説明

蛋白質結晶化装置および蛋白質結晶化方法

【課題】 蛋白質の結晶化実験あるいは結晶化条件のスクリーニングを、迅速かつ経済的に、高い信頼性をもって実施することができる蛋白質結晶化装置を提供する。
【解決手段】 蛋白質結晶化剤を保持した2以上の結晶化剤保持部16を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と、前記蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と積層されるプレート24とを有し、前記プレート24は、前記結晶化剤保持部16に対応し蛋白質含有試料を充填可能な結晶化区画32と、該結晶化区画32の間に設けられた凹部34とを有することを特徴とする蛋白質結晶化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質の結晶化あるいは結晶化条件のスクリーニングを行うための装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蛋白質の立体構造と蛋白質の機能との関係を明らかにすることにより、それをコードする遺伝子の機能を解明しようとする、構造ゲノム科学と呼ばれる研究が行われている。
蛋白質の立体構造の解析は、通常、解析しようとする蛋白質の結晶化条件をスクリーニングした後、最適な結晶化条件における結晶化を実施し、その後、得られた結晶をX線構造解析に供することにより行われている。ここで、蛋白質の結晶化条件をスクリーニングする過程においては、立体構造解析を行うのに十分に良好な結晶を得る条件を決定するまでに、多くの時間と多量の蛋白質試料を費やしており、立体構造解析におけるボトルネックとなっている。
このことに対し、蛋白質の結晶化条件のスクリーニング、あるいは結晶化を迅速に、より微量のサンプルで行うために、種々の蛋白質結晶化装置や結晶化方法、結晶化スクリーニング方法が提案されている。
本発明者らの一部も蛋白質の結晶化条件のスクリーニングを迅速に、かつ微量のサンプルで経済的に行うことを目的として、結晶化実験を、マイクロアレイ型のチップ上で行うような結晶化装置を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
特許文献1に記載の発明では、マイクロアレイを使用し、そのマイクロアレイは、貫通孔により形成された各区画内にゲル状物が保持されており、各ゲル状物には、複数の種類および濃度の蛋白質結晶化剤が含まれている。マイクロアレイを蛋白質含有試料と接触させることにより、一度に複数の結晶化条件をスクリーニングすることができる。さらに、微量の蛋白質試料で実施することができ、非常に効率的である。
【特許文献1】WO03/053998号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の蛋白質結晶化装置では、マイクロアレイの区画間で、蛋白質含有試料及び/又は結晶化剤の移動、混合(汚染)が起こり、結晶が析出した条件が予め区画内のゲル状物に含まれる結晶化剤の濃度や種類と一致しない虞があった。
また、このような装置では、蛋白質含有試料を手作業で結晶化剤保持部分に供する必要があり、操作が煩雑となる。また、自動的に蛋白質含有試料を供する自動装置は高価である。
本発明は前記課題を解決するためになされたもので、蛋白質の結晶化実験あるいは結晶化条件のスクリーニングを、迅速かつ経済的に、高い信頼性をもって実施することができる蛋白質結晶化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の蛋白質結晶化装置は、蛋白質結晶化剤を保持した2以上の結晶化剤保持部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイと、前記蛋白質結晶化用マイクロアレイと積層されるプレートとを有し、前記プレートは、前記結晶化剤保持部に対応し蛋白質含有試料を充填可能な結晶化区画と、該結晶化区画の間に設けられた凹部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の蛋白質結晶化装置によれば、蛋白質の結晶化実験あるいは結晶化条件のスクリーニングを、迅速かつ経済的に、高い信頼性をもって実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の蛋白質結晶化装置の一例を示す模式図である。
この例では、図1に示すように、支持体20、シリコンゴム製のパッキング22、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18、プレート24を備えている。
パッキング22は蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と同じ形状および面積の中空部23を有し、支持体20には、該パッキング22の外周と同じ形状および大きさのマイクロアレイ支持部26が設けられている。マイクロアレイ支持部26には、パッキング22と同一の形状のマーキング28が施されている。
パッキング22は、マーキング28に位置を合わせてマイクロアレイ支持部26上に設置されており、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18が、マイクロアレイ支持部26上に、パッキング22の中空部23に格納されて設置されている。ここで、プレート24に設けられた結晶化区画32と、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18上の結晶化剤保持部16とを正確に接触させるために、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の上面と、支持体20の上面とは、同じ高さになっていることが好ましい。
【0007】
図3は、プレート24の中央部を拡大した断面図である。図4に、支持体20、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18、プレート24が組み立てられた状態の一部の断面図を示す。
プレート24は、図3、4に示すように、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の結晶化剤保持部16の各々と対応した配列の結晶化区画32と、該結晶化区画32の間に設けられた凹部34とを有する。なお、各々の結晶化区画32は、プレート24において凹部34に対し凸な部位である結晶化区画支持部31の先端にそれぞれ支持されている。
