説明

蛍光体、およびそれを用いた発光器具

【課題】 優れた発光特性を有する緑色の蛍光体粉体を提供すること。
【解決手段】 本発明の励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発するAlON結晶またはAlONの固溶体結晶からなる蛍光体は、AlON結晶またはAlONの固溶体結晶に少なくともMnとA元素(ただし、A元素はMnを除く2価の金属)とが固溶され、その蛍光波長が490nmから550nmの範囲にピークを持つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発するAlON結晶またはAlONの固溶体結晶からなる蛍光体に関する。さらに詳細には、490nmから550nm以下の波長にピークを持つ光を発する蛍光体とその特性を利用した照明器具および画像表示装置の発光器具に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD(Vacuum−Fluorescent Display))、フィールドエミッションディスプレイ(FED(Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display))、プラズマディスプレイパネル(PDP(Plasma Display Panel))、陰極線管(CRT(Cathode−Ray Tube))、白色発光ダイオード(LED(Light−Emitting Diode))などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有した励起源により励起されて、可視光線を発する。しかしながら、蛍光体は前記のような励起源に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し易く、輝度低下のない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体として、サイアロン蛍光体、酸窒化物蛍光体、窒化物蛍光体などの結晶構造に窒素を含有する無機結晶を母体とする蛍光体が提案されている。
【0003】
サイアロン蛍光体の一例は、概略以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)および酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(例えば、特許文献1参照)。このプロセスで得られるEu2+イオンを付活したαサイアロンは、450から500nmの青色光で励起されて550から600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。また、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(特許文献2参照)が知られており、Tb、Yb、Agを付活したものは525nmから545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。さらに、β型サイアロンにEu2+を付活した緑色の蛍光体(特許文献3参照)が知られている。
【0004】
酸窒化物蛍光体の一例は、JEM相(LaAl(Si6−zAl)N10−z)を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献4参照)、LaSi11を母体結晶としてCeを付活させた青色蛍光体(特許文献5参照)が知られている。
【0005】
窒化物蛍光体の一例は、CaAlSiNを母体結晶としてEu2+を付活させた赤色蛍光体(特許文献6参照)が知られている。また、AlNを母体とする蛍光体として、非特許文献1には、3価のEuイオンを添加した蛍光体(即ちAlN:Eu3+)を室温でマグネトロンスパッタリング法により非晶質セラミックス薄膜を合成し、580nm〜640nmにEu3+イオンからの発光ピークを有するオレンジ色あるいは赤色蛍光体が得られたと報告されている。非特許文献2には、非晶質AlN薄膜にTb3+を付活した蛍光体が電子線励起で543nmにピークを持つ緑色に発光すると報告されている。非特許文献3にはAlN薄膜にGd3+を付活した蛍光体が報告されている。しかし、これらのAlN基の蛍光体はいずれも照明や画像表示装置用途に向かない非晶質の薄膜である。
【0006】
電子線を励起源とする画像表示装置(VFD、FED、SED、CRT)用途の青色蛍光体としては、YSiOを母体結晶としてCeを固溶させた蛍光体(特許文献7)やZnSにAgなどの発光イオンを固溶させた蛍光体(特許文献8)が報告されている。
【0007】
本発明者は、AlN構造を持つ結晶を母体結晶とし、2価のEuイオンを添加した蛍光体(即ちAlN:Eu2+)を特許文献9において提案した。この蛍光体は、AlNにSiとEuを添加して1800℃以上の高温で焼成することにより得られるものであり、AlN結晶構造にSiとEuと酸素とが固溶して2価のEuイオン(Eu2+)が安定化することにより、Eu2+由来の青色の蛍光が発現する。
【0008】
また、本発明者は、AlON結晶、AlON固溶体結晶またはAlONと同一の結晶構造を持つ無機結晶を母体結晶とし、少なくとも金属元素M(Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tm、Ybからなる群から少なくとも1つ選択される金属元素)が固溶した蛍光体を特許文献10において提案した。
【0009】
【特許文献1】特許第3668770号明細書
【特許文献2】特開昭60−206889号公報
【特許文献3】特開2005−255895号公報
【特許文献4】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献5】特開2005−112922号公報
