説明

蛍光体及びその製造方法並びにプラズマディスプレイパネル

【課題】真空紫外線による経時的な劣化を防ぐ蛍光体及びその製造方法、そのような蛍光体を用いて製造されるプラズマディスプレイパネル及を提供すること。
【解決手段】本発明に係るMnを発光中心とする蛍光体は、酸処理後に大気焼成を行い、前記大気焼成後に還元焼成を行うことで、蛍光体粒子の内部に2価のMnと、3価又は4価のいずれか又は両方のMnとを混在させているとともに、前記蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上が2価で存在させるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法並びにプラズマディスプレイパネルに係り、特にMnを発光中心とする蛍光体及びその製造方法並びにプラズマディスプレイパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータやテレビ等の画像表示に用いられているカラー表示デバイスにおいて、プラズマディスプレイパネルを用いたディスプレイ装置は、大型で薄型軽量を実現することのできるカラー表示デバイスとして注目されている。
【0003】
プラズマディスプレイパネルは、電極を備えた2枚のガラス基板間に、放電ガスを封入した多数の放電セルを備えている。放電セルは、蛍光体層を備えており、電極間に電圧を印加して選択的に放電させることにより、真空紫外線を発生させるようになっており、これにより蛍光体は励起され、可視光を発光する。
【0004】
ここで、蛍光体層を構成する蛍光体としては、一般的に以下のような母体材料に付活剤を分散させた材料が用いられている(非特許文献1)。
「青色蛍光体」:BaMgAl107
「緑色蛍光体」:Zn2SiO4:Mn,BaAl1219:Mn,BaMgAl1017:Mn,YBO3:Mn
「赤色蛍光体」:(Yx,Gd1-x)BO3:Eu
【0005】
ところで、プラズマディスプレイパネル等のカラー表示デバイスでは、輝度向上や滑らかな動画表示等の特性が求められるとともに、長時間継続してその特性を維持する必要があった。特にプラズマディスプレイパネルでは、経時的な輝度劣化が著しい、寿命が短いものであり、早急に改善する必要があった。
【0006】
このような経時的な輝度劣化の原因としては、プラズマディスプレイパネルを駆動させた際に、プラズマディスプレイパネル内部での放電により発生する真空紫外線あるいはイオン衝撃により蛍光体が損傷し、劣化するためであると考えられている。特に、緑色蛍光体は他の色に比べて視感度が高いため、蛍光体の劣化が僅かに生じた場合でも、プラズマディスプレイパネルは大幅な白色輝度の劣化や色度変化を引き起こしてしまう。
【0007】
そこで、経時的な輝度劣化を防ぐために以下のような取り組みがなされてきた。
特許文献1では、Mnを発光中心とする緑色蛍光体について、Mnを含む蛍光体粒子を還元焼成した後に酸化焼成を行い、Mnの価数を混在させることにより酸素欠陥の防止を試みている。
【0008】
また、特許文献2では、蛍光体母体原料と付活剤原料とを焼成後に、さらに蛍光体母体原料を混合して焼成を行い、その際の焼成時間や焼成温度等を制御することにより、蛍光体粒子の内部における付活剤濃度を該粒子表面より低くなるように付活剤濃度を制御して、付活剤であるMnドープによる蛍光体粒子の結晶歪の防止を試みている。
【特許文献1】特開2003−336049号公報
【特許文献2】特開2004−91622号公報
【非特許文献1】「エレクトロニクス実装技術」P23〜26,1977、Vol.13,No.7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1のような条件で焼成を行っても、期待される程の特性を得るにはまだ十分であるとはいえなかった。始めに還元焼成を行ってしまうと、酸素欠陥の増大が著しく、その後に酸化焼成を行っていてもMnの価数に起因するプラス電荷だけで酸素欠陥を補完することが困難になる。また、蛍光体表面のMnが酸化されているとMnのイオン半径が小さすぎる為に結晶歪が大きくなってしまう。その影響により蛍光体表面にあるZn等の脱離が起こる為、所望の特性が得られにくくなる。
【0010】
一方、特許文献2のように、蛍光体粒子の内部と表面における付活剤濃度を局在化させても、期待される程の特性を得るにはまだ十分であるとはいえなかった。真空紫外線による蛍光体の励起は主に母体励起で行われるものの、発光中心となるMnが近傍にないと多少なりとも輝度低下は免れない。また、蛍光体の内部と表面で結晶歪がドラスティックに変化すると結晶性が弱くなってしまう。更に、焼成条件を付活剤濃度が局在化するよう制御すると焼成不足や過焼成となり易く、所望の特性が得られない。
【0011】
このように、特許文献1及び2を含め、経時的な輝度劣化を防止することができる改善手段は不十分であり、高性能なプラズマディスプレイパネルパネルを得るためには、経時的な輝度劣化を防止する蛍光体を得ることが不可欠である。
【0012】
本発明の課題は、経時的な輝度劣化を防止することができる蛍光体及びその製造方法及びそのような蛍光体を用いて製造されるプラズマディスプレイパネルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、
Mnを発光中心とする蛍光体であって、蛍光体粒子の内部には2価のMnと、3価又は4価のいずれか又は両方のMnとが混在しているとともに、前記蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上が2価で存在していることを特徴とする。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、Mnを発光中心とする蛍光体であって、蛍光体粒子の内部には2価のMnと、3価又は4価のいずれか又は両方のMnとが混在しているとともに、前記蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上が2価で存在しているので、表面において結晶歪を防ぎ、Zn等の脱離を防ぐとともに、蛍光体粒子の表面に存在するMnの多くが発光に寄与することができ、輝度を向上させることができる。
特に、酸化雰囲気で焼成した後に、還元雰囲気で焼成して製造される蛍光体の場合では、還元雰囲気で焼成されて製造される従来の2価Mnから構成される蛍光体及び2〜4価のMnから構成される蛍光体に比べ、積極的に酸素欠陥を防ぎつつ、また輝度を向上させることができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、
