説明

蛍光X線分析方法および蛍光X線分析装置

本発明は、測定時間として設定した時間後でないと濃度の計算結果が得られないという従来の蛍光X線分析の問題点を解決するものである。
本発明の蛍光X線分析方法および蛍光X線分析装置は、試料の測定条件の設定を行った後測定を開始し、試料に含まれている元素の測定濃度と測定精度の計算を行い、この測定精度が予め定めた測定条件を満たす値となったときに測定を終了し、そのときの濃度を出力するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は蛍光X線分析方法とその装置に関するもので、特に、さまざまな組成から構成される電子・電気機器に用いられる部品に混入する環境負荷物質を検出する際に用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、電子・電気機器を構成する部品内に含有する環境負荷物質の危険性が指摘され、法律、条令によりこれら環境負荷物質の含有量を制限する国、または州が登場している。例えば、EU各国ではRoHS指令(Restriction of the use of certain Hanzardous Substances in electrical and electric equipment)では、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、水銀(Hg)、特定臭素系難燃剤(2種類)(ポリ臭化ビフェニル(PBB),ポリ臭化ビフェニルエーテル(PBDE))、6価クロム(Cr(VI))を1000ppm(Cdは100ppm)以上含有する部品の使用を禁止している。そのため、電気・電子機器製造メーカでは、各部品に規制値以上の環境負荷物質が含有していないことを確認することが必要不可欠となっている。
元素含有量を測定する方法としては、数10ppmの感度を有し、かつ非破壊で測定可能である蛍光X線分析器を用いるのが一般的である。
この種の分析方法を用いて試料に含まれている元素の濃度を定量する手順は一般的によく知られている。その一例としての方法を図11を用いて説明する(特許文献1参照)。
図11において、まず、ステップ301で測定時間tの設定が行われた後、測定が開始される(ステップ302参照)。続いて、測定が行われ(ステップ303参照)、t時間経過後に測定が終了し(ステップ304参照)、濃度計算およびその計算結果の精度(標準偏差)の計算が行われて濃度と精度の結果を得る。
そして、濃度と精度の結果がLCD等の表示手段で表示されるとともにプリンタ等を用いて印字出力される(ステップ306参照)。この際、濃度計算結果の精度の求め方として、上記手順を数回(2〜10回)繰り返して求める場合と、上記手順のように一回の測定で、あとはX線のカウント数から推測する場合がある。
【特許文献1】特開平8−43329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の分析方法は、以下に示すような欠点を有する。
(1)ステップ301で行われたように、測定時間として設定した時間(t)後でないと濃度の計算結果が得られないので、操作性が悪い。
(2)また、前記設定した時間(t)後でないと濃度計算結果の精度が得られないという理由から、試料に含まれている元素の濃度をなるべく精度良く測定するために必要以上に測定時間を長く設定してしまう。一例を挙げて上記欠点を説明すると、従来この種の蛍光X線分析方法を用いてCd分(以下、カドミ濃度という)を測定するに際しては、測定の最初にステップ301で示したような測定時間tの設定を行う。この際、なるべく精度良く測定するために、Cd以外の元素の存在の可能性を加味して200秒もの極めて長い測定時間tを費やして測定を行っている。
一方、プラスチックをベースとし、Cdのような重元素が多く含まれない試料であったとしても、従来の分析方法では200秒もの測定時間を費やしてしまう。発明者らが実験を重ねた結果、プラスチックをベースとする試料のCd濃度を測定する場合、20〜25ppm程度の定量分析に対してわざわざ200秒もの測定時間tを費やす必要はなく、10秒間の測定で充分であるということが判明した。
すなわち、当該カドミ濃度が規格値以下であるかどうか10秒間の測定で正しく判断できるにも関わらず、従来の分析方法では、200秒もの時間を要するという問題がある。本発明は、上記発明者の実験に基づき判明した上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることができる蛍光X線分析方法および蛍光X線分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の蛍光X線分析方法は、X線を照射された試料から発生される蛍光X線から試料の構成元素を分析する蛍光X線分析方法であって、設定ステップと、測定ステップと、導出ステップと、終了ステップと、出力ステップとを備えている。設定ステップは、試料の測定条件を設定する。測定ステップは、蛍光X線の測定を行う。導出ステップは、測定の結果から構成元素の測定濃度と測定精度とを導出する。終了ステップは、測定精度が測定条件を満たす場合に蛍光X線の測定を終了させる。出力ステップは、測定濃度または測定精度を出力する。
ここで、測定条件とは、例えば、測定の終了条件を意味している。測定精度とは、例えば、測定濃度のばらつき、誤差を示す値である。
本発明に記載の蛍光X線分析方法は、終了ステップを備えている。このため、測定精度が所望の測定条件を満たす場合には、測定を短時間で切り上げることが可能となる。すなわち、測定時間として設定した時間が経過する前であっても、所望の精度の測定結果を得ることができる。また、測定時間を短縮することができる。
請求項2に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1に記載の蛍光X線分析方法であって、測定条件とは、測定精度が測定濃度から導き出される値を下回ることである。
測定濃度から導き出される値とは、例えば、測定濃度に対して所定の係数を乗じた値などである。この場合、測定条件とは、例えば、測定精度が測定濃度の所定の割合を下回ること、となる。
本発明に記載の蛍光X線分析方法は、測定濃度に応じた測定精度で測定を行うことが可能となる。このため、比較的測定濃度の高い測定において、測定時間をより短縮することなどが可能となる。
