蛍光体及び蛍光体の製造方法、並びに発光装置
【課題】高い発光強度が得られるカルコパイライト系蛍光体を提供する。また該蛍光体の製造方法、及び該蛍光体を用いた発光装置を提供する。
【解決手段】マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを含有させる。また、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成して、蛍光体を得る。
【解決手段】マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを含有させる。また、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成して、蛍光体を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた発光装置に関する。特に、カルコパイライト系化合物とマンガンとケイ素を含有する蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先に、本願発明者らによる研究の結果、カルコパイライト系化合物に発光中心となるマンガン原子を加えてなる蛍光体に所定量のケイ素を加えると、発光強度が著しく向上することの知見を得たので、本願出願人は、かかる知見に基づいて完成した発明について特許出願を行い、該特許出願は既に出願公開された(特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体中のケイ素の含有量が所定範囲にあるとき、該蛍光体の発光強度が著しく向上することを開示している。
【0004】
また、前記蛍光体中のケイ素の含有量は2モル%〜50モル%の範囲が好ましく、前記蛍光体中のケイ素の含有量を5モル%〜30モル%の範囲にすれば、更に好ましいこと、および、前記蛍光体中のケイ素の含有量の最適値が20モル%前後であることも、特許文献1に開示されている。
【0005】
また、Cu2S、Al2S3、Ga2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnS、MnSe、Si、Se及びSを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成すると、前記蛍光体が得られることも、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、特許文献1に記載の蛍光体は、ケイ素を含有しない従来の蛍光体に比べて著しく高い発光強度を有するが、用途によっては、更に高い発光強度が求められる場合があるので、発光強度がまだ不十分な場合があった。
【0008】
本発明は、このような背景の下でなされたものであり、特許文献1に記載の蛍光体を改良して、更に高い発光強度を有するカルコパイライト系蛍光体を提供することを目的とする。また該蛍光体の製造方法、及び該蛍光体を用いた発光装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る蛍光体は、マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体において、その出発原料に金属アルミニウムを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る発光装置は、前述した蛍光体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マンガンを発光中心原子として含み、かつケイ素を0.01モル以上0.5モルの範囲で含有する、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを加えることによって、該蛍光体の発光強度を著しく向上させることができる。
【0013】
また本発明によれば、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成することによって、発光強度が著しく高い蛍光体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示す発光ダイオードの概念図である。
【図2】本発明の実施形態を示す冷陰極蛍光ランプの概念図である。
【図3】本発明の実施形態を示す電界放出型表示(FED)装置の概念図である。
【図4】本発明の実施形態を示す真空蛍光表示(VFD)装置の概念図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の蛍光体のX線回析パターン図である。
【図6】本発明の実施例の蛍光体のPL強度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例の蛍光体の発光ピーク波長を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例の蛍光体の発光輝度を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例の蛍光体の発光のCIE−x座標を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例の蛍光体の発光のCIE−y座標を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例の蛍光体のPLE強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蛍光体は、下記の組成式で表される。
Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si
ただし、上記式中、xは0≦x≦0.4を満たす数を示し、yは0≦y≦0.4を満たす数を示す。
【0016】
また、本発明の蛍光体は、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2で表されるカルコパイライト系化合物を含有する。これらのカルコパイライト系化合物は、特にワイドバンドギャップを有し、発光中心原子の発光波長を長波長側へシフトさせる作用を有する。前記組成式で表されるカルコパイライト系化合物のうち、CuAlS2、CuAlSe2等は、蛍光の発光強度を著しく高くするので、特に好ましい。
【0017】
