説明

蛋白修飾物生成抑制配合剤

【課題】 本発明の課題は、蛋白修飾物生成抑制作用が増強され、かつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症を惹起しない薬剤を提供することである。
【解決手段】 それ自体に蛋白修飾物生成抑制作用を有し、かつ、副作用としてのビタミンB6欠乏症を示さない、β−ラクタム系化合物またはピラゾリン化合物のような蛋白修飾物生成抑制配合剤を、ニフェジピンのような血圧降下剤と併用することにより、蛋白修飾物生成抑制作用が増強された薬剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛋白修飾物生成抑制配合剤、特に非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる糖化最終産物(Advanced Glycation End Products、以下、「AGEs」と称する)、脂質過酸化最終産物(Advanced Lipoxidation End Products、以下、「ALEs」と称する)等の蛋白修飾物の生成を抑制する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドや蛋白質等のアミノ基と還元糖等のカルボニル基との非酵素的反応から始まる一連の反応(メイラード反応(非特許文献1参照))は、糖化反応(グリケーション)と呼ばれ、初期段階と後期段階に大別することができる。初期段階は糖の濃度と反応時間とに依存する可逆反応であり、前記アミノ基と前記カルボニル基とが非酵素的に反応してシッフ塩基を生成し、さらにアマドリ転位によりアマドリ化合物を形成する。
【0003】
後期段階では初期段階で生成したアマドリ化合物が非可逆的に脱水、縮合、環状化、酸化、断片化、重合、転位等を受け、最終的にAGEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する。糖の自動酸化等により、3-デオキシグルコソン(以下、「3-DG」と称する)、グリオキサール(以下、「GO」と称する)およびメチルグリオキサール(以下、「MGO」と称する)等の反応性の高いジカルボニル化合物が生成するが、これらのカルボニル化合物も蛋白と反応し、多くの場合蛋白質のリジン残基やアルギニン残基等が修飾されたAGEsを生成する。
【0004】
また、酸化ストレス下では、生体内に豊富に存在する糖、脂質、アミノ酸等は酸化反応等により、反応性の高いカルボニル化合物へと変化する。その結果生じる、GO、MGO、アラビノース、グリコールアルデヒドなどの化合物はAGEsの前駆物質となる。また、アスコルビン酸の酸化により生成するデヒドロアスコルビン酸もAGEsの前駆物質となる。これらの前駆物質はいずれもカルボニル基を有しており、蛋白質のアミノ基と非酵素的に反応してシッフ塩基を生成してAGEsを形成する(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、酸化ストレス下では脂質過酸化も進行し、マロンジアルデヒド、ヒドロキシノネナールおよびアクロレインのような、様々なカルボニル化合物が形成される(非特許文献3参照)。これらのカルボニル化合物も蛋白質のアミノ基等と反応し、マロンジアルデヒド修飾リジンやヒドロキシノネナール修飾物等のALEsと呼ばれる蛋白修飾物を形成する(非特許文献2参照)。
【0006】
更に、セリンやスレオニンなどのアミノ酸も酸化によりアクロレイン、GOなどのカルボニル化合物が生成し、蛋白修飾物を形成する(非特許文献4参照)。多くのカルボニル化合物は酸化的経路で生成されるが、3-DGのように非酸化的経路を経て生成されるカルボニル化合物も存在する。
【0007】
公知のAGEs生成経路として、1)シッフ塩基、アマドリ化合物から3-DGを経由する経路、2)シッフ塩基が酸化的にグリコールアルデヒド−アルキルイミンへ変化し、アルドアミンを経てAGEsに至る経路、3)アルドアミンがグリオキサールモノアルキルイミンを経てAGEsに至る経路、4)アマドリ化合物から2,3-エンジオールを経て生成されるMGOを中間体とする経路、5)その他等がある。
【0008】
最近、AGEsのひとつであるカルボキシメチルリジンが不飽和脂肪酸の脂質酸化反応の結果生じるGOによっても生成することが明らかになり、糖化・酸化反応と脂質酸化反応が共通の基盤で起こっていると考えられる。
【0009】
以上のように、糖、脂質、アミノ酸およびアスコルビン酸から酸化的、非酸化的経路により生成されたカルボニル化合物は、蛋白を非酵素的に修飾して最終的にAGEsやALEs等の蛋白修飾物を形成するに至る。特に、複数の反応経路を経て生成されたカルボニル化合物により蛋白修飾反応が亢進している状態をカルボニル過剰による蛋白修飾、すなわち、カルボニルストレスと呼んでいる。
【0010】
公知のAGEsとしては、ペントシジン(非特許文献5参照)、クロスリン(非特許文献6参照)、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン(非特許文献7参照)、ピラリン(非特許文献8参照)、カルボキシメチルリジン(非特許文献9参照)、イミダゾロン化合物(非特許文献10参照)、カルボキシエチルリジン(非特許文献11参照)、MGOダイマー(非特許文献12参照)、GOダイマー(非特許文献13参照)、イミダゾリジン(非特許文献14参照)およびアルグピリミジン(非特許文献15参照)等が知られている。
【0011】
現在クローニングされているAGEs受容体として、RAGE(非特許文献16参照)、マクロファージスカベンジャー受容体クラスA(非特許文献17参照)、ガレクチン3(非特許文献18参照)、OST-48および80K-H等がある(非特許文献17参照)。
【0012】
血管組織においてAGEsがRAGE(免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞膜貫通型蛋白質)に結合すると、細胞内で活性酸素が生成し、p21ras/MAPK経路が活性化され(非特許文献19参照)、これにより転写因子NF-κB活性化が誘導され、VCAM-1等の血管障害関連因子の発現が誘導されることが報告されている(非特許文献20参照)。また、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞の増殖を制御し、恒常性維持に重要な役割を果たしている周皮細胞の増殖を抑制するとともに、毒性効果を発揮することが報告されている(非特許文献21参照)。
【0013】
さらに、AGEsはRAGEを介して、微小血管の内皮細胞に直接的に作用し血管新生を促進すること、PGI2の産生を阻害して血栓傾向となること(非特許文献22参照)が報告されている。その他、AGEsやALEs等の生理活性として、メサンギウム細胞の基質産生の亢進、単球遊走能の亢進、マクロファージからの炎症性サイトカインの放出、滑膜細胞のコラゲナーゼ産生促進、破骨細胞の活性化、血管平滑筋の増殖作用、血小板凝集の促進、NO活性とその平滑筋弛緩反応の抑制が報告されている(非特許文献23参照)。
【0014】
AGEsが関与する疾患として、1)糖尿病合併症である腎症(非特許文献24参照)、神経障害(非特許文献25参照)、網膜症(非特許文献21参照)および白内障、2)動脈硬化(非特許文献26参照)、3)透析合併症である透析アミロイドーシス(非特許文献27参照)および腹膜透析患者における腹膜硬化症、4)中枢神経疾患であるアルツハイマー病(非特許文献28参照)、ピック病およびパーキンソン病、5)リウマチ性関節炎(非特許文献29参照)、6)日光弾性線維症、7)老化、8)腎不全(非特許文献30参照)等が知られている。その他、糖尿病の場合、血管内皮由来の血管拡張がAGEsによって障害されること(非特許文献31参照)、AGEsが腎硬化を促進させること(非特許文献32参照)等が報告されている。
【0015】
以上のことから、AGEsを初めとする蛋白修飾物は、直接的にまたは受容体を介して生体に悪影響を与えることが明らかとなっている。
【0016】
一方、腎機能が低下するに従って、血中のAGEsの濃度が上昇することが知られている。腎機能低下により、分子量5kDa以下と考えられるカルボニル化合物は体内に蓄積する。ペントシジンやピラリン等の場合、遊離型も存在するが、血清アルブミン等の蛋白結合型が大部分を占めている(非特許文献33参照)。また、血中ペントシジン濃度は糸球体濾過機能の影響を強く受けるという報告がある(非特許文献34参照)。
【0017】
この様に、AGEsはその大部分が腎において処理され、健康時には血中濃度は低く保たれているが、腎機能が低下すると尿毒症毒素(uremic toxin)として慢性の生物活性をもたらすようになる。
【0018】
AGEsは、透析療法によって遊離型のものは除去されるが、蛋白結合型のものや分子内架橋を形成するものは除去することは困難である(非特許文献35参照)。従って、腎不全期間の経過と共に蛋白修飾物の生体内蓄積量は増加する。また、生体内で糖が反応する基本的な過程以外に食品中から供給される遊離型AGEsや、生体内で既に形成されたアマドリ化合物などから形成される活性の強い3-DG、GO、MGOなどの中間体が次々に蛋白と反応し、AGEsの産生を促進することが認められている。また、血液は透析膜と接触することによって、補体系や白血球の活性化などの様々な影響を受け、フリーラジカルの産生亢進へとつながる等、透析療法そのものによる酸化の亢進も存在し、AGEs生成の一因となっている。
【0019】
ゆえに、透析療法での対策としては透析導入の初期からこれらの遊離型物質の除去を図り、結合型のAGEs形成を極力抑制することが重要であり、上記のように結合型のAGEsを透析療法によって除去することは困難であるので、透析療法では蛋白修飾物の生成を抑制する薬物の開発が希求されている。
【0020】
また、腎機能に起因するばかりではなく、腎不全に伴う抗酸化防御機構の低下も蛋白修飾物の蓄積に関与していると考えられる。腎不全患者では、血中還元型グルタチオンに対する酸化型グルタチオンの上昇(非特許文献36参照)、グルタチオン依存酵素群の活性低下、保存期腎不全血漿グルタチオンペルオキシダーゼの低下(非特許文献37参照)、全血中グルタチオンの低下(非特許文献38参照)、ならびに血漿セレン濃度の低下に対する血漿スーパーオキサイドジスムターゼの活性上昇(非特許文献39参照)といった抗酸化能の不均衡が示唆されている(非特許文献40参照)。
【0021】
また、一般に慢性腎不全の患者では、高血糖の有無に関わらず血中や組織中に反応性の高いカルボニル化合物やAGEsが著しく蓄積していることが報告されている(非特許文献41参照)。腎不全においては、非酵素的化学反応によりカルボニル化合物が高負荷の状態(カルボニルストレス)となり、蛋白質修飾が亢進される病態が存在しており、糖・脂質からカルボニル化合物が生成され蛋白質を修飾するためであると考えられる(非特許文献42参照)。
