蛍光体
【課題】従来の緑色蛍光を発する希土類賦活サイアロン蛍光体より緑色蛍光の発光スペクトルの半値全幅が狭く、発光スペクトルの形状が光の3原色のカラーフィルタによくマッチングした蛍光体、ならびに当該蛍光体を用いた発光装置、当該発光装置を用いた画像表示装置を提供する。
【解決手段】β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%である蛍光体。
【解決手段】β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%である蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型Si3N4結晶構造を有し、近紫外線または可視光により励起されることにより可視光を発する蛍光体、ならびにそれを用いた、液晶ディスプレイなどのバックライト光源に適した発光装置およびそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD:Vacuum−Fluorescent Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、陰極線管(CRT:Cathode−Ray Tube)、白色発光ダイオード(LED:Light−Emitting Diode)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有する励起光により励起されて、可視光線を発する。
【0003】
しかしながら、蛍光体は励起光に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し劣化しがちであり、輝度低下の少ない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体としてサイアロン蛍光体が提案されている。
【0004】
このサイアロン蛍光体の一例は、概ね以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)および酸化ユーロピウム(Eu2O3)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素雰囲気中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(たとえば、特開2002−363554号公報(特許文献1)を参照。)。このプロセスで得られるEuイオンを賦活したαサイアロンは、450nmから500nmの青色光で励起されて550〜600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。
【0005】
さらに、JEM相(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz)を母体結晶としてCeを賦活させた青色蛍光体(たとえば、国際公開第2005/019376号パンフレット(特許文献2)を参照。)、La3Si8N11O4を母体結晶としてCeを賦活させた青色蛍光体(たとえば、特開2005−112922号公報(特許文献3)を参照。)およびCaAlSiN3を母体結晶としてEuを賦活させた赤色蛍光体(たとえば、国際公開第2005/052087号パンフレット(特許文献4)を参照。)が知られている。
【0006】
別のサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(たとえば、特開昭60−206889号公報(特許文献5)を参照。)が知られており、Tb、Yb、Agを賦活したものは525〜545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。しかしながら、合成温度が1500℃と低いために賦活元素が十分に結晶内に固溶せず、粒界相に残留するため高輝度の蛍光体は得られていなかった。
【0007】
高輝度の蛍光を発するサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに2価のEuを添加した蛍光体(たとえば、特開2005−255895号公報(特許文献6)、特開2006−273929号公報(特許文献7)を参照。)が知られており、緑色の蛍光体となることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献3】特開2005−112922号公報
【特許文献4】国際公開第2005/052087号パンフレット
【特許文献5】特開昭60−206889号公報
【特許文献6】特開2005−255895号公報
【特許文献7】特開2006−273929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
画像表示装置としての液晶ディスプレイなどのバックライト光源に使用する白色光源となる発光装置には、一般照明用途とは異なり青、緑、赤の3原色の発光スペクトル線幅が細いことが望まれる。白色光は上述の3色それぞれの色のみを透過するカラーフィルタを通して3原色が得られるが、青色と赤色との間に位置する緑色は特に発光スペクトル線幅の狭くかつ3原色のカラーフィルタによくマッチングすることが要求される。
【0010】
従来の冷陰極管の白色光源の場合、紫外線で励起される緑色蛍光体が用いられていたが、白色LED用として適した青色発光素子の波長で励起可能な蛍光体でスペクトル線幅が十分狭くかつ波長が3原色のカラーフィルタにマッチングしたものは少ない。この用途に最も適した緑色蛍光体は特許文献6に記載されたβ型サイアロン蛍光体であるが、発光スペクトルの幅が比較的広く、シャープさが必ずしも十分とはいえない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来の緑色蛍光を発する希土類賦活サイアロン蛍光体より緑色蛍光の発光スペクトルの半値全幅が狭く、発光スペクトルの形状が光の3原色のカラーフィルタによくマッチングした蛍光体、ならびに当該蛍光体を用いた発光装置、当該発光装置を用いた画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる状況の中で、EuおよびSi、Al、O、Nの元素を含有する窒化物について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成領域範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、520〜550nmの範囲にシャープな発光ピーク波長を有する蛍光体となることを見出した。すなわち、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物を母体結晶とし、2価のEuイオンを発光中心として添加し、酸素含有量が0.6質量%以下の組成を持つ固溶体結晶は、520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有し、その半値全幅が53nm以下のシャープな発光スペクトルを有する蛍光体となることを見出した。
【0013】
すなわち、Euなどを固溶させたβ型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中で、特定の組成の蛍光体が紫外線および可視光線、電子線またはX線で励起され、シャープなスペクトルを持つ緑色発光を有する蛍光体として使用し得るという重要な発見は、本発明者において初めて見出された。本発明者においては、この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体、当該蛍光体を用いた発光装置、さらには当該発光装置を提供することにも成功した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0014】
本発明に係る蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1.5であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15〜1.5であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【0020】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【0021】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有するサイアロン結晶を主成分とし、結晶中に含まれる酸素量を0.1〜0.6質量%の範囲内とすることにより、従来のサイアロン蛍光体よりピークの幅が狭く、シャープな光を放つ優れた緑色蛍光を呈する蛍光体を提供することができる。
【0023】
また本発明によれば、上述した本発明の蛍光体を備えることによって、より強い励起光に曝された場合であっても輝度が低下することなく、長寿命のバックライト光源として用いることができる発光装置を提供することができる。
【0024】
また、本発明の発光装置をバックライト光源として用いることで、3原色の光を透過するカラーフィルタと組み合わせることで色再現領域が拡大された、液晶表示装置などの画像表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の蛍光体(実施例1)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図2】本発明の蛍光体(実施例2)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図3】本発明の蛍光体(実施例3)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図4】本発明の蛍光体(実施例4)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図5】実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度(質量%)である。
【図6】実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)である。
【図7】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はEu濃度(質量%)である。
【図8】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)である。
【図9】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)である。
【図10】実施例1〜4および比較例1、2の蛍光体の酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、縦軸は半値全幅(nm)、横軸は酸素濃度(質量%)である。
【図11】緑色スペクトルの半値全幅とNTSC比との関係を示すグラフであり、縦軸はNTSC比、横軸は半値全幅(nm)である。
【図12】本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。
【図13】図13(a)は、本発明の好ましい一例の画像表示装置21を模式的に示す分解斜視図であり、図13(b)は、図13(a)に示された液晶表示装置24を拡大して示す分解斜視図である。
【図14】本発明の画像表示装置に好適に用いられるカラーフィルタ32の透過率スペクトルを示しており、縦軸は透過率(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図15】本発明の好ましい他の例の画像表示装置41を模式的に示す分解斜視図である。
【図16】図16(a)は、本発明の好ましいさらに他の例の画像表示装置51を模式的に示す分解斜視図であり、図16(b)は、図16(a)に示された液晶表示装置53を拡大して示す分解斜視図である。
【図17】比較例2の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図18】実施例6の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図19】図18に示す実施例6の蛍光体の励起スペクトルを一部拡大して示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図20】実施例31の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図21】実施例34の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図22】実施例35の発光装置(緑色発光装置)から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図23】実施例37の画像表示装置に用いた赤色発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図24】実施例37の画像表示装置に用いた青色発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、Al(アルミニウム)と、Eu(ユーロピウム)とが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1〜0.6質量%であることを特徴とする。ここで、図1〜図4は、本発明の蛍光体(後述する実施例1〜4)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である(なお、図1〜図4において、発光強度は測定装置、条件によって変化するため、単位は任意単位である。)。図1〜図4に示すグラフからも明らかなように、本発明の蛍光体は、通常の酸化物蛍光体、既存のサイアロン蛍光体と比較して、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を有するとともに、発光ピーク波長の幅が狭く、シャープな緑色蛍光を呈する蛍光体を提供することができる。このような本発明の蛍光体は、後述するように画像表示装置のバックライト光源に好適に用いることができるものである。
【0027】
本発明の蛍光体は、上述したようにβ型Si3N4結晶構造を有するβ型サイアロンの固溶体(以下、「β型Si3N4属結晶」とも呼ぶ。)を主成分として含むものである。ここで、β型Si3N4属結晶には、純粋なβ型Si3N4結晶と同一の回折を示す物質の他、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものも包含される。さらに、固溶の状態によっては結晶中に点欠陥、面欠陥、積層欠陥が導入されて、粒内の欠陥部に固溶元素が濃縮されることがあるが、その場合もX線回折によるチャートの形態が変わらないものは、β型Si3N4属結晶に包含される。また、欠陥形成の周期性により長周期構造を有するポリタイプを形成することがあるが、この場合も基本となる構造がβ型Si3N4結晶構造であるものはβ型Si3N4属結晶に包含されるものとする。なお、β型Si3N4属結晶は、X線回折、中性子線回折により同定することができる。
【0028】
ここで、純粋なβ型Si3N4の結晶構造とはP63またはP63/mの対称性を有する六方晶系に属し、理想原子位置を有する構造として定義される結晶である。実際の結晶では、各原子の位置は、各位置を占める原子の種類によって理想位置から±0.05程度は変化する。β型Si3N4結晶構造の格子定数は、a=0.7595nm、c=0.29023nmであるが、その構成成分とするSiがAlなどの元素で置き換わったり、NがOなどの元素で置き換わったり、Euなどの金属元素が固溶することによって格子定数は変化する。しかし、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は大きく変わることはない。したがって、格子定数と純粋なβ型Si3N4結晶構造の面指数が与えられれば、X線回折による回折ピークの位置(2θ)が一義的に決まる。そして、新たな物質について測定したX線回折結果から計算した回折のピーク位置(2θ)のデータが、β型Si3N4属結晶の構造のデータと一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0029】
本発明の蛍光体は、上述したβ型Si3N4属結晶において、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶を母体結晶とし、この結晶中に、AlとEuとを固溶してなることにより、Euが発光中心として働くことで、蛍光特性を発するものである。本発明によれば、結晶中にAlとEuとを固溶してなることで、2価のEuイオンが発光中心として働き、高輝度の緑色蛍光を発する蛍光体を実現することができる。
【0030】
本発明の蛍光体はまた、上述した酸窒化物の結晶中の酸素濃度(酸素含有量)が0.1〜0.6質量%の範囲内である。このような範囲内の酸素濃度とすることで、蛍光体の発光ピークの幅(半値全幅を基準とする)を小さくすることができ、発光ピーク波長をシャープにすることができる。ここで、Euである発光中心イオンは、酸素と窒素イオンとで囲まれており、発光中心イオンが結合する原子は、酸素と窒素とでは結合状態が変わるため、酸素、窒素のいずれと結合するかによってβ型Si3N4属結晶の発光ピーク波長が異なる。このため、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中の酸素濃度が0.6質量%を超えて増加する場合には、発光ピークの幅が増大してしまう。一方、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中の酸素濃度が0.1質量%未満と低すぎる場合には、発光中心イオンが結晶中の一定の位置に固溶することができなくなり、逆に結合状態が不均一となり発光ピークの幅が増大してしまう。特に、半値全幅を容易に50nm以下とすることができることから、結晶中の酸素濃度は0.4質量%以下であることが好ましい。なお、上記結晶中の酸素濃度は、たとえば赤外線吸収法を用いた酸素濃度測定により測定することができる。
【0031】
ここで、図5は、後述する実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度(質量%)である。蛍光体中の電荷のバランスをとることで高い発光効率を実現できる観点から、本発明の蛍光体は、上記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。上記結晶中のAl濃度が0.13質量%未満である場合や0.8質量%を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。また、Al濃度が0.5質量%以下である場合には、小さい半値全幅と高い発光効率を両立することができる。なお、上記結晶中のAl濃度は、たとえばICP発光分析法により測定することができる。
【0032】
また図6は、後述する実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)である。βサイアロン蛍光体結晶中に、Euを2価の状態でしかも均一な格子位置に配位させ、周辺の酸素濃度とAl濃度とバランスをとることで高い発光効率を実現できることから、本発明の蛍光体は、上記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)が0.15〜1であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。上記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15未満である場合や1を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。
【0033】
また、本発明の蛍光体は、上記結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。ここで、図7は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はEu濃度(質量%)である。上記結晶中のEu濃度が0.5質量%未満である場合や4質量%を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。これは、余分なEuが発光サイトに入らないためである。このような場合、不要なEuが可視光の非発光吸収を増大させる傾向がある。なお、上記結晶中のEu濃度は、たとえばICP発光分析法により測定することができる。
【0034】
また、上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)が0.15〜1.5であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。図8は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)である。上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15未満である場合には、半値全幅が増大する傾向にあり、また、上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が1.5を超える場合には、発光効率が低下する傾向にあるためである。