本発明の蛍光体は、マンガン原子を、前記組成式で表されるカルコパイライト系化合物を賦活する発光中心原子として含有する。マンガン原子は複合体となって蛍光体中に存在するが、前記カルコパイライト系化合物にマンガン原子を添加すると、波長250〜450nmの励起光により、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる550〜750nmの範囲のブロードな赤色蛍光が得られる。また、本発明の蛍光体中のマンガン原子の含有量を増やすと、発光強度は高くなり、発光ピーク波長も長波長側へシフトする。例えばCuAlS2に、発光中心原子としてマンガン原子を添加した蛍光体に、波長365nmの励起光を照射する場合に、前記蛍光体のマンガン原子の含有量を、0.1モル%から5モル%まで増やすと、発光強度は増加する。また、マンガン原子の含有量が0.1モル%の場合の発光ピーク波長は595nmであり、マンガン原子の含有量が5モル%の場合の発光ピーク波長は629nmである。つまりマンガン原子の含有量を大きくすると、発光ピーク波長は長波長側へシフトする。本発明の蛍光体中のマンガン原子の含有量は、0.1モル%〜20モル%が好ましいが、マンガン原子の含有量を10モル%前後にするのが特に好ましい。
【0018】
本発明の蛍光体はケイ素、セレンを含有するので、フラックス効果を有する。フラックス効果は、本発明の蛍光体の発光強度及び発光波長に影響を及ぼす。また、フラックス効果は、マンガン原子とカルコパイライト系化合物の融合を促進させ、結晶格子構造の欠陥を減少させ、励起光によるフォノンの生成を抑制するので、マンガン原子の発光を促進させる。本発明の蛍光体はケイ素、セレンを含有することにより、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる550〜750nmの範囲のブロードな赤色蛍光の発光が促進される。例えば、CuAlS2にケイ素を加えた蛍光体に、波長365nmの励起光を照射する場合、ケイ素の含有量が低いときは、ケイ素を添加しないときよりも、発光強度は低くなるが、ケイ素の含有量が1モル%から10モル%の範囲では、ケイ素の含有量の増加とともに発光強度は増加し、10モル%近傍で発光強度は最大となる。ケイ素の含有量が10モル%近傍を超えると、発光強度は減少する。また、ケイ素の含有量が10モル%近傍になるまでは、ケイ素の含有量の増加とともに発光ピーク波長は長波長側へシフトし、ケイ素の含有量が20モル%近傍になると発光ピークは徐々に短波長側へシフトする傾向が見られる。本発明の蛍光体中のケイ素の含有量は、2モル%〜50モル%が好ましく、5モル%〜30モル%がさらに好ましい。ケイ素の含有量を10モル%前後にすると、発光強度が高くなるので、特に好ましい。
【0019】
なお、本発明の蛍光体にセレンを添加しても添加しなくても蛍光体の発光特性(発光強度、発光色)は同等であるが、添加すると粉体色が白くなることが本願発明者らの実験によって確認された。セレンの添加によって粉体色が白くなる理由についてはわかっていないが、一般に、照明デバイスの市場では、白い粉体色の蛍光体が好まれるので、セレンを添加するほうが好ましい。
【0020】
本発明の蛍光体は、その出発原料に金属アルミニウムを含有する。出発原料に金属アルミニウムを含有することによって、本発明の蛍光体は発光強度が著しく向上する。なお、その具体的な効果については、後述する。
【0021】
本発明の蛍光体は、Cu2S、Al2S3、MnS、Siと金属アルミニウムを、Cu、Al、Mn、Siが製造しようとする蛍光体の組成式に相当するモル比となるような比率で混合したものに、更に硫黄を加えて混合した原材料を、焼成温度1000℃、焼成温度1時間で焼成することによって得られる。
【0022】
あるいは、本発明の蛍光体は、Cu2S、Al2S3、Ga2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnS、MnSe、Si、Seと金属アルミニウムを、Cu、Al、Ga、Mn、Si、Seが製造しようとする蛍光体の組成式に相当するモル比となるような比率で混合したものに、更に硫黄を加えて混合した原材料を、焼成温度1000℃、焼成温度1時間で焼成することによって得られる。
【0023】
本発明の発光装置は、前述したような本発明に係る蛍光体を備える発光装置、例えば、発光ダイオード等の発光素子、エレクトロルミネッセンス素子、冷陰極蛍光ランプや熱陰極蛍光ランプ等の蛍光ランプ、電界放出型表示(FED)装置、真空蛍光表示(VFD)装置などのような、各種発光装置である。つまり、マンガンを発光中心原子として含み、かつケイ素を0.01モル以上0.5モルの範囲で含有し、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表されるとともに、その出発原料に金属アルミニウムを含有する蛍光体を備える発光装置は、形式や種類の如何を問わず、すべて本発明の発光装置に包含される。
【0024】
例えば、図1に示すような発光ダイオード1を、本発明に係る発光装置の例として挙げることができる。この発光ダイオード1は、透明基板2の上に盛り上げられた透明樹脂3の中に、紫外線を発光する紫外線ダイオード4を封止するともに、透明樹脂3中に、蛍光体5が担持されている。なお、透明樹脂3の外表面にミラー加工を施して、外表面がミラーとして作用するようにしてもよい。
【0025】
紫外線ダイオード4は、電圧が印加されると、紫外線を放射する素子、例えば、GaN系の近紫外線発光ダイオードである。紫外線ダイオード4には、図示しない配線が接続されていて、この配線を介して電圧が印加されて、250〜450nmの波長の紫外線を放射する。この紫外線を受けると、蛍光体5は550〜750nmの赤色蛍光を放射する。
【0026】
また、赤色蛍光を発光する蛍光体5に加えて、透明樹脂3の中に緑色及び青色の蛍光を発光する緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体を担持させて、発光ダイオード1が白色光を発光するようにすることもできる。
【0027】
なお、言うまでもないことだが、緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体は紫外線ダイオード4が放射する紫外線、つまり250〜450nmの波長の紫外線で励起される蛍光体である。青色発光蛍光体の具体例としては(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO4)5Cl2:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+等を、また、緑色発光蛍光体の具体例としてZnS:Cu、Al、BaMgAl10O17:Eu、Mn等を、それぞれ、挙げることができる。
【0028】