このプレート24は、支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の上に積層される。すなわち、図4に示すように、結晶化区画32は、結晶化剤保持部16によって密封され、結晶化区画支持部31に支持された結晶化区画32と、同様に結晶化区画支持部31に支持された結晶化区画32との間に、各々凹部34が位置する。
以下、支持体20のうち蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を支持する面をマイクロアレイ支持面100、プレート24のうち蛋白質結晶化用マイクロアレイ18に接する面を反応面102、それと反対側の面を外側面104と称する。
なお、プレート24において、結晶化区画32の配列された領域の外縁は凹部となるから、プレート24において凹状となった一定面積の領域が形成される。以下、プレート24の反応面のうち、結晶化区画32が配列された凹状の領域を、シール部30と称する。
【0008】
この例においては、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18が、支持体20のマイクロアレイ支持部26上に設置されているが、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18は、結晶化剤保持部16が結晶化区画32に対応して該結晶化区画32を密封できるように設置されていればよく、支持体20に接着されていてもよいし、マイクロアレイ支持部26を凹状に形成し、該マイクロアレイ支持部の底部に接着せずに積層されていてもよい。
【0009】
支持体20の材料および形状は、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を固定可能なものであれば、特に限定されない。支持体20の材料としては、光透過性の材料を用いることにより、生成した結晶を結晶化装置のまま迅速・簡便に顕微鏡にて確認でき、結晶の成長過程を経時的に観察できることから好ましい。光透過性の材料としては、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ガラス等が挙げられる。
支持体20には、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の固定位置を決めるためのマーキングが施されている。マーキング方法は、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を正確な固定を可能とするものであれば特に限定されず、例えば、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と同様の形状および面積を有する窪み、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の所定の位置に対応する支持体20上の位置に塗装された点などが挙げられる。
この例では、図7に示すように、支持体20に、プレート24と支持体20とを積層する際に結晶化区画32と結晶化剤保持部16とを対応させるプレート位置決め孔44がさらに設けられている。
【0010】
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18は、蛋白質結晶化剤を保持した2以上の結晶化剤保持部16を有する。
結晶化剤保持部16としては、ゲル等の蛋白質結晶化剤を保持できる多孔質体(以下、保持相とする)に蛋白質結晶化剤を保持させたものを用いることができ、保持相は、図4に示すように結晶化区画32に充填された蛋白質含有試料が結晶化剤保持部16に接触した際に、該保持相から結晶化区画32へ蛋白質結晶化剤が移動するものであればよい。
前記保持相としては、ゲルを用いることが好ましい。ゲルを用いることにより、結晶化剤保持部16から、結晶化区画32に充填された蛋白質含有試料への蛋白質結晶化剤の移動が、適度に緩やかな速度に制御され、安定した結晶化を実現できる。
ゲルの材料は特に制限されないが、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルアミノエトキシエタノール、N−アクリロイルアミノプロパノール、N−メチロールアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリル酸、アリルデキストリン等の単量体の一種類または2種類以上と、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等との多官能性単量体を、例えば水性媒体中で共重合したゲルを用いることができる。その他に、ゲルとして、例えばアガロース、アルギン酸、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等のゲル、またはこれらを架橋したゲルを用いることができる。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18に、上記のようなゲルを保持させるには、例えば、ゲルの構成成分であるアクリルアミド等の単量体、多官能性単量体および開始剤を含む液を該容器に注入し、重合させてゲル化させればよい。ゲル化させる方法としては、多官能性単量体の存在下に共重合させる方法の他、多官能性単量体の非存在下に共重合させたのち架橋剤を用いる方法であってもよい。また、ゲル材料としてアガロースを用いる場合は、温度降下によってゲル化を行ってもよい。
蛋白質結晶化剤をゲルに保持させる場合、その方法は、特に制限されるものではない。例えば、予め蛋白質結晶化剤と上記の重合性モノマーとを混合して、適当な容器に導入しておき、その後、重合反応を行ってゲルを形成させることにより、蛋白質結晶化剤をゲルに保持させることができる。ここで、蛋白質結晶化剤を多孔性粒子等を含浸させ、その粒子をゲルに包括させることもできる。
【0011】
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の材料、形状等は、反応用物質が多数個整列配置されており、結晶析出の観察を妨げないものであれば、特に限定されない。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の材料としては、例えば、ガラス、樹脂、金属等が挙げられ、また、これらの材料を組み合わせて作製した複合体を用いてもよい。ただし、蛋白質結晶の析出の有無を容易に確認するために、光透過性の高い材料を用いることが好ましい。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の形状としては、例えば、円形、正方形、長方形などの形状が挙げられる。また、その厚みについては、結晶化の効率の向上や、結晶析出の観察の容易化および迅速化を考慮して任意に選択できるが、例えば0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mmとすることができる。