【0022】
ゆえに、様々な要因によって生じる蛋白修飾物の生成を抑制することが、組織障害の軽減につながり、AGEs等の蛋白修飾物質が関与する病態を予防および治療することができる。
【0023】
慢性腎不全患者に行われる透析には、血液透析と腹膜透析がある。腹膜透析の場合、血中の老廃物は腹膜を通して腹膜透析液中に排泄される。高浸透圧の腹膜透析液(グルコース、イコデキストリンまたはアミノ酸等を含有する)は、腎不全患者の血中に蓄積した反応性の高いカルボニル化合物(例えば腎不全患者の血中に酸化ストレスに伴って蓄積する、炭水化物に由来するカルボニル化合物(アラビノース、GO、MGO、3-DG)、アスコルビン酸に由来するカルボニル化合物(デヒドロアスコルビン酸)、脂質に由来するカルボニル化合物(ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン))を、腹膜を介して腹腔内の腹膜透析液中に集める作用がある。
【0024】
また、腹膜透析液の滅菌や保存中に、反応性の高いカルボニル化合物(3-DG、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、GO、MGO、レプリン酸、フルフラール、アラビノースなどのカルボニル化合物)が腹膜透析液中に生成することが知られている(非特許文献43参照)。
【0025】
そのため腹膜透析液中の前記カルボニル化合物濃度は上昇し、蛋白修飾物質の生成が亢進する。その結果、腹膜の機能が低下し、除水能の低下や腹膜硬化症への進展に関与すると考えられる(非特許文献44参照)。
【0026】
実際に腹膜透析患者においては、導入されたグルコースによって腹腔内がカルボニルストレス状態となっていることは、内皮および中皮の免疫組織学的検討から証明されている(非特許文献45参照)。
【0027】
この様に、透析患者においてもカルボニル化合物による蛋白修飾物の生成が腹膜の形態学的変化およびこれに伴う機能(除水能)の低下の原因となっていることが推測されており、その改善方法の提供が求められている。
【0028】
以上の事実と腎不全をはじめとする種々の病態を考え合わせると、カルボニル化合物蓄積がAGEs産生亢進の原因のひとつであると考えられ(非特許文献46参照)、AGEsの産生を抑制することが、AGEsが関連する病態に対し有効であると考えられる。
【0029】
代表的なAGEs生成阻害薬としてアミノグアニジンがある。アミノグアニジンはグルコース、シッフ塩基やアマドリ生成物から生成される3-DGなどのジカルボニル化合物と反応してチアゾリンを形成することによってAGEs生成を阻害すると考えられている。糖尿病モデル動物を用いた解析では、糖尿病性腎症(非特許文献47参照)、網膜症(非特許文献48参照)および白内障(非特許文献49参照)の進展を遅延させる効果が確認されている。
【0030】
他に、この種に属する化合物としてピリドキサミン誘導体(ピリドリン)がある。また、OPB-9195((±) 2-イソプロピリデンヒドラゾノ-4-オキソ-チアゾリジン-5-イルアセトアニリド)はヒドラジンの窒素原子がカルボニル基と反応して安定な構造を形成し、遊離または蛋白に結合した反応性カルボニルを捕捉することにより(非特許文献50参照)、in vitroでAGEsのみならずALEsの生成も抑制する。メトホルミンやブホルミン等のビグアナイド化合物もカルボニル化合物を捕捉できるため(非特許文献51参照)、AGEs生成阻害薬として利用できる可能性がある。さらに、AGEsの特徴である架橋を切断するタイプのAGEs阻害剤、アマドリ化合物を分解する酵素(amadoriase)等の提案もされている。
【0031】
一方、カルボニル化合物を消去することにより、AGEsやALEsの生成を阻害する可能性も検討されている。カルボニル化合物の消去にはいくつかの酵素や酵素的経路が存在し、例えばアルドース還元酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼやグリオキサラーゼ経路が挙げられるが(非特許文献52参照)還元型グルタチオン(GSH)やNAD(P)Hなどのレドックス補酵素はこれらの経路の活性に重要な要素である。
【0032】
これらの消去系の低下は同時に多数のカルボニル化合物の上昇につながる。MGO、GOなどのカルボニル化合物はGSHのチオール基と反応し、結果的に酵素グリオキサラーゼにより代謝される。NAD(P)Hはグルタチオン還元酵素を活性化し、GSHレベルを上昇させる。すなわち、細胞内レドックス機構の不均衡によるGSHおよびNAD(P)Hの低下によりカルボニル化合物の消去系が阻害され、AGEsやALEsの蓄積につながると考えられる。また、糖尿病においては、高血糖によりポリオール経路が活性化され、NAD(P)HやGSHが低下し、結果的にカルボニル化合物の消去系が低下することが示唆される。
【0033】
前述したようにGSHおよびNAD(P)Hなどのチオール濃度の低下がカルボニル化合物消去の低下につながり、結果としてAGEsやALEsを形成する原因のひとつとなっているとすれば、チオールレベルを上昇させることによりカルボニル化合物を減少できる可能性がある。これには、GSH、システイン、アセチルシステイン等によりチオール基を補充する方法、ビタミンEやユビキノール等によりGSH需要を低下させる方法、アルドース還元酵素阻害薬等によりポリオール系を阻害する方法が提案されている。さらに、アミノグアニジン、ピリドキサミン、ヒドラジン、ビグアナイド化合物およびSH基含有化合物を用いて、カルボニル化合物をトラップさせる方法も提案されている(特許文献1参照)。
【0034】
以上詳細に述べたように、AGEsおよびALEsの生成を阻害し、蛋白修飾を抑制することが、これらに関連する病態を予防または治療できる方法である。
【特許文献1】国際公開第 00/10606 号
【特許文献2】国際公開第 02/83127 号
【非特許文献1】メイラード, エル, シー(Maillard, L. C.)ら著, 「コンプテス・レンダス・ヘブドマダイレス・デス・シンシズ・デ・ラ・ソサイエテ・デ・バイオロジー(Compt. Rend. Soc. Biol.)」, (フランス), 1912年, 第72巻, p599
【非特許文献2】ミヤタ, ティー(Miyata, T. )ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389-399
【非特許文献3】エステルバウアー, エイチ(Esterbauer, H.)ら著, 「フリーラジカル・バイオロジー・アンド・メディスン(Free Radic. Biol. Med.)」, (アメリカ), 1991年, 第11巻, p81-128
【非特許文献4】アンダーソン, エム, エム(Anderson, M. M.)ら著, 「ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(J. Clin. Invest.)」, (アメリカ), 1997年, 第99巻, p424-432
【非特許文献5】セル, ディー, アール(Sell, D. R.)ら著, 「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J. Biol. Chem.)」, (アメリカ), 1989年, 第264巻, p21597-21602
【非特許文献6】ナカムラ, ケイ(Nakamura, K.)ら著, 「ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサエティー・ケミカル・コミュニケーションズ(J. Chem. Soc. Chem. Commun.)」, (イギリス), 1992年, 第15巻, p992-994
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【非特許文献11】アーメッド, エム, ユー(Ahmed, M. U.)ら著, 「バイオケミカル・ジャーナル(Biochem. J.)」,(イギリス), 1997年, 第324巻, p565-570
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【非特許文献38】カネストラリ, エフ(Canestrari, F.)ら著, 「アクタ・ヘマトロジカ(Acta Haematol.)」, (スイス), 1994年, 第91巻, p187-193
【非特許文献39】リチャード, エム, ジェイ(Richard, M. J.)ら著, 「ネフロン(Nephron)」, (スイス), 1991年, 第57巻, p10-15
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【非特許文献41】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ)1997年, 第51巻, p1170-1181
【非特許文献42】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 1999年, 第55巻, p389-399
【非特許文献43】リチャード, ジェイ, ユー(Richard, J. U.)ら著, 「ファンダメンタル・アンド・アプライド・トキシコロジー(Fund. Appl. Toxic.)」, (アメリカ), 1984年, 第4巻, p843-853
【非特許文献44】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「キドニー・インターナショナル(Kidney Int.)」, (アメリカ), 2000年, 第58巻, p425-435
【非特許文献45】ヤマダ, ケイ(Yamada, K.)ら著, 「クリニカル・ネフロロジー(Clin. Nephrol.)」, (ドイツ), 1994年, 第42巻, p354-361
【非特許文献46】ミヤタ, ティー(Miyata, T.)ら著, 「ネフロロジー・ダイアリシス・トランスプランテーション(Nephrol. Dial. Transplant.)」, (イギリス), 1997年, 第12巻, p255-258
【非特許文献47】エデルステイン, ディー(Edelstein, D.)ら著, 「ダイアベートロジア(Diabetologia)」, (ドイツ), 1992年, 第35巻, p96-101
【非特許文献48】ハメス, エイチ, ピー(Hammes, H. P.)ら著, 「プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ユー・エス・エー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)」, (アメリカ), 1991年, 第88巻, p11555-11561
