説明

蛍光性化合物、発光性インク組成物および有機EL素子

【課題】耐熱性、アモルファス性が極めて高く、成膜後の加熱乾燥や駆動によって発光色が変化し難い蛍光性化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で示す蛍光性化合物。
【化1】


(式中、
1は互いに独立して、水素、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、但し、一方のR1が水素であるときは他方は水素ではなく、R2は同じ基であって、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の蛍光性化合物、当該蛍光性化合物を含む発光性インク組成物、および有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、実用化されている有機エレクトロルミネセント(以下有機ELと略す)ディスプレイの殆どは、低分子の蛍光材料またはリン光材料からなる有機EL媒体材料(正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料等)の膜を基板上に順次真空蒸着することにより製造されている。
【0003】
有機ELディスプレイのカラー化は、青色発光素子をカラーフィルタで赤、緑、青のサブピクセルに分光する(非特許文献1)、または白色発光素子を赤、緑、青、白のサブピクセルに分光しピクセルを形成する(非特許文献2)、または赤、緑、青の独立した発光素子をマスク蒸着法により塗り分けてガラス板またはフィルム上に形成する(非特許文献3、4)等の方法で行なわれている。
【0004】
しかし、真空蒸着法で大面積基板上に有機EL媒体の膜を成膜するには大型の真空装置を必要とし高コストになる。また、蒸着マスクが大型化すると、上方蒸着の場合に基板とマスクの重力によるたわみにより位置精度が低下し、有機ELディスプレイの高精細化が難しい。白色発光素子にカラーフィルタを組み合わせて対角40インチの大型有機ELディスプレイも試作されている。しかしながら、蒸着法による現状では、画素欠陥の無い製品を歩留まり良く均一に作るのが困難なため、対角11インチ以下の大きさのディスプレイが量産化され商品化されているにすぎない。
【0005】
近年、高い導電性や発光性を有する高分子からなる正孔注入輸送材料、および有機溶媒に可溶な共役系高分子からなる発光材料の開発が盛んに行なわれている。大面積基板に対しても成膜が容易で、材料使用効率の高いインクジェット法(非特許文献5、6、7、8)や凸版印刷法(非特許文献9)を用いた発光層の赤、青、緑のサブピクセルの塗り分け技術の開発も行なわれている。
【0006】
発光層を印刷法を用いて色毎に塗り分けることで、製造装置が真空蒸着法よりも低コストで済み、成膜速度も速いために大面積な有機ELカラーディスプレイの実現に有利と考えられる。しかし、現時点では印刷法に用いられている共役高分子系発光材料には幾つかの問題点を含んでおり、実用化はされていない。
【0007】
高色純度の青色発光材料であって、テレビ等に使用することができる1000cd/m2の輝度において6万時間以上の長寿命を有する共役系高分子材料は未だ開発途上である。また、高色純度化が不十分であるという問題が存在する。多くの高分子青色発光材料は発光色が青緑色であり、数百時間以下の半減寿命である。
【0008】
ポリフルオレン系青色発光材料のEL発光の青色純度が悪い原因の1つとして、高分子主鎖上にキャリア輸送性基や発光基である機能性基が近接して存在するため、膜に電荷が注入されると機能性基同士が電気的に引き合い青緑色発光のエキシマを形成し易いことが挙げられる。また、コモノマーのカルバゾール環やトリアリールアミンの芳香環同士が酸化カップリングし共役長が増すこと等が考えられる。
【0009】
また、青緑発光素子を青画素として用いたディスプレイは、白色発光させる場合に緑の輝度を抑えなければ白の発光バランスが取れず高輝度の白色表示ができない。
【0010】
さらに、色純度を悪くする別の原因として、高分子合成過程において酸化したモノマーや、不均一な連鎖構造が分子鎖中に取りこまれて消光中心や長波長発光中心となることが挙げられる。低分子化合物と異なり、高分子鎖中に取り込まれたこれらの不純物を後から精製により除くことは不可能であった。
【0011】
また、共役系高分子発光材料は、剛直な芳香族環の繰り返し単位からなり、その分子量は数万〜数十万以上あるため溶解性が低く、インク調製に時間がかかるという問題がある。そのため高分子発光材料をトルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒に溶解させ印刷インクを調製する際に、完全に高分子発光材料を溶解させるには数時間以上の長時間に渡り溶液を攪拌する必要があった。また、印刷中の乾燥、濃縮による析出を防ぐために高沸点の溶媒を用いた場合は、印刷後の乾燥に長時間の真空加熱を要するため、ディスプレイの製造時間が増し高コスト化するという問題があった。
【0012】
特許文献1では、式(4)で示すスピロフルオレンキサンテンを中心骨格として、この中心骨格にまずアセチル化等により反応性置換基を導入した後、正孔輸送性置換基、電子輸送性置換基、発光性置換基、あるいは薄膜形成性置換基などの機能性置換基を導入した材料を有機EL素子の発光層等としている。
【化4】

【0013】
特許文献1の詳細な説明段落[0022]から[0023]によれば、スピロフルオレンキサンテン骨格のような2つの異なる環がスピロ結合で連結した立体性非対称中心骨格に機能性置換基を導入する場合、まず反応性置換基であるアセチル基を導入した後機能性置換基を導入する。導入できるアセチル基の数は塩化アセチルと塩化アルミの当量を変えることにより1〜4置換体が得られると記載がある。しかしアセチル化反応は異なる環の両方に作用するため特許文献1の実施例3に記載されているようにスピロフルオレンキサンテンに対し2当量の塩化アセチルと塩化アルミを反応させた場合、フルオレン環のF2位またはF7位のどちらか1ヶ所と、キサンテン環のX2位またはX7位のどちらか各1ヶ所ずつ両方の環が同時にアセチル化される。そのためフルオレン環のF2とF7の2ヶ所のみ、またはキサンテン環X3とX6の2ヶ所のみのように一方の環に選択的に置換基を2ヶ所導入することはできない問題がある。
【0014】
また、1ヶ所以上8ヶ所以下(例示された構造式では6ヶ所まで)への機能性置換基の導入は、スピロフルオレンキサンテン骨格を臭素化することによっても行なわれているが、段落[0033]〜[0036]の例示化合物より置換位置X1、X3、X6、X8、F1、F8、F3、F6以外の位置の1〜8ヶ所がオルト−パラ配向により優先的に臭素化され置換基導入がされている。
【0015】
従って、特許文献1で開示された方法ではキサンテン環のX3、X6位の両方にフルオレン環と異なる置換基を導入した化合物は合成できない。また、臭素化、ヨウ素化による方法においてもフルオレン環とキサンテン環に同じ反応性基が導入されるため同じ機能性置換基しか導入できない。また、特許文献1では、化合物を蒸着させることにより成膜している。
【0016】
一方、蒸着に好ましく用いられる分子量300〜700程度の低分子系材料を塗布・印刷して形成した膜はその耐熱性が低く、経時で膜が結晶化し易く、またインクを保存する間に低分子系材料が析出し安定性が悪いという問題点等を多く抱えている。
【特許文献1】特開2003−96072号公報
【非特許文献1】Mu Hyun Kim, Myung Won Song, Seong Taek Lee, Hye Dong Kim, Jun Sik Oh,and Ho Kyoon Chung,SID 06 DIGEST, 11.3(2006).
【非特許文献2】Jeffrey P. Spindler, Tukaram K. Hatwar, Michael E. Miller, Andrew D. Arnold,Michael J. Murdoch, Paul J. Kane, John E. Ludwicki, and Steven A. Van Slyke, SID 05 DIGEST, 4.3(2005).
【非特許文献3】Ayako Yoshida, Sou Fujimura, Takako Miyake, Tatsuya Yoshizawa, Hideo Ochi,Akira Sugimoto, Hirofumi Kubota, Toshiyuki Miyadera, Shinichi Ishizuka,Masami Tsuchida and Hitoshi Nakada,SID 03 DIGEST, 21.1(2003).
【非特許文献4】Sumio Utsunomiya, Tomoyuki Kamakura, Masashi Kasuga, Mutsumi Kimura,Wakao Miyazawa, Satoshi Inoue and Tatsuya Shimoda,SID 03 DIGEST, 21.3(2003).
【非特許文献5】T.FUNAMOTO, Y. Matsueda, O. Yokoyama, A. Tsuda, H. Takeshita, A. Miyashita, SID 02 DIGEST, 27.5L(2002).
【非特許文献6】T. Shimoda, SID 03 DIGEST, 39.1(2003).
【非特許文献7】David Albertalli, SID 05 DIGEST, 30.3(2005).
【非特許文献8】Tadashi Gohda, Yuhki Kobayashi, Kiyoshi Okano, Satoshi Inoue, Ken Okamoto,Satoshi Hashimoto, Emi Yamamoto, Haruyuki Morita, Seiichi Mitsui and Mitsuhiro Koden, SID 06 DIGEST, 58.3(2006).
【非特許文献9】E. Kitazume, K. Takeshita, K. Murata, Y. Qian, Y. Abe, M. Yokoo, K. Oota, T. Taguchi,SID06DIGEST, 41.2(2006).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、耐熱性、アモルファス性が極めて高く、成膜後の加熱乾燥や駆動によって発光色が変化し難い蛍光性化合物を提供することにある。
【0018】
また、本発明の目的は、正孔輸送または電子輸送または両極性伝導も可能な蛍光性化合物を提供することにある。
【0019】
さらに、本発明の目的は、有機溶媒に対し高い溶解性を有する本発明の蛍光性化合物を含有する印刷インク用の固体または液体の組成物を提供することである。
【0020】
さらには対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機発光媒体層を有する有機EL素子において、有機発光媒体層が本発明の蛍光性化合物を含む有機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様によれば、下記式(1)
【化5】