【0012】
図2に、本発明の蛋白質結晶化装置に用いられる蛋白質結晶化用マイクロアレイの好適な例として、複数の中空管状体を配列してなるマイクロアレイを示す。図2に示すように、基板10に、中空管状体として2本以上の中空繊維12が区画配列されて固定されており、これらの中空繊維12は中空部14を有し、これらの中空部14に、蛋白質結晶化剤を保持したゲルが充填されて、結晶化剤保持部16を成している。すなわち、基板10に、2つ以上の結晶化剤保持部16が区画配列されて、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18
を構成している。
中空繊維12は、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリレート系モノマー、メチルアクリレート、エチルアクリレート等のアクリレート系モノマーの単独重合体もしくはこれらの共重合体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノボルネン/エチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ガラス等から形成されるものが挙げられる。
中空繊維12の内壁表面は、無処理の状態で用いてもよいが、必要に応じて、プラズマ処理やγ線、電子線などの放射線処理を施したものであってもよい。さらに、中空繊維12は、必要に応じて反応性官能基を導入したものであってもよい。
中空繊維12の外径は、単位面積あたりの結晶化剤保持部16の数を多くするために、2mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であることがより好ましい。また、中空繊維12の内径は、前記外径の範囲内で適宜選択される。
基板10に、2つ以上の中空繊維12を区画配列して固定する方法としては、以下の方法を用いることができる。すなわち、まず、中空繊維12を、所定の間隔をもって平行に配列させる。これらの中空繊維12を収束した後に接着して、繊維配列体(三次元配列体)となすことができる。得られた三次元配列体を、ミクロトームなどの切片作成用の装置を用いて、繊維軸と交差する方向、好ましくは繊維軸に対して垂直方向に切断することにより、中空繊維配列体断面を有する薄片(図2)からなるマイクロアレイを得ることができる。薄片の厚みは、通常100〜5000μmとして用いることができ、好ましくは200〜2000μmである。
このとき、中空繊維12を規則的に配列し、樹脂接着剤等で接着することにより、例えば、縦横に中空繊維12が整然と規則的に配列した中空繊維配列体を得ることができる。中空繊維配列体の形状は特に限定されるものではないが、通常は、繊維を規則的に配列させることにより、正方形、長方形、円形等に形成される。
「規則的に」とは、一定の大きさの枠の中に含まれる繊維の本数が一定となるように順序良く配列させることをいう。例えば、直径1mmの繊維を束にして断面が縦10mm、横10mmの正方形となるように配列させようとする場合は、その正方形の枠内(1cm)における1辺に含まれる繊維の数を10本とし、この10本の繊維を1列に束ねて1層のシートとした後、このシートが10層になるように重ねる。その結果、縦に10本、横に10本、合計100本の繊維を配列させることができる。ただし、繊維を規則的に配列させる手法は、上記のようにシートを重層するものに限定されるものではない。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18として、上記のような、複数の中空管状体を配列してなるマイクロアレイを用いることによって、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の厚み、結晶化剤保持部16の体積、保持される蛋白質結晶化剤の種類および濃度等を、良好に制御して、かつ効率よく、蛋白質結晶化装置を製造することができる。
【0013】
なお、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18は、外気との接触を防ぐ密閉性のよい容器やシール等で密閉することにより保存されることが好ましい。密閉性のよい容器としては、例えば、気体や水の透過率の小さい高分子材料や、ガラス、金属等が挙げられる。また、このようなマイクロアレイは、低温で保存されることが好ましく、特に長期にわたる保存の場合は凍結保存してもよい。
【0014】
さらに、各々の結晶化剤保持部16が、異なる蛋白質結晶化条件に調製されたゲルからなることが好ましく、このことにより、結晶化条件のスクリーニングを行う場合に、スクリーニングを一枚のマイクロアレイ上で迅速に行うことができる。
【0015】
ここで、蛋白質結晶化条件とは、蛋白質結晶化剤の種類および濃度、蛋白質結晶化剤を保持させる保持相、例えば蛋白質結晶化剤を保持させて固化させた後のゲルのpH、ゲルの組成、架橋度、結晶化剤保持部16および結晶化区画32の温度、時間、冷却プロファイル等である。
蛋白質結晶化剤の種類としては、例えば、沈殿剤、pH緩衝剤、これらの任意の組み合わせ等が挙げられる。
沈殿剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ポリエチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、硫酸アンモニウム等が挙げられる。pH緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウム三水和物、リン酸カリウム、イミダゾール、クエン酸ナトリウム、カコジル酸ナトリウム等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、任意の組み合わせの2種以上で使用してもよい。さらに、蛋白質結晶化剤としては、市販品として、Emerald BioStructures社製「WIZARD II」、Hampton Research社製「Crystal screen」、「Grid Screen」等を用いることができる。
蛋白質結晶化剤の濃度としては、用いる蛋白質結晶化剤の種類にもよるが、例えば、ポリエチレングリコールからなる沈殿剤の場合は、5〜50体積%、好ましくは10〜35体積%であり、pH緩衝剤の場合には、0.05〜0.5mol/L、好ましくは0.1〜0.2mol/Lである。
【0016】
