成物である。多くのベクターが当技術分野で公知であり、限定するものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン化合物または両親媒性化合物と関連したポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスが含まれる。したがって、「ベクター」という用語には、自己複製プラスミドまたはウイルスが含まれる。ウイルスベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。発現構築物は生細胞中で複製することができるか、またはそれは合成によって作製することができる。本出願の目的のために、「発現構築物」、「発現ベクター」、および「ベクター」という用語は、本発明の用途を一般的で例示的な意味で示すため互換的に用いられるが、本発明の限定を意図するものではない。
【0028】
一実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストを発現させるための発現ベクターは、1種以上のmiRNAの配列をコードするポリヌクレオチドに「操作可能に連結された」プロモーターを含む。本明細書で使用される「操作可能に連結された」または「転写制御下」という語句は、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するよう、プロモーターがポリヌクレオチドとの関連で正確な場所および配向にあることを指す。1種以上のmiRNAをコードするポリヌクレオチドは、1種以上のmiRNAの一次miRNA配列、前駆miRNA配列、成熟miRNA配列、または星印付き(star)(例えば、マイナー)配列をコードし得る。1種以上のmiRNAの配列を含むポリヌクレオチドは、約18〜約2000ヌクレオチド長、約70〜約200ヌクレオチド長、約20〜約50ヌクレオチド長、または約18〜約25ヌクレオチド長であることができる。
【0029】
1種以上のmiRNA(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド)の阻害剤は、インビボでベクターから発現させることができる。例えば、一実施形態では、1種以上のmiRNAの阻害剤を発現させるための発現ベクターは、アンチセンスオリゴヌクレオチドをコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結されたプロモーターを含み、ここで、発現されるアンチセンスオリゴヌクレオチドの配列は、1種以上のmiRNAの成熟配列と少なくとも部分的に相補的である。
【0030】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」は、遺伝子の特異的転写を開始するのに必要とされる、細胞の合成装置または導入された合成装置によって認識されるDNA配列を指す。好適なプロモーターには、RNA pol I、pol II、pol III、ならびにウイルスプロモーター(例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、およびラウス肉腫ウイルス末端反復配列)が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態では、プロモーターは、組織特異的プロモーターである。特に興味深いのは、筋特異的プロモーター、およびより具体的には、心臓特異的プロモーターである。これらには、ミオシン軽鎖−2プロモーター (Franz et al. (1994) Cardioscience, Vol. 5(4):235-43; Kelly et al. (1995) J. Cell Biol, Vol. 129(2):383-396)、αアクチンプロモーター(Moss et al. (1996) Biol. Chem., Vol. 271(49): 31688-31694)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al. (1996) Genomics, Vol. 35(1):11-23); Na+/Ca2+交換体プロモーター(Barnes et al. (1997) J. Biol. Chem., Vol. 272(17): 11510-11517)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al. (1997) Dev. Growth Differ., Vol. 39(3):257-265)、α7インテグリンプロモーター(Ziober and Kramer (1996) J. Bio. Chem., Vol. 271(37):22915-22)、脳ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al. (1996) Hypertension, Vol. 27(3 Pt 2):715-22)、およびαB−クリスタリン/小熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal-Srivastava (1995) J. Mol. Cell. Biol, Vol. 15(12):7081-7090)、αミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi-Takihara et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 86(10):3504-3508)、ならびにANFプロモーター(LaPointe et al. (1988) J. Biol. Chem., Vol. 263(19):9075-9078)が含まれる。
【0031】
特定の実施形態では、miRNAファミリー阻害剤をコードするポリヌクレオチドに操作可能に連結されたプロモーターは、誘導性プロモーターであってもよい。誘導性プロモーターは当技術分野で公知であり、テトラサイクリンプロモーター、メタロチオネインIIAプロモーター、熱ショックプロモーター、ステロイド/甲状腺ホルモン/レチノイン酸応答エレメント、アデノウイルス後期プロモーター、および誘導性マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRを含むが、これらに限定されない。
【0032】
いくつかの実施形態では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、およびラウス肉腫ウイルス末端反復配列、ラットインスリンプロモーター、およびグリセロアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼプロモーターを用いて、目的のポリヌクレオチド配列の高レベル発現を得ることができる。発現のレベルが所与の目的に十分であるならば、目的のポリヌクレオチド配列の発現を達成することが当技術分野でよく知られている他のウイルスプロモーターまたは哺乳動物細胞プロモーターまたは細菌ファージプロモーターの使用も同様に企図される。
【0033】
発現構築物および核酸を細胞に送達する方法は当技術分野で公知であり、例えば、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、DEAE−デキストラン、リポフェクション、ポリアミントランスフェクション試薬を用いるトランスフェクション、細胞超音波処理、高速マイクロプロジェクタイルを用いる遺伝子ボンバードメント、および受容体仲介トランスフェクションを含むことができる。
【0034】