【0022】
1は互いに独立して、水素、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有し、但し、一方のR1が水素であるときは他方は水素ではなく、
2は同じ基であって、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有する)
の構造で示される蛍光性化合物が提供される。
【0023】
本発明の他の態様によれば、本発明の蛍光性化合物を0.5重量%以上含有することを特徴とする固体の発光性組成物、および少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、本発明の蛍光性化合物を固形分中0.5重量%以上の濃度で含む発光性インク組成物が提供される。
【0024】
本発明のさらに他の態様によれば、対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機発光媒体層を有する有機EL素子において、前記有機発光媒体層が本発明の蛍光性化合物を含むことを特徴とする有機EL素子が提供される。
【0025】
本発明のさらに他の態様によれば、対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に少なくとも正孔注入輸送層と有機発光層とを有する有機EL素子において、前記正孔注入輸送層または有機発光層のいずれか一方が本発明の蛍光性化合物を含むことを特徴とする有機EL素子が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の式(1)で示される蛍光性化合物は、フルオレン環の2,7位の片方または両方と、キサンテン環の3,6位の両方に置換基を有する。この置換基として、環ごとに別の機能性置換基を容易に導入することができる。従って、正孔輸送性、発光性、電子輸送性、架橋性等の様々な機能の置換基の組み合わせを1つの分子に導入することができる。その結果、正孔輸送層、発光層、電子輸送層の有機EL層の各層に要求される機能やプロセスに合わせて分子を設計することができる。
【0027】
また、本発明の式(1)で示される蛍光性化合物は、低分子量でありながら非常に耐熱性が高く、またアモルファス性が非常に高い。また本発明の式(1)で示される蛍光性化合物は有機溶媒に容易に溶解し、湿式法で成膜した際にも結晶化せず、平滑なアモルファス膜を得ることができる。そのため、本発明の蛍光性化合物は塗布印刷型の有機EL材料として有用である。
【0028】
さらに、本発明の式(1)で示される蛍光性化合物の膜は200℃以上の高温加熱乾燥によってもその発光色に変化が殆ど無く、有機EL素子を有機発光層に用いた場合に長波長のエキシマ発光等を生じ難く、EL発光の色純度が変化し難い効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0030】
本発明によれば、式(1)
【化6】

【0031】
1は互いに独立して、水素、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有し、但し、一方のR1が水素であるときは他方は水素ではなく、
2は同じ基であって、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有する)
で示される蛍光性化合物が提供される。
【0032】
本発明の式(1)に示される蛍光性化合物は、同位体を数平均した分子量が2500以下の低分子化合物であるため、トルエン等の芳香族有機溶媒に対して最低でも1重量%以上の濃度で容易に溶解することができる。化合物によっては20重量%以上であっても容易に溶解することができる。
【0033】
本発明の式(1)で示される蛍光性化合物は、フルオレン環の2,7位の一方または両方を、立体的に大きく剛直な芳香族を含む置換基R1で置換し、かつ9位をスピロ原子として、このフルオレン環と直交するように3,6位の双方に置換基R2を導入したキサンテン環を結合することにより、全体として立体的で剛直な分子構造を有する。この構造により当該蛍光性化合物は優れたアモルファス性を示し、その膜は結晶化し難く、極めて高い耐熱性を有する。
【0034】
また、キサンテン環に2つの発光性の置換基R2を導入しているが、分子内ではR2同士は会合できない方向に固定されている。そのため凝集膜であっても、ブロードなエキシマ発光を形成し難く、色純度の良い蛍光スペクトルを得ることもできる。
【0035】
本発明の一般式(1)で示される蛍光性化合物の具体的な置換基R1およびR2の例を表1に示す。フルオレン環またはキサンテン環に置換基として導入されるR1およびR2は、正孔輸送性、発光性、電子輸送性、架橋性のいずれか、またはこれらを複合した機能を示す基である。
【表1−1】

【0036】
【表1−2】

1およびR2の具体的な構造例としては、表1中の1から31までのいずれかをそれぞれ独立に用いることが可能である。R1およびR2として同じ置換基を用いた場合は、フルオレン環に導入したR1同士はフルオレン環を通して共役可能だが、キサンテン環に導入したR2同士は共役しない。そのため同じ置換基を用いて幅広いスペクトルを得ることもできる。
【0037】
1およびR2として異なる基を用いた場合には、例えば正孔輸送性基と電子輸送性基、正孔輸送性基と発光性基、電子輸送性基と発光性基、および青色発光性基と青色吸収赤色発光性基等の組み合わせにより、注入された正孔と電子のキャリア移動度のバランスを調整したり、発光効率を高めることも可能である。従って、正孔輸送材料、正孔輸送性発光材料、電子輸送性発光材料、発光波長変換材料等の用途に応じてR1およびR2を選択することができる。
【0038】
例えば、以下の式(2)で表される蛍光性化合物は、2,7−ビス(4−ビス(イソプロピルフェニルアミノ)フェニル−9H−フルオレン)部が正孔輸送性青色発光基となり、3,6−ビス(4−(10−オルト−ビフェニルアントラセン−9−イル)フェニル)−9H−キサンテン部が電子輸送性青色発光基となる。
【化7】

【0039】
また、以下の式(3)で表される蛍光性化合物は、2,7−ビス(2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル)−9H−フルオレン)部、および3,6−ビス(4−(10−オルト−ビフェニルアントラセン−9−イル)フェニル)−9H−キサンテン部が共に電子輸送性青色発光基となる。
【化8】

【0040】
表1中、正孔輸送性となる基は芳香族3級アミンまたはチオフェン環を含む。電子輸送性となる基は窒素を含むヘテロ芳香族環を含む。また、縮合芳香環を含む基は発光基として相応しい。
【0041】
さらに、本発明の一般式(1)で示される蛍光性化合物におけるR1およびR2の一部は、表1中の23から31に示すオキセタン基、ビニル基、パーフルオロビニルエーテル基等の重合または架橋性を有する基であっても良い。
【0042】
表1中の23および24の置換基はオキセタン基を有しており、1〜3重量%程度の光酸発生剤を混合して光照射した後、加熱することにより化学増幅重合することができる。従って光パターニングが可能となり、有機発光層の発光色毎の画素をホトリソグラフィー法で形成する場合に有用に利用できる。
【0043】
表1中の25および26の置換基は末端にビニル基を有し、熱重合が可能である。また、テトラチオプロピルペンタエリスリトール等の多官能チオール化合物と混合することにより、チオールエン反応による光重合反応が可能である。そのため、本発明の蛍光性化合物を正孔輸送層材料として用い、この正孔輸送層上に有機発光層を湿式法で形成する場合には、有機発光層を調製する溶媒に対して本発明の蛍光性化合物を不溶化させることができる。また、膜の耐熱性や機械的強度が増すために有用に用いることができる。マスクを通して紫外線を照射することにより、光架橋反応させた後、非架橋部を溶剤で洗い落とし現像することにより所望の形の発光性のパターンを得ることもできる。
【0044】
表1中の27から31の置換基はパーフルオロビニルエーテル基を有し、150℃程度以上の加熱によりシクロブタン環を形成し架橋させることができる。従って、塗布後、加熱により架橋させることにより、電子輸送性有機発光層等の耐熱性や機械的強度が増すために有用に用いることができる
以下の表2に式(1)で示される蛍光性化合物のR1とR2の置換基の具体的組み合わせの例を示したが、本発明はこれらの例の化合物に限定されるわけではない。さらに本発明の別の態様の蛍光性化合物においては、R1は1ヶ所のみの置換でも良く、未置換の部位は水素となる。この場合に、フルオレン環の2,7位の一方のみを立体的に大きく剛直な置換基で置換することにより、分子構造の非対称性が増し、分子間の会合が困難となり膜は結晶化し難く、溶媒が分子間に容易に入り込むことができるために芳香族有機溶媒への溶解性が高くなる。
【表2】

【0045】
式(1)に示す蛍光性化合物の合成方法を以下に説明する。表1中の5の例を除いた、1から22の置換基中から選ばれた基を用いてR1が2置換の化合物を合成する場合の反応の一般例を以下の式(5)に示す。
【化9】

【0046】
2,7−ジブロモ−9H−フルオレノンを原料として、スピロフルオレンキサンテン環を形成した後、まずフルオレン環のBrの位置にR1のボロン酸エステルを鈴木宮浦カップリング等の方法で2つ導入し、次にキサンテン環の水酸基をトリフレート化して活性化し、ここにR2のボロン酸エステルを2つ導入し式(1)に示す化合物を得ることができる。
【0047】
1が1置換の化合物を合成する場合の反応の一般例を以下の式(6)に示す。
【化10】

【0048】
2−ブロモ−9H−フルオレノンを原料として、スピロフルオレンキサンテン環を形成した後、まずフルオレン環のBrの位置にR1のボロン酸エステルを鈴木宮浦カップリング等の方法で導入する。さらに、キサンテン環の水酸基をトリフレート化して活性化した後、R2のボロン酸エステルを導入することによりR1が1置換である式(1)に示す化合物を合成することができる。
【0049】
上記の式(5)、式(6)ではR1およびR2のボロン酸エステルを用いて合成しているが、他の既知のボロン酸エステルを用いてカップリング反応させることもできる。
【0050】
芳香族アミノ置換基を導入した式(1)で示す蛍光性化合物の合成例を、表1に示す置換基5である(9H−ピリド[3,4−b]インドール)について、以下の式(7)および式(8)に示す。
【化11】