また、図2に示すような冷陰極蛍光ランプ11は液晶パネルのバックライトに用いられるが、この冷陰極蛍光ランプ11も本発明の発光装置の例として挙げることができる。図2に示すように、冷陰極蛍光ランプ11はガラス等からなる透明管12を備えている。透明管12の両端はビードガラス等の封止部材13で気密に封止され、大気圧の数十分の一程度に減圧され、さらに、希ガス及び水銀が所定量導入されている。また、透明管12の内壁面には、ほぼ全長に亘って蛍光体層14が形成され、蛍光体層14には、前述したような本発明に係る蛍光体が担持されている。また、透明管12の両端には、カップ状電極15が配置され、この一対のカップ状電極15の開口部16は互いに向かいあっている。また、カップ状電極15には、リード線17がそれぞれ接続され、リード線17は封止部材13を貫通して透明管12の外部に引き出されている。なお、透明管12の外径は、1.5〜6.0mmの範囲、好ましくは1.5〜5.0mmの範囲である。
【0029】
2本のカップ状電極15の間に電圧が印加されると、透明管12の中に僅かに存在する電子により希ガスが電離され、電離した希ガスはカップ状電極15に衝突して、二次電子を放出させるので、カップ状電極15の間にグロー放電が発生する。このグロー放電によって、透明管12中の水銀は励起されて、253.7nm、360nm等の波長の紫外線を放出する。そして、この紫外線が蛍光体層14に当たると、蛍光体層14中の蛍光体から赤色蛍光が放射される。なお、発光ダイオード1について説明したように、蛍光体層14に、緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体を加えて、冷陰極蛍光ランプ11が白色光を発光するようにすることもできる。
【0030】
また、図3に示すような電界放出型表示(フィールド・エミッション・ディスプレイ:FED)装置21も、本発明の発光装置の例として挙げることができる。FED装置21は、ガラス等からなるアノード基板22とカソード基板23を備える。アノード基板22とカソード基板23は、図示しない支持枠に支持されて、数mm以下の間隔を空けて、平行に配置されている。また、アノード基板22とカソード基板23の間の空間は前述の支持枠によって大気から隔離されて、真空に保たれる。
【0031】
アノード基板22の内面には、透明なアノード電極22aが配置され、アノード電極22aの上には、赤色発光蛍光体(本発明に係る蛍光体)を含有する画素22b、青色発光蛍光体を含有する画素22c、及び緑色発光蛍光体を含有する画素22dが多数形成されている。これらの画素22b、22c、22dは互いに隙間を空けて配置されているが、この隙間に、黒色導電材からなる光吸収体を配置して、画素22b、22c、22dを互いに隔離するようにしてもよい。
【0032】
また、カソード基板23の内面には多数のカソード電極23aが、アノード基板22の
画素22b、22c、22dに対向するように配置され、カソード電極23aの上には炭素膜等からなる電子放出素子(エミッタ)23bが配置されている。エミッタ23bは、カソード基板23に形成される図示しない配線によって、前記支持枠に設けられる信号入力端子(図示せず)に接続されて、前記配線を介して電圧が印加されるようになっている。
【0033】
カソード電極23aとアノード電極22a間に電圧が印加されると、エミッタ23bから電子が放出され、放出された電子は矢印Aで示すように、アノード電極22aに引き付けられ、画素22b、22c、22dに衝突し、蛍光を発生させる。発生した蛍光は矢印Bで示すように、アノード基板22から外部へ放出される。
【0034】
FED装置21は、画素22b中に本発明に係る蛍光体を含有するので、大きな輝度を得ることができる。また、本発明に係る蛍光体は導電性を有するので、エミッタ23bから放出される電子が蛍光体に過剰に衝突にして生じる帯電が抑制される。そのため、蛍光体表面の電荷によって、蛍光体と電子との衝突が阻害される事態を回避することができ、逃げ場を失った電子とエミッタ23b間の異常放電を抑制することができる。
【0035】
また、図4に示すような真空蛍光表示(バキューム・フルオロセント・ディスプレイ:VFD)装置31も本発明の発光装置の例として挙げることができる。VFD装置31は、ガラス等からなる基板32上に配線33を配置し、配線33の上を絶縁体層34で覆い、更にその上に、アノード35を設けている。また、アノード35は絶縁体層34に穿孔されたスルーホール36を介して、配線33と電気的に接続されている。また、アノード35の上には、蛍光体層35a、35b、35cが形成される。蛍光体層35aは、赤色発光蛍光体(本発明に係る蛍光体)を、蛍光体層35bは青色発光蛍光体を、蛍光体層35cは緑色発光蛍光体をそれぞれ含有している。
【0036】
更に、アノード35の上方にはグリッド37が配置され、蛍光体層35a、35b、35cを覆っている。また、グリッド37は基板32上に設けられた図示しない端子と電気的に接続されている。また、グリッド37の上方には、フィラメント状のカソード38が配置されている。なお、カソード38は基板32の両端に設けられた、図示しない支持体に張架されている。更に、基板32ないしカソード38は容器39によって大気から隔離され、容器39の内部の空間は真空に保たれる。
【0037】
VFD装置31は、カソード38から放出される電子を蛍光体層35a、35b、35c中の蛍光体に当てて、該蛍光体からの発光により表示を行う。また、VFD装置31は環境温度、特に低温による発光強度の変動が少なく、また本発明に係る蛍光体を蛍光体層35aに含有するので、大きな輝度が得られる。また、FED装置21について説明したように、本発明に係る蛍光体は導電性を有して、異常放電を抑制するので、VFD装置31は、一定の蛍光を継続して発生させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係る蛍光体を、具体的な実施例を挙げて、更に詳細に説明する。
【0039】
[実施例]
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alを混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成温度1000℃、焼成時間1時間の条件で、焼成して、組成式CuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体を作製した。
【0040】
該蛍光体の作製は、Al2S3と金属Alの混合比を変えて行った。すなわち、Al2S3と金属Alの混合比率(モル数比)を0.9:0.1にしたもの(実施例1)、0.8:0.2にしたもの(実施例2)、0.7:0.3にしたもの(実施例3)、0.5:0.5にしたもの(実施例4)、0.3:0.7にしたもの(実施例5)、0.1:0.9にしたもの(実施例6)をそれぞれ作成した。なお、実施例1ないし実施例6の全てにおいて、マンガンの含有量は5モル%、ケイ素の含有量は10モル%にした。
【0041】
[比較例]