好ましくは、表1および2に記載された1種以上のmiRNAの阻害剤またはアゴニストの投与は、心筋虚血、心筋梗塞、心不全、または心臓リモデリングのうちの1種以上の症状の改善をもたらす。1種以上の症状の改善は、例えば、胸痛(例えば、狭心症)の軽減、運動能力の向上、心駆出量の増加、左室拡張末期圧の低下、肺毛細管楔入圧の低下、心拍出量の増加、心係数の増加、肺動脈圧の低下、左室収縮末期径および拡張末期径の減少、左室および右室壁応力の低下、壁張力の低下、生活の質の向上、ならびに疾患に関連する罹病率または死亡率の減少であることができる。一実施形態では、心筋虚血に罹患している対象の心臓細胞における1種以上のmiRNAの調節は、心筋梗塞の発症を予防することができる。別の実施形態では、心筋虚血に罹患している対象の心臓細胞における1種以上のmiRNAの調節は、心臓細胞の喪失を減少させること(例えば、虚血領域のアポトーシスを減少させること)によって、任意のその後に起こる梗塞のサイズを制限することができる。さらに別の実施形態では、心臓機能は、対象の心臓細胞における1種以上のmiRNAの調節後、心筋虚血に罹患している対象で安定化する。
【0035】
特定の実施形態では、心筋虚血の治療または予防を必要とする対象は、心臓発作のリスクがある対象である。例えば、一実施形態では、対象は冠動脈疾患を有する。いくつかの実施形態では、対象は、高血圧、高コレステロール血症、喫煙、高血糖、真性糖尿病、不安定狭心症、過去の心臓発作の経験、および心疾患の家族歴を含むが、これらに限定されない、冠動脈疾患の1種以上のリスク因子を示し得る。
【0036】
本発明は、必要とする対象における虚血−再灌流傷害を治療または予防する方法も含む。本明細書で使用する場合、「虚血−再灌流傷害」は、虚血期間後の血流の再開によって生じる組織障害を指す。虚血期間後の血流の再開は、実際、虚血それ自体に起因する障害よりも多くの障害を与えることがある。虚血組織への循環の再導入は、有害なフリーラジカルを多く産生することによって炎症および酸化的障害をもたらす酸化ストレスを誘導する。組織壊死は、再灌流傷害によって大きく加速し得る。
【0037】
一実施形態では、本方法は、対象の心臓細胞における表2に記載された1種以上のmiRNAおよびそのヒト対応物の発現または活性を調節することを含む。特定の実施形態では、本方法は、対象に表2に記載された1種以上のmiRNAの阻害剤を投与することを含む。一実施形態では、阻害剤は、miR−15ファミリーメンバー(例えば、miR−15a、miR−15b、miR−16−1、miR−16−2、miR−195、miR−424、およびmiR−497)(配列番号:1〜6)、ならびにmiR−92a(配列番号:16)のうちの1つまたは複数の発現または活性の阻害剤である。他の実施形態では、本方法は、対象に表2に記載された1種以上のmiRNAのアゴニストを投与することを含む。一実施形態では、アゴニストは、miR−22(配列番号:36)、miR−126(配列番号:20)、およびmiR−29b(配列番号:34)のうちの1つまたは複数のアゴニストである。別の実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストまたは阻害剤は虚血組織に投与される。さらに別の実施形態では、1種以上のmiRNAのアゴニストまたは阻害剤は、虚血組織に隣接する非虚血組織に投与される。本明細書に記載されたmiRNA機能または発現のアゴニストまたは阻害剤はいずれも、虚血−再灌流傷害を治療または予防する方法で用いるのに好適である。
【0038】
本発明は、対象の心筋虚血および虚血−再灌流傷害の治療および予防における同定されたmiRNAのアゴニストおよび阻害剤の使用を企図するものである。治療レジメンは臨床状況によって異なり、最早期の介入が求められる。しかしながら、虚血事象後の少なくともしばらくの間の長期維持が、ほとんどの場合に適切であるように思われる。予防効果を最大化するために、miRNAのモジュレーターで間欠的に処置するか、または投与するmiRNAを変えることが望ましい場合もある。
【0039】
特定の実施形態では、他の治療様式と組み合わせて、miRNA機能または発現のモジュレーターを用いることも企図される。したがって、上記のmiRNA治療の他に、対象に1種以上の「標準的な」薬学的心臓治療薬を投与することもできる。他の治療薬の例には、限定するものではないが、β−遮断薬、抗高血圧薬、強心剤、抗血栓薬、血管拡張薬、ホルモンアンタゴニスト、イオントロープ、利尿薬、エンドセリン受容体アンタゴニスト、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害剤、ACE阻害剤、2型アンジオテンシンアンタゴニストおよびサイトカイン遮断薬/阻害剤、ならびにHDAC阻害剤が含まれる。
【0040】
特定の実施形態では、本明細書において「抗高リポタンパク血症薬」として知られる、1種以上の血中脂質および/またはリポタンパク質の濃度を低下させる薬剤の投与を、特に、アテローム性動脈硬化および血管組織の肥厚または閉塞の治療において、本発明による心血管治療(例えば、miRNAモジュレーター)と組み合わせてもよい。特定の実施形態では、抗高リポタンパク血症剤は、アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体、樹脂/胆汁酸抑制剤、HMG CoAレダクターゼ阻害剤、ニコチン酸誘導体、甲状腺ホルモンもしくは甲状腺ホルモン類似体、様々な薬剤、またはこれらの組合せを含み得る。アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体の非限定的な例には、ベクロブラート、エンザフィブラート、ビニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート(アトロミドS(atromide-S))、クロフィブリン酸、エトフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル(ロビド(lobid))、ニコフィブラート、ピリフィブラート、ロニフィブラート、シムフィブラートおよびテオフィブラートが含まれる。樹脂/胆汁酸抑制剤の非限定的な例には、コレスチラミン(コリバル(cholybar)、クエストラン(questran))、コレスチポール(コレスチド(colestid))およびポリデキシドが含まれる。HMG CoAレダクターゼ阻害剤の非限定的な例には、ロバスタチン(メバコール(mevacor))、プラバスタチン(プラボコール(pravochol))またはシンバスタチン(ゾコール(zocor))が含まれる。ニコチン酸誘導体の非限定的な例には、ニコチネート、アシピモックス、ニセリトロール、ニコクロネート、ニコモールおよびオキシニアン酸が含まれる。甲状腺ホルモンおよびその類似体の非限定的な例には、エトロキサート、チロプロピン酸およびチロキシンが含まれる。
【0041】
特定の実施形態では、miRNAモジュレーターは、心血管疾病の治療用の抗不整脈剤と組み合わせることができる。抗不整脈剤の非限定的な例には、クラスI抗不整脈剤(ナトリウムチャネル遮断薬)、クラスII抗不整脈剤(β−アドレナリン遮断薬)、クラスII抗不整脈剤(再分極遅延薬)、クラスIV抗不整脈剤(カルシウムチャネル遮断薬)および様々な抗不整脈剤が含まれる。
【0042】
ナトリウムチャネル遮断薬には、クラスIA抗不整脈剤、クラスIB抗不整脈剤、およびクラスIC抗不整脈剤が含まれるが、これらに限定されない。クラスIA抗不整脈剤の非限定的な例には、ジスピラミド(ノルペース(norpace))、プロカインアミド(プロネスチル(pronestyl))およびキニジン(キニデックス(quinidex))が含まれる。クラスIB抗不整脈剤の非限定的な例には、リドカイン(キシロカイン(xylocaine))、トカイニド(トノカード(tonocard))およびメキシレチン(メキシチル(mexitil))が含まれる。クラスIC抗不整脈剤の非限定的な例には、エンカイニド(エンカイド(enkaid))およびフレカイニド(タンボコール(tambocor))が含まれる。