【0051】
【化12】

【0052】
まず、式(5)および式(6)と同様にジブロモ体またはモノブロモ体のスピロフルオレンキサンテン環を合成した後、キサンテン環上の水酸基をメトキシメチル基等で保護する。続いてウルマン反応等によりR1として表1に示す置換基5の(9H−ピリド[3,4−b]インドール)をカップリングさせる。その後、キサンテン環側の水酸基の保護基を酸で外した後にトリフレート化し、ここに鈴木宮浦カップリング等によりR2に対応するボロン酸エステルを用いてR2を導入し、式(1)に示す化合物を合成することができる。
【0053】
表1中の架橋性または重合性の置換基23から31を導入するためのボロン酸エステルの合成は、以下の式(9)から式(11)に示すような反応方法で行なえる。ここで、アルキル鎖の長さはC6を用いているが、C2からC12程度のいずれの長さの直鎖または分岐したアルキル鎖も用いることができる。
【化13】

【0054】
【化14】

【0055】
【化15】

【0056】
本発明の一般式(1)で示す蛍光性化合物は、広い範囲の芳香族有機溶媒に溶けるため、プロセスに応じた沸点、誘電率、表面張力を有する任意の単独および混合有機溶媒に溶解させることができる。濃度を調整することにより、粘度、乾燥時間、濡れ性等を調整することができ、インクジェット法、凸版印刷法、オフセット印刷法、ノズルディスペンス法等に用いるインクとして用いることができる。
【0057】
本発明の蛍光性化合物は、剛直なスピロフルオレンキサンテン骨格を有することにより高い耐熱性を有する。ヘキセニル基、ペンテニル基等の長鎖の架橋性基を有する化合物を除いて、本発明の蛍光性化合物は、示差走査熱量測定(DSC)によりガラス転移温度(Tg)が100℃以上の高耐熱性の化合物であり、200℃以上の化合物も得ることができる。
【0058】
本発明の蛍光性化合物の分子量は780〜2500の範囲にあることが好ましい。780より分子量が低いと置換基が小さくなり分子構造の立体的な嵩高さが低下するため、結晶化し易くなりアモルファス性の膜が得られ難くなる。分子量が2500よりも大きいと溶液の粘性が増し精製が難しくなる場合がある。
【0059】
本発明の一態様では、式(1)で示される蛍光性化合物を0.5重量%以上含有することを特徴とする固体の発光性組成物、および少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、当該蛍光性化合物を固形分中0.5重量%以上の濃度で含むことを特徴とする発光性インク組成物を提供する。本発明による固体の発光性組成物および発光性インク組成物は、本発明の蛍光性化合物の他に、キャリア輸送性化合物および発光性化合物を少なくとも1種以上含んでいてもよい。
【0060】
インク溶液の濃度は、溶媒が印刷中に蒸発し濃縮しても析出することが無く、版や基板上で流れて印刷ムラが発生することが無い濃度に調整して用いる。通常は1〜10%程度の濃度のインキが用いられる。
【0061】
式(1)で示す本発明の蛍光性化合物を溶解させる溶媒として単独溶媒を用いると、基板上でインクを弾いたり、レジストや無機材料で形成した隔壁に接する液膜にメニスカスが生じ乾燥時に平滑な膜ができない場合がある。その際は、表面張力、誘電率、ダイポールモーメント等が異なる2種の溶媒を混合して弾きやメニスカスの程度を減少するように割合を調整して用いることもできる。
【0062】
さらに、式(1)で示される蛍光性化合物を他の材料に混合若しくはドープし用いることができる。発光ドーパントとして用いる場合は、材料の固形分中の重量で0.5%以上50%未満の濃度で用いる。0.5%未満の場合は濃度が薄くドーパントとして十分に機能しない場合がある。50重量%を超えると、逆にホスト材料となるため他方の材料よりもキャリア輸送能力が低い場合は有機発光層のキャリア輸送能力を低下させたり、濃度消光を抑制できない場合がある。
【0063】
本発明の有機EL素子は、対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機発光媒体層を有し、この有機発光媒体層が式(1)の本発明の蛍光性化合物を含む。ここで、有機発光媒体層とは、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等のキャリア輸送層と有機発光層、さらには正孔ブロック層や電子ブロック層、絶縁層等とを合わせたものである。
【0064】
本発明の有機EL素子は、本発明の蛍光性化合物を固体の有機発光媒体層中に含有しても、液体の有機発光媒体層中に含有してもよく、電流駆動により発光する。
【0065】
本発明の蛍光性化合物を液体中に含有し発光させる電解型有機EL素子の場合の例としては、本発明の蛍光性化合物をオルトジクロロベンゼンやトルエン等の有機溶媒に5重量%以上の濃度で溶かし、0.1重量%程度のLiCF3SO3等の支持電解質を加えるか、陽イオン伝導アシストドーパントとして1,2−ジフェノキシエタンを加えて有機発光層溶液とする。
【0066】
少なくとも一方が透光可能な基板を用い、対向する電極板間に有機発光層溶液を挟み数ミクロン以下のギャップの素子を作製するか、または櫛型電極を形成した基板と対向する基板により有機発光層溶液を挟み有機EL素子を作製する。これらの有機EL素子は直流または交流の連続またはパルス状の電流を有機発光層に印加することにより電解発光させることができる。
【0067】
また、本発明の式(1)の蛍光性化合物を固体の有機EL発光媒体層中に含有する通常の有機EL素子の場合には、電極間の有機EL発光媒体層が式(1)で示される蛍光性化合物を含む。
【0068】
さらには陽極と陰極との間に少なくとも正孔注入輸送層と有機発光層とを有する本発明の有機EL素子においては、上記正孔注入輸送層と有機発光層のいずれか一方が、式(1)で示される本発明の蛍光性化合物を含むことを特徴とする。有機EL素子をさらに低駆動電圧化、高発光効率化するため、電子輸送層を有機発光層と陰極との間に入れた有機EL素子とすることもできる。
【0069】
本発明の有機EL素子が式(2)の化合物を有機媒体層中に含む場合には、有機媒体層中に電子輸送層があることが好ましい。また、式(3)の化合物を有機媒体層中に含む場合には、有機媒体層中に正孔輸送層があることが好ましい。
【0070】
続いて、本発明の蛍光性化合物を固体の有機発光層に用い、少なくとも陽極、正孔注入輸送層、有機発光層、陰極から構成されている固体膜からなる有機EL素子を作製する場合について、図面を参照しながら説明する。
【0071】
図1は、本発明の一態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図1中、基板1上には、透明電極等からなる陽極2が形成され、陽極2上には、正孔注入輸送層3、有機発光層4、および陰極5が順次積層されて有機薄膜EL素子が構成されている。陽極2は配線6を介して電源7に電気的に接続され、陰極5は基板上に形成された端子部8に接続され、さらに配線9を介して電源7に電気的に接続されている。任意に、陰極5の上にパッシベーション層12を設けてもよい。
【0072】
なお、図1では、正孔注入輸送層3が1層のみ形成されているが、この上に正孔輸送層を積層してもよい。
【0073】
図2は、本発明の他の態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図2に示す有機薄膜EL素子では、図1に示す有機薄膜EL素子の正孔注入輸送層3の上に、正孔輸送層10が積層されている。
【0074】
なお、本発明の有機薄膜EL素子は、電子注入輸送層が設けられていてもよい。
【0075】
図3は、本発明のさらに他の態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図3に示す有機薄膜EL素子は、図2に示す素子の有機発光層4と陰極5との間に、電子輸送層11が形成された構造を有している。
【0076】
これら図1〜図3に示す本発明の有機薄膜EL素子は、主に有機発光層、正孔注入輸送層、または電子輸送層中に式(1)に示す本発明の蛍光性化合物を含有している。
【0077】
以下、本発明の有機薄膜EL素子について、より詳細に説明する。
【0078】
本発明の有機薄膜EL素子で用いられる基板としては、金属箔基板、半導体基板、および絶縁性透明基板を挙げることができる。
【0079】
金属箔基板を構成する材料としては、銅材、アルミニウム材、インバー材及びステンレス材等の箔、鉄合金系またはジルコニウム合金系等のアモルファス金属テープ等の基板を挙げることができる。この基板にポリイミド等の有機絶縁膜、または窒化アルミニウム等の窒化膜、アルミナ等の酸化膜、酸窒化シリコン等の酸窒化膜、無機ガラス膜等の無機絶縁膜を形成することにより、フレキシブルであり、高い水蒸気バリア性および酸素バリア性、高熱伝導性を有する基板とすることができる。
【0080】
半導体基板の例としては、シリコン、シリコンカーバイト等の単結晶ウエハー基板を挙げることができる。p型およびn型の半導体層をエピタキシャル成膜し、微細なCMOS駆動回路等を形成してマイクロディスプレイ等に用いることができる。