原材料に金属Alを全く含まないこと以外は、実施例1ないし6と全く同じ材料、手順および焼成条件で、組成式CuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体(比較例)を作製した。
【0042】
以上の手順で得られた実施例1ないし実施例6の蛍光体の試料、及び比較例の蛍光体の試料についてX線回折(XRD)測定、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)測定、PL励起発光(Photoluminescence Excitation:PLE)測定を行った。
【0043】
[X線回折測定]
X線回折測定は大気中室温雰囲気下で行った。得られた試料のX線回折パターンを図5に示す。図5において、(比較例)は比較例の蛍光体の試料に対するX線回折測定結果を示し、(実施例1)〜(実施例4)は、実施例1〜実施例4の蛍光体の試料に対するX線回折測定結果を示す。また(A)及び(B)はICSD(Inorganic Crystal Structure Database)に記載されているCu5AlS8及びCuAlS2のX線回折測定結果を示す。実施例1〜実施例4のパターンは、(B)のパターンと一致することから、比較例及び実施例1ないし実施例4の蛍光体が、組成式しCuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体であることが確認できた。
【0044】
[PL測定]
PL測定は、波長365nmの励起光を用いて、大気中室温雰囲気下で行った。得られた試料のPL強度を図6に示す。なお、図中のI〜IVは、その曲線がそれぞれ実施例1〜実施例4の蛍光体の試料のPL強度曲線であることを示している(図7〜図11においても、同様に表示する)。図6において、実施例1ないし実施例4のいずれも、Mn2+の3d-3d遷移に起因すると思われるブロードな赤色発光が確認された。
【0045】
また、この時の、金属Alの仕込み比(原材料中の金属Alのモル数/(原材料中の全てのAl原子のモル数)と、ピーク波長、ピーク強度、輝度、及びCIE座標を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)のピーク波長は638nmであるところ、原材料中の金属Alの仕込み比を増やすにつれて、ピーク波長は減少し、仕込み比0.5(実施例4)の場合、609nmになり、金属Alの仕込み比をさらに増やすと、ピーク波長は再び上昇する。このことは、図7からも明らかである。
【0048】
また、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)のピーク強度を100とすると、仕込み比0.1(実施例1)の場合に、ピーク強度は95に低下するが、以後金属Alの仕込み比を増やすにつれて、ピーク強度は上昇し、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大(160)になり、仕込み比0.5(実施例4)になるとピーク強度は低下する。輝度も、金属Alの仕込み比を増やすにつれて、単調に上昇し、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大になり、その後低下する。このことは、図8からも明らかである。
【0049】
また、金属Alの仕込み比とCIE−x座標の関係を図9に、仕込み比とCIE−y座標の関係を図10にそれぞれ示す。図9及び図10から明らかなように、金属Alの仕込み比に関係なく、赤色の発光が得られる。また、仕込み比0.6から仕込み比0.7の範囲で、CIE−x座標は最小になり、CIE−y座標は最大になる。
【0050】
[PLE測定]
PLE測定は、大気中室温雰囲気下で、励起光波長を変化させ、試料が発光する波長625nmの蛍光をモニターして測定を行った。励起光波長に対するPLE強度を図11に示す。
【0051】
図11から明らかなように、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)の、ピーク波長は約370nmであり、原材料中の金属Alの仕込み比を増やしても、ピーク波長はほとんど変化しない。また、発光強度は、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大になる。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを加えることにより、該蛍光体の発光のピーク強度を最大で約1.6倍、輝度を最大で約2.5倍にすることができる。つまり、本発明によれば、高い発光強度を有する蛍光体が得られる。また、高い発光強度を有する発光装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、発光ダイオードのような発光装置、該発光装置に使用する蛍光体、及び該蛍光体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1:発光ダイオード
2:透明基板
3:透明樹脂
4:紫外線ダイオード
5:蛍光体
11:冷陰極蛍光ランプ
12:透明管
13:封止部材
14:蛍光体層
15:カップ状電極
16:開口部
17:リード線
21:FED装置
22:アノード基板
22a:アノード電極
22b〜22d:画素
23:カソード基板
23a:カソード電極
23b:電子放出素子(エミッタ)
31:真空蛍光表示(VFD)装置
32:基板
33:配線
34:絶縁体層
35:アノード
35a〜35c:蛍光体層
36:スルーホール
37:グリッド
38:カソード
39:容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた発光装置に関する。特に、カルコパイライト系化合物とマンガンとケイ素を含有する蛍光体及びその製造方法、並びに該蛍光体を用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
先に、本願発明者らによる研究の結果、カルコパイライト系化合物に発光中心となるマンガン原子を加えてなる蛍光体に所定量のケイ素を加えると、発光強度が著しく向上することの知見を得たので、本願出願人は、かかる知見に基づいて完成した発明について特許出願を行い、該特許出願は既に出願公開された(特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体中のケイ素の含有量が所定範囲にあるとき、該蛍光体の発光強度が著しく向上することを開示している。
【0004】
また、前記蛍光体中のケイ素の含有量は2モル%〜50モル%の範囲が好ましく、前記蛍光体中のケイ素の含有量を5モル%〜30モル%の範囲にすれば、更に好ましいこと、および、前記蛍光体中のケイ素の含有量の最適値が20モル%前後であることも、特許文献1に開示されている。