【0043】
別名、β−アドレナリン遮断薬、β−アドレナリンアンタゴニストまたはクラスII抗不整脈剤として知られる、例示的なβ遮断薬には、アセブトロール(セクトラール(sectral))、アルプレノロール、アモスラロール、アロチノロール、アテノロール、ベフノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、塩酸ブチドリン、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、クロラノロール、ジレバロール、エパノロール、エスモロール(ブレビブロック(brevibloc))、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ナドキソロール、ニフェナロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プラクトロール、プロネサロール、プロパノロール(インデラル(inderal))、ソタロール(ベータペース(betapace))、スルフィナロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、トリプロロールおよびキシビノロールが含まれる。特定の実施形態では、β遮断薬は、アリールオキシプロパノールアミン誘導体を含む。アリールオキシプロパノールアミン誘導体の非限定的な例には、アセブトロール、アルプレノロール、アロチノロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブニトロロール、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、エパノロール、インデノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、タリノロール、テルタトロール、チモロールおよびトリプロロールが含まれる。
【0044】
クラスIII抗不整脈剤の例には、アミオダロン(コルダロン(cordarone))およびソタロール(β−ペース(β-pace))などの再分極を遅延させる薬剤が含まれる。カルシウムチャネル遮断薬としても知られるクラスIV抗不整脈剤の非限定的な例には、アリールアルキルアミン(例えば、ベプリジル、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、プレニルアミン、テロジリン、ベラパミル)、ジヒドロピリジン誘導体(フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)、ピペラジン誘導体(例えば、シンナリジン、フルナリジン、リドフラジン)、またはベンシクラン、エタフェノン、マグネシウム、ミベフラジルもしくはペルヘキシリンなどの様々なカルシウムチャネル遮断薬が含まれる。特定の実施形態では、カルシウムチャネル遮断薬は、長時間作用型ジヒドロピリジン(ニフェジピン型)カルシウムアンタゴニストを含む。
【0045】
本発明のmiRNAモジュレーターと組み合わせることもできる様々な抗不整脈剤の好適な例には、アデノシン(アデノカード(adenocard))、ジゴキシン(ラノキシン(lanoxin))、アセカイニド、アジマリン、アモプロキサン、アプリンジン、ブレチリウムトシレート、ブナフチン、ブトベンジン、カポベン酸、シフェンリン、ジソピラニド、ヒドロキニジン、インデカイニド、臭化イパトロピウム、リドカイン、ロラジミン、ロルカイニド、メオベンチン、モリシジン、ピルメノール、プラジマリン、プロパフェノン、ピリノリン、キニジンポリガラクツロネート、キニジンスルフェートおよびビキジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
本発明のさらに別の実施形態では、miRNAモジュレーターを抗高血圧剤と組み合わせて投与することができる。抗高血圧剤の非限定的な例には、交感神経遮断薬、α/β遮断薬、α遮断薬、抗アンジオテンシンII作用剤、β遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬および様々な抗高血圧剤が含まれる。
【0047】
α−アドレナリン作動性遮断薬またはαアドレナリン作動性アンタゴニストとしても知られる、α遮断薬の非限定的な例には、アモスラロール、アロチノロール、ダピプラゾール、ドキサゾシン、エルゴロイドメシレート、フェンスピリド、インドラミン、ラベタロール、ニセルゴリン、プラゾシン、テラゾシン、トラゾリン、トリマゾシンおよびヨヒンビンが含まれる。特定の実施形態では、α遮断薬は、キナゾリン誘導体を含み得る。キナゾリン誘導体の非限定的な例には、アルフゾシン、ブナゾジン、ドキサゾシン、プラゾシン、テラゾシンおよびトリマゾシンが含まれる。特定の実施形態では、抗高血圧剤は、αアドレナリン作動性アンタゴニストとβアドレナリン作動性アンタゴニストの両方である。α/β遮断薬の非限定的な例は、ラベタロール(ノルモジン(normodyne)、トランデート(trandate))を含む。
【0048】
抗アンジオテンシンII作用剤の非限定的な例には、アンジオテンシン変換酵素阻害剤およびアンジオテンシンII受容体アンタゴニストが含まれる。アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)の非限定的な例には、アラセプリル、エナラプリル(バソテック(vasotec))、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モベルトプリル、ペリンドプリル、キナプリルおよびラミプリルが含まれる。アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、ANG受容体遮断薬、またはANG−II 1型受容体遮断薬(ARBS)としても知られる、アンジオテンシンII受容体遮断薬の非限定的な例には、アンジオカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタンおよびバルサルタンが含まれる。
【0049】
特定の実施形態では、心血管治療剤は、本発明のmiRNAモジュレーターとともに同時投与することができる血管拡張薬(例えば、脳血管拡張薬、冠動脈血管拡張薬または末梢血管拡張薬)を含み得る。特定の好ましい実施形態では、血管拡張薬は、冠動脈血管拡張薬を含む。冠動脈血管拡張薬の非限定的な例には、アモトリフェン、ベンダゾール、ベンフロジルヘミスクシネート、ベンジオダロン、クロラシジン、クロモナール、クロベンフロール、クロニトレート、ジラゼプ、ジピリダモール、ドロプレニルアミン、エフロキサート、エリスリチルテトラニトラン、エタフェノン、フェンジリン、フロレジル、ガングレフェン、ヘレストロール ビス(β−ジエチルアミノエチルエーテル)、ヘキソベンジン、イトラミントシレート、ケリン、リドフラニン、マンニトールヘキサニトラン、メジバジン、ニコルグリセリン、ペンタエリスリトールテトラニトレート、ペントリニトロール、ペルヘキシリン、ピメフィリン、トラピジル、トリクロミル、トリメタジジン、リン酸トロールニトレートおよびビスナジンが含まれる。
【0050】