【0035】
また、結晶中の電荷のバランスが良好となり、高い発光効率が得られる観点からは、上記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)が0.15〜1.5であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。ここで、図9は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)である。上記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15未満である場合や1.5を超える場合には、発光効率が低下する傾向にあるためである。
【0036】
上述したような本発明の蛍光体は、後述する実施例1〜4の蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図1〜図4からも明らかなように、好ましくは、励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものであり、より好ましくは、励起光の吸収により520〜540nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものであり、特に好ましくは、励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものである。なお、図1〜図4には、たとえば分光Xeランプを励起光として測定された励起スペクトルおよび発光スペクトルを示している。
【0037】
また本発明の蛍光体は、好ましくは、励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nmの緑色蛍光を呈するものであり、より好ましくは、励起光の吸収によりピークの半値全幅が50nm以下の緑色蛍光を呈するものである。ここで、図10は、後述する実施例1〜4および比較例1、2の蛍光体の酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、縦軸は半値全幅(nm)、横軸は酸素濃度(質量%)である。また図11は、緑色スペクトルの半値全幅とNTSC(National Television System Committee)比との関係を示すグラフであり、縦軸は色再現領域としてのNTSC比、横軸は半値全幅(nm)である。なお、図10および図11に示すピークの半値全幅は、たとえば450nmのピーク波長を有する分光Xeランプを励起光とした室温フォトルミネッセンス測定による値であり、また、図11に示すNTSC比は、たとえばLEDのエレクトロルミネッセンス測定により得られた値である。
【0038】
図10から、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中にAlと、Euとが固溶してなる蛍光体において、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1〜0.6質量%の範囲内にある場合には、ピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈する蛍光体が実現できることがわかる。また、図11から、ピークの半値全幅が53nm以下である場合には、NTSC比が95%以上と高い色再現性を達成できることがわかる。図11に示されるように、緑色スペクトルの半値全幅を小さくすることによりNTSC比を向上することができるが、従来、これに適したスペクトルを有する緑色蛍光を呈する蛍光体はなかった。本発明の蛍光体は、好ましくは波長520〜550nmの範囲、より好ましくは520〜535nmの範囲に発光ピーク波長を有し、かつ発光スペクトルの半値全幅が好ましくは53nm以下である緑色蛍光を呈することができるものであるため、高いNTSC比を実現することができるものである。
【0039】
従来の冷陰極管、白色LEDを用いた画像表示装置のNTSC比は高々80%台であり、自然な色を表現するのが困難であった。近年、ハイビジョン映像の普及、大画面映像の実現にともない、高い色再現性が望まれている。美術品、文化財映像の表示、インターネット商取引などのニーズからは、少なくともNTSC比95%以上の色再現性が求められる。本発明の蛍光体を用いた画像表示装置(後述)によれば、NTSC比95%以上の色再現性を実現することができる。これは、本発明の蛍光体は波長530nm近傍にシャープで強い発光スペクトルを有するため、青色画素をON状態にしたときの緑色蛍光の影響が少なく、色純度のよい青色が表現でき、NTSC比を高くすることができるためである。
【0040】
上述のように本発明の蛍光体は、励起光の吸収により、好ましくは520〜550nmの発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであり、その発光スペクトルの半値全幅は53nm以下とシャープな形状を有する。中でも、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶における酸素含有量を0.1〜0.4質量%に低減させた場合には、520〜530nmの範囲に発光ピーク波長を有し、特に色純度がよい緑色蛍光を呈することになる。なお、本発明の蛍光体は、CIE色度座標上の(x、y)値において、好ましくは、0≦x≦0.3、0.5≦y≦0.83の値をとる。
【0041】
本発明の蛍光体は、蛍光発光の点から、その構成成分たるβ型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶相が高純度で極力多く含まれていることが望ましく、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の単相の結晶で構成されていることが特に望ましい。ただし、本発明の蛍光体は、特性が低下しない範囲で他の結晶相またはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、高い輝度を得る観点からは、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0042】
本発明の蛍光体は、その形状および大きさについては特に制限されるものではないが、平均粒径(レーザ回折法により測定)が50nm〜20μmの単結晶の粒子状であると、高輝度が得られるため好ましい。また、この場合、アスペクト比(粒子の長軸の長さを短軸の長さで割った値)の平均値が1.5以下の球形のものが分散性、塗布工程での取扱い性の容易さの観点から、好ましい。
【0043】
上述したような本発明の蛍光体を製造する方法については特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の手法を組み合わせて製造することができるが、以下に述べるような方法を採用することで好適に製造することができる。
【0044】
まず、少なくともSiを含有する金属粉末を、Alを含有する金属または無機化合物と、Euを含有する金属または無機化合物とを含む原料混合物を、窒素含有雰囲気下において1200〜2200℃の温度範囲で焼成することにより、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶した蛍光体を得ることができる。
【0045】
原料混合物のSi源としては、少なくともSiを含有する金属粉末を用いる。Siを含有する金属粉末としては、単体のシリコンの他に他の金属を含むSi合金が挙げられる。Si源として、金属粉末に加えて、窒化ケイ素、サイアロン粉末などの無機物質を同時に添加するようにしてもよい。窒化ケイ素、サイアロン粉末を添加すると、酸素濃度は増加するものの生成物の結晶性が向上するために、得られた蛍光体の輝度が向上する。
【0046】
原料混合物のAl源としては、Alを含有する金属または無機化合物を用いる。たとえば、金属Al、Al合金、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0047】
原料混合物のEuの供給源としては、Euの金属、Euを含む合金、窒化物、酸化物または炭酸塩などが挙げられる。蛍光体の酸素濃度を極力低減するためには、Euの金属、または、Euを含む窒化物を用いることが望ましいが、工業的には、原料の入手のしやすさから、Euを含む酸化物を用いるのがよい。
【0048】
また、原料混合物として、単体のシリコン粉末と、窒化アルミニウム粉末を、酸化ユーロピウム粉末の混合物も好適に用いることができる。これらの原料混合物を用いることで、酸素濃度が特に低い蛍光体を得ることができる。
【0049】
蛍光体は、原料混合物を、窒素含有雰囲気中において、1200〜2200℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。ここで、窒素含有雰囲気とは、窒素ガス、または、分子中に窒素原子を含むガスを指し、必要に応じて他のガスとの混合ガス(たとえば、N2ガス、N2とH2との混合ガス、NH3ガス、NH3とCH4との混合ガスなど)を用いてもよい。窒素含有雰囲気中で加熱することにより、原料混合物中の単体のシリコンが窒化されてSi3N4となり、これとAl源、Euの供給源が反応して、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶した蛍光体が得られる。この際、単体のシリコンに含まれる酸素濃度(通常0.5質量%以下)は原料混合物に含まれる酸素濃度(通常1質量%以上)より低いため、酸素濃度が低い蛍光体を得ることができる。なお、酸素濃度が低くする観点からは、窒素含有雰囲気は、実質的に酸素を含まないもの、すなわち非酸化性のものであることが好ましい。
【0050】
原料混合物中のSiの窒化反応は、1200〜1550℃の温度で進行するため、まずはこの温度範囲で焼成して原料混合物中の窒素濃度を増加させてSiをSi3N4に変換した後、2200℃以下の温度で焼成して蛍光体を作製する方法が好適に採用できる。
【0051】
また、別の方法として、窒化ケイ素原料粉末、または、Euと、Si、Al、O、Nの元素とを少なくとも含む前駆体原料混合粉末に、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素濃度を減少させるとともに窒素濃度を増加させることにより、出発原料に含まれる酸素濃度を低減した後に、必要に応じてEu、Alを含む原料をさらに添加して、2200℃以下の温度で焼成することで蛍光体を作製するようにしてもよい。ここで、還元窒化雰囲気は、還元力と窒化性とに富むガス雰囲気を指し、たとえばアンモニアガス、水素と窒素との混合ガス、アンモニア−炭化水素混合ガス、水素−窒素−炭化水素混合ガスなどを用いることができる。なお、炭化水素ガスを用いる場合には、還元力の強さの点から、メタンまたはプロパンガスが好ましい。また、炭素源としてカーボン粉末などの炭素を含む固体、フェノール樹脂などの炭素を含む液体を予め窒化ケイ素原料粉末、前駆体原料混合粉末に添加したものを窒化性に富むガスで処理することもできる。
【0052】
さらに別の方法として、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物蛍光体粉末に対して、還元窒化雰囲気(上述と同様)中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素濃度を減少させるとともに窒素濃度を増加させるようにしてもよい。この方法により蛍光体を作製した場合には、通常の方法で作製されたサイアロン蛍光体の表面に存在する酸素を、還元窒化することにより低減できるという利点がある。
【0053】
なお、粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmも大きさに凝集した形態をなす(以下、「粉体凝集体」と呼ぶ。)。このため、蛍光体を作製する際に、当該粉体凝集体、凝集しなかった微粉末の金属化合物を、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法を採用することで、特に高い輝度を有する蛍光体を作製することができる。
【0054】
すなわち、通常のサイアロン蛍光体の製造ではホットプレス法、金型成形後に焼成を行なっており粉体の充填率が高い状態で焼成されている。これに対し、上述した製造方法では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度を揃えたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるい、風力分級などを用いて、平均粒径500μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に500μm以下の形状に造粒してもよい。粉体凝集体の平均粒径を500μm以下とすることで、焼成後の粉砕性に優れるという利点がある。なお、容器は窒化ホウ素製のものを用いると、得られる蛍光体との不必要な化学反応を低減することができる。
【0055】
ここで、上述した方法において嵩密度を40%以下の状態に保持したまま焼成するのは、該粉体凝集体の周りに自由な空間がある状態で焼成することが好ましいという理由からである。嵩密度が40%を超えると、焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下する虞があり、また微細な粉体が得られ難いためである。焼成の際の最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態、表面状態によって異なるが、20%以下が好ましい。嵩密度を20%以下の状態に保持して焼成することで、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することができると考えられる。
【0056】
焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であり、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。焼成の手法は、常圧焼結法、ガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼結方法が、嵩密度を所定の範囲に保ったまま焼成できるため好ましい。
【0057】
焼成の際のガス雰囲気は、0.1〜100MPaの圧力範囲が好ましく、0.1〜1MPaの圧力範囲の窒素ガス雰囲気がより好ましい。窒化ケイ素を原料として用いる場合、ガス雰囲気が0.1MPa未満である場合には、1820℃以上の温度に加熱すると原料が熱分解してしまう傾向にある。ガス雰囲気が0.5MPa以上であれば、原料はほとんど分解しない。ガス雰囲気は1MPaあれば十分であり、100MPa以上となると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。
【0058】
焼成して得られた粉体凝集体が固く固着している場合は、たとえばボールミル、ジェットミルなどの工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。中でも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。この場合、使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体製またはサイアロン焼結体製が好ましい。中でも、蛍光体と同組成のセラミック焼結体製が特に好ましい。蛍光体の平均粒径が20μm以下となるまで粉砕することが好ましく、蛍光体の平均粒径が20nm〜5μmとなるまで粉砕することがより好ましい。蛍光体の平均粒径が20μmを超える場合には、蛍光体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、後述するような半導体発光素子と組み合わせた発光装置を作製する際に、部位によって発光強度が不均一となる虞がある。なお、蛍光体の平均粒径が20nm未満である場合には、蛍光体の取り扱う際の操作性が悪くなる傾向にある。粉砕だけで目的の平均粒径が得られない場合には、分級を組み合わせて用いてもよい。分級の手法としては、篩い分け、風力分別、液体中での沈殿法などが挙げられる。
【0059】
また、粉砕・分級の一方法として酸処理を行なってもよい。焼成して得られた粉体凝集体は、多くの場合、β型Si3N4結晶構造を有する窒化物または酸窒化物の単結晶が微量のガラス相を主体とする粒界相で固く固着した状態となっている。この場合、特定の組成の酸に浸すとガラス相を主体とする粒界相が選択的に溶解して、単結晶が分離する。これにより、それぞれの粒子が単結晶の粉体凝集体ではなく、β型Si3N4結晶構造を有する窒化物または酸窒化物の単結晶1個からなる粒子として得られる。このような粒子は、表面欠陥が少ない単結晶から構成されるため、蛍光体の輝度が特に高くなる。
【0060】
なお、蛍光体の輝度をさらに向上させるために、さらに熱処理を行なうようにしてもよい。この場合には、焼成後の粉体凝集体、または、粉砕・分級後の蛍光体を、1000℃以上かつ焼成温度以下の温度で、熱処理を行なう。熱処理の温度が1000℃未満である場合には、表面の欠陥除去の効果が少ない傾向にあり、また、焼成温度を超える温度で熱処理した場合には、粉砕した粉体同士が再度固着してしまう虞がある。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種または2種以上の混合雰囲気を用いることができる。中でも、欠陥除去効果に優れる点からは、窒素雰囲気が好ましい。
【0061】
以上のような方法にて、本発明の蛍光体を好適に作製することができる。なお、上述した方法で製造することで、高温に曝しても劣化が少なく耐熱性に優れ、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れた蛍光体を得ることができるという利点もある。
【0062】
ここで、図12は、本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。本発明は、励起光を発する半導体発光素子2と、励起光の吸収により緑色蛍光を呈する上述した本発明の蛍光体とを備える発光装置1についても提供する。なお、図12において、蛍光体は図示を省略している。
【0063】
図12に示す例の発光装置1は、基体としてのプリント配線基板3上に、半導体発光素子2が載置され、同じくプリント配線基板3上に載置された樹脂枠4の内側に、蛍光体を分散させた透光性樹脂からなるモールド樹脂5が充填されて、半導体発光素子2が封止されている。図12に示す例では、半導体発光素子2は、活性層としてInGaN層6を有し、InGaN層6を挟んで、p側電極7およびn側電極8を有しており、このn側電極8が、プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたn電極部9に、導電性を有する接着剤10を介して電気的に接続されている。また図12に示す例では、半導体発光素子2のp側電極8は、上述したn電極部9とは別途プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたp電極部11に金属ワイヤ12を介して電気的に接続されている。
【0064】
本発明の発光装置1に用いられる半導体発光素子2は、発光ピーク波長が390〜550nmであるものを用いることが好ましい。半導体発光素子2の発光ピーク波長が390nm未満である場合には、素子の構成部材が紫外線の影響により劣化しやすい傾向にあるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が550nmを超える場合には、本発明の蛍光体が励起されない虞があるためである。このような範囲の発光ピーク波長の中から、後述するようにモールド樹脂5に分散させた蛍光体に応じて、好適な発光ピーク波長を適宜選択することができる。
【0065】
モールド樹脂5に分散させる蛍光体は、上述した本発明の蛍光体のみであってもよいし、本発明の蛍光体と他の蛍光体との組み合わせであってもよい。モールド樹脂5中に本発明の蛍光体のみを分散させる場合には、半導体発光素子2による励起光の照射によって、緑色の蛍光を呈する発光装置を実現できる(この場合の発光装置を以下、「緑色発光装置」と呼称する。)。緑色発光装置の場合、バックライト光源として用いた場合に、青色光の色純度をよくするという観点から、励起光を発する半導体発光素子2の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく。400〜410nmの範囲内であることがより好ましい。
【0066】
また本発明の発光装置1は、モールド樹脂5に分散させる蛍光体として、上述した本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、赤色蛍光を呈する蛍光体としては、励起光の吸収により600〜670nmの範囲の発光ピーク波長を有する蛍光体を用いることが好ましい。発光ピーク波長が600nm未満または670nmを超える赤色蛍光を呈する蛍光体を用いた場合には、赤色の色成分が弱くなる傾向にあるためである。また、赤色蛍光を呈する蛍光体は、赤色の色純度を高くできることから、ピークの半値全幅が95nm以下であることが好ましい。このような赤色蛍光を呈する蛍光体としては、たとえば、Eu賦活M2Si5N3(ただし、Mは、Mn、Ce、Euなどから選ばれる元素)、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体、Eu賦活Sr2Si5N8などの高効率の赤色蛍光体が好適である。中でも、発光効率が高いことから、Eu賦活M2Si5N3、または、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体が特に好適に用いられる。