【0005】
また、Cu2S、Al2S3、Ga2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnS、MnSe、Si、Se及びSを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成すると、前記蛍光体が得られることも、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−239699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、特許文献1に記載の蛍光体は、ケイ素を含有しない従来の蛍光体に比べて著しく高い発光強度を有するが、用途によっては、更に高い発光強度が求められる場合があるので、発光強度がまだ不十分な場合があった。
【0008】
本発明は、このような背景の下でなされたものであり、特許文献1に記載の蛍光体を改良して、更に高い発光強度を有するカルコパイライト系蛍光体を提供することを目的とする。また該蛍光体の製造方法、及び該蛍光体を用いた発光装置を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る蛍光体は、マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体において、その出発原料に金属アルミニウムを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る発光装置は、前述した蛍光体を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マンガンを発光中心原子として含み、かつケイ素を0.01モル以上0.5モルの範囲で含有する、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを加えることによって、該蛍光体の発光強度を著しく向上させることができる。
【0013】
また本発明によれば、Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属アルミニウムを所定の比率で混合して得られた混合物を、Ar雰囲気中で焼成することによって、発光強度が著しく高い蛍光体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示す発光ダイオードの概念図である。
【図2】本発明の実施形態を示す冷陰極蛍光ランプの概念図である。
【図3】本発明の実施形態を示す電界放出型表示(FED)装置の概念図である。
【図4】本発明の実施形態を示す真空蛍光表示(VFD)装置の概念図である。
【図5】本発明の実施例及び比較例の蛍光体のX線回析パターン図である。
【図6】本発明の実施例の蛍光体のPL強度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例の蛍光体の発光ピーク波長を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例の蛍光体の発光輝度を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例の蛍光体の発光のCIE−x座標を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例の蛍光体の発光のCIE−y座標を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例の蛍光体のPLE強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の蛍光体は、下記の組成式で表される。
Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si
ただし、上記式中、xは0≦x≦0.4を満たす数を示し、yは0≦y≦0.4を満たす数を示す。
【0016】
また、本発明の蛍光体は、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2で表されるカルコパイライト系化合物を含有する。これらのカルコパイライト系化合物は、特にワイドバンドギャップを有し、発光中心原子の発光波長を長波長側へシフトさせる作用を有する。前記組成式で表されるカルコパイライト系化合物のうち、CuAlS2、CuAlSe2等は、蛍光の発光強度を著しく高くするので、特に好ましい。
【0017】
本発明の蛍光体は、マンガン原子を、前記組成式で表されるカルコパイライト系化合物を賦活する発光中心原子として含有する。マンガン原子は複合体となって蛍光体中に存在するが、前記カルコパイライト系化合物にマンガン原子を添加すると、波長250〜450nmの励起光により、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる550〜750nmの範囲のブロードな赤色蛍光が得られる。また、本発明の蛍光体中のマンガン原子の含有量を増やすと、発光強度は高くなり、発光ピーク波長も長波長側へシフトする。例えばCuAlS2に、発光中心原子としてマンガン原子を添加した蛍光体に、波長365nmの励起光を照射する場合に、前記蛍光体のマンガン原子の含有量を、0.1モル%から5モル%まで増やすと、発光強度は増加する。また、マンガン原子の含有量が0.1モル%の場合の発光ピーク波長は595nmであり、マンガン原子の含有量が5モル%の場合の発光ピーク波長は629nmである。つまりマンガン原子の含有量を大きくすると、発光ピーク波長は長波長側へシフトする。本発明の蛍光体中のマンガン原子の含有量は、0.1モル%〜20モル%が好ましいが、マンガン原子の含有量を10モル%前後にするのが特に好ましい。
【0018】
本発明の蛍光体はケイ素、セレンを含有するので、フラックス効果を有する。フラックス効果は、本発明の蛍光体の発光強度及び発光波長に影響を及ぼす。また、フラックス効果は、マンガン原子とカルコパイライト系化合物の融合を促進させ、結晶格子構造の欠陥を減少させ、励起光によるフォノンの生成を抑制するので、マンガン原子の発光を促進させる。本発明の蛍光体はケイ素、セレンを含有することにより、Mn2+の3d−3d遷移に起因すると思われる550〜750nmの範囲のブロードな赤色蛍光の発光が促進される。例えば、CuAlS2にケイ素を加えた蛍光体に、波長365nmの励起光を照射する場合、ケイ素の含有量が低いときは、ケイ素を添加しないときよりも、発光強度は低くなるが、ケイ素の含有量が1モル%から10モル%の範囲では、ケイ素の含有量の増加とともに発光強度は増加し、10モル%近傍で発光強度は最大となる。ケイ素の含有量が10モル%近傍を超えると、発光強度は減少する。また、ケイ素の含有量が10モル%近傍になるまでは、ケイ素の含有量の増加とともに発光ピーク波長は長波長側へシフトし、ケイ素の含有量が20モル%近傍になると発光ピークは徐々に短波長側へシフトする傾向が見られる。本発明の蛍光体中のケイ素の含有量は、2モル%〜50モル%が好ましく、5モル%〜30モル%がさらに好ましい。ケイ素の含有量を10モル%前後にすると、発光強度が高くなるので、特に好ましい。