上述のように、各々の結晶化剤保持部16を、それぞれ異なる蛋白質結晶化条件に調製することにより、対象の蛋白質についての結晶化条件のスクリーニングを迅速に行うことができる。ここで、例えば、蛋白質結晶化剤の濃度を多段階に設定することが好ましく、具体的には、塩化ナトリウムからなる沈殿剤を用いる場合は、0.5〜4.0mol/Lの範囲で、5段階、10段階、20段階のように希釈列を作製し、それぞれの濃度の蛋白質結晶化剤を、結晶化剤保持部16に充填することができる。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18は、10〜1000個の結晶化剤保持部16を有することが、より多数の結晶化条件における結晶化を一括して行うために好ましい。例えば、通常の蛋白質結晶化条件スクリーニングにおいては、800程度の結晶化条件を検討することが必要であるため、結晶化剤保持部の数が10以上であることが好ましく、一方、1000を超える結晶化剤保持部16を有すると、結晶化剤保持部16間の間隔が非常に狭くなり、取り扱いの効率に劣る。
蛋白質結晶化用マイクロアレイ18は、蛋白質析出の確認を容易に行うために、光透過性の高い材料からなることが好ましい。
【0017】
この例において、パッキング22はシリコンゴム製であるが、パッキングの材料は、蛋白質結晶化装置におけるその他の構成要素(例えば、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18、プレート24、支持体20)と組み合わせて用いるのに適当なものであれば特に限定されない。
【0018】
プレート24は、結晶化剤保持部16に対応し蛋白質含有試料を充填可能な結晶化区画32と、これらの結晶化区画32の間に設けられた凹部34とを有する。
すなわち、結晶化剤保持部16と同数の結晶化区画32が、プレート24上に設けられている。
プレート24には、後述のサンプル充填補助具との位置を合わせる位置決め部として、例えば、サンプル充填補助具位置決め孔50が形成されていることが好ましい。
この例では、支持体20上に、プレート24と支持体20とを積層する際に結晶化区画32と結晶化剤保持部16とを対応させるプレート位置決め部材44がさらに設けられている。プレート24上に、支持体20上に設けられたプレート位置決め部材44と対応するプレート位置決め孔46が形成されている。
この例では、図1、5に示すように、さらに、プレート24の外側面104から反応面102へ貫通するシール剤注入口48が穿たれている。図5に示すように、この例では、2つのシール剤注入口48がシール部30を介して互いに反対側に穿たれている。このことにより、一方のシール剤注入口48からシール部30にシール剤を注入した場合に、初めにシール部30内に存在した空気が他方のシール剤注入口48から排出されるため、シール部30において凹部34の間に位置する結晶化区画32がより確実に密封される。
プレート24の材料および形状は、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と重ね合わせることができるものであれば特に限定されず、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の形状を考慮して任意のものを用いることができる。プレートの材料としては、ガラス、樹脂、金属などを例示することができ、これらの中から任意のものを選択し、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。なお、結晶化区画32における蛋白質の結晶化状態を観察するために、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18と重ねた際に各結晶化剤保
持部16と対応して重なる部分が光透過性をもつことが好ましいことから、プレート24の材料として、光透過性の材料、例えば透明な樹脂、ガラス等を用いることが好ましい。
【0019】
プレート24は、結晶化区画32に析出した結晶を回収する結晶回収機構をさらに有することが好ましい。このような結晶回収機構を用いて、結晶化区画32に析出した結晶を回収して種結晶として用い、引き続いて結晶成長過程を行うことによってX線構造解析に耐える結晶を迅速に得ることができる。もちろん、析出した結晶がそのままX線構造解析に耐える結晶であれば、それを回収して解析に使用する。
このような結晶回収機構としては、例えば、シール部30がプレート24と独立した部材からなり、プレート24とヒンジ機構で接続され、所望に応じシール部30を外側面104側へ開くことができる機構等が挙げられる。
【0020】
結晶化区画32の形状は、蛋白質含有試料を充填可能であり、結晶化剤保持部16と接触した際に密閉されるものであれば、特に限定されない。
結晶化区画32の容量は、対象の蛋白質について結晶化条件のスクリーニングを行うことを目的とする場合には、結晶化条件のスクリーニングに要する蛋白質量を低減するために、0.5μl未満であることが好ましい。一方、ここで析出した結晶を引き続いてX線構造解析に供する、または構造解析に供する結晶を作製するための種結晶として用いることを目的とする場合には、X線構造解析を行うことのできる0.1mm以上の大きな結晶を得るために、結晶化区画32の容量は0.5μl以上であることが好ましい。
【0021】
結晶化剤保持部16と結晶化区画32との面積の関係は、結晶化剤保持部16と結晶化区画32とが接触する面の面積が、結晶化剤保持部16に保持された結晶化剤が結晶化区画32に移動して、該結晶化区画32に充填された蛋白質含有試料と反応することができる条件であればよく、結晶化剤保持部16よりも結晶化区画32の方が大きくてもよい。
ただし、結晶化区画32は、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を構成する基板12に接触しないことが好ましい。
【0022】
この例では、さらに、図4に示すように、結晶化区画32の間に設けられた凹部34の全てにシール剤35が充填される。
シール剤35としては、蛋白質含有試料と互いに溶解せず、プレート24、パッキング22、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を構成する基板12等の部材を侵食しないものであればよく、例えば、パラフィン系、シリコン系、鉱油系、エステル系、合成油系(フッ素系を含む)、リチウム系、ナトリウム系、カルシウム系、前記複合基系、非石鹸系、モリブデン系等のオイルを用いることができる。
シール剤35を用いなくても、凹部34を有することにより、隣接する区画への蛋白質含有試料の侵入を防止することができるが、シール剤35を用いると、さらに確実に蛋白質含有試料どうしの混合および近接する結晶化区画32への侵入を防止することができるとともに、蛋白質含有試料の蒸発を防止することができる。
【0023】