【0067】
上述のように励起光の吸収により緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いる場合、半導体発光素子2から発せられた青色光は、本発明の蛍光体により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体により赤色蛍光に変換される。そして、この緑色蛍光および赤色蛍光を、半導体発光素子2からの青色光と混合することで、白色光を発光できる。このように、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の本発明の発光装置1は、色再現性に優れ、画像表示装置に含まれるバックライト光源として好適に用いることができる。
【0068】
なお、上述のように本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合、本発明の発光装置をバックライト光源として用いた際に青色光の色純度をよくするという観点からは、半導体発光素子2の発光ピーク波長は、上述した範囲の中でも、430〜480nmの範囲内であることがより好ましく、440〜450nmの範囲内であることが特に好ましい。本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置において、半導体発光素子2の発光ピーク波長が430nm未満である場合には、ヒトの視感度が低下する虞があるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が480nmを超える場合には、発光色が青緑色となり、青色の成分が低くなってしまう傾向にあるためである。
【0069】
また本発明の発光装置1は、モールド樹脂5に分散させる蛍光体として、上述した本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とに加えて、励起光の吸収により青色蛍光を呈する蛍光体をさらに組み合わせて用いてもよい。青色蛍光を呈する蛍光体としては、たとえば、Ce賦活La3Si8N11O4からなる蛍光体、BaMgAl10O17:Eu2+(BAM)からなる蛍光体または固溶体などを好適に用いることができる。
【0070】
上述のように励起光の吸収により緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体と、励起光の吸収により青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いる場合、半導体発光素子2から発せられた青色光は、本発明の蛍光体により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体により赤色蛍光に、さらに青色蛍光を呈する蛍光体により青色蛍光に変換される。そして、緑色蛍光と赤色蛍光と青色蛍光とを混合することで、白色光を発光することができる。このように、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体と青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の本発明の発光装置1についても、色再現性に優れたものであり、画像表示装置に含まれるバックライト光源として好適に用いることができる。この場合には、光の3原色のほとんどの発光が蛍光体によってなされているため、周囲温度などの環境変化によって発光ピーク波長の変動がほとんど発生しないという利点を有する。さらに、本発明の蛍光体が吸収する励起光の励起スペクトルは、可視光域と比較して近紫外域の方が高いため、この場合における半導体発光素子2の励起光は、本発明の蛍光体にとって発光効率が高い光であるという利点を有する。
【0071】
なお、上述のように本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体と、青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合、本発明の発光装置をバックライト光源として用いた際に青色光の色純度をよくするという観点からは、半導体発光素子2の発光ピーク波長は、上述した範囲の中でも、390〜420nmの範囲内であることがより好ましく、440〜410nmの範囲内であることが特に好ましい。本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体と、青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置において、半導体発光素子2の発光ピーク波長が390nm未満である場合には、紫外線としてのエネルギーが大きくなり、モールド樹脂の劣化が大きくなる虞があるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が420nmを超える場合には、青紫色としてのヒトの視感度が大きくなり、青色光の色純度を低下させる傾向にあるためである。
【0072】
上述したような本発明の発光装置1において、半導体発光素子2が呈する蛍光体の励起光として、100〜500nmの波長の光(真空紫外線、深紫外線、紫外線、近紫外線、紫から青色の可視光)および電子線、X線などを用いるようにしてもよい。このような光を用いることで、高い輝度の蛍光を発するという利点がある。
【0073】
本発明はさらに、上述した本発明の発光装置1をバックライト光源として用いた画像表示装置についても提供する。ここで、図13(a)は、本発明の好ましい一例の画像表示装置21を模式的に示す分解斜視図であり、図13(b)は、図13(a)に示された液晶表示装置24を拡大して示す分解斜視図である。図13(a)に示す例の画像表示装置21は、透明または半透明の導光板22の側面に、複数個(具体的には6個)の図12に示した例の発光装置1が配置されてなる。なお、図13(a)に示す例では、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の発光装置1を用いた場合を示している。図13(a)に示す例の画像表示装置21はまた、導光板22に隣接して、複数の液晶表示装置24で構成された液晶表示部23が隣接して設けられ、発光装置1からの出射光25は、導光板22内で散乱して散乱光26として液晶表示部23の全面に照射されるように構成されている。
【0074】
液晶表示部23を構成する液晶表示装置24は、図13(b)の分解斜視図に示されているように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、色画素を表示するためのカラーフィルタ32、上部偏光板33が順次積層されてなる。カラーフィルタ32は、透明導電膜28の各画素に対応する大きさの部分に分割されており、赤色光を透過する赤カラーフィルタ32r、緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gおよび青色光を透過する青カラーフィルタ32bから構成されている。
【0075】
本発明の画像表示装置21は、図13(b)に示すように、それぞれ赤色光、緑色光、青色光を透過するフィルタを備えることが好ましい。ここで、図14は、本発明の画像表示装置に好適に用いられるカラーフィルタ32の透過率スペクトルを示しており、縦軸は透過率(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図14中、曲線bは青色光を透過する青カラーフィルタ32bの透過スペクトルであり、曲線gは緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gの透過スペクトルであり、曲線rは赤色光を透過する赤カラーフィルタ32rの透過スペクトルである。このようなカラーフィルタ32と、上述した白色光を呈する本発明の発光装置とを組み合わせることによって、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置が実現できる。すなわち、発光装置1の発光スペクトルは、上述したカラーフィルタにおける赤、青、緑にピークを有する鋭いスペクトルを有するため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高い。特に、緑色光は、青色光と赤色光とに挟まれているため、発光装置1における緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体の発光ピークのスペクトル線幅は、緑色を表示する際の色純度が強く依存する。
【0076】
なお、本発明の画像表示装置に、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の発光装置を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、上述した本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体と青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合せて用いた場合の発光装置を用いて、画像表示装置を実現してもよい。この場合にも、カラーフィルタにおける赤、青、緑にピークを有する鋭いスペクトルを有するため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高く、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置を実現することができる。
【0077】
図15は、本発明の好ましい他の例の画像表示装置41を模式的に示す分解斜視図である。なお、図15に示す例の画像表示装置41は、一部を除いては図13(a)に示した例の画像表示装置21と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。図15には、緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体のみを用いた場合の本発明の発光装置1(緑色発光装置)を備える場合の画像表示装置41を示している。図15に示す例では、この緑色発光装置と組み合わせて、上述した赤色蛍光を呈する蛍光体のみを用いたこと以外は本発明の発光装置1と同様の発光装置42(以下、「赤色発光装置」と呼称する。)と、モールド樹脂中に蛍光体を分散させていないこと以外は本発明の発光装置と同様の発光装置43(以下、「青色発光装置」と呼称する。)とを用いている。これら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を複数導光板22の側面に配置しておき、それぞれの出射光44を導光板22内で散乱させて散乱光45として液晶表示部23の全面に照射するように構成する。
【0078】
図15に示す例の画像表示装置41は、赤色光を発光する赤色発光装置42、緑色光を発光する緑色発光装置1および青色光を発光する青色発光装置43を用いているため、それぞれの発光装置の発光スペクトルは、図14に示したカラーフィルタにおける赤、緑、青にピークを有する鋭いスペクトルである。このため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高く、赤、緑、青の3原色を表示できる画像表示装置41が実現できる。
【0079】
ここで、図15に示す例の画像表示装置41に用いられる緑色発光装置1における半導体発光素子2の発光ピーク波長は400〜410nmの範囲内であることが好ましく、赤色発光装置42における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく、青色発光装置43における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましい。なお、図15に示す例のように、緑色発光装置、赤色発光装置および青色発光装置を用いた画像表示装置を実現する場合、青色発光装置として、上述した青色蛍光を呈する蛍光体のみをモールド樹脂中に分散させた青色発光装置を用いるようにしてもよい。
【0080】
図16(a)は、本発明の好ましいさらに他の例の画像表示装置51を模式的に示す分解斜視図であり、図16(b)は、図16(a)に示された液晶表示装置53を拡大して示す分解斜視図である。なお、図16(a)に示す例の画像表示装置51は、一部を除いては図15に示した例の画像表示装置41と同様であり、また図16(b)に示す例の液晶表示装置53は、一部を除いては図13(b)に示した例の液晶表示装置24と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。図16には、図15に示した例と同様に、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を用いた場合を示しているが、液晶表示部52を構成する液晶表示装置53が青、緑、赤の3原色のカラーフィルタを備えていない。すなわち、図16(a)に示す例の画像表示装置51では、図16(b)の分解斜視図に示されるように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、上部偏光板33が順次積層されてなる構造を備える液晶表示装置53にて液晶表示部52が構成されている。
【0081】
ここで、図16(a)に示す例の画像表示装置51に用いられる緑色発光装置1における半導体発光素子2の発光ピーク波長は400〜410nmの範囲内であることが好ましく、赤色発光装置42における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく、青色発光装置43における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜410nmの範囲内であることが好ましい。なお、図16(a)に示す例の画像表示装置51に用いられた青色発光装置43も、図15に示した例の画像表示装置41に用いられた青色発光装置43と同様、モールド樹脂中に蛍光体を分散させずに構成された青色発光装置を用いた場合を示している。なお、青色発光装置として、上述した青色蛍光を呈する蛍光体のみをモールド樹脂中に分散させた青色発光装置を用いるようにしても勿論よく、この場合における青色発光装置に用いられる半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましい。
【0082】
図16(a)に示す例の画像表示装置51によれば、3原色の発光装置として、スペクトル幅が狭い発光装置を使用しているため、カラーフィルタが不要であり、透過損失を低減できる。図16(a)に示す画像表示装置51では、青、緑、赤の3原色の発光装置を独立して設けてあるため、それぞれの色の発光装置を時分割駆動するようにしてもよい。たとえば、180Hzの周波数で各色を点滅させ、液晶によりコントラスト調整を行なう。これを時系列的に加色混合することにより、画像表示する。ただし、時分割駆動する場合、発光装置の応答速度が必要である。従来用いられていた、Tb、Mnを発光イオンとする緑色蛍光体は、応答速度が遅いため、このような駆動方法には向いていなかった。しかし、本発明の蛍光体は、応答速度は数μsであるため、このような時分割駆動に適した発光装置および画像表示装置を提供することが可能である。
【0083】
上述してきた本発明の画像表示装置は、いずれも、NTSC比95%以上の色再現性を実現することができるものである。これは、本発明の蛍光体が波長530nm近傍にシャープで強い発光スペクトルを有するため、青色画素をON状態にしたときの緑色蛍光の影響が少なく、色純度のよい青色が表現でき、NTSC比を高くすることができるためである。なお、本発明の画像表示装置において、液晶表示装置が青色光を透過する青カラーフィルタを用いる場合には、波長530nmにおける透過率が、透過率の最大値の20%以下であるものを用いることが好ましい。
【0084】
なお、上述してきた本発明の画像表示装置では、説明のために、導光板に側面から本発明の発光装置の出射光を入射させる構成を例に挙げたが、導光板の背面側(液晶表示部とは反対側)から本発明の発光装置の出射光を入射させる構成と採った場合にも同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0085】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
<実施例1〜4、比較例1:蛍光体>
原料粉末として、45μmの篩を通した純度99.99%のSi粉末(高純度化学製試薬級)、比表面積3.3m2/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)、純度99.9%の酸化ユーロピウム粉末(信越化学製)、さらに酸素含有量0.93質量%でα型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製、SN−E10グレード)を用いて、それぞれ表1に示すような混合量にて実施例1〜4、比較例1の各蛍光体を作製した。
【0087】
【表1】
【0088】
各蛍光体の作製においては、まず、原料粉末を表1に示した所定量を秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmの篩を通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。該粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットし焼成して試料を得た。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を0.5MPaとし、毎時500℃で1300℃まで昇温し、その後毎分1℃で1600℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。得られた試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった。その結果、得られたチャートはすべてβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0089】
次に、該粉末に再度加熱処理を施した。1600℃で焼成した該粉末を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕した後に、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットし、焼成した。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、実施例1〜4、比較例1の各蛍光体を作製した(いずれも平均粒径が0.7〜1.5、アスペクト比が1〜2)。各蛍光体について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった結果、得られたチャートはすべてβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0090】
LECO社製TC436型酸素窒素分析計を用いてこれらの蛍光体中に含まれる酸素濃度および窒素濃度を測定した。酸素濃度の測定には不活性ガス融解赤外線吸収法、窒素濃度の測定には不活性ガス融解熱伝導法を用いた。さらに、Eu濃度(ICP発光分光法により測定)、Al濃度(ICP発光分光法により測定)、ならびにSi濃度(ICP発光分光法により測定)についても測定した。実施例1〜4、比較例1の各蛍光体についての測定結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2からわかるように、実施例1〜4の各蛍光体の酸素濃度はいずれも0.6質量%以下であった。ここで、表2に示される酸素濃度は、表1に示した混合粉末の組成から見積もられる酸素濃度よりも多い。これは、出発原料の窒化ケイ素粉末の表面は酸化されており、酸化ケイ素膜および酸化アルミニウム膜が形成されていることに起因するものと考えられた。実施例1〜4の蛍光体では、ケイ素粉末の混合比が異なるため、結果的にそれに対応した酸素濃度の違いが見られる。また、高温での焼成中の窒素雰囲気ガスにも1ppm程度の酸素、水分が含まれており、これと試料が反応することで、酸素濃度が増大することも考えられる。
【0093】
再加熱処理した粉末に、波長450nmの光を発するランプで照射した結果、緑色蛍光を呈することが確認された。実施例1〜4、比較例1の各蛍光体について、吸収率、内部量子効率および発光効率を測定し、さらに、実施例1〜4、比較例1の各蛍光体の発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅についても測定した(いずれも積分球を用いた全光束フォトルミネッセンス測定による)。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3から、実施例1〜4の蛍光体は、いずれも、450nmの励起光により520〜530nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈することが分かった。これらは、従来報告されていたβ型サイアロンをホストとする緑色蛍光体よりも短波長であり、色純度がよい緑色であった。