請求項3に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1に記載の蛍光X線分析方法であって、測定条件とは、測定精度が予め定めた設定値を下回ることである。
本発明に記載の蛍光X線分析方法は、測定濃度に関係なく予め定めた測定精度で測定を行うことが可能となる。このため、比較的測定濃度の低い測定において、測定時間をより短縮することなどが可能となる。
請求項4に記載の蛍光X線分析方法は、請求項3に記載の蛍光X線分析方法であって、設定値は、測定濃度のばらつきの上限目標値を、測定において所望される精度の高さを示す精度係数で除した値である。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、上限目標値を精度係数で除した設定値を測定条件に用いている。比較的濃度の低い測定においてこの測定条件を満足する場合には、測定濃度は、精度係数に基づいて定められる確率で上限目標値を下回ると結論付けることが可能となる。このため、簡易に適切な精度の測定を行うことが可能となる。
請求項5に記載の蛍光X線分析方法は、請求項4に記載の蛍光X線分析方法であって、設定ステップは、上限目標値または精度係数の少なくとも一方を入力させる。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、上限目標値または精度係数を所望の値に設定することが可能となる。
請求項6に記載の蛍光X線分析方法は、請求項4に記載の蛍光X線分析方法であって、設定ステップは、複数の異なる値の上限目標値とそれぞれの上限目標値に応じた複数の精度係数との少なくとも一方を入力させ、それぞれの上限目標値あるいは精度係数毎に複数の設定値候補を導出し、導出された複数の設定値候補から1つの設定値を決定する。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、複数組の上限目標値と精度係数とが設定される。ユーザは、それぞれの設定値候補から定められる測定条件のうち、1つの設定値が示す測定条件により測定を行うことが可能となる。例えば、ユーザが必要とする精度に応じて、より厳しい測定条件を選択することなどが可能となる。
請求項7に記載の蛍光X線分析方法は、請求項1に記載の蛍光X線分析方法であって、評価ステップをさらに備えている。評価ステップは、出力された測定濃度と測定精度とから測定の信頼性を評価するステップであって、測定濃度と測定精度とのそれぞれに対して設定された閾値との比較を行い、出力された測定濃度と測定精度とを段階評価する。
ここで、段階評価とは、例えば、測定値と閾値との比較により測定値をクラス分けして評価することなどを意味している。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、測定濃度と測定精度とを段階評価する。このため、ユーザは、測定結果をより容易に確認することが可能となる。
請求項8に記載の蛍光X線分析方法は、請求項7に記載の蛍光X線分析方法であって、評価ステップは、測定濃度と測定精度とのそれぞれに対する段階評価を組み合わせて最終評価を行う。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、測定濃度と測定精度との段階評価から最終評価を行う。このため、ユーザは、測定結果をより容易に確認することが可能となるとともに、測定結果に対する最終判断をより簡易に行うことが可能となる。
請求項9に記載の蛍光X線分析方法は、請求項7または8に記載の蛍光X線分析方法であって、閾値は、設定ステップにおいて設定される。
本発明に記載の蛍光X線分析方法では、閾値を所望の値に設定することが可能となる。
請求項10に記載の蛍光X線分析装置は、X線を照射された試料から発生される蛍光X線から試料の構成元素を分析する蛍光X線分析装置であって、入力手段と、照射コントロール手段と、検出手段と、演算手段と、出力手段と、制御手段とを備えている。入力手段は、試料の測定条件の設定を入力する。照射コントロール手段は、測定条件にしたがってX線の照射を制御する。検出手段は、蛍光X線を検出する。演算手段は、検出手段からの信号をもとに測定濃度と測定精度を演算する。出力手段は、演算結果を出力する。制御手段は、演算手段で演算された測定精度が測定条件を満たす場合に蛍光X線の測定を終了する。
ここで、測定条件とは、例えば、測定の終了条件を意味している。測定精度とは、例えば、測定濃度のばらつき、誤差を示す値である。
本発明に記載の蛍光X線分析装置は、制御手段を備えている。このため、測定精度が所望の測定条件を満たす場合には、測定を短時間で切り上げることが可能となる。すなわち、測定時間として設定した時間が経過する前であっても、所望の精度の測定結果を得ることができる。また、測定時間を短縮することができる。
【発明の効果】
本発明により、測定時間として設定した時間後でないと濃度の計算結果が得られないという操作性が悪いことや、設定した時間後でないと濃度計算結果の測定精度が得られないため、試料に含まれている元素の濃度をなるべく測定精度良く測定するため、必要以上に測定時間を長く設定してしまい測定時間が長くなってしまうことを防ぎ、測定時間の短縮と操作性の向上とを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】本発明の実施の形態1を説明するためのフローチャート
【図2】本発明の実施の形態1を説明するための装置概略図
【図3】本発明の実施の形態2を説明するためのフローチャート
【図4】測定濃度X(ppm)の分布を示すグラフ(実施の形態2)
【図5】本発明の実施の形態2〈変形例〉を説明するためのフローチャート
【図6】信頼性を評価するためのテーブル(実施の形態2〈変形例〉)
【図7】本発明の実施の形態2〈変形例〉を説明するためのフローチャート
【図8】信頼性を評価するためのテーブル(実施の形態2〈変形例〉)
【図9】本発明の実施の形態3を説明するためのフローチャート
【図10】ステップ144における処理を補足的に説明するグラフ(実施の形態3)
【図11】従来例を説明するためのフローチャート(背景技術)
【符号の説明】
【0005】
201 入力部
202 演算部
203 コントローラ
204 X線管
205 1次線
206 試料
207 蛍光X線
208 検出器
209 増幅器
210 表示部