【特許文献6】国際公開第2005/052087号パンフレット
【特許文献7】特開2003−55657号公報
【特許文献8】特開2004−285363号公報
【特許文献9】国際公開第2006/016711号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2007/099862号パンフレット
【非特許文献1】Meghan L. Caldwell、他、「Visible Luminescent Activation of Amorphous AlN:Eu Thin−Film Phosphors with Osygen」、MRS Internet Journal Nitride Semiconductor Research、6巻、13号、1〜8ページ、2001年。
【非特許文献2】H.H.Richardson、他、「Thin−film electroluminescent devices grown on plastic substrates using an amorphous AlN:Tb3+ phosphor」、Applied Physics Letters、80巻、12号、2207〜2209ページ、2002年。
【非特許文献3】U.Vetter,他、「Intense ultraviolet cathodoluminescence at 318 nm from Gd3+−doped AlN」、Physics Letters、83巻、11号、2145〜2147ページ、2003年。
【非特許文献4】H.X.Willems他、「Newtron diffraction of γ−aluminium oxynitride」、Journal of materials science letters、第12巻、1470〜1472ページ、1993年。
【非特許文献5】ICSD番号70032番、ICSD(Inorganic crystal structure database)データベース(Fachinformationszentrum Karlsruhe, Germany発行)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
紫外LEDを励起源とする白色LEDやプラズマディスプレイなどの用途には、耐久性に優れ高い輝度を有する蛍光体として、赤色、黄色の他にも、紫色、青色や緑色の蛍光体が求められている。さらに、従来の酸窒化物をホストとする蛍光体は絶縁物質であり、電子線を照射しても、発光強度は低く、FEDなどの電子線励起の画像表示装置の用途には電子線で高輝度に発光する蛍光体が求められている。
【0011】
電子線励起で用いられる特許文献7に開示される酸化物の蛍光体は、使用中に劣化して発光強度が低下するおそれがあり、画像表示装置で色バランスが変化するおそれがあった。特許文献8に開示される硫化物の蛍光体は、使用中に分解が起こり、硫黄が飛散してデバイスを汚染するおそれがあった。特許文献10に開示される蛍光体の中でも、緑色に発光する蛍光体の発光特性は、実用には十分ではなかった。
【0012】
本発明の目的は、このような要望に応えようとするものであり、優れた発光特性を有する緑色の蛍光体粉体を提供することである。さらに、電子線で効率よく発光する緑色の蛍光体粉体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者においては、かかる状況の下で、AlON結晶に着目し、AlON結晶またはAlON固溶体結晶に、少なくとも金属イオンMnおよび2価の金属元素(A元素)を固溶させた窒化物あるいは酸窒化物について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、490nm以上550nm以下の範囲の波長に発光ピークを持つ緑色蛍光体となることを見いだした。なかでも、MnおよびA元素としてMgが固溶した特定の組成範囲のものは、紫外線や電子線励起で高い輝度の緑色の発光を有し、照明用途や、電子線で励起される画像表示装置に適することを見いだした。
【0014】
非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3によれば、AlN非晶質薄膜にEu3+、Tb3+、Gd3+を付活した薄膜が電子線励起で発光することが報告されているが、結晶中に窒素と同程度の量の酸素を含む結晶であるAlON結晶を、蛍光体として使用しようと検討されたことはなかった。すなわち、特定の金属元素(Mn)と2価の金属元素とを固溶させたAlONまたはAlON固溶体結晶が紫外線および可視光や電子線またはX線で励起され高い輝度の緑色発光を有する蛍光体として使用し得るという重要な発見は、本発明者において初めて見出されたものである。
【0015】
この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体とその蛍光体の製造方法、および優れた特性を有する照明器具、画像表示装置を提供することに成功した。以下に、それぞれより具体的に述べる。
【0016】
発明1の蛍光体は、励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発するAlON結晶またはAlONの固溶体結晶からなる蛍光体であって、前記AlON結晶またはAlONの固溶体結晶に、少なくともMnとA元素(ただし、A元素はMnを除く2価の金属)とが固溶され、その蛍光波長が490nmから550nmの範囲にピークを持つことを特徴とする。
発明2は、発明1の蛍光体において、前記蛍光体が組成式MnAl(ただし、式中a+b+c+d+e=1とする)で示され、パラメータa、b、c、d、eは、
0.00001≦ a ≦0.1・・・・・・・・・・(i)