【0096】
ここで、図1〜図4は、実施例1〜4の各蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであることは上述した。図1〜図4に示されるように、実施例1〜4の各蛍光体は、いずれも、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を有するとともに、発光スペクトルにおける半値全幅が53nm以下と小さくシャープな緑色蛍光を呈する発光効率の高い蛍光体であることがわかる。
【0097】
<比較例2:蛍光体>
原料粉末として、比表面積3.3m2/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)、純度99.9%の酸化ユーロピウム粉末(信越化学製)および酸素含有量0.93質量%でα型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製、SN−E10グレード)を用いて、表4に示す混合比にて比較例2の蛍光体を作製した。
【0098】
まず、各材料を表4に示すような混合量となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。
【0099】
次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした後に、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持して、試料を得た。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、比較例2の蛍光体を作製した。得られた比較例2の蛍光体について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった結果、チャートはβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0100】
LECO社製TC436型酸素窒素分析計を用いてこれらの合成粉末中に含まれる酸素濃度および窒素濃度を測定したところ、表4に示すように、比較例2の蛍光体の酸素濃度は1.12質量%であり、金属シリコンを出発原料として用いた実施例1〜4の蛍光体と比較して、酸素濃度が高いことが分かった。窒化ケイ素粉末に含まれる酸素量は、金属シリコン(原料中の酸素濃度は0.5質量%以下)よりも高かった。このため、窒化ケイ素を出発原料とすると金属系粗粉末を出発原料としたものより酸素濃度が増大することが分かった。
【0101】
上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、比較例2の蛍光体についてEu濃度、Al濃度、Si濃度、吸収率、内部量子効率、発光効率、発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅を測定した。これらの結果も併せて、表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
また、図17は、比較例2の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。比較例2の蛍光体の発光スペクトルの発光ピーク波長は541nmと、シリコンを出発原料とするものよりも長波長であり、半値全幅が54nmと幅広であった。
【0104】
ここで、上述した図10は、実施例1〜4、比較例1、2の蛍光体について酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、上述した図11は、緑色スペクトルの半値全幅とNTSC比との関係を示すグラフであるが、これらのグラフから、実施例1〜4の蛍光体は、いずれも、発光スペクトルの半値全幅が53nm以下であることから、NTSC比95%以上が実現できたことがわかる。これは、実施例1〜4の蛍光体の酸素濃度がいずれも0.6質量%以下であったことに起因する。
【0105】
<実施例5〜29、比較例3〜19:蛍光体>
原料粉末に窒化ケイ素を用いずに、表5に示すような混合比としたこと以外は、上述した実施例2〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体をそれぞれ作製した。
【0106】
【表5】
【0107】
上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体についてEu濃度、Al濃度、Si濃度、酸素濃度および窒素濃度を測定した。この結果を表6に示す。さらに、上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体について吸収率、内部量子効率、発光効率、発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅を測定した。この結果を表7に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
表6からわかるように、原料粉末に窒化ケイ素を用いずに作製した実施例5〜29、比較例3〜19の各蛍光体は、いずれも、酸素濃度が0.4質量%以下の低い値であった。しかしながら、表6および表7からわかるように、酸素濃度が0.1質量%以下の比較例10〜15の蛍光体では、酸素濃度は低いにもかかわらず、発光スペクトルの半値全幅が60nm以上と大きくなっている。また比較例3〜9では発光効率が非常に低い。これは、発光イオンであるEuがβサイアロン結晶中に均一に固溶していないためである。この場合、緑色に発光するEu2+として結晶中に配位する濃度が低下し、またイオン周辺の配位環境も不均一となることによりスペクトルの半値全幅も大きくなる。このため、本発明の蛍光体における酸素濃度は0.1質量%以上である必要があることがわかる。
【0111】
また、表6および表7から、蛍光体中のAl濃度およびEu濃度によっても発光特性が大幅に変わることがわかる。ここで、図5は、実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであることは上述した。図5から、0.13〜0.8質量%の範囲内のAl濃度を有する場合に高い発光効率を有することがわかる。また、表6および表7から、上述した範囲内のAl濃度を有する場合には、発光スペクトルの半値全幅が極めて狭いことがわかる。さらに、上述したように図7は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであるが、図7から、0.5〜4質量%の範囲内のEu濃度を有する場合に、高い発光効率を有することがわかる。
【0112】
このようなAl濃度依存性は、蛍光体中の電荷のバランスと関係しており、酸素濃度が低い場合、上記のような範囲で発光イオンであるEuが安定に2価のイオンとして結晶中に固溶しやすい。Eu濃度は、0.5質量%までは発光効率が向上するが、それ以上では強度が飽和し、高すぎると寧ろ低下傾向が見られる。
【0113】
また、上述したように、図6は、実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、図8は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、図9は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフである。図6から、蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)が0.15〜1の範囲で高い発光効率が得られ、図8から、蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)が0.15〜1.5の範囲で高い発光効率が得られ、さらに、図9から、蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)が0.15〜1.5の範囲で高い発光効率が得られることがわかる。このようにβサイアロン蛍光体結晶中にEuを2価の状態でしかも均一な格子位置に配位させるためには、上述のような周辺の酸素濃度、Al濃度とバランスをとることが重要であることが分かった。実施例1〜29、比較例1〜19の各蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)、Eu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)、ならびに、Eu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)をまとめて表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
<実施例30:発光装置>
上述した実施例6の蛍光体を用いて、図12に示したような本発明の発光装置1を作製した。すなわち、基体としてのプリント配線基板3上に、半導体発光素子2を載置し、同じくプリント配線基板3上に樹脂枠4を載置した。図12に示した例のように、半導体発光素子2のn側電極8を、プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたn電極部9に、導電性を有する接着剤10を介して電気的に接続した。また半導体発光素子2のp側電極8を、上述したn電極部9とは別途プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたp電極部11に金属ワイヤ12を介して電気的に接続した。
【0116】
樹脂枠4の内側に、実施例6の蛍光体および赤色蛍光を呈する蛍光体としてEu賦活CaAlSiN3蛍光体を分散させた、透光性樹脂からなるモールド樹脂5を充填させた。なお、これらの混合比率(重量比)は、モールド樹脂:実施例6の蛍光体:Eu賦活CaAlSiN3蛍光体=50:6:1とした。
【0117】
ここで、図18は、実施例6の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。また図19は、図18に示す実施例6の蛍光体の励起スペクトルを一部拡大して示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図18および図19に示されるように、実施例6の蛍光体の励起スペクトルの形状には微細構造が現れている(その他の実施例1〜5、7〜29の蛍光体についても同様である。これに対し、図17からもわかるように比較例1〜19の蛍光体(図17は比較例2の場合)の励起スペクトルには、このような微細構造は現れない)。実施例6の蛍光体の440〜450nmの間の励起スペクトルに着目すると、励起スペクトルの極大値は445nmであることが分かった。したがって、この実施例6の蛍光体を用いた実施例30の発光装置では、半導体発光素子2として、実施例6の蛍光体の励起スペクトルの極大値に合せて445nmに発光ピーク波長を設定した(半導体発光素子2としては、具体的には、GaInNLEDを用いた。)。
【0118】
<実施例31〜33:発光装置>
実施例7、13、19の蛍光体を用いたこと以外は、実施例30と同様にして、実施例31〜33の発光装置をそれぞれ作製した(半導体発光素子2の発光ピーク波長は445nmに設定)。ここで、図20は、実施例31の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図20からわかるように、半導体発光素子2から発せられた青色光、本発明の蛍光体(実施例7の蛍光体)から発せられた緑色光に加え、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体から赤色光が発せられ、本発明の発光装置からはシャープな3原色発光が得られた。これは、図14に示した液晶バックライト用フィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像処理装置に適したものであった。また、実施例31〜33から、本発明の発光装置が、酸窒化物蛍光体である本発明の蛍光体の結晶安定性、発光効率の温度依存性が少ないという利点を生かし、様々な環境で安定した発光スペクトルを提供できることが分かった。また発光装置の長期信頼性も酸化物蛍光体などの他の蛍光体を用いた場合と比較して格段に優れていた。
【0119】
<実施例34:発光装置>
モールド樹脂5中に分散させる蛍光体として、実施例6の蛍光体、赤色蛍光を呈する蛍光体であるEu賦活CaAlSiN3蛍光体に加え、青色蛍光を呈する蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+(BAM)も分散させたこと以外は実施例30と同様にして、実施例34の発光装置を作製した。また、半導体発光素子2の発光ピーク波長は405nmに設定した。
【0120】
ここで、図21は、実施例34の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。実施例34の発光装置では、半導体発光素子2から発せられた近紫外光である405nmの励起光は、本発明の蛍光体(実施例6の蛍光体)により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体であるEu賦活CaAlSiN3蛍光体により赤色蛍光に、さらに青色蛍光を呈する蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+により青色蛍光に変換され、図21に示すようなシャープな3原色発光が得られた。これは、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像表示装置に適していることが分かった。なお、実施例34の発光装置は、3原色の発光にすべて蛍光体を用いているため、周囲温度などの環境変化によって発光ピーク波長の変動がほとんど発生しないという利点を有する。また、実施例34の発光装置は、本発明の画像表示装置にそのまま応用可能であり、高い色再現性を実現できることが分かった。
【0121】
<実施例35:発光装置>
モールド樹脂5中に実施例6の蛍光体のみを分散させたこと以外は、実施例30と同様にして、実施例35の発光装置(緑色発光装置)を作製した。なお、半導体発光素子2の発光ピーク波長は405nmに設定した。図22は、実施例35の発光装置(緑色発光装置)から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図22に示すように、半導体発光素子2から発せられた近紫外光は本発明の蛍光体(実施例6の蛍光体)により緑色光に変換された。この緑色発光装置は、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像表示装置に適していることが分かった。
【0122】
<実施例36:画像表示装置>
実施例31の発光装置1を用いて、図13(a)に示したような本発明の画像表示装置21を作製した。すなわち、透明の導光板22の側面に、6個の実施例31の発光装置1を配置し、また導光板22に隣接して、複数の液晶表示装置24で構成された液晶表示部21を隣接して設け、発光装置1からの出射光25が導光板22内で散乱して散乱光26として液晶表示部23の全面に照射されるように構成した。液晶表示部21を構成する液晶表示装置24としては、図13(b)に示したように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、色画素を表示するためのカラーフィルタ32、上部偏光板33が順次積層されてなる構造を備えるものを用いた。またカラーフィルタ32は、透明導電膜28の各画素に対応する大きさの部分に分割されており、赤色光を透過する赤カラーフィルタ32r、緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gおよび青色光を透過する青カラーフィルタ32bから構成され、図14に示すような透過スペクトルを有するものを用いた。なお、青色光を透過する青カラーフィルタ32bとしては、波長530nmにおける透過率が、透過率の最大値の20%以下であるものを用いた。このようなカラーフィルタ32と、実施例31の発光装置1とを組み合わせることにより、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置21が実現できた。
【0123】
<実施例37:画像表示装置>
実施例35で作製した発光装置(緑色発光装置)1を用いたこと以外は実施例36と同様にして、図15に示した構造を備える実施例37の画像表示装置41を作製した。なお、赤色発光装置42としては、モールド樹脂中に赤色蛍光を呈する蛍光体としてEu賦活CaAlSiN3蛍光体のみを分散させたこと以外は実施例35の発光装置と同様の構成を備えるものを作製して用いた。図23は、実施例37で用いた赤色発光装置42から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図23から、赤色発光装置では、半導体発光素子から発せられた近紫外光はEu賦活CaAlSiN3蛍光体により赤色光に変換されていることが確認された。また、青色発光装置43としては、モールド樹脂中に蛍光体を分散させず、半導体発光素子の発光ピーク波長を445nmとしたこと以外は実施例35の発光装置と同様の構成を備えるものを作製して用いた。図24は、実施例37で用いた青色発光装置43から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図24から、赤色発光装置では、半導体発光素子から発せられた近紫外光は青色光として発光していることが確認された。これら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43により、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常にマッチングした緑、赤、青のシャープな3原色発光が得られた。実施例37の画像表示装置41では、図15にこれら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を2個ずつ導光板22の側面に配置し、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43からの出射光44が導光板22内で散乱して散乱光45として液晶表示部23の全面に照射されるように構成した。このような実施例37の画像表示装置41は、色再現性に優れたものであることが確認された。
【0124】
<実施例38:画像表示装置>
実施例37で用いた緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を用い、カラーフィルタを備えない液晶表示装置53で構成された液晶表示部52を用いたこと以外は実施例37と同様にして、図16に示した構造を備える実施例38の画像表示装置51を作製した。なお、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43について、いずれも発光ピーク波長が405nmの半導体発光素子2を用いた。実施例38の画像表示装置では、原色の発光装置として、スペクトル幅が狭い発光装置を使用しているため、カラーフィルタが不要であり、3透過損失を低減できた。なお、実施例38の画像表示装置51では、青、緑、赤の3原色の発光装置を独立して設けてあるため、それぞれの色の発光装置を180Hzの周波数で各色を点滅させ、液晶によりコントラスト調整を行ない、これを時系列的に加色混合することにより、時分割駆動で画像表示できることが確認された。
【0125】
今回開示された実施の形態、実施例および比較例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
1 発光装置、2 半導体発光素子、3 プリント配線基板、4 樹脂枠、5 モールド樹脂、6 InGaN層、7 p側電極、8 n側電極、9 n電極部、10 接着剤、11 p電極部、12 金属ワイヤ、21,41,51 画像表示装置、22 導光板、23,52 液晶表示部、24,53 液晶表示装置、25 出射光、26 散乱光、27 偏光板、28 透明導電膜、28a 薄膜トランジスタ、29a,29b 配向膜、30 液晶層、31 上部薄膜電極、32 カラーフィルタ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、β型Si3N4結晶構造を有し、近紫外線または可視光により励起されることにより可視光を発する蛍光体、ならびにそれを用いた、液晶ディスプレイなどのバックライト光源に適した発光装置およびそれを用いた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体は、蛍光表示管(VFD:Vacuum−Fluorescent Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)またはSED(Surface−Conduction Electron−Emitter Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、陰極線管(CRT:Cathode−Ray Tube)、白色発光ダイオード(LED:Light−Emitting Diode)などに用いられている。これらのいずれの用途においても、蛍光体を発光させるためには、蛍光体を励起するためのエネルギーを蛍光体に供給する必要があり、蛍光体は真空紫外線、紫外線、電子線、青色光などの高いエネルギーを有する励起光により励起されて、可視光線を発する。