211 外部記憶装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明の具体的な実施の形態を図面を使って説明する。
(実施の形態1)
〈概要〉
本発明は、試料の測定条件の設定を行った後に測定を開始し、試料に含まれている元素の濃度とその測定精度(以下、精度と記す)の計算を行い、精度の計算値が予め定めた値となったときに測定を終了し、そのときの濃度および精度を表示および/または出力する。このため、従来の方法で問題となる、(1)測定時間として設定した時間後でないと濃度の計算結果が得られないので操作性が悪いという点、また、(2)設定した時間後でないと濃度計算結果の精度が得られないので試料に含まれている元素の濃度をなるべく精度良く測定するために必要以上に測定時間を長く設定してしまうという点、を解消でき、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることができる。
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〈構成〉
図1は本発明の実施の形態1を説明するためのフローチャートである。図2は本発明の実施の形態1を説明する装置概略図である。
図2において201はサンプル名称や測定条件を入力するキーボード等からなる入力手段(以下、入力部と記す)、202は測定条件を信号処理化し、スペクトルを定量化する演算処理を実行する演算手段(以下、演算部と記す)、203はX線管の印加電圧、電流を制御する照射コントロール手段(以下、コントローラと記す)、204はX線を発光、照射するX線管、205は発光した1次線、206は非測定物である試料、207は蛍光X線、208は蛍光X線を検出する検出手段(以下、検出器と記す)、209は検出信号を増幅する増幅器を210は演算結果等を表示する出力手段(以下、表示部と記す)、211は試料の情報や演算結果を記憶する外部記憶装置をそれぞれ示す。以上の入力部201、演算部202、コントローラ203、X線管204、検出器208、増幅器209、表示部210により、蛍光X線分析装置200が構成されている。なお、外部記憶装置211は、蛍光X線分析装置200の外部に接続されるだけでなく、内蔵されていてもよい。なお、これらの事項によりこの発明は限定を受けるものではない。
〈作用〉
次にこの装置の動作について詳細に説明する。
ここでは一例として、蛍光X線分析装置200を用いて、プラスチック樹脂中のCd濃度(XWt%:X重量パーセント)を測定する方法について図1、図2を用いて説明する。なお、本実施の形態では、Cd濃度を測定する場合について説明を行うが、本発明を、その他の環境負荷物質およびその他の構成元素の分析に用いることができるということは言うまでもない。
まず、ステップ101でプラスチック樹脂試料の測定条件の設定が行われた後、測定が開始される(ステップ102参照)。
この際、測定条件としては、例えば、Cd濃度誤差がCd濃度値の5%以下にならなければならないことや、測定時間tが最大値tmaxの、例えば、200秒を越えないこと等が入力される。具体的には図2に記載されるキーボード等の入力部201による入力作業であったり、外部記憶装置211からのダウンロードによる情報入力を実施することとなる。
入力値を受け、演算部202内ではX線管の印加する電圧、電流値を算出しコントローラ203に指令を出力する。コントローラ203は指令に従い、所定の電圧、電流をX線管204に入力する。その結果X線管204から1次線205が発生し、試料206に照射される。試料206から発生した蛍光X線207は検出器208で検出され、検出された信号は増幅器209で増幅され、演算部202に信号が戻される。
演算部202内では、増幅された信号を元にCdの蛍光X線量(カウント値)と散乱X線の総量(散乱X線のカウント数)が算出される。これら数値と前もって測定された検量線定数を用いて、プラスチック樹脂試料に含まれているCd濃度Xと測定精度(誤差)の計算が演算部202内で行われ、演算結果を表示部210に表示させる仕組みとなっている(ステップ103参照)。
この際、Cd濃度Xとその測定精度(σx)は以下に示す(1),(2)式を用いた演算が施されることにより計算される。すなわち、
X=a×(F/D)+b …………(1)
(1)式において、aは検量線定数、Dは散乱X線のカウント値、FはCdのカウント値である。
σx=a×(F/D)×(1/F+1/D)^(1/2) …(2)
そして、この演算により、現時点での濃度Xと精度σxが、随時表示部210の表示画面に表示される。
続いて、上記のように、濃度とその精度の計算を随時行い、濃度Xと測定精度σxの結果が下記(3)式を満足したときに測定を終了する。
σx<0.05・X …………(3)
すなわち、演算部202内での演算結果の測定精度が指定値未満であると判断された場合には、ステップ106に進み、測定が終了することとなる(ステップ106参照)。なお、この(3)式では不等号(<)を用いて終了条件を示しているが、当該部分は、不等号[含 等号](≦)であってもよい。
測定終了は演算部202での演算処理を終了して結果を表示または出力することを示すが、同時にコントローラ203を制御してX線管204からの1次線205の照射を停止したり、検出器208の検出を終了しても、増幅器209による増幅を中止するなどの場合や、図2には記載していないが、1次線や蛍光X線の光路中にメカニカルなシャッターを設けてX線を切断する方法、演算は継続していても表示もしくは出力を固定することもであってもよいし、これらの動作を複数並行に実施してもよいし、もちろん上記手法に限定されるものではない。
一方、ステップ104で、測定精度σxが指定値未満でない場合には、ステップ105で当該測定に当たり測定時間tが最大値tmaxの200秒を越えているのかどうかが判断される。言い換えると、ステップ101で入力した測定条件より、下式の(4)式が成立するかどうかを判断する。
tmax≦t(測定時間) …………(4)
ステップ105で、当該測定時間tが200秒を越えていると判断された場合には、ステップ106に進み、前述の測定終了の動作が実行される(ステップ106参照)。
最後に、ステップ107で前記表示部210に結果(濃度,精度(誤差),測定時間等)の表示を行うとともに、プリンタや外部出力でその結果を出力する。
結果は表示部210に表示しても外部記憶装置211に記録してもその方法を実施しても良い。外部記憶装置211には濃度、測定精度、測定時間などの測定結果はもちろん大きさ、形状、材質等の試料の情報を記憶しておくことが好ましいがこれに限定されるものではない。