【0081】
絶縁性透明基板の例としては、ガラスや、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルム、エポキシ樹脂等の透明絶縁性基板を挙げることができる。
【0082】
以下、絶縁性透明基板1を用いて、有機EL素子を陽極側から順に作製する場合を例にしてさらに詳しく説明する。ここで、光を取り出す絶縁性透明基板1は、色のコントラストの調整や耐性向上のために着色されていてもよい。あるいは絶縁性透明基板1上に円偏光フィルタ、多層膜反射防止フィルタ、紫外線吸収フィルタ、RGBカラーフィルタ、蛍光波長変換フィルタ、およびシリカコーティング層等を設けてもよい。
【0083】
陽極2としては、黒色電極、不透明反射電極、ハーフミラー電極、および透明電極を用いることができる。
【0084】
黒色電極の例としては、グラファイト等の炭素系膜や白金黒膜等が挙げられる。
【0085】
不透明反射電極の例としては、ガラス等の透明基板、半導体ウエハー等の不透明基板上にアルミニウム、クロム、ニッケル、プラチナ等の光反射性金属膜を成膜し、さらにそれらの金属膜上に仕事関数4.8eV以上のITO(インジウム錫複合酸化物)透明電極膜や、IGZO(インジウムガリウム亜鉛錫複合酸化物)等を積層した構成のものを挙げることができる。黒色電極および不透明反射電極は、陰極側から光を取り出すトップエミッション構造の素子の陽極に主に用いられる。
【0086】
絶縁性透明基板側から光を出す場合は、陽極をメッシュ状またはストライプ状に形成し、光が陽極間から出るようにする。
【0087】
ハーフミラー電極の例としては、金やプラチナを10nm程度で薄く蒸着することにより形成されるハーフミラー状の電極を挙げることができ、これらは意匠性の優れたディスプレイや車載用のバックミラー、バニティミラー用ディスプレイ等に用いることができる。
【0088】
透明電極の例としては、ITO(仕事関数4.6〜4.8eV)やアルミニウムをドープした酸化亜鉛の非晶質または微結晶の透明酸化物導電体からなる膜や、アクセプターをドープしたポリアニリン、ポリピロールおよびポリチオフェン等の低抵抗な導電性高分子膜等を挙げることができる。透明電極は基板側から表示を見る場合に用いられ、可視光線透過率が80%以上で表面抵抗が1〜50Ω/□程度の透明導電膜が通常用いられるが、単純マトリクス駆動のためには、より低抵抗の膜を用いることが望ましい。より低抵抗の膜とするために、銀と銅等との合金からなる10nm程度の厚さの層を、ITO、インジウム亜鉛複合酸化物、酸化チタン、酸化錫等を成分とする非晶質または微結晶の透明導電膜で挟み、1Ω/□以下の透明電極として用いてもよい。これらの透明電極は、真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、上記絶縁性透明基板上に形成される。また、透明電極のラインに接して、Cr、Cu、Al、Ag等を主成分とする金属からなる金属バスラインを設け低抵抗化することもできる。
【0089】
本発明の有機EL素子の正孔注入輸送層3に用いる材料は、次に積層する有機発光層4を蒸着で形成する場合は有機溶媒可溶な既知の材料を使うことができるが、有機発光層4を印刷法等の芳香族溶媒を用いた湿式法で形成する場合には、印刷に用いる芳香族溶媒に難溶な材料を用いることが望ましい。例えば青色の銅フタロシアニンおよびその誘導体、緑色の塩素化および臭素化銅フタロシアニン誘導体、赤色のキナクリドンおよびそのN−アリール誘導体等の、トルエン等の低極性芳香族溶媒に難溶の顔料を蒸着し正孔注入輸送層として用いることができる。これらの有色材料を適当な厚さで成膜することにより、本発明の有機EL素子の発光色を補正するための青、緑、赤のカラーフィルタ層としても機能する正孔注入輸送層として用いることもできる。
【0090】
その他、正孔注入輸送層3に用いる材料として、低極性芳香族有機溶媒に難溶であるか、架橋して不溶化することが可能な低分子正孔注入輸送材料を用いることができる。例えば、ポリアニリン誘導体、またはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体(以後、PEDOT:PSSと略する)等の低極性芳香族有機溶媒に難溶または不溶の高分子正孔輸送材料を塗布または印刷して用いることができる。
また、正孔注入輸送層3として、低極性芳香族有機溶媒に不溶または難溶な無機のアモルファスシリコン膜、アモルファスカーボン膜、アモルファス窒化カーボン膜。酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化チタン等の導電性酸化物膜のイオンプレーティング、CVD、スパッタリング若しくはゾルゲル法により成膜された膜。バックミンスターフラーレン等のフラーレン類の蒸着膜、または有機のCHF3プラズマ重合膜が好ましく用いられる。
【0091】
本発明の有機EL素子は、各層間の密着性の向上、素子の劣化防止、および吸収や干渉による色調の調整等の目的で、正孔注入輸送層3上に1層以上のインターレイヤー層(図示せず)または正孔輸送層10を積層した構造であってもよい。
【0092】
インターレイヤー層や正孔輸送層に用いる材料が、芳香族有機溶媒に難溶な低分子の場合には、陽極を形成した基板上に蒸着することにより成膜することができる。また、トルエン等の有機溶媒に可溶で、かつ架橋性の低分子材料や高分子材料の場合には、スピンコート、ディップコート、ロールコート、ブレードコート、インクジェット印刷、凸版印刷、ノズルディスペンス法等の方法により陽極を形成した基板上に塗布・印刷し成膜した後に加熱や光照射により架橋不溶化処理を行ない次の有機発光層の湿式成膜時の溶媒に溶解しないようにする。さらに必要に応じて、溶剤による洗浄や真空加熱により未架橋成分の除去処理を行う。
【0093】
正孔輸送層10を積層させる場合は、例えば陽極2、正孔注入輸送層3、正孔輸送層10、有機発光層4の各材料のイオン化エネルギーの値が、陽極<正孔注入輸送層<正孔輸送層≦有機発光層となるように調整することが好ましい。例えば正孔注入輸送層3は5.0〜5.7eV程度、正孔輸送層10は5.4〜6.0eV程度、有機発光層4は5.8〜6.2eV程度のイオン化エネルギーの材料が好ましく用いられる。このような積層構造とすると、陽極2と有機発光層4間のイオン化エネルギーの段差が小さくなり正孔注入障壁が減少し発光効率が向上する。
【0094】
本発明の有機EL素子においては、式(1)で示す本発明の蛍光性化合物が固形分中0.5重量%以上の濃度で有機発光層4、正孔注入輸送層3または電子輸送層11等の有機発光媒体層中に含まれる。
【0095】
本発明の蛍光性化合物は、固体状態で強い蛍光を有し置換基R1、R2の分子構造により青、緑、赤の発光を得ることができる。本発明の蛍光性化合物は単独材料で湿式成膜性を有するため、塗布・印刷により有機発光層4を構成することが容易に可能である。このため、大面積の有機EL素子を作製する際も、均一な膜を製造することが容易である。さらに、インクジェット法、ノズルディスペンス法および凸版印刷法等を用いて印刷すれば、量産も可能となる。
【0096】
また、分子量が780から1300程度で蒸着可能な化合物の場合は、真空蒸着法で成膜を行なうこともできる。
【0097】
また、キャリアバランスの調整や濃度消光を抑制するために、他の正孔輸送材料および電子輸送材料と混合した組成物として有機発光層を構成してもよい。正孔輸送材料の例としては、ポリビニルカルバゾールや、芳香族3級アミン系、ポリシラン系等の正孔輸送性ポリマー、および既知の低分子正孔輸送材料を挙げることができる。電子輸送材料については下記電子輸送材料についての説明中に列挙するものを用いることができる。
【0098】
また、青色発光の輝度増強や発光色の調整、緑、赤、白、赤外線等への発光色変換のために他の蛍光材料、リン光材料色素を好ましくは0.1重量%〜50重量%未満の濃度で、より好ましくは0.1重量%〜20重量%以下の濃度で本発明の蛍光性化合物にドープした組成物を有機発光層に用いることもできる。但し、結晶性のドーパント材料を添加する場合はドーパント濃度を高くすると膜が結晶化しショートし易くなるため、その場合には0.1重量%以上10重量%以下の濃度で添加する。
【0099】
本発明においては、一般式(1)で示される蛍光性化合物に、発光輝度増強・変換のための1種類以上の発光性色素、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料を添加した組成物を固形物として、または有機溶剤に溶かしたインクとして提供することができる。
【0100】
以下に、有機発光層において本発明の蛍光材料にドープすることができる発光増強・変換色素の化合物例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
青色発光の輝度を増強する化合物の例としては、例えば式(12)、式(13)のアントラセン誘導体、および式(14)のペリレン誘導体が挙げられる。
【化16】