【0003】
しかしながら、蛍光体は励起光に曝される結果、蛍光体の輝度が低下し劣化しがちであり、輝度低下の少ない蛍光体が求められている。そのため、従来のケイ酸塩蛍光体、リン酸塩蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、硫化物蛍光体などの蛍光体に代わり、輝度低下の少ない蛍光体としてサイアロン蛍光体が提案されている。
【0004】
このサイアロン蛍光体の一例は、概ね以下に述べるような製造プロセスによって製造される。まず、窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)および酸化ユーロピウム(Eu2O3)を所定のモル比に混合し、1気圧(0.1MPa)の窒素雰囲気中において1700℃の温度で1時間保持してホットプレス法により焼成して製造される(たとえば、特開2002−363554号公報(特許文献1)を参照。)。このプロセスで得られるEuイオンを賦活したαサイアロンは、450nmから500nmの青色光で励起されて550〜600nmの黄色の光を発する蛍光体となることが報告されている。
【0005】
さらに、JEM相(LaAl(Si6−zAlz)N10−zOz)を母体結晶としてCeを賦活させた青色蛍光体(たとえば、国際公開第2005/019376号パンフレット(特許文献2)を参照。)、La3Si8N11O4を母体結晶としてCeを賦活させた青色蛍光体(たとえば、特開2005−112922号公報(特許文献3)を参照。)およびCaAlSiN3を母体結晶としてEuを賦活させた赤色蛍光体(たとえば、国際公開第2005/052087号パンフレット(特許文献4)を参照。)が知られている。
【0006】
別のサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに希土類元素を添加した蛍光体(たとえば、特開昭60−206889号公報(特許文献5)を参照。)が知られており、Tb、Yb、Agを賦活したものは525〜545nmの緑色を発光する蛍光体となることが示されている。しかしながら、合成温度が1500℃と低いために賦活元素が十分に結晶内に固溶せず、粒界相に残留するため高輝度の蛍光体は得られていなかった。
【0007】
高輝度の蛍光を発するサイアロン蛍光体として、β型サイアロンに2価のEuを添加した蛍光体(たとえば、特開2005−255895号公報(特許文献6)、特開2006−273929号公報(特許文献7)を参照。)が知られており、緑色の蛍光体となることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−363554号公報
【特許文献2】国際公開第2005/019376号パンフレット
【特許文献3】特開2005−112922号公報
【特許文献4】国際公開第2005/052087号パンフレット
【特許文献5】特開昭60−206889号公報
【特許文献6】特開2005−255895号公報
【特許文献7】特開2006−273929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
画像表示装置としての液晶ディスプレイなどのバックライト光源に使用する白色光源となる発光装置には、一般照明用途とは異なり青、緑、赤の3原色の発光スペクトル線幅が細いことが望まれる。白色光は上述の3色それぞれの色のみを透過するカラーフィルタを通して3原色が得られるが、青色と赤色との間に位置する緑色は特に発光スペクトル線幅の狭くかつ3原色のカラーフィルタによくマッチングすることが要求される。
【0010】
従来の冷陰極管の白色光源の場合、紫外線で励起される緑色蛍光体が用いられていたが、白色LED用として適した青色発光素子の波長で励起可能な蛍光体でスペクトル線幅が十分狭くかつ波長が3原色のカラーフィルタにマッチングしたものは少ない。この用途に最も適した緑色蛍光体は特許文献6に記載されたβ型サイアロン蛍光体であるが、発光スペクトルの幅が比較的広く、シャープさが必ずしも十分とはいえない。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来の緑色蛍光を発する希土類賦活サイアロン蛍光体より緑色蛍光の発光スペクトルの半値全幅が狭く、発光スペクトルの形状が光の3原色のカラーフィルタによくマッチングした蛍光体、ならびに当該蛍光体を用いた発光装置、当該発光装置を用いた画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる状況の中で、EuおよびSi、Al、O、Nの元素を含有する窒化物について鋭意研究を重ねた結果、特定の組成領域範囲、特定の固溶状態および特定の結晶相を有するものは、520〜550nmの範囲にシャープな発光ピーク波長を有する蛍光体となることを見出した。すなわち、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物を母体結晶とし、2価のEuイオンを発光中心として添加し、酸素含有量が0.6質量%以下の組成を持つ固溶体結晶は、520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有し、その半値全幅が53nm以下のシャープな発光スペクトルを有する蛍光体となることを見出した。
【0013】
すなわち、Euなどを固溶させたβ型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中で、特定の組成の蛍光体が紫外線および可視光線、電子線またはX線で励起され、シャープなスペクトルを持つ緑色発光を有する蛍光体として使用し得るという重要な発見は、本発明者において初めて見出された。本発明者においては、この知見を基礎にしてさらに鋭意研究を重ねた結果、特定波長領域で高い輝度の発光現象を示す蛍光体、当該蛍光体を用いた発光装置、さらには当該発光装置を提供することにも成功した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0014】
本発明に係る蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1.5であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る蛍光体は、前記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15〜1.5であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【0020】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【0021】
本発明に係る蛍光体は、励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有するサイアロン結晶を主成分とし、結晶中に含まれる酸素量を0.1〜0.6質量%の範囲内とすることにより、従来のサイアロン蛍光体よりピークの幅が狭く、シャープな光を放つ優れた緑色蛍光を呈する蛍光体を提供することができる。
【0023】
また本発明によれば、上述した本発明の蛍光体を備えることによって、より強い励起光に曝された場合であっても輝度が低下することなく、長寿命のバックライト光源として用いることができる発光装置を提供することができる。
【0024】
また、本発明の発光装置をバックライト光源として用いることで、3原色の光を透過するカラーフィルタと組み合わせることで色再現領域が拡大された、液晶表示装置などの画像表示装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の蛍光体(実施例1)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図2】本発明の蛍光体(実施例2)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図3】本発明の蛍光体(実施例3)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図4】本発明の蛍光体(実施例4)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図5】実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度(質量%)である。
【図6】実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)である。
【図7】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はEu濃度(質量%)である。
【図8】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)である。
【図9】実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)である。
【図10】実施例1〜4および比較例1、2の蛍光体の酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、縦軸は半値全幅(nm)、横軸は酸素濃度(質量%)である。
【図11】緑色スペクトルの半値全幅とNTSC比との関係を示すグラフであり、縦軸はNTSC比、横軸は半値全幅(nm)である。
【図12】本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。
【図13】図13(a)は、本発明の好ましい一例の画像表示装置21を模式的に示す分解斜視図であり、図13(b)は、図13(a)に示された液晶表示装置24を拡大して示す分解斜視図である。
【図14】本発明の画像表示装置に好適に用いられるカラーフィルタ32の透過率スペクトルを示しており、縦軸は透過率(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図15】本発明の好ましい他の例の画像表示装置41を模式的に示す分解斜視図である。
【図16】図16(a)は、本発明の好ましいさらに他の例の画像表示装置51を模式的に示す分解斜視図であり、図16(b)は、図16(a)に示された液晶表示装置53を拡大して示す分解斜視図である。
【図17】比較例2の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図18】実施例6の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図19】図18に示す実施例6の蛍光体の励起スペクトルを一部拡大して示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図20】実施例31の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図21】実施例34の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図22】実施例35の発光装置(緑色発光装置)から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図23】実施例37の画像表示装置に用いた赤色発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【図24】実施例37の画像表示装置に用いた青色発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の蛍光体は、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、Al(アルミニウム)と、Eu(ユーロピウム)とが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1〜0.6質量%であることを特徴とする。ここで、図1〜図4は、本発明の蛍光体(後述する実施例1〜4)の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である(なお、図1〜図4において、発光強度は測定装置、条件によって変化するため、単位は任意単位である。)。図1〜図4に示すグラフからも明らかなように、本発明の蛍光体は、通常の酸化物蛍光体、既存のサイアロン蛍光体と比較して、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を有するとともに、発光ピーク波長の幅が狭く、シャープな緑色蛍光を呈する蛍光体を提供することができる。このような本発明の蛍光体は、後述するように画像表示装置のバックライト光源に好適に用いることができるものである。
【0027】
本発明の蛍光体は、上述したようにβ型Si3N4結晶構造を有するβ型サイアロンの固溶体(以下、「β型Si3N4属結晶」とも呼ぶ。)を主成分として含むものである。ここで、β型Si3N4属結晶には、純粋なβ型Si3N4結晶と同一の回折を示す物質の他、構成元素が他の元素と置き換わることにより格子定数が変化したものも包含される。さらに、固溶の状態によっては結晶中に点欠陥、面欠陥、積層欠陥が導入されて、粒内の欠陥部に固溶元素が濃縮されることがあるが、その場合もX線回折によるチャートの形態が変わらないものは、β型Si3N4属結晶に包含される。また、欠陥形成の周期性により長周期構造を有するポリタイプを形成することがあるが、この場合も基本となる構造がβ型Si3N4結晶構造であるものはβ型Si3N4属結晶に包含されるものとする。なお、β型Si3N4属結晶は、X線回折、中性子線回折により同定することができる。
【0028】
ここで、純粋なβ型Si3N4の結晶構造とはP63またはP63/mの対称性を有する六方晶系に属し、理想原子位置を有する構造として定義される結晶である。実際の結晶では、各原子の位置は、各位置を占める原子の種類によって理想位置から±0.05程度は変化する。β型Si3N4結晶構造の格子定数は、a=0.7595nm、c=0.29023nmであるが、その構成成分とするSiがAlなどの元素で置き換わったり、NがOなどの元素で置き換わったり、Euなどの金属元素が固溶することによって格子定数は変化する。しかし、結晶構造と原子が占めるサイトとその座標によって与えられる原子位置は大きく変わることはない。したがって、格子定数と純粋なβ型Si3N4結晶構造の面指数が与えられれば、X線回折による回折ピークの位置(2θ)が一義的に決まる。そして、新たな物質について測定したX線回折結果から計算した回折のピーク位置(2θ)のデータが、β型Si3N4属結晶の構造のデータと一致したときに当該結晶構造が同じものと特定することができる。
【0029】
本発明の蛍光体は、上述したβ型Si3N4属結晶において、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶を母体結晶とし、この結晶中に、AlとEuとを固溶してなることにより、Euが発光中心として働くことで、蛍光特性を発するものである。本発明によれば、結晶中にAlとEuとを固溶してなることで、2価のEuイオンが発光中心として働き、高輝度の緑色蛍光を発する蛍光体を実現することができる。
【0030】
本発明の蛍光体はまた、上述した酸窒化物の結晶中の酸素濃度(酸素含有量)が0.1〜0.6質量%の範囲内である。このような範囲内の酸素濃度とすることで、蛍光体の発光ピークの幅(半値全幅を基準とする)を小さくすることができ、発光ピーク波長をシャープにすることができる。ここで、Euである発光中心イオンは、酸素と窒素イオンとで囲まれており、発光中心イオンが結合する原子は、酸素と窒素とでは結合状態が変わるため、酸素、窒素のいずれと結合するかによってβ型Si3N4属結晶の発光ピーク波長が異なる。このため、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中の酸素濃度が0.6質量%を超えて増加する場合には、発光ピークの幅が増大してしまう。一方、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶の中の酸素濃度が0.1質量%未満と低すぎる場合には、発光中心イオンが結晶中の一定の位置に固溶することができなくなり、逆に結合状態が不均一となり発光ピークの幅が増大してしまう。特に、半値全幅を容易に50nm以下とすることができることから、結晶中の酸素濃度は0.4質量%以下であることが好ましい。なお、上記結晶中の酸素濃度は、たとえば赤外線吸収法を用いた酸素濃度測定により測定することができる。
【0031】
ここで、図5は、後述する実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度(質量%)である。蛍光体中の電荷のバランスをとることで高い発光効率を実現できる観点から、本発明の蛍光体は、上記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。上記結晶中のAl濃度が0.13質量%未満である場合や0.8質量%を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。また、Al濃度が0.5質量%以下である場合には、小さい半値全幅と高い発光効率を両立することができる。なお、上記結晶中のAl濃度は、たとえばICP発光分析法により測定することができる。
【0032】
また図6は、後述する実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)である。βサイアロン蛍光体結晶中に、Euを2価の状態でしかも均一な格子位置に配位させ、周辺の酸素濃度とAl濃度とバランスをとることで高い発光効率を実現できることから、本発明の蛍光体は、上記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)が0.15〜1であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。上記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15未満である場合や1を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。
【0033】
また、本発明の蛍光体は、上記結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%であることが好ましく、1.5質量%以下であることがより好ましい。ここで、図7は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸はEu濃度(質量%)である。上記結晶中のEu濃度が0.5質量%未満である場合や4質量%を超える場合には、発光効率が低くなる傾向にあるためである。これは、余分なEuが発光サイトに入らないためである。このような場合、不要なEuが可視光の非発光吸収を増大させる傾向がある。なお、上記結晶中のEu濃度は、たとえばICP発光分析法により測定することができる。
【0034】
また、上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)が0.15〜1.5であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。図8は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)である。上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15未満である場合には、半値全幅が増大する傾向にあり、また、上記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が1.5を超える場合には、発光効率が低下する傾向にあるためである。
【0035】
また、結晶中の電荷のバランスが良好となり、高い発光効率が得られる観点からは、上記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)が0.15〜1.5であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。ここで、図9は、後述する実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、縦軸は発光効率(%)、横軸は結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)である。上記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15未満である場合や1.5を超える場合には、発光効率が低下する傾向にあるためである。
【0036】