測定終了後、試料206は取り出さねばならないが、1次線205が放出された状態では、作業者の安全性が確保されないため、1次線205は測定終了後速やかに放出を停止することが望ましい。具体的にはステップ106で測定が終了し、表示部210に結果表示を実施したことを確認した際、演算部202より、コントローラ203に停止信号を送信し、コントローラ203はX線管204の動作をストップさせる機能を追加することが望ましい。
なお作業者の安全を確保する方法としてはコントローラ203を制御し、X線管204から発生する1次線205の照射を中止する方法や、検出器208の検出を中止する方法や、1次線の光路にシャッターを設ける方法などがあるがこれに限定するわけではない。
このように本実施の形態では、測定者は、予め自分の要求する値を入力もしくはダウンロードすることで、計算値を判断する目安(A)(図1:ステップ104参照),(B)(図1:ステップ105参照)で自動的に判断し、測定を終了させるようにしている。このため、必ずしも設定時間経過まで測定結果の出力を待つ必要がなく、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることができる。
なお、本実施の形態ではプラスチック樹脂中のCd濃度測定で十分な信頼性を有する結果を得るには、精度は測定値の2σに相当する5%以下が必要という予備実験結果に基づき5%の要求値を入力したが、これに限定されるわけではなく、更なる精度を必要とする場合は小さな値を入力すればよく、また小さい値に限定されるものではない。
また測定したい元素の含有量が非常に微量な場合は、含有量に対する分率表示では演算結果が収束しない場合が発生する、そのような場合は要求精度を含有量の分率で定義せず、絶対カウント数のバラツキで定義したほうが高速で良好な結果が得られる場合があるが、もちろんこれに限定されるものではない。
(実施の形態2)
〈概要〉
実施の形態2は、演算部202(図2参照)における異なる処理を提供するものである。具体的には、実施の形態1とは異なる測定条件が演算部202に設定され、測定を行う。以下、詳細に説明を加えるが、蛍光X線分析装置200の構成についての説明は、実施の形態1と同じであるため省略する。
〈作用〉
以下、図3に示すフローチャートを用いて、実施の形態2に示す本発明について説明を行う。
まず、ステップ121でプラスチック樹脂試料の測定条件の設定が行われた後、測定が開始される(ステップ122参照)。
測定条件の設定に際して、測定濃度のばらつきの上限目標値と、測定において所望される精度の高さを示す精度係数とが、入力される。
ばらつきの上限目標値は、ユーザにより任意に決定される値であるが、例えば、ユーザが自己の管理基準値(例えば、各部品に含まれる環境負荷物質の濃度の規制値であって、法令で定められる濃度規制値を下回る値など)を定めている場合には、その管理基準値を入力する。
また、精度係数は、ユーザにより任意に決定される値であるが、どれくらいの確率で測定精度の値が上限目標値を下回るかを示す値(すなわち、測定精度の高さを示す値)を入力する。
さらに、実施の形態1と同様に測定時間の最大値tmaxを入力する。実施の形態1と同様にtmaxを200秒に設定するとする。
これらの入力は、実施の形態1と同様、図2に記載されるキーボード等の入力部201を用いてあるいは外部記憶装置211からのダウンロードを用いて行われる。
入力された値は、演算部202に対して設定される。
ステップ122〜ステップ123では、実施の形態1のステップ102〜103と同様に、蛍光X線207を検出するとともに、式(1)と式(2)とに基づいて、測定濃度Xと測定精度σxとが算出される。詳しい説明は、実施の形態1と同様であるため省略する。
ステップ124では、ステップ123で計算された測定精度σxが下記(3’)を満足したときに測定を終了する。
σx<(σ1/k1) …………(3’)
ここで、σ1は、ステップ121で設定された上限目標値の値であり、k1は、ステップ121で設定された精度係数の値である。
すなわち、演算部202内での演算結果の測定精度が、設定値(σ1/k1)未満であると判断された場合には、ステップ126に進み、測定が終了することとなる(ステップ126参照)。なお、この(3’)式では不等号(<)を用いて終了条件を示しているが、当該部分は、不等号[含 等号](≦)であってもよい。
ここで、ステップ126における測定終了の処理についての説明は、実施の形態1で説明したのと同様であるため省略する。
一方、ステップ124で、測定精度σxが設定値(σ1/k1)未満でない場合には、ステップ125に進む。ステップ125では、測定時間tがステップ121で設定された最大値tmaxの値(本実施の形態では200秒に設定)を越えているのかどうかが判断される。ステップ125における処理についての説明は、実施の形態1で説明したステップ105と同様であるため省略する。
ステップ125で、当該測定時間tが最大値tmax(200秒)を越えていると判断された場合には、ステップ126に進み、測定終了の処理が実行される(ステップ126参照)。
最後に、ステップ127で前記表示部210に結果(濃度,精度(誤差),測定時間等)の表示を行うとともに、プリンタや外部出力でその結果を出力する。
〈効果〉
このように本実施の形態では、必ずしも設定時間経過まで測定結果の出力を待つ必要がなく、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることができる。
また、環境負荷物質がほとんど含まれておらず、測定濃度Xの測定結果が0ppmとして出力されることがほとんどである試料に対しては、ステップ121で設定する上限目標値の値をユーザの管理基準値としておくことにより、精度係数で定めた値に基づく確率で実際の濃度が管理基準値を下回ることとなる。すなわち、測定濃度Xの測定結果としての0ppmという値が信用できる値であることを確認できるとともに、ユーザの管理基準を満足することを確認できる。ユーザの管理基準値は、法定の規制値(例えば、RoHSでは、Cdは100ppm未満)を充分下回る値(例えば、Cdは25ppm未満)に設定されているのが通常である。このため、本発明を用いれば、より簡易に測定対象となる試料が法定の規制値を満足するか否かを判定すること、さらには、ユーザの管理基準値を満足するか否かを判定することが可能となる。