0.001≦ b ≦0.40・・・・・・・・・・・・・・・(ii)
0.10≦ c ≦0.48・・・・・・・・・・・・(iii)
0.25≦ d ≦0.60・・・・・・・・・・・・(iv)
0.02≦ e ≦0.35・・・・・・・・・・・・(v)
以上の条件を満たすことを特徴とする。
発明3は、発明2の蛍光体において、前記パラメータbは、
0.02≦ b ≦0.06・・・・・・・・・・・・(iv)
を満たすことを特徴とする。
発明4は、発明1の蛍光体において、前記A元素はMgであることを特徴とする。
発明5の照明器具は、励起源と、それからの励起光により蛍光を発する蛍光体とからなる照明器具であって、前記励起源が330〜470nmの波長の励起光を発するものであり、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜4のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする。
発明6の画像表示装置において、励起源と、それからの励起エネルギーにより蛍光を発する蛍光体とからなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、発明1〜4のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の蛍光体は、発光中心となる金属イオンMnに加えて2価の金属元素であるA元素が固溶したAlON結晶またはAlON固溶体結晶相を主成分として含有していることにより、従来のサイアロンや酸窒化物蛍光体と比べて490nm〜550nmでの発光強度が高く、白色LEDの用途の緑色蛍光体として優れている。励起源に曝された場合でも、この蛍光体は、輝度が低下し難い。さらに、電子線で効率よく発光するため、VFD、FED、SED、CRTなどに好適に使用され得る有用な蛍光体である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について詳しく説明する。
【0019】
本発明の蛍光体は、AlON結晶またはAlON固溶体結晶を主成分として含む。AlON結晶は、非特許文献4および5に記載されている様に、立方晶系スピネル型の結晶構造を持つ結晶であり、γ−AlONとも呼ばれる。この結晶は、AlNにAlを混合して1850℃で焼成することにより合成される。また、AlON固溶体結晶とは、AlONの結晶構造を保ったまま酸素/窒素比が変化した結晶、または、Siなどの他の元素が添加された結晶である。
【0020】
本発明では、これらの結晶を母体結晶として用いることができる。AlON結晶またはAlON固溶体結晶は、X線回折や中性子線回折により同定することができる。結晶構造の詳細は、非特許文献4および5に記載されており、これらに記載された格子定数、空間群、原子位置のデータから結晶構造やX線回折パターンは一義的に決定される。また、純粋なAlON結晶またはAlON固溶体結晶と同一の回折を示す物質の他に、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものも本発明の一部として含まれる。
【0021】
本発明では、AlON結晶またはAlON固溶体結晶を母体結晶として、これに光学活性な金属元素Mnに加えて、2価の金属(本明細書ではA元素とも呼ぶ。A元素は、Mn以外の2価の金属元素である。)が固溶されることにより、優れた光学特性を持つ蛍光体となる。
【0022】
A元素は、AlON結晶に容易に固溶し、結晶構造を安定化する。その結果、Mn2+が結晶内で安定に存在できるので、Mnイオンが結晶内に取り込まれやすくなる。これにより、蛍光体の輝度が向上し得る。特に、A元素のなかでもMgはこの効果が大きいため、発光特性の向上に好ましい。
【0023】
本発明の蛍光体の組成としては、組成式MnAl(ただし、Aは、上述したようにMn以外の2価の金属元素であり、式中a+b+c+d+e=1とする)で示され、以下の条件を全て満たす値から選ばれる組成範囲が好ましい。
0.00001≦ a ≦0.1・・・・・・・・・・(i)
0.001≦ b ≦0.40・・・・・・・・・・・・・・・・(ii)
0.10≦ c ≦0.48・・・・・・・・・・・・(iii)
0.25≦ d ≦0.60・・・・・・・・・・・・(iv)
0.02≦ e ≦0.35・・・・・・・・・・・・(v)
【0024】
ここで、aは発光中心となる金属イオンMnの添加量を表し、原子比で0.00001以上0.1以下となるようにするのがよい。a値が0.00001より小さいと発光中心となるイオンの数が少ないため発光輝度が低下するおそれがある。0.1より大きいとイオン間の干渉により濃度消光を起こして輝度が低下するおそれがある。bはA元素(2価の金属元素)の量であり、原子比で0.001以上0.40以下となるようにするのがよい。b値がこの範囲をはずれると結晶中の結合が不安定になりAlON結晶またはAlON固溶体結晶以外の結晶相の生成割合が増え、発光強度が低下するおそれがある。b値は、好ましくは、0.01以上0.06以下の値であり、特に発光強度を向上させる効果が大きい。A元素としては、Mg、Ca、Znなどを挙げることができる。なかでもMgが特に発光強度を増加させる効果が大きい。cはAl元素の量であり、原子比で0.10以上0.48以下となるようにするのがよい。c値がこの範囲をはずれるとAlON結晶またはAlON固溶体結晶以外の結晶相の生成割合が増え、発光強度が低下するおそれがある。dは酸素の量であり、原子比で0.25以上0.60以下となるようにするのがよい。d値がこの範囲をはずれるとAlON結晶またはAlON固溶体結晶以外の結晶相の生成割合が増え、発光強度が低下するおそれがある。eは窒素の量であり、0.02以上0.35以下となるようにするのがよい。e値がこの範囲をはずれるとAlON結晶またはAlON固溶体結晶以外の結晶相の生成割合が増え、発光強度が低下するおそれがある。さらに、AlON結晶またはAlON固溶体結晶の結晶構造を崩さない範囲で、非金属イオンとしてフッ素や塩素などを含むことができる。