上述したような本発明の蛍光体は、後述する実施例1〜4の蛍光体の励起スペクトルおよび発光スペクトルを示す図1〜図4からも明らかなように、好ましくは、励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものであり、より好ましくは、励起光の吸収により520〜540nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものであり、特に好ましくは、励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色発光を呈するものである。なお、図1〜図4には、たとえば分光Xeランプを励起光として測定された励起スペクトルおよび発光スペクトルを示している。
【0037】
また本発明の蛍光体は、好ましくは、励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nmの緑色蛍光を呈するものであり、より好ましくは、励起光の吸収によりピークの半値全幅が50nm以下の緑色蛍光を呈するものである。ここで、図10は、後述する実施例1〜4および比較例1、2の蛍光体の酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、縦軸は半値全幅(nm)、横軸は酸素濃度(質量%)である。また図11は、緑色スペクトルの半値全幅とNTSC(National Television System Committee)比との関係を示すグラフであり、縦軸は色再現領域としてのNTSC比、横軸は半値全幅(nm)である。なお、図10および図11に示すピークの半値全幅は、たとえば450nmのピーク波長を有する分光Xeランプを励起光とした室温フォトルミネッセンス測定による値であり、また、図11に示すNTSC比は、たとえばLEDのエレクトロルミネッセンス測定により得られた値である。
【0038】
図10から、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中にAlと、Euとが固溶してなる蛍光体において、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1〜0.6質量%の範囲内にある場合には、ピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈する蛍光体が実現できることがわかる。また、図11から、ピークの半値全幅が53nm以下である場合には、NTSC比が95%以上と高い色再現性を達成できることがわかる。図11に示されるように、緑色スペクトルの半値全幅を小さくすることによりNTSC比を向上することができるが、従来、これに適したスペクトルを有する緑色蛍光を呈する蛍光体はなかった。本発明の蛍光体は、好ましくは波長520〜550nmの範囲、より好ましくは520〜535nmの範囲に発光ピーク波長を有し、かつ発光スペクトルの半値全幅が好ましくは53nm以下である緑色蛍光を呈することができるものであるため、高いNTSC比を実現することができるものである。
【0039】
従来の冷陰極管、白色LEDを用いた画像表示装置のNTSC比は高々80%台であり、自然な色を表現するのが困難であった。近年、ハイビジョン映像の普及、大画面映像の実現にともない、高い色再現性が望まれている。美術品、文化財映像の表示、インターネット商取引などのニーズからは、少なくともNTSC比95%以上の色再現性が求められる。本発明の蛍光体を用いた画像表示装置(後述)によれば、NTSC比95%以上の色再現性を実現することができる。これは、本発明の蛍光体は波長530nm近傍にシャープで強い発光スペクトルを有するため、青色画素をON状態にしたときの緑色蛍光の影響が少なく、色純度のよい青色が表現でき、NTSC比を高くすることができるためである。
【0040】
上述のように本発明の蛍光体は、励起光の吸収により、好ましくは520〜550nmの発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものであり、その発光スペクトルの半値全幅は53nm以下とシャープな形状を有する。中でも、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶における酸素含有量を0.1〜0.4質量%に低減させた場合には、520〜530nmの範囲に発光ピーク波長を有し、特に色純度がよい緑色蛍光を呈することになる。なお、本発明の蛍光体は、CIE色度座標上の(x、y)値において、好ましくは、0≦x≦0.3、0.5≦y≦0.83の値をとる。
【0041】
本発明の蛍光体は、蛍光発光の点から、その構成成分たるβ型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶相が高純度で極力多く含まれていることが望ましく、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の単相の結晶で構成されていることが特に望ましい。ただし、本発明の蛍光体は、特性が低下しない範囲で他の結晶相またはアモルファス相との混合物から構成することもできる。この場合、高い輝度を得る観点からは、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の含有量が50質量%以上であることが好ましい。
【0042】
本発明の蛍光体は、その形状および大きさについては特に制限されるものではないが、平均粒径(レーザ回折法により測定)が50nm〜20μmの単結晶の粒子状であると、高輝度が得られるため好ましい。また、この場合、アスペクト比(粒子の長軸の長さを短軸の長さで割った値)の平均値が1.5以下の球形のものが分散性、塗布工程での取扱い性の容易さの観点から、好ましい。
【0043】
上述したような本発明の蛍光体を製造する方法については特に制限されるものではなく、従来公知の適宜の手法を組み合わせて製造することができるが、以下に述べるような方法を採用することで好適に製造することができる。
【0044】
まず、少なくともSiを含有する金属粉末を、Alを含有する金属または無機化合物と、Euを含有する金属または無機化合物とを含む原料混合物を、窒素含有雰囲気下において1200〜2200℃の温度範囲で焼成することにより、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶した蛍光体を得ることができる。
【0045】
原料混合物のSi源としては、少なくともSiを含有する金属粉末を用いる。Siを含有する金属粉末としては、単体のシリコンの他に他の金属を含むSi合金が挙げられる。Si源として、金属粉末に加えて、窒化ケイ素、サイアロン粉末などの無機物質を同時に添加するようにしてもよい。窒化ケイ素、サイアロン粉末を添加すると、酸素濃度は増加するものの生成物の結晶性が向上するために、得られた蛍光体の輝度が向上する。
【0046】
原料混合物のAl源としては、Alを含有する金属または無機化合物を用いる。たとえば、金属Al、Al合金、窒化アルミニウムなどを挙げることができる。
【0047】
原料混合物のEuの供給源としては、Euの金属、Euを含む合金、窒化物、酸化物または炭酸塩などが挙げられる。蛍光体の酸素濃度を極力低減するためには、Euの金属、または、Euを含む窒化物を用いることが望ましいが、工業的には、原料の入手のしやすさから、Euを含む酸化物を用いるのがよい。
【0048】
また、原料混合物として、単体のシリコン粉末と、窒化アルミニウム粉末を、酸化ユーロピウム粉末の混合物も好適に用いることができる。これらの原料混合物を用いることで、酸素濃度が特に低い蛍光体を得ることができる。
【0049】
蛍光体は、原料混合物を、窒素含有雰囲気中において、1200〜2200℃の温度範囲で焼成することにより得ることができる。ここで、窒素含有雰囲気とは、窒素ガス、または、分子中に窒素原子を含むガスを指し、必要に応じて他のガスとの混合ガス(たとえば、N2ガス、N2とH2との混合ガス、NH3ガス、NH3とCH4との混合ガスなど)を用いてもよい。窒素含有雰囲気中で加熱することにより、原料混合物中の単体のシリコンが窒化されてSi3N4となり、これとAl源、Euの供給源が反応して、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶した蛍光体が得られる。この際、単体のシリコンに含まれる酸素濃度(通常0.5質量%以下)は原料混合物に含まれる酸素濃度(通常1質量%以上)より低いため、酸素濃度が低い蛍光体を得ることができる。なお、酸素濃度が低くする観点からは、窒素含有雰囲気は、実質的に酸素を含まないもの、すなわち非酸化性のものであることが好ましい。
【0050】
原料混合物中のSiの窒化反応は、1200〜1550℃の温度で進行するため、まずはこの温度範囲で焼成して原料混合物中の窒素濃度を増加させてSiをSi3N4に変換した後、2200℃以下の温度で焼成して蛍光体を作製する方法が好適に採用できる。
【0051】
また、別の方法として、窒化ケイ素原料粉末、または、Euと、Si、Al、O、Nの元素とを少なくとも含む前駆体原料混合粉末に、還元窒化雰囲気中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素濃度を減少させるとともに窒素濃度を増加させることにより、出発原料に含まれる酸素濃度を低減した後に、必要に応じてEu、Alを含む原料をさらに添加して、2200℃以下の温度で焼成することで蛍光体を作製するようにしてもよい。ここで、還元窒化雰囲気は、還元力と窒化性とに富むガス雰囲気を指し、たとえばアンモニアガス、水素と窒素との混合ガス、アンモニア−炭化水素混合ガス、水素−窒素−炭化水素混合ガスなどを用いることができる。なお、炭化水素ガスを用いる場合には、還元力の強さの点から、メタンまたはプロパンガスが好ましい。また、炭素源としてカーボン粉末などの炭素を含む固体、フェノール樹脂などの炭素を含む液体を予め窒化ケイ素原料粉末、前駆体原料混合粉末に添加したものを窒化性に富むガスで処理することもできる。
【0052】
さらに別の方法として、β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物蛍光体粉末に対して、還元窒化雰囲気(上述と同様)中で加熱処理を施し、処理粉末の酸素濃度を減少させるとともに窒素濃度を増加させるようにしてもよい。この方法により蛍光体を作製した場合には、通常の方法で作製されたサイアロン蛍光体の表面に存在する酸素を、還元窒化することにより低減できるという利点がある。
【0053】
なお、粒径数μmの微粉末を出発原料とする場合、混合工程を終えた金属化合物の混合物は、粒径数μmの微粉末が数百μmから数mmも大きさに凝集した形態をなす(以下、「粉体凝集体」と呼ぶ。)。このため、蛍光体を作製する際に、当該粉体凝集体、凝集しなかった微粉末の金属化合物を、嵩密度40%以下の充填率に保持した状態で容器に充填した後に焼成する方法を採用することで、特に高い輝度を有する蛍光体を作製することができる。
【0054】
すなわち、通常のサイアロン蛍光体の製造ではホットプレス法、金型成形後に焼成を行なっており粉体の充填率が高い状態で焼成されている。これに対し、上述した製造方法では、粉体に機械的な力を加えることなく、また予め金型などを用いて成形することなく、混合物の粉体凝集体の粒度を揃えたものを、そのままの状態で容器などに嵩密度40%以下の充填率で充填する。必要に応じて、該粉体凝集体を、ふるい、風力分級などを用いて、平均粒径500μm以下に造粒して粒度制御することができる。また、スプレードライヤなどを用いて直接的に500μm以下の形状に造粒してもよい。粉体凝集体の平均粒径を500μm以下とすることで、焼成後の粉砕性に優れるという利点がある。なお、容器は窒化ホウ素製のものを用いると、得られる蛍光体との不必要な化学反応を低減することができる。
【0055】
ここで、上述した方法において嵩密度を40%以下の状態に保持したまま焼成するのは、該粉体凝集体の周りに自由な空間がある状態で焼成することが好ましいという理由からである。嵩密度が40%を超えると、焼成中に部分的に緻密化が起こって、緻密な焼結体となってしまい結晶成長の妨げとなり蛍光体の輝度が低下する虞があり、また微細な粉体が得られ難いためである。焼成の際の最適な嵩密度は、顆粒粒子の形態、表面状態によって異なるが、20%以下が好ましい。嵩密度を20%以下の状態に保持して焼成することで、反応生成物が自由な空間に結晶成長するので結晶同士の接触が少なくなり、表面欠陥が少ない結晶を合成することができると考えられる。
【0056】
焼成に用いる炉は、焼成温度が高温であり焼成雰囲気が窒素であることから、金属抵抗加熱抵抗加熱方式または黒鉛抵抗加熱方式であり、炉の高温部の材料として炭素を用いた電気炉が好適である。焼成の手法は、常圧焼結法、ガス圧焼結法などの外部から機械的な加圧を施さない焼結方法が、嵩密度を所定の範囲に保ったまま焼成できるため好ましい。
【0057】
焼成の際のガス雰囲気は、0.1〜100MPaの圧力範囲が好ましく、0.1〜1MPaの圧力範囲の窒素ガス雰囲気がより好ましい。窒化ケイ素を原料として用いる場合、ガス雰囲気が0.1MPa未満である場合には、1820℃以上の温度に加熱すると原料が熱分解してしまう傾向にある。ガス雰囲気が0.5MPa以上であれば、原料はほとんど分解しない。ガス雰囲気は1MPaあれば十分であり、100MPa以上となると特殊な装置が必要となり、工業生産に向かない。
【0058】
焼成して得られた粉体凝集体が固く固着している場合は、たとえばボールミル、ジェットミルなどの工業的に通常用いられる粉砕機により粉砕する。中でも、ボールミル粉砕は粒径の制御が容易である。この場合、使用するボールおよびポットは、窒化ケイ素焼結体製またはサイアロン焼結体製が好ましい。中でも、蛍光体と同組成のセラミック焼結体製が特に好ましい。蛍光体の平均粒径が20μm以下となるまで粉砕することが好ましく、蛍光体の平均粒径が20nm〜5μmとなるまで粉砕することがより好ましい。蛍光体の平均粒径が20μmを超える場合には、蛍光体の流動性と樹脂への分散性が悪くなり、後述するような半導体発光素子と組み合わせた発光装置を作製する際に、部位によって発光強度が不均一となる虞がある。なお、蛍光体の平均粒径が20nm未満である場合には、蛍光体の取り扱う際の操作性が悪くなる傾向にある。粉砕だけで目的の平均粒径が得られない場合には、分級を組み合わせて用いてもよい。分級の手法としては、篩い分け、風力分別、液体中での沈殿法などが挙げられる。
【0059】
また、粉砕・分級の一方法として酸処理を行なってもよい。焼成して得られた粉体凝集体は、多くの場合、β型Si3N4結晶構造を有する窒化物または酸窒化物の単結晶が微量のガラス相を主体とする粒界相で固く固着した状態となっている。この場合、特定の組成の酸に浸すとガラス相を主体とする粒界相が選択的に溶解して、単結晶が分離する。これにより、それぞれの粒子が単結晶の粉体凝集体ではなく、β型Si3N4結晶構造を有する窒化物または酸窒化物の単結晶1個からなる粒子として得られる。このような粒子は、表面欠陥が少ない単結晶から構成されるため、蛍光体の輝度が特に高くなる。
【0060】
なお、蛍光体の輝度をさらに向上させるために、さらに熱処理を行なうようにしてもよい。この場合には、焼成後の粉体凝集体、または、粉砕・分級後の蛍光体を、1000℃以上かつ焼成温度以下の温度で、熱処理を行なう。熱処理の温度が1000℃未満である場合には、表面の欠陥除去の効果が少ない傾向にあり、また、焼成温度を超える温度で熱処理した場合には、粉砕した粉体同士が再度固着してしまう虞がある。熱処理に適した雰囲気は、蛍光体の組成により異なるが、窒素、空気、アンモニア、水素から選ばれる1種または2種以上の混合雰囲気を用いることができる。中でも、欠陥除去効果に優れる点からは、窒素雰囲気が好ましい。
【0061】
以上のような方法にて、本発明の蛍光体を好適に作製することができる。なお、上述した方法で製造することで、高温に曝しても劣化が少なく耐熱性に優れ、酸化雰囲気および水分環境下での長期間の安定性にも優れた蛍光体を得ることができるという利点もある。
【0062】
ここで、図12は、本発明の好ましい一例の発光装置1を模式的に示す断面図である。本発明は、励起光を発する半導体発光素子2と、励起光の吸収により緑色蛍光を呈する上述した本発明の蛍光体とを備える発光装置1についても提供する。なお、図12において、蛍光体は図示を省略している。
【0063】
図12に示す例の発光装置1は、基体としてのプリント配線基板3上に、半導体発光素子2が載置され、同じくプリント配線基板3上に載置された樹脂枠4の内側に、蛍光体を分散させた透光性樹脂からなるモールド樹脂5が充填されて、半導体発光素子2が封止されている。図12に示す例では、半導体発光素子2は、活性層としてInGaN層6を有し、InGaN層6を挟んで、p側電極7およびn側電極8を有しており、このn側電極8が、プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたn電極部9に、導電性を有する接着剤10を介して電気的に接続されている。また図12に示す例では、半導体発光素子2のp側電極8は、上述したn電極部9とは別途プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたp電極部11に金属ワイヤ12を介して電気的に接続されている。
【0064】
本発明の発光装置1に用いられる半導体発光素子2は、発光ピーク波長が390〜550nmであるものを用いることが好ましい。半導体発光素子2の発光ピーク波長が390nm未満である場合には、素子の構成部材が紫外線の影響により劣化しやすい傾向にあるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が550nmを超える場合には、本発明の蛍光体が励起されない虞があるためである。このような範囲の発光ピーク波長の中から、後述するようにモールド樹脂5に分散させた蛍光体に応じて、好適な発光ピーク波長を適宜選択することができる。
【0065】
モールド樹脂5に分散させる蛍光体は、上述した本発明の蛍光体のみであってもよいし、本発明の蛍光体と他の蛍光体との組み合わせであってもよい。モールド樹脂5中に本発明の蛍光体のみを分散させる場合には、半導体発光素子2による励起光の照射によって、緑色の蛍光を呈する発光装置を実現できる(この場合の発光装置を以下、「緑色発光装置」と呼称する。)。緑色発光装置の場合、バックライト光源として用いた場合に、青色光の色純度をよくするという観点から、励起光を発する半導体発光素子2の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく。400〜410nmの範囲内であることがより好ましい。
【0066】
また本発明の発光装置1は、モールド樹脂5に分散させる蛍光体として、上述した本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、赤色蛍光を呈する蛍光体としては、励起光の吸収により600〜670nmの範囲の発光ピーク波長を有する蛍光体を用いることが好ましい。発光ピーク波長が600nm未満または670nmを超える赤色蛍光を呈する蛍光体を用いた場合には、赤色の色成分が弱くなる傾向にあるためである。また、赤色蛍光を呈する蛍光体は、赤色の色純度を高くできることから、ピークの半値全幅が95nm以下であることが好ましい。このような赤色蛍光を呈する蛍光体としては、たとえば、Eu賦活M2Si5N3(ただし、Mは、Mn、Ce、Euなどから選ばれる元素)、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体、Eu賦活Sr2Si5N8などの高効率の赤色蛍光体が好適である。中でも、発光効率が高いことから、Eu賦活M2Si5N3、または、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体が特に好適に用いられる。
【0067】
上述のように励起光の吸収により緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いる場合、半導体発光素子2から発せられた青色光は、本発明の蛍光体により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体により赤色蛍光に変換される。そして、この緑色蛍光および赤色蛍光を、半導体発光素子2からの青色光と混合することで、白色光を発光できる。このように、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の本発明の発光装置1は、色再現性に優れ、画像表示装置に含まれるバックライト光源として好適に用いることができる。
【0068】
なお、上述のように本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合、本発明の発光装置をバックライト光源として用いた際に青色光の色純度をよくするという観点からは、半導体発光素子2の発光ピーク波長は、上述した範囲の中でも、430〜480nmの範囲内であることがより好ましく、440〜450nmの範囲内であることが特に好ましい。本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置において、半導体発光素子2の発光ピーク波長が430nm未満である場合には、ヒトの視感度が低下する虞があるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が480nmを超える場合には、発光色が青緑色となり、青色の成分が低くなってしまう傾向にあるためである。
【0069】