前記蛍光体粒子表面のMnの90質量%以上が2価で存在していることを特徴とする。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、前記蛍光体粒子表面のMnの90質量%以上が2価で存在しているので、請求項1に比べてさらにZn等の脱離を防ぐとともに、蛍光体粒子の表面に存在するMnの多くが発光に寄与することができ、一層輝度を向上させることができる。
また、酸化雰囲気で焼成した後に、還元雰囲気で焼成して製造される蛍光体の場合では、還元雰囲気で焼成されて製造される従来の2価Mnから構成される蛍光体及び2〜4価のMnから構成される蛍光体に比べ、積極的に酸素欠陥を防ぎつつ、また輝度を向上させることができる。なお、この場合においては、請求項1に比べてさらに積極的に酸素欠陥を防ぎつつ、輝度を向上させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、
請求項1又は2に記載の蛍光体であって、前記Mnが前記蛍光体粒子中に均一に存在していることを特徴とする。
【0018】
請求項3記載の発明によれば、前記Mnが前記蛍光体粒子中に均一に存在するので、発光中心となるMnを常に均一に近傍に存在させることができ、また、蛍光体粒子の結晶性を弱めさせることもない。
【0019】
請求項4記載の発明は、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体であって、Zn2SiO4:Mnの結晶構造からなることを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体であって、Zn2SiO4:Mnの結晶構造からなるので、特に、Mnを発光中心とし、Zn2SiO4を母体とするような結晶構造である蛍光体において、請求項1〜3で得られる効果を得ることができる。
【0021】
請求項5記載の発明は、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記蛍光体を放電セルに備えているプラズマディスプレイパネルであることを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記蛍光体を放電セルに備えているプラズマディスプレイパネルであるので、プラズマディスプレイパネルは請求項1〜4で得られる効果と同一の効果を得ることができる。
【0023】
請求項6記載の発明は、
Mnを発光中心とする蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体形成工程で得られた前記前駆体を酸化雰囲気で焼成した後に不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成する焼成工程とを含む蛍光体の製造方法であることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、Mnを発光中心とする蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体形成工程で得られた前記前駆体を酸化雰囲気で焼成した後に不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成する焼成工程とを含むので、前駆体を始めに蛍光体に含まれる元素を酸化させて酸素欠陥が生じるのを防いでおき、その後、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成して蛍光体に含まれる元素を還元し、発光に寄与する最表面のMnの価数を減らすことができる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、表面において結晶歪を防ぎ、Zn等の脱離を防ぐとともに、蛍光体粒子の表面に存在するMnの多くが発光に寄与することができ、輝度を向上させることができる。
特に、酸化雰囲気で焼成した後に、還元雰囲気で焼成して製造される蛍光体の場合では、積極的に酸素欠陥を防いで真空紫外線による劣化を防ぎつつ、輝度を向上させることができ、経時的な劣化を防ぐことができる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に比べてさらに表面において結晶歪を防ぎ、Zn等の脱離を防ぐとともに、蛍光体粒子の表面に存在するMnの多くが発光に寄与することができ、輝度を向上させることができる。
特に、酸化雰囲気で焼成した後に、還元雰囲気で焼成して製造される蛍光体の場合では、積極的に酸素欠陥を防いで真空紫外線による劣化を防ぎつつ、輝度を向上させることができ、経時的な劣化を防ぐことができる。なお、この場合においては、請求項1に比べてさらに積極的に酸素欠陥を防ぎつつ、輝度を向上させることができ、経時的な劣化を防ぐことができる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、発光中心となるMnを常に均一に近傍に存在させることができ、また、蛍光体粒子の結晶性を弱めさせることもないので、輝度を向上させることができ、経時的な劣化を防ぐことができる。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、特に、Mnを発光中心とし、Zn2SiO4を母体とするような結晶構造である蛍光体において、請求項1〜3で得られる効果を得ることができる。したがって、このような結晶構造である蛍光体において、輝度を向上させるとともに、経時的な劣化を防ぐことができる。
ことができる。
【0029】
請求項5に記載の発明によれば、プラズマディスプレイパネルは請求項1〜4で得られる効果と同一の効果を得ることができる。したがって、プラズマディスプレイパネルは輝度を向上させるとともに、経時的な劣化を防ぐことができる。
ことができる。
【0030】
請求項6に記載の発明によれば、前駆体を始めに蛍光体に含まれる元素を酸化させて酸素欠陥が生じるのを防いでおき、その後、不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成して前駆体に含まれるMnを還元し、発光に寄与する最表面のMnの価数を減らすことができるので、始めに酸化雰囲気で焼成することにより酸素欠陥を防止し、その後に不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成して、発光に寄与する最表面のMnを2価に戻して2価のMnの割合を増加させることができ、積極的に酸素欠陥を防ぎつつ、輝度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明に係る蛍光体について説明する。本発明のMnを発光中心とする蛍光体は、該蛍光体粒子内部には2価のMnと、3価又は4価のいずれか又は両方のMnとが混在しているとともに、該蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上が2価で存在するものである。更には、該蛍光体粒子表面に存在するMnの90質量%以上が2価で存在していることがより好ましい。粒子表面の2価Mnが80質量%以下になると蛍光体粒子表面の欠陥が増大し、所望の特性が得られない。なお、本発明における蛍光体の表面とは、蛍光体粒子最表面から2〜5nm程度の深さの領域である。