ここで、図4を用いて、測定精度σx、上限目標値σ1、精度係数k1の関係について示す。図4は、測定濃度X(ppm)の分布を示すグラフである。測定精度σxは、分布の平均値からのずれを示す値である。精度係数k1は、信頼区間を決定する係数であり、図4では、測定精度σxの3倍の区間を信頼区間としている(すなわち、k1=3)。式(3’)を用いたステップ124の処理が意味するところは、上限目標値σ1(図4では、25ppm)が測定精度σxの3倍の区間に含まれる場合に測定を終了する、ということである。
なお、図4では、精度係数k1の値を3としているが、ユーザが所望する精度に応じてこの値は任意に変更可能である。例えば、精度がそれほど要求されない場合には処理を短時間で終わらせるために、さらに低い値を設定してもよい。また、精度がさらに要求される場合には、さらに高い値を設定してもよい。測定精度と処理時間とを比較考量して、精度係数k1の値としては、2〜6程度の値を用いることが好ましい。
〈変形例〉
[1]
〈1−1〉
実施の形態2に示した本発明は、測定終了時の測定濃度Xおよび測定精度σxの値の信頼性を評価するステップをさらに備えていてもよい。具体的には、測定終了時の測定濃度Xおよび測定精度σxのそれぞれに対して閾値との比較を行う。さらに、それぞれの比較に基づき、測定結果の信頼性を評価する。これについて、図5のフローチャートを参照しながら説明を加える。
ステップ126(図3参照)により測定が終了すると、演算部202(図1参照)は、測定結果を評価する(ステップ130)。具体的には、測定終了時の測定濃度Xが予め定められた濃度に関する閾値Xtを下回るか否か(条件X<Xtを満足するか否か)と、測定終了時の測定精度σxが予め定められた精度に関する閾値σtを下回るか否か(条件σx<σtを満足するか否か)とが判断され、それぞれの判断結果が記号などで表示される。判断結果の表示は、例えば、条件を満足する場合に「○」、条件を満足しない場合に「×」などと表示することにより行われる。なお、判断結果の表示は、これに限らず、どのような表示であってもよいが、ユーザにとって認識しやすい表示であることが好ましい。
ここで、閾値Xtと閾値σtとは、予めステップ121(図3参照)において設定される。なお、閾値σtは、ステップ121で設定した上限目標値σ1と同じ値であってもよい。この場合、ユーザは、上限目標値σ1を入力すれば、その値が自動的に閾値σtに設定される。また、閾値Xtは、ステップ121で設定した上限目標値σ1と同じ値であってもよい。
さらに、ステップ131では、測定濃度Xに対する判断結果と測定精度σxに対する判断結果とを組み合わせて、測定全体の信頼性を評価する。演算部202が備えるメモリあるいは外部記憶装置211には、予め信頼性を評価するためのテーブルが格納されている。
図6にこのテーブルTb1を示す。テーブルTb1には、ステップ130のそれぞれの判断結果の組み合わせに対して、信頼性の評価結果が関連付けられている。演算部202は、ステップ130の判断結果を用いて、テーブルTb1を参照することにより、信頼性の評価結果を出力する。一例について説明すると、例えば、測定濃度Xに対する判断結果が「○」、かつ測定精度σxに対する判断結果が「×」である場合、判定結果「?」を出力するとともに「要高精度分析」という評価結果を出力する。
なお、テーブルTb1は、測定濃度Xと測定精度σxとのそれぞれの判断結果の悪い方の結果を判定結果として格納している。さらに、測定精度σxに対する判断結果が「×」である場合には、判定結果として「?」を格納している。これにより、測定精度σxに対する判断結果が「×」の場合に測定自体の信頼性が低いと評価され、それ以外で測定濃度Xに対する判断結果が「×」の場合に測定自体の信頼性は高いが試料に問題があると評価される。
最後に、ステップ132では、表示部210に結果(測定濃度、測定精度(誤差)、測定時間、信頼性の評価結果)の表示を行うとともに、プリンタや外部出力でその結果を出力する。
本発明では、測定結果の信頼性が評価されるため、ユーザは、容易に測定結果の善し悪しを判断し、その後の対応を判断することが可能となる。
なお、図5に示す処理は、実施の形態1においても常識的な変更のもとで適用可能である。また、図6に示すテーブルTb1は、一例であり、本発明がこの場合に限定される訳ではない。ユーザは、必要に応じてテーブルTb1の内容やそれぞれの閾値を変更することが可能である。
〈1−2〉
さらに、上記〈1−1〉において、測定濃度Xおよび測定精度σxのそれぞれは、2つの閾値と比較してもよい。これについて、図7のフローチャートを参照しながら説明を加える。
ステップ126(図3参照)により測定が終了すると、演算部202(図2参照)は、測定結果を評価する(ステップ135)。具体的には、まず、測定終了時の測定濃度Xが予め定められた濃度に関する2つの閾値Xt1,Xt2(Xt1<Xt2とする)を下回るか否かが判断される(すなわち、条件X≦Xt1を満足するか否か、および条件X≦Xt2を満足するか否かの2つの条件が判断される)。また、測定終了時の測定精度σxが予め定められた精度に関する2つの閾値σt1,σt2(σt1<σt2とする)を下回るか否かが判断される(すなわち、条件σx≦σt1を満足するか否か、および条件σx≦σt2を満足するか否かの2つの条件が判断される)。これらの判断の結果を組み合わせることにより、測定濃度Xと閾値Xt1および閾値Xt2との大小関係、および測定精度σxと閾値σt1および閾値σt2との大小関係が判断される。なお、測定濃度Xまたは測定精度σxとそれぞれの閾値との大小関係の判断は、これに限らず様々な処理により判断することが考えられる。
それぞれの判断結果は、記号などにより表示される。判断結果の表示は、測定濃度Xが、X≦Xt1満足する場合に「○」、Xt1<X≦Xt2を満足する場合に「△」、Xt2<Xを満足する場合に「×」と表示することにより行われる。また測定精度σxの場合も同様に、測定精度σxが、σx≦σt1満足する場合に「○」、σt1<σx≦σt2を満足する場合に「△」、σt2<σxを満足する場合に「×」と表示することにより行われる。なお、判断結果の表示は、これに限らず、どのような表示であってもよいが、ユーザにとって認識しやすい表示であることが好ましい。