この例では、さらに、支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18とプレート24とを圧接する機構として、図1に示すように支持体20を貫通する第一のネジ孔40と、第一のネジ孔40に対応してプレート24を貫通する第二のネジ孔42とが設けられている。これらの第一のネジ孔40、第二のネジ孔42に、図1に示すようにネジ41が螺挿される。このような機構を用いることにより、結晶化区画32を、より安定して密閉状態に保持することができる。
【0024】
この例の蛋白質結晶化装置において、結晶化区画32における蛋白質の結晶化をモニタリングする検出機構をさらに設けることができる。
前記検出機構としては、例えば、プレート24の外側面104に設置された顕微鏡と、顕微鏡に搭載されたCCDカメラからなる検出機構が挙げられる。このような検出機構において、顕微鏡に搭載したCCDカメラにより結晶の析出の様子を撮影記録し、記録された画像データを処理することによって、結晶化の成否を迅速に判断することができる。し
たがって、迅速に蛋白質結晶化条件を決定することができる。
【0025】
ここで、この例の蛋白質結晶化装置の好適な使用方法を例示する。
[蛋白質含有試料の充填]
この例では、サンプル充填補助具を用いて、結晶化区画32に蛋白質含有試料を充填することができる。
(結晶化区画)
本発明を使用する際に、蛋白質の結晶化を目的とする場合は、結晶化区画32の容量を0.5μl以上とすることが好ましい。蛋白質結晶化条件のより迅速なスクリーニングを目的とする場合は、結晶化区画32の容量を0.5μl未満とすることが好ましい。
(蛋白質含有試料)
本発明において、蛋白質含有試料とは、結晶化を行おうとする、または結晶化条件を特定しようとする蛋白質(以下、対象の蛋白質と称する)を含む試料である。蛋白質としては、天然又は合成のペプチド、ポリペプチド、蛋白質および蛋白質複合体が挙げられる。これらの物質は、天然もしくは合成材料から抽出・単離、または遺伝子工学的手法もしくは化学合成手法等により生成した後、通常の精製法、例えば溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーなどを組み合わせて用いることにより、対象の蛋白質を精製しておくことが好ましい。
蛋白質含有試料中の蛋白質濃度および純度も蛋白質結晶化条件の一要因となるため、数段階の濃度および純度の蛋白質含有試料を調製して蛋白質結晶化剤と反応させてもよい。例えば、蛋白質濃度は、1〜50mg/mlの範囲内で数段階に変更することが好ましい。また、蛋白質結晶化剤と反応させる蛋白質含有試料の量は、用いる結晶化区画32の容量および数等に応じて適宜変更しうる。なお、蛋白質含有試料の粘度は、該蛋白質含有試料を保持した結晶化区画32を下に向けてプレート24を保持した際に結晶化区画32から蛋白質含有試料が漏出しなければ特に限定されない。
蛋白質含有試料は、対象の蛋白質のほか、さらに、蛋白質の溶解を助ける蛋白質可溶化剤、還元剤等の安定化剤等を含有してもよい。蛋白質可溶化剤としては、例えば膜蛋白質を溶解させる界面活性剤などが挙げられる。界面活性剤を用いると、蛋白質含有試料において、例えば膜蛋白質などの水溶解性の低い蛋白質を良好に分散させることができ、この例の蛋白質結晶化装置を適用して効率よく蛋白質の結晶化を行うことができる。
【0026】
まず、図1に示すようなプレート24を、図5に示すように反応面102を上にして静置する。プレート24に穿たれたサンプル充填補助具位置決め孔50およびプレート位置決め孔46に、このサンプル充填補助具位置決め孔50およびプレート位置決め孔46と同一径の円柱形のガイドピン52を1本ずつ挿入して固定する。
ついで、この反応面102の上に、図6に示すような、プレート24上の結晶化区画32に対応した配列の穿孔56と、該穿孔56をプレート24上で結晶化区画32に対応させる位置合わせ機構として2つの位置合わせ孔58とを有する薄板状のサンプル充填補助具54を設置する。このとき、プレート24のサンプル充填補助具位置決め孔50およびプレート位置決め孔46にそれぞれ固定されたガイドピン52に、サンプル充填補助具54に穿たれた位置合わせ孔58を合わせて差し込み、サンプル充填補助具54をプレート24上に設置する。このことにより、プレート24の結晶化区画32とサンプル充填補助具54の穿孔56が対応するようにサンプル充填補助具54が設置される。
その後、プレート24上に設置されたサンプル充填補助具54の上に、サンプル充填補助具54のうち穿孔56の配置された領域全体に行き渡る分量の蛋白質含有試料を載せる。
さらに、スパチュラ等を用いてサンプル充填補助具54の表面を擦ることにより、穿孔56に対応した結晶化区画32に蛋白質含有試料を充填する。
その後、ガイドピン52をプレート24の反応面102側から外側面104側へ押し出し、サンプル充填補助具54をプレート24上から取り除く。このことにより、全ての結晶化区画32に蛋白質含有試料が充填される。
【0027】
上記説明したように、サンプル充填補助具54をプレート24の反応面102上に設置し、その上から蛋白質含有試料を添加することによって、蛋白質含有試料を正確に結晶化区画32に充填することができる。
なお、サンプル充填補助具54は、成形の容易さ、強度、耐塩性などの観点から、ステンレス製であることが好ましい。また、サンプル充填補助具54には、蛋白質含有試料を結晶化区画32に充填した後にサンプル充填補助具54を容易に取り外せるように、ピンセット等により取り扱う部位が設けられていることが好ましく、例えば一端が上側に折り曲げられて折曲部59が設けられていることが好ましい。
ここでは、ガイドピン52をサンプル充填補助具位置決め孔50およびプレート位置決め孔46にそれぞれ固定したが、プレート24において、サンプル充填補助具位置決め孔50が、プレート位置決め孔46と独立して複数形成されていてもよい。
【0028】
蛋白質含有試料を結晶化区画32に充填する方法としては、蛋白質含有試料を全ての結晶化区画32に同一の分量で充填することができ、結晶化区画32以外の構成要素への付着を抑えられる方法であればよく、例えば、サンプル充填補助具54を用いずに、ピペッター等を用いて結晶化区画32の各々に蛋白質含有試料を充填することができ、また、サンプル添加用の自動機器を用いることができる。
ただし、蛋白質含有試料の充填を迅速かつ経済的に行うためには、上記のサンプル充填補助具54を用いる方法が好ましい。
なお、蛋白質含有試料の充填においてピペッターを用いる場合、ピペッターに吸引して保持させた蛋白質含有試料を吐出する機構を用いずに、ピペッターの先端部に付着した微量の液滴を結晶化区画32付近に接触させることが好ましい。
【0029】
[蛋白質結晶化装置の組み立て]
図1に示すように、支持体20上のマーキング28に合わせて、パッキング22を設置し、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を、該パッキング22の中空部23に格納されるように支持体20上に設置する。