【0102】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
【化17】

【0103】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
【化18】

【0104】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を緑色発光に変換するために添加する蛍光ドーパントの化合物の例としては、式(15)のキナクリドン誘導体、式(16)、式(17)、式(18)および式(19)のベンゾアントラセン誘導体が挙げられる。
【化19】

【0105】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
【化20】

【0106】
【化21】

【0107】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
【化22】

【0108】
【化23】

【0109】
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を黄色発光および2波長混合型白色発光に変換する蛍光ドーパントの化合物の例としては、式(20)のルブレンが挙げられる。
【化24】

【0110】
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を赤色発光に変換する蛍光ドーパントの例としては、式(21)に構造を示すビスベンズインデノペリレン誘導体を挙げることができる。
【化25】

【0111】
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を黄色発光に変換するリン光ドーパントの例としては、式(22)、式(23)のイリジウム錯体が挙げられる。
【化26】

【0112】
(式中、acacはアセチルアセトナト配位子を表す)
【化27】

【0113】
(式中、acacはアセチルアセトナト配位子を表す)
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を赤色発光に変換するリン光ドーパントの例としては、式(24)、式(25)のイリジウム錯体が挙げられる。
【化28】

【0114】
(式中、acacはアセチルアセトナト配位子を表す)
【化29】

【0115】
(式中、acacはアセチルアセトナト配位子を表す)。
【0116】
式(1)の蛍光性化合物の青色発光を3波長混合型の白色発光に変換するために、緑色、黄色、赤色に変換するドーパントを1種以上、濃度を調整して添加してもよい。複数の変換用色素を添加する場合のドーパント濃度は概ね、緑>黄色>赤の順とする。
【0117】
さらに、式(1)で示される青色発光材料中に、発光を増強するまたは色を変換する発光色素以外に、駆動電圧の低減および/または発光効率の向上の目的で、電子輸送性を増強するための電子輸送材料をドープしてもよい。
【0118】
電子輸送材料としては既知の化合物を用いることができる。例としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、バソフェナントロリン等の1,10−フェナントロリン誘導体、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(以下、TPBIと略する)等のベンズイミダゾール誘導体、ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノレートアルミニウム(以下、BAlqと略する)等の金属錯体、4,4’−ビスカルバゾールビフェニル等を挙げることができる。中でも、電子輸送材料としてトリアジン誘導体が好ましく用いられ、例としては特開平7−157473号公報、特開2003−303689号公報、特開2004−284971号公報、特開2005−306862号公報、特開2005−340183号公報、特開2006−111854号公報、特開2006−225320号公報、特開2006−225321号公報、特開2006−225322号公報、米国特許第6057048号明細書、米国特許第6229012号明細書、および米国特許第6225467号明細書に記載されているトリアジン誘導体等を挙げることができる。その他、以下の式(26)および式(27)で示されるトリアジン誘導体を挙げることができる。
【化30】

【0119】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1から4のアルキル基、またはトリフルオロメチル基を表す)
【化31】

【0120】
(式中、Rはそれぞれ独立に水素、炭素数1から4のアルキル基、またはトリフルオロメチル基を表す)。
【0121】
また、式(1)の蛍光性化合物を青色発光用ドーパント材料とし、当該ドーパントのHOMO(最高被占軌道)のエネルギーレベルより低いHOMOレベルを有し、且つLUMO(最低空軌道)のエネルギーレベルよりも高いLUMOレベルを有するワイドエネルギーギャップな高分子や、低分子からなる電子輸送材料および電子輸送性発光材料をホストとした組成物を有機発光層4として用いることもできる。この際に用いる低分子からなる電子輸送材料および電子輸送性発光材料の例としては、上記の式(26)および式(27)等の高アモルファス性を有し、成膜性と耐熱性の高い材料を挙げることができる。これらのホスト電子輸送材料中に式(1)の蛍光性化合物を0.5重量%〜50重量%未満の割合でドープし、有機発光層4とすることができる。
【0122】
また、真空蒸着法で成膜する場合や、架橋性置換基を導入した材料を用い湿式法で積層する毎に順次架橋処理を行なうことにより発光色の異なる発光材料からなる1以上の膜を順次積層した多層膜からなる有機発光層4とすることもできる。
【0123】
有機発光層4の厚さは、有機発光層4と陰極5との間に電子輸送層を積層しない場合においては、塗布、印刷、真空蒸着等の方法で100nm以下であることが好ましく、以下に記載するように電子輸送層11を積層させる場合には、5〜80nmであることが好ましい。
【0124】
インクジェット法、スリットコート法、凸版印刷、オフセット印刷、ノズルディスペンス法等の塗布印刷法で有機発光層4を成膜する場合において、正孔輸送層10に架橋性材料を用いず有機発光層4の溶媒に対して不溶性が不十分な場合においても、有機発光層4のインクの濃度をできるだけ飽和溶液に近い高濃度にして正孔輸送層10を溶かし難いようにすることにより塗布印刷することも場合によっては可能である。また、オフセット印刷法や凸版印刷法等の印刷版上で溶媒がある程度蒸発し濃縮された膜を転写する方法により、正孔輸送層10が有機発光層4に溶け込むことを抑制することもできる。
【0125】
本発明に係る発光性インク組成物をパターン化して塗布するには、例えば図4に示すような凸版印刷装置を用いる。ステージ24上に被印刷基板17が載せられ、その上方に版胴15に取り付けられた印刷用凸版16が配置される。インク補充装置21からインクパン20にインクが供給される。アニロックスロール22にインクを付着させてドクター23でインクの厚みを調整し、印刷用凸版16に転写インク18を転写し、さらに基板17上に印刷インク19を印刷する。
【0126】
本発明の有機薄膜EL素子において、本発明の蛍光性化合物を単独で用いて有機発光層4とする場合、または他の発光材料のホスト材料として用いる場合には、有機発光層4と陰極5との間に、1層以上の電子輸送層11が設けられていることがより好ましい。
【0127】
電子輸送層11に用いられる材料は、ダイポールモーメントが小さく電子移動度が大きく、LUMOの状態密度が大きく、LUMOのエネルギーレベルが有機発光層4における発光材料のLUMOのエネルギーレベルと同程度から陰極材料のフェルミレベル(仕事関数)の間にあることが好ましい。また、有機発光層4と接する電子輸送層11のイオン化エネルギーは有機発光層4における発光材料以上であり、成膜性が良い材料が好ましい。
【0128】
このように、電子輸送層11を設けると、有機発光層4への電子注入効率が高まり、正孔を閉じ込め、かつ励起子が陰極5へ拡散し失活するのを抑制することができる。
【0129】
電子輸送層11には、既知の電子輸送材料を用いることができる。また、前述の電子輸送材料から選んで用いることもできる。また、ホスト材料中にゲスト発光材料をドーピングした有機発光層構成とする場合、発光材料のドーピング無しのホスト材料を電子注入輸送材料として機能させることもできる。
【0130】
電子輸送層11は、単層構造においても、積層構造においても、塗布、印刷、真空蒸着等の方法で100nm以下で形成することが好ましい。有機EL素子の発光色により陰極金属による反射光との干渉効果が異なり最適な厚さは異なるが、青色発光有機EL素子の場合、色純度を良くしたい場合は10〜20nm程度の厚さが望ましい。電子輸送層11を塗布・印刷して成膜する場合は、有機発光層4を溶かさないアルコール系溶媒等に溶ける材料を用いることが好ましい。または、有機発光層4を溶かす芳香族有機溶媒を用いる場合には、有機発光層4を溶かし難い飽和溶液に近い高濃度のインクを用いる必要がある。より好ましくは有機発光層4が何らかの手段で架橋不溶化されていることであるが、一般的には真空蒸着で電子輸送層11を積層することが容易である。
【0131】
本発明の有機EL素子において陰極5は、仕事関数が4eV以下、好ましくは2〜3eVの低仕事関数材料で構成されることが電子注入効率を高める上で好ましい。
【0132】
この低仕事関数の材料の例としては、Al、MgおよびYb等の空気中で比較的安定な金属元素と、Li、Ca、Sr、Ba、Cs、Eu等の電子放出性の高い低仕事関数金属元素を1種以上含有する合金またはそれらのフッ化物や酸化物を数nm以下の厚さで有機層と陰極界面に含有する電極材料を挙げることができる。
【0133】
上述の陰極5は、用いる材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、およびイオンプレーティング法等により、または合金ターゲット等を用いるスパッタリング法等により形成することができる。陰極5を多成分合金で構成する場合は、抵抗加熱法により10-2Paオーダー以下の真空下で、成分ごとに別々の蒸着源から、水晶振動子式膜厚計でモニターしながら共蒸着法により形成するか、あるいは、合金材料を少量ずつフラッシュ蒸着することにより形成することができる。
【0134】
本発明の有機EL素子を単純マトリクス駆動ディスプレイにおいて用いる場合であって、陰極5をストライプ状に形成する必要がある場合には、スリット状に穴の開いたマスクを基板に密着させて蒸着するか、陰極形成部全面に蒸着した後、レーザーアブレーション法や、イオンビームエッチング法や、リアクティブエッチング法、逆テーパー隔壁法等により、陰極金属膜のストライプ状パターニングを行うことにより、陰極5を形成することができる。
【0135】
陰極5は、通常数10〜数100nmの厚さで成膜するが、5〜10nmの厚さに形成した場合は、可視光が透過し、陰極側を表示面とすることもできる。
【0136】
陰極側から表示が行われる構成とする場合は、本発明の有機EL素子において用いられる電子輸送層11は、少なくとも本発明の蛍光性化合物のEL発光波長領域において、実質的に透明である必要がある。
【0137】
以上、基板1側から順に、陽極2、正孔注入輸送層3、正孔輸送層10(任意)、有機発光層4、電子輸送層11(任意)、および陰極5を積層した構造について示したが、本発明の有機EL素子は、基板側から順に、陰極、電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、正孔注入輸送層、及び陽極を積層した構造であってもよい。
【0138】
本発明の有機EL素子には、水分や酸素による有機層や電極の劣化を防止するために、有機層および電極上を覆うパッシベーション層12を形成してもよい。
【0139】
このパッシベーション層12に用いられる材料は、ガスバリア性および水蒸気バリア性の高い材料であれば特に制限はないが、SiO2、SiOx、GeOx、MgO、Al23、TiO2、ITO、InZnxy、およびInGaxZnyz等のアモルファス酸化物を挙げることができる(添字のx、y、zは組成比を表す。これら酸化物の組成は、化学量論比からずれていることもある)。その他、MgF2、LiF、BaF2、AlF3等のフッ化物、ZnS等の硫化物等の無機化合物を挙げることができる。よりバリア性を高めるためにはAl等の難腐食性の高バリア性金属をパッシベーション層12上にさらに蒸着することが望ましい。
【0140】
パッシベーション層12は、これら材料を、蒸着法、反応性蒸着法、CVD法、スパッタリング法、およびイオンプレーティング法等の方法により、単体でまたは複合化させて積層して成膜することにより形成される。
【0141】
さらにこのパッシベーション層12が傷付くのを保護するために、このパッシベーション層12を覆うように、プラスチック板およびプラスチックフィルム、金属箔とプラスチックのラミネートフィルム、金属板および金属箔、またはガラス板等の封止板13を、十分水分を除いた低吸湿性の光硬化性接着剤、エポキシ系接着剤、架橋エチレン−酢酸ビニル共重合体接着剤シート等の接着性樹脂、または低融点ガラス等の接着材料14で接着しても良い。
【0142】
また、パッシベーション層12の表面や、封止板13の有機発光層4側の面に、酸化カルシウム、酸化バリウム等の乾燥剤や、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、および有機金属類等からなるゲッター剤の層(図示せず)を形成してもよい。
【0143】
以上のように構成される本発明の有機薄膜EL素子は、正孔注入輸送層2の側を正として直流電圧を印加することにより発光するが、交流電圧、パルス電圧を印加した場合でも正孔注入輸送層2側に正の電圧が印加されている間は発光する。
【0144】
また、本発明の有機薄膜EL素子を、基板1の上に2次元的に配列することにより、文字や画像を表示することが可能な薄型ディスプレイを形成することができる
さらに、図5の模式図に示すように赤、青、緑の3色の有機発光層のサブピクセルライン(26、27、28)またはドットを印刷で塗り分け、3色の発光素子を2次元配列したカラーディスプレイ、または赤、青、緑、白の4色の発光素子のサブピクセルラインまたはドットを2次元配列したカラーディスプレイ、または白色発光素子に赤、青、緑、若しくは赤、青、緑、透明のサブピクセルに対応するカラーフィルタを積層し2次元配列したカラーディスプレイを作製することができる。
【0145】
また、青色発光有機EL素子を作製した場合は、吸収型カラーフィルタに変えて青を緑、および青を赤に変換する蛍光変換型フィルタを積層することによって、より効率の良いカラーディスプレイを作製することができる
【実施例】
【0146】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0147】
実施例1
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)-アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(2))(化合物1)の合成
(合成例1)
2,7−ジブロモ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]-3’,6’−ジオール(式(28))(中間体)の合成
【化32】