ここで、閾値Xt1,Xt2と閾値σt1,σt2とは、予めステップ121(図3参照)において設定される。なお、閾値σt1は、ステップ121で設定した上限目標値σ1(例えば、Cdでは25ppm)と同じ値であってもよい。さらに、閾値σt2は、上限目標値σ1よりも大きい値であり、かつ法定の規制値(例えば、Cdでは100ppm)を超えない値(例えば、70ppm)などと設定されてもよい。また、閾値Xt1,Xt2は、ステップ121で設定した閾値σt1,σt2とそれぞれ同じ値であってもよい。この場合、ユーザは、閾値σt1,σt2を入力すれば、その値がそれぞれ自動的に閾値Xt1,Xt2に設定される。
さらに、ステップ136では、測定濃度Xに対する判断結果と測定精度σxに対する判断結果とを組み合わせて、測定全体の信頼性を評価する。演算部202が備えるメモリあるいは外部記憶装置211には、予め信頼性を評価するためのテーブルが格納されている。
図8にこのテーブルTb2を示す。テーブルTb2には、ステップ135のそれぞれの判断結果の組み合わせに対して、信頼性の評価結果が関連付けられている。演算部202は、ステップ135の判断結果を用いて、テーブルTb2を参照することにより、信頼性の評価結果を出力する。一例について説明すると、例えば、測定濃度Xに対する判断結果が「○」、かつ測定精度σxに対する判断結果が「×」である場合、判定結果「?」を出力するとともに「要高精度分析」という評価結果を出力する。
なお、テーブルTb2は、測定精度σxの判断結果が「×」の場合には測定自体の信頼性が低いため、さらに高精度の分析方法による分析を行うのがよいとの評価結果を出力する。また、テーブルTb2は、測定精度σxの判断結果が「△」の場合には測定自体の信頼性が足りないため、サンプルを変更して再度測定するとか、設定時間を長くして検査を行うなど、再検査を行うのがよいとの評価結果を出力する。その他の場合には、テーブルTb2は、測定濃度Xと測定精度σxとのそれぞれの判断結果の悪い方の結果を判定結果として格納しており、例えば、測定濃度Xに対する判断結果が「×」または「△」の場合には測定自体の信頼性は高いが試料に問題があるため、それぞれに応じた評価結果を出力する。
最後に、ステップ137では、表示部210に結果(測定濃度、測定精度(誤差)、測定時間、信頼性の評価結果)の表示を行うとともに、プリンタや外部出力でその結果を出力する。
本発明では、測定結果の信頼性が評価されるため、ユーザは、容易に測定結果の善し悪しを判断し、その後の対応を判断することが可能となる。
なお、図8に示すテーブルTb2は、一例であり、本発明がこの場合に限定される訳ではない。ユーザは、必要に応じてテーブルTb2の内容やそれぞれの閾値を変更することが可能である。
[2]
実施の形態2では、ステップ121(図3参照)において、上限目標値σ1と、精度係数k1とが入力されると説明した。ここで、ステップ121では、これらの値のいずれか一方だけが入力されるものであってもよい。この場合、入力されなかった他方には、デフォルト値が設定される。デフォルト値は、予め演算部202がメモリなどに記憶されている、あるいは外部記憶装置211に記憶されている。また、〈変形例〉[1]で説明した閾値についても同様であり、入力されなかった値には、デフォルト値が用いられてもよい。
[3]
実施の形態2では、測定精度σxの値を式(2)に基づいて定めた。ここで、測定精度の値は、次式(5)により定められてもよい。
σx=(BG/T)^(1/2) …………(5)
ここで、BGとは、単位時間あたりのブランク試料グロス強度(cps)であり、Tとは、有効測定時間(ライブタイム)(sec)である。
(実施の形態3)
〈概要〉
ユーザは、製品の各部品に含まれる環境負荷物質の濃度について自己の管理基準を定めることが多いが、複数の管理基準が存在することがある。例えば、それぞれの管理基準には、「対象元素を検出できる最小量に基づいて定められた管理基準値を下回ること」とする管理基準と、「ある分析方法で十分信頼性をもって検出することのできる最小量に基づいて定められた管理基準値を上回らないこと」とする管理基準などがある。
本発明は、実施の形態1,2と同様に測定時間の短縮と操作性の向上を図り、かつ、上記した複数の管理基準と法定の規制値とを十分な信頼性を持って満足させる測定の結果を得ることができる分析方法を提案するものである。
具体的には、実施の形態3は、演算部202(図2参照)におけるさらに異なる処理を提供するものである。本発明の処理は、実施の形態2のステップ121(図3参照)において実施の形態2と相違しており、複数の上限目標値(σ1,σ2,・・・)と複数の精度係数(k1,k2,・・・)が入力される。以下、詳細に説明を加えるが、蛍光X線分析装置200(図2参照)の構成についての説明は、実施の形態1と同じであるため省略する。
〈作用〉
以下、図9に示すフローチャートを用いて、実施の形態3に示す本発明について説明を行う。
まず、ステップ141aでプラスチック樹脂試料の測定条件の設定が行われた後、測定が開始される(ステップ142参照)。
ステップ141aでは、測定条件の設定に際して、測定濃度のばらつきの上限目標値と、その上限目標値に対して所望される精度の高さを示す精度係数とが、2組入力される。すなわち、2つの上限目標値σ1,σ2(σ1≦σ2とする)のそれぞれに対して、精度係数k1,k2が入力される。なお、本実施の形態では、それぞれの値が2つづつ入力された場合について説明を行うが、本発明は、さらに多くの値が入力された場合にも拡張可能である。
さらに、ステップ141aでは、実施の形態1と同様に測定時間の最大値tmaxを入力する。実施の形態1と同様にtmaxを200秒に設定するとする。
これらの入力は、実施の形態1と同様、図2に記載されるキーボード等の入力部201を用いてあるいは外部記憶装置211からのダウンロードを用いて行われる。
入力された値は、演算部202が備えるメモリに格納される。
演算部202では、取得した値が以下の式(6)を満足するか否かについて判定を行う(ステップ141b)。
(σ1/k1)<(σ2/k2) ……(6)
ステップ141bにおける判定が肯定的である場合(すなわち、(σ1/k1)<(σ2/k2)が成り立つ場合)、(σ1/k1)が測定条件における設定値として演算部202が備えるメモリの所定のアドレスに格納される(ステップ141c)。
ステップ141bにおける判定が否定的である場合(すなわち、(σ1/k1)<(σ2/k2)が成り立たない場合)、(σ2/k2)が測定条件における設定値として演算部202が備えるメモリの所定のアドレスに格納される(ステップ141d)。
