説明

蛍光体ペーストおよびプラズマディスプレイパネル

【課題】PDP製造時の蛍光体層形成時に、焼成による蛍光体粒子の特性劣化を伴うことなく確実な脱媒を行うことが可能な蛍光体ペーストを提供すること、およびこの蛍光体ペーストを用いることで良好な画像表示が可能なPDPを提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも蛍光体粒子、有機バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、上記有機バインダー樹脂が、下記化学式(1)で示される蛍光体ペースト、およびそれを用いたPDPである。
【化1】


(ただし、式中のn1およびn2は1〜10の整数、n3は1以上の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネル用の蛍光体ペーストおよびそれを用いたプラズマディスプレイパネル(以下、PDPともいう)に関するものであり、特に、蛍光体ペーストを構成するための成分として含まれる有機バインダー樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビなどの画像表示に用いられているカラー表示デバイスにおいて、PDPは、大型で薄型軽量を実現することのできるカラー表示デバイスとして注目されている。
【0003】
PDPは、いわゆる3原色(赤、緑、青)を加法混色することにより、フルカラー表示を行っている。このフルカラー表示を行うために、PDPには3原色である赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する蛍光体層が備えられ、この蛍光体層を構成する蛍光体粒子がPDPの放電セル内で発生する紫外線により励起され、各色の可視光を生成する。
【0004】
前記蛍光体層は、蛍光体粒子を基板に塗布することで形成するため、各種無機材料および有機バインダ樹脂とを混合されてペースト化し、スクリーン印刷やノズルから吐出させる工法等によって塗布される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−96911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記有機バインダー樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル系のバインダー樹脂が広く用いられている。そして、最終的に蛍光体層として発光させるためには、焼成により有機バインダーを燃焼させる必要があるが、この際に有機物の痕跡があると発光の妨げとなるので、蛍光体層を構成する蛍光体粒子の発光特性を低下させない程度の焼成温度で、確実に有機物を焼失させておくことが重要となる。
【0006】
本発明はこのような現状に鑑みなされたもので、PDP製造時の蛍光体層形成時に、焼成による蛍光体粒子の特性劣化を伴うことなく確実な脱媒を行うことが可能な蛍光体ペーストを提供すること、およびこの蛍光体ペーストを用いることで良好な画像表示が可能なPDPを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するために本発明は、少なくとも蛍光体粒子、有機バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、上記有機バインダー樹脂が、下記化学式(1)で示される蛍光体ペースト、およびそれを用いたPDPである。
【0008】
【化1】

【0009】
(ただし、式中のn1およびn2は1〜10の整数、n3は1以上の整数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PDP製造時の蛍光体層形成時に、焼成による蛍光体粒子の特性劣化を伴うことなく確実な脱媒を行うことが可能な蛍光体ペーストを提供すること、およびこの蛍光体ペーストを用いることで良好な画像表示が可能なPDPを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について説明するが、本発明の実施の態様はこれに限定されるものではない。
【0012】
(PDPの全般的な構成および製法)
図1は、本発明の一実施の形態による対向交流放電型PDPにおける放電セルの概略構成を示す断面図である。図1では放電セルが1つだけ示されているが、赤、緑、青の各色を発光する放電セルが多数配列されてPDPが構成される。
【0013】
このPDPの放電セル1は、前面ガラス基板11上に放電電極(表示電極)12と誘電体ガラス層13およびMgO保護層14が配された前面パネル2と、背面ガラス基板15上にアドレス電極16、誘電体ガラス層17、隔壁18、左右対称形の蛍光体層19が配された背面パネル3の間に形成される放電空間20内に放電ガスが封入された構成となっており、以下に示すように作製される。
【0014】
(前面パネルの作製)
前面パネル2は、前面ガラス基板11上に放電電極(表示電極)12を形成し、その上を鉛系の誘電体ガラス層13で覆い、さらに誘電体ガラス層13の表面上にMgO保護層14を形成することによって作製する。
【0015】
本実施の形態では、放電電極(表示電極)12は銀電極であって、紫外線感光性樹脂を含んだ銀電極用インクをスクリーン印刷法により前面ガラス基板11上に均一塗布して乾燥した後、露光現像によるパターニングと焼成によって形成する。誘電体ガラス層13は、スクリーン印刷法と焼成によって形成する。また、MgO保護層14は、酸化マグネシウム[MgO]からなり、スパッタリング法で形成する。
【0016】
(背面パネルの作製)
背面パネル3は、背面ガラス基板15上にアドレス電極16を形成し、その上に誘電体ガラス層17を形成し、さらにその上にストライプ状もしくは各放電室を区分けするガラス製の隔壁18を所定のピッチで形成し、さらに隔壁18によって挟まれた各空間には、赤色に発光する蛍光体粒子、緑色に発光する蛍光体粒子、青色に発光する蛍光体粒子、それぞれにより構成される蛍光体層19が形成される。
【0017】
上述の構成においては、アドレス電極16は銀電極であって、背面ガラス基板15上に、紫外線感光性樹脂を含んだ銀電極用インクをスクリーン印刷法により背面ガラス基板15上に均一塗布して乾燥した後、露光現像によるパターニングと焼成によって形成する。
【0018】
誘電体ガラス層17は、スリットダイコートあるいはスクリーン印刷法により形成される。
【0019】
また隔壁18は、スクリーン印刷法により数回繰り返し印刷することにより形成されたり、いわゆるサンドブラスト法や、フォトリソグラフィー法などを用いても良い。
【0020】
隔壁18によって挟まれた各空間に、赤色、緑色、青色の蛍光体粒子それぞれにより蛍光体層19を形成する方法としては、蛍光体粒子をペースト化し、この蛍光体ペーストを用いて、スクリーン印刷法、インクジェット法、およびノズルまたはニードルから吐出する方法などにより塗布するという方法を挙げることができる。各色の蛍光体層を構成する蛍光体粒子としては、一般的なPDPに用いられる蛍光体粒子を用いることができるが、ここでは以下に示す化学式で表される組成を有する蛍光体を用いた例を示す。
[赤色蛍光体]:(YXGd1-X)BO3:Eu3+、あるいはYBO3:Eu3+
[緑色蛍光体]:BaAl1219:Mn、あるいはZn2SiO4:Mn、あるいはYBO3:Tb
[青色蛍光体]:BaMgAl1017:Eu2+
(パネル貼り合わせによるPDPの作製)
次に、上述のようにして作製した前面パネル2と背面パネル3とを封着用ガラスを用いて貼り合わせるとともに、隔壁18で仕切られた放電空間20内を高真空(8×10-7Torr)に排気した後、所定の組成の放電ガスを所定の圧力で封入することによって、PDPを作製する。封入する放電ガスの組成は、従来から用いられているNe−Xe系であるが、Xeの含有量を5体積%以上に設定し、封入圧力は400から800Torrの範囲に設定する。以上によりPDPが完成する。
【0021】
次に、上述の説明における蛍光体ペーストについて、以下、詳細に説明する。
【0022】
(蛍光体ペーストの作製)
蛍光体ペーストは、下記化学式(1)で示される有機バインダ樹脂を用いた。
【0023】
【化1】