【0032】
また、本発明のMnを発光中心とする蛍光体は、Mnが粒子中に均一に分散されていることが好ましい。Mnが局在化して存在すると蛍光体粒子の内部と表面の結晶歪がドラスティックに変わってしまうので結晶性が弱くなり、所望の特性が得られない。ここでいう均一に分散されている状態とは、蛍光体表面のMn含有率と蛍光体内部のMn含有率の比率がほぼ同等であることを示す。具体的には、蛍光体内部のMn含有率に対する蛍光体表面のMn含有率が70質量%以上130質量%以下であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上120質量%以下である。
【0033】
また、本発明の蛍光体は、Mnを発光中心とする蛍光体であれば母体組成に特に限定はないが、プラズマディスプレイパネルに適用可能な母体組成であることが好ましく、Zn2SiO4:Mn、BaAl1219:Mn、BaMgAl1017:Mn、YBO3:Mn等が挙げられる。本発明で、特に好ましい態様はZn2SiO4:Mnの結晶構造からなる蛍光体である。
【0034】
また、本発明において、Mnを発光中心とする蛍光体の具体的な製造方法として、酸化雰囲気での焼成を行った後に、不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気で焼成することが好ましい態様である。
【0035】
また、本発明者らは、蛍光体が劣化する原因のひとつに蛍光体中の欠陥、特に酸素欠陥が関係しているという知見を得た。また、原因のもう一つとして結晶歪が関係しているという知見を得た。
【0036】
例えば、Zn2SiO4:Mnでは、SiO4の正四面体構造と、その各頂点にある酸素がZn、もしくはMnと結合していると考えられている。しかしながら、酸素が充分にない雰囲気でZn2SiO4:Mnを焼成すると、Znが脱離し、SiO4が各頂点にある酸素同士を介して共有してしまい重合体になってしまうため、焼成は酸化雰囲気で行う必要がある。但し、このままでは蛍光体中のMnは一部酸化されてしまい、真空紫外線が主に吸収される蛍光体表面にあるMnのうち、3価又は4価又はこれら両方のMnの割合が多くなる。価数が増えることにより、Mnのイオン半径が小さくなり、結晶歪が大きくなってしまうため、酸化雰囲気で焼成を行った後に不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気で焼成を行い、蛍光体表面にあるMnの大部分を2価にする必要がある。
【0037】
なお、本発明において、これらの知見を得るにあたり、蛍光体の付活剤であるMnの化学状態を確認した。ここでMnの化学状態とは、Mnの価数及び平均含有率を指している。Mnの化学状態はX線光電子分光法(XPS)、X線吸収分光法、プラズマ分光法、蛍光X線分析法等で知ることができる。
【0038】
本実施形態においては、蛍光体表面のMn価数及び平均含有率は、X線光電子分光法によって確認を行うことができる。
【0039】
XPSとは試料に単色化されたX線を照射して表面から放出された光電子の運動エネルギーを分析する方法であり、試料表面の深さ数十Åに存在する元素組成を定性および定量することができる。さらに各元素のスペクトルには隣接する元素の影響を受けて化学シフト、電荷移動遷移に基づくとされるサテライト、多重項結合による内殻順位の分裂等が出現することから、各元素の化学状態の情報が得られる。
【0040】
その際、Mnの化学状態はXPSのスペクトル上で化学シフトとして現れ、付活剤の光電子ピークに対し、ピーク分離処理を行うことで、付活剤の様々な化学状態を定量的に評価することができる。
【0041】
また、XPSの分析装置としては、特に限定なく、いかなる機種も使用することができる。
【0042】
また、蛍光体内部のMn平均含有率は、誘導結合プラズマ発光分光法により確認を行うことができる。
誘導結合プラズマ発光分光法とは、アルゴンプラズマの高温中に試料を導入し,発生する各元素に特有の光を測定する方法であり、その光の強度は試料中の元素の量に比例することから、試料の高感度定性・定量分析が可能である。プラズマが高温であるためにほとんどの元素の最適測定条件がほぼ同じで、多元素同時分析や多元素逐次分析が可能である。
【0043】
また、蛍光体内部のMn価数は、二結晶型高分解能蛍光X線分析装置により確認を行った。
二結晶型高分解能蛍光X線分析方法とは、二結晶型の高分解能分光器を備えた蛍光X線分析で、通常の蛍光X線分析装置と比べて非常に高いエネルギー分解能を有しているので、元素の定性、定量分析だけでなく、蛍光X線スペクトルの形状の変化やエネルギーシフトからバルク情報としての元素の化学状態の分析が可能である。
【0044】
次に、上記したような特性が得られる蛍光体の製造方法について説明する。
本発明のMnを発光中心とする蛍光体は、蛍光体原料を混合して前駆体を形成する前駆体形成工程と、前駆体形成工程で得られた前駆体を焼成して蛍光体を得る焼成工程とを含む製造方法により得られる。なお、前駆体とは、製造される蛍光体の中間体化合物であり、上記したように焼成処理により蛍光体となる化合物である。
【0045】
まず、前駆体形成工程について説明する。
前駆体形成工程では、液相法(「液相合成法」ともいう。)により前駆体を形成することが好ましい。
【0046】
液相法とは、液体の存在下又は液中で蛍光体前駆体を作製することにより蛍光体を得る方法である。液相法では、蛍光体原料を液相中で反応させるので、反応は蛍光体を構成する元素イオン間で行われ、化学量論的に高純度な蛍光体が得やすい。また、固相間反応と粉砕工程とを繰り返し行いながら蛍光体を製造する固相法と比して、粉砕工程を行わずとも微小な粒径の粒子を得ることができ、粉砕時にかかる応力による結晶中の格子欠陥を防ぎ、発光効率の低下を防止することができる。
【0047】
本発明において、液相法として従来公知の共沈法、反応晶析法、ゾルゲル法等が好ましく用いられる。特に、Zn2SiO4:Mnでは、Si又はSiOX等のSi化合物を前駆体の母核とし、共沈法により前駆体を形成すると好ましい。
【0048】
共沈法とは、共沈現象を利用して、蛍光体の原料となる元素を含む溶液を混合し、さらに沈殿剤を添加することによって、蛍光体前駆体の母核の周囲に付活剤となる金属元素等を析出させた状態で、蛍光体前駆体を合成する方法を言う。