【0025】
本発明の蛍光体を粉体として用いる場合は、樹脂への分散性や粉体の流動性などの点から平均粒径は0.1μm以上20μm以下が好ましい。また、粉体をこの範囲の単結晶粒子とすることにより、より発光輝度が向上する。
【0026】
本発明の蛍光体は、100nm以上480nm以下の波長を持つ紫外線または可視光で励起すると効率よく発光するので、白色LED用途に好ましい。さらに、本発明の蛍光体は、電子線またはX線によっても励起することができる。特に、電子線励起では、他の窒化物蛍光体より効率よく発光するため、電子線励起の画像表示装置の用途に好ましい。
【0027】
本発明の蛍光体は、励起源を照射することにより波長490nmから550nmの範囲の波長にピークを持つ緑色の蛍光を発する。励起源としては、紫外線、電子線、X線などで効率よく励起される。紫外線や可視光で励起する場合は、特に230nmから460nmの範囲の波長で効率よく励起される。なかでも、420nmから450nmの波長における励起効率が高いため、この範囲の光を放つLEDと組み合わせた、白色あるいは有色LED照明の用途に適している。本発明の蛍光体が放つ緑色光のスペクトルは、線幅が狭いシャープなスペクトルであり、色純度が良い緑色を発するため、液晶画像表示素子用途のバックライトLEDや冷陰極蛍光ランプCCFL(Cold Cathode Fluorescent Lamp)に用いる緑色蛍光体に適している。また、本蛍光体は、特に電子線で効率よく発光するため、CRTやFEDなどの電子線励起の画像表示素子用途の緑色蛍光体に適している。
【0028】
本発明では、蛍光発光の点からは、その構成成分たるAlON結晶またはAlON固溶体結晶は、高純度で極力多く含むこと、できれば単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲で他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、AlON結晶またはAlON固溶体結晶の含有量が10質量%以上、より好ましくは50質量%以上であることが高い輝度を得るために望ましい。本発明において主成分とする範囲は、AlON結晶またはAlON固溶体結晶の含有量が少なくとも10質量%以上である。含有量の割合はX線回折測定を行い、AlON結晶またはAlON固溶体結晶相とそれ以外の結晶相についてリートベルト解析をすることにより求めることができる。簡易的には、AlON結晶またはAlON固溶体結晶相とそれ以外の結晶相について、それぞれの相の最強ピークの強さの比から求めることができる。
【0029】
他の結晶相あるいはアモルファス相との混合物から構成される蛍光体において、導電性を持つ無機物質との混合物とすることができる。VFDやFEDなどにおいて、本発明の蛍光体を電子線で励起する場合には、蛍光体上に電子が溜まることなく外部に逃がすために、ある程度の導電性を持つことが好ましい。導電性物質としては、Zn、Ga、In、Snから選ばれる1種または2種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、または窒化物、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。なかでも、酸化インジウムとインジウム−スズ酸化物(ITO)は、蛍光強度の低下が少なく、導電性が高いため好ましい。ただし、蛍光体の構成元素となっている導電性物質を添加する場合(例えば、A元素としてZnを選択した場合)は、組成の変動に注意する必要がある。
【0030】
本発明の蛍光体は緑色に発色するが、黄色、赤色などの他の色との混合が必要な場合は、必要に応じてこれらの色を発色する無機蛍光体を混合することができる。他の無機蛍光体としては、酸化物、硫化物、酸硫化物、酸窒化物、窒化物結晶をホストとするものなどを使用することができるが、混合した蛍光体の耐久性が要求される場合は、酸窒化物や窒化物結晶をホストとするものがよい。酸窒化物や窒化物結晶をホストとする蛍光体としては、α−サイアロン:Euの黄色蛍光体、α−サイアロン:Ceの青色蛍光体、CaAlSiN:Euや(Ca、Sr)AlSiN:Euの赤色蛍光体(CaAlSiN結晶のCaの一部をSrで置換したもの)、JEM相をホストした青色蛍光体(LaAl(Si6−zAl)N10−z):Ce)、LaSi11:Ceの青色蛍光体、AlN:Euの青色蛍光体などを挙げることができる。
【0031】
本発明の蛍光体は、組成により励起スペクトルと蛍光スペクトルが異なり、これを適宜選択組み合わせることによって、さまざまな発光スペクトルを有してなるものに設定することができる。その態様は、用途に基づいて必要とされるスペクトルに設定すればよい。
【0032】
本発明の蛍光体の製造方法は、特に限定されないが、一例として次の方法を挙げることができる。
【0033】