特定の実施形態では、血管拡張薬は、長期治療用血管拡張薬または高血圧緊急用血管拡張薬を含み得る。長期治療用血管拡張薬の非限定的な例には、ヒドララジン(アプレゾリン(apresoline))およびミノキシジル(ロニテン(loniten))が含まれる。高血圧緊急用血管拡張薬の非限定的な例には、ニトロプルシド(ニプリド(nipride))、ジアゾキシド(ハイパースタットIV(hyperstat IV))、ヒドララジン(アプレゾリン(apresoline))、ミノキシジル(ロニテン(loniten))およびベラパミルが含まれる。
【0051】
本発明のmiRNAモジュレーターを変力剤(inotropic agent)と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、変力剤は陽性変力剤である。強心剤としても知られる陽性変力剤の非限定的な例には、アセフィリン、アセチルジギトキシン、2−アミノ−4−ピコリン、アムリノン、ベンフロジルヘミスクシネート、ブクラデシン、セルベロシン、カンホタミド、コンバラトキシン、シマリン、デノパミン、デスラノシド、ジギタリン、ジギタリス、ジギトキシン、ジゴキシン、ドブタミン、ドーパミン、ドペキサミン、エノキシモン、エリスロフレイン、フェナルコミン、ギタリン、ギトキシン、グリコシアミン、ヘプタミノール、ヒドラスチニン、イボパミン、ラナトシド、メタミバム、ミルリノン、ネリフォリン、オレアンドリン、ウアバイン、オキシフェドリン、プレナルテロール、プロシラリジン、レシブフォゲニン、シラレン、シラレニン、ストファンチン、スルマゾール、テオブロミンおよびキシモテロールが含まれる。
【0052】
特定の実施形態では、変力剤は、強心配糖体、β−アドレナリン作動性アゴニストまたはホスホジエステラーゼ阻害剤である。強心配糖体の非限定的な例には、ジゴキシン(ラノキシン(lanoxin))およびジギトキシン(クリストジギン(crystodigin))が含まれる。β−アドレナリン作動性アゴニストの非限定的な例には、アルブテロール、バンブテロール、ビトルテロール、カルブテロール、クレンブテロール、クロルプレナリン、デノパミン、ジオキシエセドリン、ドブタミン(ドブトレクス(dobutrex))、ドーパミン(イントロピン(intropin))、ドペキサミン、エフェドリン、エタフェドリン、エチルノルエピネフリン、フェノテロール、フォルモテロール、ヘキソプレナリン、イボパミン、イソエタリン、イソプロテレノール、マブテロール、メタプロテレノール、メトキシフェナミン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プロカテロール、プロトキロール、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、ソテレノール、テルブタリン、トレトキノール、ツロブテロールおよびキサモテロールが含まれる。ホスホジエステラーゼ阻害剤の非限定的な例には、アムリノン(イノコール(inocor))が含まれる。
【0053】
抗狭心症剤は、硝酸エステル、カルシウムチャネル遮断薬、β遮断薬およびこれらの組合せを含み得る。ニトロ血管拡張薬としても知られる硝酸エステルの非限定的な例には、ニトログリセリン(ニトロビッド(nitro-bid)、ニトロスタット(nitrostat))、イソソルビドジニトレート(イソルジル(isordil)、ソルビトレート(sorbitrate))およびアミルニトレート(アスピロール(aspirol)、バポロール(vaporole))が含まれる。
【0054】
特定の実施形態では、本発明のmiRNAモジュレーターは、心血管疾患の治療用のエンドセリンと同時投与される。エンドセリン(ET)は、心不全の発症に関与すると思われる強力な生理的および病態生理的効果を有する21アミノ酸のペプチドである。ETの効果は、2つのクラスの細胞表面受容体との相互作用により媒介される。A型受容体(ET−A)が血管収縮および細胞増殖と関連するのに対し、B型受容体(ET−B)は内皮細胞媒介性の血管拡張およびアルドステロンなどの他の神経ホルモンの放出と関連する。ETの産生か、または関連細胞を刺激するその能力かのどちらかを阻害することができる薬理作用剤は、当技術分野で公知である。ET産生の阻害は、その前駆体からの活性ペプチドのプロセッシングに関与するエンドセリン変換酵素と呼ばれる酵素を遮断する薬剤の使用を伴う。細胞を刺激するETの能力の阻害は、ETとその受容体との相互作用を遮断する薬剤の使用を伴う。エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)の非限定的な例には、ボセンタン、エンラセンタン、アンブリセンタン、ダルセンタン、テゾセンタン、アトラセンタン、アボセンタン、クラゾセンタン、エドネンタン、シタクスセンタン、TBC 3711、BQ 123、およびBQ 788が含まれる。
【0055】
特定の実施形態では、miRNAモジュレーターと組み合わせることができる副次的治療手段は、例えば、予防的、診断的、または病気診断的な(staging)治癒および緩和手術を含む、いくつかのタイプの手術を含み得る。手術、特に、治癒的手術は、本発明のmiRNAモジュレーターおよび1種以上の他の剤などの他の治療と併せて用いてもよい。
【0056】
血管および心血管の疾患および障害用のそのような外科的治療手段は当業者に周知であり、生体に対する手術の実施、心血管用の機械的人工装具の装着、血管形成術、冠動脈再灌流、カテーテルアブレーション、対象への埋込み型心除細動器の装着、機械的循環補助またはこれらの組合せを構成し得るが、これらに限定されない。本発明で使用し得る機械的循環補助の非限定的な例は、大動脈内バルーンカウンターパルセーション、左室補助装置またはこれらの組合せを含む。
【0057】
組合せは、心臓細胞を1種以上のmiRNAモジュレーターと第2の心臓治療剤とを含む単一組成物もしくは薬理製剤と接触させることによるか、または細胞を一方の組成物が1種以上のmiRNAモジュレーターを含み、かつ、他方の組成物が第2の心臓治療剤を含む2つの異なる組成物もしくは製剤と同時に接触させることによって達成してもよい。あるいは、1種以上のmiRNAのモジュレーターの投与は、数分間から数週間の範囲の間隔で、他の心臓作用剤の投与に先行または後続し得る。他の心臓作用剤および1種以上のmiRNAのモジュレーターが対象に個別に適用される実施形態では、心臓作用剤および1種以上のmiRNAのモジュレーターが細胞に対して有利に組み合わされた効果をなお及ぼすことができるように、通常、各送達時の間に相当な時間が過ぎないようにする。そのような場合、2つの組成物を、通常、互いに約12〜24時間以内に、より好ましくは、互いに約6〜12時間以内に投与し、遅延時間が約12時間だけであることが最も好ましいことが企図される。しかしながら、ある状況では、それぞれの投与間に数日間(2、3、4、5、6または7日間)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)が経過する場合、治療期間をかなり延長することが望ましい場合もある。
【0058】
1種以上のmiRNAのモジュレーターまたは他の心臓作用剤のいずれかの2回以上の投与が望ましいことも考えられる。この点に関して、様々な組合せを利用してもよい。miRNAモジュレーターを「A」とし、他の心臓作用剤を「B」とする例として、以下の3回および4回の総投与に基づく順列を例示する:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B B/A/A A/B/B B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A B/A/B/A B/A/A/B B/B/B/A A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A A/B/B/B B/A/B/B B/B/A/B