【0019】
なお、本発明の蛍光体にセレンを添加しても添加しなくても蛍光体の発光特性(発光強度、発光色)は同等であるが、添加すると粉体色が白くなることが本願発明者らの実験によって確認された。セレンの添加によって粉体色が白くなる理由についてはわかっていないが、一般に、照明デバイスの市場では、白い粉体色の蛍光体が好まれるので、セレンを添加するほうが好ましい。
【0020】
本発明の蛍光体は、その出発原料に金属アルミニウムを含有する。出発原料に金属アルミニウムを含有することによって、本発明の蛍光体は発光強度が著しく向上する。なお、その具体的な効果については、後述する。
【0021】
本発明の蛍光体は、Cu2S、Al2S3、MnS、Siと金属アルミニウムを、Cu、Al、Mn、Siが製造しようとする蛍光体の組成式に相当するモル比となるような比率で混合したものに、更に硫黄を加えて混合した原材料を、焼成温度1000℃、焼成温度1時間で焼成することによって得られる。
【0022】
あるいは、本発明の蛍光体は、Cu2S、Al2S3、Ga2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnS、MnSe、Si、Seと金属アルミニウムを、Cu、Al、Ga、Mn、Si、Seが製造しようとする蛍光体の組成式に相当するモル比となるような比率で混合したものに、更に硫黄を加えて混合した原材料を、焼成温度1000℃、焼成温度1時間で焼成することによって得られる。
【0023】
本発明の発光装置は、前述したような本発明に係る蛍光体を備える発光装置、例えば、発光ダイオード等の発光素子、エレクトロルミネッセンス素子、冷陰極蛍光ランプや熱陰極蛍光ランプ等の蛍光ランプ、電界放出型表示(FED)装置、真空蛍光表示(VFD)装置などのような、各種発光装置である。つまり、マンガンを発光中心原子として含み、かつケイ素を0.01モル以上0.5モルの範囲で含有し、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表されるとともに、その出発原料に金属アルミニウムを含有する蛍光体を備える発光装置は、形式や種類の如何を問わず、すべて本発明の発光装置に包含される。
【0024】
例えば、図1に示すような発光ダイオード1を、本発明に係る発光装置の例として挙げることができる。この発光ダイオード1は、透明基板2の上に盛り上げられた透明樹脂3の中に、紫外線を発光する紫外線ダイオード4を封止するともに、透明樹脂3中に、蛍光体5が担持されている。なお、透明樹脂3の外表面にミラー加工を施して、外表面がミラーとして作用するようにしてもよい。
【0025】
紫外線ダイオード4は、電圧が印加されると、紫外線を放射する素子、例えば、GaN系の近紫外線発光ダイオードである。紫外線ダイオード4には、図示しない配線が接続されていて、この配線を介して電圧が印加されて、250〜450nmの波長の紫外線を放射する。この紫外線を受けると、蛍光体5は550〜750nmの赤色蛍光を放射する。
【0026】
また、赤色蛍光を発光する蛍光体5に加えて、透明樹脂3の中に緑色及び青色の蛍光を発光する緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体を担持させて、発光ダイオード1が白色光を発光するようにすることもできる。
【0027】
なお、言うまでもないことだが、緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体は紫外線ダイオード4が放射する紫外線、つまり250〜450nmの波長の紫外線で励起される蛍光体である。青色発光蛍光体の具体例としては(Ba、Sr、Ca、Mg)10(PO4)5Cl2:Eu2+、BaMgAl10O17:Eu2+等を、また、緑色発光蛍光体の具体例としてZnS:Cu、Al、BaMgAl10O17:Eu、Mn等を、それぞれ、挙げることができる。
【0028】
また、図2に示すような冷陰極蛍光ランプ11は液晶パネルのバックライトに用いられるが、この冷陰極蛍光ランプ11も本発明の発光装置の例として挙げることができる。図2に示すように、冷陰極蛍光ランプ11はガラス等からなる透明管12を備えている。透明管12の両端はビードガラス等の封止部材13で気密に封止され、大気圧の数十分の一程度に減圧され、さらに、希ガス及び水銀が所定量導入されている。また、透明管12の内壁面には、ほぼ全長に亘って蛍光体層14が形成され、蛍光体層14には、前述したような本発明に係る蛍光体が担持されている。また、透明管12の両端には、カップ状電極15が配置され、この一対のカップ状電極15の開口部16は互いに向かいあっている。また、カップ状電極15には、リード線17がそれぞれ接続され、リード線17は封止部材13を貫通して透明管12の外部に引き出されている。なお、透明管12の外径は、1.5〜6.0mmの範囲、好ましくは1.5〜5.0mmの範囲である。
【0029】
2本のカップ状電極15の間に電圧が印加されると、透明管12の中に僅かに存在する電子により希ガスが電離され、電離した希ガスはカップ状電極15に衝突して、二次電子を放出させるので、カップ状電極15の間にグロー放電が発生する。このグロー放電によって、透明管12中の水銀は励起されて、253.7nm、360nm等の波長の紫外線を放出する。そして、この紫外線が蛍光体層14に当たると、蛍光体層14中の蛍光体から赤色蛍光が放射される。なお、発光ダイオード1について説明したように、蛍光体層14に、緑色発光蛍光体及び青色発光蛍光体を加えて、冷陰極蛍光ランプ11が白色光を発光するようにすることもできる。
【0030】
また、図3に示すような電界放出型表示(フィールド・エミッション・ディスプレイ:FED)装置21も、本発明の発光装置の例として挙げることができる。FED装置21は、ガラス等からなるアノード基板22とカソード基板23を備える。アノード基板22とカソード基板23は、図示しない支持枠に支持されて、数mm以下の間隔を空けて、平行に配置されている。また、アノード基板22とカソード基板23の間の空間は前述の支持枠によって大気から隔離されて、真空に保たれる。
【0031】
