説明

蛍光X線分析方法および装置

【課題】 分析時間が短い蛍光X線分析方法および装置を提供する。
【解決手段】 蛍光X線分析方法は、試料にX線を照射して、試料から発生した蛍光X線を検出することで複数の元素の含有量を測定する蛍光X線分析方法であって、以下のステップを備えたことを特徴とする。
◎特定の元素を測定するためのX線照射ステップ(S6)
◎X線照射ステップ同士の間に、検出器に蛍光X線が検出されていない状態にして複数のX線照射条件を変更するステップ(S3,S4)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料にX線を照射した時に試料より二次的に発生する二次X線(いわゆる蛍光X線)を検出し、試料に含まれる成分分析を行う蛍光X線分析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置は、試料にX線を照射するX線源と、試料より二次的に発生する二次X線(いわゆる蛍光X線)を検出するX線検出器とを備えている。蛍光X線は、元素固有のエネルギーを持っているので、そのエネルギーからモズレー則により定性分析が、そのエネルギーのX線強度(光子の数)から定量分析が可能になる。
【0003】
複数の元素を測定するためには、X線の照射条件を必要に応じて元素ごとに変更している。具体的には、X線源と試料との間に配置されるフィルターの種類を変更したり、X線源に加える電圧値を変えたり、電流値を変えたりする(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平5-240808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の蛍光X線分析装置では、元素のエネルギーバンドに最適な条件を設定する際に、異常なX線が試料に照射されることや異常な蛍光X線が検出器に検出されることを防ぐために、照射条件を順番に(時間的に重ならずに)設定している。例えば、最初にX線管の電圧値を変更し、それが終わってからX線管の電流値を変更し、それが終わってから最後にフィルターを切り換えている。そのため、照射条件の変更時間が長くなり、ひいてはX線分析全体の時間が長くなってしまう。
【0005】
図5に従来例におけるタイミングチャートを示す。変更条件は、X線管の電圧値、電流値、フィルター板のフィルターである。また、この従来例では、Cd、Pb、Crを順番に測定する。Cdの測定の前には、電圧値を0kVから50kVに変化させ、電圧値変更終了後に電流値を0μAから1000μAに変化させ、電流値変更終了後にフィルター板のフィルターをCr用からCd用に切り換える。シャッターが開けられるとCdの測定が開始され、シャッターが閉じられるとCdの測定が終了する。その後、電流値が1000μAから200μAに変更され、電流値変更終了後にフィルター板のフィルターをCd用からPb用に切り換える。シャッターが開けられるとPbの測定が開始され、シャッターが閉じられるとPbの測定が終了する。その後、電圧値が50kVから15kVに変更され、電圧値変更終了後に電流値が200μAから600μAに変更され、電流値変更終了後にフィルター板のフィルターをPb用からCr用に切り換える。
【0006】
以上に述べたように、各元素ごとの複数の条件変更は順番に行われるため、全体の測定時間が長い。
本発明の目的は、分析時間が短い蛍光X線分析方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の蛍光X線分析方法は、X線源から試料にX線を照射して、試料から発生した蛍光X線を検出器で検出することで複数の元素の含有量を測定する蛍光X線分析方法であって、以下のステップを備えたことを特徴とする。
◎特定の元素を測定するためにX線を照射するステップ
◎X線照射ステップ同士の間に、検出器に蛍光X線が照射されていない状態にして、複数のX線照射条件を変更するステップ
この蛍光X線分析方法では、ある元素を測定するX線照射ステップが終了し、次の元素を測定するX線照射ステップを始める前に、検出器に蛍光X線が照射されていない状態にして、複数のX線照射条件を変更する。条件変更時に検出器に蛍光X線が照射されていないため、複数のX線照射条件を同時に変更しても、検出器が異常な蛍光X線を検出することがない。以上より、複数のX線照射条件の変更を同時に行えるため、条件変更時間が短くなり、さらには複数の元素を測定する全体の測定時間が短くなる。
【0008】
請求項2に記載のX線分析方法では、請求項1において、検出器に蛍光X線が検出されていない状態にするのは、X線源と試料との間を遮断することで行う。
請求項3に記載のX線分析方法では、請求項1において、検出器に蛍光X線が照射されない状態にするのは、試料と検出器との間を遮断することで行う。
【0009】
請求項4に記載のX線分析装置は、試料にX線を照射して、試料から発生した蛍光X線を検出することで複数の元素の含有量を測定する装置であって、X線源と、試料からの蛍光X線を検出する検出手段と、元素ごとにX線源の複数の照射条件を変更可能な変更手段と、X線源と試料との間に配置されたシャッターと、変更手段が複数の照射条件を変更するときに検出手段が蛍光X線を検出しないように、照射条件変更の前にシャッターを駆動してX線源と試料との間を遮断する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
このX線分析装置では、設定手段が複数の照射条件を変更するときに、シャッターを駆動して検出手段が蛍光X線を検出しないようにするため、複数のX線照射条件を同時に変更しても、検出手段が異常な蛍光X線を検出することがない。以上より、複数のX線照射条件の変更を同時に行えるため、条件変更時間が短くなり、さらには複数の元素を測定する全体の測定時間が短くなる。
【0011】