【0049】
共沈現象とは、溶液から沈殿を生じさせたとき、その状況では十分な溶解度があり、沈殿しないはずのイオンが沈殿に伴われる現象をいう。蛍光体の製造においては、蛍光体前駆体の母核の周囲に、付活剤を構成する金属元素などが析出する現象を指す。
【0050】
例えば、Si系化合物から構成される材料(Si系材料)を液体に分散させてなるSi系液状物と沈殿剤を含有する溶液Aと、Zn化合物及びMn化合物を含有する溶液Bとを混合する。この時、溶液Bにアルカリ土類金属化合物を含有すると更に好ましい。これらは、塩化物や硝酸塩等の各種金属化合物であると好ましく、溶媒中で陽イオンの状態で溶解するものであることが好ましい。
【0051】
溶媒としては、Si系材料を実質的に溶解しなければどのようなものでもよく、水若しくはアルコール類又はそれらの混合物であることが好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。特に、エタノールが好ましい。
【0052】
沈殿剤としては、有機酸または水酸化アルカリを好ましく使用できる。有機酸または水酸化アルカリは金属元素と反応し、沈殿物として有機酸塩または水酸化物を形成する。このとき、これらの沈殿物がSi系材料の周囲に析出していることが好ましい。
【0053】
有機酸としては、カルボン酸基(−COOH)を有するものが好ましく、具体的には、シュウ酸、蟻酸、酢酸、酒石酸等が挙げられる。また、加水分解等により、シュウ酸、蟻酸、酢酸、酒石酸等を生じるものであってもよい。
【0054】
水酸化アルカリとしては、水酸基(−OH)を有するもの、あるいは水と反応して水酸基を生じたり、加水分解により水酸基を生じたりするものであればいかなるものでもよく、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、尿素等が挙げられる。この中で、アンモニアが好ましく使用され、特に好ましくはアルカリ金属を含まないアンモニアである。
【0055】
このようにして得られた蛍光体前駆体は、本発明の蛍光体の中間生成物であり、この蛍光体前駆体を後述するような所定の温度に従って焼成することにより蛍光体を得ることが好ましい。
【0056】
次に、焼成工程について説明する。
焼成工程では、上記蛍光体形成工程により得た蛍光体前駆体を焼成処理することにより蛍光体を形成させる。
【0057】
蛍光体前駆体を焼成する際には、始めに酸化雰囲気で焼成を行い、その後、不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気で焼成する。その際、焼成温度や時間は最も性能が高くなるように調整すればよいが、好ましい焼成温度の態様としては、酸化雰囲気焼成を1000℃〜1300℃の範囲で行い、不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気で焼成を300℃〜1300℃の範囲で行うことである。更に好ましい態様としては酸化雰囲気温度を不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気の温度よりも高温で焼成することである。
例えば、窒素79%−酸素21%の酸化雰囲気下において、1200℃程度で3時間焼成を行い蛍光体前駆体を酸化した後に、窒素95%−水素5%の還元雰囲気下において600℃で4時間焼成することにより、目的の組成の蛍光体を得ることができる。
【0058】
焼成装置(焼成容器)は現在知られているあらゆる装置を使用することができる。例えば箱型炉、坩堝炉、円柱管型、ボート型、ロータリーキルン等が好ましく用いられる。
【0059】
また、焼成時に必要に応じて焼結防止剤を添加してもよい。焼結防止剤を添加する場合は、蛍光体前駆体形成時にスラリーとして添加することができる。また、粉状のものを乾燥済前駆体と混合して焼成してもよい。焼結防止剤は特に限定されるものではなく、蛍光体の種類、焼成条件によって適宜選択される。
【0060】
焼成工程を行った後、冷却処理、分散処理等の諸工程を施してもよく、分級してもよい。
【0061】
冷却処理工程では、焼成処理で得られた蛍光体を冷却する処理を行う。冷却処理は特に限定されないが、公知の冷却方法より適宜選択することができ、例えば、該焼成物を前記焼成装置に充填したまま冷却することができる。また、放置により温度低下させてもよいし、冷却機を用いて温度制御しながら強制的に温度低下させてもよい。
【0062】
分散処理工程では、焼成処理工程で得られた蛍光体を分散して蛍光体ペーストを作製する処理を行う。
【0063】
本発明において、蛍光体粒子を良好に分散させるのに適したバインダとしては、エチルセルロースあるいはポリエチレンオキサイド(エチレンオキサイドのポリマ)が挙げられ、特に、エトキシ基(−OC25)の平均含有率が49〜54%のエチルセルロースを用いるのが好ましい。また、バインダとして感光性樹脂を用いることも可能である。バインダの含有量としては0.15質量%〜10質量%の範囲内が好ましい。なお、隔壁30間に塗布される蛍光体ペーストの形状を整えるため、バインダの含有量は、ペースト粘度が高くなり過ぎない範囲内で多めに設定するのが好ましい。
【0064】
溶剤としては、水酸基(OH基)を有する有機溶剤を混合したものを用いるのが好ましく、その有機溶剤の具体例としては、ターピネオール(C1018O)、ブチルカルビトールアセテート、ペンタンジオール(2,2,4−トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート)、ジペンテン(Dipentene、別名Limonen)、ブチルカルビトール等が挙げられる。これらの有機溶剤を混合した混合溶剤は、上記のバインダを溶解させる溶解性に優れており、蛍光体ペーストの分散性が良好になり好ましい。
【0065】
蛍光体ペースト中の蛍光体粒子の分散安定性を向上させるために、分散剤として、界面活性剤を添加すると好ましい。蛍光体ペースト中の界面活性剤の含有量としては、分散安定性の向上効果あるいは後述する除電効果等を効果的に得る観点から、0.05質量%〜0.3質量%が好ましい。
【0066】
界面活性剤の具体例としては、(a)アニオン性界面活性剤、(b)カチオン性界面活性剤、(c)ノニオン性界面活性剤を用いることができ、それぞれ具体的には下記のようなものがある。
(a)アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸、エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸ポリカルボン酸高分子等が挙げられる。
(b)カチオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイド等が挙げられる。