また本発明の発光装置1は、モールド樹脂5に分散させる蛍光体として、上述した本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体とに加えて、励起光の吸収により青色蛍光を呈する蛍光体をさらに組み合わせて用いてもよい。青色蛍光を呈する蛍光体としては、たとえば、Ce賦活La3Si8N11O4からなる蛍光体、BaMgAl10O17:Eu2+(BAM)からなる蛍光体または固溶体などを好適に用いることができる。
【0070】
上述のように励起光の吸収により緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体と、励起光の吸収により赤色蛍光を呈する蛍光体と、励起光の吸収により青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いる場合、半導体発光素子2から発せられた青色光は、本発明の蛍光体により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体により赤色蛍光に、さらに青色蛍光を呈する蛍光体により青色蛍光に変換される。そして、緑色蛍光と赤色蛍光と青色蛍光とを混合することで、白色光を発光することができる。このように、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体と青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の本発明の発光装置1についても、色再現性に優れたものであり、画像表示装置に含まれるバックライト光源として好適に用いることができる。この場合には、光の3原色のほとんどの発光が蛍光体によってなされているため、周囲温度などの環境変化によって発光ピーク波長の変動がほとんど発生しないという利点を有する。さらに、本発明の蛍光体が吸収する励起光の励起スペクトルは、可視光域と比較して近紫外域の方が高いため、この場合における半導体発光素子2の励起光は、本発明の蛍光体にとって発光効率が高い光であるという利点を有する。
【0071】
なお、上述のように本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体と、青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合、本発明の発光装置をバックライト光源として用いた際に青色光の色純度をよくするという観点からは、半導体発光素子2の発光ピーク波長は、上述した範囲の中でも、390〜420nmの範囲内であることがより好ましく、440〜410nmの範囲内であることが特に好ましい。本発明の蛍光体と、赤色蛍光を呈する蛍光体と、青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた発光装置において、半導体発光素子2の発光ピーク波長が390nm未満である場合には、紫外線としてのエネルギーが大きくなり、モールド樹脂の劣化が大きくなる虞があるためであり、また、半導体発光素子2の発光ピーク波長が420nmを超える場合には、青紫色としてのヒトの視感度が大きくなり、青色光の色純度を低下させる傾向にあるためである。
【0072】
上述したような本発明の発光装置1において、半導体発光素子2が呈する蛍光体の励起光として、100〜500nmの波長の光(真空紫外線、深紫外線、紫外線、近紫外線、紫から青色の可視光)および電子線、X線などを用いるようにしてもよい。このような光を用いることで、高い輝度の蛍光を発するという利点がある。
【0073】
本発明はさらに、上述した本発明の発光装置1をバックライト光源として用いた画像表示装置についても提供する。ここで、図13(a)は、本発明の好ましい一例の画像表示装置21を模式的に示す分解斜視図であり、図13(b)は、図13(a)に示された液晶表示装置24を拡大して示す分解斜視図である。図13(a)に示す例の画像表示装置21は、透明または半透明の導光板22の側面に、複数個(具体的には6個)の図12に示した例の発光装置1が配置されてなる。なお、図13(a)に示す例では、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の発光装置1を用いた場合を示している。図13(a)に示す例の画像表示装置21はまた、導光板22に隣接して、複数の液晶表示装置24で構成された液晶表示部23が隣接して設けられ、発光装置1からの出射光25は、導光板22内で散乱して散乱光26として液晶表示部23の全面に照射されるように構成されている。
【0074】
液晶表示部23を構成する液晶表示装置24は、図13(b)の分解斜視図に示されているように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、色画素を表示するためのカラーフィルタ32、上部偏光板33が順次積層されてなる。カラーフィルタ32は、透明導電膜28の各画素に対応する大きさの部分に分割されており、赤色光を透過する赤カラーフィルタ32r、緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gおよび青色光を透過する青カラーフィルタ32bから構成されている。
【0075】
本発明の画像表示装置21は、図13(b)に示すように、それぞれ赤色光、緑色光、青色光を透過するフィルタを備えることが好ましい。ここで、図14は、本発明の画像表示装置に好適に用いられるカラーフィルタ32の透過率スペクトルを示しており、縦軸は透過率(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図14中、曲線bは青色光を透過する青カラーフィルタ32bの透過スペクトルであり、曲線gは緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gの透過スペクトルであり、曲線rは赤色光を透過する赤カラーフィルタ32rの透過スペクトルである。このようなカラーフィルタ32と、上述した白色光を呈する本発明の発光装置とを組み合わせることによって、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置が実現できる。すなわち、発光装置1の発光スペクトルは、上述したカラーフィルタにおける赤、青、緑にピークを有する鋭いスペクトルを有するため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高い。特に、緑色光は、青色光と赤色光とに挟まれているため、発光装置1における緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体の発光ピークのスペクトル線幅は、緑色を表示する際の色純度が強く依存する。
【0076】
なお、本発明の画像表示装置に、本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体とを組み合わせて用いた場合の発光装置を用いた場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、上述した本発明の蛍光体と赤色蛍光を呈する蛍光体と青色蛍光を呈する蛍光体とを組み合せて用いた場合の発光装置を用いて、画像表示装置を実現してもよい。この場合にも、カラーフィルタにおける赤、青、緑にピークを有する鋭いスペクトルを有するため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高く、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置を実現することができる。
【0077】
図15は、本発明の好ましい他の例の画像表示装置41を模式的に示す分解斜視図である。なお、図15に示す例の画像表示装置41は、一部を除いては図13(a)に示した例の画像表示装置21と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。図15には、緑色蛍光を呈する本発明の蛍光体のみを用いた場合の本発明の発光装置1(緑色発光装置)を備える場合の画像表示装置41を示している。図15に示す例では、この緑色発光装置と組み合わせて、上述した赤色蛍光を呈する蛍光体のみを用いたこと以外は本発明の発光装置1と同様の発光装置42(以下、「赤色発光装置」と呼称する。)と、モールド樹脂中に蛍光体を分散させていないこと以外は本発明の発光装置と同様の発光装置43(以下、「青色発光装置」と呼称する。)とを用いている。これら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を複数導光板22の側面に配置しておき、それぞれの出射光44を導光板22内で散乱させて散乱光45として液晶表示部23の全面に照射するように構成する。
【0078】
図15に示す例の画像表示装置41は、赤色光を発光する赤色発光装置42、緑色光を発光する緑色発光装置1および青色光を発光する青色発光装置43を用いているため、それぞれの発光装置の発光スペクトルは、図14に示したカラーフィルタにおける赤、緑、青にピークを有する鋭いスペクトルである。このため、各カラーフィルタを透過したときの色純度が高く、赤、緑、青の3原色を表示できる画像表示装置41が実現できる。
【0079】
ここで、図15に示す例の画像表示装置41に用いられる緑色発光装置1における半導体発光素子2の発光ピーク波長は400〜410nmの範囲内であることが好ましく、赤色発光装置42における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく、青色発光装置43における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましい。なお、図15に示す例のように、緑色発光装置、赤色発光装置および青色発光装置を用いた画像表示装置を実現する場合、青色発光装置として、上述した青色蛍光を呈する蛍光体のみをモールド樹脂中に分散させた青色発光装置を用いるようにしてもよい。
【0080】
図16(a)は、本発明の好ましいさらに他の例の画像表示装置51を模式的に示す分解斜視図であり、図16(b)は、図16(a)に示された液晶表示装置53を拡大して示す分解斜視図である。なお、図16(a)に示す例の画像表示装置51は、一部を除いては図15に示した例の画像表示装置41と同様であり、また図16(b)に示す例の液晶表示装置53は、一部を除いては図13(b)に示した例の液晶表示装置24と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。図16には、図15に示した例と同様に、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を用いた場合を示しているが、液晶表示部52を構成する液晶表示装置53が青、緑、赤の3原色のカラーフィルタを備えていない。すなわち、図16(a)に示す例の画像表示装置51では、図16(b)の分解斜視図に示されるように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、上部偏光板33が順次積層されてなる構造を備える液晶表示装置53にて液晶表示部52が構成されている。
【0081】
ここで、図16(a)に示す例の画像表示装置51に用いられる緑色発光装置1における半導体発光素子2の発光ピーク波長は400〜410nmの範囲内であることが好ましく、赤色発光装置42における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましく、青色発光装置43における半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜410nmの範囲内であることが好ましい。なお、図16(a)に示す例の画像表示装置51に用いられた青色発光装置43も、図15に示した例の画像表示装置41に用いられた青色発光装置43と同様、モールド樹脂中に蛍光体を分散させずに構成された青色発光装置を用いた場合を示している。なお、青色発光装置として、上述した青色蛍光を呈する蛍光体のみをモールド樹脂中に分散させた青色発光装置を用いるようにしても勿論よく、この場合における青色発光装置に用いられる半導体発光素子の発光ピーク波長は390〜420nmの範囲内であることが好ましい。
【0082】
図16(a)に示す例の画像表示装置51によれば、3原色の発光装置として、スペクトル幅が狭い発光装置を使用しているため、カラーフィルタが不要であり、透過損失を低減できる。図16(a)に示す画像表示装置51では、青、緑、赤の3原色の発光装置を独立して設けてあるため、それぞれの色の発光装置を時分割駆動するようにしてもよい。たとえば、180Hzの周波数で各色を点滅させ、液晶によりコントラスト調整を行なう。これを時系列的に加色混合することにより、画像表示する。ただし、時分割駆動する場合、発光装置の応答速度が必要である。従来用いられていた、Tb、Mnを発光イオンとする緑色蛍光体は、応答速度が遅いため、このような駆動方法には向いていなかった。しかし、本発明の蛍光体は、応答速度は数μsであるため、このような時分割駆動に適した発光装置および画像表示装置を提供することが可能である。
【0083】
上述してきた本発明の画像表示装置は、いずれも、NTSC比95%以上の色再現性を実現することができるものである。これは、本発明の蛍光体が波長530nm近傍にシャープで強い発光スペクトルを有するため、青色画素をON状態にしたときの緑色蛍光の影響が少なく、色純度のよい青色が表現でき、NTSC比を高くすることができるためである。なお、本発明の画像表示装置において、液晶表示装置が青色光を透過する青カラーフィルタを用いる場合には、波長530nmにおける透過率が、透過率の最大値の20%以下であるものを用いることが好ましい。
【0084】
なお、上述してきた本発明の画像表示装置では、説明のために、導光板に側面から本発明の発光装置の出射光を入射させる構成を例に挙げたが、導光板の背面側(液晶表示部とは反対側)から本発明の発光装置の出射光を入射させる構成と採った場合にも同様の効果が得られることはいうまでもない。
【0085】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
<実施例1〜4、比較例1:蛍光体>
原料粉末として、45μmの篩を通した純度99.99%のSi粉末(高純度化学製試薬級)、比表面積3.3m2/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)、純度99.9%の酸化ユーロピウム粉末(信越化学製)、さらに酸素含有量0.93質量%でα型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製、SN−E10グレード)を用いて、それぞれ表1に示すような混合量にて実施例1〜4、比較例1の各蛍光体を作製した。
【0087】
【表1】
【0088】
各蛍光体の作製においては、まず、原料粉末を表1に示した所定量を秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmの篩を通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。該粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットし焼成して試料を得た。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を0.5MPaとし、毎時500℃で1300℃まで昇温し、その後毎分1℃で1600℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。得られた試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった。その結果、得られたチャートはすべてβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0089】
次に、該粉末に再度加熱処理を施した。1600℃で焼成した該粉末を窒化ケイ素製の乳鉢と乳棒を用いて粉砕した後に、直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットし、焼成した。焼成操作は、まず、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持した。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、実施例1〜4、比較例1の各蛍光体を作製した(いずれも平均粒径が0.7〜1.5、アスペクト比が1〜2)。各蛍光体について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった結果、得られたチャートはすべてβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0090】
LECO社製TC436型酸素窒素分析計を用いてこれらの蛍光体中に含まれる酸素濃度および窒素濃度を測定した。酸素濃度の測定には不活性ガス融解赤外線吸収法、窒素濃度の測定には不活性ガス融解熱伝導法を用いた。さらに、Eu濃度(ICP発光分光法により測定)、Al濃度(ICP発光分光法により測定)、ならびにSi濃度(ICP発光分光法により測定)についても測定した。実施例1〜4、比較例1の各蛍光体についての測定結果を表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
表2からわかるように、実施例1〜4の各蛍光体の酸素濃度はいずれも0.6質量%以下であった。ここで、表2に示される酸素濃度は、表1に示した混合粉末の組成から見積もられる酸素濃度よりも多い。これは、出発原料の窒化ケイ素粉末の表面は酸化されており、酸化ケイ素膜および酸化アルミニウム膜が形成されていることに起因するものと考えられた。実施例1〜4の蛍光体では、ケイ素粉末の混合比が異なるため、結果的にそれに対応した酸素濃度の違いが見られる。また、高温での焼成中の窒素雰囲気ガスにも1ppm程度の酸素、水分が含まれており、これと試料が反応することで、酸素濃度が増大することも考えられる。
【0093】
再加熱処理した粉末に、波長450nmの光を発するランプで照射した結果、緑色蛍光を呈することが確認された。実施例1〜4、比較例1の各蛍光体について、吸収率、内部量子効率および発光効率を測定し、さらに、実施例1〜4、比較例1の各蛍光体の発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅についても測定した(いずれも積分球を用いた全光束フォトルミネッセンス測定による)。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3から、実施例1〜4の蛍光体は、いずれも、450nmの励起光により520〜530nmの範囲に発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈することが分かった。これらは、従来報告されていたβ型サイアロンをホストとする緑色蛍光体よりも短波長であり、色純度がよい緑色であった。
【0096】
ここで、図1〜図4は、実施例1〜4の各蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであることは上述した。図1〜図4に示されるように、実施例1〜4の各蛍光体は、いずれも、紫外線から可視光の幅広い励起範囲を有するとともに、発光スペクトルにおける半値全幅が53nm以下と小さくシャープな緑色蛍光を呈する発光効率の高い蛍光体であることがわかる。
【0097】
<比較例2:蛍光体>
原料粉末として、比表面積3.3m2/g、酸素含有量0.79%の窒化アルミニウム粉末(トクヤマ製、Fグレード)、純度99.9%の酸化ユーロピウム粉末(信越化学製)および酸素含有量0.93質量%でα型含有量92%の窒化ケイ素粉末(宇部興産製、SN−E10グレード)を用いて、表4に示す混合比にて比較例2の蛍光体を作製した。
【0098】
まず、各材料を表4に示すような混合量となるように秤量し、窒化ケイ素焼結体製の乳鉢と乳棒で10分以上混合した後に250μmのふるいを通すことにより流動性に優れる粉体凝集体を得た。この粉体凝集体を直径20mm、高さ20mmの大きさの窒化ホウ素製のるつぼに自然落下させて入れた。
【0099】
次に、該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉にセットした後に、拡散ポンプにより焼成雰囲気を真空とし、室温から800℃まで毎時500℃の速度で加熱し、800℃で純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとし、毎時500℃で1900℃まで昇温し、その温度で8時間保持して、試料を得た。合成した試料をメノウの乳鉢を用いて粉末に粉砕し、比較例2の蛍光体を作製した。得られた比較例2の蛍光体について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行なった結果、チャートはβ型Si3N4属結晶の構造を有していた。
【0100】
LECO社製TC436型酸素窒素分析計を用いてこれらの合成粉末中に含まれる酸素濃度および窒素濃度を測定したところ、表4に示すように、比較例2の蛍光体の酸素濃度は1.12質量%であり、金属シリコンを出発原料として用いた実施例1〜4の蛍光体と比較して、酸素濃度が高いことが分かった。窒化ケイ素粉末に含まれる酸素量は、金属シリコン(原料中の酸素濃度は0.5質量%以下)よりも高かった。このため、窒化ケイ素を出発原料とすると金属系粗粉末を出発原料としたものより酸素濃度が増大することが分かった。