【非特許文献49】マツモト, ケイ(Matsumoto, K.)ら著, 「バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res. Commun.)」, (アメリカ), 1997年 第241巻, p352-354
【非特許文献50】ナカムラ, エス(Nakamura, S.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes)」, (アメリカ), 1997年, 第46巻, p895-899
【非特許文献51】イスウェンゲル, ピー, ジェイ(Beisswenger, P. J.)ら著, 「ダイアベーツ(Diabetes)」, (アメリカ), 1999年, 第48巻, p198-202
【非特許文献52】ソマリー, ピー, ジェイ(Thornalley, P. J.)ら著, 「エンドクリノロジー・アンド・メタボリズム(Endocrinol. Metab.)」, (アメリカ), 1996年, 第3巻, p149-166
【非特許文献53】ルイス,イー、ジェイ(Lewis, E. J.)ら著,「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン(New Eng. J. Med.)」,(イギリス),1993年,第329巻,p1456-1462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明者らは、上記従来技術に基づく知見を前提として、非酵素的条件下、カルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(AGEsおよび/またはALEs)が関与する病態を予防および/または治療するための薬剤を開発すべく鋭意研究を行った結果、先に、3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンまたは薬理学的に許容されるその塩が効果的にAGEs、ALEs等の蛋白修飾物の生成を抑制する事実を発見し、この発見事実に基づいて、当該物質を有効成分とする蛋白修飾物生成抑制配合剤の発明を完成した(特願2003−076955号明細書)。
【0036】
本発明者らは、その後さらに研究を続け、上記3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンの1位フェニル基および3位メチル基を他の置換基に変化させた類縁体についても同様の活性を有することを見出したが、同時に、それら3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンやその類縁体は、これを生体に投与した場合、ビタミンB6欠乏症を起こすことが判明した。
【0037】
そこで、この欠陥を克服すべくさらに研究を進めたところ、そのようなビタミンB6欠乏症は、血中に存在するビタミンB6分子が3-メチル-1-フェニル-2-ピラゾリン-5-オンやその類縁体の基本骨格である2-ピラゾリン-5-オン環によって捕捉されることに基因するものであることが明らかとなった。また、そのような捕捉が、当該2-ピラゾリン-5-オン環の4位メチレン基に対してビタミンB6分子が結合することによるものであることも明らかにした。
【0038】
そして、上記のような知見に基づいて、ビタミンB6欠乏症を生じない蛋白修飾物生成抑制配合剤として、1−置換または非置換−3−置換または非置換−2−ピラゾリン−5−オンの4位に、ビタミンB6分子の結合を妨げる置換基(ビタミンB6分子自体に由来するものを含む)を導入した化合物またはその転位体を提供することに成功した(特願2003−407834)。
【0039】
さらに本発明者らは、ビタミンB6欠乏症のない優れた蛋白修飾物生成抑制配合剤の開発を目的として鋭意研究を行い、AGEs生成阻害効果を指標として既存の薬物を再評価した。その結果、β−ラクタム系化合物が優れたAGEs産生抑制効果を有し、糖尿病性腎症をはじめとするAGEs過剰産生に起因する病態を改善することを見出した(特願2003−434051)。
【0040】
本発明者らは、上記従来技術に基づく知見を前提として、さらに蛋白修飾物抑制効果を高める化合物の探索のため鋭意研究を行った結果、血圧降下剤が上記したピラゾリン化合物やβ−ラクタム系化合物の蛋白修飾物抑制効果を高める作用がある事実を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0041】
本発明は、上記の知見に基づくものであって、蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤を併用することを特徴とする、蛋白修飾物生成抑制効果の高められた薬剤を提供するものである。
【0042】
「蛋白修飾物生成抑制配合剤」の代表的な化合物としては、βラクタム構造を有する化合物(以下「β−ラクタム系化合物」という。)や1−置換または非置換−3−置換または非置換−2−ピラゾリン−5−オンの4位にビタミンB6分子の結合を妨げる置換基(ビタミンB6分子自体に由来するものを含む)を導入した化合物またはその転位体(以下「ピラゾリン化合物」という。)を挙げることができ、これらは遊離形または塩形のいずれであってもよい。
【0043】
「β-ラクタム系化合物」とは、分子内に-NH-CO-を含む環状化合物のうち、4員環構造を有しているものをいう。β-ラクタム系化合物は、ペニシリン、セファロスポリン系抗生物質の重要な活性中心として知られているが、本発明においては、抗生物質としての作用を持たないβ-ラクタム系化合物も使用することができる。このようなβ-ラクタム系化合物が、AGEsの産生を阻害し、蛋白修飾物の生成を抑制する効果を有しているということは、全く知られていなかった。
【0044】
β-ラクタム系化合物として、以下のような化合物が知られている。
(1)ペニシリン系として、6-アミノペニシラン酸、アモキシシリン、アンピシリン、アンピシリンエトキシカルボニルオキシエチル、アンピシリンフタリジル、オキサシリン、カルベニシリン、カルベニシリンインダリル、カルベニシリンフェニル、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、スルベニシリン、チカルシリン、ナフシリン、ピブメシリナム、ピペラシリン、フェネチシリン、フェノキシメチルペニシリン、フルクロキサシリン、プロピシリン、ヘタシリン、ベンジルペニシリン、メチシリン、アパルシリン、メズロシリン等が挙げられる。
【0045】
(2)セフェム系として、7-アミノセファロスポラン酸、セファセトリル、セファゾリン、セファトリジン、セファドロキシル、セファマンドール、セファピリン、セファレキシン、セファログリシン、セファロチン、セファロリジン、セフォキシチン、セフォタキシム、セフォチアム、セホテタン、セホペラゾン、セフスロジン、セフタジダイム、セフテゾール、セフトリアキソン、セフピラミド、セフブペラゾン、セフメタゾール、セフメノキシム、セフラジン、セフロキサジン、セフロキシム、セファクロル、セフチゾキシム等が挙げられる。
【0046】
(3)カルバペネム系としては、チエナマイシン、ホルムイミドイルチエナマイシン、PS-6、PS-7、PS-8、オリバン酸MM4550、オリバン酸MM13902、オリバン酸MM17780、オリバン酸MM22381、オリバン酸MM22385、イミペネム、カルペチマイシンA、カルペチマイシンB等が挙げられる。
(4)単環β-ラクタム系として、ノカルジシン、スルファゼシン、アズスレオナム等が挙げられる。
(5)天然セフェム系およびその他のβ-ラクタム系化合物として、セファロスポリンC、デアセチルセファロスポリンC、デアセトキシセファロスポリンC、7-メトキシセファロスポリンC、セファマイシンA、セファマイシンB、セファマイシンC、オガノマイシンA、オガノマイシンG、ラタモキセフ、クラブラン酸、スルバクタム等を挙げることができる。
【0047】
「ピラゾリン化合物」には、式(I):
【化1】


または式(II):
【化2】

[式中、Rは置換または非置換の芳香環基であり、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または1価の有機基であるか、またはRとRは両者合して縮合環を形成するか、もしくはRとRは両者合して2価の有機基を表す。ただし、RとRが共に水素原子であることはない。]
で示される化合物が含まれる。
【0048】
式(I)または(II)において、Rは、水素原子または置換または非置換の芳香環(異項環を含む。)基を表わす。「芳香環基」には、20個を越えることのない環構成原子数(そのなかに酸素、硫黄、窒素などのヘテロ原子が存在してもよいが、それらの数が4個を越えることはない)を有するものが包含され、特に環構成炭素原子数6〜10個を有するアリール(たとえばフェニル、ナフチル)が好ましい。
【0049】
置換基としては、低級アルキル、低級アルケニル、低級アルコキシ、低級アルケニルオキシ、低級アルカノイル、ハロ(低級)アルキル、カルボキシル、低級アルコキシカルボニル、カルボキシ(低級)アルキル、ハロ(たとえば塩素、臭素、ヨウ素、フッ素)、ニトロ、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ(低級)アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、ヒドロキシ、チオール、ヒドロキシスルホニル、アミノスルホニル、アリール(低級)アルカノイル、アリールオキシアミノ、アリール、アリール(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルケニル、シクロ(低級)アルキル(低級)アルキル、3〜7員ヘテロ環(たとえばオキサジアゾリル、チアジアゾリル)などの中から1種またはそれ以上が選択されてよい。置換基の数に制限はないが、通常、3個を越えることはない。
【0050】