(c)ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。
【0067】
更に、蛍光体ペーストに除電物質を添加すると好ましい。前述の界面活性剤は、一般的に蛍光体ペーストの帯電を防止する除電作用も有しており、除電物質に該当するものが多い。但し、蛍光体、バインダ、溶剤の種類によって除電作用も異なるので、色々な種類の界面活性剤について試験を行って、結果の良好なものを選択するのが好ましい。除電物質としては、界面活性剤の他に、導電性の材料からなる微粒子も挙げることができる。導電性微粒子としては、カーボンブラックをはじめとするカーボン微粉末、グラファイトの微粉末、Al、Fe、Mg、Si、Cu、Sn、Agといった金属の微粉末、並びにこれらの金属酸化物からなる微粉末が挙げられる。このような導電性微粒子の添加量は、蛍光体ペーストに対して0.05〜1.0質量%の範囲とするのが好ましい。蛍光体ペーストに除電物質を添加することによって蛍光体ペーストの帯電により、例えば、パネル中央部のアドレス電極の切れ目における蛍光体層の盛り上がりや、セル内に塗布される蛍光体ペーストの量や溝への付着状態に若干のばらつきが生じる等の蛍光体層の形成不良を防ぎ、セル毎に均質な蛍光体層を形成することができる。
【0068】
なお、上記のように除電物質として界面活性剤やカーボン微粉末を用いた場合には、蛍光体ペーストに含まれている溶剤やバインダを除去する蛍光体焼成工程において除電物質も蒸発あるいは焼失されるので、焼成後の蛍光体層中には除電物質が残存しない。従って、蛍光体層中に除電物質が残存することによってプラズマディスプレイパネルの駆動(発光動作)に支障が生じる可能性も無い。
【0069】
本発明の蛍光体を上記各種混合物に分散する際には、例えば高速攪拌型のインペラー型の分散機、コロイドミル、ローラーミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライタミル、遊星ボールミル、サンドミルなど媒体メディアを装置内で運動させてその衝突(crush)及び剪断力の両方により微粒化するもの、又はカッターミル、ハンマーミル、ジェットミル等の乾式型分散機、超音波分散機、高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
【0070】
その後、上記のように調整した蛍光体ペーストを放電セル31に塗布又は充填する。なお、蛍光体ペーストを放電セル31に塗布又は充填する際には、スクリーン印刷法、フォトレジストフィルム法、インクジェット法など種々の方法で行うことができる。特に、インクジェット法は、隔壁30のピッチが狭く、放電セル31が微細に形成されている場合であっても、隔壁30間に低コストで容易に精度良く均一に蛍光体ペーストを塗布又は充填できるので好ましい。
【0071】
次に、図1を参照して、本発明に係るプラズマディスプレイパネルの実施形態について説明する。なお、プラズマディスプレイパネルには、電極の構造及び動作モードから大別すると、直流電圧を印加するDC型と、交流電圧を印加するAC型のものとがあるが、図1には、AC型プラズマディスプレイパネルの構成概略の一例を示した。
【0072】
図1に示すプラズマディスプレイパネル1は、表示側に配置される基板である前面板10と前面板10に対向する背面板20とを備えている。
まず、前面板10について説明する。前面板10は、可視光を透過し、基板上に各種の情報表示を行うもので、プラズマディスプレイパネル1の表示画面として機能するものであり、前面板10には、表示電極11、誘電体層12、保護層13等が設けられている。
【0073】
前面板10として、ソーダライムガラス(青板ガラス)等の可視光を透過する材料を好ましく使用できる。前面板10の厚さとしては、1〜8mmの範囲が好ましく、より好ましくは2mmである。
【0074】
表示電極11は、前面板10の背面板20と対向する面に複数設けられ、規則正しく配置されている。表示電極11は、透明電極11aとバス電極11bとを備え、幅広の帯状に形成された透明電極11a上に、同じく帯状に形成されたバス電極11bが積層された構造となっている。なお、バス電極11bの幅は、透明電極11aよりも狭く形成されている。なお、表示電極11bは所定の放電ギャップをあけて対向配置された2つで一組となっている。
【0075】
透明電極11aとしては、ネサ膜等の透明電極が使用でき、そのシート抵抗は、100Ω以下であることが好ましい。透明電極11aの幅としては、10〜200μmの範囲が好ましい。
【0076】
バス電極11bは、抵抗を下げるためのものであり、Cr/Cu/Crのスパッタリング等により形成できる。バス電極11bの幅としては、5〜50μmの範囲が好ましい。
【0077】
誘電体層12は、前面板10の表示電極11が配された表面全体を覆っている。誘電体層12は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。誘電体層12の厚さとしては、20〜30μmの範囲が好ましい。誘電体層12の表面は保護層13により全体的に覆われる。保護層13は、MgO膜を使用することができる。保護層13の厚さとしては、0.5〜50μmの範囲が好ましい。
【0078】
次に、背面板20について説明する。
背面板20には、アドレス電極21、誘電体層22、隔壁30、蛍光体層35R、35G、35B等が設けられている。
【0079】
背面板20は、前面板10と同様に、ソーダライムガラス(青板ガラス)等が使用できる。背面板20の厚さとしては、1〜8mmの範囲が好ましく、より好ましくは2mm程度である。
【0080】
アドレス電極21は、背面板20の、前面板20と対向する面に複数設けられている。アドレス電極21も、透明電極11aやバス電極11bと同様に帯状に形成されている。アドレス電極21は、平面視において、表示電極11と直交するように、所定間隔毎に複数設けられている。
【0081】
アドレス電極21は、Ag厚膜電極等の金属電極を使用することができる。アドレス電極21の幅は、100〜200μmの範囲が好ましい。
【0082】
誘電体層22は、背面板20のアドレス電極21が配された表面全体を覆っている。この誘電体層22は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。誘電体層22の厚さとしては、20〜30μmの範囲が好ましい。
【0083】
誘電体層22上には、背面板20側から前面板10側に突出するように、長尺に形成された隔壁30がアドレス電極21の両側方に設けられている。このため、隔壁30は、背面板20と前面板10を水平に配置したときに、所定間隔毎に平行に(すなわち、ストライプ状に)に配設されており、この隔壁30によって背面板20と前面板10を所定形状に区画する複数の微少放電空間(以下、放電セルという)31が形成される。また、隔壁30は、平面視において前記した表示電極11と直交している。