【0148】
3.14g(9.27mmol)の2,7−ジブロモフルオレノン、3.57g(32.45mmol)のレソルシノール、0.5g(3.67mmol)の塩化亜鉛からなる混合物を140℃に加熱した後、濃塩酸30mlを加え、125℃で4時間還流攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、沈殿物をろ過し、水洗した。得られた沈殿物を乾燥した後、酢酸エチル/ヘキサン(1/3〜1/2)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2,7−ジブロモ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(28))3.24g(収率66.8%)を得た。
【0149】
DI−MS(m/z):523(M++1)
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:4.86(br,2H),6.22(d,J=8.5Hz,2H),6.33(dd,J=8.6Hz,J=2.7Hz,2H),6.69(d,J=2.4Hz,2H),7.23(d,J=1.7Hz,2H),7.48(dd,J=8.1Hz,J=1.7Hz,2H),7.60(d,J=8.1Hz,2H)。
【0150】
(合成例2)
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(29))(中間体)の合成
【化33】

【0151】
アルゴン雰囲気下、0.95g(1.83mmol)の2,7−ジブロモ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール、1.83g(4.58mmol)の4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−ボロン酸メチルエステル、0.97g(9.16mmol)の炭酸ナトリウム、10mLの水および30mLのエチレングリコールモノメチルエーテルからなる混合物を室温で10分間攪拌し、脱酸素操作を行った。そこに、0.42g(0.37mmol)のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を加え、85℃で27時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン/塩化メチレン(7/1〜1/2)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(29))1.06g(収率57.3%)を得た。
【0152】
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:1.22(s,12H),1.24(s,12H),2.86(br,4H),4.76(br,2H),6.27(dd,J=8.5Hz,2.4Hz,2H),6.35(d,J=8.5Hz,2H),6.67(d,2.7Hz,2H),6.90−7.15(m,20H),7.31−7.36(m,6H),7.57(br,2H),7.78(d,J=7.8Hz,2H)。
【0153】
(合成例3)
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(30))(中間体)の合成
【化34】

【0154】
0.99g(0.97mmol)の2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオールを10mLのピリジンに溶解させた。この溶液を氷冷した後、0.82g(3.20mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸無水物を滴下し、室温にまで昇温させて24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れた。析出した沈殿物をイソプロピルエーテル/塩化メチレンの混合溶媒で抽出し、飽和食塩水、希塩酸、および水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去すると、2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(30))1.23g(収率97.6%)を得た。
【0155】
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:1.23(s,12H),1.24(s,12H),2.86(m,4H),6.59(d,J=8.8Hz,2H),6.75(dd,J=8.8Hz,2.4Hz,2H),7.00−7.04(m,10H),7.09(d,J=6.1Hz,8H),7.18(d,J=2.6Hz,2H),7.27(dd,J=10Hz,1.5Hz,4H),7.34(d,J=8.5Hz,4H),7.63(dd,J=8.1,1.7Hz,2H),7.84(d,J=8.1Hz,2H)。
【0156】
(合成例4)
9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−ボロン酸メチルエステル(式(31))(中間体)の合成
【化35】

【0157】
アルゴン雰囲気下、1.43g(3.47mmol)の9−ブロモ−10−(2−ビフェニル)−アントラセンを7.0mLのTHF中に溶解させた。この溶液を−70℃に冷却した後、攪拌しながら、2.3mL(3.65mmol)の1.6M n−BuLi/ヘキサン溶液を滴下した。この温度でさらに1時間攪拌し、ブロモの位置をアニオン化した後、0.38g(3.65mmol)のホウ酸トリメチルエステルを加えた。徐々に室温に昇温させながら15時間攪拌した。反応終了後、溶媒を留去し、9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−ボロン酸メチルエステル(式(31))1.40gを得た。
【0158】
(合成例5)
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(2))(化合物1)の合成
【化36】

【0159】
アルゴン雰囲気下、1.21g(0.94mmol)の2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]、1.12g(3.18mmol)の9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−ボロン酸メチルエステル、1.3g(4.66mmol)の炭酸ナトリウム、5mLの水、35mLのトルエンおよび20mLのTHFからなる混合物を室温で10分間攪拌し、脱酸素操作を行った。ここに、0.22g(0.19mmol)のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を加え、85℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、有機層を塩化メチレンで抽出した。分取した有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン/塩化メチレン(3/1〜1/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。さらに、得られた精製物をヘキサン/塩化メチレン(10/1〜4/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、式(2)で示す2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](化合物1)0.53g(収率34.2%)を得た。
【0160】
純度は、カラムとしてMightysilRP−18GPを、展開溶媒としてTHF/アセトニトリル(体積比30/70)を用いたHPLCによれば、99%であった。
【0161】
Agilent Technology社のポストカラム高速液体クロマトグラフ質量分析装置によれば、m/zが821〜823である範囲に2価の分子オンピークが観測され、式(2)の構造式の分子量と一致した。
【0162】
1H−NMR(d2-CD2Cl2):δ:1.25(d,J=12.4Hz、24H)、2.86−2.89(m,4H)、6.82(d,J=7.8Hz,2H)、6.86−6.97(m,8H)、7.00−7.06(m,12H)、7.08(d,J=8.2Hz,4H)、7.14(d,J=8.2Hz,8H)、7.23−7.31(m,9H)、7.34−7.40(m,4H)、7.50−7.59(m,6H)、7.60−7.67(m,9H)、7.67−7.73(m,4H)、7.75(br,2H)、7.98(d,J=8.2Hz,2H)
図6に本発明に関わる化合物式(2)のNMRチャートを示す。
【0163】
化合物1の特性を以下に示す。
【0164】
<熱分析>
化合物1の熱分析を、セイコー電子工業製EXTAR6000シリーズDSC6220により行った。20℃/分の条件で昇温して化合物1のガラス転移温度(Tg)を測定した。その結果、Tgは205℃(転移始め)〜223℃(転移終わり)であった。さらに400℃まで加熱しても結晶化しなかった。
【0165】
<溶解度>
化合物1は室温でトルエンに20重量%の濃度で直ちに溶解し、インクとすることが容易であった。また容器に栓をして溶液を長時間放置しても結晶が析出することはなく安定であった。また他の高沸点芳香族溶媒(単独または混合物)にも同様に良溶解性であった。
【0166】
<膜の耐熱性>
化合物1の1重量%のトルエン溶液をITO膜付ガラス上にスピンコートした。形成された膜は透明で平滑な膜であった。図7に、未加熱膜の蛍光スペクトル(三角印)と、膜を窒素雰囲気下加熱し200℃で1時間保持した後冷却した熱処理膜の蛍光スペクトル(実線)を示す。具体的には、島津製分光蛍光光度計RF−5300PCにて365nmで励起させ、蛍光スペクトルを測定した後補正し、ピークで規格化した。加熱処理によっても長波長のエキシマ成分発生は生ぜず、蛍光ピーク442nmの色純度の良い青色蛍光材料であった。
【0167】
比較例1
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−(10−(2−ビフェニル)−アントラセン−9−イル)−フェニル)フルオレン(比較化合物1)の合成
【化37】