他の組合せも同様に企図される。
【0059】
別の実施形態では、本発明は、必要とする対象における低酸素に応答した心筋細胞の喪失を予防または軽減する方法を提供する。「低酸素(hypoxia)」とは、組織が組織の酸素需要を満たすのに十分な酸素供給を受けていない状態を指す。長期に及ぶ低酸素は、細胞死をもたらすことがある。一実施形態では、本方法は、miR−199a(例えば、配列番号:8〜9)、miR−320(例えば、配列番号:10)の阻害剤、および/またはmiR−210(例えば、配列番号:32)のアゴニストを対象に投与することを含む。miR−199aまたはmiR−320機能または発現の阻害剤は、本明細書に開示された阻害剤のいずれかであることができる。例えば、miR−199aまたはmiR−320の阻害剤は、成熟miR−199aまたはmiR−320配列と少なくとも部分的に相補的な配列を含むアンタゴmirまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであることができる。
【0060】
miR−210機能または発現のアゴニストは、本明細書に開示されたアゴニストのいずれかであることができる。例えば、一実施形態では、miR−210のアゴニストは、miR−210の成熟配列を含むポリヌクレオチドである。別の実施形態では、miR−210のアゴニストは、転写因子HIF1αである。特定の実施形態では、miR−210のアゴニストは、発現構築物から発現される。
【0061】
薬理治療剤および投与方法、投薬量などは、当業者に周知であり(例えば、関連部分について参照により本明細書で援用する“Physicians Desk Reference”、Klaassen’s “The Pharmacological Basis of Therapeutics”、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”、および“The Merck Index, Eleventh Edition”を参照のこと)、本明細書中の開示を踏まえて、本発明と組み合わせることができる。治療されている対象の状態に応じて、投薬量の若干の変更が必然的に生じる。投与責任者は、いかなる場合でも、個々の対象に対する適切な用量を決定し、そのような個々の決定は、当業者の技術の範囲内にある。
【0062】
臨床適用が企図される場合、表1および2に同定されている1種以上のmiRNAのモジュレーターを含む医薬組成物は、意図される適用に適切な形態で調製される。通常、これは、発熱物質、およびヒトまたは動物にとって有害であり得る他の不純物を本質的に含まない組成物を調製することを必要とする。巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む、脂質に基づく系などのコロイド分散系を、miRNA機能のオリゴヌクレオチド阻害剤またはmiRNAアゴニスト(例えば、特定のmiRNAもしくはmiRNAをコードするポリヌクレオチドを発現する構築物)の送達ビヒクルとして用いてもよい。本発明の核酸を心筋組織などの組織に送達するのに好適な市販の脂肪エマルジョンには、Intralipid(登録商標)、Liposyn(登録商標)、Liposyn(登録商標)II、Liposyn(登録商標)III、Nutrilipid、および他の同様の脂質エマルジョンが含まれる。インビボでの送達ビヒクルとして用いられる好ましいコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。そのような系の調製および使用は当技術分野で周知である。例示的な製剤は、その全体について参照により本明細書で援用する、米国特許第5,981,505号;米国特許第6,217,900号;米国特許第6,383,512号;米国特許第5,783,565号;米国特許第7,202,227号;米国特許第6,379,965号;米国特許第6,127,170号;米国特許第5,837,533号;米国特許第6,747,014号;および国際公開第03/093449号にも開示されている。
【0063】
一般に、適切な塩および緩衝液を用いて、核酸、アゴニスト、阻害剤、および送達ベクターを安定なものとし、標的細胞による取込みを可能にすることが望ましい。緩衝液は、組換え細胞を患者に導入するときにも用いられる。本発明の水性組成物は、薬学的に許容し得る担体または水性媒体中で溶解または懸濁させた有効量の薬剤を含む。「薬学的に許容し得る」または「薬理学的に許容し得る」という語句は、動物またはヒトに投与したとき、有害な反応、アレルギー反応、または他の予期しない反応をもたらさない分子実体および組成物を指す。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容し得る担体」は、医薬品、例えば、ヒトへの投与に好適な医薬品の処方における使用に許容可能な、溶媒、緩衝液、溶液、懸濁媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。医薬活性物質に対するそのような媒体および薬剤の使用は当技術分野で周知である。任意の従来の媒体または薬剤が本発明の活性成分と適合しない場合を除き、治療用組成物におけるその使用が企図される。組成物のベクターまたは核酸を不活化しない限り、補助的な活性成分を組成物に組み込むこともできる。
【0064】
本発明の活性組成物は、従来の医薬製剤を含み得る。本発明によるこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路を介して到達可能である限り、任意の一般的な経路を介するものであってもよい。これは、経口、経鼻、または口腔内を含む。あるいは、投与は、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、もしくは静脈内注射によるもの、または心臓組織内への直接注射によるものであってもよい。miRNA阻害剤またはアゴニストを含む医薬組成物は、カテーテルシステムまたは治療剤を心臓に送達するための冠循環を分離するシステムによって投与することもできる。治療剤を心臓および冠血管系に送達する様々なカテーテルシステムが当技術分野で公知である。本発明における使用に好適なカテーテルに基づく送達方法または冠動脈分離方法のいくつかの非限定的な例は、その全体について参照により本明細書に全て組み込まれる、米国特許第6,416,510号;米国特許第6,716,196号;米国特許第6,953,466号、国際公開第2005/082440号、国際公開第2006/089340号、米国特許出願公開第2007/0203445号、米国特許出願公開第2006/0148742号、および米国特許出願公開第2007/0060907号に開示されている。そのような組成物は、通常、上記のような薬学的に許容し得る組成物として投与される。
【0065】
活性化合物は、非経口投与または腹腔内投与することもできる。例としては、遊離塩基または薬理学的に許容し得る塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤とともに好適に混合された水中で調製することができる。分散液を、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの混合物中、ならびに油中で調製することもできる。通常の保存および使用の条件下で、これらの製剤は、一般に、微生物の増殖を予防するための防腐剤を含有する。
【0066】