蛋白質含有試料が結晶化区画32に充填されたプレート24を、反応面102を下にして保持し、支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の上に積層する。このとき、支持体20上に設けられたプレート位置決め部材44が、プレート24に穿たれたプレート位置決め孔46を貫通するようにする。
実験操作上、結晶化区画32に保持されているゲルが乾燥した場合は、そのままプレート24を積層すると結晶化区画32内に気泡が混在する場合がある。気泡を混在させないために、予め結晶化区画32に蛋白質試料を供し、ゲルが十分、膨潤した後、プレート24を積層することも可能である。また、超音波式の加湿器により発生した霧を、該マイクロアレイの結晶化区画に接触させ、ゲルを膨潤させても良い。
なお、この例では支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の上に、プレート24が反応面102を下にして積層されるが、結晶化区画32に蛋白質含有試料が充填されたプレート24を、反応面102を上にして静置し、該プレート24の上に、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を支持した支持体20を、マイクロアレイ支持面100を下にして積層してもよい。プレート24の外側面104を上にして設置されていると、シール剤注入口48からのシール剤の注入、あるいは結晶化区画32に析出した結晶の観察を行いやすいため好ましい。
【0030】
プレート24を支持体20に押し付けて保持し、保持したまま第一のネジ孔40、第二のネジ孔42にネジ41を螺挿して、プレート24と、支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18とを圧接する。圧接は、支持体20が結晶化区画32に接触した後、数分間をかけて完了することが好ましい。そのような圧着方法によれば、結晶化区画32に保持されたゲルを蛋白質試料で十分に膨潤させることができる。その後、顕微鏡を用いて、蛋白質含有試料の充填状態を確認する。
蛋白質含有試料が各々の結晶化区画32に充填されていることを確認した後、図5、8に示すようにプレート24に穿たれたシール剤注入口48から、ピペット等を用いてシール剤をシール部30および凹部34に充填する。このことにより、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18のうち結晶化剤保持部16以外の位置に漏出した蛋白質含有試料を、シール剤で置き換えることができ、蛋白質含有試料が隣接する結晶化区画32間で移動することによるコンタミネーションおよび条件変化をさらに確実に防止するとともに、蛋白質含有試料が蒸発することを防止することができる。なお、シール剤の注入量は、シール部30の全域において凹部34にシール剤が行き渡り、かつ、図5、8に示すような一方のシール剤注入口48からシール剤を注入した際に、他方のシール剤注入口48からシール剤が漏出しない最大量であることが好ましい。
【0031】
[蛋白質の結晶化条件のスクリーニング]
組み立てられた蛋白質結晶化装置を用いて、蛋白質の結晶化条件のスクリーニングを行い、目的蛋白質における最適な結晶化条件を求めることができる。また、析出した結晶を用いて構造解析に適した結晶を作製することもできる。
蛋白質結晶化装置において蛋白質結晶化剤と蛋白質含有試料とを反応させた後、蛋白質結晶化装置を、蛋白質が析出するのに十分な時間にわたって、ある温度条件下にて、密閉状態または大気中に静置する。
蛋白質が析出するのに十分な時間とは、特定の蛋白質、濃度、結晶化条件などにより異なるが、約1時間〜10日であり、およそ30日以上経過しても結晶が析出しない場合には、その結晶化条件は適切ではないものとみなす。また、温度条件は、蛋白質結晶化条件の一要因であるため、温度条件を変更して結晶化を行ってもよい。温度条件は、例えば、4℃、15℃、18℃、22℃等のように、複数の段階に設定することが好ましい。
蛋白質が析出するのに十分な時間が経過した後、蛋白質の結晶析出の状況を観察する。このとき、プレート24の外側面104側から、例えば光学顕微鏡等にて観察することが好ましい。
このようにして、対象の蛋白質について最適な結晶化条件を決定することができる。
【0032】
[構造解析用の結晶の作製]
蛋白質の結晶化を目的として、結晶化区画32の容量を0.5μl以上とした場合は、全ての結晶化区画32のうち、結晶の析出した結晶化区画32において、引き続いて結晶を成長させる、あるいは析出した結晶を結晶化区画32から回収して種結晶として用い、公知の蛋白質結晶化方法により、種結晶を回収した結晶化区画32と同様の結晶化条件において、構造解析用の結晶を作製することができる。公知の蛋白質結晶化方法としては、例えば、ハンギングドロップ法、シッティングドロップ法、透析法、バッチ法などが挙げられる。
蛋白質結晶化条件のより迅速なスクリーニングを目的として、結晶化区画32の容量を0.5μl未満とした場合は、求めた最適の結晶化条件において目的蛋白質の結晶化を行い、構造解析用の結晶を得ることができる。このとき、構造解析用の結晶を得る方法としては、公知の方法、例えば蒸気拡散法、ハンギングドロップ法などを用いることができる。
得られた構造解析用の結晶を回収し、回収した結晶を公知の方法でX線構造解析に供することにより、対象の蛋白質の立体構造を決定することができる。
【0033】
この例の蛋白質結晶化装置においては、蛋白質含有試料を結晶化区画32に充填した後に、プレート24と蛋白質結晶化用マイクロアレイ18が積層されることによって、結晶化剤保持部16と蛋白質含有試料を充填した結晶化区画32とが対応して重なり合う。このことによって、結晶化剤保持部16に保持された結晶化剤が、結晶化区画32内へ移動して蛋白質と反応する。各々の結晶化剤保持部16が異なる結晶化条件に設定されている場合、対象の蛋白質が結晶化するために適当な結晶化条件に設定された結晶化区画32内に結晶が析出する。
【0034】
以上説明したように、この例の蛋白質結晶化装置において、蛋白質含有試料は結晶化区画32内に保持されて結晶化剤保持部16により密閉され、また各々の結晶化区画32が凹部34によって隔離されているので、蛋白質含有試料の結晶化区画32間での移動及び/又は蛋白質結晶化剤の結晶化剤保持部16間での混合を防止することができるとともに、蛋白質含有試料からの溶液の蒸発を抑制し、nlレベルの微少量の蛋白質含有試料をも安定して保持することができる。したがって、高い信頼性をもって蛋白質の結晶化を行うことができ、結晶化条件の好不適を信頼性よく判定することができる。