Mnを含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せのMn源の出発原料と、アルミニウムを含むアルミニウム源の出発原料と、A元素(ただし、AはMn以外の2価の金属元素)を含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せのA元素源の出発原料とを準備する。固溶体とする場合は必要に応じて固溶元素を含む金属、酸化物、炭酸塩、窒化物、フッ化物、塩化物、酸窒化物またはそれらの組合せをさらに添加する。これらの出発原料が混合された原料混合物を、相対嵩密度40%(2/5)以下の充填率に保持した状態で容器に充填する。そして、0.1MPa以上1×10MPa以下の窒素雰囲気中において、15×10℃以上22×10℃以下の温度範囲で焼成する。このようにすることより、AlON結晶またはAlON固溶体結晶に、少なくともMnおよびA元素が固溶してなる本発明の蛍光体を製造することができる。最適焼成温度は組成により異なる場合もあり、適宜最適化することができる。一般的には、17×10℃以上20×10℃以下の温度範囲で焼成することが好ましい。このようにして高輝度の蛍光体が得られる。焼成温度が15×10℃より低いと、AlON結晶またはAlON固溶体結晶の生成速度が低いことがある。また、焼成温度が22×10℃を超えると特殊な装置が必要となり工業的に好ましくない。
【0034】
金属元素Mnの出発原料としては、炭酸マンガンまたは酸化マンガンを用いるのが好ましい。アルミニウム源の出発原料としては、金属アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、アルミニウムを含む有機物前駆体などを用いることができるが、通常は窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムの混合物を用いるのがよい。これらは、反応性に富み、高純度な合成物を得ることができることに加えて、工業原料として生産されており入手しやすい利点がある。窒化アルミニウムと酸化アルミニウムの量は、目標とするAlON組成の酸素と窒素の割合から設計するとよい。
【0035】
焼成時の反応性を向上させるために、必要に応じて出発原料の混合物に、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加することができる。無機化合物としては、反応温度で安定な液相を生成するものが好ましく、Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Alの元素のフッ化物、塩化物、ヨウ化物、臭化物、あるいはリン酸塩が適している。さらに、これらの無機化合物は、単体で添加するほか2種以上を混合してもよい。なかでも、フッ化カルシウムおよびフッ化アルミニウムは合成の反応性を向上させる能力が高いため好ましい。ただし、蛍光体の構成元素となっている無機化合物を添加する場合は、組成の変動に注意する必要がある。無機化合物の添加量は特に限定されないが、出発原料である金属化合物の混合物100重量部に対して、0.1重量部以上10重量部以下で、特に効果が大きい。0.1重量部より少ないと反応性の向上が少なく、10重量部を越えると蛍光体の輝度が低下するおそれがある。これらの無機化合物を添加して焼成すると、反応性が向上して、比較的短い時間で粒成長が促進されて粒径の大きな単結晶が成長し、蛍光体の輝度が向上する。
【0036】
窒素雰囲気は1×10−1MPa以上1×10MPa以下の圧力範囲のガス雰囲気がよい。より好ましくは、5×10−1MPa以上10MPa以下がよい。1×10MPaあれば十分であり、1×10MPaを超えると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。
【0037】
粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmの大きさに凝集した形態をなす(以下「粉体凝集体」と呼ぶ)。本発明では、粉体凝集体を嵩密度40%(2/5)以下の充填率に保持した状態で焼成する。さらに好ましくは嵩密度20%(1/5)以下がよい。ここで、相対嵩密度とは、容器に充填された粉体の質量を容器の容積で割った値(嵩密度)と粉体の物質の真密度との比である。通常のサイアロンの製造では、加圧しながら加熱するホットプレス法や金型成形(圧粉)後に焼成を行なう製造方法が用いられるが、このときの焼成は粉体の充填率が高い状態で行われる。しかし、本発明では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度をそろえたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%(2/5)以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるいや風力分級などを用いて、平均粒径5×10μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に5×10μm以下の形状に造粒してもよい。また、容器は窒化ホウ素製を用いると蛍光体との反応が少ない利点がある。
【0038】
嵩密度を40%(2/5)以下の状態に保持したまま焼成するのは、原料粉末の周りに自由な空間がある状態で焼成するためである。最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態や表面状態によって異なるが、好ましくは20%(1/5)以下がよい。このようにすると、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することが出来ると考えられる。これにより、輝度が高い蛍光体が得られる。嵩密度が40%(2/5)を超えると焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下するおそれがある。また微細な粉体が得られ難い。また、粉体凝集体の大きさは5×10μm以下が、焼成後の粉砕性に優れるため特に好ましい。
【0039】
次に、充填率40%(2/5)以下の粉体凝集体を前記条件で焼成する。焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であってよい。炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好ましい。焼成は、常圧焼結法やガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼成方法によるのが、所定の範囲の嵩密度を保ったまま焼成するために好ましい。