【0084】
なお、隔壁30は、低融点ガラス等の誘電物質から形成することができる。隔壁30の幅は、10〜500μmの範囲が好ましく、100μm程度がより好ましい。隔壁30の高さ(厚み)としては、通常、10〜100μmの範囲であり、50μm程度が好ましい。
【0085】
各放電セル31には、赤(R)、緑(G)、青(B)のいずれかに発光する蛍光体から構成された蛍光体層35R、35G、35Bのいずれかが規則正しい順序で設けられている。各蛍光体層35R、35G、35Bの厚さは特に限定されるものではないが、5〜50μmの範囲が好ましい。
【0086】
また、各放電セル31の内側には、放電ガスが封入されており、平面視において前記電極11、21が交差する点が少なくとも一つ設けられている。
【0087】
なお、蛍光体層35Gの形成に当たっては、前述した本発明の蛍光体をバインダ、溶剤、分散剤などの混合物に分散し、適度な粘度に調整された蛍光体ペーストを放電セル31に塗布又は充填し、その後乾燥又は焼成することにより隔壁側面30a及び底面30aに本発明の蛍光体が付着した蛍光体層35Gを形成させるものとする。なお、蛍光体ペーストの調整は従来公知の方法により行うことができる。また、蛍光体ペースト中の蛍光体の含有量としては30質量%〜60質量%の範囲にするのが好ましい。
【0088】
蛍光体ペーストを放電セル31R、31G、31Bに塗布又は充填する際には、スクリーン印刷法、フォトレジストフィルム法、インクジェット法など種々の方法で行うことができる。
【0089】
一方、蛍光体層35R及び35Bの形成に当たっては、従来公知の方法で製造された赤色及び青色の蛍光体及び蛍光体ペーストを作製し、蛍光体層35Gを形成する際と同様にして、隔壁側面30a及び底面30aに赤色及び青色の蛍光体が付着した蛍光体層35R及び35Bを形成させるものとする。
【0090】
このようにプラズマディスプレイパネルを構成させることにより、表示の際には、アドレス電極21と一組の表示電極11、11のうちいずれか一方の表示電極との間で選択的にトリガー放電を行わせることにより、表示を行う放電セルを選択させる。その後、選択された放電セル内において一組の表示電極11、11間でサステイン放電を行わせることにより放電ガスに起因する紫外線を生じさせ、蛍光体層35R、35G、35Bから可視光を生じさせることを可能にする。
【0091】
以上のことから、本発明では、始めに蛍光体を酸化雰囲気で焼成をさせることにより、蛍光体を構成するMnを3〜4価が混在した状態にさせており、結晶歪を生じさせてしまう恐れがあるものの、酸素欠陥を防いだ状態にさせている。その後、この蛍光体を不活性雰囲気又は還元雰囲気又はこれら両方の雰囲気で焼成をさせることにより、真空紫外線で影響の受けやすい蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上、好ましくは90質量%以上を2価で存在させて、蛍光体を内部と表面でMnの価数が異なる2層構造とさせている。
その結果、始めに行う酸化雰囲気で生じる結晶歪を防いで蛍光体粒子表面のZn等の脱離を防ぎつつ、従来の2価Mnから構成される蛍光体及び2〜4価のMnを混在させた蛍光体に比べ、積極的に酸素欠陥の減少及び発光に寄与する2価のMnを増やすことができる。したがって、本発明に係る蛍光体は真空紫外線による劣化を防止することができ、輝度を向上させるとともに、経時的な劣化を防ぐことができる。
また、特に、Zn2SiO4:Mnの結晶構造からなる蛍光体では、これらの効果が如実に現れる。
したがって、本発明の蛍光体を使用したプラズマディスプレイパネルにおいては、経時的な輝度劣化が大幅に軽減されて寿命を長くすることが可能になる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明に係る実施例1および実施例2を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0093】
〔実施例1〕
本実施例1では、緑色蛍光体(Zn2SiO4:Mn2+)として蛍光体1−1〜1−3を作製し、得られた蛍光体から作製した蛍光体ペーストを用いてプラズマディスプレイパネルを製造し、プラズマディスプレイパネルの発光強度を評価した。まず、プラズマディスプレイパネルに用いられる蛍光体の作製について説明する。
【0094】
1.蛍光体の作製
(1)蛍光体1−1の作製
二酸化ケイ素45gを含むコロイダルシリカ(扶桑化学工業株式会社製 PL−3)とアンモニア水(28%)219gを純水に混合して液量を1500ccに調整したものをA液とした。同時に、硝酸亜鉛6水和物(関東化学株式会社製、純度99.0%)424gと硝酸Mn6水和物(関東化学株式会社製、純度98.0%)21.5gを純水に溶解して液量を1500ccに調整したものをB液とした。
【0095】
A液とB液を40℃に保温した後、ローラーポンプを使って1200cc/minの添加速度で図2に示すようなY字形反応装置に供給した。反応により得られた沈殿物を純水で希釈後、加圧ろ過を行い固液分離した。次いで、100℃、12時間乾燥を行い、乾燥済み前駆体を得た。
【0096】
次に、得られた前駆体を酸化雰囲気下(窒素79%−酸素21%)で1280℃、9時間焼成して蛍光体1−1を得た。
【0097】
(2)蛍光体1−2の作製
乾燥済み前駆体を還元雰囲気下(窒素95%−水素5%)で1280℃、3時間焼成した後、酸化雰囲気下(窒素90%−酸素10%)で1000℃、4時間焼成する以外は上記(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−2を得た。
【0098】
(3)蛍光体1−3の作製
乾燥済み前駆体を酸化雰囲気下(窒素79%−酸素21%)で1280℃、3時間焼成した後、不活性雰囲気下(窒素)で1000℃、4時間焼成する以外は上記(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−3を得た。
【0099】
(4)蛍光体1−4の作製
乾燥済み前駆体を酸化雰囲気下(窒素79%−酸素21%)で1280℃、3時間焼成した後、還元雰囲気下(窒素98%−水素2%))で1000℃、4時間焼成する以外は上記(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−4を得た。
【0100】
(5)赤色蛍光体〔(Y,Gd)BO3:Eu〕の作製
保護コロイドの存在下で反応晶析法により赤色蛍光体前駆体を形成した。まず、純水300mlにゼラチン(平均分子量約1万5千)をその濃度が5重量%となるように溶解しA液とした。