さらに、凹部34にシール剤が充填されると、さらに効率よく蛋白質含有試料どうしの混合および近接する結晶化区画32への侵入を防止することができるとともに、蛋白質含有試料の蒸発を防止することができるので、蛋白質含有試料が微量であっても結晶化条件を良好に制御することができる。
また、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を支持した支持体20と、プレート24とを圧接すると、結晶化区画32を安定して密閉することができるため、さらに高い信頼性をもって結晶化を行うことができる。
結晶化区画32の容量を適宜選択することにより、蛋白質結晶化条件のスクリーニングおよび構造解析用の結晶の作製のいずれをも、迅速かつ正確に行うことができる。
さらにサンプル充填補助具を用いると、簡便かつ迅速に、蛋白質の結晶化条件のスクリーニングを行うことができる。
【0035】
本発明の蛋白質結晶化装置は、例えば、医薬分野等における研究、開発において、蛋白質の結晶化条件のスクリーニングおよび蛋白質の構造解析用結晶の作製のいずれにも、好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
(中空繊維配列体の作製)
結晶化剤保持部を支持する構成要素として、中空繊維配列体を作製した。
直径0.32mmの孔を有し、孔の中心間距離が0.42mm多孔版であって、縦横各10列に合計100個配列された厚さ0.1mmの多孔板2枚を重ね、これらの多孔版の各孔に、ポリエチレン製中空繊維(三菱レイヨン社製、外径約500μm、内径約300μm、長さ約100cm)100本を通過させた。ついで、中空繊維を張った状態で、中空繊維の一方の端部から10cmの位置と40cmの位置の2箇所を固定し、2枚の多孔板の間隔を30cmとした。
次に2枚の多孔板間の空間の3方を、シリコン製の板状物で囲んだ。開放された一方から、樹脂原料として、ポリウレタン樹脂接着剤からなる樹脂と、樹脂原料の総質量に対し2.5質量%のカーボンブラックとの混合物を、2枚の多孔板の間に流し込んだ。引き続き、室温で1週間静置し、樹脂を硬化させた。その後、多孔板及び多孔板間に設置した板状物を取り除き、中空繊維配列体を得た。
(中空繊維配列体への高分子ゲルの導入固定化)
以下の組成からなる混合溶液を調製した。
アクリルアミド:3.7質量部
メチレンビスアクリルアミド:0.3質量部
2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩:0.1質量部
上記の混合溶液と、上記で得られた中空繊維配列体とをデシケータ中に入れ、各中空繊維の自由端部の内、長い方の端部をこの混合液中に浸漬した状態で、デシケータ内を減圧状態にすることにより、中空繊維の中空部に前記混合液を導入した。ついで、この中空繊維配列体を、内部が水蒸気で飽和された密閉ガラス容器に移し、80℃で4時間かけて重合反応を行った。このことにより、アクリルアミドゲルが中空繊維の中空部に固定された中空繊維配列体を得た。
【0037】
(ゲル充填中空繊維配列体薄片の作製)
上記で得られたアクリルアミドゲル含有中空繊維配列体を、中空繊維の長手方向に直交する方向でミクロトームを用いて約2mmの厚さに切り出すことにより、中空繊維の中空部にゲルが充填された縦横各々10個、計100個の中空繊維が規則的に正方に配列された配列体薄片を得た。図2は、上記工程によって得られたゲル含有中空繊維配列体薄片を示す。図2に示すように、中空繊維12の中空部14には上記で作製したアクリルアミドゲルが充填されている。
(蛋白質結晶化用マイクロアレイの作製)
上記で作製したゲル含有中空繊維配列体薄片において、中空繊維12の中空部14に充填されたアクリルアミドゲルに、下記のA、B、C、D、E、F、G、H、I、Jの水溶液からなる蛋白質結晶化剤1μlを各中空部に保持されたゲルに添加することにより、アクリルアミドゲルに蛋白質結晶化剤を保持させ、蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を作製した。
A:2.0mol/L 塩化ナトリウム水溶液
B:0.5mol/L 塩化ナトリウム水溶液
C:10体積% ポリエチレングリコール(分子量400)水溶液
D:20体積% ポリエチレングリコール(分子量400)水溶液
E:10体積% ポリエチレングリコール(分子量6000)水溶液
F:20体積% ポリエチレングリコール(分子量6000)水溶液
G:20体積% 2−メチル−2,4−ペンタンジオール水溶液
H:20体積% 2−メチル−2,4−ペンタンジオール水溶液
I:0.5mol/L 硫酸アンモニウム水溶液
J:1.5mol/L 硫酸アンモニウム水溶液
以下、上記A〜Jの蛋白質結晶化剤を保持した結晶化剤保持部16を、それぞれスポットA〜Jと称する。
【0038】
[実施例1]蛋白質結晶化条件のスクリーニング
図1に示す蛋白質結晶化装置を用い、リゾチーム(シグマアルドリッチ社製)の結晶化条件のスクリーニングを行った。蛋白質結晶化用マイクロアレイとして上記で作製した蛋白質結晶化用マイクロアレイ18を用い、支持体20、プレート24の材料としてアクリル樹脂を用いた。
(蛋白質含有試料の添加)
図6に示すサンプル充填補助具54を用いて、結晶化区画32に蛋白質含有試料を充填した。サンプル充填補助具54は、上記で得た蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の結晶化剤保持部16に対応した配列の穿孔56を有するものを用いた。
結晶化区画32は、直径:0.7mm、高さ:0.15mmの一端が閉じた円筒状であり、結晶化区画32の容量は105nlであった。
蛋白質含有試料として、リゾチーム含有水溶液(80mg/ml)を使用した。
まず、サンプル充填補助具54を、図6に示すようにプレート24上に設置し、その上に、20μlオートピペットで蛋白質含有試料1.5〜2μlを穿孔56の全ての上に行き渡るように添加した。ついで、サンプル充填補助具54の上からスパチュラにて、蛋白質含有試料をプレート24上に押し付けることにより、蛋白質含有試料をプレート24上の全ての結晶化区画32に充填した。
【0039】
(蛋白質結晶化装置の組み立て、蛋白質結晶化条件のスクリーニング)
ついで、結晶化区画32に蛋白質含有試料の充填されたプレート24を、反応面102を下にして保持し、支持体20に支持された蛋白質結晶化用マイクロアレイ18の上に積層した。結晶化区画32に蛋白質含有試料が充填されていることを確認した後、プレート24に穿たれた一方のシール剤注入口48に、プレート24の外側面104側から、ピペットを用いて、シール剤としてパラフィンオイル(以下、オイルという)を注入した。オイルの注入量は、シール部30の全域にオイルがいきわたり、他方のシール剤注入口48からオイルがあふれる直前までとした。