アノード基板22の内面には、透明なアノード電極22aが配置され、アノード電極22aの上には、赤色発光蛍光体(本発明に係る蛍光体)を含有する画素22b、青色発光蛍光体を含有する画素22c、及び緑色発光蛍光体を含有する画素22dが多数形成されている。これらの画素22b、22c、22dは互いに隙間を空けて配置されているが、この隙間に、黒色導電材からなる光吸収体を配置して、画素22b、22c、22dを互いに隔離するようにしてもよい。
【0032】
また、カソード基板23の内面には多数のカソード電極23aが、アノード基板22の
画素22b、22c、22dに対向するように配置され、カソード電極23aの上には炭素膜等からなる電子放出素子(エミッタ)23bが配置されている。エミッタ23bは、カソード基板23に形成される図示しない配線によって、前記支持枠に設けられる信号入力端子(図示せず)に接続されて、前記配線を介して電圧が印加されるようになっている。
【0033】
カソード電極23aとアノード電極22a間に電圧が印加されると、エミッタ23bから電子が放出され、放出された電子は矢印Aで示すように、アノード電極22aに引き付けられ、画素22b、22c、22dに衝突し、蛍光を発生させる。発生した蛍光は矢印Bで示すように、アノード基板22から外部へ放出される。
【0034】
FED装置21は、画素22b中に本発明に係る蛍光体を含有するので、大きな輝度を得ることができる。また、本発明に係る蛍光体は導電性を有するので、エミッタ23bから放出される電子が蛍光体に過剰に衝突にして生じる帯電が抑制される。そのため、蛍光体表面の電荷によって、蛍光体と電子との衝突が阻害される事態を回避することができ、逃げ場を失った電子とエミッタ23b間の異常放電を抑制することができる。
【0035】
また、図4に示すような真空蛍光表示(バキューム・フルオロセント・ディスプレイ:VFD)装置31も本発明の発光装置の例として挙げることができる。VFD装置31は、ガラス等からなる基板32上に配線33を配置し、配線33の上を絶縁体層34で覆い、更にその上に、アノード35を設けている。また、アノード35は絶縁体層34に穿孔されたスルーホール36を介して、配線33と電気的に接続されている。また、アノード35の上には、蛍光体層35a、35b、35cが形成される。蛍光体層35aは、赤色発光蛍光体(本発明に係る蛍光体)を、蛍光体層35bは青色発光蛍光体を、蛍光体層35cは緑色発光蛍光体をそれぞれ含有している。
【0036】
更に、アノード35の上方にはグリッド37が配置され、蛍光体層35a、35b、35cを覆っている。また、グリッド37は基板32上に設けられた図示しない端子と電気的に接続されている。また、グリッド37の上方には、フィラメント状のカソード38が配置されている。なお、カソード38は基板32の両端に設けられた、図示しない支持体に張架されている。更に、基板32ないしカソード38は容器39によって大気から隔離され、容器39の内部の空間は真空に保たれる。
【0037】
VFD装置31は、カソード38から放出される電子を蛍光体層35a、35b、35c中の蛍光体に当てて、該蛍光体からの発光により表示を行う。また、VFD装置31は環境温度、特に低温による発光強度の変動が少なく、また本発明に係る蛍光体を蛍光体層35aに含有するので、大きな輝度が得られる。また、FED装置21について説明したように、本発明に係る蛍光体は導電性を有して、異常放電を抑制するので、VFD装置31は、一定の蛍光を継続して発生させることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係る蛍光体を、具体的な実施例を挙げて、更に詳細に説明する。
【0039】
[実施例]
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alを混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成温度1000℃、焼成時間1時間の条件で、焼成して、組成式CuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体を作製した。
【0040】
該蛍光体の作製は、Al2S3と金属Alの混合比を変えて行った。すなわち、Al2S3と金属Alの混合比率(モル数比)を0.9:0.1にしたもの(実施例1)、0.8:0.2にしたもの(実施例2)、0.7:0.3にしたもの(実施例3)、0.5:0.5にしたもの(実施例4)、0.3:0.7にしたもの(実施例5)、0.1:0.9にしたもの(実施例6)をそれぞれ作成した。なお、実施例1ないし実施例6の全てにおいて、マンガンの含有量は5モル%、ケイ素の含有量は10モル%にした。
【0041】
[比較例]
原材料に金属Alを全く含まないこと以外は、実施例1ないし6と全く同じ材料、手順および焼成条件で、組成式CuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体(比較例)を作製した。
【0042】
以上の手順で得られた実施例1ないし実施例6の蛍光体の試料、及び比較例の蛍光体の試料についてX線回折(XRD)測定、フォトルミネッセンス(Photoluminescence:PL)測定、PL励起発光(Photoluminescence Excitation:PLE)測定を行った。
【0043】
[X線回折測定]
X線回折測定は大気中室温雰囲気下で行った。得られた試料のX線回折パターンを図5に示す。図5において、(比較例)は比較例の蛍光体の試料に対するX線回折測定結果を示し、(実施例1)〜(実施例4)は、実施例1〜実施例4の蛍光体の試料に対するX線回折測定結果を示す。また(A)及び(B)はICSD(Inorganic Crystal Structure Database)に記載されているCu5AlS8及びCuAlS2のX線回折測定結果を示す。実施例1〜実施例4のパターンは、(B)のパターンと一致することから、比較例及び実施例1ないし実施例4の蛍光体が、組成式しCuAlS2:Mn,Siで表される蛍光体であることが確認できた。
【0044】
[PL測定]
PL測定は、波長365nmの励起光を用いて、大気中室温雰囲気下で行った。得られた試料のPL強度を図6に示す。なお、図中のI〜IVは、その曲線がそれぞれ実施例1〜実施例4の蛍光体の試料のPL強度曲線であることを示している(図7〜図11においても、同様に表示する)。図6において、実施例1ないし実施例4のいずれも、Mn2+の3d-3d遷移に起因すると思われるブロードな赤色発光が確認された。
【0045】