請求項5に記載のX線分析装置は、試料にX線を照射して、試料から発生した蛍光X線を検出することで複数の元素の含有量を測定する装置であって、X線源と、試料からの蛍光X線を検出する検出手段と、元素ごとにX線源の複数の照射条件を変更可能な変更手段と、試料とX線源との間に配置されたシャッターと、変更手段が複数の照射条件を変更するときに検出手段が蛍光X線を検出しないように、照射条件を変更する前にシャッターを駆動して試料と検出器との間を遮断する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
このX線分析装置では、設定手段が複数の照射条件を変更するときに、シャッターを駆動して検出手段が蛍光X線を検出しないようにするため、複数のX線照射条件を同時に変更しても、検出手段が異常な蛍光X線を検出することがない。以上より、複数のX線照射条件の変更を同時に行えるため、条件変更時間が短くなり、さらには複数の元素を測定する全体の測定時間が短くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るX線分析方法および装置では、複数のX線照射条件の変更を同時に行えるため、条件変更時間が短くなり、さらには複数の元素を測定する全体の測定時間が短くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態1)
以下、本発明の蛍光X線分析方法および装置について、図1〜図3を用いて説明する。 図1は本発明の蛍光X線分析装置200の概要説明図、図2は本発明の蛍光X線分析装置200の動作を説明するためのフローチャート、図3は本発明の蛍光X線分析装置200の動作のタイミングチャートである。
【0015】
図1では、X線分析装置200は、主に、X線である1次線を照射するX線管204と、蛍光X線207を検出するための検出器208と、試料206が搭載されるステージ212とを備えている。試料ステージ212は、板状の構成であり、試料206が搭載される箇所にX線照射口212aを有している。
【0016】
X線管204と検出器206は、ステージ212の下方に配置されている。X線管204は、例えば、電子銃と、発射された電子線を所定の1次線205に変えて発射するターゲットとからなる。
X線分析装置200は、さらに、X線管204と試料206との間に配置されたフィルター板213と、シャッター215とを有している。フィルター板213は、円盤状部材213aと、そこにはめ込まれた複数のフィルター213b、213c、213dとから構成されている。複数のフィルター213b、213c、213dは、Cd、Pb、Crの測定用である。
【0017】
シャッター215は、円盤状部材であり、一部にX線が通過可能な開口部215aが儲けられている。シャッター215は、X線を安全に遮断可能な材料、厚みを有するものであれば何でも良い。特に、鉛を含有する合金は、厚みを薄くできるため、最も好ましい。鉛に比べて厚みは大きくなるが一般的な金属でもシャッターの材料に適しており、タングステンやステンレス鋼を用いることができる。一般的に蛍光X線分析器は最大電圧50kV、最大電流1mAであるために、3mm程度以上の厚みを有する金属でシャッターを構成可能である。
【0018】
フィルター板214とシャッター215は、回転軸が軸受等を介して装置に回転自在に支持されており、パルスモータ等によって回転駆動されるようになっている。パルスモータは、コントローラ214,216からの信号によって駆動される。そのため、フィルター板213は1次線205に対して複数のフィルター213b、213c、213dを切り換えることができ、シャッター215は1次線205に対して円盤部分と開口部215aを切り換えることができる。コントローラ214,216はコンピュータのCPU等からなる演算部202に接続されている。
【0019】
X線管204はコントローラ203によって駆動され、試料206に対してX線の照射・照射停止が可能である。検出器208は、検出結果を出力するために増幅器209に接続されている。コントローラ203と増幅器209はコンピュータの演算部202に接続されている。コンピュータは、さらにキーボード等からなる入力部201と、ディスプレイからなる表示部210と、外部記憶装置211とを有している。
【0020】
次に本実施例の蛍光X線分析方法および装置を図4のフローチャートに基づいて説明する。
装置200の電源が入ると(ステップS1)、演算部202が元素測定を行うか否かを判断する(ステップS2)。元素測定を行わないと判断すると、動作を終了する。元素測定を行う場合は、演算部202はコントローラ216を介してシャッター215を閉じる。続いて、コントローラ203がX線管204の電圧値と電流値を同時に変更して設定し、またそのとき同時にコントローラ214がフィルター板213を駆動して所望の元素に合わせたフィルターを設定する(ステップS4)。全ての条件の設定が終了すると、次にコントローラ216がシャッター215を開く(ステップS5)。この結果、試料206に対してX線が照射される。検出器208での検出結果は増幅器209に送られ、さらに演算部202に送られる。ここで、演算部202はその元素の含有量を測定する(ステップS6)。測定後、ステップS2に戻り、以下、同様の動作を行う。
【0021】
この蛍光X線分析方法では、ある元素を測定するX線照射ステップ(ステップS5)を始める前に、試料へX線が照射されていない状態にして(ステップS3)、複数のX線照射条件を変更・設定する(ステップS4)。X線照射条件変更・設定時にX線が試料に照射されていないため、複数のX線照射条件を同時に変更しても、検出器208が異常な蛍光X線を検出して飽和することがない。また、異常なX線が試料206に照射されることはない。以上より、複数のX線照射条件の変更を同時に行えるため、条件変更時間が短くなり、さらには複数の元素を測定する全体の測定時間が短くなる。
【0022】
また、試料206へX線が照射されていない状態にするのは、X線管204と試料206との間にシャッター215を移動させることで行っており(ステップS4)、X線管204の照射を停止させているのではない。したがって、X線管204の照射開始及び停止動作が不要になる。