すなわち、測定条件の設定に関するステップ141では、(σ1/k1)と(σ2/k2)とのうち小さい方の値が測定条件における設定値として設定される。なお、このような設定値の決定方法は、一例であり、ユーザが所望する測定精度に応じて任意に設定値を決定することが可能である。例えば、(σ1/k1)と(σ2/k2)とのうち大きい方を測定条件における設定値としてもよいし、これらの平均を設定値としてもよい。
ステップ142〜ステップ143では、実施の形態1のステップ102〜103と同様に、蛍光X線207を検出するとともに、式(1)と式(2)とに基づいて、測定濃度Xと測定精度σxとが算出される。詳しい説明は、実施の形態1と同様であるため省略する。
ステップ144では、測定精度σxの値が所定の条件を満足するか否かが判定される。また、本実施の形態の特徴として、測定濃度Xの値に応じて異なる判定条件が用いられる。
まず、測定濃度Xが式(7)を満足するか否かが判定される(ステップ144a)。
(X/9)<α…………(7)
ステップ144aにおける判定が肯定的である場合、測定精度σxが式(8)を満足するか否かが判定される(ステップ144b)。
σx<α …………(8)
ここで、αは、ステップ141cまたはステップ141dで設定された設定値の値であり、演算部202が備えるメモリの所定のアドレスから読み出される。
ステップ144bにおける判定が肯定的である場合、すなわち、演算部202内での演算結果の測定精度σxが、設定値α未満であると判断された場合には、ステップ146に進み、測定が終了することとなる(ステップ146参照)。
ここで、ステップ146における測定終了の処理についての説明は、実施の形態1で説明したのと同様であるため省略する。
一方、ステップ144bにおける判定が否定的である場合、すなわち、測定精度σxが設定値α未満でない場合には、ステップ145に進む。ステップ145の処理は後述する。
次に、ステップ144aにおける判定が否定的である場合、測定精度σxが測定濃度Xの関数である式(9)を満足するか否かが判定される(ステップ144c)。
σx<(X/9)……(9)
ステップ144cにおける判定が肯定的である場合、ステップ146に進み、測定が終了することとなる(ステップ146参照)。
一方、ステップ144cにおける判定が否定的である場合、ステップ145に進む。
ここで、ステップ145の説明を行う前に、図10を用いて、ステップ144における処理が意味するところを補足的に説明する。
図10は、横軸(x軸)を測定濃度X、縦軸(y軸)を測定精度σxにとったグラフであり、ステップ144における判定を満足させる領域を斜線で示している。
特に、第1象限において、y<αとx<(9α)とを満たす領域R1は、ステップ144bの判定を満足させる領域を示している。また、第1象限において、y<(x/9)と(9α)≦xとを満たす領域R2は、ステップ144cの判定を満足させる領域を示している。
このような条件で測定精度σxの判定を行うには、以下の理由がある。
まず、比較的測定濃度Xが小さい場合(X<(9α))には、(σ1/k1)と(σ2/k2)とのうち小さい方の値である設定値αと測定精度σxの判定を行い、ステップ141aで設定された測定条件のうちより厳しい条件を満足するまで測定を行う。
一方で、比較的測定濃度Xが大きい場合((9α)≦X)には、測定時間内に測定精度σxが設定値αを下回る可能性は低く、タイムアウトしてしまうことが多い(すなわち、測定条件のうち時間に関する条件で測定を終了する)。このため、このような試料に対しては、比較的緩やかな終了条件を用いて早めに測定を切り上げ、他の方法で分析を行うなどする方がより測定全体の効率化を図れる。
以上のような理由から、ステップ144に示した処理を行っている。なお、このような条件での測定が好ましいが、必ずしもこれに限るものではなく、すべての測定濃度Xに対して、同じ設定値αとの比較だけを行ってもよい。また、領域R2を決定する直線y=(x/9)の傾きもこれに限るものではないが、精度係数k1またはk2の逆数として決定されるものであってもよい。
ステップ145では、測定時間tがステップ141aで設定された最大値tmaxの値(本実施の形態では200秒に設定)を越えているのかどうかが判断される。ステップ145における処理についての説明は、実施の形態1で説明したステップ105と同様であるため省略する。
ステップ145で、当該測定時間tが最大値tmax(200秒)を越えていると判断された場合には、ステップ146に進み、測定終了の処理が実行される(ステップ146参照)。
最後に、ステップ147で前記表示部210に結果(濃度,精度(誤差),測定時間等)の表示を行うとともに、プリンタや外部出力でその結果を出力する。
〈効果〉
このように本実施の形態では、必ずしも設定時間経過まで測定結果の出力を待つ必要がなく、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることができる。
また、複数の管理基準を満たし、かつ、法定の規制値とを十分な信頼性を持って満足させる測定の結果を得ることができる。この点について、以下、もう少し詳細な説明を加える。
例えば、法定の規制値(Cdは100ppm未満)に対して、「Cdは25ppmを下回ること」と、「Cdは70ppmを上回らないこと」といった複数の管理基準をユーザが規定しているとする。さらに、後者は前者に対して、3倍程度の確からしさで測定を行うとする。より具体的には、例えば、ステップ141aで、(σ1,k1)=(25ppm,3)、(σ2,k2)=(70ppm,9)、などと設定する。
測定対象となる試料中に環境負荷物質がほとんど含まれておらず、測定濃度Xの測定結果が0ppmとして出力されることが多い場合には、ステップ141aで設定する上限目標値の値をユーザの管理基準値としておくことにより、精度係数で定めた値に基づく確率で実際の濃度が管理基準値を下回ることとなる。さらに、実際の処理では、2組の値から設定される測定条件のうち、より厳しい条件で判定を行うことにより、十分にユーザの管理基準を満足する測定結果を得ることが可能となる。ユーザの管理基準値は、法定の規制値(例えば、RoHSでは、Cdは100ppm未満)を下回る値に設定されている。このため、本発明を用いれば、ユーザが規定する複数の管理基準を満足するか否か、および法定の基準を満足するか否かをより簡易に判定することが可能となる。