【0168】
式(32)で示す比較化合物1を、実施例1の合成例1における式(28)の化合物に換えて2,7−ジブロモ−9,9‘−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを原料として用いることを除いては化合物1と同様に合成した。得られた比較化合物1は、化合物1と同様の250mg/mL以上のトルエンへの優れた溶解性を有していた。また、比較化合物1は、このトルエン溶液をITO膜付きガラス上にスピンコートして膜を形成すると、365nmの励起で440nmの蛍光ピークを有する青色蛍光材料であった。
【0169】
また、化合物1と同様に、セイコー電子工業製EXSTAR6000シリーズDSC6220により、20℃/分の条件で昇温して化合物1のガラス転移温度(Tg)を測定した。その結果、Tgは207℃(転移初め)〜220℃(転移終わり)であり、比較化合物1は化合物1と同様の高いガラス転移温度を示した。しかし、約270℃以上で結晶化(結晶化の発熱ピークは298℃と400℃)した。このことから、フルオレン環の9位がキサンテン環とスピロ化合物を形成していない場合は高温で結晶化しやすく耐熱性が低いことがわかった。
【0170】
実施例2
2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(3))(化合物35)の合成
(合成例6)
5−ブロモ−2−(4−tert−ブチルフェニル)−ピリミジン(式(33))(中間体)の合成
【化38】

【0171】
20gの2−ヒドロキシピリミジン塩酸塩を80mLの水に溶解させた溶液に、室温で攪拌しながら、90mLの臭素(0.35mol)を滴下した。さらに室温で2時間攪拌した後、減圧下、過剰量の臭素と水を留去し、5−ブロモ−2−ヒドロキシピリミジンの粗生成物を得た。
【0172】
得られた5−ブロモ−2−ヒドロキシピリミジンの粗生成物に200mLの塩化ホスホリルと8mLのDMFを加え、120℃に加熱しながら10時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を氷中に滴下して塩化ホスホリルを分解し、エーテルで抽出を行なった。得られた有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。さらに溶媒を留去し、得られた残渣をエタノールとメタノールの混合液から再結晶し、5−ブロモ−2−クロロピリミジン16.9g(収率57.8%)を得た。
【0173】
アルゴン雰囲気下、16.0g(82.7mmol)の5−ブロモ−2−クロロピリミジンを60mLの塩化メチレンに溶解させた。この溶液を−5℃に冷却し、56mLの57%のヨウ化水素酸を滴下して加えた。得られた反応混合物をさらに−5〜−1℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物に50gの炭酸カリウムを少量ずつ加えた後、塩化メチレンで抽出し、分取した有機層をチオ硫酸カリウム水溶液で洗浄した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、溶媒を留去した。残渣をヘキサンとエーテルの混合液から再結晶し、5−ブロモ−2−ヨードピリミジン19.8g(収率83.8%)を得た。
【0174】
アルゴン雰囲気下、8.4g(29.5mmol)の5−ブロモ−2−ヨードピリミジン、5.0g(28.1mmol)の4−tert−ブチルフェニルボロン酸、7.74g(73.0mmol)の炭酸ナトリウム、40mLの水および100mLのトルエンからなる混合物を室温で脱酸素した。続いて、0.49g(0.42mmol)のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を加え、7時間還流下で攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、トルエンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去した後、残渣をヘキサン−塩化メチレン(3:2)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、5−ブロモ−2−(4−tert−ブチルフェニル)−ピリミジン(式(33))6.8g(収率79.2%)を得た。
【0175】
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:1.37(s,9H),7.51(d,J=8.7Hz,2H),8.32(d,J=8.7Hz,2H),8.81(s,2H)。
【0176】
(合成例7)
2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(34))(中間体)の合成
【化39】

【0177】
アルゴン雰囲気下、2.0g(3.84mmol)の式(28)で示す2,7−ジブロモ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール、2.3g(8.5mmol)のビス(ピナコレート)ジボラン、2.20g(22.42mmol)の酢酸カリウム、および80mlのDMFからなる混合物を室温で脱酸素した。続いて、0.32mg(0.392mmol)のPdCl2(dppf)を加え、80〜90℃で64時間攪拌した。反応終了後、反応混合物からDMFを留去し、残渣を塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を水で洗浄した後、溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン/酢酸エチル(2/1〜1/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(34))2.13g(収率90.3%)を得た。
【0178】
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:1.27(s,24H),6.17(d,J=8.2Hz,2H),6.24(dd,J=5.7Hz,2.3Hz,2H),6.64(d,J=2.3Hz,2H),7.50(s,2H),7.79(d,J=7.8Hz,2H),7.82(d,J=8.7Hz,2H)。
【0179】
(合成例8)
2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(35))(中間体)の合成
【化40】

【0180】
アルゴン雰囲気下、0.9g(1.46mmol)の2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(34))、0.85g(2.92mmol)の5−ブロモ−2−(4−tert−ブチルフェニル)−ピリミジン、2.25g(16.3mmol)の炭酸カリウム、9mLの水、45mLのトルエンおよび10mLの1,4−ジオキサンからなる混合物を室温で脱酸素した。ここに、73mg(0.063mmol)のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)および44mg(0.22mmol)のトリ−tert−ブチルホスフィンを加え、85℃で48時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を水で洗浄し、無水塩化カルシウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。残渣を温ヘキサンで洗浄してから、ヘキサン/塩化メチレン(7/1〜1/2)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、式(35)で示す2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール1.1g(収率86.6%)を得た。
【0181】
1H−NMR(400MHz,d6−DMSO):δ:1.33(s,18H),6.11(d,J=8.7Hz,2H),6.31(dd,J=8.2Hz,2.3Hz,4H),6.63(d,J=2,7Hz,2H),7.53(d,J=7.3Hz,2H),7.55(d,J=8.5Hz,4H),7.93(d,J=8.2Hz,2H),8.21(d,J=7.8Hz,2H),8.33(d,J=8.5Hz,4H),9.09(d,J=1.4Hz,4H),9.60(s,2H)。
【0182】
(合成例9)
2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(36))(中間体)の合成
【化41】

【0183】
1.1g(1.40mmol)の2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]−3’,6’−ジオール(式(35))を3mLのピリジン3mLに溶解した。この溶液を氷冷した後、1.19g(4.20mmol)のトリフルオロメタンスルホン酸無水物を滴下して加え、室温にまで昇温させた後、24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れた。析出した沈殿物を塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水、希塩酸、および水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去し、得られた残渣をヘキサン/酢酸エチル(1/5〜1/4)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(36))0.89g(収率60.5%)を得た。
【0184】
1H−NMR(400MHz,d6−DMSO):δ:1.33(s,18H),6.56(d,J=8.7Hz,2H),7.05(dd,J=8.7Hz,2.7Hz,4H),7.56(d,J=8.7Hz,2H),7.61(d,J=2.3Hz,2H),8.05(dd,J=9.6Hz,1.8Hz,2H),8.32(d,J=7.8Hz,2H),8.33(d,J=8.7Hz,4H),9.14(s,4H)。
【0185】
(合成例10)
9−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−10−(2−ビフェニル)−アントラセン(式(37))(中間体)の合成
【化42】

【0186】
アルゴン雰囲気中、3.0g(7.33mmol)の9−ブロモ−10−(2−ビフェニル)−アントラセンを30mLのテトラヒドロフランに溶解させた。この溶液を−70℃に冷却し、4.8mL(7.69mmol)の1.6Mn−BuLiヘキサン溶液を滴下して加えた。この温度で1時間攪拌してブロモの位置をアニオン化した後、2.05g(10.99mmol)の2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−[1,3,2]−ジオキサボロランを加えた。徐々に室温にまで昇温させ、一晩反応させた。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、エーテルで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水塩化カルシウムにて乾燥した。溶媒を留去した後、残渣をヘキサン−塩化メチレン(5/1〜2/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、9−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−10−(2−ビフェニル)−アントラセン(式(37))3.2g(収率95.8%)を得た。
【0187】
1H−NMR(400MHz,d−CDCl3):δ:1.58(s,12H),6.79−6.90(m,3H),6.95−7.00(m,2H),7.23−7.31(m,3H),7.35−7.43(m,2H),7.46−7.53(m,1H),7.58−7.65(m,4H),8.33(d,J=8.7Hz,2H)。
【0188】
(合成例11)
2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(3))(化合物35)の合成
【化43】