【0101】
また、硝酸イットリウム6水和物28.99gと、硝酸ガドリニウム15.88gと、硝酸ユウロピウム6水和物2.60gを純水に溶解して150mlに調整してB液とした。さらに、ホウ酸8.20gを純水に溶解して150mlに調整してC液とした。
【0102】
次に、反応容器にA液を入れ温度を60℃に保ち、攪拌翼を用いて攪拌を行った。その状態で同じく60℃に保ったB液、C液をA液の入った反応容器下部ノズルより60ml/minの速度で等速添加を行った。添加後10分間熟成を行い、赤色前駆体を得た。その後赤色前駆体を濾過、乾燥(105℃、16時間)し、更に、1200℃酸化条件下で2時間焼成して赤色蛍光体を得た。
【0103】
(6)青色蛍光体(BaMgAl1017:Eu)の作製
上記(1)と同様に、純水300mlにゼラチン(平均分子量約1万5千)をその濃度が5重量%となるように溶解し、A液とした。また、硝酸バリウム5.80gと、硝酸ユウロピウム6水和物0.89gと、硝酸マグネシウム6水和物5.13gを純水295.22mlに溶解し、B液とした。さらに、硝酸アルミニウム9水和物85.03gを純水268.85mlに溶解し、C液とした。
【0104】
上記の様に調整したA液、B液、C液を上記の1(1)で示した方法と同様に反応晶析法により青色蛍光体前駆体を形成し、焼成等を行い、平均粒径0.52μmの青色蛍光体を得た。
【0105】
2.蛍光体ペーストの調製
上記で作製した緑色蛍光体1−1〜1−4及び赤色蛍光体、青色蛍光体を用いて、それぞれ緑色蛍光体ペースト2−1〜2−4及び赤色蛍光体ペースト、青色蛍光体ペーストを調整した。調整の際には、それぞれの蛍光体の固形分濃度が50質量%となるようにして、エチルセルロース、ポリオキシレンアルキルエーテル、ターピネオール及びペンタジオールの1:1混合液と共にそれぞれ混合した。
【0106】
3.プラズマディスプレイパネルの製造
(1)プラズマディスプレイパネル3−1の製造
上記で調整した蛍光体ペースト2−1と、赤色蛍光体ペースト、青色蛍光体ペーストを用いて、以下のように図1に示すプラズマディスプレイパネルを製造した。
【0107】
まず、前面板10となるガラス基板上に、透明電極11aとして透明電極を配置する。次に、Cr−Cu−Crをスパッタリングし、フォトエッチングを行うことによりバス電極11bを透明電極11a上に形成し、表示電極11とする。そして、前記表面ガラス基板10上に、表示電極11を覆うように低融点ガラスを印刷し、これを500〜600℃で焼成することにより誘電体層12を形成する。さらに誘電体層12の上に、MgOを電子ビーム蒸着して保護膜13を形成する。
【0108】
一方、背面板20上には、Ag厚膜を印刷し、これを焼成することにより、アドレス電極21を形成する。そして、前記背面板20上で、且つ、アドレス電極21の両側方に隔壁30を形成する。隔壁30は、低融点ガラスをピッチ0.2mmで印刷し、焼成することにより形成できる。さらに、前記隔壁30により区画された放電セル31の底面(アドレス電極21上)31aと側面30aとに、上記蛍光体ペースト2−1と、赤色蛍光体ペースト、青色蛍光体ペーストを塗布又は充填する。
【0109】
このとき、一つの放電セル31につき、一色の蛍光体ペーストを用いる。その後、蛍光体ペーストを乾燥又は焼成して、ペースト中の有機成分を除去し、放電セル31R、31G、31Bにそれぞれ発光色が異なる蛍光体層35R、35G、35Bを形成する。
【0110】
そして、前記電極11、21等が配置された前記前面板10と背面板20とを、それぞれの電極配置面が向き合うように位置合わせし、約1mmのギャップを保った状態で、その周辺をシールガラス(図示略)により封止する。そして、前記基板10、20間に、放電により紫外線を発生するキセノン(Xe)と主放電ガスのネオン(Ne)とを混合したガスを封入して気密密閉した後、エージングを行い、プラズマディスプレイパネル3−1とした。
【0111】
(2)プラズマディスプレイパネル3−2の製造
上記(1)において、蛍光体ペースト2−1の代わりに、上記で調製した蛍光体ペースト2−2を用いる以外は、上記(1)のプラズマディスプレイパネル3−1と同様にして、プラズマディスプレイパネル3−2を製造した。
【0112】
(3)プラズマディスプレイパネル3−3の製造
上記(1)において、蛍光体ペースト3−1の代わりに、上記で調製した蛍光体ペースト2−3を用いる以外は、上記(1)のプラズマディスプレイパネル3−1と同様にして、プラズマディスプレイパネル3−3を製造した。
【0113】
(4)プラズマディスプレイパネル3−4の製造
上記(1)において、蛍光体ペースト2−1の代わりに、上記で調製した蛍光体ペースト2−4を用いる以外は、上記(1)のプラズマディスプレイパネル3−1と同様にして、プラズマディスプレイパネル3−4を製造した。
【0114】
4.発光強度の測定
まず、上記で得られたプラズマディスプレイパネル3−1〜プラズマディスプレイパネル3-4に対して、プラズマディスプレイパネルの点灯直後の発光輝度(初期輝度)を測定した。その後、プラズマディスプレイパネル3−1に対し、プラズマディスプレイパネル3−1の発光輝度が初期輝度の50%になるまで緑色表示をし続けた時間を測定した。そして、プラズマディスプレイパネル3−2〜3−4に対し、プラズマディスプレイパネル3−1の輝度が初期輝度の50%になるまで緑色表示をし続けた時間と同じ時間点灯を行い、点灯終了時の発光輝度(劣化後の輝度)を測定した。その結果を下記表1に示す。なお、表1中に示す初期輝度及び劣化後の輝度は、プラズマディスプレイパネル3−1の初期輝度を100とした場合のプラズマディスプレイパネル3−2〜3−4の相対発光輝度である。また、併せて、蛍光体1−1〜1−4の各蛍光体表面に存在するMnに対するMn2+の割合を下記表1に示す。
【0115】
その際に、蛍光体1−1〜1−4の蛍光体表面のMn価数の測定には、VGエレメンタル社製X線光電子分光分析装置ESCALab200Rを用いて測定した。なお、X線光電子分光分析装置が測定する範囲は、蛍光体粒子最表面から2〜5nm程度の深さの領域である。
【0116】
また、蛍光体1−1〜1−4の蛍光体内部のMn価数の測定には、テクノス社製二結晶型高分解能蛍光X線分析装置Technos XFRA 190を用いた。
【0117】
その結果、全ての試料について、蛍光体内部のMnの価数が単純な単一状態ではなく、2価及び3価、4価の混合状態であることを確認した。
【0118】
【表1】

【0119】
また、結果は、表1に示した通りである。表1によると、本発明のプラズマディスプレイパネル3−3及び3−4では初期輝度の向上が見られる。また、プラズマディスプレイパネル3−1の初期輝度の50%まで輝度劣化した時間と同じ時間、プラズマディスプレイパネル3−2〜3−4を点灯させて緑色表示し続けた結果、本発明のプラズマディスプレイパネル3−3及び3−4では、経時的な輝度劣化に軽減が見られた。