【0040】
焼成して得られた粉体凝集体が固く凝集している場合は、例えばボールミル、ジェットミル等の工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。なかでも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。このとき使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体またはサイアロン焼結体製等が好ましい。粉砕は平均粒径20μm以下となるまで施す。特に好ましくは平均粒径20nm以上10μm以下である。平均粒径が20μmを超えると粉体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、発光素子と組み合わせて発光装置を形成する際に部位により発光強度が不均一になる。20nm以下となると、粉体を取り扱う操作性が悪くなる。粉砕だけで目的の粒径が得られない場合は、分級を組み合わせることができる。分級の手法としては、篩い分け、風力分級、液体中での沈殿法などを用いることができる。
【0041】
さらに、焼成後に無機化合物を溶解する溶剤で洗浄することにより、焼成により得られた反応生成物に含まれるガラス相、第二相、または不純物相などの蛍光体以外の無機化合物の含有量を低減すると、蛍光体の輝度が向上する。このような溶剤としては、水および酸の水溶液を使用することができる。酸の水溶液としては、硫酸、塩酸、硝酸、フッ化水素酸、有機酸とフッ化水素酸の混合物などを使用することができる。なかでも、硫酸とフッ化水素酸の混合物は効果が大きい。この処理は、焼成温度以下の温度で液相を生成する無機化合物を添加して高温で焼成した反応生成物に対しては、特にその効果が大きい。
【0042】
以上の工程で微細な蛍光体粉末が得られるが、輝度をさらに向上させるには熱処理が効果的である。この場合は、焼成後の粉末、あるいは粉砕や分級により粒度調整された後の粉末を、10×10℃以上で焼成温度未満の温度で熱処理することができる。10×10℃より低い温度では、表面の欠陥除去の効果が少ない。焼成温度以上では粉砕した粉体どうしが再度固着するため好ましくない。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種又は2種以上の混合雰囲気中を使用することができ、特に窒素雰囲気が欠陥除去効果に優れるため好ましい。
【0043】
以上のようにして得られる本発明の蛍光体は、特に、特許文献10に記載の蛍光体と比べて、高輝度の緑色発光を持つことが特徴であり、照明器具、画像表示装置に好適である。これに加えて、高温にさらしても劣化しないことから耐熱性に優れており、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れている。
【0044】
本発明の照明器具は、少なくとも発光光源と本発明の蛍光体を用いて構成される。照明器具としては、LED照明器具、蛍光ランプなどがある。LED照明器具では、本発明の蛍光体を用いて、特開平5−152609号公報、特開平7−99345号公報、特許公報第2927279号などに記載されているような公知の方法により製造することができる。この場合、発光光源は330〜420nmの波長の光を発するものが望ましく、中でも330〜420nmの紫外(または紫)LED発光素子またはLD発光素子が好ましい。これらの発光素子としては、GaNやInGaNなどの窒化物半導体からなるものがあり、組成を調整することにより所定の波長の光を発する発光光源となり得る。
【0045】
照明器具において本発明の蛍光体を単独で使用する方法の他に、他の発光特性を持つ蛍光体と併用することによって、所望の色を発する照明器具を構成することができる。この一例として、450nmの青色LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起されて550nm以上600nm以下の波長に発光ピークを持つ黄色蛍光体と、本発明の緑色蛍光体の組み合わせがある。このような黄色蛍光体としては特開2002−363554号公報に記載のα−サイアロン:Eu2+や特開平9−218149号公報に記載の(Y、Gd)(Al、Ga)12:Ceを挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する紫外線が蛍光体に照射されると、青、緑、黄の光が発せられ、これの混合により白色の照明器具となる。
【0046】
別の一例として、330〜420nmの紫外LEDまたはLD発光素子と、この波長で励起され520nm以上550nm以下の波長に発光ピークを持つ青色蛍光体と、600nm以上700nm以下の波長に発光ピークを持つ赤色蛍光体と、本発明の緑色蛍光体の組み合わせがある。このような赤色蛍光体としては、国際公開第2005/052087号パンフレットに記載のCaSiAlN:Eu2+を挙げることができる。この構成では、LEDまたはLDが発する紫外線が蛍光体に照射されると、赤、緑、青の3色の光が発せられ、これの混合により白色の照明器具となる。
【0047】
本発明の画像表示装置は少なくも励起源と本発明の蛍光体で構成され、蛍光表示管(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FEDまたはSED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、陰極線管(CRT)などがある。本発明の蛍光体は、100〜190nmの真空紫外線、190〜380nmの紫外線、電子線などの励起で発光することが確認されており、これらの励起源と本発明の蛍光体との組み合わせで、上記のような画像表示装置を構成することができる。