【0189】
アルゴン雰囲気下、0.76g(0.72mmol)の式(36)で示す2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−ジトリフルオロメタンスルホニルオキシ−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン]、0.73g(1.60mmol)の式(37)で示す9−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−10−(2−ビフェニル)−アントラセン、0.88g(6.38mmol)の炭酸カリウム、4mLの水、21mLのトルエンおよび14mLの1,4−ジオキサンからなる混合物を室温で脱酸素した。ここに、0.17g(0.15mmol)のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を加え、100℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、続いて溶媒を留去した。残渣をヘキサン/塩化メチレン(3/1〜0/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。得られた精製物をさらに塩化メチレンを溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、2,7−ビス[2−(4−tert−ブチルフェニル)ピリミジン−5−イル]−3’,6’−(10−(2−ビフェニル)アントラセン−9−イル)−スピロ[9H−フルオレン−9,9’−[9H]キサンテン](式(3))0.21g(収率20.2%)を得た。
【0190】
1H−NMR(400MHz,d−CD2Cl2):δ:1.38(s,18H),6.80−7.06(m,14H),7.25−7.42(m,12H),7.55(d,J=8.2Hz,6H),7.61−7.73(m,12H),7.85−7.91(m,4H),8.15(d,J=7.9Hz,2H),8.43(d,J=8.2Hz,4H),9.11(s,4H)。
【0191】
図8に式(3)の化合物のNMRチャートを示す。
【0192】
UV−vis(膜)264,356.5nm。PL(膜)441nm。
【0193】
化合物35の特性を以下に示す。
【0194】
<熱分析>
化合物35の熱分析をセイコー電子工業製EXSTAR6000シリーズDSC6220により行った。20℃/分の条件で昇温して、オーブンパンを用いて化合物35のガラス転移温度(Tg)を測定した。最初の昇温でのガラス転移温度(Tg)は239℃(転移始め)〜255℃(転移終わり)であった。
【0195】
<溶解度>
化合物35は、室温でトルエンに1重量%の濃度で溶解し、インクとすることが容易であった。また容器に栓をして溶液を1週間放置しても結晶が析出することはなく安定であった。加温すると、化合物35はさらに高濃度でトルエン中に溶解した。
【0196】
<膜の耐熱性>
化合物1を1重量%含むトルエン溶液を、ITO膜付ガラス上にスピンコートした。形成された膜は透明で平滑な膜であった。図9に未加熱のアニールしていない膜の蛍光スペクトル(三角印)と、膜を窒素雰囲気下で200℃に加熱し1時間保持した後、冷却した熱処理アニール膜の蛍光スペクトル(実線)を示す。具体的には、島津製分光蛍光光度計RF−5300PCにて365nmで励起させ、蛍光スペクトルを測定した後補正し、ピークで規格化した。
【0197】
未加熱膜と加熱処理膜のスペクトルは大差無かった。ポリジアルキルフルオレン膜等で生じる加熱による長波長のエキシマ成分発生は全く無く、450nmの蛍光ピークの色純度の良い青色蛍光材料であった。
【0198】
実施例3
EL素子の作製
化合物1を有機発光層に用いたEL素子の作製
厚さ0.7mmの青板ガラス板上に、スパッタリング法により厚さ150nmのITO膜を成膜し、常法によりウエットエッチングを行なった基板を作製した。
【0199】
この基板をアルカリ洗剤により超音波洗浄した後、純水で洗浄し、乾燥させ、紫外線洗浄を行なった。続いて、ITO膜上に、PEDOT/PSS(Baytron P AI4083)をスピンコート法により成膜し、200℃で15分乾燥して厚さ90nmの正孔注入輸送層を成膜した。
【0200】
次に、この正孔輸送層上に、化合物1をトルエンに1重量%溶解した本発明のインク組成物をスピンコート法により塗布して、厚さ50〜60nmの膜を成膜し90分間減圧乾燥し有機発光層とした。
【0201】
最後にこの有機発光層上に、CsFを1nmの厚さで真空蒸着し、さらにAlを150nmの厚さで蒸着して陰極を形成した。
【0202】
以上のようにして作製した有機EL素子に直流電圧を印加し発光させたところ、12Vの直流電圧印加時に691cd/m2の輝度が得られ、CIE1931色度図におけるxy色度座標は(0.18、0.16)の青色発光であった。
【0203】
実施例4
EL素子の作製
実施例3における化合物1に代えて化合物35を用いて同様に素子を作製した。
【0204】
この有機EL素子に直流電圧を印加し発光させたところ、10Vの直流電圧印加時に610cd/m2の輝度が得られ、CIE1391色度図におけるxy色度座標は(0.18、0.19)の青色発光であった。
【0205】
実施例5
化合物1を液体有機発光層に用いたEL素子の作製
ITO膜からなる透明電極を形成した厚さ0.7mmの2枚の無アルカリガラス板に、厚さ約1ミクロンのポリエステルフィルムからなるスペーサーを挟み、セルの3方を接着した。残りの1方からセル内に5wt%の化合物1と、0.1mol/LのLiCF3SO3を溶かしたオルトジクロロベンゼンを流し込んだ。両電極間に直流または交流電流を流すと青色発光を生じた。
【0206】
実施例6
ITOガラス基板上にポリイミド系レジストで格子状に隔壁を形成し、有機ELディスプレイの画素(107μm角)となる区分を形成した。次に各画素区分内にダイコート法でPEDOT/PSS膜(Baytron P CH8000)を50nm厚で形成した。
【0207】
続いて化合物1をトルエン(沸点110.6℃)に8重量%溶かしたインク組成物を用いて、図4に示す凸版印刷装置で、インクパン中の粘度が一定になるように蒸発する分のトルエンを補充しながら80nmの膜厚で印刷を行なうと、一定膜厚の有機発光層を100回以上ムラなく連続印刷が可能となる。
【0208】
実施例7
実施例6と同様にPEDOT:PSS膜を50nm厚で形成した後、化合物1をメシチレン(沸点165℃)40%、1,2,4−トリメチルベンゼン(168℃)60%の混合溶媒に4重量%溶かしたインク組成物をインクジェット装置で各画素区分内に2pL/ショットずつ10ショット印刷した。全面印刷する間に溶媒の蒸発に伴う溶質の析出は起こらず、表面が平滑な有機発光層を成膜できた。
【0209】
実施例8
実施例6〜7のインク組成物中の蛍光性化合物1に代えて蛍光性化合物2〜47を用いて印刷を行なっても、化合物1と同様に平滑で、同様な厚さの膜が印刷成膜可能である。
【0210】
実施例9
実施例3の化合物1を1重量%溶かしたトルエンインク組成物を用いる代わりに、式(27)の電子輸送性化合物(Rはt−ブチル基)中に化合物1を発光ドーパントとして10重量%含む蛍光体組成物を1重量%の濃度でトルエンに溶解させてインキ組成物を調製した。このインク組成物を用いて同様にEL素子を作製すると、最高輝度1000cd/m2以上の青色発光EL素子が得られる。
【0211】
実施例10
実施例3の化合物1を1重量%溶かしたトルエンインク組成物を用いる代わりに、化合物1中に(式(19))で示す緑色蛍光材料を1重量%含む蛍光体組成物をトルエンに溶解させてインク組成物を調製した。このインク組成物を用いて同様に発光層までを作製した後、式(27)の電子輸送性化合物を20nmの厚さで蒸着し、最後に電子輸送層上にLiFを1nmの厚さで真空蒸着し、さらにAlを150nmの厚さで蒸着して陰極を形成する。この素子では最高輝度10000cd/m2以上の緑色発光が得られる。
【化44】

【図面の簡単な説明】
【0212】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子の一断面図。
【図2】本発明の他の実施形態に係る有機EL素子の一断面図。
【図3】本発明のさらに他の実施形態に係る有機EL素子の一断面図。
【図4】本発明の有機EL素子の製造の際に用いる凸版印刷装置の模式図。
【図5】本発明のさらに他の実施形態に係る有機EL素子の一断面図。
【図6】本発明の一実施例に係る蛍光性化合物のNMRチャート。
【図7】本発明の一実施例に係る有機EL素子で用いられる蛍光性化合物の蛍光スペクトル。
【図8】本発明の一実施例に係る蛍光性化合物のNMRチャート。
【図9】本発明の一実施例に係る有機EL素子で用いられる蛍光性化合物の蛍光スペクトル。
【符号の説明】
【0213】
1…基板
2…陽極
3…正孔注入輸送層
4…有機発光層
5…陰極
6…配線
7…電源
8…端子部
9…配線
10…正孔輸送層
11…電子輸送層
12…パッシベーション層
13…封止板
14…接着材料
15…版胴
16…印刷用凸版
17…被印刷基板
18…版に転写されたインク
19…基板に印刷されたインク
20…インクパン
21…インク補充装置
22…アニロックスロール
23…ドクター
24…ステージ
25…レジスト隔壁
26…赤色発光層
27…緑色発光層
28…青色発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、
1は互いに独立して、水素、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有し、但し、一方のR1が水素であるときは他方は水素ではなく、
2は同じ基であって、置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基、または置換されたアミノ基を示し、ここで、置換されたアリール基、ヘテロアリール基またはアミノ基は、アルキル基、アルケニルオキシ基、アルコキシ基、アリール基、および芳香族アミノ基からなる群から選択される1つ以上の置換基を有する)
の構造で示される蛍光性化合物。
【請求項2】
前記式(1)のR1およびR2における置換されたまたは未置換の1〜5個の独立した若しくは縮合したアリール基および/またはヘテロアリール基が、5員環若しくは6員環のアリール基および/またはヘテロアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光性化合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】

で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光性化合物。
【請求項4】
下記式(3)
【化3】

で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光性化合物。
【請求項5】
ガラス転移温度が100℃以上であり、かつ分子量が780〜2500であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光性化合物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物を0.5重量%以上含有することを特徴とする固体の発光性組成物。
【請求項7】
少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物を固形分中0.5重量%以上の濃度で含むことを特徴とする発光性インク組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物の他に、キャリア輸送性化合物および発光性化合物を少なくとも1種以上含むことを特徴とした請求項5に記載の固体の発光性組成物。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物の他に、キャリア輸送性化合物および発光性化合物を少なくとも1種以上含むことを特徴とした請求項6に記載の発光性インク組成物。
【請求項10】
対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に、少なくとも有機発光層を含む有機発光媒体層を有する有機EL素子において、前記有機発光媒体層が請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物を含むことを特徴とする有機EL素子。
【請求項11】
対向する電極間若しくは陽極と陰極との間に、少なくとも正孔注入輸送層と有機発光層とを有する有機EL素子において、前記正孔注入輸送層または有機発光層のいずれか一方が請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光性化合物を含むことを特徴とする有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−191232(P2009−191232A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36175(P2008−36175)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【Fターム(参考)】