注射使用またはカテーテル送達に好適な医薬形態は、例えば、滅菌水性溶液または分散液および滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末を含む。通常、これらの製剤は滅菌性であり、かつ容易な注射が可能である程度に流体である。製剤は、製造および保存の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。適切な溶媒または分散媒体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの好適な混合物、ならびに植物油を含有し得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用、分散液の場合は必要とされる粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。注射用組成物の長期にわたる吸収は、組成物における吸収遅延剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらすことができる。
【0067】
滅菌注射用溶液は、必要に応じて任意の他の成分(例えば、上に列挙したもの)とともに溶媒中に適量の活性化合物を組み込んだ後、濾過滅菌することによって調製してもよい。通常、分散液は、様々な滅菌済み活性成分を、基本的な分散媒体と例えば上に列挙したような所望の他の成分とを含有する滅菌ビヒクル中に組み込むことによって調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に既に滅菌濾過済みのその溶液由来の任意のさらなる所望の成分を加えた粉末を生じさせる、真空乾燥技術および凍結乾燥技術を含む。
【0068】
本発明の組成物は、一般に、中性または塩の形態で製剤化してもよい。薬学的に許容し得る塩は、例えば、無機酸(例えば、塩酸もしくはリン酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸など)から得られる(タンパク質の遊離アミノ基とともに形成される)酸添加塩を含む。タンパク質の遊離カルボキシル基とともに形成される塩は、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化鉄)または有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなど)に由来することもできる。
【0069】
製剤化後、溶液は、投薬製剤と適合する様式および治療的に有効であるような量で投与することが好ましい。製剤は、注射用溶液、薬物放出カプセルなどの種々の剤形で容易に投与することができる。水溶液中での非経口投与の場合、例えば、通常、溶液を好適に緩衝化し、液体希釈剤を、まず、例えば、十分な食塩液またはグルコースを用いて等張にする。そのような水溶液は、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与に用いることができる。特に、本開示に照らして、滅菌水性媒体を当業者に知られているように用いることが好ましい。例として、単回用量を、1mlの等張NaCl溶液に溶解させ、1000mlの皮下注入液に添加するか、または注入予定部位に注射することができる(例えば、“Remington’s Pharmaceutical Sciences”、第15版、1035〜1038ページおよび1570〜1580ページを参照されたい)。治療される対象の状態に応じて、投薬量の若干の変更が必然的に生じるであろう。投与責任者は、いかなる場合でも、個々の対象に対する適切な用量を決定する。さらに、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDA Office of Biologiesの基準が要求する、滅菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0070】
本明細書で論じられる実施形態はいずれも、本発明の任意の方法または組成物に関して実施することができ、逆もまた同じであることが企図される。さらに、本発明の組成物を用いて、本発明の方法を達成することができる。
【0071】
本発明を以下のさらなる実施例によってさらに説明するが、これらの実施例は限定とみなされるべきではない。当業者は、本開示に照らして、開示される具体的な実施形態に対して多くの変更が可能であり、これにより、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、同様または類似の結果がなおも得られることを理解すべきである。
【実施例】
【0072】
実施例1.短期虚血時に調節されるmiRNAの同定
心虚血は、心室の機能および生存の予後に影響を及ぼし得るリモデリングを誘導する。miRNAが虚血事象後の様々なリモデリングプロセスに関与するかどうかを明らかにするために、虚血性障害から6、24、および48時間後の梗塞領域から単離した組織に対してmiRNAマイクロアレイ解析を行なった。具体的には、左前下行枝を閉塞させることによってマウスで心筋虚血を誘導し、誘導から6、24、および48時間後の虚血領域における組織のmiRNA発現プロファイルを模擬処置した(sham operated)動物由来の心筋組織の発現プロファイルと比較した。虚血性障害後の短期間に有意に調節されたmiRNAを表1に記載する。データは、模擬処置した動物における、または心筋虚血から6、24もしくは48時間後のmiR発現の絶対値として提示している。異なる時点での発現プロファイルは、各々の特異的miRNAについてかなり異なっており、虚血に応答した心臓リモデリングに対するmiRNA寄与の非常に活発でかつ特異的な効果を示している。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
【表3】

【0076】
興味深いことに、有意に調節されたmiRNAは、本発明者らの以前のストレス研究において調節されることが同じく見出されたいくつかのmiRNAを含む。例えば、miR−21およびmiR−574は、心筋梗塞後3日目と14日目の両方の梗塞の境界領域から単離した組織でも高度に誘導された(van Rooij et al. (2008) Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 105: 13027-13032)。虚血性障害後、短期間のうちに、miR−574が、24時間でピークに達するように見えるのに対し、miR−21の発現は、最初の24時間で減少するが、虚血事象から48時間後に強く発現した。さらに、これらのデータは、コラーゲン沈着および線維症を調節することが報告されている(van Rooij et al. (2006) Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 103: 18255-18260; van Rooij et al (2008) Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 105: 13027-13032)miR−29の発現が、虚血事象後の最初の24時間で有意に低下したことを示している。同じく、miR−30ファミリーの複数のメンバーは、虚血に応答した発現の強い減少を示した。
【0077】
内皮特異的miRNA(Wang et al, (2008) Dev. Cell, Vol. 15:261-271)であるmiR−126は、最初の24時間で強くダウンレギュレートされたが、心筋梗塞の48時間後に発現が増大するように見えた。この発現パターンは、血管新生におけるmiR−126の報告された役割によって説明することができる(Wang et al, (2008) Dev. Cell, Vol. 15:261-271)。miR−92aは、血管形成への関与が以前に示されたmiRであるが(Bonauer et al. (2009) Science, Vol. 324 (5935): 1710-1713)、これは、虚血事象に応答してmiR−126と同様の発現プロファイルを示し、miR−92aも血管新生に影響を及ぼし得ることが示唆された。