【0024】
(ただし、式中のn1およびn2は1〜10の整数、n3は1以上の整数である。)
また上記において、n1=n2=3とした、下記化学式(2)で示される有機バインダ樹脂であると好適である。
【0025】
【化2】

【0026】
(ただし、n3は1以上の整数である。)
本発明の一実施の形態による蛍光体ペーストは、その構成成分である有機バインダー樹脂として、重量平均分子量が10,000〜500,000の範囲で、数平均分子量が5,000〜100,000の範囲のものが好ましい。中でも、重量平均分子量が50,000〜60,000、数平均分子量が9,000〜11,000のバインダー樹脂は、粘度特性が良好で取り扱いが容易であるため、特に好ましい。
【0027】
また、本発明の一実施の形態による蛍光体ペーストは、その構成成分である蛍光体粒子として、波長200nm以下、たとえば147nmの真空紫外線励起下で効率的に発光し得る蛍光体材料の粒子であることが好ましい。中でも、[(Y,Gd,Eu)BO3]、[(Zn,Mn)2SiO4]、[(Ba,Eu)MgAl1017]は、発光効率、色合いともに良好であるため特に好ましいが、蛍光体ペーストとしては、少なくともこれらの中から選ばれる1種類を含有していればよく、上記3種類に限定されるものではない。
【0028】
さらに本発明の一実施の形態による蛍光体ペーストは、その構成成分である有機溶剤として、沸点が100℃〜300℃のもので、バインダー及び蛍光体粒子成分と分離しないものであれば特に制限はないが、アルコール系、エーテル系、エステル系のものが好ましい。例えば、テルピネオール(沸点217℃)、ベンジルアルコール(沸点205℃)、N−メチルピロリドン(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(沸点216℃)等は作業性に優れていて好ましい。
【0029】
ここで、本発明の一実施の形態による蛍光体ペーストの組成を、各色ごとに以下、例示列挙する。
【0030】
赤色蛍光体ペーストの組成構成:
化学式(化2)で示される有機バインダ樹脂 10wt%
ベンジルアルコール 42wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 48wt%
緑色蛍光体ペーストの組成構成:
化学式(化2)で示される有機バインダ樹脂 10wt%
ベンジルアルコール 44wt%
緑色蛍光体粉体[(Zn,Mn)2SiO4] 46wt%
青色蛍光体ペーストの組成構成:
化学式(化2)で示される有機バインダ樹脂 10wt%
ベンジルアルコール 45wt%
青色蛍光体粉体[(Ba,Eu)MgAl1017] 45wt%
また、比較用の蛍光体ペーストとして、エチルセルロースバインダを用いた下記組成構成のペーストを作製した。
【0031】
比較用赤色蛍光体ペーストの組成構成:
エチルセルロース(15cPs) 10wt%
ベンジルアルコール 42wt%
赤色蛍光体粉体[(Y,Gd,Eu)BO3] 48wt%
比較用緑色蛍光体ペーストの組成構成:
エチルセルロース(15cPs) 10wt%
ベンジルアルコール 44wt%
緑色蛍光体粉体[(Zn,Mn)2SiO4] 46wt%
比較用青色蛍光体ペーストの組成構成:
エチルセルロース(15cPs) 10wt%
ベンジルアルコール 45wt%
青色蛍光体粉体[(Ba,Eu)MgAl1017] 45wt%
(各ペーストの粘度測定)
上記で作製した各蛍光体ペーストについて、「25℃でせん断速度1s-1」での粘度を測定した。結果を図2に示す。
【0032】
各蛍光体ペーストにおいて、本発明品の蛍光体ペーストと比較品の蛍光体ペーストとは、ほぼ同等の粘度特性であることがわかる。
【0033】
従って、蛍光体層を形成する際、これら各蛍光体ペーストを用いて塗膜した際の、密度、形状等の出来映えは同等であると考えられ、以下に述べる、塗膜での輝度評価が有効であると言える。
【0034】
(各ペーストの輝度測定)
各蛍光体ペーストを、それぞれガラス板上に、膜厚が20μm〜30μmになるように塗布(2.5cm×2.5cm)し、110℃で30分間乾燥した後、下記プロファイルに従って焼成し、蛍光体層を作製した。