【0048】
本発明の蛍光体は、電子線の励起効率が優れるため、加速電圧10V以上30kV以下で用いる、VFD、FED、SED、CRT用途に適している。FEDは、電界放射陰極から放出された電子を加速して陽極に塗布した蛍光体に衝突させて発光する画像表示装置であり、5kV以下の低い加速電圧で光ることが求められており、本発明の蛍光体を組み合わせることにより、表示装置の発光性能が向上する。
【0049】
次に本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明するが、これはあくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示したものであって、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
<実施例1〜4>
原料粉末には、比表面積3.3m/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製Fグレード)、比表面積13.6m/g、純度99.99%の酸化アルミニウム粉末(大明化学製タイミクロングレード)、純度99.9%の炭酸マンガン粉末(高純度化学製試薬級)、および、比表面積7m/gの酸化マグネシウム(神島化学工業製、品番HP−30A)を用いた。
【0051】
金属元素MnおよびA元素としてMgを含む蛍光体を合成した。表1は、実施例1〜4の設計組成を示す。表1に示す設計組成式MnMgAl(a+b+c+d+e=1)で示される化合物を得るべく、表2に示す質量比で原料粉末を秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒を用いて混合した後に、目開き125μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製るつぼに自然落下させて入れたところ、嵩密度は15〜30体積%であった。嵩密度は、投入した粉体凝集体の重量とるつぼの内容積と粉体の真密度から計算した。つぎに、るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.9995体積%の窒素を導入してガス圧力を1MPaとし、毎時500℃で1800℃まで昇温し、1800℃で4時間保持した。合成した試料を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行った。γ型AlON構造の結晶と酸化アルミニウムまたは窒化アルミニウムの第二相の生成が確認された。主ピークの高さの比より、γ型AlON構造の結晶の生成比は90%以上と判断された。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
この様にして得られた粉末に、波長254nmの光を発するランプで照射した結果、緑色に発光することを確認した。この粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。図1は、実施例1〜4のホトルミネッセンス測定における445nmの波長で励起した発光スペクトルを示す。これらの粉末は280〜450nmの範囲の波長に励起スペクトルのピークがあり、励起スペクトルのピーク波長での励起において、490〜550nmの範囲の波長に発光スペクトルのピークを持つ光を発する蛍光体であることが分かった。なお、励起スペクトルおよび発光スペクトルの発光強度(カウント値)は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。すなわち、同一条件で測定した本実施例内でしか比較できない。
【0055】
電子線を当てたときの発光特性(カソードルミネッセンス、CL)を、CL検知器を備えたSEMで観察しCL像を評価した結果、緑色に発光することを確認した。
【0056】
<比較例1>
表1の比較例1に示す設計組成式MnMgAl(a+b+c+d+e=1)で示される化合物を得るべく、表2の比較例1に示す質量比で原料粉末を秤量した。なお、蛍光体の合成手順は、実施例1〜4において酸化マグネシウムを用いなかった以外は、同様のため、説明を省略する。実施例1〜4と同様に、得られた粉末の発光スペクトルおよび励起スペクトルを、蛍光分光光度計を用いて測定した。比較例1のホトルミネッセンス測定における445nmの波長で励起した発光スペクトルを図1に示す。図1より、本発明によるAlON結晶またはAlON固溶体結晶に、金属元素Mnに加えて、2価の金属(実施例1〜4ではMg)が固溶されることにより、発光強度が増大することが確認された。
【0057】
<実施例5>
次に、本発明の窒化物からなる蛍光体を用いた照明器具について説明する。図2に、照明器具としての白色LEDの概略構造図を示す。本発明の窒化物からなる蛍光体及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体1と、発光素子として440nmの青LEDチップ2を用いる。本発明の実施例2の緑色蛍光体と、Ca0.75Eu0.25Si8.625A13.3751.12514.875の組成を持つCa−α−サイアロン:Euの黄色蛍光体と、CaAlSiN:Euの赤色蛍光体とを樹脂層に分散させた混合物蛍光体1をLEDチップ2上にかぶせた構造とし、容器7の中に配置する。導電性端子3、4に電流を流すと、ワイヤーボンド5を介して電流がLEDチップ2に供給され、440nmの光を発し、この光で緑色蛍光体、黄色蛍光体、および赤色蛍光体の混合物蛍光体1が励起されてそれぞれ緑色、黄色、および赤色の光を発し、これらとLEDチップ2からの青色光が混合されて白色の光を発する照明装置として機能する。