で表される置換または非置換の芳香環基の具体例を挙げると、次のとおりである:フェニル、ナフチル、o−,m−またはp−低級アルキルフェニル(たとえばo−メチルフェニル、p−メチルフェニル、p−エチルフェニル)、o−,m−またはp−低級アルコキシフェニル(たとえばo−,m−またはp−メトキシフェニル、o−,m−またはp−エトキシフェニル)、o−,m−またはp−アミノフェニル、o−,m−またはp−ニトロフェニル、o−,m−またはp−ハロフェニル(たとえばo−,m−またはp−クロロフェニル、o−,m−またはp−フルオロフェニル)、o−,m−またはp−ハロ(低級)アルキルフェニル(たとえばo−,m−またはp−トリフルオロメチルフェニル)、o−,m−またはp−スルファモイルフェニル、o−,m−またはp−カルボキシフェニル、o−,m−またはp−低級アルコキシカルボニルフェニル(たとえばo−,m−またはp−メトキシカルボニルフェニル、o−,m−またはp−エトキシカルボニルフェニル、o−,m−またはp−イソプロポキシカルボニルフェニル)、o−,m−またはp−低級アルカノイルフェニル(たとえばo−,m−またはp−アセチルフェニル)、ジ(低級)アルキルフェニル(たとえば3,4−ジメチルフェニル)、ジヒドロキシフェニル(たとえば2,4−ジヒドロキシフェニル)、2−アミノ−4−カルボキシフェニル、3−アミノ−5−カルボキシフェニル、3−低級アルコキシ−4−ヒドロキシフェニル(たとえば3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)、3−カルボキシ−4−ハロフェニル(たとえば3−カルボキシ−4−クロロフェニル)など。
【0051】
、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または1価の有機基を表わす。「1価の有機基」には、置換または非置換の炭化水素基、ハロ基、ニトロ基、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基、カルボキシ(低級)アルキル基、低級アルコキシカルボニル基、ホルミル基、低級アルカノイル基、低級アルキルアミノ基、ジ(低級)アルキルアミノ基、低級アルカノイルアミノ基、アリール(低級)アルカノイル基、アリールオキシアミノ基、スルホン酸基、3〜7員ヘテロ環基などが包含される。「炭化水素基」には、炭素数30個を越えない(好ましくは8個を越えない)鎖状または環状の、脂肪族、脂環式または芳香族炭化水素基が包含され、具体的にはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基などが例示される。「3〜7員ヘテロ環基」は、環構成原子として3個を越えないヘテロ原子を含むものであり、たとえばピロリジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チアモルホリノなどが挙げられる。置換基の種類と数は、Rについて説明したのと同様である。ただし、RとRが共に水素原子であることはない。
【0052】
また、RとRは、両者合して縮合環を形成することができる。当該縮合環は、5または6員飽和炭素環(すなわち、R+R=トリメチレンまたはテトラメチレン)が好ましく、置換基が存在していてもよい。なおまた、RとRは、両者合して2価の有機基を表わすことができる。当該2価の有機基としては、たとえばメチレンタイプのものとスピロタイプのものを挙げることができる。メチレンタイプのものとしては、フェニルメチレン、フェニルアルケニルメチレン、キノリニルメチレン、フラニルメチレン、ジアゾリルメチレン、アミノメチレン、ジ(低級)アルキルアミノメチレン、ピリジルメチレン、チオフェニルメチレンなどが例示され、それらは、適宜、置換基を有していてもよい。これら縮合環や2価の有機基に存在しうる置換基の種類と数は、Rの場合と同様であってよい。
【0053】
なお、上記において、アルキル、アルコキシ、アルカノイルなどの語に関連して使用された「低級」なる言葉は、通常、炭素数8個まで、好ましくは炭素数5個までの基を指称するものとして使用される。
【0054】
化合物(I)または(II)の具体例を挙げれば、次のとおりである:
1.2-(3-アミノ-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-2-オキソ-N-フェニル-アセトアミド;
2.2-(3-アミノ5-オキソ-1-フェニル-4,5-ヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-2-オキソ-N-チアゾール-2-イル-アセトアミド;
3.2-(3-アミノ-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-2-オキソ-アセトアミド;
4.2-(3-アミノ-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-N-(3,4-ジメチル-フェニル)-4-オキソ-ブチルアミド;
5.2-(4-アミノ-フェニル)-4-(2-ヒドロキシ-エチル)-5-メチル-2,4-ヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0055】
6.5-アミノ-2-フェニル-4-(1-フェニル-1H-テトラゾール-5-イルスルファニル)-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
7.3-(3-メチル-5-オキソ-1-ペニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-プロピオン酸;
8. N-(3-メチル-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-アセトアミド;
9. 4-[(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-フェニル-1Hピラゾール-4-イル)-フェニル-メチル]-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
10. 2-フェニル-3a,4,5,6-テトラヒドロ-2H-シクロペンタピラゾール-3-オン;
【0056】
11.4-メチル-N-(3-メチル-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-ベンゼンスルホンアミド;
12.N-(3-メチル-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-アセトアミド;
13.5-メチル-2-(3-ニトロ-フェニル)-4-(1-フェニル-1H-テトラゾール-5-イルスルファニール)-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
14.N-[5-オキソ-1-フェニル-4-(1-フェニル-1H-テトラゾール-5-イルスルファニール)-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-3-イル]-ベンズアミド;
15.4-(ヒドロキシ-フェニル-メチル)-2-フェニル-5-トリフルオロメチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0057】
16.4-(1-ヒドロキシイミノ-エチル)-2,5-ジフェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
17.5,5'-ジメチル-2,2'-ジフェニル-2,4,2',4'-テトラヒドロ-[4,4']ビピラゾール-3,3'-ジオン;
18.2-(4-クロロ-フェニル)-4-エチル-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
19.4-[4-(4-メトキシ-フェニル)-チアゾール-2-イルスルファニール]-5-メチル-5-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
20.4-(2-オキソ-2-フェニル-エチル)-2-フェニル-5-プロピル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0058】
21.5-メチル-2-フェニル-4-(4-p-トルイル-チアゾール-2-イルスルファニル)-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
22.2-(4-フルオロ-フェニル)-4-[[1-(4-フルオロ-フェニル)-5-ヒドロキシ-3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル]-(2-ヒドロキシ-フェニル)-メチル]-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
23.N-(3,4-ジメチル-フェニル)-2-(3-メチル-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-イル)-2-オキソ-アセトアミド;
24.5-(4-クロロ-ベンゾイル)-4,4-ジヒドロキシ-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
25.ソジウム;4-ヒドロキシ-3-メチル-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-スルホン酸ナトリウム;
【0059】
26.5-メチル-4,4-ジ-モルホリン-4-イル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
27.3-ベンゾイルアミノ-4-ヒドロキシ-5-オキソ-1-フェニル-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-スルホン酸ナトリウム;
28.3-メチル-1-フェニル-5-オキソ-4-スピロ(3オキソ-2,3-ジヒドロ-ベンゾ[b]チオフェン-2-イル)-4,5-ジヒドロ-1H-ピラゾール;
29.4,4,5-トリメチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
30.4,10-ジメチル-2,8,11-トリフェニル-2,3,8,9-テトラザ-ジスピロ[4.0.4.1]ウンデカ-3,9-ジエン-1,7-ジオン;
【0060】
31.2-(2-クロロ-フェニル)-4-(3-エトキシ-4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
32.2-(2-クロロ-フェニル)-4-(4-ジメチルアミノ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
33.5-メチル-4-(3-フェニル-アリリデン)-2-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
34.3-{5-[3-メチル-5-オキソ-1-(4-スルファモイル-フェニル)-1,5-ジヒドロ-ピラゾール-4-イリデンメチル]-フラン-2-イル}-安息香酸;