【0035】
焼成プロファイル:
室 温 → 420℃ 20分
420℃ → 420℃ 20分
420℃ → 520℃ 10分
520℃ → 520℃ 10分
520℃ → 室温 30分
以上の焼成により作製した蛍光体層に対して、147nmの真空紫外線励起下で輝度を測定した。結果を図3に示す。
【0036】
エチルセルロースバインダーを用いた蛍光体ペーストに比べ、本発明の一実施の形態による蛍光体ペーストを用いて作製した蛍光体層の方が、輝度が高いことがわかる。
【0037】
すなわち本発明は、焼成工程での脱媒時に、蛍光体粒子の発光特性を低下させない程度の焼成温度で、確実に有機物が焼失するような蛍光体ペーストを提供するものであり、蛍光体の発光特性は有機物の痕跡により低下してしまうため、脱媒・焼成は有機物痕跡が残らないように確実に行うことが必須であるところ、上述した本発明の一実施による蛍光体ペーストによれば、上述した化学式(1)または化学式(2)で示される有機バインダー樹脂を用いているので、従来、有機バインダーとして用いられてきたセルロースエーテル系のバインダーや熱分解性のアクリルバインダーに比べ、焼成後に炭化した残渣が残りにくく、また、燃焼時の発熱が緩やかで蛍光体粒子に対して大きな負荷がかからないので、もって、焼成による蛍光体粒子の特性劣化をともなうことなく、確実な脱媒を行うことを可能とするPDP用蛍光体ペーストを提供すること、およびこのPDP用蛍光体ペーストを用いることで良好な画像表示が可能なPDPを提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように本発明は、大画面、高精細のPDPを提供する上で有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態による対向交流放電型PDPにおける放電セルの概略構成を示す断面図
【図2】25℃でせん断速度1s-1での蛍光体ペーストの粘度を測定した結果を示す図
【図3】蛍光体層に対して、147nmの真空紫外線励起下で輝度を測定した結果を示す図
【符号の説明】
【0040】
1 放電セル
2 前面パネル
3 背面パネル
11 前面ガラス基板(フロントカバープレート)
12 表示電極
13 誘電体ガラス層
14 誘電体保護層(MgO)
15 背面ガラス基板(バックプレート)
16 アドレス電極
17 誘電体ガラス層
18 隔壁
19 蛍光体層
20 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも蛍光体粒子、有機バインダー樹脂、および有機溶剤を含み、上記有機バインダー樹脂が、下記化学式(1)で示される蛍光体ペースト。
【化1】

(ただし、式中のn1およびn2は1〜10の整数、n3は1以上の整数である。)
【請求項2】
25℃で、せん断速度が1[s-1]の時の見かけの粘度、すなわち粘性係数が、5〜500[Pa・s]の範囲である請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項3】
蛍光体粒子が、[(Y,Gd,Eu)BO3]、[(Zn,Mn)2SiO4]、[(Ba,Eu)MgAl1017]の中から選ばれる少なくとも1つを含む請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項4】
有機溶剤の沸点が、100〜300℃の範囲のものである請求項1に記載の蛍光体ペースト。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体ペーストを用いたプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−77242(P2010−77242A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245821(P2008−245821)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】