その後、蛋白質結晶化装置を20℃で3時間静置した。引き続き、光学顕微鏡にて結晶化区画32内を観察した結果、蛋白質結晶化剤としてポリエチレングリコール水溶液を保持させたスポットBではリゾチームの結晶は認められず、2.0mol/L塩化ナトリウム水溶液を保持させたスポットAでは、X線構造解析に最も適した柱状結晶が認められた。
【0040】
(構造解析用の結晶の作製)
さらに、上記の結果を踏まえて、2.0mol/L塩化ナトリウム水溶液を蛋白質結晶化剤として用い、リゾチーム含有試料溶液から、ハンギングドロップ法によってリゾチーム結晶を作製した。このとき、得られたリゾチーム結晶の大きさは0.3×0.3×0.5mmであった。
【0041】
以上の結果より、リゾチームの結晶化条件のうち、蛋白質結晶化剤の種類および濃度を検討した結果、2.0mol/L塩化ナトリウム水溶液が最適の結晶化条件であることが明らかになり、かつ、明らかになった最適の結晶化条件を用いて、X線構造解析に適した結晶を得ることができた。
すなわち、迅速かつ経済的に、高い信頼性をもって、微量の蛋白質含有試料にて蛋白質結晶化条件のスクリーニングを実施することができた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の蛋白質結晶化装置の使用状態を示す模式図である。
【図2】本発明に用いられる蛋白質結晶化用マイクロアレイの例を示す。
【図3】本発明の蛋白質結晶化装置の一例を示す模式図である。
【図4】本発明に用いられるプレートの一部の断面図である。
【図5】本発明に用いられるプレートの平面図である。
【図6】本発明におけるプレートおよびサンプル充填補助具の使用状態を示す平面図である。
【図7】本発明に用いられる支持体の平面図である。
【図8】本発明の蛋白質結晶化装置の使用状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0043】
12 中空繊維
16 結晶化剤保持部
18 蛋白質結晶化用マイクロアレイ
20 支持体
24 プレート
32 結晶化区画
34 凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質結晶化剤を保持した2以上の結晶化剤保持部を有する蛋白質結晶化用マイクロアレイと、前記蛋白質結晶化用マイクロアレイと積層されるプレートとを有し、前記プレートは、前記結晶化剤保持部に対応し蛋白質含有試料を充填可能な結晶化区画と、該結晶化区画の間に設けられた凹部とを有することを特徴とする蛋白質結晶化装置。
【請求項2】
前記結晶化剤保持部は、各々異なる蛋白質結晶化条件に調製されたゲルからなることを特徴とする請求項1に記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項3】
前記蛋白質結晶化用マイクロアレイは、複数の中空管状体を配列してなるマイクロアレイであることを特徴とする請求項1または2に記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項4】
前記蛋白質結晶化用マイクロアレイと前記プレートとを圧接する機構をさらに有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項5】
前記凹部にシール剤が充填されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項6】
前記結晶化区画は、容量が0.5μl未満であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項7】
前記結晶化区画は、容量が0.5μl以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項8】
前記蛋白質結晶化用マイクロアレイは、10〜1000個の結晶化剤保持部を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項9】
前記プレートは、前記結晶化区画に析出した結晶を回収する結晶回収機構をさらに有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項10】
前記結晶化区画における蛋白質の結晶化をモニタリングする検出機構をさらに有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の蛋白質結晶化装置の前記結晶化区画に蛋白質含有試料を充填するためのサンプル充填補助具であって、
前記結晶化区画に対応した配列の穿孔と、該穿孔を前記プレート上で前記結晶化区画に対応させる位置合わせ機構とを有することを特徴とするサンプル充填補助具。
【請求項12】
請求項11に記載のサンプル充填補助具との位置を合わせる位置決め部が前記プレートに形成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の蛋白質結晶化
装置。
【請求項13】
請求項12に記載の蛋白質結晶化装置と、請求項11に記載のサンプル充填補助具とを用いる蛋白質結晶化条件スクリーニング法であって、
請求項11に記載のサンプル充填補助具を、該サンプル充填補助具の前記穿孔が前記結晶化区画に対応するように前記プレート上に設置し、
蛋白質含有試料を該サンプル充填補助具の上から前記穿孔に添加して前記結晶化区画に充填した後、前記サンプル充填補助具を取り外し、
前記結晶化区画と、前記結晶化剤保持部とを対応させて接触させるように、前記プレートと前記蛋白質結晶化用マイクロアレイとを積層すること、
を特徴とする蛋白質結晶化条件スクリーニング法。
【請求項14】
請求項12に記載の蛋白質結晶化装置と、請求項11に記載のサンプル充填補助具とを用いる蛋白質結晶化条件スクリーニング法であって、
請求項12に記載の蛋白質結晶化装置の各結晶化区画に蛋白質含有試料を添加し、
請求項11に記載のサンプル充填補助具を、該サンプル充填補助具の前記穿孔が前記結晶化区画に対応するように前記プレート上に設置し、
蛋白質含有試料を該サンプル充填補助具の上から前記穿孔に添加して前記結晶化区画に充填した後、
前記サンプル充填補助具を取り外し、
前記結晶化区画と、前記結晶化剤保持部とを対応させて接触させるように、前記プレートと前記蛋白質結晶化用マイクロアレイとを積層すること、
を特徴とする蛋白質結晶化条件スクリーニング法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−124238(P2006−124238A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315580(P2004−315580)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】