35.4-(4-ヂメチルアミノ-ベンジリデン)-2-(3-フルオロ-フェニル)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0061】
36.3-{4-[4-(3-クロロ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル)-ベンジリデン]-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル}-安息香酸;
37.3-[4-(2-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-オキソ-3-フェニル-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
38.3-[1-(3-クロロ-フェニル)-3-メチル-5-オキソ-1,5-ジヒドロ-ピラゾール-4-イリデンメチル]-1H-キノリン-2-オン;
39.3-{5-[3-メチル-5-オキソ-1-(4-スルファモイル-フェニル)-1,5-ジヒドロ-ピラゾール-4-イリデンメチル]-フラン-2-イル}-安息香酸メチル;
40.4-(4-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イルメチレン-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル)-安息香酸メチル;
【0062】
41.4-{3-メチル-5-オキソ-4-[5-(4-スルファモイール-フェニル)-フラン-2-イルメチレン]-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル}-安息香酸メチル;
42.2-(4-クロロ-フェニル)-4-(2,4-ジヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
43.2-(4-クロロ-フェニル)-4-(3-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロピラゾール-3-オン;
44.4-(3,4-ジヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2-p-トルイル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
45.3-[1-(4-アセチル-フェニル)-3-メチル-5-オキソ-1,5-ジヒドロ-ピラゾール-4-イリデン]-1,3-ジヒドロ-インドール-2-オン;
【0063】
46.2-(4-フルオロ-フェニル)-4-(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-o-トルイル-1H-ピラゾール-4-イルメチレン)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
47.2-(4-クロロ-フェニル)-4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-ベンジリデン)-5-トリフルオロメチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
48.2-(4-エチル-フェニル)-4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
49.4-[4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-ベンゼンスルホンアミド;
50.4-(5-オキソ-4-チオフェン-2-イルメチレン-3-トリフルオロメチル-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル)-安息香酸エチル;
【0064】
51.4-[4-(4-ジメチルアミノ-ベンジリデン)-5-オキソ-3-トリフルオロメチル-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-ベンゼンスルホンアミド;
52.4-イソプロピリデン-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
53.4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-2-フェニル-5-トリフルオロメチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
54.4-(2,4-ジヒドロキシ-ベンジリデン)-2-(3,4-ジメチル-フェニル)-5-メチル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
55.3-[4-(3-エトキシ-4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
【0065】
56.4-[4-(3,5-ジ- tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
57.3-[3-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
58.3-[3-ヒドロキシ-4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-ベンジリデン)-5-オキソ-ピラゾリディン-1-イル]-安息香酸;
59.4-(3-ヒドロキシ-2,4-ジメトキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
60.4-[4-(4-ヒドロキシ-3-メトキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-ピラゾリジン-1-イル]-安息香酸イソプロピル;
【0066】
61.2-クロロ-5-[4-(2-クロロ-4-ヒドロキシ-5-メトキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
62.4-[4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸エチル;
63.4-[4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-オキソ-3-トリフルオロメチル-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸エチル;
64.4-[4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-3-メチル-5-オキソ-4,5-ジヒドロ-ピラゾール-1-イル]-安息香酸;
65.4-ジメチルアミノメチレン-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒトロ-ピラゾール-3-オン;
【0067】
66.4-(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-4-イルメチレン)-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
67.4-(4-クロロ-ベンジリデン)-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
68.1-(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-フェニル-1H−ピラゾール−4-イル)-6-メチル-1,3-ジヒドロ−フロ[3,4−c]ピリジン−7−オール;
69.1-(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-フェニル-1H−ピラゾール−4-イル)-6-メチル-1,3-ジヒドロ−フロ[3,4−c]ピリジン−7−オール(塩酸塩);
70.4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0068】
71.2-(3-クロロ-フェニル)-4-(4-ヒドロキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2,4-ジヒドロピラゾール-3-オン;
72.4-(4-ベンジルオキシ-ベンジリデン)-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロピラゾール-3-オン;
73.2-(3-クロロ-フェニル)-5-メチル-2H-ピラゾール-3,4-ジオン 4-オキシム;
74.5-(5-オキソ-1,3-ジフェニル-1,5-ジヒドロ-ピラゾール-4-イリデン)-4-フェニル-4,5-ジヒドロ-[1,3,4]チアゾール-2-カルボン酸エチル;
75.4-[1,3]ジチオラン-2-イリデン-5-メチル-2-フェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
【0069】
76.5-(4-クロロ-フェニルスルファニルメチル)-2-フェニル-4-[N'-(3-トリフルオロメチル-フェニル)-ヒドラジノ]-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
77.4-(5-ベンゾイル-3-フェニル-3H-[1,3,4]チアジアゾール-2-イリデン)-2,5-ジフェニル-2,4-ジヒドロ-ピラゾール-3-オン;
78. フォスフォリックアシッド モノ−[5-ヒドロキシ−6−メチル−4−(3−メチル−5−オキソ−1−フェニル−1,5−ジヒドロ−ピラゾール−4−イリデンメチル)−ピリジン−3−イルメチル]エステルなど。
【0070】
「血圧降下剤」は、利尿作用、血管拡張作用などに基づき、血圧を低下させる作用を有する化合物であればよく、特に好ましくはジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤を挙げることができる。ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤としては、以下のような化合物が公知である:アラニジピン、シルニジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、フェロジピン、ベシル酸アムロジピン、塩酸エホニジピン、塩酸ニカルジピン、塩酸バルニジピン、塩酸ベニジピン、塩酸マニジピンなど。
【発明の効果】
【0071】