また、この時の、金属Alの仕込み比(原材料中の金属Alのモル数/(原材料中の全てのAl原子のモル数)と、ピーク波長、ピーク強度、輝度、及びCIE座標を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)のピーク波長は638nmであるところ、原材料中の金属Alの仕込み比を増やすにつれて、ピーク波長は減少し、仕込み比0.5(実施例4)の場合、609nmになり、金属Alの仕込み比をさらに増やすと、ピーク波長は再び上昇する。このことは、図7からも明らかである。
【0048】
また、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)のピーク強度を100とすると、仕込み比0.1(実施例1)の場合に、ピーク強度は95に低下するが、以後金属Alの仕込み比を増やすにつれて、ピーク強度は上昇し、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大(160)になり、仕込み比0.5(実施例4)になるとピーク強度は低下する。輝度も、金属Alの仕込み比を増やすにつれて、単調に上昇し、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大になり、その後低下する。このことは、図8からも明らかである。
【0049】
また、金属Alの仕込み比とCIE−x座標の関係を図9に、仕込み比とCIE−y座標の関係を図10にそれぞれ示す。図9及び図10から明らかなように、金属Alの仕込み比に関係なく、赤色の発光が得られる。また、仕込み比0.6から仕込み比0.7の範囲で、CIE−x座標は最小になり、CIE−y座標は最大になる。
【0050】
[PLE測定]
PLE測定は、大気中室温雰囲気下で、励起光波長を変化させ、試料が発光する波長625nmの蛍光をモニターして測定を行った。励起光波長に対するPLE強度を図11に示す。
【0051】
図11から明らかなように、原材料に金属Alを含まない場合(比較例)の、ピーク波長は約370nmであり、原材料中の金属Alの仕込み比を増やしても、ピーク波長はほとんど変化しない。また、発光強度は、仕込み比0.3(実施例3)の時に最大になる。
【0052】
以上説明したように、本発明によれば、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体の出発原料に金属アルミニウムを加えることにより、該蛍光体の発光のピーク強度を最大で約1.6倍、輝度を最大で約2.5倍にすることができる。つまり、本発明によれば、高い発光強度を有する蛍光体が得られる。また、高い発光強度を有する発光装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、発光ダイオードのような発光装置、該発光装置に使用する蛍光体、及び該蛍光体の製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0054】
1:発光ダイオード
2:透明基板
3:透明樹脂
4:紫外線ダイオード
5:蛍光体
11:冷陰極蛍光ランプ
12:透明管
13:封止部材
14:蛍光体層
15:カップ状電極
16:開口部
17:リード線
21:FED装置
22:アノード基板
22a:アノード電極
22b〜22d:画素
23:カソード基板
23a:カソード電極
23b:電子放出素子(エミッタ)
31:真空蛍光表示(VFD)装置
32:基板
33:配線
34:絶縁体層
35:アノード
35a〜35c:蛍光体層
36:スルーホール
37:グリッド
38:カソード
39:容器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体において、
その出発原料に金属アルミニウムを含有する
ことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
組成式CuAlS2:Mn,Siで表される
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蛍光体を用いた
ことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alを混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成する
ことを特徴する蛍光体の製造方法。
【請求項5】
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alに、更にGa2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnSe、Seを加えて混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成する ことを特徴する請求項4に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の方法で製造された蛍光体を用いた
ことを特徴とする発光装置。
【請求項1】
マンガンとケイ素を含み、組成式Cu(Al1-xGax)(S1-ySey)2:Mn,Si(ただし、0≦x≦0.4,0≦y≦0.4)で表される蛍光体において、
その出発原料に金属アルミニウムを含有する
ことを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
組成式CuAlS2:Mn,Siで表される
ことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蛍光体を用いた
ことを特徴とする発光装置。
【請求項4】
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alを混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成する
ことを特徴する蛍光体の製造方法。
【請求項5】
Cu2S、Al2S3、MnS、Si、S及び金属Alに、更にGa2S3、Al2Se3、Ga2Se3、MnSe、Seを加えて混合して、得られた混合物をAr雰囲気中で焼成する ことを特徴する請求項4に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の方法で製造された蛍光体を用いた
ことを特徴とする発光装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−215873(P2010−215873A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67340(P2009−67340)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】
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