【0101】
上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、比較例2の蛍光体についてEu濃度、Al濃度、Si濃度、吸収率、内部量子効率、発光効率、発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅を測定した。これらの結果も併せて、表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
また、図17は、比較例2の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。比較例2の蛍光体の発光スペクトルの発光ピーク波長は541nmと、シリコンを出発原料とするものよりも長波長であり、半値全幅が54nmと幅広であった。
【0104】
ここで、上述した図10は、実施例1〜4、比較例1、2の蛍光体について酸素濃度と半値全幅との関係を示すグラフであり、上述した図11は、緑色スペクトルの半値全幅とNTSC比との関係を示すグラフであるが、これらのグラフから、実施例1〜4の蛍光体は、いずれも、発光スペクトルの半値全幅が53nm以下であることから、NTSC比95%以上が実現できたことがわかる。これは、実施例1〜4の蛍光体の酸素濃度がいずれも0.6質量%以下であったことに起因する。
【0105】
<実施例5〜29、比較例3〜19:蛍光体>
原料粉末に窒化ケイ素を用いずに、表5に示すような混合比としたこと以外は、上述した実施例2〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体をそれぞれ作製した。
【0106】
【表5】
【0107】
上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体についてEu濃度、Al濃度、Si濃度、酸素濃度および窒素濃度を測定した。この結果を表6に示す。さらに、上述した実施例1〜4、比較例1と同様にして、実施例5〜29、比較例3〜19の蛍光体について吸収率、内部量子効率、発光効率、発光ピーク波長および発光スペクトルの半値全幅を測定した。この結果を表7に示す。
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
表6からわかるように、原料粉末に窒化ケイ素を用いずに作製した実施例5〜29、比較例3〜19の各蛍光体は、いずれも、酸素濃度が0.4質量%以下の低い値であった。しかしながら、表6および表7からわかるように、酸素濃度が0.1質量%以下の比較例10〜15の蛍光体では、酸素濃度は低いにもかかわらず、発光スペクトルの半値全幅が60nm以上と大きくなっている。また比較例3〜9では発光効率が非常に低い。これは、発光イオンであるEuがβサイアロン結晶中に均一に固溶していないためである。この場合、緑色に発光するEu2+として結晶中に配位する濃度が低下し、またイオン周辺の配位環境も不均一となることによりスペクトルの半値全幅も大きくなる。このため、本発明の蛍光体における酸素濃度は0.1質量%以上である必要があることがわかる。
【0111】
また、表6および表7から、蛍光体中のAl濃度およびEu濃度によっても発光特性が大幅に変わることがわかる。ここで、図5は、実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度と発光効率との関係を示すグラフであることは上述した。図5から、0.13〜0.8質量%の範囲内のAl濃度を有する場合に高い発光効率を有することがわかる。また、表6および表7から、上述した範囲内のAl濃度を有する場合には、発光スペクトルの半値全幅が極めて狭いことがわかる。さらに、上述したように図7は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度と発光効率との関係を示すグラフであるが、図7から、0.5〜4質量%の範囲内のEu濃度を有する場合に、高い発光効率を有することがわかる。
【0112】
このようなAl濃度依存性は、蛍光体中の電荷のバランスと関係しており、酸素濃度が低い場合、上記のような範囲で発光イオンであるEuが安定に2価のイオンとして結晶中に固溶しやすい。Eu濃度は、0.5質量%までは発光効率が向上するが、それ以上では強度が飽和し、高すぎると寧ろ低下傾向が見られる。
【0113】
また、上述したように、図6は、実施例5〜29および比較例3〜19の蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)と発光効率との関係を示すグラフであり、図8は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)と発光効率との関係を示すグラフであり、図9は、実施例5〜29と比較例3〜19の蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)と発光効率との関係を示すグラフである。図6から、蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)が0.15〜1の範囲で高い発光効率が得られ、図8から、蛍光体の結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)が0.15〜1.5の範囲で高い発光効率が得られ、さらに、図9から、蛍光体の結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)が0.15〜1.5の範囲で高い発光効率が得られることがわかる。このようにβサイアロン蛍光体結晶中にEuを2価の状態でしかも均一な格子位置に配位させるためには、上述のような周辺の酸素濃度、Al濃度とバランスをとることが重要であることが分かった。実施例1〜29、比較例1〜19の各蛍光体の結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率(O/Al)、Eu濃度に対する酸素濃度の比率(O/Eu)、ならびに、Eu濃度に対するAl濃度の比率(Al/Eu)をまとめて表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
<実施例30:発光装置>
上述した実施例6の蛍光体を用いて、図12に示したような本発明の発光装置1を作製した。すなわち、基体としてのプリント配線基板3上に、半導体発光素子2を載置し、同じくプリント配線基板3上に樹脂枠4を載置した。図12に示した例のように、半導体発光素子2のn側電極8を、プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたn電極部9に、導電性を有する接着剤10を介して電気的に接続した。また半導体発光素子2のp側電極8を、上述したn電極部9とは別途プリント配線基板3の上面から背面にかけて設けられたp電極部11に金属ワイヤ12を介して電気的に接続した。
【0116】
樹脂枠4の内側に、実施例6の蛍光体および赤色蛍光を呈する蛍光体としてEu賦活CaAlSiN3蛍光体を分散させた、透光性樹脂からなるモールド樹脂5を充填させた。なお、これらの混合比率(重量比)は、モールド樹脂:実施例6の蛍光体:Eu賦活CaAlSiN3蛍光体=50:6:1とした。
【0117】
ここで、図18は、実施例6の蛍光体の励起スペクトル(図中、破線)および発光スペクトル(図中、実線)をそれぞれ示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。また図19は、図18に示す実施例6の蛍光体の励起スペクトルを一部拡大して示すグラフであり、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図18および図19に示されるように、実施例6の蛍光体の励起スペクトルの形状には微細構造が現れている(その他の実施例1〜5、7〜29の蛍光体についても同様である。これに対し、図17からもわかるように比較例1〜19の蛍光体(図17は比較例2の場合)の励起スペクトルには、このような微細構造は現れない)。実施例6の蛍光体の440〜450nmの間の励起スペクトルに着目すると、励起スペクトルの極大値は445nmであることが分かった。したがって、この実施例6の蛍光体を用いた実施例30の発光装置では、半導体発光素子2として、実施例6の蛍光体の励起スペクトルの極大値に合せて445nmに発光ピーク波長を設定した(半導体発光素子2としては、具体的には、GaInNLEDを用いた。)。
【0118】
<実施例31〜33:発光装置>
実施例7、13、19の蛍光体を用いたこと以外は、実施例30と同様にして、実施例31〜33の発光装置をそれぞれ作製した(半導体発光素子2の発光ピーク波長は445nmに設定)。ここで、図20は、実施例31の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図20からわかるように、半導体発光素子2から発せられた青色光、本発明の蛍光体(実施例7の蛍光体)から発せられた緑色光に加え、Eu賦活CaAlSiN3蛍光体から赤色光が発せられ、本発明の発光装置からはシャープな3原色発光が得られた。これは、図14に示した液晶バックライト用フィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像処理装置に適したものであった。また、実施例31〜33から、本発明の発光装置が、酸窒化物蛍光体である本発明の蛍光体の結晶安定性、発光効率の温度依存性が少ないという利点を生かし、様々な環境で安定した発光スペクトルを提供できることが分かった。また発光装置の長期信頼性も酸化物蛍光体などの他の蛍光体を用いた場合と比較して格段に優れていた。
【0119】
<実施例34:発光装置>
モールド樹脂5中に分散させる蛍光体として、実施例6の蛍光体、赤色蛍光を呈する蛍光体であるEu賦活CaAlSiN3蛍光体に加え、青色蛍光を呈する蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+(BAM)も分散させたこと以外は実施例30と同様にして、実施例34の発光装置を作製した。また、半導体発光素子2の発光ピーク波長は405nmに設定した。
【0120】
ここで、図21は、実施例34の発光装置から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。実施例34の発光装置では、半導体発光素子2から発せられた近紫外光である405nmの励起光は、本発明の蛍光体(実施例6の蛍光体)により緑色蛍光に、赤色蛍光を呈する蛍光体であるEu賦活CaAlSiN3蛍光体により赤色蛍光に、さらに青色蛍光を呈する蛍光体であるBaMgAl10O17:Eu2+により青色蛍光に変換され、図21に示すようなシャープな3原色発光が得られた。これは、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像表示装置に適していることが分かった。なお、実施例34の発光装置は、3原色の発光にすべて蛍光体を用いているため、周囲温度などの環境変化によって発光ピーク波長の変動がほとんど発生しないという利点を有する。また、実施例34の発光装置は、本発明の画像表示装置にそのまま応用可能であり、高い色再現性を実現できることが分かった。
【0121】
<実施例35:発光装置>
モールド樹脂5中に実施例6の蛍光体のみを分散させたこと以外は、実施例30と同様にして、実施例35の発光装置(緑色発光装置)を作製した。なお、半導体発光素子2の発光ピーク波長は405nmに設定した。図22は、実施例35の発光装置(緑色発光装置)から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図22に示すように、半導体発光素子2から発せられた近紫外光は本発明の蛍光体(実施例6の蛍光体)により緑色光に変換された。この緑色発光装置は、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常によくマッチングしており、色再現性のよい画像表示装置に適していることが分かった。
【0122】
<実施例36:画像表示装置>
実施例31の発光装置1を用いて、図13(a)に示したような本発明の画像表示装置21を作製した。すなわち、透明の導光板22の側面に、6個の実施例31の発光装置1を配置し、また導光板22に隣接して、複数の液晶表示装置24で構成された液晶表示部21を隣接して設け、発光装置1からの出射光25が導光板22内で散乱して散乱光26として液晶表示部23の全面に照射されるように構成した。液晶表示部21を構成する液晶表示装置24としては、図13(b)に示したように、偏光板27、透明導電膜28(薄膜トランジスタ28aを有する)、配向膜29a、液晶層30、配向膜29b、上部薄膜電極31、色画素を表示するためのカラーフィルタ32、上部偏光板33が順次積層されてなる構造を備えるものを用いた。またカラーフィルタ32は、透明導電膜28の各画素に対応する大きさの部分に分割されており、赤色光を透過する赤カラーフィルタ32r、緑色光を透過する緑カラーフィルタ32gおよび青色光を透過する青カラーフィルタ32bから構成され、図14に示すような透過スペクトルを有するものを用いた。なお、青色光を透過する青カラーフィルタ32bとしては、波長530nmにおける透過率が、透過率の最大値の20%以下であるものを用いた。このようなカラーフィルタ32と、実施例31の発光装置1とを組み合わせることにより、赤、青、緑の3原色を表示できる画像表示装置21が実現できた。
【0123】
<実施例37:画像表示装置>
実施例35で作製した発光装置(緑色発光装置)1を用いたこと以外は実施例36と同様にして、図15に示した構造を備える実施例37の画像表示装置41を作製した。なお、赤色発光装置42としては、モールド樹脂中に赤色蛍光を呈する蛍光体としてEu賦活CaAlSiN3蛍光体のみを分散させたこと以外は実施例35の発光装置と同様の構成を備えるものを作製して用いた。図23は、実施例37で用いた赤色発光装置42から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図23から、赤色発光装置では、半導体発光素子から発せられた近紫外光はEu賦活CaAlSiN3蛍光体により赤色光に変換されていることが確認された。また、青色発光装置43としては、モールド樹脂中に蛍光体を分散させず、半導体発光素子の発光ピーク波長を445nmとしたこと以外は実施例35の発光装置と同様の構成を備えるものを作製して用いた。図24は、実施例37で用いた青色発光装置43から発せられた発光スペクトルを示しており、縦軸は発光強度(任意単位)、横軸は波長(nm)である。図24から、赤色発光装置では、半導体発光素子から発せられた近紫外光は青色光として発光していることが確認された。これら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43により、図14に示したカラーフィルタの透過スペクトルに非常にマッチングした緑、赤、青のシャープな3原色発光が得られた。実施例37の画像表示装置41では、図15にこれら緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を2個ずつ導光板22の側面に配置し、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43からの出射光44が導光板22内で散乱して散乱光45として液晶表示部23の全面に照射されるように構成した。このような実施例37の画像表示装置41は、色再現性に優れたものであることが確認された。
【0124】
<実施例38:画像表示装置>
実施例37で用いた緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43を用い、カラーフィルタを備えない液晶表示装置53で構成された液晶表示部52を用いたこと以外は実施例37と同様にして、図16に示した構造を備える実施例38の画像表示装置51を作製した。なお、緑色発光装置1、赤色発光装置42および青色発光装置43について、いずれも発光ピーク波長が405nmの半導体発光素子2を用いた。実施例38の画像表示装置では、原色の発光装置として、スペクトル幅が狭い発光装置を使用しているため、カラーフィルタが不要であり、3透過損失を低減できた。なお、実施例38の画像表示装置51では、青、緑、赤の3原色の発光装置を独立して設けてあるため、それぞれの色の発光装置を180Hzの周波数で各色を点滅させ、液晶によりコントラスト調整を行ない、これを時系列的に加色混合することにより、時分割駆動で画像表示できることが確認された。
【0125】
今回開示された実施の形態、実施例および比較例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
1 発光装置、2 半導体発光素子、3 プリント配線基板、4 樹脂枠、5 モールド樹脂、6 InGaN層、7 p側電極、8 n側電極、9 n電極部、10 接着剤、11 p電極部、12 金属ワイヤ、21,41,51 画像表示装置、22 導光板、23,52 液晶表示部、24,53 液晶表示装置、25 出射光、26 散乱光、27 偏光板、28 透明導電膜、28a 薄膜トランジスタ、29a,29b 配向膜、30 液晶層、31 上部薄膜電極、32 カラーフィルタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%である蛍光体。
【請求項2】
前記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1.5である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%である請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1である請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15〜1.5である請求項3または4に記載の蛍光体。
【請求項6】
励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものである請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものである請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈するものである請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項1】
β型Si3N4結晶構造を有する酸窒化物の結晶中に、AlとEuとが固溶してなり、結晶中に含まれる酸素濃度が0.1質量%以上0.4質量%未満であり、かつ、結晶中のEu濃度が0.5〜4質量%である蛍光体。
【請求項2】
前記結晶中のEu濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1.5である請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記結晶中のAl濃度が0.13〜0.8質量%である請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記結晶中のAl濃度に対する酸素濃度の比率が0.15〜1である請求項3に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記結晶中のEu濃度に対するAl濃度の比率が0.15〜1.5である請求項3または4に記載の蛍光体。
【請求項6】
励起光の吸収により520〜550nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものである請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項7】
励起光の吸収により520〜530nmの範囲の発光ピーク波長を有する緑色蛍光を呈するものである請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項8】
励起光の吸収によりピークの半値全幅が53nm以下の緑色蛍光を呈するものである請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2011−140665(P2011−140665A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86573(P2011−86573)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【分割の表示】特願2007−153075(P2007−153075)の分割
【原出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【分割の表示】特願2007−153075(P2007−153075)の分割
【原出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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