本発明は、有効成分として、蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤を併用する薬剤を提供するものであって、当該薬剤は、向上した蛋白修飾物生成抑制作用を有する一方、副作用としてのビタミンB6欠乏症が抑制されているので、薬剤としての使用に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
ここに「蛋白修飾物」とは、非酵素的条件下にカルボニル化合物と反応することによって生じる蛋白修飾物(たとえば、AGEs、ALEsなど)をいい、特記しない限りAGEsとALEsの両者を含むものとする。蛋白修飾物はAGEs、ALEsまたはこれらの組合せであってもよく、AGEsには、ペントシジン、クロスリン、X1(フルオロリンク)、ピロピリジン、ピラリン、カルボキシメチルリジン、イミダゾロン化合物、カルボキシエチルリジン、MGOダイマー、GOダイマー、イミダゾリジン、アルグピリミジンなどが含まれ、ALEsには、たとえばマロンジアルデヒドリジン、ヒドロキシノネナール修飾物などが含まれる。
【0073】
「カルボニル化合物」とは、生体由来または非生体由来に関係なく、蛋白修飾の原因となるカルボニル基を有する化合物であればよく、ジカルボニル化合物も含まれる。従って、カルボニル化合物の具体例としては、アラビノース、GO、MGO、3-DG、グリコールアルデヒド、デヒドロアスコルビン酸、ヒドロキシノネナール、マロンジアルデヒド、アクロレイン、5-ヒドロキシメチルフルフラール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、レプリン酸、フルフラールなどを挙げることができる。
【0074】
「ビタミンB6欠乏症」とは、ビタミンB6の欠乏に基因する諸疾患をいい、口角炎、口内炎、舌炎、口唇炎、急性および慢性湿疹、接触性皮膚炎、末梢神経炎、貧血、リンパ球減少症、神経障害などが例示される。「ビタミンB6(分子)」には、ピリドキシン、ピロドキサール、ピリドキサミンや、それらのリン酸エステルが包含される。
【0075】
「蛋白修飾物生成抑制配合剤」の有効成分であるβ-ラクタム系化合物やピラゾリン化合物は、in vivo、ex vivoまたは/およびin vitroに拘わらず、蛋白修飾物の生成を結果的に抑制することができる。「結果的に抑制する」とは、カルボニル化合物をトラップする作用を有することによるものであってもよく、蛋白修飾物を生成する反応を抑制することによるものであってもよく、最終的に蛋白修飾物の生成を抑制すればよく、その作用機序には限定されない。なお、「抑制剤」または「保護剤」の語には、予防または/および治療のために使用する薬剤が包含される。
【0076】
上記したとおり、β-ラクタム系化合物やピラゾリン化合物を血圧降下剤と併用すると、生体内において、副作用としてのビタミンB6欠乏症を示すことなく、向上した蛋白修飾物生成抑制作用を示す。この事実は、次の試験によって確認することができる。
【0077】
(A)蛋白修飾物生成抑制作用を示す事実を証明する試験:
(1)代表的なAGEsであるペントシジンを指標として、血液透析患者から血漿を採取し、これに本発明薬剤の有効成分を加え、一定時間後のペントシジン生成量を測定する。
(2)ヒドロキシラジカルによるフェニルアラニンのヒドロキシル化反応抑制効果を指標として、フェニルアラニンと過酸化水素の混合物に本発明薬剤の有効成分を加え、一定時間後のo-またはm-チロシンの生成率を測定する。
(3)パーオキシナイトライトによるチロシンのニトロ化反応の抑制効果を指標として、チロシンとパーオキシナイトライトの混合物に本発明薬剤の有効成分を加え、一定時間後のニトロチロシンの生成率を測定する。
【0078】
(B)ビタミンB6欠乏症を惹起しないことを証明する試験:
ビタミンB6水溶液に本発明薬剤の有効成分を加え、一定時間後のビタミンB6残存量を測定する。
【0079】
本発明薬剤は、蛋白修飾物生成抑制配合剤として、以下に例示する病態の予防および/または治療に有用である:腎障害、糖尿病合併症(腎症、神経障害、網膜症、白内障など)、動脈硬化、透析合併症である透析アミロイドーシス、腹膜透析患者における腹膜硬化症、中枢神経疾患であるアルツハイマー病、ピック病およびパーキンソン病、リウマチ性関節炎、日光弾性線維症、老化など。当該抑制剤は、特に腎障害、糖尿病性腎症の予防および/または治療に有用である。
【0080】
本発明薬剤を、予防剤または治療剤として用いる場合、その有効成分を、そのままあるいは水に希釈する等の各種処理を施して使用することができ、医薬品、医薬部外品などに配合して使用することができる。この場合の配合量は、病態や製品に応じて適宜選択されるが、通常全身投与製剤の場合には、0.001〜50重量%、特に0.01〜10重量%とすることができ、0.001重量%より少ないと満足する予防または治療作用が認められない可能性があり、また、5重量%を越えると製品そのものの安定性や香味等の特性が損なわれる可能性があるので好ましくない。
【0081】
有効成分としての蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤は、これらを一緒にまたは別々に製剤化することができる。
【0082】
蛋白修飾物生成抑制配合剤であるβ-ラクタム系化合物やピラゾリン化合物は、遊離形または塩形のいずれであってもよい。塩形としては、通常、薬剤学的に許容されているもの、たとえば無機塩基や有機塩基との塩、無機酸、有機酸、塩基性または酸性アミノ酸などの酸付加塩などが挙げられる。無機塩基との塩としては、たとえば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩としては、たとえば、第1級アミン(エタノールアミンなど)、第2級アミン(ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミンなど)、第3級アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、トリエタノールアミンなど)との塩が挙げられる。
【0083】
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などとの塩が例示され、有機酸との塩としては、ギ酸、酢酸、乳酸、トリフルオロ酢酸、フマール酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、安息香酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などとの塩が例示される。さらに、塩基性アミノ酸との塩としては、アルギニン、リジン、オルニチンなどとの塩が例示され、酸性アミノ酸との塩としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などとの塩が例示される。
【0084】
また、β-ラクタム系化合物やピラゾリン化合物は、必要に応じて、アミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体、OPB-9195、ビグアナイド化合物、AGEs架橋形成阻害薬、アマドリ化合物を分解する酵素、GSH、システイン、アセチルシステイン、トコフェロール、ユビキノール、アルドース還元酵素阻害薬、カルボニル化合物トラップ剤など、公知の薬物と共に使用されてもよく、これにより蛋白修飾物生成抑制配合剤としての作用の持続性を高めることができる。また、β-ラクタム系化合物を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、これを併用あるいは配合し、組成物中の有効成分の安定化を図ることができる。
【0085】
本発明の薬剤の投与方法として、経口投与や静脈内投与以外に、経粘膜投与、経皮投与、筋肉内投与、皮下投与、直腸内投与などが適宜選択でき、その投与方法に応じて、種々の製剤として用いることができる。以下に、各製剤について記載するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種製剤として用いることができる。
【0086】
蛋白修飾物が関与する病態に対する予防薬または治療薬として用いる場合には、β-ラクタム系化合物やピラゾリン化合物の経口投与量は、0.03mg/kg〜30mg/kgの範囲が好ましく、より好ましくは0.1mg/kg〜10mg/kgである。全身投与を行う場合、特に静脈内投与の場合には老若男女または体型などにより変動があるが、有効血中濃度が0.2μg/mL〜20μg/mL、より好ましくは0.5μg/mL〜10μg/mLの範囲となるように投与する。
【0087】
また、血圧降下剤の投与量は、たとえば経口投与の場合、0.01〜50mg/kgであり、静脈内投与の場合、0.1〜30mg/kgであってよい。
【0088】
蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤の割合は、重量比で通常1:10〜10:1、好ましくは1:2〜2:1である。
【0089】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤などがあり、適宜選択することができる。また、それら製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。また、口腔内局所投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、バッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤などがあり、適宜選択することができる。なお、上記製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化などの修飾を施してもよい。
【0090】
上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書にいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠など)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤などのような、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用などを勘案して、最適の製剤形態にした製剤をいう。
【0091】
DDSの構成要素には、基本的に薬物、薬物放出モジュール、被包体および治療プログラムが含まれ、各々の構成要素について、特に放出を停止させた時に速やかに血中濃度が低下する半減期の短い薬物が好ましく、投与部位の生体組織と反応しない被包体が好ましく、さらに、設定された期間において最良の薬物濃度を維持する治療プログラムを有するのが好ましい。薬物放出モジュールは、基本的に薬物貯蔵庫、放出制御部、エネルギー源および放出孔または放出表面を有している。これら基本的構成要素は全て揃っている必要はなく、適宜追加あるいは削除などを行い、最良の形態を選択することができる。