【0058】
<実施例6>
次に、本発明の窒化物蛍光体を用いた画像表示装置の設計例について説明する。図3は、画像表示装置としてのプラズマディスプレイパネルの原理的概略図である。赤色蛍光体(Y(PV)O:Eu)8と本発明の実施例2の緑色蛍光体9と青色蛍光体(BaMgAl1017:Eu)10とがそれぞれのセル11、12、13の内面に塗布されている。電極14、15、16、17に通電するとセル中でXe放電により真空紫外線が発生し、これにより蛍光体が励起されて、赤、緑、青の可視光を発し、この光が保護層20、誘電体層19、ガラス基板22を介して外側から観察され、画像表示として機能する。
【0059】
<実施例7>
図4は、画像表示装置としてのフィールドエミッションディスプレイパネルの原理的概略図である。本発明の実施例2の緑色蛍光体が陽極53の内面に塗布されている。陰極52とゲート54の間に電圧をかけることにより、エミッタ55から電子57が放出される。電子は陽極53と陰極の電圧により加速されて、蛍光体56に衝突して蛍光体が発光する。全体はガラス51で保護されている。図は、1つのエミッタと1つの蛍光体からなる1つの発光セルを示したが、実際には緑色の他に、青色、赤色のセルが多数配置されて多彩な色を発色するディスプレイが構成される。青色や赤色のセルに用いられる蛍光体に関しては特に指定しないが、低速の電子線で高い輝度を発するものを用いるとよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の蛍光体は、従来のAlON系の蛍光体と比較して高輝度を有する緑色の発光を示し、さらに励起源に曝された場合の蛍光体の輝度の低下が少ないので、VFD、FED、PDP、CRT、白色LEDなどに好適に使用される窒化物蛍光体である。今後、電子線励起の各種表示装置において大いに活用され、産業の発展に寄与することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例1〜4および比較例1の445nm励起における発光スペクトル
【図2】本発明による照明器具(LED照明器具)の概略図
【図3】本発明による画像表示装置(プラズマディスプレイパネル)の概略図
【図4】本発明による画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ)の概略図
【符号の説明】
【0062】
1 本発明の緑色蛍光体(実施例2)と黄色蛍光体と赤色蛍光体との混合物
2 LEDチップ
3、4 導電性端子
5 ワイヤーボンド
6 樹脂層
7 容器
8 赤色蛍光体
9 緑色蛍光体
10 青色蛍光体
11、12、13 紫外線発光セル
14、15、16、17 電極
18、19 誘電体層
20 保護層
21、22 ガラス基板
51 ガラス
52 陰極
53 陽極
54 ゲート
55 エミッタ
56 蛍光体
57 電子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起源からの励起エネルギーにより蛍光を発するAlON結晶またはAlONの固溶体結晶からなる蛍光体であって、前記AlON結晶またはAlONの固溶体結晶に、少なくともMnとA元素(ただし、A元素はMnを除く2価の金属)とが固溶され、その蛍光波長が490nmから550nmの範囲にピークを持つことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光体は、組成式MnAl(ただし、式中a+b+c+d+e=1とする)で示され、パラメータa、b、c、d、eは、
0.00001≦ a ≦0.1・・・・・・・・・・(i)
0.001≦ b ≦0.40・・・・・・・・・・・・・・・(ii)
0.10≦ c ≦0.48・・・・・・・・・・・・(iii)
0.25≦ d ≦0.60・・・・・・・・・・・・(iv)
0.02≦ e ≦0.35・・・・・・・・・・・・(v)
以上の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記パラメータbは、
0.02≦ b ≦0.06・・・・・・・・・・・・(iv)
を満たすことを特徴とする請求項2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記A元素はMgであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
励起源と、それからの励起光により蛍光を発する蛍光体とからなる照明器具であって、前記励起源が330〜470nmの波長の励起光を発するものであり、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする照明器具。
【請求項6】
励起源と、それからの励起エネルギーにより蛍光を発する蛍光体とからなる画像表示装置であって、前記蛍光体の少なくとも一部は、請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体であることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−96854(P2009−96854A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268450(P2007−268450)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年9月4日 社団法人 応用物理学会発行の「2007年(平成19年)秋季 第68回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】