【0078】
骨格筋特異的miRNAのmiR−1、miR−133、およびmiR−499は、虚血後、異なって調節された。例えば、miR−1およびmiR−133の発現は、24時間後に減少したが、虚血事象の48時間後に回復した。対照的に、miR−499の発現は、虚血後の最初の48時間、抑制された。
【0079】
細胞の生存および増殖の調節への関与が示されている(例えば、国際公開第2009/062169号参照)miR−15ファミリーメンバー(miR−15a/b、miR−16、およびmiR−195)の発現は、心筋虚血後に、初期減少を示した。これらのmiRNAの阻害は、心筋梗塞に応答した虚血領域における細胞生存を増強し、そのため、結果として生じる全ての潜在的な梗塞のサイズを限定するのに有益である。よく知られている別のストレス応答性miRであるmiR−214は、虚血に応答して誘導されたが、これは、筋肉細胞増殖および運命決定において役割を果たすことができる(Watanabe T et al, (2008) Dev. Dyn., Vol. 237:3738-3748; Flynt AS et al. (2007) Nat Genet., Vol. 39:259-63)。miR−143は、平滑筋の増殖において役割を果たす血管平滑筋細胞特異的miRNAであり(係属中の出願PCT/米国特許出願第09/34887号参照)、虚血事象の24時間後と48時間後の両方で虚血領域において有意にダウンレギュレートされた。miR−143の減少は、平滑筋細胞の増殖を増大させ、心臓にとって有害となる。したがって、miR−143の発現の増加は、平滑筋細胞増殖を制御し、虚血組織の機能回復を促進するよう作用する。
【0080】
実施例2.miR−199は、虚血組織においてHIF1αおよびmiR−210を調節する
虚血組織におけるmiR−199aの発現は、虚血後の最初の24時間で低下したが、虚血事象の48時間後に回復を示し始めた。miR−199のリアルタイムPCR解析により、miR−199a発現が虚血性障害の24時間後に虚血組織で有意に低下することが確認されている(図1)。興味深いことに、本発明者らは、以前に、心筋梗塞の境界領域で調節されるmiRNAとしてmiR−199を同定した。心筋梗塞に応答して、miR−199は、心筋梗塞の3日後と14日後の両方でアップレギュレートされた(van Rooij et al. (2006) Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 103: 18255-18260; van Rooij et al. (2008) Proc. Natl. Acad. Sci., Vol. 105: 13027-13032)。虚血後のmiR−199の役割をさらに解明するために、本発明者らは、miR−199の標的として転写因子の低酸素誘導性因子1α(HIF1α)を同定した。HIF1αがmiR−199の機能的な標的であるかどうかを確認するために、心筋細胞を、miR−199aの配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(抗miR)またはミスマッチ配列(MM)を有する対照で処理した。HIF1α発現は、ノーザンブロットで評価したとき、miR−199aの抗miRで処理した心筋細胞で増加したが、ミスマッチ対照で処理した心筋細胞では発現の変化が認められなかった(図2A)。これらの結果は、miR−199aの発現の減少がHIF1αレベルの増加を引き起こし、それにより今度は、低酸素応答を制御する遺伝子の発現が活性化されることを示唆している。そのようなHIF1α発現の増加は、虚血性障害後に有益である。
【0081】
miR−199aに対する抗miRが、miR−199をインビボで効率的にノックダウンすることができることを示すために、マウスにmiR−199aに対する抗miRを静脈内注射した。心臓、肺、肝臓、および腎臓組織のリアルタイムPCR解析から、食塩水を注射した動物と比較したときに、抗miR−199aの注射が、測定した全ての組織でmiR−199のほぼ完全なノックダウンをもたらすことが示された(図2B)。ミスマッチ対照の注射は、肝臓組織でのmiR−199のいくらかのノックダウンがもたらしたが、測定した他の組織ではもたらさなかった。
【0082】
miR−320も低酸素後にダウンレギュレートされることが報告されている。本発明者らは、このmiRNAがまた、虚血に応答して心臓組織で調節されるかどうかを明らかにするために、虚血組織におけるリアルタイムPCR解析でmiR−320の発現を調べた。図3に示すように、miR−320の発現は、心筋虚血の誘導後、早くも6時間で有意に低下している。miR−320は、心筋機能の強化への関与が示されている熱ショックタンパク質20(HSP20)を標的とする(Fan et al. (2007) Circulation, Vol. 116:11-189)。したがって、miR−320発現の減少は、HSP20のアップレギュレーション、および対応する心筋機能の強化をもたらすであろう。さらに、miR−320発現のダウンレギュレーションは、虚血後療法となるであろう。
【0083】
最近、miR−210は、低酸素への内皮細胞応答への関与が示されており(Fasanaro et al. (2008) J. Biol. Chem., Vol. 283: 15878-15883)、また、HIF1αシグナリングの下流にあると考えられている。miR−210が、虚血に応答して心臓組織で調節されるかどうかを明らかにするために、本発明者らは、心筋虚血の誘導後の虚血組織におけるリアルタイムPCR解析でmiR−210の発現を調べた。図4Aに示すように、miR−210発現は、虚血事象の24時間後に強く誘導された。本発明者らはまた、インビトロで低酸素条件に曝したラット新生児の心筋細胞において、同様のmiR−210の誘導を観察した(図4B)。miR−210は、アポトーシス促進性シグナリングを低下させることが報告されており、したがって、抗アポトーシス因子として機能する(Kulshreshtha et al. (2007) Mol. Cell Biol., Vol. 27: 1859-1867)。それゆえ、虚血後のmiR−210の誘導は、アポトーシスおよび心筋細胞の喪失を予防することによって、心臓細胞の保護を付与する可能性が高い。
【0084】
実施例3.虚血再灌流傷害後に調節されるmiRNAの同定
虚血傷害後の心臓リモデリングにおけるmiRNAの役割をさらに調べるために、虚血再灌流後の心臓組織に対してmiRNAマイクロアレイを実施した。心筋虚血時には、梗塞領域のミトコンドリアへの血液供給は、酸化的リン酸化を支えるのに不十分である。虚血後には、再灌流が続くことが多く、これにより、酸素、および虚血代謝産物に置き換わる代謝基質の再侵入が可能になる。再灌流のプロセスは、心筋の生化学的、構造的、および機能的変化を誘導し、細胞生存および細胞死を決定することができる。このプロセスの調節は、虚血および/または再灌流の有害効果を軽減し、それにより、心筋梗塞の臨床結果を改善することができる。
【0085】
具体的には、雄のC57Bl6マウスを45分の心筋虚血に曝した。その後、組織を24時間再灌流させておいた。組織を虚血−再灌流領域から回収し、miRNAマイクロアレイ解析にかけた。いくつかのmiRNAは、虚血組織の再灌流後に調節されることが分かった(表2および図5)。
【0086】
【表4】