【0092】
DDSに使用できる材料としては、高分子、シクロデキストリン誘導体、レシチン等がある。高分子には不溶性高分子(シリコーン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテートなど)、水溶性高分子およびヒドロキシルゲル形成高分子(ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート架橋体、ポリアクリル架橋体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、水溶性セルロース誘導体、架橋ポロキサマー、キチン、キトサンなど)、徐溶解性高分子(エチルセルロース、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルなど)、胃溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースナトリウム、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、メタアクリル酸ジメチルアミノエチル・メタアクリル酸メチルコポリマーなど)、腸溶性高分子(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、酢酸フタルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、アクリル酸系ポリマーなど)、生分解性高分子(熱凝固または架橋アルブミン、架橋ゼラチン、コラーゲン、フィブリン、ポリシアノアクリレート、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリβヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトンなど)があり、剤型によって適宜選択することができる。
【0093】
特に、シリコン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体およびメチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体の部分エステルは薬物の放出制御に使用でき、セルロースアセテートは浸透圧ポンプの材料として使用でき、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびメチルセルロースは、徐放性製剤の膜素材として使用でき、ポリアクリル架橋体は口腔粘膜あるいは眼粘膜付着剤として使用できる。
【0094】
また、製剤中には、その剤形(経口投与剤、注射剤、座剤など)に応じて、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤など適宜の添加剤を配合して製造することができる。これら各添加剤について、以下にそれぞれの具体例を挙げるが、これらに特に限定されるものではない。
【0095】
溶剤としては、精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリンなどを挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトールなどを挙げることができる。コーティング剤としては、白糖、ゼラチン、酢酸フタル酸セルロースおよび上記記載した高分子などを挙げることができる。基剤としては、ワセリン、植物油、マクロゴール、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性基剤などを挙げることができる。
【0096】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴムなどの天然高分子化合物、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチなどを挙げることができる。滑沢剤としては、ステアリン酸およびその塩類、タルク、ワックス類、小麦デンプン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどを挙げることができる。崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、セルロースおよびその誘導体、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロースなどを挙げることができる。
【0097】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。懸濁化剤としては、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤などが挙げられる。粘稠剤としては、カルメロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。乳化剤としては、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、各種界面活性剤、レシチンなどが挙げられる。
【0098】
安定剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、トコフェロール、キレート剤、不活性ガス、還元性物質などがある。緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸などがある。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などがある。無痛化剤としては、塩酸プロカイン、リドカイン、ベンジルアルコールなどがある。保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサールなどがある。矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリンなどがある。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油などがある。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素などがある。
【0099】
上記したように、医薬品を徐放化製剤、腸溶性製剤または薬物放出制御製剤のようなDDS製剤化することにより、薬物の有効血中濃度の持続化、バイオアベイラビリティーの向上等の効果が期待できる。しかし、蛋白修飾物生成抑制配合剤は生体内で失活化または分解され、その結果、所望の効果が低下または消失する可能性がある。従って、蛋白修飾物生成抑制配合剤を失活化または分解する物質を阻害する物質を本発明の蛋白修飾物に関与する病態の予防または治療組成物と併用することにより、成分の効果をさらに持続化させ得る。これらは製剤中に配合してもよく、または別々に投与してもよい。当業者は適切に、蛋白修飾物生成抑制配合剤を失活化または分解する物質を同定し、これを阻害する物質を選択し、配合あるいは併用することができる。
【0100】
製剤中には、上記以外の添加物として通常の組成物に使用されている成分を用いることができ、これらの成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0101】
本発明薬剤は、また、腹膜透析や血液透析における蛋白修飾物質による障害を抑制するために使用することができる。すなわち、本発明薬剤を常套の腹膜透析液や血液透析液中に配合すればよい。
【0102】
本発明による液体試料中のカルボニル化合物含有量を低減させる方法は、本発明薬剤と当該液体試料とを接触させる工程を含むものである。
【0103】
また、本発明薬剤による蛋白修飾物の生成抑制方法は、当該薬剤を、患者血液または腹膜透析液と接触させる工程を含むものである。透析における蛋白修飾物とは、腹膜透析または血液透析を受ける患者に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物および腹膜透析液または血液透析液自体に由来するカルボニル化合物により生成される蛋白修飾物などが含まれる。
【0104】
本発明薬剤を添加する腹膜透析液または血液透析液の組成は、公知のものでよい。一般的な腹膜透析液は、浸透圧調節剤(グルコースなど)、緩衝剤(乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸等の有機酸、炭酸水素ナトリウムなど)、無機塩類(ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオンなど)などで構成されている。β-ラクタム系化合物を添加した腹膜透析液または血液透析液は、保存時に伴う、これら主成分からの蛋白修飾物の生成を抑制することができる。
【0105】
また、第一室および第二室からなる分画された容器に腹膜透析などの液を収容し、第一室に還元糖を収容し、第二室に本発明薬剤を収容し、使用直前に混合しても良い。アミノ酸が含まれる場合には、当業者は適宜第三室を設ける等、最良の形態をとることができる。
【0106】
腹腔内または血管内に投与された後は、本発明薬剤が蛋白修飾物の生成を抑制するため、腹膜硬化のような副作用を軽減できる。さらに、その他の病態(糖尿病合併症など)の予防・治療にも効果を発揮することが期待できる。透析液には、本発明薬剤の他に、公知のアミノグアニジンなどの薬物を混合して用いることができる。また、粉末型透析剤にも応用可能である。
【0107】
適当な混注用コネクターを装備した透析回路に、本発明薬剤を注入することもできる。また、本発明薬剤を直接腹腔内に注入して、腹腔内で腹膜透析液と混合することもできる。また、腹膜透析液を患者へ注入する前、または腹腔内貯留中に、本発明薬剤を静脈内注射することにより、蛋白修飾物の生成を効果的に抑制することもできる。
【0108】
透析液などは、適当な密閉容器に充填し、滅菌処理する。滅菌処理には高圧蒸気滅菌や熱水滅菌などの加熱滅菌が有効である。この場合、高温で有害物質を溶出せず、滅菌後も輸送に耐える強度を備えた容器を用いる。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体などからなる可撓性プラスチックバッグが挙げられる。また、外気の影響による液の劣化を避けるために、透析液などを充填した容器をさらにガスバリアー性の高い包装材で包装しても良い。
【0109】
高圧加熱滅菌を含む加熱滅菌により滅菌処理を行う場合、用いられる本発明薬剤が加熱などの処理に対して十分安定であるならば、透析液配合時に本発明薬剤を予め添加してから、加熱滅菌操作を行うこともできる。用いる本発明薬剤が加熱滅菌に安定でない場合は、加熱を要しない滅菌法を用いることもできる。この様な滅菌法には、例えば濾過滅菌などがある。