【0023】
図3に本発明の実施例におけるタイミングチャートを示す。この実施例では、元素ごとの変更条件として、以下の3種類、X線管204の電圧値、電流値、フィルター板213のフィルターの種類を挙げている。また、この実施例では、Cd、Pb、Crを順番に測定する。Cdの測定の前には、電圧値を0kVから50kVに変更し、同時に電流値を0μAから1000μAに変更し、また同時にフィルター板213のフィルターをCr用からCd用に切り換える。以上の条件変更・設定は同時に行われるため、従来に比べて時間が短くなる。シャッター215が開けられると、Cdの測定が開始される。Cdの測定が終了すると、シャッター215が閉じられる。その後、電流値を1000μAから200μAに変更し、同時にフィルター板213のフィルターをCd用からPb用に切り換える。以上の条件変更・設定は同時に行われるため、従来に比べて時間が短くなる。シャッター215が開けられると、Pbの測定が開始される。Pbの測定が終了すると、シャッター215が閉じられる。その後、電圧値を50kVから15kVに変化させ、同時に電流値を200μAから600μAに変更し、同時にフィルター板213のフィルターをPb用からCr用に切り換える。
【0024】
以上の条件変更・設定は各元素ごとに同時に行われるため、従来に比べて時間が短くなる。その結果、全体の測定時間が短くなる。
(他の実施形態)
以上、本発明が適用された実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形ないし修正が可能である。例えば、シャッターは、フィルターの円盤本体の一部を用いても良い。
【0025】
図4に示す蛍光X線方法および装置では、検出器208と試料206との間にシャッター219が配置されている。シャッター219を前記実施形態と同様に駆動することによって、X線照射条件変更・設定時に検出器208が異常な蛍光X線を検出することがない。したがって、X線照射条件変更・設定時間が短くなり、ひいては測定時間全体が短くなる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の蛍光X線分析方法および装置は、研究・開発の用途として使用する以外にも、測定作業の効率化、高速化を図りたいプラント用として活用ができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の蛍光X線分析装置の概要説明図
【図2】本発明の蛍光X線分析装置のフローチャート
【図3】本発明の蛍光X線分析装置のタイミングチャート
【図4】本発明の他の実施形態の蛍光X線分析装置の概要説明図
【図5】従来の蛍光X線分析装置のタイミングチャート
【符号の説明】
【0028】
200 X線分析装置
201 入力部
202 演算部
203 コントローラ
204 X線管
205 1次線
206 試料
207 蛍光X線
208 検出器
209 増幅器
210 表示部
212 ステージ
213 フィルター板
214 コントローラ
215 シャッター
216 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源から試料にX線を照射して、前記試料から発生した蛍光X線を検出器で検出することで複数の元素の含有量を測定する蛍光X線分析方法であって、
特定の元素を測定するためにX線を照射するステップと、
前記X線照射ステップ同士の間に、前記検出器に蛍光X線が照射されていない状態にして、複数のX線照射条件を変更するステップと、
を備えたことを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項2】
前記検出器に蛍光X線が照射されていない状態にするのは、前記X線源と前記試料との間を遮断することで行うことを特徴とする、請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項3】
前記検出器に蛍光X線が照射されていない状態にするのは、前記試料と前記検出器との間を遮断することで行うことを特徴とする、請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項4】
試料にX線を照射して、前記試料から発生した蛍光X線を検出することで複数の元素の含有量を測定する蛍光X線分析装置であって、
X線源と、
前記試料からの蛍光X線を検出する検出手段と、
元素ごとに前記X線源の複数の照射条件を変更可能な変更手段と、
前記X線源と前記試料との間に配置されたシャッターと、
前記変更手段が複数の照射条件を変更するときに前記検出手段が蛍光X線を検出しないように、照射条件変更の前に前記シャッターを駆動して前記X線源と前記試料との間を遮断する制御手段と、
を備えたことを特徴とするX線分析装置。
【請求項5】
試料にX線を照射して、前記試料から発生した蛍光X線を検出することで複数の元素の含有量を測定する蛍光X線分析装置であって、
X線源と、
前記試料からの蛍光X線を検出する検出手段と、
元素ごとに前記X線源の複数の照射条件を変更可能な変更手段と、
前記試料と前記検出手段との間に配置されたシャッターと、
前記変更手段が複数の照射条件を変更するときに前記検出手段が蛍光X線を検出しないように、照射条件変更の前に前記シャッターを駆動して前記試料と前記検出器との間を遮断する制御手段と、
を備えたことを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−317370(P2006−317370A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142211(P2005−142211)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】