なお、ここでは、精度係数の値をk1=3、k2=9とした。ただし、本発明は、この場合に限定されるものではなく、ユーザが所望する精度に応じてこの値は任意に変更可能である。例えば、精度がそれほど要求されない場合には処理を短時間で終わらせるために、さらに低い値を設定してもよい。また、精度がさらに要求される場合には、さらに高い値を設定してもよい。
〈変形例〉
[1]
実施の形態3に示した本発明は、実施の形態2〈変形例〉[1]と同様に、測定終了時の測定濃度Xおよび測定精度σxの値の信頼性を評価するステップをさらに備えていてもよい。具体的には、測定終了時の測定濃度Xおよび測定精度σxのそれぞれに対して閾値との比較を行う。さらに、それぞれの比較に基づき、測定結果の信頼性を評価する。
例えば、実施の形態2〈変形例〉[1]〈1−2〉と同様に、測定濃度Xおよび測定精度σxを2つの閾値と比較してもよい。詳しい処理は、実施の形態2〈変形例〉[1]〈1−2〉と同様であるため省略する。
この場合、閾値Xt1,Xt2と閾値σt1,σt2とは、予めステップ141a(図9参照)において設定される。なお、閾値σt1,σt2は、ステップ141aで設定した上限目標値σ1,σ2と同じ値であってもよい。この場合、ユーザは、上限目標値σ1,σ2を入力すれば、その値がそれぞれ自動的に閾値σt1,σt2に設定される。また、閾値Xt1,Xt2は、ステップ141aで設定した上限目標値σ1,σ2とそれぞれ同じ値であってもよい。
本発明では、測定結果の信頼性が評価されるため、ユーザは、容易に測定結果の善し悪しを判断し、その後の対応を判断することが可能となる。
[2]
上記実施形態では、αの値を(σ1/k1)と(σ2/k2)とのうち小さい方の値、大きい方の値、平均の値などとしてもよいと説明した。
また、αの値は、測定濃度Xの値に応じて定められる値であってもよい。例えば、測定濃度が0≦X≦σ1の範囲では、(σ1/k1)を設定値として、σ1<Xの範囲では、(σ2/k2)を設定値とするなどといった設定も可能である。
この場合、図9に示した処理において、ステップ141b〜ステップ141dの処理は行われない。また、ステップ144aでは、Xの値に応じた設定値αを用いて式(7)の計算が行われる。さらに、ステップ144bでは、Xの値に応じた設定値αを用いて式(8)の計算が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明にかかる蛍光X線分析方法および蛍光X線分析装置は、測定時間の短縮と操作性の向上を図ることが求められる分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射された試料から発生される蛍光X線から前記試料の構成元素を分析する蛍光X線分析方法であって、
前記試料の測定条件を設定する設定ステップと、
前記蛍光X線の測定を行う測定ステップと、
前記測定の結果から前記構成元素の測定濃度と測定精度とを導出する導出ステップと、
前記測定精度が前記測定条件を満たす場合に前記蛍光X線の測定を終了させる終了ステップと、
前記測定濃度または前記測定精度を出力する出力ステップと、
を備える蛍光X線分析方法。
【請求項2】
前記測定条件とは、前記測定精度が前記測定濃度から導き出される値を下回ることである、
請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項3】
前記測定条件とは、前記測定精度が予め定めた設定値を下回ることである、
請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項4】
前記設定値は、前記測定濃度のばらつきの上限目標値を、測定において所望される精度の高さを示す精度係数で除した値である、
請求項3に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項5】
前記設定ステップは、前記上限目標値または前記精度係数の少なくとも一方を入力させる、
請求項4に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項6】
前記設定ステップは、複数の異なる値の前記上限目標値とそれぞれの前記上限目標値に応じた複数の前記精度係数との少なくとも一方を入力させ、それぞれの前記上限目標値あるいは前記精度係数毎に複数の設定値候補を導出し、導出された複数の前記設定値候補から1つの前記設定値を決定する、
請求項4に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項7】
出力された前記測定濃度と前記測定精度とから測定の信頼性を評価するステップであって、前記測定濃度と前記測定精度とのそれぞれに対して設定された閾値との比較を行い、出力された前記測定濃度と前記測定精度とを段階評価する評価ステップ、
をさらに備える、
請求項1に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項8】
前記評価ステップは、前記測定濃度と前記測定精度とのそれぞれに対する段階評価を組み合わせて最終評価を行う、
請求項7に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項9】
前記閾値は、前記設定ステップにおいて設定される、
請求項7または8に記載の蛍光X線分析方法。
【請求項10】
X線を照射された試料から発生される蛍光X線から前記試料の構成元素を分析する蛍光X線分析装置であって、
前記試料の測定条件の設定を入力する入力手段と、
前記測定条件にしたがってX線の照射を制御する照射コントロール手段と、
前記蛍光X線を検出する検出手段と、
前記検出手段からの信号をもとに測定濃度と測定精度を演算する演算手段と、
前記演算結果を出力する出力手段と、
前記演算手段で演算された前記測定精度が前記測定条件を満たす場合に前記蛍光X線の測定を終了する制御手段と、
を備える蛍光X線分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/106440
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−512798(P2006−512798)
【国際出願番号】PCT/JP2005/007977
【国際出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】