【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
これらのデータは、miRNAが、虚血後の再灌流に応答して調節され、心臓リモデリングのプロセスに積極的に関与することを示している。これらのmiRNAのうちのいくつかはまた、虚血事象後に急性に調節された(実施例1)。したがって、虚血およびその後の再灌流に対する心臓の応答に関与する一群のmiRNAが存在する。これらの特異的miRNAの機能性を操作して、虚血に応答する心臓リモデリングを制御することは、梗塞サイズを制限し、心筋収縮能を維持するように働き、それによって、心筋梗塞の治療に対する新規の有望な治療アプローチを提供することができる。
【0090】
本明細書で考察および引用される刊行物、特許、および特許出願は全て、その全体について参照により本明細書で援用する。記載された特定の方法論、プロトコル、および材料は様々に変わり得るので、開示された発明は、これらに限定されないことが理解される。本明細書で使用された専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものであるに過ぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを目的とするものではないことも理解される。
【0091】
当業者であれば、本明細書に記載された本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、またはルーチンの実験だけを用いて、それを確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されることが意図される。
【0092】
【表7】

【0093】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象における心筋虚血を治療または予防する方法であって、前記対象の心臓細胞における表1および2に記載された1種以上のmiRNAの発現または活性を調節することを含む方法。
【請求項2】
前記1種以上のmiRNAが、miR−15ファミリーメンバー、miR−21、miR−26a、let−7b、miR−199a、miR−214、miR−10a、miR−10b、miR−574、miR−320、miR−92a、miR−499、miR−101a、miR−101b、miR−125b、miR−126、miR−30ファミリーメンバー、miR−143、miR−145、miR−185、miR−34a、miR−1、miR−133、miR−210、およびmiR−29a〜cからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調節が、前記対象にmiR−15ファミリーメンバー、miR−92a、miR−320、miR−21、miR−199a、miR−499、およびmiR−30ファミリーメンバーからなる群から選択される1種以上のmiRNAの阻害剤を投与することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
1種以上のmiRNAの前記阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはアンタゴmirである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、前記1種以上のmiRNAの成熟配列と少なくとも部分的に相補的である配列を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、少なくとも1つの糖および/または骨格修飾を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、約8〜約18ヌクレオチド長である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記調節が、前記対象にmiR−126、miR−143、miR−210、およびmiR−29a〜cからなる群から選択される1種以上のmiRNAのアゴニストを投与することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
1種以上のmiRNAの前記アゴニストが、前記1種以上のmiRNAの成熟配列を含むポリヌクレオチドである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アゴニストが発現構築物から発現される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤またはアゴニストが、静脈内投与、皮下投与、または心臓組織内への直接注射によって前記対象に投与される、請求項3または8に記載の方法。
【請求項12】
前記阻害剤またはアゴニストが、経口、経皮、持続放出、制御放出、遅延放出、坐剤、カテーテル、または舌下投与によって前記対象に投与される、請求項3または8に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が冠動脈疾患を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記1種以上のmiRNAの発現または活性の調節後、心筋細胞の喪失が前記対象において軽減または抑制される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
第2の心臓治療剤を投与することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第2の心臓治療剤が、抗狭心症薬、β遮断薬、イオノトロープ、利尿薬、ACE阻害剤、2型アンジオテンシンアンタゴニスト、エンドセリン受容体アンタゴニスト、HDAC阻害剤、およびカルシウムチャネル遮断薬からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
必要とする対象における低酸素に応答した心筋細胞の喪失を予防または軽減する方法であって、miR−199a、miR−320の阻害剤、および/またはmiR−210のアゴニストを前記対象に投与することを含む方法。
【請求項19】
前記miR−199aまたはmiR−320の阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはアンタゴmirである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記miR−210のアゴニストが、miR−210の成熟配列を含むポリヌクレオチドである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記アゴニストがHIF1αである、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記アゴニストが発現構築物から発現される、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−514372(P2013−514372A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544748(P2012−544748)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/060460
【国際公開番号】WO2011/084460
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(500039463)ボード・オブ・リージエンツ,ザ・ユニバーシテイ・オブ・テキサス・システム (115)
【Fターム(参考)】