【0120】
〔実施例2〕
1.蛍光体の作製
【0121】
(1)蛍光体1−5の作製
実施例1で作製した乾燥済み前駆体を酸化雰囲気下(窒素79%−酸素21%)で1280℃、9時間焼成した後、還元雰囲気下(窒素98%−水素2%)で1000℃、4時間焼成する以外は実施例1記載の(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−5を得た。
【0122】
(2)蛍光体1−6の作製
実施例1で作製した乾燥済み前駆体を酸化雰囲気下(窒素79%−酸素21%)で1280℃、9時間焼成した後、還元雰囲気下(窒素99%−水素1%)で1000℃、7時間焼成する以外は実施例1記載の(1)の蛍光体1−1と同様にして蛍光体1−6を得た。
【0123】
2.蛍光体ペーストの調製
上記で作製した蛍光体1−5、1−6を用いて、それぞれ蛍光体ペースト2−5、2−6を調整した。調整の際には、それぞれの蛍光体の固形分濃度が50質量%となるようにして、エチルセルロース、ポリオキシレンアルキルエーテル、ターピネオール及びペンタジオールの1:1混合液と共にそれぞれ混合した。
【0124】
3.プラズマディスプレイパネルの製造
(1)プラズマディスプレイパネル3−5の製造
上記で調整した蛍光体ペースト2−5と、赤色蛍光体ペースト、青色蛍光体ペーストを用いて、実施例1におけるプラズマディスプレイパネル3−1と同様にして、プラズマディスプレイパネルを製造し、これをプラズマディスプレイパネル3−5とした。
(2)プラズマディスプレイパネル3−6の製造
上記(1)において、蛍光体ペースト2−5の代わりに、上記で調製した蛍光体ペースト2−6を用いる以外は、上記(1)のプラズマディスプレイパネル3−5と同様にして、プラズマディスプレイパネル3−6を製造した。
4.発光強度の測定
実施例1で製造したプラズマディスプレイパネル3−4及び上記で製造したプラズマディスプレイパネル3−5、3−6に対して、プラズマディスプレイパネル3−1の輝度が初期輝度の50%になるまで緑色表示をし続けた時間と同じ時間点灯を行い、劣化後の輝度を測定した。その結果を下記表2に示す。なお、表2中に示す初期輝度及び劣化後の輝度は、プラズマディスプレイパネル3−1の初期輝度を100とした場合のプラズマディスプレイパネル3−4〜3−6の相対発光輝度である。また、併せて、蛍光体1−4〜1−6の各蛍光体表面に存在するMnに対するMn2+の割合とMnの分散性を下記表2に示す。
【0125】
その際、各蛍光体の蛍光体表面のMn価数及びMn含有率の測定については、VGエレメンタル社製X線光電子分光分析装置ESCALab200Rを用い、実施例1と同様の手順で行った。
【0126】
また、蛍光体内部のMnの含有率については、フッ酸による溶解の後、セイコー電子工業製誘導結合プラズマ発光分光分析装置SPS5000あるいはVGエレメンタル社製誘導結合プラズマ質量分析装置QP−Ωを用いた。定量の際には別途関東化学製の標準原液及び硝酸(超高純度)を添加した基準濃度液を調整し、検量線法で定量を行った。
【0127】
そして、上記で求めた蛍光体の表面と内部におけるMnの含有率を基に、蛍光体中のMnの分散性を求めた。なお、蛍光体中のMnの分散性については、蛍光体内部のMnの含有率に対する蛍光体表面のMn含有率の比率で示した。
【0128】
また、蛍光体内部のMn価数については、テクノス社製二結晶型高分解能蛍光X線分析装置Technos XFRA 190を用いた。
【0129】
その結果、全ての試料について、蛍光体内部のMnの価数が単純な単一状態ではなく、2価及び3価、4価の混合状態であることが確認された。
【0130】
【表2】

【0131】
結果は、表2に示した通りである。Mnの分散性を上げることで、本発明のプラズマディスプレイパネルでは初期輝度の更なる向上が見られるとともに、プラズマディスプレイパネル3−1を緑色表示し続けて初期輝度の50%まで輝度劣化した時間と同等の時間だけ、プラズマディスプレイパネル3−4〜3−6を緑色表示し続けた結果、本発明のプラズマディスプレイパネルでは、更なる輝度劣化の軽減が見られた。
【0132】
以上のように、本発明のMnを発光中心とする蛍光体を用いたプラズマパネルディスプレイにおいては、パネル輝度が大幅に改善し、且つ、経時的な輝度劣化を抑えることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明に係るプラズマディスプレイパネルの一例を示した斜視図である。
【図2】蛍光体を作製するときのY字形反応装置の概略図である。
【符号の説明】
【0134】
1 プラズマディスプレイパネル
10 基板
20 基板
30 隔壁
31R、31G、31B 放電セル
35R、35G、35B 蛍光体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mnを発光中心とする蛍光体であって、蛍光体粒子の内部には2価のMnと、3価又は4価のいずれか又は両方のMnとが混在しているとともに、前記蛍光体粒子表面のMnの80質量%以上が2価で存在していることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光体粒子表面のMnの90質量%以上が2価で存在していることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記Mnが前記蛍光体粒子中に均一に存在していることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
Zn2SiO4:Mnの結晶構造からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の前記蛍光体を放電セルに備えていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
Mnを発光中心とする蛍光体の前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記前駆体形成工程で得られた前記前駆体を酸化雰囲気で焼成した後に不活性ガス雰囲気又は還元雰囲気で焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−52363(P2006−52363A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236649(P2004−236649)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】