【0110】
たとえば、孔径0.2μm程度のメンブランフィルターを備えた精密濾過器を用いて濾過することにより滅菌することができる。濾過滅菌された透析液は、可撓性プラスチックバックなどの容器に充填された後、密封される。また、予め加熱滅菌した腹膜透析液などに、後で本発明薬剤を添加しても良い。
【0111】
添加する時期は特に限定されない。液を滅菌後あるいは滅菌前に本発明薬剤を添加しても良いし、透析直前または同時に添加しても良いし、透析液を注入した後に直接腹膜に注入しても良い。
【0112】
本発明の腹膜透析液は、現行の腹膜透析液や血液透析液と同様の透析処理に利用される。すなわち、腹膜透析の場合にあっては、透析患者の腹腔内に本発明による腹膜透析液を適量注入し、腹膜を通過して生体内の低分子量成分を腹膜透析液内に移行させる。腹膜透析液は間欠的に循環させ、患者の症状に応じて透析を継続する。このとき、本発明薬剤は透析液内または生体内での蛋白修飾物の生成を抑制する。クレアチニンや無機塩類、あるいは塩素イオンなどの透析成分とともに、カルボニル化合物も血中や腹膜内から腹膜透析液中へ移行する。ゆえに、蛋白修飾物による生体への悪影響が減少される。
【0113】
本発明薬剤は、透析液のみに使用できるのではなく、栄養輸液、電解質輸液、経腸・経管栄養剤など、あらゆる液剤に利用できる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0115】
実施例1
平均粒子径約2μmのニフェジピンジェットミル粉砕原末80g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース80g、D−マンニトール20gおよびラウリル硫酸ナトリウム(薬物吸収促進剤)6gおよびセファレキシン(TM4001)60gを混合し、精製水90gを添加しながら湿式造粒し、乾燥し、整粒した。次いで、この整粒物にステアリン酸マグネシウム(滑沢剤)2gを添加混合し、直径6.5mmの杵臼を用い、1錠が100mgとなるように打錠して、錠剤を得た。
【0116】
実施例2
ニフェジピン50g、1−(5−ヒドロキシ−3−メチル−1−フェニル−1H−ピラゾール−4−イル)−6−メチル−1,3−ジヒドロ−フロ[3,4−c]ピリジン−7−オール(TM2002)50g、コーンスターチ100gおよび結晶セルロース100gを混合し、更にステアリン酸マグネシウム0.5gを添加した。この混合物を直径8.5mmの臼で打錠し、重量200mgの錠剤を得た。
【0117】
試験例1:本発明薬剤の腎保護作用の検討
SHR/ND系雄ラット(11週齢)50匹およびWKY系雄ラット(11週齢)10匹を1週間馴化後、投薬前の体重・採血を行う。投薬開始前に体重測定を行い、ND無処置群、Nifedipine群、TM4001(200mg、500mg、200mg+Nifedipine 45mg、500mg+ Nifedipine 45mg)群およびWKY無処置群に群分けする(各群6匹)。群分け後、20週間(13〜33週齢)にわたり、各被験薬剤をゾンデにより強制経口投与する。投与期間中は、体重測定、採血、採尿および血圧測定を行う。また、経口投与終了時に採血および腎臓の摘出・重量測定を行う。なお、TM4001はセファレキシンである。
1)群構成および被験物質濃度と投与回数
尿蛋白量により群分けを行う。また、1群6匹とする。
【表1】

【0118】
2)投与方法および試薬調製
ゾンデによる強制経口投与により行う。投与量は各個体の体重に合わせ算出し(小数点第一位)、毎週行う体重測定に基づいて投与量を設定する。調製量は各検体の1kgあたりの投与量を1.0mlの0.5%CMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)溶液または蒸留水で懸濁する。必要に応じてメノウ乳鉢を用いて調整する。また、1日2回投与する群に関しては投与間隔を8±1時間、1日3回投与する群に関しては投与間隔を5±1時間とする。投与期間は20週間とする。
【0119】
3)体重測定
Preおよび週1回体重測定を行う。
4)血圧測定
非観式血圧測定装置を用いて血圧の測定を行う。1匹あたり3回測定を行い、この平均値をデータとする。尚、Nifedipine投与群は1回目投与から1±1時間後に測定を行う。その他の化合物は1回目投与から6±1時間後に測定を行う。血圧測定はPre,2,4,8,12,16,20週に行う。
【0120】
5)採血
動物を38℃の保温器で温めた後、尾静脈より800ul採血を行う(ヘパリン処理:ヘパリン量は血液1mlに対して15ulとする)。尚、Nifedipinは1回目投与から1±1時間後に採血を行う。その他投与群に関しては1回目投与後、6±1時間後に採血を行う。採血した血液は即氷冷する。血液を3000rpm・10分で遠心分離し血漿を得る。血漿は200ulずつ分注する。採血はPre,2,4,8,12,16,20週に採血を行う。
【0121】
6)採尿
代謝ケージにより採尿を行う。採取した尿は10mlを採取し、5mlずつに分注する(ディスポチューブ:5ml、SRL指定チューブ:5mlの計2本)。また、採尿時に一日尿量の測定を行う。測定は目盛り付きディスポチューブにとり、目分量で少数点第一位まで計測する。尚、尿採取の際はよく懸濁してこれを採取する。採尿はPre,2,4,8,12,16,20週で行う。
【0122】
7)解剖
被験物質投与20週後に解剖を行う。解剖は採血後、腎臓の摘出・重量測定を行う。血液に関しては血漿を採取し1mlずつ分注、凍結する。腎臓は生化学用および病理用にそれぞれ用いる。病理用の腎臓採取については、この作業を氷上で行い、氷上のPBS溶液中で皮膜を除去し、剃刀で半分に輪切りする。輪切りした腎臓は一方をメチルカルノイフィキサチオン(methyl Carno'y fixation)(MeOH:CHCl3:CH3COOH=6:3:1)に室温で1日漬けた後、メタノールにて置換操作を行い、パラフィン包埋する。もう一方は新鮮凍結標本用とする。
【0123】
結果は、図lに示すとおりである。すなわち、TM4001(200mgまたは500mg)投与群は、ND群と比較することにより、蛋白尿抑制効果のあることが理解される。また、TM4001+Nife(TM 4001 200mgまたは500mg+Nife 45mg)投与群は、TM4001(200mgまたは500mg)投与群と比較することにより、蛋白尿抑制効果のあることが理解される。
【0124】
試験例2:本発明薬剤の腎保護作用の検討
TM4001に代え、TM2002を使用する以外は、試験例1と同様に操作して、図2(蛋白尿抑制作用)および図3(血圧降下)の結果を得た。図2から、ニフェジピンは、蛋白尿抑制効果を有しないが、TM2002の蛋白尿抑制効果を向上させる効果があることが理解できる。
なお、TM2002は、1-(5-ヒドロキシ-3-メチル-1-フェニル-1H-ピラゾール-4-イル)-6-メチル-1,3-ジヒドロ−フロ[3,4-c]ピリジン-7-オール(塩酸塩)である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】図1は、TM4001をニフェジピン(Nifedipine)と併用することにより、TM4001の蛋白尿抑制効果が上昇する試験結果を示す図である。
【図2】図2は、TM2002をニフェジピンと併用することにより、TM4001の蛋白尿抑制効果が上昇する試験結果を示す図である。
【図3】図3は、TM2002をニフェジピンと併用しても、ニフェジピンの血圧降下効果に影響を与えない試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤を併用することを特徴とする、薬剤。
【請求項2】
蛋白修飾物生成抑制配合剤が遊離形または塩形のβラクタム構造を有する化合物である、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
βラクタム構造を有する化合物がセフェム系化合物である、請求項2記載の薬剤。
【請求項4】
蛋白修飾物生成抑制配合剤が遊離形または塩形のピラゾリン化合物、すなわち1−置換または非置換−3−置換または非置換−2−ピラゾリン−5−オンの4位に、ビタミンB6分子の結合を妨げる置換基(ビタミンB6分子自体に由来するものを含む)を導入した化合物またはその転位体である、請求項1記載の薬剤。
【請求項5】
ピラゾリン化合物が遊離形または塩形の式(I):
【化1】

または式(II):
【化2】

[式中、Rは置換または非置換の芳香環基であり、R、RおよびRはそれぞれ水素原子または1価の有機基であるか、またはRとRは両者合して縮合環を形成するか、もしくはRとRは両者合して2価の有機基を表す。ただし、RとRが共に水素原子であることはない。]
で示される化合物である、請求項4記載の薬剤。
【請求項6】
血圧降下剤がジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤である、請求項1〜5のいずれか記載の薬剤。
【請求項7】
ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗剤がニフェジピンである請求項6のいずれか記載の薬剤。
【請求項8】
蛋白修飾物が、AGEs、ALEsおよびこれらの組合せよりなる群から選択されるものである、請求項1〜7のいずれか記載の薬剤。
【請求項9】
蛋白修飾物がAGEsである、請求項8記載の薬剤。
【請求項10】
AGEsがペントシジンである、請求項9記載の薬剤。
【請求項11】
腎組織保護剤として使用する、請求項1〜10のいずれか記載の薬剤。
【請求項12】
糖尿病性腎症治療剤として使用する、請求項1〜11のいずれか記載の薬剤。
【請求項13】
蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤が別々に投与される、請求項1〜12のいずれか記載の薬剤。
【請求項14】
蛋白修飾物生成抑制配合剤と血圧降下剤が同時に投与される、請求項1〜12のいずれか記載の薬剤。
【請求項15】
血圧降下剤を有効成分とする、蛋白修飾物生成抑制配合剤の活性増強剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−31348(P2007−31348A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217509(P2005−217509)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(597142376)
【出願人】(597142387)
【Fターム(参考)】